(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】ソフトエラー検出用積層基板およびソフトエラー検出装置
(51)【国際特許分類】
G11C 5/00 20060101AFI20241023BHJP
G06F 11/00 20060101ALI20241023BHJP
G11C 5/04 20060101ALI20241023BHJP
G11C 29/04 20060101ALN20241023BHJP
【FI】
G11C5/00 100
G06F11/00 607
G11C5/04 220
G11C29/04
(21)【出願番号】P 2023523705
(86)(22)【出願日】2021-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2021019511
(87)【国際公開番号】W WO2022249220
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】岩下 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】奥川 雄一郎
【審査官】後藤 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-227156(JP,A)
【文献】特表2011-527064(JP,A)
【文献】特開2021-61077(JP,A)
【文献】特開2017-151620(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0227094(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11C 5/00
G06F 11/00
G11C 5/04
G11C 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メモリデバイスが実装された複数のPCB基板を有し、
前記PCB基板は積層して配置され、各PCB基板には重なり合うPCB基板どうしを電気的に接続するスタッキングコネクタが実装されているソフトエラー検出用積層基板。
【請求項2】
前記スタッキングコネクタは、レセプタクルとヘッダからなり、重なり合う2枚のPCB基板のうちの一方のPCB基板の前記レセプタクルと、他方のPCB基板の前記ヘッダを嵌合することにより、前記2枚のPCB基板どうしを電気的に接続する請求項1に記載のソフトエラー検出用積層基板。
【請求項3】
前記PCB基板には、前記メモリデバイスが複数実装されている請求項1または2に記載のソフトエラー検出用積層基板。
【請求項4】
前記PCB基板は、粒子線発生装置にて発生する粒子線を入射する請求項1~3のいずれか1項に記載のソフトエラー検出用積層基板。
【請求項5】
前記PCB基板は、自然界で発生する粒子線を入射する請求項1~3のいずれか1項に記載のソフトエラー検出用積層基板。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のソフトエラー検出用積層基板と、
前記メモリデバイスに発生するエラーをカウントするカウンタと、
を備えたソフトエラー検出装置。
【請求項7】
前記メモリデバイスに対してデータの書き込み、読み取りを行う制御部、を更に備え、
前記カウンタは、前記制御部によるデータの書き込み時、及びデータの読み取り時に発生するエラーをカウントする請求項6に記載のソフトエラー検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトエラー検出用積層基板およびソフトエラー検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙線に含まれる高エネルギー粒子が地球大気中の酸素や窒素の原子核に衝突すると中性子線(粒子線)が発生し、地上に降り注ぐ。一方、多くの電子機器で使用されているLSI等の回路に中性子線が入射すると、核反応により生成された電荷によってLSIに保存されたデータのビットが反転するソフトエラーが発生する。このソフトエラーは、SEU(Single Event Upset)と称している。
【0003】
SEUを検出するために、SRAM(Static Random Access Memory)などのメモリデバイスを多数実装したPCB(Printed CircuitBoard)基板に、加速器を用いて中性子線を照射する方法が採用されている。多数のメモリデバイスが実装されたPCB基板に中性子線を照射することにより、各メモリデバイスに生じるSEUを検出することができる。
【0004】
メモリデバイスに対して、ソフトエラーを引き起こす中性子のエネルギー特性を測定するためには、SEUを高頻度で検出することが望まれる。SEUを高頻度で検出する場合には、より多くのメモリデバイスを実装する必要がある。非特許文献1には、メモリデバイスが実装された複数のPCB基板を積層して中性子線を照射することにより、SEUを高頻度に検出することが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】非特許文献:Stephen A. Wender, John M. O’Donnell, LukasZavorka , and Bharat Bhuva,"Measured Energy-Dependent Neutron Attenuation Throughthe Stacked PrintedCircuit Boards",IEEE TRANSACTIONS ON NUCLEAR SCIENCE,VOL. 67, NO. 6, JUNE 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、メモリデバイスが実装されたPCB基板は、メモリデバイスに接続するデータ線とアドレス線の交差ポイントが多数存在するので、PCB基板を多層化せざるを得ない。PCB基板を多層化することにより、1枚当たりのPCB基板の厚さが増加する。例えば、PCB基板の厚さが1mm程度となる。
【0007】
このため、複数のPCB基板を積層すると、全体の厚さが増加してしまい、PCB基板の表面から入射した中性子線強度(「中性子フラックス」ともいう)が低減するので、高頻度にSEUを検出することが難しいという問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、積層したPCB基板の厚さを低減して、高頻度にソフトエラーを検出することが可能なソフトエラー検出用積層基板およびソフトエラー検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様のソフトエラー検出用積層基板は、メモリデバイスが実装された複数のPCB基板を有し、前記PCB基板は積層して配置され、各PCB基板には重なり合うPCB基板どうしを電気的に接続するスタッキングコネクタが実装されている。
【0010】
本発明の一態様のソフトエラー検出装置は、上述したソフトエラー検出用積層基板と、前記メモリデバイスに発生するエラーをカウントするカウンタと、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高頻度にソフトエラーを検出することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態に係るソフトエラー検出装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るソフトエラー検出装置に含まれる積層基板の構成を示す斜視図である。
【
図3A】
図3Aは、PCB基板に実装される一列分のSRAMを示す説明図である。
【
図3B】
図3Bは、
図3Aに示すPCB基板の要部拡大図であり、PCB基板に実装されるスタッキングコネクタを示す。
【
図4A】
図4Aは、SRAMの表面側の配線パターンを示す説明図である。
【
図4B】
図4Bは、SRAMの裏面側の配線パターンを示す説明図である。
【
図5】
図5は、積層基板に中性子線が入射する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態に係るソフトエラー検出装置について図面を参照して説明する。
図1は、実施形態に係るソフトエラー検出装置の構成を示すブロック図である。
図2は、
図1に示す積層基板51の具体的な構成を示す斜視図である。
図3Aは、PCB基板に実装される一列分のSRAM11を示す説明図、
図3Bは、
図3Aに示す要部拡大図である。
図4Aは、SRAM11の表面側の配線パターンを示す説明図、
図4Bは、SRAM11の裏面側の配線パターンを示す説明図である。
【0014】
図1に示すように、ソフトエラー検出装置100は、積層基板51(ソフトエラー検出用積層基板)と、制御部2と、エラーカウンタ3と、記録部4を備えている。
【0015】
図2に示すように積層基板51は、積層された複数(図では5枚)のPCB基板50を有している。PCB基板50は複数のSRAM11を実装している。複数のPCB基板50を積層することにより、積層基板51が形成される。PCB基板50の詳細については、後述する。
【0016】
図1に示す制御部2は、PCB基板50に実装された各SRAM11へのデータの書き込み、及びSRAM11からのデータの読み取りを制御する。
【0017】
エラーカウンタ3は、各SRAM11に対するデータの書き込み、読み取り時に生じるエラーをカウントする。具体的に、複数のPCB基板50を積層した積層基板51の表面に中性子線が入射すると、この中性子線によりSRAM11にエラーが発生することがある。エラーカウンタ3は、SRAM11に発生したエラーをカウントする。エラーカウンタ3は、エラーのカウント値を記録部4に出力する。
【0018】
記録部4は、エラーカウンタ3より出力されたカウント値を記憶する。
【0019】
次に、前述した積層基板51を構成するPCB基板50について詳細に説明する。
図2に示すように、PCB基板50には複数のSRAM11が実装されている。
図2では5枚のPCB基板50を積層し、各PCB基板50に5行、5列の合計25個のSRAM11が実装されている例を示している。SRAM11は、メモリデバイスの一例である。
【0020】
PCB基板50に実装するメモリデバイスとして、SRAM11以外のメモリデバイスを用いてもよい。また、PCB基板50の積層数は5枚に限定されず、4枚以下、6枚以上でもよい。PCB基板50に実装されるSRAM11の数は25個に限定されず、24個以下、26個以上でもよい。
【0021】
図3Aに示すように、PCB基板50に実装されるSRAM11には、スタッキングコネクタ111が設けられている。
【0022】
図3Bは、
図3Aに示す符号P1の拡大図である。
図3Bに示すように、PCB基板50の表面側にはスタッキングコネクタ111のレセプタクル111aが設けられ、PCB基板50の裏面側にはスタッキングコネクタ111のヘッダ111bが設けられている。また、PCB基板50の表面側の回路パターンと裏面側の回路パターンを接続するためのビア52が設けられている。レセプタクル111aとヘッダ111bを嵌合することにより、積層された2枚のPCB基板50に搭載されているSRAM11どうしを電気的に接続することができる。
【0023】
具体的には、互いに重なり合う2枚のPCB基板50のうち、一方のPC基板上に実装されたレセプタクル111aと、他方のPCB基板上に実装されたヘッダ111bを対向するように配置する。対向配置状態とされているヘッダ111bをレセプタクル111aに向かって移動するようにして押し込むことにより、ヘッダ111bとレセプタクル111aが嵌合状態となって、2枚のPCB基板50どうしが電気的に接続される。
【0024】
このように、複数のPCB基板50を層状に積み重なるようにしてヘッダ111bとレセプタクル111aが嵌合するので、嵌合後におけるPCB基板50とスタッキングコネクタ111を含む全体の厚さを低減することができる。即ち、積層基板51の厚さを薄型化することができる。
【0025】
なお、PCB基板50の表面側にヘッダ111bを設け、裏面側にレセプタクル111aを設ける構成としてもよい。
【0026】
対向するレセプタクル111aとヘッダ111bを嵌合させて複数のPCB基板を積層することにより、積層されているPCB基板50に実装されたSRAM11どうしを電気的に接続することができる。
【0027】
図4Aは、PCB基板50の表面側の配線パターンを示す説明図、
図4Bは、PCB基板50の裏面側の配線パターンを示す説明図である。
図4A、
図4Bに示す符号「Q」はSRAM11に接続されるクロック用配線を示し、符号「A」はアドレス用配線を示し、符号「D」はデータ用配線を示している。また、
図4Aに示す符号R1、R2、
図4Bに示す符号R4、R5はスタッキングコネクタ111の回路パターンを示している。
図4Aに示す符号R3、
図4Bに示す符号R6は、SRAM11の回路パターンを示している。
【0028】
図4A、
図4Bに示すように、符号「Q」、「A」、「D」に示す各配線は、互いに交差していない。即ち、積層された複数のPCB基板50に実装された各SRAM11のアドレス、データの入力用の配線は、スタッキングコネクタ111を経由して、
図1に示した制御部2に接続される。従って、1枚のPCB基板50に形成する各配線パターンを多層化する必要がなく、PCB基板50を薄型化することが可能となる。例えば、1枚のPCB基板50の厚さを0.15mm程度にすることが可能になり、
図2に示したように5枚のPCB基板50を積層した場合には、積層基板51の厚さは、PCB基板50の厚さ、及びスタッキングコネクタ111の高さを含めて、例えば9mm程度になる。
【0029】
そして、中性子線を測定する際には、
図5に示すように、中性子線発生装置200(粒子線発生装置)より中性子線を積層基板51の表面に照射すると、各PCB基板50に実装されているSRAM11に中性子線が入射する。この際、積層基板51が薄型化されているので、各SRAM11におけるSEUの発生頻度を高めることができる。
【0030】
各SRAM11に発生したSEUはエラーカウンタ3にてカウントされ、記録部4に記録される。SEUを高頻度で発生させることにより、SRAM11にSEUを引き起こす中性子のエネルギー特性を高精度に測定することができる。
【0031】
このように、本実施形態に係るソフトエラー検出用積層基板51は、SRAM11などのメモリデバイスが実装された複数のPCB基板50を有し、PCB基板50は積層して配置され、各PCB基板50には重なり合うPCB基板どうしを電気的に接続するスタッキングコネクタ111が実装されている。
【0032】
重なり合う各PCB基板50は、スタッキングコネクタ111により電気的に接続されているので、1枚のPCB基板50に形成する各配線パターンを多層化する必要がなく、PCB基板50を薄型化することが可能となる。例えば、1枚のPCB基板50の厚さを、0.15mm程度とすることができる。このため、積層基板51の全体の厚さは、例えば9mm程度となり、積層基板51に入射した中性子線は、中性子線強度が大きく低下することなく各PCB基板50に実装されたSRAM11に入射する。このため、各SRAM11には高い頻度でSEU(ソフトエラー)が発生する。その結果、積層基板51に実装されているSRAM11におけるソフトエラーの発生率を高めることができる。
【0033】
即ち、PCB基板50を積層すると、中性子線がPCB基板50を通過する毎に中性子線強度が低下する。従来のように、厚さが1mm程度を有するPCB基板50を用いると、中性子線強度の低下が著しくなり、下層(入射面とは反対側の層)にいくほど中性子線強度が弱まり、ソフトエラーの発生頻度が減少する。本実施形態では、積層基板51を薄型化できるので、この問題を回避することができる。
【0034】
本実施形態では、重なり合うPCB基板50どうしをレセプタクル111aとヘッダ111bからなるスタッキングコネクタ111を用いて接続する。このため、ヘッダ111bをレセプタクル111aに嵌合するという極めて簡易な方法でPCB基板50どうしを電気的に接続することが可能になる。
【0035】
本実施形態では、ソフトエラーの発生率を高めることができるので、例えば自然界から降り注ぐ中性子線などの粒子線、及び、中性子線発生装置200から出射される中性子線を、効率よく且つ高精度に検出することが可能になる。
【0036】
また、各PCB基板50には、SRAM11などのメモリデバイスが複数実装されているので、より一層ソフトエラーの発生頻度を高めることができる。
【0037】
本実施形態では、SRAM11に対してデータの書き込み、及び読み取りを行う制御部2、及び制御部2により読み取られたデータのエラーをカウントするエラーカウンタ3を備えているので、SRAM11にて発生したソフトエラーを容易にカウントすることが可能になる。
【0038】
本実施形態では、PCB基板の厚さを0.15mm程度まで薄型化することができるため、積層基板51、及び積層基板51を含むソフトエラー検出装置100を小型化することが可能になる。
【0039】
本実施形態では、従来のように1mmの厚さを有するPCB基板と対比すると、中性子線の低減効果を15%まで抑えることができ、その結果、より多くのSRAM11実装することが可能になる。
【0040】
本実施形態では、市販されているSRAMなどのメモリデバイスを用いることができるので、装置を構成する際に使用する部品を容易に入手することが可能になる。
【0041】
なお、本実施形態では、複数のPCB基板50のうちの1つに、制御部2、エラーカウンタ3、記録部4の回路を搭載する例について説明したが、各構成要素は、積層基板51と別体の回路に搭載することも可能である。
【0042】
また、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0043】
2 制御部
3 エラーカウンタ(カウンタ)
4 記録部
50 PCB基板
51 積層基板
100 ソフトエラー検出装置
111 スタッキングコネクタ
111a レセプタクル
111b ヘッダ
200 中性子線発生装置(粒子線発生装置)