(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】ハロゲン分圧の測定方法並びにこれに用いる基準電極及びその隔膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/406 20060101AFI20241023BHJP
G01N 27/30 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
G01N27/406
G01N27/30 311Z
(21)【出願番号】P 2021111300
(22)【出願日】2021-07-05
【審査請求日】2024-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2020116392
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】関本 英弘
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 友貴
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-273373(JP,A)
【文献】特開2011-174832(JP,A)
【文献】特開2003-212541(JP,A)
【文献】特開2003-257241(JP,A)
【文献】特開平08-035946(JP,A)
【文献】米国特許第06156174(US,A)
【文献】齋藤友貴 他,塩化物イオン伝導体を隔膜に用いる塩化物溶融塩用参照電極の開発,第51回溶融塩化学討論会講演要旨集,2019年10月23日,pp.70-71
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N27/26-27/49
G01N33/00-33/46
C25C1/00-7/08
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔膜を備えた濃淡電池を用いたハロゲン分圧の測定方法であって、
測定対象の溶融塩と、金属及びハロゲン化物からなる基準物質の間に、ハロゲン化物イオン伝導体の焼結体からなる固体電解質を前記隔膜として設け、起電力法により溶融塩の平衡状態におけるハロゲン分圧を測定することを特徴とするハロゲン分圧の測定方法。
【請求項2】
前記ハロゲン分圧が塩素分圧であって、前記基準物質が、単一の酸化数の塩化物が安定となる元素の金属と、前記塩化物の組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載のハロゲン分圧の測定方法。
【請求項3】
前記基準物質の金属がAg、塩化物がAgClの組み合わせ、金属がNi、塩化物がNiCl
2の組み合わせ、又は金属がMg、塩化物がMgCl
2の組み合わせのいずれかであり、前記固体電解質がLaOCl-CaOの固溶体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のハロゲン分圧の測定方法。
【請求項4】
前記ハロゲン分圧が臭素分圧であって、前記基準物質が、単一の酸化数の臭化物が安定となる元素の金属と、前記臭化物の組み合わせであることを特徴とする請求項1に記載のハロゲン分圧の測定方法。
【請求項5】
前記基準物質の金属がAg、臭化物がAgBrの組み合わせ、金属がNi、塩化物がNiBr
2の組み合わせ、又は金属がMg、臭化物がMgBr
2の組み合わせのいずれかであり、前記固体電解質がLaOBr-SrOの固溶体であることを特徴とする請求項1又は4に記載のハロゲン分圧の測定方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のハロゲン分圧の測定方法に用いる濃淡電池の基準電極であって、基準物質を内設させる耐熱管と隔膜が、セラミックスボンドで接着され、かつ該接着部がガラス系シーリング材で被覆されていることを特徴とする基準電極。
【請求項7】
塩素分圧の測定方法に用いる基準電極の隔膜の製造方法であって、
LaOClとCaCO
3をモル比で80:20~95:5となるように混合し、エタノールを加えてスラリー化してボールミルにて粉砕・混合する工程と、
エタノールを蒸留分離し、磨砕.分級した後、空気中でか焼してLaOCl中にCaOをドープする工程と、
前記CaOをドープしたLaOClを磨砕・分級した後、圧縮成形してペレットにする工程と、
該ペレットを前記CaOをドープしたLaOClと同組成のCaOドープLaOClの粉体に埋設して、不活性ガス雰囲気中で焼結する工程を有することを特徴とする隔膜の製造方法。
【請求項8】
臭素分圧の測定方法に用いる基準電極の隔膜の製造方法であって、
LaOBrとSrCO
3をモル比で80:20~95:5となるように混合し、エタノールを加えてスラリー化してボールミルにて粉砕・混合する工程と、
エタノールを蒸留分離し、磨砕.分級した後、空気中でか焼してLaOBr中にSrOをドープする工程と、
前記SrOをドープしたLaOBrを磨砕・分級した後、圧縮成形してペレットとする工程と、
該ペレットをルツボ内に、前記SrOをドープしたLaOBrと同組成のSrOドープLaOBrの粉体に埋設して、不活性ガス雰囲気中で焼結する工程を有することを特徴とする隔膜の製造方法。
【請求項9】
前記ペレットの燒結温度が1200~1400℃の範囲であることを特徴とする請求項7又は8に記載の隔膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融塩を含む系におけるハロゲン分圧の測定方法並びにこれに用いる基準電極及びその隔膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融塩は、塩化ナトリウムのような陽イオンと陰イオンからなる塩が溶融状態にあるものであり、製錬・リサイクルプロセスにおいて重要な役割を果たす融体である。工業的には、アルミニウムやマグネシウム、希土類金属といった、水溶液から電解採取できない金属の生産に使用されている(非特許文献1)。
また、使用済みアルミニウム合金スクラップから不要成分を抽出するためのフラックスとしての利用や、原子力発電所から生じる使用済み核燃料物質の処理への応用が検討されている(非特許文献2、3)。
【0003】
一方、非鉄金属の製錬・リサイクルプロセスにおいては、近年、廃電子基板類の投入量が増大し、乾式工程においてハロゲン化物を含む溶融塩の発生が確認されている。溶融塩が炉内で共存することで貴金属の分配挙動が変化して損失につながる可能性が指摘されている(非特許文献4)。
【0004】
ここで、非鉄製錬・リサイクル分野で取り扱われる溶融塩は、一般に複数のハロゲン化物から成る多成分系の融体である。プロセスを評価したり、溶融塩相の生成に起因する銀等の貴金属の損失を最小化したりするには、溶融塩相を構成する成分に関する熱力学データが重要である。すなわち、溶融塩相が安定相となる条件や、溶融塩相に分配される貴金属の量について、スラグ相と溶融塩相との間の銀の分配とスラグ組成、熔錬炉内の酸素分圧や塩素分圧、臭素分圧との関係など平衡論的観点から明らかにすることが重要である。このような融体中の熱力学データは、溶融塩と液体金属との間の対象成分の分配比と系のハロゲン分圧を測定することで求めることが可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】佐藤修彰,早稲田嘉夫編,湿式プロセス溶液・溶媒・廃水処理,4.3溶融塩電解,(2018内田老鶴圃,東京) 178-193.
【文献】T. Hiraki, T. Miki, K. Nakajima, K. Matsubae, S. Nakamura, T. Nagasaka: Thermodynamic analysis for the refining ability of salt flux for aluminum recycling, Materials, 7 (2014), 5543-5553.
【文献】藤田玲子,中村等,水口浩司,宇都宮一博:電気化学的手法による核燃料サイクル施設から発生する放射性廃棄物処理に関する技術開発
【文献】川村茜,岩渕仁那,関本英弘,山口勉功:PbBr2-KCl系溶融塩と溶融鉛間の銀の分配比,資源・素材講演集 Vol.2 (2015) No.2 (秋・松山),PY-07
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまでのところ溶融塩などの高温融体が共存する系の塩素分圧や臭素分圧を直接測定する方法は存在しておらず、貴金属の損失を低減するための操業指針を策定したり、溶融塩を金属リサイクル用フラックスとして活用できるかどうかを評価したりする上で有効なデータを得ることができていないのが現状である。
【0007】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、ハロゲン化物イオン伝導体を固体電解質とした濃淡電池を用いた起電力法により、ハロゲン化物系溶融塩相内の複数の化学種又はハロゲン化物系溶融塩と溶融金属との化学平衡によって決定されるハロゲン分圧の測定方法を提供するとともに、これに用いる濃淡電池の基準電極及びハロゲン化物イオン伝導体の隔膜の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のハロゲン分圧の測定方法並びにこれに用いる基準電極及びその隔膜の製造方法は、上記の技術的課題を解決するためになされたものであって、以下のことを特徴としている。
【0009】
第1に、本発明のハロゲン分圧の測定方法は、隔膜を備えた濃淡電池を用いたハロゲン分圧の測定方法であって、測定対象の溶融塩と、金属及びハロゲン化物からなる基準物質の間に、ハロゲン化物イオン伝導体の焼結体からなる固体電解質を前記隔膜として設け、起電力法により溶融塩を含む系の平衡状態におけるハロゲン分圧を測定することを特徴とする。
第2に、上記第1の発明のハロゲン分圧の測定方法において、前記ハロゲン分圧が塩素分圧であって、前記基準物質が、単一の酸化数の塩化物が安定となる元素の金属と、前記塩化物の組み合わせであることが好ましく考慮される。
第3に、上記第1又は第2の発明のハロゲン分圧の測定方法において、前記基準物質の金属がAg、塩化物がAgClの組み合わせ、金属がNi、塩化物がNiCl2の組み合わせ、又は金属がMg、塩化物がMgCl2の組み合わせのいずれかであり、前記固体電解質がLaOCl-CaOの固溶体であることが好ましく考慮される。
第4に、上記第1の発明のハロゲン分圧の測定方法において、前記ハロゲン分圧が臭素分圧であって、前記基準物質が、単一の酸化数の臭化物が安定となる元素の金属と、前記臭化物の組み合わせであることが好ましく考慮される。
第5に、上記第1又は第4の発明のハロゲン分圧の測定方法において、前記基準物質の金属がAg、臭化物がAgBrの組み合わせ、金属がNi、塩化物がNiBr2の組み合わせ、又は金属がMg、臭化物がMgBr2の組み合わせのいずれかであり、前記固体電解質がLaOBr-SrOの固溶体であることが好ましく考慮される。
第6に、本発明の基準電極は、上記第1から第3の発明のハロゲン分圧の測定方法に用いる濃淡電池の基準電極であって、基準物質を内設させる耐熱管と隔膜が、セラミックスボンドで接着され、その接着部がガラス系シーリング材で被覆されていることを特徴とする。
第7に、本発明の隔膜の製造方法は、塩素分圧の測定方法に用いる基準電極の隔膜の製造方法であって、LaOClとCaCO3をモル比で80:20~95:5となるように混合し、エタノールを加えてスラリー化してボールミルにて粉砕・混合する工程と、エタノールを蒸留分離し、空気中でか焼し、LaOCl中にCaOをドープする工程と、前記CaOをドープしたLaOClを磨砕・分級した後、圧縮成形してペレットとする工程と、該ペレットをルツボ内に、前記CaOをドープしたLaOClと同組成のCaOドープLaOClの粉体に埋設して、不活性ガス雰囲気中で焼結する工程を有することを特徴とする。
第8に、本発明の隔膜の製造方法は、臭素分圧の測定方法に用いる基準電極の隔膜の製造方法であって、LaOBrとSrCO3をモル比で80:20~95:5となるように混合し、エタノールを加えてスラリー化してボールミルにて粉砕・混合する工程と、エタノールを蒸留分離し、空気中でか焼し、LaOBr中にSrOをドープする工程と、前記SrOをドープしたLaOBrを磨砕・分級した後、圧縮成形してペレットとする工程と、該ペレットをルツボ内に、前記SrOをドープしたLaOBrと同組成のSrOドープLaOBrの粉体に埋設して、不活性ガス雰囲気中で焼結する工程を有することを特徴とする。
第9に、上記第7又は第8の発明の隔膜の製造方法において、前記ペレットの燒結温度が1200~1400℃の範囲であることが好ましく考慮される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のハロゲン分圧の測定方法によれば、ハロゲン化物イオン伝導体を固体電解質とした濃淡電池を用いた起電力法により、ハロゲン化物系溶融塩相内において同一金属元素で価数の異なる2種の化学種が平衡状態にある系又はハロゲン化物系溶融塩相と溶融金属とが平衡状態にある系のハロゲン分圧の測定方法を提供することができる。また、本発明による濃淡電池の基準電極を用いるとともに、本発明の製造方法により得られるハロゲン化物イオン伝導体の隔膜を用いることにより、金属中に溶解したハロゲンの濃度や、溶融塩中に溶解しているハロゲン化物イオン濃度の測定も可能となる。また、溶融塩が多成分系(複数のハロゲン化物から成る系)であっても測定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】セラミックスボンドを用いて燒結体をムライト管に接着し、内部にAgClを入れて加熱保持した状態の外観変化を示し、(a)は接着直後、(b)は保持10分後、(c)は保持20分後の状態を示している。
【
図2】セラミックスボンドによるムライト管と焼結体の接合方法を示す概略説明図である。
【
図3】(a)は、セラミックスボンドを用いて燒結体を接着し、ガラス系シーリング材によりコーティングした焼結体及びムライト管の接合状態を示す模式図であり、(b)は(a)の実物写真である。
【
図4】セラミックスボンドを用いて焼結体と接着し、ガラス系シーリング材で被覆したムライト管の内部にAgClを入れ、高温で保持した後の、接着部及び焼結体断面の反射電子像及び元素マップである。
【
図5】LaOCl-CaO焼結体の製造プロセスを示す工程図である。
【
図6】LaOBr-SrO焼結体の製造プロセスを示す工程図である。
【
図8】起電力測定試験中における起電力及び試料温度の経時変化を示すグラフである。
【
図9】起電力測定試験後の焼結体断面の反射電子像及び元素マップである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のハロゲン分圧の測定方法は、測定対象の溶融塩と、金属及びハロゲン化物からなる基準物質の間に、ハロゲン化物イオン伝導体の焼結体からなる固体電解質を隔膜として設けた濃淡電池を用い、起電力法により溶融塩の平衡状態におけるハロゲン分圧を測定することを特徴としている。
【0013】
本発明におけるハロゲン分圧とは、溶融塩中の化学種と金属、又は溶融塩中の価数の異なる複数の化学種の平衡によって決定されるポテンシャルとしての値である。したがって、測定するハロゲンの分子は、溶融塩中に必ずしも存在していなくてよい。
【0014】
溶融塩中の化学種と金属の平衡によって決定される塩素分圧の例としては、下記式(1)に示す塩化鉛(PbCl2)と鉛(Pb)との平衡によって決定される塩素分圧を例示することができる。
Pb+Cl2=PbCl2 ・・・(1)
【0015】
また、上記PbCl2と鉛Pbとの平衡のほか、NiCl2とNiの平衡、MgCl2とMgの平衡によって決定される塩素分圧も挙げることができる。
【0016】
また、溶融塩中の酸化数の異なる複数の化学種の平衡によって決定される塩素分圧の例としては、下記式(2)に示す塩化第一鉄(FeCl2)及び塩化第二鉄(FeCl3)との平衡によって決定される塩素分圧を例示することができる。
2FeCl2+Cl2=2FeCl3 ・・・(2)
【0017】
さらに、溶融塩中の化学種と金属の平衡によって決定される臭素分圧の例としては、AgBrとAgとの平衡、NiBr2とNiの平衡、MgBr2とMgの平衡によって決定される臭素分圧も挙げることができる。また、溶融塩中の酸化数の異なる複数の化学種の平衡によって決定される臭素分圧の例としては、臭化第一鉄(FeBr2)及び臭化第二鉄(FeBr3)との平衡によって決定される臭素分圧を例示することができる。
【0018】
本発明のハロゲン分圧の測定方法においては、測定対象の溶融塩と、金属及びハロゲン化物からなる基準物質の間に、ハロゲン化物イオン伝導体の焼結体からなる固体電解質を隔膜として設けた濃淡電池を用いる。
【0019】
例えば、塩素分圧を測定するために用いる塩素濃淡電池として、適切な塩化物イオン伝導性を有する固体電解質を隔膜に用いた場合、AgClと平衡するAgを基準極とすると次式(3)に示す構造の塩素濃淡電池を例示することができる。
【0020】
【0021】
ここで、PCl2(I)は基準極の塩素分圧であり、その値はAgとAgClとの平衡によって決定される。また、PCl2(II)は試料極の塩素分圧である。上記式(3)において、塩化物イオンの輸率が1と見なせるとき、この電池の起電力は次式(4)のように表すことができる。
【0022】
【0023】
式(4)において、PCl2(I)は、AgClの標準生成ギブズエネルギーΔGf(AgCl)を用いて計算できるので、emfを測定できれば塩素分圧logPCl2を決定することができる。また、ΔVthermoは熱起電力補正項であり、溶融塩に挿入する電極や基準物質に用いる金属の種類によって異なる。例として、溶融塩にリード線としてMo線を挿入し、基準物質にAg線を用いた場合、温度400~900℃の範囲では3~8mVである。Emは基準極中の塩化物が融体であった場合に隔膜で生じる起電力の補正項であり、基準物質にAgClを用いて試料極がPbCl2である場合に20~30mVである。ここで、塩化物イオン伝導体には、輸率が0.98~1程度と高いこと、塩化物系溶融塩などと反応しないこと、高温でも安定であることが求められる。
【0024】
本発明で用いる濃淡電池の基準電極は、基準物質を内包するための耐熱管と、該耐熱管の下端部を塞ぐように設けられるハロゲン化物イオン伝導体の焼結体からなる隔膜により構成されている。ここで、耐熱管としてはムライト管、石英管、マグネシア管等の緻密体を用いることができる。一方、上記耐熱管の端部と隔膜の接合は、接着部の脆弱性や浸透性等の観点から重要である。
【0025】
例えば、
図1(a)に示すように、900℃で焼結した焼結体の隔膜をセラミックスボンド(東亞合成株式会社 アロンセラミックD型)でムライト管に接着して、AgClを内部に入れて600℃で保持させて、10分経過すると、
図1(b)に示すように接着部のセラミックスボンドが白色から黄土色に変色した。また、20分経過すると、
図1(c)に示すように焼結体表面に溶融塩の液滴が付着している様子が観察された。これは、AgCl溶融塩がセラミックスボンド内部に浸透したためと考えられる。
【0026】
そこで、本発明の基準電極においては、基準物質を内設させる耐熱管と隔膜をセラミックスボンドで接着し、さらにその接着部をガラス系シーリング材で被覆する。
【0027】
基準電極におけるガラス系シーリング材の被覆効果を確認するために、
図2に示すように、ムライト管の一端にセラミックスボンド(東亞合成株式会社 アロンセラミックD型)を塗布し、LaOCl-CaO固溶体の焼結体からなる隔膜を圧接した後、ムライト管と焼結体の界面近傍の側面にセラミックスボンドを塗布し、さらに、
図3に示す模式図のように、セラミックスボンド、焼結地側面及びムライト管側面にガラス系シーリング材(Aremco社 アレムコシール617)を塗布してコーティングした。なお、隔膜は、900℃で燒結したLaOCl-CaO固溶体を用いた。
【0028】
次に、上記の隔膜を接着したムライト管にAgClを入れ、温度を600℃に昇温し、一定時間保持して接着部の変化を観察した。また、保持後のムライト管先端を切断してエポキシ樹脂に埋め、断面をSEM-EDS分析して溶融塩の浸透の様子を観察した。
【0029】
図4に上記セラミックスボンドとガラス系コーティング材及び焼結体の界面近傍の反射電子像及び元素マップを示す。Alの特性X線強度が強い濃灰色の粒子がセラミックスボンドを構成する粒子であり、濃灰色の相がSi,Na,Caの存在が認められるガラス系コーティング材である。また、Laの存在が確認できる明るい灰色がLaOCl-CaO固溶体の焼結体である。
図4より、ガラス系コーティング材にはAgClは浸透しないことが確認された。また、900℃で焼結したLaOCl-CaO固溶体の焼結体内部からはAgの存在が認められ、公知の焼結方法(例えば、特許第379380号公報に記載の焼結方法)では、溶融塩が浸透するため、溶融塩相を含む系においては隔膜として使用できないことが明らかとなった。
【0030】
以下に、上記本発明の基準電極に用いる塩化物イオン伝導体の焼結体からなる隔膜の製造方法の実施形態について詳述する。
図5に本発明の塩化物イオン導電体(LaOCl-CaO)からなる隔膜の製造方法の概略製造プロセスを示す。
【0031】
塩化物イオン伝導体の焼結体からなる隔膜は、塩素分圧の測定方法に用いる基準電極の隔膜であって、その製造方法においては、まず、LaOClとCaCO3を所定のモル比で混合し、エタノールを加えてスラリー化してボールミルにて粉砕・混合する。上記LaOClとCaCO3の所定のモル比としては、La:Ca=80:20~95:5、好ましくは85:15が考慮される。また、ボールミルによる粉砕・混合においてアルミナボールを用いた場合、焼結体内にアルミナボール由来のアルミニウムが検出される場合があるため、ジルコニアボールを用いるのが望ましい。
【0032】
次に、エタノールを蒸留分離し、磨砕、篩掛けの後空気中でか焼し、LaOCl中にCaOをドープする。か焼条件としては、800℃~1000℃、6時間~12時間の範囲が考慮される。
次に、CaOをドープしたLaOClを磨砕・分級した後、圧縮成形してペレットにし、該ペレットをルツボ内の、CaOをドープした上記LaOClと同組成のCaOドープLaOClの粉体に埋設して、不活性ガス雰囲気中で焼結する。上記不活性ガスとしてはアルゴンを用いることができる。また、焼結条件としては1100℃~1600℃、好ましくは1200~1400℃、12時間~24時間保持が考慮される。
上記本発明の方法により製造した隔膜は緻密な焼結体であり、焼結体内部に溶融塩が浸透しない隔膜とすることができる。
【0033】
なお、臭素分圧の測定方法に用いる臭化物イオン伝導体の焼結体からなる隔膜を製造する場合において、例えば、LaOBrとSrCO
3を用いてLaOBr-SrOの焼結体からなる隔膜を製造する場合には、LaOBrとSrCO
3をモル比でLa:Sr=80:20~95:5、好ましくは90:10になるよう秤量した後、
図6に示すLaOBr-SrO焼結体の製造プロセスに沿って製造することができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明のハロゲン分圧として、塩素分圧の測定方法を実施例に挙げてより詳細に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0035】
[実施例1]
(塩化物イオン伝導体の焼結体からなる隔膜の製造)
図5に示す本発明のLaOCl-CaO焼結体の製造プロセスに沿って、LaOClとCaCO
3をモル比でLa:Ca=85:15の割合で混合し、エタノールを加えてスラリー化し、ジルコニアボールを用いて、ボールミル架台で回転速度270rpmで12時間粉砕・混合した。エタノールを蒸留分離し、空気中において温度800℃で6時間か焼し、LaOCl中にCaOをドープした。
【0036】
次に、CaOをドープしたLaOClを磨砕し、300meshの篩で分級したのち、円柱状に圧縮成形してペレットを作製した。このペレットを、同組成のCaOドープLaOCl粉体に埋め込み、アルゴンガス不活性雰囲気中で温度1300℃で12時間保持して焼結体を得た。この焼結体をXRD、SEM-EDS、アルキメデス法によって分析したところ、LaOCl単相から成る焼結体であり、La,O,Cl,Caが均質に分布した、空隙率約4%の緻密な焼結体であった。
【0037】
(基準電極の製造)
ムライト管の一端に耐熱性無機接着剤(アロンセラミックD型)を塗布し、上記焼結体の隔膜を取り付け、適切な熱処理を行い接着した。この後、接合部及びセラミック管、焼結体側面にガラス系シーリング剤(アレムコシール617)を塗布し、適切な熱処理を行い封孔した。
図3(b)に接着後の模式図及び写真を示す。
【0038】
(塩素分圧の測定)
次に、
図7に示すように、測定系をPbCl
2溶融塩及び液体Pbとして石英管に入れて、その中に上記基準電極のムライト管内に基準物質のAg及びAgClを入れた基準電極を入れた。続いて、ムライト管内のAgCl溶融塩相に通電のためのAg線を浸漬するとともに、測定極側の金属相との通電のためMo線を浸漬し、基準電極を金属相直上の溶融塩相に浸漬して塩素濃淡電池を構築し、起電力を測定した。上記構成の塩素濃淡電池によれば、両極に異種金属を用いているので、熱起電力が生じることになる。なお、試料の温度は、石英管外部の試料近傍に設置したK型熱電対で測定した。
なお、本実施例1では、測定系の溶融塩としてPbCl
2溶融塩を単体で使用したが、本発明のハロゲン分圧の測定方法においては、例えば、PbCl
2とKClとの混合溶融塩など、溶融塩が多成分系の場合であっても適用が可能である。
【0039】
図8に、起電力測定試験中における起電力及び試料温度の経時変化のグラフを示す。
開始後15分程度で安定した温度になった。また、起電力は、温度が一定値となった15分以降安定していることがわかる。また、熱起電力は、予備実験により熱電特性を測定しておき、起電力測定後に補正した。
【0040】
図9に、起電力測定に使用した後のCaOをドープしたLaOClの焼結体の断面の反射電子像及び元素マップを示す。
図9の反射電子像及び元素マップから、本焼結体は良好な緻密体であり、溶融塩に1時間程度浸漬しても焼結体内部への溶融塩成分の浸透は全く見られなかった。また、O,Cl,La,Caが試料一様に分布しており、第2相の析出がないことも確認できた。測定後、熱起電力を補正した起電力、起電力から計算できる塩素分圧、600℃においてAgClとPbCl
2の界面に生じる液間電位差22mVを用いてE
mを補正した起電力から計算した塩素分圧を文献値と比較して表1に示す。
【0041】
【0042】
次に、PbCl2及び液体Pbが共存する系を試料極として、500℃から750℃まで温度を上昇させて塩素分圧を測定した。以下に、熱起電力を補正した起電力、起電力から計算できる塩素分圧、600℃においてAgClとPbCl2の界面に生じる液間電位差22mVを用いてEmを補正した起電力から計算した塩素分圧を文献値と比較して表2に示す。
【0043】
【0044】
表1、表2の結果から、塩素分圧の測定値と文献値が良好な一致を示したことから、上記の方法で塩素分圧が測定できていることが確認された。また、Emを補正していない値であっても、文献値との差は1以内であり、製錬・リサイクルプロセスを評価する上では十分な精度が得られた。
【0045】
[実施例2]
(臭素分圧の測定)
図6に示す本発明のSrO-LaOBr焼結体の製造プロセスに沿って、LaOBrとSrCO
3をモル比でLa:Sr=90:10(La/Sr=9)となるよう混合し、温度1000℃で6時間保持して作製したSrOドープLaOBrの粉体を、実施例1と同様の方法で焼結し、その焼結体を用いて実施例1と同様の構成の臭素濃淡電池を作製して、PbBr
2系溶融塩と液体Pbが平衡する系の臭素分圧を測定した。臭素濃淡電池によって測定された起電力及び臭素分圧の結果を文献値と比較して表2に示す。
【0046】
【0047】
表3の結果から、臭素分圧の測定値と文献値が良好な一致を示したことから、上記の方法で臭素分圧が測定できていることが確認された。