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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61C 5/42 20170101AFI20241023BHJP
   A61N 1/06 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
A61C5/42
A61N1/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021180977
(22)【出願日】2021-11-05
(65)【公開番号】P2023069237
(43)【公開日】2023-05-18
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000138185
【氏名又は名称】株式会社モリタ製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 勉
(72)【発明者】
【氏名】山田 慧太
(72)【発明者】
【氏名】伴 眞吾
(72)【発明者】
【氏名】百海 啓
(72)【発明者】
【氏名】植田 智朗
(72)【発明者】
【氏名】山口 舜祐
(72)【発明者】
【氏名】的場 一成
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-104513(JP,A)
【文献】特開平10-024112(JP,A)
【文献】特開2002-165890(JP,A)
【文献】特表2019-509112(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0207075(US,A1)
【文献】米国特許第07935110(US,B1)
【文献】特表2008-541938(JP,A)
【文献】特開平04-082568(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1757131(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/40,19/00
A61N 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨欠損または根尖病変の部位に高周波電流を通電する治療装置であって、
前記骨欠損または根尖病変の部位に配置される電極を保持する保持部と、
前記電極に高周波電流を通電する電源部と、
前記電源部から前記電極に通電する高周波電流の周波数を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記電極に通電する高周波電流の周波数を1.001MHz~11.700MHzの範囲に制御する、治療装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記電極に通電する高周波電流の周波数を7.751±2MHzの範囲に制御する、請求項1に記載の治療装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電極に通電する高周波電流の波形を正弦波に制御する、請求項1または請求項2に記載の治療装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記電極に通電する高周波電流の電流値を20mA未満に制御する、請求項1または請求項2に記載の治療装置。
【請求項5】
前記制御部は、周波数を1.001MHz~11.700MHzの第1範囲に制御して高周波電流を前記電極に通電する第1制御モードと、周波数を前記第1範囲と異なる第2範囲に制御して高周波電流を前記電極に通電する第2制御モードと、を切り替えることができる、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の治療装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記電極に高周波電流を通電する1回の通電期間を複数の期間に分け、
周波数を前記第2範囲に制御して高周波電流を前記電極に通電する第1期間と、
周波数を前記第1範囲に制御して高周波電流を前記電極に通電する第2期間と、を前記通電期間に含める、請求項5に記載の治療装置。
【請求項7】
前記制御部は、高周波電流の周波数を前記第1範囲または前記第2範囲内で変更可能であり、高周波電流の電流値を前記第1範囲または前記第2範囲に応じで設定されている範囲内で変更可能である、請求項5または請求項6に記載の治療装置。
【請求項8】
骨欠損または根尖病変の部位に電磁波を照射する治療装置であって、
前記骨欠損または根尖病変の部位に配置されるアンテナを保持する保持部と、
前記アンテナから電磁波を照射するために、前記アンテナに電力を供給する電源部と、
前記アンテナから照射する電磁波の周波数を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記アンテナから照射する電磁波の周波数を1.001MHz~11.700MHzの範囲に制御する、治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療部位に高周波電流を通電する治療装置に関し、特に骨形成を促進する高周波電流を通電する治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科分野において、歯髄を除去するため、あるいは根尖の炎症を抑えるために歯の根管治療が行われる場合がある。従来の根管治療では、リ-マ、ファイルを用いて根管を切削拡大し、根管内の汚染組織や汚染物質を取り除いたうえで、根管内に薬を充填する治療が行われていた。
【0003】
しかし、根管の形状は複雑で、歯の種類によっても人よっても形状が異なる。そのため、根管治療においては、リ-マ、ファイルを用いての根管拡大が困難な部分があり、根管拡大ができない部分に起炎因子が残ったままとなると、術後に炎症が生じる場合があった。また、根尖部において骨欠損が生じたり、根尖病変が生じたりすることがあり、根管治療では、これらに対する治療も含まれている。そのため、根管治療において、欠損または病変した骨が再生されることで治癒したと判断されるのが一般的であった。
【0004】
特許文献1では、歯の根管内の起炎因子、細菌などを低減するための根管治療を行う治療装置が開示されている。当該治療装置では、根尖の位置を測定する測定器と通信する歯科器具に、根管に挿入される電極が含まれている。さらに、当該歯科器具は、電気パルスを印加するユニットと通信することができる。そのため、当該治療装置は、根管に挿入された電極を介して根管に電気パルスを印加することができ、印加した電気パルスによって根管内の起炎因子、細菌などを低減することができる。
【0005】
さらに、微弱な電流を利用して骨再生を促進するための研究が成されており、直流電流刺激法(DC法)、交流電流刺激法(AC法)、容量結合型電気刺激法(CCEF法)などが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2008/114244号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Yumoto H, Hirao K, Tominaga T, Bando N, Takahashi K, Matsuo T "Electromagnetic wave irradiation promotes osteoblastic cell proliferation and up-regulates growth factors via activation of the ERK1/2 and p38 MAPK pathways." Cell Physiol Biochem, 35:601-615, 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、根管治療では、根尖部において骨欠損または根尖病変が生じていた場合、欠損または病変した骨を再生する時点まで治癒と判断されないので、骨を再生するのに相当の時間を要すれば治癒と判断されるまでの期間が長くなることがあった。もちろん、根管治療において、治癒に至るまで患者が違和感を感じることになるため、治癒に至るまでの時間を短くするのが当然望ましい。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、根尖部において骨欠損または根尖病変が生じていた場合であっても、治癒と判断できるまでの期間を短縮することができる治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る治療装置は、骨欠損または根尖病変の部位に高周波電流を通電する治療装置である。治療装置は、骨欠損または根尖病変の部位に配置される電極を保持する保持部と、電極に高周波電流を通電する電源部と、電源部から電極に通電する高周波電流の周波数を制御する制御部と、を備える。制御部は、電極に通電する高周波電流の周波数を1.001MHz~11.700MHzの範囲に制御する。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る治療装置では、制御部が、電極に通電する高周波電流の周波数を1.001MHz~11.700MHzの範囲に制御するので、根尖部において骨欠損または根尖病変が生じていた場合であっても、骨再生を促進して治癒と判断できるまでの期間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1に係る治療装置の外観図を示す。
図2】実施の形態1に係る治療装置の構成を示すブロック図である。
図3】根尖部の骨を再生する方法を説明するための概略図である。
図4】実施の形態1に係る治療装置の電極に通電する骨再生モードでの高周波電流の波形を示す図である。
図5】実施の形態1に係る治療装置で骨の再生を行った実験について説明するための図である。
図6図5で行った骨を再生する実験の実験結果を示す図である。
図7】実施の形態2に係る治療装置の電極に通電する高周波電流の波形を示す図である。
図8】実施の形態2に係る治療装置の制御を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る治療装置の外観図を示す。図2は、実施の形態1に係る治療装置の構成を示すブロック図である。図3は、根尖部の骨を再生する方法を説明するための概略図である。根尖部において骨欠損または根尖病変が生じる場合があり、図3(a)に示す歯900では、根尖903近傍の歯槽骨906に骨欠損905が生じている。根管治療において、骨欠損905の部分の骨が自然に再生されるのを待っていたのでは相当の時間を要し、治癒と判断されるまでの期間が長くなる。
【0014】
そこで、実施の形態1に係る治療装置10では、図3(b)に示す歯900のように、リ-マ、ファイルなどの切削工具を用いて根管901を切削拡大し、根管901内の歯髄907や起炎因子を取り除いた後に、根管901に電極(ファイル11)を挿入して治療部位である骨欠損905の部分に高周波電流を通電する。
【0015】
治療装置10は、骨欠損905が生じた部分に特定の周波数の高周波電流を通電することで、当該部分の骨再生を促進することができる(骨再生モード)。特に、本開示では、電極に通電する高周波電流の周波数を1.001MHz~11.700MHzの範囲に制御することで、骨欠損905が生じた部分の骨再生をより促進することを新たに見出した。さらに好ましくは、電極に通電する高周波電流の周波数を7.751±2MHzの範囲に制御することで、骨再生をさらに促進することを新たに見出した。なお、当該周波数の高周波電流を通電することで、骨欠損905が生じた部分だけでなく、同様に根尖病変が生じた部分の骨再生を促進することができる。また、骨再生モードにおいて電極に通電する高周波電流は、正弦波の高周波電流が好ましい。もちろん、骨再生モードにおいて電極に通電する高周波電流は、必ずしも正弦波の高周波電流に限定されない。
【0016】
なお、治療装置10では、骨再生を促進するために高周波電流を通電する(骨再生モード)だけでなく、切削工具を用いて根管901を切削拡大した後、根管901内に残った起炎因子、細菌などを高周波電流によるジュール熱で焼灼し、殺菌するために高周波電流を通電する(殺菌モード)こともできる。なお、治療装置10は、高周波電流を通電することで完全に殺菌できなくてもよく、歯髄や肉芽を熱変性させて、壊死、失活させることができればよい。高周波電流を通電して根管901内を殺菌する治療については、EMAT(Electro-Magnetic Apical Treatment)とも呼ばれ、文献(例えば、坂東直樹、富永敏彦、湯本浩通、住友孝史、平尾早希、平尾功治、松尾敬志、「電磁波照射の歯内療法への応用-EMAT (Electro-Magnetic Apical Treatment)」、2011年、歯内療法誌、第32巻、p.184-200)などに開示がある。当該開示では、治療前、治療後に患部に高周波電流を通電することで、治療部位の起炎因子、細菌などを低減できて予後の経過が極めて良好であると報告されている。
【0017】
具体的に、治療装置10は、図1に示すように、切削工具であるファイル11(図2参照)に高周波電流を通電するユニット12と、ファイル11を保持するためのファイルホルダ13と、を備えており、ファイルホルダ13の先端に取り付けられたファイル11に対して高周波電流を通電することができる。なお、本開示では、ファイルホルダ13の先端にファイル11を取り付け、当該ファイル11が治療部位に配置される電極であると説明するが、ファイルホルダ13とファイル11とが一体となった構成でもよい。
【0018】
ファイルホルダ13は、略棒状の筐体によって形成され、ファイル11の金属部分を保持することができる。ファイルホルダ13は、ファイル11の金属部分を保持することでファイルとユニット12とを電気的に接続することができる。ユニット12には、表示部14、設定操作部15が設けられているとともに、フートスイッチ16および受動電極22が接続されている。
【0019】
ユニット12は、図2に示すように、表示部14、設定操作部15の他に、高周波信号発生回路19、検出部20、制御回路21、根管長測定回路23、およびスイッチSW1~スイッチSW2が設けられている。
【0020】
設定操作部15は、治療装置10の動作を設定するために設けられた設定ボタンである。設定操作部15では、ファイル11に通電する高周波電流の電流値、周波数、通電期間、表示部14の表示設定などを設定可能である。ここで、通電期間とは、1回の操作で高周波電流の通電を1ショットで行う場合、1回の通電する時間であり、1回の操作で高周波電流の通電を複数回に分割して行う場合、複数に分割して通電する時間の和である。
【0021】
フートスイッチ16は、高周波電流の通電を操作するために設けられた操作部であり、使用者が踏み込むことで制御回路21から高周波信号発生回路19に制御信号が送信される。高周波信号発生回路19は、受信した制御信号に基づき、設定操作部15で設定した高周波電流をファイル11に通電する。
【0022】
高周波信号発生回路19は、殺菌モードでファイル11と受動電極22との間に、例えば周波数が300kHz~1000kHz(第2範囲)で、電流値が20mA~200mA(根管内の起炎因子、細菌などを低減するための根管治療に必要な範囲)の高周波電流を通電する。また、高周波信号発生回路19は、骨再生モードでファイル11と受動電極22との間に、例えば周波数が1.001MHz~11.700MHz(第1範囲)で、電流値が10μA~20mA未満(根管や根尖において骨欠損が生じた部位の骨再生を促進するための根管治療に必要な範囲)の高周波電流を通電する。高周波信号発生回路19は、殺菌モードでファイル11に通電する高周波電流の周波数(第2範囲)と、骨再生モードでファイル11に通電する高周波電流の周波数(第1範囲)とは周波数が異なる。もちろん、高周波信号発生回路19が発生することができる高周波電流は、上記の周波数および電流値に限定されない。
【0023】
図4は、実施の形態1に係る治療装置の電極に通電する骨再生モードでの高周波電流の波形を示す図である。なお、図4に示す図は概念図であり、図示している波形や波数は実際の高周波電流の波形や波数とは異なる。以下、高周波電流の波形でも同様である。使用者は、設定操作部15で殺菌モードから骨再生モードに切り替え、治療部位である骨欠損905の部分でフートスイッチ16を操作することで高周波信号発生回路19からファイル11に高周波電流を通電させる。図4に示す波形は、骨再生モードで高周波信号発生回路19を駆動させた場合の波形で、骨欠損905の部分において骨再生を促進するために必要な周波数(例えば、7.751MHz)および電流値(例えば、1mA)の正弦波の高周波電流を通電させた波形である。
【0024】
この高周波信号発生回路19から出力される高周波電流の電流値、周波数、通電期間などは、設定操作部15を操作することによって設定できる。設定操作部15で設定した周波数および電流値の高周波電流を高周波信号発生回路19が出力できるように、制御回路21が検出部20で検出した周波数および電流値に基づいて、高周波信号発生回路19を制御している。ただし、制御回路21が検出部20で検出した周波数および電流値に基づいて、高周波信号発生回路19を制御しないのであれば、治療装置10に検出部20を設けなくてもよい。なお、高周波電流を通電する際は、ファイル11が根管901内に挿入され、その先端が、例えば骨欠損905の部分に当てられ、受動電極22が歯肉902や口唇904等、患者の体の一部に当てられる。ファイルホルダ13は、治療部位に配置される電極であるファイル11を保持する保持部であり、高周波信号発生回路19は、当該電極に高周波電流を通電する電源部である。
【0025】
検出部20は、高周波信号発生回路19からファイル11に高周波電流を通電した場合に、実際にファイル11に流れた高周波電流の周波数および電流値を検出する検出器である。制御回路21は、検出部20で検出した周波数および電流値に基づいて、ファイル11に通電させる高周波電流の周波数および電流値の制御を高周波信号発生回路19に対して行う。制御回路21は、ハードウェア構成として、例えば、CPU(Central Processing Unit)、当該処理をCPUで実行させるためのプログラムやデータ等を記憶する記憶部、CPUのワークエリアとして機能するRAM(Random Access Memory)、主に画像処理を行うGPU(Graphics Processing Unit)、周辺機器との信号の整合性を保つための入出力インターフェイス等が設けられている。記憶部には、制御回路21の内部に設けられた不揮発性メモリ等の記憶装置、ネットワークを介して接続される記憶装置などが含まれる。
【0026】
根管長測定回路23は、根管長測定用信号をファイル11と受動電極22との間に流してファイル11の先端位置を測定する。具体的に、根管長測定回路23は、ファイル11と受動電極22との間に2つの異なる周波数の電圧を印加することで、それぞれのインピーダンスの値を求め、その2つの値(実際にはインピーダンスの値に対応する電圧や電流の値)の差分や比等から、根尖903からのファイル11の先端位置を特定する。なお、根管長測定の測定方法は、このようなものに限られるものではなく、従来、提案されている測定方法を含む種々の技術を利用することが可能である。根管長測定の際においても、受動電極22は、歯肉902や口唇904等、患者の体の一部に当てられる。
【0027】
スイッチSW1は、ファイル11と、高周波信号発生回路19または根管長測定回路23との間の電気的接続を切り替えるために設けられている。また、スイッチSW2は、受動電極22と、高周波信号発生回路19または根管長測定回路23との間の電気的接続を切り替えるために設けられている。
【0028】
スイッチSW1およびスイッチSW2の切り替えは、設定操作部15からの入力情報に基づいて制御回路21により実現される。具体的に、制御回路21は、高周波電流をファイル11に通電する場合、ファイル11および受動電極22を高周波信号発生回路19に接続されるようにスイッチSW1およびスイッチSW2を制御する。また、制御回路21は、根管長測定用信号をファイル11と受動電極22との間に流す場合、ファイル11および受動電極22が根管長測定回路23に接続されるようにスイッチSW1およびスイッチSW2を制御する。実施の形態1では、設定操作部15で設定した動作モードに応じて、スイッチSW1およびスイッチSW2を制御してファイル11および受動電極22の接続先を切り替える。なお、スイッチSW1およびスイッチSW2の切り替えは、フートスイッチ16のオン・オフ操作に連動してもよい。
【0029】
実施の形態1では、スイッチSW1およびスイッチSW2によって高周波信号発生回路19と根管長測定回路23とを電気的に分離している。したがって、高周波電流がファイル11へ出力されている間、根管長測定回路23は、スイッチSW1およびスイッチSW2によりファイル11および受動電極22から電気的に切断されている。そのため、高周波電流が根管長測定回路23に通電することがなく、高周波電流によって根管長測定回路23が故障することを抑制することができる。
【0030】
また、実施の形態1では、根管長測定回路23によりファイル11の先端位置が根尖からどの位置にあるかを知ることができる。そのため、使用者は、根管長測定回路23で根管内でのファイル11の先端位置が高周波電流を通電する位置(例えば、骨欠損905または根尖病変が生じた部分)に到達したことを確認したうえで、設定操作部15を操作して根管長測定モードから高周波通電モードに切り替えることができる。そのため、治療装置10では、適切な位置でファイル11の先端位置を保持した状態で高周波電流をファイル11に通電することができる。もちろん、治療装置10は、根管長測定回路23を設けずに高周波電流をファイル11に通電する構成のみであってもよく、別の根管長測定器でファイル11の先端位置を確認して高周波電流をファイル11に通電してもよい。
【0031】
表示部14は、例えば液晶ディスプレイで構成されており、高周波信号発生回路19でファイル11に通電している電流値、根管長測定回路23で測定したファイル11の先端の位置などを表示し、治療装置10の使用者に必要な情報を報知する報知部として機能している。表示部14は、例えば、検出部20で検出される周波数および電流値が設定した周波数および電流値の範囲外となった場合、通電している高周波電流の周波数および電流値が当該根管治療に必要な周波数および電流値の範囲外である旨の情報を報知してもよい。なお、表示部14は、有機ELディスプレイ、電子ペーパー、発光ダイオード等で構成されていてもよい。また、報知部は、表示部14以外に、図示していないランプ、スピーカなどであってもよく、ランプの点灯で使用者に報知したり、スピーカからブザー音を出力して使用者に報知したりしてもよい。
【0032】
治療装置10は、骨欠損905または根尖病変が生じた部分の骨再生を促進するため、電極に通電する高周波電流の周波数を1.001MHz~11.700MHzの範囲に制御する。さらに好ましくは、治療装置10は、電極に通電する高周波電流の周波数を7.751±2MHzの範囲に制御する。これらの周波数の高周波電流を治療部位に通電することで骨再生が促進されることを具体的に説明する。図5は、実施の形態1に係る治療装置10で骨の再生を行った実験について説明するための図である。図6は、図5で行った骨を再生する実験の実験結果を示す図である。
【0033】
図5に示す実験では、人の歯ではなくラットの頭蓋骨を用いて実験を行った。当該実験では、図5に示すラットmの頭皮を切開して頭蓋骨Pの一部を露出させ、露出した頭蓋骨Pに外径4.8mmのトレフィンバーでラットmの左側に骨欠損905aを1カ所作製する。作製した骨欠損905aに対して治療装置10で高周波電流を通電する。具体的に、治療装置10は、ファイルホルダ13に保持させた電極11aを骨欠損905aの略中央部に配置し、受動電極22をラットmの左耳付近の皮膚に刺した状態で、高周波信号発生回路19から電極11aに高周波電流を通電する。なお、当該実験では、ファイル11の代わりに注射針を電極11aに用いた。
【0034】
用意された複数のラットmは、0.549MHzの高周波電流が通電されるラットm1、7.751MHzの高周波電流が通電されるラットm2、11.700MHzの高周波電流が通電されるラットm3、高周波電流が通電されないラットm0(対照群)に分けて実験が行われた。ラットmたちは、所定の間隔で所定回数、高周波電流が通電されるが、電極11aを取り付けた日以降は切開した頭皮を戻し、電極11aを骨欠損905aの略中央部の頭皮に刺して高周波電流が通電された。なお、通電する高周波電流の電流値は1mAとした。
【0035】
図5に示す実験を行った結果が、図6に示すグラフである。当該グラフの縦軸は硬組織形成率である。作成した骨欠損905aの面積をAとし、所定回数、高周波電流を通電した後の欠損面積をDAとした場合、硬組織形成率は、(A-DA)/Aと定義できる。なお、硬組織形成率は、骨再生率と等価の値である。また、欠損面積DAの測定は、μCT装置を使用した。
【0036】
図6に示すグラフように、0.549MHzの高周波電流が通電されたラットm1(サンプル数n=7)は、硬組織形成率が約5%~約62%の範囲で中央値が約38%であった。7.751MHzの高周波電流が通電されたラットm2(サンプル数n=10)は、硬組織形成率が約9%~約79%の範囲で中央値が約52%であった。11.700MHzの高周波電流が通電されたラットm3(サンプル数n=8)は、硬組織形成率が約22%~約65%の範囲で中央値が約40%であった。高周波電流が通電されないラットm0(対照群)(サンプル数n=4)は、硬組織形成率が約6%~約22%の範囲で中央値が約15%であった。なお、中央値は、図6のグラフにおいて横棒で示されている。
【0037】
図6に示す実験結果から分かるように、周波数が0.549MHz~11.700MHzの範囲の高周波電流を電極に通電することで、高周波電流を通電しない場合に比べて、硬組織形成率(=骨再生率)が向上したことが分かる。特に、周波数が7.751MHzの高周波電流を電極に通電することで、硬組織形成率が最も向上したことが分かる。つまり、電極に通電する高周波電流の周波数の内で、最も骨再生に寄与する周波数が7.751MHzである。
【0038】
ここで、周波数が7.751MHzから11.700MHzに変化したとき硬組織形成率(中央値)が約52%から約40%に変化している。仮に硬組織形成率と周波数との関係が線形に変化すると仮定した場合、周波数が1MHz変化すると硬組織形成率(中央値)が約3%低下することになる。そのため、硬組織形成率(中央値)を約45%以上確保するには、周波数が7.751±2MHzの範囲に制御すればよいことが分かる。
【0039】
なお、実施の形態1に係る治療装置10では、周波数が300kHz~1000kHzの範囲の高周波電流を殺菌モードで使用するため、骨再生モードで使用する周波数は、1.001MHz~11.700MHzの範囲に制御することが好ましい。
【0040】
このように、実施の形態1に係る治療装置10は、治療部位(例えば、骨欠損905など)に配置されるファイル11を保持するファイルホルダ13と、ファイル11に高周波電流を通電する高周波信号発生回路19と、高周波信号発生回路19からファイル11に通電する高周波電流の周波数を制御する制御回路21と、を備える。制御回路21は、ファイル11に通電する高周波電流の周波数を1.001MHz~11.700MHzの範囲に制御する。好ましくは、高周波電流の周波数を7.751±2MHzの範囲に制御する。
【0041】
このように構成することで、実施の形態1に係る治療装置10は、制御部が、電極に通電する高周波電流の周波数を1.001MHz~11.700MHzの範囲(好ましくは7.751±2MHzの範囲)に制御するので、根尖部において骨欠損または根尖病変が生じていた場合であっても、骨再生を促進して治癒と判断できるまでの期間を短縮することができる。
(実施の形態2)
実施の形態1では、殺菌モードと骨再生モードとを使用者が切り替えて治療部位に高周波電流をファイル11に通電する治療装置10について説明した。実施の形態2では、治療装置が、まず根管を殺菌する殺菌モードで動作し、その後、自動で骨再生を促進させる骨再生モードに切り替えて動作する場合について説明する。なお、実施の形態2に係る治療装置においても、実施の形態1で説明した治療装置10の構成を採用し、同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を繰り返さない。
【0042】
図7は、実施の形態2に係る治療装置の電極に通電する高周波電流の波形を示す図である。使用者は、根管長測定回路23に基づいて高周波電流の通電する位置を決定し、当該通電する位置でフートスイッチ16を操作することで高周波信号発生回路19からファイル11に高周波電流を通電させる。治療装置10は、高周波通電モードとして、まず根管を殺菌する殺菌モードで動作する。
【0043】
殺菌モードでの動作では、高周波信号発生回路19から、本格的に高周波電流をファイル11に通電する前に、予備的に高周波電流をファイル11に通電する。図7に示す予備期間(PP)の通電が予備的な通電であり、その後の第1期間(TP1)が本格的な通電である。第1期間の通電では、根管内の起炎因子、細菌などを低減するための根管治療に必要な電流値の範囲の電流値(例えば、30mA~50mA)の高周波電流を通電させるが、予備期間の通電では、当該根管治療に必要な電流値の範囲内の電流値の最小電流値(例えば、30mA)より小さい電流値を予備電流として通電すれば予備期間の通電時の痛みなどを軽減できる。なお、予備期間および第1期間では、周波数が300kHz~1000kHzの範囲(第2範囲)の高周波電流を通電する。
【0044】
なお、高周波信号発生回路19は、定電圧回路を含み、定電圧制御でファイル11に高周波電流を通電する。そのため、高周波信号発生回路19は、第1期間で印加する高周波電圧に比べて低い高周波電圧を予備期間で印加することで、第1期間で通電する電流値に比べて小さい電流値を予備期間に通電することができる。なお、高周波信号発生回路19は、定電流回路で構成してもよく、定電流制御でファイル11に高周波電流を通電してもよい。
【0045】
制御回路21は、予備電流をファイル11に流したときに検出部20で検出した電流値に基づいて、第1期間の通電において高周波信号発生回路19からファイル11に流れる高周波電流の電流値が所定の範囲内となるように制御する。想定した予備電流の電流値と検出部20で検出した電流値との差や比に応じて、制御回路21は、ファイル11に流れる高周波電流の電流値が所定の範囲内となる最適な電圧を変更して高周波信号発生回路19に印加する。つまり、制御回路21は、ファイル11に流れる高周波電流の電流値が所定の範囲内となるように高周波信号発生回路19に印加する電圧を最適化している。なお、ファイル11に流れる高周波電流の電流値は、根管内の起炎因子、細菌などを低減するための根管治療に必要な電流値に限定されるものではない。また、制御回路21は、予備電流の電流値と検出部20で検出した電流値と比較を差で行うと説明したが、比などの他の比較方法で行ってもよい。
【0046】
高周波信号発生回路19は、予備期間として例えば0.02秒(20ms)の通電を行い、その後休止期間(TC)として例えば0.03秒(30ms)を開けて、第1期間として例えば0.07秒(70ms)の通電を行う。高周波信号発生回路19は、1回の通電(例えば、フートスイッチ16の1回の操作)に対して、第1期間と休止期間との期間(合計0.1秒(100ms))をN回(例えば、10回)繰り返す。治療装置10では、使用者がフートスイッチ16を1回踏み込むことで約1秒間(休止期間を含む)、高周波信号発生回路19からファイル11に高周波電流が通電する。なお、休止期間と第1期間との制御の繰り返し回数は、設定操作部15で使用者があらかじめ設定可能であり、実施の形態2では例えば10回と設定してある。もちろん、休止期間と第1期間との制御の繰り返し回数は、10回以外の値を設定してもよい。また、設定操作部15では、休止期間と第1期間との制御の繰り返し回数として設定するのではなく、通電期間(例えば、1秒)として設定してもよい。
【0047】
次に、治療装置10は、殺菌モードで動作した後、骨再生モードで動作する。骨再生モードでは、殺菌モードで通電した高周波電流の周波数(第2範囲)と異なる周波数が1.001MHz~11.700MHz(第1範囲)の高周波電流を通電する。また、骨再生モードでは、殺菌モードで通電した高周波電流の電流値(例えば、30mA~50mA)に対して小さい電流値(例えば、10μA~20mA未満)の高周波電流をファイル11に通電する。図7に示す第2期間(TP2)の通電が骨再生モードの通電である。なお、図7では、第2期間の長さが、第1期間の長さよりも短く記載されているが、当該第2期間は数秒程度~5秒程度の長さであってもよい。また、制御回路21は、予備電流をファイル11に流したときに検出部20で検出した電流値に基づいて、第2期間の通電において高周波信号発生回路19からファイル11に流れる高周波電流の電流値が微弱な電流値となるように高周波信号発生回路19で印加する電圧を決定してもよい。
【0048】
次に、治療装置10においてファイル11に通電する高周波モードの制御についてフローチャートを用いて説明する。図8は、実施の形態2に係る治療装置の制御を説明するためのフローチャートである。まず、使用者が、根管長測定回路23に基づいて高周波電流の通電する位置(治療部位)を決定し、当該通電する位置においてフートスイッチ16を操作することで治療装置10を高周波モードで動作させる。制御回路21は、通電期間が第2期間か否かを判断する(ステップS10)。通電期間が第2期間でない場合(ステップS10でNO)、制御回路21は、通電期間が第1期間で動作モードが殺菌モードであると判断して、表示部14に殺菌モードを実行する旨の情報を報知する(ステップS11)。制御回路21は、ステップS11で実行する動作モードを表示し、図7に示す殺菌モードでの高周波電流をファイル11に通電する(ステップS12)。
【0049】
制御回路21は、通電期間が第1期間(予備期間および休止期間を含む)か否かを判断する(ステップS13)。通電期間が第1期間である場合(ステップS13でYES)、制御回路21は、処理をステップS12に戻し、殺菌モードでの高周波電流をファイル11に通電する。一方、通電期間が第1期間でない場合(ステップS13でNO)、制御回路21は、通電期間が第2期間で動作モードが骨再生モードであると判断して、表示部14に骨再生モードを実行する旨の情報を報知する(ステップS14)。なお、通電期間が第2期間である場合(ステップS10でYES)も、制御回路21は、処理をステップS14に進める。
【0050】
制御回路21は、ステップS14で実行する動作モードを表示し、図7に示す骨再生モードでの高周波電流をファイル11に通電する(ステップS15)。ここで、骨再生モードで通電する周波数および電流値は、予め定められた設定値であって、設定操作部15などで使用者が設定することができる。
【0051】
骨再生を促進させるためには、第2期間においてファイル11に通電する高周波電流の周波数および電流値が設定値となっている必要がある。ここで、設定値とは、例えば、周波数が1.001MHz~11.700MHzの範囲(第1範囲)内の値で、電流値が10μA~20mA未満の範囲内の値である。そこで、制御回路21は、検出部20で検出した周波数および電流値が、設定値となっているか否かを判断する(ステップS16)。検出部20で検出した周波数および電流値が設定値でない場合(ステップS16でNO)、制御回路21は、高周波信号発生回路19に対してファイル11へ通電する高周波電流の周波数および電流値が設定値となるように調整する(ステップS17)。制御回路21は、ステップS17で通電する高周波電流を調整した後、処理をステップS16に戻しフィードバック制御を行っている。制御回路21は、高周波電流の周波数および電流値をフィードバック制御している場合に、検出部20で検出した周波数および電流値が変化して上記の範囲外となった場合、表示部14に周波数および電流値が上記の範囲外となった旨の表示を行ってもよい。
【0052】
検出部20で検出した周波数および電流値がほぼ設定値である場合(ステップS16でYES)、制御回路21は、通電期間が第2期間を経過したか否かを判断する(ステップS18)。通電期間が第2期間を経過していない場合(ステップS18でNO)、制御回路21は、処理をステップS15に戻す。一方、通電期間が第2期間を経過した場合(ステップS18でYES)、制御回路21は、高周波モードでの動作を終了する。
【0053】
このように、実施の形態2に係る治療装置10は、制御回路21が、ファイル11に高周波電流を通電する1回の通電期間を複数の期間に分け、周波数を300kHz~1000kHzの第2範囲に制御して高周波電流をファイル11に通電する第1期間と、周波数を1.001MHz~11.700MHzの第1範囲に制御して高周波電流をファイル11に通電する第2期間と、を通電期間に含める。これにより、治療装置10は、殺菌モードで動作した後に、自動で骨再生を促進させる骨再生モードに切り替えて動作することができる。
(変形例)
(a) 前述の実施の形態に係る治療装置10は、ファイル11と受動電極22との間で周波数が1.001MHz~11.700MHz(第1範囲)で、電流値が10μA~20mA未満の高周波電流を通電すると説明した。しかし、治療装置は、治療部位に電磁波を照射する治療装置であってもよい。当該治療装置では、ファイル11を高周波電流を通電する電極として使用するのではなく、ファイル11を電磁波を照射するアンテナとして使用する。なお、この変形例に係る治療装置においても、実施の形態1で説明した治療装置10の構成を採用し、同じ構成については同じ符号を付して詳細な説明を繰り返さない。
【0054】
変形例に係る治療装置は、治療部位に電磁波を照射する治療装置である。変形例に係る治療装置は、治療部位に配置されるファイル11(アンテナ)を保持するファイルホルダ13と、ファイル11(アンテナ)から電磁波を照射するために、ファイル11(アンテナ)に電力を供給する高周波信号発生回路19と、ファイル11(アンテナ)から照射する電磁波の周波数を制御する制御回路21と、を備える。制御回路21は、ファイル11(アンテナ)から照射する電磁波の周波数を1.001MHz~11.700MHzの範囲に制御する。好ましくは、照射する電磁波の周波数を7.751±2MHzの範囲に制御する。なお、変形例に係る治療装置では、ファイル11(アンテナ)がモノポールアンテナとして機能している。
【0055】
(b) 治療装置10は、前述の実施の形態で説明したような、ファイル11を取り付けるファイルホルダ13を有し、根管長測定と、高周波電流を通電することができる構成に限定されず、治療工具をモータ駆動する構成、治療工具を超音波で駆動する構成などと組み合わせてもよい。
【0056】
(c) また、治療装置10を用いて骨再生を行う治療部位として、歯900の骨欠損905または根尖病変が生じた部分であると説明したが、これに限られず、歯900以外の骨欠損または病変が生じた部分を治療部位としてもよい。
【0057】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0058】
10 治療装置、11 ファイル、12 ユニット、13 ファイルホルダ、14 表示部、15 設定操作部、16 フートスイッチ、19 高周波信号発生回路、20 検出部、21 制御回路、22 受動電極、23 根管長測定回路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8