(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】研磨用組成物、その製造方法、および研磨方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20241023BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
(21)【出願番号】P 2020053111
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宗宮 晃子
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-017556(JP,A)
【文献】特表2019-512876(JP,A)
【文献】特表2001-500188(JP,A)
【文献】特開2009-295747(JP,A)
【文献】特開2011-176208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子と、研磨促進剤とを含み、
前記研磨促進剤は、芳香族複素環と、前記芳香族複素環に直接結合するOH基またはその塩の基とを含む化合物であり、
窒化チタンを含む研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物。
【請求項2】
前記研磨促進剤は、下記一般式(1)で表される化合物である、請求項1に記載の研磨用組成物:
【化1】
上記一般式(1)において、各Zは、それぞれ独立して、CR
1またはNであり、
この際、1個以上3個以下のZはNであり、
各R
1は、それぞれ独立して、水素原子、OH基またはその塩の基およびCOOH基またはその塩の基からなる群より選択され、
この際、少なくとも1個のR
1はOH基またはその塩の基である。
【請求項3】
前記研磨促進剤は、前記一般式(1)において、1個の前記ZがNであり、5個の前記ZがCR
1であり、この際、5個の前記R
1のうち1個または2個の前記R
1がOH基またはその塩の基であり、5個の前記R
1のうち1個の前記R
1がCOOH基もしくはその塩の基または水素原子であり、5個の前記R
1のうち残りの前記R
1が水素原子である化合物である、請求
項2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記研磨促進剤は、2-ヒドロキシピリジン、3-ヒドロキシピリジン、2-ヒドロキシニコチン酸、4-ヒドロキシニコチン酸、5-ヒドロキシニコチン酸、6-ヒドロキシニコチン酸、2-ヒドロキシイソニコチン酸、3-ヒドロキシイソニコチン酸、3-ヒドロキシピコリン酸、4-ヒドロキシピコリン酸、5-ヒドロキシピコリン酸、6-ヒドロキシピコリン酸、シトラジン酸、2,3-ジヒドロキシイソニコチン酸、2,5-ジヒドロキシイソニコチン酸、3,5-ジヒドロキシイソニコチン酸およびこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
pHが7を超える、請求項1~4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
電気伝導度が1mS/cm以上6mS/cm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
無機酸塩をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
酸化剤をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
シリカ粒子と、研磨促進剤とを混合することを含み、
前記研磨促進剤は、芳香族複素環と、前記芳香族複素環に直接結合するOH基またはその塩の基とを含む化合物である、
窒化チタンを含む研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、または請求項9の製造方法によって研磨用組成物を製造し、前記製造された研磨用組成物を用いて、窒化チタンを含む研磨対象物を研磨する、研磨方法。
【請求項11】
窒化チタンを含む研磨対象物が基板材料であり、請求項10に記載の研磨方法によって前記基板材料を研磨することを含む、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、その製造方法、および研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、シリコン酸化物(酸化ケイ素)、シリコン窒化物や、窒化チタン、チタン、窒化タンタルまたはタンタル等を含む膜、銅やタングステンなどの金属等からなる配線、プラグなどである。
【0003】
中でも、窒化チタンの研磨に注目すると、特許文献1には、酸化剤と、研磨剤(砥粒)と、フッ化物含有添加剤を含む、研磨用組成物によって、チタンや窒化チタンを研磨できることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、0.1質量%以上のコロイダルシリカと、水とを含有するpHが6.0以下の研磨用組成物によって、チタンや窒化チタンを研磨できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-67986号公報
【文献】特開2005-244123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、窒化チタンの研磨速度が十分ではないことが問題とされていた。
【0007】
また、特許文献2の技術では、チタンに対する研磨速度向上効果は認められるものの、窒化チタンについてはさらなる高い研磨速度が要求されていた。
【0008】
そこで、本発明は、窒化チタンを含む研磨対象物を高い研磨速度で研磨するための手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記課題は、以下の手段によって解決されうる:
シリカ粒子と、研磨促進剤とを含み、
前記研磨促進剤は、
芳香族複素環と、前記芳香族複素環に直接結合するOH基またはその塩の基とを含む化合物、または、
芳香族炭化水素環と、前記芳香族炭化水素環に直接結合するOH基またはその塩の基と、前記芳香族炭化水素環に直接結合するCOOH基またはその塩の基とを含む化合物、
であり、窒化チタンを含む研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、窒化チタンを含む研磨対象物を高い研磨速度で研磨するための手段が提供されうる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下の範囲)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で測定する。
【0012】
<研磨用組成物>
本発明の一形態は、シリカ粒子と、研磨促進剤とを含み、前記研磨促進剤は、芳香族複素環と、前記芳香族複素環に直接結合するOH基またはその塩の基とを含む化合物、または、芳香族炭化水素環と、前記芳香族炭化水素環に直接結合するOH基またはその塩の基と、前記芳香族炭化水素環に直接結合するCOOH基またはその塩の基とを含む化合物、であり、窒化チタンを含む研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物に関する。
【0013】
上記課題が解決されうるメカニズムは詳細には不明であるが、本発明者は以下のように推測している。
【0014】
特定の研磨対象物を高研磨速度で研磨する手法として、電気伝導度を高める手法が一般的に知られている。しかしながら、高電気伝導度は他の材料(例えば、ストッパー膜)の研磨速度をも促進してしまうことがあり、選択比を高める観点からは望ましくない場合がある。しかしながら、本発明では、上記の研磨促進剤は、研磨対象物である窒化チタンに対して、研磨促進剤の電離したカルボキシ基(COO-基))または電離したヒドロキシ基(O-基)によって配位し、Ti-N結合またはTi-O結合を脆化させるように作用して、窒化チタンの研磨を促進する。このことから、本発明に係る研磨用組成物は、電気伝導度の高低に関わらず、窒化チタンを含む研磨対象物の研磨速度を顕著に向上させることができる。
【0015】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
【0016】
以下、研磨用組成物に含まれうる各成分や研磨対象物等について説明する。
【0017】
(研磨対象物)
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物は、窒化チタン(TiN)を含む研磨対象物を研磨するために用いられる。研磨対象物は、研磨対象となる面が窒化チタンを含むものであれば特に制限されず、CMP分野で用いられる公知の研磨対象物に適用することができる。このため、研磨対象物の態様としては、特に制限されないが、平板状部材である層が好ましく、当該層を含む基板がより好ましく、半導体基板がさらに好ましい。例えば、単一層から構成される基板や、研磨対象となる層と、他の層(例えば、支持層や他の機能層)とを含む基板等が挙げられる。
【0018】
また、研磨対象物は、研磨対象となる面が、窒化チタンに加えて、ケイ素含有材料や、金属等の他の材料を含む構成部分をさらに含む研磨対象物であってもよい。ケイ素含有材料としては、特に制限されないが、例えば、ケイ素-酸素結合を有する材料(例えば、酸化ケイ素等)、ケイ素-ケイ素結合を有する材料(例えば、ポリシリコン等)、ケイ素-窒素結合を有する材料(例えば、窒化ケイ素等)等が挙げられる。また、金属としては、特に制限されないが、例えば、銅、アルミニウム、ハフニウム、コバルト、ニッケル、チタン、タングステン、およびこれらの合金等が挙げられる。研磨対象物としては、例えば、窒化チタン単独で構成される膜(窒化チタン膜)等が挙げられる。
【0019】
(研磨促進剤)
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物は、研磨促進剤を含む。研磨促進剤は、芳香族複素環と、当該芳香族複素環に直接結合するOH基またはその塩の基とを含む化合物、または、芳香族炭化水素環と、当該芳香族炭化水素環に直接結合するOH基またはその塩の基と、当該芳香族炭化水素環に直接結合するCOOH基またはその塩の基とを含む化合物である。研磨促進剤は、前述のように、研磨対象物である窒化チタンに対して、研磨促進剤の電離したカルボキシ基(COO-基)または電離したヒドロキシ基(O-基)によって配位し、Ti-N結合またはTi-O結合を脆化させるように作用することで、窒化チタンを含む研磨対象物の研磨速度を顕著に向上させるよう作用する。
【0020】
ここで、芳香族複素環とは、環形成原子として1個以上のヘテロ原子(例えば、窒素原子(N)、酸素原子(O)、リン原子(P)、硫黄原子(S))を有し、残りの環形成原子が炭素原子(C)である、芳香族環を表す。芳香族複素環は、特に制限されないが、単環の芳香族複素環であることが好ましい。また、ヘテロ原子の数は、特に制限されないが、1個以上3個以下であることが好ましい。単環であり、ヘテロ原子の数が1個以上3個以下である芳香族複素環としては、特に制限されないが、例えば、フラン環、ピロール環、チオフェン環、イミダゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、1,2,3-トリアジン環、1,2,4-トリアジン環、1,3,5-トリアジン環等が挙げられる。なお、ヘテロ原子の種類は、特に制限されないが、Nであることが好ましい。
【0021】
芳香族複素環と、当該芳香族複素環に直接結合するOH基またはその塩の基とを含む化合物としては、窒化チタンを含む研磨対象物の研磨速度向上の観点から、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0022】
【0023】
上記一般式(1)において、各Zは、それぞれ独立して、CR1またはNであり、
この際、1個以上3個以下のZはNであり、
各R1は、それぞれ独立して、水素原子、OH基またはその塩の基およびCOOH基またはその塩の基からなる群より選択され、
この際、少なくとも1個のR1はOH基またはその塩の基である。
【0024】
上記一般式(1)において、1個のZがNであり、5個のZがCR1である化合物が好ましい。また、1個のZがNであり、5個のZがCR1であるとき、5個のR1のうち1個または2個のR1がOH基またはその塩の基であることが好ましく、5個のR1のうち1個のR1がOH基またはその塩の基であることがより好ましい。そして、1個のZがNであり、5個のZがCR1であるとき、5個のR1のうち、すべてのR1がCOOH基またはその塩の基ではない(化合物としてCOOH基またはその塩の基を有さない)か、または1個のR1がCOOH基またはその塩の基であることが好ましく、5個のR1のうち1個のR1がCOOH基またはその塩の基であることがより好ましい。
【0025】
また、芳香族炭化水素環とは、環形成元素が炭素原子のみからなる芳香族環を表す。芳香族炭化水素環は、特に制限されないが、環形成炭素原子数が6以上14以下の芳香族炭化水素環であることがより好ましい。環形成炭素原子数が6以上14以下の芳香族炭化水素環としては、特に制限されないが、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナレン環、フェナントレン環等が挙げられる。これらの中でも、窒化チタンを含む研磨対象物の研磨速度をより向上させるとの観点から、ベンゼン環であることが好ましい。
【0026】
芳香族炭化水素環と、当該芳香族炭化水素環に直接結合するOH基またはその塩の基と、当該芳香族炭化水素環に直接結合するCOOH基またはその塩の基とを含む化合物としては、窒化チタンを含む研磨対象物の研磨速度向上の観点から、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0027】
【0028】
上記一般式(2)において、各R2は、それぞれ独立して、水素原子、OH基またはその塩の基およびCOOH基またはその塩の基からなる群より選択され、
この際、少なくとも1個のR2はOH基またはその塩の基であり、少なくとも1個のR2はCOOH基またはその塩の基である。
【0029】
上記一般式(2)において、6個のR2のうち1個のR2がOH基またはその塩の基であることが好ましい。また、6個のR2のうち1個のR2がCOOH基またはその塩の基であることが好ましい。
【0030】
なお、研磨用促進剤において、芳香族複素環や、芳香族炭化水素環に直接結合するCOOH基またはその塩の基は、研磨用組成物中において、電離したカルボキシ基(COO-基)の状態で存在することが好ましい。また、芳香族複素環や、芳香族炭化水素環に直接結合するOH基またはその塩の基は、研磨用組成物中において、電離したヒドロキシル基(O-基)の状態で存在することが特に好ましい。
【0031】
このように、研磨促進剤の好ましい一例は、上記一般式(1)または上記一般式(2)で表される化合物である。これらの中でも、上記一般式(1)で表され、かつ、1個のZがNであり、5個のZがCR1であり、5個のR1のうち1個または2個のR1がOH基またはその塩の基であり、5個のR1のうち1個のR1がCOOH基もしくはその塩の基または水素原子であり、5個のR1のうち残りのR1が水素原子である化合物がより好ましい。また、上記一般式(2)で表され、かつ、6個のR2のうち1個のR2がOH基またはその塩の基であり、6個のR2のうち1個のR2がCOOH基またはその塩の基であり、6個のR2のうち4個のR2が水素原子である化合物がより好ましい。そして、上記一般式(1)で表され、かつ、1個のZがNであり、5個のZがCR1であり、5個のR1のうち2個のR1がOH基またはその塩の基であり、5個のR1のうち1個のR1がCOOH基もしくはその塩の基または水素原子であり、5個のR1のうち2個のR1が水素原子である化合物がさらに好ましい。
【0032】
上記一般式(1)で表される化合物において、N原子と、OH基またはその塩の基との位置関係としては、環形成原子であるN原子に隣接する(N原子のオルト位の)環形成原子である炭素原子に、OH基またはその塩の基が直接結合することが好ましい。また、環形成原子であるN原子に1つおいて隣り合う炭素原子(環形成原子であるN原子と隣接する環形成原子である炭素原子に対して、さらに隣接する環形成原子である炭素原子)にOH基またはその塩の基が直接結合することが好ましい。
【0033】
上記一般式(1)で表され、かつ、少なくとも1個のR1がCOOH基またはその塩の基である化合物において、OH基またはその塩の基と、COOH基またはその塩の基との位置関係としては、これらの基がそれぞれ隣接する環形成原子に直接結合していることが好ましい。また、上記一般式(1)で表され、かつ、少なくとも1個のR1がCOOH基またはその塩の基である化合物において、OH基またはその塩の基と、COOH基またはその塩の基との位置関係としては、OH基が直接結合する環形成原子に1つおいて隣り合う環形成原子(OH基が直接結合する環形成原子に隣接する環形成原子に対して、さらに隣接する環形成原子)にCOOH基またはその塩の基が直接結合することが好ましい。また、上記一般式(2)で表される化合物については、OH基またはその塩の基と、COOH基またはその塩の基との位置関係とがそれぞれ隣接する環形成原子に直接結合していることが好ましい。これらの中でも、上記一般式(1)で表され、かつ、少なくとも1個のR1がCOOH基またはその塩の基である化合物において、OH基が直接結合する環形成原子に1つおいて隣り合う環形成原子(環形成原子と隣接する環形成原子に対して、さらに隣接する環形成原子)にCOOH基またはその塩の基が直接結合することがより好ましい。
【0034】
なお、研磨促進剤が有するOH基またはその塩の基としては、特に制限されないが、OH基であることが好ましい。また、研磨促進剤が有するCOOH基またはその塩の基としては、COOH基であることが好ましい。
【0035】
研磨促進剤の具体例としては、特に制限されないが、窒化チタンを含む研磨対象物の研磨速度向上効果の観点から、1-ヒドロキシピリジン、2-ヒドロキシピリジン、3-ヒドロキシピリジン、2-ヒドロキシニコチン酸、4-ヒドロキシニコチン酸、5-ヒドロキシニコチン酸、6-ヒドロキシニコチン酸、2-ヒドロキシイソニコチン酸、3-ヒドロキシイソニコチン酸、3-ヒドロキシピコリン酸、4-ヒドロキシピコリン酸、5-ヒドロキシピコリン酸、6-ヒドロキシピコリン酸、サリチル酸、3-ヒドロキシ安息香酸、4-ヒドロキシ安息香酸、シトラジン酸、2,3-ジヒドロキシイソニコチン酸、2,5-ジヒドロキシイソニコチン酸、3,5-ジヒドロキシイソニコチン酸であることが好ましい。これらの中でも、3-ヒドロキシピリジン、2-ヒドロキシニコチン酸、2-ヒドロキシイソニコチン酸、シトラジン酸、サリチル酸であることがより好ましく、3-ヒドロキシピリジン、2-ヒドロキシイソニコチン酸、シトラジン酸、サリチル酸であることがさらに好ましく、3-ヒドロキシピリジン、2-ヒドロキシイソニコチン酸、シトラジン酸であることがよりさらに好ましく、シトラジン酸であることが特に好ましい。なお、2-ヒドロキシニコチン酸、4-ヒドロキシニコチン酸、5-ヒドロキシニコチン酸、6-ヒドロキシニコチン酸、2-ヒドロキシイソニコチン酸、3-ヒドロキシイソニコチン酸、3-ヒドロキシピコリン酸、4-ヒドロキシピコリン酸、5-ヒドロキシピコリン酸、6-ヒドロキシピコリン酸、サリチル酸、3-ヒドロキシ安息香酸、4-ヒドロキシ安息香酸、シトラジン酸、2,3-ジヒドロキシイソニコチン酸、2,5-ジヒドロキシイソニコチン酸、3,5-ジヒドロキシイソニコチン酸については、OH基が塩の基となっている塩化合物や、COOH基が塩の基となっている塩化合物も好ましい。
【0036】
研磨促進剤の添加量(濃度)は、特に制限されないが、研磨用組成物の総体積に対して、0.01mmol/L以上であることが好ましく、0.1mmol/L以上であることがより好ましく、1mmol/L以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、窒化チタンを含む研磨対象物の研磨速度がより向上する。また、研磨促進剤の添加量(濃度)は、特に制限されないが、研磨用組成物の総体積に対して、100mmol/L以下であることが好ましく、50mmol/L以下であることがより好ましく、30mmol/L以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、研磨促進剤がより効果的に作用する。この理由は、電気伝導度が過剰に上昇することなく、砥粒の分散性がより向上するからであると推測される。
【0037】
(砥粒)
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物は、砥粒としてシリカ粒子を含む。砥粒は、研磨対象物を機械的に研磨することで、研磨速度を向上させるよう作用する。
【0038】
シリカ粒子としては、特に制限されないが、分散安定性や、欠陥性能の観点から、ヒュームドシリカまたはコロイダルシリカが好ましく、コロイダルシリカがより好ましい。コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法が挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、好適に用いられる。しかしながら、金属不純物低減の観点から、ゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。ゾルゲル法によって製造されたコロイダルシリカは、半導体中で拡散する性質を有する金属不純物や塩化物イオン等の腐食性イオンの含有量が少ないため好ましい。ゾルゲル法によるコロイダルシリカの製造は、従来公知の手法を用いて行うことができ、具体的には、加水分解可能なケイ素化合物(例えば、アルコキシシランまたはその誘導体)を原料とし、加水分解・縮合反応を行うことにより、コロイダルシリカを得ることができる。
【0039】
また、シリカ粒子は、表面が未修飾であっても、表面修飾されていてもよい。好ましいシリカ粒子の一例としては、例えば、表面が未修飾であるコロイダルシリカが挙げられる。
【0040】
シリカ粒子の形状は、特に制限されず、球形状であってもよいし、非球形状であってもよい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱等の多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、中央部にくびれを有するいわゆる繭型形状、複数の粒子が一体化しているいわゆる会合型球形状、表面に複数の突起を有するいわゆる金平糖形状、ラグビーボール形状等、種々の形状が挙げられ、特に制限されない。
【0041】
シリカ粒子の平均一次粒子径は、特に制限されないが、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましく、25nm以上であることが特に好ましい。この範囲であると、窒化チタンを含む研磨対象物の研磨速度が向上する。また、シリカ粒子の平均一次粒子径は、特に制限されないが、120nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、窒化チタンを含む研磨対象物の研磨面の欠陥発生頻度をより低下することができる。また、窒化チタンを含む研磨対象物の研磨効率が向上する。なお、シリカ粒子の平均一次粒子径の値は、BET法で測定されるシリカ粒子の比表面積(BET比表面積)に基づいて、シリカ粒子の形状が真球であると仮定して算出することができる。より詳細には、シリカ粒子の平均一次粒子径は、マイクロメリティックス社製の“Flow Sorb II 2300”を用いて測定されたBET法によるシリカ粒子の比表面積と、シリカ粒子の密度とから算出することができる。
【0042】
シリカ粒子の平均二次粒子径は、特に制限されないが、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがさらに好ましく、50nm以上であることが特に好ましい。この範囲であると、窒化チタンを含む研磨対象物の研磨速度が向上する。また、シリカ粒子の平均二次粒子径は、特に制限されないが、250nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることが特に好ましい。この範囲であると、窒化チタンを含む研磨対象物の研磨面の欠陥発生頻度をより低下することができる。また、窒化チタンを含む研磨対象物の研磨効率が向上する。なお、シリカ粒子の平均二次粒子径の値は、例えば、日機装株式会社製 動的光散乱式粒子径・粒度分布装置 UPA-UTI151を用いて、レーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により算出することができる。
【0043】
シリカ粒子の大きさ(平均一次粒子径、平均二次粒子径)は、シリカ粒子の製造方法の選択等により適切に制御することができる。
【0044】
なお、シリカ粒子は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0045】
シリカ粒子の添加量(濃度)は、特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、シリカ粒子と、研磨対象物との接触頻度が高まり、研磨対象物の研磨速度がより向上する。また、シリカ粒子の添加量(濃度)は、特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、コスト削減に繋がり、また、シリカ粒子の凝集が抑制され、研磨対象物の研磨速度がより向上する。
【0046】
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物は、シリカ粒子に加えて、他の砥粒を含んでいてもよい。他の砥粒は、シリカ粒子以外の無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれであってもよい。シリカ粒子以外の無機粒子としては、例えば、アルミナ粒子、セリア粒子、チタニア粒子等の金属酸化物からなる粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。
【0047】
ただし、本発明の一実施形態に係る研磨用組成物は、他の砥粒の添加量(濃度)はできる限り少ないことが好ましく、他の砥粒を実質的に含有しないことが特に好ましい。なお、本明細書において、「他の砥粒を実質的に含有しない」とは、研磨用組成物の総質量に対して、他の砥粒の添加量(濃度)が0.001質量%未満である場合をいう。
【0048】
(酸化剤)
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物は、酸化剤をさらに含むことが好ましい。酸化剤は、研磨対象物の表面を酸化することで、研磨対象物の研磨速度を向上させたり、または研磨後の研磨対象物の表面品質を向上させたりする等、研磨特性を向上させるよう作用する。
【0049】
酸化剤としては、特に制限されないが、例えば、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、オゾン水、銀(II)塩、鉄(III)塩、過マンガン酸、クロム酸、重クロム酸、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過硫酸、ジクロロイソシアヌル酸およびそれらの塩等が挙げられる。これらの中でも、取り扱い性および安全性の観点から、過酸化水素が好ましい。なお、酸化剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0050】
酸化剤の添加量(濃度)は、特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、窒化チタンの酸化反応がより十分に進み、窒化チタンを含む研磨対象物の研磨速度が向上する。また、酸化剤の添加量(濃度)は、特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。この範囲であると、酸化剤の添加による砥粒濃度の低下の影響がより小さく、窒化チタンを含む研磨対象物の研磨速度をより良好に維持することができる。
【0051】
(pH調整剤)
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物は、pH調整剤をさらに含むことが好ましい。pH調整剤は、研磨用組成物のpHを適切な範囲へと調整することで、研磨対象となる面に対する化学的研磨効果の向上により研磨速度を向上させたり、または研磨用組成物の分散安定性を向上させたりするよう作用する。
【0052】
pH調整剤は、pH調整機能を有する化合物であれば特に制限されず、例えば、酸、または塩基性化合物を使用することができる。ここで塩基性化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって研磨用組成物のpHを上昇させる機能を有する化合物を表す。
【0053】
酸としては、無機酸または有機酸のいずれを用いてもよい。無機酸としては、特に制限されないが、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸等が挙げられる。有機酸としては、特に制限されないが、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸および乳酸などのカルボン酸が挙げられる。
【0054】
塩基性化合物としては、特に制限されないが、例えば、アルカリ金属または第2族元素の水酸化物、アンモニア等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)等が挙げられる。第2族元素の水酸化物の具体例としては、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)等が挙げられる。
【0055】
これらの中でも、後述する最適なpH値の範囲への調整の観点から、塩基性化合物が好ましい。また、アルカリ金属または第2族元素の水酸化物、アンモニアがより好ましく、アルカリ金属または第2族元素の水酸化物がさらに好ましく、アルカリ金属の水酸化物がよりさらに好ましい。そして、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが特に好ましく、水酸化カリウムが最も好ましい。
【0056】
なお、pH調整剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0057】
pH調整剤の添加量(濃度)は、所望の研磨用組成物のpH値となるような量を適宜選択すればよく、後述する研磨用組成物の好ましいpH値となるような量を添加することが好ましい。
【0058】
(pH)
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物のpHは、特に制限されない。ただし、pHの下限値は、1以上であることが好ましい。この範囲であると、研磨装置や接触する研磨パッドなどの消耗部材を劣化させる可能性がより低下する。さらに、pHの下限値は、7を超えることがより好ましく、8以上であることがさらに好ましく、9以上であることがよりさらに好ましく、9.5以上であることが特に好ましい。この範囲であると、窒化チタンを含む研磨対象物の研磨速度がより向上する。この理由は、上記範囲のアルカリ条件では、研磨促進剤中のカルボキシ基またはヒドロキシ基が酸性条件よりも電離しやすくなり、研磨促進剤の窒化チタンへの配位もより容易となるからであると推測される。また、pHの上限値は、12以下であることが好ましく、11以下であることがより好ましい。この範囲であると、腐食がより生じ難くなり、窒化チタン以外の材料としてより多様な材料を含む研磨対象物への適用が可能となる。また、安全性がより向上し、取り扱いがより容易となり、研磨用組成物の安定性もより向上する。なお、研磨用組成物のpH値は、pHメータ(株式会社堀場製作所製製品名:LAQUA(登録商標))により評価することができる。
【0059】
(電気伝導度調整剤)
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物は、電気伝導度調整剤をさらに含むことが好ましい。電気伝導度調整剤は、研磨用組成物の電気伝導度を適切な範囲へと調整することで、研磨促進剤の効果を相乗的に高めたり、または研磨用組成物の分散安定性を向上させるよう作用する。この理由は、詳細は不明であるが、電気伝導度調整剤の添加によって電気伝導度が上昇することで、酸化剤によるチタン元素の酸化速度または酸化の程度が上昇し、脆化膜(酸化膜)の形成が進みやすくなるからであると推測される。
【0060】
電気伝導度調整剤としては、電気伝導度調整機能を有する化合物であれば特に制限されず、例えば、塩化合物を使用することができる。
【0061】
塩化合物としては、例えば、酸の塩、塩基性化合物の塩等が挙げられる。これらの中でも、酸の塩であることが好ましい。酸の塩としては、有機酸塩であっても、無機酸塩であってもよいが、無機酸塩であることがより好ましい。無機酸塩としては、特に制限されないが、例えば、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム等の硝酸塩、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム等のリン酸塩、硫酸アンモニウム等の硫酸塩などが挙げられる。これらの中でも、硫酸塩であることがさらに好ましく、硫酸アンモニウムであることが特に好ましい。なお、塩化合物としては、前述のように塩基性化合物の塩であってもよく、塩基性化合物の塩としては、特に制限されないが、例えば、塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、クエン酸アンモニウム等が挙げられる。塩化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
電気伝導度調整剤の添加量(濃度)は、所望の研磨用組成物の電気伝導度となるような量を適宜選択すればよく、後述する研磨用組成物の好ましい電気伝導度の値となるような量を添加することが好ましい。
【0063】
(電気伝導度)
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物の電気伝導度(EC)は、特に制限されない。ただし、電気伝導度の下限値は、0.1mS/cm以上であることが好ましく、0.5mS/cm以上であることがより好ましく、1mS/cm以上であることがさらに好ましい。この範囲であると、窒化チタン膜の研磨速度が向上する。この理由は、電気伝導度が上昇することで、酸化剤によるチタン元素の酸化速度または酸化の程度が上昇し、脆化膜(酸化膜)の形成が進みやすくなるからであると推測される。また、電気伝導度の上限値は、10mS/cm未満であることが好ましい。この範囲であると、研磨用組成物の分散安定性がより向上する。また、電気伝導度の上限値は、7mS/cm未満であることがより好ましく、6mS/cm以下であることがさらに好ましく、5mS/cm以下であることが特に好ましい。この範囲であると、砥粒の分散安定性を良好に維持しつつ、窒化チタン膜の研磨速度を向上することができる。この理由は、電気伝導度が過剰に高くなることがなく、砥粒の電気二重層が過度に圧縮されることもないため、砥粒同士の反発力の低下に起因する砥粒の凝集が抑制されるからであると推測される。これらの観点から、電気伝導度の好ましい範囲の一例としては、1mS/cm以上6mS/cm以下の範囲が挙げられる。なお、研磨用組成物の電気伝導度は、卓上型電気伝導度計(株式会社堀場製作所製、型番:DS-71)により評価することができる。
【0064】
なお、電気伝導度は、例えば、酸、塩基性化合物またはこれらの塩化合物の添加量の増加によって向上させることができる。具体的には、電気伝導度調整剤以外の各成分の添加量によって制御してもよく、電気伝導度調整剤をさらに添加することで制御してもよい。
【0065】
(分散媒)
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物は、分散媒(溶媒)をさらに含むことが好ましい。分散媒は、各成分を分散または溶解させるよう作用する。
【0066】
分散媒としては、特に制限されないが、水を含むことが好ましい。分散媒中の水の含有量は、特に制限されないが、分散媒の総質量に対して50質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、水のみであることがさらに好ましい。水は、洗浄対象物の汚染や他の成分の作用を阻害することを防止するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0067】
また、分散媒は、各成分の分散性または溶解性を向上させることができる場合、有機溶媒であってもよく、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。有機溶媒としては、特に制限されず、公知の有機溶媒を用いることができる。水と有機溶媒との混合溶媒とする場合は、水と混和する有機溶媒であることが好ましい。有機溶媒を用いる場合は、水と有機溶媒とを混合し混合溶媒を作製した後、混合溶媒に各成分を添加し混合してもよいし、有機溶媒に各成分を分散または溶解させた後に、水と混合してもよい。なお、有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0068】
(他の成分)
本発明の一実施形態に係る研磨用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分は、特に制限されないが、例えば、濡れ剤、界面活性剤、キレート剤、防腐剤、防カビ剤、溶存ガス、還元剤等をはじめとする、公知の研磨用組成物に用いられる各種成分から適宜選択されうる。
【0069】
<研磨用組成物の製造方法>
本発明の他の一形態は、シリカ粒子と、研磨促進剤とを混合することを含み、前記研磨促進剤は、芳香族複素環と、前記芳香族複素環に直接結合するOH基またはその塩の基とを含む化合物、または、芳香族炭化水素環と、前記芳香族炭化水素環に直接結合するOH基またはその塩の基と、前記芳香族炭化水素環に直接結合するCOOH基またはその塩の基とを含む化合物である、窒化チタンを含む研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物の製造方法に関する。
【0070】
各成分を混合する際の混合方法は特に制限されず、公知の方法を適宜用いることができる。また混合温度は特に制限されないが、一般的には10~40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0071】
なお、研磨用組成物の製造方法における、各成分の好ましい態様(種類、特性、構造、添加量等)は、上記研磨用組成物についての各成分の説明と同様である。また、製造される研磨用組成物の好ましい特性をはじめとする種々の特徴についても、上記研磨用組成物についての説明と同様である。
【0072】
<研磨方法>
本発明の他の一形態は、上記の研磨用組成物を用いて、または、上記の製造方法によって研磨用組成物を製造し、当該製造された研磨用組成物を用いて、窒化チタンを含む研磨対象物を研磨する、研磨方法に関する。
【0073】
研磨方法において研磨される研磨対象物は、上記研磨用組成物についての説明と同様である。
【0074】
研磨装置、研磨条件としては、特に制限されず、公知の装置、条件を適宜用いることができる。
【0075】
研磨装置は、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0076】
研磨条件は、特に制限されず、研磨用組成物および研磨対象物の特性に応じて適切な条件を適宜設定することができる。研磨荷重(研磨圧力、加工圧力)については、特に制限されないが、一般的には、単位面積当たり0.1psi以上10psi以下であることが好ましく、0.5psi以上8psi以下であることがより好ましく、1psi以上6psi以下であることがさらに好ましい。この範囲であれば、高い研磨速度を得つつ、荷重による基板の破損や、表面に傷などの欠陥が発生することをより抑制することができる。定盤回転数およびキャリア回転数は、特に制限されないが、一般的には、それぞれ、10rpm以上500rpm以下であることが好ましく、20rpm以上300rpm以下であることがより好ましく、30rpm以上200rpm以下であることがさらに好ましい。研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)を採用してもよい。研磨用組成物の供給量(研磨用組成物の流量)は、研磨対象物全体が覆われる供給量であればよく、特に制限されないが、一般的には、100mL/min以上5000mL/min以下であることが好ましい。研磨時間は、目的とする研磨結果が得られるよう適宜設定すればよく特に制限されないが、一般的には、5秒間以上180秒間以下であることが好ましい。また、研磨は、In-situ ドレッシングを用いて行うことが好ましい。ここで、In-situ ドレッシングとは、研磨するとともにパッドの目立て(ドレッシング)を行う技術を表す。In-situ ドレッシングによれば、研磨時間に対する研磨速度の均一性をより向上させ、研磨の制御性をより向上させることができる。In-situ ドレッシング部材としては、ダイヤモンドドレッサー等のコンディショナーを用いることが好ましい。
【0077】
研磨終了後の研磨済研磨対象物は、水による洗浄後に、スピンドライヤやエアブロー等により表面に付着した水滴を払い落とすことによって、表面を乾燥させてもよい。
【0078】
<半導体基板の製造方法>
本発明の他の一形態は、上記の研磨方法によって、窒化チタンを含む研磨対象物を研磨する工程(研磨工程)を含む、半導体基板の製造方法に関する。すなわち、当該形態は、窒化チタンを含む研磨対象物である半導体基板の形成に用いられる基板材料に対して、上記の研磨用組成物を用いて、または、上記の製造方法によって研磨用組成物を製造し、当該製造された研磨用組成物を用いて研磨することを含む、半導体基板の製造方法である。
【0079】
なお、当該製造方法において、その他の工程については、公知の半導体基板の製造方法に採用されうる工程を適宜採用することができる。
【実施例】
【0080】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。
【0081】
<研磨用組成物の調製>
(研磨用組成物1)
分散媒としての純水に、砥粒(コロイダルシリカ(未修飾);平均一次粒子径:35nm、平均二次粒子径:66.1nm)と、酸化剤としての過酸化水素(H2O2)と、研磨促進剤としての2-ヒドロキシニコチン酸と、電気伝導度調整剤としての硫酸アンモニウムと、pH調整剤としてのKOHと、をそれぞれ加えることで、研磨用組成物1を調製した。
【0082】
ここで、砥粒の添加量は、調製される研磨用組成物の総質量に対して2質量%とした。酸化剤としての過酸化水素の添加量は、調製される研磨用組成物の総質量に対して0.12質量%とした。ここで、過酸化水素の添加は、31質量%濃度の過酸化水素水溶液を用いて、この中に含まれる過酸化水素が上記添加量となる量を添加した。研磨促進剤としての2-ヒドロキシニコチン酸の添加量は、調製される研磨用組成物の総体積に対して10mmol/Lとした。pH調整剤としてのKOHの添加量は、調製される研磨用組成物のpHが10.0となる量とした。電気伝導度調整剤としての硫酸アンモニウムの添加量は、調製される研磨用組成物の電気伝導度が5.0mS/cmとなるような量とした。
【0083】
また、上記で調製された研磨用組成物1のpHを測定した。研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメータ(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA(登録商標))により測定した。
【0084】
さらに、上記の研磨用組成物の調製において、電気伝導度調整剤を添加しなかった以外は同様にして調製した研磨用組成物(電気伝導度調整剤未添加の研磨用組成物)の電気伝導度を測定した。また、上記で調製された研磨用組成物1(電気伝導度調整剤添加後の研磨用組成物)の電気伝導度(EC)を測定した。電気伝導度調整剤の添加前後の研磨用組成物(液温:25℃)の電気伝導度は、卓上型電気伝導度計(株式会社堀場製作所製 型番:DS-71)により測定した。
【0085】
(研磨用組成物2~7)
各成分の種類および添加量(濃度)を下記表1に示すように変更した以外は研磨用組成物1と同様に操作して、各研磨用組成物を調製した。
【0086】
<研磨方法>
(研磨装置および研磨条件)
上記で調製した各研磨用組成物を使用して、研磨対象物の表面を下記の装置および条件で研磨した。研磨対象物としては、基板表面に形成した厚さ2500ÅのTiN膜(窒化チタン膜)であるTiNブランケットウェハを使用した:
〔研磨装置および研磨条件〕
研磨装置:EJ-380IN-CH(日本エンギス株式会社製)
研磨パッド:IC1010(ニッタ・ハース株式会社製)
研磨圧力(加工圧力):2.25psi
研磨定盤の回転速度:60rpm
研磨用組成物の供給量:100mL/min
研磨時間:30sec
コンディショナー(In-situ ドレッシング部材):ダイヤモンドドレッサー(SDT-100、株式会社ノリタケカンパニーリミテド製)。
【0087】
<評価>
(研磨速度の測定)
各研磨用組成物を用いて上記の研磨対象物を研磨し、TiN膜の研磨速度(Å/min)を測定した。TiN膜の研磨速度は、直流4探針法を原理とするシート抵抗測定器を用いて測定される研磨前後のTiNブランケットウェハ(30mm×30mm)の厚み(Å)の差を、研磨時間(min)で除することにより求めた。評価結果を下記表1に示す。
【0088】
【0089】
上記表1の結果より、本発明の研磨促進剤を含む実施例に係る研磨用組成物1~5は、TiN膜の研磨速度が顕著に高いことが確認された。
【0090】
一方、研磨促進剤を含まない比較例に係る研磨用組成物6や、本発明の研磨促進剤とは異なる構造の比較用化合物を含む比較例に係る研磨用組成物7は、実施例に係る研磨用組成物1~5と比較して、TiN膜の研磨速度に劣ることが確認された。