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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】ペースト状組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/142 20060101AFI20241023BHJP
   C01B 33/16 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
C01B33/142
C01B33/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021014785
(22)【出願日】2021-02-02
(65)【公開番号】P2022118345
(43)【公開日】2022-08-15
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】三道 光喜
(72)【発明者】
【氏名】福寿 忠弘
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-167308(JP,A)
【文献】特開2002-322405(JP,A)
【文献】特表2013-543909(JP,A)
【文献】特開2019-043830(JP,A)
【文献】特開2002-088140(JP,A)
【文献】特開平10-095711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状シリカと水とを含むペースト状組成物であって、
球状シリカ100質量部に対して、水を300~1900質量部の範囲で含んでおり、かつ、
下記条件にて水を除去した後に得られる回収乾燥シリカが、M値が25以上の疎水性シリカである前記ペースト状組成物。
(水除去条件)
残存物中の水分量が1質量%以下となるまで、ペースト状組成物を、温度が60℃以上150℃以下で、かつゲージ圧力が-100kPaG以上-20kPaG以下である雰囲気下におき、水分を揮発させる。
【請求項2】
前記球状シリカが、コールターカウンター法で測定した体積基準での累積50%径が1~30μmの範囲にある請求項1記載のペースト状組成物。
【請求項3】
前記回収乾燥シリカが、BET法による比表面積が400~1000m/gの範囲にある請求項1又は2記載のペースト状組成物。
【請求項4】
塩化物イオンの含有量が1ppm以下である請求項1乃至3いずれか1項記載のペースト状組成物。
【請求項5】
シリカを含む水性塗料の製造方法において、シリカの配合を、請求項1乃至4いずれか1項記載のペースト状組成物の配合として行う水性塗料の製造方法。
【請求項6】
シリカを含む水性化粧品の製造方法において、シリカの配合を、請求項1乃至4いずれか1項記載のペースト状組成物の配合として行う水性塗化粧品の製造方法。
【請求項7】
水性シリカゾルを水相とするW/Oエマルションを形成する工程、
前記シリカゾルをゲル化させてシリカゲルとする工程、
シリカゲルが分散した水相と、有機相とに分相させる工程、
有機相を除去する工程、
シリカゲルが分散した水相に疎水化剤を添加する工程、及び、
水の一部を除去して、ペースト状とする工程
を含んでなる、疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なペースト状組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲル化体に含まれる液体の乾燥を、乾燥によって生じる収縮(乾燥収縮)を抑制しながら行ったものはエアロゲルと呼ばれ、空隙率60%以上の高い空隙率を有する材料であり、その特性を利用して各種用途に用いられる。
【0003】
例えば、シリカを骨格としたシリカエアロゲルの製法としては、アルコキシシランの加水分解生成物を重縮合させて得られるヒドロゲル、或いは、ケイ酸アルカリ金属塩を中和して形成されるゾルをゲル化して得られるヒドロゲルを、分散媒の超臨界条件下で乾燥を行うような、収縮(乾燥収縮)を抑制しながら乾燥する方法が知られている(特許文献1~4参照)。
【0004】
このようにして得られる金属酸化物エアロゲルの用途は様々であるが、その一つとして化粧料材料としての用途がある(特許文献5参照)。例えば、ファンデーションの材料として、粉体の状態で使用される。この用途において、高い吸油量を有するエアロゲルは、テカリの原因となる皮脂を大量に吸収できるため、化粧仕上がり時の外観を長時間にわたって持続させることができることが記載されている。
【0005】
また、疎水化金属酸化物エアロゲル粉体の細孔中に、機能性成分を担持する方法も知られている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第4402927号公報
【文献】特開平10-236817号公報
【文献】特開平06-040714号公報
【文献】特開平07-257918号公報
【文献】特開2014-88307号公報
【文献】特開2019-167308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、これらに記載される方法で得られる疎水化金属酸化物エアロゲル粉体は疎水性となる。そのため、水あるいは水を主成分とする媒体には分散しにくいという問題があった。さらに、粉体であることから、用途が絞られてしまうなど改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、疎水性シリカエアロゲルに水を含ませ、形状をペースト状組成物とすることで、液体に容易に分散させることを可能とした。
【0009】
即ち、本発明は、球状シリカと水とを含むペースト状組成物であって、球状シリカ100質量部に対して、水を300~1900質量部の範囲で含んでおり、かつ、
下記条件にて水を除去した後に得られる回収乾燥シリカが、M値が25以上の疎水性シリカである前記ペースト状組成物である。
(水除去条件)
残存物中の水分量が1質量%以下となるまで、ペースト状組成物を、温度が60℃以上150℃以下で、かつゲージ圧力が-100kPaG以上-20kPaG以下である雰囲気下におき、水分を揮発させる。
【0010】
本発明は、さらに上記のようなペースト状組成物の製造を容易とする、疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物の製造方法をも提供する。即ち、
水性シリカゾルを水相とするW/Oエマルションを形成する工程、
前記シリカゾルをゲル化させてシリカゲルとする工程、
シリカゲルが分散した水相と、有機相とに分相させる工程、
有機相を除去する工程、
シリカゲルが分散した水相に疎水化剤を添加する工程、及び、
水の一部を除去して、ペースト状とする工程
を含んでなる、疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のペースト状組成物は、疎水性シリカを、各種水性媒体に容易に分散させることが可能という従来に無い機能を発現する。
【0012】
そのため、例えば、液体化粧品や水性塗料に、従来であれば困難であった疎水性シリカを容易に分散させることを可能とした。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のペースト状組成物は、水と球状シリカを含んでなる。ここでいうシリカとは二酸化ケイ素のことであって、二酸化ケイ素で構成されている物質の総称を指し、化学組成はSiOで表される。
【0014】
本発明のペースト状組成物における球状シリカと水の割合は、球状シリカ100質量部に対して、水が300~1900質量部の範囲であり、好ましくは、400~1000質量部の範囲である。水を500~800質量部含んでいることが特に好ましい。なお、ペースト状組成物に含まれる水の量が多いということは、ペースト状組成物に含まれるシリカの空隙が大きいことを意味している。
【0015】
本発明のペースト状組成物に含まれる球状シリカは、下記条件にて水を除去した後に得られるシリカが、M値が25以上の疎水性を示すものである。
【0016】
(水除去条件)
残存物中の水分量が1質量%以下となるまで、ペースト状組成物を、温度が60℃以上150℃以下で、かつゲージ圧力が-100kPaG以上-20kPaG以下である雰囲気下におき、水分を揮発させる。
【0017】
上記M値とは、乾燥したシリカの疎水性(親油性)を示す指標であり、水-メタノール混合溶媒を用いた場合、シリカを完全に分散させるのに最小限必要なメタノールの体積分率である。100%の水に分散可能であればM値は0であり、それでは分散しないが、メタノールの割合を25体積%まで増やして初めて分散するような場合だと、M値が25となる。
【0018】
本発明における上記回収乾燥シリカのM値は30~55であることが好ましく、35~55であることがより好ましく、40~55であることが特に好ましい。
【0019】
上記乾燥条件における上限温度150℃は、シリカに結合する有機基の分解等が起き、乾燥によってM値が変化してしまうような状況が生じないように設定されている。下限温度の設定および減圧下での乾燥は、水分の揮発をより迅速に行なわせるためのものである。
【0020】
なお、特に断りの無い限り、本明細書において「球状シリカ」は、ペースト状組成物に含まれる状態、上記の乾燥を行って得られたものは「回収乾燥シリカ」と記述する。
【0021】
本発明のペースト状組成物に含まれる球状シリカが疎水性であることを示す指標の一つとして、炭素含有量を挙げることができる。ペースト状組成物に含まれる球状シリカ中の炭素含有量は、表面処理剤に由来するものであって、回収乾燥シリカを1000~1500℃程度の温度において、空気中、若しくは酸素中で酸化処理した際に発生する二酸化炭素の量を定量することにより、測定することができる。
【0022】
本発明のペースト状組成物に含まれる球状シリカは、回収乾燥シリカにおいて測定される上記炭素含有量が5~12質量%であることが好ましく、6~10質量%であることがより好ましい。炭素含有量が多いほど、本発明のペースト状組成物をファンデーション用の添加剤として用いた場合に、汗による化粧崩れを防止することができるため好ましい。なお、前記乾燥条件に供することによりシリカの炭素量が変化することは実質的にないため、回収乾燥シリカの炭素含有量=ペースト状組成物に含まれる球状シリカの炭素含有量とみなすことができる。
【0023】
本発明のペースト状組成物に含まれるシリカは球状であるため、これを化粧品に用いた場合、肌へのローリング性に優れる。ここで、シリカが球状とは、シリカ粒子の平均円形度が0.8以上であることを意味する。該平均円形度は0.85以上であることが好ましい。
【0024】
なお上記「平均円形度」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、観察したSEM像を得、画像解析により個々の粒子について下記式(1)によって定義される値C(円形度)を求め、この円形度Cを2000個以上の粒子について相加平均値として出した値である。なお、この際、一個の凝集粒子を形成している粒子群は1粒子として計数する。
【0025】
C=4πS/L (1)
[式(1)において、Sは当該粒子が画像中に占める面積(投影面積)を表す。Lは画像中における当該粒子の外周部の長さ(周囲長)を表す。]
【0026】
該平均円形度が1に近くなるほど、粒子は真球に近い形状となる。前記乾燥工程に供することで、シリカが多孔質である場合には、上記で定義される円形度が若干低くなることがある。換言すれば、ペースト状組成物に含まれる球状シリカの円形度は、回収乾燥シリカの球形度と同じか、もしくはより高い値となる。
【0027】
本発明のペースト状組成物に含まれる球状シリカは、コールターカウンター法により測定される体積累積50%径(D50)が1~30μmの範囲にあることが好ましく、当該体積累積50%径(D50)は、1~20μmの範囲にあることがより好ましく、1~10μmの範囲にあることが更に好ましい。
【0028】
さらに、本発明のペースト状組成物に含まれる球状シリカは、同法により測定される粒子径が1~30μmの粒子を、個数基準で50%以上、さらには60%以上含むことが好ましい。該1~30μmの粒径範囲の粒子は、球状シリカを化粧品に配合した際に、滑らかな触感を得るために適切な粒径になる。
【0029】
また、本発明における回収乾燥シリカは、以下のような物性をもつ多孔質シリカであることが好ましい。
【0030】
窒素吸着法によるBET法による比表面積は、400~1000m/gであることが好ましい。回収乾燥シリカの比表面積が大きいほど、独立粒子の多孔質構造(網目構造)を構成する一次粒子の粒径が小さいことを示し、化粧品の添加剤として用いた際に増粘効果が高まる。増粘効果が高いと皮膚または頭髪等に塗布した際、液垂れを防止することが可能である。したがって、上記比表面積は500m/g以上であることが好ましく、550m/g以上であることがより好ましい。
【0031】
一方、比表面積は、大きくなりすぎると細孔容積が小さくなり、吸油量が小さくなることから、比表面積は850m/g以下であることが好ましく、700m/g以下であることがより好ましい。なお通常、比表面積が1000m/gを超えて大きいシリカを得ることは困難である。
【0032】
本発明において、当該BET法による比表面積は、測定対象のサンプル粉末を、1kPa以下の真空下において、150℃の温度で2時間以上乾燥させ、その後、液体窒素温度における窒素の吸着側のみの吸着等温線を取得し、BET法により解析して求めた値であり、解析時の分圧(P/P)の範囲は0.1~0.25である。
【0033】
また、回収乾燥シリカの吸油量は50ml/100g以上であることが好ましく、100ml/100g以上であることがより好ましく、150ml/100g以上であることが特に好ましい。
【0034】
なお、本発明において、当該吸油量の測定は、JIS K6217-4「オイル吸収量の求め方」記載の方法により行うものとする。
【0035】
本発明のペースト状組成物に含まれる塩化物イオンの含有量は、イオンクロマトグラフィーによって、定量できる。塩化物イオンの含有量は、1ppm以下であることが好ましく、0.5ppm以下であることがより好ましい。
【0036】
本発明のペースト状組成物は、前記したような疎水性の球状シリカと水とが均一のペーストとなっていることが最大の特徴である。即ち、疎水性シリカが水に均一に分散した状態になっていることで、これをさらに他の水性組成物に加えた際に、該疎水性シリカが容易に分散するという従来に無い機能を発揮する。
【0037】
(物性、及び用途)
本発明の球状シリカを含むペースト状組成物は、水と混合した場合、含まれる球状シリカが疎水性であるにも係わらず容易に水に分散する。また、さらに化粧品用添加剤として適度な粒度分布及び比表面積となるように選択すれば、同用途、具体的には液体化粧品の添加剤として利用した際に、外観保持性に優れ、滑らかな触感が得られる。加えて、球状シリカ(抽出シリカ)が後述するような物性を呈する多孔質シリカである場合、吸油量が高く、皮膚及び頭皮表面の脂分を効率良く吸収し、また、疎水性を呈し汗をはじく効果もあることから、上記液体化粧品以外の、ペースト、クリームタイプのメイクアップ・スキンケア化粧料、さらにはデオドラント用品、整髪料などの化粧品としても好適に用いることができる。
【0038】
無論、前記適度な粒子性状を備え、水に容易に分散する特徴を生かして、断熱性付与剤、艶消し剤等の各種用途材料にも好適に用いることができる。
【0039】
本発明のペースト状組成物は上記の如き用途において、製品や中間体(以下「製品等」)に球状シリカを含有させるために使用されるが、上記のようにペースト状組成物のまま配合することにより、シリカの当該製品等を構成する媒体への分散性が良好なものとなる。
【0040】
そしてそのようにして配合された球状シリカは、前記したような乾燥を経ずに製品等の中に存在することになる。
【0041】
ここでペースト状組成物に含まれる球状シリカが多孔質シリカである場合、前記乾燥によって収縮する場合があり、よって、乾燥して得られる球状シリカの物性は、上記製品等に含まれる状態でのシリカの物性(特に細孔に係わる物性)と異なっている場合がある。
【0042】
本発明のペースト状組成物に含まれるシリカの製品等に含まれる状態での物性は、ペースト状組成物をヘプタンなどの疎水性有機溶媒と接触させ、含まれるシリカを該有機溶媒に抽出してから乾燥することで回収されるシリカ(以下「抽出シリカ」)の物性を測定することによりおおよそ把握できる。当該抽出シリカの物性は、以下のようなものであることが好ましい。
【0043】
抽出シリカのBJH法による細孔容積は2~8ml/gであることが好ましい。細孔容量が大きい程、優れた吸油性能が得られるため好ましい。下限値は、より好ましくは2.5ml/g以上、特に好ましくは4ml/g以上である。また上限は6ml/g以下であることがより好ましい。細孔容積が2ml/g以下である場合には、優れた吸油性能を得ることはできない。また、8ml/gを超えて大きなものを得ることは、通常、困難である。
【0044】
抽出シリカのBJH法による細孔半径のピークは、通常10~50nmの範囲にあることが好ましい。なお、該細孔半径のピークも、前記BET比表面積測定の際と同様に吸着等温線を取得し、BJH法により解析して得られたものである。該細孔半径のピークは、細孔半径の対数による累積細孔容積(体積分布曲線)が最大のピーク値をとる細孔半径の値である。
【0045】
抽出シリカの吸油量は400mL/100g以上であることが好ましく、550mL/100g以上であることがより好ましく、650mL/100g以上であることが特に好ましい。吸油量は大きいほど、化粧品用途に用いた際のテカリ防止効果が得られるため好ましい。吸油量の上限は特に限定されるものではないが、最大で750mL/100g程度である。
【0046】
(製造方法)
本発明の球状シリカを含むペースト状組成物を製造する方法は特に限定されるものではない。球状シリカが、前記したような物性を有する多孔質シリカであるペースト状組成物を得るには、以下の方法が好適である。即ち、
(1)水性シリカゾルを調製する工程
(2)前記水性シリカゾルを水相とするW/Oエマルションを形成する工程
(3)前記シリカゾルをゲル化させてシリカゲルとする工程
(4)シリカゲルが分散した水相と、有機相とに分相させる工程、
(5)有機相を除去する工程
(6)シリカゲルが分散した水相に疎水化剤を添加する工程
(7)水の一部を除去して、ペースト状とする工程
を順に行うことである。
【0047】
上記の製造方法(以下、本製造方法ともいう)のうち(1)~(6)の工程はエマルション法にて疎水性球状シリカエアロゲルを製造する公知の方法と特に変わることなく、(7)の工程において、水の除去レベルを制御して行う点に特徴がある。以下、順序立てて詳述する。
【0048】
本製造方法では、まず、水性シリカゾルを調整する。
【0049】
水性シリカゾルの調整方法は公知の方法を適宜採用すればよいが、一例として、ケイ酸アルカリ金属塩を用いる方法をあげると以下の通りである。
【0050】
ケイ酸アルカリ金属塩を用いる場合には、塩酸、硫酸等の鉱酸で中和することによってシリカゾルを調製することが好ましく、具体的には、酸の水溶液に対して、該水溶液を撹拌しながらケイ酸アルカリ金属塩の水溶液を添加する方法や、酸の水溶液とケイ酸アルカリ金属塩の水溶液とを配管内で衝突混合させる方法が挙げられる(例えば特公平4-54619号公報参照)。より具体的には、水性シリカゾルを調製する際に用いる酸の量は、ケイ酸アルカリ金属塩のアルカリ金属分に対する水素イオンのモル比として、1.05~1.2とすることが望ましい。酸の量をこの範囲にした場合には調製したシリカゾルのpHは1~5程度となる。より好ましくは、調製したシリカゾルのpHが2.5~3.5となるよう、酸の量を調整する。
【0051】
なおここで、これより後の工程で水を新たに加えない場合には、この原料調整の段階でシリカに対して水の量が少なくとも300質量部を超えるように原料の使用割合を調整する必要がある。他方、いずれかの段階で新たに水を加える場合にはその必要はない。
【0052】
上記の方法により作成したシリカゾルの濃度としては、ゲル化が比較的短時間で完了し、またシリカ粒子の骨格構造の形成を十分なものとして乾燥時の収縮を抑制でき、大きな細孔容量を得られやすい点で、シリカ分の濃度(SiO換算濃度)として50g/L以上とすることが好ましい。その一方で、シリカ粒子の密度を相対的に小さくして、良好な細孔容積を得、また吸油量を多くできやすい点で、160g/L以下とすることが好ましく、100g/L以下とすることがより好ましい。更に好ましくは90~100g/Lである。
【0053】
水性シリカゾルの濃度を上記下限値以上とすることにより、エアロゲルのBJH法による細孔容積を8mL/g以下とすることが容易になるほか、エアロゲルのBJH法による細孔半径のピークを50nm以下とすることが容易になる。また、水性シリカゲルの濃度を上記上限値以下とすることにより、エアロゲルのBJH法による細孔容積を2mL/g以上とすることが容易になるほか、エアロゲルのBJH法による細孔半径のピークを10nm以上とすることが容易になる。
【0054】
本発明のペースト状組成物を製造するには、上記のような方法で得られた水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させて、W/Oエマルションを形成させる。このようなW/Oエマルションを形成することにより、シリカゾルは表面張力等により球状になるので、該球状形状で疎水性溶媒中に分散しているシリカゾルをゲル化させることにより、球状のゲル化体を得ることができる。このように、W/Oエマルションを形成するエマルション形成工程を経ることにより、0.8以上の高い円形度を有するエアロゲルを製造することが可能になる。
【0055】
当該疎水性溶媒としては、水性シリカゾルとW/Oエマルションを形成できる程度の疎水性を有した溶媒であればよい。そのような溶媒としては、例えば、炭化水素類やハロゲン化炭化水素類等の有機溶媒を使用することが可能である。より具体的にはヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロプロパン等が挙げられる。これらの中でも、適度な粘度を有するヘプタンを特に好適に用いることができる。なお必要に応じて、複数の溶媒を混合して用いてもよい。また水性シリカゾルとW/Oエマルションを形成できる範囲であれば、低級アルコール類などの親水性溶媒を併用する(混合溶媒として使用する)ことも可能である。
【0056】
使用する疎水性溶媒の量は、エマルションがW/O型となる程度の量であれば特に限定されることはない。ただし、一般的には、水性シリカゾル1体積部に対して疎水性溶媒が1~10体積部程度となる量を使用する。
【0057】
上記のW/Oエマルションを形成する際には、界面活性剤を添加することが好ましい。使用する界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤のいずれも使用することが可能である。これらの中でも、W/Oエマルションを形成しやすい点で、ノニオン系界面活性剤が好ましい。本発明においては、シリカゾルが水性であるため、界面活性剤の親水性及び疎水性の程度を示す値であるHLB値が3以上6以下の界面活性剤を好適に用いることができる。なお本発明において「HLB値」とは、グリフィン法によるHLB値を意味する。
【0058】
上述したように、本発明においては、W/Oエマルションの液滴の形状によってエアロゲル粒子の形状がほぼ定められる。好適に用いることのできる界面活性剤の具体的としては、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノセスキオレート等が挙げられる。
【0059】
界面活性剤の使用量は、W/Oエマルションを形成させる際の一般的な量と変わるところがない。具体的には、水性シリカゾル100mlに対して0.05g以上10g以下の範囲を好適に採用することができる。界面活性剤の使用量が多いと、W/Oエマルションの液滴がより微細になり易く、逆に界面活性剤の使用量が少ないと、W/Oエマルションの液滴がより大きくなり易い。したがって界面活性剤の使用量を増減することにより、エアロゲルの平均粒径を調整することが可能である。
【0060】
W/Oエマルションを形成する際に、水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させる方法としては、W/Oエマルションの公知の形成方法を採用することができる。工業的な製造の容易性などの観点からは、機械乳化によるエマルション形成が好ましく、具体的には、ミキサー、ホモジナイザー等を使用する方法を例示できる。好適には、ホモジナイザーを用いることができる。W/Oエマルション中のシリカゾル液滴の平均粒径とエアロゲルの平均粒径とは概ね対応関係にある。同時に、このようにエマルション中のシリカゾル液滴の粒径を十分小さくすることにより、シリカゾル液滴の形状が乱されにくくなるので、より高い円形度を有する球状のエアロゲルを得ることが一層容易になる。
【0061】
本発明のペースト状組成物を製造するには、このようなW/Oエマルション中のシリカゾルをゲル化させる。酸性領域にあるシリカゾルは加熱により容易にゲル化する。従って、該ゲル化は、上記W/Oエマルションを加熱すればよい。
【0062】
ゲル化温度は、50℃~80℃にすることが好ましく、60℃~70℃にすることがより好ましい。ゲル化温度が上記範囲を超えて高いと比表面積が低くなり、低いとゲル化が十分に進行しない。
【0063】
また、ゲル化時間は、30分~24時間とすることが好ましく、5~12時間とすることがより好ましい。
【0064】
ゲル化することで、W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換するのである。
【0065】
本発明のペースト状組成物を製造するには、次いで、上記ゲル化体の分散液をO相とW相とに分離する。分離後、前記工程により得られたゲル化体は、W相側に分散して存在する。
【0066】
当該分離方法としては、エマルションの解乳方法として公知の方法を援用することが可能であるが、具体的には、水溶性有機溶媒の添加、塩の添加、遠心力の付与、酸の添加、容積比の変化(水又は疎水性溶媒の添加)等から選ばれる一つ、あるいは複数を組み合わせて実施することができる。好適には、一定量の水溶性有機溶媒を、必要に応じて水と共にエマルション中に加えてO相とW相に分離することができる。分離工程を経ると、一般に、上層がO相(有機層)、下層がW相(水層)となる。なお、この工程でW層を形成させるには、必ずしも水の添加は必須ではなく、原料として用いた水のうち、該ゲル化体が分散可能な程度の量の水がゲル化体のなかから排出される方法を採用すればよい。この方法としては、具体的には添加する水溶性有機溶媒として、ゲル化体の細孔に侵入し、水を追い出す機能を有する水溶性有機溶媒を選択すれば実施できる。
【0067】
上記の水溶性有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。このうち、イソプロピルアルコールは、後述のシリル化処理の際にも、処理の効率を高める上で効果があるため、好適に用いることができる。
【0068】
上記の水溶性有機溶媒の添加量は、エマルション形成時に用いた界面活性剤の種類および量によって調整することが好ましい。例えば、W/O型エマルションの界面活性剤としてソルビタンモノオレエートを用いた場合には、O相の量に対して質量で0.1~0.4倍程度の水溶性有機溶媒を加え、必要に応じて撹拌後、静置することにより、O相とW相に分離することができる。ただしこの際には、上記水溶性有機溶媒と供に水も、O相の量に対して質量で0.6~0.9倍程度の添加量で加えるのが好ましい。また、該分離操作を行う際の温度は特に限定されないが、通常は、20~70℃程度で行うことができる。
【0069】
この製造方法においては、引き続いて熟成を行うことが好ましい。該熟成は、O相と層分離されたW相(ゲル化体が分散)に塩基性物質を加えてW相のpHを弱酸性ないし塩基性に調整して実施する。
【0070】
塩基性物質を加えることで、酸性域下にあるW相のpHは上昇して、弱酸性ないし塩基性が呈される状態になるが、具体的には、W相のpHは4.5~10とすることが好ましく、5.5~8.5とすることがより好ましく、6.0~8.0とすることが特に好ましい。上記塩基性物質としては、アンモニア、苛性ソーダ、アルカリ金属ケイ酸塩等を用いることができる。中でも苛性ソーダを用いることがpH調整を容易に行うことができるため、好ましい。
【0071】
また、上記ゲル化体の熟成は、熟成温度を室温~80℃程度で保持することによって行うことができる。熟成時間は、W相のpHと熟成温度によって適宜設定すればよいが、0.5~12時間程度である。
【0072】
この製造方法においては、次いでゲル化体の分散した水相から有機相を分離する。これは、さらにこの後に行うゲル化体を疎水化処理する工程に際して、その処理効率を向上させるためである。分離方法は特に限定されないが、2相に分かれているO相とW相とを、例えばデカンテーション等でO相を除去し、W相を回収することで容易に達成できる。
【0073】
ここで、完全にO相を分離除去する必要はないが、当該W相に含まれるゲル化体を疎水化処理する工程において、効率的に疎水化処理を行うためには除去されずに残るO相の割合はなるべく少ない方が良く、W相の量に対して20質量%以下となるようにすることが好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0074】
ゲル化体の疎水化は、シリル化剤を用いてゲル化体をシリル化処理すればよい。
【0075】
本発明において使用可能なシリル化剤としてはシラノール基:
M-OH (2)
[式中、Mはゲル化体を形成しているSi原子を表す。式(2)においてはMの残りの原子価は省略されている。以下の式において、すべて同じ。]
と反応し、これを
【0076】
(M-O-)(4-n)SiR (3)
[式(3)中、nは1~3の整数であり、Rは炭化水素基であり、nが2以上である場合には、複数のRは同一でも相互に異なっていてもよい。]へと変換することが可能なシリル化剤を一例として挙げることができる。このようなシリル化剤を用いてシリル化処理を行うことにより、エアロゲル粉体表面のヒドロキシ基が疎水性のシリル基でエンドキャッピングされて不活性化されるので、表面ヒドロキシ基相互間での脱水縮合反応を抑制できる。よって、臨界点未満の条件で乾燥を行っても乾燥収縮を抑制できるので、2mL/g以上のBJH細孔容積を有する金属酸化粉末を得ることが可能になる。
【0077】
上記のシリル化剤としては、以下の一般式(4)~(6)で示される化合物が知られている。
【0078】
SiX(4-n) (4)
[式(4)中、nは1~3の整数を表し;Rは炭化水素基等の疎水基を表し;Xはヒドロキシ基を有する化合物との反応においてSi原子との結合が開裂して分子から脱離可能な基(脱離基)を表す。nが2以上のとき複数のRは同一でも異なっていてもよい。また、nが2以下のとき複数のXは同一でも異なっていてもよい。]
【0079】
【化1】
【0080】
[式(5)中、Rはアルキレン基を表し;R及びRは各々独立に炭化水素基を表し;R及びRは各々独立に水素原子又は炭化水素基を表す。]
【0081】
【化2】
【0082】
[式(6)中、R及びRは各々独立に炭化水素基を表し、mは3~6の整数を表す。複数のRは同一でも異なっていてもよい。また、複数のRは同一でも異なっていてもよい。]
【0083】
上記式(4)において、Rは炭化水素基であり、好ましくは炭素数1~10の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1~4の炭化水素基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0084】
Xで示される脱離基としては、塩素、臭素等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;-NH-SiRで示される基(式中、Rは式(4)におけるRと同義である)等を例示できる。
【0085】
上記式(4)で示されるシリル化剤を具体的に例示すると、クロロトリメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、トリクロロメチルシラン、モノメチルトリメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。反応性が良好である点で、クロロトリメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、トリクロロメチルシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン及び/又はヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサンが特に好ましい。
【0086】
脱離基Xの数(4-n)に応じて、エアロゲル粉体骨格上のヒドロキシ基と結合する数は変化する。例えば、例えば、nが2であれば:
(M-O-)SiR (7)
という結合が生じることになる。
【0087】
また、nが3であれば:
M-O-SiR (8)
という結合が生じることになる。このようにヒドロキシ基がシリル化されることにより、シリル化処理がなされる。
【0088】
上記式(5)において、Rはアルキレン基であり、好ましくは炭素数2~8のアルキレン基であり、特に好ましくは炭素数2~3のアルキレン基である。
【0089】
上記式(5)において、R及びRは各々独立に炭化水素基であり、好ましい基としては、式(4)におけるRと同様の基を挙げることができる。Rは水素原子又は炭化水素基を示し、炭化水素基である場合には、好ましい基としては、式(4)におけるRと同様の基を挙げることができる。この式(5)で示される化合物(環状シラザン)でゲル化体を処理した場合には、ヒドロキシ基との反応によりSi-N結合が開裂するので、ゲル化体中のエアロゲル粉体骨格表面上には
(M-O-)SiR (9)
という結合が生じることになる。このように上記式(5)の環状シラザン類によっても、ヒドロキシ基がシリル化され、シリル化処理がなされる。
【0090】
上記式(5)で示される環状シラザン類を具体的に例示すると、ヘキサメチルシクロトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン等が挙げられる。
【0091】
上記式(6)において、R及びRは各々独立に炭化水素基であり、好ましい基としては、式(4)におけるRと同様の基を挙げることができる。mは3~6の整数を示す。この式(6)で示される化合物(環状シロキサン)でゲル化体を処理した場合、ゲル化体中のエアロゲル粉体骨格表面上には、
(M-O-)SiR (10)
という結合が生じることになる。このように上記式(6)の環状シロキサン類によっても、ヒドロキシ基がシリル化され、シリル化処理がなされる。
【0092】
上記式(6)で示される環状シロキサン類を具体的に例示すると、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。
【0093】
上記のシリル化処理の際に使用するシリル化剤の量としては、処理剤の種類にもよるが、ヘキサメチルジシロキサンをシリル化剤として用いる場合には、シリカ(使用したシリカゾル量から計算されるSiO量)100質量部に対して10~150質量部が好適である。より好ましくは20~130質量部であり、更に好ましくは30~120質量部である。
【0094】
上記のシリル化処理の条件は、W相に対して、シリル化剤を加え、一定時間反応させることにより行うことができる。例えば、シリル化剤としてヘキサメチルジシロキサンを用い、処理温度を50℃とした場合には、6~12時間程度以上保持することで行うことでき、処理温度を70℃とした場合には3~12時間程度以上保持することで行うことができる。
【0095】
また、シリル化処理剤としてオクタメチルシクロテトラシロキサン等の環状シロキサン類を用いる場合には、塩酸を添加することで溶液のpHを0.3~1.0とすることが、反応の効率を高める上で好ましい。
【0096】
当該シリル化処理工程においては、W相中へのシリル化剤の溶解度を高めて、反応の効率を高める目的で、水溶性有機溶媒を加えることが好ましい。この水溶性有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。このうち、イソプロピルアルコールを好適に用いることができる。
【0097】
上記水溶性有機溶媒は、ゲル化体を含むW相中の濃度で15~80wt%程度になるように加えることが好ましい。
【0098】
上記方法で疎水化したゲル化体を含むW相には、各工程で用いた原料に由来する各種の塩分が含まれ、これがペースト状組成物中にそのまま含まれることになると好ましくない場合がある。そこで、このような塩分を除去するために、水で洗浄を行うことが好ましい。例えば、濾過機にゲル化体を含むW相を投入し、そこに水を流すことで洗浄を行うことができる。この際、加圧または吸引することで、投入する水と排出する水のバランスを調整することが可能となる。また、ゲル化体に残存している水溶性有機溶媒の沸点を超えない範囲で、高温にすることが洗浄効率を高める上では好ましい。通常は、20~60℃の範囲で行うことができる。なおこの洗浄で、通常は、各工程で用いた有機溶媒やシリル化剤の反応残渣等も除去される。
【0099】
上記の工程を経たW層は、ゲル化体が水に分散したスラリー状(水が過剰)のものであるから、当該スラリーがペースト状になるまで水の一部を除去する必要がある。なおここで、(ほぼ)全ての水を除去して回収するゲル化体を乾燥させてしまってはならない。いったん乾燥させてしまうと、水性媒体への分散性が極めて悪いものとなってしまう。水除去方法は公知の方法を適宜選択して実施できるが、上記スラリーをフィルター(ゲル化体が通過しない目開きのもの)にかけ、ペースト状になるまで水の一部を除去する方法が好ましい。得られたペースト状物の水含有量が所定の範囲内にあれば、そのまま本発明のペースト状組成物とできるが、必要に応じて、水のさらなる除去ないしは水の添加を行い所望の範囲の水含有量とすればよい。
【0100】
このようにして、本発明のペースト状組成物を製造することができる。
【実施例
【0101】
以下、本発明を具体的に説明するため、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。なお、実施例及び比較例の評価は以下の方法で実施した。
【0102】
<評価方法>
実施例1、2で製造した球状シリカを含むペースト状組成物、或いは乾燥に供して得た球状シリカ(回収乾燥シリカ)に対して、以下の項目について試験を行った。実施例1及び2の水分量、分散性及びD50の測定は、ペースト状組成物の状態から行った。他の評価項目は、ペースト状組成物の水分量が1質量%以下となるまで、真空乾燥機で150℃、-100kPaG(ゲージ圧)条件下で16時間乾燥し、水を除去した後に残る球状シリカ(回収乾燥シリカ)を分析した。なお、水分量が1質量%以下となったことは、下記記載の水分計で確認した。
【0103】
(水分量)
水分量の測定は、オーハウス社製のハロゲン水分計(MB25)を使用し、以下の方法で測定した。
【0104】
専用のアルミ皿に測定サンプル3.0gを載せて、水分計にセットし、分析した。測定条件は、160℃、30分間とした。
【0105】
(分散性)
ペースト状組成物1gに水30gを加え、手分散を10秒間行い、分散状態を目視で確認した。なお比較例では、シリカを0.2gに水を加えて試験した。シリカが水に分散した場合を○、分散せずに分離した場合を×とした。
【0106】
(塩化物イオン含有量)
200mlビーカーに球状シリカを含むペースト状組成物1g、超純水100mlを加え、撹拌子で15分間撹拌した。塩化物イオンを抽出した混合液を0.45μmシリンジフィルターでろ過後、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製のイオンクロマトグラフィー(ICS-2100)で塩化物イオン含有量の測定を行った。
【0107】
(D50)
球状シリカを含むペースト状組成物をエタノールに添加し、30分超音波分散を行った。得られたエタノール分散液をベックマン・コールター株式会社製精密粒度分布測定装置Multisizer3を用い、100μmのアパチャーチューブを使用して、D50を測定した。
【0108】
(比表面積、細孔容積及び吸油量)
回収乾燥シリカのBET比表面積、及びBJH細孔容積の測定は、前述の定義に従ってマイクロトラック・ベル株式会社製BELSORP-maxにより行った。吸油量の測定は、JIS K6217-4「オイル吸収量の求め方」により行った。
【0109】
(M値)
疎水性シリカは水には浮遊するが、メタノールには完全に懸濁する。このことを利用し、以下の方法によって測定した修飾疎水度をM値として、疎水化の程度の指標とした。
【0110】
回収乾燥シリカ0.2gを容量200mLのビーカー中の50mlの水に加え、マグネティックスターラーで攪拌した。これに、ビュレットを使用してメタノールを加え、シリカエアロゲルの全量がビーカー内の溶媒に濡れて懸濁した時点を終点として、滴下した。この際、メタノールが直接試料に触れないように、チューブで溶液内に導いた。終点におけるメタノール-水混合溶媒中のメタノールの容量%を疎水度(M値)とした。
【0111】
M値 = メタノール滴下量 / (メタノール滴下量+50ml)
【0112】
(平均円形度)
回収乾燥シリカについて日立ハイテクノロジーズ製SEM(S-5500)を用いて、加速電圧3.0kV、二次電子検出、倍率1000倍で観察した。得られたSEM画像を画像解析することにより、下記式により球状シリカの円形度を算出した。なお、平均円形度は、2000個以上の球状シリカについて円形度を算出し、平均したものである。
【0113】
C=4πS/L
[上記式において、Sは当該粒子が画像中に占める面積(投影面積)を表す。Lは画像中における当該粒子の外周部の長さ(周囲長)を表す。]
【0114】
(炭素含有量)
エレメンター・ジャパン株式会社製の元素分析装置(vario MICRO cube)を用い、炭素含有量を測定した。
【0115】
<実施例1>
硫酸100gを撹拌羽で撹拌しながら、珪酸ナトリウム100gを徐々に添加し、水性シリカゾルを調整した。このとき、pHは2.9であった。
【0116】
上記調整した水性シリカゾル139gに、129gのヘプタンを加え、ソルビタンモノオレエートを1.5g添加した。この溶液をホモジナイザーを用いて、4600回転/分の条件で2.5分撹拌することで、W/Oエマルションを形成させた。
【0117】
得られたW/Oエマルションを撹拌羽で撹拌しながら、70℃、1時間かけてゲル化した。続けて、イソプロピルアルコール60gとイオン交換水40gを加えて、攪拌羽で攪拌しながらO相とW相を分離した。続けて、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液を7.25g添加した。このとき、W相のpHは7.0であった。60℃、1時間かけて、ゲル化体の熟成を行った。デカンテーションにより、O相を除去することで、W相を回収した。
【0118】
得られたW相に35%塩酸を48.3g、ヘキサメチルジシロキサンを7.7g添加し、撹拌しながら70℃のウォーターバスで8時間保持することにより、シリル化処理を行った。
【0119】
シリル化処理後、攪拌羽で攪拌しながら24%水酸化ナトリウム水溶液を70.6g添加し、中和処理を行った。このときのpHは3.1であった。
【0120】
得られた中和後のゲル化体を含むスラリーを加圧濾過機に移液した後、イオン交換水を加えつつ、フィルターを通過した水の除去を行った。フィルター通過液の電気伝導度が100μS/cm以下になるまで、この操作を実施した。最後に、イオン交換水の添加を行わない状態としてダイヤフラムポンプで吸引し、水分を除去することで、シリカ100質量部に対して537質量部の水を含有する本発明のペースト状組成物を得た。
【0121】
<実施例2>
シリル化処理において、35%塩酸の代わりに95%硫酸を17.1g添加した以外は、実施例1と同様の操作を行い、本発明のペースト状組成物を得た。
【0122】
<比較例1>
中和処理までは実施例1と同様の工程により、疎水化されたゲル化体の水性分散液を作成した。
【0123】
中和後、ヘプタン90gを加え、該ヘプタン相にゲル化体を抽出し、イソプロピルアルコール60gとイオン交換水40gを加えて洗浄後、水相を除去する操作を2回行った。
【0124】
得られたシリル化後のゲル化体を吸引濾過機により濾別した。ゲル化体の乾燥を真空圧力下、100℃で16時間加熱することで球状シリカエアロゲルからなる粉体を得た。
【0125】
【表1】