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特許7575968組換え微生物、それを用いたアンモニアの製造方法及びタンパク質の製造方法、並びにその培養方法
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  • 特許-組換え微生物、それを用いたアンモニアの製造方法及びタンパク質の製造方法、並びにその培養方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】組換え微生物、それを用いたアンモニアの製造方法及びタンパク質の製造方法、並びにその培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20241023BHJP
   C12N 15/70 20060101ALI20241023BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20241023BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20241023BHJP
   C12N 15/60 20060101ALI20241023BHJP
   C12P 3/00 20060101ALI20241023BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20241023BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12N15/70 Z
C12N15/53
C12N15/54
C12N15/60
C12P3/00 Z
C12P21/02 A
C12N1/00 D
C12N1/00 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021034306
(22)【出願日】2021-03-04
(65)【公開番号】P2021145675
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2020046863
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】立道 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】仲原 丈晴
(72)【発明者】
【氏名】川口 友浩
(72)【発明者】
【氏名】藤田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】一柳 悠子
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-506681(JP,A)
【文献】国際公開第2020/014498(WO,A1)
【文献】AMB Express,2017年,7:83,p. 1-7,doi:10.1186/s13568-017-0385-2
【文献】日本農芸化学会2019年度大会講演要旨集(オンライン),2019年03月05日,1D7p10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
C12N 15/00
C12P 3/00
C12P 21/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アゾトバクター・ビネランディ(Azotobacter vinelandii)由来の遺伝子群が宿主微生物に導入された、窒素固定活性を有する組換え微生物であって、
前記遺伝子群は、iscA遺伝子、nifE遺伝子、nifN遺伝子、nifX遺伝子、nifU遺伝子、nifS遺伝子、nifY遺伝子、nifZ遺伝子、nifV遺伝子、nifB遺伝子、nifQ遺伝子、nifW遺伝子、nifM遺伝子、nifF遺伝子、nifH遺伝子、nifD遺伝子、及びnifK遺伝子を含む、組換え微生物。
【請求項2】
前記宿主微生物は、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)である、請求項1に記載の組換え微生物。
【請求項3】
前記遺伝子群が、(i)配列番号48~75のいずれか1つで表される塩基配列、(ii)配列番号48~75のいずれか1つで表される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列、又は(iii)配列番号48~75のいずれか1つで表される塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子を更に含む、請求項1又は2に記載の組換え微生物。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の組換え微生物を窒素雰囲気下で培養する工程を含む、アンモニアの製造方法。
【請求項5】
前記組換え微生物を窒素雰囲気下で培養する前記工程において、前記組換え微生物の培地が、フマル酸塩を含む、請求項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の組換え微生物からタンパク質を精製する工程を含む、タンパク質の製造方法。
【請求項7】
0.5ppm以上4.0ppm以下の溶存酸素濃度で酸素を含む培地中において、請求項1~のいずれか1項に記載の組換え微生物を培養する工程を含む、微生物の培養方法。
【請求項8】
前記培地が、フマル酸塩を含む、請求項に記載の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え微生物、それを用いたアンモニアの製造方法及びタンパク質の製造方法、並びにその培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは、農作物の窒素系肥料や食品等の原料として幅広く利用されており、農作物や食品の増産に寄与し、今日の人口増加を支え続けてきた。アンモニアの大半は、ハーバー・ボッシュ法によって工業的に生産されているが、この工程には高温、高圧という条件が必要で、大量のエネルギーを要する等、環境負荷の大きさに問題がある。
この問題を解決するために、ハーバー・ボッシュ法で用いられる触媒の開発やプロセスの改良等が検討されている。例えば、非特許文献1には、常温常圧でのアンモニア製造プロセスが開示されている。しかし、非特許文献1に記載の方法は、触媒として高価なレアメタルを用いており、また、反応効率も低い。
【0003】
一方、ハーバー・ボッシュ法に依らないアンモニア製造法として、生物的窒素固定法が検討されている。一般的に、生物的窒素固定法は、常温・常圧等の温和な条件下で、気体窒素を窒素源としてアンモニアを製造することができるため、様々な方法が提案されている。
【0004】
例えば、窒素固定細菌として、特許文献1にはAzotobacter vinelandiiを、特許文献2にはAzotobacter beijerinckii、Lysobacter sp.及びAgrobacterium sp.を、特許文献3にはAcidithiobacillusを用いる、アンモニアの製造方法が開示されている。例えば、特許文献2によれば、このような方法は、単生系の土壌細菌野生株を用いて、環境への負荷が小さく簡便かつ効率よくアンモニアを生産することができるとしている。
【0005】
また、非特許文献2には、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)由来のニトロゲナーゼ関連遺伝子を導入した大腸菌(Escherichia coli)を用いる、アンモニアの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表平07-501201号公報
【文献】特開2010-046026号公報
【文献】特開2018-138006号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】K.Nakajima, H.Toda, K.Sakata, and Y.Nishibayashi“Ruthenium-Catalysed Oxidative Conversion of Ammonia into Dinitrogen”,Nature Chemistry, 11, 702-709 (2019).
【文献】A.Zamir et al.“Stable chromosomal integration of the entire nitrogen fixation gene cluster from Klebsiella pneumoniae in yeast”,Proc.NatL.Acad.Sci.USA,Vol.78, No.6, pp.3496-3500, June 1981, Biochemistry
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らが、特許文献1及び非特許文献2に記載のものを始めとする従来の生物的窒素固定法を詳細に検討したところ、従来の生物的窒素固定法には、未だ課題が存在することがわかった。
【0009】
例えば、特許文献1に開示されるような窒素固定細菌を用いたアンモニア製造方法は、そのアンモニア生成効率は高いものの、その方法において使用する窒素固定細菌に起因して、安全性を高めることが困難である。また、非特許文献2に開示されるようなクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)由来のニトロゲナーゼ関連遺伝子を導入した大腸菌を用いたアンモニア製造方法は、窒素固定細菌を用いた場合に比べてアンモニア生成効率が極めて低い。
【0010】
上記事情に鑑みて、本発明は、窒素固定活性を発現する新規な組換え微生物、それを用いたアンモニアの製造方法若しくはタンパク質の製造方法、又はその培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、好気性細菌に由来するニトロゲナーゼ関連遺伝子が導入された新規な組換え微生物が、窒素固定活性を発現することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
アゾトバクター・ビネランディ(Azotobacter vinelandii)由来の遺伝子群が宿主微生物に導入された、組換え微生物であって、
前記遺伝子群は、iscA遺伝子、nifE遺伝子、nifN遺伝子、nifX遺伝子、nifU遺伝子、nifS遺伝子、nifY遺伝子、nifZ遺伝子、nifV遺伝子、nifB遺伝子、nifQ遺伝子、nifW遺伝子、nifM遺伝子、nifF遺伝子、nifH遺伝子、nifD遺伝子、及びnifK遺伝子を含む、組換え微生物。
[2]
窒素固定活性を有する、[1]に記載の組換え微生物。
[3]
前記宿主微生物は、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)である、[1]又は[2]に記載の組換え微生物。
[4]
前記遺伝子群が、(i)配列番号48~75のいずれか1つで表される塩基配列、(ii)配列番号48~75のいずれか1つで表される塩基配列と80%以上の相同性を有する塩基配列、又は(iii)配列番号48~75のいずれか1つで表される塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子を更に含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の組換え微生物。
[5]
[1]~[4]のいずれか1つに記載の組換え微生物を窒素雰囲気下で培養する工程を含む、アンモニアの製造方法。
[6]
前記組換え微生物を窒素雰囲気下で培養する前記工程において、前記組換え微生物の培地が、フマル酸塩を含む、[5]に記載の方法。
[7]
[1]~[4]のいずれか1つに記載の組換え微生物からタンパク質を精製する工程を含む、タンパク質の製造方法。
[8]
0.5ppm以上4.0ppm以下の溶存酸素濃度で酸素を含む培地中において、[1]~[4]のいずれか1項に記載の組換え微生物を培養する工程を含む、微生物の培養方法。
[9]
前記培地が、フマル酸塩を含む、[8]に記載の培養方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、窒素固定活性を発現する新規な組換え微生物、それを用いたアンモニアの製造方法若しくはタンパク質の製造方法、又はその培養方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の組換え微生物における、エチレン生成量のIPTG添加量依存性を示す図である。
図2】フマル酸ナトリウム、システイン、及び硝酸ナトリウムが、本発明の組換え微生物の窒素固定活性に与える影響を示す図である。
図3】ニトロゲナーゼ関連遺伝子群に加えてアゾトバクター・ビネランディ由来の遺伝子が導入された組換え微生物の窒素固定活性を示す図である。
図4】本発明の組換え微生物の培養における、培地中の溶存酸素濃度と培養後のOD600との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0016】
(組換え微生物)
本明細書で使用する場合、「組換え微生物」とは、宿主となる微生物にとっては外来遺伝子となる遺伝子が宿主微生物に導入されることにより産生される微生物を意味する。外来遺伝子の微生物の導入方法は、従来公知の方法により実施することが可能である。「組換え微生物」という場合、「遺伝子組換え微生物」と同義で用いられる。また、「組換え微生物」は、外来遺伝子が導入されることにより形質転換された微生物と理解することもできる。
本発明における組換え微生物は、アゾトバクター・ビネランディ(Azotobacter vinelandii)由来の遺伝子群が導入されている微生物である。本発明の組換え微生物は、アゾトバクター・ビネランディ(Azotobacter vinelandii)由来の遺伝子群が導入され、当該遺伝子群の翻訳産物であるタンパク質を発現し、それにより窒素固定活性を有していることが好ましい。
【0017】
宿主微生物の種類は、アンモニアの生成効率や、アンモニアの最終目的物の用途に応じて当業者が適宜決定することができるが、例えば、酵母、大腸菌、乳酸菌等が挙げられる。例えば、最終製品が医薬、食品、化粧品のように人体に適用され得るものである場合、微生物は人体に有害ではないものが好ましい。また、形質転換が容易である観点から、大腸菌(エシェリキア・コリ;Escherichia coli)も好ましい。
【0018】
人体に有害ではない微生物としては、特に限定されないが、例えば、乳酸菌、枯草菌等が挙げられる。限定することを意図するものではないが、使用可能な乳酸菌の例として、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、及びストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)等が挙げられる。また、限定することを意図するものではないが、使用可能な枯草菌の例として、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)が挙げられる。
【0019】
限定することを意図するものではないが、使用可能な大腸菌の例として、大腸菌DH5α(タカラバイオ社製)、DH10B(タカラバイオ社製)、及びJM109(タカラバイオ社製)が挙げられる。
【0020】
アゾトバクター・ビネランディ(Azotobacter vinelandii)は、グラム陰性、好気性の窒素固定細菌であり、ニトロゲナーゼに起因する窒素固定活性を有する。
【0021】
ニトロゲナーゼとは、フェレドキシン及びフラボドキシン等の電子供与体からから電子を受け取り、ATPを消費することで、気体窒素を窒素源としてアンモニアを生成する酵素である。ニトロゲナーゼは、電子供与体から電子を受け取る役割を果たすニトロゲナーゼ還元酵素及び活性中心を有するニトロゲナーゼ二量体からなり、極めて酸素への感受性が高く、酸素に触れると不可逆的に失活することが知られている。
【0022】
好気性細菌であるアゾトバクター・ビネランディは、ニトロゲナーゼが酸素により失活することを防ぐ機構を備えており、嫌気性の窒素固定細菌に対して、ニトロゲナーゼの構成が異なると推察される。したがって、アゾトバクター・ビネランディ由来のニトロゲナーゼ関連遺伝子が導入された組換え微生物において発現されるニトロゲナーゼは、酸素に対する安定性が一層向上すると考えられ、その結果、高い窒素固定活性を発現する。このような観点から、微生物としては、好気性又は通性嫌気性の微生物が好ましいが、絶対嫌気性の微生物であってもよい。
【0023】
本発明においては、組換え微生物に導入されるアゾトバクター・ビネランディ(Azotobacter vinelandii)由来の遺伝子群は、iscA遺伝子、nifE遺伝子、nifN遺伝子、nifX遺伝子、nifU遺伝子、nifS遺伝子、nifY遺伝子、nifZ遺伝子、nifV遺伝子、nifB遺伝子、nifQ遺伝子、nifW遺伝子、nifM遺伝子、nifF遺伝子、nifH遺伝子、nifD遺伝子、及びnifK遺伝子を含む。
本発明においては、窒素固定に係る、すなわち、ニトロゲナーゼを構成する又はニトロゲナーゼに関連するタンパク質をコードする、アゾトバクター・ビネランディ(Azotobacter vinelandii)由来の遺伝子群を導入することにより、当該遺伝子群が発現することで組換え微生物が窒素固定活性を有する。
本明細書においては、アゾトバクター・ビネランディ(Azotobacter vinelandii)由来の上記遺伝子群を総称して、「ニトロゲナーゼ関連遺伝子」という。
【0024】
iscA遺伝子、nifE遺伝子、nifN遺伝子、nifX遺伝子、nifU遺伝子、nifS遺伝子、nifY遺伝子、nifZ遺伝子、nifV遺伝子、nifB遺伝子、nifQ遺伝子、nifW遺伝子、及びnifM遺伝は、ニトロゲナーゼの構築に関わるタンパク質をコードするものである。また、nifF遺伝子、及びnifH遺伝子は、電子供与体からの電子の授受に関わるタンパク質をコードするものである。そして、nifH遺伝子、nifD遺伝子、及びnifK遺伝子は、ニトロゲナーゼ還元酵素及び活性中心を有するニトロゲナーゼ二量体をコードするものである。
【0025】
nifE遺伝子、nifN遺伝子、nifX遺伝子、iscA遺伝子、nifU遺伝子、nifS遺伝子、nifY遺伝子、nifZ遺伝子、nifV遺伝子、nifB遺伝子、nifQ遺伝子、nifW遺伝子、nifM遺伝子、nifF遺伝子、nifH遺伝子、nifD遺伝子、及びnifK遺伝子は、それぞれ配列番号1-17で示される塩基配列に対して70%以上の相同性を有する塩基配列を有し、好ましくは78%以上、より好ましくは80%以上あるいは85%以上、更に好ましくは90%以上あるいは95%以上の相同性を有する塩基配列を有し、特に好ましくはそれぞれ配列番号1-17で示される塩基配列を有する。また、上記した各遺伝子は、組換え微生物において発現して活性を維持する限りにおいて、それぞれ配列番号1-17で示される塩基配列において1個又は数個の塩基が欠失、挿入、置換、若しくは付加された、又は逆位等の変異が生じた塩基配列を有していてもよい。
そのような遺伝子を含むDNAは、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Fourth Edition(Cold Spring Harbor Laboratory発行)に記載された通常の遺伝子工学的手法に従って、アゾトバクター・ビネランディ株から得ることができる。具体的には、アゾトバクター・ビネランディ株から配列番号1-17で示されるDNAをフェノール抽出法等により抽出した後、適切なプライマー、例えば配列番号18-41を用いてPCRを行うことにより増幅すればよい。より詳細には、実施例に記載の方法を用いればよい。
PCRの条件としては、所望のDNAを増幅させることのできる条件であれば特に限定されないが、KOD PLUS NEO(東洋紡社製)又はKOD FX NEO(東洋紡社製)を用いて、94℃で2分加熱した後、98℃、58℃、68℃の温度で、それぞれ10秒、30秒、30秒保持するサイクルを15-20サイクル行う条件が挙げられる。
なお該当するPCRに用いるプライマーの5’末端側には、制限酵素認識配列またはシームレスクローニングに用いる15-40bpの相同配列を付与してもよい。
【0026】
本発明における組換え微生物は、導入されるアゾトバクター・ビネランディ由来の遺伝子群として、上記のニトロゲナーゼ関連遺伝子以外に、少なくとも1種の窒素固定活性の発現に関連する遺伝子(以下、「窒素固定活性関連遺伝子」という。)を含むものであってもよい。
そのような窒素固定活性関連遺伝子としては、組換え微生物の窒素固定活性を向上させるものであれば特に限定されないが、例えばnifJ遺伝子(例えば、配列番号154で表される塩基配列を有するものが挙げられる。)が挙げられる。また、本発明者らは、鋭意研究の結果、配列番号48~75のいずれか1つで表される塩基配列を有する遺伝子等が、本発明の組換え微生物において、窒素固定活性を一層向上させることを見出した。
【0027】
すなわち、本発明における組換え微生物に導入されるアゾトバクター・ビネランディ由来の遺伝子群は、窒素固定活性関連遺伝子として(i)配列番号48~75のいずれか1つで表される塩基配列、(ii)配列番号48~75のいずれか1つで表される塩基配列と80%以上の相同性を有する塩基配列、又は(iii)配列番号48~75のいずれか1つで表される塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子を更に含むと好ましい。
導入されるアゾトバクター・ビネランディ由来の遺伝子群が(ii)配列番号48~75のいずれか1つで表される塩基配列と80%以上の相同性を有する塩基配列を有する遺伝子を含む場合、その塩基配列と配列番号48~75のいずれか1つで表される塩基配列との相同性は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上である。
導入されるアゾトバクター・ビネランディ由来の遺伝子群が(iii)配列番号48~75のいずれか1つで表される塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子を含む場合、欠失、挿入、置換、若しくは付加される塩基数は、1、2、3、4、5、6、7、8又は9であり、好ましくは1、2、3、4又は5であり、より好ましくは1、2又は3である。なお、配列番号1-17で示される塩基配列の欠失、挿入、置換、若しくは付加された、又は逆位等の変異における数個の塩基数においても同様である。
上記の窒素固定活性関連遺伝子は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて導入することができる。
【0028】
上記のような窒素固定活性関連遺伝子を含むDNAは、ニトロゲナーゼ関連遺伝子と同様の方法で通常の遺伝子工学的手法に従って、アゾトバクター・ビネランディ株から得ることができる。PCRで使用するプライマーとしては、特に限定されないが、例えば配列番号155~366で表される塩基配列を有するプライマーが挙げられる。
【0029】
ニトロゲナーゼ関連遺伝子又は窒素固定活性関連遺伝子を用いた遺伝子組換えは常法により行うことができる。例えば、バクテリオファージ、コスミド、又は原核細胞若しくは真核細胞の形質転換に用いられるプラスミド等のベクターに、ニトロゲナーゼ関連遺伝子と、任意選択的に窒素固定活性関連遺伝子とを組み込むことで、宿主微生物は、各々のベクターに対応する窒素固定活性を発現するよう形質転換される。
限定することを意図するものではないが、そのようなプラスミドの例として、pTrcHis2-TOPO(invitrogen社製)及びpMW219(ニッポンジーン社製)が挙げられる。これらのプラスミドは、適切なプライマーを用いてPCRで増幅させることができる。例えば、pTrcHis2-TOPOは、配列番号42-43に示されるプライマーにより増幅することができ、pMW219は、配列番号44-45に示されるプライマーにより増幅することができる。
【0030】
ベクターにニトロゲナーゼ関連遺伝子又は窒素固定活性関連遺伝子を組み込む方法としては、特に限定されないが、シームレスクローニング及びオーバーラップエクステンションPCR法(Robert M. Horton et al., Gene, 1989, (77), p.61-68)が挙げられる。
シームレスクローニングは、例えば以下のようにして行うことができる。すなわち、ベクターDNAと、ニトロゲナーゼ関連遺伝子又は窒素固定活性関連遺伝子のDNAとを適切な濃度で混合し、In-FusionHD Cloning Kit(タカラバイオ社製)を用いてシームレスクローニングを行えばよい。
ニトロゲナーゼ関連遺伝子又は窒素固定活性関連遺伝子のDNAは、必要に応じて、事前にオーバーラップエクステンションPCR法(Robert M. Horton et al., Gene, 1989, (77), p.61-68)により増幅してもよい。すなわち、上記遺伝子群のDNA断片を適切な濃度で混合した後、Robert M. Horton et al., Gene, 1989, (77), p.61-68に準じて、オーバーラップエクステンションPCRを行ってもよい。
【0031】
ニトロゲナーゼ関連遺伝子に加えて窒素固定活性関連遺伝子を宿主微生物に導入する場合、1つのベクターにニトロゲナーゼ関連遺伝子及び窒素固定活性関連遺伝子の双方を組み込んでもよく、別々のベクターにニトロゲナーゼ関連遺伝子及び窒素固定活性関連遺伝子のそれぞれを組み込んでから、それぞれのベクターを宿主微生物に導入してもよい。同様に、ニトロゲナーゼ関連遺伝子は、各遺伝子を1つのベクターに組み込んでもよく、2以上のベクターに分けて組み込んでもよい。
【0032】
ニトロゲナーゼ関連遺伝子又は窒素固定活性関連遺伝子が組み込まれたプラスミドを宿主微生物へ導入する方法としては、特に限定されないが、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Fourth Editionに記載された塩化カルシウム法及びエレクトロポレーション法等を用いることができる。特に、導入するプラスミドが2種類ある場合、形質転換効率を高めるために、エレクトロポレーションを用いると好ましい。エレクトロポレーション法は、実施例に記載の方法を用いればよい。
ニトロゲナーゼ関連遺伝子又は窒素固定活性関連遺伝子が組み込まれたプラスミドが導入された形質転換体(組換え微生物)を選抜する方法としては、特に限定されないが、薬剤耐性選択マーカ遺伝子の表現型を指標にする方法が挙げられる。組換え微生物がニトロゲナーゼ関連遺伝子を保有していることは、制限酵素部位の確認など、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Fourth Edition記載の方法で確認することができる。
【0033】
本発明の組換え微生物は、ニトロゲナーゼ関連遺伝子及び窒素固定活性関連遺伝子以外に、アンモニアの生産効率増大に関与する遺伝子が発現するよう、別の遺伝子で更に形質転換されていてもよいし、その生産効率低下に関与する遺伝子を破壊するような変異が導入されていてもよい。アンモニアの生産効率増大に関与する遺伝子としては、glnA、ptsG等がある。
【0034】
(用途及び培養方法)
このような組換え微生物を培養することで、窒素固定活性を有した微生物や、それらの生産物を得ることができる。本発明の組換え微生物が有するニトロゲナーゼは、気体窒素からアンモニアを生産することが可能である。
【0035】
培養に用いられる炭素源としては、特に限定されないが、グルコース、フルクトース、及びスクロース等の糖類、グリセロール等の糖アルコール、並びに糖蜜等が挙げられる。これら炭素源の培地への添加量は、培地全体に対して、好ましくは0.1~30%(w/v)程度であるが、流加培養法等を用いることで更に多くの炭素源を添加することもできる。
培養に用いられる窒素源としては、特に限定されないが、例えば、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、及びアスパラギン、並びにそれらの塩等が挙げられる。これら窒素源の培地への添加量は、培地全体に対して、好ましくは0.1~100mM程度である。
更に、培地は、有機酸、無機塩、及びビタミン類を含んでもよい。そのような例としては、特に限定されないが、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、マンガン、コバルト、亜鉛、チアミン、ビオチン、及び4-ヒドロキシ安息香酸、並びにそれらの塩化物、硫酸塩、酢酸塩、炭酸塩、リン酸塩、モリブデン酸塩が挙げられる。このような添加剤を添加する場合、その添加量は、0.000001~10%(w/v)であると好ましい。
【0036】
更に、アロラクトースで誘導されるタイプのプロモーターによってニトロゲナーゼ関連遺伝子の転写誘導が制御されている場合には、誘導剤を添加することが好ましい。そのような誘導剤としては、特に限定されないが、例えば、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシドが挙げられる。誘導剤を添加する場合、誘導剤は、培地全体に対して、1μM~100mM添加されることが好ましい。
本発明者らは、本発明の組換え微生物を培養する培地がフマル酸塩を含むと、組換え微生物の窒素固定活性が向上することを見出した。すなわち、培地は、好ましくはフマル酸塩を含む。フマル酸塩としては、特に限定されないが、例えばフマル酸と、培地が含み得る又は実際に含む陽イオンとの塩である。具体的には、例えばフマル酸塩ナトリウム、フマル酸塩カリウム、フマル酸塩カルシウム、及びフマル酸マグネシウム等を用いることができる。培地は、これらの中でもフマル酸塩としてフマル酸ナトリウムを含むことが好ましい。
【0037】
組換え微生物の培養は、微生物等の培養に通常使用される方法に準じて行うことができる。そのような例としては、特に限定されないが、試験管振とう培養、ジャーファーメンテーション、及びタンク培養等が挙げられる。
培養温度は、組換え微生物が生育可能な範囲で適宜変更できるが、好ましくは約15~40℃である。培地のpHは、好ましくは6~8の範囲である。培養時間は、培養条件によって異なるが、通常1~7日間であり、連続培養などを用いる場合はさらに長期間の培養ができる。
【0038】
培地中の溶存酸素濃度は、ニトロゲナーゼが失活されない範囲内で適宜変更でき、好気条件もしくは微好気条件で培養することができる。本発明者らは、本発明の組換え微生物の培養において、溶存酸素濃度を制御することにより好適な培養を実現できることを見出した。ここで、「微生物を好適に培養することができる」とは、かかる微生物を増殖させるのに適切な条件であることを意味する。また、微好気条件とは、好気条件よりも培地中、又は培養雰囲気中の酸素濃度が低いものの、いくらかの酸素を含む条件を意味する。
培地中の溶存酸素濃度は、例えば0.5ppm以上8.0ppm以下である。溶存酸素濃度は、上記範囲内において、好ましくは0.75ppm以上であり、より好ましくは1.0ppm以上である。ニトロゲナーゼによる窒素固定反応には多量のATP及び電子が用いられるため、溶存酸素濃度が上記の範囲内にあると、組換え微生物はエネルギー効率が高くATP及び電子を産生できる傾向にあり、好適な培養が実現されると考えられる。溶存酸素濃度は、上記範囲内において、好ましくは4.0ppm以下、より好ましくは3.8ppm以下、更に好ましくは3.0ppm以下である。ニトロゲナーゼは酸素に対する感受性が高いものの、溶存酸素濃度が上記の範囲内にあると、組換え微生物中のニトロゲナーゼが失活しにくい傾向にあり、好適な培養が実現されると考えられる。
培地中の溶存酸素濃度は、従来公知の方法により容易に制御可能である。例えば、ジャーファーメンターの通気量や攪拌数を調整することで、培地を任意の溶存酸素濃度に制御することが出来る。また、培地中の溶存酸素濃度の測定方法としては、例えば蛍光式、ガルバニ電池式、又はポーラログラフ式センサを用いる方法が挙げられる。
【0039】
また、本発明者らは、本発明の組換え微生物に、ニトロゲナーゼ関連遺伝子に加えて窒素固定活性関連遺伝子を導入した場合、その窒素固定活性関連遺伝子の種類によって、窒素固定に好ましい培養条件が存在することを見出した。
具体的には、窒素固定活性関連遺伝子として(I)配列番号48~54のいずれか1つで表される塩基配列、(II)配列番号48~54のいずれか1つで表される塩基配列と80%以上(好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上)の相同性を有する塩基配列、又は(III)配列番号48~54のいずれか1つで表される塩基配列において1若しくは数個(1、2、3、4、5、6、7、8又は9であり、好ましくは1、2、3、4又は5であり、より好ましくは1、2又は3である。)の塩基が欠失、挿入、置換、若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子が導入された組換え微生物は、嫌気条件又は好気条件で培養されると好ましい。すなわち、これらの窒素固定活性関連遺伝子を導入した本発明の組換え微生物は、培養条件によらず、窒素固定活性が向上する。
また、窒素固定活性関連遺伝子として(IV)配列番号55~62のいずれか1つで表される塩基配列、(V)配列番号55~62のいずれか1つで表される塩基配列と80%以上(好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上)の相同性を有する塩基配列、又は(VI)配列番号55~62のいずれか1つで表される塩基配列において1若しくは数個(1、2、3、4、5、6、7、8又は9であり、好ましくは1、2、3、4又は5であり、より好ましくは1、2又は3である。)の塩基が欠失、挿入、置換、若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子が導入された組換え微生物は、嫌気条件で培養されると好ましい。
また、窒素固定活性関連遺伝子として(VII)配列番号63~75のいずれか1つで表される塩基配列、(VIII)配列番号63~75のいずれか1つで表される塩基配列と80%以上(好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上)の相同性を有する塩基配列、又は(IX)配列番号63~75のいずれか1つで表される塩基配列において1若しくは数個(1、2、3、4、5、6、7、8又は9であり、好ましくは1、2、3、4又は5であり、より好ましくは1、2又は3である。)の塩基が欠失、挿入、置換、若しくは付加された塩基配列を有する遺伝子が導入された組換え微生物は、好気条件で培養されると好ましい。
上記のような遺伝子が導入された組換え微生物を、上記の条件で培養することにより、窒素固定活性が一層向上する傾向にある。
なお、ここで、好気条件とは、培養雰囲気が一定以上の酸素を含む条件であり、例えば、20体積%の酸素を含む条件である。好気条件において、培養雰囲気は、例えば10体積%以上30体積%以下の酸素を含んでいてもよい。また、嫌気条件とは、培地の溶存酸素濃度が0.0ppmである条件である。
【0040】
組換え微生物の窒素固定活性の測定は、例えば、アセチレン還元法及び/又は重窒素標識法によって行うことができる。
アセチレン還元法とは、ニトロゲナーゼのアセチレン還元作用に基づいて、組換え微生物のニトロゲナーゼ活性を測定するものである。ニトロゲナーゼは、アセチレン存在条件下では、窒素固定の他に、アセチレンを還元してエチレンを生成する副反応を生じることが知られている。したがって、アセチレンの還元反応を優先的に生じる条件下で、組換え微生物を培養してアセチレンを還元させ、エチレンの生成量を測定することで、組換え微生物の窒素固定活性を間接的に測定することができる。
このようなアセチレン還元法は、例えば、以下のようにして行うことができる。組換え微生物の培養物やそれらの処理物をねじ口試験管等に入れ、ヘッドスペース部分の10~20%容量のアセチレンガスを封入し、1~24時間反応させる。その後、ヘッドスペースから50~500μLのガスを抜き取り、ニトロゲナーゼによって生成されたエチレンガス濃度をGC-FIDまたはGC-MSで測定すればよい。具体的には、実施例に記載の方法を用いればよい。
【0041】
重窒素標識法とは、気体窒素として重窒素(15N)を用いる条件下で、組換え微生物に窒素固定を生じさせ、その後の培養物中の重窒素の含有量を測定することで、窒素固定の量を測定するものである。
このような重窒素標識法は、Joseph P. Montoya et al., Applied and Environmental Microbiology, 1996, p.986-993に記載の方法で行うことができる。あるいは、実施例に記載の方法を用いればよい。
【0042】
(アンモニア製造方法)
本発明の組換え微生物を用いることにより、アンモニアを製造することができる。このようなアンモニアの製造方法は、本発明の組換え微生物を、培地中で飽和する程度に気体窒素を吹き込む条件下(窒素雰囲気下)で培養する工程(培養工程)を含む。
本発明の組換え微生物は、ニトロゲナーゼ関連遺伝子が発現することにより、窒素雰囲気下において、存在する気体窒素を窒素源として、窒素固定を行ってアンモニアを生産する。本発明のアンモニア製造方法は、ハーバー・ボッシュ法に代わる窒素固定方法として有用である。
【0043】
気体窒素としては、例えば、大気中の窒素及び純窒素を用いることができる。上記培養工程は、水及び培地を嫌気状態にして行ってもよく、酸素存在条件下で行ってもよい。用いる水及び培地は、緩衝剤を含んでいてもよく、そのような緩衝剤の例としては、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム、及びリン酸カリウム等のリン酸アルカリ金属が挙げられる。
【0044】
培養工程における窒素雰囲気以外の培養条件については、本発明の組換え微生物がアンモニアを生産するのに適した条件下で行われる。その条件は使用する微生物の種類に応じて当業者が適宜決定することができるが、培養方法、培地が含む成分、培養雰囲気中の酸素の有無、及び培地の溶存酸素濃度は、「(組換え微生物)」の項に記載したものと同じであってよい。また、導入する窒素固定活性関連遺伝子の塩基配列と、好ましい培養条件(好気条件であるか、又は嫌気条件であるか、あるいは好気条件若しくは嫌気条件である。)との組み合わせを、「(組換え微生物)」の項に記載したものとしてもよい。
また、培養工程における培地のpHは適宜選択することができるが、通常pH3~10の範囲である。また、培養工程における反応温度は適宜選択することができるが、ニトロゲナーゼの活性を高める観点から、通常0~50℃の範囲である。
培養工程における培地は、好ましくはフマル酸塩を含む。フマル酸塩としては、特に限定されないが、例えばフマル酸と、培地が含み得る又は実際に含む陽イオンとの塩である。具体的には、例えばフマル酸塩ナトリウム、フマル酸塩カリウム、フマル酸塩カルシウム、及びフマル酸マグネシウム等を用いることができる。培地は、これらの中でもフマル酸塩としてフマル酸ナトリウムを含むことが好ましい。培地が上記のような成分を含むことにより、組換え微生物の窒素固定活性が一層向上する傾向にある。
【0045】
培養工程後において、窒素固定物及び組換え微生物を含む反応液からアンモニアを回収する方法は、一般的に知られている任意の方法で行うことができる。例えば、反応液に対し中和反応、濃縮操作、及び塩析操作等の後処理をした後、必要によりゲルろ過クロマトグラフィーや蒸留などを組み合わせて行うことで精製する方法が挙げられる。
回収したアンモニアの態様としては、特に限定されないが、例えば、アンモニア水溶液、及びアンモニアと酸との塩が挙げられる。そのような塩における酸は、回収後のアンモニアの用途に応じて適宜選択すればよいが、例えば、回収後のアンモニアを農業用肥料に用いる場合は、硫酸及び硝酸が好適に用いられる。また、回収後のアンモニアを食品用途に用いる場合は、乳酸、酢酸、塩酸、及び硫酸が好適に用いられる。
【0046】
(アンモニアの用途)
製造されたアンモニアは種々の用途に使用される。例えば、アンモニアを栄養源とすることで各種微生物を培養することが可能であり、その菌体や培養物の加工品であるタンパク質含有飲食品、調味料、発酵調味料、アミノ酸類、酵母エキス等の飲食品に使用される。また飲食品以外にも、硝酸等の基礎化学品、硫安や燐安等の窒素肥料等の原料に好適に使用される。
【0047】
(タンパク質製造方法)
本発明の組換え微生物を用いることにより、タンパク質、特にニトロゲナーゼ関連タンパク質を製造することができる。このようなタンパク質の製造方法は、組換え微生物からタンパク質を精製する工程を含む。また、組換え微生物を培養する工程を含んでもよい。培養条件は使用する微生物の種類に応じて当業者が適宜決定することができる。
【0048】
培養物からタンパク質を回収する方法は、一般的に知られている任意の方法で行えばよい。例えば培養物に対して中和反応、濃縮操作、及び塩析操作等の後処理をした後、必要によりゲルろ過クロマトグラフィーや蒸留などを組み合わせて行うことで精製する方法が挙げられる。
【0049】
タンパク質の製品形態としては、特に限定されないが、例えば、ニトロゲナーゼ関連遺伝子を保有する組換え微生物の培養物、これの処理物、無細胞抽出物、粗精製タンパク質、及び精製タンパク質が挙げられる。組換え微生物の処理物としては、凍結乾燥物、有機溶媒処理物、乾燥物、摩砕物、自己消化物、超音波破砕物、ビーズ破砕物、アルカリ処理物、及び酸処理物などが挙げられる。
組換え微生物は死菌化処理を行うこともでき、例えば、物理的殺菌(加熱、乾燥、冷凍、超音波、ろ過、又は通電)及び化学薬品(アルカリ、酸、ハロゲン、酸化剤、アルコール、フェノール、又はケトン)を用いる殺菌法が挙げられる。これらの殺菌法のうち、最終製品への影響が少なく、環境負荷が低い方法が選択されることが好ましい。
【0050】
(タンパク質の用途)
製造されたタンパク質は、窒素固定活性を有するタンパク質、特に酵素として使用され得る。
【0051】
(本発明の組換え微生物の培養方法)
本発明は、更に、0.5ppm以上4.0ppm以下の濃度で溶存酸素を含む培地において本発明の組換え微生物を培養する工程を含む、微生物の培養方法を提供する。このような方法によれば、本発明の組換え微生物を好適に培養することができる。ここで、「微生物を好適に培養することができる」とは、かかる微生物を増殖させるのに適切な条件であることを意味する。
【0052】
培養対象である微生物は、上記の本発明の組換え微生物である。本発明の組換え微生物としては、上記のニトロゲナーゼ関連遺伝子及び上記の窒素固定活性関連遺伝子が導入された微生物であってもよいし、上記のニトロゲナーゼ関連遺伝子のみが導入され上記の窒素固定活性関連遺伝子が導入されていない微生物であってもよい。宿主微生物としては、特に限定されないが、例えば大腸菌が挙げられる。宿主微生物としては、好気性又は通性嫌気性の微生物が好ましく、好気性又は通性嫌気性の細菌が好ましい。
【0053】
本発明の培養方法において、培地の溶存酸素濃度は0.5ppm以上4.0ppm以下である。溶存酸素濃度が上記の範囲内にあることにより、微生物はエネルギー効率が高くATP及び電子を産生できる傾向にあり、ニトロゲナーゼによる窒素固定反応に有利となる。また、溶存酸素濃度が上記の範囲内にあることにより、微生物が有するニトロゲナーゼの失活が抑制される。したがって、本発明の培養方法によれば、窒素固定活性を有する微生物を好適に培養できる共に、微生物の窒素固定活性を向上させることができる傾向にある。
培地の溶存酸素濃度は、上記の範囲内において、0.75ppm以上であると好ましく、また、3.8ppm以下であると好ましい。培地の溶存酸素濃度は、0.75ppm以上3.0ppm以下であるとより好ましい。
【0054】
培地の溶存酸素濃度以外は、培養対象とする微生物の種類に応じて当業者が適宜決定することができる。培養条件として、上記の「(組換え微生物)」の項に記載した培養条件を参照することができる。
培養工程における培地は、好ましくはフマル酸塩を含む。フマル酸塩としては、特に限定されないが、例えばフマル酸塩ナトリウム、フマル酸塩カリウム、フマル酸塩カルシウム、及びフマル酸マグネシウム等が挙げられる。培地は、これらの中でもフマル酸塩としてフマル酸ナトリウムを含むことが好ましい。培地が上記のような成分を含むことにより、組換え微生物の窒素固定活性が一層向上する傾向にある。
【実施例
【0055】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
[プラスミドの作製]
Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Fourth Editionに記載された通常の遺伝子工学的手法に準じて、アゾトバクター・ビネランディDJ株由来の遺伝子群(iscA遺伝子、nifE遺伝子、nifN遺伝子、nifX遺伝子、nifU遺伝子、nifS遺伝子、nifY遺伝子、nifZ遺伝子、nifV遺伝子、nifB遺伝子、nifQ遺伝子、nifW遺伝子、nifM遺伝子、nifF遺伝子、nifH遺伝子、nifD遺伝子、及びnifK遺伝子)を抽出及び増幅した。
すなわち、アゾトバクター・ビネランディDJ株から、上記遺伝子群のDNAをISOGEN(ニッポンジーン社製)で抽出した。次に、適切な配列番号18-41に示されるプライマーをそれぞれ用いて、PCRを行うことで、上記遺伝子群のDNAを増幅した。
具体的には、nifE遺伝子、nifN遺伝子、及びnifX遺伝子の増幅には、配列番号22及び23に示されるプライマーを;iscA遺伝子、nifU遺伝子、nifS遺伝子、及びnifV遺伝子の増幅には、配列番号24、25、36、及び37に示されるプライマーを;nifY遺伝子の増幅には、配列番号20、21、40、及び41に示されるプライマーを;nifB遺伝子の増幅には、配列番号30、31、34、及び35に示されるプライマーを;nifQ遺伝子の増幅には、配列番号32及び33に示されるプライマーを;nifW遺伝子、nifZ遺伝子、及びnifM遺伝子の増幅には、配列番号26、27、38、及び39に示されるプライマーを;nifF遺伝子の増幅には、配列番号28及び29に示されるプライマーを;nifH遺伝子、nifD遺伝子、及びnifK遺伝子の増幅には、配列番号18及び19に示されるプライマーを;それぞれ用いてPCRを行った。なお、配列番号34-41に示されるプライマーは、シームレスクローニングに用いた。
ここで、PCRは、KOD PLUS NEO(東洋紡社製)又はKOD FX NEO(東洋紡社製)を用いて、94℃で2分加熱した後、98℃、58℃、68℃の温度で、それぞれ10秒、30秒、30秒保持するサイクルを20サイクル行った。
なお、該当するPCRに用いるプライマーの5’末端側には、制限酵素認識配列またはシームレスクローニングに用いる15bpの相同配列を付与した。
なお、nifE遺伝子、nifN遺伝子、nifX遺伝子、iscA遺伝子、nifU遺伝子、nifS遺伝子、nifY遺伝子、nifZ遺伝子、nifV遺伝子、nifB遺伝子、nifQ遺伝子、nifW遺伝子、nifM遺伝子、nifF遺伝子、nifH遺伝子、nifD遺伝子、及びnifK遺伝子は、それぞれ配列番号1-17で示される塩基配列を有するものを用いた。
【0057】
次に、シームレスクローニングにより目的のプラスミドを作製した。
シームレスクローニングは以下のようにして行った。すなわち、プラスミドpTrcHis2-TOPO(invitrogen社製)及びpMW219(ニッポンジーン社製)を配列番号42-45に示されるプライマーを用いてPCRで増幅させ、それぞれ対応するベクターDNAを得た。具体的には、pTrcHis2-TOPOの増幅には、配列番号42-43に示されるプライマーを;pMW219の増幅には、配列番号44-45に示されるプライマーを;それぞれ用いた。得られたベクターDNAと、上記遺伝子群のDNAとを適切な濃度で混合し、In-FusionHD Cloning Kit(タカラバイオ社製)を用いてシームレスクローニングを行うことで、プラスミドpTrcHis2-TOPO及びMW219にそれぞれ対応する、配列番号46及び47に示されるニトロゲナーゼ発現用プラスミドを得た。
上記遺伝子群のDNAは、必要に応じて、事前にオーバーラップエクステンションPCR法(Robert M. Horton et al.,Gene, 1989, (77), p.61-68)により増幅した。すなわち、上記遺伝子群は2つの遺伝子群のDNA断片を適切な濃度で混合した後、Robert M. Horton et al.,Gene, 1989, (77), p.61-68に準じて、オーバーラップエクステンションPCRを行った。
【0058】
[形質転換]
エレクトロポレーション法により、大腸菌JM109(タカラバイオ社製)に、配列番号46及び47に記載のニトロゲナーゼ発現用プラスミドを導入した。より詳細には、エレクトロポレーション用のコンピテントセル50μLに配列番号46及び47に記載のプラスミドを100ngずつ加えたのち、1mm gapキュベット(ネッパジーン社製)に封入した。このキュベットをNEPA Porator(ネッパジーン社製)にて1.5kVの電圧条件下で通電した後、SOC培地1mLを加えて回復培養を37℃で1時間行った。
得られた組換え微生物の選抜は、薬剤耐性選択マーカ遺伝子の表現型を指標に行った。より詳細には、100μg/mL アンピシリンと20μg/mL カナマイシンとを添加したLB寒天培地にて37℃で1日培養し、目的の組換え微生物を選抜した。
Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Fourth Editionに準じて、制限酵素部位の確認を行うことにより、得られた組換え微生物に目的のニトロゲナーゼ関連遺伝子が導入されていることを確認した。
【0059】
[アセチレン還元法]
アセチレン還元法により、上記[形質転換]により得られた本発明の組換え微生物のニトロゲナーゼ活性を測定した。ニトロゲナーゼにより発現する窒素固定活性と、アセチレン還元法により測定されるニトロゲナーゼ活性とは、正の相関があることが知られているため、アセチレン還元法により、間接的に窒素固定活性を測定することができる。
【0060】
Jianguo Yang et al., "Reconstruction and minimal gene requirements for the alternative iron-only nitrogenase in Escherichia coli", PNAS, 111 (35) E3718-E3725, (2014).に記載の培地を含む、15mlねじ口試験管4つをそれぞれ窒素固定用培地として用いた。
【0061】
次いで、4つの窒素固定用培地それぞれに、LB培地で一晩振とう培養した組換え微生物をOD600が0.5となるように加えることで、組換え微生物懸濁液を得た。この組換え微生物懸濁液のそれぞれを、アルゴンガスを通気して嫌気状態にして密閉した後、それぞれに0mM、0.01mM、0.1mM、又は1mMのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシドが含まれた水溶液を5μL加えた。
【0062】
更に、上述の組換え微生物懸濁液を含むねじ口試験管のそれぞれに、1mLのアセチレンガスを注入し、30℃で24時間培養した。培養後、試験管内のヘッドスペース部分のガスをタイトシリンジで100μL抜き取り、エチレン含有量をGC-MS(島津製作所社製、GC-MS-QP2010)で測定することで、ニトロゲナーゼ活性を評価した。以上の実験を各条件につき3回行い平均値及び標準偏差を求めた。結果を図1に示す。
【0063】
なお、エチレン標準ガス(ジーエルサイエンス社製)を希釈して、0.6~107pmol/mlの範囲内で作成された検量線を用いて、ヘッドスペース部分のエチレン含有量を算出した。また、GC-MSの測定条件は以下の通りである。
【0064】
(GCの測定条件)
気化室温度 :50℃
カラムオーブン温度:30℃
スプリット比 :10
カラム :HP-PLOT/Qカラム(カラム長30m、内径0.32mm、膜厚20μm、アジレント社製)
キャリアガス :He
ガス流速 :1.16mL/分
(MSの測定条件)
イオン化法 :電子イオン化法
イオン源温度 :200℃
測定モード :SIM
測定m/z比 :28
【0065】
[実施例2]
[重窒素標識法]
Joseph P. Montoya et al., Applied and Environmental Microbiology, 1996, p.986-993に準じた重窒素固定標識法により、本発明の組換え微生物の窒素固定量を測定した。
【0066】
実施例1と同様にして、大腸菌JM109に、配列番号46及び47に記載のニトロゲナーゼ発現用プラスミドを導入することで、組換え微生物を作製した。
【0067】
Jianguo Yang et al., "Reconstruction and minimal gene requirements for the alternative iron-only nitrogenase in Escherichia coli", PNAS, 111 (35) E3718-E3725, (2014).に記載の培地を22mLバイアルに10mL分注した。次いで、LB培地で一晩振とう培養した組換え微生物をOD600が0.5となるように加えた。コントロールとして、別の培地入りバイアルに大腸菌JM109株を加えた。その後、それぞれのバイアルに、0.1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシドを含む水溶液を10μL加え、窒素ガスを通気して嫌気状態にした後密閉した。
【0068】
更に、それぞれのバイアルのヘッドスペース部分から1.2mLのガスをタイトシリンジで抜き取った後、安定同位体重窒素ガス(SIサイエンス社製)1.2mLをタイトシリンジで加え、25℃で72時間培養した。培養後、培養物を80℃で120分間加熱して滅菌処理を行ったのち、凍結乾燥した。該凍結乾燥物をSIサイエンス社の安定同位体比質量分析サービスにて分析することにより、培養物中に含まれていた重窒素のA(atom%)及びδ15N(‰)を測定した。結果を表1に示す。
なお、「A(atom%)」及び「δ15N(‰)」は、それぞれ下記式(1)及び(2)によって算出した。ここで、「15N」及び「14N」は、それぞれ、検出された窒素15及び窒素14の物質量(mol)を表し、「sample」及び「atmosphere」は、それぞれ培養物中及び大気中において測定したことを表す。
【0069】
【数1】
【0070】
【数2】
【0071】
【表1】
【0072】
[実施例3]
[培養条件の検討]
アセチレン還元法を用いて、培地に添加する化合物が本発明の組換え微生物のニトロゲナーゼ活性に与える影響を評価した。なお、評価に供した組換え微生物は、実施例1と同様にして作製した。
【0073】
Jianguo Yang et al., "Reconstruction and minimal gene requirements for the alternative iron-only nitrogenase in Escherichia coli", PNAS, 111 (35) E3718-E3725, (2014).に記載の培地を含む、15mlねじ口試験管8つをそれぞれ窒素固定用培地として用いた。
【0074】
次いで、8つの窒素固定用培地それぞれに、LB培地で一晩振とう培養した組換え微生物をOD600が0.5となるように加えることで、組換え微生物懸濁液を得た。この組換え微生物懸濁液のうち4つは、アルゴンガスを通気して嫌気条件にし、残る4つは、ヘッドスペース部分の20%(V/V)を酸素に置き換えて好気条件にして、密閉した。その後、嫌気条件又は好気条件である組換え微生物懸濁液4つについて、フマル酸ナトリウム、システイン、若しくは硝酸ナトリウムを含む水溶液(いずれも濃度は10mMである。)、又は純水を100μL加えることで、サンプル及び対照サンプルを準備した。更に、全ての組換え微生物懸濁液に、0.1Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシドを含む水溶液を5μL加えた。
【0075】
次いで、上述の組換え微生物懸濁液を含むねじ口試験管のそれぞれに、1mLのアセチレンガスを注入し、30℃で24時間培養した。培養後、試験管内のヘッドスペース部分のガスをタイトシリンジで100μL抜き取り、実施例1と同様にしてエチレン含有量を測定することで、各条件で培養した組換え微生物のニトロゲナーゼ活性を評価した。以上の実験を各条件につき3回行い平均値及び標準偏差を求めた。結果を図2に示す。
図2から、フマル酸ナトリウムを添加した培地(特に嫌気条件)において、エチレン生成量が増加しており、フマル酸塩が組換え微生物のニトロゲナーゼ活性を向上させることが示唆された。その他、システイン又は硝酸ナトリウムを添加した培地では、むしろエチレン生成量が低下しており、システイン及び硝酸ナトリウムが組換え微生物のニトロゲナーゼ活性を低下させることが示唆された。
【0076】
[実施例4]
[プラスミドの作製]
Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Fourth Editionに記載された通常の遺伝子工学的手法に準じて、アゾトバクター・ビネランディDJ株由来の遺伝子群(iscA遺伝子、nifE遺伝子、nifN遺伝子、nifX遺伝子、nifU遺伝子、nifS遺伝子、nifY遺伝子、nifZ遺伝子、nifV遺伝子、nifB遺伝子、nifQ遺伝子、nifW遺伝子、nifM遺伝子、nifF遺伝子、nifH遺伝子、nifD遺伝子、及びnifK遺伝子)を抽出及び増幅した。具体的な方法は実施例1と同様にした。
また、同様の方法で、配列番号48~153で表される塩基配列を有する各遺伝子をアゾトバクター・ビネランディDJ株から抽出及び増幅した。すなわち、アゾトバクター・ビネランディDJ株から、上記遺伝子群のDNAをISOGEN(ニッポンジーン社製)で抽出した。次に、配列番号155~366で表される塩基配列を有する適切なプライマーをそれぞれ用いてPCRを行うことで、上記遺伝子群のDNAを増幅した。配列番号48~153で表される塩基配列を有する各遺伝子と、その増幅に用いたプライマーとの組み合わせは、表2-1、2-2、2-3、2-4、及び2-5のとおりである。
また、参考例として用いる配列番号154で表される塩基配列を有するnifJ遺伝子の人工合成遺伝子は、ジェンスクリプト社から入手した。
【0077】
【表2-1】
【0078】
【表2-2】
【0079】
【表2-3】
【0080】
【表2-4】
【0081】
【表2-5】
【0082】
PCRは、KOD PLUS NEO(東洋紡社製)又はKOD FX NEO(東洋紡社製)を用いて、94℃で2分加熱した後、98℃、58℃、68℃の温度で、それぞれ10秒、30秒、30秒保持するサイクルを20サイクル行った。
なお、該当するPCRに用いるプライマーの5’末端側には、制限酵素認識配列またはシームレスクローニングに用いる15bpの相同配列を付与した。
また、実施例1と同様に、nifE遺伝子、nifN遺伝子、nifX遺伝子、iscA遺伝子、nifU遺伝子、nifS遺伝子、nifY遺伝子、nifZ遺伝子、nifV遺伝子、nifB遺伝子、nifQ遺伝子、nifW遺伝子、nifM遺伝子、nifF遺伝子、nifH遺伝子、nifD遺伝子、及びnifK遺伝子は、それぞれ配列番号1-17で示される塩基配列を有するものを用いた。
【0083】
次に、シームレスクローニングにより目的のプラスミドを作製した。
シームレスクローニングは以下のようにして行った。すなわち、プラスミドpTrcHis2-TOPO(invitrogen社製)及びpMW219(ニッポンジーン社製)を配列番号42-45に示されるプライマーを用いてPCRで増幅させ、それぞれ対応するベクターDNAを得た。具体的には、pTrcHis2-TOPOの増幅には、配列番号42-43に示されるプライマーを;pMW219の増幅には、配列番号44-45に示されるプライマーを;それぞれ用いた。
得られたベクターDNAと、ニトロゲナーゼ関連遺伝子(iscA遺伝子、nifE遺伝子、nifN遺伝子、nifX遺伝子、nifU遺伝子、nifS遺伝子、nifY遺伝子、nifZ遺伝子、nifV遺伝子、nifB遺伝子、nifQ遺伝子、nifW遺伝子、nifM遺伝子、nifF遺伝子、nifH遺伝子、nifD遺伝子、及びnifK遺伝子の全て)と、配列番号48~154のいずれか1つで表される塩基配列を有する1つの遺伝子とを適切な濃度で混合し、In-FusionHD Cloning Kit(タカラバイオ社製)を用いてシームレスクローニングを行った。
以上のようにして、プラスミドpTrcHis2-TOPO又はMW219に、ニトロゲナーゼ関連遺伝子と、配列番号48~154のいずれか1つで表される塩基配列を有する1つの遺伝子とが導入されたニトロゲナーゼ発現用プラスミドを得た。
なお、上記遺伝子群のDNAは、必要に応じて、事前にオーバーラップエクステンションPCR法(Robert M. Horton et al.,Gene, 1989, (77), p.61-68)により増幅した。すなわち、上記遺伝子群は2つの遺伝子群のDNA断片を適切な濃度で混合した後、Robert M. Horton et al.,Gene, 1989, (77), p.61-68に準じて、オーバーラップエクステンションPCRを行った。
【0084】
[形質転換]
エレクトロポレーション法により、大腸菌JM109(タカラバイオ社製)に、pTrcHis2-TOPO由来及びMW219由来のニトロゲナーゼ発現用プラスミドを導入した。より詳細には、エレクトロポレーション用のコンピテントセル50μLにpTrcHis2-TOPO由来及びMW219由来のニトロゲナーゼ発現用プラスミドを100ngずつ加えたのち、1mm gapキュベット(ネッパジーン社製)に封入した。このキュベットをNEPA Porator(ネッパジーン社製)にて1.5kVの電圧条件下で通電した後、SOC培地1mLを加えて回復培養を37℃で1時間行った。
得られた組換え微生物の選抜は、薬剤耐性選択マーカ遺伝子の表現型を指標に行った。より詳細には、100μg/mL アンピシリンと20μg/mL カナマイシンとを添加したLB寒天培地にて37℃で1日培養し、目的の組換え微生物を選抜した。
Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Fourth Editionに準じて、制限酵素部位の確認を行うことにより、得られた組換え微生物に目的のニトロゲナーゼ関連遺伝子と、配列番号48~154のいずれか1つで表される塩基配列を有する1つの遺伝子とが導入されていることを確認した。
【0085】
[窒素固定活性関連遺伝子の検討]
アセチレン還元法を用いて、ニトロゲナーゼ関連遺伝子が導入された組換え微生物に導入することにより窒素固定活性を向上させることができる遺伝子を選抜した。
まず、上記の方法で、ニトロゲナーゼ関連遺伝子と、配列番号48~154のいずれか1つで表される塩基配列を有する1つの遺伝子とが導入された組換え微生物を107種作製した。対照サンプルとして、実施例1で作製した組換え微生物を用いた。
【0086】
実施例1に記載の方法に従って、作製した各組換え微生物の窒素固定活性を測定した。なお、培養条件について、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシドを含む水溶液の濃度は0.1mMとし、嫌気条件及び好気条件の双方について測定を行った。なお、嫌気条件及び好気条件は、実施例3と同様にして得た。結果を図3、並びに表3-1、3-2、及び3-3に示す。なお、対照サンプルとして、ニトロゲナーゼ関連遺伝子のみを導入した組換え微生物についても同様の測定をしたところ、好気条件では35nM、嫌気条件では29nMのエチレン生成が確認された。
図3、並びに表3-1、3-2、及び3-3から、配列番号48~154で表される塩基配列を有する各遺伝子のほとんどが、本発明の組換え微生物の窒素固定活性を向上させることがわかった。中でも、配列番号48~75で表される塩基配列を有する各遺伝子は、窒素固定活性向上遺伝子として公知である配列番号154で表される塩基配列を有するnifJ遺伝子よりも窒素固定活性を向上させることがわかった。
【0087】
【表3-1】
【0088】
【表3-2】
【0089】
【表3-3】
【0090】
[実施例5]
[組換え微生物の培養条件の検討]
以下のようにして、本発明の組換え微生物の培養条件について検討した。微生物としては、実施例1で作製した組換え微生物を用いた。
Jianguo Yang et al., "Reconstruction and minimal gene requirements for the alternative iron-only nitrogenase in Escherichia coli", PNAS, 111 (35) E3718-E3725, (2014).に記載の培地に、LB培地で一晩振とう培養した組換え微生物をOD600が0.5となるように加えることで、組換え微生物懸濁液を得た。この微生物懸濁液を、30℃条件下、溶存酸素濃度が一定になるように制御しながら、ジャーファーメンター中で96時間培養した。培養後の組換え微生物懸濁液のOD600を測定した。培地の溶存酸素濃度と測定されたOD600との関係を図4及び表4に示す。対照サンプルとしては、形質転換していない大腸菌JM109株を用いた。
【0091】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、窒素固定活性を発現する新規な組換え微生物、それを用いたアンモニアの製造方法若しくはタンパク質の製造方法、又はその培養方法を提供することができるため、本発明は産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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