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特許7576023研磨用組成物、研磨方法および基板の製造方法
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  • 特許-研磨用組成物、研磨方法および基板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨方法および基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20241023BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20241023BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20241023BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20241023BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
H01L21/304 622B
B24B37/00 H
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021509462
(86)(22)【出願日】2020-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2020013088
(87)【国際公開番号】W WO2020196542
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2019061636
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】張 ▲逸▼羣
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-150264(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0085209(US,A1)
【文献】特開2006-026885(JP,A)
【文献】特開2007-299942(JP,A)
【文献】特開2015-189898(JP,A)
【文献】特開2019-157120(JP,A)
【文献】特開2018-012752(JP,A)
【文献】特表2017-524767(JP,A)
【文献】特開2014-022511(JP,A)
【文献】国際公開第2017/200297(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0114928(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
H01L 21/304
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨用組成物であって、
シリカを含み、かつ該シリカ表面に位置するシラノール基を構成する水素原子の少なくとも一部が、アルミニウム、クロム、チタン、ジルコニウム、鉄、亜鉛、スズ、スカンジウムおよびガリウムからなる群より選ばれる少なくとも1つである金属原子Mのカチオンで置換されている、砥粒と、
pH調整剤と、
分散媒と、
標準電極電位が0.5V以上である酸化剤と、
金属研磨促進剤と、
を含み、pH4以上7以下であり、樹脂を含む研磨対象物を研磨するために用いられる、研磨用組成物。
【請求項2】
1個の金属原子Mが、1個のシラノール基の1個の酸素原子と結合する、1個の金属原子Mが、2個のシラノール基の2個の酸素原子と結合する、あるいは、1個の金属原子Mが、3個のシラノール基の3個の酸素原子と結合する、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記砥粒の一次粒子径が40~150nmである、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記研磨用組成物の総重量に対し、前記砥粒の含有量が0.1~10重量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記金属研磨促進剤が、カルボン酸およびアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記アミノ酸の窒素原子数が、3~4である、または、構造中に複素環を有する、請求項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記樹脂の融点が200℃以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記樹脂が窒素原子を有する、請求項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する工程を含む研磨方法であって、前記研磨対象物の表面がパターン化構造を含み、かつ該パターン化構造が樹脂を含む、研磨方法。
【請求項10】
前記パターン化構造がさらに金属材料を含み、前記金属材料には銅、アルミニウム、コバルト、タングステンおよびこれらの組み合わせからなる群より選ばれる少なくとも1種が含まれる、請求項に記載の研磨方法。
【請求項11】
研磨圧力が5psiであるときの、前記研磨用組成物の前記樹脂に対する除去速度を第1の除去速度R1とし、前記研磨用組成物の前記金属材料に対する除去速度を第2の除去速度R2としたときに、前記第1の除去速度の第2の除去速度に対する比の値R1/R2は0.5~6.0である、請求項10に記載の研磨方法。
【請求項12】
基板を準備する工程と、
請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物を使用して前記基板に対し研磨を行う工程と、
を含み、
該基板の表面はパターン構造を含み、かつ該パターン構造は樹脂および金属材料を含む、基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨用組成物、この研磨用組成物を使用する研磨方法、および基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体産業においては通常、半導体基板(例えばウェハ)表面の平坦度を高めるために平坦化技術を使用している。化学機械研磨(chemical mechanical polishing, CMP)はよく用いられる平坦化技術の1つである。化学機械研磨技術は、シリカまたはアルミナ、セリア等の砥粒、防蝕剤、界面活性剤等を含む研磨用組成物を使用して、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法である。
【0003】
さらに、樹脂材料を含む基板(本明細書では“樹脂含有基板”と略称することもある)も普及してきている。よって、樹脂含有基板を研磨するのに適用される研磨用組成物へのニーズも次第に増加してきている。
【0004】
特許文献1はアルミナ、錯化剤、酸化剤を含む化学機械研磨用組成物を開示している。特許文献1の化学機械研磨用組成物は樹脂層と導体層に対して化学機械研磨を行うのに適用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】台湾特許出願公開第200535218 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、樹脂含有基板を高速で研磨できる研磨用組成物は従来存在しなかった。そこで、樹脂含有基板を高速で研磨できる研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のいくつかの実施形態は、研磨用組成物であって、シリカを含み、かつ該シリカ表面に位置するシラノール基を構成する水素原子の少なくとも一部が、アルミニウム、クロム、チタン、ジルコニウム、鉄、亜鉛、スズ、スカンジウムおよびガリウムからなる群より選ばれる少なくとも1つである金属原子Mのカチオンで置換されている、砥粒と、pH調整剤と、分散媒と、を含む、pH2を超えて7以下である、研磨用組成物を開示する。
【0008】
さらに、本発明の別のいくつかの実施形態は、上記研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する工程を含む研磨方法であって、該研磨対象物の表面がパターン化構造を含み、かつ該パターン化構造が樹脂材料を含む、研磨方法を開示する。
【0009】
本発明のまた別のいくつかの実施形態は、基板を準備する工程であって、該基板の表面はパターン構造を含み、かつ該パターン構造が樹脂材料を含む、工程と、上記研磨用組成物を使用して該基板に対し研磨を行う工程と、を含む基板の製造方法を開示する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂含有基板を高速で研磨できる研磨用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のいくつかの実施形態による砥粒の表面修飾ステップの説明図である。
図2】未修飾のシリカ砥粒の表面の模式図である。
図3】一部のケイ素原子がアルミニウム原子に置換されていることを示すシリカ砥粒の表面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の上述およびその他の目的、特徴、ならびに長所がより明瞭に、かつ分かりやすくなるよう、以下に好ましい実施形態を挙げ、詳細に説明していく。
【0013】
以下に本発明の実施形態を説明する。本発明はこれら実施形態に限定されることはない。
【0014】
本発明の一実施形態は、研磨用組成物であって、シリカを含み、かつ該シリカ表面に位置するシラノール基を構成する水素原子の少なくとも一部が、アルミニウム、クロム、チタン、ジルコニウム、鉄、亜鉛、スズ、スカンジウムおよびガリウムからなる群より選ばれる少なくとも1つである金属原子Mのカチオンで置換されている、砥粒と、pH調整剤と、分散媒と、を含む、pH2を超えて7以下である、研磨用組成物である。
【0015】
本実施形態において、研磨用組成物は、内部ではなく表面が特定の金属カチオンで修飾されたコロイダルシリカを砥粒として有する。本実施形態の研磨用組成物を用いて樹脂を含む材料で形成されたパターン化構造を含む研磨対象物を研磨すると、樹脂材料の除去速度(本明細書中、研磨速度とも称する)を大幅に高めることができる。
【0016】
ただし、本発明に係る研磨用組成物に適用される研磨対象物に特に限定はなく、一般的な半導体基板であれば適用可能である。研磨対象物として、例えば、アモルファスシリコン、結晶シリコン、酸化ケイ素、窒化ケイ素等のシリコン含有基板を挙げることができる。本発明に係る研磨用組成物は、樹脂を含む材料より形成されたパターン化構造を含む基板を研磨するのに特に適しており、このような基板を研磨するときに本発明の技術的効果が存分に発揮される。
【0017】
樹脂材料の具体例として、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)(融点:260℃)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)(融点:200℃以上)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)(融点:223℃)、ポリイミド(PI)(融点:200℃以上)、ポリアミド(PA)(融点:187℃)、エポキシ樹脂(融点:200℃以上)、ウレタンアクリレート樹脂(融点:200℃以上)、不飽和ポリエステル樹脂(融点:200℃以上)、フェノール樹脂(融点:200℃以上)、ポリノルボルネン樹脂、ポリアセタール(POM)(融点:175℃)、ポリカーボネート(PC)(融点:120℃)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)(融点:300℃以上)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)(融点:136℃)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)(融点:270℃)、非晶ポリアリレート(PAR)(融点:250℃)、ポリスルホン(PSF)(融点:185℃)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)(融点:288℃)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)(融点:343℃)、ポリエーテルイミド(PEI)(融点:217℃)、フッ素樹脂(融点:概ね200℃以上)、液晶ポリマー(LCP)を挙げることができる。中でも、融点が比較的高いものが好ましく、融点が200℃以上である樹脂が好ましい。かかる樹脂の融点の上限としては300℃以下が好適である。
【0018】
よって、ポリエチレンテレフタレート(PET)(融点:260℃)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)(融点:200℃以上)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)(融点:223℃)、ポリイミド(PI)(融点:200℃以上)、エポキシ樹脂(融点:200℃以上)、ウレタンアクリレート樹脂(融点:200℃以上)、不飽和ポリエステル樹脂(融点:200℃以上)、フェノール樹脂(融点:200℃以上)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)(融点:300℃以上)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)(融点:270℃)、非晶ポリアリレート(PAR)(融点:250℃)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)(融点:288℃)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)(融点:343℃)、ポリエーテルイミド(PEI)(融点:217℃)、フッ素樹脂(融点:概ね200℃以上)がより好ましく、ポリイミド(PI)、エポキシ樹脂、ウレタンアクリレート樹脂が特に好ましい。ここで融点の測定方法は、JIS K 0064:1992 化学製品の融点及び溶融範囲測定方法に準拠する。このように融点が200℃以上であることによって本発明の所期の効果を効率的に奏することができるメカニズムは明らかではない。よって、本発明の一実施形態によれば、前記樹脂の融点が200℃以上である。上記樹脂材料は単独で使用することもできるし、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。本発明の一実施形態によれば、前記樹脂が、窒素原子を含む。窒素原子を含むことによって、本発明の所期の効果を効率的に奏することができる。本発明の一実施形態によれば、前記樹脂を構成する繰り返し単位が窒素原子を含む。かような実施形態であることによって本発明の所期の効果を効率的に奏することができる。
【0019】
以上のように、本発明の実施形態の研磨用組成物は、樹脂を含む研磨対象物を研磨するために用いられる。また、本発明の実施形態によれば、特定の砥粒を含む研磨用組成物による樹脂材料の研磨への応用(使用)が提供される。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、研磨対象物は、金属材料を含む。ここで、一般的な研磨用組成物によると、金属材料の除去速度は樹脂材料の除去速度より高い。つまり、樹脂材料と金属材料を含むパターン化構造を研磨するとき、金属材料の除去速度と樹脂材料の除去速度とは異なるために段差(step difference)が生じ易い。本発明の研磨用組成物によれば、一般的に研磨速度が低い樹脂材料を高速で研磨することができる。すると、ひいては、化学機械研磨プロセスにおいて、金属材料の除去速度と樹脂材料の除去速度とを同じにするか(つまり、金属材料の除去速度に対する樹脂材料の除去速度が1.0にするか)または近付ける(つまり、金属材料の除去速度に対する樹脂材料の除去速度が1.0に近くする)ことができる。ゆえに、段差の発生を回避または抑制することができる。なお、本発明の一実施形態によれば、金属材料の除去速度に対する樹脂材料の除去速度が1.0により近くせしめるため、あるいは別の目的で、金属研磨促進剤、金属防食剤、酸化剤の少なくとも1種を研磨用組成物に含有させてもよい。金属研磨促進剤、金属防食剤、酸化剤については後述する。
【0021】
金属材料の具体例として、遷移金属(特には第11族)や、第13族の金属が好ましく、例えば、銅、アルミニウム、コバルト、タングステンを挙げることができる。上記金属材料は単独で使用することもできるし、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0022】
以下、本実施形態に係る研磨用組成物に含まれる各種成分について説明する。
【0023】
[砥粒]
本実施形態の研磨用組成物は砥粒としてシリカを含む。いくつかの実施形態において、砥粒はコロイダルシリカである。本実施形態における砥粒は特定の金属カチオンで表面修飾を行ったものである。より具体的に言うと、砥粒はコロイダルシリカを含み、かつ該シリカ表面に位置するシラノール基を構成する水素原子の少なくとも一部が金属原子Mのカチオンで置換されており、この金属原子Mは、アルミニウム、クロム、チタン、ジルコニウム、鉄、亜鉛、スズ、スカンジウムおよびガリウムからなる群より選ばれる少なくとも1つである。
【0024】
一般的なコロイダルシリカは酸性条件下でのゼータ電位がゼロに近いため、酸性条件下においてコロイダルシリカ粒子同士で静電反発は起きず、凝集が生じ易い。本実施形態では、コロイダルシリカ粒子に対して表面修飾を行って、コロイダルシリカ粒子が酸性条件下で比較的大きい正の値のゼータ電位(例えば40mVより大きい;上限値は100mV程度)を持つようにする。これにより、砥粒は酸性または中性の条件下で互いに強烈に反発し合ってよく分散するようになる。結果として研磨用組成物の保存安定性が高まる。本発明の表面修飾シリカは特公昭47-26959号公報に開示されている方法にて製造することができる。あるいは、本発明の表面修飾シリカは実施例に記載の方法によって製造することができる。
【0025】
本発明の一実施形態において、研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位は、20mV以上であることが好ましく、25mV以上であることがより好ましく、30mV以上であることが好ましい。本発明の一実施形態において、研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位は、80mV以下であっても、70mV以下であっても、60mV以下であっても、50mV以下であっても、40mV以下であってもよい。
【0026】
砥粒の表面修飾のステップは主に、アルミニウム、クロム、チタン、ジルコニウム、鉄、亜鉛、スズ、スカンジウムおよびガリウム等である金属原子Mの塩化合物とコロイダルシリカ粒子とを混合するステップと、コロイダルシリカ表面に位置するシラノール基を構成する水素原子の少なくとも一部を金属原子Mのカチオンで置換する工程と、を含み得る。金属原子Mの塩化合物としては、例えば金属原子Mのハロゲン化物、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩を挙げることができる。金属原子Mの塩化合物の具体例として、例えば塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化クロム、臭化クロム、ヨウ化クロム、水酸化クロム、硫酸クロム、硝酸クロム、塩化チタン、臭化チタン、ヨウ化チタン、水酸化チタン、硫酸チタン、硝酸チタン、塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウム、ヨウ化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、水酸化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、水酸化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化スズ、臭化スズ、ヨウ化スズ、水酸化スズ、硫酸スズ、硝酸スズ、塩化スカンジウム、臭化スカンジウム、ヨウ化スカンジウム、水酸化スカンジウム、硫酸スカンジウム、硝酸スカンジウム、塩化ガリウム、臭化ガリウム、ヨウ化ガリウム、水酸化ガリウム、硫酸ガリウム、硝酸ガリウム等を挙げることができる。上記の金属原子Mの塩化合物は単独で使用することもできるし、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0027】
本発明の一実施形態において、砥粒の表面修飾を行うために、砥粒が分散してなる分散液中に、砥粒1mに対して、金属原子Mの塩化合物を0.0001~0.0010g添加することが好ましく、0.0002~0.0008g添加することがより好ましく、0.0003~0.0006g添加することがさらに好ましい。
【0028】
本実施形態中の特定の金属カチオンで砥粒を表面修飾するメカニズムについて、本発明者は以下のように推論する。なお、下記するメカニズムは推測に基づくものであって、このメカニズムが正確であるか否かが、本発明の技術内容および特許請求の範囲に影響を及ぼすことはない、という点に注意されたい。本明細書では、アルミニウムイオンでコロイダルシリカを修飾する場合を例にして表面修飾のメカニズムを説明する。
【0029】
図1は、本発明のいくつかの実施形態による砥粒の表面修飾のステップの説明図である。図1を参照されたい。水中に溶解(分散)されたコロイダルシリカ粒子102の表面の状態が図1の左上の四角に示されている。コロイダルシリカ粒子102本体はシリカで構成された四面体網状構造である。コロイダルシリカ粒子表面に位置する酸素原子は、一端がケイ素原子と結合し、他端が水素原子と結合してシラノール基を形成する。塩化アルミニウム修飾剤104でコロイダルシリカ粒子102に修飾を行った後、修飾コロイダルシリカ粒子112が形成される。修飾コロイダルシリカ粒子112の表面の状態は図1の右上の四角に示すとおりである。修飾コロイダルシリカ粒子112本体は同様にシリカで構成された四面体網状構造であるが、コロイダルシリカ粒子表面に位置するシラノール基中の水素原子の一部がアルミニウムイオンで置換されている。図1に示されるように、各アルミニウムイオンは、修飾コロイダルシリカ粒子112の表面において2つの酸素原子とそれぞれ結合している。よって、修飾コロイダルシリカ粒子112の表面は正に帯電し、負に帯電する塩素イオンが対イオンとなる。
【0030】
いくつかの実施形態では、コロイダルシリカ粒子表面に位置するシラノール基中の全ての水素原子がアルミニウムイオンで置換される。かかる実施形態においてはコロイダルシリカ粒子の分散性がより優れたものとなる。別の実施形態では、コロイダルシリカ粒子表面に位置するシラノール基中の水素原子の一部のみがアルミニウムイオンで置換される。
【0031】
価数の異なるその他の金属イオンを用いてコロイダルシリカ粒子を表面修飾する場合、金属原子M(または金属原子Mのカチオン)と結合する酸素原子の数も変わり得る。いくつかの実施形態では、図1に示されるように、金属原子Mと結合する酸素原子の数は2個である。別のいくつかの実施形態では、金属原子Mと結合する酸素原子の数は1個である。また別のいくつかの実施形態では、金属原子Mと結合する酸素原子の数は3個である。換言すれば、1個の金属原子Mが、1個のシラノール基の1個の酸素原子と結合する;1個の金属原子Mが、2個のシラノール基の2個の酸素原子と結合する;あるいは;1個の金属原子Mが、3個のシラノール基の3個の酸素原子と結合する。なお、参考のために、図2に未修飾のシリカ砥粒の表面の模式図を示す。このように未修飾のシリカ砥粒の表面はシラノール基のみで覆われている。また、本発明の特定の砥粒と構造的に区別されるものとして認識されるべき砥粒は、図3に示される砥粒である。図3は、一部のケイ素原子がアルミニウム原子に置換されていることを示すシリカ砥粒の表面の模式図である。本発明の砥粒は、シリカ表面に位置するシラノール基を構成する水素原子の少なくとも一部が、アルミニウム等で置換されている。これに対し、図3の砥粒は、シリカ内部に位置するケイ素原子がアルミニウム原子に置換されている。
【0032】
本発明の砥粒としては、合成品を用いることができる他、市販製品を用いることもできる。砥粒の市販製品としては、例えばLudox(登録商標)CL(Sigma-Aldrich社製;アルミニウムイオン修飾コロイダルシリカ、対イオンは塩素)等を挙げることができる。
【0033】
研磨用組成物の総量を100重量%とすると、研磨用組成物中の砥粒の含有量は0.1重量%以上が好ましく、0.5重量%以上であるとより好ましく、1重量%以上であるとさらに好ましい。砥粒の含有量が上記の下限であると、一般的に、樹脂材料または金属材料を含む研磨対象物に対する研磨速度が高まる。一方、本発明の実施形態によれば、研磨用組成物中の砥粒の含有量が1重量%超(あるいは1.5重量%以上)である。このように、特定の金属カチオンで表面修飾を行った砥粒を使用し、かつ、その含有量が1重量%超(あるいは1.5重量%以上)であることによって、樹脂の研磨速度を過剰に高めず、金属の研磨速度を高めることができる。そのため、金属材料の除去速度に対する樹脂材料の除去速度が1.0により近くなる。
【0034】
研磨用組成物の総量を100重量%とすると、研磨用組成物中の砥粒の含有量は、10重量%以下が好ましく、8重量%以下であるとより好ましく、5重量%以下であるとさらに好ましく、3重量%以下であると特に好ましい。砥粒の含有量が上記の上限であると、研磨用組成物を用いて研磨対象物に研磨を行う際、スクラッチのより少ない研磨面を容易に得ることができるようになる他、砥粒の凝集が起こりにくくなる。
【0035】
よって、本発明の一実施形態によれば、前記研磨用組成物の総重量に対し、前記砥粒の含有量が0.1~10重量%である。かかる実施形態であることによって、樹脂材料または金属材料を含む研磨対象物に対する研磨速度を高め、スクラッチのより少ない研磨面を容易に得ることができるようになる他、砥粒の凝集が起こりにくくなる。
【0036】
砥粒の平均一次粒子径は、30nm超が好ましく、40nm以上がより好ましく、50nm以上であると特に好ましい。砥粒の平均一次粒子径が大きくなるにつれて、樹脂または金属材料を含む研磨対象物に対する研磨速度が高まる。なお、BET法により砥粒の比表面積を測定することができ、測定された比表面積に基づいて、砥粒の平均一次粒子径の値を算出できる。砥粒の平均一次粒子径は150nm以下が好ましく、130nm以下であるとより好ましく、110nm以下であるとさらに好ましく、90nm以下であるとさらにより好ましく、70nm以下であると最も好ましい。砥粒の平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨対象物に研磨を行う際、スクラッチのより少ない研磨面を容易に得ることができるようになる。
【0037】
よって、本発明の一実施形態によれば、前記砥粒の一次粒子径が40~150nmである。かかる実施形態であることによって、樹脂または金属材料を含む研磨対象物に対する研磨速度を高め、スクラッチのより少ない研磨面を容易に得ることができるようになる。
【0038】
砥粒の平均二次粒子径は60nm以上が好ましく、80nm以上であるとより好ましく、100nm以上であるとさらに好ましく、110nm以上であることがよりさらに好ましい。砥粒の平均二次粒子径が大きくなるにつれて、樹脂または金属材料を含む研磨対象物に対する研磨速度が高まる。
【0039】
砥粒の平均二次粒子径は300nm以下が好ましく、250nm以下であるとより好ましく、200nm以下であるとさらに好ましく、150nm以下であるよりさらに好ましく、135nm以下であること特に好ましい。砥粒の平均二次粒子径が小さくなるにつれ、研磨用組成物を用いて研磨対象物に研磨を行う際、スクラッチのより少ない研磨面を容易に得ることができるようになる。砥粒の平均二次粒子径の値は、適した方法、例えばレーザー光散乱法により測定することができる。
【0040】
[pH調整剤]
本実施形態の研磨用組成物にはpH調整剤が含まれうる。別の観点では、研磨用組成物のpH値を、2を超えて7以下である範囲に調整するのに用いるpH調整剤が含まれうる。pH調整剤により、研磨用組成物のpH値を、2を超えて7以下である範囲に調整することができる。pH調整剤としては、公知の酸または塩基が挙げられる。研磨用組成物のpHが2.0以下である、あるいは、pHが7.0超であると樹脂材料の研磨速度が著しく低くなる(実施例2と比較例1の対比、実施例13と比較例2の対比)。つまり、本発明は、pH2.0、7.0に樹脂材料の研磨速度の関連する臨界点を見出したことにより創作された点も特徴である。
【0041】
本実施形態の研磨用組成物に用いられるpH調整剤としての酸は、無機酸または有機酸であってもよいし、また、キレート剤であってもよい。pH調整剤として使用できる無機酸の具体例としては、例えば、塩酸(HCl)、硫酸(HSO)、硝酸(HNO)、フッ化水素酸(HF)、硼酸(HBO)、炭酸(HCO)、次亜リン酸(HPO)、亜リン酸(HPO)およびリン酸(HPO)を挙げることができる。これら無機酸のうち好ましいのは塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸である。
【0042】
pH調整剤として使用できる有機酸の具体例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、ヒドロキシ酢酸(hydroxyacetic acid)、サリチル酸(salicylic acid)、グリセリン酸(glyceric acid)、シュウ酸(oxalic acid)、マロン酸(malonic acid)、コハク酸(succinic acid)、グルタル酸(glutaric acid)、アジピン酸(adipic acid)、ピメリン酸(pimelic acid)、マレイン酸(maleic acid)、フタル酸(phthalic acid)、リンゴ酸(malic acid)、酒石酸(tartaric acid)、クエン酸(citric acid)、乳酸(lactic acid)、グリオキシル酸(glyoxylic acid)、2-フランカルボン酸(2-furancarboxylic acid)、2,5-フランジカルボン酸(2,5-furandicarboxylic acid)、3-フランカルボン酸(3-furancarboxylic acid)、2-テトラヒドロフランカルボン酸(2-tetrahydrofuran carboxylic acid)、メトキシ酢酸(methoxyacetic acid)、メトキシフェニル酢酸(methoxyphenylacetic acid)およびフェノキシ酢酸(Phenoxyacetic acid)を挙げることができる。メタンスルホン酸(methanesulfonic acid)、エタンスルホン酸(ethanesulfonic acid)およびイセチオン酸(2-hydroxyethanesulfonic acid)等の有機硫酸を使用してもよい。これら有機酸のうち好ましいのは、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸および酒石酸等のジカルボン酸、ならびにクエン酸等のトリカルボン酸である。
【0043】
本発明の一実施形態において、研磨用組成物に用いられるpH調整剤としての酸と、金属研磨促進剤とは異なる種類である。本発明の一実施形態において、研磨用組成物に用いられるpH調整剤としての酸が、アミノ酸を含まない。
【0044】
本実施形態の研磨用組成物に用いられるpH調整剤としての塩基は、例えば、アルカリ金属の水酸化物または塩、第2族元素の水酸化物または塩、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン等が挙げられる。アルカリ金属の具体例としては、カリウム、ナトリウム等が挙げられる。
【0045】
研磨用組成物がアルカリ性である(つまり、pHが7より大きい)と、砥粒表面のゼータ電位が負の方向にシフトされることで、樹脂材料との反発が弱くなるため、樹脂材料の研磨速度低下を引き起こす。本実施形態の研磨用組成物のpH値は酸性または中性であるため、樹脂材料の研磨速度を効果的に向上させることができる。より具体的に言うと、本実施形態の研磨用組成物のpH値の上限値は、7未満であると好ましく、6.5以下であるとより好ましく、6.2以下であるとさらに好ましく、6未満であっても、5以下であっても、5未満であってもよい。研磨用組成物のpH値が低すぎると、樹脂材料の除去速度を有効に高めることが難しくなる。また、研磨用組成物のpH値が低すぎると、廃液処理の負担が増してしまう。本実施形態の研磨用組成物のpH値の下限値は、2より大きく、3以上であると好ましく、3より大きいとより好ましく、4以上であることがさらに好ましく、4より大きいとよりさらに好ましく、5超であるとよりさらに好ましく、5.5以上であるとよりさらに好ましく、5.8以上であるとよりさらに好ましい。本発明の研磨用組成物のpH値は酸性または中性であるため、金属材料の腐蝕を抑えることができ、ひいては金属構造の表面平坦性および品質を改善することができる。
【0046】
本発明の一実施形態において、段差を解消する観点からは、6.5以下であると好ましく、6.2以下であるとより好ましく、6未満であるとさらに好ましく、5以下であるとよりさらに好ましく、5未満であるとよりさらに好ましい。本発明の一実施形態において、段差を解消する観点からは、2より大きく、3以上であると好ましく、3より大きいとより好ましく、4以上であることがさらに好ましく、4より大きいとよりさらに好ましい。
【0047】
[分散媒]
本実施形態の研磨用組成物には分散媒(“溶媒”と称してもよい)が含まれる。分散媒は、研磨用組成物中の各成分を分散または溶解させるために用いることができる。本実施形態において、研磨用組成物は、分散媒として水を含んでいてよい。他の成分の作用を阻害することを抑えるという観点から、できる限り不純物を含まない水が好ましい。より具体的には、イオン交換樹脂で不純物イオンを除去した後、フィルターを通して異物を除去した純水もしくは超純水、または蒸留水が好ましい。
【0048】
[酸化剤]
本発明の研磨方法で使用する研磨用組成物には、必要に応じて、さらに酸化剤が含まれていてもよい。研磨用組成物に含まれる酸化剤の種類に特に制限はないが、0.5V以上の標準電極電位を有するものであると好ましい。0.5V未満の標準電極電位を有する酸化剤を使用した場合に比して、0.5V以上の標準電極電位を有する酸化剤の使用は、研磨用組成物を用いて行う金属材料部分の研磨速度をさらに高めるのに有用である。これにより研磨プロセスに要する時間を短縮することができ、研磨プロセスの効率が高まる。0.5V以上の標準電極電位を有する酸化剤の具体例としては、例えば、過酸化水素(1.7V)、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、有機酸化剤、オゾン水、銀(II)の塩、鉄(III)の塩および過マンガン酸、クロム酸、重クロム酸、ペルオキソりん酸(peroxophosphoric acid)、過ほう酸(peroxoboric acid)、過ギ酸(performic acid)、過酢酸(peracetic acid)、過安息香酸(perbenzoic acid)、過フタル酸(Perphthalic acid)、次亜塩素酸(hypochlorous acid)、次亜臭素酸(hypobromous acid)、次亜ヨウ素酸(hypoiodous acid)、塩素酸(chloric acid)、亜塩素酸(chlorous acid)、過塩素酸(perchloric acid)、臭素酸(bromic acid)、ヨウ素酸(iodic acid)、過ヨウ素酸(periodic acid)(1.6V)、過硫酸(persulfuric acid)(2.0V)、ジクロロイソシアヌル酸(dichloroisocyanuric acid)、トリクロロイソシアヌル酸(trichloroisocyanuric acid)ならびにこれらの塩を挙げることができる。これら酸化剤は単独で使用してもよいし、または2種類以上を混合して使用してもよい。
【0049】
上記酸化剤のうち、研磨用組成物を用いて行う金属部分の研磨速度を有効に高めるという点について考えれば、過酸化水素、過ヨウ素酸またはその塩、過硫酸またはその塩、ジクロロイソシアヌル酸またはその塩、トリクロロイソシアヌル酸またはその塩が好ましく、過酸化水素、過ヨウ素酸およびその塩、過硫酸およびその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種が特に好ましい。
【0050】
なお、標準電極電位とは、酸化反応に関与するすべての化学種が標準状態となっているときの電極電位のことをいい、下記の式1で表される。
【0051】
【数1】
【0052】
式1中、E0は標準電極電位であり、△G0は酸化反応の標準ギブス(Gibbs)エネルギー変化であり、Kはその平衡定数であり、Fはファラデー定数であり、Tは絶対温度であり、nは酸化反応に関与する電子数である。数式1からわかるように、標準電極電位は温度に伴って変動するため、本明細書では、25℃における標準電極電位を採用する。なお、水溶液系の標準電極電位については、例えば改定4版化学便覧(基礎編)II,pp464~468(日本化学会編)に記載されている。
【0053】
本実施形態の研磨用組成物が酸化剤を含む場合、研磨用組成物の総量を100重量%とすると、酸化剤の含有量は0.001重量%以上が好ましく、0.01重量%以上であるとより好ましく、0.05重量%以上であるとさらに好ましい。酸化剤の含有量が上記の下限になると、研磨用組成物による金属材料部分の研磨速度がより高まり得る。
【0054】
本実施形態の研磨用組成物が酸化剤を含む場合、研磨用組成物の総量を100重量%とすると、酸化剤の含有量は、10重量%以下が好ましく、5重量%以下であるとより好ましく、1重量%以下であるとさらに好ましく、0.5重量%以下であるとよりさらに好ましい。酸化剤の含有量が上記の上限になると、研磨用組成物による研磨対象物表面の過剰な酸化が起こりにくくなり、面荒れの少ない研磨面を得ることができる他、研磨後の研磨用組成物の処理の負担(つまり廃液処理の負担)を軽減することもできる。
【0055】
[金属研磨促進剤]
本実施形態の研磨用組成物には、必要に応じて、さらに金属研磨促進剤が含まれていてもよい。研磨用組成物中に金属研磨促進剤を添加すると、金属研磨促進剤が有するエッチング作用により、研磨用組成物による金属材料部分の研磨速度がさらに高まるという有利な効果がある。これにより、研磨プロセスにかかる時間を短縮することができ、ひいては研磨プロセスの効率が向上する。
【0056】
金属研磨促進剤には、例えば無機酸、有機酸、アミノ酸、ニトリル化合物およびキレート剤等を用いることができる。
【0057】
無機酸の具体例としては、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸等が挙げられる。有機酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸等が挙げられる。メタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等の有機硫酸も使用可能である。無機酸または有機酸の代わりにあるいは無機酸または有機酸と組み合わせて、無機酸または有機酸のアルカリ金属塩等の塩を用いてもよい。
【0058】
アミノ酸の具体例としては、グリシン(glycine)、α-アラニン、β-アラニン、N-メチルグリシン、N,N-ジメチルグリシン、2-アミノ酪酸、ノルバリン、バリン、ロイシン、ノルロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、サルコシン、オルニチン、リシン、タウリン、セリン、トレオニン、ホモセリン、チロシン、ビシン(bicine)、トリシン(tricin)、3,5-ジヨード-チロシン、β-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-アラニン、チロキシン(thyroxin)、4-ヒドロキシ-プロリン、システイン、メチオニン、エチオニン、ランチオニン(lanthionine)、シスタチオニン(cystathionine)、シスチン、システイン酸(cysteic acid)、アスパラギン酸、グルタミン酸、S-(カルボキシメチル)-システイン、4-アミノ酪酸、アスパラギン、グルタミン、アザセリン(azaserine)、アルギニン、カナバニン(canavanine)、シトルリン、δ-ヒドロキシ-リシン、クレアチン、ヒスチジン(histidine)、1-メチル-ヒスチジン、3-メチル-ヒスチジン、トリプトファン等が挙げられる。中でもグリシン、ヒスチジン、アラニン、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、イセチオン酸またはそれらの塩が好ましい。
【0059】
ニトリル化合物の具体例としては、例えば、アセトニトリル、アミノアセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、ベンゾニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル等が挙げられる。キレート剤の具体例としては、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、エチレンジアミン四酢酸、N,N,N-トリメチレンホスホン酸、エチレンジアミン-N,N,N’,N’-テトラメチレンスルホン酸、トランスシクロヘキサンジアミン四酢酸、1,2-ジアミノプロパン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミンオルトヒドロキシフェニル酢酸、エチレンジアミンジ琥珀酸(SS体)、N-(2-カルボキシラートエチル)-L-アスパラギン酸、β-アラニンジ酢酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、N,N’-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N’-ジ酢酸、1,2-ジヒドロキシベンゼン-4,6-ジスルホン酸等が挙げられる。
【0060】
上記金属研磨促進剤は、単独で使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。上記金属研磨促進剤のうち、研磨用組成物による金属材料部分の研磨速度を有効に高めるという点から、無機酸、有機酸、またはアミノ酸が好ましく、カルボン酸またはアミノ酸であるとより好ましく、グリシンまたはヒスチジンであると特に好ましく、ヒスチジンが最も好ましい。よって、本発明の一実施形態において、金属研磨促進剤はカルボン酸およびアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である。かかる実施形態であることによって、金属を容易に溶解し、研磨速度を向上させることができるとの技術的効果を有する。本発明の一実施形態によれば、前記アミノ酸の窒素原子数が、3~4である、または、構造中に複素環を有する。かような実施形態であることによって本発明の所期の効果を効率的に奏する。本発明の一実施形態によれば、複素環が、それぞれ独立して、1~3個、1~2個、あるいは、1個の、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を有する。
【0061】
本実施形態の研磨用組成物が金属研磨促進剤を含むとき、研磨用組成物の総量を100重量%とすると、研磨用組成物中の金属研磨促進剤の含有量は、0.01重量%以上が好ましく、0.05重量%以上であるとより好ましく、0.1重量%以上であると特に好ましい。金属研磨促進剤の含有量が上記の下限であると、研磨用組成物の金属材料部分に対する研磨速度をさらに高めることができる。
【0062】
本実施形態の研磨用組成物が金属研磨促進剤を含むとき、研磨用組成物の総量を100重量%とすると、研磨用組成物中の金属研磨促進剤の含有量は、10重量%以下が好ましく、5重量%以下であるとより好ましく、3重量%以下であると特に好ましく、1重量%以下であると特に好ましく、0.4重量%以下であることも好ましい。金属研磨促進剤の含有量が上記の上限であると、研磨対象物の金属材料が過度にエッチングされるのを回避することができる上、研磨後の廃液処理の負担も軽減され得る。なお、本発明の一実施形態によれば、金属研磨促進剤の含有量が、0.3重量%以下であってもよく、かかる実施形態によれば、樹脂材料の研磨速度をより高めることができる。また、本発明の一実施形態によれば、金属研磨促進剤の含有量が、0.3重量%超であってもよく、かかる実施形態によれば、金属材料の研磨速度をより高めることができる。
【0063】
[金属防食剤]
本実施形態の研磨用組成物中に、必要に応じて金属防食剤がさらに含まれていてもよい。研磨用組成物中に金属防食剤を加えることにより、研磨用組成物を用いた研磨で配線の脇に凹みが生じるのをより抑えることができる。さらに、金属材料の腐蝕の発生を抑えるかまたは回避することができ、ひいては金属構造の表面平坦性および品質を改善することができる。また、樹脂および金属材料で形成されたパターン化構造を含む研磨対象物を研磨するに際し、研磨対象物の表面平坦性を良好にすることができ、かつ研磨により研磨対象物表面にできる段差をさらに減らすことができる。
【0064】
使用可能な金属防食剤は、特に制限されないが、好ましくは複素環式化合物または界面活性剤である。複素環式化合物中の複素環の員数は特に限定されない。また、複素環式化合物は、単環化合物であってもよいし、縮合環を有する多環化合物であってもよい。該金属防食剤は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、該金属防食剤は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0065】
金属防食剤として使用可能な複素環化合物の具体例としては、例えば、ピロール化合物、ピラゾール化合物、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物、テトラゾール化合物、ピリジン化合物、ピラジン化合物、ピリダジン化合物、ピリンジン化合物、インドリジン(indolizine) 化合物、インドール化合物、イソインドール化合物、インダゾール化合物、プリン化合物、キノリジン(quinolizine) 化合物、キノリン化合物、イソキノリン化合物、ナフチリジン化合物、フタラジン化合物、キノキサリン化合物、キナゾリン化合物、シンノリン化合物、ブテリジン化合物、チアゾール化合物、イソチアゾール化合物、オキサゾール化合物、イソオキサゾール化合物、フラザン化合物等の含窒素複素環化合物が挙げられる。
【0066】
さらに具体的な例を挙げると、ピラゾール化合物の例としては、例えば、1H-ピラゾール、4-ニトロ-3-ピラゾールカルボン酸、3,5-ピラゾールカルボン酸、3-アミノ-5-フェニルピラゾール、5-アミノ-3-フェニルピラゾール、3,4,5-トリブロモピラゾール、3-アミノピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、3,5-ジメチル-1-ヒドロキシメチルピラゾール、3-メチルピラゾール、1-メチルピラゾール、3-アミノ-5-メチルピラゾール、4-アミノ-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン、アロプリノール(allopurinol)、4-クロロ-1H-ピラゾロ[3,4-D]ピリミジン、3,4-ジヒドロキシ-6-メチルピラゾロ(3,4-B)-ピリジン、6-メチル-1H-ピラゾロ[3,4-b]ピリジン-3-アミン等が挙げられる。
【0067】
イミダゾール化合物の例としては、例えば、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルピラゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、ベンゾイミダゾール、5,6-ジメチルベンゾイミダゾール、2-アミノベンゾイミダゾール、2-クロロベンゾイミダゾール、2-メチルベンゾイミダゾール、2-(1-ヒドロキシエチル)ベンズイミダゾール、2-ヒドロキシベンズイミダゾール、2-フェニルベンズイミダゾール、2,5-ジメチルベンズイミダゾール、5-メチルベンゾイミダゾール、5-ニトロベンズイミダゾール、1H-プリン等が挙げられる。
【0068】
トリアゾール化合物の例としては、例えば、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1-メチル-1,2,4-トリアゾール、メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-3-カルボキシレート、1,2,4-トリアゾール-3-カルボン酸、1,2,4-トリアゾール-3-カルボン酸メチル、1H-1,2,4-トリアゾール-3-チオール、3,5-ジアミノ-1H-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール-5-チオール、3-アミノ-1H-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-5-ベンジル-4H-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-5-メチル-4H-1,2,4-トリアゾール、3-ニトロ-1,2,4-トリアゾール、3-ブロモ-5-ニトロ-1,2,4-トリアゾール、4-(1,2,4-トリアゾール-1-イル)フェノール、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-3,5-ジプロピル-4H-1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-3,5-ジメチル-4H-1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-3,5-ジペプチル-4H-1,2,4-トリアゾール、5-メチル-1,2,4-トリアゾール-3,4-ジアミン、1H-ベンゾトリアゾール(benzotriazole) 、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、1-アミノベンゾトリアゾール、1-カルボキシベンゾトリアゾール、5-クロロ-1H-ベンゾトリアゾール、5-ニトロ-1H-ベンゾトリアゾール、5-カルボキシ-1H-ベンゾトリアゾール、5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、5,6-ジメチル-1H-ベンゾトリアゾール、1-(1’,2’-ジカルボキシエチル)ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]-5-メチルベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]-4-メチルベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0069】
テトラゾール化合物の例としては、例えば、1H-テトラゾール、5-メチルテトラゾール、5-アミノテトラゾール、および5-フェニルテトラゾール等が挙げられる。
【0070】
インダゾール化合物の例としては、例えば、1H-インダゾール、5-アミノ-1H-インダゾール、5-ニトロ-1H-インダゾール、5-ヒドロキシ-1H-インダゾール、6-アミノ-1H-インダゾール、6-ニトロ-1H-インダゾール、6-ヒドロキシ-1H-インダゾール、3-カルボキシ-5-メチル-1H-インダゾール等が挙げられる。
【0071】
インドール化合物の例としては、例えば1H-インドール、1-メチル-1H-インドール、2-メチル-1H-インドール、3-メチル-1H-インドール、4-メチル-1H-インドール、5-メチル-1H-インドール、6-メチル-1H-インドール、7-メチル-1H-インドール、4-アミノ-1H-インドール、5-アミノ-1H-インドール、6-アミノ-1H-インドール、7-アミノ-1H-インドール、4-ヒドロキシ-1H-インドール、5-ヒドロキシ-1H-インドール、6-ヒドロキシ-1H-インドール、7-ヒドロキシ-1H-インドール、4-メトキシ-1H-インドール、5-メトキシ-1H-インドール、6-メトキシ-1H-インドール、7-メトキシ-1H-インドール、4-クロロ-1H-インドール、5-クロロ-1H-インドール、6-クロロ-1H-インドール、7-クロロ-1H-インドール、4-カルボキシ-1H-インドール、5-カルボキシ-1H-インドール、6-カルボキシ-1H-インドール、7-カルボキシ-1H-インドール、4-ニトロ-1H-インドール、5-ニトロ-1H-インドール、6-ニトロ-1H-インドール、7-ニトロ-1H-インドール、4-ニトリル-1H-インドール、5-ニトリル-1H-インドール、6-ニトリル-1H-インドール、7-ニトリル-1H-インドール、2,5-ジメチル-1H-インドール、1,2-ジメチル-1H-インドール、1,3-ジメチル-1H-インドール、2,3-ジメチル-1H-インドール、5-アミノ-2,3-ジメチル-1H-インドール、7-エチル-1H-インドール、5-(アミノメチル)インドール、2-メチル-5-アミノ-1H-インドール、3-ヒドロキシメチル-1H-インドール、6-イソプロピル-1H-インドール、5-クロロ-2-メチル-1H-インドール等が挙げられる。
【0072】
これらの中でも好ましい複素環化合物はトリアゾール化合物であり、特に、1H-ベンゾトリアゾール、5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、5,6-ジメチル-1H-ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]-5-メチルベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]-4-メチルベンゾトリアゾール、1,2,3-トリアゾール、および1,2,4-トリアゾールが好ましい。これらの複素環化合物は、研磨対象物表面への化学的または物理的吸着力が高いため、研磨対象物表面により強固な保護膜を形成することができ、ひいては金属材料の腐蝕を有効に抑制することが可能となる。このことは、本発明の研磨用組成物を用いて研磨した後の、研磨対象物の表面の平坦性を向上させる上で有利である。
【0073】
本実施形態の研磨用組成物が金属防食剤を含むとき、研磨用組成物の総量を100重量%とすると、研磨用組成物中の金属防食剤の含有量は、0.001重量%以上が好ましく、0.005重量%以上であるとより好ましく、0.01重量%以上であると特に好ましい。金属防食剤の含有量が上記の下限であると、金属材料の腐蝕を有効に抑えることができる。
【0074】
本実施形態の研磨用組成物が金属防食剤を含むとき、研磨用組成物の総量を100重量%とすると、研磨用組成物中の金属防食剤の含有量は、5重量%以下が好ましく、1重量%以下であるとより好ましく、0.5重量%以下であると特に好ましく、0.1重量%以下であると最も好ましい。金属防食剤の含有量が上記の上限であると、研磨対象物の金属材料の研磨速度が過度に低下するのを回避することができる。これにより、研磨により研磨対象物表面にできる段差を低減することができる。さらに、研磨後の廃液処理の負担を軽減することもできる。
【0075】
以上より、本発明の一実施形態において、必要に応じ標準電極電位が0.5V以上である酸化剤と、必要に応じ金属研磨促進剤と、必要に応じ金属防食剤と、をさらに含む研磨用組成物が好ましい。かかる実施形態であることによって、本発明の所期の効果を効率的に奏する。本発明の一実施形態において、標準電極電位が0.5V以上である酸化剤と、金属研磨促進剤と、金属防食剤および酸化剤の少なくとも一方と、をさらに含む研磨用組成物が提供される。
【0076】
[その他の成分]
本発明の研磨方法で用いる研磨用組成物中に、必要に応じて、キレート剤、水溶性高分子、防腐剤、防カビ剤等その他の成分がさらに含まれていてもよい。
【0077】
[研磨方法および基板の製造方法]
上述したように、本発明に係る研磨用組成物は、樹脂材料および金属材料で形成されたパターン化構造を含む基板を研磨するのに特に適している。よって、本発明は、本発明に係る研磨用組成物で樹脂材料および必要に応じ金属材料で形成されたパターン化構造を含む研磨対象物を研磨する研磨方法を提供する。例えば、かかる研磨対象物は、ポリイミドおよび銅で形成されたパターン化構造を含む基板とすることができる。また、本発明は、本発明に係る研磨用組成物を用いて樹脂および必要に応じ金属材料で形成されたパターン化構造を含む基板に対し研磨を行うステップを含む基板の製造方法を提供する。かかる基板は例えばポリイミドおよび銅で形成されたパターン化構造を含み得る。樹脂材料および金属材料で形成されたパターン化構造を含む研磨対象物を研磨する際、研磨により研磨対象物表面に形成される段差を有効に低減させるためには、樹脂材料の除去速度の金属材料の除去速度に対する比が1.0に近ければ近い程よい。より具体的に言えば、特定の研磨圧力(例えば5psi)で樹脂材料および金属材料で形成されたパターン化構造を含む研磨対象物を研磨するとき、樹脂材料の除去速度R1の金属材料の除去速度R2に対する比の値(R1/R2)は1.0に近い程好ましい。いくつかの実施形態では、研磨圧力が5psiであるときの、研磨用組成物の樹脂材料に対する除去速度を第1の除去速度R1とし、研磨用組成物の金属材料に対する除去速度を第2の除去速度R2とした場合、第1の除去速度の第2の除去速度に対する比の値(R1/R2)は0.5~6.0である。別のいくつかの実施形態では、上記第1の除去速度の第2の除去速度に対する比の値(R1/R2)は0.5~4.0である。また別のいくつかの実施形態では、上記第1の除去速度の第2の除去速度に対する比の値(R1/R2)は0.8~3.0(あるいは、0.8~1.5)である。
【0078】
研磨ステップで使用する研磨装置として、一般的な化学機械研磨プロセスで用いる研磨装置を使用することができる。かかる研磨装置には、研磨対象物を保持するキャリアおよび回転数を変更することのできるモーター等が設置されていると共に、研磨パッド(または研磨布)を貼り付けることのできる研磨定盤を備える。
【0079】
上記研磨パッドに特に制限はなく、一般の不織布、ポリウレタン樹脂製パッド、および多孔質フッ素樹脂製パッド等を使用することが可能である。さらに、必要に応じて、研磨パッドに溝加工を施すこともでき、これにより、研磨用組成物が研磨パッドの溝中にたまるようになる。
【0080】
研磨ステップのパラメータ条件にも特に制限はなく、実際の必要に応じて調整を行うことができる。例えば、研磨定盤の回転速度は10~500rpmとすることができ、キャリアの回転速度は10~500rpmとすることができ、研磨用組成物の流量は10~500ml/minとすることができる。研磨用組成物を研磨パッドへ供給する方法にも特に制限はなく、例えば、ポンプ等による連続供給の方法を採用できる。
【0081】
研磨ステップ終了後、水流中で研磨対象物を洗浄し、回転乾燥機等で研磨対象物に付着している水滴を飛ばして乾燥し、平坦な表面を有する、段差の無い基板を得る。
【実施例
【0082】
[実施例]
以下の実施例および比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術範囲は以下の実施例のみに限定されることはない。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行っている。
【0083】
[研磨用組成物の調製]
下表1に示される組成に従って、砥粒、pH調整剤、金属研磨促進剤、金属防食剤、酸化剤を分散媒(超純水)中で混合し(混合温度:約25℃、混合時間:約10分)、研磨用組成物を調製した。表1に示される砥粒は、市販製品を用いることができ、或いは表面を修飾するための化学品(例えば、塩化アルミニウム、APTES、スルホン酸等、本実施例では塩化アルミニウム)を表面が未修飾の砥粒に添加することにより得られる。研磨用組成物のpHを、pHメーター(堀場製作所製LAQUA)を用いて確認した(pH値測定時の研磨用組成物温度は25℃)。また、表1中の“-”はその成分を添加していないことを表す。表1における各成分の詳細は以下のとおりである。
【0084】
砥粒A:表面をアルミニウムイオンで修飾したコロイダルシリカ(一次粒子径:60nm;二次粒子径:120nm)
砥粒B:表面が未修飾のコロイダルシリカ(一次粒子径:30nm;二次粒子径:60nm)
砥粒C:砥粒Bの表面をアミノプロピルトリエトキシシラン(aminopropyltriethoxysilane, APTES)で修飾した砥粒(一次粒子径:30nm;二次粒子径:60nm;APTES修飾剤の濃度は1.3M)
砥粒D:砥粒Bの表面をスルホン酸(sulfonic acid)で修飾した砥粒(一次粒子径:30nm;二次粒子径:60nm)
砥粒E:表面が未修飾のコロイダルシリカ(一次粒子径:60nm;二次粒子径:120nm)
砥粒F:砥粒Eの表面をアミノプロピルトリエトキシシランで修飾した砥粒(一次粒子径:60nm;二次粒子径:120nm;APTES修飾剤の濃度は1.3M)
砥粒G:砥粒Eの表面をアミノプロピルトリエトキシシランで修飾した砥粒(一次粒子径:60nm;二次粒子径:120nm;APTES修飾剤の濃度は3.7M)
砥粒H:砥粒Eの表面をアミノプロピルトリエトキシシランで修飾した砥粒(一次粒子径:60nm;二次粒子径:120nm;APTES修飾剤の濃度は5.0M)。
【0085】
:過酸化水素(濃度:31%):標準電極電位1.7V、
塩酸:(濃度:37%)、
コハク酸:(純度:99.9%)、
Gly:グリシン(純度:100%)、
L-His:L-ヒスチジン(純度:98%)、
BTA:ベンゾトリアゾール(benzotriazole;純度:99.9%)。
【0086】
〔砥粒A、C、D、F~Hの作製方法〕
砥粒A:シリカ微粒子がシリカ濃度20質量%で分散してなるシリカゾル(砥粒Eと同様のもの)1Lを、温度0~15℃の範囲に維持し、攪拌又は循環させながら、塩化アルミニウム4.0gを添加した。
【0087】
砥粒C:純水を分散媒とし、コロイダルシリカ(砥粒Bと同様のもの)を20質量%で含むコロイダルシリカ分散液を用意した。前記コロイダルシリカ分散液1Lに対して、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)1.3mmol(3.7mmol、5.0mmol)をゆっくり(約5秒に1滴、1滴約0.03g)加えた。添加の間、コロイダルシリカ分散液を攪拌機で300~400rpmの速度で攪拌した。APTESの添加が終了した後、室温(25℃)で5時間攪拌を続けた。
【0088】
砥粒D:純水を分散媒とし、コロイダルシリカ(砥粒Bと同様のもの)を20質量%で含むコロイダルシリカ分散液を用意した。前記コロイダルシリカ分散液1Lに対して、シランカップリング剤として3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン1.2gを加え、沸点で還流して熱熟成を行った。その後、容量を一定に保つために純水を追加しながらメタノール及びアンモニアを水置換し、pHが8以下になった時点で一旦シリカゾルの液温を室温に下げた。次に35%過酸化水素水を10.7g添加して再び加熱し、8時間反応を続け、室温まで冷却後、スルホン酸修飾水性アニオンシリカゾルを得た。
【0089】
砥粒F、G、H:純水を分散媒とし、コロイダルシリカ(砥粒Eと同様のもの)を20質量%で含むコロイダルシリカ分散液を用意した。前記コロイダルシリカ分散液1Lに対して、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)1.3mmol(3.7mmol、5.0mmol)をゆっくり(約5秒に1滴、1滴約0.03g)加えた。
添加の間、コロイダルシリカ分散液を攪拌機で300~400rpmの速度で攪拌した。APTESの添加が終了した後、室温(25℃)で5時間攪拌を続けた。
【0090】
[表面ゼータ電位の測定]
研磨用組成物に含まれる砥粒の表面ゼータ電位を、界面電位分析器(Colloidal Dynamics社製、Zeta Probe Analyzer)を用い、多重周波数電気音響(Multiple Frequency Electro-Acoustic)法により測定した。
【0091】
[除去速度の測定]
上記にて得られた研磨用組成物を用い、以下の研磨条件下でポリイミド基板(SVM製:膜厚50000Å)および銅基板(SVM製:膜厚40000Å)を研磨したときの研磨速度を測定した。
【0092】
研磨装置:片面CMP研磨装置(FREX 300E:荏原製作所製)
研磨パッド:ポリウレタン製パッド
定盤回転速度:110rpm
キャリア回転速度:110rpm
研磨用組成物の流量:300mL/min
研磨時間:60sec
研磨圧力:2psi(約13.8kPa)または5psi(34.5kPa)。
【0093】
研磨対象物の研磨前および研磨後の厚さは、ポリイミド基板については光干渉式膜厚測定システム(KLA-Tencor社製、ASET-F5X)により測定し、銅基板についてはシート抵抗器(KLA-Tencor社製、OmniMap RS-100)により測定した。除去速度は次式により算出した。
【0094】
除去速度={[研磨前の厚さ]-[研磨後の厚さ]}/[処理時間]
上式中、厚さの単位はÅ、処理時間の単位は分、除去速度の単位は(Å/min)である。
【0095】
[除去速度の比の値の計算]
上記の研磨圧力(つまり2psiまたは5psi)下で研磨ステップを行い、上式によりポリイミド基板のこの研磨圧力における除去速度RPIを求めた。同じように、上記の研磨圧力(つまり5psi)下で研磨ステップを行い、上式により銅基板のこの研磨圧力における除去速度RCuを求めた。研磨圧力5psiのときのポリイミド基板の除去速度RPIの銅基板の除去速度RCuに対する比の値(RPI/RCu)を計算した。かかる除去速度の比の値(RPI/RCu)は、この特定の研磨圧力(つまり5psi)下における樹脂材料(つまりPI)の除去速度の金属材料(つまり銅)の除去速度に対する比を表すのに用いることができる。除去速度の比の値(RPI/RCu)が大きいほど、樹脂材料の除去速度の金属材料の除去速度に対する比はより大きいということである。各実施例と比較例のポリイミド基板の除去速度RPI、銅基板の除去速度RCuおよび/またはポリイミド基板の除去速度RPIの銅基板の除去速度RCuに対する比の値(RPI/RCu)が表1に示されている。
【0096】
[Cuエッチングレート]
(試験条件)
実施例1~13および比較例1~9において、試験片としては、表面に厚さ10,000Åの銅膜を形成したシリコンウェーハ(200mm、ブランケットウェーハ)を使用した。それぞれのシリコンウェーハを30mm×30mmのチップに切断したクーポンを各研磨用組成物200mlに以下の条件により浸漬した。
【0097】
浸漬時間:10分
浸漬温度:60℃
スターラー回転速度:300rpm。
【0098】
(エッチングレートの評価)
浸漬前後の銅層の厚みを、シート抵抗器(KLA-Tencor社製、OmniMap RS-100)で求め、(浸漬前の厚み)-(浸漬後の厚み)を銅のエッチング量とした。
【0099】
得られた結果を表1に示す。
【0100】
この値が低いほど銅層の研磨の際に発生すると想定される溶解が抑えられていることになる。すなわち、段差の抑制に対して好ましい結果であると言える。
【0101】
【表1】
【0102】
表1の実施例1および比較例3~9を参照されたい。使用した砥粒が異なる他は、実施例1と比較例3~9のその他の実験条件は同じかまたは類似している。実施例1では、表面をアルミニウムイオンで修飾したコロイダルシリカを砥粒(つまり砥粒A)として用い、ポリイミド基板の除去速度RPIは2867Å/minであった。これに対し、比較例3~9で使用した砥粒(つまり砥粒B~砥粒H)はいずれも本発明に係る砥粒とは異なるものである。比較例3~9のポリイミド基板の除去速度RPIはいずれも実施例1のポリイミド基板の除去速度RPIに比べてはるかに低かった。このことからわかるように、本発明に係る研磨用組成物はポリイミドの除去速度を大幅に高めることができる。
【0103】
表1の実施例2~4および比較例1、2を参照されたい。研磨用組成物のpH値が異なること以外、その他の実験条件はいずれも同じかまたは類似している。比較例2における研磨用組成物のpH値は8.0であり、ポリイミド基板の除去速度RPIは118Å/minであった。比較例1では、研磨用組成物のpH値が2.0であり、ポリイミド基板の除去速度RPI30Å/minであった。実施例2~4において、研磨用組成物のpH値はそれぞれ3.0、5.0および6.0であり、ポリイミド基板の除去速度RPIはそれぞれ5079Å/min、6489Å/minおよび6721Å/minであった。これらからわかるように、本発明に係る研磨用組成物は、特定のpH値範囲(例えばpHが2.0を超えて7以下)において、ポリイミドの除去速度を大幅に高めることができる。
【0104】
表1の実施例5から実施例12を参照されたい。実施例5から実施例12までの各実施例で用いた研磨用組成物は、いずれも本発明に係る砥粒(つまり砥粒A)、金属研磨促進剤、酸化剤、および、(実施例によっては)金属防食剤を含む。実施例5から実施例12において、研磨圧力が5psiであるとき、ポリイミド基板の除去速度RPIの銅基板の除去速度RCuに対する比の値(RPI/RCu)はそれぞれ2.9、3.5、0.8、1.2、1.3、1.3、1.4および2.1であった。これからわかるように、実施例5から実施例12までの各実施例で用いた研磨用組成物によりポリイミドおよび銅で形成されたパターン化構造を含む研磨対象物を研磨すると、ポリイミドの除去速度の銅の除去速度に対する比を1.0に極めて近くすることができる。
【0105】
以上まとめると、本発明に係る研磨用組成物は、特定の構造を備える砥粒を含んでなり、特定のpH値の環境下で、樹脂材料の除去速度を大幅に高めることができる。本発明に係る研磨用組成物を用いて樹脂材料および金属材料で形成されたパターン化構造を含む研磨対象物を研磨すると、樹脂材料の除去速度の金属材料の除去速度に対する比を小さくすることができる。よって、研磨により形成される研磨対象物表面の段差を有効に減少させることができる。また、本発明に係る研磨用組成物は、酸化剤、金属研磨促進剤、金属防食剤からなる群から選択される少なくとも1種をさらに含んでいてよく、金属材料の除去速度をさらに調整し、金属材料の腐蝕を低減することができる。かかる研磨用組成物を用いて樹脂材料および金属材料で形成されたパターン化構造を含む研磨対象物を研磨すると、研磨により研磨対象物表面に形成される段差をより一層効果的に減少させることができる。
【0106】
また、本発明に係る研磨用組成物は、化学機械研磨プロセスに使用することができ、平坦な表面を備える基板を得るのに有用である。したがって産業上の利用可能性を備える。
【0107】
本発明をいくつかの好ましい実施形態により上のように開示したが、これらは本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、当然に、任意の変更および修飾を加えることができる。よって、本発明の保護範囲は、後述する特許請求の範囲で定義されたものが基準となる。
【0108】
本出願は、2019年3月27日に出願された日本特許出願番号第2019-061636号に基づいており、その開示内容は、その全体が参照により本明細書に組みこまれる。
【符号の説明】
【0109】
102…コロイダルシリカ粒子、
104…塩化アルミニウム修飾剤、
112…修飾コロイダルシリカ粒子。
図1
図2
図3