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特許7576198バイト工具、およびバイト工具の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-22
(45)【発行日】2024-10-30
(54)【発明の名称】バイト工具、およびバイト工具の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/27 20060101AFI20241023BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20241023BHJP
   B23B 27/18 20060101ALI20241023BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20241023BHJP
【FI】
C23C16/27
B23B27/14 B
B23B27/18
B23B27/20
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2024065823
(22)【出願日】2024-04-15
【審査請求日】2024-04-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100180426
【弁理士】
【氏名又は名称】剱物 英貴
(72)【発明者】
【氏名】木村 豊
(72)【発明者】
【氏名】大島 龍司
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-291110(JP,A)
【文献】特開2015-034114(JP,A)
【文献】特開2006-315942(JP,A)
【文献】国際公開第2016/021710(WO,A1)
【文献】特開2019-081699(JP,A)
【文献】特開平07-196379(JP,A)
【文献】特開平05-253757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/27
B23B 27/14
B23B 27/18
B23B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、前記基台にろう付けされている刃先とを備えるバイト工具であって、
前記刃先は、
HPHT単結晶ダイヤモンド基板と、
前記HPHT単結晶ダイヤモンド基板の上に堆積されており、前記HPHT単結晶ダイヤモンドと比較して、結晶品質が同等もしくはそれ以下であるとともに表面が粗いCVD単結晶質ダイヤモンド層とを備え、
前記刃先の前記CVD単結晶質ダイヤモンド層と、前記基台とが対向するように、前記刃先と前記基台とが接着されている
ことを特徴とするバイト工具。
【請求項2】
前記HPHT単結晶ダイヤモンド基板の板厚は0.3~3.0mmである、請求項1に記載のバイト工具。
【請求項3】
前記CVD単結晶質ダイヤモンド層の厚さは0.1~2.0mmである、請求項1または2に記載のバイト工具。
【請求項4】
前記CVD単結晶質ダイヤモンド層は透明または黄色を呈する、請求項1または2に記載のバイト工具。
【請求項5】
前記CVD単結晶質ダイヤモンド層は透明または黄色を呈する、請求項3に記載のバイト工具。
【請求項6】
前記CVD単結晶質ダイヤモンド層の表面近傍領域は、前記CVD単結晶質ダイヤモンド層の表面近傍領域以外の領域とは異なる色を呈する、請求項1または2に記載のバイト工具。
【請求項7】
前記CVD単結晶質ダイヤモンド層の表面近傍領域は、前記CVD単結晶質ダイヤモンド層の表面近傍領域以外の領域とは異なる色を呈する、請求項3に記載のバイト工具。
【請求項8】
前記CVD単結晶質ダイヤモンド層の表面近傍領域は前記CVD単結晶質ダイヤモンド層の表面近傍領域以外の領域とは異なる色を呈する、請求項4に記載のバイト工具。
【請求項9】
前記CVD単結晶質ダイヤモンド層の表面近傍領域は前記CVD単結晶質ダイヤモンド層の表面近傍領域以外の領域とは異なる色を呈する、請求項5に記載のバイト工具。
【請求項10】
基台と、前記基台にろう付けされている刃先とを備えるバイト工具の製造方法であって、
予め準備されたHPHT単結晶ダイヤモンド基板に、CVD法により、酸素、窒素、および/または窒素の酸化物の少なくとも1種で構成される添加ガスを含有する雰囲気ガス中で、CVD単結晶質ダイヤモンド層を堆積するCVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程と、
前記CVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程により、前記HPHT単結晶ダイヤモンド基板に前記CVD単結晶質ダイヤモンド層を堆積した前記刃先を、前記CVD単結晶質ダイヤモンド層と前記基台とが対向するように、前記刃先と前記基台とをろう付けにより接着する刃先接着工程と
を備えることを特徴とするバイト工具の製造方法。
【請求項11】
前記CVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程の工程時間において、最後の20~0.5%以降の時間帯に、前記添加ガスの導入量を、前記時間帯以外の時間帯における前記添加ガスの導入量の2~200倍に増加させる、請求項10に記載のバイト工具の製造方法。
【請求項12】
前記CVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程の工程時間において、最後の20~0.5%以降の時間帯だけ、前記添加ガスを導入する、請求項10に記載のバイト工具の製造方法。
【請求項13】
前記CVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程により堆積された前記CVD単結晶質ダイヤモンド層の堆積面が、少なくとも部分的に前記HPHT単結晶ダイヤモンド基板の面と平行になるように、前記堆積面を研削し平坦にする研削平坦工程を備える、請求項10~12のいずれか1項に記載のバイト工具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を研削・切削するためのバイト工具、およびバイト工具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは物質上最高の硬度を持ち、シリコンなどの種々の材料の加工工具などに利用されている。近年では、単結晶ダイヤモンドを刃先としたバイト工具が注目されている。
【0003】
単結晶ダイヤモンドには、天然ダイヤモンドや合成ダイヤモンドがある。天然ダイヤモンドは、そのほとんどがIa型であり、格子もしくは格子間に窒素を有する。また、天然ダイヤモンドにはIIa型の天然ダイヤモンドが存在するものの、不純物の含有量や結晶組織のばらつきが大きく、品質や性能が一定ではなく供給も安定しない。さらに、天然ダイヤモンドは、採掘量に応じて価格が変動するため、安定供給に課題を残し、高価でもあり入手が困難である。一方、合成ダイヤモンドは、天然ダイヤモンドよりも一定品質のものを安定的に作製可能であり供給も安定している。
【0004】
そこで、近年では、安価で高い耐久性能を示す合成ダイヤモンドが検討されている。例えば特許文献1には、高硬度且つ高靭性を両立して、工具作製時には加工しやすく、天然品や高温高圧合成Ib品を用いた工具と同等以上に割れや欠けが発生しにくく、切削時には長寿命且つ耐欠損性の高い単結晶ダイヤモンドを用いた工具が提案されている。そして、特許文献1には、高温高圧法(High Pressure and High Temperature、以下、適宜、「HPHT」と称する。)で製造した種基板に化学気相堆積法(Chemical Vapor Deposition、以下、適宜、「CVD」と称する。)でCVD単結晶質ダイヤモンドをエピタキシャル成長させ、種基板と分離したCVD単結晶質ダイヤモンド層を用いる技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、エピタキシャル成長した単結晶が基板との間に蓄積する応力を抑制し、ダイヤモンド製品に適した単結晶ダイヤモンドを用いた工具が開示されている。この課題を解決するため、特許文献2に記載の発明では、CVDにより、単結晶ダイヤモンドがHPHT基板の主面に加えて側面にも堆積されることによる応力を緩和する検討がなされている。同文献には、HPHT基板の側面に炭素質層が形成されることにより、CVD単結晶質ダイヤモンド層への応力を緩和することができる、とされている。また、特許文献2には、HPHT単結晶ダイヤモンド基板と、そこに堆積したCVD単結晶質ダイヤモンド層とを分離し、CVD単結晶質ダイヤモンド層を工具に使用することが開示されている。
【0006】
一方、特許文献3には、工具の靱性および/または耐摩耗性を改善するため、HPHT単結晶ダイヤモンド基板を用いる技術が開示されている。詳細には、HPHTダイヤモンド工具ピースの少なくとも一部が、30%を超える集合窒素中心対C-窒素中心比を含む工具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2014/003110号
【文献】特開2015-34114号公報
【文献】特表2019-523741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
CVD単結晶質ダイヤモンド層は、エピタキシャル成長時に基板との応力を避けることができないため、その表面は比較的粗いことが知られている。このため、特許文献1および特許文献2に記載の発明では、HPHT単結晶ダイヤモンド基板に堆積したCVD単結晶質ダイヤモンド層への応力の緩和に関して検討されている。
【0009】
しかし、特許文献1および特許文献2に記載のCVD単結晶質ダイヤモンド層を工具に用いたとしても、十分に応力が緩和されるとは言い切れない。これらの文献で検討されている手法が用いられたとしても、応力の緩和には限界があり、CVD単結晶質ダイヤモンドには応力が残留してしまう。特に、バイト工具の場合には、近年の被削材の高い加工精度が求められるため、更なる検討が必要とされている。
【0010】
また、CVD単結晶質ダイヤモンド層は、HPHT単結晶ダイヤモンド基板と比較して加工し難いことが知られている。また、CVD単結晶質ダイヤモンド層は、前述のようにエピタキシャル成長時における応力の影響で、加工精度が比較的劣る傾向がある。
【0011】
さらに、バイト工具は、使用後に刃先を研磨して加工精度を保つ必要があるため、板厚は厚い方がよい。しかし、HPHTで厚い単結晶ダイヤモンドを得るには多くの時間と費用が発生する。
【0012】
一方、特許文献3の段落0019には、30%を超える集合窒素中心対C-窒素中心比を含むと、集合窒素中心が、C-中心のみから成るダイヤモンド結晶格子と比較してダイヤモンドの格子歪みを減少させるためである、ことが記載されている。これは、アニーリングの時間および温度の両方が集合窒素中心対C-中心比に影響を与えるためである、とされている。
【0013】
ここで、特許文献3の段落0014には、ダイヤモンド工具ピースを担体へろう付けしてダイヤモンド工具を形成することが開示されている。しかし、HPHT単結晶ダイヤモンド基板は、表面が平滑であるためにろう付けをしても強い接着力が得られ難い。
【0014】
そこで、本発明の課題は、バイト工具としての加工精度に優れ、基台との高い接着力が得られるバイト工具、およびバイト工具の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
従来では、特許文献1~3に開示されているように、CVD単結晶質ダイヤモンド層、またはHPHT単結晶ダイヤモンド基板のいずれか一方を用いたバイト工具が用いられてきた。このため、両者の長所を両立することは困難であった。
【0016】
本発明者らは、研削精度の向上と良好な加工性の観点から、まずは、HPHT単結晶ダイヤモンド基板を用い、従来から行われているろう付けにより高い接着力を示す検討を行った。刃先と基台を接着する工程であるろう付けには銀ろうやCuろうなどが用いられているが、更に接着強度が向上するろう材の検討を行ってもよいと思われる。
【0017】
ただ、単結晶ダイヤモンドは金属ではないため、特にHPHT単結晶ダイヤモンド基板の場合には、ろう付けでは接着力の向上は容易ではない。これは、単結晶ダイヤモンドは化学的に安定なだけでなく、熱的にも安定であるため、ろう材と単結晶ダイヤモンドとの接合界面近傍で、各構成元素が相互拡散し難いためであると推察される。
【0018】
そこで、本発明者らは、冶金学的に接着力の向上を図るのではなく、物理的に接着力を向上させることを着想し、更に検討を重ねた。本発明者らは、従来のようにHPHT単結晶ダイヤモンド基板からCVD単結晶質ダイヤモンド層を分離せずに、刃先として用いることに思い至った。
【0019】
加えて、従来から結晶品質や刃先自体の加工の難しさなどが課題とされてきた。これは、CVD単結晶質ダイヤモンド層がHPHT単結晶ダイヤモンド基板へのエピタキシャル成長により堆積される際、応力が加わり表面の凹凸が比較的多くなるためであると考えられる。そこで、本発明者らは、HPHT単結晶ダイヤモンド基板に堆積させたCVD単結晶質ダイヤモンド層を、基台と接着することに思い至った。
【0020】
ここで、従来から、HPHT単結晶ダイヤモンド基板にCVD単結晶質ダイヤモンド層を堆積した単結晶ダイヤモンドは、内部応力により種々の特性が劣化してしまうことが知られている。このため、HPHT単結晶ダイヤモンド基板にCVD単結晶質ダイヤモンド層を堆積した単結晶ダイヤモンドをバイト工具に使用することは避けられていた。
【0021】
しかし、本発明者らは、敢えて、従来から避けられてきた、HPHT単結晶ダイヤモンド基板にCVD単結晶質ダイヤモンド層を堆積したものを刃先として用いてみた。更に、本発明者らは、CVD単結晶質ダイヤモンド層が基台と対向するように、ろう付けにより基台と刃先とを接着した。その結果、高い研削精度と基台との接着力を備える単結晶ダイヤモンドからなる刃先を用いたバイト工具が得られ、本発明は完成した。
これらの知見により得られた本発明は以下のとおりである。
【0022】
(1) 基台と、基台にろう付けされている刃先とを備えるバイト工具であって、
刃先は、HPHT単結晶ダイヤモンド基板と、HPHT単結晶ダイヤモンド基板の上に堆積したCVD単結晶質ダイヤモンド層とを備え、
刃先のCVD単結晶質ダイヤモンド層と、基台とが対向するように、刃先と基台とが接着されている
ことを特徴とするバイト工具。
【0023】
(2) HPHT単結晶ダイヤモンド基板の板厚は0.3~3.0mmである、上記(1)に記載のバイト工具。
【0024】
(3) CVD単結晶質ダイヤモンド層の厚さは0.1~2.0mmである、上記(1)または上記(2)に記載のバイト工具。
【0025】
(4~5) CVD単結晶質ダイヤモンド層は透明または黄色を呈する、上記(1)~上記(3)のいずれか1項に記載のバイト工具。
【0026】
(6~9) CVD単結晶質ダイヤモンド層の表面近傍領域は、CVD単結晶質ダイヤモンド層の表面近傍領域以外の領域とは異なる色を呈する、上記(1)~上記(5)のいずれか1項に記載のバイト工具。
【0027】
(10) 基台と、基台にろう付けされている刃先とを備えるバイト工具の製造方法であって、
予め準備されたHPHT単結晶ダイヤモンド基板に、CVD法により、酸素、窒素、および/または窒素の酸化物の少なくとも1種で構成される添加ガスを含有する雰囲気ガス中で、CVD単結晶質ダイヤモンド層を堆積するCVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程と、
CVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程により、HPHT単結晶ダイヤモンド基板にCVD単結晶質ダイヤモンド層を堆積した刃先を、CVD単結晶質ダイヤモンド層と基台とが対向するように、刃先と基台とをろう付けにより接着する刃先接着工程とを備えることを特徴とするバイト工具の製造方法。
【0028】
(11) CVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程の工程時間において、最後の20~0.5%以降の時間帯に、添加ガスの導入量を、前記時間帯以外の時間帯における前記添加ガスの導入量の2~200倍に増加させる、上記(10)に記載のバイト工具の製造方法。
【0029】
(12) CVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程の工程時間において、最後の20~0.5%以降の時間帯だけ、添加ガスを導入する、上記(10)に記載のバイト工具の製造方法。
【0030】
(13) CVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程により堆積された前記CVD単結晶質ダイヤモンド層の堆積面が、少なくとも部分的にHPHT単結晶ダイヤモンド基板の面と平行になるように、前記堆積面を研削し平坦にする研削平坦工程を備える、上記(10)~上記(12)のいずれか1項に記載のバイト工具の製造方法。
【0031】
(14) CVD単結晶質ダイヤモンド層の表面には複数の凸部が形成されており、凹凸の最下端から最上端までの高低差が0.05mm以上である、上記(1)~上記(9)のいずれか1項に記載のバイト工具。
【0032】
(15) 前記CVD単結晶質ダイヤモンド層の表面において、前記HPHT単結晶ダイヤモンド基板と平行な面の面積は、前記CVD単結晶質ダイヤモンド層の表面積の30~95%である、上記(1)~上記(9)のいずれか1項に記載のバイト工具。
【0033】
(16) 凸部である異常成長箇所の間隔が、CVD単結晶質ダイヤモンド層の幅の1/2以上である、上記(1)~上記(9)のいずれか1項に記載のバイト工具。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、本実施形態に係るバイト工具の斜視図である。
図2図2は、本実施形態に係るバイト工具の分解斜視図である。
図3図3は、本実施形態に係るバイト工具を構成する刃先の斜視図である。
図4図4は、本実施形態に係るバイト工具の製造工程を示す工程斜視図であり、図4(a)は、予め準備されたHPHT単結晶ダイヤモンド基板の斜視図であり、図4(b)は、CVD法によりCVD単結晶質ダイヤモンド層が堆積されたHPHT単結晶タイヤモンド基板の斜視図であり、図4(c)は、CVD単結晶質ダイヤモンド層が堆積されたHPHT単結晶タイヤモンド基板において、CVD単結晶質ダイヤモンド層と基台とを接着した刃先の斜視図である。
図5図5は、本実施形態に係るバイト工具の製造工程において、CVD単結晶質ダイヤモンドの堆積条件の1例を示す、ガス種と堆積時間(%)の関係を示すプロファイルである。
図6図6は、本実施形態に係るバイト工具の製造方法により製造された刃先の表面を、刃先のHPHT単結晶ダイヤモンド基板と平行になるように研削平坦処理を行う前後の様子を示す刃先の断面模式図であり、図6(a)は研削平坦処理を行う前の刃先の断面模式図であり、図6(b)は研削平坦処理を行った後の刃先の断面模式図である。
図7図7は、本実施形態に係るバイト工具の刃先の光学顕微鏡写真であり、図7(a)が実施例2においてCVD単結晶質ダイヤモンド層を堆積する前のHPHT単結晶ダイヤモンド基板であり、図7(b)が実施例2においてHPHT単結晶ダイヤモンド基板に体積されたCVD単結晶質ダイヤモンド層である。
図8図8は、CVD単結晶質ダイヤモンド層の堆積条件において、全堆積時間の最後の5時間だけ、水素導入量を100体積部としたときの窒素導入量を0.05体積部から0.20体積部に増加して堆積した実施例2の刃先の写真であり、図8(a)が刃先の光学顕微鏡写真であり、図8(b)が研削平坦処理を行った後の刃先のSEM写真である。
図9図9は、CVD単結晶質ダイヤモンド層の堆積条件において、全堆積時間の最後の3時間だけ、水素導入量を100体積部としたときの窒素導入量を0.10体積部から0.50体積部に増加して堆積した実施例3の刃先の写真であり、図9(a)が刃先の光学顕微鏡写真であり、図9(b)が研削平坦処理を行った後の刃先のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の実施形態を図面に基づいて詳述する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各実施形態を組み合わせた形態であってもよい。
【0036】
1.バイト工具
(1)バイト工具の概要
図1は、本実施形態に係るバイト工具1の斜視図である。図2は、本実施形態に係るバイト工具1の分解斜視図である。図1および図2に示すバイト工具1は、刃先20、および刃先20がろう材により固定される基台30から構成されている。このままバイト工具1として使用してもよいが、研削装置によっては、刃先20と、刃先20が固定された基台30とで構成される刃先部分10を締結ボルト38でシャンク34に着脱可能に装着されていてもよい。
【0037】
シャンク34は、例えば図1に示すように、ステンレス鋼によって四角柱状に形成され、その先端(下端)部に先端が先細りの取付け部341が設けられている。円柱状であってもよく、不図示の研削装置の仕様に応じた形状にすればよい。取付け部341の取り付け面342には、図2に示すように雌ネジ穴343が形成されている。
【0038】
基台30は、例えばタングステンカーバイトなどの固い材料によって形成されており、上記シャンク34に着脱可能に装着される装着面301aを備えた装着部301と、刃先20がロウ付けされるチップ取り付け部302とを備えている。なお、図示の実施形態においては基台30を構成する装着部301とチップ取り付け部302を一体成型した例を示したが、装着部301とチップ取り付け部302を別体で形成し、両部をロウ付けしてもよい。
【0039】
このように形成された基台30は、刃先20がロウ付けされるチップ取り付け部302が装着部301の前面301bより突出して形成されており、このチップ取り付け部302の前面であるチップ取り付け面302aに刃先20が銀スズ等のロウ材によってロウ付けされる。
【0040】
なお、基台30を構成する装着部301の前面301bとチップ取り付け面302aとの距離は、例えば図示の実施形態においては5mmに設定されている。3~10mm程度であればよく、特に限定されない。
【0041】
刃先20の厚みは、図示の実施形態においては2mmに設定されている。0.5~5mm程度であればよい。基台30の装着部301にはボルト挿通穴303が設けられている。締結ボルト38がボルト挿通穴303に挿通され、シャンク34に形成されたボルト挿通穴303に螺合されることにより、基台30をシャンク34に取り付けることができる。
以上のように構成されたバイト工具1、もしくはバイト工具1が取り付けられたシャンク34は、不図示の研削装置に取り付けられる。
【0042】
(2) 刃先
図3は、本実施形態に係るバイト工具を構成する刃先部分10の斜視図である。本発明に係る刃先20は単結晶ダイヤモンドであり、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21と、HPHT単結晶ダイヤモンド基板上に堆積されたCVD単結晶質ダイヤモンド層22とからなる。刃先部分10を構成するCVD単結晶質ダイヤモンド層22と基台30とが対向するように、刃先20と基台30とがろう材23によりろう付けされている。
【0043】
HPHT単結晶ダイヤモンド基板21は、Ib型またはIIa型であり、Ib型が好ましい。また、バイト工具の使用後に刃先を研削研磨し、再使用を図る観点から、板厚は0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上であることが更に好ましく、1.5mm以上あればよい。上限は特に限定されないが、製造可能な範囲として、3.0mm以下であればよく、2.0mm以下であってもよい。
【0044】
CVD単結晶質ダイヤモンド層22の膜厚は、CVD法を用いて堆積される観点から、必要以上の膜厚はコストの観点から好ましくない。このため、本実施形態では、上限は2.0mm以下が好ましい。下限は、後述する凹凸が形成される程度の膜厚があればよいため、0.05mm以上であればよく、0.10mm以上が好ましい。
【0045】
HPHT単結晶ダイヤモンド基板21が厚い場合には、CVD単結晶質ダイヤモンド層22は薄くてもよい。HPHT単結晶ダイヤモンド基板21が薄い場合には、CVD単結晶質ダイヤモンド層22は厚くてもよい。一般的に、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21を厚くするためには多くの時間を要するため、CVD単結晶質ダイヤモンドが厚くてもよい。CVD単結晶質ダイヤモンド層22が厚い場合には、少なくともCVD単結晶質ダイヤモンド層22もしくはその表面が低品質であり、その表面に大きな凹凸を備えるCVD単結晶質ダイヤモンドとすることができる。
【0046】
刃先の寿命を考慮すると、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21が厚い方がよい。この場合、CVD単結晶質ダイヤモンド層22は、基台30との剥離が抑制される程度に凹凸が形成されるのであれば、上述の範囲内で薄くてもよい。
【0047】
CVD単結晶質ダイヤモンド層22の表面は、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21と比較して粗い。このため、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21を直接基台30にろう付けする場合と比較して、より強固な接着が可能となる。強固な接着が可能になる理由は、詳細には以下のように推察される。ろう材23は接着時に溶融しているため、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の凹部に溶融しているろう材23が侵入する。このため、平滑な面と比較して、凹凸を備える面の方が、比表面積が大きい為、凝固後のろう材23とCVD単結晶質ダイヤモンド層22との接触面積が増加し、より強固な接着が可能となる。凹凸については後述する。
【0048】
CVD単結晶質ダイヤモンド層22がより強固に基台30と接着されるためには、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の結晶品質が劣る方がよい。従来では、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21にエピタキシャル堆積されたCVD単結晶質ダイヤモンド層22は、従来からHPHT単結晶ダイヤモンド基板21から剥離して単体で用いられていた。このため、従来では、CVD単結晶質ダイヤモンド層22が堆積されたHPHT単結晶ダイヤモンド基板自体をそのまま工具などに用いられることはなかった。
【0049】
しかし、本実施形態に係るバイト工具は、基台30へのろう付けを強固にするため、CVD単結晶質ダイヤモンド層22が従来とは正反対の技術的思想に基づいて構成されている。すなわち、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21と比較して、結晶品質が同等もしくはそれ以下である表面が粗いCVD単結晶質ダイヤモンド層22を用いた方が好しい。CVD単結晶質ダイヤモンド層22の色は、透明もしくは黄色であればよい。黄色の方が好ましい。
【0050】
刃先20は、窒素を含有することによって、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21とCVD単結晶質ダイヤモンド層22のホモエピタキシャル成長界面の接合が強固になると共に、堆積による結晶ストレスを減少させることができる。さらにダイヤモンド結晶内に取り込まれた窒素の影響によって、ダイヤモンド結晶の品質の低下を招き、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の堆積終了時に、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の全体、もしくはCVD単結晶質ダイヤモンド層22の表面が荒れる。その結果、ろう材23との接合強度が上がり、基台30との剥離を抑制することができる。
【0051】
本発明では、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の表面近傍領域は、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の表面近傍領域以外の領域と異なる色を呈していてもよい。つまり、CVD単結晶質ダイヤモンド層22が従来のように高品質を目指した堆積条件で堆積がされた場合であっても、表面近傍領域の結晶品質を劣化させた場合には、表面近傍領域とそれ以外の領域とでは、呈色が異なる。CVD単結晶質ダイヤモンド層22の表面近傍領域の色が、その他の領域の色より濃くなれば、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の接着面の結晶品質がより劣化し、表面の凹凸や孔がより顕著に形成され、ろう付けによる接着がより強固になる。また、CVD単結晶質ダイヤモンド層22は窒素の混入により、窒素の混入がない結晶に比して結晶品質が劣化することにより、刃先自体の加工が容易になる。
【0052】
なお、本発明では、上述のように、好ましい態様としてこれらの領域の呈色が異なるとはいえ、堆積の途中で窒素量を増加させてCVD単結晶質ダイヤモンド層22の表面近傍領域の結晶品質を劣化させている。このため、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の表面近傍領域の色は、それ以外の領域の色より濃い黄色なるか、もしくは紫や茶などの黄色ではない色に変色していてもよい。当然のことながら、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の少なくとも表面近傍領域は、それ以外の領域と異なる色を呈するとは言え、無色であることはない。
【0053】
黄色が濃くなれば一般的に窒素量が多くなり、結晶品質が劣ることになる。黄色の識別方法としては、例えばGIA COLOR SCALEのD~Zに基づいて識別すればよい。Zより濃い場合には、ファンシーカラーとして区別される濃いカラースケールで判断してもよい。ファンシーカラーとしては、濃い黄色、緑色、赤色、緑色、オレンジ色、ピンク色、青色、紫色、紺色、黒が挙げられる。グレードとして色の薄い順に、フェイント、ベリーライト、ライト、ファンシーライト、ファンシー、ファンシーダーク、ファンシーディープなどで分類される。本発明では、色が濃いほど結晶品質が劣るため、ろう付けが強固になり、基台30と刃先20との剥離を抑制することができる。色の分類は目視でおこなってもよい。
【0054】
また、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の結晶品質をラマンスペクトルの半値幅で規定してもよい。CVD単結晶質ダイヤモンド層22のラマンスペクトルを用いて規定する場合には、CVD単結晶質ダイヤモンド層22のピーク半値幅であるFWHMが1.0~5.0cm-1であってもよい。さらに、ピークシフト量は、標準として窒素混入量の極めて少ないIa型の天然ダイヤモンドもしくは、人造IIa型のダイヤモンドピークを1333.0cm-1とし、比較することができる。CVD単結晶質ダイヤモンド層22のピークシフト量が、-1.0~+1.0cm-1であってもよい。これらの少なくともいずれか、またはすべてを満たすCVD単結晶質ダイヤモンド層22の表面は粗く、ろう材による接着強度が向上する。場合によっては、孔が形成されていれば、さらに強固な接着が可能となる。
【0055】
本発明における「CVD単結晶質ダイヤモンド層の表面近傍領域」とは、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の表面から0.1mmまでの深さを表す。例えば、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の膜厚が0.1mmの場合には、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の全体の結晶品質が劣ることになる。
【0056】
また、刃先20を構成するCVD単結晶質ダイヤモンド層22は、例えば図6(b)に示すように、表面が荒れることにより凹部22-1または凸部22-2が形成されていてもよい。凹部22-1は、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の平らな表面に孔が形成されるような場合に凹部22-1として形成されてもよい。また、凸部22-2は、異常成長箇所の頂部に相当する。凸部22-2の形成により凹部22-1も同時に形成される。
【0057】
本実施形態において、凹部22-1の最下端から凸部22-2の最上端までの高低差50が大きいほど、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の比表面積が増加し、ろう材が溶融時に凹部22-1に流動するため、より強固な接着が可能となる。CVD単結晶質ダイヤモンド層22を堆積した後、平滑化のための研削を行う場合には、凹部22-1の最下端と、研削平坦処理後における凸部22-2の最も高い箇所との差が高低差となる。高低差50は、好ましくは0.05mm超え0.5mm以下であることが好ましく、0.1mm超えが最も好ましい。高低差は、刃先20の断面を光学顕微鏡で観察することにより得られる。
【0058】
さらに、図6(b)に示すような研削後の表面において、凸部22-2の間隔60が、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の幅70の1/2以上であれば、安定して刃先20を基台30上に載置することができる。さらに好ましくは、間隔60が幅70の3/5以上であり、最も好ましくは7/10以上である。図6(b)のように、研削を行うと、凸部22-2の先端が平らになる。この場合には、図6(b)に示すように、平行な面22-4において、刃先20の外側に近い部分22-3を基準として間隔60を測定してもよい。
【0059】
加えて、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の表面には、図6(b)に示すように、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21と平行な面22-4が存在することが好ましい。このような平行な面22-4が存在することにより、基台30に安定して載置することができる。CVD単結晶質ダイヤモンド層の表面に存在するHPHT単結晶ダイヤモンド基板と平行な面22-4の面積は、CVD単結晶質ダイヤモンド層の表面積の30~95%であることが好ましい。
【0060】
なお、面積率が30~49%の場合であって、且つ、平行な面22-4がCVD単結晶質ダイヤモンド層の端部に偏って存在しても、刃先20が更に安定して載置されるようにすることが好ましい。この場合には、凸部22-2の間隔60が前述の範囲内であることが好ましい。
【0061】
前述のように、従来は、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21にCVD単結晶質ダイヤモンド層22が堆積された後、CVD単結晶質ダイヤモンド層22がHPHT単結晶ダイヤモンド基板21から分離され、CVD単結晶質ダイヤモンド層22が刃先として使用されてきた。これは、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21に堆積されたCVD単結晶質ダイヤモンド層22は、CVD単結晶質ダイヤモンド層22に応力が加わった状態が維持されるため、加工時に破損しやいという懸念があるためである。また、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の品質は、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21の結晶品質と異なるため、加工精度はHPHT単結晶ダイヤモンド基板21と同等の加工には到達し難い。したがって、従来では、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21とCVD単結晶質ダイヤモンド層22とは、分離せざるを得なかったのである。
【0062】
ただ、CVDでは厚い膜厚の単結晶ダイヤモンドを堆積するためには多くの時間を要し、分離工程にも時間を要するため、コスト高は否めない。一方で、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21のみを刃先20に用いると、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21が高品質であるために、却ってろう材23との接着強度が劣ってしまう。
【0063】
これらの諸事情を鑑み、本発明に係るバイト工具1は、従来では避けられていたHPHT単結晶ダイヤモンド基板21にCVD単結晶質ダイヤモンド層22が堆積された単結晶ダイヤモンドをそのまま刃先20として用いることにより、上述の諸事情を解消することができたのである。
【0064】
2.バイト工具の製造方法
本発明に係るバイト工具の製造方法を、図4を用いて説明する。図4は、本実施形態に係るバイト工具の製造工程を示す工程斜視図である。
【0065】
本発明に係るバイト工具の製造方法は、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21に、CVD法によりCVD単結晶質ダイヤモンド層22を堆積するCVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程と、CVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程により、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21にCVD単結晶質ダイヤモンド層22が堆積された刃先20を、CVD単結晶質ダイヤモンド層22と基台30とが対向するように、刃先20と基台30とをろう23を用いてろう付けにより接着する刃先接着工程とを備える。
以下、図4を用いて、工程順に説明する。
【0066】
(1)CVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程
図4(a)に示すように、従来と同様の方法により製造されたHPHT単結晶ダイヤモンド基板21を準備する。その後、図4(b)に示すように、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21にCVD単結晶質ダイヤモンド層22を堆積し、刃先20を形成する。本発明に係る製造方法では、例えばマイクロ波プラズマCVD装置を用い、CVD単結晶質ダイヤモンド層22をエピタキシャル成長により堆積する。マイクロ波CVD、直流プラズマCVDなど、従来のCVD法であれば特に限定されない。堆積条件は、例えば、堆積温度が700~1300℃であり、雰囲気が50~300Torr程度であり、主要ガスである水素やメタンに加えて、酸素、窒素、および/または窒素の酸化物の少なくとも1種で構成される添加ガスなどを用いればよい。
【0067】
また、本発明を構成するCVD単結晶質ダイヤモンド層22は、ろう材23との接着力を向上させる観点から、堆積終了時にCVD単結晶質ダイヤモンド層22の表面に凹凸が多く形成されることが好ましい。
【0068】
また、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の結晶品質を劣化させるため、従来より多い添加ガス導入量で堆積した方がよい。例えば、従来では、主要ガスを構成する水素を100体積部として0.1体積部未満の添加ガス導入量でCVD単結晶質ダイヤモンド層を堆積していた場合、本実施形態のように、添加ガス導入量を0.1~2.0体積部に増加すれば、ろう材による接着力が向上するとともに、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21での界面破壊も抑制される。
【0069】
CVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程での雰囲気ガスは、主要ガスである水素やメタンに加えて、窒素、酸素、窒素酸化物などの添加ガスを含んでいればよい。雰囲気ガスがこれらの混合ガスで構成される場合には、各ガス種の導入量は、水素導入量を100体積部として求められる。主要ガスを構成するメタンと添加ガスの導入量は、メタン導入量:添加ガス導入量=10.0~2.0体積部:0.0~2.0体積部であればよく、10.0~2.0体積部:0.01~2.0体積部であることが好ましい。メタン導入量に対する添加ガスの導入量の体積比は、0.00~40.00%であってもよい。CVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程の途中から添加ガスの導入量を増加させる場合には、最初は0.00~2.00%であればよく、途中から0.50~40.00%にまで増加させてもよい。この体積比は、添加ガス導入量をメタン導入量で除した値に100を乗じた割合(%)である。
【0070】
CVD単結晶質ダイヤモンド層22の結晶品質を大幅に劣化させる場合には、添加ガスの割合を増加させることが好ましい。例えば、水素導入量が100mであり、メタン導入量が5mであり、添加ガスの導入量が0.05mである場合には、メタン導入量:添加ガス導入量=5体積部:0.05体積部となり、体積比は5:0.05となる。添加ガスとしては、酸素、窒素、および/または窒素の酸化物の少なくとも1種が好ましく、窒素、NOまたはNOであることがより好ましい。
【0071】
加えて、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の表面の結晶品質を更に劣化させるためには、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の堆積時間に対して、20.0~0.5%の時間域であって、その時間域が堆積時間の終了時刻までの時間域であり、且つ、その時間域での添加ガス濃度をその時間帯以外の時間帯における添加ガス濃度の2~200倍に増加させることが好ましい。例えば、堆積時間が50時間である場合、雰囲気ガス中の添加ガス濃度が堆積時間の20%である10時間であり、堆積終了10時間前から添加ガス濃度がそれまでの2~200倍に増加するプロファイルである。例えば、図5に示す温度プロファイルであってもよい。
【0072】
本実施形態では、CVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程を開始する際の雰囲気ガスの条件を「第一段階」と称し、添加ガスを新たに導入した後、又は添加ガス導入量を増加させた後の時間域における雰囲気ガスの条件を「第二段階」と称してもよい。図5では、体積時間(%)の0~80%までが第一段階であり、80~100%が第二段階である。
【0073】
なお、本発明に係る製造方法では、第二段階から添加ガスの導入量を増加させるのではなく、第一段階から添加ガスを従来よりも多く導入し、最後までその導入量を維持してもよい。この場合には、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の全体で結晶品質が劣ることになる。このため、CVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程の当初から、メタン導入量に対する添加ガス導入量の体積比が1.1%以上である場合には、途中で添加ガスの濃度を増加させなくてもよい。当然のことながら、体積比がこの範囲内であっても、途中で添加ガスの濃度を増加させてもよい。
【0074】
また、CVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程が添加ガスを添加しない雰囲気で開始された場合には、前述の時間帯だけ添加ガスを導入してもよい。
【0075】
このように、本実施形態では、いずれかのタイミングで、添加ガスを導入するか又は添加ガスの導入量を増加させてもよい。こうすることで、仮に途中まで高品質のCVD単結晶質ダイヤモンド層22が堆積されたとしても、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の表面の結晶品質が劣り、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の表面に大きな凹凸による高低差が生じる。このため、基台30との剥離を抑制することができる。
【0076】
本実施形態に係るバイト工具は、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の品質が劣化するように製造されている。このため、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の堆積面において、所々で異常成長が発生する。本実施形態では、異常成長した箇所があったとしても、成長面に凹凸が形成された方が、基台30との剥離を抑制することができる。ただ、異常成長した箇所をそのままにすると、基台30に安定してろう付けを行うことができないことがある。
【0077】
そこで、本実施形態に係るバイト工具の製造方法では、後述する刃先接着工程の前に、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の堆積面を研削し平坦にする研削平坦工程を備えてもよい。研削平坦工程は、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の堆積面が部分的にHPHT単結晶ダイヤモンド基板21の面と平行になるように、異常成長箇所22-2を研削し平坦にする工程である。研削平坦工程により、刃先20と基台30とを平行な面22-4で接合することができるため、極めて強固なろう付けが可能となる。
【0078】
図6は、本実施形態に係るバイト工具の製造方法により製造された刃先の表面を、刃先のHPHT単結晶ダイヤモンド基板と平行になるように研削平坦処理を行う前後の様子を示す刃先の断面模式図であり、図6(a)は研削平坦処理を行う前の刃先の断面模式図であり、図6(b)は研削平坦処理を行った後の刃先の断面模式図である。図6(a)に示すように、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の堆積面は、異常成長箇所22-2を有することがある。このため、本実施形態に係るバイト工具の製造方法では、研削平坦工程による処理により、例えば図6に示すように、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21の面との平行線40で異常成長箇所である凸部22-2を研削してもよい。研削平坦工程により、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21の面と平行な面が少なくとも部分的に形成される。
【0079】
このような平行な面の面積は、CVD単結晶質ダイヤモンド層に形成される凸部22-2の数や発生個所、ならびに成長度合いに応じて適宜調整される。研削平坦工程では、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21の面と平行な面が得られる最小限の研削を行えばよい。
【0080】
ここで、本実施形態における「基台と平行な面が得られる最小限の研削」とは、基台30に刃先20を載置したときに、刃先20が傾かない程度にまで平行な面が得られるための最小限の研削、という意味である。すなわち、例えば凸部22-2がCVD単結晶質ダイヤモンド層の端に偏って存在する場合には、刃先20が基台30に載置されたときに傾かないようにするため、異常成長箇所をすべて研削する必要がある。
【0081】
ただ、凸部22-2は、CVD単結晶質ダイヤモンド層の全面に存在することが多い。このため、図6(b)に示すように、凸部22-2の頂点近傍を研削すれば、基台30に載置した時に刃先20が傾かず、安定して刃先20を載置することができる。
【0082】
より好ましい「基台と平行な面が得られる最小限の研削」としては、例えば、図6(b)に示すような研削後の表面において、凸部22-2の間隔60が、前述のように、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の幅70の1/2以上となるように研削を行ってもよい。このような研削により、安定して刃先20を基台30上に載置することができる。さらに好ましくは、間隔60が幅70の3/5以上であり、最も好ましくは7/10以上である。図6(b)のように、研削を行うと、凸部22-2の先端が平らになる。この場合には、図6(b)に示すように、平らな部分において、刃先20の外側に近い部分22-3を基準として間隔60を測定してもよい。
【0083】
CVD単結晶質ダイヤモンド層22の表面の研削は、一つの指標として、このような間隔60が得られるように、行ってもよい。なお、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の表面を研削した後であっても、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の表面の高低差50は、前述の範囲内であることが好ましい。
【0084】
CVD単結晶質ダイヤモンド層22は、研削平坦工程により異常成長箇所である凸部22-2が研削されることにより、図6(b)のように、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21の面と平行な面22-4が形成される。平行な面22-4の面積は、HPHT単結晶ダイヤモンド基板の面積の30~95%であることが好ましい。
【0085】
また、前述のようにCVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程を行うと、刃先の周りに多結晶質化したCVDダイヤモンド/および、またはダイヤモンドライクカーボン(以下、適宜、「DLC」と称する。)で覆われることがある。このDLCを研削により除去する工程を、後述する刃先接着工程の前に行ってもよい。
【0086】
研削平坦工程とDLC除去工程での研削は、通常の一般的な研削機で研削を行えばよい。研削条件は特に限定されない。
【0087】
(2)刃先接着工程
最後に図4(c)に示すように、本発明に係る製造方法では、CVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程により、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21にCVD単結晶質ダイヤモンド層22が堆積された刃先20を、基台30にろう付けにより接着する刃先接着工程を備える。刃先接着工程では、刃先20のCVD単結晶質ダイヤモンド層22と基台30とが対向するように、刃先20と基台30とをろう付けにより接着する。
【0088】
ろう付けに用いるろう材23としては、銀ろう、銅ろうなどの一般的なろう材を用いることができる。また、バイト工具の使用時や、後述する刃先20の研磨工程の際に、バイト工具の温度が高温にならなければ、使用時や研磨工程時の温度より高い融点を有する高温はんだを用いてもよい。
【0089】
また、刃先20の接着力が向上するようにするため、超音波を印加しながらろう付けを行ってもよい。超音波を印加すれば、ろう材23と刃先20との濡れ性が補われるため、より接着力が向上する。
【0090】
刃先接着工程の詳細は以下の通りである。まず、基台30において、刃先20を接着する箇所にろう材23を載置する。もしくは、予め、所定の位置にろう材23を接着させておく、そして、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21にCVD単結晶質ダイヤモンド層22を成長させた刃先20を、基台30において、ろう材23が載置されている位置、もしくはろう材23が接着される位置に載置する。刃先20は、刃先20のCVD単結晶質ダイヤモンド層22と基台30とが対向するように基台30に載置される(載置工程)。その後、ろう材23の融点より20~30℃程度高い温度でろう材23を溶融し、冷却することにより刃先20と基台30とを接着する。
【実施例
【0091】
本実施形態を以下の実施例により説明する。本発明が以下の実施例に限定されることはない。実施例1~3については、以下で詳述するが、実施例4~16については、CVDの条件が異なることを除いて実施例1~3と同様の条件であるため、説明を省略する。
【0092】
実施例1
まず、□3mmで厚さが1.0mmのIb型HPHT単結晶ダイヤモンド基板(エレメントシック社製、型番:MXP L3010)を準備する。色はファンシーイエローであった。この基板に、マイクロ波プラズマCVD装置を用いてCVD単結晶質ダイヤモンドを堆積した。主要ガスとして水素およびメタンを用い、添加ガスとして窒素を用い、水素導入量を100体積部として、メタン導入量:窒素導入量=5.0体積部:0.10体積部となるように装置に導入し、温度が1000℃、圧力が100torrである堆積条件で45時間、CVD単結晶質ダイヤモンド層を堆積し、膜厚が0.5mmであるCVD単結晶質ダイヤモンド層を堆積した。添加ガス導入量をメタン導入量で除した値に100を乗じた割合(%)である「メタンと添加ガスの体積比(%)」は、2.00%であった。
【0093】
堆積後、刃先の周囲が大きな凹凸をなすDLCで覆われたため、従来と同様の研削によりDLCを除去した。つまり、実施例1は、CVD単結晶質ダイヤモンド層を形成した後、図6に示すように、異常成長箇所が見られなかった為、成長面の研削平坦工程を実施しなくても、HPHT単結晶ダイヤモンド基板の面と平行な面を得た。この面の面積は、HPHT単結晶ダイヤモンド基板の面積の95%であった。また、実施例1の刃先の断面を光学顕微鏡で観察したところ、図6に示す高低差50は0.05mmであった。
【0094】
堆積したCVD単結晶質ダイヤモンド層の色を目視で確認したところ、GIAのグレードで表すと「ファンシーイエロー」であり、Ib型HPHT単結晶ダイヤモンド基板と同等の黄色であった。また、人造IIa型のダイヤモンドの1333cm-1ラマンスペクトルを標準として用い、ラマンスペクトルからピークの半値幅(FWHM)とピークシフト量を求めた。半値幅は2.5m-1であり、ピークシフト量は+0.10cm-1であった。
【0095】
(3)ろう付けにより接着する刃先接着工程
その後、CVD単結晶質ダイヤモンド層とCVD単結晶質ダイヤモンド層が基台に対向するように、基台の所定位置に載置した。基台の所定位置には、予め銀ろうを接着しておいた。そして、刃先が載置された基台を、大気中で1000℃に加熱して銀ろうを溶融し、室温まで自然冷却させて、刃先を基台に接着し、バイト工具を得た。
【0096】
実施例2
予め準備しておいた、□3mmで厚さが1.0mmのIb型HPHT単結晶ダイヤモンド基板(エレメントシック社製、型番:MXP L3010)に、マイクロ波プラズマCVD装置を用いてCVD単結晶質ダイヤモンドを堆積した。主要ガスとして水素およびメタンを、添加ガスとして窒素を、水素導入量を100体積部として、メタン導入量:窒素導入量=5.0体積部:0.05体積部となるように装置に導入し、温度が1000℃、圧力が100torrである堆積条件で45時間、CVD単結晶質ダイヤモンド層を堆積した。添加ガス導入量をメタン導入量で除した値に100を乗じた割合(%)である「メタンと添加ガスの体積比(%)」は、1.00%であった。
【0097】
その後の5時間は、温度が1000℃、圧力が100torrである堆積条件で、導入ガスを、水素導入量を100体積部として、メタン導入量:窒素導入量=5.0体積部:0.20体積部となるように堆積し、膜厚が0.6mmであるCVD単結晶質ダイヤモンド層を堆積した。添加ガス導入量をメタン導入量で除した値に100を乗じた割合(%)である「メタンと添加ガスの体積比(%)」は、4.00%であった。
【0098】
堆積後、刃先の周囲が大きな凹凸をなすDLCで覆われたため、従来と同様の研削によりDLCを除去した。つまり、実施例2は、CVD単結晶質ダイヤモンド層22を形成した後、図6に示すように、異常成長箇所を研削し平坦化する工程を経たものである。この工程により、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21の面と平行な面の面積は、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21の面積の95%であった。また、実施例2の刃先の断面を光学顕微鏡で観察したところ、図6に示す高低差50は0.06mmであった。
【0099】
堆積したCVD単結晶質ダイヤモンド層の色の観察を、断面を目視で行ったところ、CVD単結晶質ダイヤモンド層の板厚中央部の色はファンシーライトイエローであり、CVD単結晶質ダイヤモンド層表面の色はファンシーダークイエローであった。また、人造IIa型のダイヤモンドの1333cm-1ラマンスペクトルを標準として用い、ピークの半値幅(FWHM)とピークシフト量を求めた。半値幅が2.6cm-1であり、ピークシフト量が+0.15cm-1であった。
【0100】
図7は、本実施形態に係るバイト工具の刃先の光学顕微鏡写真であり、図7(a)が実施例2においてCVD単結晶質ダイヤモンド層を堆積する前のHPHT単結晶ダイヤモンド基板であり、図7(b)が実施例2においてHPHT単結晶ダイヤモンド基板に体積されたCVD単結晶質ダイヤモンド層である。図7(a)のHPHT単結晶ダイヤモンド基板の色と比較して、図7(b)のCVD単結晶質ダイヤモンド層の方が濃い色(黄色)であることがわかる。実際の色は、上述の通りである。
【0101】
(3)ろう付けにより接着する刃先接着工程
そして、CVD単結晶質ダイヤモンド層が積層されたHPHT単結晶ダイヤモンド基板を所定の形状に加工して得られた刃先を、CVD単結晶質ダイヤモンド層が基台に対向するように、基台の所定位置に載置した。基台の所定位置には、予め銀ろうを接着しておいた。そして、刃先が載置された基台を、大気中で1000℃に加熱して銀ろうを溶融し、室温まで自然冷却させて、刃先を基台に接着し、バイト工具を得た。
【0102】
2.実施例3
実施例2と同じHPHT単結晶ダイヤモンド基板に、マイクロ波プラズマCVD装置を用いた。主要ガスとして水素およびメタンを、添加ガスとして窒素を、水素導入量を100体積部として、メタン導入量:窒素導入量=5.0体積部:0.10体積部となるように装置に導入し、温度が1000℃、圧力が100torrである堆積条件で40時間堆積した。添加ガス導入量をメタン導入量で除した値に100を乗じた割合(%)である「メタンと添加ガスの体積比(%)」は、2.00%であった。
【0103】
その後の3時間は、度が1000℃、圧力が100torrである堆積条件で、導入ガスをメタン導入量:窒素導入量=5.0体積部:0.50体積部となるように堆積し、膜厚が0.7mmであるCVD単結晶質ダイヤモンド層を堆積した。添加ガス導入量をメタン導入量で除した値に100を乗じた割合(%)である「メタンと添加ガスの体積比(%)」は、10.00%であった。
【0104】
実施例3も、実施例2と同様に、堆積後、刃先の周囲が大きな凹凸をなすDLCで覆われたため、従来と同様の研削によりDLCを除去した。つまり、実施例3も、CVD単結晶質ダイヤモンド層22を形成した後、図6に示すように、異常成長箇所を研削し平坦化する工程を経たものである。この工程により、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21の面と平行な面の面積は、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21の面積の50%であった。また、実施例3の刃先の断面を光学顕微鏡で観察したところ、図6に示す高低差50は0.20mmであった。
【0105】
堆積したCVD単結晶質ダイヤモンド層の色を、断面を目視で行ったところ、CVD単結晶質ダイヤモンド層の板厚中央部の色はファンシーイエローであり、CVD単結晶質ダイヤモンド層表面の色はファンシーディープイエローであった。また、人造IIa型のダイヤモンドの1333cm-1ラマンスペクトルを標準として用い、ラマンスペクトルからピークの半値幅(FWHM)とピークシフト量を求めた。半値幅が3.0cm-1であり、ピークシフト量が+0.18cm-1であった。
【0106】
実施例4~17は、各々下記表1に示す条件にてCVD単結晶質ダイヤモンド層22をHPHT単結晶ダイヤモンド基板に堆積した。この他の条件は実施例2と同様の方法でバイト工具を製造した。CVD単結晶質ダイヤモンドに関する色は、表1の通りである。また、これらの実施例においても、CVD単結晶質ダイヤモンド層22のラマンスペクトルから得られるピーク半値幅であるFWHMが1.0~5.0cm-1であった。また、CVD単結晶質ダイヤモンド層22のピークシフト量は、-1.0~+1.0cm-1であった。
【0107】
実施例4~17も、CVD単結晶質ダイヤモンド層22を形成した後、図6に示すように、異常成長箇所を研削し平坦化する工程を経たものである。この工程により、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21の面と平行な面の面積は、HPHT単結晶ダイヤモンド基板の面積の50~95%であった。また、刃先の断面を光学顕微鏡で観察したところ、図6に示す高低差50は0.05~0.20mmであった。
【0108】
5.比較例1
実施例1において、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の堆積条件を表1の比較例1に変更した条件で得られた刃先を、HPHT単結晶ダイヤモンド基板が基台に対向するように、基台の所定位置に載置したこと以外は、実施例1と同様の方法でバイト工具を製造した。
【0109】
6.比較例2
比較例1と同様の堆積条件で得られた刃先からCVD単結晶質ダイヤモンド層をレーザー切断により分離し、分離したCVD単結晶質ダイヤモンド層において、分離面とは反対側の面と基台とを接合したこと以外は、実施例1と同様の方法でバイト工具を製造した。
上記を含む実施例および比較例は、下記表1に示す通りである。
【0110】
7.評価
上記のようにして得られた実施例1~17および比較例1~2のバイト工具について、(1)CVD単結晶質ダイヤモンド層の成長面の高低差、(2)刃先の剥離の有無、(3)基板加工精度について評価した。
【0111】
(1)CVD単結晶質ダイヤモンド層の成長面の高低差
上記のように製造した刃先について、断面を光学顕微鏡で観察し、深さ方向測定により高低差を測定した。最も低い箇所と、研削平坦処理後における最も高い箇所との差を高低差とした。高低差が0.05mm未満であれば「不良」と評価し、高低差が0.05mm超え0.1mm以下であれば「良」と評価し、0.1mmを超える場合には「最良」と評価した。
【0112】
(2)刃先の剥離の有無
上記のように加工した後、基台から刃先が剥離しているかどうか、を目視にて確認した。刃先の剥離を確認することができない場合には「良」と評価し、刃先が剥離した場合には「不良」と評価した。
【0113】
(3)基板加工精度
上記のように製造したバイト工具を用いて、Si基板上のCu電極を研削した。光学顕微鏡にて、研削面を観察し、線が入っていなければ「良」と評価し、線が観察された場合には「不良」と評価した。
評価結果を表1に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
表1から明らかなように、本実施例は、すべて「最良」または「良」であった。一方、比較例1は、HPHT単結晶ダイヤモンド基板と基台が接着されているため、刃先の凹凸が小さく、刃先が基台から剥離した。比較例2は、CVD単結晶質ダイヤモンド層が基台に接着されているため、刃先の剥離は見られなかったが、加工精度が劣った。
【0116】
本実施例により製造された刃先の写真を用いて説明する。図8は、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の堆積条件において、全堆積時間の最後の5時間だけ、水素導入量を100体積部としたときの窒素導入量を0.05体積部から0.20体積部に増加して堆積した実施例2の刃先の写真であり、図8(a)が刃先の光学顕微鏡写真であり、図8(b)が研削平坦処理を行った後の刃先のSEM写真である。図9は、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の堆積条件において、全堆積時間の最後の3時間だけ、水素導入量を100体積部としたときの窒素導入量を0.10体積部から0.50体積部に増加して堆積した実施例3の刃先の写真であり、図9(a)が刃先の光学顕微鏡写真であり、図9(b)が研削平坦処理を行った後の刃先のSEM写真である。なお、図8および図9のいずれも、CVD単結晶質ダイヤモンド層22側から撮影した写真である。
【0117】
図8に示す実施例2のように、堆積時間の終わりから5時間(CVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程の工程時間に対して最後の10%の時間帯であり、表1では第二段階である)の窒素導入量を、水素導入量を100体積部としたときに、第一段階では0.05体積部であったものを第二段階では0.2体積部にまで4倍にすると、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の表面には、面内高低差が形成されることがわかった。また、実施例2では、図8(b)に示すように、CVD単結晶質ダイヤモンド層22において、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21との平行な面22-4を得るために、CVD単結晶質ダイヤモンド層22の面積に対して95%の領域で研削平坦処理を行った。実施例2の高低差は0.60mmであった。
【0118】
図9に示す実施例3のように、堆積時間の終わりから3時間(CVD単結晶質ダイヤモンド層堆積工程の工程時間に対して約7%の時間帯)の窒素導入量を、水素導入量を100体積部としたときに、0.10体積部から0.50体積部にまで5倍にすると、刃先20の上面は、面内高低差が増加することがわかった。また、実施例2では、CVD単結晶質ダイヤモンド層22において、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21との平行面を出すために、CVD単結晶質ダイヤモンド層の面積に対して95%の範囲で研削平坦処理を行う必要があった。また、実施例3では、図9(b)に示すように、CVD単結晶質ダイヤモンド層22において、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21との平行な面22-4を得るために、CVD単結晶質ダイヤモンド層の面積に対して50%の領域で研削平坦処理を行った。また、研削平坦処理後の高低差は0.20mmであった。
【符号の説明】
【0119】
1 バイト工具
10 刃先部分
20 刃先
21 HPHT単結晶ダイヤモンド基板
22 CVD単結晶質ダイヤモンド層
22-1 凹部
22-2 凸部(異常成長箇所)
22-3 刃先の外側に近い部分
22-4 (HPHT単結晶ダイヤモンド基板に)平行な面
23 ろう材
30 基台
301 装着部
302 チップ取り付け部
34 シャンク
40 (HPHT単結晶ダイヤモンド基板との)平行線
50 高低差
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明に係るバイト工具は、広く一般的なアルミニウムを代表とする金属研削の超仕上げ加工で利用される。特に、シリコン貫通電極であるTSV(Through-Silicon Via)を構成する電極に関する複合材半導体基板の平坦化研削加工に好適に用いられる。
【要約】      (修正有)
【課題】バイト工具としての加工精度に優れ、基台との高い接着力が得られるバイト工具、およびバイト工具の製造方法を提供する。
【解決手段】バイト工具は、基台30と、基台にろう付けされている刃先20とを備える。刃先は、HPHT単結晶ダイヤモンド基板21と、HPHT単結晶ダイヤモンド基板上に堆積したCVD単結晶質ダイヤモンド層22とを備え、刃先のCVD単結晶質ダイヤモンド層と、基台とが対向するように、刃先と基台とが接着されている。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9