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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】車両制御システムおよび車両制御方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20241024BHJP
   G06V 20/56 20220101ALI20241024BHJP
   B60W 30/10 20060101ALI20241024BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20241024BHJP
【FI】
G06T7/00 650A
G06V20/56
B60W30/10
B60W60/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021017106
(22)【出願日】2021-02-05
(65)【公開番号】P2022120300
(43)【公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-11-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「スマートバイオ産業・農業基盤技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000141174
【氏名又は名称】株式会社丸山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】大西 正洋
(72)【発明者】
【氏名】油橋 信宏
(72)【発明者】
【氏名】村井 良隆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大悟
【審査官】菊池 伸郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-219960(JP,A)
【文献】特開2017-045427(JP,A)
【文献】広瀬 武志,"画像処理による無人搬送車の位置と方位の測定",計測自動制御学会論文集,第27巻,第5号,日本,社団法人計測自動制御学会,1991年05月31日,pp.524-531
【文献】永田 純平,外6名,"果樹園UGVの全方位カメラの画像に基づく制御",日本ロボット学会誌,第29巻,第9号,日本,一般社団法人日本ロボット学会,2011年11月15日,pp.101-110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 1/00-7/90
G06V 10/00-40/70
B60W 30/10
B60W 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列されたマーカの位置をもとに車両の走行を制御する車両制御システムであって、
前記マーカは、平面視にて行方向および列方向に沿って格子点状に配列されて行方向毎に意匠を異ならされており、
該車両制御システムは、
前記車両に設けられ、前記車両の進行方向を撮像するカメラと、
前記カメラから取得した撮像画像に含まれる前記マーカを検出するマーカ検出部と、
検出された複数の前記マーカからペアとなる前記マーカを、撮像画像上の前記マーカの意匠をもとに決定するペア決定部と、
ペアとされた前記マーカの間を走行するように前記車両の走行を制御する制御部と、を備えることを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
ペアとされた前記マーカをつなぐ線分を所定の比率で区分する点を目標点として導出し、導出した複数の目標点をもとに目標走行ラインを導出する目標走行ライン導出部をさらに備え、
前記制御部は、目標走行ラインをもとに前記車両の走行を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記ペア決定部は、前記車両の走行情報にもとづいて所定の除外条件を満たす前記マーカをペアの決定対象から除外することを特徴とする請求項1または2に記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記目標走行ライン導出部は、導出された複数の目標点のうち外れ値を除外した残りの目標点をもとに目標走行ラインを導出することを特徴とする請求項2に記載の車両制御システム。
【請求項5】
前記マーカは、地面に立つ棒状体に地面から同じ高さで取り付けられることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の車両制御システム。
【請求項6】
マーカの位置をもとに車両の走行をコンピュータによって制御する車両制御方法であって、
前記マーカは、平面視にて行方向および列方向に沿って格子点状に配列されて行方向毎に意匠を異ならされており、
前記車両に設けられたカメラから取得した撮像画像に含まれる前記マーカを検出するステップと、
検出された複数の前記マーカからペアとなる前記マーカを、撮像画像上の前記マーカの意匠をもとに決定するステップと、
ペアとされた前記マーカの間を走行するように前記車両の走行を制御するステップと、を含むことを特徴とする車両制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の進行方向を撮像した画像をもとに車両の走行を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、走行中の道路を撮像した画像を処理して走行路を検出する走路検出装置が開示されている。この走路検出装置は、道路の左右に延在する白線を撮像画像上の輝度の変化点で検出し、撮像画像上で同じ高さにある左側の変化点と右側の変化点の中点を算出し、中点の位置をもとに車両の走行路を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-219960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、撮像画像の横方向が水平であることを前提に、撮像画像上で同じ高さにある左右の変化点をもとに走行路を検出している。そのため、車両がロールした状態で撮像した画像では、撮像画像上で同じ高さにある左右の変化点が実空間上で前後にずれた位置にあり、その左右の変化点をもとに車両の走行路を検出すると、検出精度が低下する。
【0005】
本発明の目的は、撮像画像上で車両の走行の基準となる位置を精度良く検出する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は、配列されたマーカの位置をもとに車両の走行を制御する車両制御システムである。マーカは、平面視にて行方向および列方向に沿って格子点状に配列されて行方向毎に意匠を異ならされている。該車両制御システムは、車両に設けられ、車両の進行方向を撮像するカメラと、カメラから取得した撮像画像に含まれるマーカを検出するマーカ検出部と、検出された複数のマーカからペアとなるマーカを、撮像画像上のマーカの意匠をもとに決定するペア決定部と、ペアとされたマーカの間を走行するように車両の走行を制御する制御部と、を備える。
【0007】
本発明の別の態様は、マーカの位置をもとに車両の走行をコンピュータによって制御する車両制御方法である。この車両制御方法は、マーカは、平面視にて行方向および列方向に沿って格子点状に配列されて行方向毎に意匠を異ならされており、車両に設けられたカメラから取得した撮像画像に含まれるマーカを検出するステップと、検出された複数のマーカからペアとなるマーカを、撮像画像上のマーカの意匠をもとに決定するステップと、ペアとされたマーカの間を走行するように車両の走行を制御するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、撮像画像上で車両の走行の基準となる位置を精度良く検出する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例の車両制御システムによって制御される車両について説明するための図である。
図2】実施例の車両制御システムの構成を示す図である。
図3】車両制御システムの機能構成を示す図である。
図4】上方から見た車両の走行経路を示す図である。
図5】カメラの撮像画像に目標走行ラインを付した図である。
図6】車両がロールした状態で撮像した撮像画像に、マーカを用いないで導出した仮想ラインを付した図である。
図7】車両がロールした状態で撮像した撮像画像に、マーカを用いて導出した目標走行ラインを付した図である。
図8】車両が目標走行ラインよりも左側にずれた状態で取得された撮像画像を示す図である。
図9】実施例の車両制御処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、実施例の車両制御システムによる車両10の制御を説明するための図である。図1では、車両10が果樹園などの圃場を自動運転で走行している様子を示す。圃場には、第1棒状体12a、第2棒状体12b、第3棒状体12cおよび第4棒状体12d(これらを区別しない場合「棒状体12」という)が並んで立っている。棒状体12は、図1では樹木である態様を示すが、樹木に限らず、地面に立設させた杭や支柱などであってもよく、例えば樹木が欠損している場合には杭や支柱で樹木の代用にしてもよい。
【0011】
棒状体12は、図1で縦方向に並んだ複数の列を形成しており、車両10は、棒状体12の列の間を走行する。棒状体12には、第1マーカ14a、第2マーカ14b、第3マーカ14cおよび第4マーカ14d(これらを区別しない場合「マーカ14」という)がそれぞれ設けられている。
【0012】
マーカ14は、列方向の前後で意匠が異なっており、横向きの行方向で意匠が共通している。つまり、第1マーカ14a、第2マーカ14b、第3マーカ14cおよび第4マーカ14dは、行方向毎にそれぞれ意匠が異なっている。マーカ14の意匠は、形状、色彩および絵柄の少なくともいずれかが異なっており、外観で区別可能である。マーカ14は、布材料や樹脂材料で形成され、棒状体12に巻回、貼付または塗布されてもよい。列の両端に位置するマーカ14には、列の端部であることを示す意匠が付されてもよい。棒状体12に複数のマーカ14が設けられてもよい。
【0013】
車両10は、圃場で作業する作業車両であって、実施例では農薬などを散布する散布装置28を備えたスプレーヤである。車両10は、無人走行可能であってもよく、運転可能な乗員がいてもよい。車両10は、列方向に沿って棒状体12の間を走行し、樹木に農薬を散布する。
【0014】
ところで測距センサを用いて樹木を検出して走行制御をした場合、樹木の枝や雑草がノイズとなって検出されるため、樹木の幹を正確に検出することが困難であり、樹木の幹の間を走行させる制御が容易でない。実施例の車両制御システムでは、カメラ22でマーカ14を撮像し、画像解析によって認識したマーカ14の位置をもとに自動で走行を制御する。このように、撮像画像から得られたマーカ14の位置を基準に走行を制御することで、マーカ14の間を精度良く走行できる。
【0015】
図2は、実施例の車両制御システム1の構成を示す図である。車両制御システム1は、車両10と、棒状体12に取り付けられるマーカ14と、端末装置16とを備える。車両10は、車両制御装置20、カメラ22、ステアリング装置24、駆動装置26、散布装置28および通信部30を備える。
【0016】
カメラ22は、少なくとも進行方向を撮像し、車両走行の目標となるマーカ14を撮像する。カメラ22は、撮像した画像を車両制御装置20に出力する。カメラ22は、マーカ14よりも高い位置に固定される。カメラ22は、車両10周辺を360度撮像可能であってもよく、複数で構成されてもよい。また、カメラ22は、赤外線カメラ等の暗い場所でマーカ14を検出可能であってもよい。
【0017】
ステアリング装置24は、ステアリングホイール、ステアリングシャフト、およびステアリングシャフトの動きを前輪の動きに変換するギヤ装置、ステアリングホイールまたはステアリングシャフトの舵角を検出する舵角センサ、ステアリングホイールまたはステアリングシャフトに転舵力を付与するモータを有する。ステアリング装置24は、舵角センサによって検出した舵角を車両制御装置20に送信し、車両制御装置20から受け取ったモータの指令値に応じて転舵する。
【0018】
駆動装置26は、車両10を進行または退行させる駆動力を発生するエンジンまたはモータである。駆動装置26は、車両制御装置20の制御によって所定の速度で車両10が走行するように駆動する。これにより、自動運転時に一定の速度で車両10が走行する。
【0019】
散布装置28は、車両制御装置20の制御に応じて駆動し、樹木などに農薬を散布する。散布装置28は、車両10の後部に設けられ、車両10の左右方向に農薬を散布可能である。通信部30は、端末装置16と無線で通信可能である。
【0020】
端末装置16は、車両10と無線で通信可能であり、作業員の操作を受け付けて遠隔で車両10に自動走行制御の開始を指示できる。端末装置16は、例えば車両10に設置してもよい。
【0021】
図3は、車両制御システム1の機能構成を示す。図3において、さまざまな処理を行う機能ブロックとして記載される各要素は、ハードウェア的には、回路ブロック、メモリ、その他のLSIで構成することができ、ソフトウェア的には、メモリにロードされたプログラムなどによって実現される。したがって、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは当業者には理解されるところであり、いずれかに限定されるものではない。
【0022】
端末装置16は、通信部50、経路決定部52および受付部54を有する。通信部50は、車両10の通信部30と通信する。受付部54は、ユーザの操作入力を受け付ける。ユーザは、車両10の走行経路を設定して、車両10の自動運転を開始する入力を受付部54から実行できる。
【0023】
経路決定部52は、ユーザの操作入力に応じて車両10の走行予定経路を決定する。走行予定経路は、圃場での車両10の動線を設定する。走行予定経路は、車両10の位置情報を含む過去の走行履歴から生成されてもよい。ユーザは過去の走行履歴をもとに生成された複数の走行予定経路のうち、いずれかの走行予定経路を設定する。通信部50は、設定された走行予定経路および走行の開始指示を車両10に送信する。
【0024】
車両制御装置20は、カメラ22から取得した撮像画像に含まれるマーカ14の位置をもとに車両10の走行を制御する。車両制御装置20は、取得部32、マーカ検出部34、ペア決定部36、目標走行ライン導出部38、目標舵角算出部40、制御部42、走行決定部44および位置情報取得部46を有する。
【0025】
走行決定部44は、端末装置16から車両10の走行予定経路および走行開始の指示を受け取って、走行開始を決定する。走行決定部44は、マーカ検出部34に検出開始を指示する。位置情報取得部46は、車両10の位置情報を全球測位衛星システムを用いて取得する。車両10の位置情報をもとに生成された車両10の走行履歴は車両制御装置20のメモリに記憶される。
【0026】
取得部32は、カメラ22から車両10の進行方向を撮像した撮像画像を取得する。マーカ検出部34は、取得された撮像画像に対して画像解析処理を実行し、撮像画像に含まれるマーカ14を検出する。マーカ検出部34は、走行決定部44から開始指示を受け取ってマーカ14の検出を開始する。マーカ検出部34は、マーカ14の特徴量を予め保持しており、特徴量に一致または類似するマーカ14の画像を撮像画像から検出する。マーカ検出部34が保持する特徴量は、マーカ14を特定するための情報であって、画像で保持してよく、数値で保持してよい。特徴量として保持される数値は、マーカ14の形状、マーカ14の色を示す画素値、マーカ14に含まれる絵柄の形状を示すものであってよく、マーカ14を特定するための関数に含まれるパラメータであってもよい。例えば、パターンマッチングの手法を用いて予め保持する絵柄や形状に一致または類似するマーカ14を検出する。
【0027】
また、マーカ検出部34は、マーカ検出プログラムに撮像画像を入力して、撮像画像に含まれるマーカ14を検出してもよい。マーカ検出プログラムは、例えばニューラルネットワークの手法を用いた学習モデルであって、予め用意したマーカ14の画像で学習して生成されてもよい。
【0028】
マーカ検出部34は、撮像画像に含まれるマーカ14の意匠が列の端部に位置することを検出する。マーカ検出部34は、列の端部に位置するマーカ14に付された所定の絵柄を予め保持し、列の端部に位置するマーカ14を検出する。これにより、車両10が列の端部の位置を認識して、端部の位置で制御を切り替えることができる。
【0029】
ペア決定部36は、マーカ検出部34によって検出された複数のマーカ14からペアとなるマーカ14を、撮像画像上のマーカ14の意匠をもとに決定する。つまり、ペア決定部36は、マーカ検出部34によって検出された複数のマーカ14のうち意匠が共通する一対のマーカ14を抽出して、抽出した一対のマーカ14をペアとして決定する。
【0030】
マーカ14は、同じ行において意匠が共通しているため、ペア決定部36は、意匠が共通するマーカ14をペアとして決定できる。ペア決定部36は、マーカ検出部34によって検出されたマーカ14画像に対して類似判定処理を実行し、所定スコア以上に類似するマーカ14画像をペアとして決定する。
【0031】
ペア決定部36は、マーカ検出部34によって検出されたマーカ14に対して除外判定処理を実行してもよく、所定の除外条件を満たしたマーカ14をペアの決定処理から除外してもよい。例えば、撮像画像の左右端周辺に位置するマーカ14を除外してもよい。これにより、隣の列のマーカ14が写り込んだ場合に、除外できる。意匠が共通するマーカ14が3つ以上検出された場合、最も左右端側に位置するマーカ14、すなわち撮像画像の中央から離れたマーカ14を除外して意匠が共通するマーカ14を2つに絞り込んでもよい。
【0032】
また、ペア決定部36は、車両10の走行情報をもとに走行予定経路から外れたマーカ14をペアの決定から除外してもよい。車両10の走行情報には、車両10の位置および向きを示す情報が含まれる。走行予定経路の向きと、走行情報から算出したカメラ22の撮像方向とのずれ度合いをもとに、撮像画像の左右端側に位置するマーカ14を除外してもよい。カメラ22の撮像方向は、車両10の位置情報の追跡によって算出してもよく、不図示の磁気センサの検出結果をもとに算出してもよい。このように、マーカ14の撮像画像上の位置が所定の除外条件を満たすと、そのマーカ14がペアの決定処理から除外される。
【0033】
目標走行ライン導出部38は、ペア決定部36によってペアであると決定された一対のマーカ14の間を通る目標走行ラインを導出する。目標走行ラインの導出処理は所定周期で実行される。この目標走行ラインの導出方法について新たな図面を参照して説明する。
【0034】
図4は、上方から見た車両10の走行経路を示す図である。また、図5は、カメラ22の撮像画像60に目標走行ライン64を付した図である。図4では、車両10が目標走行ライン64上を走行し、ターン走行68をして、隣の目標走行ライン65を走行する走行経路が示されている。樹木に欠損等があり略等間隔にマーカ14を並べられない場合には、マーカ14を取り付けた杭を地面に打ち付けてマーカ14を配置する。果樹園の樹木が列方向、行方向毎にほぼ等間隔に配置されるように、図4に示す棒状体12は、格子点状に配置される。これにより、マーカ14が行方向および列方向に沿った格子点状に配列される。樹木の位置によっては、マーカ14の位置が完全な格子点から少しずれたものが含まれてもよい。なお、格子点状に配列されるマーカ14は、少なくとも2列には配列される。
【0035】
図5では、列方向(縦方向)に並んだ棒状体12のそれぞれにマーカ14が設けられ、行方向(横方向)にマーカ14の意匠が共通し、縦にずれるとマーカ14の意匠が異なっていることを示す。マーカ検出部34によってマーカ14が検出され、ペア決定部36によってマーカ14のペアが決定され、ペアとなった一対のマーカ14が線分62a,62b,62c,62dでそれぞれつながれている。
【0036】
目標走行ライン導出部38は、ペアとして決定された一対のマーカ14をつなぐ第1線分62a、第2線分62b、第3線分62cおよび第4線分62d(これらを区別しない場合「線分62」という)を所定の比率で分ける第1目標点66a、第2目標点66b、第3目標点66cおよび第4目標点66d(これらを区別しない場合「目標点66」という)を導出し、導出した複数の目標点66をもとに目標走行ライン64を導出する。
【0037】
第1目標点66aは、一対の第1マーカ14aをつなぐ第1線分62aの中点であり、第2目標点66b、第3目標点66cおよび第4目標点66dも第2線分62b、第3線分62cおよび第4線分62dの中点である。目標点66は線分62の中点に限られず、左側の列のマーカ14に寄せて走行する場合など、線分62を所定の比率で分けた位置に設定される。目標点66を定める所定の比率は、端末装置16の経路決定部52で決定される。
【0038】
目標走行ライン導出部38は、複数の目標点66から回帰直線を導出し、その回帰直線を目標走行ライン64とする。車両10は目標走行ライン64に沿って走行するように制御される。目標走行ライン64は、マーカ14の列方向に沿っている。このように、ペアとなる一対のマーカ14を走行の基準にすることで、撮像画像をもとに容易に走行制御できる。目標走行ライン導出部38は所定の制御周期で目標走行ライン64を導出する。
【0039】
図5に示すように、マーカ14は、地面から同じ高さに設けられる。これにより、一対のマーカ14をつなぐことで、地面に対して水平な線分62を容易に得ることができる。また列方向の前後に位置するマーカ14が撮像画像上で重なることを避けることができる。マーカ14は作業者によってそれぞれ取り付けられるため、高さの小さな誤差は許容される。
【0040】
図4に示す目標走行ライン64および目標走行ライン65をつなぐターン走行68では、走行モードが変更される。車両10がマーカ検出部34によって列の端部の第4マーカ14dに位置すると、ターン走行をする制御が実行される。ターン走行制御では、端部の第4マーカ14dの位置をもとに、目標位置および目標位置での車両10の向きを設定し、設定した目標位置に車両10が自動で移動される。ターン走行68で目標位置に移動すると、目標走行ライン65上を走行する制御が実行される。
【0041】
目標走行ライン64および目標走行ライン65を走行する制御中では、散布装置28が駆動され、ターン走行68をする制御中では、散布装置28が駆動されない。つまり、車両制御システム1では、目標走行ライン64に沿って走行するモードと、次の目標走行ライン65に向かう走行モードとを有し、走行モードに応じて散布装置28の駆動を制御する。
【0042】
ペア決定部36によって特定されたペアのマーカ14が1組のみである場合、目標走行ライン導出部38は、そのペアから導出した目標点に車両10が向かう目標走行ラインを導出する。
【0043】
図6は、車両10がロールした状態で撮像した撮像画像70に、マーカ14を用いないで導出した仮想ライン74を付した図である。また、図7は、車両10がロールした状態で撮像した撮像画像70に、マーカ14を用いて導出した目標走行ライン80を付した図である。図6および図7に示す撮像画像70はともに車両10が左にロールした状態で撮像したものであり、図6および図7の目標走行ライン80は同じ位置である。
【0044】
舗装路を走行する車両10が大きくロールする可能性は極めて低いが、圃場では舗装路のように整備されていない場所が多く、地面の凹凸、傾斜によって車両10が大きくロールすることが多々ある。車両10がロールした状態で取得された撮像画像70は、水平線76が大きく傾斜しており、図6に示すように、撮像画像70の横方向に平行で、棒状体12を通る線分72a,72b,72c,72dをとり、その中点をつなぐ仮想ライン74は、目標走行ライン80から大きくずれる。
【0045】
図7では、目標走行ライン導出部38は、ペアとなるマーカ14をつなぐ線分78a,78b,78c,78dを導出し、その中点を目標点79a,79b,79c,79dとして導出する。目標走行ライン導出部38は、導出した複数の目標点79a,79b,79c,79dをもとに目標走行ライン80を導出する。
【0046】
このように、ペアとなるマーカ14を基準に目標走行ライン80を導出することで、車両10がロールした状態で撮像画像を取得しても目標走行ライン80を精度良く導出できる。
【0047】
図3に戻る。目標走行ライン導出部38は、導出された複数の目標点のうち外れ値を除外した残りの複数の目標点をもとに目標走行ラインを導出する。つまり、目標走行ライン導出部38は、回帰直線を導出する前に、統計手法を用いて複数の目標点うち外れ値となる目標点を除外する処理を実行する。これにより、別の列のマーカ14をもとに導出された目標点を除外することができる。外れ値となる目標点を除外する処理には、外れ値を除外せずに算出した回帰直線から各目標点の偏差が所定値以上の目標点を除外する方法や、各目標点の偏差からスミルノフ・グラブス検定で外れ値を検定する方法、最小刈り込み二乗法を用いて所定の数の大きな偏差の目標点を除外する方法などを用いてもよい。
【0048】
目標舵角算出部40は、目標走行ライン導出部38によって導出された目標走行ライン上を走行するように車両10の目標舵角を算出する。目標舵角算出部40は、車両10の中心位置が目標走行ラインから離れている場合、および/または車両10の進行方向が目標走行ラインに交差している場合に、車両10が目標走行ライン上を、目標走行ラインに沿って走行するように、目標舵角を算出する。目標舵角の算出方法について新たな図面を参照して説明する。
【0049】
図8は、車両10が目標走行ライン84よりも左側にずれた状態で取得された撮像画像82を示す。図8では、ペアとなるマーカ14の中点を通る目標走行ライン84が導出されており、撮像画像82に付されている。また、図8には、撮像画像82の中心を通り、かつ縦方向に延びる中心線Cが付されている。
【0050】
目標走行ライン84が中心線Cよりも右側に離れているため、車両10が目標走行ライン84から左側に離れた位置にあることが認識でき、目標舵角算出部40は、目標走行ライン84に接近するよう、右側に転舵する目標舵角を算出する。例えば、目標舵角算出部40は、目標走行ライン84上の目標位置86を定め、目標位置に向かう目標舵角を算出する。目標位置86は、車両10から離れた前方位置に設定される。車両10が目標走行ライン84に近づくと、目標舵角算出部40は、車両10の進行方向が目標走行ライン84に沿った方向になる目標舵角を算出する。
【0051】
図3に戻る。制御部42は、ペアとされたマーカ14の間を走行するように車両の走行を制御し、車両10が目標走行ラインを通るように走行を制御する。制御部42は、目標舵角算出部40によって算出された目標舵角でステアリング装置24が転舵するように制御する。
【0052】
制御部42は、ステアリング装置24の転舵指示とともに駆動装置26を一定の速度で走行するように駆動させる。また、車両10が一対のマーカ14の間を走行しているときは、制御部42は、散布装置28を駆動して農薬を散布する。このように車両10が農薬散布を自動で実行できる。
【0053】
図9は、実施例の車両制御処理のフローチャートである。車両制御装置20は、端末装置16から取得した走行予定経路に示すスタート位置から制御を開始する(S10)。カメラ22は車両進行方向を撮像し、取得部32はカメラ22から撮像画像を取得する(S12)。
【0054】
マーカ検出部34は、予め保持するマーカ14の意匠情報をもとに、撮像画像からマーカ14を検出する(S14)。ペア決定部36は、撮像画像上のマーカ14の意匠をもとに、複数のマーカ14からペアとなるマーカ14を決定する(S16のY)。ペアとなるマーカ14が検出できない場合(S16のN)、車両制御装置20は、本処理を終了し、端末装置16にエラー通知を送信する。
【0055】
目標走行ライン導出部38は、撮像画像上でペアとなるマーカ14を結ぶ線分を所定の比率で区分する点を目標点として導出する(S18)。目標走行ライン導出部38は、導出された複数の目標点に外れ値があるか判定する(S20)。
【0056】
複数の目標点に外れ値が含まれる場合(S20のY)、目標走行ライン導出部38は、外れ値である目標点を除外し(S22)、複数の目標点に外れ値がない場合(S20のN)、目標点を除外しない。目標走行ライン導出部38は、目標点の除外処理をした後、目標点をもとに目標走行ラインを導出する(S24)。
【0057】
目標舵角算出部40は、目標走行ラインをもとに目標舵角を算出し、制御部42は、車両10が目標走行ラインに沿って走行するように、目標舵角でステアリング装置24を制御する(S26)。
【0058】
車両10がマーカ14の列の端部に到達しない場合(S28のN)、ステップ12に戻って車両10の走行制御が継続される。車両10がマーカ14の列の端部に到達した場合(S28のY)、マーカ14の間を走行させる本処理が終了する。車両10が次のスタート位置に移動されると、本処理が再実行される。
【0059】
以上、本発明について実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素の組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0060】
例えば、実施例では、車両10が農薬を散布する散布装置28を搭載した態様を示したがこの態様に限られない。例えば、車両10が肥料を散布する散布装置を備えてもよい。また、車両10が雑草を刈る草刈装置や荷物を運搬する積載部を備えてもよい。また、車両10が圃場を監視するカメラを備えた態様であってもよい。
【0061】
また、車両10は目標走行ラインのスタート地点まで作業員の運転によって走行してもよく、作業員の運転によってターン走行68をしてもよい。また、車両10は、自動走行をオン/オフするスイッチを備えてもよく、車両10に乗車した作業員のスイッチ操作に応じて自動走行をしてもよい。
【0062】
また、実施例の車両制御システム1では、カメラ22の撮像画像の画像処理を車両制御装置20が実行する態様を示したが、この態様に限られない。例えば、端末装置16やサーバ装置などの外部装置が画像処理を実行してもよい。この変形例では、車両10はカメラ22の撮像画像および車両10の走行情報を外部装置に送信し、外部装置が目標走行ラインを導出して目標舵角を算出して、車両10に送信する。これにより、車両10側での処理負荷を軽減できる。また、作業者が端末装置16を介して車両10を遠隔で走行できてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 車両制御システム、 10 車両、 12 棒状体、 14 マーカ、 16 端末装置、 20 車両制御装置、 22 カメラ、 24 ステアリング装置、 26 駆動装置、 28 散布装置、 30 通信部、 32 取得部、 34 マーカ検出部、 36 ペア決定部、 38 目標走行ライン導出部、 40 目標舵角算出部、 42 制御部、 44 走行決定部、 46 位置情報取得部、 50 通信部、 52 経路決定部、 54 受付部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9