(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】フロー式有機合成方法
(51)【国際特許分類】
B01J 8/00 20060101AFI20241024BHJP
B01J 8/02 20060101ALI20241024BHJP
C07C 209/36 20060101ALI20241024BHJP
C07C 211/47 20060101ALI20241024BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20241024BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
B01J8/00 C
B01J8/02 Z
C07C209/36
C07C211/47
G01N27/62 C
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019017721
(22)【出願日】2019-02-04
【審査請求日】2021-11-01
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角 茂
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 利行
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】金 公彦
【審判官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-137836(JP,A)
【文献】特表2010-535703(JP,A)
【文献】特開2009-221298(JP,A)
【文献】特開昭54-42323(JP,A)
【文献】特開2001-114706(JP,A)
【文献】特開2002-189020(JP,A)
【文献】The Royal Society of Chemistry,2016年,Reaction Chemistry & Engineering Vol.1,p.96-100
【文献】分析化学,Vol.49,No.1,p.49-54
【文献】電気学会論文誌E,2002年,Vol.122,No.7,p.380-381
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 8/00- 8/46
B01J 10/00- 12/02
B01J 14/00- 19/32
C07B 31/00- 61/00
C07B 63/00- 63/04
C07C 1/00-409/44
G01N 27/60- 27/70
G01N 27/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス原料、液体原料、及び固体触媒を用いた気液固三相反応を行うフロー式有機合成方法であって、
流通式固定床反応器によって前記気液固三相反応を行うことにより反応生成物を生成し、
前記流通式固定床反応器の下流側に接続された第1の気液分離器によって、前記反応生成物を、前記気液固三相反応の目的物が含まれる回収液および前記ガス原料が含まれる残留ガスに気液分離し、
前記第1の気液分離器に接続された測定装置によって、前記気液固三相反応における前記残留ガス中の所定成分の流量を連続的に測定し、
前記測定装置は、
前記残留ガスが流通する残留ガス輸送ラインに接続された、前記残留ガスの流量を測定する流量計および前記残留ガス中の前記所定成分の濃度を測定する質量分析計を含み、
前記気液固三相反応は、前記ガス原料として水素を用いた前記液体原料の水素化反応であり、
前記気液固三相反応の開始前から前記残留ガス中の前記所定成分としての水素の流量を連続的に測定して、前記気液固三相反応の開始前における前記残留ガス中の水素の流量の測定値と、前記気液固三相反応の開始後における前記残留ガス中の水素の流量の測定値とを比較することにより、前記気液固三相反応が開始したかどうかを確認し、
前記気液固三相反応が開始された後に、前記測定装置
により測定される水素の流量によって、前記気液固三相反応の状況がモニタリングされる
、フロー式有機合成方法。
【請求項2】
前記回収液に含まれる前記目的物を同定および定量することを特徴とする
請求項1に記載のフロー式有機合成方法。
【請求項3】
前記残留ガス中の前記所定成分の流量の測定値に基づき、前記流通式固定床反応器の圧力変動を検知することを特徴とする
請求項1または請求項2に記載のフロー式有機合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス原料、液体原料、及び固体触媒を用いた気液固三相反応を行うフロー式有機合成システム及びフロー式有機合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば医薬品や農薬品に用いられる有機化合物の製造では、回分式反応器を用いて有機合成を1反応ごとに実施するバッチ法が広く実施されている。このバッチ法によれば、予め設定された条件に基づき所定の反応を繰り返し実施することで、複雑な構造を有する有機化合物であっても比較的安定して製造できることが知られている。
【0003】
一方、バッチ法では、その構成上、原料の移動速度や触媒との接触効率を向上させることが容易でないため、反応が完結するまでに本来の反応速度から期待される以上の時間を要し、また、1反応ごとに行われる反応生成物の取り出し作業時には、反応器の周辺への反応生成物の暴露や、触媒の酸化などの問題が生じ得る。
【0004】
これに対し、原料を連続的に反応器に投入し、反応生成物を連続的に取り出すフロー式(連続式)の合成反応では、そのようなバッチ法による問題は解消される。また、近年では、連続的に合成反応を進行させつつ、比較的複雑な構造を有する有機化合物を合成可能とするフロー法(非特許文献1参照)が開発されるなど、フロー式の有機合成反応の利点が注目されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Flow "Fine" Synthesis: High Yielding and Selective Organic Synthesis by Flow Methods(フロー "ファイン"合成:フロー法による高収率および選択的有機合成), S. Kobayashi(小林修), Chem. Asian J., Early View , (2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のような有機合成反応では、オペレータは、その反応によって得られた目的物(主要な反応生成物)の分析(例えば、液体クロマトグラフやガスクロマトグラフによる同定や定量など)を行うことにより、所望の有機化合物が生成されたか否かを確認することができる。
【0007】
そのような目的物の分析には一定の時間(例えば、数分)が必要となるため、特に、フロー式の有機合成反応では、その目的物の分析中にも反応が進むことになる。したがって、フロー式の有機合成反応において、何らかの要因で反応が不安定となった(すなわち、不適切な反応が行われた)場合でも、目的物の分析結果を取得するまでの間はその不安定な状態がそのまま放置されることになる。
【0008】
また、従来の液体クロマトグラフやガスクロマトグラフによる目的物の分析では、反応の状況(例えば、原料の投入量や転化率の変化)を検出するのに比較的大きなタイムラグが発生し、実用に足る小さな遅れ時間でモニタリングすることは難しい。
【0009】
一方、有機合成反応の状況を温度に基づきモニタリングすることも考えられるが、反応器等に設置した温度センサの検出温度は局所的な情報にすぎず、また、伝熱速度に起因する非定常な温度分布も生じる。したがって、進行する反応の状況を温度に基づき精度良くモニタリングすることは難しい。さらに、発熱を伴わない反応などでは、温度に基づくモニタリングが不適切な場合もある。
【0010】
そこで、そのような問題を解決するために本願発明者らが鋭意検討した結果、フロー式の有機合成反応において、反応器の出口側(下流側)のガス原料等の流量の測定を行うことにより、目的物の分析結果の取得を待たずに、有機合成反応が安定して実施されているか否かを当該反応の進行に対する遅れ時間を抑制しつつモニタリング可能であることを見出した。
【0011】
本発明は、このような従来技術の課題を鑑みて案出されたものであり、フロー式の有機合成反応において、当該反応の進行に対する遅れ時間を抑制しつつ当該反応の状況をモニタリングすることを可能とするフロー式有機合成システム及びフロー式有機合成方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の側面では、ガス原料、液体原料、及び固体触媒を用いた気液固三相反応を行うフロー式有機合成システム(1)であって、前記気液固三相反応を行うことにより反応生成物を生成する流通式固定床反応器(2)と、前記流通式固定床反応器の下流側に接続され、前記流通式固定床反応器から供給された前記反応生成物を、前記気液固三相反応の目的物が含まれる回収液および前記ガス原料が含まれる残留ガスに気液分離する第1の気液分離器(25)と、前記第1の気液分離器に接続され、前記残留ガスが流通する残留ガス輸送ライン(L7、L8)と、前記残留ガス輸送ラインに接続され、前記残留ガス中の所定成分の流量の測定に用いられる測定装置と、を備えた構成とする。
【0013】
これによると、フロー式の有機合成反応において、残留ガス中の所定成分の流量に基づき、当該反応の進行に対する遅れ時間を抑制しつつ当該反応の状況をモニタリングすることが可能となる。
【0014】
本発明の第2の側面では、前記測定装置は、前記所定成分の流量を間接的に決定するための質量分析計(37)を含み、前記残留ガス輸送ラインにおける前記質量分析計の上流側に接続され、前記質量分析計によって相対定量を行うための標準ガスを前記残留ガス輸送ラインに供給する標準ガス輸送ライン(L13)を更に備えた構成とする。
【0015】
これによると、簡易な構成により残留ガス中の所定成分の流量を適切に測定することが可能となる。
【0016】
本発明の第3の側面では、前記測定装置は、前記所定成分の流量を間接的に決定するための質量分析計(37)を含み、前記残留ガス輸送ラインに接続され、前記残留ガスの流量を測定する流量計(35)を更に備えた構成とする。
【0017】
これによると、簡易な構成により残留ガス中の所定成分の流量を適切に測定することが可能となる。
【0018】
本発明の第4の側面では、前記残留ガス輸送ラインにおける前記第1の気液分離器と前記測定装置との間に配置され、前記残留ガスを気液分離する第2の気液分離器(31)を更に備え、前記残留ガス輸送ラインは、前記第1の気液分離器からの前記残留ガスを前記第2の気液分離器に輸送する第1ライン(L7)と、前記第2の気液分離器からの前記残留ガスの気相成分を前記測定装置に輸送する第2ライン(L8)とを含む構成とする。
【0019】
これによると、第1の気液分離器における回収液の凝縮が不十分な場合(すなわち、第1ライン中の残留ガスに目的物が含まれる場合)でも、第2の気液分離器において残留ガスと目的物とを更に分離することが可能となる。
【0020】
本発明の第5の側面では、前記第1の気液分離器に接続され、前記回収液が流通する目的物回収ライン(L9)を更に備えた構成とする。
【0021】
これによると、目的物が含まれる回収液を、目的物回収ラインを介して容易に回収することが可能となる。
【0022】
本発明の第6の側面では、前記目的物回収ラインには、前記第1の気液分離器の液面(45)のレベルが一定となるよう、液面調整弁(46)が設けられている構成とする。
【0023】
これによると、測定装置による残留ガス中の所定成分の流量の測定を安定して実施することが可能となる。
【0024】
本発明の第7の側面では、前記目的物回収ラインの下流側に接続された目的物回収ドラム(41)を更に備えた構成とする。
【0025】
これによると、第1の気液分離器の液面のレベルに大きな影響を及ぼすことなく、目的物回収ドラムから目的物を容易に回収し、液体クロマトグラフやガスクロマトグラフによる同定や定量などに用いることが可能となる。
【0026】
本発明の第8の側面では、前記所定成分は、前記ガス原料である構成とする。
【0027】
これによると、フロー式の有機合成反応において、当該反応の進行に対する遅れ時間を抑制しつつ、当該反応の状況を容易にモニタリングすることが可能となる。
【0028】
本発明の第9の側面では、ガス原料、液体原料、及び固体触媒を用いた気液固三相反応を行うフロー式有機合成方法であって、前記気液固三相反応を行うことにより反応生成物を生成し、前記反応生成物を、前記気液固三相反応の目的物が含まれる回収液および前記ガス原料が含まれる残留ガスに気液分離し、前記残留ガス中の所定成分の流量を測定する構成とする。
【0029】
これによると、フロー式の有機合成反応において、残留ガス中の所定成分の流量に基づき、当該反応の進行に対する遅れ時間を抑制しつつ当該反応の状況をモニタリングすることが可能となる。
【0030】
本発明の第10の側面では、前記気液固三相反応は、前記ガス原料として水素を用いた前記液体原料の水素化反応、前記ガス原料として一酸化炭素を用いた前記液体原料のカルボニル化反応、及び前記ガス原料として酸素を用いた前記液体原料の酸化反応のいずれかである構成とする。
【0031】
これによると、水素化反応、カルボニル化反応、及び酸化反応のいずれかにおいて、残留ガス中の所定成分の流量に基づき、当該反応の進行に対する遅れ時間を抑制しつつ当該反応の状況をモニタリングすることが可能となる。
【0032】
本発明の第11の側面では、前記回収液に含まれる前記目的物を同定および定量する構成とする。
【0033】
これによると、残留ガス中の所定成分の流量に基づく反応状況のモニタリングの有効性を事後的に確認することが可能となる。
【0034】
本発明の第12の側面では、前記気液固三相反応の開始前から前記所定成分の流量を測定し、前記気液固三相反応の開始前における前記所定成分の流量の測定値と、前記気液固三相反応の開始後における前記残留ガスにおける前記所定成分の流量の測定値とを比較する構成とする。
【0035】
これによると、有機合成反応が正常に開始されたか否かを迅速かつ容易に判断することが可能となる。
【0036】
本発明の第13の側面では、前記気液固三相反応は、流通式固定床反応器(2)によって行われ、前記残留ガス中の前記所定成分の流量の測定値に基づき、前記流通式固定床反応器の圧力変動を検知する構成とする。
【0037】
これによると、有機合成反応が正常に進行しているか否かを迅速かつ容易に判断することが可能となる。
【発明の効果】
【0038】
このように本発明によれば、フロー式の有機合成反応において、当該反応の進行に対する遅れ時間を抑制しつつ当該反応の状況をモニタリングすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】実施形態に係るフロー式有機合成システムの全体構成図
【
図2】実施形態に係る有機合成反応の一例を示すモデル反応図
【
図3】
図1に示したフロー式有機合成システムの変形例を示す図
【
図4】実施例1の有機合成反応における反応状況と水素消費量との関係を示す説明図
【
図5】フロー式の反応とバッチ法による反応との比較を示す説明図
【
図6】実施例2の有機合成反応における反応状況と水素流量との関係を示す第1の説明図
【
図7】実施例2の有機合成反応における反応状況と水素流量との関係を示す第2の説明図
【
図8】実施例3の有機合成反応における反応状況と水素流量との関係を示す第1の説明図
【
図9】実施例3の有機合成反応における反応状況と水素流量との関係を示す第2の説明図
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0041】
図1は実施形態に係るフロー式有機合成システム1の全体構成図である。
【0042】
有機合成システム1は、ガス原料、液体原料、及び固体触媒を用いた気液固三相反応を行うことにより、所望の反応生成物を生成する流通式固定床反応器2を備える。
【0043】
流通式固定床反応器2(以下、反応器2という。)は、固体触媒を含む触媒層3を収容した公知の管型反応器である。反応器2は、入口ラインL1から連続的に供給されるガス原料及び液体原料を触媒層3に流通させることによって反応させる。また、反応器2には、温度制御器4が設けられており、必要に応じて熱供給もしくは熱除去することにより反応温度(ここでは、触媒層3の温度)を調整することが可能である。反応器2としては、例えば、原料を重力と同方向に流すダウンフロー反応器だけでなく、原料を重力と逆向きに流すアップフロー反応器を用いることもできる。
【0044】
固体触媒としては、例えば、周期表の第10族金属を金属酸化物担体に担持したものを用いることができる。第10族金属としては、例えば、パラジウム(Pd)及び白金(Pt)などを用いることができ、また、金属酸化物担体としては、例えば、アルミナ(pHS-Al2O3)、チタニア(pHS-TiO2)、及びハイブリッドチタニア(HBT)などを用いることができる。なお、固体触媒では、金属酸化物担体の代わりに樹脂系担体や炭素担体を用いてもよい。
【0045】
ハイブリッドチタニア担体を用いた固体触媒は、例えば、少なくともアルミナとチタニアとからなる複合担体に第10族金属が担持されており、その複合担体がアルミナからなる基材にチタニアが被覆されたものを少なくとも含む構成とすることができる。ハイブリッドチタニア担体を用いた固体触媒の詳細については、例えば、特開2016-179440号公報及び特許第3781417号に開示された水素化触媒の構成を参照されたい。
【0046】
ガス原料は、入口ラインL1に接続されたガス原料供給ラインL2を介して反応器2に連続的に供給される。ガス原料供給ラインL2には、ガス原料の流量を調整する流量調整弁6が設けられている。ガス原料は、反応生成物中に残留するように、液体原料との反応に理論的に必要とされる量よりも過剰に供給するとよい。
【0047】
なお、入口ラインL1には、パージガスが流通するパージガス供給ラインL3が接続されている。有機合成システム1では、メンテナンス時等にパージガス供給ラインL3にパージガスを供給することにより、システム内の機器や配管等のパージ操作を行うことが可能である。パージガス供給ラインL3には、パージガスの流量を調整する流量調整弁7が設けられている。
【0048】
液体原料は、液体原料タンク11に貯留される。液体原料は、液体原料供給ラインL4を介して入口ラインL1に流通し、ガス原料と共に反応器2に連続的に供給される。液体原料供給ラインL4には、液体原料タンク11内の液体原料を反応器2に向けて輸送するための液体原料用ポンプ12が設けられている。また、液体原料供給ラインL4には、予熱/予冷却器13が設けられている。反応器2に供給される液体原料の温度は、予熱/予冷却器13によって加熱もしくは冷却されることにより、予め設定された目標範囲内に調節される。
【0049】
なお、液体原料供給ラインL4には、洗浄液が流通する洗浄液供給ラインL5が接続されている。有機合成システム1では、メンテナンス時等に洗浄液供給ラインL5に洗浄液を供給することにより、システム内の機器や配管等の洗浄操作を行うことが可能である。洗浄液は、洗浄液タンク17に貯留される。また、液体原料供給ラインL4には、洗浄液タンク17内の洗浄液を反応器2等に輸送するための洗浄液用ポンプ18が設けられている。
【0050】
また、反応器2では、反応生成物が出口ラインL6から連続的に排出される。出口ラインL6には、冷却器21が設けられている。反応器2から排出された反応生成物の温度は、冷却器21によって冷却されることにより、予め設定された目標範囲内に調節される。
【0051】
冷却器21によって冷却された反応生成物は、出口ラインL6の下流側に接続されたメインドラム(第1の気液分離器)25に供給される。メインドラム25において、反応生成物は、未反応のガス原料等が含まれるオフガス(残留ガス)と、反応の目的物(製品)が含まれる回収液とに気液分離される。
【0052】
メインドラム25において分離されたオフガス(気相成分)は、オフガス輸送ライン(残留ガス輸送ラインの第1ライン)L7を介してサブドラム(第2の気液分離器)31に供給される。第1のオフガス輸送ラインL7には圧力調整弁32が設けられている。
【0053】
サブドラム31では、オフガス中に残留していた目的物を含む液体がオフガス(気体)から気液分離される。これにより、有機合成システム1では、メインドラム25における回収液の凝縮が不十分な場合でも、サブドラム31において残留ガスと目的物とを更に分離することが可能となる。なお、有機合成システム1では、サブドラム31を省略することもできる。
【0054】
サブドラム31において分離されたオフガス(気体)は、オフガス排出ライン(残留ガス輸送ラインの第2ライン)L8を介して外部に排出される。オフガス排出ラインL8には、オフガスの体積流量を測定する流量計35が設けられている。また、オフガス排出ラインL8には、流量計35の下流側に位置する分岐部36から分岐する分岐ラインL8aが設けられている。分岐ラインL8aには、質量分析計(測定装置)37が設けられている。質量分析計37は、オフガス中の各成分の濃度を測定することができる。
【0055】
このような構成により、有機合成システム1では、質量分析計37で測定された所定成分(例えば、残留したガス原料)の濃度と、流量計35で測定されたオフガスの流量とから当該所定成分の流量を連続的に測定(間接的に決定)することができる。このとき、流量計35による連続的な測定値に基づき、反応器2における反応の進行度合いを把握することができる。
【0056】
このような所定成分の流量の測定は、液体クロマトグラフやガスクロマトグラフによる目的物の同定及び定量に比べて、より短い時間で(反応の進行に対し、実用に足る小さな遅れ時間で)実施することが可能である。その結果、有機合成システム1では、後に詳述するように、質量分析計37の測定に基づき決定されたオフガス中の所定成分の流量に基づき、当該反応の進行に対する遅れ時間を抑制しつつ当該反応の状況をモニタリングすることが可能となる。なお、有機合成システム1では、オフガス排出ラインL8に質量流量計を設けることもできる。
【0057】
一方、メインドラム25からの回収液は、回収液輸送ライン(目的物回収ライン)L9を介して製品回収ドラム41に供給される。製品回収ドラム41では、回収液中に残留していた気体が回収液から気液分離される。この分離された気体は、分離ガス排出ラインL10を介して外部に排出される。また、製品回収ドラム41で分離された回収液(目的物)は、製品回収ラインL11を介して回収される。
【0058】
有機合成システム1では、オペレータは、製品回収ラインL11から回収液を所定のタイミングで適宜サンプリングし、これを液体クロマトグラフやガスクロマトグラフによって分析することにより、目的物(製品)を同定及び定量することが可能である。これにより、オペレータは、上述の質量分析計37の測定結果(所定成分の流量)に基づく反応状況のモニタリングの有効性を事後的に確認することができる。なお、有機合成システム1では、製品回収ドラム41を省略し、回収液輸送ラインL9から回収液を所定のタイミングで適宜サンプリングしてもよい。
【0059】
回収液輸送ラインL9には、液面計(図示せず)によって測定されるメインドラム25の液面45のレベルが一定となるよう、回収液輸送ラインL9の下流に液面調整弁46が設けられている。この液面調整弁46により、メインドラム25の液面レベルを所望の高さに安定的に維持することが可能となる。その結果、回収液のサンプリング時等の液面レベルの変動(延いては、オフガス排出ラインL8におけるオフガス流れの乱れ)が抑制され、質量分析計37によるオフガス中の所定成分の流量の測定を安定して実施することが可能となる。
【0060】
また、サブドラム31において分離された液体は、液回収ラインL12に排出される。ここで排出される液体は、上述の製品回収ドラム41で分離された回収液と共に回収することができる。
【0061】
なお、図示は省略するが、上記有機合成システム1では、冷却器21よりも下流側に位置するラインL6、メインドラム25、サブドラム31、ラインL7、圧力調整弁32、ラインL9、液面調整弁46、及び製品回収ドラム41は、外部の冷却システムにより冷却するとよい。これにより、冷却器21で冷却された反応生成物を構成するガスや液体について、周囲(外気等)からの入熱による温度上昇を抑制できる。
【0062】
また、第1のオフガス輸送ラインL7には、不活性ガス供給ラインL7aを付設することができる。この不活性ガス供給ラインL7aは、第1のオフガス輸送ラインL7における圧力調整弁32の上流側に接続され、第1のオフガス輸送ラインL7のオフガスの流れに対して不活性ガスを供給する。また、不活性ガス供給ラインL7aには、ガス原料の流量を調整する流量調整弁56が設けられる。
【0063】
例えば、ガス原料供給ラインL2からのガス原料(ここでは、水素)の供給量が反応当量付近である場合、オフガスの流量がゼロまたは微量となって圧力制御や反応の状況のモニタリングが難しくなる可能性がある。そのような場合でも、不活性ガス供給ラインL7aから一定流量の不活性ガスを供給することで、圧力調整弁32によるオフガスの圧力制御や、流量計35や質量分析計37による反応の状況のモニタリングを安定的に実施できるという利点がある。
【0064】
図2は実施形態に係る有機合成反応の一例を示すモデル反応図である。
【0065】
有機合成システム1では、気液固三相反応として、例えば、液体原料の水素化反応を実施することができる。
【0066】
後述する1つの実施例では、液体原料として原料である4-ニトロスチレン(「NS」と略称する。)を溶媒(メタノール)に溶解した原料溶液を用いると共に、ガス原料として水素H
2を用いる反応について説明する。この反応では、
図2に示すように、4-ニトロスチレンから、水素還元により最終的な全還元物質(目的物)として4-エチルアニリン(「EA」と略称する。)が得られる。また、この反応では、中間体としての4-アミノスチレン(「AMS」と略称する。)または4-エチルニトロベンゼン(「ENB」と略称する。)を経由する。
【0067】
また、後述する別の実施例では、液体原料として原料である4-エチルニトロベンゼンを溶媒(メタノール)に溶解した原料溶液を用いることにより、還元物質(目的物)として4-エチルアニリンを得る反応に関して説明する(
図2中の破線で囲まれた部分を参照)。
【0068】
なお、有機合成システム1では、上述の水素化反応に限らず、例えば、ガス原料として一酸化炭素を用いた液体原料のカルボニル化反応や、ガス原料として酸素を用いた液体原料の酸化反応などの他の反応を実施することもできる。また、液体原料としては、上述のように原料を溶媒により所望の割合で希釈して用いることができるが、そのような溶媒の使用は必須ではない。
【0069】
図3は
図1に示した有機合成システム1の変形例を示す図である。
図3では、
図1に示した有機合成システム1と同様の構成要素に対して同一の符号が付されている。また、
図3に示す変形例において、以下で特に言及しない事項については、
図1に示した有機合成システム1と同様とする。
【0070】
図3に示す有機合成システム1では、
図1に示した流量計35が省略されている。一方、分岐ラインL8aにおける質量分析計37の上流側には、不活性ガス(標準ガス)が流通する不活性ガス供給ライン(標準ガス輸送ライン)L13が接続されている。不活性ガス供給ラインL13には、ガス原料の流量を調整する流量調整弁51が設けられている。
【0071】
このような構成により、有機合成システム1では、オフガス排出ラインL8を流れるオフガスに対し、不活性ガス(例えば、Arガス)を一定の流量で同伴させることができる。その結果、その不活性ガスを質量分析計37における内部標準物質として相対定量に用いることで、簡易な構成によりオフガス中の所定成分の流量を測定(間接的に決定)することが可能となる。
【0072】
次に、上記有機合成システム1(
図1参照)による有機合成反応の実施例について説明する。
【実施例1】
【0073】
液体原料として原料である4-ニトロスチレンを溶媒(メタノール)に溶解した原料溶液を用い、ガス原料として水素を用いることにより、原料の水素化反応(
図2参照)を実施した。質量分析計37として、Pfeiffer Vaccum社製のD-35614 Asslar(Model:GSD 301 O2)を用いた。また、触媒には、パラジウム触媒(5%Pd/C)を用いた。
【0074】
表1は、実施例1に関する実験条件を示す。表1には、実施例1で実施される実験1~実験3について、液体原料供給ラインL4に供給される原料溶液の流量、ガス原料供給ラインL2に供給される水素の流量、反応器2(入口部)の圧力、及び触媒層3の中心位置の温度がそれぞれ示されている。液体原料としては、メタノールを溶媒とした濃度2%の4-ニトロスチレンの原料溶液を用いた。実験1~実験3は、原料溶液の流量(mL/min)を1.0、0.5、0.1にそれぞれ設定することにより連続的に実施した。また、実験1~実験3における水素流量及び圧力は一定とした。
【0075】
【0076】
図4は、実施例1の有機合成反応における反応状況と水素消費量との関係を示す説明図である。
図4において、左縦軸の水素(H
2)消費量は、ガス原料供給ラインL2に供給された水素の流量と、質量分析計37のオンラインでの数秒間隔の測定に基づき決定された水素の流量との差分を示す。また、右縦軸のNS濃度(%)、EA濃度(%)、及びENB濃度(%)は、製品回収ラインL11から数分間隔で取得した回収液の各成分をガスクロマトグラフ(GC-FID)によってオフラインで分析した結果(反応状況)を示す。また、
図4(上部)には、触媒温度の推移も示されている。
【0077】
図4に示すように、原料溶液の投入を開始(0分に相当)した後、ENB濃度は、10分程度経過するまで増大している。これは、反応器2に充填された触媒層3から生成物(回収液)がメインドラム25に到達し、メインドラム25内の液が切り替わるまでにタイムラグが生じることを示している。実施例1に用いた実験用の有機合成システムでは、反応器2のインベントリが比較的小さく、また、メインドラム25内の回収液はサンプリングごとに全量回収したが、それにも拘わらずそのようなタイムラグが生じている。商業生産に用いるより大型の有機合成システムでは、反応器2におけるインベントリがより大きくなり、かつ液面が一定に保たれるメインドラム25では常に一定量の液が滞留するため、より大きなタイムラグが生じる(回収液の入れ替わりにより長時間を要する)ことが予想される。
【0078】
また、原料溶液の流量を1.0、0.5、0.1に順に減少させるにつれて、原料溶液の反応器2内における滞留時間が長くなるため、完全還元物質であるEA濃度(収率)は増大している。
【0079】
一方、水素消費量は、原料溶液の投入開始後に速やかに立ち上がり、これは、触媒層3内での反応進行に伴う水素消費の挙動を反映していると考えられる。また、水素消費量は、原料溶液の流量を1.0、0.5、0.1の順に変更した際に、その変更に応じて速やかに変動することから、これも触媒層3内での水素消費の挙動を反映していると考えられる。
【0080】
例えば、原料溶液の流量が比較的小さい実験3の開始後(約50分経過時)において、ガスクロマトグラフによる回収液の分析では、水素消費の挙動が反映される(ENB濃度が安定する約80分経過時)まで30分以上を要している。これに対し、質量分析計37によって測定された水素消費量によれば、反応器2における水素の反応量が変化したことを1分程度で検出できている。
【0081】
また例えば、原料溶液の投入開始後の実験1では、触媒層3の温度が安定しておらず35℃から40℃まで徐々に上昇している。このとき、ガスクロマトグラフによる回収液の分析では、回収液中のENB濃度は増大した後に徐々に減少し、EA濃度は増大する挙動を示している。これに対し、質量分析計37によって測定された水素消費量は、安定せずに徐々に増大しており、これは、触媒層3内での水素消費の挙動をより反映しているものと考えられる。
【0082】
表2には、実験1~実験3(終了直前)において、質量分析計37によって測定された水素消費量と、ガスクロマトグラフ(GC-FID)の分析結果に基づく水素消費量との比較が示されている。実験1~実験3において、質量分析計37によって測定された水素消費量は、ガスクロマトグラフの分析結果に基づく水素消費量と良好に一致している。
【0083】
【0084】
このように、有機合成システム1では、オフガス中の所定成分(ここでは、ガス原料としての水素)の流量に基づき、当該反応の進行に対する遅れ時間を抑制しつつ当該反応の状況をモニタリングすることが可能となる。
【0085】
図5は、フロー式の反応(実施例1の有機合成反応)とそれに対応するバッチ法による反応との比較を示す説明図である。
図5では、NS転化率、ENB選択率、及びEA選択率の経時変化が示されており、それぞれ(F)及び(B)を付して実施例1の有機合成反応とバッチ法による反応とを区別している。
【0086】
バッチ法による反応では、反応開始から約20分経過した後にNS転化率が100%に達するのに対し、フロー式の反応では、僅か数10秒程度でNS転化率が100%に達する。同様に、フロー式の反応では、EA選択率についてもバッチ法による反応に比べて短時間で100%に達することが判る。
【実施例2】
【0087】
液体原料として原料である4-エチルニトロベンゼンを溶媒(メタノール)に溶解した原料溶液を用い、ガス原料として水素を用いることにより、液体原料の水素化反応(
図2中の破線で囲まれた部分に示された一段還元反応を参照)を実施した。また、触媒には、パラジウムを担持したハイブリッドチタニア(0.2%Pd/HBT)を用いた。なお、以下で特に言及しない事項については、実施例1の場合と同様とする。
【0088】
表3は、実施例2に関する実験条件を示す。表3には、実施例2で実施される実験1~実験4について、液体原料供給ラインL4に供給される原料溶液の流量、ガス原料供給ラインL2に供給される水素の流量、反応器2の圧力、及び触媒層3の中心位置の温度がそれぞれ示されている。実験1~実験4は、原料溶液の流量(mL/min)を1.0、1.0、1.2、0.8にそれぞれ設定することにより連続的に実施した。また、実験1~実験4における水素流量及び圧力は一定とした。
【0089】
【0090】
図6及び
図7は、実施例2の有機合成反応における反応状況と水素流量との関係を示す説明図である。
図6において、左縦軸の水素(H
2)流量は、質量分析計37のオンラインでの数秒間隔の測定に基づき決定された水素の流量を示す。また、右縦軸のEA収率(%)は、製品回収ラインL11から数分間隔で取得した回収液の各成分をガスクロマトグラフ(GC-FID)によってオフラインで分析した結果(反応状況)を示す。また、EA収率(%)を示す数値の下方の括弧内に示された数値は、ガスクロマトグラフの分析によるEA収率(すなわち、消費された水素量)に基づき推算した水素流量である。一方、
図7は、質量流量計を用いて測定した水素(H
2)流量であることを除けば、
図6の場合と同様である。
【0091】
実施例2では、反応開始直後の挙動や、僅かな反応因子の乱れ(例えば、実験1から実験2での温度上昇)、原料溶液流量の増減 (実験2→実験3→実験4) による水素消費量の変化に応じて質量分析計及び質量流量計により測定される水素流量の変化を確認した。
【0092】
[原料投入前から実験1の過程]
ガス原料供給ラインL2に対する常温25℃でのメタノール(液体原料を含まず)の供給から液体原料の供給に切替え(0分に相当)、その直後から発熱反応に伴う触媒層3の温度上昇を熱電対で検知した。
【0093】
このとき、水素流量(
図6及び
図7参照)は、反応開始前のレベルから速やかに低下しており、これにより、反応開始直後における反応器2での水素消費挙動を速やかに検知できていることが判る。一方、このときの反応温度(ここでは、触媒層3の温度)は、緩やかに上昇しており、進行中の反応の状況が反映される(温度が安定する)までにある程度の時間を要している。また、触媒層3等で検出される温度は、あくまで局所的な情報にすぎない。
【0094】
したがって、質量分析計及び質量流量計により測定される水素流量によれば、反応の進行に対する遅れ時間を抑制しつつ全体の(局所的でない)反応の状況をモニタリング可能である。特に、そのような水素流量によれば、反応の開始前における水素流量の測定値と、反応開始後における水素流量の測定値とを比較する(或いは、所定の時間間隔における水素流量の変動量を算出する)ことで、反応開始直後における反応の進行を温度の場合と比べて速やかに確認できるという利点がある。
【0095】
[実験1から実験2の過程]
表3に示したように、実験1から実験2に移行する昇温過程(触媒層3内の温度乱れを模擬するため能動的に反応温度を上昇させた試験)では、触媒層3の温度の上昇と共にEA収率も上昇している。このとき、水素流量(
図6及び
図7参照)が低下している(僅かな右下がりの傾きを有する)ことから、反応器2での温度上昇時における水素消費挙動を反映していることが判る。例えば、35分~75分経過時において、質量分析計及び質量流量計により測定された水素流量は、それぞれ0.01cm
3/minの傾きをもって減少している。
【0096】
[実験2、実験3、実験4の過程]
表3に示したように、実験2から実験3を経て実験4に移行する原料溶液流量の変更過程では、原料溶液流量の変化に応じて触媒層3での原料の接触時間が変わることから、EA収率はそれを反映した結果となった。
【0097】
また、このときの水素流量の挙動(データの値)についても触媒層3内での水素消費の挙動を一定の精度で反映している。
【0098】
表4は、各実験の安定化時における質量流量計(MFM)、質量分析計(MS)、及びガスクロマトグラフ(GC-FID)による水素流量の測定(推算)結果を示す。
【0099】
【0100】
表4に示すように、実験1~実験4において、質量流量計(MFM)の測定による水素流量は、ガスクロマトグラフ(GC-FID)の分析結果に基づき推算された比較的信頼性の高い水素流量と一定の精度(誤差2%以下)で良好に一致している。これにより、質量流量計の測定による水素流量に基づくモニタリングの有効性が認められる。
【0101】
また、質量分析計(MS)の測定による水素流量についても、質量流量計の場合よりも多少精度は劣るものの、ガスクロマトグラフの分析結果に基づく水素消費量と一定の精度(誤差8%以下)で良好に一致している。これにより、質量分析計の測定による水素流量に基づくモニタリングの有効性が認められる。
【0102】
このような実験1~実験4の結果によれば、質量分析計または質量流量計により測定される水素流量のモニタリングにより、ガスクロマトグラフによる分析の場合と比べて、反応開始時に所望の反応が開始したかどうかを迅速に確認することが可能である。また、質量分析計または質量流量計により測定される水素流量の値からは、反応器2における反応の詳細までは把握できないが、ガスクロマトグラフの分析結果に基づき推算された比較的信頼性の高い水素流量と良好に一致しており、水素流量の値について実用に足る精度が確保可能である。
【0103】
さらに、反応開始後においても、質量分析計または質量流量計により測定される水素流量のモニタリングにより、時間経過と共に進行する反応が安定しているかどうかを判断することができる。また、測定された水素流量に変化があった場合には、温度、流量、圧力等のプロセス条件の変動と比較することで、その要因を特定することができ、必要に応じてフィードバック制御することも可能である。
【実施例3】
【0104】
上記実施例2と同様に、液体原料として原料である4-エチルニトロベンゼンを溶媒(メタノール)に溶解した原料溶液を用い、ガス原料として水素を用いることにより、液体原料の水素化反応を実施した。なお、以下で特に言及しない事項については、実施例1、2の場合と同様とする。
【0105】
表5は、実施例3に関する実験条件を示す。表5には、実施例3で実施される実験1、実験2について、液体原料供給ラインL4に供給される原料溶液の流量、ガス原料供給ラインL2に供給される水素の流量、反応器2の圧力、及び触媒層3の中心位置の温度がそれぞれ示されている。実験1及び実験2は、圧力(MPaG)を0.008、0.016にそれぞれ設定することにより連続的に実施した。また、実験1及び実験2における原料溶液流量、水素流量、及び温度は一定とした。
【0106】
【0107】
図8及び
図9は、実施例3の有機合成反応における反応状況と水素流量との関係を示す説明図である。
図8において、左縦軸の水素(H
2)流量は、質量分析計37のオンラインでの数秒間隔の測定に基づき決定された水素の流量を示す。また、EA収率(%)は、製品回収ラインL11から数分間隔で取得した回収液の各成分をガスクロマトグラフ(GC-FID)によってオフラインで分析した結果(反応状況)を示す。また、右縦軸の圧力は、反応器2の入口部の圧力であり、ここでは、触媒層3内で微小な圧力変動(例えば、反応器内での閉塞など)が発生した場合を想定して圧力値が設定されている。
図9は、上述の
図7の場合と同様に、質量流量計を用いて測定した水素(H
2)流量であることを除けば、
図8の場合と同様である。
【0108】
図8及び
図9に示すように、実験1及び実験2において、圧力(MPaG)を0.008から0.016に変更した場合でも、EA収率に影響は見られなかった。一方、質量分析計及び質量流量計により測定された水素流量は、実験1から実験2に移行する際の圧力の変動(上昇)に応じて大きく変動(減少)している(
図8及び
図9中の一点鎖線で囲まれた部分を参考)。このように、質量分析計及び質量流量計により測定された水素流量により、反応の状況(ここでは、反応器2の圧力変動)を遅れ時間を抑制しつつモニタリング可能であることが判った。
【0109】
以上、本発明を特定の実施形態に基づいて説明したが、これらの実施形態はあくまでも例示であって、本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。例えば、反応の状況をモニタリングするための測定対象(オフガス中の所定成分)としては、ガス原料に限定されず、反応器における副生成物(ガス)であってもよい。なお、上述の実施形態に示した本発明に係るフロー式有機合成システム及びフロー式有機合成方法の各構成要素は、必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【符号の説明】
【0110】
1 :フロー式有機合成システム
2 :流通式固定床反応器
3 :触媒層
4 :温度制御器
6 :流量調整弁
11:液体原料タンク
13:予熱/予冷却器
21:冷却器
25:メインドラム
31:サブドラム
32:圧力調整弁
35:流量計
36:分岐部
37:質量分析計(測定装置)
41:製品回収ドラム
45:液面
46:液面調整弁
56:流量調整弁