(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】超電導磁石装置、NMR装置及びMRI装置
(51)【国際特許分類】
H01F 6/02 20060101AFI20241024BHJP
H01F 6/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
H01F6/02
H01F6/00 180
(21)【出願番号】P 2021145556
(22)【出願日】2021-09-07
【審査請求日】2024-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】和久田 毅
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-144106(JP,A)
【文献】特開2003-197418(JP,A)
【文献】特開2006-73571(JP,A)
【文献】特開2010-147370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/00
H01F 6/02
H01F 6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導線材が巻き回された超電導コイルと、前記超電導コイル用の励磁電源に対して前記超電導コイルと電気的に並列に接続した永久電流スイッチとを備える超電導磁石装置において、
前記励磁電源は、電流リードを介して前記超電導コイル及び前記永久電流スイッチと電気的に接続されており、
前記永久電流スイッチは、超電導状態から常電導状態に転移させるためのヒータ及びヒータ駆動電源を備えており、
前記ヒータに前記ヒータ駆動電源から投入される電流が、前記電流リードの少なくとも一部分を経由してヒータに流れるように構成されている
ことを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超電導磁石装置において、
前記ヒータ駆動電源がコンデンサバンクで構成されている
ことを特徴とする超電導磁石装置
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の超電導磁石装置において、
前記永久電流スイッチに設置されたヒータ回路に直流電流を防止するためのコンデンサが直列に挿入されている
ことを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の超電導磁石装置において、
前記ヒータ駆動電源が交流電源である
ことを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項5】
請求項4に記載の超電導磁石装置において、
前記ヒータ駆動電源は、コンデンサバンクとスイッチング素子のフルブリッジ回路で構成されている
ことを超電導磁石装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の超電導磁石装置において、
前記超電導線材が高温超電導材料である
ことを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項7】
超電導線材が巻き回された超電導コイルと、前記超電導コイルを励磁するための励磁電源と、前記超電導コイルと前記励磁電源を電気的に接続する電流リードとを有する超電導磁石装置において、
前記超電導線材の巻線には一部分もしくは全体を超電導状態から常電導状態に転移させるためのヒータ及びヒータ駆動電源が設置されており、
前記ヒータにはヒータ駆動電源から投入される電流が、前記電流リードの少なくとも一部分を経由してヒータに流れるように構成されている
ことを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項8】
請求項7に記載の超電導磁石装置において、
前記ヒータ駆動電源がコンデンサバンクで構成されている
ことを特徴とする超電導磁石装置
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の超電導磁石装置において、
前記ヒータを含むヒータ回路に直流電流を防止するためのコンデンサが直列に挿入されていることを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか1項に記載の超電導磁石装置において、
前記ヒータ駆動電源が交流電源である
ことを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項11】
請求項10に記載の超電導磁石装置において、
前記ヒータ駆動電源は、コンデンサバンクとスイッチング素子のフルブリッジ回路で構成されている
【請求項12】
請求項7乃至11のいずれか1項に記載の超電導磁石装置において、
前記超電導線材が高温超電導材料である
ことを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の前記超電導磁石装置を備える
ことを特徴とするNMR装置。
【請求項14】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の前記超電導磁石装置を備える
ことを特徴とするMRI装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い磁場を発生させその磁場を利用する超電導磁石装置に関し、特に磁石の高速遮断を必要としヒータによって遮断動作を行う超電導磁石装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導磁石は、永久磁石や常電導電磁石に比べると高い磁場を発生させることができるため、永久磁石等では実現できないような研究用超高磁場マグネットやNMR(Nuclear Magnetic Resonance)のような分析装置用のマグネット、また、医療用のMRI(Magnetic Resonance Imaging)用のマグネットとして利用されている。
【0003】
実用超電導材料として金属系のNbTi、Nb3Snなどが利用されてきたが、これらの材料は低温超電導材料(LTS:Low Temperature Superconductor)と呼ばれ、液体ヘリウムを利用した温度領域で利用されている。それに対し超電導特性が発現する臨界温度の高い高温超電導材料(HTS:High Temperature Superconductor)の実用化研究が進んでおり、近年では様々なHTS磁石が開発されてきている。高温超電導材料としては、レアアース系元素(Y、Gdなど)を含むREBCO、Biを含むBSCCOなどの銅酸化物超電導材料や金属系材料のMgB2の実用化が進められている。
【0004】
超電導磁石は直流電気抵抗がゼロの性質を利用して常電導の導体に比べて大きな電流を流す使い方をするため、一般には超電導状態から常電導状態に急激に転移するクエンチ現象は敬遠される。高温超電導材料は臨界温度が高く、また、その性質を利用して液体ヘリウム温度領域よりも桁違いに大きな比熱となる温度領域で運転されることから、擾乱による超電導磁石への熱エネルギーに入熱によるクエンチに対してLTS磁石よりも桁違いに大きなクエンチエネルギーマージンを持つ。
【0005】
クエンチ耐性が大きいことがHTSのメリットだが、この性質がデメリットとなる場合がある。MRIなどの磁石においては磁場安定性を実現するために永久電流モード運転が行なわれている。永久電流モード運転をする場合には超電導磁石の回路には電気抵抗が存在してはならず、回路は抵抗ゼロの超電導のループが形成される。超電導ループには電流を流し込むことができないため、永久電流モード磁石には永久電流スイッチ(PCS:Persistent Current Switch)と呼ばれる超電導状態と常電導状態(抵抗状態)を切り替えることができるスイッチが備え付けられる。
【0006】
永久電流スイッチは超電導線材で構成されており、一般には超電導状態から常電導状態に転移させるためのヒータが備え付けられている。ヒータにエネルギーを投入して永久電流スイッチの温度を上げることによって抵抗状態(すなわちスイッチオフ)を実現し、ヒータを切って温度を下げることによって超電導状態(すなわちスイッチオン)が実現されている。
【0007】
特許文献1には、超電導コイル、永久電流スイッチ、保護回路及び励磁電源から構成される一般的な永久電流モード回路が開示されており、永久電流スイッチは永久電流スイッチ開閉用ヒータによってオンオフされる。さらに保護抵抗を、永久電流スイッチをオフするためのヒータとして利用する構成となっている。
【0008】
永久電流モード運転されるMRIにおいては、緊急時に速やかに磁場を切るための機能が必要である。PCSを抵抗状態(スイッチオフ)にすることによって磁石のエネルギーを引き抜いて磁場を減磁することが可能となるが、緊急減磁するためには速やかにスイッチを切ることが必要となる。永久電流モード運転のHTS磁石ではPCS巻線にもHTS線材が使われことになるから、PCSを短時間に抵抗状態にすることは困難となる。
【0009】
また、超電導磁石がひとたびクエンチした場合には、HTS磁石ではLTS磁石にくらべると焼損しやすいという性質がある。これはHTSがクエンチしにくい性質があることから常電導領域が速やかに拡大せず、クエンチの発生した局所的な領域に磁石に蓄積されたエネルギーが集中して熱に変換されホットスポットが形成されるためである。
【0010】
ホットスポット発生による焼損防止のために、超電導コイルにクエンチヒータと呼ばれるヒータを設置してクエンチ発生時には超電導の領域をあえて常電導状態に広く転移させて抵抗領域を拡大する磁石の保護方法がある。クエンチヒータによる抵抗領域の拡大においてもHTS磁石ではクエンチ耐性の大きさから困難となる。
【0011】
非特許文献1、非特許文献2では、酸化物超電導テープ線材で巻き回したパンケーキコイルを積層して構成されたマグネットに、パンケーキコイル層間にクエンチヒータが挿入されている。また、非特許文献2にはクエンチヒータを駆動するためのバッテリーバンクが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【非特許文献】
【0013】
【文献】M Breschi et al.:“Analysis of quench in the NHMFL REBCO prototype coils for the 32T Magnet Project”,May 2016 Superconductor Science and Technology 29(5) 055002
【文献】H.W. Weijers et al.:“The NHMFL 32T superconducting magnet” https://indico.cern.ch/event/659554/contributions/2708372/attachments/1525993/2386079/3P1-01_Huub_Weijers_Room_1.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来のNb系材料(NbTi、Nb3Sn)超電導体を使った超電導磁石では、これらの材料の臨界温度は低く、また、比熱の小さな液体ヘリウム温度で使用されることから、わずかなヒータ入熱によって容易にクエンチを生じさせることができる。また、ヒータによって発生したクエンチの芽(常電導領域)は、コイルに通電されている電流によるジュール発熱により急速に拡大して超電導磁石全体を抵抗状態にすることができた。
【0015】
一方、HTS磁石は材料特性として臨界温度が高く、また、桁違いに比熱の大きな温度領域において使用されるため、クエンチを誘発させるための熱量は桁違いに大きくなり、また、常電導領域の拡大速度(クエンチ伝搬速度という)も遅く、超電導コイルに大きな抵抗領域を形成させるためには、広い領域にわたってヒータを設置する必要があるとともに、さらにその領域を昇温するためのヒータエネルギーを投入する必要がある。従って、HTS磁石では高速遮断を行うために常電導転移させためには大きなエネルギーを必要とし、また、瞬間的にエネルギーを投入するためには容量(W)の大きなヒータ電源装置を必要とする。
【0016】
クエンチヒータの為に大容量の電源装置を備え付けて、常に待機状態にしておくのは無駄であることから、ヒータ用の電源にはコンデンサバンクを利用することが合理的である。これに超電導巻線部を所定の分だけ温度上昇させるエネルギーをチャージしておき、必要時に放出することにより簡便なヒータ電源を構成できる。
【0017】
ヒータエネルギーの放出時間は、コンデンサバンクの容量Cとヒータ及びヒータ通電回路抵抗を含む電気抵抗Rで決まる時定数τ(=RC)で決定される。高速遮断するためにはごく僅かな時間(0.1sec)でコンデンサバンクの全エネルギーを放出する必要があるので時定数は20~30msecであることが要求される。HTS磁石ではLTS磁石よりも桁違いに大きなエネルギーを必要とすることから、必要なコンデンサバンクの容量は大きくなり、したがって容量Cは大きくなる。
【0018】
ヒータ回路には、超電導コイルがクライオスタット内の極低温中に設置されることからヒータ通電回路を通じた外部からの入熱を低減するために、熱抵抗の大きな(したがって電気抵抗の大きな)コンスタンタンなどの導線が利用され、ヒータ通電回路の電気抵抗を小さくすることができない。したがって、コンデンサバンクを使う場合、HTS磁石では高速の遮断動作が行なえない。
【0019】
本発明は、前記の課題を解決するための発明であって、超電導巻線を高速に常電導転移可能とするヒータ装置を提供し、超電導磁石の高速遮断もしくは超電導巻線焼損防止可能な超電導磁石装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記目的を達成するため、本発明の超電導磁石装置は、超電導線材が巻き回された超電導コイルと、前記超電導コイル用の励磁電源に対して前記超電導コイルと電気的に並列に接続した永久電流スイッチとを備える超電導磁石装置において、前記励磁電源は、電流リードを介して前記超電導コイル及び前記永久電流スイッチと電気的に接続されており、前記永久電流スイッチは、超電導状態から常電導状態に転移させるためのヒータ及びヒータ駆動電源を備えており、前記ヒータに前記ヒータ駆動電源から投入される電流が、前記電流リードの少なくとも一部分を経由してヒータに流れるように構成されていることを特徴とする。本発明のその他の態様については、後記する実施形態において説明する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、超電導巻線を高速に常電導転移可能とするヒータ装置を提供し、超電導磁石の高速遮断もしくは超電導巻線焼損防止可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施形態に係る永久電流モード運転磁石の基本構成を示す回路図である。
【
図2】一般的な永久電流モード運転磁石の基本構成を示す回路図である。
【
図3】第1実施形態に係る超電導磁石装置を示す回路図である。
【
図4】第1実施形態に係る回路シミュレーションモデルを示す説明図である。
【
図5】第1実施形態に係る回路シミュレーションモデルの結果を示す電流の時間変化図である。
【
図6】第1実施形態に係る超電導磁石装置を示す構成図である。
【
図7】第2実施形態に係る超電導磁石装置を示す回路図である。
【
図8】第2実施形態に係る超電導磁石装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態について説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
【0024】
≪第1実施形態≫
<永久電流モード磁石構成>
最初に、
図2を参照して一般的な永久電流モード運転磁石の基本構成とその課題を説明する。
【0025】
図2は、一般的な永久電流モード運転磁石の基本構成を示す回路図である。
図2には、MgB
2を巻き回した中心磁場強度が1.5Tの磁石の永久電流モード運転磁石の一般的な励磁回路を示す。この磁石は、運転電流250A、伝導冷却方式で冷却され、蓄積エネルギー3MJである。
【0026】
メインコイル1(超電導コイル)は定格300Aの励磁電源に接続され、永久電流モード運転をするためのPCS2(永久電流スイッチ)がメインコイル1と並列に接続されている。また、クエンチ時にはマグネットの蓄積エネルギーの大部分(90%以上)をクライオスタット10の外部で回収できるように、10Ωの保護抵抗5がクライオスタット10の外部に設置されている。
【0027】
一般の市販の永久電流モード磁石では、クライオスタット10への入熱量を低減するために永久電流モード運転が確立された後はマグネットに電流を投入するためのパワーリード8は引き抜かれることになるが、本磁石の構成では外部の保護抵抗5でエネルギーを回収するためにパワーリードは設置された状態のままとなっている。
【0028】
PCS2は、MgB2超電導線材で巻き回されており、スイッチ動作させるためのPCSヒータ巻線3(ヒータ)が熱的に結合するように設置されている。ヒータを駆動するためのPCSヒータ電源7が備え付けられており、一般にはPCSヒータ巻線3とPCSヒータ電源7はクライオスタット10への熱侵入を低減するために熱抵抗の大きなコンスタンタン線で接続される。
【0029】
PCS2は永久電流モード運転時には抵抗ゼロであるが、メインコイルのクエンチもしくは緊急遮断時に外部の保護抵抗で蓄積エネルギーの大部分を回収するために、PCS2がオフには抵抗が100~300Ωとなるように設計されている。PCS2をオフにするためには最低1500~4000Jのエネルギーを投入する必要がある。本磁石のPCS2のオフ時間目標仕様は0.1秒であり、その場合にはヒータを駆動するためには15kWから40kWの待機電源が必要となる。このような大きな電源をヒータのために待機させておくことは無駄であるため、トータル容量47000μFのコンデンサバンクに300~600Vを充電して待機させておく。
【0030】
<ヒータ回路の低抵抗化>
コンデンサバンクからヒータ回路へのエネルギー投入は受動的に行なわれ、エネルギー投入のために掛かる時間は、コンデンサバンクの容量Cとヒータ回路の電気抵抗Rで決定される時定数τ=RCに支配される。コンデンサバンクのエネルギーほぼすべてヒータに投入し終えるためには時定数の3~4倍の時間を必要となることから、要求される回路時定数は25~33msecとなる。
【0031】
したがって、ヒータ回路(ヒータを含む)の電気抵抗は概ね0.5Ω程度とする。コンデンサから投入するエネルギーは、ヒータの電気抵抗と途中経路の電気抵抗の比によって配分されるため、途中経路の電気抵抗はヒータの電気抵抗に比べて十分に(例えば1割以下)小さくする必要がある。
【0032】
クライオスタット10への熱侵入量を小さくしたいので、ヒータ回路の導体材料は熱抵抗の大きな材料を使うことが望ましい。熱侵入量が気にならない場合には電気抵抗の小さい(したがって、熱抵抗が小さい)銅線などでヒータ励磁回路を構成する。
【0033】
ヒータ回路からの熱抵抗を小さくする場合には、通常はコンスタンタンなどの熱抵抗の大きな(したがって、電気抵抗の大きな)材料を選択することになるが、電気抵抗が桁違いに大きくなるためエネルギー投入時定数は大幅に増加し25~33msecの時定数は実現できなくなる。本実施形態では、従来の課題を、回路構成を変更して解決している。
【0034】
図1は、第1実施形態に係る永久電流モード運転磁石の基本構成を示す回路図である。熱侵入量を低減するためにはヒータ励磁用の回路を別置きにせず、
図1に示すようにメインコイル1の励磁回路の一部を共用してヒータ励磁回路を構成する。超電導磁石装置20のメインコイル1には励磁時に大きな電流を通電することから電流リード8は十分に電気抵抗が小さく、この短い時定数を実現することが可能となる。
【0035】
図1において、励磁電源4は、電流リード8を介してメインコイル1(超電導コイル)及びPCS2(永久電流スイッチ)と電気的に接続されており、PCS2は、超電導状態から常電導状態に転移させるためのPCSヒータ巻線11(ヒータ)及びPCSヒータ電源12(ヒータ駆動電源)を備えている。ヒータにヒータ駆動電源から投入される電流が、電流リード8の少なくとも一部分を経由してヒータに流れるように構成されている。また、PCSヒータ電源12は、交流駆動となっている。詳細については後述する。
【0036】
メインコイル1の励磁回路の一部を利用することにより、ヒータ励磁回路からの入熱量をゼロとすることができ、冷凍機の負荷を低減することが可能となる。なお、本ヒータおよびヒータ励磁回路は高速にPCS2をオフするためのものであり、超電導コイル1を励磁するために必要なPCS2をオフ状態に維持するためのヒータおよびヒータ電源については別途実装する(図示せず)。
【0037】
<ヒータ交流駆動>
高速遮断時には遮断器6によって励磁電源4が回路から切り離されるので、PCSヒータ電源12からメインコイル1(超電導コイル)側を眺めた場合、PCSヒータ電源12にはメインコイル1、PCS2(PCS超電導巻線)及びPCSヒータ巻線11(ヒータ)が、メインコイル1の励磁回路に並列に接続されることになる。したがって、コンデンサバンクから投入されるエネルギー(電流)は、それぞれのインピーダンスに応じて配分される。
【0038】
ヒータのインピーダンス(交流抵抗分+ヒータの直流抵抗)がメインコイル1及びPCS2の超電導巻線部のインピーダンスよりも十分に大きい場合には、分流によってヒータに流れる電流(すなわち投入エネルギー)が減ることになる。メインコイル1のインダクタンスに比べPCS2の超電導巻線のインダクタンスは十分に小さいから、PCS超電導巻線とヒータとの間での電流配分がメインとなる。
【0039】
PCS超電導巻線は従来のPCSでは一般には無誘導巻きで構成されておりインダクタンスはほとんどゼロであるが、本実施形態ではヒータの抵抗が0.5Ωであり、ヒータエネルギー投入の時定数が十分には短くないため分流を抑制するためにPCS超電導巻線には若干のインダクタンスを持たせて設計することが必要である。本実施形態の磁石ではPCS超電導巻線のインダクタンスはおよそ0.01Hとなるように構成した。
【0040】
分流をほとんどゼロにするためには、さらに速い電流変化速度でエネルギーを投入する必要がある。そのための構成としては、コンデンサバンクに半導体スイッチング素子などでフルブリッジを構成し、ヒータから見たコンデンサバンクの電圧極性をエネルギー投入時定数にくらべて十分に速く切り替えることでこれを実現できる。
【0041】
<ブロッキングコンデンサ>
本実施形態の磁石では、クエンチ時のメインコイル焼損防止のために外部保護抵抗の抵抗値を大きく(例えば、10Ω)してエネルギー回収速度が大きくなるように設計している。PCSヒータ巻線11(ヒータ)の電気抵抗がこの保護抵抗よりも小さい場合には、エネルギー回収過程で電流は外部保護抵抗よりもヒータ抵抗に流れ、その結果エネルギーの大部分をヒータで回収することになる。これを防止する対策が必要である。
【0042】
図3は、第1実施形態に係る超電導磁石装置20Aを示す回路図である。前記ヒータでエネルギーの大部分を回収することを防止するためには、
図3に示すようにヒータ回路には直流電流が流れないようにブロッキングコンデンサ13を設置するとよい。
【0043】
ヒータは直流電源で駆動することが分流抑制のために望ましいが、ブロッキングコンデンサ13を配置する場合にはヒータは直流で駆動できないから、フルブリッジを備えた交流駆動が必須となる。十分に速い交流電流に対してブロッキングコンデンサ13のインピーダンスはほぼゼロと見做せるのでヒータ動作に影響を与えない。
【0044】
<回路シミュレーションモデル>
図4は、第1実施形態に係る回路シミュレーションモデルを示す説明図である。PCSヒータ電源12は、コンデンサバンクCAとスイッチング素子(スイッチSW1,SW2,SW3,SW4)のフルブリッジ回路とで模擬した。本実施形態ではスイッチング速度を10kHzとしたが、このスイッチ動作によって直流電圧で構成されたコンデンサバンクCAが交流電源と見做せるようになり、電流変化速度が増加することによってPCS2のPCS超電導巻線のインピーダンスが大幅に増加、分流を抑制することが可能となる。なお、スイッチング素子には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等を使用する。
【0045】
<シミュレーション結果>
図5は、第1実施形態に係る回路シミュレーションモデルの結果を示す電流の時間変化図である。
図5を用いて、本実施形態の磁石のPCS動作に関わる回路シミュレーションの結果を示す。エネルギー投入0.1秒の時間スケールに対して、スイッチング周波数が10kHzと高速なためグラフでは塗りつぶされたように見えており電流の変化が見えてなくなっている。包絡線からコンデンサバンクCAの容量とヒータ回路の電気抵抗で決まる時定数の減衰特性となっており、時定数は直流動作と同じように約24msecとなっていることが分かる。
【0046】
また、メインコイル1及びPCS2のPCS超電導巻線への電流分流(メインコイルへのもれ電流、PCSへのもれ電流)は、ヒータへの時刻ゼロにおける電流が700Aに対し、それぞれμAオーダ(ほぼゼロ)、1Aオーダとなっておりほとんど無視でき、コンデンサバンクCAのエネルギーがヒータ(PCSヒータ)にほとんど投入されていることが分かる。
【0047】
図6は、第1実施形態に係る超電導磁石装置20Aを示す構成図である。
図6は、
図3及び
図4に基に超電導磁石装置の構成を示したものである。
図6において、クライオスタット10中に超電導コイルであるメインコイル1と、PCS2、ヒータであるPCSヒータ巻線11、ブロッキングコンデンサ13は配置されている。励磁電源4は、電流リード8を介してメインコイル1及びPCS2(永久電流スイッチ)と電気的に接続されており、PCS2は、超電導状態から常電導状態に転移させるためのPCSヒータ巻線11(ヒータ)及びPCSヒータ電源12(ヒータ駆動電源)を備えている。PCSヒータ電源12は、コンデンサバンクCAとスイッチング素子(スイッチSW1,SW2,SW3,SW4)のフルブリッジ回路で構成されている。PCSヒータ巻線11にPCSヒータ電源12から投入される電流が、電流リード8を経由してPCSヒータ巻線11に流れるように構成されている。
図6において、ブロッキングコンデンサ13の電流リード8への接続箇所は、電流リード8の先端である必要はなく、電流リード8の途中に接続してもよい。同様に、PCSヒータ巻線11の電流リード8への接続箇所は、電流リード8の先端である必要はなく、電流リード8の途中に接続してもよい。なお、メインコイル1を励磁するためにはPCS2を定常的にオフ状態を実現する必要があるが、そのためのPCS2に設置される定常ヒータおよびこのヒータを駆動するためのヒータ電源については省略してある。
【0048】
本実施形態の超電導磁石装置20Aでは、永久電流スイッチの超電導巻線部を常電導転移させるためのヒータを超電導巻線部に設置し、ヒータ駆動用のエネルギーを蓄積したコンデンサバンクCAを備え、コンデンサバンクCAからヒータに電力を投入するための電気回路の一部が超電導磁石の励磁回路の低抵抗電流リードを共用するように構成される。これにより、超電導巻線を高速に常電導転移可能とし、超電導磁石装置の高速遮断ができる。
【0049】
≪第2実施形態≫
第1実施形態は、PCS2のヒータ駆動方式について示したが、第2実施形態では、PCS2を有しないドライブモード磁石のクエンチ防止用のクエンチヒータとしての利用を説明する。
【0050】
<REBCO磁石のクエンチバック>
クエンチヒータによる磁石保護は蓄積エネルギーの大きな低温超電導磁石で利用されているが、クエンチ伝搬速度の遅い酸化物超電導磁石においては蓄積エネルギーの大小に関わらず異常電圧発生時の超電導の焼損防止のために利用されることがある。酸化物超電導体は臨界温度が高いことから、酸化物超電導コイル巻線をノーマル状態(抵抗状態)にするためには大きなエネルギーを必要とするため、第1実施形態で示したヒータエネルギー投入方式は有効である。なお、REBCOは、REBa2CuOx(REは希土類元素)で表わされる組成式を持つ銅酸化物超伝導体を指す略称である。
【0051】
図7は、第2実施形態に係る超電導磁石装置20Bを示す回路図である。
図8は、第2実施形態に係る超電導磁石装置20Bを示す構成図である。
図7及び
図8を用いて、クエンチヒータ14を備える超電導磁石について説明する。
【0052】
ヒータがPCS巻線部を昇温するように設置されるのと同様に、クエンチヒータ14(ヒータ)は超電導コイル巻線を昇温するために設置されている。クエンチヒータ14にクエンチヒータ電源15(ヒータ駆動電源)から投入される電流が、電流リード8の少なくとも一部分を経由してヒータに流れるように構成されている。クエンチ伝搬速度が大きな低温超電導磁石では、ヒータは超電導巻線の一部分に付ければよいが、クエンチ伝搬速度が遅い高温超電導磁石では超電導コイル巻線全体に渡ってヒータを配置するのが望ましい。例えば、非特許文献2では積層パンケーキコイルで構成された酸化物超電導マグネットの各パンケーキコイル間には間にステンレス製のヒータが挿入されている。
【0053】
クエンチヒータ電源15は、コンデンサバンクCAとスイッチング素子(スイッチSW1,SW2,SW3,SW4)のフルブリッジ回路で構成されている。コンデンサバンクCAからヒータエネルギーを投入する本方式では、バッテリなどを用いるよりも安価にヒータ電源を構成できるとともにより高速にエネルギーが投入できることが利点である。さらには、コンデンサバンクCAに蓄積されているエネルギー量しかヒータにはエネルギーが投入されないから、バッテリや電源装置などのアクティブな電源と比べると、ヒータそのものの焼損防止回路(投入エネルギー量の制御)が不要となりより好ましい。
【0054】
本実施形態の超電導磁石装置20Bでは、超電導巻線部を常電導転移させるためのヒータを超電導巻線部に設置し、ヒータ駆動用のエネルギーを蓄積したコンデンサバンクCAを備え、コンデンサバンクCAからヒータに電力を投入するための電気回路の一部が超電導磁石の励磁回路の低抵抗電流リードを共用するように構成される。これにより、超電導巻線を高速に常電導転移可能とし、超電導巻線焼損を防止できる。
【0055】
本発明の電磁石装置は、高温超電導永久電流モード磁石全般とくにMRI装置、NMR装置用に適用できる。また、ドライブモード運転、永久電流モード運転に関わらず高温超電導磁石のクエンチ保護に利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 メインコイル(超電導コイル、超電導電磁石)
2 PCS(永久電流スイッチ)
3 PCSヒータ巻線(PCSヒータ、ヒータ)
4 励磁電源(直流電源)
5 保護抵抗
6 遮断器
7 PCSヒータ電源
8 電流リード
10 クライオスタット
11 PCSヒータ巻線(PCSヒータ、ヒータ)
12 PCSヒータ電源(ヒータ駆動電源)
13 ブロッキングコンデンサ(コンデンサ)
14 クエンチヒータ(ヒータ)
15 クエンチヒータ電源(ヒータ駆動電源)
20,20A,20B 超電導磁石装置
CA コンデンサバンク
SW1,SW2,SW3,SW4 スイッチ