(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】GaAsインゴットの製造方法及びGaAsインゴット
(51)【国際特許分類】
C30B 29/42 20060101AFI20241024BHJP
C30B 11/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C30B29/42
C30B11/00 Z
(21)【出願番号】P 2023147887
(22)【出願日】2023-09-12
【審査請求日】2023-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2022150753
(32)【優先日】2022-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】砂地 直也
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/005731(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/008663(WO,A1)
【文献】特表2010-526755(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0190696(US,A1)
【文献】特開2012-246156(JP,A)
【文献】特開2012-006829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/42
C30B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
種結晶、ドーパントであるSi原料、GaAs原料及び封止剤である酸化ホウ素をルツボ内に収容して縦型ボート法で結晶成長を行う、GaAsインゴットの製造方法において、
前記GaAs原料は、Si濃度がGaAsに対して20~200wtppmであるSiドープGaAsであり、
前記Si原料のチャージ量がGaAsに対して200~300wtppmであり、
前記酸化ホウ素が、Si換算で5mol%超のSiO
2を含み、
前記Si原料、前記GaAs原料及び前記酸化ホウ素を加熱により溶融した後、液状の酸化ホウ素を攪拌しながら結晶成長を行う、GaAsインゴットの製造方法。
【請求項2】
直胴部の直径が140mm以下のGaAsインゴットの製造方法であって、前記GaAs原料中のSiと前記Si原料とを合計した、シリコンチャージ合計量がGaAsに対して300wtppm超となる、あるいは、
直胴部の直径が140mm超のGaAsインゴットの製造方法であって、前記Si原料のチャージ量がGaAsに対して200~250wtppmであり、前記GaAs原料中のSiと前記Si原料とを合計した、シリコンチャージ合計量がGaAsに対して250wtppm超となる、請求項1に記載のGaAsインゴットの製造方法。
【請求項3】
4インチ用の
SiドープGaAsインゴットであって、前記直胴部の70%以上から得られる
4インチウエハが、キャリア濃度が1.5×10
18~2.9×10
18cm
-3であり、かつ、エッチピット密度の最大値が1200cm
-2以下である、あるいは
直胴部の直径が140mm超の
SiドープGaAsインゴットであって、前記直胴部の70%以上から得られるウエハが、キャリア濃度が1.5×10
18~2.9×10
18cm
-3であり、かつ、エッチピット密度の最大値が1500cm
-2以下である、
SiドープGaAsインゴット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaAsインゴットの製造方法及びGaAsインゴットに関する。
【背景技術】
【0002】
GaAs単結晶ウエハ(以下、GaAsウエハともいう。)を得るためのGaAs単結晶(以下、GaAsインゴットともいう。)の製造方法として、引き上げ(LEC)法、横型ボート(HB)法、縦型温度傾斜(VGF)法及び縦型ブリッジマン(VB)法が知られている。単結晶の種結晶を起点とし、これらの製造方法により結晶成長させた単結晶の直胴部を有する塊がインゴットであり、そのインゴットの直胴部からウエハが切り出される。同一のGaAsインゴットからは、複数のGaAsウエハが得られ、これら複数のウエハはウエハ群ともいわれる。
【0003】
ここで、縦型温度傾斜(VGF)法及び縦型ブリッジマン(VB)法といった縦型ボート法は、ルツボの底部に種結晶を配置し、その種結晶の上層に単結晶の原料融液と封止剤の液体を配置して、当該ルツボを所定の温度分布から冷却することにより、原料融液の下部から上方に向けて結晶を成長させる方法である。縦型温度傾斜法(VGF法)の場合、温度そのものを降温し、縦型ブリッジマン法(VB法)の場合、当該ルツボを所定の温度分布内で相対的に移動させる。SiドープGaAs単結晶インゴットを製造する場合には、GaAs融液中にSiを添加する。揮発成分であるAsがインゴットから解離するのを防ぐ目的などのため、通常、封止剤として酸化ホウ素(B2O3)が用いられる。結晶成長中、GaAs融液と液体B2O3との界面では、以下の反応式(1)による酸化還元反応が起きることが知られている。
3Si(Melt中)+2B2O3=3SiO2(B2O3中)+4B(Melt中)・・・(1)
【0004】
縦型ボート法は原料融液の下部から上方に向けて結晶を成長させるため、結晶に取り込まれなかった不純物は融液中に濃縮される。ここで、キャリア濃度を高めるべくGaAs融液中に添加するドーパントのSi(つまり、GaAs原料とともに投入するSi結晶)を多量にすると、上記反応式(1)の平衡が右辺側に進行し、GaAs融液中にホウ素(B)が多量に移動するため、結晶成長が進み不純物の濃縮が進むにつれて砒化ホウ素の発生も進行し、高い結晶性を得ることができなくなる。つまり、この製造方法で得られるGaAs単結晶においては、キャリア濃度と結晶性とがトレードオフの関係にある。
【0005】
特許文献1には、縦型ボート法において、GaAs融液と液体B2O3の界面に板状の
固体の二酸化ケイ素を配置して、高いキャリア濃度と高い結晶性を有するGaAs単結晶
を製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、半導体レーザーの中でも、VCSEL(垂直共振器型面発光レーザー)をはじめとる面発光レーザーの活用が活発に進められ、光通信、光センシング等に応用されている。これらの用途では、素子基板としてシリコン(Si)ドープ型のn型GaAsウエハが用いられ、GaAsウエハには、キャリア濃度が厳密に制御され、かつ低転位密度であることが求められる。具体的には、キャリア濃度は1.5×1018cm-3以上2.9×1018cm-3以下の範囲とすることが望ましく、また、低転位密度であることについては、6インチ未満(例えば、4インチ以下)のウエハでは、エッチピット密度の最大値が1200cm-2以下、6インチ以上のウエハではエッチピット密度の最大値が1500cm-2以下とすることが望ましい。
【0008】
特許文献1に開示されるGaAsインゴットからは、これらのキャリア濃度とエッチピット密度の最大値の条件を満たすウエハが限定的な数量しか得られず、生産性の点から課題を残していた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
結晶成長においては、Siの偏析によって、結晶化が進むにつれてGaAs融液中のSi濃度が上昇し、インゴットのシード側からテイル側に向けてSi濃度と共にキャリア濃度も上昇するのが通常である。インゴットの直胴部のシード側において下限となるキャリア濃度を1.5×1018cm-3以上にしようとGaAs融液に添加するドーパントとしてのSi原料の量を増やすと、結晶成長の初期に多結晶化が発生してしまい単結晶のインゴットが得られない場合が生じるようになる。例えば、4インチ用のGaAsインゴットの製造において、Siを含まないGaAs原料を使用して、ドーパントとしてSi原料を300wtppmよりも多く入れると、多結晶が発生しやすくなる。そこで、本発明者は、上述の課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、種結晶、ドーパントであるSi原料、GaAs原料及び封止剤である酸化ホウ素をルツボ内に収容して縦型ボート法で結晶成長を行うGaAsインゴットの製造方法において、ドーパントとしてSi原料を使用することに加え、原料であるGaAs原料に所定量のSiをドープさせるとともに、封止剤である酸化ホウ素に所定量のSiO2を含有させることで、結晶成長中のGaAs融液のSi濃度を制御することを通して、融液中の合計のSi量が、GaAs原料に所定量のSiをドープさせない場合には多結晶を発生させる場合がある量(例えば4インチ用で300wtppm)を超えていてもインゴットを多結晶化させることなく、インゴットの直胴部の大部分においてキャリア濃度及びエッチピット密度を所望の範囲内にすることができることを見出し、本発明を完成させた。以降、ドーパントとしてのSi原料のSi量に、GaAs原料中のSi量を足した量について、シリコンチャージ合計量と記載する。
【0010】
本発明の要旨構成は以下のとおりである。
[1]種結晶、ドーパントであるSi原料、GaAs原料及び封止剤である酸化ホウ素をルツボ内に収容して縦型ボート法で結晶成長を行う、GaAsインゴットの製造方法において、
前記GaAs原料が、Si濃度がGaAsに対して20~200wtppmであるSiドープGaAsであり、
前記Si原料のチャージ量がGaAsに対して200~300wtppmであり、
前記酸化ホウ素が、Si換算で5mol%超のSiO2を含み、
前記Si原料、前記GaAs原料及び前記酸化ホウ素を加熱により溶融した後、液状の酸化ホウ素を攪拌しながら結晶成長を行う、GaAsインゴットの製造方法。
[2]直胴部の直径が140mm以下のGaAsインゴットの製造方法であって、前記GaAs原料中のSiと前記Si原料とを合計した、シリコンチャージ合計量がGaAsに対して300wtppm超となる、あるいは、
直胴部の直径が140mm超のGaAsインゴットの製造方法であって、前記Si原料のチャージ量がGaAsに対して200~250wtppmであり、前記GaAs原料中のSiと前記Si原料とを合計した、シリコンチャージ合計量がGaAsに対して250wtppm超となる、[1]に記載のGaAsインゴットの製造方法。
[3]直胴部の直径が140mm以下のGaAsインゴットであって、前記直胴部の70%以上から得られるウエハが、キャリア濃度が1.5×1018~2.9×1018cm-3であり、かつエッチピット密度の最大値が1200cm-2以下である、あるいは
直胴部の直径が140mm超のGaAsインゴットであって、前記直胴部の70%以上から得られるウエハが、キャリア濃度が1.5×1018~2.9×1018cm-3であり、かつエッチピット密度の最大値が1500cm-2以下である、GaAsインゴット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、キャリア濃度が厳密に制御され、かつ低転位密度であるGaAsウエハを効率よく得られるGaAsインゴット及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のGaAsインゴットの模式図である。
【
図2】エッチピット密度(EPD)の測定のため、6インチウエハに69点のエリアを設定した模式図である。
【
図3】本発明のGaAsインゴットの製造に用いられる製造装置の断面模式図である。
【
図4】本発明のGaAsインゴットの製造に用いられるルツボ3の断面模式図であり、結晶成長開始前の原料等を充填した状態に対応する。
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。
【0014】
<GaAsインゴット>
(GaAsインゴットのシード側、中央部及びテイル側)
図1は、本発明のGaAsインゴットの模式図であり、コーン部から直胴部に変わる位置15、位置15から位置17までの長さの半分の位置(中間)16及び直胴部が終わる位置17の各位置が示されている。GaAsインゴットは種結晶6(シードともいう)から増径する領域19(コーン部ともいう)を介して直径が略同一の直胴部18を有する。直胴部が終わる位置17から先の成長完了までをテイルという。コーン部から直胴部に変わる位置15からウエハ加工に供される直胴部が終わる位置17までの長さを100%として、前者の位置15を0%、後者の位置17を100%とした場合、0~5%の範囲を直胴部のシード側(以下、単にシード側ともいう)、40~60%の範囲を直胴部の中央部(以下、単に中央部ともいう)、88~100%の範囲を直胴部のテイル側(以下、単にテイル側ともいう)という。直胴部が終わる位置17(100%の位置)は、インゴット全体の体積を100%としたときの体積90%の位置(結晶化率90%の位置)とする。
図1に、位置15と位置17の中間(50%)の位置16を示す。以降、位置16を単に中間ともいう。
直胴部における各ウエハの位置が直胴部のシード側の端から何パーセントの位置かを示したものを「直胴シードからの位置」とも記載する。GaAsインゴットは、シード側15からテイル側17に向けて固液界面が移動して結晶成長が行われる。
【0015】
本発明に従うGaAsインゴットに関するキャリア濃度及びエッチピット密度(EPD)の平均値と最大値はGaAsインゴットの直胴部18から得られるウエハに対する測定を行うことで得ることができる。
【0016】
GaAsインゴット18の直径は特に限定されず、140mm未満であっても140mm以上であってもよい。GaAsインゴット18の直径は、例えば50mm以上140mm未満、140mm以上162mm以下とすることができる。
ウエハのサイズは、GaAsインゴットの直胴部18の径により、適宜選択することができ、例えば2~8インチとすることができる。GaAsインゴット18の直径140mm未満の場合、通常、ウエハのサイズは6インチ未満であり、GaAsインゴット18の直径140mm以上の場合、通常、ウエハのサイズは6インチ以上である。
【0017】
<GaAsインゴットの製造方法>
本発明に従うGaAsインゴットの製造方法は、種結晶、ドーパントであるSi原料、GaAs原料及び封止剤である酸化ホウ素をルツボ内に収容して縦型ボート法で結晶成長を行う方法である。縦型ボート法としては、縦型温度傾斜(VGF)法又は縦型ブリッジマン(VB)法のいずれも用いることができる。
【0018】
以下、
図3及び
図4を参照して本製造方法をより詳細に説明する。
【0019】
(製造装置と温度制御)
図3は、本発明に従うGaAsインゴットの製造方法で使用するための製造装置の一例について、断面図を模式的に示したものである。
図3に示す製造装置は、外部より真空排気及び雰囲気ガス充填が可能な気密容器7と、気密容器7内の中央に配置されたルツボ3と、ルツボ3を収容保持するルツボ収納容器(サセプタ)2と、ルツボ収納容器(サセプタ)2を昇降及び/又は回転させる機構14(昇降・回転ロッドのみ図示する)と、気密容器7内においてルツボ収納容器(サセプタ)2を取り囲むように装備されたヒーター1を備えている。
ルツボ3上部には、回転及び上下移動可能な攪拌翼20を取り付けた上部ロッド21が配置されている。攪拌翼20と上部ロッド21は攪拌手段を形成するが、攪拌翼20は上部ロッド21から取り外し可能であり、上部ロッド21には封止剤収納容器や、他の部材を取り付けることができる。
ルツボ3は、熱分解窒化ホウ素(PBN:Pyrolytic Boron Nitride)よりなるものを用いることができる。
図3では、ルツボ3には、種結晶6、化合物半導体原料5(原料融液ともいう)、封止剤としての酸化ホウ素(B
2O
3)4が充填され、気密容器7内は一例として不活性ガス8が充填された状態となっている。
【0020】
図4は、本発明に従うGaAsインゴットの製造方法で使用するためのルツボの一例について、断面図を模式的に示したものであり、結晶成長開始前の原料等を充填した状態に対応する。
図4に示すルツボ3の中には、種結晶6とGaAs原料9と、ドーパントであるSi原料10、封止剤である酸化ホウ素4が充填される。
図4では、GaAs原料9は、GaAs多結晶の破砕物(9A)のほかに、円筒状のGaAs多結晶(9B)、円板状のGaAs多結晶(9C)を用意して、Si原料を円筒状のGaAs多結晶(9B)と円板状のGaAs多結晶(9C)により作られる容器内に配置しているが、このような態様に限定されず、例えばGaAs多結晶の破砕物のみを充填してもよい。
【0021】
これらの充填が終了した後、不活性ガスを充填した成長炉内において、種結晶6が融解しないように、種結晶6側の温度が低くなるようにPID制御されたヒーターにより温度傾斜をかけながら、GaAs原料9をGaAsの融点の1238℃以上まで昇温させて、GaAs原料9と酸化ホウ素4を融解させ、Si原料10をGaAs原料9に溶解させる。次いで、種結晶6付近の温度を上昇させ種結晶6の上部が融解したところで、温度傾斜をかけながら全体の温度を徐々に下げることで、GaAsインゴットを得ることができる。この際、降温速度は10℃/h以下とすることが好ましい。
【0022】
(攪拌)
本発明に従うGaAsの製造方法においては、結晶成長中に、液状の酸化ホウ素4を攪拌する。直胴部のシード側において結晶成長が開始する時点から中間に至るまでの間(直胴シードからの位置が1~50%まで)で攪拌を開始していることが好ましい。攪拌は、直胴部のテイル側の結晶成長が終わるまで継続することが好ましく、結晶成長が終了するまで継続してもよい。
【0023】
攪拌は、攪拌手段を封止剤(酸化ホウ素4)内に配置して回転することにより行うことが好ましい。本発明では、結晶成長の開始から攪拌開始までは封止剤にSiをできるだけ吸収させずに原料融液中のSi濃度を比較的高い状態で維持することが望ましく、攪拌は偏析によるSi濃度の極端な上昇を抑制する目的で最小限に使用される。そのため、回転数は、直胴部のシード側からテイル側に向けて階段状に変化させても連続的に変化させてもよいが、到達する最大の回転数は、3rpm以下とすることが好ましい。
攪拌手段は、攪拌翼20が回転軸の周囲に取り付けられた形状であることができる。
攪拌翼20の形状は、特に限定されず、所定形状の板状部材からなることができ、例えば、2~8枚の略四角形状の板状部材からなるものが挙げられ、素材としてカーボン、BN等が挙げられる。板状部材は、原料融液と酸化ホウ素4が静止状態で形成する界面に対して、45°以上135°以下の傾斜角度で取り付けられていることが好ましい。
攪拌翼20は、攪拌手段を回転したときの回転軌跡が形成する面積が、原料融液と酸化ホウ素4が静止状態で形成する界面の面積の30%以上となる大きさであることが好ましく、より好ましくは70%以上である。
攪拌翼20の下端と、原料融液と酸化ホウ素4が静止状態で形成する界面との距離は2mm未満であることが好ましく、好ましくは1mm以下である。ただし、界面に攪拌翼20の下端が接触しないようにすることが好ましい。
【0024】
攪拌は、結晶成長が中間まで進んだタイミングで0.5rpm以上の回転数で攪拌していることが好ましく、2.5rpm以上の回転数で攪拌していることがより好ましい。中間を超えた後に融液中のSiの偏析が増えてキャリア濃度が2.5×1018cm-3を超えてくる傾向があるため、その頃に強く攪拌することで融液中のSiの封止剤内への吸収を促進し、偏析によるSi濃度の急上昇を抑制して転位の発生とキャリア濃度の急上昇を抑制するようにするためである。
【0025】
(種結晶)
種結晶6は特に限定されず、公知の種結晶を用いることができる。種結晶6のサイズは特に制限されず、ルツボ3の内径を径とする断面積に対して、例えば1~20%の断面積を有していればよく、3~17%の断面積を有していることが好ましい。成長しようとする結晶の径が100mmを超える場合には、種結晶6の断面積は、ルツボ内径を径とする断面積に対して2~10%とすることができる。
【0026】
(ルツボ内径とウエハサイズ)
ルツボ3の内径は、目的とするウエハサイズよりも僅かに大きいことが好ましい。目的とするウエハサイズは、例えば2インチ以上とすることができ、3インチ以上が好ましい。ウエハサイズの上限は特に限定されず、例えば8インチ以下とすることができる。直胴部の直径が140mm以下のインゴットからは例えば直径2インチ~4インチのウエハが作製され、直胴部の直径が140mm超のインゴットからは例えば直径6インチ~8インチのウエハが作製される。
【0027】
(GaAs原料)
GaAs原料として、Si濃度がGaAsに対して20~200wtppmであるSiドープGaAsを使用する。使用するGaAs原料は多結晶でも単結晶でもよい。GaAs原料においてSi濃度とは、ホール測定により測定されるキャリア濃度より算出されるSi濃度のことをいう。キャリア濃度より算出されるSi濃度がこの範囲であれば、後述するSi原料10と合算してのGaAsに対するシリコンチャージ合計量が多くても結晶成長において単結晶化が阻害されず、かつ、得られるGaAsインゴット中のキャリア濃度を所望の範囲に容易に制御することができる。GaAs原料は融かして使用するため、使用するGaAs原料全体での平均のSi濃度が上記範囲となるようにすればよく、異なるSi濃度を持つGaAs原料を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
ここで、キャリア濃度より算出されるSiドープGaAs多結晶のSi濃度は、以下のようにして測定して計算することができる。なお、単結晶の場合も同様の方法で計算することができる。なお、以下のキャリア濃度からSi濃度への換算方法は、GaAsのドーパントはSiであり、他のp型ドーパントやn型ドーパントは意図的には含まれていないものとした場合のものである。
<ホール測定によるキャリア濃度>
・SiドープGaAs多結晶のシード側とテイル側について、厚さ約1mmのウエハ状物を切り出す。
・多結晶であるウエハ状物の、できるだけ大きな結晶粒界から□10mmサイズでケガキ針でキズを付け、ウエハ状物の中央部から□10mmサイズでサンプルを切り出す。
・サンプルの4隅にインジウム電極を付けて330~360℃に加熱した後、Van der Pauw法によりキャリア濃度を測定する。
【0029】
<活性化率を用いてのSi濃度への換算>
・活性化率を48%として、キャリア濃度の値を0.48で割ることによりSi原子濃度の値(cm
-3)を算出する。
・GaAsのバルク密度(5.3161g/cm
3)とアボガドロ数、Siの原子量(28.1)を用いて、Si原子濃度の値の単位(cm
-3)から単位(wtppm)に換算する。
【数1】
【0030】
GaAs原料としてのSiドープGaAsの合成方法は限定されず、縦型ボート法によりルツボ内で合成を行う方法、横型ボート法によりアンプル中に設置されたボート内で合成を行う方法等を用いることができ、合成の際に、所望のGaAsに対するSi濃度に応じた量のSi原料をチャージする。
【0031】
縦型ボート法を用いる場合、例えば、ルツボに、高純度Ga、高純度As及びSi原料(例えば、高純度Siのショットや高純度Si基板の破砕物)を充填し、結晶成長させて、SiドープGaAs多結晶を得ることができる。ルツボへの充填は、高純度Asの半量、Si原料の全量、高純度Asの残りの半量、高純度Gaの順で行うことができるが、充填の順序はこれに限定されない。GaAs多結晶の合成においては、Siのドープの促進の点と、GaAs原料として用いた際のGaAs融液中のホウ素量を抑制する点から、封止剤である酸化ホウ素を用いないことが好ましい。
【0032】
GaAs原料としてのSiドープGaAsには、他のSiドープしたGaAs単結晶インゴットにおけるウエハに加工しない直胴部以外の部分(コーン部や直胴部のテイル側以降の領域)や、ウエハ加工時に生じる不要部分を、加工したり砕いたりしたリサイクル品を使用することもできる。
【0033】
(ドーパント)
ドーパントとしてSi原料10を使用する。Si原料10は、高純度Siのショットや高純度Si基板の破砕物であることができ、GaAs原料9中に添加する。
Si原料10のチャージ量は、GaAs原料9のGaAsに対して、200~300wtppmの量とする。220~300wtppm以上とすることがより好ましく、240~290wtppmとすることがさらに好ましい。
【0034】
直胴部の直径が140mm以下のインゴットに対しては、上記のGaAs原料中のSiと当該Si原料10とを合計したシリコンチャージ合計量は、GaAsに対して300wtppm超となることが好ましい。このとき、Si原料10のチャージ量はGaAsに対して220~300wtppm以下とすることがより好ましい。
直胴部の直径が140mm超のインゴットに対しては、Si原料10のチャージ量はGaAsに対して200~250wtppmとすることが好ましく、220~250wtppmとすることがより好ましく、上記のGaAs原料中のSiと当該Si原料10とを合計したシリコンチャージ合計量は、GaAsに対して250wtppm超となることが好ましい。
例えば、4インチ用のGaAsインゴットの製造において、Siを含まないGaAs原料を使用して、ドーパントとしてSi原料を300wtppmよりも多く入れると、多結晶化する傾向があり、また、6インチ用のGaAsインゴットの製造において、Siを含まないGaAs原料を使用して、ドーパントとしてSi原料を250wtppmよりも多く入れると、多結晶化する傾向がある。しかしながら、本発明のように、GaAs原料に予めSiを含めておいた場合には、シリコンチャージ合計量をそのような量としても、多結晶化させずにGaAs融液中にSiを含ませることが可能となり、直胴部全体のキャリア濃度を高めることができる。
シリコンチャージ合計量を上記のように制御すれば、結晶成長において単結晶化が阻害されず、かつ得られるGaAsインゴット中のキャリア濃度を所望の範囲に容易に制御することができる。
ここで、Si原料10のチャージ量には、SiドープGaAs原料及び酸化ホウ素に含まれているシリコンの量は含めない。シリコンチャージ合計量には、酸化ホウ素に含まれているシリコンの量は含めない。
【0035】
Si原料10は、ルツボの中央(インゴットの中央部に相当する位置)よりも下(種結晶側)に配置することが好ましい。Si原料10をGaAs容器に入れて、GaAs容器が融ける温度まで中のドーパントが容器の外に出ないようにしてもよい。シリコンはGaAsよりも密度が低いため、融液中、ドーパント(シリコン)が浮き上がってしまい、種結晶側のGaAs融液中のシリコン濃度が低くなって、GaAsインゴットのシード側のシリコン濃度が低くなるおそれがあるが、GaAs容器の使用は、そのような事態を回避する上で有効である。GaAs容器には、GaAs原料を加工して使用することができ、SiドープGaAs単結晶を加工してもよく、SiドープGaAs多結晶を加工したものでもよい。
【0036】
本発明の効果を損なわない範囲で、Si原料10以外には、両性のドーパントを使用することができ、例えば、高純度In、インジウム化合物(例えば、高純度ヒ化インジウム(InAs)等)等のIn原料が挙げられる。
【0037】
それ以外のドーパントとして考えられる元素としては、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、炭素(C)、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、窒素(N)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、さらには、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、クロム(Cr)、アンチモン(Sb)が挙げられるが、これらの元素は、不可避的に混入される量は許容されるが、意図して添加されていないことが好ましい。
【0038】
(封止剤)
封止剤として酸化ホウ素(B2O3)4を使用する。酸化ホウ素4は、Si換算で5mol%超のSiO2を含む。この範囲であれば、B2O3が原料融液のSiを吸収する量が抑制され、また、B2O3のBが単結晶に取り込まれることを防止し、攪拌を行うときも原料融液のSi濃度を適切な範囲に制御することができる。酸化ホウ素4に含まれるSiO2の量は、Si換算で、好ましくは6mol%以上である。酸化ホウ素が固溶可能なSiの量に限界があることから、酸化ホウ素4に含まれるSiO2の量は、Si換算で、10mol%以下とすることができ、好ましくは7mol%以下である。
【0039】
封止剤である酸化ホウ素4は、GaAs原料9に対して、原料融液からのAs抜け抑制の点から、0.02wt%以上とすることができ、好ましくは0.03wt%以上であり、また、攪拌される封止剤が取り込むSi量が過剰にならないようにする点から、0.10wt%以下とすることができ、好ましくは0.06wt%以下である。
【0040】
本発明に従うGaAsインゴットの製造方法によれば、直胴部の直径が140mm以下のGaAsインゴットであって、直胴部の70%以上(好ましくは90%以上)から得られるウエハが、キャリア濃度が1.5×1018~2.9×1018cm-3であり、かつエッチピット密度の最大値が1200cm-2以下であるか、あるいは直胴部の直径が140mm超のGaAsインゴットであって、前記直胴部の70%以上から得られるウエハが、キャリア濃度が1.5×1018~2.9×1018cm-3であり、かつエッチピット密度の最大値が1500cm-2以下である、GaAsインゴットが得られる。
【0041】
すなわち、GaAsインゴットの直胴部の直径が140mm以下の場合、直胴部から切り出すことができるウエハ全数のうち、70%以上(好ましくは90%以上)のウエハが、キャリア濃度が1.5×1018~2.9×1018cm-3以下であり、かつエッチピット密度の最大値が1200cm-2以下の条件を満たす。エッチピット密度の最大値が1000cm-2以下であることがより好ましい。エッチピット密度の最大値の下限は特に限定されず、0であってもよい。
より好ましくは、92%以上のウエハが、上記の条件を満たす。全ウエハ(100%のウエハ)が上記の条件を満たしてもよい。
【0042】
GaAsインゴットの直胴部の直径が140mm超の場合、直胴部から切り出すことができるウエハ全数のうち、70%以上のウエハが、キャリア濃度が1.5×1018~2.9×1018cm-3であり、かつエッチピット密度の最大値が1500cm-2以下の条件を満たす。エッチピット密度の最大値の下限は特に限定されず、0であってもよい。
より好ましくは、75%以上のウエハが、上記の条件を満たす。全ウエハ(100%のウエハ)が上記の条件を満たしてもよい。
【0043】
(キャリア濃度の測定方法)
キャリア濃度は、GaAsインゴットより抜き取ったウエハからウエハ中心部の10mm×10mmのサイズを割り取り、インジウム電極を四隅に付けて330~360℃に加熱した後、Van der Pauw法によるホール測定により測定した値とする。
【0044】
(エッチピット密度(EPD:Etch Pit Density)の測定方法)
エッチピット密度(EPD)の測定は、GaAsインゴットより抜き取ったウエハの表面を硫酸系鏡面エッチング液(H2SO4:H2O2:H2O=3:1:1(体積比))で前処理した後、液温320℃のKOH融液中に35分間浸積することでエッチピットを発生させ、この数を計測することにより行う。エッチピットは、閃亜鉛鉱型結晶特有の六角形にみえる形状からなり長径(中心を通る対角線の長さ)が20μm以上のものを計測対象とする。
【0045】
エッチピット密度(EPD)の計測は、ウエハ上の69点又は37点に直径3mmのエリアを設定し、各エリアを顕微鏡で観察して発生させたエッチピットをカウントすることにより行う。
69点又は37点のエリアはウエハ全面にまんべんなく分布させることとする。
6インチウエハの場合は、69点のエリアを15mm間隔で均しく分散させた位置に設定し、3インチウエハの場合は、37点のエリアを10mm間隔で均しく分散させた位置に設定する。
69点のエリアを等しく分散させた位置に設定する場合、各エリアは、2インチウエハの場合は5mm間隔、4インチウエハは10mm間隔、8インチウエハの場合は20mm間隔になる。
図2に、6インチウエハに69点のエリアを設定した模式図を示す。
【0046】
各エリアの観察には、視野直径1.73mmとなる10倍対物レンズを使用する。全エリアについて、それぞれのエリアの中で最もピットが多く観察される視野を探してエッチピットをカウントし、エッチピットのカウント数を単位面積当たり(cm-2)に換算する。各エリアのエッチピットのカウント数の換算値のうち、最大の値をエッチピット密度(EPD)の最大値とする。また、各エリアのエッチピットのカウント数の換算値を平均した値をエッチピット密度(EPD)の平均値とする。
【0047】
本発明に従うGaAsウエハは、キャリア濃度が厳密に制御され、かつ低転位密度であり、VCSEL(垂直共振器型面発光レーザー)をはじめとる面発光レーザーの基板に好適である。
【0048】
上述したところは、本発明の代表的な実施形態の例を示したものであって、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0050】
(GaAs原料)
<GaAs原料1>
6N(純度99.9999%以上)のGaと6NのAsを合成して作製したGaAs多結晶である。
【0051】
<GaAs原料2>
6N(純度99.9999%以上)のGaと6NのAsに対して、高純度Siを350wtppm用いて、封止剤であるB2O3を用いずに、縦型ボート法により合成したSiドープGaAs多結晶である。ホール測定の測定値から換算したSi濃度はGaAsに対して80wtppmである。B2O3を用いていないため、SiドープGaAs多結晶にホウ素は添加されていない。
【0052】
<GaAs原料3>
他の単結晶インゴットにおける直胴部以外の部分を砕いたリサイクル品である。ホール測定の測定値から換算したSi濃度はGaAsに対して33wtppmである。原料中にはホウ素が含まれる。
【0053】
<GaAs原料4>
6N(純度99.9999%以上)のGaと6NのAsに対して、高純度Siを450wtppm用いて、封止剤であるB2O3を用いずに、縦型ボート法により合成したSiドープGaAs多結晶である。ホール測定の測定値から換算したSi濃度はGaAsに対して175wtppmである。B2O3を用いていないため、SiドープGaAs多結晶にホウ素は添加されていない。
【0054】
(封止剤)
<封止剤1>
Si換算で7mol%のSiO2を含むB2O3である。
【0055】
<封止剤2>
Si換算で5.3mol%のSiO2を含むB2O3である。
【0056】
(結晶番号1)
図3に示す構成を有する製造装置を用いて、GaAsインゴットの製造を行った。攪拌翼は、カーボンやBN等、結晶特性に影響しない材質の四角形状の板状部材を4枚、ロッドに取り付けたものであり、回転したときの回転軌跡が形成する面積が、GaAsの融液とB
2O
3が静止状態で形成する界面の面積の50%以上である。
【0057】
<ルツボへの原料の充填>
ルツボとして内径112mm、シード部の内径6~6.5mmのPBN製のルツボを準備した。
図4に示すように、ルツボには、11900gのGaAs原料1と(100)面が結晶成長面となるように切り出したGaAs種結晶を充填した。GaAs種結晶の直径については、各ルツボのシード部内径より0.5mm小さくなるように機械研削とエッチングを組み合わせて調整した大きさのものを用いた。GaAs原料1を充填する途中で、ドーパント(Si原料)として高純度SiのショットをGaAsに対して300wtppm充填した。Si以外に、意図して添加した不純物元素はない。なお、粒状のドーパント(Si原料)10は、円筒状のGaAs多結晶9Bの上下を円板状のGaAs多結晶9Cで挟んだGaAs容器の中に入れた状態で充填し、GaAs容器が融ける温度までは中のドーパントがGaAs容器の外に出ないようにした。
【0058】
<結晶成長>
これらの原料を充填した後、封止剤1を550g充填した。充填後のルツボをルツボ収納容器(サセプタ)にセットした。
図3に示す製造装置の内部を真空排気及びArガス置換を繰り返して不活性ガス雰囲気とした後、VGF法により単結晶を成長させた。
結晶成長工程では、まずGaAs種結晶が融解しないように、種結晶側の温度が低くなるようにPID制御されたヒーターにより温度傾斜をかけながらルツボ内の原料をGaAsの融点の1238℃以上まで昇温させて融液とした。その後、種結晶の上部が融解するように種結晶付近の温度を上昇させた後、温度傾斜をかけながら炉内全体の温度をヒーター制御により0.5℃/h以下の速度で降温していくことでSiをドーパントとしたn型のGaAsインゴットを成長させた。
コーン部が結晶成長して結晶直胴部に至る箇所までインゴットが成長した時点で、攪拌翼を封止剤内に入れ、封止剤(酸化ホウ素)と原料融液との界面と、攪拌翼の下端との距離が1mm以下で、かつ界面には下端が接触しないようにした。攪拌翼の回転速度は、回転数0rpmのままで中間まで成長し、中間からテイルにかけて0.5rpmで回転させ、テイルの成長完了まで攪拌を継続した。
得られたGaAsインゴットは、導電型としてはn型である。
【0059】
<評価>
成長させたGaAsインゴットの直胴部をワイヤーソーでスライスしてウエハ状にした。ウエハサイズは4インチ相当である。直胴部の長さは、直胴部から得られた全ウエハ枚数が297枚して、各ウエハの直胴シードからの位置を計算した。表1に示す直胴部シードからの位置から切り出したウエハに対して上述した方法でキャリア濃度を測定した。また、表1に示す直胴シードからの位置から切り出したウエハに対して、上述した方法で、EPDの平均値及び最大値を測定した。
また、表1に記載された測定したウエハ位置(1枚目から287枚目)であるシード側からテイル側までのキャリア濃度とEPDについて、各測定値間はそれぞれの測定値を直線で結んだ中間値をとるものとして算出することにより、GaAsインゴットから切り出される全ウエハ枚数(297枚)に対して、シード側からテイル側までの測定範囲のウエハのキャリア濃度が1.5×1018~2.9×1018cm-3であり、かつエッチピット密度の最大値が1200cm-2以下である割合(所定の条件を満たすウエハの割合)を算出したものを表1に示す。所定の条件を満たすウエハの割合の算出においては、測定対象のウエハのうち最もテイル側のウエハよりも外側、さらに直胴シードからの位置が100%に近い側に位置するウエハは、所定の条件を満たさないものとした。
【0060】
(結晶番号2~3)
表1に示す条件に変更したほかは、結晶番号1と同様にして、結晶番号2~3のGaAsインゴットを製造し、評価を行った。得られたGaAsインゴットは、導電型としてはn型である。
【0061】
(結晶番号4)
GaAs種結晶、GaAs原料1及び高純度Siのショットを充填した後、その上に石英板(直径51mm、厚さ5mmの円板形状)を配置し、次いで封止剤1を充填したこと以外は、結晶番号1と同様にして、結晶番号4のGaAsインゴットを製造し、評価を行った。得られたGaAsインゴットは、導電型としてはn型である。
【0062】
【0063】
表1は直胴部の直径が140mm以下のGaAsインゴットであり、結晶番号2及び3は、表1のシード側からテイル側までの測定範囲のウエハは、全ウエハ枚数(297枚)のうち96.6%が、キャリア濃度が1.5×1018~2.9×1018cm-3であり、かつエッチピット密度の最大値が1200cm-2以下の条件を満たしていた。
結晶番号1は、Siドープをしていない高純度GaAs多結晶原料を使用してGaAsインゴットを成長させた例であるが、上記の条件を満たすウエハの割合は60.9%にとどまった。
また、結晶番号4は、石英板を用いてGaAsインゴットを作製した例であり、特許文献1に対応する。この例では、石英板が攪拌によるSi濃度上昇抑制の効果を低下させるために中央部以降でのキャリア濃度の上昇を抑えることができず、上記の条件を満たすウエハの割合は67.6%にとどまった。
結晶番号1及び4は、測定対象のウエハのうち最もテイル側のウエハよりも直胴シードからの位置が100%に近い側に位置するウエハが所定の条件を満たすとしても、条件を満たすウエハの割合は70%未満である。
【0064】
(結晶番号5)
<ルツボへの原料の充填>
ルツボとして内径159.9mm、シード部の内径6.0~6.5mmのPBN製のルツボを準備した。ルツボには、20000gのGaAs原料1と(100)面が結晶成長面となるように切り出したGaAs種結晶を充填した。GaAs種結晶の直径については、各ルツボのシード部内径より約0.5mm小さくなるように機械研削とエッチングを組み合わせて調整した大きさのものを用いた。GaAs多結晶を充填する途中で、ドーパント(Si原料)として高純度SiのショットをGaAsに対し210wtppm充填した。Si以外に、意図して添加した不純物元素はない。
【0065】
<結晶成長>
これらの原料を充填した後、封止剤2を965±10g充填した。充填後のルツボをルツボ収納容器(サセプタ)にセットした。
図3に示す製造装置の内部を真空排気及びArガス置換を繰り返して不活性ガス雰囲気とした後、VGF法により単結晶を成長させた。
結晶成長工程では、まずGaAs種結晶が融解しないように、種結晶側の温度が低くなるようにPID制御されたヒーターにより温度傾斜をかけながらルツボ内の原料をGaAsの融点の1238℃以上まで昇温させて融液とした。その後、種結晶の上部が融解するように種結晶付近の温度を上昇させた後、温度傾斜をかけながら炉内全体の温度をヒーター制御により0.5℃/h以下の速度で降温していくことでSiをドーパントとしたn型のGaAsインゴットを成長させた。
コーン部が結晶成長して結晶直胴部に至る箇所までインゴットが成長した時点で、攪拌翼を封止剤内に入れ、封止剤である酸化ホウ素と原料融液との界面と、攪拌翼の下端との距離が1mm以下で、かつ界面には下端が接触しないようにした。攪拌翼20の回転速度は、回転数0rpmのままで中間まで成長し、中間からテイルにかけて0.5rpmで回転させ、テイルの成長完了まで攪拌を継続した。
得られたGaAsインゴットは、導電型としてはn型である。
【0066】
<評価>
成長させたGaAsインゴットの直胴部をワイヤーソーでスライスしてウエハ状にした。ウエハサイズは6インチ相当である。直胴部の長さは、直胴部から得られた全ウエハ枚数を161枚として、各ウエハの直胴シードからの位置を計算した。最後の切断面は、インゴットの種結晶側と反対の端から(シード側方向に)20mmの位置である。表2に示す直胴シードからの位置から切り出したウエハに対して上述した方法でキャリア濃度を測定した。また、表2に示す直胴シードからの位置から切り出したウエハに対して、上述した方法で、EPDの平均値及び最大値を測定した。
また、表2に記載された測定したウエハ位置(2枚目から148枚目)であるシード側からテイル側までのキャリア濃度とEPDについて、各測定値間はそれぞれの測定値を直線で結んだ中間値をとるものとして算出することにより、GaAsインゴットから切り出される全ウエハ枚数(161枚)に対して、シード側からテイル側までの測定範囲のウエハのキャリア濃度が1.5×1018~2.9×1018cm-3であり、かつエッチピット密度の最大値が1500cm-2以下である割合(所定の条件を満たすウエハの割合)を表2に示す。所定の条件を満たすウエハの割合の算出においては、測定対象のウエハの外側に位置するウエハは、所定の条件を満たさないものとした。
【0067】
(結晶番号6)
表2に示す条件に変更したほかは、結晶番号5と同様にして、結晶番号6のGaAsインゴットを製造し、評価を行った。得られたGaAsインゴットは、導電型としてはn型である。
【0068】
(結晶番号7)
表2に示すようにGaAs原料4(Si濃度175wtppm)を使用すると共に、攪拌翼の回転速度は、回転数0rpmのままで中間まで成長し、中間からテイルにかけて2.5rpmで回転させた以外は、結晶番号6と同様にして、結晶番号7のGaAsインゴットを製造し、評価を行った。得られたGaAsインゴットは、導電型としてはn型である。
【0069】
【0070】
表2は直胴部の直径が140mm超のGaAsインゴットであり、結晶番号6は、直胴部のから得られるシード側からテイル側までの測定範囲のウエハは、全ウエハ枚数(161枚)のうち79.1%が、キャリア濃度が1.5×1018~2.9×1018cm-3であり、かつエッチピット密度の最大値が1500cm-2以下の条件を満たしていた。
結晶番号7は、直胴部のから得られるシード側からテイル側までの測定範囲のウエハは、全ウエハ枚数(161枚)のうち77.1%が、キャリア濃度が1.5×1018~2.9×1018cm-3であり、かつエッチピット密度の最大値が1500cm-2以下の条件を満たしていた。
一方、結晶番号5は、Siドープをしていない高純度GaAs多結晶原料を使用してGaAsインゴットを成長させた例であるが、上記の条件を満たすウエハの割合は37.7%にとどまった。
結晶番号5は、測定対象のウエハの外側に位置するウエハが所定の条件を満たすとしても、条件を満たすウエハの割合は70%未満である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、キャリア濃度が厳密に制御され、かつ低転位密度であるGaAsウエハを効率よく得られるGaAsインゴット及びその製造方法を提供することができ、産業上の有用性が高い。
【符号の説明】
【0072】
1 ヒーター
2 ルツボ収納容器(サセプタ)
3 ルツボ
4 酸化ホウ素
5 化合物半導体原料(原料融液)
6 種結晶
7 気密容器
8 不活性ガス
9 GaAs多結晶原料
10 Si原料
14 ルツボの昇降・回転機構
15 コーン部から直胴部に変わる位置
16 位置15と位置17の半分の位置(中間)
17 直胴部が終わる位置
18 GaAsインゴットの直胴部
19 GaAsインゴットのコーン部
20 攪拌翼
21 上部ロッド
30 6インチウエハ
31 エリア