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特許7576724組成物、重合体、硬化物、成形体及びポリメタクリル酸メチルの製造方法
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  • 特許-組成物、重合体、硬化物、成形体及びポリメタクリル酸メチルの製造方法 図1
  • 特許-組成物、重合体、硬化物、成形体及びポリメタクリル酸メチルの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-23
(45)【発行日】2024-10-31
(54)【発明の名称】組成物、重合体、硬化物、成形体及びポリメタクリル酸メチルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/12 20060101AFI20241024BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20241024BHJP
   C08F 20/14 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C08L33/12 ZAB
C08K5/101
C08F20/14
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024077054
(22)【出願日】2024-05-10
【審査請求日】2024-05-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安富 陽一
(72)【発明者】
【氏名】角谷 英則
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特許第7389295(JP,B2)
【文献】特開2024-022549(JP,A)
【文献】特開2022-056754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/00 - 19/44
C08F 6/00 -246/00
C08F301/00
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル及びピバル酸メチルを含有し、
ピバル酸メチルの濃度が組成物全体の0質量ppmを超え10000質量ppm以下であり、
メタクリル酸メチルの含有量が組成物全体の85質量%以上である、組成物。
【請求項2】
メタクリル酸メチルの含有量が組成物全体の90質量%以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ピバル酸メチルの濃度が組成物全体の0質量ppmを超え1000質量ppm未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ピバル酸メチルの濃度が組成物全体の50質量ppm~600質量ppmである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
メタクリル酸メチルが、再生メタクリル酸メチル又はバイオ由来メタクリル酸メチルを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む重合体をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の組成物の硬化物。
【請求項9】
請求項に記載の硬化物を含む、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組成物、重合体、硬化物、成形体及びポリメタクリル酸メチルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸メチルを重合させて得られるポリ(メタ)アクリル酸メチルは、透明性や耐候性に優れた樹脂材料として種々の分野で利用されている。そして、近年の資源価格の高騰、さらには環境問題に対する意識の高まりに伴って、上記のとおりの種々の用途に用いられたポリ(メタ)アクリル酸メチルを含む製品(成形体)は回収されてリサイクル(再資源化)が図られている。
【0003】
ポリ(メタ)アクリル酸メチルのリサイクルの方法としては、例えば、回収された成形体に対し、再度、成形工程を実施して新たな成形体を製造するマテリアルリサイクル、回収された成形体を熱処理して、ポリ(メタ)アクリル酸メチルを熱分解(解重合)することにより(メタ)アクリル酸メチルを回収し、回収された(メタ)アクリル酸メチル(再生MMA又は再生MAという場合がある。)を用いて新たな成形体を製造するケミカルリサイクル、及び回収された成形体を燃料として燃焼させ、燃焼エネルギーを直接的に熱源として、さらには燃焼エネルギーを用いて発電して利用するサーマルリサイクルが挙げられる。
【0004】
また、近年のポリ(メタ)アクリル酸メチルの用途の多様化を受けて、ポリ(メタ)アクリル酸メチルの品質を向上させるための技術が検討されている。
例えば、高品質のポリ(メタ)アクリル酸メチルを得るのに適した重合装置として、原料モノマーと重合開始剤とを反応させる反応槽内でのゲル化物の生成が抑制される重合装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-102190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているような原料モノマーの重合プロセスの改善の他にポリ(メタ)アクリル酸メチルの品質を向上しうる方策としては、原料モノマーの組成を最適化することが考えられる。
上記事情に鑑み、本開示の一実施形態は、耐久性に優れる成形体が得られる組成物、この組成物を用いて得られる重合体、硬化物及び成形体、並びにこの組成物を用いるポリメタクリル酸メチルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施形態が含まれる。
<1>メタクリル酸メチル及びピバル酸メチルを含有し、
ピバル酸メチルの濃度が組成物全体の0質量ppmを超え10000質量ppm以下である、組成物。
<2>メタクリル酸メチルの含有量が組成物全体の85質量%以上である、<1>に記載の組成物。
<3>メタクリル酸メチルの含有量が組成物全体の90質量%以上である、<1>又は<2>に記載の組成物。
<4>ピバル酸メチルの濃度が組成物全体の0質量ppmを超え1000質量ppm未満である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の組成物。
<5>ピバル酸メチルの濃度が組成物全体の50質量ppm~600質量ppmである、<1>~<4>のいずれか1項に記載の組成物。
<6>メタクリル酸メチルが、再生メタクリル酸メチル又はバイオ由来メタクリル酸メチルを含む、<1>~<5>のいずれか1項に記載の組成物。
<7>メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステルをさらに含む、<1>~<6>のいずれか1項に記載の組成物。
<8>メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む重合体をさらに含む、<1>~<7>のいずれか1項に記載の組成物。
<9><1>~<8>のいずれか1項に記載の組成物に含まれるメタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む、重合体。
<10><9>に記載の重合体を含む、成形体。
<11><1>~<8>のいずれか1項に記載の組成物の硬化物。
<12><11>に記載の硬化物を含む、成形体。
<13><1>~<8>のいずれか1項に記載の組成物に含まれるメタクリル酸メチルを重合させる工程を含む、ポリメタクリル酸メチルの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態によれば、耐久性に優れる成形体が得られる組成物、この組成物を用いて得られる重合体、硬化物及び成形体、並びにこの組成物を用いるポリメタクリル酸メチルの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例で調製した組成物(保管試験あり)のピバル酸メチルの濃度とキャスト板の5%重量減少温度との関係を示すグラフである。
図2】実施例で調製した組成物(保管試験なし)のピバル酸メチルの濃度とキャスト板の5%重量減少温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0011】
<組成物>
本開示の組成物は、メタクリル酸メチル及びピバル酸メチルを含有し、ピバル酸メチルの濃度が組成物全体の0質量ppmを超え10000質量ppm以下である、組成物である。
【0012】
後述する実施例に示すように、メタクリル酸メチルとピバル酸メチルとを含む組成物は、メタクリル酸メチルを含むがピバル酸メチルを含まない組成物に比べ、組成物から得られる成形体中に残留するメタクリル酸メチルの濃度(残留MMA濃度)が低いか、又は、成形体の5%重量減少温度が高い傾向にある。
成形体の残留MMA濃度が低いほど成形体内の未重合成分が少なく、成形体の耐久性に優れると判断できる。
成形体の5%重量減少温度が高いほど成形体が熱分解しにくく、成形体の耐久性(熱安定性)に優れると判断できる。
【0013】
(メタクリル酸メチル)
本開示の組成物は、メタクリル酸メチルを含む。
本開示において「メタクリル酸メチル」は、メタクリル酸メチルの合成時に生じる副生成物等の不純物を本質的に含んでいないメタクリル酸メチルをいう。しかしながら、本開示におけるメタクリル酸メチルは、発明の目的を損なわないことを前提としてこれに限定されない。換言すると、「メタクリル酸メチル」は常法に従う精製方法によっては除去しきれない不純物を含みうるか、又は、常法に従う検出方法によっては検出できない程度の含有量で不純物を含みうる。
【0014】
組成物中のメタクリル酸メチルの含有量は特に制限されず、組成物を用いて得られるポリメタクリル酸メチルの用途等に応じて選択できる。メタクリル酸メチルの含有量は、例えば、組成物全体の85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は99質量%以上であってよい。
組成物中のメタクリル酸メチルの含有量が上記範囲であると、組成物を重合した重合物及びそれを含む成形体において、少なくとも耐熱性又はその透明性(光透過率)の観点で好ましい。
【0015】
組成物に含まれるメタクリル酸メチルは、公知の合成方法により合成されたものであってもよい。合成方法は特に制限されず、ACH法、C4直酸法又はアルファ法であってもよい。
【0016】
組成物に含まれるメタクリル酸メチルは、再生メタクリル酸メチルを含んでいてもよい。
本開示において再生メタクリル酸メチルとは、ポリメタクリル酸メチルの解重合(重合体が分解して単量体を生成する反応)により得られるメタクリル酸メチルを意味する。
ポリメタクリル酸メチルの解重合は、例えば、ポリメタクリル酸メチルを加熱処理して生じさせることができる。
再生メタクリル酸メチルの原料となるポリメタクリル酸メチルの供給源は、メタクリル酸メチルを回収可能であれば特に制限されない。例えば、ポリメタクリル酸メチルの供給源はポリメタクリル酸メチルを含む成形体であってもよい。
【0017】
組成物に含まれるメタクリル酸メチルは、バイオ由来メタクリル酸メチルを含んでいてもよい。
本開示においてバイオ由来メタクリル酸メチルとは、生物由来の原料から合成されるメタクリル酸メチルを意味する。生物由来の原料は植物由来の原料であっても動物由来の原料であってもよく、植物油来の原料であることが好ましい。
【0018】
(ピバル酸メチル)
本開示の組成物は、ピバル酸メチルを含む。
組成物に含まれるピバル酸メチルの濃度は、組成物全体の0質量ppmを超え10000質量ppm以下であれば特に制限されない。
成形体の耐久性の観点からは、組成物に含まれるピバル酸メチルの濃度は、組成物全体の10質量ppm以上であることが好ましく、50質量ppm以上であることがより好ましく、100質量ppm以上であることがさらに好ましい。
組成物に含まれるピバル酸メチルの濃度の上限値は特に制限されず、例えば、8000質量ppm以下、5000質量ppm以下、又は2000質量ppm以下であってもよい。
組成物にピバル酸メチルを添加することにより、組成物から得られる成形体の耐久性を向上することができる。より具体的には、ピバル酸メチルの添加によって成形体の残留MMA濃度が低下するか、又は、成形体の5%重量減少温度が上昇する。さらに、このようなピバル酸メチルの添加による効果は組成物を保管した場合と保管しない場合のいずれにおいても発現する。
【0019】
後述する実施例に示すように、ピバル酸メチルの濃度が1000質量ppm未満の範囲であると、組成物から得られる成形体の5%重量減少温度が高い傾向にある。
したがって、成形体の耐久性の観点からは、組成物に含まれるピバル酸メチルの濃度は、組成物全体の800質量ppm以下であることが好ましく、700質量ppm以下であることがより好ましく、600質量ppm以下であることがさらに好ましく、500質量ppm以下であることがことさら好ましい。
【0020】
必要に応じ、組成物はメタクリル酸メチル及びピバル酸メチルに該当しない成分を含んでいてもよい。例えば、組成物は後述するメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む重合体、低含有量成分又は添加剤を含んでいてもよい。
【0021】
((メタ)アクリル酸エステル)
組成物は、メタクリル酸メチルに加えて、メタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステル(以下、単に(メタ)アクリル酸エステルともいう)を含んでいてもよい。
(メタ)アクリル酸エステルとして具体的には、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル
酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸シクロペンタニル等が挙げられる。これらの中でもアクリル酸メチル又はアクリル酸エチルが好ましく、アクリル酸メチルがより好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本開示において「(メタ)アクリル酸エステル」は、アクリル酸エステルであってもよいしメタクリル酸エステルであってもよいことを示す。
(メタ)アクリル酸エステルは、メタクリル酸メチルの製造又はポリメタクリル酸メチルの再生処理の際に生じる副生成物として組成物に含まれていてもよいし、意図的に混合されて組成物に含まれていてもよい。
【0022】
組成物が(メタ)アクリル酸エステルを含む場合、その濃度は、組成物全体の50000質量ppm以下であることが好ましく、40000質量ppm以下であることがより好ましく、30000質量ppm以下であることがさらに好ましい。
組成物が(メタ)アクリル酸エステルを含む場合、その濃度は、組成物全体の1質量ppm以上、2質量ppm以上、又は5質量ppm以上であってもよい。
【0023】
組成物は、メタクリル酸メチルに加えて、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む重合体を含んでいてもよい。この重合体は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を含んでいればよく、メタクリル酸メチルの単独重合体であってよいし、メタクリル酸メチルと重合可能な他の(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体であってもよい。メタクリル酸メチルと重合可能な他の(メタ)アクリル酸エステルとしては、上記と同一のものが挙げられる。
【0024】
(低含有量成分)
組成物は、ピバル酸メチル以外の低含有量成分を含んでいてもよい。低含有量成分は、メタクリル酸メチルの製造又はポリメタクリル酸メチルの再生処理の際に生じる副生成物として組成物に含まれていてもよい。
本開示において低含有量成分とは、10000質量ppm以下の濃度で組成物に含まれる成分を意味する。
【0025】
組成物が含みうるピバル酸メチル以外の低含有量成分としては、ピバル酸メチル以外のカルボン酸エステル、芳香族炭化水素化合物、脂肪族炭化水素化合物、アルコール、アクリル酸ブチル等が挙げられる。
組成物に含まれるピバル酸メチル以外の低含有量成分は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0026】
カルボン酸エステルとして具体的には、イソ酪酸メチル、プロピオン酸メチル、2,4-ジメチル-4-ペンテン酸メチル、2-メチル-3-ブテン酸メチル、チグリン酸メチル、3-メチル-3-ブテン酸メチル、3-メチル-2-ブテン酸メチル、イタコン酸ジメチル、及び2-メチル-5-メチレンヘキサン二酸ジメチルが挙げられる。
芳香族炭化水素化合物として具体的には、トルエン及びスチレンが挙げられる。
脂肪族炭化水素化合物として具体的には、1-オクテン及び1-オクタデセンが挙げられる。
【0027】
組成物がピバル酸メチル以外の低含有量成分を含む場合、それぞれの低含有量成分の濃度は、組成物全体の8000質量ppm以下であることが好ましく、6000質量ppm以下であることがより好ましく、5000質量ppm以下であることがさらに好ましい。
組成物がピバル酸メチル以外の低含有量成分を含む場合、それぞれの低含有量成分の濃度は、組成物全体の1質量ppm以上、2質量ppm以上、又は5質量ppm以上であってもよい。
【0028】
(添加剤)
必要に応じ、組成物は添加剤を含んでもよい。添加剤として具体的には、離型剤、重合調節剤、重合開始剤、紫外線吸収剤、着色剤などが挙げられる。
組成物に含まれる添加剤は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0029】
組成物が含みうる離型剤の例としては、高級脂肪酸エステル、高級脂肪族アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩、及び脂肪酸誘導体が挙げられる。
離型剤の具体例としては、ジ-(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、ステアリルアルコール、ステアリン酸メチル、及びステアリン酸アミドが挙げられる。
【0030】
組成物に含まれる離型剤は、1種のみでも2種以上であってもよい。
組成物における離型剤の含有量は、例えば、組成物全体の0.01質量%~1.0質量%とすることができる。
【0031】
組成物が含みうる重合調節剤(重合反応における重合速度を調節する添加剤)としては、従来公知の任意好適な重合調節剤を用いることができる。このような重合調節剤としては、例えば、重合速度を低下する方向に調節できる化合物を用いることができる。
重合調節剤の具体例としては、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタンなどのメルカプタン化合物、リモネン、ミルセン、α-テルピネン、β-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノレン、β-ピネン、α-ピネンなどのテルペノイド化合物、及びα-メチルスチレンダイマーが挙げられる。
【0032】
組成物に含まれる重合調節剤は、1種のみでも2種以上であってもよい。
組成物における重合調節剤の含有量は、例えば、組成物全体の0.001質量%~0.5質量%とすることができる。
【0033】
組成物が含みうる重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤、ジアシルパーオキサイド開始剤、ジアルキルパーオキサイド開始剤、パーオキシエステル開始剤、パーカーボネート開始剤、及びパーオキシケタール開始剤が挙げられる。
【0034】
ラジカル重合開始剤の具体例としては、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンテン)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロパン)、2-シアノ-2-プロピラゾホルムアミド、2,2’-アゾビス(2-ヒドロキシ-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(2-メチル-ブチロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、及びジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)などのアゾ化合物が挙げられる。
【0035】
ジアシルパーオキサイド開始剤及びジアルキルパーオキサイド開始剤の具体例としては、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、及びラウロイルパーオキサイドが挙げられる。
【0036】
パーオキシエステル開始剤の具体例としては、tert-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシラウレート、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、tert-ブチルパーオキシアセテート、ジ-tert-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、ジ-tert-ブチルパーオキシアゼレート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テ
トラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、及びtert-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートが挙げられる。
【0037】
パーカーボネート開始剤の具体例としては、tert-ブチルパーオキシアリルカーボネート、及びtert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが挙げられる。
【0038】
パーオキシケタール開始剤の具体例としては、1,1-ジ-tert-ブチルパーオキシシクロヘキサン、1,1-ジ-tert-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、及び1,1-ジ-tert-ヘキシルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンが挙げられる。
【0039】
組成物に含まれる重合開始剤は、1種のみでも2種以上であってもよい。
組成物における重合開始剤の含有量は、例えば、組成物全体の0.01質量%~5質量%とすることができる。
【0040】
組成物が含みうる紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン紫外線吸収剤、シアノアクリレート紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール紫外線吸収剤、マロン酸エステル紫外線吸収剤、及びオキサルアニリド紫外線吸収剤が挙げられる。
【0041】
紫外線吸収剤の具体例としては、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-n-オクチルベンゾフェノン、2-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)ベンゾトリアゾール、及び2,4-ジ-tert-ブチルフェニル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエートが挙げられる。
【0042】
組成物に含まれる紫外線吸収剤は、1種のみでも2種以上であってもよい。
組成物における紫外線吸収剤の含有量は、例えば、組成物全体の0.001質量%~1質量%とすることができる。
【0043】
組成物が含みうる着色剤としては、ペリレン染料、ペリノン染料、ピラゾロン染料、メチン染料、クマリン染料、キノフタロン染料、キノリン染料、アントラキノン染料、アスドラピリドン染料、チオインジゴ染料、クマリン染料、イソインドリノン顔料、シケトピロロピロール顔料、縮合アゾ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、ジオキサジン顔料、銅フタロシアニン顔料、及びキナクリドン顔料が挙げられる。
【0044】
組成物に含まれる着色剤は、1種のみでも2種以上であってもよい。
組成物における着色剤の含有量は、例えば、組成物全体の1.0×10-8質量%~0.5質量%とすることができる。
【0045】
組成物が添加剤を含む場合、その合計含有量は、組成物全体の15質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、又は1質量%以下であってもよい。
組成物が添加剤を含む場合、その合計含有量は、組成物全体の0.01質量%以上、0.05質量%以上、又は0.1質量%以上であってもよい。
【0046】
本開示の組成物は、調製後すぐに使用してもよいし、保管してから使用してもよい。保管する場合の保管条件は、特に制限されないが、例えば0℃~45℃とすることができる。良好な品質を保証する観点からは、保管時の温度は0℃~39℃の範囲から選択することが好ましく、25℃±10℃程度の範囲から選択することがより好ましく、25~30℃程度の範囲から選択することがさらに好ましい。
【0047】
<重合体、硬化物及び成形体>
本開示の重合体は、上述した本開示の組成物に含まれるメタクリル酸メチルに由来する構造単位を含む、重合体である。ここで、重合体とは、組成物に含まれる重合に関与する成分を重合させたものであり、重合に関与する成分に由来する構造単位を有するものである。本開示の重合体は、本開示の組成物に含まれるメタクリル酸メチルに由来する構造単位と、他の重合成分に由来する構造単位とを含んでいてもよい。本開示の重合体の重量平均分子量は特に制限されず、重合体の用途に応じて選択できる。
本開示の硬化物は、上述した本開示の組成物の硬化物である。ここで、硬化物とは、組成物を硬化させたものであり、重合に関与しない成分も含みうる。ただし、組成物を硬化させる方法によっては上述した重合体と同一視する(すなわち、重合に関与しない成分を含まない)こともできる。
本開示の成形体は、上述した本開示の重合体又は硬化物を含む。硬化物が重合体と同一視できる場合は、成形体は、本開示の組成物の重合物を含むことになる。成形体は、本開示の組成物のみを硬化させた硬化物を含む成形体であることが好ましい。成形体は、重合体又は硬化物を任意の形状に成形してなる物体であってもよい。
【0048】
本開示の重合体、硬化物及び成形体がメタクリル酸メチル、ピバル酸メチル又はその他の成分を含むか否かは、公知の分析方法で特定できる。公知の分析方法の例としては、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0049】
本開示の重合体、硬化物及び成形体の残留MMA濃度は、例えば、8300質量ppm未満、8100質量ppm以下、8000質量ppm以下、7800質量ppm以下、又は7600質量ppm以下であってもよい。本開示において、重合体、硬化物又は成形体の残留MMA濃度は、実施例に記載した方法により測定される。
【0050】
本開示の重合体、硬化物及び成形体の5%重量減少温度は、例えば、280℃以上であってもよい。本開示において、重合体、硬化物又は成形体の5%重量減少温度は、実施例に記載した方法により測定される。
【0051】
本開示の重合体、硬化物及び成形体は、ピバル酸メチルを含有し、ピバル酸メチルの濃度が重合体、硬化物又は成形体の総質量に対して0質量ppmを超え10000質量ppm以下である。
重合体、硬化物又は成形体に含まれるピバル酸メチルの濃度は、その総質量に対して10質量ppm以上であることが好ましく、50質量ppm以上であることがより好ましく、100質量ppm以上であることがさらに好ましい。
重合体、硬化物又は成形に含まれるピバル酸メチルの濃度の上限値は特に制限されず、例えば、8000質量ppm以下、5000質量ppm以下、又は2000質量ppm以下であってもよい。
【0052】
さらに、重合体、硬化物又は成形体に含まれるピバル酸メチルの濃度が1000質量ppm未満の範囲であると、重合体、硬化物又は成形体の5%重量減少温度が高い傾向にある。重合体、硬化物又は成形体の5%重量減少温度が高いほど、熱分解しにくく、熱安定性に優れると判断できる。
熱安定性の観点からは、重合体、硬化物又は成形体に含まれるピバル酸メチルの濃度は、重合体、硬化物又は成形体の総質量に対して800質量ppm以下であることが好ましく、700質量ppm以下であることがより好ましく、600質量ppm以下であることがさらに好ましく、500質量ppm以下であることがことさら好ましい。
【0053】
<ポリメタクリル酸メチルの製造方法>
本開示のポリメタクリル酸メチルの製造方法は、上述した本開示の組成物に含まれるメタクリル酸メチルを重合させる工程を含む、ポリメタクリル酸メチルの製造方法である。ここで、本開示のポリメタクリル酸メチルには、本開示の組成物から得られる重合体も該当し、組成物から得られる硬化物も該当する。
【0054】
組成物に含まれるメタクリル酸メチルを重合させる方法は特に制限されず、公知の手法で実施してよい。例えば、塊状重合、セルキャスト重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の方法で実施してもよい。
【0055】
具体的には、本開示の組成物を、例えば、塊状重合法によりメタクリル酸メチルの重合体を成形したシート(成形体)を得ることができる。また、セルキャスト重合においては、組成物に対して所定の加熱条件による加熱処理を行って重合反応を進行させることにより、組成物が硬化した硬化物(成形体)を得ることができる。
【0056】
本開示の組成物に含まれるメタクリル酸メチルを重合する方法又は成形体の製造方法において、加熱条件のうちの加熱温度及び加熱時間は、例えば、選択された重合調節剤、重合開始剤及び/又はその他の成分の種類や含有量等を勘案して、設定することができる。
【0057】
セルキャスト重合においては、硬化物及びその成形体を製造するにあたり、加熱温度を例えば50℃~120℃とすることができる。加熱時間は、例えば1時間~20時間とすることができる。加熱処理は、加熱温度及び/又は加熱時間が異なる複数のステップを含む加熱処理とすることができる。
【0058】
セルキャスト重合による硬化物及びその成形体は、例えば、下記ステップ1~7を含む加熱条件での加熱処理を行うことにより製造することができる。
【0059】
ステップ1:常温から68℃まで20分間かけて昇温する。
ステップ2:68℃を90分間保持する。
ステップ3:68℃から64℃まで20分間かけて降温する。
ステップ4:64℃を90分間保持する。
ステップ5:64℃から123℃まで10分間かけて昇温する。
ステップ6:123℃を120分間保持する。
ステップ7:123℃から常温まで78分間かけて降温する。
【0060】
硬化物及びその成形体の製造方法において、上記ステップ1~7をこの順に実施すれば、重合反応における発熱を抑制し、重合を安定して完了させることができる。
【0061】
本開示の組成物に対して加熱処理を行うにあたり、例えば、所定の形状の密閉空間を内部に画成できるセルを用いるセルキャスト法(セルキャスト重合)を適用することにより、所定形状の成形体を形成することができる。以下、セルキャスト法による成形体の製造方法について具体的に説明する。
【0062】
セルキャスト法により成形体を製造するにあたり、まずはセルを用意する。ここでは板状体である成形体(キャスト板という場合がある。)を形成する例について説明する。
このようなセルは、少なくとも2枚の平板状部材と、この2枚の平板状部材に挟持されるように配置され、対向するように配置された2枚の平板状部材同士の間隙を密閉空間として封止することができるシール材(ガスケット)とから構成することができる。
【0063】
平板状部材は、枚葉であってもよいし、ベルト状であってもよい。平板状部材は、本開示の組成物によって溶解することがなく、組成物の重合反応を阻害することがなく、かつ加熱処理における加熱温度に十分な耐熱性を有する材料により構成される。平板状部材の好適な材料の例としては、ガラス及び金属が挙げられる。
【0064】
シール材としては、従来公知の任意好適なシール材を用いることができる。シール材は、本開示の組成物によって溶解することがなく、組成物の重合反応を阻害することがなく、かつ加熱処理における加熱温度に十分な耐熱性を有する材料により構成される。シール材の好適な具体例としては、塩化ビニル樹脂製のガスケットが挙げられる。
【0065】
次いで、本開示の組成物を、上記の用意されたセルにより画成される間隙(空隙)に、従来公知の任意好適な方法により注入する。その後、セルに対して既に説明した加熱条件にて加熱処理を行う。本開示の組成物が注入されたセルに対する加熱処理の方法は、特に限定されない。セルに対する加熱処理の方法は、従来公知のセルキャスト法と同様に、例えば熱風循環炉、赤外線ヒーターなどを用いてセルの外部から直接的に加熱処理する方法、セルの外側にさらに任意好適な従来公知のジャケットを設け、このジャケットに温風、温水、水蒸気のような熱媒を導入する方法とすることができる。
【0066】
<ポリメタクリル酸メチル及びその成形体の用途>
本開示の組成物から得られるポリメタクリル酸メチル及びその成形体は、光透過性、耐熱性、耐候性に優れる。よって、外部環境に曝され、さらには熱源、光源にも曝されうる、例えば照明器具、自動車用部品、看板、建材等の種々の用途に好適に適用することができる。
【実施例
【0067】
以下、本開示の実施形態を実施例に基づいて説明する。以下の実施例は本開示を制限するものではない。
【0068】
<実施例1>
(組成物の調製)
メタクリル酸メチル99.99質量%に、ピバル酸メチル(東京化成工業株式会社製)0.01質量%を加えて混合することで、組成物1を調製した。得られた組成物1は液状であった。組成物1の組成を表1にも示す。
【0069】
組成物1に対し、下記のステップ1~ステップ7をこの順で含む保管試験を実施して、保管試験後の組成物1’を得た。保管試験は、長期保管後の組成物を用いて得られる成形体の耐久性を評価するため、加速条件下(60℃)で実施した。
【0070】
ステップ1:圧力容器(耐圧硝子工業(株)製「TVS-N2型」)の下部に組成物を25mL注入する。
ステップ2:圧力容器の上部と下部の間にパッキンを挟み、圧力容器を密封する。
ステップ3:圧力容器上部の先端から窒素を送り、内圧が0.2MPaの状態で封入し、1分間内圧が変化しないかを確認する。
ステップ4:圧力容器内の内圧を取り除き、圧力容器上部の先端に閉止栓を取付ける。
ステップ5:60℃に設定したオイルバスに圧力容器を入れる。
ステップ6:24時間オイルバス内で保管する。
ステップ7:24時間経過後、オイルバスから圧力容器を取り出し、氷冷水に圧力容器を入れ、急冷する。
【0071】
組成物1’(99.84質量部)と、離型剤であるジ-(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム(0.05質量部)と、重合調節剤であるテルピノレン(0.03量部)と、重合開始剤である2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(0.08質量部)とを混合して、成形体(キャスト板)形成用の組成物1’’を得た。得られた組成物1’’は液状であった。
【0072】
(キャスト板の作製)
3.8mm厚の塩化ビニル樹脂製ガスケットが互いに対向する2枚のガラス板で挟持されており、塩化ビニル樹脂製ガスケットおよび2枚のガラス板によって密閉された間隙を画成することができるセルを準備した。このセル内の間隙に、組成物1’’を注液した。組成物1’’が注液されたセルをオーブン内に設置し、下記のステップ1~ステップ7をこの順で含む加熱条件で加熱処理を行うことにより組成物1’’を重合させて、3mm厚、100mm角の成形体であるキャスト板を作製した。
【0073】
ステップ1:常温から68℃まで20分間かけて昇温する。
ステップ2:68℃を90分間保持する。
ステップ3:68℃から64℃まで20分間かけて降温する。
ステップ4:64℃を90分間保持する。
ステップ5:64℃から123℃まで10分間かけて昇温する。
ステップ6:123℃を120分間保持する。
ステップ7:123℃から常温まで90分間かけて降温する。
【0074】
(残留MMA濃度の測定)
上記のとおり作製したキャスト板から0.5gを切削して精秤し、アセトン(特級)10ccを加え、溶解させた。得られたアセトン溶液に、内部標準液(メタノールにメチルイソブチルケトン(MIBK)を1%溶解させた溶液)1ccを加え、攪拌した。得られた混合液にメタノール30ccを加え、メタクリル酸メチル重合体を再沈殿させた。その後、上澄み溶液をサンプル溶液として採取した。サンプル溶液に含まれるメタクリル酸メチルの残留量の測定を、下記のガスクロマトグラフィー装置を用いて実施した。
【0075】
(測定条件)
装置:GC-2010 Plus((株)島津製作所製)
カラム:DB-1(アジレント・テクノロジー(株)社製)
検出器:FID 2010 Plus((株)島津製作所製)
カラムオーブン条件
初期温度:40℃(ホールド時間1分)
昇温速度:8℃/分
中間温度:120℃(ホールド時間0分)
昇温速度:20℃/分
最終温度:250℃(ホールド時間5分)
試料気化条件
気化室温度:300℃
キャリアガス:ヘリウム
圧力:50kPa
全流量:58.3mL/分
カラム流量:1.08mL/分
線速度:31.1cm/秒
パージ線量:3.0mL/分
スプリット比:50
検出器条件
検出器温度:300℃
サンプリングレート:40msec
メイクアップガス:N
メイクアップ流量:30mL/分
H2流量:40mL/分
Air流量:400mL/分
オートサンプラー条件
注入量:1μL
【0076】
上記の測定条件でサンプル溶液を測定したときに検出されるメタクリル酸メチルに対応するピーク面積(a1)およびメチルイソブチルケトンに対応するピーク面積(b1)を測定した。そして、これらのピーク面積から、ピーク面積比A(=a1/b1)を求めた。
【0077】
メタクリル酸メチルの含有量と、メチルイソブチルケトンの含有量との質量比がW0(既知)である標準品を、上記の測定条件で測定し、検出されたメタクリル酸メチルに対応するピーク面積(a0)およびメチルイソブチルケトンに対応するピーク面積(b0)を測定した。そして、これらのピーク面積から、ピーク面積比A0(=a0/b0)を求めた。次いで、ピーク面積比A0と、上記の質量比W0とから、ファクターf(=W0/A0)を求めた。
【0078】
次に、上記のピーク面積比Aに上記のファクターfを乗じることにより、サンプル溶液1に含有されるメタクリル酸メチルのメチルイソブチルケトンに対する質量比Wを算出した。算出された質量比Wと、サンプル溶液の調製に用いたキャスト板の質量とから、キャスト板の残留MMA濃度(質量ppm)を算出した。結果を表1に示す。
【0079】
(5%重量減少温度の測定)
上記のとおり作製したキャスト板を直径または各辺の長さが0.5mm以下となるように粉砕して得られた粉砕物9.3mgを、アルミニウム製パン(日立ハイテクサイエンス(株)製「P/N SSC000E030 Open Sample Pan」、直径5mm)上に設置した。熱重量測定・示差熱分析装置(日立ハイテクサイエンス(株)製「TG/DTA7200」)を用いて、窒素ガス流量を200mL/分とし、昇温速度を10℃/分とする条件で、45℃から520℃まで昇温しながら粉砕物の重量変化を測定した。その結果、粉砕物の重量は、温度が上昇するにつれて減少した。測定開始時の温度(45℃)における粉砕物の重量を100重量%として、粉砕物の重量が95重量%まで減少した時の温度(5%重量減少温度、℃)を求めた。結果を表1に示す。
【0080】
<実施例2~4及び比較例1>
ピバル酸メチルの添加量を表1記載の数値に変更した組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~4及び比較例1のキャスト板を作製した。
キャスト板の残留MMA濃度及び5%重量減少温度を、実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
<実施例5~7及び比較例2>
ピバル酸メチルの添加量を表1記載の数値に変更した組成物を用い、また調製した組成物に保管試験を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、実施例5~7及び比較例2のキャスト板を作製した。
キャスト板の残留MMA濃度及び5%重量減少温度を、実施例1と同様にして測定した。結果を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
表1及び表2に示すように、メタクリル酸メチルにピバル酸メチルを添加した組成物を用いて作製した実施例のキャスト板は下記条件A、Bの少なくとも一方を満たし、優れた耐久性を示した。
条件A:成形体の残留MMA濃度がメタクリル酸メチルにピバル酸メチルを添加していない比較例の成形体よりも低い
条件B:成形体の5%重量減少温度がメタクリル酸メチルにピバル酸メチルを添加していない比較例の成形体よりも高い
さらに、表1及び表2に示すように、ピバル酸メチルの添加による成形体の耐久性向上効果は組成物の調製後に保管した場合と保管しない場合のいずれにおいても発現した。

【要約】
【課題】耐久性に優れる成形体が得られる組成物、この組成物を用いて得られる重合体、硬化物及び成形体、並びにこの組成物を用いるポリメタクリル酸メチルの製造方法を提供する。
【解決手段】メタクリル酸メチル及びピバル酸メチルを含有し、ピバル酸メチルの濃度が組成物全体の0質量ppmを超え10000質量ppm以下である、組成物。
【選択図】図1
図1
図2