(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭及び水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/20 20060101AFI20241025BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20241025BHJP
C01B 32/306 20170101ALI20241025BHJP
【FI】
B01J20/20 B
B01J20/28 Z
C01B32/306
(21)【出願番号】P 2020165322
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】山下 信義
(72)【発明者】
【氏名】谷保 佐知
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼阪 務
(72)【発明者】
【氏名】横井 誠
(72)【発明者】
【氏名】堀 千春
(72)【発明者】
【氏名】島村 紘大
(72)【発明者】
【氏名】浅野 拓也
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-220413(JP,A)
【文献】特開2017-095488(JP,A)
【文献】特開2013-170129(JP,A)
【文献】米国特許第05411707(US,A)
【文献】特開2003-344378(JP,A)
【文献】特開2019-155215(JP,A)
【文献】特開2008-055318(JP,A)
【文献】特開2000-346759(JP,A)
【文献】前田恒昭, 外,「揮発性物質のパージアンドトラップGC/MS」について,ぶんせき,1995年,Vol.251, No.11,p.935-936
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/20
B01J 20/28
C01B 32/306
G01N 30/88
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量分析に用いる活性炭であって、
容器中に密封され中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が気相中に分配可能な温度に調温された水試料中に、キャリアガスとしての不活性ガスが通気ないしバブリングされて前記水試料中より気相中に分配された前記中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離可能に吸着するための
BET比表面積が900m
2/g以上である活性炭からな
り、
前記活性炭の下記の(i)式に規定する1nm以下のミクロ孔容積の和(V
mic
)と2~60nm以下のメソ孔容積の和(V
met
)との容積差(V
s
)が0.45cm
3
/g以上である
中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭。
【数1】
【請求項2】
前記活性炭の
前記ミクロ孔容積の和(V
mic)が0.35cm
3/g以上である請求項1に記載の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭。
【請求項3】
前記活性炭の
前記メソ孔容積の和(V
met)が0.02cm
3/g以上である請求項1又は2に記載の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭。
【請求項4】
前記活性炭の表面酸化物量が0.10meq/g以上である請求項1ないし
3のいずれか1項に記載の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭。
【請求項5】
請求項1ないし
4のいずれか1項に記載の水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭が充填されたディスク形状の固相カラムよりなる中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着フィルター体。
【請求項6】
水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を定量分析する分析方法であって、
容器中に密封され前記中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が気相中に分配可能な温度に調温された水試料中に、キャリアガスとしての不活性ガスが通気ないしバブリングされ、
前記中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が前記水試料中より気相中に分配され、該中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が固相吸着剤により吸着されるとともに、
前記固相吸着剤により吸着された前記中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が有機溶媒により抽出されて測定され
、
前記固相吸着剤が活性炭であり、前記活性炭の下記の(i)式に規定する1nm以下のミクロ孔容積の和(V
mic
)と2~60nm以下のメソ孔容積の和(V
met
)との容積差(V
s
)が0.45cm
3
/g以上である
ことを特徴とする水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法。
【数2】
【請求項7】
前記水試料が25~60℃に調温される請求項
6に記載の水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法。
【請求項8】
前記不活性ガスが10~60分通気ないしバブリングされる請求項
6又は7に記載の水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法。
【請求項9】
前記有機溶媒の主成分が、ジクロロメタンと酢酸エチルの混合溶媒である請求項
6ないし8のいずれか1項に記載の水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法。
【請求項10】
前記活性炭のBET比表面積が900m
2/g以上である請求項
6ないし9のいずれか1項に記載の水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法。
【請求項11】
前記活性炭の
前記ミクロ孔容積の和(V
mic)が0.35cm
3/g以上である請求項
6ないし10のいずれか1項に記載の水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法。
【請求項12】
前記活性炭の
前記メソ孔容積の和(V
met)が0.02cm
3/g以上である請求項
6ないし11のいずれか1項に記載の水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法。
【請求項13】
前記活性炭の表面酸化物量が0.10meq/g以上である請求項
6ないし12のいずれか1項に記載の水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水試料中に含まれる中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量分析に用いる活性炭及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、高い熱安定性、高い化学的安定性、高い表面修飾活性を有するフッ素置換された脂肪族化合物類である。ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、前記特性を生かし表面処理剤や包装材、液体消火剤等の工業用途及び化学用途等幅広く使用されている。
【0003】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物の一部は、非常に安定性の高い化学物質であることから、環境中に放出後、自然条件下では分解されにくい。このため、近年では、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は残留性有機汚染物質(POPs)として認識され、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)(IUPAC名:1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ヘプタデカフルオロオクタン-1-スルホン酸)が2010年より残留性有機物汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)において、製造や使用が規制されることとなった。
【0004】
なお、ペルフルオロアルキル化合物は完全にフッ素化された直鎖アルキル基を有しており、化学式(ii)で示される物質である。例えば、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やペルフルオロオクタン酸(PFOA)(IUPAC名:2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ペンタデカフロオロオクタン酸)等がある。
【0005】
【0006】
ポリフルオロアルキル化合物はアルキル基の水素の一部がフッ素に置き換わったものを示し、化学式(iii)で示される物質である。例えば、フルオロテロマーアルコール(FTOH)等がある。
【0007】
【0008】
このように、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は自然界(水中、土壌中、大気中)に残存し続けることから、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量試験方法の確立が検討されている。定量試験方法の検討の課題は、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の高い吸着及び脱離性能を有する捕集材の開発である。微量なペル及びポリフルオロアルキル化合物を含有する試料である水ないし空気を、捕集材に接触させてペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集し、捕集材に吸着された該化合物を抽出工程によって抽出液中に脱離させ、濃縮する。濃縮後、LC-MS/MSやGC-MS/MS等の装置で定量測定し、試料中に含まれるペル及びポリフルオロアルキル化合物の濃度測定を行うことが可能となる。
【0009】
既存の捕集材としては、例えば、シクロデキストリンポリマーからなる有機フッ素系化合物吸着材が提案されている(特許文献1)。この吸着材は、吸着のみに特化し、該化合物の脱離はできないため、定量測定に用いられる捕集材として使用には適していない。また、シクロデキストリンポリマーは粉状又は微粒子状であり、ハンドリングが悪く、通液ないし通気時の抵抗が高く微粉末の2次側への流出リスク等の問題がある。
【0010】
また、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は物理化学特性に幅のある様々な形態で環境中に残存しており、既存の吸着材では十分な捕集性能がなく、正確に定量測定ができないという問題があった。
【0011】
なお、これらペル及びポリフルオロアルキル化合物のうち、PFOSやPFOA等のイオン性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法としては、固相抽出法が主として用いられる。イオン性ペル及びポリフルオロアルキル化合物のような易水溶性の化合物にあっては、固相抽出法による分析が有効であるとされている。しかしながら、FTOHのような中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物は難水溶性であり、揮発性を有することから、固相抽出法による分析が難しいとされている。
【0012】
そこで、出願人は、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量分析を可能とすべく、検討を進め、水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法を確立し、該分析方法に用いる中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物用捕集材として活性炭の検討を進め、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の効果的な捕集を可能とし、精度の高い定量測定に大きく寄与することを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、特に、水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量分析に用いる活性炭であって、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離可能に捕集することができる中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭及び水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、第1の発明は、水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量分析に用いる活性炭であって、容器中に密封され中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が気相中に分配可能な温度に調温された水試料中に、キャリアガスとしての不活性ガスが通気ないしバブリングされて前記水試料中より気相中に分配された前記中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離可能に吸着するためのBET比表面積が900m2/g以上である活性炭からなり、前記活性炭の下記の(i)式に規定する1nm以下のミクロ孔容積の和(V
mic
)と2~60nm以下のメソ孔容積の和(V
met
)との容積差(V
s
)が0.45cm
3
/g以上である中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭に係る。
【0016】
【0017】
第2の発明は、第1の発明において、前記活性炭の前記ミクロ孔容積の和(Vmic)が0.35cm3/g以上である中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭に係る。
【0018】
第3の発明は、第1又は2の発明において、前記活性炭の前記メソ孔容積の和(Vmet)が0.02cm3/g以上である中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭に係る。
【0019】
第4の発明は、第1ないし3の発明のいずれかにおいて、前記活性炭吸着材の表面酸化物量が0.10meq/g以上である中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭に係る。
【0020】
第5の発明は、第1ないし4の発明のいずれかの水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭が充填されたディスク形状の固相カラムよりなる中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着フィルター体に係る。
【0021】
第6の発明は、水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を定量分析する分析方法であって、容器中に密封され前記中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が気相中に分配可能な温度に調温された水試料中に、キャリアガスとしての不活性ガスが通気ないしバブリングされ、前記中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が前記水試料中より気相中に分配され、該中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が固相吸着剤により吸着されるとともに、前記固相吸着剤により吸着された前記中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が有機溶媒により抽出されて測定され、前記固相吸着剤が活性炭であり、前記活性炭の下記の(i)式に規定する1nm以下のミクロ孔容積の和(V
mic
)と2~60nm以下のメソ孔容積の和(V
met
)との容積差(V
s
)が0.45cm
3
/g以上であることを特徴とする水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法に係る。
【0022】
【0023】
第7の発明は、第6の発明において、前記水試料が25~60℃に調温される水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法に係る。
【0024】
第8の発明は、第6又は7の発明のいずれかにおいて、前記不活性ガスが10~60分通気ないしバブリングされる水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法に係る。
【0025】
第9の発明は、第6ないし8の発明のいずれかにおいて、前記有機溶媒の主成分が、ジクロロメタンと酢酸エチルの混合溶媒である水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法に係る。
【0026】
第10の発明は、第6ないし9の発明のいずれかにおいて、前記活性炭のBET比表面積が900m2/g以上である水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法に係る。
【0027】
第11の発明は、第6ないし10の発明のいずれかにおいて、前記活性炭の前記ミクロ孔容積の和(Vmic)が0.35cm3/g以上である水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法に係る。
【0028】
第12の発明は、第6ないし11の発明のいずれかにおいて、前記活性炭の前記メソ孔容積の和(Vmet)が0.02cm3/g以上である水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法に係る。
【0029】
第13の発明は、第6ないし12の発明のいずれかにおいて、前記活性炭の表面酸化物量が0.10meq/g以上である水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法に係る。
【発明の効果】
【0030】
第1の発明に係る中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭によると、試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量分析に用いる活性炭であって、容器中に密封され中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が気相中に分配可能な温度に調温された水試料中に、キャリアガスとしての不活性ガスが通気ないしバブリングされて前記水試料中より気相中に分配された前記中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離可能に吸着するためのBET比表面積が900m2/g以上である活性炭からなり、前記活性炭の1nm以下のミクロ孔容積の和(V
mic
)と2~60nm以下のメソ孔容積の和(V
met
)との容積差(V
s
)が0.45cm
3
/g以上であることから、現在において確立されていない水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量測定を可能とするとともに、該化合物を効率的に脱離可能に捕集することができ、定量分析の精度の向上を図ることができる。
【0031】
第2の発明に係る中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭によると、第1の発明において前記活性炭の前記ミクロ孔容積の和(Vmic)が0.35cm3/g以上であるため、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を効率よく脱離可能に捕集することができ、該化合物の定量分析の精度を上げることができる。
【0032】
第3の発明に係る中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭によると、第1又は2の発明において、前記活性炭の前記メソ孔容積の和(Vmet)が0.02cm3/g以上であるため、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を効率よく脱離可能に捕集することができ、該化合物の定量分析の精度を上げることができる。
【0033】
第4の発明に係る中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭によると、第1ないし3の発明のいずれかにおいて、前記活性炭吸着材の表面酸化物量が0.10meq/g以上であるため、活性炭の細孔による吸着性能だけでなく、化学的な吸着能力も備え、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能をより向上させることができ、該化合物の定量分析の精度を上げることができる。
【0034】
第5の発明に係る中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着フィルター体によると、第1ないし4の発明のいずれかの水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭が充填されたディスク形状の固相カラムよりなるため、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集効率を高めつつ、良好なハンドリング性を備えることができる。
【0035】
第6の発明に係る水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法によると、水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を定量分析する分析方法であって、容器中に密封され前記中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が気相中に分配可能な温度に調温された水試料中に、キャリアガスとしての不活性ガスが通気ないしバブリングされ、前記中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が前記水試料中より気相中に分配され、該中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が固相吸着剤により吸着されるとともに、前記固相吸着剤により吸着された前記中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が有機溶媒により抽出されて測定され、前記固相吸着剤が活性炭であり、前記活性炭の1nm以下のミクロ孔容積の和(V
mic
)と2~60nm以下のメソ孔容積の和(V
met
)との容積差(V
s
)が0.45cm
3
/g以上であることから、現在において確立されていない水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量測定を可能とするとともに、該化合物を効率的に脱離可能に捕集することができ、定量分析の精度の向上を図ることができる。
【0036】
第7の発明に係る水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法によると、第6の発明において、前記水試料が25~60℃に調温されるため、効率よく水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量測定が可能となる。
【0037】
第8の発明に係る水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法によると、第6又は7の発明のいずれかの発明において、前記不活性ガスが10~60分通気ないしバブリングされるため、効率よく水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量測定が可能となる。
【0038】
第9の発明に係る水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法によると、第6ないし8の発明のいずれかにおいて、前記有機溶媒の主成分が、ジクロロメタンと酢酸エチルの混合溶媒であるため、固相吸着材からの該化合物を良好に抽出することができる。
【0039】
第10の発明に係る水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法によると、第6ないし9の発明のいずれかにおいて、前記活性炭のBET比表面積が900m2/g以上であるため、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を良好に吸着することができる。
【0040】
第11の発明に係る水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法によると、第6ないし10の発明のいずれかにおいて、前記活性炭の前記ミクロ孔容積の和(Vmic)が0.35cm3/g以上であるため、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を効率よく脱離可能に捕集することができ、該化合物の定量分析の精度を上げることができる。
【0041】
第12の発明に係る水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法によると、第6ないし11の発明のいずれかにおいて、前記活性炭の前記メソ孔容積の和(Vmet)が0.02cm3/g以上であるため、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を効率よく脱離可能に捕集することができ、該化合物の定量分析の精度を上げることができる。
【0042】
第13の発明に係る水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析方法によると、第6ないし12の発明のいずれかにおいて、前記活性炭の表面酸化物量が0.10meq/g以上であるため、活性炭の細孔による吸着性能だけでなく、化学的な吸着能力も備え、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能をより向上させることができ、該化合物の定量分析の精度を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭が充填されたディスク型固相カラムを示す概要図である。
【
図2】
図1のディスク型固相カラムの一部断面図である。
【
図3】本発明の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭を固相吸着剤とするパージアンドトラップ法の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の分析方法は、水試料中に存在する、難水溶性及び揮発性を有する中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量測定を可能とする分析方法である。また、本発明の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭は、水試料中に存在する、難水溶性及び揮発性を有する中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量測定を可能とする分析方法に用いられる活性炭である。
【0045】
当該分析方法の測定精度は、用いられる固相吸着剤としての活性炭の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能に大きく依存する。このため、本発明の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物活性炭には、該化合物の良好な吸着性能が要求される。
【0046】
活性炭は、
図1及び
図2に示されるようなディスク型固相カラム10に収容されるのがよい。該固相カラムに活性炭フィルター部20が収容されることで、該固相カラムを取り外してすぐに分析が可能となる。ディスク型固相カラム10は、水試料から気相中に分配された中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を含むキャリアガスが吸気開口部11から本体部12にかけて広がって通気するため、吸着効率が向上すると考えられる。活性炭フィルター部20は、
図2に示されるような、例えばフェルト状フィルター部21に形成されたりすると取り回しがよい。
【0047】
活性炭は、繊維状活性炭又は粒状活性炭よりなる。繊維状活性炭は、適宜の繊維を炭化し賦活して得た活性炭であり、例えばフェノール樹脂系、アクリル樹脂系、セルロース系、石炭ピッチ系等がある。繊維長や断面径等は適宜である。
【0048】
粒状活性炭の原料としては、木材(廃材、間伐材、オガコ)、コーヒー豆の絞りかす、籾殻、椰子殻、樹皮、果物の実等の原料がある。これらの天然由来の原料は炭化、賦活により細孔が発達しやすくなる。また廃棄物の二次的利用であるため安価に調達可能である。他にもタイヤ、石油ピッチ、ウレタン樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂由来の焼成物、さらには、石炭等も原料として使用することができる。
【0049】
活性炭原料は、必要に応じて200℃~600℃の温度域で加熱炭化されることにより微細孔が形成される。続いて、活性炭原料は600℃~1200℃の温度域で水蒸気、炭酸ガスに曝露されて賦活処理される。この結果、各種の細孔が発達した活性炭は出来上がる。なお、賦活に際しては、他に塩化亜鉛賦活等もある。また、逐次の洗浄も行われる。
【0050】
こうして出来上がる活性炭の物性により、被吸着物質の吸着性能が規定される。本願発明の目的被吸着物質である中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着する活性炭の吸着性能は、活性炭に形成された細孔の量を示す指標となる比表面積により規定される。なお、本明細書中、各試作例の比表面積はBET法(Brunauer,Emmett及びTeller法)による測定である。固相吸着剤としての活性炭の吸脱着性能が高いほど、水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量分析の精度は向上する。
【0051】
活性炭は細孔の孔径によっても規定される。活性炭のような吸着材の場合、ミクロ孔、メソ孔、マクロ孔のいずれの細孔も存在している。その中で、いずれの範囲の細孔をより多く発達させるかにより、活性炭の吸着対象、性能は変化する。本発明において所望される活性炭は、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分子を効果的にかつ脱離可能に吸着することである。
【0052】
また、活性炭の表面に酸性官能基が存在する。活性炭の表面酸化により増加する酸性官能基は、主にカルボキシル基、フェノール性水酸基等の親水性基である。活性炭表面の酸性官能基は、捕集能力に影響を与える。これらの酸性官能基量については、表面酸化物量として把握することができる。活性炭の表面酸化物量が増加すると、活性炭表面の親水性が高まり、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の中でも、特に親水性基を有するフルオロテロマーアルコール類の捕集性能が向上すると考えられる。特に、固相吸着剤としての活性炭の表面酸化物量を0.10meq/g以上とすることにより、目的物質である中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を効率的に吸着することができる。
【0053】
活性炭の表面酸化物を増加させる手法としては、以下の手法が挙げられる。一つは、再度加熱工程を経ることで表面残基の酸化を促進させ、酸性官能基を増加させる手法である。すなわち空気または酸素雰囲気下における酸化である。あるいは、同時に空気雰囲気下にて温度25~40℃、湿度60~90%の空気も導入される。そこで、150~900℃にて1~10時間かけて加熱され、表面酸化物量を増加させた活性炭を得ることができる。湿潤な空気を伴った加熱により活性炭表面に存在したアルキル基等の炭化水素基が酸化されたり、水の水酸基が表面に導入されたりして酸性官能基は増加すると考えられる。
【0054】
他には、酸化剤によって活性炭の表面を酸化させ、表面酸化物を増加させる手法である。酸化剤は、次亜塩素酸、過酸化水素等が挙げられる。これらの酸化剤を含む液に活性炭を浸漬後、乾燥することで、表面酸化物量を増加させた活性炭を得ることができる。当該活性炭の表面における酸性官能基の量は後記の各試作例のとおり、表面酸化物量として測定可能である。
【0055】
中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離可能に吸着する活性炭の吸着性能は、比表面積を900m2/g以上とすることにより発揮される。活性炭の細孔が一定以上形成されることにより、該化合物の吸着性能が確保される。
【0056】
そして、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着においては、活性炭に形成された細孔分布も寄与することがわかった。本明細書において、ミクロ孔は細孔直径が1nm以下の細孔を指し、後述の実施例により導き出されるように、ミクロ孔の細孔容積(Vmic)の合計が0.35cm3/g以上とすると、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能が向上する。なお、本明細書中、各試作例の1nm以下のミクロ孔容積はMP法(Micropore法)による測定である。ミクロ孔が一定以上形成されることにより、該化合物が細孔中に捕集されやすくなると考えられる。
【0057】
また、本明細書において、メソ孔は細孔直径が2~60nmの範囲である細孔を指し、後述の実施例により導き出されるように、メソ孔の細孔容積(Vmet)の合計が0.02cm3/g以上とすると、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能が向上する。なお、本明細書中、各試作例の2~60nmの範囲のメソ孔容積はDH法(Dollimore-Heal法)による測定である。DH法の測定によるため、測定対象は2.43~59.72nmの細孔とした。メソ孔が一定以上形成されることにより、該化合物がミクロ孔にまで容易に侵入可能となると考えられる。
【0058】
加えて、ミクロ孔の細孔容積とメソ孔の細孔容積の差も効率的な中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着に寄与していると考えられる。後述の実施例により導き出されるように、ミクロ孔容積の和(Vmic)とメソ孔容積の和(Vmet)との容積差(Vs)を0.45cm3/g以上とすることにより、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を効率的に脱離可能に吸着することができる。メソ孔を発達させすぎないことに加え、ミクロ孔を良好に発達させた活性炭とすることにより、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能を向上させつつ、後の抽出操作時において、該化合物がスムーズに脱離可能とされることにより、定量測定が良好に行われることができると考えられる。
【0059】
本発明における水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析手法は、パージアンドトラップ法である。
図3に示されるように、パージアンドトラップ法は、パージアンドトラップ装置1に示されるように、水試料W中にキャリアガスGを通気して、水試料W中から揮発成分を気相A中に分配し、下流側に配置された吸着剤Fにより該揮発成分を吸着する。図中矢印方向に気体が移動する。吸着剤に吸着された揮発成分を加熱したり溶媒等により脱離させて水試料中の揮発成分を測定し分析する手法である。
【0060】
本発明の分析方法においては、測定対象である中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が存在する水試料に、キャリアガスとしての不活性ガスが通気ないしバブリングされ、水試料中から中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が気相中に分配される。不活性ガスは、例えば窒素ガスやアルゴンガス等が用いられる。不活性ガスは、1~10L/minの流量で30~120分間通気されるのがよい。流量が少なすぎると中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の水試料からの気相中への分配が不十分であったり、流量が大きすぎると下流に配置された吸着剤による対象物質の吸着が追い付かないおそれがある。また、通気時間が短すぎると中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が水試料中に残存してしまうことがあるため、一定以上の間通気し続ける必要がある。不活性ガスの通気時間は、流量や水試料の温度によるものの、10~60分間程度が良いと考えられる。通気時間が長すぎると、水の揮散量が多くなってその水分を活性炭が吸着してしまい、抽出操作時の脱離効率が悪くなったと推定される。
【0061】
水試料中に存在する中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、例えば、前掲のFTOHや後述するフッ素テロマーヨード(FTI)等のポリフルオロアルキル化合物や、ペルフルオロアルキルスルホン酸アミド(N-MeFOSAやNEtFOSA)、臭素系のPFASs等のペルフルオロアルキル化合物が挙げられる。これら化合物は、キャリアガスのバブリングによる水試料中からの気相中への分配が水温に依存する場合があるため、室温での気相中への分配が困難な場合には、水試料を適宜調温する。後述の実施例で示されるように、ペルフルオロアルキルスルホン酸アミドは40℃程度に調温されると効率よく気相中に分配される。また、水試料の温度が高すぎると水蒸気が生じて分析結果に悪影響を与えるおそれが考えられる。このため、水試料はおおよそ25(室温)~60℃程度の範囲で調温されると効率よく分析が可能である。
【0062】
水試料中から気相中に分配された中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、下流に配置された固相吸着剤により吸着される。固相吸着剤は、前記した活性炭の他に、ポリマー系吸着剤等を用いることができる。
【0063】
ポリマー系吸着剤は、例えば、スチレンジビニルベンゼン共重合体等が挙げられ、主に極性溶媒から疎水性の成分を分離する際に使用される逆相系固相吸着剤である。活性炭と同様に多孔質構造であり、主な相互作用として分子間力(ファンデルワールス力)の働きにより、疎水性成分を吸着する。
【0064】
固相吸着剤により吸着された水試料から気相中に分配された中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、有機溶媒により抽出されて測定される。有機溶媒は、例えば、ジクロロメタンや酢酸エチル、メタノール又はこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【実施例】
【0065】
〔活性炭の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集性能の検討〕
まず、発明者らは、固相吸着剤としての活性炭の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集性能を高めることにより、該化合物の定量分析の精度を向上させることができると考え、大気試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験を行った。
【0066】
[使用活性炭吸着材]
発明者らは、ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭を作成するため、下記の原料を使用した。
・繊維状活性炭
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「CF」(平均繊維径:15μm)
{以降、C1と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3010」(平均繊維径:15μm)
{以降、C2と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3012」(平均繊維径:15μm)
{以降、C3と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3013」(平均繊維径:15μm)
{以降、C4と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3015」(平均繊維径:15μm)
{以降、C5と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3018」(平均繊維径:15μm)
{以降、C6と表記する。}
・粒状活性炭
フタムラ化学株式会社製:ヤシ殻活性炭「CW480SZ」(平均粒径:250μm)
{以降、C7と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:フェノール樹脂活性炭「QW250」(平均粒径:250μm)
{以降、C8と表記する。}
【0067】
[試作例の調製]
<試作例1>
フタムラ化学製繊維状活性炭「CF」(C1)10gを試作例1の活性炭とした。
【0068】
<試作例2>
フタムラ化学製繊維状活性炭「CF」(C1)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mLに浸漬させ、220時間静置後、取り出して乾燥させ試作例2の活性炭とした。
【0069】
<試作例3>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3010」(C2)10gを試作例3の活性炭とした。
【0070】
<試作例4>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3010」(C2)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mLに浸漬させ、150時間静置後、取り出して乾燥させ試作例4の活性炭とした。
【0071】
<試作例5>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3012」(C3)10gを試作例5の活性炭とした。
【0072】
<試作例6>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3012」(C3)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mLに浸漬させ、100時間静置後、取り出して乾燥させ試作例6の活性炭とした。
【0073】
<試作例7>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3013」(C4)10gを過酸化水素濃度1.5%溶液500mLに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させ試作例7の活性炭とした。
【0074】
<試作例8>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを試作例8の活性炭とした。
【0075】
<試作例9>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを過酸化水素濃度1.5%溶液500mLに浸漬させ、40時間静置後、取り出して乾燥させ試作例9の活性炭とした。
【0076】
<試作例10>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mLに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させ試作例10の活性炭とした。
【0077】
<試作例11>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを過酸化水素濃度14.0%溶液500mLに浸漬させ、350時間静置後、取り出して乾燥させ試作例11の活性炭とした。
【0078】
<試作例12>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを過酸化水素濃度18.9%溶液500mLに浸漬させ、480時間静置後、取り出して乾燥させ試作例12の活性炭とした。
【0079】
<試作例13>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3018」(C6)10gを試作例13の活性炭とした。
【0080】
<試作例14>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3018」(C6)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mLに浸漬させ、50時間静置後、取り出して乾燥させ試作例14の活性炭とした。
【0081】
<試作例15>
フタムラ化学製ヤシ殻活性炭「CW480SZ」(C7)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mLに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させ試作例15の活性炭とした。
【0082】
<試作例16>
フタムラ化学製フェノール樹脂活性炭「QW250」(C8)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mLに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させ試作例16の活性炭とした。
【0083】
〔表面酸化物量〕
表面酸化物量(meq/g)は、Boehmの方法を適用し、0.05N水酸化ナトリウム水溶液中において各例の吸着活性炭を振とうした後に濾過し、その濾液を0.05N塩酸で中和滴定した際の水酸化ナトリウム量とした。
【0084】
〔BET比表面積〕
比表面積(m2/g)は、マイクロトラック・ベル株式会社製、自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP―miniII」を使用して77Kにおける窒素吸着等温線を測定し、BET法により求めた(BET比表面積)。
【0085】
〔平均細孔直径〕
平均細孔直径(nm)は、細孔の形状を円筒形と仮定し、細孔容積(cm3/g)及び比表面積(m2/g)の値を用いて数式(iv)より求めた。
【0086】
【0087】
〔ミクロ孔容積〕
細孔容積については、自動比表面積/細孔分布測定装置(「BELSORP-miniII」、マイクロトラック・ベル株式会社製)を使用し、窒素吸着により測定した。試作例1~16の細孔直径1nm以下の範囲の細孔容積であるミクロ孔容積の和(Vmic)(cm3/g)は、細孔直径1nm以下の範囲におけるdV/dDの値を窒素ガスの吸着等温線のt-plotからMP法により解析して求めた。
【0088】
〔メソ孔容積〕
細孔直径が2~60nmの範囲におけるdV/dDの値は、窒素ガスの吸着等温線からDH法により解析した。なお、解析ソフトにおける細孔直径2~60nmの直径範囲は2.43~59.72nmである。この解析結果より、試作例1~16細孔直径2~60nmの範囲の細孔容積であるメソ孔容積の和(Vmet)(cm3/g)を求めた。
【0089】
〔容積差〕
試作例1~16の容積差(Vs)は、ミクロ孔容積の和(Vmic)(cm3/g)からメソ孔容積の和(Vmet)(cm3/g)を引いた値であって、上記(i)式から算出した。
【0090】
試作例1~16の活性炭の物性は表1~3に示されるとおりである。表1~3の上から順に、表面酸化物量(meq/g)、BET比表面積(m2/g)、平均細孔直径(nm)、ミクロ孔容積(Vmic)(cm3/g)、メソ孔容積(Vmet)(cm3/g)、容積差(Vs)(cm3/g)である。
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
[大気試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集効率の測定]
中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物として、今回はフルオロテロマーアルコール(以降「FTOHs」と表記する。)を用いて試作例1~16について評価を行った。FTOHsは上記した化学式(ii)に表される物質であって、炭素数によって物質名が異なる。例えば、C8F17CH2CH2OHの場合は、8:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロ-1-デカノール)と命名される。
【0095】
各標準物質をメタノールで100ng/mL(100ppb)に希釈したものを軟質ポリウレタンフォーム(PUF)に100μL添加し、1段目にセットした。続いて、2段目に47mmφのケースに充填時の厚みが約2mmになるよう試作例の活性炭を充填し、20L/minの速度で22~24℃の空気を1段目のPUF及び2段目の繊維状活性炭に48時間通気した。
【0096】
通気後、試作例の活性炭をPP製の遠沈管(容量15mL)に移し、ジクロロメタンと酢酸エチルを主成分とする混合溶媒10mLを加えた。遠沈管を225rpmで10分間振とうした後、抽出液を採取した。この抽出液の採取工程を続けて2回繰り返し行い、合計30mLの抽出液を採取した。
【0097】
採取した抽出液を窒素吹き付け濃縮装置により1mLまで濃縮した後、該抽出液をGC-MS/MS(「GCMS―TQ8050」、株式会社島津製作所社製)を用いてMRMモードで定量測定を行い、捕集性能を確認した。
【0098】
表4~6に、試作例1~16の活性炭について対象物質ごとにフルオロテロマーアルコール類(FTOHs)の回収率(%)を示した。対象物質は、4:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキサノール)、4:3FTOH(IUPAC名:4,4,5,5,6,6,7,7,7-ノナノフルオロ-1-ヘプタノール)、6:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-1-オクタノール)、6:3FTOH(IUPAC名:4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9-トリデカフルオロ-1-ノナノール)、8:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロ-1-デカノール)、8:3(IUPAC名:4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11-ヘプタデカフルオロ-1-ウンデカノール)、10:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12-ヘンイコサフルオロ-1-ドデカノール)である。なお、表中、「ND」とは、定量下限値以下であることを示している。
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
[結果と考察]
試作例1~4は、いずれのFTOHにおいても回収率は定量下限値以下であり、対象物質の吸着が不十分であった。対象物質の吸着に必要な細孔ないし比表面積を有していないため、吸着性能が発揮されなかったと推察される。
【0103】
試作例5~16は、いずれのFTOHについても回収可能であった。BET比表面積が900m2/g以上とすると、対象物質の吸着が可能であることが示された。活性炭の比表面積のパラメータが各FTOHの吸着性能に一定の影響があることが推察される。また、特に繊維状活性炭である試作例5~14はいずれのFTOHの回収率において50%以上の良好な結果であった。対象物質と活性炭との接触効率の観点から、繊維状活性炭とするとより効率よくFTOHの吸着が可能であると考えられる。
【0104】
さらに、ミクロ孔とメソ孔が発達した活性炭とすると、いずれのFTOHについての吸着性能が高くなることも示された。試作例1,2は、ミクロ孔及びメソ孔がともに発達しておらず、いずれのFTOHも吸着されなかったと考えられる。試作例3,4はミクロ孔の発達はみられるがメソ孔が発達していないため、活性炭の細孔の入り口側に存在するメソ孔が少なく、ミクロ孔内にFTOHsの分子がスムーズに導入されず、吸着されなかったと考えられる。
【0105】
試作例5~16はミクロ孔及びメソ孔いずれの細孔容積も大きく、どちらの細孔も十分に発達していると考えられるため、FTOHsの分子が活性炭の細孔内にスムーズに導入され、優れた吸着性能が示されたと推察できる。試作例7~14は、特に優れたFTOHsの回収性能を示した。試作例7~14はいずれもミクロ孔の細孔容積が大きく、かつメソ孔の細孔の発達がみられるもののメソ孔の細孔容積がそれほど大きくないことが特徴である。ミクロ孔内にFTOHsの分子を吸着後、抽出操作時においてスムーズに細孔外へと脱離されやすいため、特に良好な回収率が示されたと考えられる。
【0106】
対して、試作例15,16は、ミクロ孔及びメソ孔の細孔容積がともに大きいことから、大きな細孔から小さな細孔まで複雑に発達した細孔を有する活性炭であるといえる。複雑に発達した細孔内に吸着されたFTOHsの分子は、抽出操作時において、スムーズに脱離されにくくなり、試作例7~14に比してFTOHsの回収率に若干劣ることとなったと推察される。これらの結果を鑑みると、活性炭のミクロ孔の細孔容積の和(Vmic)、メソ孔の細孔容積の和(Vmet)及びこれらの差分である容積差(Vs)がFTOHの回収率に影響があることが理解される。
【0107】
また、活性炭の細孔条件に加え、表面酸化物量を向上させることにより、親水性基を有するFTOHsとの親和性を向上させてFTOHsの吸着性能が向上するか検討したところ、同じ活性炭原料の試作例8と試作例9~12とでは、表面酸化物量を増加させた試作例9~12の方が良好な吸着性能が示された。同様に、試作例13と試作例14においても表面酸化物量の多い試作例14の方がより良い吸着性能が示された。よって、活性炭の表面酸化物量を増加させることにより、FTOHsの吸着性能をより向上させることが可能であることが理解される。
【0108】
〔水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量測定〕
次に、発明者らは下記の固相吸着剤を用いてパージアンドトラップ法による水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量測定を目的とした分析実験を行った。
【0109】
[固相吸着剤]
発明者らは、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着するための固相吸着剤として、下記の活性炭及びポリマー系吸着剤を使用した。
【0110】
<活性炭>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(平均繊維径:15μm)10gを、過酸化水素濃度4.2%溶液500mLに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させ活性炭とした。該活性炭90mgをディスク形状の固相カラムに充填した。活性炭の物性は以下のとおりである。各物性は上述したものと同様に求めた。
表面酸化物量:0.48(meq/g)
BET比表面積:1474(m2/g)
平均細孔直径:1.64(nm)
【0111】
<ポリマー系吸着剤>
スチレンジビニルベンゼン共重合体が充填されたジーエルサイエンス株式会社製「InertSep(登録商標)Slim-JPLS-2」を使用した。
【0112】
[水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分析]
中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物として、今回はFTOHs、エチルペルフルオロオクタンスルホアミド(IUPAC名:N-エチル-1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ヘプタデカフルオロオクタン-1-スルホアミド)(以降「N-EtFOSA」と表記する。)、メチルペルフルオロオクタンスルホンアミド(IUPAC名:1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ヘプタデカフルオロ-N-メチル-1-オクタンスルホンアミド(以降「N-MeFOSA」と表記する。)、フッ素テロマーヨード(以降「FTIs」と表記する。)、臭素系PFASsを用いて評価を行った。N-EtFOSAは以下の化学式(v)に表される物質である。N-MeFOSAは以下の化学式(vi)に表される物質である。FTIは以下の化学式(vii)に表される物質である。
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
各標準物質をメタノールで100ng/mL(100ppb)に希釈した標準溶液100μLを超純水300mLに添加し、33ng/L(33ppt)の水試料を作成した。作製した水試料を1Lパージ容器に封入し、キャリアガス供給ラインをセットした。キャリアガスには窒素ガスを用いた。水温、ガス流量、通気時間を適宜調整し、下流側に配置され固相吸着剤が充填された固相カラムに通気して気相中に分配された各標準物質の捕集を行った。通気後、それぞれの固相カラムに14mLのジクロロメタンと酢酸エチルを主成分とする混合溶媒を用いて1滴/秒(1drop/second)の速度で通液し、抽出液を採取した。
【0117】
採取した抽出液を窒素吹き付け濃縮装置により1mLまで濃縮した後、該抽出液をGC-MS/MS(「GCMS―TQ8050」、株式会社島津製作所社製)を用いてMRMモードで定量測定を行い、捕集性能を確認した。
【0118】
発明者らは下記の試験例1~9に記載の条件下において、水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の回収率を測定し、分析実験を行った。
【0119】
<試験例1>
固相吸着剤を活性炭とし、水試料の水温を25℃(室温)、キャリアガスを2L/minの流量で30分間通気して試験例1の分析実験とした。
【0120】
<試験例2>
固相吸着剤を活性炭とし、水試料の水温を40℃(室温)、キャリアガスを2L/minの流量で30分間通気して試験例2の分析実験とした。
【0121】
<試験例3>
固相吸着剤を活性炭とし、水試料の水温を10℃に調温し、キャリアガスを2L/minの流量で30分間通気して試験例3の分析実験とした。
【0122】
<試験例4>
固相吸着剤を活性炭とし、水試料の水温を40℃に調温し、キャリアガスを2L/minの流量で60分間通気して試験例4の分析実験とした。
【0123】
<試験例5>
固相吸着剤を活性炭とし、水試料の水温を40℃に調温し、キャリアガスを2L/minの流量で120分間通気して試験例5の分析実験とした。
【0124】
<試験例6>
固相吸着剤を活性炭とし、水試料の水温を40℃に調温し、キャリアガスを1L/minの流量で30分間通気して試験例6の分析実験とした。
【0125】
<試験例7>
固相吸着剤を活性炭とし、水試料の水温を40℃に調温し、キャリアガスを4L/minの流量で30分間通気して試験例7の分析実験とした。
【0126】
<試験例8>
固相吸着剤を活性炭とし、水試料の水温を40℃に調温し、キャリアガスを8L/minの流量で30分間通気して試験例8の分析実験とした。
【0127】
<試験例9>
固相吸着剤をポリマー系吸着剤とし、水試料の水温を40℃に調温し、キャリアガスを0.8L/minの流量で30分間通気して試験例9の分析実験とした。
【0128】
<比較例1>
また、比較例1として、固相抽出法による実験を行った。6mLシリンジ内(直径13mm)に、試作例10の繊維状活性炭を300mg充填し、固相抽出カラムとした。各標準物質をメタノールで100ng/mL(100ppb)に希釈した標準溶液100μLを超純水100mLに添加し、100ng/L(100ppt)の水試料をPPボトル内で作成した。
【0129】
固相吸着剤の前洗浄としてジクロロメタンと酢酸エチルを主成分とする混合溶媒15mLを1滴/秒(1drop/second)の速度で通液し、続いてメタノール5mL、超純水15mLの順で同様に通液した。
【0130】
続いて、調製した水試料100mLを1滴/秒(1drop/second)の速度で固相吸着剤に通液した後、水試料を用意したPPボトルに5mLの超純水を加え、再び通液することでPPボトル内に残存する対象物質を洗いこんだ。通液後、固相カラム内の水分を遠心分離(3500rpm、30分間)により除去した。
【0131】
遠心分離後、メタノール溶液4mLをPPボトル内に加えて内壁に残存した対象物質を洗いこみ、1滴/秒(1drop/second)の速度で脱水後の固相カラムに通液させて抽出液1を採取した。続けて、ジクロロメタンと酢酸エチルを主成分とする混合溶媒15mLを同様に通液させることで抽出液2を採取した。採取した抽出液を窒素吹き付け濃縮装置により1mLまで濃縮した。濃縮後、抽出液1には芒硝(Na2SO4)を50mg加えることで混入した水を除去した。該抽出液をGC-MS/MS(「GCMS―TQ8050」、株式会社島津製作所社製)を用いてMRMモードで定量測定を行い、分析結果を確認した。
【0132】
表7,8に試験例1~9の試験条件をまとめた。
【0133】
【0134】
【0135】
表9,10に、試験例1~9及び比較例1について対象物質ごとに回収率(%)を示した。対象物質は、4:2FTOH、4:3FTOH、6:2FTOH、6:3FTOH、8:2FTOH、8:3FTOH、10:2FTOH、N-EtFOSA、N-MeFOSA、6:2FTI、8:2FTI、10:2FTI、C8H3BrF6、C6BrF5である。なお表中「-」は実験不実施である。
【0136】
【0137】
【0138】
[結果と考察]
パージアンドトラップ法を用いた試験例1~9は、固相抽出法を用いた比較例1よりも水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の回収率がいずれも高く、水試料中に存在する中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物を定量測定する分析方法として、パージアンドトラップ法が適していることが示された。
【0139】
温度条件を変更した試験例1~3を比較検討する。水試料の温度を室温以下の10℃とした試験例3と水試料の温度が室温以上である条件の試験例1,2では、FTOHs、FTIs、臭素系PFASsのペル及びポリフルオロアルキル化合物についての回収率は同等ないし微増であった。このことから、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量測定においては、ことさら水試料の調温は不要であると理解される。また、室温(25℃)の試験例1と40℃に調温した試験例2では、N-EtFOSA及びN-MeFOSAのペルフルオロアルキル化合物は大幅に向上した。このことから、定量測定をおこなう目的対象物質に応じて該物質が気相中に分配可能な温度に水試料が調温されることが望ましい。なお、水試料が40℃以上に調温されることで、各化合物の安定した定量分析が可能であることが理解された。
【0140】
次に、不活性ガスの通気時間を変更した試験例2,4,5を比較検討すると、30分間通気した試験例2に比して60分間通気した試験例4の回収率は微増した。120分間通気した試験例5は一定の回収率を示したものの、試験例2,4と比較して回収率が低下した。このことから、通気時間は10~100分程度、望ましくは30~60分程度とするのがよいことが理解された。120分間通気して回収率が低下した要因としては、水の揮散量が多くなって活性炭に水が吸着されることにより、抽出操作時の脱離効率が悪くなったと推定される。
【0141】
そして、不活性ガスの流量を変更した試験例2,6~8を比較検討すると、流量が1L/minの試験例6では、一定の回収率を示したものの試験例2,7,8と比較して回収率が劣る結果となった。また、流量の大きい試験例7,8についても試験例2に比較すると回収率は若干であるものの劣る結果となった。不活性ガスの流量が小さすぎると、水試料中から中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の気相中への分配が不十分となり、流量が大きすぎると固相吸着剤による該化合物の吸着が追い付かないためだと考えられる。このことから、固相吸着剤の充填量等にも依存すると考えられるものの、不活性ガスの流量は2~8L/min程度が望ましく、特に2L/min程度が良好であることが理解された。
【0142】
固相吸着剤としてポリマー系吸着剤を使用した試作例9は、圧力損失が高く0.8L/minよりも大きい流量で不活性ガスを通気させることができなかったものの、一定の回収率を示した。ただし、不活性ガスの流量を大きくすることができないため、回収率の向上には通気時間を延長するしかないため、固相吸着剤としての適格性は活性炭の方がより優れていることが理解された。
【0143】
以上示された通り、容器中に密封され中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が気相中に分配可能な温度に調温された水試料中に、キャリアガスとしての不活性ガスが通気ないしバブリングされ、中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が水試料中より気相中に分配され、該中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物が固相吸着剤により吸着されるパージアンドトラップ法を用いることにより、水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量測定が可能であることが示された。さらには、固相吸着剤としてペルフルオロアルキル化合物の吸着性能が高い活性炭を用いることにより、より高い精度で水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量分析が可能であることが示された。
【0144】
特には、水試料は25~40℃程度に調温され、不活性ガスが2~8L/minの流量で30~60分間通気されると中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の良好な回収率が示され、より精度の高い水試料中の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量分析が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭は、パージアンドトラップ法における固相吸着剤として用いられることにより、現在では難しいとされていた水試料中に存在する揮発性を有する中性ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量測定を可能とした。また、ペル及びポリフルオロアルキル化合物を効果的に脱離可能に吸着することができる物性の活性炭を用いることにより、さらに精度を高めた該化合物の定量測定を可能とした。
【符号の説明】
【0146】
1 パージアンドトラップ装置
10 ディスク型固相カラム
11 吸気開口部
12 本体部
20 活性炭フィルター部
21 フェルト状フィルター部
A 気相
G キャリアガス
W 水試料