(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】高周波用磁性材料とその製造法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/059 20060101AFI20241025BHJP
H01F 1/08 20060101ALI20241025BHJP
H01F 1/09 20060101ALI20241025BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20241025BHJP
H01F 1/33 20060101ALI20241025BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20241025BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20241025BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20241025BHJP
B22F 1/12 20220101ALI20241025BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20241025BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20241025BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20241025BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
H01F1/059
H01F1/059 130
H01F1/08 130
H01F1/09
H01F1/153 125
H01F1/33
H01F41/02 D
B22F1/052
B22F1/00 U
B22F1/12
B22F1/00 W
B22F3/00 B
C22C33/02 J
C22C38/00 303S
C22C38/00 303D
C21D6/00 B
C21D6/00 C
(21)【出願番号】P 2023509170
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2022012999
(87)【国際公開番号】W WO2022202760
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-10-10
(31)【優先権主張番号】P 2021052020
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今岡 伸嘉
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 公洋
(72)【発明者】
【氏名】昆 竜矢
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-45247(JP,A)
【文献】特開2002-194586(JP,A)
【文献】特開2005-60805(JP,A)
【文献】特開平3-153851(JP,A)
【文献】特開2004-190781(JP,A)
【文献】特開平6-88169(JP,A)
【文献】特開平6-235051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/059
H01F 1/08
H01F 1/09
H01F 1/153
H01F 1/33
H01F 41/02
B22F 1/052
B22F 1/00
B22F 1/12
B22F 3/00
C22C 33/02
C22C 38/00
C21D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主相の組成が以下の式1に示す一般式で表され、0.001GHz以上100GHz以下の周波数領域で使用される高周波用磁性材料。
R
xFe
(100-x-y-z)M
yN
z (式1)
(RはYを含む希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素、Feは鉄元素、MはTi、V、Mo、Nb、W、Si、Al、Mn及びCrからなる群から選択される少なくとも1種の元素、Nは窒素元素であり、x、y、zは、2原子%≦x≦15原子%、0.5原子%≦y≦25原子%、3原子%≦z≦50原子%を満たす。)
【請求項2】
前記式1のFeがCo又はNi元素で50原子%以下置換されている、請求項1に記載の高周波用磁性材料。
【請求項3】
前記式1中のRがSm元素を50原子%以上含む、請求項1又は2に記載の高周波用磁性材料。
【請求項4】
前記主相の結晶構造が正方晶である、請求項1から3のいずれか一項に記載の高周波用磁性材料。
【請求項5】
結晶磁気異方性が面内磁気異方性である、請求項1から4のいずれか一項に記載の高周波用磁性材料。
【請求項6】
前記主相の結晶構造が非晶質である、請求項1又は2に記載の高周波用磁性材料。
【請求項7】
前記式1中のNの50原子%未満が、H、C、P、Si及びSからなる群から選択される少なくとも1種の元素で置き換えられている、請求項1から6のいずれ一項に記載の高周波用磁性材料。
【請求項8】
0.1μm以上2000μm以下の平均粒径を有する粉体である、請求項1から7のいずれか一項に記載の高周波用磁性材料。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の高周波用磁性材料を1質量%以上99.999質量%以下で含み、
金属Fe、金属Ni、金属Co、Fe-Ni系合金、Fe-Ni-Si系合金、センダスト、Fe-Si-Al系合金、Fe-Cu-Nb-Si系合金、
アモルファス合金、マグネタイト、Ni-フェライト、Zn-フェライト、Mn-Znフェライト及びNi-Znフェライトからなる群から選択される少なくとも1種を0.001質量%以上99質量%以下で含む、
高周波用磁性材料。
【請求項10】
前記金属Feがカルボニル鉄粉である、請求項9に記載の高周波用磁性材料。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の高周波用磁性材料を1質量%以上99.999質量%以下で含み、
セラミックス材料を0.001質量%以上99質量%以下で含む、
高周波用磁性材料。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の高周波用磁性材料を5質量%以上99.9質量%以下で含み、
樹脂を0.1~95質量%で含む、
高周波用磁性材料。
【請求項13】
前記樹脂が、溶解性パラメータが10以上15以下であるセグメントを含む、請求項12に記載の高周波用磁性材料。
【請求項14】
磁場配向している、請求項1から13のいずれか一項に記載の高周波用磁性材料。
【請求項15】
前記式1に記載のR、Fe、Mを主成分とする合金を、アンモニアガスを含む窒化雰囲気下で、100℃以上600℃以下の範囲で熱処理することにより請求項1に記載の高周波用磁性材料を製造する方法。
【請求項16】
請求項15に記載の製造方法によって製造される請求項1に記載の高周波用磁性材料を、溶解性パラメータが10以上15以下であるセグメントを含む樹脂と混錬して、圧縮成形、射出成形、及び/又はカレンダー成形することにより請求項12に記載の高周波用磁性材料を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、0.001GHz以上100GHz以下の高周波領域で使用される磁性材料(すなわち、高周波用磁性材料)及びその製法に関する。
また、本発明は、当該高周波用磁性材料を他の材料(例えば、非磁性のセラミックス材料及び/又は樹脂)と複合させて用いる高周波用磁性材料に関する。中でも特に、樹脂を含む高周波用磁性材料及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記動力機器や情報通信関連機器用の磁性材料としては、例えば、トランス用、ヘッド用、インダクタ用、リアクトル用、ヨーク用、コア(磁芯)用などの磁性材料や、アンテナ用、マイクロ波素子用、磁歪素子用、磁気音響素子用及び磁気記録素子用などの磁性材料や、ホールセンサ(ホール素子)用、磁気センサ用、電流センサ用、回転センサ用、電子コンパスなどの磁場を介したセンサ類用などの磁性材料に関するもので、特に無線給電(ワイヤレス電力伝送、非接触電力伝送とも呼ばれる)システムに使用されるコイルのコアやアンテナのコア用などの磁性材料がある。
上記不要な電磁波干渉による障害抑制用の磁性材料としては、例えば、電磁ノイズ吸収用、電磁波吸収用、磁気シールド用などの磁性材料や、ノイズ除去用インダクタなどのインダクタ素子用磁性材料や、RFID(Radio Frequency Identification)タグ用磁性材料や、高周波で信号からノイズを除去するノイズフィルタ用磁性材料がある。
【0003】
最近、モバイル型情報通信機器であるパーソナルコンピュータや携帯電話、デジタルカメラなどの各種情報通信機器の小型多機能化や演算処理速度の高速化に伴って駆動周波数の高周波化が急速に進展しており、0.001GHz以上100GHz以下の周波数の高周波、中でも1GHz以上の超高周波を利用した機器の普及は拡大の一途を辿っている。マイクロ波帯域の電磁波を利用する衛星通信、移動体通信、カーナビゲーションなどの機器は近年大幅に需要を伸ばし、例えば、自動車料金収集システム(ETC)、無線LANなどの近距離無線通信、衝突防止レーダなどの車載用ミリ波レーダなどの技術の普及も始まっている。また、無線給電システム分野においても高周波化が進んでいる。携帯電話や自動掃除機など家電用低周波充電が普及し、さらに停車中の電気自動車などの低周波での充電も実用化されたが、最近移動中の次世代自動車などに対する高周波給電などの実証試験もなされ、さらにマイクロ波による発電所からの大電力無線給電などが検討されている。以上のような高周波、特に超高周波の利用の流れが進む中、高い周波数の電磁場変化にも損失無く対応できる磁性材料が強く求められている。
その一方で、これらの高周波機器が外界に放出する電磁波による電磁環境の悪化(具体的には、他の機器や生体への電磁障害)が問題視されており、現在、公的機関や国際機関による法規制、自主規制の動きが活発化している。このように、個々の機器においては有用な信号(電磁波)が、他の機器や生体にとっては障害になることがあるため、この問題への対応が非常に難しい。この問題を解決するためには、機器の特性として、不要な電磁波(電磁ノイズ)を放出せず、外来ノイズに対して強い耐性を持つこと、すなわち、電磁波障害(EMI:Electro-Magnetic Interference)と被害(EMS:Electro-Magnetic Susceptibility)の両面を視野に入れた電磁両立性(EMC:Electro-Magnetic Compatibility)の確立が重要になる。
【0004】
上記EMC対策の一例として、以下に最近電子機器でよく用いられている電磁ノイズ吸収材料を中心に述べる。
電磁ノイズ吸収材料は、電磁ノイズ発生源の近傍において、電磁波を外界に放出するのを抑制する働きをもつ材料である。数百MHz以上の高周波数領域では、Ni-Znフェライトなどの自然共鳴を利用して線路を伝わる高調波などの高周波の電磁ノイズを吸収し、熱エネルギーに変換してノイズを抑制するシート状の電磁ノイズ吸収材料がよく用いられている。要求される磁気特性としては、磁性材料の比透磁率が高いことと、自然共鳴周波数が高いことの2点である。酸化物磁性材料のフェライトは電気抵抗率が高いため、渦電流損失による性能劣化が小さく、高周波領域で使用するには好ましい材料とされてきた。
【0005】
他方、特許文献1にも述べられているように、超高周波領域でのフェライトの透磁率の虚数項の値は1~2程度かそれより小さいため、フェライト系の酸化物磁性材料は、GHz帯(領域)の電磁ノイズ吸収材料に適用するのは困難である。このため、近年では、フェライト系の酸化物磁性材料よりも飽和磁化値の大きいFeやFe-Ni系合金、Fe-Ni-Si系合金、センダスト、Fe-Cu-Nb-Si系合金、アモルファス合金などの金属系磁性材料の利用が活発となり、磁性金属微粒子を絶縁性の樹脂などに分散させた磁性材料が、電磁ノイズ吸収材料として開発されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、金属系磁性材料の電気抵抗率は、10から140μΩcmであり、フェライトの電気抵抗率4000から1018μΩcmと比較してかなり低い。このため、高い周波数まで高透磁率を実現することができず、高周波領域で使用することは難しい。何故なら、渦電流損失によって低い周波数領域から透磁率が低下し始めるのを防ぐために絶縁層を必要とするため、その絶縁層による非磁性の部分が本来有している磁性材樹脂複合材料の高周波領域の複素比透磁率を低めてしまうことになるからである。さらに、1GHzを超える超高周波数領域になると、このような複合材料であっても、渦電流損失の影響による透磁率の低下は避けられない。
【0008】
また、形状異方性を付与した金属系磁性体も開発されているが、基本的に特許文献1と同様な考察により、金属系磁性体フィラーの厚みを0.2μm未満にする必要があり、ある程度充填率を稼ぎ透磁率を大きくしても超高周波用途への適用には限度がある。
このため高周波領域(特に超高周波領域)で、透磁率がより高く、電磁ノイズの抑制性能により優れた電磁ノイズ吸収材料用の磁性材料、更には量産容易で、可撓性が求められる用途にも適応できる適応範囲の広い電磁ノイズ吸収材料(例えば、樹脂の中に分散させてシートにすることができる磁性材料)の開発が強く望まれてきた。
【0009】
このような理由から、優れた高周波用磁性材料としては、例えば電磁ノイズ吸収材料におけるスプリアスや電磁ノイズを抑制・吸収するための高周波吸収材料として使用しても、また高周波用コア(磁芯)やRFIDタグ用材料や無線給電システム用のコイルのコアのように使用周波数の磁場や電磁波に比例して増幅した磁場や電磁場を発生させるための高周波増幅材料として使用しても、高周波領域(必要に応じて超高周波領域)まで複素比透磁率の実数項の値が低下せず虚数項の値が増加しないことが重要である。
加えて、高周波吸収材料として使用する場合は、高周波領域(必要に応じて超高周波領域)で複素比透磁率の虚数項の値が、低周波領域では0に近くても、周波数とともに増加して不要輻射や高調波などが存在する所望の周波数で十分大きいことが重要である。
【0010】
さらに、高周波信号用のRFIDタグや無線給電システム用のコイルのコアなどにおける信号の大きさを増幅させるため、信号が存在する周波数領域で高い透磁率の実数項を実現させることが重要であるが、用途によっては、同時に、ある周波数より低い周波数側の信号を吸収せず、高周波から超高周波領域にある高調波のようなノイズを吸収して取り去ることも必要になることがある。特に、1GHzを境としてそれよりも低い周波数領域では複素比透磁率の虚数項(μ”)の値が0に近く、高い周波数領域(即ち、超高周波領域)では大きな虚数項(μ”)の値を有する材料が求められることがある(なお、後述で定義する「1GHz以上の選択吸収比」が大きい材料ほど上記目的により適合する材料である)。
しかし、従来では、高周波用途の磁性材料としては、本発明者らが知る限り、上述の酸化物磁性材料や金属系磁性材料しか用いられていない。そして、上述のとおり、酸化物磁性材料(特に、電気抵抗率の高いフェライト系酸化物磁性材料)を使用しても、渦電流損失による問題は小さくても十分な透磁率が得られないという問題があり、金属系磁性材料を使用しても、透磁率は高いが電気抵抗率が小さいために低い周波数領域で渦電流損失が起こるという問題があり、どちらも高周波用途の磁性材料としては適さないという問題点があった。
特許文献1ではこの問題点を、窒化物材料を用いて解決しようとしているが、当該特許文献に開示されている材料では、例えば超高周波領域で高い透磁率を有する電磁波吸収材料や0.001GHz以上0.1GHz以下の高周波領域で使用される磁場増幅材料などの高周波増幅材料として十分な性能を発揮できない。
このような状況下において、高周波用磁性材料として0.001GHz以上100GHz以下に亘る高周波領域でも従来以上の性能が発揮可能な新たな磁性材料の開発が希求されているという現状がある。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、窒化物系の磁性材料を用いた新しい高周波用磁性材料、具体的には、結晶構造や粒径を制御した希土類-鉄-M-窒素系磁性材料(ここで、MはTi、V、Mo、Nb、W、Si、Al、Mn及びCrからなる群から選択される少なくとも1種の元素)を高周波用途の磁性材料として用いることで、酸化物磁性材料よりも磁化が高いために高い透磁率を実現することが可能で、且つ金属材料よりも電気抵抗率が高いために前述の渦電流損失などの問題点を解決することも可能な新しい高周波用磁性材料を提供することを目的とする。
また、本発明は、結晶構造や粒径を制御した上記希土類-鉄-M-窒素系磁性材料に樹脂やセラミックス材料を複合することで、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料の電気抵抗率をさらに高くすることができ、前述の渦電流損失などの問題点をより効果的に解決することが可能な新しい窒化物系磁性材料であって、高性能(具体的には、高い透磁率)を有する窒化物系磁性材料を高周波用複合磁性材料として提供することを目的とする。
また、本発明は、0.001GHz以上100GHz以下の高周波領域で使用される電磁場増幅用及び電磁場吸収用の磁性材料、特に0.001GHz以上0.1GHz以下の高周波領域で使用される磁場増幅材料を提供することを目的とする。
【0012】
本願における「高周波用磁性材料」とは、高周波領域で使用される磁性材料(いわゆる、高周波用磁性材料)として機能する磁性材料のことである。そのため、本願における「高周波用磁性材料」には、異なる2種類以上の磁性材料、又は1種以上の磁性材料と非磁性材料(例えば、非磁性のセラミックス材料及び/又は樹脂)が複合することによって得られる磁性材料であって、高周波領域で使用される磁性材料(いわゆる、高周波用磁性材料)として機能する磁性材料も含まれる。このような磁性材料を本願では「高周波用複合磁性材料」と称することもある。本願において「複合」とは、磁性材料が異なる2種類以上の磁性材料で構成される場合は、当該磁性材料占める領域を異なる磁性材料で、また、磁性材料が1種以上の磁性材料と非磁性材料で構成される場合は、当該磁性材料を占める領域を非磁性材料で、分断或いは被覆している状態を意味する。
また、「高周波用複合磁性材料」のうち樹脂を含むもの、例えば、1種以上の磁性材料と樹脂との複合又は1種以上の磁性材料とセラミックス材料と樹脂との複合によって高周波領域で使用される磁性材料(いわゆる、高周波用磁性材料)として機能する磁性材料を本願では「高周波用樹脂複合磁性材料」と称することもある。
このように上記「高周波用複合磁性材料」と「高周波用樹脂複合磁性材料」はどちらも高周波用磁性材料として機能するものであるから、広義には「高周波用磁性材料」である。そのため、本願における「高周波用磁性材料」には、上記「高周波用複合磁性材料」と「高周波用樹脂複合磁性材料」の両方が含まれる。
また、本願では、異なる2種類以上の磁性材料、又は1種以上の磁性材料と非磁性材料(例えば、非磁性のセラミックス材料及び/又は樹脂)が複合することによって得られる磁性材料を単に「複合磁性材料」と称し、そのうち樹脂を含むものを単に「樹脂複合磁性材料」と称することもある。
本願では、0.001GHz以上100GHz以下の周波数の電磁波を「高周波」と称し、その中で「超高周波」とは1GHz以上の高周波を意味する。本願では特に断らない限り、「超高周波」も「高周波」に含む。よって、本願において「高周波領域」とは、0.001GHz以上100GHz以下の周波数の電磁波領域を指し、その中の1GHz以上の周波数の電磁波領域を「超高周波領域」を指す。
また、本願では特に断らない限り、上記「高周波」より低い周波数を有する電磁波を「低周波」と称する。
さらに本願における「高周波用磁性材料」とは、0.001GHz以上100GHz以下の周波数範囲の電場、磁場または電磁場に作用して「目的の機能」を奏する磁性材料であり、「高周波用複合磁性材料」はこれに含まれる。ここで「目的の機能」とは、磁性材料の電磁誘導、自己誘導、高透磁率、高周波損失、磁歪、磁区形成、半硬磁性などの磁気的機能のことであり、本発明の「高周波用複合磁性材料」は、これらの機能を利用した素子、部品、または機器などに使用される。本願では、このうち高周波領域で使用される磁場増幅材料などの高透磁率を目的の機能とする磁性材料を「高周波増幅材料」、高い高周波損失を目的の機能とする磁性材料を「高周波吸収材料」と称することもある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、従来の磁性材料における背反する特性を併せ持った電磁気特性の優れた高周波用磁性材料(具体的には、透磁率が高く、且つ電気抵抗率が高くて前述の渦電流損失の問題点を解決し得る、金属系磁性材料と酸化物磁性材料双方の利点を併せ持った電磁気特性の優れた高周波用磁性材料)を鋭意検討したところ、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料(ここで、MはTi、V、Mo、Nb、W、Si、Al、Mn及びCrからなる群から選択される少なくとも1種の元素)を高周波用磁性材料として使用し、当該希土類-鉄-M-窒素系磁性材料の組成や結晶構造や粒径の調整、セラミックスや樹脂や他の磁性材料との配合の調整をすることによって、上記問題点を解決し得る極めて高い電磁特性を有した高周波用磁性材料が得られることを見出し、さらに、その製造法を確立することにより、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、具体的には以下のとおりである。
(1) 主相の組成が以下の式1に示す一般式で表され、0.001GHz以上100GHz以下の周波数領域で使用される高周波用磁性材料。
RxFe(100-x-y-z)MyNz (式1)
(RはYを含む希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素、Feは鉄元素、MはTi、V、Mo、Nb、W、Si、Al、Mn及びCrからなる群から選択される少なくとも1種の元素、Nは窒素元素であり、x、y、zは、2原子%≦x≦15原子%、0.5原子%≦y≦25原子%、3原子%≦z≦50原子%を満たす。)
(2) 前記式1のFeがCo又はNi元素で50原子%以下置換されている、上記(1)に記載の高周波用磁性材料。
(3) 前記式1中のRがSm元素を50原子%以上含む、上記(1)又は(2)に記載の高周波用磁性材料。
(4) 前記主相の結晶構造が正方晶である、上記(1)から(3)のいずれかに記載の高周波用磁性材料。
(5) 結晶磁気異方性が面内磁気異方性である、上記(1)から(4)のいずれかに記載の高周波用磁性材料。
(6) 前記主相の結晶構造が非晶質である、上記(1)又は(2)に記載の高周波用磁性材料。
(7) 前記式1中のNの50原子%未満が、H、C、P、Si及びSからなる群から選択される少なくとも1種の元素で置き換えられている、上記(1)から(6)のいずれかに記載の高周波用磁性材料。
(8) 0.1μm以上2000μm以下の平均粒径を有する粉体である、上記(1)から(7)のいずれかに記載の高周波用磁性材料。
(9) 上記(1)から(8)のいずれかに記載の高周波用磁性材料を1質量%以上99.999質量%以下で含み、
金属Fe、金属Ni、金属Co、Fe-Ni系合金、Fe-Ni-Si系合金、センダスト、Fe-Si-Al系合金、Fe-Cu-Nb-Si系合金、アモルファス合金、マグネタイト、Ni-フェライト、Zn-フェライト、Mn-Znフェライト及びNi-Znフェライトからなる群から選択される少なくとも1種を0.001質量%以上99質量%以下で含む、
高周波用磁性材料。
(10) 前記金属Feがカルボニル鉄粉である、上記(9)に記載の高周波用磁性材料。
(11) 上記(1)から(10)のいずれかに記載の高周波用磁性材料を1質量%以上99.999質量%以下で含み、
セラミックス材料を0.001質量%以上99質量%以下で含む、
高周波用磁性材料。
(12) 上記(1)から(11)のいずれかに記載の高周波用磁性材料を5質量%以上99.9質量%以下で含み、
樹脂を0.1質量%以上95質量%以下で含む、
高周波用磁性材料。
(13) 前記樹脂が、溶解性パラメータが10以上15以下であるセグメントを含む、上記(12)に記載の高周波用磁性材料。
(14) 磁場配向している、上記(1)から(13)のいずれかに記載の高周波用磁性材料。
(15) 前記式1に記載のR、Fe、Mを主成分とする合金を、アンモニアガスを含む窒化雰囲気下で、100℃以上600℃以下の範囲で熱処理することにより上記(1)記載の高周波用磁性材料を製造する方法。
(16) 上記(15)に記載の製造方法によって製造される上記(1)記載の高周波用磁性材料を、溶解性パラメータが10以上15以下であるセグメントを含む樹脂と混錬して、圧縮成形、射出成形、及び/又はカレンダー成形することにより上記(12)に記載の高周波用磁性材料を製造する方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高周波用磁性材料として、0.001GHz以上100GHz以下に亘る全ての高周波領域で使用可能な新たな磁性材料を提供することができる。
本発明によれば、例えば、透磁率が高く、渦電流損失の小さな高周波用磁性材料、特に超高周波領域(特に1GHz以上の超高周波領域)で電磁波吸収材として機能したり、或いは高周波領域(特に0.1GHz以下の高周波領域)で高周波増幅材料として機能したりする高周波用複合磁性材料などにも好適に利用される高周波用磁性材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】Sm
6.4Fe
70.5Ti
6.4N
16.7磁性粉体(実施例1)とSm
7.7Fe
84.6Ti
7.7原料合金粉体(比較例1)のX線回折図(Co-Kα線源)である。
【
図2】Sm
6.4Fe
70.5Ti
6.4N
16.7磁性粉体を微粉砕した高周波用磁性材料粉体(実施例2)とSm
7.7Fe
84.6Ti
7.7原料合金粉体(比較例1)の比透磁率の周波数変化を示す図である。
【
図3】Sm
7.2Fe
72.4V
14.5N
5.9系磁性材料(実施例3)の比透磁率の周波数変化を示す図である。
【
図4】Ce
7.7Fe
84.6Ti
7.7原料合金断面の焼鈍前後のSEM(走査電子顕微鏡)写真である。Aは焼鈍前、Bは焼鈍後を示す。図中黒色の領域はFe-Ti合金相、灰色の領域はCeFe
11Ti合金相、白色の領域はCe
2Fe
17合金相等のCe富化相である。
【
図5】Ce
5.3Fe
58.2Ti
5.3N
31.2磁性粉体(実施例4)とCe
7.7Fe
84.6Ti
7.7原料合金粉体(比較例2)のX線回折図(Co-Kα線源)である。
【
図6】Ce
5.3Fe
58.2Ti
5.3N
31.2磁性粉体(実施例4)とCe
7.7Fe
84.6Ti
7.7原料合金粉体(比較例2)の比透磁率の周波数変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の「高周波用磁性材料」は、主相の組成が以下の式1、すなわち、
RxFe(100-x-y-z)MyNz (式1)
(RはYを含む希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素、Feは鉄元素、MはTi、V、Mo、Nb、W、Si、Al、Mn及びCrからなる群から選択される少なくとも1種の元素、Nは窒素元素であり、x、y、zは、2原子%≦x≦15原子%、0.5≦y≦25原子%、3≦z≦50原子%を満たす。)
に示す一般式で表され、0.001GHz以上100GHz以下の周波数領域で使用される高周波用磁性材料である。
つまり、本発明の「高周波用磁性材料」は、「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料」(ここで、希土類はYを含む希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素、Feは鉄元素、MはTi、V、Mo、Nb、W、Si、Al、Mn及びCrからなる群から選択される少なくとも1種の元素、窒素は窒素元素を意味する。)を使用するものである。そして、本発明の「高周波用磁性材料」は、当該「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料」の主相の組成が上記式1を満たすものである。
本発明の「高周波用磁性材料」(すなわち、「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料」(ここで、希土類はYを含む希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素、Feは鉄元素、MはTi、V、Mo、Nb、W、Si、Al、Mn及びCrからなる群から選択される少なくとも1種の元素、窒素は窒素元素を意味する)であって、その主相の組成が上記式1を満たすもの)の主な形態は粉体であり、本願ではこれを「高周波用磁性材料粉体」と称することもある。
この高周波用磁性材料粉体は、その組成、及び粒径を調整し、必要に応じてセラミックスや樹脂などの成分を加えて成形した後、高周波用複合磁性材料として各種用途に用いられる。高周波用複合磁性材料においては、強磁性は主に希土類-鉄-M-窒素系磁性材料成分が担うが、その材料粉体間にセラミックス材料や樹脂が共存すると大幅な電気抵抗率の向上が達成される。また、ナノセラミックス材料や溶解性パラメータが10以上15以下の極性を有する樹脂を導入して調整することによって、高周波用磁性材料粉体である希土類-鉄-M-窒素系磁性材料粉体の孤立分散を進めることにより、大幅な電気抵抗率の向上が達成される。なお、本願において「ナノ」とは、特に断らない限り、1nm以上1000nm未満のスケールを意味する。
これらの高周波用複合磁性材料を用いれば、渦電流損失を大幅に低減した、0.001GHz以上100GHz以下の高周波領域で使用する電磁波吸収材料や0.001GHz以上0.1GHz以下の高周波領域で使用される高周波増幅材料が得られる。
【0018】
以下、本発明の「高周波用磁性材料」として使用する上記「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料」の組成、並びに、その結晶構造と形態と磁気異方性について説明する。また、それら材料の製造方法(特に、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料を得るために、希土類-鉄―M-系原料合金を窒化する方法)についても説明する。
本発明の「高周波用磁性材料」は、上述のとおり、「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料」(ここで、希土類はYを含む希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素、Feは鉄元素、MはTi、V、Mo、Nb、W、Si、Al、Mn及びCrからなる群から選択される少なくとも1種の元素、窒素は窒素元素を意味する)である。
本発明の「高周波用磁性材料」として使用する上記「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料」の主相の組成は、具体的には、上記式1に記載の一般式で示されるが、上記式1中の希土類元素(R)としては、以下の希土類元素:Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含めばよい。従って、ミッシュメタルやジジム等の二種以上の希土類元素を混合した原料を用いてもよいが、好ましい希土類元素としては、Sm、Y、Ce、La、Pr、Nd、Gd、Dy、Er及びYbからなる群から選択される少なくとも一種の元素である。さらに好ましくは、Sm、Y及びCeからなる群から選択される少なくとも一種の元素である。
Sm、Y又はCeの少なくとも1種をR成分全体の50原子%以上含むことは、透磁率や後述で定義される「最大吸収エネルギー係数」が2GHzを超える材料、さらには5GHzを超える際立って高い材料が得られるのでより好ましく、特に、耐酸化性能やコストのバランスから、Smを50原子%以上含むことが好ましい。
【0019】
本発明の「高周波用磁性材料」として使用する上記「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料」の主相の結晶構造は、正方晶、六方晶、菱面体晶及び非晶質の中から選択される少なくとも1種であることが好ましく、正方晶又は非晶質であることがより好ましい。
正方晶、六方晶、菱面体晶及び非晶質の中から選択される少なくとも1種(特に、正方晶又は非晶質)の結晶構造を有する希土類-鉄-M-窒素系磁性材料(以下、この材料を「R-Fe-M-N系磁性材料」とも称し、この「R」を「希土類成分」又は「R成分」とも称する。)において、積極的に面内磁気異方性を利用しようとする本発明の目的の一つに鑑みて、希土類成分中のSm、Y又はCeの含有量は希土類成分中50原子%以上であることが好ましい。これは、正方晶の結晶構造を有する希土類-鉄-M-窒素系磁性材料では、希土類成分をSmとすると、室温以上で一軸異方性定数Kuが負になるため、その結晶磁気異方性が面内の材料となり、その他のPr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Luなどでは、室温以上で一軸異方性定数Kuが正になるため、これらの結晶磁気異方性が一軸の材料となる傾向があるためである。なお、本発明の非晶質の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料の結晶磁気異方性は、ほぼ等方性であり、0.001GHz以上0.1GHz以下の範囲で使用される磁場増幅材料などの高周波増幅材料として好適に使用される。
ここで用いる希土類元素は、工業的生産により入手可能な純度でよく、製造上混入が避けられない不純物、例えば、O、H、C、Al、Si、F、Na、Mg、Ca、Liなどが存在していても差し支えない。
【0020】
本発明の「高周波用磁性材料」として使用する上記「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料(R-Fe-M-N系磁性材料)」中の希土類成分(R成分)含有量は、当該磁性材料組成中2原子%以上15原子%以下とするのが好ましい。R成分を2原子%以上とすることは、その含有量未満になると、鉄成分を多く含む軟磁性金属相が母合金鋳造・焼鈍後も許容量を超えて分離し、このような種類の軟磁性金属相は後述で定義する「最大吸収周波数」を低い周波数領域に持ち、透磁率を低下させ、本発明の目的のひとつである高周波領域(特に、超高周波領域)での高周波用磁性材料としての機能を阻害させてしまうという問題が生じるのを回避するうえで好ましい。
またR成分含有量を15原子%以下とすることは、その含有量を超えると透磁率や磁化が低下してしまうという問題が生じるのを回避するうえで好ましい。さらに好ましいR成分の組成範囲は5原子%以上10原子%以下である。
鉄(Fe)は、本発明において強磁性を担う「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料(R-Fe-M-N系磁性材料)」の基本成分であり、その含有量は、当該磁性材料組成中10原子%以上とするのが好ましい。鉄成分(Fe成分)含有量を10原子%以上とすることは、その含有量未満になると透磁率や磁化が小さくなってしまうという問題が生じるのを回避するうえで好ましい。また、鉄成分(Fe成分)含有量を当該磁性材料組成中94.5原子%以下とすることは、その含有量を超えると、Feを多く含む軟磁性金属相が分離し、上記R成分が不足する場合(即ち、R成分含有量が2原子%未満の場合)と同様な問題を生じるのを回避する点で好ましい。鉄成分(Fe成分)の組成範囲を40原子%以上85原子%以下とすると、透磁率が高く、自然共鳴周波数又は最大吸収周波数がより好ましい範囲にあるバランスの取れた材料となるので、当該組成範囲が特に好ましい。
【0021】
本発明の「高周波用磁性材料」として使用する上記「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料(R-Fe-M-N系磁性材料)」中の「M成分」は、Ti、V、Mo、Nb、W、Si、Al、Mn及びCrからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。M成分の導入は、特に正方晶の結晶構造を有する希土類-鉄-M-窒素系磁性材料を作製するのに必須である。また、アンモニアと水素の混合ガスを使用する窒化法を適用した場合、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料が比較的低温、低分圧、短時間で非晶質材料とすることができ、M成分を含まない場合に比べ、均質で高透磁率で、自然共鳴周波数又は最大吸収周波数が高い非晶質の本発明の高周波用磁性材料が作製可能である。
正方晶の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料の場合、結晶構造の中のM成分のサイトとしては、8i、8j、8fの3種類が存在するが、M成分によりその占有位置は異なる。Ti、V、Mo、Nb、Wは、主に8iサイトを占め、そのM成分を含む希土類-鉄-M-窒素系磁性材料は面内異方性の材料になり得るものがあって、高周波数領域で透磁率が高い高周波用磁性材料となる。M成分が、Si、Alの場合、逆に主に8j、8fサイトに入る。このM成分を含むR-Fe-M-N系磁性材料のうち、N成分の量が7原子%を超えると、特に超高周波数領域で使用可能な高周波用磁性材料となる。M成分がMn、Crの場合、8i、8j、8fの全てのサイトに占有する。特にM成分量が7原子%を超えて25原子%以下の範囲で、高い最大吸収周波数を有する。
上記「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料(R-Fe-M-N系磁性材料)」中のM成分の含有量は0.5以上25原子%以下であることが必要である。
特に正方晶の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料を作製する場合、2原子%以上とすることが好ましい。非晶質の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料を作製する場合は、その構造を安定化させるために、M成分量を0.5原子%以上とする必要がある。何れの結晶構造である場合でも、M成分が含まれることにより、透磁率や最大吸収エネルギー係数が非常に高い高周波用磁性材料となる。また、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料中のM成分量が25原子%を超えると、透磁率が非常に低くなって好ましくないだけでなく、好ましい結晶構造が維持できない。
本願中の本発明に関する記述において、「鉄成分」或いは「Fe成分」と表記した場合、又は「R-Fe-M-N系」などの式中や磁性材料組成を論ずる文脈の中で「Fe」或いは「鉄」と表記した場合、特に断らない限り、本発明の高周波用複合磁性材料における「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料」の基本成分である鉄(Fe)の50原子%以下をCo又はNiの強磁性元素で置き換えた組成も含み得る。この場合、鉄成分(Fe成分)の0.01原子%以上50原子%以下をCo又はNiで置き換えることが好ましいが、鉄成分(Fe成分)の1原子%以上50原子%以下をCo又はNi成分で置き換えることが、高い耐酸化性能を得るために、さらに高い透磁率を実現するために特に好ましい。
Co又はNi成分の置換量を鉄成分(Fe成分)の50原子%以下とすることは、その置換量を超えると、製造コストの上昇に対する上記の効果が小さくコストパフォーマンスで利得が得られないばかりか、磁気特性が不安定となるという問題が生じるのを回避するうえで好ましい。また、Co又はNi成分の置換量を鉄成分(Fe成分)の0.01原子%以上とすることは、その置換量未満であると、置き換えの効果がほとんど見られないという問題が生じるのを回避するうえで好ましい。
【0022】
本発明は、上述のとおり、高周波用磁性材料として「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料」を使用することを特徴とし、酸化物磁性材料や金属系磁性材料を利用した場合には難しい高周波領域での使用を可能にする磁性材料である。そして、特に優れた「目的の機能」を発現させるためには、本発明で使用する「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料」の基本成分である窒素(N)の含有量を、当該磁性材料組成中3原子%以上50原子%以下の範囲とするのが望ましい。窒素(N)成分の含有量を50原子%以下とすることは、その含有量を超えると透磁率が全般に低くなるという問題が生じるのを回避するうえで好ましい。また、窒素(N)成分を3原子%以上とすることは、その含有量未満では高周波領域、或いは超高周波領域での透磁率があまり向上しないという問題が生じるのを回避するうえで好ましい。正方晶系の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料の場合、希土類成分やM成分の種類や含有量によるが、窒素成分の含有量を3原子%以上25原子%以下、非晶質の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料の場合、窒素成分の含有量を10原子%以上50原子%以下とするのが好ましい。菱面体晶や六方晶の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料に比べ、結晶が熱力学的に不安定な正方晶の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料の場合、より窒素含有量が小さい領域で非晶質化しやすく、また低温短時間で窒化非晶質化するので、窒化鉄、窒化希土類やM成分の窒化物などの結晶相が分離することなく、全体が均質に窒化非晶質化する。これは本発明の磁性材料を作製するうえで、正方晶の希土類-鉄-M原料合金を使用するのが好ましい理由になっている。
本発明の高周波用磁性材料として使用される磁性材料に窒素が含有されることが、本発明の高周波用磁性材料における組成上の重要な特徴のひとつであるが、それによる主な効果のひとつは電気抵抗率の増大である。これにより、渦電流損失が増大すると、複素比透磁率の実数項が低下して、高周波領域或いは超高周波領域での自然共鳴による大きな電磁波吸収が妨げられるという問題を解消できるからである。特に非晶質の本発明の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料において、この効果は顕著である。
【0023】
透磁率が同程度である材料においては、電気抵抗率が大きくなるほど、渦電流が生じる臨界周波数が高くなる。従って、本発明の高周波磁性材料においては、所定量の窒素が磁性材料に含まれることにより電気抵抗率が増大し、R-Fe-M-N系磁性材料が元来有する高い自然共鳴周波数に見合うだけの高い周波数領域に達するまで渦電流損失が顕著にならない。このため、超高周波領域を含む高周波領域まで高い複素比透磁率実数項を維持することができ、さらに高い周波数領域で自然共鳴の効果を十分に発揮することができるので、超高周波領域を含む高周波領域で高い複素比透磁率虚数項を実現することができる。
また、0.001GHz以上0.1GHz以下の周波数における高周波増幅材料として使用する場合、その周波数領域で渦電流損失が生じると、材料の温度が上昇したり、透磁率の実数項が小さくなったりして、効率が悪くなり好ましくない。このような観点から、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料の電気抵抗率をさらに向上させ、1GHz以上の超高周波数領域でも好適に使用可能な高周波磁性材料とするためには、本発明で使用する「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料」の基本成分である窒素(N)の含有量を、7原子%以上30原子%以下の「高窒化」範囲に制御するのがさらに望ましい。工程の簡便化の観点からは、窒化工程後の焼鈍処理が必須ではない10原子%以上25原子%以下の範囲がさらに好ましく、窒素量がこの範囲に調製された希土類-鉄-窒素系磁性材料は自然共鳴周波数と電気抵抗率が特に高い。またこの高窒化領域のR-Fe-M-N系磁性材料はアンモニアを含むガスを用いた気相反応による窒化工程を用いることにより作製される。例えば、窒素ガスを用いた場合、均質な高窒化材料を得ることが困難である。
【0024】
窒素量の最も好ましい範囲(すなわち、最適な範囲)は、目的とする用途、R-Fe-M-N系磁性材料のR-Fe-M組成比、副相の量比、さらに結晶構造などによって、異なり得る。例えば菱面体構造を有するSm7.7Fe84.6Ti7.7を原料合金として選ぶと、最適な窒素量は、3原子%以上50原子%以下の範囲内の5原子%以上10原子%以下の範囲付近に存在する。このときの最適な窒素量とは、目的に応じて異なるが材料の耐酸化性能及び、磁気特性又は電気特性のうち少なくとも一特性が最適となる窒素量のことである。
【0025】
ここで「磁気特性」とは、材料の透磁率(μμ0)、比透磁率(μ)、複素透磁率(μrμ0)、複素比透磁率(μr)、その実数項(μ’)、虚数項(μ”)及び絶対値(|μr|)、複素比透磁率虚数項の周波数依存性における任意の周波数領域でのμ”の最大値(μ”max)とそのときの周波数(fa:この周波数を「最大吸収周波数」と呼ぶ)、複素比透磁率実数項の周波数依存性における任意の周波数領域でのμ’の最大値(μ’max)とそのときの周波数(ft)、ある周波数(f)のときの複素比透磁率虚数項(μ”)の値とその周波数(f)の積(fμ”)を「吸収エネルギー係数」と呼ぶときのその最大値である最大吸収エネルギー係数(fμ”max)、磁化(Is)、一軸磁気異方性磁場又は面内磁気異方性磁場(Ha、Ha1、Ha2)、磁気異方性エネルギー(Ea)の絶対値、磁気異方性比(p/q:配向磁場1.2MA/mにおいて磁性材料を一軸磁場配向したとき、印加した配向磁場方向の外部磁場1.0MA/mにおける磁化をq、それと垂直方向の外部磁場1.0MA/mにおける磁化をpとする)、透磁率の温度変化率、電磁波などに起因する外界の交流磁場との自然共鳴周波数(fr)のうちの少なくとも一つを意味する。
【0026】
「電気特性」とは、材料の電気抵抗率(=体積抵抗率ρ)、電気伝導率(σ)、インピーダンス(Z)、インダクタンス(L)、容量(C)、リアクタンス(R)、誘電率(εε0)、比誘電率(ε)、複素誘電率(εrε0)、複素比誘電率(εr)、その実数項(ε’)、虚数項(ε”)及び絶対値(|εr|)、誘電損失と導電損失の結合である複素比誘電率における損失項(εt=ε”+σ/ω、このεtを電気的損失項と呼ぶ。ωは角周波数)を意味する。
上記「磁気特性」と「電気特性」を合わせて「電磁気特性」と称する。一般に比透磁率、比誘電率を表す「μ」、「ε」の記号の上に横棒線(-)を加える表記法を取る場合があるが、本願では、比透磁率を「μ」、比誘電率を「ε」と表すこととする。上記の透磁率はf→0のときの複素透磁率絶対値、誘電率はf→0のときの複素誘電率絶対値と見なすことができる。
【0027】
また、「透磁率」は、比透磁率(μ)に真空の透磁率(μ0)を掛け合わせたものであり、「誘電率」は、比誘電率(ε)に真空の誘電率(ε0)を掛け合わせたものである。
本願中の本発明に関する記述の中で、例えば「透磁率が高い」或いはそれと同意の「比透磁率が高い」と表現した場合は、静磁場中での材料の透磁率或いは比透磁率が高いだけでなく、電磁波が作用しているなどの交流磁場中にあっては複素透磁率或いは複素比透磁率の絶対値が高いこと、複素比透磁率虚数項の値が0に近ければ複素比透磁率実数項の値が高いこと、また逆に複素比透磁率実数項の値が0に近ければ複素比透磁率虚数項の値が高いことを意味する。以上の関係は、「誘電率」や「比誘電率」においても同様であるから、上記述中の「透磁率」と「比透磁率」をそれぞれ「誘電率」と「比誘電率」と読み替えればそのまま理解できる。
【0028】
次に、磁気特性又は電気特性が最適である状態について説明する。
磁気特性又は電気特性が最適である状態とは、透磁率、複素比透磁率の高周波領域における実数項又は虚数項、磁化、キュリー点、電気抵抗率、誘電率、複素比誘電率の実数項、虚数項又は損失項などの値が極大となり、透磁率・磁化の温度変化率の絶対値、電気伝導度などが極小となることを意味する。自然共鳴周波数と密接な関係がある磁気異方性比、磁気異方性磁場、磁気異方性エネルギーなどは、所望の周波数に自然共鳴が生じ、或いは電磁波の吸収が極大となるような値に設定された状態を最適であると称する。
本発明におけるR-Fe-M-N系磁性材料の各組成は、R成分(希土類成分)を2原子%以上15原子%以下、Fe成分(鉄成分)を10原子%以上94.5原子%以下、M成分を0.5原子%以上25原子%以下、N成分(窒素成分)を3原子%以上50原子%以下の範囲とするものであり、これらを同時に満たすものである。
【0029】
さらに、本発明で得られるR-Fe-M-N系磁性材料には、当該磁性材料組成中に水素(H)が0.01原子%以上10原子%以下含まれてもよい。
Hが上記の組成範囲で含まれると耐酸化性能と透磁率の向上がもたらされる。この場合の本発明のR-Fe-M-N系磁性材料の組成は、一般式RxFe(100-x-y-z-α)MyNzHαで表わしたときに、x、y、z、αは原子%でそれぞれ、2≦x/(1-α/100)≦15、0.5≦y/(1-α/100)≦25、3≦z/(1-α/100)≦50、0.01≦α≦10の範囲であり、これら4つの式が同時に成り立つようにx、y、z、αが選ばれる。
さらに製造法によっては、酸素(O)が0.1原子%以上20原子%以下で含まれることがあり、この場合、磁気特性の安定性が向上し、電気抵抗率の高い磁性材料とすることができる。従って、さらに好ましい本発明のR-Fe-M-N―H-O系磁性材料の組成は、一般式RxFe(100-x-y-z-α-β)MyNzHαOβで表わしたとき、x、y、z、α、βは原子%でそれぞれ、2≦x/{(1-α/100)(1-β/100)}≦15、0.5≦y/{(1-α/100)(1-β/100)}≦25、3≦z/{(1-α/100)(1-β/100)}≦50、0.01≦α/(1-β/100)≦10、0.1≦β≦20の範囲であって、これら5つの式が同時に成り立つようにx、y、z、α、βが選ばれる。この酸素成分は磁性粉体表面に局在していると電気抵抗率向上の効果が高く、この目的では、粉体表面を窒化前後、微粉体調整前後に、酸処理、アルカリ処理、加熱処理、カップリング処理などを含む各種表面酸化処理を付加する方法も効果がある。
【0030】
本発明の「高周波用磁性材料」として使用する「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料(R-Fe-M-N系磁性材料)」の窒素(N)成分中の50原子%未満をH、C、P、Si及びSからなる群から選択される少なくとも1種の元素で置き換えてもよい。この場合、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料(R-Fe-M-N系磁性材料)の窒素(N)成分中の0.01原子%以上50原子%未満をH、C、P、Si及びSからなる群から選択される少なくとも1種の元素で置き換えるのが好ましい。これら元素の少なくとも1種で窒素(N)成分を置換する場合、置換する元素の種類と量によってはその全てがN成分と置換されるわけではないし、1対1に置換されるとも限らない。しかし、置換された元素の種類と量に起因して、耐酸化性能や透磁率、誘電率などの電磁気特性の向上をもたらすことがあり、また、高周波用樹脂複合磁性材料に使用した場合には、樹脂成分との親和性が良くなり、機械的な性質の改善が期待されることもある。
窒素(N)成分中の0.01原子%以上を上記元素の少なくとも1種で置換することは、その置換量未満では、上記の置き換えの効果がほとんどなくなるという問題が生じるのを回避するうえで好ましい。また、窒素(N)成分中の50原子%未満を上記元素の少なくとも1種で置換することは、その置換量を超えると、電気抵抗率の向上や共鳴周波数の最適化に関する窒素の効果を阻害するという問題が生じるのを回避するうえで好ましい。
【0031】
本願中の本発明に関する記述において、「窒素成分」或いは「N成分」と表記した場合、又は「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料」、「R-Fe-M-N系」などの式中や磁性材料組成を論ずる文脈の中で、「N」、「窒素」と表記した場合、特に断らない限り、本発明の高周波用磁性材料における「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料」の基本成分である窒素(N)の0.01原子%以上50原子%未満をH、C、P、Si及びSからなる群から選択される少なくとも1種の元素で置き換えた組成も含む。
本発明の「高周波用磁性材料」として使用する「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料」としては、主相として、正方晶、菱面体晶、六方晶及び非晶質の中から選択される少なくとも1種の結晶構造を有する相を含有することが好ましく、正方晶又は非晶質の結晶構造を有する相を含有することがより好ましい。本発明ではこれらの結晶構造を作り、少なくともR(希土類)、Fe(鉄)、M(M成分)、N(窒素)を含む相を「主相」と呼び、当該結晶構造ではない他の結晶構造を作るような組成を有する相を「副相」と呼ぶ。副相は、希土類-鉄原料から希土類-鉄-M-窒素(-水素-酸素)系磁性材料を製造する過程で意図的に、或いは無為に生じる主相でない相を意味する。主相の成分にはR(希土類)、Fe(鉄)、M(M成分)、N(窒素)に加え、H(水素)及び/又はO(酸素)を含むことがある。
好ましい主相の結晶構造の例としては、ThMn12などと同様な結晶構造を有する正方晶、Th2Zn17などと同様な結晶構造を有する菱面体晶、Th2Ni17、TbCu7、CaZn5などと同様な結晶構造を有する六方晶、または非晶質(アモルファス、あるいは、窒化工程で非晶質化するので窒化アモルファスとも称する)のうち少なくとも1種を含む結晶構造が挙げられる。
この中でThMn12などと同様な結晶構造を有する正方晶又は非晶質を主相とする又は主相として含むことが、良好な電磁気特性及びその安定性を確保するうえで特に好ましい。
【0032】
R-Fe-M-N系磁性材料中に副相として、R-Fe-M合金原料相、水素化物相、Feナノ結晶を含む分解相や酸化アモルファス相などを含んでもよいが、本発明の効果を充分に発揮させるためには、その副相の体積分率は主相の含有量より低く押さえる必要があり、そのため、主相の含有量がR-Fe-M-N系磁性材料全体に対して75体積%を超えることが、実用上極めて好ましい。R-Fe-M-N系磁性材料の主相は、多くの場合、主原料相であるR-Fe-M合金の格子間に窒素が侵入し、結晶格子が膨張するか、それを超えて結晶構造が崩れるか或いは崩れかかるかすることによって得られるが、非晶質に至る前の結晶構造は、主原料相とほぼ同じ対称性を有する。
正方晶、菱面体晶又は六方晶の主原料相のR-Fe-M-N系磁性材料はそれぞれ同じ対称性を有するR-Fe-M合金原料相を原料として窒化処理が施される。一方、非晶質のR-Fe-M-N系磁性材料は正方晶、菱面体晶又は六方晶の主原料相を窒化処理して、その結晶構造が崩れた構造を有している。この現象を「窒化非晶質化」或いは「窒化アモルファス化」と呼ぶ。正方晶のR-Fe-M合金原料相は、菱面体晶や六方晶のR-Fe-M合金原料相に比べ、窒化により非晶質化しやすく、特に非晶質R-Fe-M-N系磁性材料の原料として好ましい。
ここで言う「体積分率」とは、磁性材料の空隙を含めた全体の体積に対してある成分が占有する体積の割合のことである。
本願において「主原料相」とは、少なくともR(希土類)、Fe及びM成分を含み、且つNを含まず、更に、正方晶、六方晶、及び、菱面体晶の中から選択される少なくとも1種(特に、菱面体晶或いは六方晶)の結晶構造を有する相を意味する(なお、それ以外の組成または結晶構造を有し、かつNの含まない相を、本願では「副原料相」と呼ぶ。)。
【0033】
窒素の侵入による結晶格子の膨張に伴い、材料の耐酸化性能及び、磁気特性と電気特性のうち少なくとも一特性が向上し、実用上好適なR-Fe-M-N系磁性材料となる。この窒素導入後に初めて好適な高周波用磁性材料になり、従来の窒素を含まないR-Fe-M合金やFeとは全く異なった電磁気特性を発現する。
例えば、R-Fe-M成分の母合金の主原料相として、菱面体構造を有するSm7.7Fe77.0Co3.8Mo11.5を選んだ場合、窒素を導入することによって、電気抵抗率が増加し、キュリー点、透磁率や磁気異方性エネルギーの絶対値を初めとする磁気特性と耐酸化性能が向上する。
【0034】
本発明の「高周波用磁性材料」として使用する希土類-鉄-M-窒素系磁性材料は、その面内磁気異方性を利用した材料であることが望ましい。面内磁気異方性材料とは、c軸に磁気モーメントが存在することにより、c面上に磁気モーメントが存在する方がエネルギー的に安定となる材料である。
菱面体晶又は六方晶の結晶構造を有するSm-Fe-M-N系磁性材料は面内磁気異方性材料ではなく一軸磁気異方性材料であり、磁石材料としての実用化が検討されている。しかしながら、このような面内磁気異方性材料ではない一軸磁気異方性材料の磁石材料を高周波用途の磁性材料として使用しようとすると、前述のように100GHzを超える高い超高周波領域でしか機能しない場合が多いうえに、超高周波領域での透磁率が小さい。このような問題を回避するため、当該Sm-Fe-M-N系磁性材料の含有量は、全磁性材料の50体積%未満とするのが好ましい。
【0035】
また、Sm-Fe-M-N系磁性材料と同様、面内磁気異方性ではなく一軸磁気異方性である、正方晶系であるが窒化物でないSm-Fe-Ti系、Nd-Fe-B系やSm-Co系などの公知の希土類系磁石材料も、高周波用磁性材料として好適であるとは言えない。その理由は、Nd-Fe-B系やSm-Co系磁石用磁性材料は、結晶磁気異方性が一軸異方性であることに加え、金属系磁性材料でもあるため電気抵抗率が低く、渦電流損失による高周波領域での透磁率の低下が見られるからである。
本発明の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料は、面内磁気異方性を利用した材料でなければ、正方晶の原料合金を窒化非晶質化した等方性の非晶質材料であることが望ましい。この材料は窒素を多く含む窒化アモルファスであり、電気抵抗が高いために粉体粒径が大きくとも渦電流損失による透磁率の低下が著しく抑えられる。窒素含有量が多いので、磁化の値は本発明の面内異方性を利用した希土類-鉄-M-窒素系磁性材料より小さくなるが、透磁率は超高周波領域まで高く保たれる。
【0036】
本発明の高周波用磁性材料が粉体である場合は、平均粒径0.1μm以上2000μm以下の粉体であることが好ましく、0.2μm以上200μm以下の粉体であることがより好ましい。ここで「平均粒径」とは、一般的に用いられる粒径分布測定装置で得られた体積相当径分布曲線をもとにして求めたメジアン径を意味する。
平均粒径0.1μm以上にすると、発火性が生じ、粉体の取り扱いを低酸化雰囲気で行うなど製造工程が複雑になることを回避できるという点で好ましい。また、2000μm以下にすると、均質な窒化物を製造することが難しくなるうえ、0.001GHz以上での電磁波の吸収に劣る材料となることを回避できるという点で好ましい。そのため、本発明の高周波用磁性材料では、平均粒径0.1μm以上2000μm以下の粉体とする。
また、平均粒径0.2μm未満とすると、透磁率の低下や磁性粉の凝集が著しくなり、本来材料が持っている磁気特性を十分に発揮し得ず、一般的な工業生産にも適合しない領域なので、非常に適切な粒径範囲であるとは言えない一方で、0.2μm未満であっても、窒素非含有金属系高周波用磁性材料に比べると耐酸化性能が圧倒的に優れるため肉薄や超小型な特殊用途の高周波用磁性材料に好適であるという利点がある。このような観点からも、本発明の高周波用磁性材料では、平均粒径の下限値を0.2μm未満の0.1μmとするのが好ましい。
但し、上述のとおり、平均粒径を0.2μm以上とすることは、この平均粒径未満の場合に生じる上記問題が生じるのを回避するうえで、より好ましい。
また、平均粒径を200μm以下とすることは、この平均粒径を超えると高周波領域での透磁率が低下するという問題が生じるのを回避するうえで、より好ましい。
平均粒径を0.5μm以上10μm以下の範囲とすると、faが高周波領域にあって透磁率が高い材料になり、0.1GHz以上での選択吸収比が高い材料が得られ易い。
平均粒径を10μm以上200μm以下の範囲とすると、高透磁率かつ透磁率の虚数項の値が低くなり、0.001GHz以上0.1GHz以下の範囲での高周波増幅材料が得られ易い。
【0037】
本発明の「高周波用磁性材料」が非晶質の希土類-鉄-窒素系磁性材料である場合、電気抵抗が高いため、平均粒径が1μm以上200μm以下の範囲でも、0.001GHz以上0.1GHz以下の範囲で使用される磁場増幅材料などの高周波増幅材料となり得る。
【0038】
本発明の高周波用磁性材料として使用する「希土類-鉄-M-窒素系磁性材料」には、金属Fe、金属Ni、金属Co、Fe-Ni系合金、Fe-Ni-Si系合金、センダスト、Fe-Si-Al系合金、Fe-Cu-Nb-Si系合金、アモルファス合金などの金属系磁性材料や、マグネタイト、Ni-フェライト、Zn-フェライト、Mn-Znフェライト、Ni-Znフェライトなどのガーネット型フェライトや、軟磁性六方晶マグネトプランバイト系フェライトなどの酸化物系磁性材料からなる群から選択される少なくとも1種を混合(配合とも称する)してもよい。つまり、混合するこれら金属系磁性材料や酸化物系磁性材料は、1種でもよいし、2種以上でもよい。また、混合するこれら金属系磁性材料や酸化物系磁性材料の形態には、特に制限はない。例えば、混合する金属系磁性材料として、金属Fe、金属Ni、金属Coを例に挙げると、これらの形態には特に制限はなく、例えば、金属粉体の形態でもよいし、金属箔などの形態でもよい。。
この混合材料を電磁波吸収材料に応用すると、電磁波を吸収する周波数帯を高周波領域から低周波領域まで広げることができたり、高周波領域でもブロードな吸収特性を付与して広いバンドにおけるノイズを吸収したりすることができる。特に上記混合材料の金属Feとして、0.1μm以上100μm以下の粒径を有するカルボニル鉄を使用すると、1GHz未満の透磁率と1GHz以上の透磁率のバランスの良い高周波用磁性材料となる。カルボニル鉄が希土類-鉄-M-窒素系材料に混合されると高い特性が得られる理由としては、[1]カルボニル鉄の円形度が0.7以上1以下と非常に高く、電気的絶縁性に優れること、[2]希土類-鉄-M-窒素系磁性材料と粉体混合した場合、金属粉体であるカルボニル鉄と窒化物粉体である希土類-鉄-M-窒素材料の表面の帯電性の符号が異なるため、均質混合がし易いことが挙げられる。
超高周波で使用する本発明の高周波用磁性材料において、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料に混合する磁性材料(混合材料)としてカルボニル鉄を使用する場合、そのカルボニル鉄粉の好ましい平均粒径の範囲は1μm以上10μm以下である。
【0039】
本発明の高周波用複合磁性材料において、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料と複合化させるために混合する材料(即ち、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料とは異なる磁性材料、又は非磁性材料(例えば、非磁性のセラミックス材料及び/又は樹脂))の量は、本発明の高周波用複合磁性材料中の全磁性材料のうち、0.001質量%以上99質量%以下とするのが好ましい。0.001質量%以上とするのは、混合材料として使用する金属系磁性材料や酸化物系磁性材料を添加した効果を得るうえで好ましいためであり、99質量%以下とするのは、本発明の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料の各種電磁気特性に与える効果を得るうえで好ましいためである。
そのため、例えば、本発明の高周波用複合磁性材料において、上記混合材料として金属Fe、金属Ni、金属Co、Fe-Ni系合金、Fe-Ni-Si系合金、センダスト、Fe-Si-Al系合金、Fe-Cu-Nb-Si系合金、アモルファス合金などの金属系磁性材料や、マグネタイト、Ni-フェライト、Zn-フェライト、Mn-Znフェライト、Ni-Znフェライトなどのガーネット型フェライトや、軟磁性六方晶マグネトプランバイト系フェライトなどの酸化物系磁性材料からなる群から選択される少なくとも1種を混合する場合、上記希土類-鉄-M-窒素系磁性材料の量は、1質量%以上99.999質量%以下の範囲とし、混合する、上記金属系磁性材料や上記酸化物系磁性材料からなる群から選択される少なくとも1種の量は、0.001質量%以上99質量%以下の範囲とするのが好ましい。また、例えば、本発明の高周波用複合磁性材料において、上記混合材料としてセラミックス材料を使用する場合、上記希土類-鉄-M-窒素系磁性材料の量は、1質量%以上99.999質量%以下で、セラミックス材料の量は、0.001質量%以上99質量%以下とするのが好ましいということになる。
希土類-鉄-M-窒素系磁性材料以外の金属系磁性材料や酸化物系磁性材料の量の全磁性材料に対する質量分率を0.05質量%以上75質量%以下の範囲とすると、より効果的に発揮し得る。
また、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料以外の金属系磁性材料や酸化物系磁性材料の量の全磁性材料に対する質量分率を0.01質量%以上50質量%以下とすると、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料の電気特性の特徴をより効果的に発揮し得る。
このため、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料以外の金属系磁性材料や酸化物系磁性材料の量の全磁性材料に対する質量分率を0.05質量%以上50質量%以下とすると、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料の超高周波領域における吸収などの特徴とその電気特性の特徴の両特徴を一緒に、より効果的に発揮し得る。
【0040】
希土類-鉄-M-窒素系磁性材料を使用する本発明の高周波用複合磁性材料やそのうちの高周波用樹脂複合磁性材料の中には、1GHz以上で複素比誘電率の虚数項の値、即ち電気的損失項の値が10を超える材料やさらに50を超える高い値を持った材料があって、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料自身の電気抵抗率の代表的な値も200μΩcm以上8000μΩcm以下の範囲であり、窒素非含有金属系磁性材料や酸化物磁性材料の中間に位置する適当な大きさを有している。電子回路を電磁波発生源としたとき、遠方界(これは、電磁波発生源から、波長の1/2πを超える距離にある区画を意味する。遠方界でない区画を近傍界と称する。)における電磁波は磁場Hと同等に電場Eも十分大きい電磁波であるため、1GHzを超えるノイズの吸収など超高周波数領域における用途や電波暗室などに用いる遠方界用電磁波吸収体などの用途でも、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料を使用する本発明の高周波用複合磁性材料は、誘電率も高い磁性材料であるために非常に好適に利用される。前述の金属系磁性材料や酸化物系磁性材料を配合(混合)する場合も、この特徴を十分に活かすことが好ましい。
【0041】
次に、本発明の高周波磁性材料である「複合磁性材料」に用いるセラミックス材料について述べる。
希土類-鉄-M-窒素系磁性材料の電気的磁気的性質は、上述のように金属材料と酸化物材料の中間の性質を持つが、当該磁性材料表面の化学的性質も両者の中間的な性質を持つので、当該希土類-鉄-M-窒素系磁性材料を粉体形状で混合する場合、容器に入れて振り混ぜる(以下、「シェイキング」とも言う)操作を行うと、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料と金属材料、或いは希土類-鉄-M-窒素系磁性材料と酸化物材料の粉体表面の帯電状態が正負に分かれ、容易に均質状態で混合することができる。
従って、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料粉体間にあって、電気的絶縁をし、渦電流損失を低下させる目的には、酸化物系セラミックス材料を用いるのが好適である。
特に、酸化物系セラミックス材料が1μm未満のナノ粉体であれば、高充填率で高抵抗の高周波用複合磁性材料が実現できる。特に、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料とナノ酸化物系セラミックス材料は、シェイキングのような簡単な操作によっても短時間に均質混合できるという利点があり、また均質混合の後に、後述する各種磁場成形を行えば、高周波用樹脂複合磁性材料同様磁場配向することが可能になるという利点がある。
酸化物系材料の代表としては、シリカ、アルミナ、酸化クロム、ジルコニア、マグネシア、酸化希土類などがあり、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料の基本成分である希土類やFeを含め、Co、Ni、Ti、V、Mo、Nb、W、Si、Al、Mn及びCrからなる群から選択される少なくとも1種を含む酸化物或いは複合酸化物が好適である。なお、Fe酸化物も本発明に使用可能なセラミックス材料である。
本発明の複合磁性材料に用いるセラミックス材料は、上述のとおり、希土類-鉄-M-窒素系磁性材料粉体の孤立分散性の観点からナノセラミックス材料を用いるのが好ましく、そのため、1nm以上1000nm未満の平均粒径を有する粉体であることが好ましい。本発明では、ナノセラミックス材料について述べる際、1nm以上1000nm以下のシリカの場合を「ナノシリカ」というように材料名の前にナノを付して記載する場合がある。
【0042】
次に、本発明の高周波磁性材料である「高周波用樹脂複合磁性材料」について述べる。
【0043】
高周波用樹脂複合磁性材料の樹脂成分として使用できるものを以下に例示する。
例えば、12-ナイロン、6-ナイロン、6、6-ナイロン、4、6-ナイロン、6、12-ナイロン、非晶性ポリアミド、半芳香族ポリアミドのようなポリアミド系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリビニル系樹脂;エチレン-エチルアクリレート共重合体、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂。ポリアクリルニトリル、アクリルニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体等のアクリロニトリル系樹脂;各種ポリウレタン系樹脂。ポリテトラフルオロエチレン等の弗素系樹脂;ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリスルホン、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルフィド、ポリアミドイミド、ポリオキシベンジレン、ポリエーテルケトン等のエンジニアリングプラスチックと呼称される合成樹脂;全芳香族ポリエステル等の液晶樹脂を含む熱可塑性樹脂;ポリアセチレン等の導電性ポリマー;エポキシ樹脂、フェノール樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂;ニトリルゴム、ブタジエン-スチレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ポリアミドエラストマー等のエラストマーが挙げられる。
【0044】
本発明の高周波用樹脂複合磁性材料の樹脂成分としては、上記の例示した樹脂だけに限られるものではないが、上記に例示した樹脂のうち少なくとも1種が含まれると、電気抵抗率が高く、耐衝撃性、可撓性や成形加工性に優れた高周波用樹脂複合磁性材料とすることができる。樹脂成分の含有量としては、0.1質量%以上95質量%以下の範囲とすることが好ましい。樹脂成分の含有量を0.1質量%以上とすることは、その含有量未満であると耐衝撃性などの樹脂の効果がほとんど発揮されないという問題が生じるのを回避するうえで好ましく、95質量%以下とすることは、その含有量を超えると透磁率や磁化が極端に落ちて、高周波用樹脂複合磁性材料としての実用性が乏しくなるという問題が生じるのを回避する上で好ましい。
また、樹脂材料成分以外の成分が希土類-鉄-M-窒素系磁性材料のみである場合には、セラミックス材料部の電気絶縁性の効果がないために樹脂成分の含有量を更に1質量%以上95質量%以下とすることが好ましいこともある。
さらに、磁性材成分が希土類-鉄-M-窒素系磁性材料のみである場合で、高透磁率とともに耐衝撃性が特に要求される用途においては、上記と同様な理由で、2質量%以上90質量%以下の範囲がさらに好ましく、最も好ましくは3質量%以上80質量%以下の範囲である。
また、本発明の高周波用樹脂複合磁性材料における磁性材成分の好ましい含有量は5質量%以上99.9質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以上99質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以上98質量%以下、最も好ましくは20質量%以上97質量%以下である。磁性材成分の含有量を5質量%以上とすることは、その含有量未満であると透磁率や磁化が極端に落ちて、高周波用磁性材料としての実用性が乏しくなるという問題が生じるのを回避するうえで好ましく、99.9質量%以下とすることは、その含有量を超えると耐衝撃性などの樹脂の効果がほとんど発揮されないという問題が生じるのを回避するうえで好ましい。
なお、本発明の高周波用樹脂複合磁性材料においては、電磁気特性の多くの部分は、使用する高周波用複合磁性材料を構成する希土類-鉄-M-窒素系磁性材料が担うものであり、本発明の高周波用樹脂複合磁性材料は、高周波用磁性材料、電磁ノイズ吸収材料、電磁波吸収材料、RFIDタグ用材料、無線給電システム用のコイルのコアなどに応用する際、耐衝撃性、可撓性、成型加工性、高電気抵抗率などの樹脂の特徴を生かした性能を当該高周波用複合磁性材料に付与して、実用性を向上させるものである。従って、本発明で使用する高周波用複合磁性材料の性能を阻害せず、「樹脂本来の何らかの特徴」を付与する樹脂成分であれば、非常に好適な本発明の高周波用樹脂複合磁性材料の成分であるといえる。
上記の「樹脂本来の何らかの特徴」は、上記に例示した樹脂の特徴に限定されず、公知のあらゆる樹脂の特徴や性能を含む。また、本発明で使用される希土類-鉄-M-窒素系磁性材料を樹脂成分で電気的に絶縁することによって、高周波用磁性材料以外の用途に応用することも可能である。特に、本発明で使用される希土類-鉄-M-窒素系磁性材料の希土類成分としてSmを50原子%以上に限定した場合には、例えば、
i)小さな粒径と大きな粒径を有した当該希土類-鉄-M-窒素系磁性材料を混合して充填率を上げ、且つ樹脂により電気的絶縁を維持することにより、優れた透磁率を発現した低周波用材料としての用途や、
ii)形状磁気異方性を有した当該希土類-鉄-M-窒素系磁性材料を用いて、かつ樹脂により電気的絶縁を維持することにより、磁化を大きくした磁気記録用材料としての用途
に展開できる。
【0045】
なお、本発明の高周波用樹脂複合磁性材料には、チタン系やシリコン系カップリング剤を添加することができる。
一般にチタン系カップリング剤を多く加えると流れ性、成形加工性が向上し、その結果磁性粉体の配合量を増やすことが可能となり、磁場配向を行う際、配向性が向上して、磁気特性の優れた材料になる。一方、シリコン系カップリング剤を使用すると、機械的強度を増す効果が得られるが、一般に流れ性が悪化する。
チタン系カップリング剤とシリコン系カップリング剤の両者の長所を活かすために混合添加することが可能である。
また、チタン系やシリコン系に加えてアルミニウム系、ジルコニウム系、クロム系、又は鉄系のカップリング剤を添加することも可能である。
さらに本発明の高周波用樹脂複合磁性材料には、滑剤、耐熱性老化防止剤、酸化防止剤を各種配合することも可能である。
本発明の高周波用樹脂複合磁性材料をコンパウンド状の粉体にする場合、その粒径はカレンダー加工用、射出成形加工用等、それぞれの成形工程で扱いやすい領域であればよいが、本発明においては、粉体の耐酸化性や磁気特性の安定性の観点で0.1μm以上、さらに流れ性を有する粉体とするために0.2μm以上の粒径下限値が望まれ、さらに流れ性の優れた粉体とするために10μm以上とすると好ましい。粒径上限については特に規定はないが、大きすぎると成形体の磁気特性にムラが生じるので、5cm以下にするのが好ましい。特に樹脂複合磁性材料を20mm以下とすると、より成形後の磁気特性のばらつきが減少し、2mm以下にすると優れた流れ性も付与される。
【0046】
本発明の高周波用樹脂複合磁性材料では、マトリックスとなる樹脂に磁性を持たせることが困難なので、特許文献1に記載のフェライト被覆希土類-鉄-M-窒素系材料のように「電気的絶縁と磁気的連結」により透磁率を上昇させると同時に渦電流損失を抑制する機能は有しない。
しかし、樹脂の中に溶解性パラメータ(SP(Solubility Parameter)値とも称する。)が10以上15以下であるセグメントを含む場合、本発明の高周波用樹脂複合磁性材料を構成する、粉体として存在する高周波用複合磁性材料(以下、「磁性粉体」と呼ぶ)が孤立分散し、磁性粉体同士の連結が絶縁体である樹脂によって解かれるため、極端に高い透磁率の実数項は実現しにくいものの、高周波領域(その中でも特に超高周波領域)の周波数にわたり渦電流損失を抑制することができる。そのため、例えば0.001GHz以上0.1GHz以下の無線給電システム用のコイルのコア等の高周波増幅材料として本発明の高周波用樹脂複合磁性材料を適用すると、渦電流損失を極めて小さくすることができるし、さらに1GHzを超える超高周波領域において使用する電磁波吸収材料や電磁ノイズ吸収材料として本発明の高周波用樹脂複合磁性材料を適用すると、最大吸収周波数(fa)を大きくして最大吸収エネルギー係数(fμ”max)を渦電流により低減させないようにすることができる。この理由としては、溶解性パラメータの高い樹脂のセグメントが希土類-鉄-M-窒素系粉体との親和性が高いため、界面に強く結合し、磁性粉体同士を引き離して孤立分散させているからであると予想している。
ここで、「溶解性パラメータ」とは分子間力を表す尺度であり、二つの物質のSP値が近いほど親和性があるとされる。理論的には、単位体積の液体の蒸発熱から算出されるので融点を持つ溶媒でしか定義されないが、樹脂の溶解性パラメータもSP値が既知な溶媒への溶解度を元に決定されている。文献値のない樹脂でも構造が既知なら、Fedorsの推定法を元にSP値を求めることができ、小数点第1位を四捨五入することにより本発明に効果のある樹脂か否かを判断することができる。
【0047】
溶解性パラメータ(SP)が10以上15以下である樹脂のセグメントとしては、ポリアミド(SP値が13以上14以下)、エステル(SP値が10以上11以下)、ポリウレタン(SP値が10)などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂(SP値が10以上11以下)などの熱硬化性樹脂が挙げられる。SP値が低い、ポリエーテル(SP値が9)、シリコンゴム(SP値が7以上8以下)、弗素ゴム(SP値が7以上8以下)などのようなセグメントが共重合などで含有されていてもよい。この場合、本発明の高周波用樹脂複合磁性材料に使用される樹脂として含有させると、当該樹脂複合磁性材料の可撓性が付与されるので、エラストマーとして機能が求められる電磁ノイズ吸収材料用途などに好適である。中でも、SP値が13.6のポリアミドと9.0のポリエーテルを共重合したポリアミドエステルエーテルエラストマーを樹脂成分に用いると表面平滑性に優れ、孤立分散が達成され、超高周波領域で透磁率の虚数項の値が高く、かつ可撓性、耐衝撃性に優れた樹脂複合磁性材料となる。これはポリアミドとポリエーテルの他にエステル結合が含まれ、多様な相溶性パラメータを有するセグメントが含まれていることに起因していると予測している。希土類-鉄-M-窒素系磁性材料表面に結合するポリアミド成分と粉体間にあって可撓性などを付与するポリエーテル成分を無理なく繋ぐ役目をエステル結合が担っていると考えられるからである。
なお、セグメントの溶解性パラメータ(SP)を13以上14以下とすると、さらに透磁率の向上が見られ、希土類-鉄-M-窒素系磁性粉体の体積分率が30体積%以上80体積%以下の広い範囲内で、超高周波領域での複素比透磁率の虚数項の値を実用領域に入れることができる。
以上のように、本発明の高周波用樹脂複合磁性材料において、溶解性パラメータ(SP)を調節した樹脂を使用する場合、表面の化学的性質が作用するので、このような観点から見れば、フェライト材料で完全に被覆されていない方がよい。
【0048】
次に本発明の高周波用磁性材料の製造方法について記載するが、特にこれらに限定されるものではない。
なお、本発明の高周波用磁性材料の製造方法には、高周波用複合磁性材料や高周波用樹脂複合磁性材料の製造方法も含む。
製造方法については、特に本発明の「高周波用複合磁性材料」を得る方法を具体的に例示する。
本願における本発明に関する記述において、「実質的にR成分、Fe成分及びM成分からなる合金」とは、R成分、Fe成分及びM成分を主成分とする合金(すなわち、R成分、Fe成分及びM成分の合計が合金の50原子%以上を占めるもの)をいうが、このFe成分のFeは、Co又はNiの原子で置き換えられていてもよい。この合金を、本願では、「希土類-鉄-M系合金」、「原料合金」、或いは「母合金」とも称する。また、「希土類-鉄-M系合金」を「R-Fe-M系合金」とも称する。
【0049】
(1)母合金の調製工程
R-Fe-M系合金の製造法としては、(I)R成分、Fe成分、M成分の各金属成分を高周波により溶解し、鋳型などに鋳込む高周波溶解法、(II)銅などのボートに金属成分を仕込み、アーク放電により溶し込むアーク溶解法(アークボタン法ともいう)、(III)アーク溶解した溶湯を水冷した鋳型に一気に落とし込んで急冷するドロップキャスト法や吸引鋳造法、(IV)高周波溶解した溶湯を、回転させた銅ロール上に落しリボン状の合金を得る超急冷法、(V)高周波溶解した溶湯をガスで噴霧して合金粉体を得るガスアトマイズ法、(VI)Fe成分及び/又はM成分の粉体またはFe-M合金粉体、R及び/又はM成分の酸化物粉体、及び還元剤を高温下で反応させ、RまたはR及びM成分を還元しながら、R成分、またはR成分及びM成分を、Fe成分及び/又はFe-M合金粉体中に拡散させるR/D法、(VII)各金属成分単体及び/又は合金をボールミルなどで微粉砕しながら反応させるメカニカルアロイング法、(VIII)上記何れかの方法で得た合金を水素雰囲気下で加熱し、一旦R成分及び/又はM成分の水素化物と、Fe成分及び/又はM成分またはFe-M合金に分解し、この後、高温下で低圧として水素を追い出しながら再結合させ合金化するHDDR(Hydrogenation Decomposition Desorption Recombination)法のいずれを用いてもよい。
【0050】
高周波溶解法、アーク溶解法を用いた場合、溶融状態から、合金が凝固する際にFe主体の成分が析出し易く、特に窒化工程を経た後も低周波領域に最大吸収周波数を有する成分の体積分率が増え、高周波数さらに超高周波領域での吸収の低下を引き起こす。そこで、このFe主体の成分を消失させたり、正方晶、菱面体晶や六方晶(特に、正方晶)の結晶構造を増大させたりする目的で、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス、水素ガスのうち少なくとも1種を含むガス中もしくは真空中、200℃以上1300℃以下の温度範囲で、好ましくは600℃以上1185℃以下の範囲内で焼鈍を行うことが有効である。この方法で作製した合金は、超急冷法などを用いた場合に比べ、結晶粒径が大きく結晶性が良好であり、高い透磁率を有している。従って、この合金は均質な主原料相を多量に含んでおり、本発明の磁性材料を得る母合金として好ましい。一方、超急冷法やメカニカルアロイング法で得た母合金は、金属組織が細かいために、短時間の焼鈍で均質化が可能な点が優れる。この双方の利点を活かした合金作製法として、吸引鋳造法やドロップキャスト法が挙げられる。合金の溶融方法はアーク溶解と同等であるが、冷却速度が通常のアークボタン法より速いために、相分離状態が細かく焼鈍時間が一般に短くて済む。
【0051】
(2)粗粉砕及び分級工程
上記方法で作製した合金インゴット、R/D法又はHDDR法合金粉体を直接窒化することも可能であるが、結晶粒径が2000μmより大きいと窒化処理時間が長くなり、粗粉砕を行ってから窒化する方が効率的である。200μm以下に粗粉砕すれば、窒化効率がさらに向上するため、特に好ましい。
粗粉砕はジョークラッシャー、ハンマー、スタンプミル、ローターミル、ピンミル、カッターミルなどを用いて行う。また、ボールミルやジェットミルなどのような粉砕機を用いても、条件次第では窒化に適当な合金粉体の調製が可能である。母合金に水素を吸蔵させたのち上記粉砕機で粉砕する方法、水素の吸蔵・放出を繰り返し粉化する方法を用いてもよい。
さらに、粗粉砕の後、ふるい、振動式あるいは音波式分級機、エアシーブ、サイクロンなどの分級機を用いて粒度調整を行うことも、より均質な窒化を行うために有効である。粗粉砕、分級の後、不活性ガスや水素中で焼鈍を行うと構造の欠陥を除去することができ、場合によっては効果がある。以上で、本発明の製造法におけるR-Fe-M系合金の粉体原料またはインゴット原料の調製法を例示したが、これらの原料の結晶粒径、粉砕粒径、表面状態などにより、以下に示す窒化の最適条件に違いが見られる。
【0052】
(3)窒化及び焼鈍工程
窒化はアンモニアガス、窒素ガスなどの窒素源を含むガスを、上記(1)の工程(母合金の調製工程)または、(1)の工程(母合金の調製工程)及び(2)の工程(粗粉砕及び分級工程)で得たR-Fe-M系合金粉体またはインゴットに接触させて、結晶構造内に窒素を導入する工程である。
このとき、窒化雰囲気ガス中に水素を共存させると、窒化効率が高いうえに結晶構造が安定なまま窒化できる点で好ましい。また反応を制御するために、アルゴン、ヘリウム、ネオンなどの不活性ガスなどを共存させる場合もある。最も好ましい窒化雰囲気としては、アンモニアと水素の混合ガスであり、アンモニアと水素を併せた全圧が常圧(1atm)付近であった場合、特にアンモニア分圧を0.1気圧(atm)以上0.7気圧(atm)以下の範囲に、アンモニアと水素を併せた全圧が常圧を外れる場合、アンモニアのモル分率を0.1以上0.7以下の範囲に制御すれば、窒化効率が高い上に本発明で使用される希土類-鉄-M-窒素系磁性材料(具体的には、RxFe(100-x-y-z)MyNzの一般式で表され、式中、RはY、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu、Smの中から選ばれる少なくとも一種の元素、Feは鉄元素、MはTi、V、Mo、Nb、W、Si、Al、Mn及びCrからなる群から選択される少なくとも1種の元素、Nは窒素元素であり、x、y、zは、2原子%≦x≦15原子%、0.5≦y≦25原子%、3≦z≦50原子%を満たす。)の窒素量範囲全域をカバーする磁性材料を作製することができる。
窒化反応は、ガス組成、加熱温度、加熱処理時間、加圧力で制御し得る。このうち加熱温度は、母合金組成、窒化雰囲気によって異なるが、100℃以上600℃以下の範囲で選ばれるのが望ましい。100℃以上にすることは、その温度未満であると窒化速度が非常に遅いという問題が生じるのを回避するうえで、また、600℃以下とすることは、その温度を超えると主原料相が窒化希土類、窒化鉄、及びM成分の窒化物に分解して、正方晶、六方晶、菱面体晶及び非晶質の中から選択される少なくとも1種(特に、正方晶又は非晶質)の結晶構造を保ったまま窒化することができないという問題を回避するうえで好ましい。窒化効率と主相の含有率を高くするために、さらに好ましい温度範囲は250℃以上500℃以下である。また、正方晶系の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料を窒化により作製する場合は、アンモニア-水素雰囲気中で100℃以上500℃以下の温度範囲が好適であり、原料合金の結晶構造を問わず、非晶質の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料を窒化非晶質化により作製する場合は、アンモニア-水素雰囲気中で250℃以上600℃以下の温度範囲が好適である。特に正方晶の原料合金を用いて非晶質の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料を窒化非晶質化により作製する場合は、250℃以上500℃以下の温度範囲が好適である。
また窒化を行った後、不活性ガス及び/又は水素ガス中で焼鈍することは磁気特性を向上させる点で好ましい。特に、窒素量が7原子%以上30原子%以下の高窒化領域にあるR-Fe-M-N系磁性材料を製造し、その後、水素ガスを含む雰囲気下で焼鈍することは、窒素を含む磁性材料の結晶性や均質性を向上させることによって、透磁率や磁化を増大させる点で非常に好ましい方法である。
窒化及び焼鈍装置としては、横型、縦型の管状炉、回転式反応炉、密閉式反応炉などが挙げられる。何れの装置においても、本発明の磁性材料を調整することが可能であるが、特に窒素組成分布の揃った粉体を得るためには回転式反応炉を用いるのが好ましい。
反応に用いるガスは、ガス組成を一定に保ちながら1気圧(atm)以上の気流を反応炉の送り込む気流方式、ガスを容器に加圧力0.01気圧(atm)以上70気圧(atm)以下の領域で封入する封入方式、或いはそれらの組合せなどで供給する。
以上の工程、すなわち、上記(1)の工程(母合金の調製工程)から本工程(3)の「窒化及び焼鈍工程」までを経て、初めてR-Fe-M-N系磁性材料が作製される。なお、水素源となるガスを使用して、本工程(3)を実施すれば、R-Fe-M-N-H系磁性材料を調製することも可能である。
【0053】
(4)微粉砕工程
微粉砕工程は、上記のR-Fe-M-N系磁性材料やR-Fe-M-N-H系磁性材料を、より細かい微粉体まで粉砕する場合や、R-Fe-M-N-H-O系磁性材料を得るために、上述のR-Fe-M-N系磁性材料にO成分及びH成分を導入する目的で行われる工程である。
微粉砕の方法としては上記(2)の工程(粗粉砕及び分級工程)で挙げた方法のほか、回転ボールミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ウエットミル、ジェットミル、カッターミル、ピンミル、自動乳鉢などの乾式・湿式の微粉砕装置及びそれらの組合せなどが用いられる。O成分やH成分を導入する際、その導入量を本発明の範囲に調整する方法としては、微粉砕雰囲気中の水分量や酸素濃度を制御する方法が挙げられる。
本発明の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料の製造方法としては、(1)の工程(母合金の調製工程)、又は(1)の工程(母合金の調製工程)及び(2)の工程(粗粉砕及び分級工程)に例示した方法でR-Fe-M成分組成の母合金を調製してから、(3)の工程(窒化及び焼鈍工程)で示した方法で窒化し、本工程(4)で示した微粉砕する工程を用いるのが好ましい。特に、(1)の工程(母合金の調製工程)で得られた原料合金又はこれを(2)の工程(粗粉砕及び分級工程)で示した方法で粉砕、分級した原料合金を、不活性ガス及び水素ガスのうち少なくとも一種を含む雰囲気下で、600℃以上1300℃以下で熱処理したのち、アンモニアガスを含む雰囲気下で、100℃以上600℃以下の範囲で熱処理することによる焼鈍処理を行い、その後、窒化を行うと、粉体内部酸化による磁気特性の劣化が極めて小さい磁性材料を得ることができる。
【0054】
(5)セラミックス材料混合工程
本工程は、(3)の工程(窒化及び焼鈍工程)又は(4)の工程(微粉砕工程)で得た希土類-鉄-M-窒素系磁性材料にセラミックス材料を混合する工程である。V型混合機、タンブラー、振動混合機、振とう機、ドラムミキサー、ロッキングミキサー、シェイカー、ロータリーミキサーなどの通常の混合機や上記粉砕機や分級機などを使用することができる。また、本工程(5)は、(1)~(3)の工程と同時に行うことも可能である。本発明においては、セラミックス材料として、ナノセラミックス粉体を用いると、混合が効率的になるだけでなく、電磁気特性の向上にも繋がる。
【0055】
(6)配向及び成形工程
本発明の高周波用磁性材料は、所定の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料に他の磁性材料、セラミックス材料、及び/又は樹脂を配合(混合)して成形するなどして、各種用途に用いることができる。中でも上記で述べた樹脂を配合すると、本発明の高周波用樹脂複合磁性材料となる。また、本発明の高周波用磁性材料が異方性材料である場合、この成形工程で少なくとも1回、磁場配向操作を行うと高磁気特性の磁性材料または樹脂複合磁性材料となるので、当該磁場配向操作は特に推奨される。
所定の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料に他の磁性材料、セラミックス材料、及び/又は樹脂を配合(混合)して成形するなどして得られる本発明の高周波用複合磁性材料を固化する方法としては、型に入れ冷間で圧粉成形して、そのまま使用したり、或いは続いて、冷間で圧延、鍛造、衝撃波圧縮成形などを行って成形したりする方法もあるが、多くの場合、50℃以上の温度で熱処理しながら焼結して成形を行えばよい。熱処理雰囲気は非酸化性雰囲気であることが好ましく、例えば、アルゴン、ヘリウムなどの希ガスや窒素ガス中などの不活性ガス中で、或いは水素ガスを含む還元ガス中で熱処理を行えばよい。500℃以下の温度条件なら大気中でも可能である。また、常圧や加圧下の焼結でも、さらには真空中の焼結でもよい。
【0056】
この熱処理は圧粉成形と同時に行うこともでき、ホットプレス法やHIP(ホットアイソスタティックプレス)法、さらにはSPS(放電プラズマ焼結)法などのような加圧焼結法でも、本発明の磁性材料を成形することが可能である。なお、本発明に対する加圧効果を顕著とするためには、加熱焼結工程における加圧力を0.0001GPa以上10GPa以下の範囲内とするのが好ましい。0.0001GPa以上とすることは、その加圧力未満であると、加圧の効果が乏しく常圧焼結と電磁気特性に変わりがないため、加圧焼結すると生産性が落ちる分不利となる問題が生じるのを回避するうえで好ましい。また、10GPa以下とすることは、その加圧力を超えると加圧効果が飽和してそれ以上に加圧しても生産性が落ちるだけであるという問題が生じるのを回避するうえで好ましい。
また、大きな加圧は磁性材料に誘導磁気異方性を付与し、本来有する高い透磁率などの磁気特性が悪化したり、最大吸収周波数が好ましい範囲から外れたりする可能性もある。従って、加圧力の好ましい範囲は0.001GPa以上1GPa以下、さらに好ましくは0.01GPa以上0.1GPa以下である。
【0057】
さらに以上の方法の多くの場合は、若干磁性材料表面の分解を伴い固化されることがあるが、衝撃波圧縮法の中で、公知の水中衝撃波圧縮法は、磁性材料の分解を伴わずに成形できる方法として有利である。
【0058】
上記(3)の工程(窒化及び焼鈍工程)、または(3)の工程(窒化及び焼鈍工程)→(4)の工程(微粉砕工程)、または(3)の工程(窒化及び焼鈍工程)→(5)の工程(セラミックス材料混合工程)、または(3)の工程(窒化及び焼鈍工程)→(4)の工程(微粉砕工程)→(5)の工程(セラミックス材料混合工程)で得た希土類-鉄-M-窒素系磁性材料の粉体及び/又は複合磁性材料の粉体を、高周波用樹脂複合磁性材料に応用する場合、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂と混合したのちに圧縮成形したり、熱可塑性樹脂と共に混練したのちに射出成形を行ったり、必要に応じてさらに押出成形、ロール成形、及び/又はカレンダー成形などを行ったりすることによって成形する。上記混合に際しては、溶媒に溶かした樹脂を磁性粉体に配合して、その後溶媒を気化などで除去するキャスト法も有効である。上記混錬に関してはニーダーや一軸又は二軸の押出機を用いることも有効である。
【0059】
シートの形状の種類としては、例えば電磁ノイズ吸収シートに応用する場合、厚み5μm以上10000μm以下、幅5mm以上5000mm以下、長さは0.005m以上1000m以下の圧縮成形によるバッチ型シート、ロール成形やカレンダー成形などによるロール状シートが挙げられる。
上記の方法で成形する際、その工程の一部又は全部を磁場中で行うと、磁性粒子が磁場配向して磁気特性が向上することがある。この磁場配向の方法には大きく、一軸磁場配向、回転磁場配向、対向磁極配向の3種類が挙げられる。
【0060】
一軸磁場配向とは、運動が可能な状態にある磁性材料又は複合磁性材料に、通常外部から任意の方向に静磁場を掛けて、磁性材料の容易磁化方向を外部静磁場方向に揃えることを意味する。この後通常、圧を掛けたり、樹脂成分を固めたりして、一軸磁場配向成形体を作製する。
回転磁場配向とは、運動が可能な状態にある磁性材料又は複合磁性材料を、通常一つの平面内で回転する外部磁場の中におき、磁性材料の磁化困難方向を一方向に揃える方法である。回転する方法は、外部磁場を回転させる方法、静磁場中で磁性材料を回転させる方法、外部磁場も磁性材料も回転させないが、複数の磁極の強さを同調させて変化させ、あたかも磁場が回転しているがごとく磁性材料が感じるようなシークエンスを組んで磁場を随時印加する方法、さらには上記の方法の組み合わせなどがある。押出成形やロール成形などでは、押出方向に磁極を2以上並べ、磁場の強さ或いは極性を変化させて、複合磁性材料又は樹脂複合磁性材料が通過するときに回転する磁場を感じるように配置し配向させる方法も、広義の回転磁場配向である。
【0061】
対向磁極配向は、同極の磁極を向かい合わせた環境に、磁性材料又は複合磁性材料を静置するか、回転又は並進運動、或いはそれらの組み合わせで運動させて、磁化困難方向を一方向に揃える方法である。
面内磁気異方性を有する磁性材料又は複合磁性材料を一軸磁場配向すれば、透磁率が1%以上50%以下の範囲で向上し、回転磁場配向や対向磁極配向を行うと1%以上200%以下の範囲で向上する。
磁場成形は、磁性材料を充分に磁場配向せしめるため、好ましくは8kA/m以上、さらに好ましくは80kA/m以上、最も好ましくは400kA/m以上の磁場中で行う。磁場配向に必要な磁場の強さと時間は、磁性材料粉体の形状、樹脂複合磁性材料の場合マトリックスの粘度や磁性材料粉体との親和性により決まる。
【0062】
一般に強い磁場を用いるほど配向時間が短くなるので、成形時間が短くマトリックス樹脂の粘度の大きいロール成形やカレンダー成形における磁場配向には、400kA/m以上の磁場を用いた方が望ましい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例などにより本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例などにより何ら限定されるものではない。例えば、本発明は、実施例により0.001GHz以上3GHz以下の範囲における電磁気特性を詳細に開示して、本発明の磁性材料が優れた「目的の機能」を有することを実証しているが、本発明の材料はこの範囲に限定して使用されるものではない。
【0064】
[実施例1、2及び比較例1]
吸引鋳造法で作製したインゴットを1000℃で2時間焼鈍することにより、希土類-鉄-M系合金の原料としてSm
7.7Fe
84.6Ti
7.7組成の原料合金を調製した。
この原料合金をアルゴン雰囲気中カッターミルでさらに粉砕した後、平均粒径約60μmのSm
7.7Fe
84.6Ti
7.7原料合金粉体(比較例1)を得た。この原料合金粉体を横型管状炉に仕込み、アンモニア分圧0.33atm、水素ガス分圧0.67atmの混合気流中で、390℃、30分間加熱処理し、Sm
6.4Fe
70.5Ti
6.4N
16.7組成の磁性粉体(実施例1)を調製した。この粉体の磁性材料をX線回折法(Co-Kα線源)により解析した結果、
図1のように正方晶を示す回折線が認められた。なお、窒化前の原料合金(比較例1)のX線回折図も
図1に併せて示したが、実施例1と同様に正方晶を示す回折線が見られた。但し、窒化により各回折線は低角にシフトしており、窒素が格子間に入ることにより、ThMn
12構造の正方晶系結晶格子が膨張して、格子体積が増大していることがわかった。
実施例1の粉体の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料(具体的にはSm
6.4Fe
70.5Ti
6.4N
16.7組成の磁性材料)の磁化の値は112emu/g、磁気異方性磁場は4.32Tであった。また、この磁性材料は面内磁気異方性の材料であった。
この結果から、実施例1で得られた希土類-鉄-M-窒素系磁性材料は、高周波用磁性材料として使用できることがわかった。
続いて、上記で得られた希土類-鉄-M-窒素系磁性材料の粉体(具体的には、実施例1のSm
6.4Fe
70.5Ti
6.4N
16.7組成の磁性材料の粉体)を4時間ボールミルで微粉砕して、平均粒径約4μmのSm-Fe-Ti-N系磁性材料の粉体(実施例2)を作製した。これに溶解性パラメータの値が11のエポキシ樹脂を8質量%配合及び混錬し、50℃で1昼夜硬化処理して、内径3.1mm、外径8mm、厚み1mmのトロイダル状の樹脂複合磁性材料を作製した。作製された樹脂複合磁性材料の密度は4.9g/cm
3で磁性材料の体積分率は62体積%であった。
実施例2の希土類-鉄-M-窒素系磁性粉体(具体的には、実施例1のSm
6.4Fe
70.5Ti
6.4N
16.7磁性粉体をボールミルで微粉砕した粉体)を用いた樹脂複合磁性材料の比透磁率(μ)の周波数変化を
図2に示した。
図2より、0.001GHz以上0.1GHz以下の範囲における比透磁率(μ)の実数項(μ’)の値は2.9から2.7の範囲内でほぼ一定であり、複素比透磁率(μ
r)の虚数項(μ”)の値は0から0.6と小さく、この領域の高周波増幅材料として使用できることが確認された。また、3GHzにおける複素比透磁率(μ
r)の実数項(μ’)と虚数項(μ”)の値はそれぞれ、1.3と0.4であり、その周波数における最大吸収エネルギー係数は13GHzに達した。よって、3GHz当たり超高周波領域で電磁ノイズ吸収材料として好適な高周波用複合磁性材料であることがわかった。さらに、
図2の比透磁率の周波数変化を高周波側に外挿することにより、3GHz以上でも電磁ノイズ吸収材料として好適であることがわかった。
また、このトロイダルの体積抵抗率は10
7Ωcmであり、極めて絶縁性が良好で孤立分散性に優れた樹脂複合磁性材料であり、好適な高周波用樹脂複合磁性材料であることがわかった。
なお、窒化する前のSm
7.7Fe
84.6Ti
7.7組成の原料合金粉体(比較例1)を実施例2と同様にしてトロイダル状の試料(密度4.9g/cm
3、磁性粉の体積分率58体積%)として、比透磁率(μ)の周波数変化を測定した結果も
図1に併せて示した。0.001GHz以上0.1GHz以下の範囲における比透磁率(μ)の実数項(μ’)の値は1.2でほぼ一定であり、虚数項(μ”)はほぼ0で一定である。真空の透磁率と大きく変わらず、一軸磁気異方性材料特有の透磁率変化を示しており、0.001GHzから3GHzの範囲までの周波数範囲では、磁場もほとんど増幅(μ’倍)しないし、電磁ノイズ吸収(吸収エネルギー量はμ”に比例)もしないので、高周波磁性材料としては適さないことがわかった。なお、比較例1の磁性材料は、磁場配向実験により一軸磁気異方性を示すことがわかったが、実施例2では、X線回折法の結果と併せて考えると、窒素が正方晶の結晶構造の格子間に侵入することで、磁気異方性が一軸から面内に劇的に変化し、高周波特性も飛躍的に向上することが明らかになった。
このように、実施例2で得られた希土類-鉄-M-窒素系樹脂複合磁性材料は、高周波用磁性材料として使用できることがわかった。
【0065】
[実施例3]
実施例1と同様な方法で、平均粒径約60μmのSm
7.2Fe
72.4V
14.5N
5.9系磁性材料粉体(実施例3)を作製した。この粉体の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料(具体的には、実施例3の粉体のSm
7.2Fe
72.4V
14.5N
5.9系磁性材料)の磁化の値は132emu/g、磁気異方性磁場は7.25Tであった。また、この磁性材料は面内磁気異方性の材料であった。なお、この粉体は微粉砕をしていない。これに溶解性パラメータの値が11のエポキシ樹脂を8質量%配合及び混錬し、50℃で1昼夜硬化処理して、内径3.1mm、外径8mm、厚み1mmのトロイダル状の樹脂複合磁性材料を作製した。作製された樹脂複合磁性材料の密度は5.0g/cm
3で磁性材料の体積分率は61体積%であった。
本実施例で得られた希土類-鉄-M-窒素系樹脂複合磁性材料の比透磁率(μ)の周波数変化は、
図3に示す通りであり、0.001GHzから0.1GHzの範囲における比透磁率(μ)の実数項(μ’)の値は5.0から3.8でほぼ一定であり、複素比透磁率(μ
r)の虚数項(μ”)の値は0から1.4と小さく、この領域の高周波増幅材料として使用できることがわかった。
また、最大吸収エネルギー係数は周波数3GHzのとき3.9GHzであった。よって、3GHz当たり超高周波領域で電磁ノイズ吸収材料として好適な高周波用複合磁性材料であることもわかり、さらに
図3の比透磁率の周波数変化を高周波側に外挿することにより、3GHz以上でも電磁ノイズ吸収材料として好適であることがわかった。
このように、実施例3で得られた希土類-鉄-M-窒素系樹脂複合磁性材料は、高周波用磁性材料として使用できることがわかった。
【0066】
[実施例4及び比較例2]
吸引鋳造法で作製したインゴットを1000℃で2時間焼鈍することにより、希土類-鉄-M系合金の原料としてCe
7.7Fe
84.6Ti
7.7組成の原料合金を調製した。焼鈍前後の原料合金断面のSEM(走査電子顕微鏡)写真を
図4に示した。吸引鋳造法を用いたために、鋳造直後(
図4A、焼鈍前)の分相が小さく、1000℃、2時間の焼鈍で、均質な原料合金(
図4B、焼鈍後)が作製できた。なお、
図4中黒色の領域は立方晶の結晶構造を有するbcc構造のFe-Ti合金相、灰色の領域は正方晶の結晶構造を有するThMn
12構造のCeFe
11Ti合金相、白色の領域は菱面体晶の結晶構造を有するTh
2Zn
17構造のCe
2Fe
17合金相等のCe富化相であることが、SEM-EDX等を組み合わせた解析によりわかった。
この原料合金をアルゴン雰囲気中カッターミルで粉砕して平均粒径60μmのCe
7.7Fe
84.6Ti
7.7原料合金粉体(比較例2)を得た。この原料合金粉体を横型管状炉に仕込み、アンモニア分圧0.33atm、水素ガス分圧0.67atmの混合気流中で390℃、30分間加熱処理し、平均粒径40μmのCe
5.3Fe
58.2Ti
5.3N
31.2組成の磁性粉体(実施例4)を調製した。この実施例4の粉体の希土類-鉄-M-窒素系磁性材料(具体的にはCe
5.3Fe
58.2Ti
5.3N
31.2組成の磁性材料)の磁化の値は104emu/gで、磁気的に等方性の材料であった。比較例2と実施例4の磁性粉体をX線回折(Co-Kα線源)で解析した結果を
図5に示した。この図より比較例の原料粉体は正方晶系の結晶構造を有していることが判った。また、実施例4の磁性粉体は窒化非晶質化により、原料の正方晶系の結晶構造が崩れて、均質な非晶質になっていることが明らかになった。
この結果から、実施例4で得られた希土類-鉄-M-窒素系磁性材料は、本発明の高周波用磁性材料として使用できることがわかった。
続いて、この希土類-鉄-M-窒素系磁性材料に溶解性パラメータの値が11のエポキシ樹脂を8質量%配合及び混錬し、50℃で1昼夜硬化処理して、内径3.1mm、外径8mm、厚み1mmのトロイダル状の樹脂複合磁性材料を作製した。作製された樹脂複合磁性材料の密度は5.4g/cm
3で磁性材料の体積分率は66体積%であった。
本実施例で得られた希土類-鉄-M-窒素系樹脂複合磁性材料の比透磁率(μ)の周波数変化を
図6に示した。0.001GHz以上0.03GHz以下の範囲における比透磁率(μ)の実数項(μ’)の値は13.2と極めて高い値であった。複素比透磁率(μ
r)の虚数項(μ”)の値は0.001GHzから0.005GHz辺りでほぼ0であった。よって、この領域の磁場増幅材料として使用できることがわかった。また、0.3GHzにおける複素比透磁率(μ
r)の値は5.7であり、この領域の電磁ノイズ吸収材料として使用可能であることがわかった。
窒化する前のCe
7.7Fe
84.6Ti
7.7組成の原料合金(比較例2)を実施例4と同様にしてトロイダル試料(密度5.0g/cm
3、磁性粉の体積分率59体積%)に調製した。その比透磁率(μ)の周波数変化を
図6に併せて示した。0.001GHzから0.03GHzにおける比較例1の比透磁率(μ)の実数項(μ’)の値はほぼ2.8から1.9の範囲内であり、実施例4に比べ低い値であった。さらに、0.001から0.003GHzの周波数領域の比較例1の比透磁率(μ)の虚数項(μ”)は1から0.5の範囲内であって、実施例4に対し磁場増幅材料とするには損失が大きく、高周波増幅材料として使用できないことがわかった。
このように、実施例4で得られた希土類-鉄-M-窒素系樹脂複合磁性材料も、高周波用磁性材料として使用できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、主として動力機器や情報通信関連機器に用いられる、高周波領域で使用されるトランス、ヘッド、インダクタ、リアクトル、ヨーク、コア(磁芯)など、アンテナ、マイクロ波素子、磁歪素子、磁気音響素子及び磁気記録素子など、ホール素子、磁気センサ、電流センサ、回転センサ、電子コンパスなどの磁場を介したセンサ類に用いられる磁性材料、中でも無線給電(ワイヤレス電力伝送、非接触電力伝送とも呼ばれる)システムに使用されるコイルのコア、アンテナのコアなど、さらに電磁ノイズ吸収材料、電磁波吸収材料や磁気シールド用材料などの不要な電磁波干渉による障害を抑制する磁性材料、ノイズ除去用インダクタなどのインダクタ素子用材料、RFID(Radio Frequency Identification)タグ用材料やノイズフィルタ用材料などの高周波領域で信号からノイズを除去する磁性材料などの高周波用複合磁性材料に関する。