(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】ポリウレタンウレア樹脂組成物及びコーティング剤
(51)【国際特許分類】
C08G 18/44 20060101AFI20241025BHJP
C08G 18/28 20060101ALI20241025BHJP
C08G 18/32 20060101ALI20241025BHJP
C08G 18/65 20060101ALI20241025BHJP
C08G 18/75 20060101ALI20241025BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
C08G18/44
C08G18/28 050
C08G18/32 034
C08G18/65
C08G18/75
C08G18/75 010
C09D175/04
(21)【出願番号】P 2018049081
(22)【出願日】2018-03-16
【審査請求日】2021-02-10
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川口 忠之
【合議体】
【審判長】近野 光知
【審判官】細井 龍史
【審判官】小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-128642(JP,A)
【文献】特開2017-122169(JP,A)
【文献】国際公開第2016/006566(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G18/00-18/87
C09D175/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール(A)、ポリイソシアネート(B)、ジアミン(C)、及びモノアミン(M)から得られるポリウレタンウレア樹脂組成物であって、
ポリオール(A)が、数平均分子量2200~6000のポリカーボネートジオール(a1)を含み、
ポリイソシアネート(B)が、脂環族ジイソシアネート(b1)を含み、
脂環族ジイソシアネート(b1)が、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、及びイソホロンジイソシアネートを含み、
該ポリウレタンウレア樹脂組成物の数平均分子量が30000~90000であることを特徴とするポリウレタンウレア樹脂組成物。
【請求項2】
ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネートと、イソホロンジイソシアネートと、の比率が、
イソホロンジイソシアネート:ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート=22.03:77.97~70.59:29.41
であることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタンウレア樹脂組成物。
【請求項3】
ポリオール(A)が、前記ポリカーボネートジオール(a1)、及び鎖延長剤(a2)を含み、
鎖延長剤(a2)が
1,4-ブタンジオール、または1,6-ヘキサンジオールであることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリウレタンウレア樹脂組成物。
【請求項4】
軟化温度が170℃以上である、請求項1乃至3のいずれかに記載のポリウレタンウレア樹脂組成物。
【請求項5】
軟化温度が180℃以上であることを特徴とする
請求項1乃至3のいずれかに記載のポリウレタンウレア樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のポリウレタンウレア樹脂組成物を含むコーティング剤。
【請求項7】
ポリウレタンウレア樹脂組成物を一液システムで用いることを特徴とする、請求項6に記載のコーティング剤。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のコーティング剤から得られる塗膜。
【請求項9】
請求項6又は7に記載のコーティング剤を用いた成形物。
【請求項10】
ポリオール(A)、及びポリイソシアネート(B)から得られるイソシアネート基末端プレポリマー(P)と、ジアミン(C)と、モノアミン(M)とを反応させて得られるポリウレタンウレア樹脂組成物の製造方法であって、
ポリオール(A)が、数平均分子量2200~6000のポリカーボネートジオール(a1)を含み、
ポリイソシアネート(B)が、脂環族ジイソシアネート(b1)を含み、
脂環族ジイソシアネート(b1)が、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、及びイソホロンジイソシアネートを含み、
該ポリウレタンウレア樹脂組成物の数平均分子量が30000~90000であることを特徴とするポリウレタンウレア樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性が高いポリウレタンウレア樹脂組成物、該組成物を用いたコーティング剤、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリウレタン樹脂は、耐摩耗性、屈曲性、可撓性、柔軟性、加工性、接着性、耐薬品性などの諸物性に優れ、且つ各種加工法への適性にも優れるため、電子機器部材、衣料、家具・家電、日用雑貨、建築・土木、及び自動車部材へのコーティング材、インキ、接着剤、塗料などの樹脂成分として、又はフィルム、シートなどの各種成形体として広く使用されている。
【0003】
このようなポリウレタン樹脂は、合成皮革にも用いられ、その外観や風合いが天然皮革に似ているため、衣料、鞄、袋物、履物等の分野で広く使用されている。例えば、皮革用シート物として、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIとも言う。)とポリエーテル及び4,4’-ジアミノジフェニルメタンから得られるポリウレタンを使用することが提案されている(特許文献1参照)。また、ポリウレタン樹脂の溶剤への溶解性を向上させ、樹脂溶液を低粘度化し作業性を向上させるために、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート以外の異性体を含有するウレタン樹脂組成物が提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、加工時の作業性、成形品が高温環境下にさらされた際の形状安定性、耐候性に関し不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公平4-80141号公報
【文献】特開平10-8383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上のような背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い軟化温度、優れた耐候性、良好なハンドリング性を有する樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、特定のポリカーボネートジオールと特定のポリイソシアネートを用いたポリウレタンウレア樹脂組成物により前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下に示す実施形態を含むものである。
【0009】
[1]ポリオール(A)、ポリイソシアネート(B)、ジアミン(C)、及びモノアミン(M)から得られるポリウレタンウレア樹脂組成物であって、ポリオール(A)が、数平均分子量2200~6000のポリカーボネートジオール(a1)を含み、ポリイソシアネート(B)が、脂環族ジイソシアネート(b1)を含み、該ポリウレタンウレア樹脂組成物の数平均分子量が30000~90000であることを特徴とするポリウレタンウレア樹脂組成物。
【0010】
[2]ポリオール(A)が、前記ポリカーボネートジオール(a1)、及び鎖延長剤(a2)を含み、鎖延長剤(a2)が炭素数2~8のジオールであることを特徴とする、上記[1]に記載のポリウレタンウレア樹脂組成物。
【0011】
[3]脂環族ジイソシアネート(b1)が、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、及びイソホロンジイソシアネートを含むことを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載のポリウレタンウレア樹脂組成物。
【0012】
[4]ジアミン(C)が、脂環族ジアミンを含むことを特徴とする、上記[1]乃至[3]のいずれかに記載のポリウレタンウレア樹脂組成物。
【0013】
[5]軟化温度が150℃以上である、上記[1]乃至[4]のいずれかに記載のポリウレタンウレア樹脂組成物。
【0014】
[6]上記[1]乃至[5]のいずれかに記載のポリウレタンウレア樹脂組成物を含むコーティング剤。
【0015】
[7]ポリウレタンウレア樹脂組成物を一液システムで用いることを特徴とする、上記6に記載のコーティング剤。
【0016】
[8]上記[6]又は[7]に記載のコーティング剤から得られる塗膜。
【0017】
[9]上記[6]又は[7]に記載のコーティング剤を用いた成形物。
【0018】
[10]ポリオール(A)、及びポリイソシアネート(B)から得られるイソシアネート基末端プレポリマー(P)と、ジアミン(C)と、モノアミン(M)とを反応させて得られるポリウレタンウレア樹脂組成物の製造方法であって、ポリオール(A)が、数平均分子量2200~6000のポリカーボネートジオール(a1)を含み、ポリイソシアネート(B)が、脂環族ジイソシアネート(b1)を含み、該ポリウレタンウレア樹脂組成物の数平均分子量が30000~90000であることを特徴とするポリウレタンウレア樹脂組成物の製造方法。
【0019】
なお、本発明における軟化温度とは、得られた樹脂組成物の耐熱性の指標の一つであり、軟化温度が高いほど耐熱性が高いことを意味する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高い軟化温度、優れた耐候性、良好なハンドリング性を有するポリウレタンウレア樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のポリウレタンウレア樹脂組成物は、ポリオール(A)、ポリイソシアネート(B)、ジアミン(C)、及びモノアミン(M)から得られるポリウレタンウレア樹脂組成物であることを特徴とする。
【0022】
本発明のポリオール(A)は、数平均分子量が2200~6000のポリカーボネートジオール(a1)を含むものである。
【0023】
ポリカーボネートジオール(a1)としては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のアルキレンカーボネート類、ジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ジアントリルカーボネート、ジフェナントリルカーボネート、ジインダニルカーボネート、テトラヒドロナフチルカーボネート等のジアリールカーボネート類等のカーボネート類と、グリコールとの反応によって得ることができる。
【0024】
グリコールとしては、例えばエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3-ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド付加物、ビス(β-ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール等の低分子ジオール群の中から選ばれる。これらは単独で用いても2種類以上組み合わせて用いても良い。
【0025】
本発明におけるポリカーボネートジオール(a1)としては、カーボネート類としてアルキレンカーボネートを用い、グリコール類としては得られるポリウレタンウレア樹脂の軟化温度を高くできること、入手のしやすさを考慮すると1,6-ヘキサンジオールが好ましい。
【0026】
本発明においては、ポリカーボネートジオール(a1)とポリエステルポリオール(a3)とをエステル交換反応することにより得られるコポリマーポリオールを、ポリカーボネートジオール(a1)に換えて用いることができる。
【0027】
前記ポリエステルポリオール(a3)としては、グリコールとジカルボン酸成分から得られるポリエステルポリオールや、グリコールを開始剤としてラクトン類などの環状エステル化合物を開環付加重合することで得られるものが挙げられる。
【0028】
上記のグリコールとしては、例えばエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3-ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド付加物、ビス(β-ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール等が挙げられ、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が併用できる。
【0029】
これらアルコールとシュウ酸、マロン酸、マレイン酸、アジピン酸、酒石酸、ピメリン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸等のジカルボン酸とを、公知の縮合方法によって作製したポリエステルポリオールを使用することができる。
【0030】
また、好ましいラクトン類としては、例えばβ-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、α-カプロラクトン、β-カプロラクトン、γ-カプロラクトン、δ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-ε-カプロラクトン、β-メチル-ε-カプロラクトン、4-メチルカプロラクトン、γ-カプリロラクトン、ε-カプリロラクトン、ε-パルミトラクトン等が挙げられ、これらの中から選ばれる1種または2種以上を混合して使用することができる。中でもエチレングリコールを開始剤としたε-カプロラクトンの開環付加重合体が重合時の安定性及び経済性の点から好ましい。
【0031】
ポリカーボネートジオール(a1)とポリエステルポリオール(a3)とをエステル交換反応することにより得られるコポリマーポリオールを用いる場合、ポリカーボネートジオール(a1)とポリエステルポリオール(a3)の質量比は(a1)/(a3)=95/5~50/50の範囲が好ましく、(a1)/(a3)=90/10~60/40の範囲が更に好ましい。
【0032】
前記質量比をこれらの範囲とすることでポリカーボネートジオールの凝集力とウレタン基濃度、ポリエステルポリオール含有量のバランスにより柔軟性と基材への密着性をともに向上させることができる。
【0033】
ポリカーボネートジオール(a1)の数平均分子量は、2200~6000の範囲であり、高軟化温度特性の他、合成の容易さ、取扱いやすさを考慮すると、2500~4000の範囲が好ましく、2800~3500の範囲が更に好ましい。なお、ポリカーボネートジオール(a1)とポリエステルポリオール(a3)とをエステル交換反応することにより得られるコポリマーポリオールの数平均分子量も同様である。
【0034】
本発明におけるポリイソシアネート(B)としては、耐候性の観点から、脂環族ジイソシアネートを含む。脂環族ジイソシアネートとしては、例えばイソホロンジイソシアネート(以後、IPDIと言う。)、シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート(以後、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート又は水添MDIと言う。)、ノルボルナンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシレンジイソシアネート等を挙げることができる。これら脂環族ジイソシアネートの中で、IPDI、水添MDIが好ましく、柔軟性、耐久性、生産性の観点から前記2種を併用することが特に好ましい。
【0035】
IPDIと水添MDIとを併用する場合、IPDIと水添MDIの質量比は、10/90~75/25の範囲が好ましく、10/90~40/60の範囲が更に好ましい。
【0036】
また、性能が低下しない範囲で、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのポリイソシアネートを原料として得られるイソシアヌレート基含有ポリイソシアネート、ウレトジオン基含有ポリイソシアネート、ウレトジオン基及びイソシアヌレート基含有ポリイソシアネート、ウレタン基含有ポリイソシアネート、アロファネート基含有ポリイソシアネート、ビュレット基含有ポリイソシアネート、ウレトイミン基含有ポリイソシアネート等を併用することができる。
【0037】
本発明のジアミン(C)としては、例えば、脂環族ジアミンであるイソホロンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ノルボルナンジアミン、水素添加トリレンジアミン、水素添加キシレンジアミン、水素添加テトラメチルキシレンジアミン等、脂環族ジアミン以外のジアミンである、エチレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、2-ヒドロキシ-1,3-プロパンジアミン等を挙げることができ、これら単独で、または2種以上併用することができる。
【0038】
これらジアミンのうち、脂環族ジアミンを用いることが好ましく、柔軟性と耐久性のバランスから、イソホロンジアミンを用いることがより好ましい。
【0039】
本発明のモノアミン(M)としては、特に限定するものではないが、例えば、エチルアミン、モルホリン、プロピルアミン、ジブチルアミン、ジエチルアミン、モノエタノールアミン、ジブチルアミンモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-n-ブチルエタノールアミン、N-t-ブチルエタノールアミン、ヒドロキシエチルピペラジン、N-(3-アミノプロピル)ジエタノールアミン、N-シクロヘキシルエタノールアミン等が挙げられる。これらの中でも、反応性や分子量制御の観点から、モノエタノールアミンが好ましい。
【0040】
本発明においては、必要に応じて鎖延長剤(a2)を用いても良い。鎖延長剤としては、特に限定するものではないが、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ネオペンチルグリコール、メチルオクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ビスフェノール、シクロヘキサンジメタノール、ジメチロールヘプタン、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。これらの中でも、炭素数が2~8のジオールが好ましく、耐久性や柔軟性のバランスから1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールが好ましい。
【0041】
ポリカーボネートジオール(A)と鎖延長剤(a2)のモル比は、(a2)/(A)として好ましくは0.05~7であり、さらに好ましくは0.1~5、特に好ましくは0.2~4である。
【0042】
本発明におけるポリウレタンウレア樹脂は、数平均分子量が30000~90000であり、40000~80000が好ましい。数平均分子量が下限未満では、樹脂組成物の軟化温度が低下する場合がある。また、数平均分子量が上限を超える場合、樹脂溶液の粘度が高くなり、ハンドリング性が低下する恐れがある。
【0043】
次に、本発明のポリウレタンウレア樹脂組成物の一般的な製造方法について、以下例を挙げて説明する。
【0044】
第1工程:ポリオール(A)とポリイソシアネート(B)とを、イソシアネート基が過剰になるように仕込んで、有機溶剤の存在下または非存在下、ウレタン化反応させてイソシアネート基末端プレポリマー(P)を製造する。
【0045】
第2工程:イソシアネート基末端プレポリマー(P)と、ジアミン(C)とモノアミン(M)とをウレア化反応させる。
【0046】
また、一連の製造工程においては、イソシアネート基と水分との反応を抑制するために、窒素ガス、若しくは、乾燥空気気流下で反応を進行させることが好ましい。
【0047】
第1工程における「イソシアネート基が過剰になるように」とは、原料仕込みの際、ポリイソシアネート(B)のイソシアネート基とポリオール(A)の水酸基とのモル比が、R=イソシアネート基/水酸基で1.5~3.0になるように仕込むことが好ましく、更に好ましくは、R=1.8~2.7になるように仕込むことが好ましい。
【0048】
また、ウレタン化反応の反応温度は、20~120℃が好ましく、より好ましくは50~100℃である。尚、このウレタン化反応は、無触媒でも反応が進行するが、公知のウレタン化反応触媒を使用し、反応を促進することもできる。
【0049】
ウレタン化反応に使用できる触媒としては、例えばジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート等の有機金属化合物や、トリエチレンジアミンやトリエチルアミン等の有機アミンやその塩を選択して用いることができる。
【0050】
ウレタン化反応の反応時間は、触媒の有無、種類、及び温度により異なるが、一般には10時間以内、好ましくは1~5時間で十分である。尚、反応時間が長くなるに従い着色等の不具合を生じる場合がある。
【0051】
また、ポリウレタンウレア樹脂組成物の製造に使用する有機溶剤としては、有機溶剤の存在下で反応に影響を与えない溶剤が適宜選ばれる。
【0052】
有機溶剤としては、例えばオクタン等の脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル類、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネート等のグリコールエーテルエステル類、ジオキサン等のエーテル類、ヨウ化メチレン、モノクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホニルアミド等の極性非プロトン溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、単独、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
第2工程では、第1工程で製造したイソシアネート基末端プレポリマー(P)とジアミン(C)とモノアミン(M)により20~60℃でウレア化反応し、本発明のポリウレタンウレア樹脂を得ることができる。
【0054】
本発明のポリウレタンウレア樹脂組成物を使用する際は、硬化剤を使用せずとも高い軟化温度を有すことからポリイソシアネート等の硬化剤を用いない一液システムで使用することが好ましい。硬化剤を使用することでより軟化温度を高めることができるが、柔軟性が損なわれる恐れがあるため、その使用量は、ポリウレタンウレア樹脂組成物100質量部に対し10質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。
【0055】
硬化剤としては、例えば前記の芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート、これらのポリイソシアネートを原料として得られるイソシアヌレート基含有ポリイソシアネート、ウレトジオン基含有ポリイソシアネート、ウレトジオン基及びイソシアヌレート基含有ポリイソシアネート、ウレタン基含有ポリイソシアネート、アロファネート基含有ポリイソシアネート、ビュレット基含有ポリイソシアネート、ウレトイミン基含有ポリイソシアネート等を使用することもできる。
【0056】
本発明によって得られたポリウレタンウレア樹脂組成物には、必要に応じて、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、溶剤、難燃剤、加水分解抑制剤、潤滑剤、可塑剤、充填材、帯電防止剤、分散剤、触媒、貯蔵安定剤、界面活性剤、レベリング剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0057】
このようにして得られる本発明のポリウレタンウレア樹脂組成物は、軟化温度を150℃以上とすることが可能となる。軟化温度を150℃以上とすることで、高温条件下での形状・機能を維持することができ、電子機器部材、家具・家電部材、日用雑貨及び自動車部材等において、その有用性を高めることができる。
【0058】
次に、本発明のポリウレタンウレア樹脂組成物を使用したコーティング剤、そのコーティング剤から得られる塗膜、成形体について説明する。
【0059】
本発明のポリウレタンウレア樹脂組成物は、通信タブレットなどの電子機器部材、衣料、鞄、袋物、履物等に用いられる合成皮革、家具・家電部材、日用雑貨、及び自動車部材に用いられるコーティング剤、塗膜、成形物として好適に使用される。
【0060】
コーティング剤は、本発明のポリウレタンウレア樹脂組成物に、必要に応じて溶剤、添加剤等を配合した組成物であり、例えば塗料、接着剤等として好適に使用できる。
【0061】
塗膜は、少なくとも本発明のポリウレタンウレア樹脂組成物を含有したコーティング剤に、必要に応じて前記の架橋剤や添加剤を混合、均一撹拌後、スプレー塗装、ナイフ塗工、ワイヤーバー塗工、ドクターブレード塗工、リバースロール塗工、カレンダー塗工等の公知技術により、基材上に形成したコーティング膜である。
【0062】
成形物としては、部材、構造物、フィルム、及びシートが含まれ、注型や塗布などの公知技術により成形されたものを挙げることができる。
【0063】
前記の基材としては、ステンレス、リン酸処理鋼、亜鉛鋼、鉄、銅、アルミニウム、真鍮、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート-ABS樹脂、6-ナイロン樹脂、6,6-ナイロン樹脂、MXD6ナイロン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリアセタール樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、NBR樹脂、クロロプレン樹脂、SBR樹脂、SEBS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂などの素材で成型された基材やポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、6-ナイロン樹脂、6,6-ナイロン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース、ポリ乳酸、綿、ウールから選ばれる少なくとも1種類を主成分とする有機繊維やガラスウールなどの無機繊維、炭素繊維を挙げることができる。
【0064】
これらの基材は、接着性を上げるために、基材表面を予めコロナ放電処理、フレーム処理、紫外線照射処理、及びオゾン処理等の処理をすることもできる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
[ポリウレタンウレア樹脂組成物の合成]
[実施例1]
撹拌機、温度計、加熱装置、蒸留塔を備えた容量2リットルの四つ口フラスコに、ポリカーボネートジオール1(1,6ヘキサンジオール系ポリカーボネートポリオール、数平均分子量3,000)を159gと、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと言う。)を700g仕込み、これらを45℃で均一に撹拌しながら窒素ガスバブリングして高分子ポリオール溶液を調製した。この高分子ポリオール溶液に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと言う。)を14gと、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、水添MDIと言う。)を49g仕込み、窒素気流下、75℃で2時間ウレタン化反応させることにより、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(P)溶液を得た。このプレポリマー溶液のNCO含有量は1.1質量%であった。
【0067】
得られたイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー(P)溶液に、イソホロンジアミン(以下、IPDAと言う。)を20gと、モノエタノールアミン(以下、MEAと言う。)2gを予め混合したアミン溶液を添加し、40℃で2時間にわたり鎖延長反応させることによりポリウレタンウレア樹脂組成物を得た。得られたポリウレタンウレア樹脂組成物のGPCによる数平均分子量は75000、25℃における粘度が20000mPa・sであった。
【0068】
[GPC:分子量の測定条件]
(1)測定器:HLC-8220(東ソー社製)
(2)カラム:TSKgel(東ソー社製)
・G3000H-XL
・G2500H-XL
・G2000H-XL
・G1000H-XL
(3)キャリア:THF(テトラヒドロフラン)
(4)検出器:RI(屈折率)検出器
(5)温度:40℃
(6)流速:1.000ml/min
(7)検量線:標準ポリスチレン(東ソー社製)
・F-80(分子量:7.06×105、分子量分布:1.05)
・F-20(分子量:1.90×105、分子量分布:1.05)
・F-10(分子量:9.64×104、分子量分布:1.01)
・F-2(分子量:1.81×104、分子量分布:1.01)
・F-1(分子量:1.02×104、分子量分布:1.02)
・A-5000(分子量:5.97×103、分子量分布:1.02)
・A-2500(分子量:2.63×103、分子量分布:1.05)
・A-500(分子量:5.0×102、分子量分布:1.14)
(8)サンプル溶液濃度:0.5%THF溶液。
【0069】
[その他のポリウレタンウレア樹脂組成物の合成]
各原材料の仕込み組成(配合量は質量基準)を表1に記載の通りにして、実施例1のポリウレタンウレア樹脂組成物の製造と同様に、実施例2~5、比較例1~3のポリウレタンウレア樹脂を合成した。
【0070】
[ポリウレタンウレア樹脂組成物を用いたフィルム作製]
得られたポリウレタンウレア樹脂組成物を乾燥膜厚が60μmとなるように離型紙上に塗布し、常温で20分間静置後、乾燥機中で、温度60℃で20分、続けて120℃で20分加熱処理を行い、その後、40℃で24時間養生させることによりフィルムを得た。このフィルムを用いて物性の評価を行った。
【0071】
[評価試験1]
[引張特性]
得られたフィルムの引張特性を、JIS K6251に準拠して測定した。結果を表1、表2に示す。
・試験装置:テンシロンUTA-500(エー・アンド・デー社製)
・測定条件:25℃×50%RH
・ヘッドスピード:200mm/分
・ダンベル4号。
【0072】
[評価試験2]
[軟化温度]
得られたフィルムからダンベルを用いて試験片を得た後、試験片に2cmの標線を記し、標線中央部の厚みを測定した。試験片の一方のつかみ部に所定重量のおもりを取り付け、もう一方のつかみ部をダブルクリップで挟み込み、クリップが上側となるように乾燥機内に吊り下げた後、乾燥機内を昇温し標線間距離を観測、標線間距離が4cmとなったときの温度を軟化温度として読み取った。この軟化温度が150℃以上であれば評価良好と言える。結果を表1、表2に示す。
・処理装置:送風定温乾燥機DRK633DA(アドバンテック社製)
・おもり重量:標線中央部厚み(μm)× 0.05g
・ダンベル2号(JIS K6251準拠)
・昇温速度:5℃/分。
【0073】
[評価試験3]
[ハンドリング性]
ハンドリング性は、25℃における粘度が80000mPa・s以下であれば良好と言える。
【0074】
[評価試験4]
[耐候性]
得られたフィルムを下記条件で耐候性処理し、色数測定した。
<耐候性試験>
・処理装置:QUV(Q-LAB社製)
・ランプ:EL-313
・照度:0.59w/m2
・λmax:313nm
・1サイクル:12時間〔UV照射:8時間(温度70℃)、結露:4時間(温度50℃)〕
・処理時間:300時間
<色数測定>
耐候性処理したフィルムを、色彩色差計(CR-310、コニカミノルタ社製)を用いてb*を測定した。b*値が1.0以下であれば良好と言える。
【0075】
[評価試験5]
[耐摩耗性]
JIS L1096に準じ、テーバー摩耗試験機(安田精機製作所社製)により、荷重1kg、円板回転速度60rpm×500回転、摩耗輪H-22を使用し、摩耗性を測定した。評価が○及び△であれば良好と言える。
<評価基準>
・コーティング膜が剥離、又は大部分が摩耗したもの(評価:×)
・コーティング膜の一部が摩耗したもの(評価:△)
・外観の変化が認められないもの(評価:○)
【0076】
【0077】
【0078】
表1、及び表2で使用した原料は以下の通り。
(1)IPDI:イソホロンジイソシアネート(エボニック社製)
(2)水添MDI:水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート(住化コベストロウレタン社製)
(3)MDI-1:2,2’-MDI+2,4’-MDI=1.8質量%、4,4’-MDI=98.2質量%
(4)MDI-2:2,2’-MDI+2,4’-MDI=93.0質量%、4,4’-MDI=7.0質量%
*MDI:ジフェニルメタンジイソシアネート(東ソー社製)
(5)Polyol-1:1,6ヘキサンジオール系ポリカーボネートポリオール、数平均分子量3,000
(6)Polyol-2:1,6ヘキサンジオール系ポリカーボネートポリオール(数平均分子量3,000)/ポリカプロラクトンポリオール(数平均分子量3,000)=質量比7/3のコポリマーポリオール、数平均分子量3,000
(7)Polyol-3:1,6ヘキサンジオール系ポリカーボネートポリオール、数平均分子量2,500
(8)Polyol-4:1,6ヘキサンジオール系ポリカーボネートポリオール、数平均分子量2,000
(9)1,4-BG:1,4-ブタンジオール(三菱化学社製)
(10)1,6-HG:1,6-ヘキサンジオール(宇部興産社製)
(11)IPDA:イソホロンジアミン(エボニック社製)
(12)DMF:N,N-ジメチルホルムアミド(三菱ガス化学社製)
(13)MEK:メチルエチルケトン(丸善石油社製)