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特許7576919切断用ブレードおよび切断用ブレードの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】切断用ブレードおよび切断用ブレードの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24D 5/12 20060101AFI20241025BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20241025BHJP
   B23D 61/02 20060101ALI20241025BHJP
   B23D 65/00 20060101ALI20241025BHJP
   B26D 1/18 20060101ALI20241025BHJP
   B28D 1/24 20060101ALI20241025BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
B24D5/12 Z
B24D3/00 310C
B24D3/00 340
B23D61/02 Z
B23D65/00
B26D1/18
B28D1/24
H01L21/78 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020045682
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021146407
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-23
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(72)【発明者】
【氏名】中村 正人
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-006407(JP,A)
【文献】特開2009-196058(JP,A)
【文献】特開2004-136431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 5/12
B24D 3/00
B23D 65/00
B23D 61/02
B26D 1/18
B28D 1/24
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を有する円板状のボンド相と、
前記ボンド相に分散される複数の砥粒と、
前記ボンド相の外周部に配置される切れ刃と、
前記ボンド相の側面に設けられたコーティング層と、を備え、
前記コーティング層は、CuまたはNiであり、
前記複数の砥粒は、前記ボンド相の側面から突出する複数の突出砥粒を含み、
前記突出砥粒として、砥粒サイズが#325の砥粒が用いられ、
前記複数の突出砥粒は、前記コーティング層の表面にそれぞれ露出され、
各前記突出砥粒が前記ボンド相の側面から突出する突出量の差が、2μm以下であり、
前記突出砥粒は、
前記ボンド相に埋め込まれる埋込部と、
前記ボンド相の側面から突出する突出部と、を有し、
前記埋込部の前記側面からの埋込量が、前記突出部の前記側面からの突出量よりも大きい、
切断用ブレード。
【請求項2】
前記中心軸が延びる軸方向において、前記コーティング層の表面と前記突出砥粒の頂部との間の距離が、1μm以下である、
請求項1に記載の切断用ブレード。
【請求項3】
前記ボンド相は、メタルボンド相または電鋳ボンド相である
請求項1または2に記載の切断用ブレード。
【請求項4】
前記コーティング層の厚さが、前記突出砥粒の平均粒径以下である、
請求項1から3のいずれか1項に記載の切断用ブレード。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の切断用ブレードを製造する方法であって、
前記複数の砥粒が分散された前記ボンド相を作製するボンド相作製工程と、
前記ボンド相の側面にラップ処理やエッチング処理を施すことにより、前記ボンド相の側面から前記複数の突出砥粒を突出させる砥粒突き出し工程と、
前記ボンド相の側面に、前記突出量よりも厚くなるように前記コーティング層を作製するコーティング層作製工程と、
前記コーティング層の表面を研磨し、前記表面に前記複数の突出砥粒を露出させる砥粒露出工程と、を含む、
切断用ブレードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断用ブレードおよび切断用ブレードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子材料製造分野において、被切断材を切断することによって個片化する製法に用いられる切断用ブレードが知られている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-144477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の切断用ブレードは、側面摩耗を抑制して刃痩せを低減する点に改善の余地があった。
【0005】
本発明は、ブレード側面の摩耗を抑制して、刃痩せを低減できる切断用ブレード、および切断用ブレードの製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の切断用ブレードの一つの態様は、中心軸を有する円板状のボンド相と、前記ボンド相に分散される複数の砥粒と、前記ボンド相の外周部に配置される切れ刃と、前記ボンド相の側面に設けられたコーティング層と、を備え、前記コーティング層は、CuまたはNiであり、前記複数の砥粒は、前記ボンド相の側面から突出する複数の突出砥粒を含み、前記突出砥粒として、砥粒サイズが#325の砥粒が用いられ、前記複数の突出砥粒は、前記コーティング層の表面にそれぞれ露出され、各前記突出砥粒が前記ボンド相の側面から突出する突出量の差が、2μm以下であり、前記突出砥粒は、前記ボンド相に埋め込まれる埋込部と、前記ボンド相の側面から突出する突出部と、を有し、前記埋込部の前記側面からの埋込量が、前記突出部の前記側面からの突出量よりも大きい。
また本発明の一つの態様は、上述の切断用ブレードを製造する方法であって、前記複数の砥粒が分散された前記ボンド相を作製するボンド相作製工程と、前記ボンド相の側面にラップ処理やエッチング処理を施すことにより、前記ボンド相の側面から前記複数の突出砥粒を突出させる砥粒突き出し工程と、前記ボンド相の側面に、前記突出量よりも厚くなるように前記コーティング層を作製するコーティング層作製工程と、前記コーティング層の表面を研磨し、前記表面に前記複数の突出砥粒を露出させる砥粒露出工程と、を含む。
【0007】
本発明の切断用ブレードおよびその製造方法によれば、ボンド相の側面から突出する各突出砥粒が、コーティング層の表面に露出される。これらの突出砥粒が被切断材の切断面に接触することにより、切断用ブレードの側面摩耗が抑制され、刃痩せが低減される。これにより、被切断材を切断して個片化される電子材料部品の加工品位および加工寸法が良好に維持され、かつ工具寿命が延長する。また、各突出砥粒がボンド相の側面から突出する突出量同士の差が2μm以下であるので、複数の突出砥粒が被切断材の切断面に均等に接触して、上述の機能が安定して得られる。
上記切断用ブレードにおいて、前記突出砥粒は、前記ボンド相に埋め込まれる埋込部と、前記ボンド相の側面から突出する突出部と、を有し、前記埋込部の前記側面からの埋込量が、前記突出部の前記側面からの突出量よりも大きい。
この場合、突出砥粒がボンド相に安定して保持され、突出砥粒による上述の作用効果を安定して得ることができる。
【0008】
上記切断用ブレードは、前記中心軸が延びる軸方向において、前記コーティング層の表面と前記突出砥粒の頂部との間の距離が、1μm以下であることが好ましい。
【0009】
この場合、コーティング層の表面と突出砥粒の頂部との高低差(距離)が、0~1μmの範囲に小さく抑えられるため、コーティング層の表面に露出する突出砥粒間に、切屑が溜まりにくい。一般に、コーティング層の表面(つまりブレード側面)に付着した切屑は刃痩せの進行を速めることから、本発明の上記構成によれば、コーティング層の表面への切屑の付着を抑制でき、刃痩せをより安定して低減できる。
【0010】
上記切断用ブレードにおいて、前記ボンド相は、メタルボンド相または電鋳ボンド相であることが好ましい。
【0011】
この場合、ボンド相が金属結合相であり、コーティング層が金属製であるので、切断用ブレードの側面摩耗がより抑制される。
【0012】
上記切断用ブレードにおいて、前記コーティング層の厚さが、前記突出砥粒の平均粒径以下であることが好ましい。
【0013】
この場合、突出砥粒の一部がボンド相に埋め込まれた状態、つまり突出砥粒がボンド相に保持された状態で、突出砥粒がコーティング層の表面に露出する。このため、突出砥粒による上述の作用効果を安定して得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一つの態様の切断用ブレードおよび切断用ブレードの製造方法によれば、ブレード側面の摩耗を抑制して、刃痩せを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本実施形態の切断用ブレードを示す平面図である。
図2図2は、本実施形態の切断用ブレードを示す断面図である。
図3図3は、本実施形態の切断用ブレードの切れ刃近傍を示す断面図である。
図4図4は、本実施形態の切断用ブレードの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る切断用ブレード10およびその製造方法について、図面を参照して説明する。
本実施形態の切断用ブレード10は、電子材料製造分野において、例えば、被切断材を切断することによって個片化する製法に用いられる。切断される電子材料としては、例えば、BGA(Ball grid array)等の樹脂モールド素材が挙げられる。
【0019】
図1図3に示すように、切断用ブレード10は、中心軸Oを有する円板状のボンド相1と、ボンド相1に分散される複数の砥粒2と、ボンド相1の外周部に配置される切れ刃1Aと、ボンド相1の側面に設けられたコーティング層3と、を備える。なお図2および図3は、本実施形態の切断用ブレード10の特徴部分をわかりやすく説明するため、切断用ブレード10の厚さが実際よりも厚く示されている。
【0020】
本実施形態では、ボンド相1の中心軸Oが延びる方向を軸方向と呼ぶ。軸方向は、切断用ブレード10の厚さ方向に相当する。軸方向は、厚さ方向と言い換えてもよい。
中心軸Oと直交する方向を径方向と呼ぶ。径方向のうち、中心軸Oに近づく方向を径方向内側と呼び、中心軸Oから離れる方向を径方向外側と呼ぶ。
中心軸O回りに周回する方向を周方向と呼ぶ。
【0021】
本実施形態の切断用ブレード10は、円環板状である。この切断用ブレード10は、いわゆるワッシャタイプの切断用ブレードである。切断用ブレード10の軸方向の寸法(以下、単に厚さと呼ぶ場合がある)は、例えば、0.2mm以上0.5mm以下である。
【0022】
切断用ブレード10は、図示しない切断装置(ダイサー)の主軸に、円環板状のフランジを用いて着脱可能に装着される。切断用ブレード10は、切断装置の主軸により、中心軸Oを中心とする周方向に回転させられ、被切断材に対して径方向に移動させられて、フランジよりも径方向外側に突出する切れ刃1Aで被切断材に切り込み、被切断材を切断する。なお、本実施形態において「切断」とは、切断加工および溝加工等の切削加工を含む概念である。このため「切断用ブレード」は「切削用ブレード」と言い換えてもよい。
【0023】
本実施形態においてボンド相1は、メタルボンド相または電鋳ボンド相である。つまりボンド相1は、金属結合相である。ボンド相1は、例えば、Cu-SnまたはNi等を主成分とする金属製である。
【0024】
図1および図2に示すように、ボンド相1は、中心軸Oを中心とする円環板状である。すなわち、本実施形態でいう上記「円板状のボンド相1」の円板状には、円板の中央に孔を有する円環板状が含まれる。ボンド相1は、取付孔1Bを有する。取付孔1Bは、ボンド相1の中心軸O上に位置する。取付孔1Bは、ボンド相1を軸方向に貫通する。取付孔1Bは、ボンド相1の軸方向を向く一対の側面1Cに開口する。取付孔1Bは、中心軸Oを中心とする円孔状である。
【0025】
ボンド相1の厚さは、例えば、0.15mm以上0.45mm以下である。
切れ刃1Aは、中心軸Oを中心とする円形リング状である。切れ刃1Aは、ボンド相1の外周面に位置する。
【0026】
砥粒2は、例えば、ダイヤモンド砥粒やcBN砥粒等である。図3に示すように、複数の砥粒2は、ボンド相1の側面1Cから軸方向に突出する複数の突出砥粒2aを含む。具体的に、複数の砥粒2は、ボンド相1の側面1Cから突出する複数の突出砥粒2aと、ボンド相1の側面1Cから突出しない複数の埋没砥粒2bと、を有する。
【0027】
突出砥粒2aは、ボンド相1に埋め込まれる埋込部2cと、ボンド相1の側面1Cから突出する突出部2dと、を有する。本実施形態では、埋込部2cの軸方向長さ(つまり側面1Cからの埋込量)が、突出部2dの軸方向長さ(つまり側面1Cからの突出量P)よりも大きい。埋没砥粒2bは、その全体がボンド相1の内部に埋め込まれる。
【0028】
突出砥粒2aの平均粒径は、例えば、5μm以上200μm以下である。突出砥粒2aおよび埋没砥粒2bとしては、互いに同じ種類、同じ平均粒径の砥粒2が用いられる。
【0029】
なお本実施形態において「平均粒径」とは、レーザ回析・散乱式測定装置を用いて測定した体積平均径である。体積平均径とは、測定物である砥粒2のうち粒の小さい物から大きい物までを含む全体の体積分布に基づいて重みづけされた平均径である。なお上記レーザ回析・散乱式測定装置としては、例えば、Microtrac社製の型式MT3300EXII-SDC等を用いることができる。
【0030】
コーティング層3は、例えば、Cu、Ni等の金属製である。
コーティング層3は、ボンド相1の軸方向を向く一対の側面1Cにそれぞれ設けられる。つまりコーティング層3は、一対設けられる。本実施形態では、一対のコーティング層3の厚さが、互いに同じである。各コーティング層3の厚さは、ボンド相1の厚さよりも小さい。各コーティング層3の厚さは、突出砥粒2aの平均粒径以下である。各コーティング層3の厚さは、例えば、2.5μm以上150μm以下である。
【0031】
複数の突出砥粒2aは、コーティング層3の軸方向を向く表面(外面)3aにそれぞれ露出される。突出砥粒2aの頂部、すなわち突出砥粒2aのうち軸方向においてボンド相1とは反対側の端部に位置する頂部は、コーティング層3の表面3aと略面一に配置される。詳しくは、軸方向において、コーティング層3の表面3aと突出砥粒2aの頂部との間の距離(軸方向の高低差)Dが、1μm以下である。なお距離Dは、コーティング層3の表面3aから突出砥粒2aの頂部が突出する頂部突出量Dと言い換えてもよい。
【0032】
また、突出砥粒2aがボンド相1の側面1Cから軸方向に突出する突出量Pは、例えば、2.5μm以上150μm以下である。各突出砥粒2aがボンド相1の側面1Cから突出する突出量Pの差は、2μm以下である。
【0033】
次に、本実施形態の切断用ブレード10の製造方法について、図4を参照して説明する。本実施形態の切断用ブレード10の製造方法は、ボンド相作製工程S10と、砥粒突き出し工程S20と、コーティング層作製工程S30と、砥粒露出工程S40と、を含む。
【0034】
ボンド相作製工程S10では、複数の砥粒2が分散されたボンド相1を作製する。
具体的に、ボンド相1がメタルボンド相により構成される場合には、ボンド相1の原料である金属粉末と砥粒2とを混合した混合粉を、金型に充填しプレスすることで円板状に成型し、所定の加圧下で焼結する。
また、ボンド相1が電鋳ボンド相により構成される場合には、ボンド相1の原料である金属成分および砥粒2を含有するめっき液中に台金を配置し、砥粒2を取り込みつつ台金表面にボンド相1を所定の厚さに析出させ、これを台金から剥離して円板状に成形する。
【0035】
砥粒突き出し工程S20では、ボンド相1の側面1Cから複数の突出砥粒2aを突出させる。すなわち、ボンド相1の側面1Cに、例えばラップ処理やエッチング処理等を施すことにより、突出砥粒2aを突き出させる目立てを行う。
【0036】
コーティング層作製工程S30では、ボンド相1の側面1Cに、側面1Cからの突出砥粒2aの突出量Pよりも厚くなるようにコーティング層3を作製する。すなわち、例えば、コーティング層3の原料である金属成分を含有するめっき液中にボンド相1を配置して、突出砥粒2aの突出量Pよりも厚い膜厚のコーティング層3を側面1C上に析出させる。コーティング層作製工程S30により、突出砥粒2aはその頂部を含め、コーティング層3によって覆われる。
【0037】
砥粒露出工程S40では、コーティング層3の表面3aを研磨し、表面3aに複数の突出砥粒2aを露出させる。すなわち、コーティング層3の表面3aをポリッシュ加工し、表面3aに突出砥粒2aの頂部が露出した時点でポリッシュ加工を停止することにより、コーティング層3の表面3aと、突出砥粒2aの頂部とを略面一に配置する。
上記工程S10~S40の後、図示しない内外径加工工程等を経て、切断用ブレード10が製造される。
【0038】
以上説明した本実施形態の切断用ブレード10およびその製造方法によれば、ボンド相1の側面1Cから突出する各突出砥粒2aが、コーティング層3の表面3aに露出される。これらの突出砥粒2aが、コーティング層3の表面3aと略面一に配置されて被切断材の切断面に接触することにより、切断用ブレード10の側面摩耗が抑制され、刃痩せが低減される。これにより、被切断材を切断して個片化される電子材料部品の加工品位および加工寸法が良好に維持され、かつ工具寿命が延長する。また、各突出砥粒2aがボンド相1の側面1Cから突出する突出量P,P同士の差が2μm以下であるので、複数の突出砥粒2aが被切断材の切断面に均等に接触して、上述の機能が安定して得られる。
【0039】
また本実施形態では、軸方向において、コーティング層3の表面3aと突出砥粒2aの頂部との間の距離Dが、1μm以下である。
この場合、コーティング層3の表面3aと突出砥粒2aの頂部との高低差である距離Dが、0~1μmの範囲に小さく抑えられるため、コーティング層3の表面3aに露出する突出砥粒2a間に、切屑が溜まりにくい。一般に、コーティング層3の表面3a(つまりブレード側面)に付着した切屑は刃痩せの進行を速めることから、本実施形態の上記構成によれば、コーティング層3の表面3aへの切屑の付着を抑制でき、刃痩せをより安定して低減できる。
【0040】
また本実施形態では、ボンド相1が金属結合相であり、コーティング層3が金属製であるので、切断用ブレード10の側面摩耗がより抑制される。
【0041】
また本実施形態では、コーティング層3の厚さが、突出砥粒2aの平均粒径以下である。
この場合、突出砥粒2aの一部がボンド相1に埋め込まれた状態、つまり突出砥粒2aがボンド相1に保持された状態で、突出砥粒2aがコーティング層3の表面3aに露出する。このため、突出砥粒2aによる上述の作用効果を安定して得ることができる。
【0042】
また本実施形態では、突出砥粒2aのうち埋込部2cの側面1Cからの埋込量が、突出部2dの側面1Cからの突出量Pよりも大きい。
この場合、突出砥粒2aがボンド相1に安定して保持され、突出砥粒2aによる上述の作用効果を安定して得ることができる。
【0043】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。
【0044】
特に図示しないが、切断用ブレード10は、ボンド相1に分散される複数のフィラーを備えていてもよい。また複数のフィラーは、コーティング層3にも分散されていてもよい。
【0045】
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例およびなお書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例
【0046】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例に限定されない。
【0047】
本発明の実施例として、前述した実施形態の切断用ブレード10を用意した。切断用ブレード10の諸元は、下記の通りである。
・ボンド相1および砥粒2:MD325-75HM633 ラップ品
(すなわち、ボンド相1はCu-Sn合金製であり、砥粒2の砥粒サイズは#325であり、砥粒2の集中度は75であり、ボンド相1の側面1Cにラップ処理により目立てを行ったブレード基体である。なお「集中度」とは、ボンド相1に分散される砥粒2の含有量を表す指標であり、例えば集中度100の場合には、ボンド相1に占める砥粒2の体積比率(含有率)が25%であることを示す。上記集中度75の場合は、ボンド相1に占める砥粒2の体積比率が18.75%であることを示す)
・突出砥粒2aの側面1Cからの最大突出量:30μm
・コーティング層3の材質:Cu(実施例1)、Ni(実施例2)
・コーティング層3の厚さ:28μm、29μm、30μm、31μm
(なおコーティング層3の厚さが29μmおよび30μmのものは、コーティング層3の表面3aと突出砥粒2aの頂部との間の距離(頂部突出量)Dが、1μm以下である)
・ブレード寸法:外径58mm、内径40mm、厚さ0.32mm(総厚)
【0048】
また比較例として、ボンド相1の側面1Cにコーティング層3が設けられていない切断用ブレードを用意した。比較例の切断用ブレードの諸元は、上記の「ボンド相1および砥粒2」および「ブレード寸法」と同様である。
【0049】
<刃先形状確認試験>
上述の実施例および比較例の各切断用ブレードを用いて、ドレッシングプレートを所定本数溝入れ加工し、切れ刃の刃幅の変化量を確認した。
試験条件については、下記の通りである。
・使用ダイサー:東京精密製 A-WD100A
・使用ドレッシングプレート:東京精密製 A2-2mm
・スピンドル回転数:15000m-1
・送り速度:100mm/s
・切込み:1.5mm
・溝入れ本数:100本
・切れ刃の刃幅測定:カーボンに溝入れ加工し、カーボンの溝形状を測定
結果を下記表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、本発明の実施例1、2は、比較例に比べて、100本の溝入れ加工(切断)を行った前後で切れ刃の刃幅の変化量が小さく抑えられていた。つまり実施例1、2は、比較例よりもブレード側面の摩耗が抑制されて、刃痩せが低減した。実施例1、2の中でも特に、コーティング層3の表面3aと突出砥粒2aの頂部との間の距離Dが1μm以下とされた実施例1-2、1-3、2-2、2-3については、刃幅の変化量が顕著に小さく抑えられることが確認された。
【0052】
<ワーク切断確認試験>
次に、上述の実施例および比較例の各切断用ブレードを用いて、ワークを所定枚数切断加工し、ワーク寸法の変化量を確認した。
試験条件については、下記の通りである。
・使用ダイサー:東京精密製 A-WD100A
・使用ワーク:5×5ダミーBGAワーク
・スピンドル回転数:30000m-1
・送り速度:100mm/s
・テープ切込み:0.08mm
・寸法測定:ワーク1枚目と500枚目においてそれぞれ、切断したワーク寸法を測定
結果を下記表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2に示すように、本発明の実施例1、2は、比較例に比べて、ワークを500枚切断した前後でワーク寸法の変化量が小さく抑えられていた。つまり実施例1、2は、比較例よりもブレード側面の摩耗が抑制されて、刃痩せが低減した。実施例1、2の中でも特に、コーティング層3の表面3aと突出砥粒2aの頂部との間の距離Dが1μm以下とされた実施例1-2、1-3、2-2、2-3については、ワーク寸法の変化量が顕著に小さく抑えられることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の切断用ブレードおよび切断用ブレードの製造方法によれば、ブレード側面の摩耗を抑制して、刃痩せを低減できる。これにより、被切断材を切断して個片化される電子材料部品の加工品位および加工寸法が良好に維持され、かつ工具寿命が延長する。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0056】
1…ボンド相、1A…切れ刃、1C…側面、2…砥粒、2a…突出砥粒、2c…埋込部、2d…突出部、3…コーティング層、3a…表面、10…切断用ブレード、D…距離、O…中心軸、P…突出量、S10…ボンド相作製工程、S20…砥粒突き出し工程、S30…コーティング層作製工程、S40…砥粒露出工程
図1
図2
図3
図4