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特許7576921O-置換ヒドロキシルアミン誘導体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】O-置換ヒドロキシルアミン誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 239/20 20060101AFI20241025BHJP
【FI】
C07C239/20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020059567
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021155381
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(72)【発明者】
【氏名】坪井 裕基
(72)【発明者】
【氏名】長井 康行
(72)【発明者】
【氏名】増田 隆洋
(72)【発明者】
【氏名】砂川 彩
(72)【発明者】
【氏名】立元 智子
(72)【発明者】
【氏名】一條 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 修
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特公昭46-003964(JP,B1)
【文献】特表2002-509885(JP,A)
【文献】Journal of Lanzhou University of Technology,2012年,第38巻第6期,p.62-65
【文献】The Journal of Organic Chemistry,1959年,24,p.1794-1795
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(2)
【化1】
(式中、Rは水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を表す。Rは炭素数1~4のアルキル基を表す。)
で示される化合物を加水分解して、一般式(1)
【化2】
(式中、Rは前記と同じ意味を表す。)
で示されるO-置換ヒドロキシルアミン誘導体を製造する方法において、
a)前記一般式(2)の化合物を酸と接触させる工程と、
b)工程a)で得られた前記一般式(1)の化合物と酸の反応物をCaの塩に接触させる工程と、
c)工程b)で生成した酸塩を除去する工程と、
を含むO-置換ヒドロキシルアミン誘導体の製造方法。
【請求項2】
工程a)の反応後、フタル酸を除去することを特徴とする、請求項1に記載のO-置換ヒドロキシルアミン誘導体の製造方法。
【請求項3】
工程b)で使用するCaの塩が、Caの炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のO-置換ヒドロキシルアミン誘導体の製造方法。
【請求項4】
工程b)で使用するCaの塩が、水酸化カルシウムであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のO-置換ヒドロキシルアミン誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、O-置換ヒドロキシルアミン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
O-置換ヒドロキシルアミン誘導体は、アセトアルデヒドやホルムアルデヒド等のアルデヒド類と化学的に反応して、効率良く捕獲・無害化することができ、アルデヒド類の捕捉剤(以下、「アルデヒド捕捉剤」ということもある。)の有効成分として有用である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
O-置換ヒドロキシルアミン誘導体は、α位に(1,3-ジオキソイソインドリン-2-イル)オキシ基を有するカルボン酸エステルを酸加水分解する方法で製造することができ、O-置換ヒドロキシルアミン誘導体と酸との塩が得られる(例えば、特許文献2又は3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/124208号パンフレット
【文献】国際公開第99/49864号パンフレット
【文献】国際公開第98/14447号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の方法で製造したO-置換ヒドロキシルアミン誘導体は、いずれも酸との塩を形成している。アルデヒド捕捉剤として用いるためには、O-置換ヒドロキシルアミン誘導体を水に溶解させた後に塩基で中和することが好ましいが、中和によってO-置換ヒドロキシルアミン誘導体の水溶液中に酸の塩を含むことになり、純度の面で課題がある。本発明の目的は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、O-置換ヒドロキシルアミン誘導体の水溶液を高純度に製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定のO-置換ヒドロキシルアミン誘導体を純度良く効率的に得る製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、一般式(2)
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、Rは水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を表す。Rは炭素数1~4のアルキル基を表す。)
で示される化合物を加水分解して、一般式(1)
【0010】
【化2】
【0011】
(式中、Rは前記と同じ意味を表す。)
で示されるO-置換ヒドロキシルアミン誘導体を製造する方法において、
a)前記一般式(2)の化合物をスルホン酸と接触させる工程と、
b)工程a)で得られた前記一般式(1)の化合物とスルホン酸の反応物を第2族元素に接触させる工程と、
c)工程b)で生成したスルホン酸塩を除去する工程と、
を含むO-置換ヒドロキシルアミン誘導体の製造方法に関する。
【0012】
一般に、低級アルキルエステルは酸に安定であることから、エステル部位を有する一般式(2)の化合物を酸性条件下で加水分解するには、加熱条件下で反応を実施することが好ましい。一方、反応温度が高過ぎると目的物が分解し、収率が低下する場合がある。
【0013】
したがって、工程a)は60~120℃の範囲から選ばれる反応温度で実施することが好ましく、70~110℃の範囲から選ばれる反応温度で実施することがさらに好ましい。
【0014】
一般式(1)の化合物は、いわゆるアミノ酸であり、スルホン酸存在下ではスルホン酸塩として存在する。そのため、反応に使用するスルホン酸の一部はスルホン酸塩形成に消費される。
【0015】
したがって、工程a)で使用するスルホン酸の量は、原料である一般式(2)の化合物の量に対して0.6モル当量以上であることが好ましく、1.2モル当量以上であることが、目的物の収率が良くなる点でさらに好ましい。
【0016】
使用するスルホン酸としては、硫酸等の無機硫黄オキソ酸類、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トシル酸、ベンゼンスルホン酸、10-カンファー-スルホン酸等の有機スルホン酸類を例示することができ、安価である点で硫酸が好ましい。
【0017】
使用するスルホン酸の濃度に特に制限はなく、高濃度のスルホン酸をそのまま使用しても良く、適宜水で希釈してから使用しても良い。
【0018】
一般式(2)の化合物をスルホン酸と接触させる方法に特に制限はなく、例えば、機械的スターラーを使用して混合すれば良い。また、スルホン酸を直接添加等して使用しても良く、反応系中にスルホン酸を発生させて接触させても良い。系中でスルホン酸を発生させる方法としては特に制限はなく、例えば、三酸化硫黄と水とを反応させて硫酸を発生させる方法等を用いれば良い。
【0019】
工程a)の反応後には、一般式(2)の化合物のフタルイミドが加水分解されて生じたフタル酸が固体として析出する。目的とする一般式(1)の化合物のスルホン酸塩を純度良く得るために、不要なフタル酸を除去すること)が好ましい。除去は、例えば、ろ過による方法が例示される。ろ過は、例えば、自然ろ過、減圧ろ過、遠心ろ過などから、反応スケール等に合わせて適宜選択して実施すれば良い。効率が良く、時間が短縮できる点で、減圧ろ過や遠心ろ過が好ましい。
【0020】
工程a)の反応後のろ過でろ液として得られた一般式(1)の化合物とスルホン酸の反応液を第2族元素と接触させる(工程b)方法に特に制限はなく、例えば、機械的スターラーを使用して混合すれば良い。
【0021】
工程b)で用いる第2族元素は塩として使用することが好ましく、スルホン酸塩が難溶性であれば特に制限はなく、例えば、Be、Mg,Ca,Sr,Ba及びRaの塩が挙げられ、特にCaの塩が好ましい。第2族元素の塩としては、炭酸塩、炭酸水素塩及び水酸化物が挙げられ、安価である点で水酸化カルシウムが好ましい。
【0022】
用いる第2族元素の塩の量に特に制限はないが、工程a)で用いたスルホン酸に対して1.0モル当量以上であることが好ましい。
【0023】
工程b)の反応後には、スルホン酸が第2族元素の塩によって中和されて生じたスルホン酸塩が固体として析出する。目的とする一般式(1)の化合物を純度良く得るために、不要なスルホン酸塩を除去すること(工程c)が好ましい。除去は、例えば、ろ過による方法が例示される。ろ過は、例えば、自然ろ過、減圧ろ過、遠心ろ過などから、反応スケール等に合わせて適宜選択して実施すれば良い。効率が良く、時間が短縮できる点で、減圧ろ過や遠心ろ過が好ましい。
【0024】
一般式(2)の化合物のフタルイミドが加水分解されて生じるフタル酸は、工程a)の後に除去しても良いし、工程c)でスルホン酸塩とともに除去しても良い。除去は、例えば、ろ過による方法が例示される。ろ過は、例えば、自然ろ過、減圧ろ過、遠心ろ過などから、反応スケール等に合わせて適宜選択して実施すれば良い。効率が良く、時間が短縮できる点で、減圧ろ過や遠心ろ過が好ましい。
【0025】
本発明における反応は、溶媒中で実施することができる。好適な溶媒としては、水、アミド溶媒、エーテル溶媒、ニトリル溶媒、芳香族溶媒が挙げられる。
【0026】
次に、一般式(1)及び(2)における置換基の定義について説明する。
【0027】
一般式(1)及び(2)において、Rは水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を表し、該アルキル基は、直鎖状アルキル基又は分岐状アルキル基のいずれであっても良く、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、又はtert-ブチル基であり、好ましくはメチル基又はエチル基である。製造方法において、Rは、好ましくは水素原子、メチル基、又はエチル基である。
【0028】
一般式(2)において、Rは炭素数1~4のアルキル基を表し、該アルキル基は、直鎖状アルキル基又は分岐状アルキル基のいずれであっても良く、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、又はtert-ブチル基であり、好ましくはメチル基、エチル基、又はtert-ブチル基である。製造方法において、Rは、好ましくはメチル基又はエチル基である。
【発明の効果】
【0029】
本発明の製造方法により収率良く製造できるO-置換ヒドロキシルアミン誘導体は、有害なアルデヒド類を速やかに、かつ持続的に捕捉するアルデヒド捕捉剤の有効成分として有用であり、人々の生活環境を改善することができる。
【実施例
【0030】
以下、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定して解釈されるものではない。また、実施例及び比較例を表1にまとめて記載した。実施例に記載の収量は、アミノオキシ酢酸を4-ニトロベンズアルデヒドと反応させて誘導体化した後、液体クロマトグラフィー(島津製作所製 LC-2030C Plus)により算出した。硫酸イオン及び塩化物イオンについてはイオンクロマトグラフィー(東ソー製 IC-2010)により算出した。
【0031】
実施例1
2-[(1,3-ジオキソイソインドリン-2-イル)オキシ]酢酸エチル(2.49g,10mmol)に、1.2M硫酸(10mL)を加え、75℃で4時間撹拌した。反応終了後、反応液を室温まで放冷し、析出した固体をろ別した。ろ液に水酸化カルシウム(0.89g,12mmol)を加え、析出した固体をろ別し、アミノオキシ酢酸水溶液(2.25wt%,34.3g,収率85%)を得た。アミノオキシ酢酸水溶液に含まれる硫酸イオンをイオンクロマトグラフィーで算出した(0.19wt%)。アミノオキシ酢酸濃度が1wt%になるまで希釈したところ、硫酸イオン濃度は0.084wt%であった。
【0032】
比較例1
2-[(1,3-ジオキソイソインドリン-2-イル)オキシ]酢酸エチル(2.49g,10mmol)に、1.2M塩酸(10mL)を加え、75℃で4時間撹拌した。反応終了後、反応液を室温まで放冷し、析出した固体をろ別した。ろ液に水酸化ナトリウム(0.48g,12mmol)を加え、アミノオキシ酢酸水溶液(3.17wt%,25.0g,収率87%)を得た。アミノオキシ酢酸水溶液に含まれる塩化物イオンをイオンクロマトグラフィーで算出した(1.70wt%)。アミノオキシ酢酸が1wt%になるまで水で希釈したところ、塩化物イオン濃度は0.54wt%であった。
【0033】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の製造方法は、アルデヒド捕捉剤の有効成分として有用なO-置換ヒドロキシルアミン誘導体を純度良く製造する方法として有用である。