(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】圧力センサモジュールおよび分注装置
(51)【国際特許分類】
G01L 9/00 20060101AFI20241025BHJP
【FI】
G01L9/00 303N
(21)【出願番号】P 2021081572
(22)【出願日】2021-05-13
【審査請求日】2024-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金丸 昌敏
(72)【発明者】
【氏名】青野 宇紀
(72)【発明者】
【氏名】山崎 達也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋一郎
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0078914(US,A1)
【文献】特開2001-201415(JP,A)
【文献】特開平09-126925(JP,A)
【文献】特開平07-174654(JP,A)
【文献】特開2000-111435(JP,A)
【文献】特開昭58-028876(JP,A)
【文献】特開2014-235106(JP,A)
【文献】特開2020-071191(JP,A)
【文献】特開2018-146318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 7/00-23/32
G01L 27/00-27/02
H01L 29/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路および分岐路が形成された流路基板と、
圧力を検出する歪検出部と、
を備える圧力センサモジュールであって、
前記分岐路は、前記流路から分岐し、一端において前記歪検出部に接続され、
前記歪検出部は、前記分岐路の前記一端を塞ぐように、少なくとも部分的に接合層を介して配置され、
前記分岐路の前記一端を囲むように突起部が設けられ
、
前記突起部の内側の寸法は、前記分岐路の内側の寸法より大きく、
前記歪検出部と前記流路基板を接着する接合層は、前記突起部の周囲を囲むように配置されているとともに、前記接合層が前記突起部によって囲まれた前記分岐路と連通する領域に対して侵入しないことにより前記領域と接しない位置に配置されている
ことを特徴とする圧力センサモジュール。
【請求項2】
請求項
1に記載の圧力センサモジュールにおいて、前記突起部は前記歪検出部に形成されることを特徴とする、圧力センサモジュール。
【請求項3】
請求項
1に記載の圧力センサモジュールにおいて、前記突起部の高さは前記接合層の厚さに等しいことを特徴とする、圧力センサモジュール。
【請求項4】
請求項1に記載の圧力センサモジュールにおいて、前記突起部の内側の面積は、前記歪検出部の圧力計測面積と一致することを特徴とする、圧力センサモジュール。
【請求項5】
請求項1に記載の圧力センサモジュールにおいて、前記突起部の高さは50μm以下であることを特徴とする、圧力センサモジュール。
【請求項6】
請求項1に記載の圧力センサモジュールにおいて、前記流路基板は、前記突起部の外縁より外側に溝を備えることを特徴とする、圧力センサモジュール。
【請求項7】
請求項
1に記載の圧力センサモジュールにおいて、前記分岐路の前記一端側に面取り部が設けられることを特徴とする、圧力センサモジュール。
【請求項8】
請求項1に記載の圧力センサモジュールにおいて、前記歪検出部を前記分岐路の反対側から覆うキャップを備えることを特徴とする、圧力センサモジュール。
【請求項9】
請求項
8に記載の圧力センサモジュールにおいて、前記分岐路の軸方向から見た場合に、前記キャップと前記歪検出部とが接触する領域と、前記突起部と前記歪検出部とが接触する領域とが、少なくとも部分的に重なり合っていることを特徴とする、圧力センサモジュール。
【請求項10】
請求項1に記載の圧力センサモジュールにおいて、前記歪検出部の位置を決めるための位置決め突起が、前記流路基板に形成されていることを特徴とする、圧力センサモジュール。
【請求項11】
請求項1に記載の圧力センサモジュールにおいて、前記歪検出部は、薄膜の半導体素子を備えることを特徴とする、圧力センサモジュール。
【請求項12】
請求項1に記載の圧力センサモジュールを備えることを特徴とする、分注装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧力センサモジュールおよび分注装置に関し、たとえば、ピエゾ抵抗型半導体素子を適用したものに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な圧力センサは、ピエゾ抵抗素子などが形成された半導体基板の一部にダイヤフラムが形成され、液体もしくは気体の外部圧力によりダイヤフラムが変形することで、その半導体素子の変化量をホイートストンブリッヂ回路などで抵抗変化を電気的に計測し、圧力値に変換して計測する。半導体基板に形成されたダイヤフラムの作製方法として、半導体基板の検出素子が形成された面の裏側にシリコンの異方性エッチング法もしくはドライエッチング法を適用して、半導体基板の一部が薄膜化され、ダイヤフラムが形成される。このように半導体基板をエッチングすることで、一定の計測面積が形成できる。ピエゾ抵抗素子などが形成された半導体基板のセンシング部は任意の厚さとなるまで薄く加工され、薄膜化することで、圧力印加時に、ダイヤフラムを容易に変形させることができる。
【0003】
特許文献1には、ダイヤフラムが形成された半導体基板に、ガラス基板を陽極接合などの接合技術によって接合された部材が、圧力を測定する筐体の圧力導入孔近傍に実装された圧力センサが開示されている。圧力導入パイプ内部に形成された圧力導入孔の出口に突起部が、圧力導入孔の内径と一致する寸法で設置されており、突起部の高さによって接合層の厚さが決まる例が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には分注装置において、分注異常検出などを高精度に実施するためにノズル近傍の微小な圧力変化を測定する構造が開示されている。詳細には、分注する液体の流路の途中に歪み測定部を配置し、液体を通過させる第1流路を有し、第1流路と接する第1面の剛性は第2面の剛性と比較して低いことを特徴とし、歪み測定部は剛性の低い第1面に配置されている。さらに、他の構成として歪みセンサチップは流路の外壁の一部として使用されている構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-201415号公報
【文献】特開2020-071191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術では、圧力計測の精度に限界があるという課題があった。
【0007】
特許文献1の圧力センサの構造には、圧力センサの裏面側からエッチングによってダイヤフラムを形成することで一定の計測面積を確保できる点は優れているが、それを計測する孔に設置する際にガラス台座に貼付けている構造は接合部が2箇所となっており、生産性が考慮されていない。
【0008】
また、エッチングによって形成されるダイヤフラムでは、エッチングによる微小な厚さばらつきが発生し、製品ごとに圧力センサの検出感度にばらつきが発生する課題がある。圧力導入孔と同じ径の突起を形成しているため、シリコンのセンサチップと突起との間には必然的にガラス台座を導入する構成となるため、流路は必然的に縦長構造となる。そのため、圧力の測定対象が液体の場合には圧力導入孔は縦長構造のため、気泡の混入による影響で正確な圧力計測が困難になる可能性がある。なお、圧力を計測する物質が液体か気体かの記述はない。
【0009】
特許文献2の構造では、分注装置の微小な圧力変化を測定する構造はノズル近傍に歪みセンサチップを配置していることから、計測感度が向上する点で優れているが、歪み測定部は第1流路と接する剛性の低い第1面に配置されているため、圧力を計測する感度が低下する可能性がある。さらに、歪み測定部は流路の外壁の一部として使用されていると記載されているが、詳細な構造は開示されていない。
【0010】
本発明の目的は、圧力計測の精度を改善する圧力センサモジュールおよび分注装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る圧力センサモジュールの一例は、
流路および分岐路が形成された流路基板と、
圧力を検出する歪検出部と、
を備える圧力センサモジュールであって、
前記分岐路は、前記流路から分岐し、一端において前記歪検出部に接続され、
前記歪検出部は、前記分岐路の前記一端を塞ぐように、少なくとも部分的に接合層を介して配置され、
前記分岐路の前記一端を囲むように突起部が設けられる。
【0012】
本発明に係る分注装置の一例は、上述の圧力センサモジュールを備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る圧力センサモジュールおよび分注装置によれば、圧力計測の精度が向上する。
【0014】
たとえば、流路に形成された分岐路出口にピエゾ抵抗素子が形成された薄膜の半導体基板が配置されている圧力センサモジュールを、ノズル近傍に配置することで、ノズルでの吸引吐出の微小な圧力変化を把握できる。このため、計測分注異常検出および分注量推定を高精度に検出できる分注装置を提供することができる。
【0015】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1に係る分注装置の基本構成を示す図。
【
図2】実施例1に係る分注装置における吸引直後の配管内状態を示す図。
【
図3】実施例1に係る圧力センサモジュールの構造の分解斜視図および断面図。
【
図4】実施例1の変形例に係る圧力センサモジュールの構造の分解斜視図および断面図。
【
図5】
図4の圧力センサモジュールの効果を説明する断面図。
【
図6】実施例1の別の変形例に係る突起部を示す断面図。
【
図7】実施例1の別の変形例に係る突起部を示す断面図。
【
図8】実施例2に係る圧力センサモジュールの構造の断面図。
【
図9】実施例3に係るキャップ付き圧力センサモジュールの構造の断面図。
【
図10】実施例3に係るキャップおよび突起部の位置関係を説明する断面図。
【
図11】実施例4に係る圧力センサモジュールの構造を示す図。
【
図12】実施例5に係る位置決め突起構造を示す図。
【
図13】実施例5に係る他の位置決め構造を示す平面図。
【
図14】実施例5に係る圧力センサモジュールの構造を示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
[実施例1]
本発明の実施例1を
図1から
図3を参照し説明する。
【0019】
図1は実施例1の分注装置1の基本構成を示す図である。分注装置1は圧力センサモジュール15を備える。分注装置1の流路系は、ノズル2と、シリンジポンプ4と、電磁弁5と、ギアポンプ6と、システム水タンク7を備え、各部品は配管8に関連して接続される。
【0020】
シリンジポンプ4は、容器9と、プランジャ10と、ボールねじ11と、駆動モータ12とを備える。駆動モータ12は、サンプル分注機構13などを駆動するモータと同様に制御基板14により制御される。アーム16内には圧力センサモジュール15を備える。アーム16は、液体を吸引・吐出する位置に移動するため、回転と上下動作が可能である。
【0021】
図2は吸引直後の配管8内状態を示す図である。配管8内はシリンジ圧力伝達用の水であるシステム水21で満たされており、シリンジポンプ4による圧力を伝達することにより、ノズル2から液体22を吸引および吐出することができる。
【0022】
ノズル2から液体22を吸引するときは、電磁弁5を閉にした状態で、シリンジポンプ4内のプランジャ10を引く。反対にノズル2から液体を吐出するときは、電磁弁5を閉にした状態で、シリンジポンプ4内のプランジャ10を容器9に押し込む。サンプルなどの液体22を吸引する場合は、液体22が配管8内のシステム水21と混ざらないように、ノズル2で分節するための分節空気23を吸引した後で、液体22の吸引を行う。
【0023】
また、吐出後にはノズル2の洗浄を行う。ノズル2の洗浄では、ノズル2の外壁に洗浄用の水をあてると同時に、流路内部のシステム水21を押し出す。洗浄時のノズル2内のシステム水21の押し出しには、電磁弁5を開にしてギアポンプ6の圧力を利用することで、シリンジポンプ4で押し出すときよりも高圧でシステム水21が送り出される。
【0024】
分注動作中に生じる可能性のあるノズルの詰まりや空吸い等の異常を検知するため、配管8に圧力センサモジュール15を備えている。圧力センサモジュール15は、システム水21の圧力をモニタリングし、ノズル2の詰まりや空吸い等の異常が生じたときに発生する圧力変化を検知することができる。
【0025】
本実施例では、ノズル2の圧力変化を敏感にとらえるため、なるべくノズル2に近い位置であるアーム16内に圧力センサモジュール15を設置しているが、圧力センサモジュール15の設置位置はアーム16内に限定されない。例えばサンプル分注機構13の内部に、配管8に沿って設置してもよい。
【0026】
図3を用いて、本実施例に係る圧力センサモジュール15aの構造を説明する。
図3は本発明の圧力センサモジュール15aの構造を示す図である。なお、本明細書および添付図面では、説明の便宜上、圧力センサモジュール15aの長辺方向をY方向、短辺方向をX方向、高さ方向をZ方向としているが、この方向の定義は本発明の実施に本質的なものではない。
【0027】
図3(a)は圧力センサモジュール15aの分解斜視図を示しており、
図3(b)は断面図を示している。圧力センサモジュール15aは流路基板25を備える。流路基板25には、内部に流路33が形成されており、流路入口33aおよび流路出口33bには、図示しないネジ部が設けられ、流路33は、
図2に示した分注装置1の配管8と継手を介して接続可能となっている。
【0028】
また、流路基板25の内部には、流路33から流路基板25の外面(Z方向)に向かって分岐した分岐路34が形成されている。圧力センサモジュール15aはピエゾ抵抗型半導体素子3を備え、ピエゾ抵抗型半導体素子3は、分岐路34の終端部を塞ぐように配置されている。ピエゾ抵抗型半導体素子3は、圧力を検出する歪検出部の例である。
【0029】
このように、分岐路34は、流路33から分岐し、終端部(一端)においてピエゾ抵抗型半導体素子3に接続される。
【0030】
ピエゾ抵抗型半導体素子3は、分岐路34の終端部を塞ぐように、少なくとも部分的に接合層32を介して配置される。ピエゾ抵抗型半導体素子3は、流路基板25に接合層32を介して接合されている。
【0031】
流路基板25の分岐路34の終端部近傍には、終端部を囲むように突起部31aが設けられている。本実施例では、突起部31aは、終端部において分岐路34の外周を囲む環状の構造である。また、本実施例では、突起部31aは、流路基板25の一部として形成される。突起部31aの周囲を囲むように接合層32が設けられている。
【0032】
突起部31aの高さによって接合層32の厚さを決めることができる。本実施例では、突起部31aの内周の形状を円形と仮定した場合、突起部31aの内側の寸法(内径)X1は、分岐路34の内側の寸法(内径)X2と比較して、X1=X2の関係にある。
【0033】
流路を流れるシステム水21の圧力変化で、ピエゾ抵抗型半導体素子3がたわみ変形し、その歪みによる抵抗値変化を測定することによって、シリンダ内を流れるシステム水21の圧力を測定する。
【0034】
図4を用いて、実施例1の変形例に係る圧力センサモジュール15bの構造を説明する。
図4は本発明の圧力センサモジュール15bの構造を示す図である。
図4(a)は圧力センサモジュール15bの分解斜視図を示しており、
図4(b)は断面図を示している。以下、実施例1と共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0035】
流路基板25の分岐路34の終端部近傍には突起部31bが設けられており、突起部31bの周囲を囲むように接合層32が設けられている。突起部31bは、分岐路34の外側に形成されており。突起部31b内側の寸法(内径)X1は、分岐路34の内側の寸法(内径)X3と比較して、X3<X1の関係にある。すなわち、突起部31bの内側の寸法は、分岐路34の内側の寸法より大きい。
【0036】
流路を流れるシステム水21の圧力変化で、ピエゾ抵抗型半導体素子3が変形し、その歪みによる抵抗値変化を測定することによって、シリンダ内を流れるシステム水21の圧力を測定する。
【0037】
システム水によって圧力が分岐路34に印加された場合、
図3に示した分岐路の体積と比較して、
図4の構造では分岐路の体積は小さい。そのため、配管抵抗が小さくなり圧力測定の応答速度を早くできる構造となる。
【0038】
一方、突起部31bの内径にもシステム水の圧力が印加され、ピエゾ抵抗型半導体素子3はたわみ変形して、そのひずみを測定するが、たわみ変形に寄与する面積は突起部31bの内径で決まる。そのため、この構造では、分岐路34の内径寸法に対して、突起部31bの内径寸法は大きく形成すると好適である。
【0039】
図3及び
図4に適用するピエゾ抵抗型半導体素子3の材質はシリコンを適用することが好ましく、厚さは例えば、100μm以下が好ましく、50μm以下が特に良い。シリコンの厚さが薄くなると微小な圧力変動に対して、変形域を拡大することが可能となり、検出精度を向上させることができる。
【0040】
なお、ピエゾ抵抗型半導体素子3の薄膜化加工方法には研削加工および化学機械研磨加工(CMP: Chemical Mechanical Polishing)を適用して薄膜化できる。この方法では厚さばらつきが発生しにくく、均一な厚さのピエゾ抵抗型半導体素子を形成できるため生産性に優れている。
【0041】
なお、ピエゾ抵抗型半導体素子3を薄膜化加工によって、薄くした場合、ピエゾ抵抗型半導体素子3の構造またはシリコン材料の電気伝導度によって、電気的リークの可能性が想定されるが、これはたとえば、薄膜化したピエゾ抵抗型半導体素子3の表面に、薄膜の絶縁物を形成することで対応できる。また、接合層32に用いる接着材料との密着性を向上するため、ピエゾ抵抗型半導体素子3の表面または流路基板25の表面に、薄膜の金属膜などを形成してもよい。
【0042】
接合層32にはエポキシ系接着剤、銀ペースト、熱拡散接合、熱硬化型接着剤、UV付加型接着剤、低融点ガラス等を適用できる。また、流路基板25の材質はステンレス鋼が好ましく、耐食性の高い金属(たとえばアルミニウム、チタンなど)を適用してもよい。さらにアクリルなどの樹脂材料を適用してもよい。
【0043】
突起部31aおよび31bの加工方法の一例として、金属および樹脂材料の場合はフライス盤で突起部を形成後、所定の厚さになるまで、研削加工を実施することで、目的の高さの突起部を形成できる。また、突起部31aおよび31bの幅はピエゾ抵抗型半導体素子3のサイズ等に応じて任意に決定可能であり、たとえば数十ミクロンから数ミリの範囲で自由に選定できる。形状も円形、楕円形、多角形など自由に選定できる。
【0044】
突起部31aおよび31bの高さは任意に設計可能であるが、薄膜のピエゾ抵抗型半導体素子3を分岐路終端部に直接、設置する構造を適用することで、分岐路終端部までの距離が短いことから、流路を流れるシステム水の圧力変化を精度よく検知することができ、圧力を検知する速度が速くなる利点がある。このため、突起部31aおよび31bの高さはたとえば100μm以下が好適であり、40μm以下がさらに好適である。
【0045】
また、
図3(b)に示すように突起部31aおよび31bの高さ突起高さを50μm以下とすると、接合層32もこれに応じて薄くなるので、条件の変化(温度上昇等)に伴う接合層32の膨張を抑制することができ、ピエゾ抵抗型半導体素子3の変形を回避できる。
【0046】
なお、本実施例では、歪検出部であるピエゾ抵抗型半導体素子3は薄膜の半導体素子を備え、圧力を高い精度で計測することができる。変形例として、歪検出部にピエゾ抵抗型半導体素子に限らず、歪みゲージや、圧電素子などを適用してもよい。
【0047】
次に、
図5を用いてピエゾ抵抗型半導体素子3に形成した突起部31bの効果について説明する。
図5(a)は比較のための参考例であり、流路基板25内部に形成された分岐路34の終端部近傍に突起部が形成されていない構造で、接合層32(32a、32b)を介して、ピエゾ抵抗型半導体素子3を実装する場合に対応する。
【0048】
図5(b)は
図4の構成に対応し、流路基板25内部に形成された分岐路34の終端部近傍に突起部31bが形成されている構造で、接合層32を介して、ピエゾ抵抗型半導体素子3を実装する場合を示す。
【0049】
ピエゾ抵抗型半導体素子3が水圧によって変形する範囲を変形部17と仮定する。
図5では変形部17はピエゾ抵抗型半導体素子3の片面側の領域であるが、ピエゾ抵抗型半導体素子3の一面から他面まで貫通する領域であってもよい。
【0050】
図5(a)より、流路基板25表面に突起部が形成されていない構造では実装時に、ピエゾ抵抗型半導体素子3aは薄膜であることからハンドリングが難しく、専用の治具を適用する場合でも流路基板25表面と平行に実装することが困難であると予測できる。そのため、接合層32aおよび接合層32bの粘性の影響を受けやすく、粘性が低い場合には、厚さの変動が容易に発生しやすい。
【0051】
その結果、平行に荷重を印加しても、接合層が固化する際に、接合層の内部応力の差(接合層32aおよび接合層32bの厚さの違い)によって、ピエゾ抵抗型半導体素子3は高さの差θに対応する、0でない角度を有して実装される可能性がある。
【0052】
また、ピエゾ抵抗型半導体素子3aを接合層に押し付けた時に接合層はY方向に流動するため、本来、水圧によって変形させるべきピエゾ抵抗型半導体素子3の必要な変形領域がX4の範囲であったとしても、実際の変形領域がX5の範囲に限定され、性能が低下するおそれがある。すなわち、変形部17はX5の範囲でしか変形できなくなる。
【0053】
一方、粘性が高い接合層を適用する場合でも、ピエゾ抵抗型半導体素子3aを接合層に押し付けた時に接合層はY方向に流動するため、同様に変形領域が限定され、性能が低下する。
【0054】
図4の構成では、
図5(b)に示すように、流路基板25表面に突起部31bが形成されているため、接合層32は内側に侵入することなく、余分な接着剤はピエゾ抵抗型半導体素子3bの外周部にはみ出すことで接合層の膜厚を一定にすることができる。この例では、突起部31bの高さは接合層32の厚さに等しくなっており、ピエゾ抵抗型半導体素子3bは流路基板25表面と平行に実装することができる。
【0055】
また、この例では、突起部31bの内側の面積は、ピエゾ抵抗型半導体素子3bの圧力計測面積(すなわち変形部17の面積)と一致する。このような構成によれば、変形部17は適切な範囲X4の全体で変形が可能となる。
【0056】
以上説明するように、実施例1に係る圧力センサモジュール15a,15bおよび分注装置1によれば、圧力計測の精度が向上する。
【0057】
なお、突起部31bおよびピエゾ抵抗型半導体素子3bの接触部については、接合層32の一部分(特に粘度が低く、毛細管現象で移動しやすい成分)が、接触部に侵入する可能性がある。ピエゾ抵抗型半導体素子3bの変形領域の外側に突起部31bを設けると、接合層32が接触部に侵入した場合でも、変形領域を適切に確保することができる。
【0058】
変形例として、流路基板25に突起部を形成する構造以外に、他の構造を適用することができる。
図6は、実施例1の変形例に係る別の突起構造を示す断面図である。この例では、突起部31dがピエゾ抵抗型半導体素子3に形成される。
【0059】
突起部31dはピエゾ抵抗型半導体素子3の表面に、一体に接合された構造となっている。形成方法としては、例えば、厚膜のレジストやポリジメチルシロキサン樹脂(PDMS: Polydimethylsiloxane)をピエゾ抵抗型半導体素子3のピエゾ抵抗が形成されていない面に塗布した後、フォトリソ技術によって数十μmの厚さでパターニング形成を行うことができる。この構成では流路基板25表面に突起部を形成する必要がなく、接合層の厚さを突起部31dの厚さによって決定することが可能となる。
【0060】
また、
図7は実施例1のさらに別の変形例に係る突起構造を示す断面図である。この例では接合層の厚さおよびピエゾ抵抗型半導体素子3の圧力による変形範囲を一定にすることを目的としている。このため、
図7に示すようにスペーサー31cを挟み込んで、その周囲に接合層32を設け、ピエゾ抵抗型半導体素子3を固定することができる。
【0061】
スペーサー31cの材質はステンレス鋼、樹脂、ゴム材料、テフロン(登録商標)などの各種材料を適用することができる。また、スペーサー31cの断面形状は図に示すように矩形状が好ましいが、台形、他の四角形、楕円形、円形、等を適用することができる。なお、Oリングのような円形断面のスペーサーを適用する場合には、ピエゾ抵抗型半導体素子3に印加する圧力によって変形させてもよい。また、スペーサー31cは機械加工によって形成する方法の他に三次元造形技術を適用して形成してもよい。
【0062】
[実施例2]
本発明の実施例2を
図8の断面図を用いて説明する。以下、実施例1と共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0063】
図8(a)は流路基板25の分岐路34出口近傍に斜面部35を円周状に形成した構造。
図8(b)は流路基板25の分岐路34出口近傍に曲面部39を円周状に形成した構造を示す。両構造ともに流路基板25に形成された突起部31bは、分岐路34出口の外側に形成されている。突起部31bの外周部には接合層32が形成されている。
【0064】
図8(a)および(b)の構造では、分岐路34の終端部側に面取り部が設けられる。面取り部は、
図8(a)の例では断面が直線状のテーパ面によって構成され、
図8(b)の例では断面が曲線状の曲面によって構成されている。流路基板25の分岐路出口近傍が、開放的な構造となっていることから、システム水の圧力計測時にピエゾ抵抗型半導体素子3に水圧が円滑に印加される。このため、システム水の圧力抵抗が減少し、計測速度が向上する。このように流路基板25の分岐路34出口近傍が面取りされた構造であれば他の形状を適用してもよい。
【0065】
[実施例3]
本発明の実施例3を以下に説明する。実施例1または2と共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0066】
ピエゾ抵抗型半導体素子は最終的に研削加工および化学機械研磨加工によって薄膜化される。そのため、薄膜化されたピエゾ抵抗型半導体素子単体は、流路基板25に接合する場合に破損する可能性がある。
【0067】
ピエゾ抵抗型半導体素子単体での接合時における破損防止および取り扱いを向上させる構造として、実施例3に係る構成を
図9の断面図を用いて説明する。
【0068】
図9に示すように、圧力センサモジュールは、ピエゾ抵抗型半導体素子3を上側(すなわち分岐路34の反対側)から覆うキャップ36を備える。キャップ36は樹脂接合層18によってピエゾ抵抗型半導体素子3に接合されている。ピエゾ抵抗型半導体素子3とキャップ36の間には空間37が形成されており、ピエゾ抵抗型半導体素子3が圧力印加によって変形しても、変形した部分はキャップ36と接触しない構造となっている。
【0069】
ピエゾ抵抗型半導体素子3の端部周辺には外部との電気的な信号のやり取りを行う電極パッドが形成される場合があるため、キャップ36の寸法はピエゾ抵抗型半導体素子3の外径寸法と比較して小さく形成すると好適である。
【0070】
キャップ36の材質にはシリコンやガラスを適用することができる。また、樹脂接合層18の材料にはベンゾシクロブテンなどの高分子材料を適用することができる。この材料は厚膜化が可能で、パターニング可能な材料であり、温度付加によって接合強度も得られる。
【0071】
次に
図10の断面図を用いて樹脂接合層18と流路基板25表面に形成された突起部31bとの位置関係について説明する。なお、ピエゾ抵抗型半導体素子3において、圧力印加によって変形する領域を変形部40として示す。
図10では変形部40はピエゾ抵抗型半導体素子3の片面側の領域であるが、ピエゾ抵抗型半導体素子3の一面から他面まで貫通する領域であってもよい。
【0072】
図10(a)はキャップ36に形成された樹脂接合層18aの内側の寸法(内径)と流路基板25に形成された突起部31bの内側の寸法(内径)とが同一の寸法である場合である。この例では、ピエゾ抵抗型半導体素子3の水圧による変形は、キャップ36下方に形成された樹脂接合層18aの内側の寸法(内径)の範囲内で、変形部40がZ方向に変位する。
【0073】
図10(b)は、キャップ36に形成された樹脂接合層18bと流路基板25に形成された突起部31bとが部分的に重なり合った状態を示す。この例では、ピエゾ抵抗型半導体素子3の水圧による変形は、キャップ36下方に形成された樹脂接合層18bの内径の範囲内で、変形部40がZ方向に変形する。
【0074】
一方、
図10(c)はキャップ36に形成された樹脂接合層18cの内側の寸法(内径)が流路基板25に形成された突起部31bの外側の寸法(外径)と比較して大きい場合を示す。この構造では、流路基板25に、ピエゾ抵抗型半導体素子3を接合層32を介して接合する場合、キャップ36に形成された樹脂接合層18cと突起部31bとの位置がZ方向から見て一致していないため、接合時のせん断応力によって、ピエゾ抵抗型半導体素子3の内部に亀裂24が発生し、割れてしまう可能性があるので、これを防止するための補強構造等が必要となる。
【0075】
このような補強構造を不要とするためには、
図10(a)および(b)に示すように、分岐路34の軸方向から見た場合に、キャップ36とピエゾ抵抗型半導体素子3とが接触する領域と、突起部31bとピエゾ抵抗型半導体素子3とが接触する領域とが、少なくとも部分的に重なり合っている構成が好適である。
【0076】
[実施例4]
本発明の実施例4を
図11を用いて説明する。実施例1~3のいずれかと共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0077】
図11は本実施例に係る流路基板25の別の構造を示す断面図である。実施例4では、流路基板25は、突起部31bの外縁より外側に溝19を備え、溝19には接合層32の一部を配置することができ、この点が実施例1~3と異なる。その他の構成は他の実施例(たとえば
図9)と同様とすることができるため説明は省略する。
【0078】
このような構造を適用することで、接合層32が流路基板25と接触する部分の表面積を増加させることが可能であり、かつ、接合層32の厚さを十分に確保することが可能である。そのため、接合層32の接着強度を向上させることができる。また、接合層32が外周部へはみ出す量も減少させることができる。
【0079】
[実施例5]
本発明の実施例5を
図12を用いて説明する。実施例1~4のいずれかと共通する部分については説明を省略する場合がある。
【0080】
図12は本実施例に係る流路基板25の構造を示す平面図および断面図である。ピエゾ抵抗型半導体素子3の位置を決めるための位置決め突起38aが、流路基板25に形成されている。位置決め突起38aは、流路基板25からZ方向に突出する。本実施例では、位置決め突起38aは4ヵ所設置されており、その内側にピエゾ抵抗型半導体素子3が設置されている構成となっている。位置決め突起38aは、ピエゾ抵抗型半導体素子3のXY面内での移動を規制し、これによって位置決めを容易にする。
【0081】
このような構成とすることで、薄膜であるピエゾ抵抗型半導体素子3を配置する際に、流路基板25に形成された分岐路34および突起部31bに対する相対位置を高精度に決定することが可能となる。このような構造とすることにより、流路基板25に形成された分岐路34の位置および突起部31bとピエゾ抵抗型半導体素子3との位置を、数十ミクロンの精度で合わせることが可能で、水圧による変形時も測定精度がよくなり、製品間のばらつきも低減できる。
【0082】
なお、位置決め突起38aはピエゾ抵抗型半導体素子3の全周に形成されてもよいが、本実施例では、接合層32が外周部へのはみ出し量を阻害させないために部分的に配置する構造となっている。
【0083】
位置決め突起38aは
図12に示した構造だけでなく、実施例4の変形例として、その他の位置決め突起を適用することができる。
【0084】
図13に様々な変形例の平面図を示す。
図13(a)はピエゾ抵抗型半導体素子3の角部に配置した位置決め突起38bを2ヵ所配置した例であり、角部に配置する場合は、X方向およびY方向の各々、平面部が存在することが好ましい。なお、位置決め突起38bのX方向およびY方向が交差する角部は、図示のように面取りされていてもよい。この構成では、少ない数の位置決め突起38bで位置決めを行うことができる。
【0085】
図13(b)はピエゾ抵抗型半導体素子3のX方向およびY方向の中央部に円形の位置決め突起38cを配置した例を示す。位置決め突起38cは、流路基板25にピン孔またはねじ穴を形成し、ピンを設置する構造またはネジをはめ込む構造を適用できる。この構造では低コストで位置決め突起を形成することができる。この構成では、位置決め突起38cにピンまたはねじとしての機能を持たせることも可能である。
【0086】
図13(c)は、一部が面取りされた位置決め突起38dを、X方向はピエゾ抵抗型半導体素子3の中心部に対応する位置に、Y方向はピエゾ抵抗型半導体素子3の中心部からずれた位置に配置した例を示す。本例ではピエゾ抵抗型半導体素子3の位置決め方法は、外周合わせであればその他の構造を用いてもよい。
【0087】
次に、圧力センサモジュール15cに搭載したピエゾ抵抗型半導体素子3への電気的配線例を、
図14の分解斜視図に示す。ピエゾ抵抗型半導体素子3は、位置決め突起38aによって画定される領域の内側に搭載されている。
【0088】
ピエゾ抵抗型半導体素子3には電極パッド42bが複数箇所存在しており、電気配線用のフレキシブル基板41に形成された電極パッド42aとワイヤ43で接続されている。ワイヤ43には金ワイヤおよびアルミワイヤを適用することができる。この他に異方性導電膜(ACF: Anisotropic Conductive Film)などを適用して接続してもよい。
【0089】
流路33にシステム水が流れると分岐路34に流入し、ピエゾ抵抗型半導体素子3に圧力が印加される。圧力が印加されるとピエゾ抵抗型半導体素子3が変形し、それを電気信号として、フレキシブル基板41に伝達され、圧力を計測できる。
【0090】
なお、本発明の実施形態は上記した実施例およびそれらの変形例に限定されるものではなく、他の様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例および変形例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例または変形例の構成の一部を他の実施例または変形例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例または変形例の構成に他の実施例または変形例の構成を加えることも可能である。また、各実施例または変形例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0091】
1…分注装置、2…ノズル、3,3a,3b…ピエゾ抵抗型半導体素子(歪検出部)、4…シリンジポンプ、5…電磁弁、6…ギアポンプ、7…システム水タンク、8…配管、9…容器、10…プランジャ、11…ボールねじ、12…駆動モータ、13…サンプル分注機構、14…制御基板、15,15a,15b,15c…圧力センサモジュール、16…アーム、17…変形部、18,18a,18b,18c…樹脂接合層、19…溝、21…システム水、22…液体、23…分節空気、24…亀裂、25…流路基板、31,31a,31b,31d…突起部、31c…スペーサー、32,32a,32b…接合層、33…流路、33a…流路入口、33b…流路出口、34…分岐路、35…斜面部、36…キャップ、37…空間、38a,38b,38c,38d…突起、39…曲面部、40…変形部、41…フレキシブル基板、42a,42b…電極パッド、43…ワイヤ