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特許7577130液晶ポリエステル樹脂組成物、液晶ポリエステル繊維、繊維構造体、および溶融成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】液晶ポリエステル樹脂組成物、液晶ポリエステル繊維、繊維構造体、および溶融成形体
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/83 20060101AFI20241025BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20241025BHJP
   D01F 6/84 20060101ALI20241025BHJP
   C08G 63/60 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
C08G63/83
D01F6/62 308
D01F6/84 311
C08G63/60
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022565240
(86)(22)【出願日】2021-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2021041910
(87)【国際公開番号】W WO2022113803
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2020195470
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020195471
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】池端 桂一
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 秀治
(72)【発明者】
【氏名】中山 和之
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/204124(WO,A1)
【文献】特開2020-105397(JP,A)
【文献】特開2019-006973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63/00-64/42
D01F 6/62
D01F 6/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステルと、周期表第8~11族の金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の金属元素とを含み、前記金属元素の含有量が合計1~1000重量ppmであり、前記液晶ポリエステルが、下記式(1)~(16)および(18)のいずれかの構成単位の組合せからなる、液晶ポリエステル樹脂組成物。
【表1】
【表2】
【表3】
式中、nは1または2の整数で、それぞれの構成単位n=1、n=2は、単独でまたは組み合わせて存在してもよく、Y およびY は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、フェネチル基、アリールオキシ基、またはアラルキルオキシ基であり、Zは下記式で表される置換基のいずれかである
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物であって、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の含有量が合計100重量ppm未満である、液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記液晶ポリエステルの全カルボキシ末端量(全CEG量)が5.0meq/kg以下である、液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記液晶ポリエステルの全片末端量が50meq/kg以上である、液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記液晶ポリエステルの融点Mpに対してMp+30℃の温度条件下、剪断速度1216sec-1で測定した溶融粘度が10~100Pa・sである、液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記液晶ポリエステルが、4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位を含む、または4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位、芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位および芳香族ジオールに由来する構成単位を含む、液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記液晶ポリエステルが4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位を50モル%以上含む、液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記金属元素が金属化合物として含有されており、前記金属化合物の融点が液晶ポリエステルの融点+30℃以下である、液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記金属化合物が有機酸塩、無機酸塩、ハロゲン化物、水酸化物、および金属錯体化合物からなる群から選択される少なくとも一種である、液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物からなる液晶ポリエステル繊維。
【請求項11】
請求項10に記載の液晶ポリエステル繊維であって、融点が380℃以下である、液晶ポリエステル繊維。
【請求項12】
請求項10または11に記載の液晶ポリエステル繊維であって、強度が18cN/dtex未満である、液晶ポリエステル繊維。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル繊維を製造する方法であって、押出機内で、請求項1~9のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融混練する工程と、溶融混練物をノズルから吐出して紡糸する工程と、を少なくとも備える、液晶ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項14】
請求項10~12のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル繊維を少なくとも一部に含んで構成された繊維構造体。
【請求項15】
請求項14に記載の繊維構造体であって、さらに強化繊維を含む、繊維構造体。
【請求項16】
請求項1~9のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物から形成される溶融成形体。
【請求項17】
請求項1~9のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物、または請求項14もしくは15に記載の繊維構造体を、前記液晶ポリエステルの融点以上で、または前記液晶ポリエステル繊維の融点以上で加熱して成形する、溶融成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、日本国で2020年11月25日に出願した特願2020-195470、および日本国で2020年11月25日に出願した特願2020-195471の優先権を主張するものであり、それらの全体を参照により本出願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、液晶ポリエステル樹脂組成物に関する。また、液晶ポリエステル樹脂組成物からなる液晶ポリエステル繊維およびこれを少なくとも一部に含んで構成された繊維構造体に関する。また、液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融成形することにより得られる溶融成形体に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、繊維強化複合材料の製造に使用される中間材料として、強化繊維と熱可塑性繊維(繊維強化複合材料の中間材料の場合、熱可塑性繊維は後工程で熱融着させるため、以下、融着繊維と称する場合がある)とを含む複合繊維が知られている。例えば、特許文献1(特開平1-280031号公報)、特許文献2(特開2013-237945号公報)および特許文献3(特開平4-73227号公報)には、連続強化繊維と連続熱可塑性繊維とを混繊した混繊糸や、連続熱可塑性繊維を可塑化させて連続強化繊維と結合した複合繊維が開示されている。
【0004】
このような連続強化繊維と連続熱可塑性繊維とを含む複合繊維は、一般に繊維強化複合材料の前駆体として用いられるプリプレグ(強化繊維のトウや布帛に熱硬化性樹脂を塗布又は被覆したテープ状物や布帛状物)や、強化繊維のトウや布帛に熱可塑性樹脂を溶融含浸させた中間材料と比べて柔軟性があり、また織り加工、編み加工等により筒状やドーム状などの様々な立体的変形を加えた布帛を形成することが容易である。そのため、ダクトチューブや自動車のバンパーなど立体的な形状の特徴を持ったシート状繊維強化成形体の原料として有効に用いることができる。このような成形体には上述のダクトチューブや自動車のバンパーなどのように振動が発生する用途が数多く存在することから、振動減衰性に優れた熱可塑性樹脂である液晶ポリエステルからなる液晶ポリエステル繊維を強化繊維または融着繊維として用いることで、優れた制振性を有する成形体が得られることが期待できる。
【0005】
例えば、自転車、自動車、鉄道車両、航空機等、高い耐衝撃性および破壊に伴う破片の飛散を低減する要求の高い構造体の部材として、液晶ポリエステル繊維を融着繊維として用い、炭素繊維により補強した、高い耐衝撃性と振動減衰性とを併せ持つ成形体が報告されている。
【0006】
例えば、特許文献4(特開2011-84611号公報)には、400℃以上の温度で実質的に不融であり、かつ破断強度が10cN/dtex以上である高強力繊維により補強された全芳香族ポリエステル樹脂成形体が開示されている。具体的には、マトリックス樹脂の前駆体となる液晶ポリエステル繊維を二方向性織物の形態にしたのち、高強力繊維として炭素繊維で構成される二方向性織物と積層し、300~370℃の温度条件下で熱プレスを行うことで繊維補強樹脂成形体を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平1-280031号公報
【文献】特開2013-237945号公報
【文献】特開平4-73227号公報
【文献】特開2011-84611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このように加熱を含む工程により液晶ポリエステルを用いた繊維強化複合プラスチックを製造する場合、300℃を上回る加熱温度以上では液晶ポリエステルから生じた熱分解ガスによる気泡がプラスチック内に生じてしまい、得られる繊維強化液晶ポリエステル樹脂成形体の物性や外観性に悪影響が生じるという課題があった。
【0009】
本発明は上記課題を解決するものであり、成形体の製造にあたって、加熱溶融の際に気泡が発生せず、品位の高い成形体を得ることのできる液晶ポリエステル樹脂組成物およびその樹脂組成物からなる液晶ポリエステル繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、所定の温度まで加熱した際に液晶ポリエステル樹脂組成物から発生する熱分解ガスは、液晶ポリエステルの分子末端にカルボキシ基が存在する場合に、そのカルボキシ基において脱炭酸反応が起こることが引き金となっていることを見出した。そして、さらに研究を重ねた結果、液晶ポリエステルと特定の金属元素とを含有している樹脂組成物は、溶融成形時に混練することにより液晶ポリエステルの分子末端のカルボキシ基の量を減少させることができ、得られる溶融成形体中の気泡を減少させることができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
液晶ポリエステルと、周期表第8~11族の金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の金属元素(好ましくは銅、コバルト、およびパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素)とを含む、液晶ポリエステル樹脂組成物。
〔態様2〕
態様1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記金属元素の含有量が合計1~1000重量ppm(好ましくは3~500重量ppm、より好ましくは5~200重量ppm、さらに好ましくは10~100重量ppm)である、液晶ポリエステル樹脂組成物。
〔態様3〕
態様1または2に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記液晶ポリエステルの全カルボキシ末端量(全CEG量)が5.0meq/kg以下(好ましくは4.0meq/kg以下、より好ましくは3.0meq/kg以下、さらに好ましくは2.5meq/kg以下、さらにより好ましくは2.0meq/kg以下)である、液晶ポリエステル樹脂組成物。
〔態様4〕
態様1~3のいずれか一態様に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記液晶ポリエステルの全片末端量が50meq/kg以上(好ましくは55meq/kg以上、より好ましくは60meq/kg以上)である、液晶ポリエステル樹脂組成物。
〔態様5〕
態様1~4のいずれか一態様に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記液晶ポリエステルの融点Mpに対してMp+30℃の温度条件下、剪断速度1216sec-1で測定した溶融粘度が10~100Pa・s(好ましくは13~80Pa・s、より好ましくは15~50Pa・s)である、液晶ポリエステル樹脂組成物。
〔態様6〕
態様1~5のいずれか一態様に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記液晶ポリエステルが、4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位を含む、または4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位、芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位および芳香族ジオールに由来する構成単位を含む、液晶ポリエステル樹脂組成物。
〔態様7〕
態様1~6のいずれか一態様に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記液晶ポリエステルが4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位を50モル%以上(好ましくは53モル%以上、より好ましくは60モル%以上)含む、液晶ポリエステル樹脂組成物。
〔態様8〕
態様1~7のいずれか一態様に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記金属元素が金属化合物として含有されており、前記金属化合物の融点が液晶ポリエステルの融点+30℃以下(好ましくは液晶ポリエステルの融点+20℃以下)である、液晶ポリエステル樹脂組成物。
〔態様9〕
態様8に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物であって、前記金属化合物が有機酸塩、無機酸塩、ハロゲン化物、水酸化物、および金属錯体化合物からなる群から選択される少なくとも一種である、液晶ポリエステル樹脂組成物。
〔態様10〕
態様1~9のいずれか一態様に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物からなる液晶ポリエステル繊維。
〔態様11〕
態様10に記載の液晶ポリエステル繊維であって、融点が380℃以下(好ましくは250~350℃、より好ましくは260~300℃)である、液晶ポリエステル繊維。
〔態様12〕
態様10または11に記載の液晶ポリエステル繊維であって、強度が18cN/dtex未満(好ましくは2~16cN/dtex、より好ましくは6~12cN/dtex)である、液晶ポリエステル繊維。
〔態様13〕
態様10~12のいずれか一態様に記載の液晶ポリエステル繊維を製造する方法であって、押出機内で、態様1~9のいずれか一態様に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融混練する工程と、溶融混練物をノズルから吐出して紡糸する工程と、を少なくとも備える、液晶ポリエステル繊維の製造方法。
〔態様14〕
態様10~12のいずれか一態様に記載の液晶ポリエステル繊維を少なくとも一部に含んで構成された繊維構造体。
〔態様15〕
態様14に記載の繊維構造体であって、さらに強化繊維を含む、繊維構造体。
〔態様16〕
態様1~9のいずれか一態様に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物から形成される溶融成形体。
〔態様17〕
態様1~9のいずれか一態様に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物、または態様14もしくは15に記載の繊維構造体を、前記液晶ポリエステルの融点以上で、または前記液晶ポリエステル繊維の融点以上で加熱して成形する、溶融成形体の製造方法。
【0012】
なお、請求の範囲および/または明細書に開示された少なくとも2つの構成要素のどのような組み合わせも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲に記載された請求項の2つ以上のどのような組み合わせも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物および液晶ポリエステル繊維によれば、加熱溶融時にガスの発生を抑制することができ、気泡の少ない品質の良好な成形体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[液晶ポリエステル樹脂組成物]
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる液晶ポリエステルは、例えば、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸等に由来する反復構成単位からなり、本発明の効果を損なわない限り、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位は、その化学的構成については特に限定されるものではない。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、液晶ポリエステルは、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸に由来する構成単位を含んでいてもよい。例えば、好ましい構成単位としては、表1に示す例が挙げられる。
【0015】
【表1】
【0016】
表1の構成単位において、mは0~2の整数であり、式中のYは、1~置換可能な最大数の範囲において、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基などの炭素数1から4のアルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基など)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)など)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基など)などが挙げられる。
【0017】
より好ましい構成単位としては、下記表2、表3および表4に示す例(1)~(18)に記載される構成単位が挙げられる。なお、式中の構成単位が、複数の構造を示しうる構成単位である場合、そのような構成単位を二種以上組み合わせて、ポリマーを構成する構成単位として使用してもよい。
【0018】
【表2】
【0019】
【表3】
【0020】
【表4】
【0021】
表2、表3および表4の構成単位において、nは1または2の整数で、それぞれの構成単位n=1、n=2は、単独でまたは組み合わせて存在してもよく、YおよびYは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基などの炭素数1から4のアルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基など)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)など)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基など)などであってもよい。これらのうち、水素原子、塩素原子、臭素原子、またはメチル基が好ましい。
【0022】
また、Zとしては、下記式で表される置換基が挙げられる。
【0023】
【化1】
【0024】
液晶ポリエステルは、好ましくは、ナフタレン骨格を構成単位として有する組み合わせであってもよい。ヒドロキシ安息香酸由来の構成単位(A)と、ヒドロキシナフトエ酸由来の構成単位(B)の両方を含むことが、特に好ましい。例えば、構成単位(A)としては下記式(A)に示す4-ヒドロキシ安息香酸由来の構成単位が挙げられ、構成単位(B)としては下記式(B)に示す6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸由来の構成単位が挙げられ、溶融成形性を向上する観点から、構成単位(A)と構成単位(B)の比率は、好ましくは9/1~1/1、より好ましくは7/1~1/1、さらに好ましくは5/1~1/1の範囲であってもよい。
【0025】
【化2】
【0026】
【化3】
【0027】
また、(A)の構成単位と(B)の構成単位の合計は、例えば、全構成単位に対して65モル%以上であってもよく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上であってもよい。ポリマー中、特に(B)の構成単位が4~45モル%である液晶ポリエステルが好ましい。
【0028】
また、液晶ポリエステルは、芳香族ヒドロキシカルボン酸として4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位を含み、芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位および芳香族ジオールに由来する構成単位を含んでいてもよい。例えば、芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位として下記式(C)および下記式(D)からなる群から選択される少なくとも1種を用いてもよく、芳香族ジオールに由来する構成単位として下記式(E)および下記式(F)からなる群から選択される少なくとも1種を用いてもよい。好ましくは、4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位(A)(上記式(A))と、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸に由来する構成単位(C)(下記式(C))と、イソフタル酸に由来する構成単位(D)(下記式(D))と、芳香族ジオールとして4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構成単位(E)(下記式(E))とを含む液晶ポリエステル、4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位(A)(上記式(A))と、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸に由来する構成単位(C)(下記式(C))と、イソフタル酸に由来する構成単位(D)(下記式(D))と、芳香族ジオールとして4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構成単位(E)(下記式(E))と、ヒドロキノンに由来する構成単位(F)(下記式(F))とを含む液晶ポリエステル等であってもよい。
【0029】
【化4】
【0030】
【化5】
【0031】
【化6】
【0032】
【化7】
【0033】
液晶ポリエステルは、4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位を含んでいてもよく、好ましくは50モル%以上含んでいてもよく、より好ましくは53モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上含んでいてもよい。液晶ポリエステル中の4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位の含有量の上限は特に限定されないが、例えば、90モル%以下であってもよく、好ましくは88モル%以下、より好ましくは85モル%以下であってもよい。
【0034】
本発明で好適に用いられる液晶ポリエステルの融点(以下、Mpと称することがある)は250~380℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは255~370℃、さらに好ましくは260~360℃、さらにより好ましくは260~330℃であってもよい。なお、ここでいう融点とは、JIS K 7121試験法に準拠し、示差走査熱量計(DSC;メトラー社製「TA3000」)で測定し、観察される主吸収ピーク温度である。具体的には、前記DSC装置に、サンプル10~20mgをとりアルミ製パンへ封入した後、キャリヤーガスとして窒素を100mL/分流し、20℃/分で昇温したときの吸熱ピークを測定する。ポリマーの種類によってDSC測定において1st runで明確なピークが現れない場合は、予想される流れ温度よりも50℃高い温度まで50℃/分で昇温し、その温度で3分間完全に溶融した後、80℃/分の降温速度で50℃まで降温し、しかる後に20℃/分の昇温速度で吸熱ピークを測定するとよい。
【0035】
液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステルを50重量%以上含有していてもよく、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、さらにより好ましくは99.9重量%以上含有していてもよい。
【0036】
なお、液晶ポリエステル樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含む樹脂組成物であってもよく、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等の熱可塑性ポリマーを含んでいてもよい。また、酸化チタン、カオリン、シリカ、酸化バリウム等の無機物、カーボンブラック、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0037】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、周期表第8~11族の金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む。好ましくは周期表第4~6周期かつ第8~11族の金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の金属元素であり、具体的には鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、および金からなる群から選択される少なくとも一種の金属元素であってもよい。上記金属元素は芳香族カルボン酸の脱炭酸反応の触媒として作用するため、液晶ポリエステルの分子末端のカルボキシ基において、二酸化炭素が脱離することにより、分子末端のカルボキシ基の量を減少させることができる。
【0038】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる金属元素は、芳香族カルボン酸の脱炭酸反応を促進し、全CEG量を低減する観点から、より好ましくは銅、コバルト、およびパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属元素であってもよく、さらに好ましくは銅であってもよい。
【0039】
上記金属元素は、金属原子が非金属原子と結合した構造を有する金属化合物として含有されていてもよい。金属化合物としては、例えば、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、カプロン酸塩、エナント酸塩、カプリル酸塩、ペラルゴン酸塩、カプリン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、ナフテン酸塩、安息香酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、アジピン酸塩、テレフタル酸塩、イソフタル酸塩、フタル酸塩、サリチル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、フルオロ酢酸塩、クロロ酢酸塩、ブロモ酢酸塩、フルオロプロピオン酸塩、クロロプロピオン酸塩、ブロモプロピオン酸塩等の有機酸塩;硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩等の無機酸塩;フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物等のハロゲン化物;水酸化物;酸化物;硫化物等が挙げられる。これらの金属化合物は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの金属化合物のうち、低融点を有して溶融成形体中への分散性を向上できる観点から、例えば、有機酸塩、無機酸塩、ハロゲン化物、および水酸化物が好ましい。
【0040】
金属化合物は、芳香族カルボン酸の脱炭酸反応の触媒として作用する金属化合物であれば特に限定されないが、金属原子が配位子と配位結合した金属錯体化合物であってもよい。配位子としては、金属化合物中の金属原子に配位可能な配位子であれば特に限定されないが、窒素系配位子、酸素系配位子、炭素系配位子、リン系配位子、硫黄系配位子等が挙げられる。金属化合物において、上記有機酸塩に対応する有機酸、無機酸塩に対応する無機酸、ハロゲン化物に対応するハロゲン等が配位子として金属原子と配位結合していてもよい。
【0041】
窒素系配位子としては、上記金属原子に配位可能な窒素原子を有する配位子であれば特に限定されないが、例えば、アンミン(NH)、アニリン、ジイソプロピルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、ヘキサメチルジシラザン、ジアザビシクロウンデセン、エチレンジアミン(en)、2,3-ブタンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸(edta)、ジエチレントリアミン、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、1,4,7-トリアザシクロノナン、トリエチレンテトラミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、ヘキサメチレンテトラミン等のアミン系配位子;ピロール、ピリジン(py)、ジメチルピリジン、ビピリジン(bpy)、ターピリジン、イミダゾール、ピラゾール、ピラジン、ピリミジン、トリアゾール、キノリン、イソキノリン、アクリジン、1,8-ナフチリジン、フェナントロリン(phen)、2,9-ジメチル-1,10-フェナントロリン、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、2,9-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、ジメチルアミノピリジン、ポルフィリン等の含窒素複素芳香族系配位子;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系配位子;シアニド(CN);イソチオシアニド(NCS);ニトロシル(NO)等が挙げられる。
【0042】
酸素系配位子としては、上記金属原子に配位可能な酸素原子を有する配位子であれば特に限定されないが、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル系配位子;メタノール、エタノール、フェノール、1,1’-ビナフタレン-2,2’-ジオール等のアルコール系配位子;カルボキシラト(RCOO)、オキサラト(ox2-)、アセチルアセトナート(acac)等のアシル系配位子;アクア(HO);ヒドロキシド(OH);オキソ(O2-)等が挙げられる。
【0043】
炭素系配位子としては、上記金属原子に配位可能な炭素原子を有する配位子であれば特に限定されないが、例えば、メチル等のアルキル系配位子;フェニル等のアリール系配位子;ビニル系配位子;アルキニル系配位子;N-ヘテロ環状カルベン等のカルベン系配位子;エチレン、ジベンジリデンアセトン(dba)等のアルケン系配位子;アセチレン、2-フェニルエチニルベンゼン等のアルキン系配位子;シクロペンタジエン、ペンタメチルシクロペンタジエン等のシクロペンタジエン系配位子;1,3-ブタジエン、1,5-シクロオクタジエン(cod)等のジエン系配位子;ベンゼン、シクロオクタテトラエン等の環状ポリエン系配位子;シアノメチルイソシアニド、フェニルイソシアニド等のイソシアニド系配位子;カルボニル(CO)等が挙げられる。
【0044】
リン系配位子としては、上記金属原子に配位可能なリン原子を有する配位子であれば特に限定されないが、例えば、トリフェニルホスフィン、トリス(2-メチルフェニル)ホスフィン、トリス(2-メトキシフェニル)ホスフィン、ジ-tert-ブチルフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリ-tert-ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン(dppm)、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(dppe)、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(dppp)、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル(BINAP)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル(SPhos)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(XPhos)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’-メチルビフェニル(MePhos)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’-(N,N-ジメチルアミノ)ビフェニル(DavePhos)、2-(ジ-tert-ブチルホスフィノ)ビフェニル(JohnPhos)等のホスフィン系配位子等が挙げられる。
【0045】
硫黄系配位子としては、上記金属原子に配位可能な硫黄原子を有する配位子であれば特に限定されないが、例えば、チオール系配位子;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド系配位子;チオフェン、ジベンゾチオフェン、チオピラン等の含硫黄複素芳香族系配位子;チオシアニド(SCN);スルフィド(S2-)等が挙げられる。
【0046】
好ましい配位子は金属原子の種類によって異なるが、銅の場合、芳香族カルボン酸の脱炭酸反応促進の観点から、窒素系配位子が配位していることが好ましく、含窒素複素芳香族系配位子または窒素系キレート配位子が配位していることがより好ましく、含窒素複素芳香族系キレート配位子が配位していることがさらに好ましい。ここで、キレート配位子とは、分子中に二座以上の複数の配位座を持つ配位子であり、複数の配位座が金属1原子に対して、同時に配位できる位置にある配位子である。窒素系キレート配位子としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、ヘキサメチレンテトラミン、ビピリジン、ターピリジン、フェナントロリン、またはそれらの誘導体等が挙げられる。
【0047】
また、銅化合物における銅の価数は、0価、1価、2価のいずれであっても良いが、溶融紡糸における凝集や局在化を避ける観点から、1価または2価であることが好ましく、また芳香族カルボン酸の脱炭酸反応促進の観点から、1価であることがより好ましい。
【0048】
コバルトの場合、使用時の大気下での安定性および芳香族カルボン酸の脱炭酸反応促進の観点から、酸素系配位子が配位していることが好ましく、アシル系配位子が配位していることがより好ましい。
【0049】
パラジウムの場合、使用時の大気下での安定性および芳香族カルボン酸の脱炭酸反応促進の観点から、酸素系配位子が配位していることが好ましく、アシル系配位子(例えば、カルボキシラト(好ましくは、アセタト、トリフルオロアセタト))が配位していることがより好ましい。
【0050】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、例えば、芳香族カルボン酸の脱炭酸反応促進および副反応の抑制を良好に両立させる観点から、上記金属元素の含有量は、合計1~1000重量ppmであることが好ましく、より好ましくは3~500重量ppm、さらに好ましくは5~200重量ppm、さらにより好ましくは10~100重量ppmであってもよい。なお、金属元素の含有量は、液晶ポリエステル樹脂組成物重量に対する上記金属元素の全重量の割合を示し、後述の金属化合物として金属元素を含有する場合には、金属原子換算の含有量を示す。ここで、金属元素の上記含有量は、コーティング剤など樹脂組成物(例えば、成形体)表面に付着している成分を除く、樹脂組成物自体を構成する成分中の金属元素の含有量であってもよい。
【0051】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステルの重縮合反応に作用する重合触媒(例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属等)を含んでいてもよいが、副反応の抑制の観点から、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の含有量が合計100重量ppm未満であってもよく、好ましくは10重量ppm以下、より好ましくは5重量ppm以下、さらに好ましくは1重量ppm以下であってもよい。本明細書において、アルカリ金属とは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、およびフランシウムを示し、アルカリ土類金属とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、およびラジウムを示す。
【0052】
金属化合物は、上述した金属錯体化合物として含有する場合、液晶ポリエステル樹脂組成物に混合する形態としては、すでに配位子が配位結合した状態の金属錯体化合物として樹脂組成物に含有していてもよいし、金属化合物と配位子を形成する化合物とが別々に樹脂組成物に含有していてもよい。
【0053】
金属化合物は、溶融成形時に分散性を向上させる観点から、液晶ポリエステルの融点(Mp)+30℃以下の融点を有する化合物であってもよい。液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融成形させるにあたって、液晶ポリエステルの融点(Mp)以上の温度で樹脂組成物を加熱溶融するが、樹脂組成物中で液晶ポリエステルと共に金属化合物も溶融させて脱炭酸反応を促進させることが好ましい。金属化合物の融点はMp+20℃以下であることが好ましい。
また、金属化合物の融点は、加工性の観点から400℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましい。金属化合物の融点の下限値は特に限定されないが、溶融成形における取り扱い性の観点から、100℃以上であることが好ましい。
【0054】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、後述の実施例に記載した方法により測定される溶融粘度が10~100Pa・sであってもよく、好ましくは13~80Pa・s、より好ましくは15~50Pa・sであってもよい。溶融重合や固相重合等により重合度を高くすることにより、ある程度末端基量を少なくすることが可能であるが、重合度を高くすると溶融時の粘度が高くなり、溶融成形が困難になる場合がある。そのため、液晶ポリエステル樹脂組成物は、溶融粘度が溶融成形に有利な範囲であってもよい。
【0055】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステルの全カルボキシ末端量(全CEG量)が5.0meq/kg以下であってもよい。液晶ポリエステル樹脂組成物における全CEG量は、後述の実施例に記載した方法により測定される値であり、液晶ポリエステル樹脂組成物1kgに対する、液晶ポリエステルの分子末端に存在するカルボキシ基の量で構成される。例えば、液晶ポリエステル中の高分子末端に存在するカルボキシ基としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸などのカルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位が高分子末端を形成しており、そのような高分子末端に存在する構成単位において反応せずに残存しているカルボキシ基であってもよい。
【0056】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる液晶ポリエステルの全CEG量は、加熱溶融時のガス発生量を抑制する観点から、好ましくは4.0meq/kg以下、より好ましくは3.0meq/kg以下、さらに好ましくは2.5meq/kg以下、さらにより好ましくは2.0meq/kg以下であってもよい。全CEG量の下限は特に限定されないが、例えば、0.1meq/kg以上であってもよい。
【0057】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる液晶ポリエステルは、加熱時のガス発生量を抑制する観点から、分子末端のカルボキシ基のうちカルボキシフェニル(-Ph-COOH(式中:Ph上に他の置換基があっても構わない))末端のカルボキシ基についてのCEG量が4.0meq/kg以下であってもよく、好ましくは2.5meq/kg以下、より好ましくは2.0meq/kg以下、さらに好ましくは1.5meq/kg以下であってもよい。カルボキシフェニル末端のカルボキシ基は、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸等のカルボキシフェニル基を有するモノマー(任意で、カルボキシフェニル基のフェニルには、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基などの置換基を有していてもよい)に由来し、特に脱炭酸反応を引き起こしやすい化学構造であるため、カルボキシフェニル末端のカルボキシ基についてのCEG量を低減しているのが好ましい。カルボキシフェニル末端のカルボキシ基についてのCEG量の下限は特に限定されないが、例えば、0.1meq/kg以上であってもよい。
【0058】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる液晶ポリエステルは、加熱時のガス発生量を抑制する観点から、全CEG量に対するカルボキシフェニル末端のカルボキシ基についてのCEG量の比率が90%以下であってもよく、好ましくは85%以下、より好ましくは80%以下であってもよい。全CEG量に対するカルボキシフェニル末端のカルボキシ基についてのCEG量の比率の下限は特に限定されないが、例えば、5%以上であってもよい。
【0059】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる液晶ポリエステルは、溶融成形性の向上の観点から、全片末端量が50meq/kg以上であってもよく、好ましくは55meq/kg以上、より好ましくは60meq/kg以上であってもよい。また、200meq/kg以下であってもよく、好ましくは100meq/kg以下であってもよい。全片末端量は、高分子鎖の数を示し、分子量を評価する指標として用いられる。全片末端量が大きいほど分子量が小さく、全片末端量が小さいほど分子量が大きい傾向を示す。液晶ポリエステルが組成によって全ての種類の末端を定量するのが困難なことを考慮して、本発明において、全片末端量は、液晶ポリエステル樹脂組成物1kgに対する、ヒドロキシカルボン酸由来のカルボキシ基末端と、ヒドロキシカルボン酸由来のカルボキシ基において脱炭酸反応により二酸化炭素が脱離した末端との合計量(meq/kg)を、液晶ポリエステル中のヒドロキシカルボン酸由来の構成単位のモル比で除して得られる数値と定義し、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0060】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物において、後述の実施例により測定されるCOガス発生量は、2.0mmol/kg以下であってもよく、好ましくは1.5mmol/kg以下、より好ましくは1.0mmol/kg以下であってもよい。
【0061】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、特定の金属元素の存在下で各種モノマーを重縮合することにより製造してもよいし、各種モノマーの重縮合により得られた液晶ポリエステルに対して、特定の金属元素を添加することにより製造してもよい。ただし、特定の金属元素を重縮合の初期や中期段階で添加する場合、特定の金属元素により脱炭酸反応が進行することでエステル結合の形成が阻害され、重合度が十分高められないおそれがある。このため、既に重縮合された液晶ポリエステルに対して、脱炭酸反応の触媒として作用するように特定の金属元素を添加することが好ましい。
【0062】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物に含まれる液晶ポリエステルは、精製された液晶ポリエステルであるのが好ましい。重縮合し、モノマーやアシル化剤等が残存している液晶ポリエステル樹脂組成物をそのまま溶融成形する場合、モノマーやアシル化剤等の残存物の影響により重縮合反応と脱炭酸反応とを選択的に制御できないおそれがある。そのため、溶融成形性のため重合度を調整する観点から、重縮合により得られた液晶ポリエステルを一旦精製し、残存するモノマー等を除去した後に、液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融成形することが好ましい。
【0063】
液晶ポリエステルは、公知の重縮合法により合成することができる。重縮合に供するモノマーとして、各種芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸を用いてもよく、これらのモノマー末端を活性化したヒドロキシ基のアシル化物や、カルボキシル基のエステル化物、酸ハロゲン化物、酸無水物などのカルボン酸誘導体を用いてもよい。
【0064】
重縮合は種々の重合触媒の存在下で行ってもよく、例えば、有機スズ系触媒(ジアルキルスズ酸化物等)、アンチモン系触媒(三酸化アンチモン等)、チタン系触媒(二酸化チタン等)、カルボン酸のアルカリ金属塩類またはアルカリ土類金属塩類(酢酸カリウム等)、ルイス酸塩(BF等)等が挙げられる。
【0065】
本発明では、各種モノマーの重縮合により得られた液晶ポリエステルと、脱炭酸反応の触媒として作用する特定の金属元素とを含有する樹脂組成物を溶融混練することにより、液晶ポリエステルの分子中の芳香族カルボン酸末端で脱炭酸反応を進行させ、液晶ポリエステルの全CEG量を低下させることができる。例えば、溶融成形における工程時に溶融押出機内で樹脂組成物を溶融混練して、成形加工前に脱炭酸反応により発生する二酸化炭素を除去することにより、気泡の少ない成形体を得ることができる。
【0066】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、各種モノマーの重縮合により得られた液晶ポリエステルと、周期表第8~11族の金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の金属元素とを混合して溶融混練する工程を備える方法により製造してもよい。事前に液晶ポリエステルと特定の金属元素とを溶融混練することにより、液晶ポリエステルの全CEG量を上述の範囲に低下させることができる。このように特定の全CEG量を有する液晶ポリエステルを含む液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融成形に供してもよい。
【0067】
樹脂組成物中の上記金属元素が脱炭酸反応の触媒として作用するため、各種モノマーの重縮合により得られた液晶ポリエステルとともに特定の金属元素を含有させることにより、脱炭酸反応が進行する温度を下げることができ、通常の溶融混練温度であっても液晶ポリエステルの全CEG量を低下させることができる。具体的には、溶融混練工程の溶融混練温度は、樹脂組成物を溶融混練が可能になる程度の温度であればよく、例えば、液晶ポリエステルの融点(Mp)以上であってもよく、好ましくはMp+10℃以上、より好ましくはMp+20℃以上であってもよい。また、溶融混練温度は、280℃以上であってもよく、好ましくは290℃以上、より好ましくは300℃以上であってもよい。溶融混練温度は、液晶ポリエステルの分解温度未満であってもよい。なお、液晶ポリエステル樹脂組成物中の金属元素は、上述した含有量や種類、形態で添加してもよい。
【0068】
また、高分子末端からの脱炭酸反応は、上述したような温度、すなわち、通常の溶融混練温度以上(例えば、液晶ポリエステルの融点以上)で実質的に進行する反応であるが、液晶ポリエステルは、溶融液晶性を示さないポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート)よりも概して高い耐熱性、難燃性を有するため、このような高温においても変色や主鎖分解といった樹脂の劣化を引き起こすことなく溶融混練ができ、効率的に脱炭酸反応を進めることができる。
【0069】
溶融混練には公知の方法を用いることができ、例えば、バンバリーミキサー、ミキシングロール機、ニーダー、単軸押出機、多軸押出機(二軸以上)等の公知の樹脂混練機を用いることができる。
【0070】
溶融混練工程において、溶融混練の時間は、例えば樹脂混練機として押出機を用いる場合、押出機内を樹脂が通過する時間(押出機内滞留時間)として、添加剤の分散や脱炭酸反応の進行が十分に進む範囲であれば特に制限されるものではないが、例えば、30秒~30分、好ましくは1分~10分、さらに好ましくは3分~8分であってもよい。
【0071】
また、脱炭酸反応により生じる二酸化炭素を系外に除去し、さらに脱炭酸反応を促進する観点から、混練機内を減圧することにより脱気することが好ましい。例えば、真空度は、絶対圧で100kPa以下であってもよく、好ましくは80kPa以下、より好ましくは60kPa以下であってもよい。
【0072】
溶融混練した後、ペレット状、チップ状、フレーク状、粉末状等の溶融成形に使用されるような公知の形状に加工してもよい。または、溶融混練した後、そのまま所望の形状に成形して、後述の溶融成形体を製造してもよい。
【0073】
[溶融成形体]
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸等の公知の溶融成形法によって、気泡の少ない成形体に加工することが可能である。本発明において、溶融成形体としては、立体的形状を有する成形体、シート、フィルム、繊維等の各種形状を有する成形体が挙げられる。
【0074】
本発明の溶融成形体は、強化繊維を含む強化繊維成形体(繊維強化複合材)であってもよい。強化繊維としては、本発明の液晶ポリエステルより融点が高ければその種類は特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスイミダゾール繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスチアゾール繊維、セラミック繊維、および金属繊維からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。これらの強化繊維は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0075】
溶融成形体のマトリックスを構成する液晶ポリエステルは振動減衰性に優れるため、得られる成形体は制振性に優れ、ダクトチューブや自動車のバンパーなどのように振動が発生する用途に有効に用いることができる。
【0076】
また、フィルムや繊維は、さらに溶融成形することにより立体的形状を有する成形体やシート等の溶融成形体を製造するための中間材料として使用することができる。
【0077】
[液晶ポリエステル繊維の製造方法]
本発明の液晶ポリエステル繊維の製造方法は、押出機内で、液晶ポリエステルと、周期表第8~11族の金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の金属元素とを含む液晶ポリエステル樹脂組成物を溶融混練する工程と、溶融混練物をノズルから吐出して紡糸する工程と、を少なくとも備えていてもよい。
【0078】
押出機内では、紡糸頭に供給する前にある程度の時間溶融混練状態で滞留させることができるため、反応時間を確保することができる。そこで、本発明では、押出機内において、液晶ポリエステルの芳香族カルボン酸末端での脱炭酸反応の触媒として作用する特定の金属元素を含有させて溶融混練することにより、得られる液晶ポリエステル繊維の全CEG量を低下させることを可能としている。
【0079】
本発明では、溶融混練工程において、特定の金属元素を樹脂組成物に含有させることによりその触媒作用で脱炭酸反応を促進させることができ、液晶ポリエステルの分子末端を制御することが可能である。具体的には、液晶ポリエステルと、周期表第8~11族の金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の金属元素とを含む上述の液晶ポリエステル樹脂組成物を押出機内で溶融混練してもよい。
【0080】
溶融混練工程において、液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル、および周期表第8~11族の金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含んでいればよく、金属元素は、上述した含有量や種類、形態であってもよい。例えば、金属元素は、上述した金属化合物として含有していてもよく、金属化合物は、脱炭酸反応促進の観点から、上述した金属錯体化合物であってもよい。また、金属化合物は、樹脂組成物中への分散性を向上し、溶融紡糸の連続運転性を向上させる観点から、上述の融点を有していてもよい。
【0081】
液晶ポリエステル樹脂組成物中の金属元素が脱炭酸反応の触媒として作用するため、脱炭酸反応が進行する温度を下げることができ、通常の混練温度であっても液晶ポリエステル繊維の全CEG量を低下させることができる。具体的には、溶融混練工程の押出機内での混練温度は、液晶ポリエステル樹脂組成物の粘度を紡糸に適する粘度に調整できる程度の温度であればよく、例えば、液晶ポリエステルの融点(Mp)以上であってもよく、好ましくはMp+10℃以上、より好ましくはMp+20℃以上であってもよい。また、押出機内での混練温度は、280℃以上であってもよく、好ましくは290℃以上、より好ましくは300℃以上であってもよい。押出機内での混練温度は、液晶ポリエステルの分解温度未満であってもよい。
【0082】
溶融混練工程において、押出機内を樹脂が通過する時間(押出機内滞留時間)としては、添加剤の分散や脱炭酸反応の進行が十分に進む範囲であれば特に制限されるものではないが、例えば、30秒~30分、好ましくは1分~10分、さらに好ましくは3分~8分であってもよい。
【0083】
押出機としては、単軸押出機、多軸押出機(二軸以上)等の公知の押出機を用いることができる。
【0084】
また、脱炭酸反応により生じる二酸化炭素を系外に除去し、さらに脱炭酸反応を促進する観点から、押出機内を減圧することにより脱気することが好ましい。例えば、真空度は、絶対圧で100kPa以下であってもよく、好ましくは80kPa以下、より好ましくは60kPa以下であってもよい。
【0085】
脱炭酸反応が進行し、全CEG量が低下した液晶ポリエステルを含む溶融混練物を得た後、紡糸頭に供給し、ノズルから吐出して溶融紡糸してもよい。溶融紡糸は公知または慣用の方法により行うことができ、所定の紡糸温度でノズルから吐出して、ゴデットローラー等により巻き取ることで得ることができる。
【0086】
[液晶ポリエステル繊維]
本発明の液晶ポリエステル繊維は、周期表第8~11族の金属元素からなる群から選択される少なくとも一種の金属元素を含む。上述のように、特定の金属元素を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて溶融紡糸することによって、溶融混練時に液晶ポリエステルの分子末端の脱炭酸反応を促進させることができ、得られる液晶ポリエステル繊維の全CEG量を低下させることができる。
【0087】
本発明の液晶ポリエステル繊維における金属元素は、上述した種類や形態で含有していてもよい。また、金属元素の含有量は、芳香族カルボン酸の脱炭酸反応促進および副反応の抑制を良好に両立させる観点から、合計1~1000重量ppmであることが好ましく、より好ましくは3~500重量ppm、さらに好ましくは5~200重量ppm、さらにより好ましくは10~100重量ppmであってもよい。なお、金属元素の含有量は、液晶ポリエステル繊維重量に対する上記金属元素の全重量の割合を示し、金属化合物として金属元素を含有する場合には、金属原子換算の含有量を示す。ここで、金属元素の上記含有量は、油剤など繊維表面に付着している成分を除く、繊維自体を構成する成分中の金属元素の含有量であってもよい。
【0088】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、副反応の抑制の観点から、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の含有量が合計100重量ppm未満であってもよく、好ましくは10重量ppm以下、より好ましくは5重量ppm以下、さらに好ましくは1重量ppm以下であってもよい。ここで、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の上記含有量は、油剤など繊維表面に付着している成分を除く、繊維自体を構成する成分中のアルカリ金属およびアルカリ土類金属の含有量であってもよい。
【0089】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、上述の液晶ポリエステル樹脂組成物で構成され、液晶ポリエステルおよび特定の金属元素以外の成分を含有していてもよいが、液晶ポリエステルを50重量%以上含有していてもよく、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、さらにより好ましくは99.9重量%以上含有していてもよい。
【0090】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、加熱時のガス発生量を抑制する観点から、全CEG量が、5.0meq/kg以下であってもよく、好ましくは4.0meq/kg以下、より好ましくは3.0meq/kg以下、さらに好ましくは2.5meq/kg以下、さらにより好ましくは2.0meq/kg以下であってもよい。全CEG量の下限は特に限定されないが、例えば、0.1meq/kg以上であってもよい。液晶ポリエステル繊維における全CEG量は、後述の実施例に記載した方法により測定される値であり、液晶ポリエステル繊維1kgに対する、液晶ポリエステル繊維を構成する分子中の分子末端に存在するカルボキシ基の量で構成される。
【0091】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、加熱時のガス発生量を抑制する観点から、分子末端のカルボキシ基のうちカルボキシフェニル末端のカルボキシ基についてのCEG量が4.0meq/kg以下であってもよく、好ましくは2.5meq/kg以下、より好ましくは2.0meq/kg以下、さらに好ましくは1.5meq/kg以下であってもよい。カルボキシフェニル末端のカルボキシ基についてのCEG量の下限は特に限定されないが、例えば、0.1meq/kg以上であってもよい。
【0092】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、加熱時のガス発生量を抑制する観点から、全CEG量に対するカルボキシフェニル末端のカルボキシ基についてのCEG量の比率が90%以下であってもよく、好ましくは85%以下、より好ましくは80%以下であってもよい。全CEG量に対するカルボキシフェニル末端のカルボキシ基についてのCEG量の比率の下限は特に限定されないが、例えば、5%以上であってもよい。
【0093】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、全片末端量が50.0meq/kg以上であってもよく、好ましくは55.0meq/kg以上、より好ましくは60.0meq/kg以上であってもよい。本発明において、液晶ポリエステル繊維における全片末端量は、液晶ポリエステル繊維1kgに対する、ヒドロキシカルボン酸由来のカルボキシ基末端と、ヒドロキシカルボン酸由来のカルボキシ基において脱炭酸反応により二酸化炭素が脱離した末端との合計量(meq/kg)を、液晶ポリエステル中のヒドロキシカルボン酸由来の構成単位のモル比で除して得られる数値であり、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。全片末端量が上記範囲内にある場合、液晶ポリエステルの重合が必要以上に進行しておらず、分子量が比較的低いため、融着繊維として用いることができる。全片末端量の上限は特に限定されないが、分子量が低すぎると繊維を加工するのに必要な強度が得られなくなる場合があるため、例えば、200meq/kg以下であってもよく、好ましくは100meq/kg以下であってもよい。
【0094】
一般に、液晶ポリエステル繊維は、溶融紡糸して得られた紡糸原糸を熱処理して固相重合することによりポリマーの分子量を高めることで非常に高い力学物性を発揮させることができるが、本発明においては、繊維強化成形体を製造するための融着繊維として加工できる程度の強度を有する液晶ポリエステル繊維であってもよい。例えば、本発明の液晶ポリエステル繊維は、紡糸原糸であってもよく、本発明の効果を損なわない範囲で固相重合された熱処理糸であってもよい。液晶ポリエステル繊維は固相重合によりその融点が紡糸原糸の融点(Mp)から上昇することを考慮すると、本発明の液晶ポリエステル繊維は、融着繊維として用いる場合、紡糸原糸であることが好ましい。
【0095】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、強度が18cN/dtex未満であってもよく、好ましくは2~16cN/dtex、より好ましくは6~12cN/dtexであってもよい。本発明において、液晶ポリエステル繊維の強度とは、引張強度をいい、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0096】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、融着繊維として用いる観点から、融点が380℃以下であってもよく、好ましくは250~350℃、より好ましくは260~300℃であってもよい。なお、液晶ポリエステル繊維の融点は、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0097】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、用途等により単繊維繊度を適宜選択することができ、例えば、単繊維繊度が0.5~50dtexであってもよく、好ましくは1.0~35dtex、より好ましくは1.0~15dtex、さらに好ましくは1.5~10dtexであってもよい。
【0098】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、モノフィラメントであってもよく、マルチフィラメントであってもよい。マルチフィラメントの場合、そのフィラメント本数は用途等により適宜選択することができ、例えば、フィラメント本数は5~5000本であってもよく、好ましくは10~4000本、より好ましくは30~3000本であってもよい。
【0099】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、用途等により総繊度を適宜選択することができ、例えば、総繊度が10~50000dtexであってもよく、好ましくは15~30000dtex、より好ましくは25~10000dtexであってもよい。
【0100】
本発明の液晶ポリエステル繊維において、後述の実施例により測定されるCOガス発生量は、2.0mmol/kg以下であってもよく、好ましくは1.5mmol/kg以下、より好ましくは1.0mmol/kg以下であってもよい。
【0101】
[繊維構造体]
本発明の液晶ポリエステル繊維は、それをマトリックスとして用いた成形体を製造するための融着繊維として使用することができる。融着繊維として使用するにあたり、液晶ポリエステル繊維を少なくとも一部に含む繊維構造体を溶融成形体製造の中間材料として使用することができる。
【0102】
本発明の液晶ポリエステル繊維を含む繊維構造体は、ステープルファイバー、ショートカットファイバー、フィラメントヤーン、紡績糸、紐状物、ロープなどのあらゆる繊維形態として使用することができるし、また、液晶ポリエステル繊維を用いた不織布、織物、編物などの各種布帛として使用することもできる。このような繊維や布帛は、公知の方法により液晶ポリエステル繊維を用いて製造することができる。
【0103】
本発明の繊維構造体は、本発明の効果を損なわない限り、液晶ポリエステル繊維と他の繊維とを組み合わせてもよい。例えば、液晶ポリエステル繊維と他の繊維とを使用した複合繊維(例えば、液晶ポリエステル繊維と他の繊維とを混繊した混繊糸等)を用いることができる。また、液晶ポリエステル繊維と他の繊維とを使用した複合布帛(例えば、液晶ポリエステル繊維と他の繊維とを混繊した混繊布帛や、液晶ポリエステル繊維からなる布帛と他の繊維からなる布帛との積層物等)を用いることができる。繊維構造体を強化繊維成形体(繊維強化複合材)の製造に用いる場合、繊維構造体は、他の繊維として強化繊維を含む、複合繊維や複合布帛であってもよい。強化繊維としては、上述した強化繊維を用いることができる。
【0104】
本発明において、成形体は、繊維構造体を成形して得ることができるものであればよく、例えば、繊維構造体を成形した、強化繊維を含まない成形体であってもよく、繊維構造体を強化繊維とともに成形した、強化繊維成形体であってもよい。繊維構造体は、柔軟性を持たせることができるため、織り加工、編み加工等により筒状やドーム状などの様々な立体的形状の成形体を形成することが可能である。
【0105】
成形体は、液晶ポリエステル繊維の融点以上で繊維構造体を加熱して成形することにより得ることができる。成形方法としては、液晶ポリエステル繊維を溶融して一体化する限り特に制限はなく、公知の成形体の成形方法を使用することができる。本発明の液晶ポリエステル繊維は、加熱融着させる際に気泡の発生を抑制できるため、品位の高い成形体を得ることができる。
【0106】
また、成形体のマトリックスを構成する液晶ポリエステルは振動減衰性に優れるため、得られる成形体は制振性に優れ、ダクトチューブや自動車のバンパーなどのように振動が発生する用途に有効に用いることができる。
【実施例
【0107】
以下に、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0108】
(樹脂組成物チップ(粒状成型体)または繊維中の液晶ポリエステルの融点)
JIS K 7121に準拠し、示差走査熱量計(DSC;メトラー社製、「TA3000」)を用いて測定し、観察される主吸収ピーク温度を融点とした。具体的には、前記DSC装置に、試料10~20mgをとりアルミ製パンへ封入した後、キャリヤーガスとして窒素を100mL/分の流量で流し、25℃から20℃/分で昇温したときの液晶ポリエステル由来の吸熱ピークを測定した。
【0109】
(金属化合物の融点)
上記液晶ポリエステルの融点測定と同じ装置、パンを使用し測定した。ただし、水和水や残存溶媒のピークを除くため、キャリヤーガスとして窒素を100mL/分の流量で流し、25℃から20℃/分で150℃まで昇温し、1分保持後、-20℃/分で25℃まで降温したのち、再度25℃から20℃/分で昇温したとき最も低温に現れる吸熱ピークを測定した。
【0110】
(金属元素含有量)
以下に記載する「マイクロ波分解」により分析用液体を作製し、ICP-MS測定を行うことで金属元素含有量(重量ppm)を求めた。
・マイクロ波分解
マイルストーンゼネラル株式会社製マイクロ波分解装置「ETHOS-1」を用いてマイクロ波分解を行った。液晶ポリエステル樹脂組成物チップサンプルまたは液晶ポリエステル繊維サンプル0.1gをクォーツインサートに量り取り、硝酸(1.42mol/L)6mLを加えた。水5mLと過酸化水素(濃度30~36重量%)2mLを入れた分解容器にクォーツインサートを入れて密閉しマイクロ波分解を行った。放冷後、50mLに定容し、孔径0.45μmフィルターでろ過したろ液をICP-MS測定に供した。
・ICP-MS測定
アジレント・テクノロジー社製ICP-MS分析装置「Agirent7900」を用いて上記マイクロ波分解にて作製したサンプル液の金属元素含有量を分析した。キャリヤーガス流量0.7L/min、RF出力1500Wの条件で、XSTC-622(SPEX社製標準液)と比較して同一サンプル液から3回測定を行い、その平均値から各金属元素含有量を決定した。
なお、液晶ポリエステル繊維など油剤が付着しているサンプルにおいて、油剤が含む金属元素の影響が懸念される場合は、以下の方法で油剤除去を行ったのち、マイクロ波分解を行うと良い。
・油剤除去
イオン交換水1Lにノニオン系界面活性剤(松本油脂製薬株式会社製、アクチノールF-9)を2g溶解させた水溶液に100g以下の量の液晶ポリエステル繊維サンプルを入れ、60~90℃に温調を行い、40分振とうを行った。液晶ポリエステル繊維サンプルを取り出し、60~90℃に温調をしたイオン交換水1Lで40分×2回すすぎを行った。液晶ポリエステル繊維サンプルを取り出し、ヤマト科学株式会社製熱風乾燥機「DN63HI」を用いて空気雰囲気下、80℃で3時間以上乾燥を行い、油剤の除去された液晶ポリエステル繊維サンプルを得た。
【0111】
(CEG量)
液晶ポリエステル樹脂組成物チップ試料または液晶ポリエステル繊維試料をd90=100μm以下になるまで凍結粉砕し、その粉砕試料に大過剰のn-プロピルアミンを加え、40℃で90分間加熱攪拌処理を行い、試料を分解した。この場合、高分子鎖の内部に存在したエステル結合はカルボン酸n-プロピルアミドとヒドロキシ基に分解され、高分子鎖の末端に存在したカルボキシ基(CEG)とヒドロキシ基はそのままカルボキシ基とヒドロキシ基から変化しないので、HPLC法により分解物を分離し、カルボキシ基を有する分解物のピーク面積を、それぞれの標品のHPLC分析により作成した検量線と比較することで各々のモノマー由来のカルボキシ末端量(meq/kg)を定量した。例えば、4-ヒドロキシ安息香酸や6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸といった一価のカルボン酸由来のCEG量は、そのまま4-ヒドロキシ安息香酸や6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸を定量することで求められ、テレフタル酸やイソフタル酸や2,6-ナフタレンジカルボン酸といった二価のカルボン酸由来のCEG量は、テレフタル酸モノn-プロピルアミドやイソフタル酸モノn-プロピルアミドや2,6-ナフタレンジカルボン酸モノn-プロピルアミドといった片方のカルボキシ基がアミド化した物質を定量することで求められる。
各試料が含む全てのカルボキシ末端量の合計を、その試料の全カルボキシ末端量(全CEG量)とした。また、各試料が含むカルボキシフェニルのカルボキシ末端(例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸等のカルボキシフェニル基を有するモノマー由来のカルボキシ末端)量の合計を、カルボキシフェニル末端のカルボキシ基についてのCEG量とした。
【0112】
(全片末端量)
上記のCEG量の測定と同様に、液晶ポリエステル樹脂組成物チップ試料または液晶ポリエステル繊維試料にn-プロピルアミンを用いて分解し、ヒドロキシカルボン酸由来のカルボキシ末端量、およびヒドロキシカルボン酸由来の末端のカルボキシ基が脱炭酸反応して生じる末端量の合計量(meq/kg)を定量した。例えば、4-ヒドロキシ安息香酸由来の末端量は、4-ヒドロキシ安息香酸およびフェノールを定量することで求められ、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸由来の末端量は、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸および2-ナフトールを定量することで求められる。ヒドロキシカルボン酸以外のジオールやジカルボン酸由来等の末端量を考慮するために、ヒドロキシカルボン酸由来の末端量の合計を、当該試料の液晶ポリエステル中のヒドロキシカルボン酸由来の構成単位のモル比で除した値を、その試料の全片末端量とした。
【0113】
(溶融粘度)
溶融粘度測定装置(東洋精機(株)製キャピログラフ1C)により、1.00mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、液晶ポリエステルの融点Mp(上記で測定した樹脂組成物中の液晶ポリエステルの融点)に対してMp+30℃の温度条件下、剪断速度1216sec-1での溶融粘度(Pa・s)をそれぞれ測定した。
【0114】
(総繊度、単繊維繊度)
JIS L 1013:2010 8.3.1 A法に基づき、株式会社大栄科学精器製作所製検尺器「Wrap Reel by Motor Driven」を用いて液晶ポリエステル繊維を1周1m×100周(計100m)のカセに巻き、その重量(g)を100倍して1水準当たり2回の測定を行い、その平均値を、得られた液晶ポリエステル繊維の総繊度(dtex)とした。また、この値をフィラメント本数で除した商を単繊維繊度(dtex)とした。
【0115】
(強度)
JIS L 1013:2010 8.5.1を参考に、株式会社島津製作所製オートグラフ「AGS-100B」を用いて、試験長10cm、引張速度10cm/分の条件で、糸条1サンプルにつき6回の引張試験を行い、その平均引張強力(cN)を上述の方法で測定した総繊度(dtex)で割り、強度(cN/dtex)を算出した。
【0116】
(COガス発生量)
液晶ポリエステル樹脂組成物チップまたは液晶ポリエステル繊維を加熱した際のCOガス発生量を、熱分解GC-BID法にて評価した。具体的には、まず液晶ポリエステル樹脂組成物チップまたは液晶ポリエステル繊維をd90=100μm以下になるまで凍結粉砕し分析用試料とした。これを試料導入部にパイロライザー、ガス検知器にBID(誘電体バリア放電イオン化検出器)を備えたGC(ガスクロマトグラフ)装置を用いて、300℃で10分間処理し生じたガスからCOを分離検出し定量した。測定は同一試料に対して3回行い、平均値をその試料からのCOガス発生量(mmol/kg)とした。
【0117】
(樹脂組成物の発泡性評価)
離型フィルムとして用意したポリイミドフィルム(宇部興産株式会社製、ユーピレックス-S、125S)の上に、1辺10cmの正方形状の穴が開いた、厚さ1mmのSUS304金属板を乗せ、正方形の穴の部分に液晶ポリエステル樹脂組成物チップ12~15gをなるべく均等に広げたのち、2枚目のポリイミドフィルム(同上)を金属板の上に乗せた。これを平板加熱プレス装置で、圧力0.1MPa以下で上下から挟みこみ、液晶ポリエステルの融点+20℃で5分間接触加熱した。その後、2MPaの圧力を1分間かけた後、大気開放して100℃以下まで冷却することで、外観評価用試料である液晶ポリエステル樹脂板を得た。この外観評価用試料の中央、一辺6cmの正方形の領域の表裏をルーペで観察し、長径1mm以上の気泡の数をカウントした。
【0118】
(繊維の発泡性評価)
丸編機(丸善産業株式会社製、MR-1、径10cm、28ゲージ)を用いて液晶ポリエステル繊維のニット生地を作製した。この生地を一辺10cmの正方形に裁断したものを3枚重ねた状態のものを用意した。一方、離型フィルムとして用意したポリイミドフィルム(宇部興産株式会社製、ユーピレックス-S、125S)の上に、1辺10cmの正方形状の穴が開いた、厚さ1mmのSUS304金属板を乗せ、正方形の穴の部分に上述の3枚重ねのニット生地を収めたのち、2枚目のポリイミドフィルム(同上)を金属板の上に乗せた。これを平板加熱プレス装置で、圧力0.1MPa以下で上下から挟みこみ、液晶ポリエステル繊維の融点+20℃で5分間接触加熱した。その後、2MPaの圧力を1分間かけた後、大気開放して100℃以下まで冷却することで、外観評価用試料である液晶ポリエステル繊維由来樹脂板を得た。この外観評価用試料の中央、一辺6cmの正方形の領域の表裏をルーペで観察し、長径1mm以上の気泡の数をカウントした。
【0119】
(押出機内滞留時間の測定方法)
顔料で着色した樹脂を押出機に投入して押出機先端から色付き樹脂が出てくるまでの時間を測定して決定した。すなわち、各実施例及び比較例において使用する樹脂組成物に対して、黒鉛粉末(アズワン株式会社製、AT-No.20-0.5、粒子径5-11μm)を5重量%混合して液晶ポリエステルの融点+20℃のヒーター温度で溶融混練押出後カットした樹脂(着色樹脂)をまず作製した。次に、各実施例及び比較例において使用する押出機の先端をギアポンプを介して3mmのダイスに付け替えた装置で、各実施例及び比較例に記載した使用樹脂組成物、溶融押出温度、吐出量で定常的な溶融押出を行い、ここに少量の着色樹脂を投入してからダイスから着色樹脂が出てくるまでの時間を計測して樹脂組成物の押出機内滞留時間とした。吐出される着色樹脂は淡→濃→淡と色合いの増減があるため、目視で確認した最も濃い時点を吐出時間とした。
着色樹脂の投入量は、色の変化が確認できるだけの量を適当に投入すればよいが、あまり多いと定常的な溶融押出ができなくなるため、非着色樹脂の6秒あたりの吐出量(28g/分なら2.8g)より少ない量を用いるのがよい。
【0120】
[参考例1]
反応容器に、4-ヒドロキシ安息香酸73mol部、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸27mol部、および無水酢酸105mol部を投入した。
その後、窒素雰囲気下で25℃から160℃まで2℃/分で昇温し、温度を維持しつつ2時間還流をすることでアセチル化を行った。
その後、310℃まで2℃/分で昇温し、1時間保持し、続いて温度を維持しつつ1時間減圧処理(100Pa)をすることで溶融重合を行った。
その後、温度を310℃に維持したまま反応容器内を窒素でおよそ0.02~0.5MPaに加圧し、反応容器下部に設けられた吐出口より試料を棒状に吐出し、冷却水中で冷却して、長径5mm以下になるよう回転カッターでカットした。
これにより、下記式で示した構成単位(A)と(B)が(A)/(B)=73/27(mol比)であり、アルカリ金属、アルカリ土類金属の含有率が合計10重量ppm以下である液晶ポリエステル樹脂(α)(Mp:281℃)を得た。
【0121】
【化8】
【0122】
[参考例2]
反応容器に、4-ヒドロキシ安息香酸65mol部、テレフタル酸10mol部、イソフタル酸5mol部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル20mol部および無水酢酸105mol部を投入した。
その後、窒素雰囲気下で25℃から160℃まで2℃/分で昇温し、温度を維持しつつ2時間還流をすることでアセチル化を行った。
その後、350℃まで2℃/分で昇温し、1時間保持し、続いて温度を維持しつつ30分減圧処理(100Pa)をすることで溶融重合を行った。
その後、温度を350℃に維持したまま反応容器内を窒素でおよそ0.02~0.5MPaに加圧し、反応容器下部に設けられた吐出口より試料を棒状に吐出し、冷却水中で冷却して、長径5mm以下になるよう回転カッターでカットした。
これにより、下記式で示した各構成単位が(A)/(C)/(D)/(E)=65/10/5/20(mol比)であり、アルカリ金属、アルカリ土類金属の含有率が合計10重量ppm以下である液晶ポリエステル樹脂(β)(Mp:348℃)を得た。
【0123】
【化9】
【0124】
[参考例3]
反応容器に、4-ヒドロキシ安息香酸54mol部、テレフタル酸15mol部、イソフタル酸8mol部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル16mol部、ヒドロキノン7.7mol部(重合中の昇華を念頭に0.7mol部過剰に使用)、および無水酢酸105mol部を投入した。
その後、窒素雰囲気下で25℃から160℃まで2℃/分で昇温し、温度を維持しつつ2時間還流をすることでアセチル化を行った。
その後、350℃まで2℃/分で昇温し、1時間保持し、続いて温度を維持しつつ30分減圧処理(100Pa)をすることで溶融重合を行った。
その後、温度を350℃に維持したまま反応容器内を窒素でおよそ0.02~0.5MPaに加圧し、反応容器下部に設けられた吐出口より試料を棒状に吐出し、冷却水中で冷却して、長径5mm以下になるよう回転カッターでカットした。
これにより、下記式で示した各構成単位が(A)/(C)/(D)/(E)/(F)=54/15/8/16/7(mol比)であり、アルカリ金属、アルカリ土類金属の含有率が合計10重量ppm以下である液晶ポリエステル樹脂(γ)(Mp:315℃)を得た。
【0125】
【化10】
【0126】
[実施例1-1]
参考例1で得られた液晶ポリエステル樹脂(α)のチップ(粒状成型体)に対して、脱炭酸触媒として酢酸銅(I)(富士フイルムワコーケミカル株式会社製、融点271℃)粉末を銅原子換算で50重量ppm(樹脂チップおよび触媒の合計量に対する銅元素含有量)になるように加え、振とう装置でよく混ぜた。こうして得た樹脂チップと触媒のブレンド物を120℃で4時間以上熱風乾燥させたのち、Φ15mm二軸押出機(株式会社テクノベル製、「KZW15TW-45MG-NH(-700)」)にて、ヒーター温度300℃で溶融混練し、ギアポンプで計量しつつ先端ダイスに溶融混練物を供給した。このとき二軸押出機の途中のベント部より金属管を介して減圧ポンプ(オリオン機械株式会社製ドライポンプ、「KRF40A-V-01B」)を接続し、二軸押出機内の樹脂組成物非充満空間を60kPaまで減圧を行った。着色樹脂を用いて別途測定した、この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。またこのときの押出機出口から先端ダイスの温度は310℃とした。先端ダイスではφ3mmの円形孔から吐出量28g/分で樹脂が棒状に吐出され、巻き取り速度5m/分でこれを引き取りつつ、長径5mm以下になるよう回転カッターで棒状樹脂組成物をカットすることで樹脂組成物チップを得た。こうして得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0127】
[実施例1-2]
ヨウ化銅(I)(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬特級)と、ヨウ化銅(I)と等モル量の1,10-フェナントロリン(富士フイルムワコーケミカル社製)の2種類の試薬を、ヨウ化銅(I)1モルに対し5Lのアセトニトリル(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬特級)に加え、懸濁液の状態で攪拌を1時間行ったのち、ろ過し、100℃で3時間乾燥を行い、橙色の固体(融点300℃)を得た。
この固体を酢酸銅(I)の代わりの脱炭酸触媒として、銅原子換算で50重量ppmになるように使用した以外は実施例1-1と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0128】
[実施例1-3]
酢酸銅(I)の代わりの脱炭酸触媒として酢酸銅(II)(富士フイルム和光純薬株式会社製、和光一級、融点115℃)を銅原子換算で50重量ppmになるように加えた以外は実施例1-1と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0129】
[実施例1-4]
硫酸銅(II)五水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬特級)と、硫酸銅(II)五水和物に対し2倍モル量の1,10-フェナントロリン(富士フイルムワコーケミカル社製)の2種類の試薬を、硫酸銅(II)五水和物1モルに対し5Lのアセトニトリル(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬特級)に加え、懸濁液の状態で攪拌を1時間行ったのち、ろ過し、100℃で3時間乾燥を行い、青色の固体(融点294℃)を得た。
この固体を酢酸銅(I)の代わりの脱炭酸触媒として、銅原子換算で50重量ppmになるように使用した以外は実施例1-1と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0130】
[実施例1-5]
酢酸銅(I)の代わりの脱炭酸触媒として酢酸コバルト(II)四水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製、和光特級、融点194℃)をコバルト原子換算で500重量ppmになるように加えた以外は実施例1-1と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0131】
[実施例1-6]
酢酸銅(I)の代わりの脱炭酸触媒として酢酸パラジウム(II)(富士フイルム和光純薬株式会社製、和光特級、融点205℃)をパラジウム原子換算で500重量ppmになるように加えた以外は実施例1-1と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0132】
[実施例1-7]
橙色の固体(ヨウ化銅(I)、1,10-フェナントロリン)を樹脂に加える重量比率を銅原子換算で5重量ppmにした以外は実施例1-2と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0133】
[実施例1-8]
橙色の固体(ヨウ化銅(I)、1,10-フェナントロリン)を樹脂に加える重量比率を銅原子換算で500重量ppmにした以外は実施例1-2と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0134】
[実施例1-9]
吐出量11.0g/分で樹脂組成物を吐出したこと以外は実施例1-1と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は12分から13分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0135】
[実施例1-10]
液晶ポリエステル樹脂(α)ではなく、参考例2で得られた液晶ポリエステル樹脂(β)を使用し、溶融押出を行う際の押出機ヒーター温度を360℃、押出機出口から先端ダイスの温度を360℃とした以外は、実施例1-1と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0136】
[実施例1-11]
液晶ポリエステル樹脂(α)ではなく、参考例3で得られた液晶ポリエステル樹脂(γ)を使用し、溶融押出を行う際の押出機ヒーター温度を340℃、押出機出口から先端ダイスの温度を350℃とした以外は、実施例1-1と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0137】
[実施例1-12]
橙色の固体(ヨウ化銅(I)、1,10-フェナントロリン)を樹脂に加える重量比率を銅原子換算で10重量ppmにした以外は実施例1-2と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0138】
[実施例1-13]
橙色の固体(ヨウ化銅(I)、1,10-フェナントロリン)を樹脂に加える重量比率を銅原子換算で20重量ppmにした以外は実施例1-2と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0139】
[実施例1-14]
橙色の固体(ヨウ化銅(I)、1,10-フェナントロリン)を樹脂に加える重量比率を銅原子換算で30重量ppmにした以外は実施例1-2と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0140】
[実施例1-15]
橙色の固体(ヨウ化銅(I)、1,10-フェナントロリン)を樹脂に加える重量比率を銅原子換算で70重量ppmにした以外は実施例1-2と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0141】
[実施例1-16]
橙色の固体(ヨウ化銅(I)、1,10-フェナントロリン)を樹脂に加える重量比率を銅原子換算で100重量ppmにした以外は実施例1-2と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0142】
[実施例1-17]
橙色の固体(ヨウ化銅(I)、1,10-フェナントロリン)を樹脂に加える重量比率を銅原子換算で150重量ppmにした以外は実施例1-2と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0143】
[比較例1-1]
脱炭酸触媒を添加しなかった以外は実施例1-1と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0144】
[比較例1-2]
酢酸銅(I)の代わりの触媒として酢酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬特級)をカリウム原子換算で50重量ppmになるように加えた以外は実施例1-1と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0145】
[比較例1-3]
酢酸銅(I)の代わりの触媒としてN,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)(富士フイルム和光純薬株式会社製、和光特級)を重量比1wt%で加えた以外は実施例1-1と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0146】
[比較例1-4]
酢酸銅(I)の代わりの触媒として酢酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬特級)をカリウム原子換算で50重量ppmになるように加えた以外は実施例1-10と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0147】
[比較例1-5]
酢酸銅(I)の代わりの触媒として酢酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬特級)をカリウム原子換算で50重量ppmになるように加えた以外は実施例1-11と同様にして液晶ポリエステル樹脂組成物チップを得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル樹脂組成物チップの分析結果を表5に示す。
【0148】
【表5】
【0149】
表5に示すように、実施例1-1~1-17では、特定の金属元素を含んでいるため、その触媒作用により、脱炭酸反応を促進させることができ、全CEG量を低減できている。そのため、実施例1-1~1-17の液晶ポリエステル組成物は、ガス発生量を抑制できており、それを用いて製造した樹脂板は気泡の発生を抑制できている。
【0150】
一方、比較例1-1の液晶ポリエステル樹脂組成物は、触媒を含有していないため、脱炭酸反応が進行しておらず、全CEG量が大きい。そのため、比較例1-1の液晶ポリエステル樹脂組成物は、特定の金属元素を含有する触媒を添加した実施例1-1~1-17と比較して、3倍以上多くのCOガスが発生し、それを用いて製造した樹脂板においても気泡がこれらの実施例と比較して多く生じている。
【0151】
比較例1-3では、液晶ポリエステルを合成する重合触媒として使用されている有機触媒を、比較例1-2、1-4および1-5では、同様に重合触媒として使用されているアルカリ金属を含有しているが、脱炭酸反応に対する触媒作用を有していないため、いずれの液晶ポリエステル樹脂組成物も全CEG量が大きい。そのため、比較例1-2~1-5の液晶ポリエステル樹脂組成物は、特定の金属元素を含有する脱炭酸触媒を添加した実施例1-1~1-17と比較して、3倍以上多くのCOガスが発生し、それを用いて製造した樹脂板においても気泡がこれらの実施例と比較して多く生じている。
【0152】
[実施例2-1]
参考例1で得られた液晶ポリエステル樹脂(α)のチップ(粒状成型体)に対して、脱炭酸触媒として酢酸銅(I)(富士フイルムワコーケミカル株式会社製、融点271℃)粉末を銅原子換算で50重量ppm(樹脂チップおよび触媒の合計量に対する銅元素含有量)になるように加え、振とう装置でよく混ぜた。こうして得た樹脂チップと触媒のブレンド物を120℃で4時間以上熱風乾燥させたのち、Φ15mm二軸押出機(株式会社テクノベル製、「KZW15TW-45MG-NH(-700)」)にて、ヒーター温度300℃で溶融混練し、ギアポンプで計量しつつ紡糸頭に溶融混練物を供給した。このとき二軸押出機の途中のベント部より金属管を介して減圧ポンプ(オリオン機械株式会社製ドライポンプ、「KRF40A-V-01B」)を接続し、二軸押出機内の樹脂組成物非充満空間を60kPaまで減圧を行った。着色樹脂を用いて別途測定した、この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。またこのときの押出機出口から紡糸頭の温度は310℃とした。紡糸頭には孔径0.125mmφ、ランド長0.175mm、孔数50個の紡糸口金を備え、吐出量28g/分で樹脂組成物を吐出し、巻き取り速度1000m/分でボビンに巻き取り液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この際、紡糸口金直下に配置したオイリングガイドから、2重量%のドデシルリン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬工業株式会社製、和光一級)水溶液を紡糸原糸に付与した。この水溶液の付与量は1.4g/分であり、紡糸原糸に対するドデシルリン酸ナトリウムの付着比率は計算上0.1重量%であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0153】
[実施例2-2]
実施例1-2に記載の橙色の固体(ヨウ化銅(I)、1,10-フェナントロリン、融点300℃)を酢酸銅(I)の代わりの脱炭酸触媒として、銅原子換算で50重量ppmになるように使用した以外は実施例2-1と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0154】
[実施例2-3]
酢酸銅(I)の代わりの脱炭酸触媒として酢酸銅(II)(富士フイルム和光純薬株式会社製、和光一級、融点115℃)を銅原子換算で50重量ppmになるように加えた以外は実施例2-1と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0155】
[実施例2-4]
実施例1-4に記載の青色の固体(硫酸銅(II)、1,10-フェナントロリン、融点294℃)を酢酸銅(I)の代わりの脱炭酸触媒として、銅原子換算で50重量ppmになるように使用した以外は実施例2-1と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0156】
[実施例2-5]
酢酸銅(I)の代わりの脱炭酸触媒として酢酸コバルト(II)四水和物(富士フイルム和光純薬株式会社製、和光特級、融点194℃)をコバルト原子換算で500重量ppmになるように加えた以外は実施例2-1と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0157】
[実施例2-6]
酢酸銅(I)の代わりの脱炭酸触媒として酢酸パラジウム(II)(富士フイルム和光純薬株式会社製、和光特級、融点205℃)をパラジウム原子換算で500重量ppmになるように加えた以外は実施例2-1と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0158】
[実施例2-7]
橙色の固体(ヨウ化銅(I)、1,10-フェナントロリン)を樹脂に加える重量比率を銅原子換算で5重量ppmにした以外は実施例2-2と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0159】
[実施例2-8]
橙色の固体(ヨウ化銅(I)、1,10-フェナントロリン)を樹脂に加える重量比率を銅原子換算で500重量ppmにした以外は実施例2-2と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0160】
[実施例2-9]
参考例1で得られた液晶ポリエステル樹脂(α)のチップ(粒状成型体)に対して、脱炭酸触媒として酢酸銅(I)(富士フイルムワコーケミカル株式会社製、融点271℃)粉末を銅原子換算で500重量ppmになるように加え、振とう装置でよく混ぜた。こうして得た樹脂チップと重合触媒のブレンド物を120℃で4時間以上熱風乾燥させたのち、Φ15mm二軸押出機(株式会社テクノベル製、「KZW15TW-45MG-NH(-700)」)にてヒーター温度300℃で溶融押出を行い、ギアポンプで計量しつつ先端ダイスに樹脂組成物を供給した。このとき二軸押出機の途中のベント部より金属管を介して減圧ポンプ(オリオン機械株式会社製ドライポンプ、「KRF40A-V-01B」)を接続し、二軸押出機内の樹脂組成物非充満空間を60kPaまで減圧を行った。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。またこのときの押出機出口から先端ダイスの温度は310℃とした。先端ダイスではφ3mmの円形孔から吐出量28g/分で樹脂が棒状に吐出され、巻き取り速度5m/分でこれを引き取りつつ、長径5mm以下になるよう回転カッターで棒状樹脂組成物をカットすることで樹脂組成物チップを得た。
こうして得た樹脂組成物チップ(銅元素500重量ppm相当混合)と、液晶ポリエステル樹脂(α)のチップとを、重量比1:9で混合し、振とう装置でよく混ぜ、120℃で4時間以上熱風乾燥させた。こうして得た2種類のチップのブレンド品を、Φ15mm二軸押出機(株式会社テクノベル製、「KZW15TW-45MG-NH(-700)」)にてヒーター温度300℃で溶融押出を行い、ギアポンプで計量しつつ紡糸頭に樹脂組成物を供給した。このとき二軸押出機の途中のベント部より金属管を介して減圧ポンプ(オリオン機械株式会社製ドライポンプ、「KRF40A-V-01B」)を接続し、二軸押出機内の樹脂組成物非充満空間を60kPaまで減圧を行った。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。またこのときの押出機出口から紡糸頭の温度は310℃とした。紡糸頭には孔径0.125mmφ、ランド長0.175mm、孔数50個の紡糸口金を備え、吐出量28g/分で樹脂組成物を吐出し、巻き取り速度1000m/分でボビンに巻き取り液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この際、紡糸口金直下に配置したオイリングガイドから、2重量%のドデシルリン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬工業株式会社製、和光一級)水溶液を紡糸原糸に付与した。この水溶液の付与量は1.4g/分であり、紡糸原糸に対するドデシルリン酸ナトリウムの付着比率は計算上0.1重量%であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0161】
[実施例2-10]
孔径0.100mmφ、ランド長0.140mm、孔数100個の紡糸口金を用いたこと以外は実施例2-1と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0162】
[実施例2-11]
孔径0.150mmφ、ランド長0.210mm、孔数20個の紡糸口金を用いたこと以外は実施例2-1と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0163】
[実施例2-12]
孔径0.125mmφ、ランド長0.175mm、孔数20個の紡糸口金を用いたこと、吐出量11.0g/分で樹脂組成物を吐出したこと、およびオイリングガイドからのドデシルリン酸ナトリウム水溶液の付与量を0.55g/分にしたこと以外は実施例2-1と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は12分から13分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0164】
[実施例2-13]
液晶ポリエステル樹脂(α)ではなく、参考例2で得られた液晶ポリエステル樹脂(β)を使用し、溶融押出を行う際の押出機ヒーター温度を360℃、押出機出口から紡糸頭の温度を360℃とした以外は、実施例2-1と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0165】
[実施例2-14]
液晶ポリエステル樹脂(α)ではなく、参考例3で得られた液晶ポリエステル樹脂(γ)を使用し、溶融押出を行う際の押出機ヒーター温度を340℃、押出機出口から紡糸頭の温度を350℃とした以外は、実施例2-1と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0166】
[実施例2-15]
橙色の固体(ヨウ化銅(I)、1,10-フェナントロリン)を樹脂に加える重量比率を銅原子換算で10重量ppmにした以外は実施例2-2と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0167】
[実施例2-16]
橙色の固体(ヨウ化銅(I)、1,10-フェナントロリン)を樹脂に加える重量比率を銅原子換算で20重量ppmにした以外は実施例2-2と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0168】
[実施例2-17]
橙色の固体(ヨウ化銅(I)、1,10-フェナントロリン)を樹脂に加える重量比率を銅原子換算で30重量ppmにした以外は実施例2-2と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0169】
[実施例2-18]
橙色の固体(ヨウ化銅(I)、1,10-フェナントロリン)を樹脂に加える重量比率を銅原子換算で70重量ppmにした以外は実施例2-2と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0170】
[実施例2-19]
橙色の固体(ヨウ化銅(I)、1,10-フェナントロリン)を樹脂に加える重量比率を銅原子換算で100重量ppmにした以外は実施例2-2と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0171】
[実施例2-20]
橙色の固体(ヨウ化銅(I)、1,10-フェナントロリン)を樹脂に加える重量比率を銅原子換算で150重量ppmにした以外は実施例2-2と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0172】
[比較例2-1]
脱炭酸触媒を添加しなかった以外は実施例2-1と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0173】
[比較例2-2]
酢酸銅(I)の代わりの触媒として酢酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬特級)をカリウム原子換算で50重量ppmになるように加えた以外は実施例2-1と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0174】
[比較例2-3]
酢酸銅(I)の代わりの触媒としてN,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)(富士フイルム和光純薬株式会社製、和光特級)を重量比1wt%で加えた以外は実施例2-1と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0175】
[比較例2-4]
酢酸銅(I)の代わりの触媒として酢酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬特級)をカリウム原子換算で50重量ppmになるように加えた以外は実施例2-13と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0176】
[比較例2-5]
酢酸銅(I)の代わりの触媒として酢酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬特級)をカリウム原子換算で50重量ppmになるように加えた以外は実施例2-14と同様にして液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)を得た。この溶融押出条件における樹脂組成物の押出機内滞留時間は5分から6分であった。得られた液晶ポリエステル繊維の分析結果を表6に示す。
【0177】
【表6】
【0178】
表6に示すように、実施例2-1~2-20では、特定の金属元素を含んでいるため、その触媒作用により、脱炭酸反応を促進させることができ、全CEG量を低減できている。そのため、実施例2-1~2-20の液晶ポリエステル繊維は、ガス発生量を抑制できており、それを用いて製造した樹脂板は気泡の発生を抑制できている。
【0179】
一方、比較例2-1の液晶ポリエステル繊維は、触媒を含有していないため、脱炭酸反応が進行しておらず、全CEG量が大きい。そのため、比較例2-1の液晶ポリエステル繊維は、特定の金属元素を含有する触媒を添加した実施例2-1~2-20と比較して、3倍以上多くのCOガスが発生し、それを用いて製造した樹脂板においても気泡がこれらの実施例と比較して多く生じている。
【0180】
比較例2-3では、液晶ポリエステルを合成する重合触媒として使用されている有機触媒を、比較例2-2、2-4および2-5では、同様に重合触媒として使用されているアルカリ金属を含有しているが、脱炭酸反応に対する触媒作用を有していないため、いずれの液晶ポリエステル繊維も全CEG量が大きい。そのため、比較例2-2~2-5の液晶ポリエステル繊維は、特定の金属元素を含有する脱炭酸触媒を添加した実施例2-1~2-20と比較して、3倍以上多くのCOガスが発生し、それを用いて製造した樹脂板においても気泡がこれらの実施例と比較して多く生じている。
【産業上の利用可能性】
【0181】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、加熱時のガスの発生を抑制することができるため、溶融成形により、気泡の少ない品質の良好な成形体を製造することができる。溶融成形体としては、立体的形状を有する成形体、シート、フィルム、繊維等の各種形状を有する成形体が挙げられ、得られる成形体は制振性に優れるため、例えば、ダクトチューブや自動車のバンパーなどのように振動が発生する用途に有効である。
【0182】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、加熱時のガスの発生を抑制することができるため、成形体(例えば、繊維強化複合材)を製造するための融着繊維として使用することができる。
【0183】
以上のとおり、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。