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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-24
(45)【発行日】2024-11-01
(54)【発明の名称】水硬性組成物の硬化体
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20241025BHJP
   C04B 16/02 20060101ALI20241025BHJP
   C04B 16/06 20060101ALI20241025BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20241025BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20241025BHJP
   E04C 2/04 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B16/02
C04B16/06
C04B18/14
C04B22/06
E04C2/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2024552174
(86)(22)【出願日】2024-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2024016276
【審査請求日】2024-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2023074534
(32)【優先日】2023-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】今川 彰
(72)【発明者】
【氏名】勝谷 郷史
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/004640(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/004643(WO,A1)
【文献】特開昭62-226875(JP,A)
【文献】特開2001-039754(JP,A)
【文献】特開平02-192442(JP,A)
【文献】特開昭54-139636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 28/02
C04B 16/02
C04B 16/06
C04B 18/14
C04B 22/06
E04C 2/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性組成物の硬化体であって、
硬化体は、耐アルカリ性繊維、カルシウムシリケートおよびカルシウムアルミネートを含み、
水銀圧入法によって求めた硬化体の細孔径分布における6~10nmの範囲の細孔容積に対する11~300000nmの範囲の細孔容積の比は、14以下である、硬化体。
【請求項2】
粉末X線回折により測定される酸化カルシウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムの結晶の合計含有率は、繊維成分を除いた硬化体の質量に対して15質量%以下である、請求項1に記載の硬化体。
【請求項3】
耐アルカリ性繊維の平均繊維径は3~900μmである、請求項1に記載の硬化体。
【請求項4】
耐アルカリ性繊維のアスペクト比は30~2500である、請求項1に記載の硬化体。
【請求項5】
耐アルカリ性繊維の引張強度は5cN/dtex以上である、請求項1に記載の硬化体。
【請求項6】
耐アルカリ性繊維は、ポリビニルアルコール系繊維、ポリプロピレン繊維およびポリエチレン繊維からなる群から選択される1種以上の繊維である、請求項1に記載の硬化体。
【請求項7】
水硬性組成物は、水硬性組成物の全固形分に対して、8~72質量%のセメント、72~18質量%のスラグ、0.5~12質量%の消石灰、および0.1~5質量%の耐アルカリ性繊維を含んでなる、請求項1に記載の硬化体。
【請求項8】
消石灰の平均粒径は3~600μmである、請求項7に記載の硬化体。
【請求項9】
硬化体の質量に対して0.1~10質量%のパルプを更に含む、請求項1に記載の硬化体。
【請求項10】
硬化体はパルプを含まず、JIS A 5430:2018に準拠して求めた硬化体の吸水率は1~25%である、請求項1に記載の硬化体。
【請求項11】
JIS A 5430:2018に準拠して求めた硬化体の吸水率は5~40%である、請求項9に記載の硬化体。
【請求項12】
水銀圧入法によって求めた硬化体の細孔径分布における6~10nmの範囲の細孔容積は0.05mL/g以上である、請求項1に記載の硬化体。
【請求項13】
水銀圧入法によって求めた硬化体の細孔径分布における11~300000nmの範囲の細孔容積は0.3~3.0mL/gである、請求項1に記載の硬化体。
【請求項14】
請求項1に記載の硬化体を含んでなる建材ボード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、日本国特許出願第2023-74534号(2023年4月28日出願)に基づくパリ条約上の優先権を主張するものであり、ここに引用することによって、上記出願に記載された内容の全体が、本明細書中に組み込まれるものとする。
本発明は、水硬性組成物の硬化体、および該硬化体を含んでなる建材ボードに関する。
【背景技術】
【0002】
セメントを含む水硬性組成物は、汎用性の高い材料ではあるものの、セメントの製造過程では多量の二酸化炭素が発生することから、気候変動への影響を低減するため、土木建築分野においてもセメントの使用量の削減が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セメントを全く使用しない結合材として、高炉スラグ微粉末、消石灰、必要に応じてフライアッシュまたはシリカヒュームを用い、この結合材に、ポリカルボン酸系等の高性能AE減水剤を必要に応じてカルシウムイオン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン、アルカリ金属イオン等の複数の無機化合物を主成分とした水溶性の混和剤および清水を配合したことを特徴とする、セメントを用いない硬化組成物が記載されている。
特許文献2には、高炉スラグ、石膏、アルカリ材、補強繊維、無機混和材を含むスラリーを脱水し、形成されたマットの硬化体である無機質板であって、セメント含有量を0~11質量%に抑えつつ、建築板に好適な無機質板が記載されている。
また、特許文献3には、アルミノケイ酸塩源としての特定量の特定の高炉スラグ、アルカリ性の金属水酸化物、セルロース系繊維および耐アルカリ性繊維を含む硬化性組成物から形成される成形板を2枚以上含んでなる積層成形板が記載されている。
更に、特許文献4には、アルミノケイ酸塩源としての特定量の高炉スラグ、アルカリ活性剤および耐アルカリ性繊維を含む硬化性組成物の硬化体であって、特定の含水率を有する硬化体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-171855
【文献】特開2013-216534
【文献】国際公開2022/004640号
【文献】国際公開2022/004643号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、寸法安定性および低吸水性を維持しつつ、より高い曲げ強さ、および耐衝撃性を有する硬化体は、なお求められている。
そこで、本発明では、高い耐衝撃性、高い寸法安定性、低い吸水性、および高い曲げ強さを有する、水硬性組成物の硬化体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、以下の好適な実施形態を包含する。
[1]水硬性組成物の硬化体であって、
硬化体は、耐アルカリ性繊維、カルシウムシリケートおよびカルシウムアルミネートを含み、
水銀圧入法によって求めた硬化体の細孔径分布における6~10nmの範囲の細孔容積に対する11~300000nmの範囲の細孔容積の比は、14以下である、硬化体。
[2]粉末X線回折により測定される酸化カルシウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムの結晶の合計含有率は、繊維成分を除いた硬化体の質量に対して15質量%以下である、[1]に記載の硬化体。
[3]耐アルカリ性繊維の平均繊維径は3~900μmである、[1]または[2]に記載の硬化体。
[4]耐アルカリ性繊維のアスペクト比は30~2500である、[1]~[3]のいずれかに記載の硬化体。
[5]耐アルカリ性繊維の引張強度は5cN/dtex以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の硬化体。
[6]耐アルカリ性繊維は、ポリビニルアルコール系繊維、ポリプロピレン繊維およびポリエチレン繊維からなる群から選択される1種以上の繊維である、[1]~[5]のいずれかに記載の硬化体。
[7]水硬性組成物は、水硬性組成物の全固形分に対して、8~72質量%のセメント、72~18質量%のスラグ、0.5~12質量%の消石灰、および0.1~5質量%の耐アルカリ性繊維を含んでなる、[1]~[6]のいずれかに記載の硬化体。
[8]消石灰の平均粒径は3~600μmである、[7]に記載の硬化体。
[9]硬化体の質量に対して0.1~10質量%のパルプを更に含む、[1]~[8]のいずれかに記載の硬化体。
[10]硬化体はパルプを含まず、JIS A 5430:2018に準拠して求めた硬化体の吸水率は1~25%である、[1]~[8]のいずれかに記載の硬化体。
[11]JIS A 5430:2018に準拠して求めた硬化体の吸水率は5~40%である、[9]に記載の硬化体。
[12]水銀圧入法によって求めた硬化体の細孔径分布における6~10nmの範囲の細孔容積は0.05mL/g以上である、[1]~[11]のいずれかに記載の硬化体。
[13]水銀圧入法によって求めた硬化体の細孔径分布における11~300000nmの範囲の細孔容積は0.3~3.0mL/gである、[1]~[12]のいずれかに記載の硬化体。
[14][1]~[13]のいずれかに記載の硬化体を含んでなる建材ボード。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高い耐衝撃性、高い寸法安定性、低い吸水性、および高い曲げ強さを有する、水硬性組成物の硬化体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0009】
[硬化体]
本発明の硬化体は、水硬性組成物の硬化体であって、硬化体は、耐アルカリ性繊維、カルシウムシリケートおよびカルシウムアルミネートを含み、水銀圧入法によって求めた硬化体の細孔径分布における6~10nmの範囲の細孔容積(A)に対する11~300000nmの範囲の細孔容積(B)の比(B)/(A)は、14以下である。
【0010】
本発明の硬化体が、高い耐衝撃性、高い寸法安定性、低い吸水性、および高い曲げ強さを有する理由は明らかではないが、下記作用機構が推定される。本発明の硬化体は、例えば、セメント、スラグ、消石灰および耐アルカリ性繊維を含んでなる水硬性組成物を硬化させることにより製造できる。その硬化の過程で、セメントの水和反応が起こるだけでなく、スラグに含まれているケイ素およびアルミニウムが消石灰と反応する。その反応は通常のジオポリマー様の硬化反応とは異なり、主にスラグの表面で進行するため、必要なカルシウムの量はそれほど多くはない。また、その反応は比較的緩やかであって、微細で緻密な細孔が形成される。微細な細孔には、水分が浸透しにくい。加えて、微細な細孔は、繊維とマトリックスとの接着を阻害しにくいため、繊維による補強効果が低下しにくく、結果として、硬化体は高い強度および耐衝撃性を発現できる。更に、大量のカルシウムを必要とすることなくスラグ表面での反応が進むため、使用するセメントおよび消石灰の量を抑えることができ、比較的大きな細孔が形成されにくくなる。その結果、本発明の硬化体は、高い耐衝撃性、高い寸法安定性、低い吸水性、および高い曲げ強さを有するものと推定される。ただし、上記は推定であり、本発明はこの作用機構に限定されない。
【0011】
カルシウムシリケートおよびカルシウムアルミネートは、セメントおよびスラグを含んでなる水硬性組成物の硬化が進行することにより生じ、通常は水和物、即ち、それぞれカルシウムシリケート水和物(ケイ酸カルシウム水和物)およびカルシウムアルミネート水和物(アルミン酸カルシウム水和物)として硬化体に含まれる。
【0012】
硬化体に結晶として含まれるカルシウムシリケートおよびカルシウムアルミネートの合計含有率は、繊維成分を除いた硬化体の質量に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、上限については、特に制限されるものではないが、50質量%以下であってもよいし、40質量%以下であってもよいし、30質量%以下であってもよいし、10質量%以下であってもよい。前記合計含有率は、繊維成分を除いた硬化体の質量に対して、好ましくは1~50質量%、より好ましくは2~40質量%、更に好ましくは3~10質量%である。前記合計含有率が前記下限値以上および前記上限値以下であるか、前記範囲内であると、硬化体がより高い曲げ強さを有することができる。前記合計含有率は、例えば、水硬性組成物におけるセメント、スラグおよび消石灰等の、ポゾラン反応性物質およびカルシウム源の量を調整することにより、前記下限値以上および前記上限値以下、または前記範囲内に調整できる。
前記合計含有率、後述する硬化体に結晶として含まれる酸化カルシウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムの各含有率、並びに後述する、硬化体に結晶として含まれる酸化カルシウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムの合計含有率は、粉末X線回折を用いて測定でき、例えば後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0013】
耐アルカリ性繊維は、硬化体の耐衝撃性および曲げ強さを高める作用を有する。更に、水硬性組成物の養生、乾燥過程で発生する可能性があるひび割れを抑制することで、硬化体の耐衝撃性および/または曲げ強さの低下を防ぐ作用を有する。
【0014】
耐アルカリ性繊維は、アルカリに対する化学的な耐久性を有する限り、無機繊維であっても有機繊維であってもよい。耐アルカリ性無機繊維の例としては、耐アルカリ性ガラス繊維、鋼繊維(スチールファイバー)、ステンレスファイバーおよび炭素繊維等を挙げることができる。耐アルカリ性有機繊維の例としては、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と称することがある)系繊維、ポリオレフィン系繊維(例えば、ポリエチレン繊維およびポリプロピレン繊維等)、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリアミド系繊維(ポリアミド6、ポリアミド6,6、およびポリアミド6,10等)、アラミド繊維(特にパラアラミド繊維)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール系繊維〔例えばポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維〕、ナイロン繊維、アクリル繊維、レーヨン系繊維(例えば、ポリノジック繊維および溶剤紡糸セルロース繊維等)、アセテート系繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維(PPS繊維)、並びにポリエーテルエーテルケトン繊維(PEEK繊維)等の各種耐アルカリ性繊維等を挙げることができる。これらの耐アルカリ性繊維は、単独で、または2種以上組み合わせて使用してよい。なお、本明細書において、耐アルカリ性繊維の種類が異なることは、例えばポリビニルアルコール系繊維とポリオレフィン系繊維のように繊維を構成する系の種類が異なることだけでなく、例えば重合度および/またはけん化度が異なるポリビニルアルコール系繊維のように繊維を構成する材料の物性が異なることも包含する。
【0015】
これらの繊維のうち、ポリビニルアルコール系繊維、ポリプロピレン繊維およびポリエチレン繊維が、硬化体に、より優れた補強性を付与でき、また、低コストで製造できる観点から好ましく使用される。従って、本発明の一実施形態においては、耐アルカリ性繊維は、ポリビニルアルコール系繊維、ポリプロピレン繊維およびポリエチレン繊維からなる群から選択される1種以上の繊維であることが好ましい。
【0016】
本発明の好ましい一実施形態において、耐アルカリ性繊維は、好ましくはポリビニルアルコール系繊維である。耐アルカリ性繊維がポリビニルアルコール系繊維であると、より高い耐衝撃性またはより高い曲げ強さ、特に高い曲げ強さを有する硬化体を得ることができる。その理由は明らかではなく、下記理由に限定されることを意図するものではないが、溶液紡糸により製造されるポリビニルアルコール系繊維は、繊維における樹脂の分子構造の絡まりが少ないことからフィブリル化しやすく、硬化体が破壊されるとき、その過程において、ポリビニルアルコール系繊維がフィブリル化することにより破壊エネルギーを吸収し、硬化体に耐衝撃性または曲げ強さ、特に曲げ強さをもたらすと考えられる。
【0017】
耐アルカリ性繊維の平均繊維径は、好ましくは3~900μm、より好ましくは4~300μm、更に好ましくは5~50μm、より更に好ましくは5~30μm、最も好ましくは8~25μmである。また、工法ごとの好ましい平均繊維径としては、骨材を用いない系では5~15μm、骨材を用いる系では15~40μmが好ましい。耐アルカリ性繊維の平均繊維径が前記範囲内であると、そのような耐アルカリ性繊維は、十分な繊維強度を兼ね備え、工業的に安定的に生産でき、また、水硬性組成物若しくは硬化体において繊維がより均一に分散できる。耐アルカリ性繊維の平均繊維径は、無作為に繊維を100本取り出し、それぞれの繊維の長さ方向の中央部における繊維径を光学顕微鏡により測定し、その平均値を計算することにより求めることができる。
【0018】
耐アルカリ性繊維の平均繊維長は、水硬性組成物中での繊維の良好な分散性と水硬性組成物の硬化後の良好な補強性との両立の観点から、好ましくは1~40mm、より好ましくは1.5~18mm、更に好ましくは2~10mmである。耐アルカリ性繊維の平均繊維長および後述する引張強度は、JIS L 1015:2010に準拠して求めることができる。
【0019】
耐アルカリ性繊維は、水硬性組成物中での繊維の良好な分散性と水硬性組成物の硬化後の良好な補強性との両立の観点から、そのアスペクト比は、好ましくは30~2500、より好ましくは50~1000、更に好ましくは200~600である。アスペクト比とは、繊維長と繊維径との比(繊維長/繊維径)を意味する。耐アルカリ性繊維のアスペクト比は、上述した平均繊維長および平均繊維径から算出できる。
【0020】
耐アルカリ性繊維の引張強度は、好ましくは5cN/dtex以上、より好ましくは8cN/dtex以上、更に好ましくは10cN/dtex以上、より更に好ましくは13cN/dtex以上である。耐アルカリ性繊維の引張強度が前記下限値以上であると、硬化体に対する補強性能を高くできる。耐アルカリ性繊維の引張強度の上限値は、繊維の種類に応じて適宜設定されるが、例えば、30cN/dtex以下、25cN/dtex以下、20cN/dtex以下であってもよい。前記引張強度は、好ましくは5~30cN/dtex、より好ましくは8~25cN/dtex、更に好ましくは10~20cN/dtex、より更に好ましくは13~20cN/dtexである。
【0021】
耐アルカリ性繊維としてPVA系繊維、例えばビニロン繊維を用いる場合、下記特性を有するPVA系繊維を用いてよい。PVA系繊維を構成するPVA系ポリマーの重合度は、目的に応じて適宜選択でき、特に限定されない。得られる繊維の機械的特性等を考慮すると、30℃水溶液の粘度から求めた、PVA系ポリマーの粘度平均重合度は、好ましくは500~20000程度、より好ましくは800~15000程度、更に好ましくは1000~10000程度である。このうち、得られる繊維の強度の観点から、PVA系ポリマーの粘度平均重合度は、好ましくは1000以上、より好ましくは1200以上、より好ましくは1500以上、特に好ましくは1750以上である。PVA系ポリマーは、粘度平均重合度1000以上3000未満の中重合度品であってもよいし、平均重合度3000以上の高重合度品であってもよい。
【0022】
PVA系ポリマーのけん化度も、目的に応じて適宜選択でき、特に限定されない。得られる繊維の力学的物性の観点から、PVA系ポリマーのけん化度は、例えば95モル%以上、好ましくは98モル%以上であってよい。PVA系ポリマーのけん化度は99モル%以上であってもよく、99.8モル%以上であってもよい。PVA系ポリマーのけん化度は、例えば95~100モル%、好ましくは98~100モル%(例えば99~100モル%または99.8モル%~100モル%未満)であってよい。PVA系ポリマーのけん化度が上記下限値以上または上記範囲内であると、得られる繊維がより良好な機械的特性、工程通過性および製造コスト等を有し得る。
【0023】
PVA系繊維は、このようなPVA系ポリマーを溶剤に溶解し、湿式、乾湿式または乾式のいずれかの方法により紡糸し、乾熱延伸することにより製造できる。湿式紡糸とは、紡糸ノズルから直接固化浴に紡糸原液を吐出する方法のことである。乾湿式紡糸とは、紡糸ノズルから一旦任意の距離の空気中または不活性ガス中に紡糸原液を吐出し、その後に固化浴に導入する方法のことである。乾式紡糸とは、空気中または不活性ガス中に紡糸原液を吐出する方法のことである。PVA系繊維には、紡糸後、必要に応じて延伸処理が行われてもよい。また、PVA系繊維で一般的に行われているアセタール化処理等が行われてもよい。
【0024】
PVA系繊維の紡糸原液に用いられる溶剤としては、PVAを溶解することが可能な溶剤であれば特に限定されない。例えば、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドおよび多価アルコール(例えば、グリセリン、エチレングリコールおよびトリエチレングリコール等)等の1種または2種以上を組み合わせて用いてよい。本発明では、湿式紡糸を行う場合、溶剤としては水または有機系の溶剤を用いることが好ましい。この中でも、供給容易性および環境負荷への影響の観点から、水およびDMSOが特に好ましい。紡糸原液中のポリマー濃度は、PVA系ポリマーの組成および重合度、並びに溶剤の種類によって異なるが、一般的には6~60質量%である。
【0025】
乾式紡糸でも、上記の溶剤を用いてよい。その場合、水を用いても、有機系の溶剤を用いてもよい。
【0026】
本発明の効果を損なわない範囲であれば、紡糸原液には、PVA系ポリマー以外に、目的に応じて添加剤等が含まれていてもよい。添加剤の例としては、硼酸、界面活性剤、酸化防止剤、分解抑制剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤および油剤等を挙げることができる。これらは1種単独でまたは2種以上の組み合わせとして含まれ得る。
【0027】
固化浴で用いられる溶剤は、紡糸原液で用いられる溶剤の種類に応じて適宜選択してよい。紡糸原液が水溶液の場合、固化浴としては、例えば、PVA系ポリマーに対して固化能を有する無機塩類(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウムまたは水酸化ナトリウム等)の水溶液またはアルカリ性水溶液を用いてよい。紡糸原液が有機溶剤の場合、固化浴としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールまたはブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンまたはメチルイソブチルケトン等のケトン類等の、PVA系ポリマーに対して固化能を有する有機溶剤を用いてよい。
【0028】
本発明においては、乾式紡糸で得られるPVA系繊維、または水または有機溶剤を溶剤とする紡糸原液から湿式紡糸で得られるPVA系繊維が、繊維の引張強度の観点から好ましい。
【0029】
固化された原糸から紡糸原液の溶剤を抽出除去するために、抽出浴を通過させてもよく、抽出時に同時に原糸を湿延伸してもよい。また、湿延伸後、繊維を乾燥させ、必要に応じて、更に乾熱延伸を行ってもよい。延伸を行う場合、総延伸倍率(湿延伸と乾燥後の延伸倍率の積)として、例えば5~25倍、好ましくは8~20倍程度の延伸を行ってもよい。
【0030】
耐アルカリ性繊維として、市販の繊維を使用してもよく、その例としては、株式会社クラレ製ポリビニルアルコール系繊維、バルチップ株式会社製ポリプロピレン繊維等の有機繊維、並びに日本電気硝子株式会社製および太平洋マテリアル株式会社製ガラス繊維等の無機繊維を挙げることができる。
【0031】
本発明の好ましい一実施形態において、耐アルカリ性繊維の含有率は、硬化体の質量に対して、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上であり、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.5質量%以下、更に好ましくは4.0質量%以下である。また、耐アルカリ性繊維の含有率は、硬化体の質量に対して、好ましくは0.3~5.0質量%、より好ましくは0.5~4.5質量%、更に好ましくは1.0~4.0質量%である。耐アルカリ性繊維の含有率が前記下限値以上であり、前記上限値以下であると、または前記範囲内であると、製造された硬化体において、より高い耐衝撃性、より高い曲げ強さおよびより高い寸法安定性を得ることができる。
【0032】
硬化体における耐アルカリ性繊維の含有率は、該硬化体を硬化させる前の水硬性組成物を調製する際の各成分の配合割合から算出することができる。当然のことながら、硬化体が耐アルカリ性繊維以外の有機物を含む場合も含まない場合も、この算出により硬化体における耐アルカリ性繊維の含有率を求めることができる。
【0033】
水銀圧入法によって求めた硬化体の細孔径分布における6~10nmの範囲の細孔容積(A)に対する11~300000nmの範囲の細孔容積(B)の比(B)/(A)は、14以下、好ましくは13以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは11以下(例えば10以下)である。また、比(B)/(A)は、通常は3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは6以上である。比(B)/(A)は、通常は3~14、好ましくは4~13、より好ましくは5~12、更に好ましくは6~11(例えば6~10)である。
【0034】
本発明の好ましい一実施形態において、水銀圧入法によって求めた硬化体の細孔径分布における6~10nmの範囲(一般にゲル空隙と呼ばれる)の細孔容積(A)は、好ましくは0.05mL/g以上、より好ましくは0.08mL/g以上、更に好ましくは0.10mL/g以上、より更に好ましくは0.11mL/g以上、最も好ましくは0.12mL/g以上であり、0.90mL/g以下であってもよく、0.70mL/g以下、0.50mL/g以下、0.30mL/g以下であってもよい。前記細孔容積(A)は、好ましくは0.05~0.90mL/g、より好ましくは0.08~0.70mL/g、更に好ましくは0.10~0.50mL/g、より更に好ましくは0.11~0.30mL/g、最も好ましくは0.12~0.30mL/gである。前記細孔容積(A)は、硬化体マトリックスの反応により得られる、水が入り得ない緻密な構造を示すものである。前記細孔容積(A)が前記下限値以上であり、前記上限値以下であると、または前記範囲内であると、硬化体が好適な緻密性を有し得ることから、硬化体がより高い耐衝撃性、より高い寸法安定性、より低い吸水性および/またはより高い曲げ強さを有することができる。前記細孔容積(A)は、例えば、セメント、スラグおよび消石灰等の割合を調整することにより、および/または硬化体を成形する際の条件(例えば養生条件)を調整することにより、前記下限値以上および前記上限値以下、または前記範囲内の値に調整できる。
【0035】
本発明の好ましい一実施形態において、水銀圧入法によって求めた硬化体の細孔径分布における11~300000nmの範囲(一般に毛細管空隙と呼ばれる)の細孔容積(B)は、好ましくは3.0mL/g以下、より好ましくは2.0mL/g以下、より好ましくは1.9mL/g以下、更に好ましくは1.5mL/g以下、特に好ましくは1.3mL/g以下である。前記細孔容積(B)は、硬化体マトリックスの反応により得られる、水が入り得る、粗な構造を示すものである。前記細孔容積(B)が前記上限値以下であると、硬化体が好適な緻密性を有し得ることから、硬化体がより高い耐衝撃性、より高い寸法安定性、より低い吸水性および/またはより高い曲げ強さを有することができる。また、前記細孔容積(B)の下限値は、特に限定されるものではない。前記細孔容積(B)は、0.3mL/g以上であってもよいし、0.5mL/g以上であってもよいし、0.7mL/g以上であってもよいし、1.0mL/g以上であってもよい。前記細孔容積(B)は、好ましくは0.3~3.0mL/g、より好ましくは0.5~2.0mL/g、更に好ましくは0.7~1.9mL/g、より更に好ましくは1.0~1.5mL/g、特に好ましくは1.0~1.3mL/gである。前記細孔容積(B)は、例えば、セメント、スラグおよび消石灰等の割合を調整することにより、および/または硬化体を成形する際の条件(例えばプレス条件)を調整することにより、および/または使用する材料の粒径等を調整することにより、前記下限値以上および前記上限値以下、または前記範囲内の値に調整できる。
【0036】
更に、密な構造(上記ゲル空隙)を表現するパラメータとして、前記比(B)/(A)を定義した。比(B)/(A)は密な構造に対する粗な構造の割合を意味し、数値が小さい程、密な構造を有すると解釈できる。比(B)/(A)が上述した上限値以下であり、上述した下限値以上であると、硬化体が好適な緻密性を有し得ることから、硬化体がより高い耐衝撃性、より高い寸法安定性、より低い吸水性および/またはより高い曲げ強さを有することができる。比(B)/(A)は、例えば、セメント、スラグおよび消石灰等の割合を調整することにより、および/または硬化体を成形する際の条件(例えばプレス条件)を調整することにより、および/または使用する材料の粒径等を調整することにより、前記下限値以上および前記上限値以下の値に調整できる。
細孔容積(A)、細孔容積(B)および細孔容積比(B)/(A)は、実施例に記載の方法により求められる。
【0037】
本発明の好ましい一実施形態において、粉末X線回折により測定される酸化カルシウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムの結晶の合計含有率は、繊維成分を除いた硬化体の質量に対して、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは8質量%以下である。酸化カルシウムおよび水酸化カルシウムは主に反応体(例えばセメント、スラグおよび消石灰を含む混合物)の未反応物として硬化体に含まれ得、炭酸カルシウムは主に水酸化カルシウムと二酸化炭素との反応物として硬化体に含まれ得る。よって、前記合計含有率が前記上限値以下であることは、硬化体における未反応物が少ないこと、即ち、反応体が過不足なく反応していることを意味している。前記合計含有率が前記上限値以下であると、硬化体が緻密な構造および所望の若しくは好ましい細孔容積比(B)/(A)を有し得、また、主に未反応物に起因した硬化体の物性(例えば耐衝撃性、寸法安定性および/または低吸水性)の低下(特に経時的な物性の低下)が抑制され得る。前記合計含有率は、例えば、セメント、スラグおよび消石灰等の割合を調整することにより、消石灰が水硬性組成物において特定の平均粒径を有するように調整することにより、および/または養生時の条件(温度、湿度等)を調整することにより、前記上限値以下に調整できる。前記合計含有率、並びに後述の粉末X線回折により測定される酸化カルシウムの結晶の含有率、水酸化カルシウムの結晶の含有率および炭酸カルシウムの結晶の含有率は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。前記合計含有率は低いほど好ましいことから、下限値は特に限定されず、測定装置の検出限界値に等しい。
【0038】
本発明の好ましい一実施形態において、カルシウム成分のうち未反応物である、粉末X線回折により測定される酸化カルシウムおよび水酸化カルシウムの結晶の合計含有率は、繊維成分を除いた硬化体の質量に対して、好ましくは12質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。
これらの含有率の下限値についても同様に、特に限定されず、測定装置の検出限界値に等しい。
【0039】
本発明の一実施形態において、硬化体は、硬化体の質量に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上のパルプを更に含む。パルプは、硬化体を抄造法で製造する場合に抄造工程での歩留り率を向上させる作用、および硬化体の耐衝撃性および曲げ強さを高める作用を有する。よって、パルプの含有率が前記下限値以上であると、硬化体を抄造法で製造する場合の抄造工程での歩留り率を高くすること、並びに、より高い耐衝撃性およびより高い曲げ強さの硬化体を得ることができる。一方、パルプが多すぎると硬化体の吸水性が悪化し得る。よって、吸水性の観点から、パルプの含有率は、硬化体の質量に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは6.5質量%以下である。パルプの含有率が前記上限値以下であると、腐食性物質(塩素、炭酸ガス、硫酸イオン等の各種有機酸)の侵入抑制効果の低下といった問題も回避できる。パルプの含有率は、硬化体の質量に対して、好ましくは0.1~10質量%、より好ましくは1~8質量%、更に好ましくは2~6.5質量%である。パルプの含有率は、硬化体を硬化させる前の水硬性組成物を調製する際の各成分の配合割合から算出することができる。
【0040】
パルプの例としては、木材パルプ、コットンリンターパルプ、麻等の天然パルプが挙げられる。
【0041】
水硬性組成物に配合され得るパルプは、叩解処理されたものであっても、叩解処理されていないものであってもよい。耐衝撃性および曲げ強さの観点から、叩解処理されたパルプを使用することが好ましく、濾水度試験方法JIS P8121-1976のカナダ標準型に準拠して測定される叩解度がCSF値で好ましくは50~400mL、より好ましくは100~150mLであるパルプを使用することがより好ましい。
【0042】
パルプの例としては、針葉樹、広葉樹、マニラ麻、ミツマタ、コウゾ、ガンピ、サラゴ、桑、ワラ、竹、アシ、サバイ、ララン草、エスパルト、バガス、サイザル、ケナフ、リンター、バナナおよび古紙等を挙げることができる。前記針葉樹の例としては、スギ科、マツ科、ヒノキ科、ナンヨウスギ科等の針葉樹を挙げることができ、前記広葉樹の例としては、ニレ科、ブナ科、フトモモ科、カツラ科、モクセイ科、ミカン科、カバノキ科、カエデ科、クルミ科、シナノキ科、ウコギ科、アカテツ科、ニシキギ科、キョウチクトウ科、クマツヅラ科、モクレン科、アオギリ科等の広葉樹を挙げることができる。これらのパルプは、晒しパルプでも未晒しパルプでもよい。前記パルプは、単独で、または2種以上を組み合わせて使用してよい。
【0043】
[硬化体の製造方法]
本発明の硬化体は、水硬性組成物に基づく。即ち、本発明の硬化体は、水硬性組成物を硬化することにより製造でき、例えば、セメント、スラグ、消石灰および耐アルカリ性繊維等の固体を水系媒体に懸濁させることにより調製したスラリー(水硬性組成物)を金網で濾し取り、濾し取ったシート状物を成形および養生することを含む方法(抄造法)、または、セメント、スラグ、消石灰および耐アルカリ性繊維等の固体を水系媒体に懸濁させることにより調製した水硬性組成物を型を用いて成形することを含む方法等により製造できる。
【0044】
<抄造法>
抄造法には、濾し取った薄いシート状物を所望の厚さとなるまで順次メーキングロールに積層して硬化体を得る円網抄造法(ハチェック法)または長網抄造法、および濃厚スラリーをフェルト上に供給して、1回ないし数回で所望の厚さとなるまで順次メーキングロールに積層して硬化体を得るフローオン抄造法等が包含される。硬化体の均一性および厚さ調整の容易性の観点から、円網抄造法または長網抄造法が好ましく、量産化できる観点から、円網抄造法がより好ましい。
【0045】
円網抄造法による硬化体の製造方法は、通常、
セメント、スラグ、消石灰および耐アルカリ性繊維および水、並びに必要に応じて後述する任意成分を混合して水硬性組成物を調製する工程(水硬性組成物の調製工程)、
得られた水硬性組成物を円網を用いて抄造して抄造シートを得、抄造シートを所望の厚さとなるまで積層する工程(抄造シートの積層工程)、
積層された抄造シートに圧力を印加して搾液し、成形する工程(搾液および成形工程)、および
搾液後のシートを養生する工程(養生工程)
を含む。
【0046】
水硬性組成物の調製方法は特に限定されない。公知または慣用のミキサー等の混合手段によって成分を混合することにより、水硬性組成物を調製できる。混合手段の例としては、撹拌性能の高いミキサーが挙げられ、その例としては、抄造法で用いられる縦型ミキサー、ブレードミキサー、スクリュー式ミキサー、コーンミキサーおよびアジター式ミキサー等が挙げられる。
【0047】
各成分の混合順序は特に限定されない。水硬性組成物における固体成分の均一な分散の観点から、パルプを添加する場合はまず水にパルプを投入して撹拌し、次いで、任意の順で、セメント、スラグ、消石灰および添加する場合のパルプ以外の任意成分を添加して撹拌し、最後に耐アルカリ性繊維を添加することが好ましい。
【0048】
セメントの例としては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメントおよび中庸熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメント;アルミナセメント;高炉セメント;シリカセメント;並びにフライアッシュセメント;白色ポルトランドセメントが挙げられる。これらのセメントは、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してよい。
汎用性および/またはコストの観点からは、普通ポルトランドセメントを用いることが好ましい。早期の強度発現の観点からは、早強ポルトランドセメントまたは超早強ポルトランドセメントを用いることが好ましい。長期強度の向上の観点からは、高炉セメントを用いることが好ましい。
【0049】
上記したようなセメントは市販されており、市販品の例としては、太平洋セメント株式会社製普通ポルトランドセメントが挙げられる。
【0050】
本明細書におけるスラグとは、鉄鋼スラグを意味する。鉄鋼スラグは高炉スラグと製鋼スラグに大別され、本発明では、そのいずれも使用できる。硬化体のより高い耐衝撃性、より高い寸法安定性およびより低い吸水性の観点から、高炉スラグが好ましい。高炉スラグには、結晶質である徐冷スラグと、非晶質である水砕スラグとがあり、本発明では、そのいずれも使用できる。硬化体の更なる強度向上または養生促進の観点から、水砕スラグを用いることが好ましい。
【0051】
高炉スラグのブレーン比表面積は、好ましくは1000~9000cm/g、より好ましくは2000~8000cm/g、更に好ましくは3000~7000cm/gである。高炉スラグのブレーン比表面積が前記範囲内であると、高炉スラグが十分な反応サイトおよび好適な平均粒径を有することができ、その結果、製造された硬化体において、より高い耐衝撃性、より高い寸法安定性およびより低い吸水性が発現され得る。高炉スラグのブレーン比表面積は、例えば、高炉スラグを粉砕分級して特定の画分を用いることにより、前記範囲内に調整できる。高炉スラグのブレーン比表面積は、例えば、レーザー回折・散乱法により測定できる。
【0052】
消石灰としては、例えば、固体の消石灰、水に溶解した消石灰、またはそれらの組み合わせを使用できるが、これらに限定されない。
本発明の一実施形態では、消石灰として、固体の消石灰を使用することが好ましい。固体の消石灰を使用することにより、消石灰は、スラグと、スラグの表面近傍で局所的に反応でき、好適な緻密さを有する硬化体を得ることができる。
【0053】
好ましい一実施形態において、水硬性組成物における消石灰の平均粒径は、好ましくは3~600μm、より好ましくは5~400μm、更に好ましくは7~200μm、特に好ましくは10~100μmである。前記平均粒径が前記範囲内であると、より好適な緻密さを有する硬化体を得ることができる。前記平均粒径は、粉砕および分級により、前記範囲内に調整できる。前記平均粒径は、一般的な方法で求めることができ、例えば、無作為に100粒の消石灰について、光学顕微鏡により円相当径を測定し、その平均値を計算することにより求めることができる。
【0054】
本発明の別の一実施形態では、消石灰として、水に溶解した消石灰を使用することが好ましい。水に溶解した消石灰の例としては、消石灰の水溶液、例えば硬化体を抄造法で製造する場合の抄造工程循環水(白水)が挙げられる。
抄造工程循環水は固体の消石灰を含む場合もあり、そのような抄造工程循環水を消石灰として使用することもできる。また、抄造工程循環水以外の消石灰の水溶液と固体の消石灰との組み合わせを消石灰として使用することもできる。これらの場合の消石灰は、固体の消石灰と水に溶解した消石灰との組み合わせに相当し、本発明の一実施形態ではこのような組み合わせを消石灰として使用することが好ましい。
水に溶解した消石灰、または固体の消石灰と水に溶解した消石灰との組み合わせを使用することにより、消石灰は水硬性組成物中に希薄に分布して存在するため、スラグと、スラグの表面近傍で局所的に反応でき、好適な緻密さを有する硬化体を得ることができる。
【0055】
消石灰の水溶液または抄造工程循環水における消石灰の濃度は、好適な反応性の観点から、好ましくは3~12質量%、より好ましくは4~11質量%、特に好ましくは5~10質量%である。
【0056】
耐アルカリ性繊維としては、先の[硬化体]の段落に記載の耐アルカリ性繊維を使用できる。耐アルカリ性繊維の好ましい実施形態についても、先の[硬化体]の段落に記載の好ましい実施形態が適用される。
【0057】
任意成分の例には、先に述べたパルプ以外に、マイカ、骨材(例えば、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂等の細骨材、および砂利、砕石等の粗骨材)、アタパルジャイト、ベントナイト、ワラストナイト、セピオライト、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム等の非反応性充填材;フライアッシュ、シリカフューム、赤泥;アニオン系高分子凝集剤;およびこれらの2以上の組み合わせが包含される。水硬性組成物がこれらの任意成分を含む場合は、該水硬性組成物の硬化体も対応する任意成分を含む。
水硬性組成物がシリカフュームを含む場合、シリカフュームの有するポゾラン反応性および微細な平均粒径に起因して、得られる硬化体の緻密化を達成できる。シリカフュームの平均粒径は、通常は0.01~1.0μm、好ましくは0.05~0.5μm、より好ましくは0.1~0.2μmである。
【0058】
水硬性組成物の固形分濃度は、通常55~6質量%、好ましくは40~8質量%、より好ましくは25~10質量%である。
【0059】
水硬性組成物の全固形分に対し、即ち、水硬性組成物における水以外の成分の総質量に対し、セメントの量は好ましくは8~72質量%(より好ましくは16~60質量%、更に好ましくは24~50質量%)、スラグの量は好ましくは72~18質量%(より好ましくは66~24質量%、更に好ましくは60~36質量%)、消石灰の量は好ましくは0.5~12質量%(より好ましくは2~11質量%、更により好ましくは3~10)、耐アルカリ性繊維の量は好ましくは0.1~5質量%(より好ましくは0.3~4.5質量%、更に好ましくは0.5~4.0)、パルプの量は好ましくは0~10質量%(より好ましくは0.1~10質量%、更に好ましくは1~8質量%、より更に好ましくは2~6.5質量%)、フライアッシュの量は好ましくは0~10質量%(より好ましくは1~8質量%、更に好ましくは2~6質量%)、骨材の量は好ましくは0~50質量%(より好ましくは0~40質量%、更に好ましくは0~35質量%)、シリカフュームの量は好ましくは0~15質量%(より好ましくは0~11質量%、更に好ましくは0~8質量%)である。水硬性組成物が、パルプ、フライアッシュ、骨材およびシリカフューム以外の任意成分を含む場合、その量は、任意成分の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0060】
好ましい一実施形態において、水硬性組成物の全固形分に対する強アルカリ性化合物の量は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0質量%である。強アルカリ性化合物の量が前記上限値以下または0質量%であると、ポーラスな硬化体をもたらし得る、強アルカリ性化合物とスラグとのジオポリマー様の硬化反応が起こり難いことから、より緻密な硬化体を得ることができ、そのような硬化体は高い耐衝撃性、高い寸法安定性、低い吸水性および高い曲げ強さを有することができる。
強アルカリ性化合物には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウム等のようなアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウム等のようなアルカリ金属炭酸塩、並びにこれらの2種以上の組み合わせが包含され、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属炭酸塩は包含されない。
【0061】
次いで、水硬性組成物を湿式抄造機のフィードタンクに投入し、通常は抄造工程循環水によって水硬性組成物の固形分濃度を10~1質量%程度(好ましくは8~3質量%)に調整する。フィードタンクからバットに供給された水硬性組成物は、バット内にある内部陰圧の円網の回転により円網表面に抄き上げられて抄造シートとなり、メーキングロールまで運搬される。メーキングロールにて、所望の厚さとなるよう抄造シートを積層し、積層した抄造シートを所定の長さで切断する。
【0062】
好ましい一実施形態において、抄造工程での歩留り率は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。歩留り率が前記下限値以上であると、より高い曲げ強さ、高い層間密着強度、および/またはより低い寸法変化率を得ることができる。スラグのブレーン比表面積の調整、円網のメッシュサイズの選択、および/または添加する場合の叩解パルプの叩解度の調整により、歩留り率を前記下限値以上に調整できる。歩留り率と生産性との両立の観点から、円網のメッシュサイズは、1インチあたり45~55メッシュであることが好ましい。抄造工程での歩留り率は、例えば下記方法で求めることができる。
円網に投入したスラリーを汲み取り、その質量(A1)を測定する。一般的な濾過装置(例えばヌッチェおよび吸引瓶)を用いて固形分を濾取し、105℃の乾燥機にて乾燥質量が一定になるまで12時間以上乾燥し、固形分の質量(B1)を測定する。下記式により円網に投入したスラリーの濃度Cを求める。
濃度C=(B1/A1)×100
同様に、円網を通過した後のスラリーを汲み取り、その濃度Cを下記式により求める。
濃度C=(B2/A2)×100
ここで、A2は、汲み取った円網通過後のスラリーの質量であり、B2は、その固形分の質量である。
下記式により、抄造工程での歩留り率が求められる。
抄造工程での歩留り率(%)={(C-C)/C}×100
【0063】
積層する抄造シートの枚数は、水硬性組成物の固形分濃度および製造される硬化体の厚さに依存するが、通常、硬化体の厚さが約6mmの場合で12~18枚である。
【0064】
次いで、切断されたシートにプレス機で印加することにより搾液し、成形する。
プレス機により印加される圧力は、好ましくは2~30MPa、より好ましくは3~27MPa、特に好ましくは4~25MPaである。また、圧力を印加する時間は、通常10~60分間、好ましくは15~50分間、より好ましくは20~40分間である。圧力を前記範囲内としたり、圧力を印加する時間を前記範囲内としたりすることによっても、硬化体において所望の細孔容積比(B)/(A)を得ることができ、その結果、より高い耐衝撃性、より高い寸法安定性、より低い吸水性および/またはより高い曲げ強さを有する硬化体を得ることができる。
【0065】
続いて、搾液されたシートを養生する。
養生により硬化が進行する。硬化は、セメントおよびスラグの水和反応(凝結反応)によるものであるが、シート中の水分が蒸発すると該水和反応が阻害され、硬化が進行しなくなる場合がある。従って、一次養生として、シート中の水分が蒸発しない高湿度雰囲気下で、即ち、相対湿度が好ましくは30~100%、より好ましくは50~100%、更に好ましくは65~100%、更により好ましくは80~100%、特に好ましくは90~100%(例えば100%)の雰囲気下で、養生を行い、二次養生として、高湿度雰囲気下(好ましくは30~100%、より好ましくは40~90%、更に好ましくは50~80%の雰囲気下)において、水分を通さない容器または袋等にシートを入れたり、プラスチック板、プラスチックフィルム(ポリエチレンシート等)または金属板にシートを挟んだりすることにより、シート中の水分がより蒸発しにくい状態にして、養生を行うことが好ましい。
【0066】
養生温度は特に限定されない。一次養生温度は、例えば10~90℃、好ましくは30~80℃、更に好ましくは40~80℃である。前記範囲内の温度で、養生温度を途中で変更してもよい。二次養生温度は、例えば10℃~70℃、好ましくは20℃~50℃である。
一次養生時間は、水硬性組成物の組成および養生温度に依存するが、通常は6時間~48時間、好ましくは8時間~36時間、より好ましくは12時間~24時間である。二次養生時間は、通常は1日間~14日間である。
【0067】
また、二次養生として水中養生を行ってもよい。この場合、通常、水温は10~30℃、養生時間は8時間~13日間である。水温10~30℃での水中養生を4時間~24時間行った後、先の段落に記載した二次養生を2日間~13日間行ってもよい。
【0068】
二次養生の後に乾燥することにより、硬化体が得られる。
乾燥方法は、均一に乾燥された硬化体が得られる限り、特に限定されない。通常は、硬化体の平衡含水率(例えば、風通しの良い室内に硬化体を7日間以上保管したときに達する含水率)は約6質量%~約10質量%であるため、平衡含水率と同程度の含水率となるように乾燥させる。硬化体の含水率および平衡含水率は、簡易的にはKett水分計を用いて測定できる。または、乾燥後の硬化体を秤量(W12)した後、105℃の撹拌機付き空気乾燥機にて恒量となるまで乾燥させた硬化体を秤量(W13)し、下記式:
{(W12-W13)/W13}×100
により求めることもできる。
【0069】
<型を用いて成形することを含む方法>
型を用いて成形することを含む方法は、通常、
セメント、スラグ、消石灰および耐アルカリ性繊維および水、並びに必要に応じて上述した任意成分を混合して水硬性組成物を調製する工程、および下記(i)~(iv):
(i)得られた水硬性組成物を、開放された型枠に流し込む工程(注型法)、
(ii)水硬性組成物をプレスまたは吸引して脱水する工程(脱水成形法)、
(iii)密閉された型枠に水硬性組成物を注入する工程(射出成形法)、および
(iv)口金に水硬性組成物を通して一定の形状のものを成形する工程(押出成形法)
のいずれかの工程を含む。
押出成形法では真空押出機を用いてもよい。また、成形の際、必要に応じて圧力および/または振動を加えてもよく、水硬性組成物を、上面成形型またはロール等を用いてプレスにより押圧してもよい。
【0070】
型を用いて成形することを含む方法における水硬性組成物を調製する工程は、抄造法における水硬性組成物の調製工程と同様にして実施すればよい。得られた水硬性組成物は、プレス下型に所定量セットし、印加しながらプレスにて脱水成形すればよい。印加する圧力は、例えば1~30MPaであってよく、プレス時間は0.01~30分であってよい。
【0071】
上記成形の後の養生は、抄造法における養生工程と同様にして実施すればよい。二次養生の後に乾燥することにより、硬化体が得られる。この乾燥方法もまた、抄造法における乾燥方法と同様にして実施すればよい。
【0072】
硬化体の乾燥時の衝撃強さは、好ましくは3.0kJ/m以上、より好ましくは3.5kJ/m以上、更に好ましくは4.0kJ/m以上である。硬化体の乾燥時の衝撃強さの上限値は、限定されるものではないが、通常20.0kJ/m以下である。硬化体の乾燥時の衝撃強さは、好ましくは3.0~20.0kJ/m、より好ましくは3.5~20.0kJ/m、更に好ましくは4.0~20.0kJ/mである。
硬化体の吸水時の衝撃強さは、好ましくは5.0kJ/m以上、より好ましくは5.3kJ/m以上、更に好ましくは5.5kJ/m以上である。硬化体の吸水時の衝撃強さの上限値は、限定されるものではないが、通常20kJ/m以下である。硬化体の吸水時の衝撃強さは、好ましくは5.0~20.0kJ/m、より好ましくは5.3~20.0kJ/m、更に好ましくは5.5~20.0kJ/mである。
【0073】
硬化体の寸法変化率は、好ましくは0.20%以下、より好ましくは0.16%以下、更に好ましくは0.12%以下である。硬化体の寸法変化率の下限値は、限定されるものではないが、通常0.01%以上である。前記寸法変化率は、好ましくは0.01~0.20%、より好ましくは0.01~0.16%、更に好ましくは0.01~0.12%である。
【0074】
硬化体がパルプを含まない場合、JIS A 5430:2018に準拠して求めた硬化体の吸水率は、好ましくは1~25%、より好ましくは3~20%、更に好ましくは5~15%である。
硬化体がパルプを含む場合、JIS A 5430:2018に準拠して求めた硬化体の吸水率は、好ましくは5~40%、より好ましくは7~30%、更に好ましくは10~20%である。
【0075】
硬化体の乾燥時の曲げ強さは、好ましくは7N/mm以上、より好ましくは10N/mm以上、更に好ましくは15N/mm以上である。硬化体の乾燥時の曲げ強さの上限値は、限定されるものではないが、通常100N/mm以下である。硬化体の乾燥時の曲げ強さは、好ましくは7~100N/mm、より好ましくは10~100N/mm、更に好ましくは15~100N/mmである。
硬化体の吸水時の曲げ強さは、好ましくは6N/mm以上、より好ましくは10N/mm以上、更に好ましくは14N/mm以上である。硬化体の吸水時の曲げ強さの上限値は、限定されるものではないが、通常100N/mm以下である。硬化体の吸水時の曲げ強さは、好ましくは6~100N/mm、より好ましくは10~100N/mm、更に好ましくは14~100N/mmである。
【0076】
上述した硬化体の物性(乾燥時の衝撃強さ、吸水時の衝撃強さ、寸法変化率、吸水率、乾燥時の曲げ強さ、および吸水時の曲げ強さ)は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0077】
本発明の硬化体は、高い耐衝撃性、高い寸法安定性、低い吸水性および高い曲げ強さを有することから、建物の内壁材、外壁材、屋根材および床材等の建材ボードに好適に使用できる。従って、本発明はまた、本発明の硬化体を含んでなる建材ボード、および本発明の硬化体からなる建材ボードも包含する。
【実施例
【0078】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。実施例および比較例における各物性は、下記手順により測定または評価した。
【0079】
<カルシウムシリケート、カルシウムアルミネート、酸化カルシウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムの結晶の含有率>
乳鉢を用いて硬化体を粉砕し、粉砕物から繊維をピンセットで取り除いた。繊維が取り除かれた粉砕物を粉末X線回折により分析することによって、硬化体に含まれるカルシウムシリケート、カルシウムアルミネート、酸化カルシウム、水酸化カルシウムおよび炭酸カルシウムの結晶の含有率を求めた。粉末X線回折の測定条件は、管電圧:40kV、管電流:15mA、走査範囲:2θ=5~70°、ステップ幅:0.01°、スキャンスピード:2°/分であり、リートベルト解析におけるソフトには、PDXL2(株式会社リガク製)を使用した。
定量分析では、エーライト、ビーライト、ubicC3A、orthorhombic-C3A、C4AF、コランダム(内部標準)の他、試料中に含まれる相に応じて、カルサイト、ポルトランダイト、ライムを適宜設定し、一括で、各鉱物相の結晶の含有率を定量した。なお、C3Aの定量条件としては計算上2種類の多形を設定したが、評価は両多形を合計しC3A量として行った。
【0080】
<細孔容積および細孔容積比>
測定する硬化体から、約1cm角の試験片を2個切り出して、105℃±5℃にて12時間以上乾燥させた後、シリカゲルで調湿したデシケータに入れ、20℃±1.5℃になるまで放置した。これらの試験片について、水銀圧入法による細孔径分布を、水銀圧入法細孔容積測定装置(マイクロメリティックス社製「MicroActive AutoPore V 9600」)を用いて測定した。得られた細孔径分布から得られたLog微分細孔容積より、各試験片の6~10nmの範囲の細孔容積(A)および11~300000nmの範囲の細孔容積(B)を求めた。下記式より、各試験片について6~10nmの範囲の細孔容積(A)に対する11~300000nmの範囲の細孔容積(B)の比を算出し、それらの平均値を硬化体の細孔容積比(B)/(A)として採用した。
細孔容積比(B)/(A)={11~300000nmの範囲の細孔容積(B)}/{6~10nmの範囲の細孔容積(A)}
【0081】
<耐アルカリ性繊維の平均繊維径、アスペクト比、引張強度>
耐アルカリ性繊維の平均繊維径は、無作為に繊維を100本取り出し、それぞれの繊維の長さ方向の中央部における繊維径を光学顕微鏡により測定し、その平均値を計算することにより求めた。
耐アルカリ性繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径)は、平均繊維長と平均繊維径から算出した。耐アルカリ性繊維の平均繊維長は、JIS L 1015:2010に準拠して求めた。
また、耐アルカリ性繊維の引張強度は、JIS L 1015:2010に準拠して求めた。
【0082】
<衝撃強さ>
測定する硬化体から、JIS K 7111-1:2012に準拠したタイプ1試験片を6個切り出した。
乾燥時の衝撃強さを測定するために、まず、3個の試験片を40℃に設定した撹拌機付き空気乾燥機において72時間乾燥した。次いで、取り出した試験片をシリカゲルで調湿したデシケータに入れ、20℃±1.5℃になるまで放置した。各試験片の衝撃強さ(ノッチなし)を、JIS K 7111-1:2012に準拠して測定し、それらの平均値を、硬化体の乾燥時の衝撃強さとして採用した。
吸水時の衝撃強さを測定するために、まず、3個の試験片を20℃の水中に72時間浸漬した。次いで、試験片を取り出し、表面に付着した水を拭き取った後、直ちに、各試験片の衝撃強さ(ノッチなし)を、JIS K 7111-1:2012に準拠して測定し、それらの平均値を、硬化体の吸水時の衝撃強さとして採用した。
乾燥時および吸水時の衝撃強さは、株式会社東洋精機製作所製、シャルピー(デジタル)衝撃試験機、型式DG-CBを用いて測定した。
【0083】
<寸法変化率>
硬化体の寸法変化率(長さ変化率)は、JIS A 5430:2018に準拠して測定した。具体的には、測定する硬化体から、長さ約160mm、幅約50mmの短冊状の試験片を3個切り出した後、これらの試験片を乾燥機に入れ、乾燥機内の温度を60℃±3℃で24時間保った。その後、試験片を取り出し、シリカゲルで調湿したデシケータに入れ、20℃±1.5℃になるまで放置した。次に、各試験片に乳色ガラスを貼り、標線間が約140mmになるように標線を刻み、1/500mmの精度を持つコンパレータで標線間の長さを測定し、その長さをL(mm)とした。続いて、試験片の長手方向が水平になるようこば立てし、試験片の上端が水面下約30mmとなるようにして、20℃±1.5℃の水中に浸漬した。24時間後、水中から試験片を取り出して表面に付着した水を拭き取り、標線間の長さを再び測定し、その長さをL(mm)とした。下記式により、各試験片について吸水による寸法変化率(%)を算出し、それらの平均値を、硬化体の寸法変化率として採用した。
寸法変化率={(L-L)/L}×100
【0084】
<吸水率>
硬化体の吸水率は、JIS A 5430:2018に準拠して測定した。具体的には、測定する硬化体から、長さ約180mm、幅約50mmの短冊状の試験片を4個切り出した後、試験片を20℃±1.5℃の水中に浸漬した。24時間経過後、試験片を取り出し、表面に付着した水を拭き取った後、直ちに、各試験片の質量(吸水時の試験片の質量W14)を測定した。次に、これらの試験片を105℃±5℃に調整した撹拌機付き乾燥機に入れ、24時間乾燥した後取り出し、シリカゲルで調湿したデシケータに入れ、室温20℃±1.5℃になるまで放置した。その後、各試験片の質量(乾燥時の試験片の質量W)を測定した。下記式により、各試験片の吸水率(%)を算出し、それらの平均値を、硬化体の吸水率として採用した。
吸水率={(W14-W)/W}×100
【0085】
<曲げ強さ>
測定する硬化体から、長さ約180mm、幅約50mmの短冊状の試験片を8個切り出した。
乾燥時の曲げ強さを測定するために、まず、4個の試験片を40℃に設定した撹拌機付き空気乾燥機において72時間乾燥した。次いで、取り出した試験片をシリカゲルで調湿したデシケータに入れ、20±1.5℃になるまで放置した。各試験片の曲げ強さを、JIS A 1408:2017に準拠して測定し、それらの平均値を、硬化体の乾燥時の曲げ強さとして採用した。
吸水時の曲げ強さを測定するために、まず、4個の試験片を20℃の水中に72時間浸漬した。次いで、試験片を取り出し、表面に付着した水を拭き取った後、直ちに、各試験片の曲げ強さを、JIS A 1408:2017に準拠して測定し、それらの平均値を、硬化体の吸水時の曲げ強さとして採用した。
乾燥時および吸水時の曲げ強さは、島津製作所株式会社製オートグラフ「AG50kNX」を用い、中央載荷方式で曲げスパン14.6cmおよび試験速度(載荷ヘッドスピード)20mm/分の条件で測定した。
【0086】
[実施例1]
パルプ(NBKP、株式会社パルテックス製セロファイバー、CSF値:115mL)を水に分散させた。得られた分散体に、高炉水砕スラグ微粉末(株式会社デイ・シイ社製:ブレーン比表面積:4000cm/g)、普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製:普通ポルトランドセメント)、フライアッシュ(四電ビジネス株式会社製:II種相当品)および消石灰(高知石灰工業株式会社製:工業用消石灰1号、平均粒径:20μm)を投入して混合した。得られた混合物に、耐アルカリ性繊維として、ポリビニルアルコール系繊維1(平均繊維径:14μm、アスペクト比:429、引張強度:14.3cN/dtex、表1ではPVA1と記載)を添加して更に混合した。各成分の質量の割合は表1に示す通りであり、固形分濃度16質量%の水硬性組成物を得た。
得られた水硬性組成物を、定量供給装置のフィードタンクに移送し、フィードタンクから円網に供給した。抄造工程循環水によって水硬性組成物の固形分濃度を4質量%に調整し、ミニハチェックマシンを用いて抄造を行った。次いで、円網工程で得られた抄造シートをメーキングロールにて15枚積層し、積層された抄造シートに5.0MPaの圧力を印加しながら20分間プレスすることにより搾液した。搾液後のシートを、恒温恒湿養生装置において、温度50℃、飽和湿度(RH98%)条件下で24時間養生し、その後、ラップシートで包み、温度20℃、湿度60%の環境下で13日間養生(あわせて材齢14日間の養生)した。ラップシートを除去したシートを、温度120℃に設定したロールドライヤー式の乾燥機において2時間乾燥することにより、硬化体を得た。
水硬性組成物および硬化体の物性を、上述した方法により測定および評価した。その結果を表1に示す。
【0087】
[実施例2および比較例1~2]
配合する材料および/または量を表1に記載の通り変更したこと以外は実施例1と同様にして、水硬性組成物およびその硬化体を得、水硬性組成物および硬化体の物性を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0088】
[実施例3]
積層された抄造シートに印加する圧力を5.0MPaから10.0MPaに変更したこと以外は実施例2と同様にして、水硬性組成物およびその硬化体を得、水硬性組成物および硬化体の物性を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0089】
[実施例4]
耐アルカリ性繊維として、ポリビニルアルコール系繊維1に代えて、ポリビニルアルコール系繊維2(平均繊維径:7μm、アスペクト比:571、引張強度:14.5cN/dtex、表1ではPVA2と記載)を用い、耐アルカリ性繊維およびフライアッシュの量を表1に記載の通りに変更したこと以外は実施例1と同様にして、水硬性組成物およびその硬化体を得、水硬性組成物および硬化体の物性を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0090】
[実施例5~6]
耐アルカリ性繊維として、ポリビニルアルコール系繊維1に代えて、ポリビニルアルコール系繊維3(平均繊維径:14μm、アスペクト比:429、引張強度:12.6cN/dtex、表1ではPVA3と記載)またはポリプロピレン繊維(平均繊維径:17μm、アスペクト比:353、引張強度:5.3cN/dtex、表1ではPPと記載)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、水硬性組成物およびその硬化体を得、水硬性組成物および硬化体の物性を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
[実施例7]
3.5質量部のパルプ(NBKP、株式会社パルテックス製セロファイバー、CSF値:115mL)を水に分散させた。得られた分散体に、28質量部の高炉水砕スラグ微粉末(株式会社デイ・シイ社製:ブレーン比表面積:4000cm/g)、43質量部の普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製:普通ポルトランドセメント)、3質量部のフライアッシュ(四電ビジネス株式会社製:II種相当品)、6質量部のシリカフューム(巴工業製EFACO、平均粒径:2μm)および14.5質量部の非反応性充填材を投入して混合した。得られた混合物に、耐アルカリ性繊維として、2質量部のポリビニルアルコール系繊維2(平均繊維径:7μm、アスペクト比:571、引張強度:14.5cN/dtex)を添加して更に混合した。固形分濃度16質量%の水硬性組成物を得た。
得た水硬性組成物を用いたこと以外は実施例1と同様にしてその硬化体を得、水硬性組成物および硬化体の物性を測定および評価した。
材齢14日間の養生後の各物性を以下に示す。カルシウムシリケートおよびカルシウムアルミネートの合計含有量:8.81質量%、酸化カルシウムの含有量:1.55質量%、水酸化カルシウムの含有量:0.32質量%、炭酸カルシウムの含有量:2.67質量%、酸化カルシウムと水酸化カルシウムと炭酸カルシウムの合計含有量:4.54質量%、細孔容積比(B)/(A):5.64、細孔容積(A):0.3407mL/g、細孔容積(B):1.9203mL/g、乾燥時の衝撃強さ:3.55kJ/m、吸水時の衝撃強さ:4.67kJ/m、寸法変化率:0.15%、吸水率:20.6%、乾燥時の曲げ強さ:32.3N/mm、吸水時の曲げ強さ:22.3N/mm
【0093】
[実施例8]
水に、31.75質量部の高炉水砕スラグ微粉末(株式会社デイ・シイ社製:ブレーン比表面積:4000cm/g)、28質量部の普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製:普通ポルトランドセメント)、3.18質量部のフライアッシュ(四電ビジネス株式会社製:II種相当品)、5質量部の消石灰(高知石灰工業株式会社製:工業用消石灰1号、平均粒径:20μm)および31.16質量部の珪砂(東北硅砂株式会社製5号硅砂、平均粒径:425μm)を投入して混合した。得られた混合物に、耐アルカリ性繊維として、0.91質量部のポリビニルアルコール系繊維4(平均繊維径:26μm、アスペクト比:231、引張強度:13.8cN/dtex)を添加して更に混合した。固形分濃度16質量%の水硬性組成物を得た。得られた水硬性組成物を、プレス下型に所定量セットし、5MPaの圧力を印加しながら0.5分間プレスにて脱水成形し、実施例1と同じ条件にて養生、乾燥して硬化体を得た。
得られた水硬性組成物および硬化体の物性は、実施例1と同様にして測定および評価した。
材齢14日間の養生後の各物性を以下に示す。カルシウムシリケートおよびカルシウムアルミネートの合計含有量:5.01質量%、酸化カルシウムの含有量:1.93質量%、水酸化カルシウムの含有量:3.2質量%、炭酸カルシウムの含有量:0.89質量%、酸化カルシウムと水酸化カルシウムと炭酸カルシウムの合計含有量:6.02質量%、細孔容積比(B)/(A):11.06、細孔容積(A):0.0693mL/g、細孔容積(B):0.7661mL/g、乾燥時の衝撃強さ:3.8kJ/m、吸水時の衝撃強さ:5.1kJ/m、寸法変化率:0.14%、吸水率:19.6%、乾燥時の曲げ強さ:12.1N/mm、吸水時の曲げ強さ:8.9N/mm
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の硬化体は、高い耐衝撃性、高い寸法安定性、低い吸水性、および高い曲げ強さを有する。従って、建物の内壁材、外壁材、屋根材および床材等の建材ボード、並びに土木部材等に好適に用いることができる。
【要約】
本発明は、水硬性組成物の硬化体であって、硬化体は、耐アルカリ性繊維、カルシウムシリケートおよびカルシウムアルミネートを含み、水銀圧入法によって求めた硬化体の細孔径分布における6~10nmの範囲の細孔容積に対する11~300000nmの範囲の細孔容積の比は、14以下である、硬化体に関する。