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  • 特許-癌治療生存率向上剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】癌治療生存率向上剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/20 20060101AFI20241028BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20241028BHJP
   A23L 33/14 20160101ALI20241028BHJP
   A61K 36/06 20060101ALI20241028BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241028BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241028BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
A61K35/20
A23L33/135
A23L33/14
A61K36/06
A61K45/00
A61P35/00
A61P43/00 121
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018547795
(86)(22)【出願日】2017-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2017038961
(87)【国際公開番号】W WO2018079728
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-10-20
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2016210972
(32)【優先日】2016-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】598170338
【氏名又は名称】日本ケフィア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【弁理士】
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】岡本 哲治
(72)【発明者】
【氏名】谷 亮治
(72)【発明者】
【氏名】徳丸 浩一郎
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】齋藤 恵
【審判官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/064434(WO,A1)
【文献】久保道徳、外4名,薬学雑誌,1992年,Vol.112, No.7,p.489-95
【文献】古川徳、外2名,日本栄養・食糧学会誌,1990年,Vol.43, No.6,p.450-3
【文献】谷久典、大石一二三,月刊フードケミカル,2001年,Vol.17, No.3,p.51-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K35/00, 36/00, 45/00
A23L31/00, 33/00
C12N 1/00
C12N1/00
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
MEDLINE(STN)
BIOSIS(STN)
EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケフィアを有効成分として含有してなる、経口投与用癌治療生存率向上剤であって、
癌治療生存率が、癌治療の3年後、4年後、又は5年後の生存率であり、
癌治療が、放射線療法であるか、又は化学療法及び放射線療法である、経口投与用癌治療生存率向上剤。
【請求項2】
癌が口腔癌である、請求項1に記載の生存率向上剤。
【請求項3】
化学療法が、超選択的動注化学療法である、請求項1~2の何れかに記載の生存率向上剤。
【請求項4】
ケフィアを有効成分として含有してなる、経口投与用癌治療生存率向上用医薬組成物であって、
癌治療生存率が、癌治療の3年後、4年後、又は5年後の生存率であり、
癌治療が、放射線療法であるか、又は化学療法及び放射線療法である、経口投与用癌治療生存率向上用医薬組成物。
【請求項5】
ケフィアを有効成分として含有してなる、癌治療生存率向上用食品組成物であって、
癌治療生存率が、癌治療の3年後、4年後、又は5年後の生存率であり、
癌治療が、放射線療法であるか、又は化学療法及び放射線療法である、治療生存率向上用食品組成物。
【請求項6】
経口投与用癌治療生存率向上用医薬組成物又は癌治療生存率向上用食品組成物の製造のための、ケフィアの使用であって、
癌治療生存率が、癌治療の3年後、4年後、又は5年後の生存率であり、
癌治療が、放射線療法であるか、又は化学療法及び放射線療法である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌治療生存率向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
癌治療の重要な手段として、化学療法や放射線療法がある。これらは、しばしば大きな副作用を生じるが、癌細胞を除去するための強力な手段であるので、その副作用があったとしても、それを比較考量したうえで、なお使用され続けている。
【0003】
癌治療の成果を評価する重要な指標として、その後の生存率があげられる。癌治療は、それによって患者が長期生存することに重要な価値があるので、治療直後の腫瘍組織の縮小消滅や癌細胞の除去などについての直接的な観察や検査数値の結果とは別に、生存率を指標としてさらに優れた癌治療手段は、本来的に、常に求められている。
【0004】
ケフィアは、ロシアのコーカサス地方原産の発酵乳であり、コーカサス地方に由来するケフィアグレイン(ケフィア粒、ケフィア菌)を種菌(スターター)として牛乳等の獣乳を発酵させて製造される。ケフィアグレインは、それ自体があたかも一つの生体として振る舞うものであるが、学術的には各種微生物が天然の共生体となったものであり、Lactobacillus kefiri、並びにLeuconostoc属、Lactococcus属 及び Acetobacter属の各種微生物の1種以上、さらに、乳糖発酵性酵母(例えばKluyveromyces marxianus)及び非乳糖発酵性酵母(例えばSaccharomyces unisporus、Saccharomyces cerevisiae、 Saccharomyces exiguus)を含んでいる。ケフィアは、発酵乳として美味である点に加えて、各種の健康維持増進機能が指摘されており、健康によい食品として普及しつつある。
【0005】
このケフィアの優れた特性を生かすために、ケフィアに種々の食品成分を添加して、さらに健康維持増進機能に優れた食品を創り出す試みが行われてきた。例えば、特許文献1(WO2002/076240)は、ケフィアにナットウキナーゼを添加した食品を開示している。また、このケフィアには、肝機能障害の予防・改善の効果が報告されている(特許文献2:特許第5823695号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2002/076240号
【文献】特許第5823695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況のもとで、臨床的な効果が確認された、癌治療による生存率、特に化学療法及び放射線療法による生存率を、向上させる手段が求められていた。
【0008】
したがって、本発明の目的は、臨床的な効果が確認された、癌治療による生存率、特に化学療法及び放射線療法による生存率を、向上させる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、癌治療の臨床に携わり、その治療成績について長年の間、鋭意研究してきたところ、ケフィアの投与と生存率向上の効果との間に、統計的に有意な関係があることを見いだして、本発明に到達した。
【0010】
したがって、本発明は次の(1)以下を含む。
(1)
ケフィアを有効成分として含有してなる、癌治療生存率向上剤。
(2)
癌治療が、化学療法及び/又は放射線療法である、(1)に記載の生存率向上剤。
(3)
癌が口腔癌である、(1)~(2)の何れかに記載の生存率向上剤。
(4)
化学療法が、超選択的動注化学療法である、(1)~(3)の何れかに記載の生存率向上剤。
(5)
癌治療生存率が、癌治療の2年後、3年後、4年後又は5年後の生存率である、(1)~(4)の何れかに記載の生存率向上剤。
(6)
ケフィアを有効成分として含有してなる、癌治療生存率向上用医薬組成物。
(7)
ケフィアを有効成分として含有してなる、癌治療生存率向上用食品組成物。
【0011】
さらに本発明は次の(11)以下を含む。
(11)
癌治療の治療期間中に、ケフィアを患者へ投与する工程、
を含む、癌治療生存率を向上させる方法。
(12)
癌治療生存率向上用医薬組成物又は癌治療生存率向上用食品組成物の製造のための、ケフィアの使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、癌治療による生存率、特に化学療法及び/又は放射線療法による生存率を、向上させることができる。生存率の向上は、いわば癌治療の最大の目的のひとつであるから、癌治療を妨げることなく、極めて簡易に投与して、生存率を向上できる本発明は、大きな意義を有する。
【0013】
本発明に係るケフィアは、歴史的な年月の間、ヒトの飲食に供されていたものであるために、それ自体に副作用や安全性の懸念はなく、長期間にわたる継続的な投与も、安心して行うことができる。癌治療の化学療法及び/又は放射線療法は、数週間から数ヶ月の長期にわたるものとなる場合が多いために、長期間にわたる継続的な投与が安心して行えることは、本発明の大きな利点である。
【0014】
また、本発明に係るケフィアは、歴史的な年月の間、ヒトの飲食に供されていたものであるために、嗜好性に優れ、内服も容易である。癌治療の化学療法及び/又は放射線療法を受けた場合には、その副作用として吐き気等が現れることも多いために、優れた嗜好性と内服の容易さは、本発明の大きな利点である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は癌治療後の生存率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
具体的な実施の形態をあげて、以下に本発明を詳細に説明する。本発明は、以下にあげる具体的な実施の形態に限定されるものではない。
【0017】
[癌治療生存率向上剤]
本発明の癌治療生存率向上剤は、ケフィアを有効成分として含有してなる。
【0018】
本発明において使用されるケフィアは、公知の製造方法に基づいて製造することができる。ケフィアは、獣乳すなわち牛、馬、羊、山羊などの乳を発酵させて製造することができるが、好ましくは牛乳へのケフィア・グレインの添加、発酵によって製造することができる。さらに、本発明において使用されるケフィアとして、豆乳その他の植物由来原料を出発材料として、これにケフィア・グレインを添加して発酵させて製造された豆乳ケフィア及び植物性ケフィアを使用することもできる。これらの製造方法としては、例えば特開昭62-83842号公報、特開2006-75176号公報などを参照することができる。本発明において使用されるケフィアとしては、液体及び流動状のケフィア、さらにこれらの凍結乾燥品等の固体が含まれ、これらは粉末、顆粒、これらを内包するカプセル等の形態とすることもでき、公知の方法によって製剤して得られるものも含まれる。
【0019】
好適に使用可能なケフィアとしては、市販品として、例えば、NKGケフィア-D(日本ケフィア株式会社製)、NKGケフィア-P(日本ケフィア株式会社製)、NKG豆乳ケフィア-SD(日本ケフィア株式会社製)を挙げることができる。
【0020】
本発明の癌治療生存率向上剤は、ケフィアを有効成分として含有してなるものである。本発明の癌治療生存率向上剤は、種々の形態のケフィアそれ自体であってもよく、ケフィア以外の成分を含有したものとすることもできる。本発明の癌治療生存率向上剤は、ケフィアを有効成分として含有してなる組成物とすることができて、例えば癌治療生存率向上用医薬組成物及び癌治療生存率向上用食品組成物とすることができる。
【0021】
本発明の癌治療生存率向上剤は、投与方法に適した種々の形態とすることができる。本発明の癌治療生存率向上剤は、例えば、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、トローチ剤、噴霧剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏、テープ剤等の形態とすることができる。経口投与をする場合には、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、シロップ剤、顆粒剤、散剤等に加工して経口摂取することができる。本発明の癌治療生存率向上剤の投与は、例えば、経口投与、非経口投与が挙げられ、好ましくは経口投与又は経腸投与であり、特に好ましくは経口投与である。本発明の癌治療生存率向上剤は、飲食品や飼料等に配合して投与することもできる。
【0022】
本発明の癌治療生存率向上剤は、飲食品の形態とすることができる。すなわち、本発明は、癌治療生存率向上のための機能性食品にもある。機能性食品とした場合に好適な形状として、タブレット状のサプリメントを例示することができる。これによって有効成分の摂取量を正確に把握することができる。さらに、本発明の癌治療生存率向上剤は、食品添加剤の形態とすることができる。
【0023】
本発明の癌治療生存率向上剤は、例えば、ケフィアを薬学的に許容され得る賦形剤等の任意の添加剤を用いて製剤化することにより製造できる。製剤化する場合、製剤中のケフィアの含有量は、通常0.01~50質量%、好ましくは0.1~25.0質量%である。製剤化にあたっては、薬学的に許容されうる公知の賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、注射剤用溶剤等の添加剤を使用できる。製剤化にあたっては、公知の製造方法を使用することができる。また、本発明の癌治療生存率向上剤には、必要に応じ、薬品及び食品の分野において慣用されている補助成分、例えば乳糖、ショ糖、液糖、蜂蜜、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、各種ビタミン類、クエン酸、リンゴ酸、アミノ酸、香料、無機塩等を添加することができる。
【0024】
[投与量]
本発明に係る有効成分であるケフィアの投与量及び投与回数は、投与方法、治療期間、年齢、体重等により異なるが、投与量は、成人1日当たり通常1mg~50gの範囲から適宜選択でき、投与回数は、1日1回から数回の範囲から適宜選択できる。ケフィアは、伝統的な食品として歴史的な年月の間、飲食に供されていたものであるために、副作用の心配がなく、安全性が高いために、投与量がさらに多くても何ら問題はない。
【0025】
[投与時期]
本発明の癌治療生存率向上剤の投与は、通常は化学療法又は放射線療法の開始の1日以上前、好ましくは2日以上前、さらに好ましくは3日以上前、さらに好ましくは1週間以上前から行われる。ケフィアは、伝統的な食品として歴史的な年月の間、飲食に供されていたものであるために、化学療法又は放射線療法の開始のどれほど前から投与されていても何ら問題はない。好ましい実施の態様において、化学療法又は放射線療法が行われている期間の間、投与される。また、ケフィアは、化学療法又は放射線療法による治療期間の終了の後に、投与されて続けていても何ら問題はない。
【0026】
[癌治療生存率向上]
本発明における癌治療生存率向上とは、癌治療、特に化学療法及び/又は放射線療法を受けていた癌患者が、癌の診断日を開始日として所定日数後又は所定年数後に生存している率が向上していることをいう。このような所定の年数として、例えば、2年後、3年後、4年後、5年後、さらに6年後、7年後、8年後、10年後をあげることができる。
【0027】
本発明に係る有効成分であるケフィアが、どのようなメカニズムによって癌治療生存率向上をもたらすかは不明であるが、ケフィアは、経口投与すなわち全身投与によってこのような効果を示しているので、例えば癌治療生存率向上の効果においても、その効果は口腔癌に限られず、全身の如何なる部位での癌についても、同様の癌治療生存率向上の効果を示すものと考えられる。
【0028】
本発明に係る有効成分であるケフィアによる癌治療生存率向上の効果は、特に口腔癌治療における化学療法及び/又は放射線療法の行われている癌患者の生存率について、臨床試験によって統計的に有意であることが確認されたものであるが、その他の癌の治療による生存率の向上にも有効なものと考えられる。化学療法には、抗ガン剤を投与するあらゆる種類の化学療法が含まれ、その投与方法もあらゆる種類の投与方法が含まれる。化学療法として、例えば、全身化学療法、あるいは超選択的動注化学療法があげられる。放射線療法には、あらゆる放射線療法が含まれる。
【実施例
【0029】
以下に実施例をあげて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。
【0030】
[臨床試験]
癌治療を受けた癌患者の生存率に対するケフィアの効果が、次のような癌患者に対する臨床試験(追跡調査)によって確認された。
【0031】
[対象]
[A群(患者A~F)6名]
1. 患者A 女性、70歳代 下顎歯肉の扁平上皮癌、 術後外照射(55Gy)
2. 患者B 男性 50歳代 舌部の扁平上皮癌、 術後外照射(50Gy)
3. 患者C 女性 80歳代 下顎歯肉の扁平上皮癌、 根治的外照射(66Gy)、化学療法(UFT 300mg/day)
4. 患者D 男性 50歳代 下顎歯肉の扁平上皮癌、 術前外照射(40Gy)、化学療法(CDDP 120mg、5-FU 2250mg)
5. 患者E 女性 70歳代 下顎歯肉の扁平上皮癌、根治的外照射(30Gy)、組織内照射(60Gy)、化学療法(TS-1 100mg/day)
6. 患者F 女性 70歳代 頬粘膜の扁平上皮癌、根治的外照射(70Gy)
【0032】
[B群(患者G~W)17名]
1. 患者G 男性 60歳代 口腔底の扁平上皮癌、術後外照射(50Gy)
2. 患者H 男性 50歳代 口腔底の扁平上皮癌、術前外照射(40Gy)
3. 患者I 男性 70歳代 下顎歯肉の扁平上皮癌、根治的外照射(66Gy)、化学療法(TS-1 80mg/day)
4. 患者J 男性 60歳代 舌部の扁平上皮癌、根治的外照射(30Gy)、組織内照射(60Gy)、化学療法(TS-1 80mg/day)
5. 患者K 男性 30歳代 舌部の扁平上皮癌、根治的外照射(30Gy)、組織内照射(60Gy)、化学療法(CDDP 150 mg)
6. 患者L 男性 60歳代 口腔底の扁平上皮癌、根治的外照射(30Gy)、組織内照射(60Gy)、化学療法(CDDP 130mg+5-FU 4000mg)
7. 患者M 男性、60歳代 舌部の扁平上皮癌、根治的外照射(70Gy)
8. 患者N 女性 70歳代 下顎歯肉の扁平上皮癌、術後外照射(60Gy)、化学療法(CDDP 100 mg+5-FU 3000 mg)
9. 患者O 女性 70歳代 頬粘膜の扁平上皮癌、根治的外照射(66Gy)、化学療法(UFT 300 mg/day)
10. 患者P 男性 90歳代 下顎歯肉の扁平上皮癌、根治的外照射(70Gy)、化学療法(UFT 300 mg/day)
11. 患者Q 男性 80歳代 舌部の扁平上皮癌、根治的外照射(66Gy)
12. 患者R 男性 50歳代 口腔底の扁平上皮癌、術前外照射(40Gy)
13. 患者S 男性、50歳代 舌部の扁平上皮癌、術後外照射(60Gy)、化学療法(CDDP 100 mg+5-FU 3000 mg)
14. 患者T 男性 70歳代 下顎歯肉の扁平上皮癌、術前外照射(40Gy)
15. 患者U 男性 60歳代 下顎歯肉の扁平上皮癌、根治的外照射(60Gy)、化学療法(CDDP 80mg+5-FU 3000mg)
16. 患者V 男性 80歳代 頬粘膜の扁平上皮癌、根治的外照射(70Gy)
17. 患者W 男性 70歳代 下顎歯肉の扁平上皮癌、根治的外照射(70Gy)
【0033】
[患者背景]
患者背景を次の表1にまとめて示す。化学療法はいずれも全身化学療法である。A群はケフィア投与群、B群はケフィア非投与群である。
【0034】
【表1】
【0035】
[口腔癌のStage分類]
口腔癌のStage分類を次の表2にまとめて示す。このステージ分類は、以下の表3の通りであり、国際対がん連合(UICC,2010年 7th edition)による悪性腫瘍のStage分類に基づいたものである。
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
表3の病期分類において、それぞれ以下の通りである。
[T-原発腫瘍]
TX :原発腫瘍の評価が不可能
T0 :原発腫瘍を認めない
Tis :上皮内癌
T1 :最大径が2 cm 以下の腫瘍
T2 :最大径が2 cm をこえるが4 cm 以下の腫瘍
T3 :最大径が4 cm をこえる腫瘍
T4a:口唇:骨髄質、下歯槽神経、口腔底、皮膚(顎または外鼻)に浸潤する腫瘍
T4a:口腔:骨髄質、舌深層の筋肉/外舌筋(オトガイ舌筋、舌骨舌筋、口蓋舌筋、口蓋舌筋、茎突舌筋)、上顎洞、顔面の皮膚に浸潤する腫瘍
T4b:口唇および口腔:咀嚼筋間隙、翼状突起、または頭蓋底に浸潤する腫瘍,または内頸動脈を全周性に取り囲む腫瘍
(注:歯肉を原発巣とし、骨および歯槽のみに表在性びらんが認められる症例T4としない。)
【0039】
[N-所属リンパ節]
NX :所属リンパ節転移の評価が不可能
N0 :所属リンパ節転移なし
N1 :同側の単発性リンパ節転移で最大径が 3 cm以下
N2 :同側の単発性リンパ節転移で最大径が 3 cmを超えるが 6 cm以下、または同側の多発性リンパ節転移で最大径が 6 cm以下、または両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が 6 cm以下
N2a :同側の単発性リンパ節転移で最大径が 3 cmを超えるが 6 cm以下
N2b :同側の多発性リンパ節転移で最大径が 6 cm以下
N2c :両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が 6 cm以下
N3 :最大径が 6 cmを超えるリンパ節転移
(注:正中リンパ節は同側リンパ節である。)
【0040】
[M-遠隔転移]
MX :遠隔転移の評価が不可能
M0 :遠隔転移なし
M1 :遠隔転移あり
【0041】
[ケフィアの投与]
ケフィアの投与は、放射線療法及び/又は化学療法による治療期間中に、ケフィア乾燥粉末の顆粒状製剤を、1回2包ずつ毎食後1回(1日あたり6包)内服することによって行った。1包中には顆粒状製剤4gが含まれ、乾燥ケフィア相当量25mg/1包であった。
【0042】
[解析の手法]
広島大学病院顎・口腔外科において放射線治療及び化学療法による治療を施行した口腔癌患者(2006年から2010年)のうち、治療期間中にケフィアを内服することに同意された6名の患者群(ケフィア投与群)と、同時期に同様な治療を施行した17名の患者群(対照群)の2群間での予後(生存率)について、カプランマイヤー法を用いて検討した。統計処理ソフトはGraphPad Prism Ver 4.0 for Macintoshを使用した。
【0043】
[転帰]
転帰を次の表4にまとめて示す。原病死は、癌治療の対象となった癌によると考えられる病死を意味し、他病死はそれ以外による病死を意味する。
【0044】
【表4】
【0045】
[生存日数]
A群(患者A~F 放射線療法+化学療法+ケフィア投与)6名の生存日数を次の表5にまとめて示す。B群(患者G~W 放射線療法+化学療法+ケフィア非投与)17名の生存日数を次の表6にまとめて示す。表中、調査時点で生存の場合に、生存日数へ「+α」の表記を付した。
【0046】
【表5】
【0047】
【表6】
【0048】
[カプランマイヤー生存曲線]
ログランク検定によりA群及びB群の2群間の生存率は、P値0.0369(5%以下の危険率)で有意差を認めた。この結果を図1に示す。
【0049】
図1において、横軸は時間(日数)、縦軸は生存率(%)である。図1の2つの生存曲線(Survival Curve)のうち、上側に位置する生存曲線は、ケフィア投与群(Kefia(+))(A群)であり、下側に位置する生存曲線は、ケフィア非投与群(Kefia(-))(B群)である。この検定における条件を次の表7にまとめて示す。
【0050】
【表7】
【0051】
これらの結果から、ケフィア投与群(A群)は、非投与群(B群)と対比して、生存率が有意に高いこと(P値0.0369)が明らかになった。
【0052】
[所定年数後の生存率]
図1で示されている上記A群及びB群の1~5年後の生存率及び生存数を、あらためて次の表8にまとめて示す。
【表8】
【0053】
[結果のまとめ]
1. ケフィア投与群(A群)においては、対照群(ケフィア非投与群)(B群)と比較して、癌治療生存率が、1年後、2年後、3年後、4年後において、有意に向上していたことがわかった。また、ケフィア投与群(A群)においては、対照群(ケフィア非投与群)(B群)と比較して、癌治療生存率が、5年後において、大きく向上していたこと、さらに6年後及び7年後においても向上していたことがわかった。
2. ケフィアを投与した患者群でケフィアが原因と考えられるアレルギーや副作用は全くみられなかった。また、内服指示のコンプライアンスは良好であった。
【0054】
このように、ケフィアの経口投与は、癌治療生存率を向上する効果を有していた。さらに、いかなる副作用も見られず、安全性が高いものであると同時に、全ての患者において服用の中断は見られず、内服が容易なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る癌治療生存率向上剤は、癌治療による生存率、特に化学療法及び放射線療法による生存率を、向上させることができる。本発明は、臨床的に確認された統計的に有意な効果を有する癌治療生存率向上剤を、初めて提供する。本発明は、産業上有用な発明である。
図1