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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】導体-ポリイミド積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/088 20060101AFI20241028BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20241028BHJP
   H05K 1/03 20060101ALN20241028BHJP
【FI】
B32B15/088
C08G73/10
H05K1/03 610N
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020214104
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099997
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(72)【発明者】
【氏名】橘高 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕明
(72)【発明者】
【氏名】王 宏遠
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-155360(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158825(WO,A1)
【文献】特開2020-109166(JP,A)
【文献】特開平03-143924(JP,A)
【文献】安藤慎治,ポリイミドの屈折率予測と分子鎖の凝集状態,高分子論文集,日本,1994年,Vol.51, No.4,p.251-257,DOI:https://doi.org/10.1295/koron.51.251,特に、p.253 Fig.3., p.254 Fig.4., Table 2., p.255 Fig.5., Fig.7.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
H05K1/03
C08J5/00-5/02;5/12-5/22
C08G73/00-73/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された導体層とを備えた導体-ポリイミド積層体であって、
前記絶縁樹脂層が複数層のポリイミド層を含むと共に黄色度が20以下であり、少なくとも1層のポリイミド層(P1)が前記導体層と直接積層されており、
前記ポリイミド層(P1)は、屈折率が1.65以上1.75以下の範囲内であり、
前記ポリイミド層(P1)が、下記の条件a)及びb)を満たすことを特徴とする導体-ポリイミド積層体。
a)全ジアミン残基に対して、下記の一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を75~100モル%含有すること。
b)全テトラカルボン酸無水物残基に対して、下記の一般式(B1)で表されるテトラカルボン酸無水物化合物から誘導されるテトラカルボン酸無水物残基を75~100モル%含有すること。
【化1】
[式(A1)中、Rは独立に、ハロゲン原子であるか、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基若しくはアルコキシ基であるか、又は炭素数1~6の1価の炭化水素基若しくはアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基若しくはフェノキシ基を示し、Zは独立に-O-、-S-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH)-、-SO-から選ばれる2価の基を示し、少なくとも1つのZは-SO-である。n1は0~3の整数、n2は0~4の整数を示す。]
【化2】
【請求項2】
前記絶縁樹脂層全体の熱膨張係数が10ppm/K以上30ppm/K以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の導体-ポリイミド積層体。
【請求項3】
前記絶縁樹脂層全体の全光線透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の導体-ポリイミド積層体。
【請求項4】
前記絶縁樹脂層全体の1%重量減少温度が450℃以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の導体-ポリイミド積層体。
【請求項5】
前記絶縁樹脂層全体の厚みに対して、導体層に直接積層されるポリイミド層の厚みが1%以上50%未満であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の導体-ポリイミド積層体。
【請求項6】
前記絶縁樹脂層全体の厚みが3μm以上20μm以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の導体-ポリイミド積層体。
【請求項7】
前記絶縁樹脂層と前記導体層との180°ピール強度が0.3kN/m以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の導体-ポリイミド積層体。
【請求項8】
前記複数層からなるポリイミド層のうち導体層と直接積層しないポリイミド層(P2)は、全ジアミン残基に対して、下記の一般式(A2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を20モル%以上含有することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の導体-ポリイミド積層体。
【化3】
[式(A2)において、Rは独立にフッ素原子またはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基もしくはアルコキシ基を示し、pおよびqは独立して0~4の整数を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、接着性、柔軟性に優れ、かつ高透明性の絶縁樹脂層を有する導体-ポリイミド積層体に関する
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、テトラカルボン酸無水物とジアミンを原料とし、これらの縮合反応により合成されるポリアミド酸を閉環反応して得られる耐熱性の樹脂で、分子鎖の剛直性、共鳴安定化、強い化学結合により熱分解に優れた抵抗を有し、酸化又は加水分解のような化学変化に対して高い耐久性を持ち、柔軟性、機械的特性及び電気的特性に優れている。一般的に電子機器に使用されるフレキシブルプリント基板(FPC;Flexible Printed Circuits)の絶縁樹脂層には、ポリイミドが広く用いられている。
【0003】
一般的にFPCに用いられている市販の銅張積層板における絶縁樹脂層は、全芳香族ポリイミド樹脂からなり、分子内及び分子間での電荷移動錯体の形成により黄褐色を示し、これを無色透明性が要求される透明FPC用途に適用することは困難である。
【0004】
ポリイミドを無色透明性化するために、ジアミン成分として脂環族ジアミンや脂環族酸無水物を用いることにより分子内及び分子間での電荷移動錯体の形成を抑制することが提案されている。例えば、特許文献1では、脂環族ジアミンと芳香族酸二無水物とから形成される無色透明性の半脂環族ポリイミドが提案され、また特許文献2では、脂環族ジアミンと脂環族酸無水物とからなる無色透明の全脂環族ポリイミドが提案されている。しかし、得られるポリイミドのガラス転移温度はいずれも約280℃以下であり、耐熱性が不十分であり、FPCの絶縁層として主要構成部分に適用することは困難である。また、無色透明ポリイミドは電荷移動錯体形成を抑制することから、FPCに要求される低熱膨張性を満足し難いという問題もある。
【0005】
特許文献3には、透明性を有し、平滑な金属層とも十分な接着力のある金属張積層体が提案されているが、金属層と接着するポリイミドは依然着色があり、透明性について改善の余地がある。
【0006】
FPCに使用される金属張積層体は、薄い金属箔とポリイミド層を含む絶縁樹脂層から構成され、金属箔と絶縁樹脂層との熱膨張係数(CTE)の差が大きく異なると、基板に反りやカールが発生し、電子部品を実装する際に寸法が変化して正確な実装ができなくなるといった問題が起こる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平7-10993号公報
【文献】特開2008-163210号公報
【文献】特開2010-155360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記のような背景技術に加えて、近年では導体層と絶縁樹脂層とにおいていずれも透明性を担保した透明FPCを透明なアンテナとして用いて、これを窓ガラス表面に形成して窓を基地局化する「ガラスアンテナ」であったり、モバイル用途においてディスプレイにアンテナを埋め込む技術が開発されている。こうした新しい用途において、導体層は透明な導体層を形成する他に、肉眼では見えづらい細い配線を形成する手法等が知られているが、いずれの手法においても配線を保護する透明バリア層が必要となる。また、透明伝導層などの機能層と透明FPCが積層される設計も考えられる。そのため、透明FPCを用いたこのような新しいデバイスを形成しようとする場合も考慮して透明性を発現する開発設計が必要となる。
【0009】
そして、このような透明バリア層を必要とする用途や各種機能層と積層させる用途においては、透明FPCにおける透明絶縁層と積層される層の組み合わせによっては層間で光反射が発生し、透明性が低下する問題が懸念され、このような懸念も含めて、総じてデバイスとしての透明性について更なる検討の余地があった。
【0010】
本発明の目的は、優れた耐熱性、熱膨張係数に代表される寸法安定性、柔軟性、接着性と共に、高透明性を併せ持って配線基板の用途に好適であり、しかも、透明バリア層や各種機能層と積層させる透明FPCとしての新たな用途にも適用可能な、導体層とポリイミド層(絶縁樹脂層)との積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は上記課題を解決するために検討を重ねた結果、導体層に接するポリイミド層において特定の樹脂構造を用いることで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された導体層とを備えた導体-ポリイミド積層体であって、
前記絶縁樹脂層が複数層のポリイミド層を含むと共に黄色度が20以下であり、少なくとも1層のポリイミド層(P1)が前記導体層と直接積層されており、
前記ポリイミド層(P1)が、下記の条件a)及びb)を満たすことを特徴とする導体-ポリイミド積層体。
a)全ジアミン残基に対して、下記の一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を10モル%以上含有すること。
b)全テトラカルボン酸無水物残基に対して、下記の一般式(B1)で表されるテトラカルボン酸無水物化合物から誘導されるテトラカルボン酸無水物残基を10モル%以上含有すること。
【化1】
[式(A1)中、Rは独立に、ハロゲン原子であるか、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基若しくはアルコキシ基であるか、又は炭素数1~6の1価の炭化水素基若しくはアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基若しくはフェノキシ基を示し、Zは独立に-O-、-S-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH)-、-SO-から選ばれる2価の基を示し、少なくとも1つのZは-SO-である。n1は0~3の整数、n2は0~4の整数を示す。]
【化2】
[2]前記絶縁樹脂層全体の熱膨張係数が10ppm/K以上30ppm/K以下の範囲内であることを特徴とする[1]に記載の導体-ポリイミド積層体。
[3]前記絶縁樹脂層全体の全光線透過率が80%以上であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の導体-ポリイミド積層体。
[4]前記絶縁樹脂層全体の1%重量減少温度が450℃以上であることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の導体-ポリイミド積層体。
[5]前記絶縁樹脂層全体の厚みに対して、導体層に直接積層されるポリイミド層の厚みが1%以上50%未満であることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の導体-ポリイミド積層体。
[6]前記絶縁樹脂層全体の厚みが3μm以上20μm以下であることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の導体-ポリイミド積層体。
[7]前記絶縁樹脂層と前記導体層との180°ピール強度が0.3kN/m以上であることを特徴とする[1]~[6]のいずれかに記載の導体-ポリイミド積層体。
[8]前記複数層からなるポリイミド層のうち導体層と直接積層しないポリイミド層(P2)は、全ジアミン残基に対して、下記の一般式(A2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を20モル%以上含有することを特徴とする[1]~[7]のいずれかに記載の導体-ポリイミド積層体。
【化3】
[式(A2)において、Rは独立にフッ素原子またはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基もしくはアルコキシ基を示し、pおよびqは独立して0~4の整数を示す。]
[9]前記ポリイミド層(P1)は、屈折率が1.54を超え1.75以下であることを特徴とする[1]~[8]のいずれかに記載の導体-ポリイミド積層体。
【発明の効果】
【0013】
本発明の導体-ポリイミド積層体は、優れた耐熱性、寸法安定性、接着性、柔軟性及び高透明性を有するため、特にFPC等の電子部品を製造するための絶縁材料として、とりわけ半導体素子の実装を伴う無色透明性が要求される透明FPC用途に好適に用いられる。さらに、透明バリア層や機能層と積層させるような、透明FPCの新たな用途においても適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
<積層体>
本実施の形態の積層体は、絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された導体層とを備えている。なお、本実施の形態の積層体は、絶縁樹脂層の片側に導体層を有してもよいし、絶縁樹脂層の両側に導体層を有してもよい。以下、積層体を構成する絶縁樹脂層と導体層や積層体の形成方法などについて、さらに説明する。
【0016】
<絶縁樹脂層>
本実施の形態の積層体における絶縁樹脂層は、複数層のポリイミド層を含む。複数のポリイミド層を有することによって、耐熱性、接着性、柔軟性、透明性などの各物性に優れた絶縁樹脂層となすことができる。なお、絶縁樹脂層にポリイミド層以外の層を含むことは排除されず、用途等によって、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)や、液晶ポリマー(LCP)や、ポリエチレンテレフタラート(PET)等の透明な樹脂層を含むことができるがこれらに限定されない。
複数のポリイミド層は、導体層に直接積層するポリイミド層(P1)と導体層と直接積層しないポリイミド層(P2)との二層構造でもよい。好ましくは三層であり、より好ましくは、第三のポリイミド層(P3)が(P1)/(P2)/(P3)の順に積層していることが好ましい。導体層に直接積層するポリイミド層(P1)と第三のポリイミド層(P3)は同一組成であってもよい。例えば、複数のポリイミド層をキャスト法によって形成する場合では、キャスト面側から導体層に直接積層するポリイミド層(P1)及び導体層と直接積層しないポリイミド層(P2)がこの順序で積層された二層構造とすることでもよいし、キャスト面側から導体層に直接積層するポリイミド層(P1)及び導体層と直接積層しないポリイミド層(P2)、第三のポリイミド層(P3)がこの順序で積層された三層構造とすることでもよい。ここで言う「キャスト面」とはポリイミド層を形成する際における、支持体側の面のことを示す。支持体は、積層体の導体層であってもよいし、ガラス等でもよいし、ゲルフィルム等を形成する際の支持体であってもよい。なお、複数のポリイミド層においてキャスト面と反対側の面は「ラミネート面」と記述するが、特に記述が無い場合、ラミネート面に導体層が積層されていてもされていなくてもよい。
【0017】
ポリイミド層(P1)とポリイミド層(P3)を構成するポリイミドは熱可塑性ポリイミドとすることが好ましく、絶縁樹脂層としての接着性を向上させ、導体層との接着層としての適用が好適となる。
【0018】
絶縁樹脂層の好ましい実施形態は、熱可塑性のポリイミド層(P1)と、非熱可塑性ポリイミドから構成される非熱可塑性ポリイミド層(P2)とを有し、この非熱可塑性ポリイミド層(P2)の少なくとも一方に熱可塑性ポリイミド層となるポリイミド層(P1)を有するものがよい。すなわち、ポリイミド層(P1)は、非熱可塑性ポリイミド層の片面又は両面に設けるとよい。
【0019】
また非熱可塑性ポリイミド層は低熱膨張性のポリイミド層を構成し、熱可塑性ポリイミド層は高熱膨張性のポリイミド層を構成する。ここで、低熱膨張性のポリイミド層は、熱膨張係数(CTE)が好ましくは1ppm/K以上25ppm/K以下の範囲内、より好ましくは3ppm/K以上25ppm/K以下の範囲内のポリイミド層をいう。また、高熱膨張性のポリイミド層は、CTEが好ましくは35ppm/K以上、より好ましくは35ppm/K以上80ppm/K以下の範囲内、更に好ましくは35ppm/K以上70ppm/K以下の範囲内のポリイミド層をいう。ポリイミド層は、使用する原料の組合せ、厚み、乾燥・硬化条件を適宜変更することで所望のCTEを有するポリイミド層とすることができる。
ここで、非熱可塑性ポリイミドとは、一般に加熱しても軟化、接着性を示さないポリイミドのことであるが、本実施の形態では、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、350℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であるポリイミドをいう。また、熱可塑性ポリイミドとは、一般にガラス転移温度(Tg)が明確に確認できるポリイミドのことであるが、本実施の形態では、DMAを用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa未満であり、350℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa未満であるポリイミドをいう。
【0020】
<ポリイミド層P1に用いられるジアミン残基>
導体層に接するポリイミド層P1は、ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基とテトラカルボン酸無水物化合物から誘導されるテトラカルボン酸無水物残基とを有するが、全ジアミン残基に対して、下記の一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基(単に、「A1残基」と呼ぶことがある。これ以降の化合物においても同様である。)を10モル%以上含有する。
【化4】
【0021】
上記式(A1)中、Rは独立に、ハロゲン原子であるか、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基若しくはアルコキシ基であるか、又は炭素数1~6の1価の炭化水素基若しくはアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基若しくはフェノキシ基を示し、Zは独立に-O-、-S-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH)-、-SO-から選ばれる2価の基を示し、少なくとも1つのZは-SO-である。n1は0~3の整数、n2は0~4の整数を示す。ここで、「独立に」とは、複数の置換基R、2価の基Z、さらに整数n1が、同一でもよいし、異なっていてもよいことを意味する。以降の他の化学式や置換基などにおいても、同様である。なお、上記式(A1)において、末端の二つのアミノ基における水素原子は置換されていてもよく、例えば-NR(ここで、R,Rは、独立してアルキル基などの任意の置換基を意味する)であってもよい。以降の他のジアミン化合物についても同様である。
【0022】
上記式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基は少なくとも2つのベンゼン環を含み、それらがエーテル結合等の屈曲性のある結合によって結合され、かつ結合部位Zの少なくとも1つには―SO―を含むため、―SO―部位の電子豊富な性質から屈折率を上げることができ、かつ屈曲構造により導体層との接着性が発現され、さらに、複数のベンゼン環を含むことから高分子中のイミド基割合を抑えることで透明性が発現される効果も期待できる。このような観点から、ポリイミド層P1に用いられるジアミン残基として、全ジアミン残基の合計100モル%に対して、A1残基を10モル%以上含有する。30~100モル%の範囲内で含有することが好ましく、50~100モル%の範囲内で含有することがより好ましく、75~100モル%の範囲内で含有することがさらに好ましい。10モル%未満では屈折率を十分に担保することができず、機能層と積層させた際に、層間反射によって光透過率が低下するおそれがある。
【0023】
A1残基の好ましい具体例としては、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(DDS)等のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が挙げられる。この中でもビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)から誘導されるジアミン残基が特に好ましい。
【0024】
本発明の効果を阻害しない限り、導体層に接するポリイミド層P1は、上記以外のジアミン残基として、一般にポリイミドの合成に使用されるジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含んでいてもよい。その他のジアミン残基としては、例えば、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル(TFMB)、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、2,2’-ジビニル-4,4’-ジアミノビフェニル(VAB)、4,4’-ジアミノビフェニル、p‐フェニレンジアミン(p-PDA)、m‐フェニレンジアミン(m-PDA)、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、(3,3’-ビスアミノ)ジフェニルアミン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、3-[3-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン(BAPK)、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル等に由来する構造単位が挙げられる。これらの中でも、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)が好ましい。
【0025】
<ポリイミド層P1に用いられる酸無水物残基>
導体層に接するポリイミド層P1は、全テトラカルボン酸無水物残基(単に、「酸無水物残基」などと呼ぶことがある。以降も同様である。)に対して、下記の一般式(B1)で表されるテトラカルボン酸無水物化合物から誘導されるテトラカルボン酸無水物残基を10モル%以上含有する。
【化5】
【0026】
上記式(B1)で表されるテトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸無水物残基は、エーテル結合によって2つのフェニル基が結合された構造をとることから、ジアミンとイミド構造を形成した際に、酸無水物残基の電子受容性が抑制されることより、電荷移動相互作用が抑制され透明性が期待できる。さらに、エーテル結合は適度な屈曲性を高分子鎖に与えることができるため、導体層との接着性発現も期待することができる。このような観点から、ポリイミド層P1に用いられる酸無水物残基として、全酸無水物残基の合計100モル%に対して、B1残基を10モル%以上含有することが好ましく、30~100モル%の範囲内で含有することがより好ましく、50~100モル%の範囲内で含有することがより好ましい。75~100モル%の範囲内で含有することがさらに好ましい。10モル%未満では黄色度(YI)が悪化するおそれがある。
【0027】
B1残基の好ましい具体例としては、4,4’-オキシジフタル酸無水物 (ODPA)、3,4’-オキシジフタル酸無水物が、より好ましい酸二無水物として挙げられる。
【0028】
本発明の効果を阻害しない限り、導体層に接するポリイミド層P1は、上記以外の酸無水物残基として、一般にポリイミドの合成に使用される酸無水物成分から誘導される酸無水物残基を含んでいてもよい。そのような酸無水物残基としては、芳香族テトラカルボン酸残基が好ましい。また、脂環式テトラカルボン酸残基を含有してもよく、例えば、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、フルオレニリデンビス無水フタル酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸ニ無水物、シクロペンタノンビススピロノルボルナンテトラカルボン酸二無水物などの脂環式テトラカルボン酸二無水物から誘導される酸無水物残基が好ましく挙げられる。
【0029】
他の酸無水物残基としては、例えば、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3'',4,4''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3'',4''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ペリレン-2,3,8,9-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-4,5,10,11-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-5,6,11,12-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1, 2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,9,10-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4'-オキシジフタル酸二無水物、(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(ヘプタフルオロプロピル)ピロメリット酸二無水物、ペンタフルオロエチルピロメリット酸二無水物、ビス{3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェノキシ}ピロメリット酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、5,5'-ビス(トリフルオロメチル)-3,3',4,4'-テトラカルボキシビフェニル二無水物、2,2',5,5'-テトラキス(トリフルオロメチル)-3,3',4,4'-テトラカルボキシビフェニル二無水物、5,5'-ビス(トリフルオロメチル)-3,3',4,4'-テトラカルボキシジフェニルエーテル二無水物、5,5'-ビス(トリフルオロメチル)-3,3',4,4'-テトラカルボキシベンゾフェノン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ベンゼン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}トリフルオロメチルベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)トリフルオロメチルベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、2,2-ビス{(4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビフェニル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ジフェニルエーテル二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、フルオレニリデンビス無水フタル酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸ニ無水物から誘導される酸無水物残基などが挙げられる。これらの中でも、ポリイミドフィルムに強度と柔軟性を与えることが可能であることから、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から誘導される酸無水物残基が好ましい。
【0030】
<屈折率>
また、導体層に直接積層するポリイミド層(P1)については、その屈折率は1.54を超え1.75以下の範囲内とすることが好ましい。より好ましくは1.60以上1.75以下の範囲内、さらに好ましくは1.65以上1.75以下の範囲内とすることがよい。上記の屈折率の範囲に合わせることで、透明バリア層や機能層などを設けるような用途においても、それらの層との層間反射を抑制しつつも、直接積層しない後述のポリイミド層(P2)に一般的なポリイミドの屈折率を適用できるため、設計の自由度を上げることができる。一例として、本発明の積層体をガラスアンテナや、ディスプレイにアンテナを埋め込む用途等に適用しようとする場合、配線を保護するバリア層やITO膜等の透明導電層との積層構造が用いられる場合があるが、例えばITO膜であれば波長によって屈折率が1.7~2.3程度に対して大きく、一般的なポリイミドの屈折率(1.5程度)とは屈折率の差が大きくなる場合も想定されることから、少なくともポリイミド層P1の屈折率を上記の範囲にすることで、層間屈折率差による反射によるデバイス形成時の光透過率低下を抑えることが可能となる。
屈折率の制御方法について特に制限はなく、一例として屈折率の高い無機フィラーを含有させる、樹脂構造を制御する等の方法で一般的なポリイミドよりも屈折率を上げる方法が挙げられる。好ましくは樹脂構造に前記A1残基を含有させ、A1残基の含有割合を増やすことで、屈折率を向上させる方法が好ましい。より好ましくはB1残基も同時に含有させ、A1残基とB1残基の合計含有割合を増やすことで、屈折率を向上させる方法が好ましい。
【0031】
<ポリイミド層P2に用いられるジアミン>
導体層に直接積層しないポリイミド層P2は、フッ素含有ジアミン残基を含有することが好ましい。フッ素含有ジアミン残基は、嵩高いフッ素原子を含有する基を有するため、高分子鎖間のπ-πスタッキング等の相互作用を減少させ、芳香族テトラカルボン酸残基と芳香族ジアミン残基との間の電荷移動(CT)を起こりにくくするため、ポリイミドを無色透明に近づけることができると考えられる。
【0032】
フッ素含有ジアミン残基の中でも、一般式(A2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を含有することがより好ましい。
【化6】
【0033】
上記式(A2)において、Rは独立にフッ素原子またはフッ素原子で置換されていてもよい炭素数1~3のアルキル基もしくはアルコキシ基を示し、pおよびqは独立して0~4の整数を示す。
【0034】
上記式(A2)で表されるジアミンは、芳香族骨格を中心に構成させていることから耐熱性に優れ、含フッ素構造により透明性にも優れている。さらに、分子を配向させる働きから熱膨張係数(CTE)を低下させる効果も期待できる。Rは、前記耐熱性の観点から、フッ素原子であるかまたはフッ素原子置換メチル基が好ましい。このような観点から、ポリイミド層P2に用いられるジアミン残基として、全ジアミン残基の合計100モル%に対して、A2残基を20モル%以上含有することが好ましく、50~100モル%の範囲内で含有することがより好ましく、75~100モル%の範囲内で含有することがより好ましい。A2残基を上記の範囲とすることで、ポリイミド層全体のCTEが増加することを防止し、反りが発生することを抑えることができる。
【0035】
具体的には、下記式(A2-1)~(A2-4)に由来する構造単位が挙げられる。
【0036】
【化7】
【0037】
上記式(A2-1)~(A2-4)のうち、より好ましくは、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)由来の構造単位である式(A2-1)である。
【0038】
ポリイミド層P2は、上記以外のジアミン残基として、一般にポリイミドの合成に使用されるジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含んでいてもよい。そのようなジアミン成分としては、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、(3,3’-ビスアミノ)ジフェニルアミン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、3-[3-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、4,4'-[2-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[4-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[5-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、4-[3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]フェノキシ]アニリン、4,4’-[オキシビス(3,1-フェニレンオキシ)]ビスアニリン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン(BAPK)、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、4,4’‐ジアミノジフェニルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)が好ましい。
【0039】
<ポリイミド層P2に用いられる酸無水物>
ポリイミド層P2は、全酸無水物残基に対して、一般式(B2)で表される酸無水物化合物から誘導される酸無水物残基を10モル%以上含有することが好ましい。
【0040】
【化8】
【0041】
上記式(B2)において、Xは単結合、-O-、又は-C(CF-から選ばれる2価の基を示す。
【0042】
上記式(B2)で表される芳香族テトラカルボン酸無水物は、屈曲に寄与するX基を有するので、ポリイミドに柔軟性を付与し、絶縁樹脂層の引張強度を向上させるとともに、高分子鎖間のπ-πスタッキング等の相互作用を減少させ、芳香族テトラカルボン酸残基と芳香族ジアミン残基との間の電荷移動(CT)を起こりにくくするため、得られるポリイミドを無色透明に近づけることができると考えられる。
【0043】
上記式(B2)で表される芳香族テトラカルボン酸無水物としては、例えば4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)が挙げられる。これらの芳香族テトラカルボン酸無水物は、ポリイミドフィルムに強度と柔軟性を与えることが可能であり、耐熱性、透明性に優れ、CTEを適切な範囲に制御できることから好ましい。この中でも特に好ましくは、ODPA、6FDAがよい。
【0044】
また、ポリイミド層P2は、フッ素含有酸無水物残基を含有することが好ましい。フッ素含有酸無水物残基は、嵩高いフッ素原子を含有する基を有するため、高分子鎖間のπ-πスタッキング等の相互作用を減少させ、芳香族テトラカルボン酸残基と芳香族ジアミン残基との間の電荷移動(CT)を起こりにくくするため、ポリイミドを無色透明に近づけることができると考えられる。
【0045】
また、ポリイミド層P2は、ポリイミド層のCTEを上記範囲内に制御するため、下記の式(B3)で表される、ピロメリット酸二無水物(PMDA)から誘導される4価の酸無水物残基(以下、「PMDA残基」と記すことがある)を含有することが好ましい。PMDA残基は、全酸無水物残基の合計100モル部に対して、50モル部以上含有することが好ましく、60~100モル部の範囲内で含有することがより好ましい。PMDA残基が上記の範囲では、ポリイミド層のCTEが高くなってしまうことを防止し、寸法安定性が低下することを抑えることができる。
【0046】
【化9】
【0047】
また、ポリイミド層P2は、上記以外の酸無水物残基として、一般にポリイミドの合成に使用される酸無水物成分から誘導される酸無水物残基を含んでいてもよい。そのような酸無水物残基としては、芳香族テトラカルボン酸残基が好ましい。また、脂環式テトラカルボン酸残基を含有してもよく、例えば、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、フルオレニリデンビス無水フタル酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸ニ無水物、シクロペンタノンビススピロノルボルナンテトラカルボン酸二無水物などの脂環式テトラカルボン酸二無水物から誘導される酸無水物残基が好ましく挙げられる。
【0048】
他の酸無水物残基としては、例えば、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3'',4,4''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3'',4''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ペリレン-2,3,8,9-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-4,5,10,11-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-5,6,11,12-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1, 2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,9,10-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4'-オキシジフタル酸二無水物、(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(トリフルオロメチル)ピロメリット酸二無水物、ジ(ヘプタフルオロプロピル)ピロメリット酸二無水物、ペンタフルオロエチルピロメリット酸二無水物、ビス{3,5-ジ(トリフルオロメチル)フェノキシ}ピロメリット酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、5,5'-ビス(トリフルオロメチル)-3,3',4,4'-テトラカルボキシビフェニル二無水物、2,2',5,5'-テトラキス(トリフルオロメチル)-3,3',4,4'-テトラカルボキシビフェニル二無水物、5,5'-ビス(トリフルオロメチル)-3,3',4,4'-テトラカルボキシジフェニルエーテル二無水物、5,5'-ビス(トリフルオロメチル)-3,3',4,4'-テトラカルボキシベンゾフェノン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ベンゼン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}トリフルオロメチルベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)トリフルオロメチルベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン二無水物、2,2-ビス{(4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビフェニル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物、ビス{(トリフルオロメチル)ジカルボキシフェノキシ}ジフェニルエーテル二無水物、ビス(ジカルボキシフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、フルオレニリデンビス無水フタル酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸ニ無水物から誘導される酸無水物残基などが挙げられる。これらの中でも、ポリイミドフィルムに強度と柔軟性を与えることが可能であり、ポリイミドフィルムの熱膨張係数(CTE)が上がりすぎず、適切な範囲に制御できることから、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から誘導される酸無水物残基が好ましい。
【0049】
<ポリイミド層P3>
ポリイミド層P3については、特に制限はなく、ポリイミド層P1と同一組成ものを適用してもよい。ポリイミド層P1と異なる組成を適用する場合は、一般式(A3)で表される芳香族ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を50モル%以上含有することが好ましい。
【化10】
【0050】
上記式(A3)において、Zは独立に-O-、-S-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH)-、又は-SO-から選ばれる2価の基を示し、好ましくは-O-である。n2は0~4の整数を示し、好ましくは0又は1である。Rは置換基であり、独立に、ハロゲン原子であるか、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基若しくはアルコキシ基であるか、又は炭素数1~6の1価の炭化水素基若しくはアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基若しくはフェノキシ基を示す。n1は独立に0~3の整数を示し、好ましくは0又は1である。
【0051】
上記式(A3)で表される芳香族ジアミン化合物は2つ以上のベンゼン環を有し、少なくとも2つのベンゼン環に直結したアミノ基と2価の連結基Zがあることで、ポリイミド分子鎖が有する自由度が増加して高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与し、接着性と高靭性化を促すと考えられる。
【0052】
またポリイミド層P3にポリイミド層P1と異なる組成を適用する場合は、前記一般式(B2)で表される芳香族テトラカルボン酸無水物から誘導される酸無水物残基を、全酸無水物残基に対して50モル%以上含有し、該ポリイミドに含まれる全ジアミン残基に対し、前記一般式(A3)で表わされる芳香族ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を50モル%以上含有することよい。
【0053】
上記式(A3)で表される芳香族ジアミン化合物としては、例えば、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、(3,3’-ビスアミノ)ジフェニルアミン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、3-[3-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、4,4'-[2-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[4-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[5-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、4-[3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]フェノキシ]アニリン、4,4’-[オキシビス(3,1-フェニレンオキシ)]ビスアニリン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン(BAPK)、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、4,4’‐ジアミノジフェニルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)が好ましい。
【0054】
他のジアミン残基としては、例えば、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル(TFMB)、ビス[4-(アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、4,6-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノメシチレン、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,5,3',5'-テトラメチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、2,4-トルエンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルプロパン、3,3'-ジアミノジフェニルプロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエタン、3,3'-ジアミノジフェニルエタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフ
ェノキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンジジン、3,3'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメトキシベンジジン、4,4"-ジアミノ-p-ターフェニル、3,3"-ジアミノ-p-ターフェニル、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エー
テル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、4-(1H,1H,11H-エイコサフルオロウンデカノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-(1H,1H-パーフルオロ-1-ブタノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-(1H,1H-パーフルオロ-1-ヘプタノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-(1H,1H-パーフルオロ-1-オクタノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-ペンタフルオロフェノキシ-1,3-ジアミノベンゼン、4-(2,3,5,6-テトラフルオロフェノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-(4-フルオロフェノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-(1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-ヘキサノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、4-(1H,1H,2H,2H-パーフルオロ-1-ドデカノキシ)-1,3-ジアミノベンゼン、(2,5)-ジアミノベンゾトリフルオライド、ジアミノテトラ(トリフルオロメチル)ベンゼン、ジアミノ(ペンタフルオロエチル)ベンゼン、2,5-ジアミノ(パーフルオロヘキシル)ベンゼン、2,5-ジアミノ(パーフルオロブチル)ベンゼン、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル、オクタフルオロベンジジン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(アニリノ)ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(アニリノ)オクタフルオロブタン、1,5-ビス(アニリノ)デカフルオロペンタン、1,7-ビス(アニリノ)テトラデカフルオロヘプタン、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3',5,5'-テトラキス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノ-p-テルフェニル、1,4-ビス(p-アミノフェニル)ベンゼン、p-(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ベンゼン、ビス(アミノフェノキシ)ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、ビス(アミノフェノキシ)テトラキス(トリフルオロメチル)ベンゼン、2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス{4-(2-アミノフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)-3,5-ジメチルフェニル}ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)-3.5-ジトリフルオロメチルフェニル}ヘキサフルオロプロパン、4,4'-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ビフェニル、4,4'-ビス(4-アミノ-3-トリフルオロメチルフェノキシ)ビフェニル、4,4'-ビス(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4'-ビス(3-アミノ-5-トリフルオロメチルフェノキシ)ジフェニルスルホン、2,2-ビス{4-(4-アミノ-3-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン、ビス{(トリフルオロメチル)アミノフェノキシ}ビフェニル、ビス〔{(トリフルオロメチル)アミノフェノキシ}フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、ビス{2-〔(アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロイソプロピル}ベンゼン、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)オクタフルオロビフェニルから誘導されるジアミン残基などが挙げられる。これらの中でも、透明性が高く、着色の程度が低いポリイミドを製造する観点から、2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル、4,4'-ビス(2-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2-ビス(4-(2-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4‘-ビス(3-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-(トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ)ビフェニル、p-ビス(2-トリフルオロメチル)-4-アミノフェノキシ]ベンゼンなどのジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が好ましい。
【0055】
上記酸無水物残基及びジアミン残基の種類や、2種以上の酸無水物残基又はジアミン残基のそれぞれのモル比を選定することにより、靭性、熱膨張性、接着性、ガラス転移温度(Tg)等を制御することができる。
【0056】
<ポリイミドの合成方法>
次に、ポリイミド層を構成するポリイミドの合成方法について説明する。
本実施の形態のポリイミドは、上記酸無水物及びジアミンを溶媒中で反応させ、ポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、酸無水物成分とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0~100℃の範囲内の温度で30分~24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5~30重量%の範囲内、好ましくは10~20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、N-メチル-2-ピロリドン、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、γ‐プチロラクトン等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶剤の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)の濃度が5~30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0057】
ポリイミドの合成において、上記酸無水物及びジアミンはそれぞれ、その1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。酸無水物及びジアミンの種類や、2種以上の酸無水物又はジアミンを使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張性、接着性、ガラス転移温度等を制御することができる。
【0058】
また、本実施の形態のポリイミドは、末端封止剤を用いてもよい。末端封止剤としてはモノアミン類あるいはジカルボン酸類が好ましい。導入される末端封止剤の仕込み量としては、酸無水物成分1モルに対して0.0001~0.1モルが好ましく、特に0.001~0.05モルが好ましい。モノアミン類末端封止剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ベンジルアミン、4-メチルベンジルアミン、4-エチルベンジルアミン、4-ドデシルベンジルアミン、3-メチルベンジルアミン、アニリン、4-メチルアニリン等が推奨される。これらのうち、ベンジルアミン、アニリンが好適に使用できる。ジカルボン酸類末端封止剤としては、ジカルボン酸類が好ましく、その一部を閉環していてもよい。例えば、フタル酸、無水フタル酸、4-クロロフタル酸、テトラフルオロフタル酸、シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸等が推奨される。これらのうち、フタル酸、無水フタル酸が好適に使用できる。
【0059】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80~400℃の範囲内の温度条件で1~24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0060】
ポリアミド酸の重量平均分子量は、例えば10,000~400,000の範囲内が好ましく、50,000~350,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、フィルムの強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が400,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際にフィルム厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0061】
<厚みと厚み比率>
絶縁樹脂層の厚さは、3~20μmの範囲内であることが好ましい。このような範囲に制御することで、高透明性と無色性を向上させることができる。また、絶縁樹脂層の厚みが上記下限値に満たないと、電気絶縁性が担保出来ないことや、ハンドリング性の低下により製造工程にて取扱いが困難になるなどの問題が生じることがある。一方、絶縁樹脂層の厚みが上記上限値を超えると、エッチング前後の寸法変化が大きくなり、黄色~黄褐色の着色が強くなって、絶縁樹脂層の視認性が低下する傾向がある。絶縁樹脂層の厚みは、より好ましくは5~12μmの範囲内がよい。
【0062】
本実施の形態の導体-ポリイミド積層体の寸法安定性と絶縁樹脂層の高透明性及び無色性を維持し、導体層との接着性を向上させるために、導体層に接するポリイミド層(P1)の厚みをT1、導体層と直接積層しないポリイミド層(P2)の厚みをT2とした際に、T1の厚みは1~4μmの範囲内が好ましく、T2の厚みは4~19μmの範囲内が好ましい。別の観点から、T1の厚みは、絶縁樹脂層の厚みに対して1%以上50%未満とすることが好ましく、より好ましくは1%以上30%以下とする。T2の厚みは、好ましくは、絶縁樹脂層の厚みに対して60%以上、より好ましくは70%以上の厚みを有することがよい。
【0063】
<絶縁樹脂層の物性>
絶縁樹脂層は、FPCの主要構成成分に適用するために、ガラス転移温度(Tg)は280℃以上の耐熱性を有する。好ましくは350℃以上、より好ましくは380℃以上である。
【0064】
絶縁樹脂層の1%熱重量減少温度(TD1)は450℃以上であり、好ましくは470℃以上、さらに好ましくは490℃以上が好ましい。このような範囲に制御することで、FPCの主要構成成分に適用しても十分な耐熱性を有する。
【0065】
絶縁樹脂層の熱膨張係数(CTE)は、10~30ppm/Kの範囲内であることが好ましい。このような範囲に制御することで、カール等の変形を抑制でき、また高い寸法安定性を担保できる。ここで、CTEは、絶縁樹脂層のMD方向及びTD方向の熱膨張係数の平均値である。
【0066】
絶縁樹脂層は、例えば透明FPC用途に適用するため、全光線透過率が80%以上であることが好ましい。例えば、絶縁樹脂層の厚さ10μmにおいて、それを満足することが好ましい。より好ましくは、全光線透過率が85%以上である。このような範囲に制御することで、絶縁樹脂層における光の反射、散乱による白濁が抑制され、優れた透明性を有するものとなる。全光線透過率が80%未満では、濁度が高くなって、絶縁樹脂層の透明性が低下する傾向がある。
【0067】
また、絶縁樹脂層の黄色度(YI)は20以下であることが好ましく、より好ましくは10以下、さらに好ましくは7以下である。例えば、絶縁樹脂層の厚さ10μmにおいて、それを満足することが好ましい。このような範囲に制御することで、絶縁樹脂層をほぼ無色に近づけることができる。一方、YIが上記のような範囲を外れると、黄色~黄褐色の着色が強くなって、絶縁樹脂層の視認性が低下する傾向がある。
【0068】
絶縁樹脂層のHAZE(ヘイズ)は3%以下であることが好ましく、より好ましくは2%以下がよい。このような範囲に制御することで、絶縁樹脂層における視認性を向上させることができる。HAZEが3%を超えると、例えば光散乱が生じやすくなる。また、HAZEは、絶縁樹脂層の表面プロファイルに依存し、ロープロファイルの絶縁樹脂層であっても、接着強度と透明性を両立し、例えば微細な金属層を積層する回路基板に好適に利用できる。
【0069】
<積層体の形成方法>
本実施の形態の積層体における絶縁樹脂層の形成方法については特に限定されないが、例えば、[1]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、イミド化してポリイミドの樹脂フィルムを製造する方法(以下、キャスト法)、[2]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、ポリアミド酸のゲルフィルムを支持基材から剥がし、イミド化してポリイミドの樹脂フィルムを製造する方法などが挙げられる。また、絶縁樹脂層が、複数のポリイミド層からなる場合、その製造方法の態様としては、例えば、[3]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥することを複数回繰り返した後、イミド化を行う方法(以下、逐次塗工法)、[4]支持基材に、多層押出により、同時にポリアミド酸の積層構造体を塗布・乾燥した後、イミド化を行う方法(以下、多層押出法)などが挙げられる。ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を基材上に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ、スピン等のコーターにて塗布することが可能である。多層のポリイミド層の形成に際しては、ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を基材に塗布、乾燥する操作を繰り返す方法が好ましい。
【0070】
本実施の形態のポリイミド層は、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、必要に応じ、ポリイミド層中に無機フィラーを含有してもよい。具体的には、例えば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0071】
<導体層>
本実施の形態の積層体における導体層の材質としては、特に限定されるものではないが、例えば銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。この中でも、銅、鉄又はニッケルの金属元素、または酸化インジウムスズ(ITO)が好ましい。これら導体層の選定にあっては、導体層の導電性やポリイミド層の光透過性、ポリイミド層との接着性など使用目的で必要とされる特性を発現するように選択することになる。導体層の形状に特に制限はないが、透明アンテナや透明シールド層として用いる場合では、導体層をメッシュ型に加工することが好ましい。この場合において、導体層として銅などの非透明導体層を用いる際には細い配線とするのが好ましい。導体層を任意の形状に加工するための原料として用いる場合は導体層が全面に積層されている形状が好ましい。
【0072】
導体層の厚みは特に限定されるものではないが、好ましくは0.1~20μmの範囲内、より好ましくは1~10μmの範囲内がよい。
【0073】
導体層に金属層を適用した金属張積層体の場合は、例えば本実施の形態のポリイミドを含んで構成される樹脂フィルムを用意し、これに金属をスパッタリングしてシード層を形成した後、例えばメッキによって金属層を形成することによって調製してもよい。
【0074】
また、導体層に金属層を適用した金属張積層体の場合は、本実施の形態のポリイミドを含んで構成される樹脂フィルムを用意し、これに金属箔を熱圧着などの方法でラミネートすることによって調製してもよい。
【0075】
導体層に金属層を適用した金属張積層体の場合は、樹脂フィルムと金属層の接着性を高めるために、樹脂フィルムの表面を例えばプラズマ処理などの改質処理を施してもよい。
【0076】
さらに、導体層に金属層を適用した金属張積層体の場合は、金属層の上に本実施の形態のポリアミド酸を含有する塗布液をキャストし、乾燥して塗布膜とした後、熱処理してイミド化し、ポリイミド層を形成する方法(キャスト法)によって調製してもよい。なお、本実施の形態のポリアミド酸を含有する塗布液は、金属層の上に直接にキャストしてもよいし、他のポリアミド酸を含有する塗布膜を形成した後にキャストしてもよい。
【0077】
キャスト法では、ポリアミド酸の樹脂層が金属箔に固定された状態でイミド化されるので、イミド化過程におけるポリイミド層の伸縮変化を抑制して、搬送方向(MD方向)と幅方向(TD方向)の異方性を低減することができるので、好ましい実施形態となる。
【0078】
また、導体層に金属層を適用した金属張積層体の場合において、両面に金属層を有する金属張積層体を製造する場合は、例えば上記方法により得られた片面金属張積層体のポリイミド層上に、直接、あるいは必要に応じて絶縁樹脂層の透明性を阻害しない接着層を形成した後、金属層を加熱圧着等の手段で積層することにより得ることができる。また金属層を加熱圧着の場合の熱プレス温度については、特に限定されるものではないが、使用される金属層に隣接するポリイミド層のガラス転移温度以上であることが望ましい。また、熱プレス圧力については、使用するプレス機器の種類にもよるが、1~500kg/mの範囲であることが望ましい。
【0079】
導体層に金属層を適用した金属張積層体の場合、絶縁樹脂層の光透過性の観点から、金属層の表面の十点平均粗さRzjisは0.5μm以下とすることが好ましく、より好ましくは0.01~0.3μm以下の範囲内がよく、更に好ましくは0.01~0.2μmの範囲内がよい。特に、金属層の表面の十点平均粗さRzjisが0.2μm以下にすることによって、絶縁樹脂層のHAZE値を低くすることができるので、より好適な実施形態となる。また、絶縁樹脂層との接着性の観点から、金属層に接する絶縁樹脂層はキャスト面である
ことが好ましい
【0080】
<ピール強度>
本実施の形態の積層体における絶縁樹脂層と導体層との180°ピール強度は0.3kN/m以上であることが好ましく、0.5kN/mであることがより好ましい。なお、本明細書において、全光透過率、CTE及びピール強度は実施例に記載した条件で測定したものであり、特に記載がないものは、室温(23℃)での測定値である。
【実施例
【0081】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0082】
[光透過率、黄色度(YI)の算出]
ポリイミドフィルム(50mm×50mm)を、島津製作所社製のUV-3600分光光度計にて黄色度(YI)を測定した。
YI(黄色度)
JIS Z 8722に準拠して、下記式(1)で表される計算式に基づいて算出した。
YI=100×(1.2879X-1.0592Z)/Y ・・・(1)
X、Y及びZ:試験片の三刺激値
厚みが10μmにおけるポリイミドフィルムのYI(T10)は、上記式(1)で算出されたYIの値を下記式(2)に代入して算出した。
YI(T10)=YI/T×10 ・・・(2)
T:ポリイミドフィルムの厚み(μm)
【0083】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
ポリイミドフィルム(3mm×15mm)を、熱機械分析(TMA)装置にて5.0gの荷重を加えながら10℃/minの昇温速度で30℃から280℃まで昇温し、次いで降温し、降温時における250℃から100℃までのポリイミドフィルムの伸び量(線膨張)から熱膨張係数を測定した。
【0084】
[熱分解温度(Td1)の測定]
窒素雰囲気下で10~20mgの重さのポリイミドフィルムを、SEIKO社製の熱重量分析(TG)装置TG/DTA6200にて一定の速度で30℃から550℃まで昇温させたときの重量変化を測定し、200℃での重量をゼロとし、重量減少率が1%の時の温度を熱分解温度(Td1)とした。
【0085】
[全光線透過率(T.T.)及びHAZE(濁度)の算出]
ポリイミドフィルム(50mm×50mm)を、日本電色工業社製のHAZE METER NDH500にて、全光線透過率(T.T.)及びHAZE(濁度)をJIS K7136に準拠して測定した。金属張積層体の絶縁樹脂層については、片面金属箔又は両面金属箔のエッチングを行いポリイミドフィルムとし、これを同様に測定した。
【0086】
[粘度の測定]
粘度は、恒温水槽付のコーンプレート式粘度計(トキメック社製)にて、合成例で得られたポリアミド酸溶液について25℃で測定した。
【0087】
[ガラス転移温度(Tg)の測定]
ポリイミドフィルム(10mm×22.6mm)を動的熱機械分析装置にて20℃から500℃まで5℃/分で昇温させたときの動的粘弾性を測定し、ガラス転移温度(Tanδ極大値:℃)を求めた。
【0088】
[ピール強度の測定]
テンションテスターを用い、積層体から得られた幅1mmの回路パターンを有する試験サンプルの樹脂側を両面テープによりアルミ板に固定し、銅を180°方向に50mm/minの速度で剥離して、ピール強度を求めた。両面金属張積層体については、プレス側のピール強度も測定した。
【0089】
[弾性率の測定]
ポリイミドフィルムを12.7mm×150mmに切り出し、引張試験装置(TOYO精機製 STROGRAPHVE1D)を用いて、JIS K 7127に準拠して、室温で50mm/min、100Nで試験を行い、フィルムの弾性率を測定した。
【0090】
[屈折率の測定]
ガラスの上に、厚み2μmのポリイミド薄膜を製膜しMetricon社製プリズムカップラーModel2010/Mを用いて633nmの光線の屈折率を測定した。3回屈折率を測定し、平均値を算出し、ポリイミドフィルムの屈折率とした。
【0091】
実施例等に用いた略号は、以下の化合物を示す。
APB:1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン
TFMB:2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル
BAPS:ビス[4-(アミノフェノキシ)フェニル]スルホン
PMDA:ピロメリット酸二無水物
6FDA:2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-ヘキサフルオロプロパン二無水物
BPDA:3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
ODPA:4,4’-オキシジフタル酸二無水物
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
【0092】
合成例1~8
ポリアミド酸溶液A~Hを合成するため、窒素気流下で、200mlのセパラブルフラスコの中に、表1で示した固形分濃度となるように溶剤のDMAcを加え、表1に示したジアミン成分及び酸無水物成分を攪拌しながら45℃、2時間加熱し溶解させた。その後、溶液を室温で2日間攪拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸の粘稠な溶液A~Hを調製した。
【0093】
【表1】
【0094】
[実施例1]
銅箔1(電解銅箔、福田金属箔粉工業社製、商品名;CF-T9DA-SV-12、厚み;12μm、Rzjis;0.01μm)の上に、ポリアミド酸溶液Aの希釈溶液(粘度;3000cP)を硬化後の厚みが1.5μmとなるように均一に塗布した後、125℃で加熱乾燥し、溶媒を除去した。次に、その上にポリアミド酸溶液Gの希釈溶液(粘度;20000cPを硬化後の厚みが7μmとなるように均一に塗布した後、125℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、その上にポリアミド酸溶液Hの希釈溶液(粘度;3000cP)を硬化後の厚みが1.5μmとなるように均一に塗布した後、125℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。このようにして、3層のポリアミド酸層を形成した後、125℃から360℃まで段階的な熱処理を30分かけて行い、イミド化を完結し、ポリイミド層A/ポリイミド層G/ポリイミド層Hからなる厚みが10μmのポリイミド層1を形成し、金属張積層体1を調製した。金属張積層体1におけるピール強度は、0.5kN/mであった。
【0095】
塩化第二鉄水溶液を用いて、銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルム1を調製した。ポリイミドフィルム1について、各物性を測定した。これらの測定結果を表2に示す。ここで、YI(T10)は、ポリイミドフィルムの厚みを10μmに換算した黄色度を示す。
【0096】
[実施例2,参考例3,実施例4、比較例1,2、参考例1]
実施例1と同様に、金属張積層体2~4、6,7、10を調製するため、表2で示したように、ポリアミド酸の種類を変えて、ポリイミド層2~4、6,7、10を形成し、金属張積層体2~4、6,7、10を調製した。
【0097】
塩化第二鉄水溶液を用いて、金属張積層体2~4、6,7、10の銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルム2~4、6,7、10を調製した。各ポリイミドフィルムの測定結果を表2に示す。
【0098】
[実施例5]
実施例1におけるポリアミド酸溶液Hの代わりに、ポリアミド酸Aを使用したこと以外、実施例1と同様にして、金属張積層体5を調製した。調製した金属積層体5を15cm×15cmにカットし、この積層体の絶縁樹脂層面に15cm×15cmのサイズにカットした銅箔1を重ね合わせ、プレス機にて、340℃/30minでプレスを行い、両面金属張積層体5を調製した。銅箔を部分的に銅箔エッチングして、1mm銅箔幅の回路パターンを形成した。180°ピール強度を測定したところ、プレス側のピール強度が1.1kN/mであった。また、両面銅箔エッチングを行い、透明なポリイミドフィルム5を調製した。ポリイミドフィルム5の測定結果を表2に示す。
【0099】
(比較例3)
銅箔1(電解銅箔、福田金属箔粉工業社製、商品名;CF-T9DA-SV-12、厚み;12μm、Rzjis;0.01μm)の上に、ポリアミド酸溶液Aの希釈溶液(粘度;3000cP)を硬化後の厚みが10μmとなるように均一に塗布した後、125℃で加熱乾燥し、溶媒を除去した。このようにして、単層のポリアミド酸層を形成した後、125℃から360℃まで段階的な熱処理を8hかけて行い、イミド化を完結し、ポリイミド層Aからなる厚みが10μmのポリイミド層8を形成し、金属張積層体8を調製した。
【0100】
塩化第二鉄水溶液を用いて、金属張積層体8の銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルム8を調製した。ポリイミドフィルム8の測定結果を表2に示す。
【0101】
(比較例4)
比較例3におけるポリアミド酸溶液Aの代わりに、ポリアミド酸Fを使用したこと以外、比較例3と同様にして、金属張積層体9を調製した。塩化第二鉄水溶液を用いて、金属張積層体9の銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルム9を調製した。ポリイミドフィルム9の測定結果を表2に示す。
【0102】
【表2】
【0103】
比較例3と比較例4と比べるとBAPS-ODPAとBAPS-BPDAではBAPS-ODPAの方がより黄色度が低いことが分かる。この差異はポリイミドを3層構造とし、生産性を高めるために硬化時間を短くした実施例1と参考例1とで比べると、より顕著に現れていることが分かる。よって3層構造の透明ポリイミド層を形成する場合にはODPAを含むことが有効であることが分かる。また、比較例1と比較例2のようにBAPSを含まない透明ポリイミド組成をポリイミド層1に適用すると、接着性を担保できないことが分かる。