IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝マテリアル株式会社の特許一覧

特許7577541セキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯およびそれを用いた磁気センサ並びに管理システム
<>
  • 特許-セキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯およびそれを用いた磁気センサ並びに管理システム 図1
  • 特許-セキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯およびそれを用いた磁気センサ並びに管理システム 図2
  • 特許-セキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯およびそれを用いた磁気センサ並びに管理システム 図3
  • 特許-セキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯およびそれを用いた磁気センサ並びに管理システム 図4
  • 特許-セキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯およびそれを用いた磁気センサ並びに管理システム 図5
  • 特許-セキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯およびそれを用いた磁気センサ並びに管理システム 図6
  • 特許-セキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯およびそれを用いた磁気センサ並びに管理システム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】セキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯およびそれを用いた磁気センサ並びに管理システム
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/153 20060101AFI20241028BHJP
   G01R 33/10 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
H01F1/153 116
G01R33/10
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020557623
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 JP2019045608
(87)【国際公開番号】W WO2020110899
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-08-04
【審判番号】
【審判請求日】2024-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2018223335
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】前田 貴大
(72)【発明者】
【氏名】土生 悟
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】▲高▼橋 徳浩
【審判官】畑中 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-161119(JP,A)
【文献】特開2000-99937(JP,A)
【文献】特開2009-151687(JP,A)
【文献】特開2008-20579(JP,A)
【文献】特開平11-40433(JP,A)
【文献】特開2015-141903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/02
G01R 33/10
H01F 1/153
H01F 10/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅Wが1mm以下、長さLが6mm以上100mm以下、L/W比が20以上1000以下、板厚tが10μm以上28μm以下でありかつ、長さL方向に垂直な断面が長方形または台形であるCo系アモルファス磁性薄帯からなる、セキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯。
【請求項2】
W/t比が3以上20以下である、請求項1に記載のセキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯。
【請求項3】
180°に折り曲げても破損しない、請求項1に記載のセキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯。
【請求項4】
前記Co系アモルファス磁性薄帯は、
Cr,Nb,Zrを含有する、
請求項1に記載のセキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯。
【請求項5】
Co系アモルファス磁性薄帯表面に絶縁層を設けた、請求項1に記載のセキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯。
【請求項6】
請求項1に記載のセキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯を具備してなる、磁気センサ。
【請求項7】
前記磁気センサは紙である、請求項6に記載の磁気センサ。
【請求項8】
紙面積(A4)62370mmあたり、前記セキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯を3本以上300本以下、具備している、請求項7に記載の磁気センサ。
【請求項9】
前記セキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯同士が重なっていない、請求項6に記載の磁気センサ。
【請求項10】
前記セキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯の長さLが25mm以上であるとき、紙面積(A4)62370mmあたりの前記セキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯が50本以下である、請求項7に記載の磁気センサ。
【請求項11】
前記セキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯の長さLが25mm未満であるとき、紙面積(A4)62370mmあたりの前記セキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯が50本を越えている、請求項7に記載の磁気センサ。
【請求項12】
請求項6に記載の磁気センサが搭載された、管理システム。
【請求項13】
電波の送受信を行う一対のゲート部を具備してなる、請求項12に記載の管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、セキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯およびそれを用いた磁気センサ並びに管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷機と複写機の両方の機能を有する複合機が用いられている。また、複合機は、ネットワークにつなげて使うことも多い。複合機の普及に伴い、情報の複写、印刷、ネットワークへの保存などが容易に行えるようになっている。
【0003】
これに伴い、秘密情報のセキュリティ管理が重要になっている。秘密情報が目的外に持ち出されたり、複写されたりするのを防ぐ必要がある。セキュリティ管理の一種にセキュリティペーパーがある。セキュリティペーパーには、紙に磁性ワイヤを埋め込んだものや、紙の表面に特殊な印刷を施したものなどがある。
【0004】
表面に特殊な印刷を施したものとしては、紙幣などが例示される。表面に特殊な印刷を施したものは偽造防止効果に優れている。その一方で、盗難などのセキュリティ効果は低かった。また、特殊な印刷が必要であるため、普通用紙などの白色の紙に適用すると、印刷部分に模様が付いていた。また、印刷部分のみを切り離すとセキュリティ機能がなくなってしまっていた。また、模様が付いた部分は普通用紙として使えないため、必ずしも使い勝手が良いとは言えなかった。
【0005】
それに対し、紙に磁性ワイヤを埋め込んだものは、磁性ワイヤがセンサとして機能するため盗難防止効果を付与することができる。また、複合機と連携することにより、目的外に複製することを防ぐこともできる。そのため、紙に磁性ワイヤを埋め込んだセキュリティペーパーは盗難防止と複製防止の両方の機能を持たせることができるものである。
【0006】
例えば、特許第4529420号公報(特許文献1)には、磁性ワイヤを埋め込んだセキュリティペーパーの製造方法が開示されている。特許文献1では長さ5~50mm程度に切断した磁性ワイヤを紙と紙の間に配置して製造していた。特開2000-99937号公報(特許文献2)には、磁性合金ファイバを用いたセンサが開示されている。
【0007】
ワイヤは断面が曲面であるため、紙の上に配置したときに位置ずれが生じていた。磁性ワイヤの位置ずれが起きると、ワイヤ同士が重なり紙の平坦性が損なわれるといった問題が生じていた。また、白い紙で、ワイヤ同士が重なるとその部分だけ色が濃くなってしまい、センサを埋め込んだ位置が分かってしまうといった問題も生じていた。特許文献2のファイバも断面が曲面であるため、同様の問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4529420号公報
【文献】特開2000-99937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のセキュリティペーパーは磁性ワイヤを用いているため、セキュリティペーパーの中で磁性ワイヤ同士が重なるといった問題が生じていた。
【0010】
1つの側面では、本発明は、セキュリティペーパーに埋め込んだ際にセキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯同士が重なることを抑制した、セキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯およびそれを用いた磁気センサ並びに管理システム、を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態に係るセキュリティペーパー用Co系アモルファス磁性薄帯は、幅Wが1mm以下、長さLが6mm以上100mm以下、L/W比が20以上1000以下、板厚tが10μm以上28μm以下でありかつ、長さL方向に垂直な断面が長方形または台形であるCo系アモルファス磁性薄帯からなることを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態に係る磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯を例示する外観図である。
図2図2は、実施形態に係る磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯の上面から見た形状を例示する図である。
図3図3は、実施形態に係る磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯の側面から見た形状を例示する図である。
図4図4は、実施形態に係る板厚の説明図である。
図5図5は、実施形態に係る磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯を具備した磁気センサを例示する図である。
図6図6は、実施形態に係る磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯を具備した磁気センサを例示する図である。
図7図7は、実施形態に係る管理システムを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態に係る磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯は、幅Wが1mm以下、長さLが6mm以上100mm以下、L/W比が20以上1000以下、板厚tが10μm以上28μm以下、断面が長方形または台形であるCo系アモルファス磁性薄帯からなることを特徴とするものである。
【0014】
図1図3に実施形態に係る磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯を例示した。図1は外観図、図2は上面図、図3は側面図である。実施形態の図中、1は磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯、2は磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯の上面、3は磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯の側面、Wは磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯の幅である。また、実施形態の図中、Lは磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯の長さ、tは磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯の板厚、θは磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯断面の4つ角の角度、である。
【0015】
Co系アモルファスとは、構成元素としてコバルト(Co)を最も多く含む非晶質合金のことである。Co系アモルファス合金の薄帯は、磁気特性に優れている。このため、磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯を具備した磁気センサは、磁気センサとしての感受性が高い。磁性合金としては、Fe系アモルファス合金、Fe系微細結晶合金などがある。Fe系磁性合金は構成元素としてFe(鉄)を最も多く含むものである。本実施形態の磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯の構成材料であるCo系アモルファス合金は、Fe系磁性合金と比べて耐食性が高い。Co系アモルファス合金は、さび難い合金である。そのため、経時変化に強いセキュリティペーパーを得ることができる。
【0016】
なお、以下では、磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯を、単に、磁性薄帯と称して説明する場合がある。
【0017】
また、磁性薄帯は、幅Wが1mm以下、長さLが6mm以上100mm以下、L/W比が20以上1000以下、板厚tが10μm以上28μm以下、である。L/W比とは、磁性薄帯の長さLに対する幅Wの比である。なお、これらの幅Wと、長さLと、板厚tと、の関係は、板厚t<幅W<長さL、の関係を有する。
【0018】
磁性薄帯は、上から見た形状が多角形状である。図には上から見た形状が長方形のものを例示したものである。長方形の短辺が幅W、長辺が長さLとなる。図1の矢印方向が上から見る方向である。
【0019】
幅Wは1mm以下である。幅Wが1mmを超えて大きいと、白い紙に埋め込んだ際に磁性薄帯の存在場所が判別し易くなる。なお、幅Wの下限値は0.05mm以上であることが好ましい。幅Wが0.05mm未満(すなわち50μm未満)になると、磁性薄帯が断線する可能性が高くなる。このため、幅Wは0.05mm以上1mm以下、さらには0.1mm以上0.3mm以下が好ましい。
【0020】
また、長さLは6mm以上100mm以下である。長さLが6mm未満では、センサとして受信感度が低下する。また、100mmを超えて長いと磁性薄帯がねじれてしまう可能性が高くなる。磁性薄帯がねじれると、紙の平坦性を維持することが困難となる。このため、長さLは6mm以上100mm以下、さらには55mm以下が好ましい。
【0021】
また、L/W比が20以上1000以下である。L/W比が20未満であると受信感度が低下する。また、L/W比が1000を超えると、長さLが長すぎるため紙に埋め込む工程で磁性薄帯がねじれてしまう可能性が高くなる。そのため、磁性薄帯のL/W比は20以上1000以下、さらには100以上500以下が好ましい。この範囲であれば、受信感度の向上と取扱性の向上を両立させることができる。
【0022】
また、板厚tが10μm以上28μm以下である。後述するように磁性薄帯はロール急冷法で作製される。板厚tが10μm以上28μm以下の範囲内であればロール急冷法で作製された磁性薄帯の厚さをそのまま適用することができる。このため、量産性を向上させることができる。
【0023】
なお、板厚tとは、磁性薄帯の厚さであり、図4に示す平均板厚Tvである。図4のように磁性薄帯の表面には凹凸が存在する。なお、図4には、磁性薄帯の断面を走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により2000倍に拡大した模式図の一例を示した。マイクロメーターで測定する板厚は磁性薄帯の厚みの最大値Tmとなる。このため、単位長さ・幅の磁性薄帯の構成材料の質量を測定し、該構成材料の密度から算出することで、平均板厚Tvが算出される。ここで言う単位長さ・幅とは、磁性薄帯1本分である。なお、単位長さ・幅を、磁性薄帯2本分以上の長さ・幅としてもよい。
【0024】
磁性薄帯の構成材料の密度は、該構成材料の既知の材料値を採用してもよいし、アルキメデス法で求めてもよい。また、磁性薄帯の幅Wを測定する。磁性薄帯の1m分の体積は、長さL×幅W×板厚tにより求められる。体積=質量÷密度、である。この式を用いて平均板厚Tvである板厚tを算出することができる。
【0025】
磁性薄帯表面の凹凸が、少なく滑らかであればあるほど、図4の平均板厚Tvと厚みの最大値Tmとの比率(Tm/Tv)は1に近づき、この比が大きい程、表面が荒れていることを示す。
【0026】
また、幅Wと板厚tとの比であるW/t比は3以上20以下であることが好ましい。また、W/t比は5以上12以下が好ましい。W/t比を調整することにより、磁性薄帯の幅方向と厚さ方向を区別することが容易となる。磁性薄帯を紙にまぶす際に、紙の厚さ方向の凹凸差が生じるのを抑制することができる。磁性薄帯を紙にまぶす、とは、磁性薄帯を紙と一体化、磁性薄帯の紙への練り込み、および、磁性薄帯を紙によって挟持、の少なくとも1つを意味する。紙表面に凹凸差ができると、ペン先に引っかかり紙に穴が開いたり、紙が破けたりなどの問題が生じ易い。
【0027】
また、磁性薄帯の断面形状は、長方形または台形である。磁性薄帯の断面を長方形または台形とすることにより、磁性薄帯を紙に含有させたときに磁性薄帯同士の重なりを抑制することができる。なお、断面形状が長方形とは、磁性薄帯の長さL方向に垂直な断面を見たとき、4つ角の角度θが90°±5°の範囲内であることを示す。また、断面形状が台形とは、側面が傾斜面になった構造である。また、断面形状が台形の場合、傾斜面の角度は50°以上であることが好ましい。50°未満では磁性薄帯同士の重なりを抑制する効果が小さい。
【0028】
また、角度の測定には、磁性薄帯の断面を光学顕微鏡で200倍に拡大した拡大写真を使うものとする。また、4つ角の頂点は若干R形状になっていてもよいものとする。
【0029】
また、実施形態の磁性薄帯は以下の一般式を満たすものであることが好ましい。
【0030】
一般式:(Co1-a-bFe100-x(Si1-c
【0031】
上記一般式中、Mは、Ti,V,Cr,Mn,Ni,Cu,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wから選ばれる少なくとも1種以上である。
【0032】
上記一般式中、a,b,c,xは、以下の範囲である。なお、xの値の単位は、原子%である。
【0033】
0.02≦a≦0.10
0≦b≦0.20
0.2≦c≦1.0
10≦x≦40
【0034】
このうちFeはCoとの比率で磁歪定数をほぼゼロにすることができる。また、Coを主成分とすることにより耐食性が向上する。このため、磁気特性の劣化を抑制した経時変化に強い磁性薄帯とすることができる。上記一般式中のa値は0.02以上0.10以下であり、好ましくは0.03以上0.08以下である。
【0035】
なお、上述したように、実施形態の磁性薄帯は、Coを最も多く含むCo系アモルファス合金の薄帯である。このため、上記一般式中のa,b,c,xの値は、Coを最も多く含む条件下で、上記範囲内の何れかの値を示すものとなる。
【0036】
M元素は軟磁気特性を改善する元素である。M元素は、Ti(チタン),V(バナジウム),Cr(クロム),Mn(マンガン),Ni(ニッケル),Cu(銅),Zr(ジルコニウム),Nb(ニオブ),Mo(モリブデン),Hf(ハフニウム),Ta(タンタル),W(タングステン)から選ばれる少なくとも1種以上である。これらの元素はキュリー温度の制御などに有効である。また、M元素の中では、Cr,Zr,Nbから選ばれる1種または2種以上が好ましい。これらの元素は、磁気特性の向上だけでなく、磁性薄帯の柔軟性を向上させることができる。また、M元素の含有量を示すb値は0.20以下である。また、M元素を含有させるときのbの値は0.01以上であることが好ましい。M元素を含有させるときのbの値が0.01未満であると、含有させる効果が小さい。このため、M元素を含有させるときにはbの値が0.01以上0.20以下、さらには0.05以上0.15以下が好ましい。
【0037】
Si(珪素)およびB(ホウ素)はアモルファス化に必須の元素である。その合計含有量を示すxの値は、上述したように、10原子%以上40原子%以下である。xの値が10原子%未満ではアモルファス化が困難となる。また、xの値が40原子%を超えるとキュリー温度が低くなりすぎる。また、Si(珪素)とB(ホウ素)は、両方含有していることが好ましい。両方含有させる場合、cの値は0.2以上0.9以下の範囲内が好ましい。SiとBの両方を含有させることにより、低鉄損化、熱安定性向上などの効果を得ることができる。
【0038】
また、磁性薄帯は、180°に折り曲げても破損しないことが好ましい。180°に折り曲げるとは、折り紙の山折りのように、磁性薄帯を二つ折りにすることである。二つ折りにしても破損しないことにより、磁性薄帯を具備した紙を二つ折りにすることができる。このため、磁性薄帯を具備した紙の利便性が向上する。また、二つ折りは、折り目が付く程度に山折りするものとする。紙に組み込む前の磁性薄帯を二つ折りにする際は、磁性薄帯の長さLの真ん中で折り曲げるものとする。また、磁性薄帯を具備した紙を折り曲げる際は、任意の個所を折り曲げてよいものとする。また、折り曲げ試験はJIS-Z-2248に準じて行うものとする。
【0039】
また、前述のような幅W、長さL、板厚tのサイズ、断面形状を制御することにより、磁性薄帯のばね性を弱めることができる。ばね性が強すぎると、紙を二つ折りにした際に磁性薄帯が紙から飛び出てしまう可能性がある。例えば、特許文献2の磁性合金ファイバのように、断面が半楕円型であると、折り曲げる方向によってばね性が変わる。半楕円形型は、かまぼこ型と称される場合がある。ばね性の高まる方向に折り曲げてしまうと、磁性合金ファイバが紙から飛び出てしまう可能性があった。
【0040】
また、上記のようにM元素としてCr,Nb,Zrを含有した磁性薄帯とした上で、形状を制御することにより、磁性薄帯の折り曲げ性とばね性の両立を図ることができる。
【0041】
また、磁性薄帯に熱処理を施しても良いし、施さなくても良い。熱処理を施すと磁気特性は向上する。例えば、熱処理を施すことにより保磁力を10A/m程度にすることができる。その一方で熱処理を施すと、強度が低下する。180°に折り曲げたときに破損し易くなる。従って、強度を維持したいときは熱処理を施さない方が好ましい。
【0042】
また、磁性薄帯表面に絶縁層を設けてもよいものとする。絶縁層を設けることにより、磁性薄帯がさびるのを防ぐことができる。絶縁層としては、絶縁樹脂被膜、酸化物被膜が挙げられる。Co系アモルファス合金は、Fe系アモルファス合金よりは耐食性が高い。その一方で、十数年経過すればさびは生じる。長期保存が必要なセキュリティペーパーに用いる場合は、磁性薄帯表面に絶縁層を設けることが好ましい。また、絶縁層は透明な絶縁樹脂であることが好ましい。透明樹脂であれば、白い紙に磁性薄帯をまぶしたとしても、色合いに不具合が生じない。
【0043】
以上のような磁性薄帯は、磁性薄帯を具備した磁気センサに適用できる。磁気センサは、磁性薄帯を具備した物体である。磁性薄帯を具備した物体は、例えば、紙、タグ、ペン、などであるが、これらに限定されない。本実施形態では、磁気センサが、紙である場合を一例として説明する。なお、磁性薄帯を具備した紙は、セキュリティペーパーと称される場合がある。
【0044】
図5に実施形態に係る紙の一例を示した。図中、1は磁性薄帯、4は紙本体、5は磁性薄帯を具備する紙、である。磁性薄帯を具備する紙は、セキュリティペーパーと称される場合がある。
【0045】
セキュリティペーパーは、盗難防止、偽造防止、枚数管理などの防犯管理が必要な紙のことである。セキュリティペーパーとしては、有価証券、契約書、機密情報を複写したものなどが挙げられる。
【0046】
また、磁性薄帯は紙本体の表面に張り付けてもよいし、紙本体の内部に埋め込む方式であってもよい。紙本体の内部に埋め込むとは、2枚の紙本体の間に磁性薄帯を挟んで1枚の紙にすることである。実施形態に係る磁性薄帯は、磁性薄帯のサイズや形状を制御しているため、紙本体の内部に埋め込む際に、磁性薄帯同士が重なり難い。このため、紙の平坦性を維持することができる。また、磁性薄帯同士の重なりを抑制できるため、白い紙に適用したとしても磁性薄帯の位置が特定され難い。この点からも、防犯効果が高まる。
【0047】
また、セキュリティペーパーに用いる磁性薄帯の本数は1本以上あればよい。なお、センサ機能を向上させるためには次の本数が好ましい。
【0048】
紙である磁気センサは、紙面積(A4)62370mmあたり、磁性薄帯を3本以上2500本以下、具備していることが好ましい。A4サイズの紙は縦297mm×横210mm=紙面積62370mmである。
【0049】
ここではA4サイズを基準としたものである。紙のサイズを変えるときは、面積比で好ましい本数を変えるものとする。例えば、A3サイズは縦420mm×横297mm=124740mmとなる。124740/62370=2であるから、紙である磁気センサに含まれる磁性薄帯の本数は4本以上5000本以下が好ましい範囲となる。
【0050】
また、複数本具備させることにより、磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯をランダム配置とすることが好ましい。ランダム配置とすることにより、どこに磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯が埋まっているかを特定し難くできる。これにより、防犯効果を高めることができる。
【0051】
ランダム配置とは、紙の全体に偏りなく磁性薄帯が分布された状態を示す。紙の全体に偏りなく磁性薄帯が分布された状態とは、紙を予め定めた大きさ及び範囲の複数の領域に分割したときの、各領域に含まれる磁性薄帯の含有量または含有本数が、略同一であることを意味する。略同一である、とは、±10%の範囲で同じであることを意味する。例えば、A4サイズの紙の場合、4等分したときに磁性薄帯の本数が略同一になっていることが好ましい。
【0052】
なお、紙の特定の定型位置に磁性薄帯が配列分布していると、その特定位置の箇所を一度に切り離して持ち出すことができてしまう。例えば、5枚の紙の各々の全ての右角部領域のみに磁性薄帯が配置されている場合を想定する。この場合、この紙の右角部領域が切り取られることで、該紙には磁性薄帯が具備されていない状態となり、セキュリティ性が低下する。紙の全体に磁性薄帯がランダム配置されていれば、このような切り取りによるセキュリティ性の低下を抑制でき、盗難防止などのセキュリティ性能が向上する。
【0053】
また、紙に分布された複数の磁性薄帯は、少なくとも一部の複数の磁性薄帯の長さL方向が互いに異なる方向となるように配置されていることが好ましい。また、紙には、複数の磁性薄帯を放射状に配置することが更に好ましい。図6に示すように、放射状とは、少なくとも一部の複数の磁性薄帯の長さL方向が互いに異なる方向となるように配置され、且つ、複数の磁性薄帯が紙の特定の位置を中心として該中心から四方八方に広がって配置された形状を意味する。なお、該中心は、紙の中心位置と一致してもよいし、不一致であってもよい。また、放射状を形成する複数の磁性薄帯を長さ方向に延長した延長直線の交点は、1点に限定されず、複数点であってもよい。すなわち、複数の磁性薄帯によって形成された放射状の形状の中心は、1点に集中した形状に限定されない。また、一枚の紙に、放射状に配置された複数の磁性薄帯の群を、複数配置していてもよい。
【0054】
複数の磁性薄帯を放射状に配置することにより、紙である磁気センサの後述する管理システムによる受信感度が向上する。これは、どの方向からの電波も受信し易くなるためである。
【0055】
また、磁性薄帯の長さLが25mm以上であるとき、紙に含まれる磁性薄帯の本数は、紙面積(A4)62370mmあたり50本以下であることが好ましい。磁性薄帯の長さLが25mm以上であると受信感度が向上する。このため、磁性薄帯の長さLが25mm以上であるとき、紙に含まれる磁性薄帯の本数は、紙面積(A4)62370mmあたり3本以上50本以下、さらには3本以上20本以下であることが好ましい。なお、該磁性薄帯が紙に50本以下含まれるときは、これらの複数の磁性薄帯を放射状に配置することが好ましい。
【0056】
また、磁性薄帯の長さLが25mm未満であるとき、紙に含まれる磁性薄帯の本数は、紙面積(A4)62370mmあたり50本を越えていることが好ましい。磁性薄帯の長さLが短いほど受信感度が低下する。このため、磁性薄帯の長さLが25mm未満であるとき、紙に含まれる磁性薄帯の本数は、紙面積(A4)62370mmあたり50本以上2500本以下であることが好ましい。
【0057】
また、磁性薄帯の長さLが25mm以上と25mm未満の両方を用いてもよいものとする。また、長いもの(長さLが25mm以上)が3本以上であるときは、前述のように放射状に配置することが好ましい。
【0058】
また、セキュリティペーパーに用いる紙(すなわち、図5中、紙本体4)が普通紙、上質紙、再生紙から選ばれる1種であることが好ましい。普通紙(plain paper)とは、コピー用紙やプリンタ用紙に用いられる紙の総称である。普通紙は、PPC用紙(Plain Paper Copier)とも呼ばれている。感熱紙とは区別されるものである。普通紙に機密情報を印刷する際の防犯管理に適している。また、上質紙は化学パルプ100%で製造されたものを示す。また、再生紙は化学パルプと再生パルプの混合物で製造されたものを示す。
【0059】
また、白色の紙であることが好ましい。白色の紙とは、白色度が70%以上のものを示す。白色度の測定はJIS-P-8148に準拠して行うものとする。白色度の測定は、紙の表面に光を当てたときの反射光線量を数値化する方法(ISO白色度R457)である。
【0060】
一般的に、再生紙は白色度が65%以上75%以下である。また、普通紙および上質紙は80%以上である。実施形態にかかる磁性薄帯は紙の中での重なりを防止できるので、紙の白色度の低下を抑制できる。
【0061】
実施形態に係る紙は、磁性薄帯を埋め込んであっても白色度70%以上を維持することができる。これは、紙に太陽光を透過して、注視しないと磁性薄帯の位置が特定できないレベルである。このため、一般的な室内照明光では磁性薄帯の位置を特定することができない。このため、防犯効果を高めることができる。また、白い普通紙に用いることが最も好ましい。
【0062】
以上のような磁性薄帯を具備した紙は、様々な管理システムに好適である。また、管理システムは、送信と受信を行うゲート部を具備していることが好ましい。
【0063】
図7に実施形態に係る管理システムを例示した。図中、5は磁性薄帯を具備した紙であるセキュリティペーパー、6は管理システム、7は送信を行うゲート部、8は受信を行うゲート部、である。
【0064】
管理システム6は、電波を送受信する一対のゲート部を有する。詳細には、管理システム6は、電波の送信を行うゲート部7と電波の受信を行うゲート部8を有している。ゲート部7から電波を送信し、その電波をゲート部8で受信する。ゲート部7とゲート部8との間をセキュリティペーパー5が通過すると、ゲート部8で受信する電波の受信信号に変化が起きる。これにより、セキュリティペーパー5がゲート部を通過したことが分かる。
【0065】
詳細には、例えば、ゲート部7には励磁コイルが設けられている。また、ゲート部8には、検知コイルが設けられている。これらの励磁コイルおよび検知コイルは、ゲート部7とゲート部8の間を通過するセキュリティペーパーを挟んで対峙するように配置されている。励磁コイルに予め定めた強度の交番励磁磁界が印加され、ゲート部7とゲート部8との間をセキュリティペーパー5が通過した場合を想定する。この場合、ゲート部8の検知コイルでは、例えば、極めて急峻な磁化反転が生じる。この磁化反転による電波の受信信号の変化を検出することで、セキュリティペーパー5がゲート部を通過したことを検知することができる。
【0066】
管理システム6は、例えば、店舗の出入り口などに設置することで、盗難防止の効果が得られる。また、管理システム6を金庫や機密書類保管棚に設置することによっても、盗難防止効果が得られる。また、管理システム6を複合機などに適用した場合、セキュリティペーパーの枚数管理にも有効である。また、違法コピーなどの管理にも有効である。なお、盗難防止の効果が得られることから、ゲート部8は、盗難防止用ゲート部と称される場合がある。
【0067】
また、送受信の機能を利用した管理システムでは、1kHz以上200kHz以下の周波数を有する電波が使われている。実施形態に係る磁性薄帯は、1kHz以上200kHz以下の受信感度に優れている。このため、磁性薄帯の本数が少なくても受信感度を向上させることができる。なお、実施形態に係る管理システムに用いる電波の周波数は1kHz以上200kHz以下の範囲外の周波数を用いてもよいものとする。
【0068】
次に、実施形態に係る磁性薄帯の製造方法について説明する。実施形態に係る磁性薄帯は上記構成を有していれば、その製造方法については特に限定されるものではないが歩留り良く得るための方法として次のものが挙げられる。
【0069】
ロール急冷法を用いて長尺の磁性薄帯を製造する工程を行う。ロール急冷法は公知の方法を適用することができる。まず、Co系アモルファス合金の母合金となる溶融合金を調製する。溶融合金は、前述の一般式を満たすことが好ましい。
【0070】
溶融合金を射出ノズルから、高速回転する冷却ロール上に供給することにより、長尺の磁性の薄帯を作製することができる。射出ノズルの形状を長方形にすることにより、断面形状を長方形にすることができる。また、板厚tの調製も可能である。長尺の磁性の薄帯の板厚を磁性薄帯の板厚tとすることが好ましい。
【0071】
次に、長尺の磁性の薄帯を切断して、磁性薄帯の長さLと幅Wを調製する工程を行うものとする。切断工程は、長尺の磁性の薄帯の幅方向が磁性薄帯の長さLとなる方向に切断することが好ましい。また、長尺の磁性の薄帯の幅と磁性薄帯の長さLが同じであることが好ましい。このような形状は射出ノズルの長辺を磁性薄帯の長さLに合わせることで、長尺の磁性の薄帯の幅と磁性薄帯の長さLを同じにすることができる。
【0072】
長尺の磁性の薄帯は、長手方向にロール状に巻かれて保管される。長手方向が磁性薄帯の長さLとなる方向に切断すると、切断後の磁性薄帯に反りが発生し易い。反りが発生すると、反り直しを行う必要がある。切断後に発生する反りは、キックバックと呼ばれている。長尺の磁性の薄帯の幅方向に切断すると、キックバックが弱いため、まっすぐな磁性薄帯を得ることができる。また、キックバックの弱い方向に切断するので、断面形状が長方形の磁性薄帯を得ることができる。この工程により、本実施形態の磁性薄帯を得ることができる。
【0073】
また、必要に応じ、磁性薄帯の表面に絶縁層を設けるものとする。絶縁層は、酸化物層または樹脂層である。
【0074】
次に、磁性薄帯を具備した紙の製造方法について説明する。磁性薄帯を具備させる方法としては、紙の表面に張り付ける方法、紙の内部に埋め込む方法などが挙げられる。
【0075】
紙の表面に張り付ける場合は、接着剤などを使って張り付ける方法が挙げられる。
【0076】
また、紙の内部に埋め込む方法は、2枚の紙の間に磁性薄帯を挟んで1枚の紙にする方法が挙げられる。実施形態に係る磁性薄帯は、断面が長方形である。このため、紙の上に配置したときに磁性薄帯同士が重なり難い。また、本実施形態の磁性薄帯は、所定の長さL、幅Wおよび板厚tを有しているため、紙の色合いを変えないで済む。例えば、白色の紙であれば、白色度70%以上のものを得ることができる。また、紙に具備させる際の磁性薄帯の本数は、前述の通りであることが好ましい。
【0077】
(実施例)
(実施例1~実施例10、比較例1~比較例4)
実施例および比較例として、表1に示す磁性薄帯および比較磁性薄帯を用意した。
【0078】
実施例1~実施例10および比較例3はロール急冷法を用いて長尺の磁性の薄帯を作製したものを切断加工したものである。また、実施例1~実施例6および実施例9~実施例10は、長尺の磁性の薄帯の幅方向が磁性薄帯および比較磁性薄帯の各々の長さLとなるように切断したものである。
【0079】
また、実施例7、比較例2および比較例3は、長尺の磁性の薄帯の長さ方向が磁性薄帯および比較磁性薄帯の各々の長さLとなるように切断加工したものである。また、実施例8は実施例1の磁性薄帯に熱処理を施した磁性薄帯である。熱処理温度は、磁性薄帯の結晶化温度より約100℃低い温度で1時間実施した。
【0080】
また、実施例1~実施例4および実施例6~実施例10の各々の磁性薄帯、並びに比較例2および比較例4の比較磁性薄帯、の各々の断面は長方形であった。金属顕微鏡で断面を200倍にして確認したところ、断面形状が長方形のものはそれぞれの角度が90°±5°の範囲内であった。また、実施例5の磁性薄帯の断面形状である台形の角度は、60°以上であった。
【0081】
また、比較例1の比較磁性薄帯は直径30μmのFe系アモルファス合金ワイヤである。比較例1の比較磁性薄帯の断面形状は円形であった。また、比較例3の比較磁性薄帯の断面形状は特許文献2の図1のような半楕円形状であった。
【0082】
【表1】
【0083】
次に、実施例1A~実施例10Aとして、実施例1~実施例10に係る磁性薄帯を具備した紙であるセキュリティペーパーを作製した。また、比較例1A~比較例4Aとして、比較例1~比較例4に係る比較磁性薄帯を具備した比較紙である比較セキュリティペーパーを作製した。
【0084】
詳細には、A4(縦297mm×横210mm)サイズの紙を2枚用意した。1枚の紙の上に磁性薄帯を配置した。もう1枚の紙を張り合わせて、1枚の紙(A4サイズ)とした。磁性薄帯の本数は表2に示す通りである。この工程により、セキュリティペーパーを作製した。同様にして、これらの2枚の紙に比較磁性薄帯を配置することで、比較セキュリティペーパーを作製した。
【0085】
また、必要に応じ、パリレン樹脂からなる絶縁層を設けた。また、本数はA4サイズあたりの本数である。また、紙(紙本体4)には白色度85%のものを使用した。なお、磁性薄帯および比較磁性薄帯の各々の配置については、20本以上はランダム配置とし、それ未満は紙の中心より放射状ないしそれに類するように配置させた。
【0086】
【表2】
【0087】
表2中、ランダム配置の有無“有り”は、紙に配置された複数の磁性薄帯または複数の比較磁性薄帯の内、少なくとも一部の磁性薄帯または比較磁性薄帯の長さL方向が互いに異なるように配置されていることを意味する。また、ランダム配置の有無“有り(放射状)”は、紙に具備された複数の磁性薄帯または複数の比較磁性薄帯の内の少なくとも一部の群が、放射状に配置されていることを意味する。
【0088】
実施例1A~実施例10Aに係るセキュリティペーパーに対し、磁性薄帯の重なりの有無、穴の有無、白色度、折り曲げ性を測定した。
【0089】
磁性薄帯の重なりの有無の測定として、セキュリティペーパー内で磁性薄帯同士が重なり合った箇所の有無を調べた。また、HBのえんぴつを使って円形を描いた際にセキュリティペーパーに穴が開くかを調べた。また、えんぴつを使って円形を描く際は、JIS-S-6006に準拠した筆記濃度試験の画線用紙として用いた。
【0090】
白色度の測定はJIS-P-8148に準じて行った。具体的には、セキュリティペーパーの表面に光を当てたときの反射光線量を数値化する方法(ISO白色度R457)で行った。
【0091】
折り曲げ性は、紙を、磁性薄帯の存在する場所で180°に折り曲げた際の磁性薄帯またはセキュリティペーパーの破損の有無を調べた。180°折り曲げは、一方向に180°折り曲げた後に反対側にも180°折り曲げた。これにより、破損の有無を調べた。破損とは、少なくとも一部に亀裂が発生した状態、または、少なくとも一部が切断された状態、を意味する。
【0092】
同様に、比較例1A~比較例4Aに係る比較セキュリティペーパーに対し、実施例1A~実施例10Aと同様にして、磁性薄帯の重なりの有無、穴の有無、白色度、折り曲げ性を測定した。
【0093】
これらの測定結果を表3に示した。
【0094】
【表3】
【0095】
実施例1A~実施例10Aに係るセキュリティペーパーは、磁性薄帯の重なりが無かった。このため、えんぴつで描いたとしても紙に穴が開くといった不具合は発生しなかった。それに対し、断面が円形の比較例1の比較磁性薄帯を備えた比較例1A、および、半楕円形状の比較例3の比較磁性薄帯を備えた比較例3A、の各々の比較セキュリティペーパーでは、比較磁性薄帯の重なりが生じていた。比較磁性薄帯が重なった箇所は平坦性が損なわれる。このため、比較例1Aおよび比較例3Aの比較セキュリティペーパーでは、えんぴつ書きを行った際に紙に穴が開いた。
【0096】
また、実施例1A~実施例10Aの内、磁性薄帯の本数が50本以下の実施例のセキュリティペーパーは白色度85%を維持していた。つまり、元の紙の白色度をそのまま維持できていた。また、実施例1A~実施例10Aの内、磁性薄帯の本数が50本を超えたものは白色度の低下が見られるものが含まれていた。
【0097】
また、折り曲げ性は、実施例1A~実施例6Bのセキュリティペーパーでは破損が見られなかった。実施例7Aのセキュリティペーパーには破損した箇所が存在した。これは、長尺の磁性の薄帯を切断する方向の違いでキックバックの強さが変化したためである。言い換えれば、長尺の磁性の薄帯の幅方向を、磁性薄帯の長さLとするように切断することが望ましいことが分かる。また、比較例1A、比較例3Aおよび比較例4Aの比較セキュリティペーパーにも破損が確認された。これは、比較磁性薄帯の断面が円形または半楕円形であったり、長さLが短いことからキックバックが強かったためである。なお、実施例8Aのセキュリティペーパーには熱処理を施した磁性薄帯を用いたため、180°折り曲げた際に破損した。折り曲げが必要な場合は熱処理を施さない方が好ましいことが分かった。
【0098】
次に、実施例1A~実施例10Aに係るセキュリティペーパー、および、比較例1A~比較例4Aに係る比較セキュリティペーパーについて、保磁力と受信感度を測定した。
【0099】
保磁力(A/m)の測定は、10kHz、印加磁界80A/mにて行った。
【0100】
また、受信感度は、管理システムとして盗難防止用ゲートを用いて測定した。すなわち、図7に示す管理システム6を用いて、受信感度を測定した。図7を用いて説明したように、管理システム6は、送信を行うゲート部7と受信を行うゲート部8を具備する。なお、送信側であるゲート部7と、受信側であるゲート部8と、の大きさは同じものとし、幅W326mm×奥行D80mm×高さH1670mmのものを用いた。また、ゲート部7とゲート部8との距離は1.5mとした。
【0101】
また、送信側であるゲート部7の励磁コイルに印加される交番励磁磁界である動作信号は1.04kHz正弦波のものを用いた。そして、セキュリティペーパーおよび比較セキュリティペーパーを、ゲート部7とゲート部8との間を通した際の、受信感度を測定した。受信感度は比較例1Aの比較セキュリティペーパーを用いた場合の受信信号の大きさを1としたときの相対数値で示した。受信感度は数値が大きいほど大きな信号が得られたことを表す。励磁側の信号に対して、受信側でも正弦波の信号が得られるが、この間に磁性体が通るとパルス電流が発生する。このパルス電流のピーク値を読み取った。
【0102】
これらの測定結果を表4に示した。
【0103】
【表4】
【0104】
表4に示される通り、上記実施形態の磁性薄帯を用いた実施例1A~実施例10Aのセキュリティペーパーの保磁力は、低保磁力であった。保磁力が低い方が、磁化されていない状態にすぐに戻るということである。つまり、センサのオンオフをすばやく行えるということである。
【0105】
また、実施例1A~実施例10Aのセキュリティペーパーは、比較例1A~比較例4Aの比較セキュリティペーパーに比べて、受信感度も高かった。また、実施例1A、実施例1B、および実施例1Cの比較から、磁性薄帯の長さLが25mm以上あれば、具備する磁性薄帯の本数は50本以下で十分であることが分かる。また、実施例1Dのように磁性薄帯が1本の場合、実施例1A~実施例1Cに比べて受信感度が低下した。
【0106】
また、実施例6Aおよび実施例6Bとの比較から、磁性薄帯の長さLが25mm未満である場合には、磁性薄帯を50本以上具備する方が、受信感度の向上を図れることが分かる。
【0107】
また、実施例8Aのセキュリティペーパーは、他の実施例および比較例1A~比較例4Aに比べて受信感度が高かった。磁気特性の向上には熱処理が有効である。このため、セキュリティペーパーとして折り曲げ性の要否で熱処理の有無を調整することが好ましい。
【0108】
比較例1Aおよび比較例2Aのように、Fe系アモルファス合金である比較磁性薄帯を用いた場合、Co系アモルファス合金を用いた場合に比べて受信感度が低かった。また、比較例3Aおよび比較例4AのようにCo系アモルファス合金を使ったとしても、比較磁性薄帯のサイズが磁性薄帯とは異なるため、受信感度は低下した。
【0109】
以上のように実施形態に係る磁性薄帯を具備した紙であるセキュリティペーパーは、磁性薄帯同士の重なりを抑制できた。また、白色度が維持できることから、紙本来の色を変えないで済む。また、折り曲げ性も良いことから、取扱性が良好であった。また、受信感度も優れていた。このため、管理システムとしての信頼性も向上した。
【0110】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0111】
1…磁性薄帯(磁気センサ用Co系アモルファス磁性薄帯)
2…磁性薄帯の上面
3…磁性薄帯の側面
5…紙(磁気センサ,セキュリティペーパー)
6…管理システム
7…送信を行うゲート部
8…受信を行うゲート部
W…磁性薄帯の幅
L…磁性薄帯の長さ
t…磁性薄帯の板厚
θ…磁性薄帯断面の4つ角の角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7