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特許7577591位置決め装置、粒子線治療装置及び位置決め方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】位置決め装置、粒子線治療装置及び位置決め方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20241028BHJP
【FI】
A61N5/10 M
A61N5/10 P
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021057218
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022154279
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 孝明
【審査官】段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-185144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者が搭載される寝台の位置を制御する位置決め装置であって、
放射線治療にて放射線を前記患者に照射するための治療計画の作成に用いられる、前記患者を撮影した三次元画像を所定の面に投影した疑似透視X線画像を作成し、
前記疑似透視X線画像における前記患者の対象構造物の領域を含む第1関心領域を取得し、
前記第1関心領域における、前記患者をX線透視により撮影した透視X線画像と、前記疑似透視X線画像と、に基づいて前記透視X線画像と前記疑似透視X線画像との2次元類似度情報を計算し、
前記2次元類似度情報に基づき、前記第1関心領域内に重み付け係数を付与して、前記疑似透視X線画像における第2関心領域を作成し、
前記第2関心領域内に含まれる部分のみで、前記透視X線画像の前記対象構造物の位置と前記疑似透視X線画像の前記対象構造物の位置とが一致するように前記寝台を移動させるための移動量を算出する
ことを特徴とする位置決め装置。
【請求項2】
前記位置決め装置は、前記2次元類似度情報として、前記透視X線画像と前記疑似透視X線画像との類似度を計算する際に用いられる類似度指標を2次元に変換した情報を用いることを特徴とする請求項1記載の位置決め装置。
【請求項3】
前記位置決め装置は、前記類似度指標として正規化相互相関係数を用いることを特徴とする請求項2記載の位置決め装置。
【請求項4】
前記位置決め装置は、前記第2関心領域、及び前記第2関心領域と前記透視X線画像の前記対象構造物の位置と前記疑似透視X線画像の前記対象構造物の位置との照合結果を表示することを特徴とする請求項1記載の位置決め装置。
【請求項5】
前記位置決め装置は、前記疑似透視X線画像と前記透視X線画像をエッジ強調させた画像とを用いて前記2次元類似度情報を計算することを特徴とする請求項1記載の位置決め装置。
【請求項6】
前記位置決め装置は、前記患者の複数の呼吸位相に対応した前記三次元画像を用いて複数の前記疑似透視X線画像を作成し、いずれか一つの呼吸位相に対応した前記疑似透視X線画像とそれ以外の呼吸位相に対応した前記疑似透視X線画像とを用いて前記2次元類似度情報を計算することを特徴とする請求項1記載の位置決め装置。
【請求項7】
患者が搭載される寝台の位置を制御する位置決め装置を有する粒子線治療装置であって、
前記位置決め装置は、
放射線治療にて放射線を前記患者に照射するための治療計画の作成に用いられる、前記患者を撮影した三次元画像を所定の面に投影した疑似透視X線画像を作成し、
前記疑似透視X線画像における前記患者の対象構造物の領域を含む第1関心領域を取得し、
前記第1関心領域における、前記患者をX線透視により撮影した透視X線画像と、前記疑似透視X線画像と、に基づいて前記透視X線画像と前記疑似透視X線画像との2次元類似度情報を計算し、
前記2次元類似度情報に基づき、前記第1関心領域内に重み付け係数を付与して、前記疑似透視X線画像における第2関心領域を作成し
前記第2の関心領域内に含まれる部分のみで、前記透視X線画像の前記対象構造物の位置と前記疑似透視X線画像の前記対象構造物の位置とが一致するように前記寝台を移動させるための移動量を算出する
ことを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項8】
患者が搭載される寝台の位置を制御する位置決め装置に用いられる位置決め方法であって、
放射線治療にて放射線を前記患者に照射するための治療計画の作成に用いられる、前記患者を撮影した三次元画像を所定の面に投影した疑似透視X線画像を作成し、
前記疑似透視X線画像における前記患者の対象構造物の領域を含む第1関心領域を取得し、
前記第1関心領域における、前記患者をX線透視により撮影した透視X線画像と、前記疑似透視X線画像と、に基づいて前記透視X線画像と前記疑似透視X線画像との2次元類似度情報を計算し、
前記2次元類似度情報に基づき、前記第1関心領域内に重み付け係数を付与して、前記疑似透視X線画像における第2関心領域を作成し、
前記第2関心領域内に含まれる部分のみで、前記透視X線画像の前記対象構造物の位置と前記疑似透視X線画像の前記対象構造物の位置とが一致するように前記寝台を移動させるための移動量を算出する
ことを特徴とする位置決め方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置決め装置、粒子線治療装置及び位置決め方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの治療法の1つとして放射線を患者に照射する放射線治療が挙げられる。放射線治療で用いられる放射線は、X線やガンマ線といった非荷電粒子線と、陽子線や炭素線といった荷電粒子線とに大別される。後者の荷電粒子線(以下、荷電粒子ビームともいう)を使用した治療は一般に粒子線治療と呼ばれている。
【0003】
非荷電粒子線は体内で浅い位置から深い位置にかけて一定の割合で付与される線量が減少する。一方、荷電粒子ビームは、特定の深さにエネルギーのピークを有する線量分布(ブラックカーブ)を形成できる。そのため、ピークを腫瘍の位置に合わせることにより腫瘍よりも深い位置にある正常な組織へ照射される線量を大幅に低下させることが可能である。
【0004】
放射線治療では、可能な限り正確に、所望の線量の荷電粒子ビームを標的とする腫瘍に照射することが治療効果の向上につながる。腫瘍への正確な荷電粒子ビームの照射を実現するためには、予め治療計画装置で治療計画を作成しておき、実際の照射時において治療計画における位置と同じ位置に患者を位置合わせする必要がある。この患者の位置合わせのことを患者位置決めと呼んでいる。
【0005】
放射線治療における患者位置決めの方法として、互いに直交に配置された2組のX線管と平面検出器により2方向から患者を撮影した透視X線画像(Digital Radiography:DR)を用いる方法がある。患者を撮影した透視X線画像と、治療計画時のCT画像を仮想空間上に配置して仮想X線管から仮想平面検出器に入るX線の減弱量を計算することで作成した投影処理画像(以下、疑似透視X線画像)とを比較し、両者の画像の患者の位置を一致させるために必要な変位量を求める。ここでは、透視X線画像上の位置決めの目印となる構造物(以下、位置決め対象構造物)が疑似透視X線画像上の同部位と一致するように変位量が決定される。一般に目印となる構造物には骨が用いられる。このとき変位量は、画像照合装置上での医療従事者による目視による手動合わせ、もしくは自動計算機能による自動合わせにより決定される。
【0006】
一般に、透視X線画像には患者の固定具や軟組織といった位置決め対象物以外の構造物が写り込み、また位置決め対象構造物である骨でも日によって骨同士の配置が変わることがあり得る。そのような状況では透視X線画像と疑似透視X線画像は画像全体で構造が一致しないため自動計算による位置合わせで十分な精度が出ないことが予想される。
【0007】
そこで、透視X線画像上で位置決め対象構造物のみを対象とした自動計算による位置合わせを行うために、事前に医療従事者が透視X線画像もしくは疑似透視X線画像上の位置決め対象構造物が存在する領域を関心領域(Region of Interest:ROI)として設定しておき、自動位置合わせ時にROI内の領域のみを計算対象として計算することで、ROI内の構造物のみにフォーカスした位置合わせが実施されている。画像上にROIを設定する処理は通常、医療従事者であるユーザが画像上にROIを描画することで設定している。
【0008】
特許文献1には、治療計画立案時に線量評価対象として設定する関心領域を用いて患者に照射する放射線が体内の治療対象部位に到達するまでの間で前記関心領域に対して及ぼす影響度を計算し、前記影響度の情報を重畳した表示画像を生成して影響度の大きい部位を強調して表示する医用画像装置について記載されている。また、特許文献2には治療計画画像に対して設定した関心領域を用いて、位置決め用に取得した断層画像と前記治療計画画像との関心領域内の特徴量を計算して位置決め計算を行う放射線治療システムについて記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、位置決めシステムにおいて、治療計画CT画像とベッド位置決め用に撮像された3次元断層画像とに対して、治療計画装置にて設定された関心領域の位置に関する特徴量を演算し、これら特徴量を弱識別器とする機械学習を実施する。更に、位置合せすべき部位や領域とその位置合せ度合い(重み)を求めるとともに、学習によって求めた部位や領域および重みを用いた位置決め用の評価式を作成して、この評価式を用いて位置決めを実施する放射線治療システムについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2019-162379号公報
【文献】特開2014-212820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に開示された技術は、線量に及ぼす影響具合を視覚的に確認できることにおいて効果的である。
【0012】
しかし、ここで述べられる関心領域は、治療計画時に照射標的および周囲の危険臓器の線量評価のために3次元画像(通常はCTが用いられる)に対し設定した3次元の領域であり、透視画像上に写る位置決めに使用する骨とは異なり、位置決めの自動計算に用いる関心領域とは異なる。
【0013】
また、特許文献2に記載の技術についても同様に関心領域は照射標的および周囲の危険臓器の線量評価のために設定される3次元の領域として設定され、自動計算に用いられるものであり、透視X線画像と疑似透視X線画像とを用いた位置決めの際に位置決め対象骨に対して2次元画像上に設定される関心領域とは異なる。
【0014】
これらの技術に対して、疑似透視X線画像や透視X線画像上に対象骨の輪郭(以下、骨輪郭ともいう)に沿ったROI設定やROIの関心度に応じて重み付けができ自動計算に利用できれば、対象骨の重要度をROI内に写りこむ他の構造物に対して高めた自動計算が実施できる。
【0015】
しかし、骨輪郭に沿ったROIを医療従事者が事前に描画することやROI内の関心度に応じて重み付け係数を設定する作業は、医療従事者の経験に依存した領域および係数の設定となり、ROIの描画作業に長時間を要することになる。さらに、長時間を要して描画したROIでも日々の患者の対象骨の変形具合によっては新たにROIを書き直す必要が生じる。
【0016】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたもので、従来のROIの設定方法の元で精度の高い患者の位置決めを容易にする位置決め装置、粒子線治療装置及び位置決め方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決すべく、本発明の一つの観点に従う位置決め装置は、患者が搭載される寝台の位置を制御する位置決め装置であって、放射線治療にて放射線を患者に照射するための治療計画の作成に用いられる三次元画像を所定の面に投影した疑似透視X線画像を作成し、疑似透視X線画像における患者の対象構造物の領域を含む第1関心領域を取得し、患者をX線透視により撮影した透視X線画像と、疑似透視X線画像と、第1関心領域とに基づいて透視X線画像と疑似透視X線画像との2次元類似度情報を計算し、2次元類似度情報に基づき、第1関心領域内に重み付け係数を付与して第2関心領域を作成し、第2関心領域と透視X線画像の対象構造物の位置と疑似透視X線画像の対象構造物の位置とが一致するように寝台を移動させるための移動量を算出する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来のROIの設定方法の元で精度の高い患者の位置決めを容易にできる位置決め装置、粒子線治療装置及び位置決め方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1に係る粒子線治療システムの全体構成を示す図である。
図2】実施例1に係る位置決め装置の重み付けROI作成と更新処理を示すフローチャートである。
図3】実施例1に係る位置決め装置における2次元類似度情報に基づいた重み付け係数付与を示す図である。
図4】実施例1に係る位置決め装置における重み付けROIの更新過程を示す図である。
図5】実施例2に係る位置決め装置における4DCTを用いた重み付けROIの作成フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0021】
なお、以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。また、実施形態を説明する図において、同一の機能を有する箇所には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。また、同一あるいは同様の構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0022】
本実施形態の粒子線治療システムは、標的である患者に対して粒子線を照射するための装置群である。粒子線治療システムは、患者の位置決めを行った後、患者に対して粒子線を照射する。患者の位置決めにおいて、粒子線治療システムは、3次元の患者画像情報を投影処理して作成した疑似透視X線画像(Digitally Reconstructed Radiography:DRR)と事前に描画されたROIと治療当日に撮影された透視X線画像を用いて計算した2次元類似度情報から重み付けROIを作成する。更に、粒子線治療システムは、透視X線画像と疑似透視X線画像との位置合わせを、重み付けROIを用いて行う。
【0023】
また、本実施形態の粒子線治療システムに用いられる位置決め装置は、放射線治療にて放射線を患者に照射するための治療計画の作成に用いられる三次元画像を所定の面に投影した疑似透視X線画像を作成する疑似透視X線画像作成部と、疑似透視X線画像上で位置合わせの対象とすべき領域をROIとして設定する関心領域描画部と、患者をX線透視により撮影した透視X線画像と疑似透視X線画像とのROI内の2次元類似度情報を計算する2次元類似度情報計算部と、ROI内に重み付けをして重み付けROIを作成する関心領域重み付け係数計算部と、疑似透視X線画像とX線透視画像と重み付けROIとを用いて透視X線画像の対象構造物の位置と疑似透視X線画像の前記対象構造物の位置とが一致するように寝台を移動させるために必要な移動量を算出する画像照合部と、その結果を表示する画像表示部を有する。
【0024】
以下、本実施形態について詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は、実施例1に係る粒子線治療システムの全体構成を示す図である。
【0026】
粒子線治療システムAは、加速器1と、ビーム輸送装置2と、ガントリー3と、照射ノズル4と、平面検出器5A、5Bと、X線管6A、6Bと、寝台7、ロボットアーム8、治療計画装置10と、通信装置11と、データサーバ12と、透視X線画像撮影装置14と、寝台制御装置15と、患者位置決め装置20と、を備える。
【0027】
患者位置決め装置(以下、単に位置決め装置と称する)20は、疑似透視X線画像作成部21、ROI描画部22、2次元類似度情報計算部23、ROI重み付け処理部24、画像照合部25および画像表示部26を備えている。
【0028】
粒子線治療の治療前患者位置決めに際して、患者9は、寝台7の上に載せられ、寝台7に接続されたロボットアーム8により事前に計画された計画位置に移動する。ここでの計画位置とは、事前に作成された治療計画における患者配置と同じ配置を再現する放射線治療室内での患者9の位置を指す。ロボットアーム8は並進3方向および回転3軸方向の駆動が可能であり、患者9を載せた寝台7を適切な位置および角度で配置できる。ここまでの処置が粒子線治療の患者位置決めに相当する。
【0029】
治療に用いる粒子線は加速器1で生成され、治療に適したエネルギーまで加速された、ビーム輸送装置2によりガントリー3へ輸送される。ガントリー3は、回転機構を有しており、粒子線を任意の角度で患者の患部に照射できるように360°の回転が可能な構成となっている。ガントリー3で粒子線は適切な方向への偏向を経て照射ノズル4を通過して患者9の患部に照射される。
【0030】
照射ノズル4には、粒子線の形状を患者の患部の形状に合うように変化させる機構が組み込まれている。
【0031】
治療計画装置10は、粒子線を実際に患者に照射する以前に、患者9を撮影した3次元画像情報に基づいて治療計画を作成する装置である。治療計画では、治療計画装置10は、患者9を撮影した3次元画像情報をデータサーバ12から通信装置11を介して取得し、その3次元画像について粒子線の適切な照射角度と照射形状と照射量を計算し、照射情報として決定する。決定した照射情報は通信装置11を介してデータサーバ12に保存される。
【0032】
透視X線画像撮影装置14は、互いに直交する方向に配置した平面検出器5AおよびX線管6Aと平面検出器5BおよびX線管6Bとをそれぞれ制御し、透視X線画像を取得する。取得した透視X線画像は位置決め装置20に送られる。
【0033】
位置決め装置20は、治療計画を作成したときの患者9の位置と、粒子線を照射するために寝台7に配置された患者9の位置とが一致するように寝台7を移動させるための移動量を透視X線画像と疑似透視X線画像から算出する装置である。
【0034】
位置決め装置20は、データサーバ12から治療計画時に作成された照射情報と患者9の3次元画像情報とを通信装置11を介して取得する。
【0035】
位置決め装置20の疑似透視X線画像作成部21は、実際の透視X線撮影体系と同じ仮想空間上で患者9の3次元画像を配置して投影処理することで疑似透視X線画像を作成する。
【0036】
ここで3次元画像情報には、ボクセル単位で患者の形状および電子密度を示す情報が含まれている。一般的にはコンピュータ断層(Computed Tomography:CT)撮影画像が用いられる。
【0037】
ROI描画部22は、疑似透視X線画像上の位置合わせに使用したい骨を含む領域をROIとしてユーザに画面上で描画させることができる。ここでユーザに描画させるROIは、位置決め対象構造物を含むように描画した領域として作成してよい。
【0038】
2次元類似度情報計算部23は、ROI内における透視X線画像と疑似透視X線画像との2次元類似度情報を計算する。なお、2次元類似度情報とは一般に画像同士の類似度を計算する際に用いられる類似度指標を2次元に変換し表示した情報である。
2次元類似度情報の例として、類似度指標として正規化相互相関(Zero-mean Normalized Cross Correlation:ZNCC)係数を使用した場合について説明する。ZNCCの類似度は式(1)で計算できる。ここでg(i,j)はDR画像、f(i,j)はDRR画像、μはDR画像の平均輝度値、μはDRR画像の平均輝度値である。式(1)の分子は各画像に対して画素毎に画像の平均輝度値との差分を計算し、その積を全画素で足し合わせた値のため、式(1)を画素毎の類似度を表す式として分解すると式(2)のように2次元の類似度情報として表すことができる。これを本発明では2次元類似度情報として用いる。式(2)で算出した各画素の類似度を画像として表すと画像上で一致度の高い部位が高い数値として表示される。
【数1】
【数2】
【0039】
ROI重み付け処理部24は、2次元類似度情報計算部23で計算されたROI内の
2次元類似度情報に基づいてROIの各ピクセルに重みづけ係数を付与する。
【0040】
画像照合部25は、前記透視X線画像と前記疑似透視X線画像の両画像とを、ROI内に含まれる部分のみで画像照合を行い、両画像における患者の位置を一致させるために必要な6自由度の変位量を計算する。ここで算出された変位量は、位置決め装置20にて、寝台制御装置15を制御して寝台7を移動させるために使用される。画像表示部26は、照合画像、ROI画像、2次元類似度情報を表示する。
【0041】
位置決め装置20は、各種情報処理が可能な装置、一例としてコンピュータ等の情報処理装置から構成される。情報処理装置は、演算素子、記憶媒体及び通信インターフェースを有し、さらに、必要に応じてマウス、キーボード等の入力部、ディスプレイ等の表示部を有する。
【0042】
演算素子は、例えばCPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等である。
【0043】
記憶媒体は、例えばHDD(Hard Disk Drive)などの磁気記憶媒体、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)などの半導体記憶媒体等である。また、記憶媒体として、DVD(Digital Versatile Disk)等の光ディスク及び光ディスクドライブの組み合わせも用いられる。更に、記憶媒体として、磁気テープメディアなどその他の公知の記憶媒体も用いられる。
【0044】
記憶媒体には、ファームウェアなどのプログラムが格納されている。演算素子が位置決め装置20の動作開始時(例えば電源投入時)にプログラムを記憶媒体から読み出し、実行することにより位置決め装置20の各部21~25が実現され、全体の一連の制御が実行される。また、記憶媒体には、プログラム以外にも、位置決め装置20の各処理に必要なデータ等が格納されている。
【0045】
なお、本実施例の位置決め装置20は、それぞれ、情報処理装置が通信ネットワークを介して通信可能に構成された、いわゆるクラウドコンピューティングにより構成されてもよい。
【0046】
本実施形態の粒子線治療システムAは、粒子線治療の患者位置決めの前に、事前にROIを作成する。以下、本実施形態の重み付けROIの作成方法および患者位置決め方法について図2から図5を用いて説明する。
【0047】
図2は、重み付けROIの作成と更新処理を示すフローチャートである。図3は、2次元類似度情報に基づいた重み付け係数付与を示す図である。図4は、複数日に及ぶ治療の過程で順次更新する重み付けROIを示す図である。図5は、4DCTを用いた重み付けROIの作成フローを示した図である。
【0048】
なお、図3図4には、説明を容易にするために、ひとつの方向からの疑似透視X線画像のみを示しているが、実際には、2つの方向からの疑似透視X線画像があり、重み付けROI作成処理はそれぞれの方向からの画像へ適用される。
【0049】
図2に示すように、まず位置決め装置20の疑似透視X線画像作成部21が、疑似透視X線画像を作成する(Step100)。
【0050】
次に、ROI描画部22が、ユーザの操作に基づき、前記疑似透視X線画像201上に位置決めに使用したい構造物が存在する領域をROI50として設定する(Step101)。以上の処理が治療の事前準備としての作業である。
【0051】
ROI50の設定方法として、ROI描画部22が前記疑似透視X線画像201を画面に表示し、ユーザにマウス操作等でROI50とする領域を塗りつぶさせ、塗りつぶされた領域をROI50として設定するという方法がある。また、ROI描画部22が疑似透視X線画像を画面に表示し、ユーザにマウス操作等でROI50とする領域内の位置を選択させ、選択された位置から所定距離内の領域をROI50として設定するという方法もある。また、ROI描画部22が前記疑似透視X線画像201を画面に表示し、ユーザにマウス操作等でROI50とする領域内の位置を選択させ、選択された位置の画素値から一定範囲内の画素値を持つ連続する領域をROI50として設定するという方法がある。画像表示部26はROI描画部22でユーザの描画により作成したROI50を、疑似透視X線画像に重ねて画面に表示する。
【0052】
以下、治療時の位置決めにおける作業を説明する。
【0053】
位置決め装置20の画像照合部25は、ROI描画部22で作成したROI50を読み込む(Step102)。その後、透視X線画像撮影装置14が患者9の透視X線画像を取得する(Step103)。
【0054】
取得した透視X線画像は患者位置決め装置に送信され、画像照合部25で疑似透視X線画像とROI内を対象とした位置照合のための自動計算する(Step104)。ここでは。類似度を測る指標として一般に使用されている正規化相互相関係数や相互情報量などを使用して両画像が一致するために必要な疑似透視X線画像もしくは透視X線画像の6自由度の変位量(並進3方向、回転3方向)を最適化計算により算出する。類似度についてはその他の指標を使用しても良い。
【0055】
算出された類似度が事前に設定した収束条件を満たすか否か判定し、一致度が収束条件を満たさない場合、最適化処理により収束条件を満たす条件(並進3自由度、回転3自由度の計6自由度の値)を探索する。6自由度のような多変数の最適化処理の手法として滑降シンプレックス法やパウエル法などがあり、本実施例で利用可能である。ただし、これらに限定されることはなく他の手法で最適化処理を行ってもよい。
【0056】
その後、ユーザは患者位置決め装置の画像表示部26により画面上に表示されたROI内の透視X線画像と疑似透視X線画像の一致具合を目視で確認し(Step105)、一致しない場合はユーザが手動で両画像が一致するように画像同士を合わせる(Step106)。
【0057】
その後、位置決め装置20の2次元類似度情報計算部23は両画像の2次元類似度情報を算出する(Step107)。その後、ROI重み付け処理部24は算出した2次元類似度情報に基づきROI内に重み係数を付与する(Step108)。
【0058】
図3を用いてROIに対する重み係数付与する方法の一例を説明する。今、画像100を疑似透視X線画像にROI50を重ねた画像とすると、画像100と透視X線画像とでROI内の2次元類似度情報を算出することで一致度の高い箇所に高い類似を持った2次元類似度画像を作成することができる。
【0059】
ここで、2次元類似度画像を疑似透視X線画像に重ね合した画像を画像101として表示する。この画像101の例では対象骨が背骨であり、背骨の輪郭に沿って高い類似度を示す画像が作成される。画像101内のROI50で囲まれる正方領域を点線52として拡大した画像102は2次元類似度情報の大きさを反映するように各画素に係数を付与する。
【0060】
なお、この画像上で係数を付与する領域は説明を容易にするために実際の疑似透視X線画像の画素サイズよりも大きな格子領域として示しているが、実際には2次元類似度情報からROI50内の画素に重み付け係数を付与するさいの画素のサイズは疑似透視X線画像の画素サイズに合わせてもよいし、より大きなサイズとして設定してもよい。
【0061】
ここで、疑似透視X線画像102に格子状に付与された重み付け係数はそれぞれ、ROI外は0、ROI内は1、ROI内かつ2次元類似度が中程度なら2、高い場合は3を係数として付与した画像として示しており、画像中のROI内の係数情報を重み付けROI画像として自動計算に使用する。
【0062】
重み付けROI画像を用いた画像同士の類似度計算の例として、式(1)で示した正規化相互相関係数を類似度指標に用いた場合は類似度の計算式は以下のように表すことができる。ここでw(i,j)は画素(i,j)における重み付け係数を意味する。2次元類似度情報を実際の疑似透視X線画像の画素サイズと異なるサイズで設定している場合はは前記2次元類似度情報を内挿して画素(i,j)における重み付け係数w(i,j)を算出して利用する。
【数3】
Step108で作成された重み付けROI画像は、次回治療における位置決め前の疑似透視X線画像、ROI情報の読み込み(Step102)の際に新たなROI画像として使用される。重み付けROI画像が治療期間中に日々の位置決め時に用いられ、更新された重み係数を日ごとに積算した重み付けROI画像を位置決めに用いることで、治療期間中に配置の変形のあるROI内の背骨領域は徐々に低い重み係数が付与されて、変形の少ない背骨領域のみに注目した位置決めが可能になる。
【0063】
図4を用いて重み付けROI画像更新の例を説明する。
【0064】
疑似透視X線画像上にROI50が描画された画像200は、治療初日の位置決め終了時には画像201のように、対象骨である背骨の輪郭に沿って高い係数が付与されたROIとなる、治療N日目にROI内の背骨上部に変形した状態で位置決めが実施され2次元類似度情報が計算された場合は、画像202に示すように、ROI内画像上部の背骨53の輪郭に付与される重み付け係数はROI内の他の背骨に付与されるよりも低い係数が付与される。このように、治療期間中に随時ROI内の重みを積算し、更新することで変形の少ない対象骨のみに注目した位置決めが可能となる。
【0065】
従って、本実施例によれば、従来のROIの設定方法の元で精度の高い患者の位置決めが容易になる。
【実施例2】
【0066】
上述した実施例1では、重み付けROIの作成と更新は初日の位置決めが終了した時点から始めるが、治療計画用に4次元CT(以下、4DCT)を取得している場合は、治療の開始前に重み付けROIを作成することが可能である。ここでいう4DCTとは、患者の呼吸1周期を10位相(T00~T90)に分けて各呼吸位相のCT画像を取得したものをいう。一般に、10位相あるCTのうち、呼吸による動きが安定している呼気位相のCT画像(T40)が治療計画用CTとして用いられる。
【0067】
以下、図5を用いて4DCTを用いた重み付けROIの作成方法について説明する。
【0068】
まず4DCTの各呼吸位相CT(T00~T90)に対して疑似透視X線画像IT00―IT90を作成する。(Step200)
【0069】
次に、治療計画に用いたCTT40で作成した疑似透視X線画像IT40に対してユーザーがROIを描画する(Step201)。次に、IT40に対するIT00―IT30、T50―IT90のそれぞれの2次元類似度情報を計算する(Step202)。最後に、各2次元類似度情報を積算した情報を用いてROI内の重み付け係数を付与する(Step203)。
【0070】
以上の処理で作成した重み付けROIを治療の初日から使用することで、ROI内に含まれる横隔膜や心壁のように呼吸や心拍による動きのある軟組織端と位置決め対象骨とが重なる領域の重み係数を予め小さく設定できるため、位置合わせ自動計算時に透視X線画像と疑似透視X線画像の前記軟組織端同志に合わせに行き位置合わせが失敗する事象を防止することができる。
【0071】
上述した各実施例では、2次元類似度情報を算出する際に疑似透視X線画像と透視X線画像をそのまま使用したが、位置決め対象骨の輪郭を強調して2次元類似度情報を算出するために、両画像にエッジ協調処理を施した画像同士を用いて2次元類似度情報を算出してもよい。
【0072】
なお、その際のエッジ強調処理については特に限定されないが、例えば、一般的なエッジ強調フィルタとして縦方向および横方向のそれぞれに対して微分フィルタを適用しても良い。微分フィルタとしてPrewitteフィルタ、やSobelフィルタが利用できる。あるいは、他のフィルタによりエッジ強調処理を行ってもよい。また、複数のフィルタを組合わせてエッジ強調処理を行ってもよい。
【0073】
本実施形態では、粒子線治療システムを例示したが、広く放射線治療システムであってもよい。例えば、本実施形態に例示した患者の位置決めの構成および方法は、放射線治療システムに広く適用可能なものである。一例として、本実施形態に記載の加速器1は治療X線を想定した電子線加速器でもよいし、陽子や炭素といった粒子線加速器でもよい。
【0074】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0075】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続さ
【符号の説明】
【0076】
A…粒子線治療システム、1…加速器、2…ビーム輸送装置、3…ガントリー、4…照射ノズル、5A…平面検出器、5B…平面検出器、6A…X線管、6B…X線管、7…寝台、8…ロボットアーム、9…患者、10…治療計画装置、11…通信装置、12…データサーバ、14…透視X線画像撮影装置、15…寝台制御装置、20…患者位置決め装置、21…疑似透視X線画像作成部、22…ROI描画部、23…2次元類似度情報計算部、24…ROI重み付け処理部、25…画像照合部、26…画像表示部、50…ROI、51…2次元類似度情報、52…ROIを含む正方領域、53…背骨、100…ROIを重ねた疑似透視X線画像、101…2次元類似度画像を重ねた疑似透視X線画像、102…画像101内の正方領域52を拡大した画像、200…ROIが描画された疑似透視X線画像、201…2次元類似度情報に基づき重み付けされたROIを含む疑似透視X線画像、202…治療N日後の重み付け係数が更新されたROIを含む疑似透視X線画像
図1
図2
図3
図4
図5