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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】化合物又はその塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/08 20060101AFI20241028BHJP
   B01J 23/648 20060101ALI20241028BHJP
   B01J 29/82 20060101ALI20241028BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241028BHJP
   C01B 39/48 20060101ALN20241028BHJP
   B01J 29/76 20060101ALN20241028BHJP
【FI】
C07D487/08
B01J23/648 Z
B01J29/82 Z
C07B61/00 300
C01B39/48
B01J29/76 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021522161
(86)(22)【出願日】2020-05-08
(86)【国際出願番号】 JP2020018657
(87)【国際公開番号】W WO2020241202
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2019098586
(32)【優先日】2019-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019098745
(32)【優先日】2019-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100118991
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 聡二郎
(72)【発明者】
【氏名】満留 敬人
(72)【発明者】
【氏名】高木 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 清彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴鹿 弘康
(72)【発明者】
【氏名】今仲 庸介
(72)【発明者】
【氏名】伴野 靖幸
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-169139(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0174824(US,A1)
【文献】国際公開第2001/053236(WO,A1)
【文献】特表2017-508605(JP,A)
【文献】特許第7442142(JP,B2)
【文献】MARTIN, N. et al.,Cage-based small-pore catalysts for NH3-SCR prepared by combining bulky organic structure directing,Applied Catalysis, B: Environmental,2017年,Vol. 217,pp. 125-136,DOI 10.1016/j.apcatb.2017.05.082
【文献】NAKAZAWA, N., et al.,Novel Technique to Synthesize AFX-Type Zeolite Using a Bulky and Rigid Diquaternary Ammonium Cation,Advanced Porous Materials,Volume 4, Number 3,2016年,219-229,DOI: 10.1166/apm.2016.1114,[online], [retrieved on 2020.05.20], Retrieved from the Internet: <URL: https://doi.org/10.1166/apm
【文献】J. Vac. Soc. Jpn.,2006年,Vol.49,No.4,205-212,DOI 10.3030/jvsj.49.205
【文献】Microporous and Mesoporous Materials,2017年,Vol.254,Page.160-169,DOI:10.1016/j.micromeso.2017.04.004
【文献】Chem. Mater.,2016年,28,4998-5012,DOI: 10.1021/acs.chemmater.6b01676
【文献】土谷和愛,かさ高く剛直な有機構造規定剤を用いたリン修飾AFXゼオライトの合成,ゼオライト研究発表会講演予稿集,2019年12月05日,35th,p.38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
B01J
CAplus/CASREACT/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(A)で表される化合物を準備する工程(工程I)と、
前記式(A)で表される化合物を、白金を含む触媒を用いて水素源と反応させて、式(2)で表される化合物を得る工程(工程II)と、
前記式(2)で表される化合物を、アルキル化試薬を用いてN-アルキル化する工程(工程III)と、
を少なくとも含む、式(1)で表される化合物又はその塩の製造方法。
【化1】
(前記式(A)、式(1)、式(2)中、R1~R4は、それぞれ独立して、アルキル基である。)
【請求項2】
前記触媒が、バナジウムをさらに含む
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記触媒が、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ、酸化マグネシウム、リン酸三カルシウム、及びこれら無機酸化物の二種以上の複合体よりなる群から選択される担体をさらに含む
請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記触媒が、リン酸三カルシウムをさらに含む
請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物及びその製造方法、AFX型ゼオライト及びその製造方法、並びにハニカム積層触媒等に関する。
【従来の技術】
【0002】
AFX型ゼオライトは、自動車排気ガス中の窒素酸化物を浄化するためのSCR(Selective Catalytic Reduction 選択触媒還元)用材料として有用である(非特許文献1)。AFX型ゼオライトの合成には、骨格構造形成のために構造規定剤が使用される。構造規定剤はOSDA(Organic Structure Directing Agents、有機構造規定剤)とも呼ばれ、例えば、N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウムが知られている。N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウムは、AFX型ゼオライトに加え、MCM-68ゼオライトの調製時にもOSDAとして使用される有用な化合物である(例えば、特許文献1及び2、非特許文献2参照)。
【0003】
また、特許文献3には、N,N'-ジエチル-N,N'-ジプロピルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウム、及び、N,N'-ジエチル-N,N'-ジイソプロピルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウムが、MCM-70ゼオライトのOSDAとして使用できることが開示されている。
【0004】
特許文献4には、メソ孔を有するAFX型ゼオライトが開示されており、当該ゼオライトは、細孔状態が制御されているため物質の拡散に優れ、触媒特性が向上するとされている。特許文献4のAFX型ゼオライトは、シリカ源、アルミナ源、ナトリウム源及び種晶を含み、なおかつ、シリカに対する四級アンモニウムカチオンのモル比が0.01未満である組成物を結晶化させる方法により、OSDAを用いることなく製造される。特許文献4のAFX型ゼオライトはメソ孔を有することは開示されているが、マクロ孔を有するAFX型ゼオライトは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第6049018号明細書
【文献】特開2016-169139号公報
【文献】米国特許出願公開第6656268号明細書
【文献】特開2017-128457号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】S. V. Priya et al., Bull. Chem. Soc. Jpn, 91 (2018) 355.
【文献】N. Nakazawa et al., Adv. Porous Mater., 4 (2016) 219.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2には、N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウムをOSDAとして用いることが開示されている。しかしながら、OSDAには、構造規定剤としての利用を考慮した場合、所望の骨格構造のゼオライトをより効率的に比較的に高純度で得られる性能を有することが求められている。また、工業上の適用拡大の観点から、合成時におけるプロセス裕度が高いものが望ましく、そのため、化合物やその塩など種々の態様で使用可能なOSDAが求められている。
本発明の一態様は、上記事情に鑑みなされたものであり、OSDAとして有用である新規化合物、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0008】
特許文献2には、N,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジンを前駆体として、これをN-エチル化することにより目的物のN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウムを製造する方法が開示されている。このとき、当該前駆体の合成においては、N,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボニルジイミドを、発火性、爆発性が指摘されるリチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH)等の、取り扱いに注意を必要とする、反応性が非常に高い還元剤を用いなければならず、目的化合物の量産化が困難である。このように安全な手法でOSDAを入手することが困難であったことから、AFX型ゼオライトの量産化は事実上困難である。
本発明の別の一態様は、上記事情に鑑みなされたものであり、OSDAとして有用であり、安全且つ容易に合成できる新規化合物及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0009】
本発明の他の一態様は、上記事情に鑑みなされたものであり、新規なAFX型ゼオライト及びこのAFX型ゼオライトを効率的に製造することができる製造方法を提供することを課題とする。また、本発明の異なる一態様は、上記事情に鑑みなされたものであり、上記の新規なAFX型ゼオライトを用いたハニカム積層触媒を提供することを課題とする。
【0010】
なお、ここでいう目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも、本発明の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らがOSDAの製造に有用な化合物の提供について鋭意検討した結果、所定の化合物が、OSDAとして有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明者らがOSDAの製造に有用な化合物の提供について鋭意検討した結果、所定の化合物が、安全且つ容易に合成でき、OSDAとして有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明者らがOSDAの製造に有用な化合物の提供について鋭意検討した結果、OSDAとして有用な所定の化合物を用いることにより、効率よくAFX型ゼオライトを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下に示す各種態様を提供する。
〔1〕
式(1)で表される化合物又はその塩。
【化1】
(前記式(1)中、R1~Rは、それぞれ独立して、アルキル基である。)
【0015】
〔2〕
上記〔1〕に記載の化合物及び/又はその塩を含む、ゼオライト合成用構造規定剤。
【0016】
〔3〕
式(2)で表される化合物を準備する工程と、
前記式(2)で表される化合物を、アルキル化試薬を用いてN-アルキル化する工程と、を少なくとも含む、式(1)で表される化合物又はその塩の製造方法。
【化2】
(前記式(1)及び(2)中、R1~Rは、それぞれ独立して、アルキル基である。)
【0017】
〔4〕
水以外の組成が、下記組成:
a/bcSi48-dAl96
(式中、Mは金属カチオン、aは1~10、bはMの価数、Qは請求項1に記載の化合物及び/又はその塩に由来するカチオン、cは0.5~2、dは4~12を表す。)により表される
AFX型ゼオライト。
【0018】
〔5〕
X線回折データが、以下の2θ値(°):7.50±0.15、8.71±0.15、11.60±0.15、13.01±0.15、15.67±0.15、17.46±0.15、17.72±0.15、19.93±0.15、20.42±0.15、21.84±0.15、23.47±0.15、26.19±0.15、27.79±0.15、30.67±0.15、31.65±0.15、及び33.56±0.15を含む
上記〔4〕に記載のAFX型ゼオライト。
【0019】
〔6〕
SAR(SiO/Al比)が、10以上30以下であり、
粉末X線回折分析によって得られるXRDチャートにおいて、2θ=21.77°±0.15°が最強線であり、
平均粒子径が、0.6μm以上である
AFX型ゼオライト。
【0020】
〔7〕
X線回折データが、以下の2θ値(°):7.46±0.15、8.69±0.15、11.64±0.15、12.93±0.15、15.60±0.15、17.43±0.15、17.90±0.15、19.81±0.15、20.32±0.15、21.77±0.15、23.67±0.15、26.03±0.15、28.05±0.15、30.49±0.15、31.50±0.15、及び33.71±0.15を含む
上記〔6〕に記載のAFX型ゼオライト。
【0021】
〔8〕
SAR(SiO/Al比)が、10以上30以下であり、
粉末X線回折分析によって得られるXRDチャートにおいて、2θ=21.77°±0.15°が最強線であり、
平均粒子径が、0.6μm以上であり、
遷移金属が担持された、
AFX型ゼオライト。
【0022】
〔9〕
シリカ及びアルミナ源、
下記式(1)で表される化合物及び/又はその塩を含む有機構造規定剤(OSDA):
【化3】
(前記式(1)中、R1~Rは、それぞれ独立して、アルキル基である。)、
アルカリ金属水酸化物、及び

を少なくとも含む混合物を調製する工程、並びに
前記混合物を水熱処理してAFX型ゼオライトを合成する工程
を少なくとも含む、
〔4〕~〔8〕のいずれか一項に記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0023】
〔10〕
シリカ及びアルミナ源、
下記式(1)で表される化合物及び/又はその塩を含む有機構造規定剤(OSDA):
【化4】
(前記式(1)中、R1~Rは、それぞれ独立して、アルキル基である。)、
アルカリ金属水酸化物、及び

を少なくとも含む混合物を調製する工程、並びに
前記混合物を水熱処理してAFX型ゼオライトを合成する工程
前記水熱処理する工程の後、得られた前記AFX型ゼオライトをさらに焼成する工程を少なくとも含む
〔6〕~〔8〕のいずれか一項に記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0024】
〔11〕
シリカ及びアルミナ源、
下記式(1)で表される化合物及び/又はその塩を含む有機構造規定剤(OSDA):
【化5】
(前記式(1)中、R1~Rは、それぞれ独立して、アルキル基である。)、
アルカリ金属水酸化物、及び

を少なくとも含む混合物を調製する工程、並びに
前記混合物を水熱処理してAFX型ゼオライトを合成する工程
前記水熱処理する工程の後、得られた前記AFX型ゼオライトをさらに焼成する工程
前記焼成する工程の後、遷移金属を担持する工程
を少なくとも含む
〔8〕に記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0025】
〔12〕
式(A)で表される化合物を準備する工程(工程I)と、
前記式(A)で表される化合物を、触媒を用いて水素源と反応させて、式(2)で表される化合物を得る工程(工程II)と、
前記式(2)で表される化合物を、アルキル化試薬を用いてN-アルキル化する工程(工程III)と、
を少なくとも含む、式(1)で表される化合物又はその塩の製造方法。
【化6】
(前記式(A)、式(1)、式(2)中、R~Rは、それぞれ独立して、アルキル基である。)
【0026】
〔13〕
シリカ及びアルミナ源、
下記式(1)で表される化合物及び/又はその塩を含む有機構造規定剤(OSDA):
【化7】
(前記式(1)中、R1~Rは、それぞれ独立して、アルキル基である。)、
アルカリ金属水酸化物、及び

を少なくとも含む混合物を調製する工程、並びに
前記混合物を水熱処理してAFX型ゼオライトを合成する工程
を少なくとも含む、AFX型ゼオライトの製造方法。
【0027】
〔14〕
N,N'-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボキシジイミドを、Pt-V/Z触媒を用いて水素源と反応させN,N'-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジンを得る工程、及び、
前記N,N'-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジンを、アルキル化試薬を用いてN-アルキル化して式(1)で表される化合物及び/又はその塩を含む前記有機構造規定剤(OSDA)を得る工程を含む
上記〔13〕に記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0028】
〔15〕
マクロ孔を有する、AFX型ゼオライト。
【0029】
〔16〕
上記〔8〕又は〔15〕記載のAFX型ゼオライトをハニカム担体に塗布した、ハニカム積層触媒。
【0030】
また、本発明の一態様では、以下に示す種々の具体的態様を提供する。以下、[A1]~[A18]の態様を、第1群の具体的態様ともいう。
【0031】
[A1]
式(1)で表される化合物又はその塩。
【化8】
(前記式(1)中、R1~Rは、それぞれ独立して、アルキル基である。)
【0032】
[A2]
前記式(1)におけるR1~Rが、同一のアルキル基である
[A1]に記載の化合物又はその塩。
【0033】
[A3]
前記式(1)におけるR1~Rが、それぞれエチル基である
[A1]又は[A2]に記載の化合物又はその塩。
【0034】
[A4]
[A1]~[A3]のいずれかに記載の化合物及び/又はその塩を含む、ゼオライト合成用構造規定剤。
【0035】
[A5]
式(2)で表される化合物を準備する工程と、
前記式(2)で表される化合物を、アルキル化試薬を用いてN-アルキル化する工程と、を少なくとも含む、式(1)で表される化合物又はその塩の製造方法。
【化9】
(前記式(1)及び(2)中、R1~Rは、それぞれ独立して、アルキル基である。)
【0036】
[A6]
前記アルキル化試薬が、R'-Xで表される
(R'は、アルキル基であり、Xは、ハロゲン原子及び置換基を有していてもよいスルホニル基からなる群から選択される1以上の脱離基である。)
[A5]に記載の製造方法。
【0037】
[A7]
前記アルキル化試薬が、ハロゲン化アルキルである
[A6]に記載の製造方法。
【0038】
[A8]
前記アルキル化試薬が、ハロゲン化エチルであり、
前記式(1)及び(2)におけるR1及びRが、エチル基であり、
前記式(1)におけるR及びRが、エチル基である
[A5]に記載の製造方法。
【0039】
[A9]
水以外の組成が、下記組成:
a/bcSi48-dAl96
(式中、Mは金属カチオン、aは1~10、bはMの価数、Qは[1]~[3]のいずれかに記載の化合物及び/又はその塩に由来するカチオン、cは0.5~2、dは4~12を表す。)により表される
AFX型ゼオライト。
【0040】
[A10]
X線回折データが、以下の2θ値(°):7.50±0.15、8.71±0.15、11.60±0.15、13.01±0.15、15.67±0.15、17.46±0.15、17.72±0.15、19.93±0.15、20.42±0.15、21.84±0.15、23.47±0.15、26.19±0.15、27.79±0.15、30.67±0.15、31.65±0.15、及び33.56±0.15を含む
[A9]に記載のAFX型ゼオライト。
【0041】
[A11]
SAR(SiO/Al比)が、10以上30以下であり、
粉末X線回折分析によって得られるXRDチャートにおいて、2θ=21.77°±0.15°が最強線であり、
平均粒子径が、0.6μm以上である
AFX型ゼオライト。
【0042】
[A12]
X線回折データが、以下の2θ値(°):7.46±0.15、8.69±0.15、11.64±0.15、12.93±0.15、15.60±0.15、17.43±0.15、17.90±0.15、19.81±0.15、20.32±0.15、21.77±0.15、23.67±0.15、26.03±0.15、28.05±0.15、30.49±0.15、31.50±0.15、及び33.71±0.15を含む
[A11]に記載のAFX型ゼオライト。
【0043】
[A13]
平均粒子径が、1.0μm以上3.0μm以下である
[A11]又は[A12]に記載のAFX型ゼオライト。
【0044】
[A14]
SAR(SiO/Al比)が、10以上30以下であり、
粉末X線回折分析によって得られるXRDチャートにおいて、2θ=21.77°±0.15°が最強線であり、
平均粒子径が、0.6μm以上であり、
遷移金属が担持された、
AFX型ゼオライト。
【0045】
[A15]
[A14]に記載のAFX型ゼオライト、及びハニカム担体を備えた
ハニカム積層触媒。
【0046】
[A16]
シリカ及びアルミナ源、
下記式(1)で表される化合物及び/又はその塩を含む有機構造規定剤(OSDA):
【化10】
(前記式(1)中、R1~Rは、それぞれ独立して、アルキル基である。)、
アルカリ金属水酸化物、及び

を少なくとも含む混合物を調製する工程、並びに
前記混合物を水熱処理してAFX型ゼオライトを合成する工程
を少なくとも含む、
[A9]~[A14]のいずれかに記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0047】
[A17]
シリカ及びアルミナ源、
下記式(1)で表される化合物及び/又はその塩を含む有機構造規定剤(OSDA):
【化11】
(前記式(1)中、R1~Rは、それぞれ独立して、アルキル基である。)、
アルカリ金属水酸化物、及び

を少なくとも含む混合物を調製する工程、並びに
前記混合物を水熱処理してAFX型ゼオライトを合成する工程
前記水熱処理する工程の後、得られた前記AFX型ゼオライトをさらに焼成する工程を少なくとも含む
[A11]~[A14]のいずれかに記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0048】
[A18]
シリカ及びアルミナ源、
下記式(1)で表される化合物及び/又はその塩を含む有機構造規定剤(OSDA):
【化12】
(前記式(1)中、R1~Rは、それぞれ独立して、アルキル基である。)、
アルカリ金属水酸化物、及び

を少なくとも含む混合物を調製する工程、並びに
前記混合物を水熱処理してAFX型ゼオライトを合成する工程
前記水熱処理する工程の後、得られた前記AFX型ゼオライトをさらに焼成する工程
前記焼成する工程の後、遷移金属を担持する工程
を少なくとも含む
[A14]に記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0049】
また、本発明の一態様では、以下に示す種々の具体的態様を提供する。以下、[B1]~[B8]の態様を、第2群の具体的態様ともいう。
【0050】
[B1]
式(A)で表される化合物を準備する工程(工程I)と、
前記式(A)で表される化合物を、触媒を用いて水素源と反応させて、式(2)で表される化合物を得る工程(工程II)と、
前記式(2)で表される化合物を、アルキル化試薬を用いてN-アルキル化する工程(工程III)と、
を少なくとも含む、式(1)で表される化合物又はその塩の製造方法。
【化13】
(前記式(A)、式(1)、式(2)中、R~Rは、それぞれ独立して、アルキル基である。)
【0051】
[B2]
前記水素源が、分子状水素である
[B1]に記載の製造方法。
【0052】
[B3]
前記工程IIが、湿式プロセス下で行われる
[B1]又は[B2]に記載の製造方法。
【0053】
[B4]
前記触媒が、不均一系触媒である
[B1]~[B3]のいずれかに記載の製造方法。
【0054】
[B5]
前記アルキル化試薬が、R'-Xで表される
(R'は、アルキル基であり、Xは、ハロゲン原子及び置換基を有していてもよいスルホニル基からなる群から選択される1以上の脱離基である。)
[B1]~[B4]のいずれかに記載の製造方法。
【0055】
[B6]
前記アルキル化試薬が、ハロゲン化アルキルである
[B5]に記載の製造方法。
【0056】
[B7]
前記アルキル化試薬が、ハロゲン化エチルである、
[B6]に記載の製造方法。
【0057】
[B8]
前記式(A)、式(1)及び(2)におけるR1及びRが、エチル基であり、
前記式(1)におけるR及びRが、エチル基である
[B1]~[B7]のいずれかに記載の製造方法。
【0058】
また、本発明の一態様では、以下に示す種々の具体的態様を提供する。以下、[C1]~[C13]の態様を、第3群の具体的態様ともいう。
【0059】
[C1]
シリカ及びアルミナ源、
下記式(1)で表される化合物及び/又はその塩を含む有機構造規定剤(OSDA):
【化14】
(前記式(1)中、R1~Rは、それぞれ独立して、アルキル基である。)、
アルカリ金属水酸化物、及び

を少なくとも含む混合物を調製する工程、並びに
前記混合物を水熱処理してAFX型ゼオライトを合成する工程
を少なくとも含む、AFX型ゼオライトの製造方法。
【0060】
[C2]
前記式(1)におけるR1~Rが、同一のアルキル基である
[C1]に記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0061】
[C3]
前記式(1)におけるR1~Rが、それぞれエチル基である
[C1]又は[C2]に記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0062】
[C4]
前記混合物中のシリカアルミナ比(SiO/Al)が、5~30である
[C1]~[C3]のいずれかに記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0063】
[C5]
前記AFX型ゼオライトの水以外の組成が、下記組成:
a/bcSi48-dAl96
(式中、Mは金属カチオン、aは1~10、bはMの価数、Qは前記(1)で表される化合物及び/又はその塩に由来するカチオン、cは0.5~2、dは4~12を表す。)により表される
[C1]~[C4]のいずれかに記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0064】
[C6]
前記AFX型ゼオライトのX線回折データが、以下の2θ値(°):7.50±0.15、8.71±0.15、11.60±0.15、13.01±0.15、15.67±0.15、17.46±0.15、17.72±0.15、19.93±0.15、20.42±0.15、21.84±0.15、23.47±0.15、26.19±0.15、27.79±0.15、30.67±0.15、31.65±0.15、及び33.56±0.15を含む
[C1]~[C5]のいずれかに記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0065】
[C7]
前記混合物を調製する工程においては、シリカ源(但し、前記シリカ及びアルミナ源に該当するものは除く。)をさらに含む前記混合物を調製する
[C1]~[C6]のいずれかに記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0066】
[C8]
前記混合物を調製する工程においては、アルミナ源(但し、前記シリカ及びアルミナ源に該当するものは除く。)をさらに含む前記混合物を調製する
[C1]~[C7]のいずれかに記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0067】
[C9]
前記混合物を調製する工程においては、アルミノ珪酸塩のシード結晶をさらに含む前記混合物を調製する
[C1]~[C8]のいずれかに記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0068】
[C10]
前記水熱処理する工程の後、得られた前記AFX型ゼオライトをさらに焼成する工程を含む
[C1]~[C9]のいずれかに記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0069】
[C11]
焼成後の前記AFX型ゼオライトの水以外の組成が、下記組成:
a/b2cSi48-dAl96
(式中、Mは金属カチオン、aは1~10、bはMの価数、Qは前記(1)で表される化合物及び/又はその塩、cは0.5~2、dは4~12を表す。)により表される
[C10]に記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0070】
[C12]
得られた前記AFX型ゼオライトをNH4+型及び/又はH型にイオン交換する工程をさらに有する
[C1]~[C11]のいずれかに記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0071】
[C13]
N,N'-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボキシジイミドを、Pt-V/Z触媒を用いて水素源と反応させN,N'-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジンを得る工程、及び、
前記N,N'-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジンを、アルキル化試薬を用いてN-アルキル化して式(1)で表される化合物及び/又はその塩を含む前記有機構造規定剤(OSDA)を得る工程を含む
[C1]~[C12]のいずれかに記載のAFX型ゼオライトの製造方法。
【0072】
また、本発明の一態様では、以下に示す種々の具体的態様を提供する。以下、[D1]の態様を、第4群の具体的態様ともいう。
【0073】
[D1]
マクロ孔を有する、AFX型ゼオライト。
【0074】
[D2]
SAR(SiO/Al比)が、10以上30以下であり、
粉末X線回折分析によって得られるXRDチャートにおいて、2θ=21.77°±0.15°が最強線であり、
平均粒子径が、0.6μm以上である
[D1]に記載のAFX型ゼオライト。
【0075】
[D3]
X線回折データが、以下の2θ値(°):7.46±0.15、8.69±0.15、11.64±0.15、12.93±0.15、15.60±0.15、17.43±0.15、17.90±0.15、19.81±0.15、20.32±0.15、21.77±0.15、23.67±0.15、26.03±0.15、28.05±0.15、30.49±0.15、31.50±0.15、及び33.71±0.15を含む
[D1]又は[D2]に記載のAFX型ゼオライト。
【0076】
[D4]
平均粒子径が、1.0μm以上3.0μm以下である
[D1]~[D3]のいずれかに記載のAFX型ゼオライト。
【0077】
[D5]
SAR(SiO/Al比)が、10以上30以下であり、
粉末X線回折分析によって得られるXRDチャートにおいて、2θ=21.77°±0.15°が最強線であり、
平均粒子径が、0.6μm以上であり、
遷移金属が担持された、
[D1]に記載のAFX型ゼオライト。
【0078】
[D6]
[D1]~[D5]のいずれか一項に記載のAFX型ゼオライト、及びハニカム担体を備えた
ハニカム積層触媒。
【0079】
[D7]
[D1]~[D5]のいずれか一項に記載のAFX型ゼオライトをハニカム担体に塗布した、
ハニカム積層触媒。
【発明の効果】
【0080】
本発明の一態様の化合物は、ゼオライト等の多孔結晶材料の原料になる化合物(OSDA)として有用である。
本発明の一態様の化合物の製造方法により、安全且つ容易に、ゼオライト等の多孔結晶材料の原料になる化合物(OSDA)として有用である化合物を提供することができる。
本発明の一態様のゼオライトの製造方法により、AFX型ゼオライトを効率的に製造することが可能である。
本発明の一態様のAFX型ゼオライトをハニカム担体に塗布したハニカム積層触媒により、還元成分を使用した窒素酸化物の高効率な浄化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
図1】実施例A1により得られたN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物のDO溶液の1HNMRスペクトルデータを示す図である。図中の※は、内部標準(4,4-ジメチル-4-シラペンタン-1-スルホン酸)のピークである。
図2】実施例A1により得られたN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物のDO溶液の13CNMRスペクトルデータを示す図である。図中の※は、内部標準(4,4-ジメチル-4-シラペンタン-1-スルホン酸)のピークである。
図3】N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウムの固体NMRスペクトルデータ(A)、DO溶液の13CNMRスペクトルデータ(C)、及びN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウムを用いて得られたAFX型ゼオライトの固体NMRスペクトルデータ(B)を示す図である。なお、図中の(C)における※は、内部標準(4,4-ジメチル-4-シラペンタン-1-スルホン酸)のピークである。
図4】実施例A2のAFX型ゼオライトのXRDチャートを示す図である。
図5】実施例A3のAFX型ゼオライトのXRDチャートを示す図である。
図6】比較例A1のAFX型ゼオライトのXRDチャートを示す図である。
図7】実施例A4のAFX型ゼオライトのXRDチャートを示す図である。
図8】実施例A5のAFX型ゼオライトのXRDチャートを示す図である。
図9】実施例A6のAFX型ゼオライトのXRDチャートを示す図である。
図10】比較例A2のAFX型ゼオライトのXRDチャートを示す図である。
図11】実施例A4、A5及びA6並びに比較例A2のAFX型ゼオライトの水熱耐久性の測定前後のXRDピーク積分強度合計の変化を示す図である。
図12】実施例A4のAFX型ゼオライトのSEM画像を示す図である。
図13】実施例A5のAFX型ゼオライトのSEM画像を示す図である。
図14】実施例A6のAFX型ゼオライトのSEM画像を示す図である。
図15】比較例A2のAFX型ゼオライトのSEM画像を示す図である。
図16】実施例A7のCu担持AFX型ゼオライトのXRDチャートを示す図である。
図17】実施例A7のCu担持AFX型ゼオライトのSEM画像を示す図である。
図18】比較例A3のCu担持CHA型ゼオライトのSEM画像を示す図である。
図19】比較例A4のCu担持CHA型ゼオライトのSEM画像を示す図である。
図20】実施例B1により得られたN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物のDO溶液の1HNMRスペクトルデータを示す図である。図中の※は、内部標準(4,4-ジメチル-4-シラペンタン-1-スルホン酸)のピークである。
図21】実施例B1により得られたN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物のDO溶液の13CNMRスペクトルデータを示す図である。図中の※は、内部標準(4,4-ジメチル-4-シラペンタン-1-スルホン酸)のピークである。
図22】参考例B1のAFX型ゼオライトのXRDデータを示す図である。
図23】参考例B2により得られたN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物のDO溶液の1HNMRスペクトルデータを示す図である。図中の※は、内部標準(4,4-ジメチル-4-シラペンタン-1-スルホン酸)のピークである。
図24】参考例B2により得られたN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物のDO溶液の13CNMRスペクトルデータを示す図である。図中の※は、内部標準(4,4-ジメチル-4-シラペンタン-1-スルホン酸)のピークである。
図25】参考例B3のAFX型ゼオライトのXRDデータを示す図である。
図26】製造例C3により得られたN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物のDO溶液の1HNMRスペクトルデータを示す図である。図中の※は、内部標準(4,4-ジメチル-4-シラペンタン-1-スルホン酸)のピークである。
図27】製造例C3により得られたN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物のDO溶液の13CNMRスペクトルデータを示す図である。図中の※は、内部標準(4,4-ジメチル-4-シラペンタン-1-スルホン酸)のピークである。
図28】実施例C1のAFX型ゼオライトのXRDデータを示す図である。
図29】比較例C1により得られたゼオライトのXRDデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0082】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。すなわち、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いる。例えば「1~100」との数値範囲の表記は、その下限値「1」及び上限値「100」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
【0083】
(化合物)
本実施形態の化合物は、下記式(1)で表される化合物又はその塩である。本明細書において、「化合物又はその塩」を、上記塩を含めて単に「化合物」ともいう。本実施形態の化合物は、OSDAとして有用である。また、本実施形態の化合物は、LiAlH等の取り扱いや反応の制御が難しい還元剤試薬を使用することなく、簡便且つ安全に合成することができる化合物を出発物として使用可能なため、工業的に殊に有利である。また、本実施形態の化合物をAFX型ゼオライトの製造に用いると、AFX型ゼオライトを単相で得ることができる。
本明細書において、下記式(1)で表される化合物は、N,N,N',N'-テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウムともいう。
【化15】
【0084】
上記式(1)中、R1~Rは、それぞれ独立して、アルキル基である。R1~Rは、同一のアルキル基であることが好ましい。
アルキル基としては、炭素数1~4の直鎖状又は分岐状のアルキル基を好適に挙げることができ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
これらのアルキル基の中でも、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1~2のアルキル基である。具体的には、アルキル基としては、好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基であり、より好ましくはメチル基、エチル基であり、さらに好ましくはエチル基である。
【0085】
式(1)で表される化合物としては、具体的には以下の化合物を挙げることができる。
【化16】
【0086】
【化17】
【0087】
【化18】
【0088】
本実施形態の化合物には、上述したように塩の態様も含まれる。本実施形態の化合物のアンモニウムカチオンと塩を形成するカウンターアニオンとしては、特に制限されず、無機アニオンであってもよく、有機アニオンであってもよい。本実施形態の塩を形成する際のカウンターアニオンとしては、例えば、水酸化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、ハロゲン化物イオン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、ギ酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、酒石酸イオン、シュウ酸イオン、フマル酸イオン、炭素数3~20の飽和又は不飽和鎖状脂肪酸のアニオン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは水酸化物イオン、ハロゲン化物イオンである。すなわち、本実施形態の化合物の塩は、水酸化物、ハロゲン化物であることが好ましい。なお、本実施形態の化合物の塩は、2種以上の異なる塩の混合物であってもよい。
【0089】
(製造方法)
本実施形態の式(1)で表される化合物は、公知の合成ルートで製造することができ、その製造方法は特に限定されない。好ましい製造方法の一例としては、下記式(2)で表される化合物を、アルキル化試薬を用いてN-アルキル化する工程を含む製造方法が挙げられる。ここで、下記式(2)で表される化合物は、N,N'-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジンともいう。本実施形態の特に好適な製造方法は、以下のスキームで表すことができる。
【化19】
【0090】
上記スキーム中におけるR1~Rは、それぞれ独立して、アルキル基である。式(2)で表される化合物中のR1及びR2は、式(1)におけるR1及びR2と同義であり、好ましい置換基についても式(1)におけるR1及びR2と同様の基を挙げることができる。
【0091】
アルキル化試薬としては、式(2)で表される化合物の窒素をアルキル化するものであれば特に制限されず、例えば、R'-Xで表されるアルキル化試薬を挙げることができる。R'は、アルキル基であり、Xは、脱離基である。脱離基としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチルスルホニル、トリフルオロメチルスルホニル、p-トルエンスルホニル等のスルホニル基;が好適に挙げられる。
アルキル化試薬としては、好ましくはハロゲン化アルキルであり、より好ましくはハロゲン化メチル、ハロゲン化エチルである。
【0092】
従来技術においては、AFX型ゼオライトの合成においてはN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウム水酸化物が用いられている(特開2016-169139号公報(特許文献2)参照)。上記水酸化物の合成においては、固体粉末として得られるN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウムヨウ化物を水酸化物型の陰イオン交換樹脂でイオン交換し、濃縮することにより水酸化物の溶液を取得している。
一方、本実施形態の化合物(塩)は、上述のようにして、アルキル化により得られる塩、すなわち、Xがカウンターアニオンである塩をゼオライトの合成にそのまま用いることができる。したがって、この場合は、水酸化物を調製する手間を省くことができ、ゼオライトの製造を効率的に行うことができる。また、例えば水酸化物として用いる場合には、従来と同様に、水酸化物型の陰イオン交換樹脂でイオン交換し、濃縮する等すればよい。
【0093】
アルキル化試薬の使用量は、合成効率や純度等を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されないが、式(2)で表される化合物の物質量に対し、通常2当量以上が目安とされ、好ましくは2~50当量であり、より好ましくは2~10当量である。
【0094】
本実施形態における反応は、溶媒の存在下、すなわち、湿式プロセス下で行ってもよい。
溶媒は、式(2)で表される化合物を溶解できれば特に制限されず、反応温度や反応物等に応じて適宜選択すればよい。
溶媒としては、例えば、水;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;アセトニトリル、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;テトラヒドロフラン(以下、THFとも記載する。)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒;等が挙げられる。これら溶媒は、1種を単独であるいは2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
これらの溶媒の中でも、好ましくはアルコール系溶媒である。
【0095】
溶媒の使用の有無及びその使用量はその他の反応条件を考慮して適宜設定すればよく、特に制限されないが、式(2)で表される化合物の濃度を、反応混合物中、0.001~10mol/Lとすることが好ましく、0.01~5mol/Lとすることがより好ましく、0.01~3mol/Lとすることがさらに好ましい。
【0096】
反応温度は、特に制限されないが、溶媒の種類等により適宜調整すればよい。反応温度は、通常20~200℃、好ましくは50~150℃、より好ましくは50~120℃の範囲である。また、反応は、溶媒が還流する温度で行ってもよい。
反応時間は、GC-MS等を用い反応の進行状況をモニタリングすることによって適宜調整すればよく、通常1分~100時間、好ましくは0.5時間~70時間、より好ましくは1時間~60時間である。
【0097】
反応終了後の混合物は、上記反応で溶媒を用いる場合、得られた反応溶液を必要に応じて濃縮した後、残渣をそのまま原材料として使用してもよく、反応混合物を適宜後処理して上記式(1)で表される化合物を得てもよい。後処理の具体的な方法としては、水洗、ろ過、乾燥、抽出、蒸留、クロマトグラフィー等の公知の精製方法を挙げることができる。これらの精製方法は、2種以上を組み合わせて行ってもよい。
また、後処理として、イオン交換樹脂等を用いることにより、カウンターアニオンの調整を行って、塩を得てもよい。具体的には、前記式(2)で表される化合物を、アルキル化試薬を用いてN-アルキル化する工程の後、得られた化合物を適宜溶媒に溶解し、イオン交換樹脂と接触させることにより、所望の塩とすることができる。
【0098】
式(2)で表される化合物は、公知の合成ルートで製造することができ、その製造方法は特に限定されない。式(2)で表される化合物は、例えば、以下のスキームに表されるように、特許文献2に準じて合成することができるN,N'-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジンを水素化することにより、製造することができる。
【化20】
【0099】
上記スキーム中におけるR1及びR2は、それぞれ独立して、アルキル基である。N,N'-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジン中のR1及びR2は、式(1)におけるR1及びR2と同義であり、好ましい置換基についても式(1)におけるR1及びR2と同様の基を挙げることができる。
【0100】
式(2)で表される化合物は、具体的には、N,N'-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジンを、触媒の存在下又は非存在下、水素源と反応させることにより製造される。
【0101】
上記の製造方法において使用する水素源としては、N,N'-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジンを水素化可能なものの中から適宜選択して用いることができる。具体的には、水素ガス等の分子状水素;ギ酸アンモニウム、ギ酸ナトリウム、及びヒドラジン等の水素供与体;等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これら水素源の中でも、好ましくは分子状水素である。また、上記の製造方法において、分子状水素を用いる場合、反応器内の水素圧は、通常0.1~10MPaであり、好ましくは0.1~5MPaであり、より好ましくは0.1~1.0MPaである。
【0102】
本実施形態における反応は、溶媒の存在下、すなわち、湿式プロセス下で行ってもよい。溶媒としては、例えば、水;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;アセトニトリル、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;THF、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒;等が挙げられる。これら溶媒は、1種を単独であるいは2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。これらの溶媒の中でも、好ましくはアルコール系溶媒である。
【0103】
溶媒の使用の有無及びその使用量はその他の反応条件を考慮して適宜設定すればよく、特に制限されないが、N,N'-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジンの濃度を、反応混合物中、0.001~10mol/Lとすることが好ましく、0.01~5mol/Lとすることがより好ましく、0.01~3mol/Lとすることがさらに好ましい。
【0104】
反応温度は、特に制限されないが、溶媒の種類等により適宜調整すればよい。反応温度は、通常20~200℃、好ましくは20~150℃、より好ましくは30~120℃の範囲である。また、反応は、溶媒が還流する温度で行ってもよい。
反応時間は、GC-MS等を用い反応の進行状況をモニタリングすることによって適宜調整すればよく、通常1分~1000時間、好ましくは0.5時間~300時間、より好ましくは1時間~200時間である。
【0105】
反応終了後の混合物は、上記反応で溶媒を用いる場合、得られた反応溶液を必要に応じて濃縮した後、残渣をそのまま原材料として使用してもよく、反応混合物を適宜後処理して上記式(2)で表される化合物を得てもよい。後処理の具体的な方法としては、水洗、ろ過、乾燥、抽出、蒸留、クロマトグラフィー等の公知の精製方法を挙げることができる。これらの精製方法は、2種以上を組み合わせて行ってもよい。
【0106】
(ゼオライト合成用構造規定剤)
本実施形態の化合物及びその塩は、ゼオライト製造時の構造規定剤(OSDA;Organic Structure Directing Agents、有機構造規定剤)として用いることができる。すなわち、本実施形態の一つは、式(1)で表される化合物及び/又はその塩を含むゼオライト合成用構造規定剤である。
【0107】
<AFX型ゼオライト及びその製造方法>
本実施形態のAFX型ゼオライトの製造方法は、シリカ及びアルミナ源、下記(1)で表される化合物及び/又はその塩を含む有機構造規定剤(OSDA)、アルカリ金属水酸化物、及び水を少なくとも含む混合物を調製する工程、並びに前記混合物を水熱処理してAFX型ゼオライトを合成する工程を少なくとも含む。
【化21】
(前記式(1)中、R1~Rは、それぞれ独立して、アルキル基である。)
【0108】
本実施形態の製造方法では、上記(1)で表される化合物及び/又はその塩を有機構造規定剤(OSDA)として用いる。上記(1)で表される化合物及びその塩は、入手容易性が高い。また、上記(1)で表される化合物及び/又はその塩を有機構造規定剤(OSDA)として用いると、他の相と混ざることなく、AFX型ゼオライトを単相で得ることができる。以上のとおり、本実施形態の製造方法は、効率的にAFX型ゼオライトを製造することができる。
本実施形態のAFX型ゼオライトとは、International Zeolite Association Structure Commission(IZA-SC)により"AFX"の三文字コードが与えられたアルミノシリケートである。
【0109】
(シリカ及びアルミナ源)
原料として用いるシリカ及びアルミナ源としては、シリカアルミナ比(SiO/Al、以降において「SAR」と称する場合がある。)が2以上50未満のアルミノ珪酸塩(Si-Al元素源)を少なくとも含むものである限り、公知のものを特に制限なく用いることができる。その種類は特に限定されない。ここで、アルミノ珪酸塩とは、ケイ酸塩中のケイ素原子の一部がアルミニウム原子に置き換えられた構造を有するものである。また、シリカアルミナ源の結晶形態については、特に制限するものではないが、非晶質でもよいし、FAUのようなゼオライト構造を有していてもよい。なお、シリカアルミナ比は、5以上40未満が好ましく、より好ましくは10以上30以下である。なお、本明細書において、シリカアルミナ比は、蛍光X線分析から求められる値を意味する。具体的には、Axios(スペクトリシス社)を用いて、試料約5gを20tで加圧成型したサンプルを測定に供し、得られたAl及びSiOの質量%の結果からSARを算出した。
【0110】
本実施形態において用いるシリカ及びアルミナ源としては、上述したSi-Al元素源を単独で使用可能であるが、Si元素源(ただし、前記Si-Al元素源に該当するものは除く。)やAl元素源(ただし、前記Si-Al元素源に該当するものは除く。)との併用であってもよく、また、Si元素源及びAl元素源の混合物をシリカ及びアルミナ源として用いることもできる。例えば、シリカ及びアルミナ源として、Si-Al元素源に、さらにSi元素源(但し、前記Si-Al元素源に該当するものは除く。)及び/又はAl元素源(但し、前記Si-Al元素源に該当するものは除く。)を併用した態様であってもよい。これらの中でも、好ましくは、Si-Al元素源単独での使用である。
【0111】
Si元素源としては、例えば、沈降シリカ、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム(メタケイ酸ナトリウム、オルソ珪酸ナトリウム、珪酸ソーダ1号、2号、3号、4号等)、テトラエトキシシラン(TEOS)やトリメチルエトキシシラン(TMEOS)等のアルコキシシラン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。但し、本明細書において、SARが2以上20未満のアルミノ珪酸塩は、上述したSi-Al元素源に該当し、このSi元素源には含まれないものとする。
【0112】
なお、Si元素源は、1種を単独で、又は2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0113】
Al元素源としては、例えば、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化酸化アルミニウム、酸化アルミニウム等が挙げられるが、これらに特に限定されない。但し、本明細書において、SARが2以上50未満のアルミノ珪酸塩は、上述したSi-Al元素源に該当し、このAl元素源には含まれないものとする。
【0114】
なお、Al元素源は、1種を単独で、又は2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0115】
本実施形態のAFX型ゼオライトにおいても、SARは、2以上50未満であることが好ましく、5以上40未満であることがより好ましく、10以上30以下であることがさらに好ましい。AFX型ゼオライトのSARは、上述したように、AFX型ゼオライトの製造においてSARが2以上50未満の範囲のアルミノ珪酸塩(Si-Al元素源)を使用することにより、上記範囲に調整することができる。
【0116】
(アルカリ金属水酸化物)
アルカリ金属源としては、例えば、LiOH、NaOH、KOH、CsOH、RbOH等のアルカリ金属水酸化物、これらアルカリ金属のアルミン酸塩、上述したSi-Al元素源及びSi元素源中に含まれるアルカリ成分等が挙げられる。これらの中でも、NaOH、KOHが好適に用いられる。なお、混合物中のアルカリ金属は、無機構造指向剤としても機能し得るため、結晶性に優れるアルミノ珪酸塩が得られ易い傾向にある。
【0117】
なお、アルカリ金属源は、1種を単独で、又は2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0118】
(水)
使用する水は、水道水、RO水、脱イオン水、蒸留水、工業用水、純水、超純水等からを所望性能に応じたものを使用すればよい。また、混合物に対する水の配合方法は、上述した各成分とは別に配合してもよく、或いは、各成分と予め混合しておき、各成分の水溶液或いは分散液として配合してもよい。
【0119】
混合物の調製工程では、上述したシリカ及びアルミナ源、式(1)で表される化合物及び/又はその塩を含む有機構造規定剤(OSDA)、アルカリ金属水酸化物、及び水を含む混合物(スラリー)を調製する。このとき必要に応じて、公知の混合機や攪拌機、例えばボールミル、ビーズミル、媒体撹拌ミル、ホモジナイザー等を用いて湿式混合することができる。なお、攪拌を行う場合、通常30~2000rpm程度の回転数で行うことが好ましく、より好ましくは50~1000rpmである。
【0120】
混合物中の水の含有量は、反応性や取扱性等を考慮して適宜設定することができ、特に限定されないが、混合物の水シリカ比(HO/SiOモル比)が、通常5以上100以下であり、好ましくは6以上50以下、より好ましくは7以上40以下である。水シリカ比が上記好ましい範囲内にあることで、混合物の調製時或いは水熱合成による結晶化中の撹拌が容易となり、取扱性が高められるとともに、副生物や不純物結晶の生成が抑制されて高い収率が得られ易い傾向にある。なお、混合物に対する水の配合方法は、上述した各成分とは別に配合してもよく、或いは、各成分と予め混合しておき、各成分の水溶液或いは分散液として配合してもよい。
【0121】
また、混合物中のシリカアルミナ比(SiO/Al)も、適宜設定することができ、特に限定されないが、通常5以上50以下であり、好ましくは7以上45未満、さらに好ましくは10以上30以下である。シリカアルミナ比が上記の好ましい範囲内にあることで、触媒反応にとって有効なカチオンサイトを十分に有しつつも、緻密な結晶が得られ易く、高温環境下或いは高温曝露後において熱的な耐久性に優れるアルミノ珪酸塩が得られ易い傾向にある。
【0122】
一方、混合物中の水酸化物イオン/シリカ比(OH/SiOモル比)についても、適宜設定することができ、特に限定されないが、通常0.10以上0.90以下であり、好ましくは0.15以上0.50以下、さらに好ましくは0.20以上0.40以下である。水酸化物イオン/シリカ比が上記の好ましい範囲内にあることで、結晶化が進行し易く、高温環境下或いは高温曝露後において熱的な耐久性に優れるアルミノ珪酸塩が得られ易い傾向にある。
【0123】
また、混合物中のアルカリ金属の含有量についても、適宜設定することができ、特に限定されないが、アルカリ金属(M)の酸化物換算のモル比、すなわちアルカリ金属酸化物/シリカ比(MO/SiOモル比)が、通常0.01以上0.50以下であり、好ましくは0.05以上0.30以下である。アルカリ金属酸化物/シリカ比が上記の好ましい範囲内にあることで、鉱化作用による結晶化が促進されるとともに、副生物や不純物結晶の生成が抑制されて高い収率が得られ易い傾向にある。
【0124】
他方、混合物中の有機構造規定剤/シリカ比(有機構造規定剤/SiOモル比)についても、適宜設定することができ、特に限定されないが、通常0.05以上0.40以下であり、好ましくは0.07以上0.30以下、さらに好ましくは0.09以上0.25以下である。有機構造規定剤/シリカ比が上記の好ましい範囲内にあることで、結晶化が進行し易く、高温環境下或いは高温曝露後において熱的な耐久性に優れるアルミノ珪酸塩が低コストで得られ易い傾向にある。
【0125】
上述した混合物は、結晶化の促進や結晶粒径の制御の観点から、特定のアニオンを含有してもよい。例えば、特許文献2のように、特定のアニオンを加えずに式(1)で表される化合物の水酸化物のみからなるOSDAにより混合物を生成させると、比較的小さい結晶粒径のAFX型ゼオライトが得られる。一方で、ハロゲン化物イオンを混合物に含むと比較的大きい結晶粒径のAFX型ゼオライトを得ることができる。ハロゲン化物イオンとしては、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物のいずれでもよい。また、混合物中にハロゲン化物イオンを含むようにする方法としては、特に制限するものではなく、OSDAの対イオンとして加えてもよく、アルカリ金属の対イオンとして加えてもよく、遊離酸として加えてもよい。
【0126】
また、上述した混合物は、結晶化の促進等の観点から、所望の骨格構造を有するアルミノ珪酸塩のシード結晶(種晶)をさらに含有していてもよい。シード結晶を配合することにより、所望の骨格構造の結晶化が促進され、高品質なアルミノ珪酸塩が得られ易い傾向にある。ここで用いるシード結晶としては、所望の骨格構造を有するものである限り、特に限定されない。シード結晶としては、例えば、CHA、AEI、ERI、AFXの少なくとも一つの骨格構造を有するアルミノ珪酸塩のシード結晶を用いることができる。なお、シード結晶のシリカアルミナ比は任意であるが、混合物のシリカアルミナ比と同一又は同程度であることが好ましく、かかる観点からは、シード結晶のシリカアルミナ比は、5以上50以下が好ましく、より好ましくは8以上40未満、さらに好ましくは10以上30未満である。
【0127】
なお、ここで用いるシード結晶は、別途合成したアルミノ珪酸塩のみならず、市販のアルミノ珪酸塩を用いることができる。もちろん、天産品のアルミノ珪酸塩を用いることもでき、本発明により合成されたアルミノ珪酸塩をシード結晶として用いることもできる。なお、シード結晶のカチオンタイプは特に限定されず、例えばナトリウム型、カリウム型、アンモニウム型、プロトン型等を用いることができる。
【0128】
ここで用いるシード結晶の粒子径(D50)は、特に限定されないが、所望の結晶構造の結晶化を促進する観点からは、比較的に小さい方が望ましく、通常0.5nm以上5μm以下、好ましくは1nm以上3μm以下、より好ましくは2nm以上1μm以下である。なお、シード結晶の配合量は、所望する結晶性に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、混合物中のSiOの質量を基準として、0.05~30質量%が好ましく、より好ましくは0.1~20質量%、さらに好ましくは0.5~10質量%である。
【0129】
混合物を水熱処理する工程では、上述した混合物を反応容器中で加熱して水熱合成することにより、結晶化したアルミノ珪酸塩(AFX型ゼオライト)が得られる。
【0130】
この水熱合成で用いる反応容器は、水熱合成に用い得る密閉式の耐圧容器であれば公知のものを適宜用いることができ、その種類は特に限定されない。例えば、攪拌装置、熱源、圧力計、及び安全弁を備えるオートクレーブ等の密閉式の耐熱耐圧容器が好ましく用いられる。なお、アルミノ珪酸塩の結晶化は、上述した混合物(原料組成物)を静置した状態で行ってもよいが、得られるアルミノ珪酸塩の均一性を高める観点から、上述した混合物(原料組成物)を攪拌混合した状態で行ってもよい。このとき、通常30~2000rpm程度の回転数で行うことが好ましく、より好ましくは50~1000rpmである。また、結晶粒径を制御する等の目的で、撹拌を断続的に行ってもよい。
【0131】
水熱合成の処理温度(反応温度)は、特に限定されないが、得られるアルミノ珪酸塩の結晶性や経済性等の観点から、通常100℃以上200℃以下、好ましくは120℃以上190℃以下、より好ましくは150℃以上180℃以下である。
【0132】
水熱合成の処理時間(反応時間)は、十分な時間をかけて結晶化させればよく、特に限定されないが、得られるアルミノ珪酸塩の結晶性や経済性等の観点から、通常1時間以上20日間以下、好ましくは4時間以上15日以下、より好ましくは12時間以上10日以下である。
【0133】
水熱合成の処理圧力は、特に限定されず、反応容器内に投入した混合物を上記温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分である。このとき、必要に応じて、窒素やアルゴン等の不活性ガスを容器内に導入してもよい。
【0134】
かかる水熱処理を行うことで、結晶化したアルミノ珪酸塩を得ることができる。このとき、必要に応じて、固液分離処理、水洗処理、例えば大気中50~150℃程度の温度で水分を除去する乾燥処理等を常法にしたがって行ってもよい。
【0135】
水熱処理する工程により得られるAFX型ゼオライトは、前記AFX型ゼオライトの水以外の組成が、下記組成:
a/bcSi48-dAl96
(式中、Mは金属カチオン、aは1~10、bはMの価数、Qは前記(1)で表される化合物及び/又はその塩に由来するカチオン、cは0.5~2、dは4~12を表す。)により表されることが好ましい。
【0136】
上記組成のAFX型ゼオライトを焼成前のAFX型ゼオライトともいう。上記組成のAFX型ゼオライトは、本実施形態の一つである。このAFX型ゼオライトのX線回折データは、以下の2θ値(°):7.50±0.15、8.71±0.15、11.60±0.15、13.01±0.15、15.67±0.15、17.46±0.15、17.72±0.15、19.93±0.15、20.42±0.15、21.84±0.15、23.47±0.15、26.19±0.15、27.79±0.15、30.67±0.15、31.65±0.15、及び33.56±0.15を含むことが好ましい。
【0137】
上記組成式中のMは、通常Naカチオンである。また、上記組成は、AFX型ゼオライトのユニットセルあたりの組成を表す。
【0138】
かくして得られるAFX型ゼオライトは、細孔内等に構造指向剤やアルカリ金属等を含んでいる場合がある。そのため、必要に応じて、これらを除去する除去工程を行うことが好ましい。有機構造規定剤やアルカリ金属等の除去は、常法にしたがい行うことができ、その方法は特に限定されない。例えば、酸性水溶液を用いた液相処理、アンモニウムイオンを含有する水溶液を用いた液相処理、有機構造規定剤の分解成分を含んだ薬液を用いた液相処理、レジン等を用いた交換処理、焼成処理等を行うことができる。これらの処理は、任意の組み合わせで行うことができる。これらの中でも、有機構造規定剤やアルカリ金属等の除去は、製造効率等の観点から、焼成処理が好ましく用いられる。
【0139】
焼成処理における処理温度(焼成温度)は、使用原料等に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、結晶性を維持するとともに構造規定剤やアルカリ金属等の残存割合を低減する等の観点から、通常300℃以上1000℃以下、好ましくは400℃以上900℃以下、より好ましくは430℃以上800℃以下、さらに好ましくは480℃以上750℃以下である。なお、焼成処理は、酸素含有雰囲気で行うことが好ましく、例えば大気雰囲気で行えばよい。
【0140】
焼成処理における処理時間(焼成時間)は、処理温度及び経済性等に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、通常0.5時間以上72時間以下、好ましくは1時間以上48時間以下、より好ましくは3時間以上40時間以下である。
【0141】
焼成後のAFX型ゼオライトは、前記AFX型ゼオライトの水以外の組成が、下記組成:
a/b2cSi48-dAl96
(式中、Mは金属カチオン、aは1~10、bはMの価数、Qは前記(1)で表される化合物及び/又はその塩、cは0.5~2、dは4~12を表す。)により表されることが好ましい。上記組成のAFX型ゼオライトは、本実施形態の一つである。
【0142】
また、本実施形態のAFX型ゼオライトの一つは、SAR(SiO/Al比)が、10以上30以下であり、粉末X線回折分析によって得られるXRDチャートにおいて、2θ=21.77°±0.15°が最強線であり、平均粒子径が、0.6μm以上であるAFX型ゼオライトである。このAFX型ゼオライトは、例えば、上述した焼成前のAFX型ゼオライトを上記の焼成処理を行うことにより得ることができる。このAFX型ゼオライトのX線回折データは、以下の2θ値(°):7.46±0.15、8.69±0.15、11.64±0.15、12.93±0.15、15.60±0.15、17.43±0.15、17.90±0.15、19.81±0.15、20.32±0.15、21.77±0.15、23.67±0.15、26.03±0.15、28.05±0.15、30.49±0.15、31.50±0.15、33.71±0.15を含むことが好ましい。
【0143】
本実施形態のAFX型ゼオライトの平均粒子径は、0.01μm~20μmが好ましく、0.6~6.0μmがより好ましく、0.7μm~4.0μmがさらに好ましく、1.0μm~3.5μmが特に好ましい。
【0144】
上記組成式中のMは、通常Naカチオンである。また、上記組成は、AFX型ゼオライトのユニットセルあたりの組成を表す。
【0145】
<イオン交換>
なお、結晶化後のアルミノ珪酸塩は、そのイオン交換サイト上にアルカリ金属イオン等の金属イオンを有する場合がある。ここで所望する性能に応じて、イオン交換を行うイオン交換工程を行うことができる。このイオン交換工程では、常法にしたがってアンモニウムイオン(NH )やプロトン(H)等の非金属カチオンにイオン交換することができる。例えば、アルミノ珪酸塩に対して硝酸アンモニウム水溶液や塩化アンモニウム水溶液等のアンモニウムイオンを含有する水溶液を用いた液相処理を行うことでアンモニウム型にイオン交換することができる。また、アルミノ珪酸塩をアンモニアでイオン交換した後に焼成処理を行うことで、プロトン型にイオン交換することができる。上記の製造方法では、P担持処理において中和された処理液を用いて焼成処理や高温乾燥処理を省略する観点から、アンモニウムイオン(NH )型であることが好ましい。かくして得られるアルミノ珪酸塩に、必要に応じて、さらに酸量の低下等の処理を行うこともできる。酸量の低下処理は、例えばシリル化、水蒸気処理、ジカルボン酸処理等により行えばよい。これら酸量の低下処理、組成の変更は、常法にしたがって行えばよい。
【0146】
<遷移金属担持>
上述したアルミノ珪酸塩(遷移金属が未担持のアルミノ珪酸塩である)に必要に応じて遷移金属を担持することにより、遷移金属担持ゼオライトを得ることもできる。遷移金属の担持処理は、常法にしたがって行えばよい。このように遷移金属を担持することにより、各種用途における触媒として機能させることができる。ここで担持する遷移金属としては、例えば、銅(Cu)、鉄(Fe)、タングステン(W)等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0147】
遷移金属の担持処理は、常法にしたがって行えばよい。例えば上述したアルミノ珪酸塩と遷移金属の単体や化合物或いは遷移金属イオン等とを接触させることにより行えばよい。この遷移金属の担持方法は、アルミノ珪酸塩のイオン交換サイト又は細孔の少なくともいずれかに遷移金属が保持される方法であればよい。遷移金属は、遷移金属の無機酸塩、例えば遷移金属の硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、塩化物、酸化物、複合酸化物、及び錯塩等として供給することができる。これらの中でも、P担持処理する場合、当該処理において中和された処理液を用いるため、硫酸塩、硝酸塩等の強酸無機塩として供給することが好ましい。具体的な方法としては、イオン交換法、蒸発乾固法、沈殿担持法、物理混合法、骨格置換法及び含浸担持法等が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、遷移金属の担持処理の後、必要に応じて、固液分離処理、水洗処理、例えば大気中50~150℃程度の温度で水分を除去する乾燥処理等を常法にしたがって行うことができる。
【0148】
なお、必要に応じて、プラチナ、パラジウム、ロジウム、イリジウム等の白金族元素(PGM:Platinum Group Metal)をアルミノ珪酸塩に担持させてもよい。貴金属元素や白金族元素の担持方法は、公知の手法を適用でき、特に限定されない。例えば、貴金属元素や白金族元素を含む塩の溶液を調製し、アルミノ珪酸塩にこの含塩溶液を含浸させ、その後に焼成することにより、貴金属元素や白金族元素の担持を行うことができる。含塩溶液としては、特に限定されないが、硝酸塩水溶液、ジニトロジアンミン硝酸塩溶液、塩化物水溶液等が好ましい。また、焼成処理も、特に限定されないが、350℃~1000℃で約1~12時間が好ましい。なお、高温焼成に先立って、真空乾燥機等を用いて減圧乾燥を行い、約50℃~180℃で約1~48時間程度の乾燥処理を行うことが好ましい。
【0149】
次に、このようにして準備された遷移金属未担持ゼオライトや遷移金属担持ゼオライトについて説明する。この遷移金属未担持ゼオライトや遷移金属担持ゼオライトは、IZAにおいて各種構造コードでAFXの構造コードで分類される結晶性アルミノシリケートである。AFX型ゼオライトは、主な骨格金属原子がアルミニウム(Al)及びケイ素(Si)であり、これらと酸素(O)のネットワークからなる構造を有する。そして、その構造は、X線回折データにより特徴付けられる。
【0150】
遷移金属未担持ゼオライトや遷移金属担持ゼオライトの粒子径は、合成条件等により変動し得るため、特に限定されないが、表面積や取扱性等の観点から、これらの平均粒子径(D50)は0.01μm~20μmが好ましく、0.6~6.0μmがより好ましく、0.7μm~4.0μmがさらに好ましく、1.0μm~3.5μmが特に好ましい。
【0151】
遷移金属未担持ゼオライトや遷移金属担持ゼオライトのシリカアルミナ比は、適宜設定することができ、特に限定されないが、高温環境下或いは高温曝露後における熱的な耐久性や触媒活性等の観点から、7以上30以下が好ましく、より好ましくは8以上25以下、さらに好ましくは10以上20以下である。シリカアルミナ比が上記好ましい数値範囲内のアルミノ珪酸塩とすることで、熱的な耐久性及び触媒活性が高次元でバランスした触媒或いは触媒担体が得られ易い傾向にある。
【0152】
一方、遷移金属担持小孔径ゼオライトにおける、遷移金属の含有量は、特に限定されないが、総量に対して0.1~10質量%が好ましく、より好ましくは0.5~8質量%である。
【0153】
また、遷移金属担持小孔径ゼオライト中の、遷移金属のアルミニウムに対する原子割合(遷移金属/アルミニウム)は、特に限定されないが、0.01~1.0が好ましく、より好ましくは0.05~0.7、さらに好ましくは0.1~0.5である。
【0154】
上述のとおり、ゼオライトには遷移金属が担持されていてもよい。したがって、本実施形態のゼオライトの一つは、SAR(SiO/Al比)が、10以上30以下であり、粉末X線回折分析によって得られるXRDチャートにおいて、2θ=21.77°±0.15°が最強線であり、平均粒子径が、0.6μm以上であり、遷移金属が担持された、AFX型ゼオライトである。
【0155】
遷移金属が担持されたゼオライトはハニカム担体上に積層して、ハニカム積層触媒としてもよい。ハニカム積層触媒は、例えば、遷移金属が担持されたAFX型ゼオライトをハニカム担体にウェット塗布し、100~150℃で乾燥し、200~800℃で焼成することにより製造することができる。このとき、AFX型ゼオライトの塗布量は、ハニカム担体1Lあたり通常10~1000gであり、好ましくは50~300gであり、より好ましくは80~200gである。
本実施形態の一つは、本実施形態の遷移金属が担持されたAFX型ゼオライト、及びハニカム担体を備えたハニカム積層触媒である。
【0156】
<式(1)で表される化合物又はその塩の製造方法>
本実施形態の製造方法の一つは、
式(A)で表される化合物を準備する工程(工程I)と、
前記式(A)で表される化合物を、触媒を用いて水素源と反応させて、式(2)で表される化合物を得る工程(工程II)と、
前記式(2)で表される化合物を、アルキル化試薬を用いてN-アルキル化する工程(工程III)と、
を少なくとも含む、式(1)で表される化合物又はその塩の製造方法である。
【化22】
【0157】
前記式(A)及び式(2)におけるR及びRは、それぞれ独立して、アルキル基である。また、式(1)におけるR~Rは、それぞれ独立して、アルキル基である。
【0158】
(工程I)
工程Iは、式(A)で表される化合物を準備する工程である。式(A)で表される化合物は、市販品として入手してもよく、公知の合成ルートで適宜合成することもできる。例えば、市販のビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボン酸二無水物とアルキルアミン又はその塩との反応により合成して入手してもよい。
【0159】
(工程II)
工程IIは、前記式(A)で表される化合物を、触媒を用いて水素源と反応させて、式(2)で表される化合物を得る工程であり、以下のスキームで表すことができる。ここで、式(A)で表される化合物は、N,N'-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボキシジイミドともいう。
【化23】
【0160】
上記スキーム中におけるR1及びR2は、それぞれ独立して、アルキル基である。式(2)及び式(A)で表される化合物中のR1及びR2は、式(1)におけるR1及びR2と同義であり、好ましい置換基についても式(1)におけるR1及びR2と同様の基を挙げることができる。
【0161】
この製造方法では、取り扱いが難しい強力な還元剤、例えば発火等の危険がある還元剤等を使用する必要がないため、安全且つ容易に、式(2)で表される化合物N,N'-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジンを製造することができる。そして、かかる製造方法によれば、比較的に安全な条件下で合成可能なため、設備負担が小さく、大ロットで製造することができるため、得られる式(2)で表される化合物の生産性及び経済性が高められる。
【0162】
本実施形態の製造方法において使用する水素源としては、式(A)で表される化合物を水素化可能なものの中から適宜選択して用いることができる。具体的には、水素ガス等の分子状水素;ギ酸アンモニウム、ギ酸ナトリウム、及びヒドラジン等の水素供与体;等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これら水素源の中でも、好ましくは分子状水素である。
【0163】
本実施形態の製造方法において使用する触媒としては、水素化に通常使用可能な触媒を用いることができ、その種類は特に制限されない。触媒は、不均一系触媒であることが好ましい。不均一系触媒を用いることにより、後処理等の操作が簡便であり、大ロットで製造したとしても化合物の生産性及び経済性が高められる。
触媒は、遷移金属を含む触媒であることが好ましい。
遷移金属としては、例えば、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ルテニウム(Ru)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等の金属が挙げられる。これらの金属は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
上述した遷移金属は、担体上に担持されていてもよい。担体としては、触媒の担体として通常使用される担体であれば特に制限されない。例えば、無機酸化物、活性炭素、イオン交換樹脂等が挙げられる。無機酸化物としては、具体的には、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)、ジルコニア(ZrO2)、アルミナ(Al23)、酸化マグネシウム(MgO)、リン酸三カルシウム(HAP;ヒドロキシアパタイト)、及びこれら無機酸化物の二種以上の複合体(例えば、ゼオライト等)等が挙げられる。
【0164】
触媒の使用量は、特に限定されないが、式(2)で表される化合物の物質量に対し、触媒の金属量で通常0.01~10mol%であり、好ましくは0.1~5mol%である。
【0165】
上記の製造方法において使用する触媒としては、PtとVとが担体に担持された触媒を好適に用いることができる。PtとVとが担体に担持された触媒を用いることにより、式(2)で表される化合物を、より温和な条件下で還元することができる。
本明細書において、PtとVとが担体に担持された触媒は、「Pt-V/Z」とも表される。ここで、Zは、担体を表す。
【0166】
上記Pt-V/Zを構成する白金は、特に限定されないが、例えば、白金粒子が好ましい。ここで白金粒子とは、金属白金又は酸化白金の少なくとも1種の粒子であり、好ましくは金属白金の粒子である。
白金粒子は、少なくとも白金を含有していれば特に限定されず、ルテニウム、ロジウム、及びパラジウム等の貴金属を少量含んでいてもよい。
白金粒子は一次粒子でもよく、二次粒子でもよい。白金粒子の平均粒子径は、好ましくは1~30nmであり、より好ましくは1~10nmである。なお、上記平均粒子径は、電子顕微鏡で任意の数の粒子の直径を観察し、それらの直径の平均値を指す。
【0167】
上記Pt-V/Zを構成するバナジウムは、特に限定されないが、例えば、バナジウム酸化物が好ましい。バナジウム酸化物としては、例えば、バナジン酸イオン(VO4 3-、VO3 3-)、五酸化バナジウム、酸化バナジウム(II)、及び酸化バナジウム(IV)等が挙げられる。これらのバナジウム酸化物の中でも、好ましくはV25である。
【0168】
上記Pt-V/Zにおける、PtとVとの組成比は、金属としてのPt:金属としてのVのモル数のモル数換算で、1:0.001~10であることが好ましく、1:0.005~5であることがより好ましい。
【0169】
前記Pt-V/Zにおける担体Zは、特に限定されないが、吸着能がBET値として0.1~300m2/gであってよく、平均粒子径が0.02~200μmであってもよい。
担体の形態としては、特に限定されないが、例えば、粉末状、球形粒状、不定形顆粒状、円柱形ペレット状、押し出し形状、リング形状等が挙げられる。
担体を構成する成分としては、前述した担体の中でも、HAPが好ましい。
【0170】
前記Pt-V/Zは、白金化合物とバナジウム化合物の混合液と、担体を混合して混合物を得て、当該混合物を乾燥することにより製造することができる。
上記白金化合物としては、例えば、白金アセチルアセトナート(Pt(acac)2)、テトラアンミン白金(II)酢酸塩、ジニトロジアンミン白金(II)、ヘキサアンミン白金(II)炭酸塩、ビス(ジベンザルアセトン)白金(0)等の白金錯体塩、塩化白金、テトラクロロ白金酸カリウム等の塩が挙げられる。これら白金化合物の中でも、好ましくはPt(acac)2である。
上記バナジウム化合物としては、例えば、バナジルアセチルアセトナート(VO(acac)2)、ビス(タルトラト)ビス[オキソバナジウム(IV)]酸テトラメチルアンモニウム等のバナジウム錯体塩、バナジン(V)酸アンモニウム、ナフテン酸バナジウム等の塩が挙げられる。これらバナジウム化合物の中でも、好ましくはVO(acac)2である。
【0171】
前記Pt-V/Zを製造における混合液は、白金化合物とバナジウム化合物とを溶媒に懸濁又は溶解させたものである。溶媒としては、例えば、水、及び、アルコール、アセトン等の有機溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は1種又は2種以上を併用してもよい。
【0172】
上記混合液は、担体と混合する。上記混合液と担体とを混合する方法は、特に限定されず、各成分が十分に分散すればよい。担体の量は、金属換算の白金0.1mmolに対し、担体0.1~100gであることが好ましく、1~10gであることがより好ましい。担体の混合後は、0.5~12時間攪拌することが好ましい。
上記混合液と担体との混合物は、溶媒をロータリーエバポレータ等で除去した後、乾燥させる。乾燥は、例えば、80~200℃で1~60時間乾燥させることが好ましい。乾燥後は、必要に応じて乾燥物を粉砕し、マッフル炉等を使用して焼成することが好ましい。
【0173】
本実施形態の製造方法は、具体的には、式(A)で表される化合物を準備し、これを触媒、及び水素源と混合して、反応させる方法を挙げることができる。
ここで、式(A)で表される化合物、触媒、及び水素源を混合する順番は任意である。作業性の観点から、本実施形態の製造方法では、式(A)で表される化合物と触媒とを混合して必要に応じて溶媒を加え、その後に水素源を反応器に導入することが好ましい。
また、本実施形態の製造方法では、低温低圧条件下で反応を進行させるため、モレキュラーシーブスを反応系内に添加してもよい。モレキュラーシーブスの添加量は、式(A)で表される化合物の質量に対し、0.1~10倍量であることが好ましく、0.5~5倍量であることがより好ましい。
【0174】
本実施形態における工程IIは、溶媒の存在下、すなわち、湿式プロセス下で行ってもよい。
溶媒は、式(A)で表される化合物を溶解できれば特に制限されず、反応温度や反応物等に応じて適宜選択すればよい。
溶媒としては、例えば、水;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;アセトニトリル、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;テトラヒドロフラン(以下、THFとも記載する。)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒;等が挙げられる。これら溶媒は、1種を単独であるいは2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
これらの溶媒の中でも、好ましくはエーテル系溶媒であり、より好ましくは1,2-ジメトキシエタンである。
【0175】
溶媒の使用の有無及びその使用量はその他の反応条件を考慮して適宜設定すればよく、特に制限されないが、式(A)で表される化合物の濃度を、反応混合物中、0.001~10mol/Lとすることが好ましく、0.01~5mol/Lとすることがより好ましく、0.01~3mol/Lとすることがさらに好ましい。
【0176】
触媒の使用量は、式(A)で表される化合物の質量に対し、0.1~50倍量とすることが好ましく、0.5~20倍量とすることが好ましく、1~10倍量とすることがさらに好ましい。
【0177】
反応温度は、特に制限されないが、通常20~200℃、好ましくは50~150℃、より好ましくは50~120℃の範囲である。
反応時間は、GC-MS等を用い反応の進行状況をモニタリングすることによって適宜調整すればよく、通常1分~100時間、好ましくは0.5時間~70時間、より好ましくは1時間~60時間である。
【0178】
本実施形態の製造方法において、分子状水素を用いる場合、反応器内の水素圧は、通常0.1~10MPaであり、好ましくは1.0~10MPaであり、より好ましくは2.0~8.0MPaである。
【0179】
工程IIの反応終了後の混合物は、上記反応で溶媒を用いる場合、得られた反応溶液を必要に応じて濃縮した後、残渣をそのまま原材料や前駆体や中間体として使用してもよく、反応混合物を適宜後処理して上記式(2)で表される化合物を得てもよい。後処理の具体的な方法としては、水洗、ろ過、乾燥、抽出、蒸留、クロマトグラフィー等の公知の精製方法を挙げることができる。これらの精製方法は、2種以上を組み合わせて行ってもよい。
【0180】
(工程III)
工程IIIは、式(2)で表される化合物を、アルキル化試薬を用いてN-アルキル化する工程であり、以下のスキームで表すことができる。ここで、下記式(2)で表される化合物は、N,N'-ジアルキルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジンともいう。
【化24】
【0181】
従来技術においては、ゼオライトの合成においてはN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウム水酸化物が用いられている(米国特許出願公開第6049018号明細書(特許文献1)特開2016-169139号公報(特許文献2)参照)。上記水酸化物の合成においては、固体粉末として得られるN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウムヨウ化物を水酸化物型の陰イオン交換樹脂でイオン交換し、濃縮することにより水酸化物の溶液を取得している。
一方、本実施形態の化合物(塩)は、上述のようにして、アルキル化により得られる塩、すなわち、Xがカウンターアニオンである塩をゼオライトの合成にそのまま用いることができる。したがって、この場合は、水酸化物を調製する手間を省くことができ、ゼオライトの製造を効率的に行うことができる。また、例えば水酸化物として用いる場合には、従来と同様に、水酸化物型の陰イオン交換樹脂でイオン交換し、濃縮する等すればよい。
【0182】
<AFX型ゼオライトの製造方法>
本実施形態の一つは、AFX型ゼオライトの製造方法であり、当該製造方法は、シリカ及びアルミナ源、下記(1)で表される化合物及び/又はその塩を含む有機構造規定剤(OSDA)、アルカリ金属水酸化物、及び水を少なくとも含む混合物を調製する工程、並びに前記混合物を水熱処理してAFX型ゼオライトを合成する工程を少なくとも含む。
【化25】
(前記式(1)中、R1~Rは、それぞれ独立して、アルキル基である。)
【0183】
本実施形態のAFX型ゼオライトの製造方法により、本実施形態のAFX型ゼオライトを取得することができる。
【0184】
<マクロ孔を有するAFX型ゼオライト>
本実施形態の一つは、マクロ孔を有するAFX型ゼオライトである。本実施形態におけるマクロ孔はIUPACの定義にしたがう。具体的には、マクロ孔とは、細孔直径が50nm超の細孔を指す。AFX型ゼオライトがマクロ孔を有することは、当該ゼオライトのSEM画像から判別することができる。
【0185】
本実施形態のマクロ孔を有するAFX型ゼオライトは、例えば、式(1)で表される化合物及び/又はその塩を含む有機構造規定剤(OSDA)を用いることにより製造できる。本実施形態のマクロ孔を有するAFX型ゼオライトは、具体的には、上述したAFX型ゼオライトの製造方法により製造することができる。すなわち、シリカ及びアルミナ源、下記(1)で表される化合物及び/又はその塩を含む有機構造規定剤(OSDA)、アルカリ金属水酸化物、及び水を少なくとも含む混合物を調製する工程、並びに前記混合物を水熱処理してAFX型ゼオライトを合成する工程を少なくとも含む製造方法により製造することができる。
【実施例
【0186】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらによりなんら限定されるものではない。すなわち、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更することができる。また、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における好ましい上限値又は好ましい下限値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0187】
第1群の具体的態様に係る実施例及び比較例は、それぞれ実施例A及び比較例Aと表記する。第2群の具体的態様に係る製造例、実施例及び参考例は、それぞれ製造例B、実施例B及び参考例Bと表記する。第3群の具体的態様に係る製造例、実施例及び比較例は、それぞれ製造例C、実施例C及び比較例Cと表記する。なお、第4群の具体的態様に係る実施例は、第1群ないしは第3群の具体的態様に係る実施例に含まれる。
【0188】
[実施例A1:N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物の合成]
特許文献2に準じて合成したN,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジン(分子量246.39)370.0gをイソプロピルアルコール(IPA)変成アルコール1,200mLに溶解し、5%パラジウム炭素触媒(エヌ・イー ケムキャット社製 K-type含水品)を乾燥質量換算で31.08g(パラジウムとして基質の1.0mol%相当)を加え、50℃常圧の水素で190時間反応させた。ガスクロマトグラフィー(GC)による基質の転化率は99%以上であった。これを濾別して触媒を除いたあと、撹拌しながらヨウ化エチル516.0g(分子量155.11、2.2当量)を滴下した。窒素雰囲気下で16時間おだやかに還流した後、放冷後ろ過し、アセトンで洗浄して乾燥することで、目的物であるN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物の白色粉末703.0g(収率90%)を得た。
得られた白色粉末の1H-NMR及び13C-NMRを以下に示す。
1H-NMR (400MHz, D2O) δ: 3.82 (dd, 4H), 3.49 (q4, 4H), 3.38 (q4, 4H), 3.33 (d, 4H), 2.69 (m, 4H), 1.80 (s, 2H), 1.64 (s, 4H), 1.36 (t, 6H), 1.31 (t, 6H).
13C-NMR(100Hz, D2O) δ: 65.00(×4), 58.51(×2), 54.41(×2), 40.11(×4), 28.33(×2), 14.86(×2), 11.01(×2), 10.17(×2)
N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物のDO溶液のH-NMRスペクトルデータを図1に示し、13C-NMRスペクトルデータを図2に示す。
【0189】
なお、上記ガスクロマトグラフィーの条件は、以下のとおりであった。
装置名:GCMS-QP2010(島津製作所社製)
カラム : SHIMADZU製 SH-Rtx-200MS
キャリアガス : ヘリウム
全流量:98.9mL/min
カラム流量:2.56mL/min
温度:カラムオーブンを40℃から300℃まで10℃/minずつ昇温した。その後300℃の状態で10min間保持した。
【0190】
また、上記NMRの測定条件は、以下のとおりであった。
装置名:Ascend4000(BRUKER社製)
測定方法:H-NMR及び13C-NMRは、試料を重水に溶解して測定した。
【0191】
[実施例A2:AFX型ゼオライトの合成]
N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物(分子量558.62)28.0g、4.8質量%水酸化ナトリウム溶液116.0g、FAU型ゼオライトCBV712(ゼオリスト社製、シリカアルミナ比SAR10.9)37.5g、水47.0gをポリエチレンビーカー内で48時間撹拌した。混合物の組成は次のとおりであった。
【0192】
【表1】
【0193】
上記混合物における各成分の数値は、SiOの物質量を1としたときの物質量比を意味する。
次いで、この原料組成物(混合物)を300cc内筒テフロン(登録商標)のステンレス製密閉耐圧容器に入れ、170℃で40時間静置保持した。この水熱処理後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の水で洗浄し、105℃で乾燥して生成物を得た。粉末X線回折分析を行ったところ、生成物はAFX型ゼオライトの単相であることが確認された。
図3に、N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウムを用いて得られたAFX型ゼオライトの固体NMRスペクトルデータ(B)を示す。なお、図3中、Aは、N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウムの固体NMRスペクトルデータであり、Cは、DO溶液の13CNMRスペクトルデータである。図中のCにおける※は、内部標準(4,4-ジメチル-4-シラペンタン-1-スルホン酸)のピークである。
また、図4に実施例A2により得られたAFX型ゼオライトのXRDチャートを示す。
【0194】
なお、粉末X線回折の測定条件は、以下のとおりであった。
装置名:X'Pert Pro(スペクトリス株式会社製)
測定方法:粉末測定試料を溝のあるガラス試料板容器に充填し測定に供した。なお、X線源はCuKα線、管電圧は45kV、管電流は40mAにて測定を行った。
【0195】
[実施例A3:AFX型ゼオライトの合成]
N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物(分子量558.62)120.0gを水800mLに溶解し、ダイヤイオンSA10AOH(三菱ケミカル社製)800.0gを投入し室温で48時間撹拌した。ろ過及び洗浄後、ろ液と洗浄液を合せて質量が379.9gとなるまで濃縮し、19.26質量%のN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二水酸化物(分子量340.55)を得た。
この溶液6.5gに4.8%水酸化ナトリウム溶液6.2g、FAU型ゼオライトCBV712(ゼオリスト社製、シリカアルミナ比SAR10.9)4.0g、水5.8gをポリエチレンビーカー内で72時間撹拌した。混合物の組成は次のとおりであった。
【0196】
【表2】
【0197】
上記混合物における各成分の数値は、SiOの物質量を1としたときの物質量比を意味する。
次いで、この原料組成物(混合物)を50cc内筒テフロンのステンレス製密閉耐圧容器に入れ、170℃で96時間静置保持した。この水熱処理後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の水で洗浄し、105℃で乾燥して生成物を得た。粉末X線回折分析を行ったところ、生成物はAFX型ゼオライトの単相であることが確認された。
図5に実施例A3により得られたAFX型ゼオライトのXRDチャートを示す。
【0198】
また、表3に主なピーク位置を示し、表4に実施例A2により得られたAFX型ゼオライトの最強ピーク(2θ=20.42°)の積分強度を1.0としたときの、実施例A2及びA3により得られたAFX型ゼオライトのXRD各ピークの相対強度を示す。
【0199】
【表3】
【0200】
【表4】
【0201】
実施例A2により得られたAFX型ゼオライトの水以外の組成は、下記組成であった。
a/bcSi48-dAl96
(式中、Mは金属カチオン、aは1~10、bはMの価数、QはN,N,N′,N′-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウムカチオン、cは0.5~2、dは4~12を表す。)
実施例A2により得られたAFX型ゼオライトの水以外の組成において、具体的にはa=5.0、b=1.0、c=1.3、d=7.6であった。
【0202】
[比較例A1:AFX型ゼオライトの合成]
N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物(分子量558.62)2.0gに代えて、特許文献2の方法に準じて合成したN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物(分子量556.61)2.0gを使用したこと以外は、実施例A1と同様にして生成物を得た。粉末X線回折分析を行ったところ、生成物はAFX型ゼオライトの他にベータ型ゼオライトが生成していることが確認された。
図6に比較例A1により得られたAFX型ゼオライトのXRDチャートを示す。
【0203】
[実施例A4:焼成工程を含むAFX型ゼオライトの製造]
N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物の使用量を3.0g、4.8質量%水酸化ナトリウム溶液の使用量を12.7g、FAU型ゼオライトCBV712の使用量を4.2g、水の使用量を2.7gとし、ポリエチレンビーカー内で48時間撹拌した。混合物の組成は次のとおりであった。
【0204】
【表5】
【0205】
上記混合物における各成分の数値は、SiOの物質量を1としたときの物質量比を意味する。
次いで、この原料組成物(混合物)を50cc内筒テフロンのステンレス製密閉耐圧容器に入れ、170℃で40時間静置保持した。この水熱処理後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の水で洗浄し、105℃で乾燥して生成物を得た。次いで、昇温速度1℃/分で600℃まで昇温後5時間焼成した。得られた粉末の粉末X線回折分析を行ったところ、生成物はAFX型ゼオライトの単相であることが確認された。
図7に実施例A4により得られたAFX型ゼオライトのXRDチャートを示す。
【0206】
[実施例A5:焼成工程を含むAFX型ゼオライトの製造]
N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物の使用量を310.0g、4.8質量%水酸化ナトリウム溶液の使用量を1310.0g、FAU型ゼオライトCBV712の使用量を425.0g、水の使用量を335.0gとし、ポリエチレンビーカー内で48時間撹拌した。混合物の組成は次のとおりであった。
【0207】
【表6】
【0208】
上記混合物における各成分の数値は、SiOの物質量を1としたときの物質量比を意味する。
次いで、この原料組成物(混合物)のうち1450gを1Lのステンレス製オートクレーブに入れ300rpmで撹拌し、170℃で60時間保持した。この水熱処理後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の水で洗浄し、105℃で乾燥して生成物を得た。次いで、昇温速度1℃/分で600℃まで昇温後5時間焼成した。得られた粉末の蛍光X線分析によって測定された固形分換算のSAR(SiO/Al比)は10.7であった。
なお、粉末X線回折の測定条件は、以下のとおりであった。
蛍光X線分析においては、装置としてAxios (スペクトリス株式会社 パナリィティカル事業部)を用いた。測定試料5gを塩化ビニル製リングに入れて20tの加重で加圧成型して、測定に供した。解析ソフトはUniQuant5を使用した。粉末X線回折分析を行ったところ、生成物はAFX型ゼオライトの単相であることが確認された。
図8に実施例A5により得られたAFX型ゼオライトのXRDチャートを示す。
【0209】
[実施例A6:焼成工程を含むAFX型ゼオライトの製造]
実施例A3で得た19.26質量%のN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二水酸化物(分子量340.55)溶液9.0gに、4.8%水酸化ナトリウム溶液2.5g、FAU型ゼオライトCBV712(ゼオリスト社製、シリカアルミナ比SAR10.9)4.1g、塩化ナトリウム1.0g、水5.8gをポリエチレンビーカー内で48時間撹拌した。混合物の組成は次のとおりであった。
【0210】
【表7】
【0211】
上記混合物における各成分の数値は、SiOの物質量を1としたときの物質量比を意味する。
次いで、この原料組成物(混合物)を50cc内筒テフロンのステンレス製密閉耐圧容器に入れ、155℃で240時間静置保持した。この水熱処理後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の水で洗浄し、105℃で乾燥して生成物を得た。次いで、昇温速度1℃/分で600℃まで昇温後5時間焼成した。粉末X線回折分析を行ったところ、生成物はAFX型ゼオライトの単相であることが確認された。
図9に実施例A6により得られたAFX型ゼオライトのXRDチャートを示す。
【0212】
[比較例A2:焼成工程を含むAFX型ゼオライトの製造]
N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二水酸化溶液に代えて、特許文献2の方法に準じて合成した17.4質量%N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二水酸化物(分子量338.53)7.7g、4.8%水酸化ナトリウム溶液3.1g、FAU型ゼオライトCBV712(ゼオリスト社製、シリカアルミナ比SAR10.9)3.0g、水3.5gをポリエチレンビーカー内で48時間撹拌した。混合物の組成は次のとおりであった。
【0213】
【表8】
【0214】
上記混合物における各成分の数値は、SiOの物質量を1としたときの物質量比を意味する。
次いで、この原料組成物(混合物)を、実施例A6と同様に処理して生成物を得た。粉末X線回折分析を行ったところ、生成物はAFX型ゼオライトの単相であることが確認された。
図10に比較例A2により得られたAFX型ゼオライトのXRDチャートを示す。
【0215】
<水熱耐久性の測定>
実施例A4、A5及びA6並びに比較例A2のAFX型ゼオライト粉末各2.0gをるつぼに秤取し、これをガス加湿装置(商品名RMG-1000、株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ製)を接続した電気炉(商品名OXK-600X、株式会社共栄電気炉製作所製)に入れて、10%水蒸気を含むAirを70L/minの流量供給下750℃で40時間保持して、水熱耐久性を測定した。
表9に、各サンプルについて水熱耐久性の測定前後のXRD各ピークの積分強度変化を示す。なお、各ピーク強度の数値は、実施例A4により得られた水熱耐久性測定前のAFX型ゼオライトの最強ピーク(2θ=21.77°)の積分強度を1.0としたときの相対値である。また、表の最下段に、水熱耐久性測定前の実施例A4における積分強度合計を100%としたときの、各実施例及び比較例の積分強度の合計の相対値を示す。
また、図11に、各サンプルの水熱耐久性の測定前後のXRDピーク積分強度合計の変化を示す。図11に示されたとおり、実施例A4、A5及びA6の測定前後における数値変化の傾きは比較例A2よりも抑えられており、水熱耐久性に優れていることがわかった。
【0216】
【表9】
【0217】
<SEM画像>
実施例A4、実施例A5、実施例A6、及び比較例A2により得られたAFX型ゼオライトのSEM画像をそれぞれ図12図13図14、及び図15に示す。
実施例A4、実施例A5、及び実施例A6のAFX型ゼオライトの平均粒子径は、それぞれ、約3.84μm、約0.70μm、約3.13μm、変動係数はそれぞれ30.4%、36.9%、24.9%であった。またメジアン粒子径はそれぞれ、3.60μm、0.67μm、3.15μmであった。一方、比較例A2のAFX型ゼオライトの平均粒子径は0.3μm、変動係数は55.6%、メジアン粒子径は0.45μmであった。
SARが10-30であり、2θ=21.77°±0.15°が最強線であり、平均粒子径が0.6μm以上であることにより、水熱耐久性が向上したと考えられた。
なお、平均粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM、Phenom-World社製)を用いて加速電圧10kVの条件により6000倍の画像を取得し、得られた画像の任意の100個の粒子を選択し、当該粒子の最も長い径を測定した。各粒子の最も長い径の平均値を、平均粒子径、メジアン値をメジアン粒子径とした。
また、実施例A4、実施例A5、実施例A6のAFX型ゼオライトは、粒子にマクロ孔を有するものが含まれていた。AFX型ゼオライトの粒子にマクロ孔を有することは、SEM画像から確認した。
【0218】
[実施例A7:焼成工程及びイオン交換工程を含むAFX型ゼオライトの製造]
実施例A5で得た原料組成物(混合物)のうち930gを300ml内筒テフロンのステンレス製密閉耐圧容器4個に入れ、170℃で40時間保持した。この水熱処理後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の水で洗浄し、105℃で乾燥して生成物を得た。次いで、昇温速度1℃/分で600℃まで昇温後5時間焼成した。これと同量の硝酸アンモニウム及び10倍量の水を含む硝酸アンモニウム水溶液を用いてイオン交換を3回繰り返した後、十分量の純水で洗浄し、120℃で乾燥することでNH 型のAFX型ゼオライトを得た。
【0219】
(Cu担持)
得られたNH 型のAFX型ゼオライト120.0gに、50%硝酸銅3水和物水溶液36.0gと水30.0gの混合物を含浸させた後、100~120℃で乾燥した。これに、モルホリン7.0gと水35gの混合物を25℃の環境下で含浸させて、再び100~120℃で乾燥することで、実施例A7のCu担持AFX型ゼオライトを得た。蛍光X線分析によって測定された固形分換算のCuの担持量は4.22質量%、SAR(SiO/Al比)は10.7であった。得られた粉末の粉末X線回折分析を行ったところ、生成物はAFX型ゼオライトの単相であることが確認された。
図16に実施例A7のCu担持AFX型ゼオライトのXRDチャートを、図17に実施例A7のCu担持AFX型ゼオライトのSEM画像を示す。実施例A7のCu担持AFX型ゼオライトの平均粒子径は約2μmであった。SEM画像から実施例A7のAFX型ゼオライトは、粒子にマクロ孔を有するものが含まれていた。
【0220】
(ハニカム積層触媒の製造)
得られた実施例A7のCu担持AFX型ゼオライトを、ハニカム担体1Lあたり180gの担持比率となるようにハニカム担体にウェット塗布し、その後に500℃で焼成した。これにより、Cu担持AFX型ゼオライトを含む触媒層がハニカム担体上に設けられた、実施例A7のハニカム積層触媒を得た。
【0221】
[比較例A3:CHA型ゼオライトの合成]
N,N,N-トリメチルアダマンタアンモニウム水酸化物25%水溶液(以降、「TMAdaOH25%水溶液」と称することがある。)930.0gに、水2,080g、非晶質合成ケイ酸アルミニウム(協和化学社製、合成ケイ酸アルミニウム、商品名:キョーワード(登録商標)700PEL、SAR:10.0)826g、コロイダルシリカ(日産化学社製、商品名:Snowtex(登録商標)40、SiO含有割合:39.7%)320.0g、48%水酸化ナトリウム(関東化学社製)133.0g、及びチャバザイト種結晶(SAR10)23.0gを加え、十分に混合し、原料組成物(混合物)を得た。原料組成物の組成(モル比)は、次のとおりであった。
【0222】
【表10】
【0223】
上記混合物における各成分の数値は、SiOの物質量を1としたときの物質量比を意味する。
この原料組成物(混合物)を5,000ccのステンレス製オートクレーブ内に投入して密閉した後、300rpmで攪拌しながら、160℃まで昇温し48時間保持後、170℃で24時間保持した。この水熱処理後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の水で洗浄し、105℃で乾燥して生成物を得た。粉末X線回折分析を行ったところ、生成物は純粋なCHA型ゼオライトの単相であることが確認された。蛍光X線分析を行ったところ、得られた比較例A3のCHA型アルミノ珪酸塩のシリカアルミナ比(SiO/Al)は、11.3であった。
得られた比較例A3のCHA型ゼオライトから、実施例A7と同様にして、NH 型のCHA型ゼオライトを得た。
【0224】
(CHAゼオライトのCu担持)
得られたNH 型のCHA型ゼオライト120.0gに、50%硝酸銅3水和物水溶液34.0gと水30.0gの混合物を含浸させた後、100~120℃で乾燥した。これに、モルホリン12.0gと水48.0gの混合物を25℃の環境下で含浸させて、再び100~120℃で乾燥することで、Cu担持CHA型ゼオライトを得た。蛍光X線分析によって測定された固形分換算のCuの担持量は3.9質量%、SAR(SiO/Al比)は11.3であった。図18にSEM画像を示す。平均粒子径は、約0.2μmであった。
【0225】
(ハニカム積層触媒の製造)
得られた比較例A3のCu担持CHA型ゼオライトを用いたこと以外は、実施例A7と同様にして比較例A3のハニカム積層触媒を得た。
【0226】
[比較例A4]
TMAdaOH25%水溶液330.0gに、水2,800g、アルミン酸ナトリウム(和光純薬工業社製)45.0g、沈降シリカ(東ソー・シリカ社製、商品名:Nipsil(登録商標)ER)220.0g、Jケイ酸ナトリウム3号(日本化学工業社製、SiO含量29質量%、NaO含量9.5質量%)60.0g、及びチャバザイト種結晶(SAR13)20gを加え、十分に混合し、原料組成物を得た。原料組成物の組成(モル比)は、次のとおりであった。
【0227】
【表11】
【0228】
上記混合物における各成分の数値は、SiOの物質量を1としたときの物質量比を意味する。
この原料組成物を5,000ccのステンレス製オートクレーブ内に投入して密閉した後、300rpmで攪拌しながら、160℃まで昇温し48時間保持した。この水熱処理後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の水で洗浄し、105℃で乾燥して生成物を得た。粉末X線回折分析を行ったところ、生成物はCHAゼオライトの単相であることが確認された。また、蛍光X線分析を行ったところ、得られたCHA型アルミノ珪酸塩のシリカアルミナ比(SiO/Al)は、13.4であった。
【0229】
得られた比較例A4のCHA型ゼオライトを、実施例A7と同様にして、NH 型のCHAゼオライト)を得た。
【0230】
(CHA型ゼオライトのCu担持)
得られたNH 型のCHA型ゼオライト160.0gに、50%硝酸銅3水和物水溶液42.0gと水42.0gの混合物を含浸させた後、100~120℃で乾燥することで、Cu担持CHA型ゼオライトを得た。蛍光X線分析によって測定された固形分換算のCuの担持量は4.8質量%、SAR(SiO/Al比)は13.4であった。図19にSEM画像を示す。平均粒子径は約0.3μmであった。一方、一次粒子径は更に細かく0.1μm以下であった。
【0231】
(ハニカム積層触媒の製造)
得られた比較例A4のCu担持CHA型ゼオライトを用いたこと以外は、実施例A7と同様にして比較例A4のハニカム積層触媒を得た。
【0232】
<窒素酸化物還元効率のラボ測定>
実施例A7、比較例A3及び比較例A4のハニカム積層触媒を直径25.4mmφ×長さ50mmの円柱状に切り出し、これをガス加湿装置(商品名RMG-1000、株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ製)を接続した電気炉(商品名OXK-600X、株式会社共栄電気炉製作所製)に入れて、10%水蒸気を含むAirを70L/minの流量供給下650℃で100時間保持して、水熱耐久性の測定を行った。この水熱耐久性の側手後サンプルを触媒評価装置(商品名SIGU-2000、株式会社堀場製作所製)にセットして、ガス組成を自動車排ガス測定装置(商品名MEXA-6000FT,株式会社堀場製作所製)で分析することによりモデルガスの定常気流中で窒素酸化物還元効率を測定した。ここでは、210ppmのNO、40ppmのNO、250ppmのNH、4%のHO、10%のO、残部Nでバランスしたモデルガスを用い、測定は170℃~500℃の温度範囲で行い、空間速度SV=59,000h-1で行った。
結果を表12に示す。
【0233】
【表12】
【0234】
このように本発明の化合物は、ヨウ化物のままでも水酸化物の形でもAFX型ゼオライトの単相を得ることが可能である。すなわち、本発明の化合物は、ヨウ化物から他の塩へと誘導する手間を省いて当該化合物をAFX型ゼオライトの調製に供することができ、また、所望のAFX型ゼオライトを単一物質として取得できることから、OSDAとしての性能が高い。
【0235】
[製造例B1;Pt-V/HAP触媒の調製]
アセトン90mLにエヌ・イーケムキャット社製Pt(acac)2(白金アセチルアセトナート、0.4mmol)とシグマアルドリッチ社のVO(acac)2(バナジルアセチルアセトナート、0.4mmol)とを加え、室温で30分撹拌した。さらに和光純薬社のHAP(商品名「リン酸三カルシウム」)1.0gを加えて室温で4時間撹拌した。得られた混合物から溶媒をロータリーエバポレータで除去し、淡緑色の粉末を得た。得られた粉末を110℃で終夜乾燥した。さらに、乾燥した粉末をメノウ鉢で粉砕し、大気中で、3時間、300℃で焼成し、濃灰色の粉末(Pt-V/HAP)を得た。
【0236】
[実施例B1:N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物の合成]
(N,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジンの合成)
製造例B1で得られたPt-V/HAPを0.3g、特許文献2の方法に準じて合成したN,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボニルジイミド0.3mmol、和光純薬社のモレキュラーシーブス4Å 0.1gを50mLのステンレス製オートクレーブに加え、溶媒である1,2-ジメトキシエタン(DME)5mLを加えて、反応温度150℃、水素圧5MPaの下で48時間水素化反応を行った。反応後、GC-MSを用いてN,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジンの収率を測定したところ、収率77%であった。生成物を単離し、NMR測定をした結果を以下に示す。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ = 2.72 (t, J = 17 Hz, 4H), 2.49 (dd, J = 30, 14 Hz, 4H), 2.43 (dd, J = 18, 10 Hz, 4H), 2.21 (s, 4H), 1.57 (s, 4H), 1.40 (s, 2H), 1.14 (t, J = 15 Hz, 6H);
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ = 57.0(×4), 50.2(×2), 40.7(×4), 30.6(×2), 14.6(×2), 13.9(×2).
【0237】
(N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物の合成)
上記合成により合成したN,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジン(分子量248.41)2.2gの50mLエタノール溶液を100mLフラスコに入れ、ヨウ化エチル(分子量155.97、液体、東京化成工業)6.0gを滴下した。窒素雰囲気下で2日間還流した後、放冷後ろ過し、アセトンで洗浄して乾燥することで、目的物であるN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物の白色粉末2.6g(収率52%)を得た。得られた白色粉末の1H-NMR 及び13C-NMR を以下に示す。
1H NMR(400MHz, D2O) δ: 3.82 (dd, 4H), 3.49 (q4, 4H), 3.38 (q4, 4H), 3.33 (d, 4H), 2.68(m, 4H), 1.80 (s, 2H), 1.64 (s, 4H), 1.36 (t, 6H), 1.31 (t, 6H)
13C NMR(400Hz, CDCl3) δ: 65.00(×4), 58.51(×2), 54.41(×2), 40.11(×4), 28.33(×2), 14.86(×2), 11.01(×2), 10.1(×2)
N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物のHNMRのスペクトルデータを図20に、N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物の13CNMRのスペクトルデータを図21に示す。
【0238】
[参考例B1:AFX型ゼオライトの合成]
N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物(分子量558.62)2.0g、4.8質量%水酸化ナトリウム溶液8.4g、FAU型ゼオライトCBV712(ゼオリスト社製、シリカアルミナ比SAR10.9)2.7g、水3.3gをSUSビーカー内で48時間撹拌した。混合物の組成は次のとおりであった。
【0239】
【表13】
【0240】
上記混合物における各成分の数値は、SiOの物質量を1としたときの物質量比を意味する。
次いで、この原料組成物(混合物)を50cc内筒テフロンのステンレス製密閉耐圧容器に入れ、170℃で48時間静置保持した。この水熱処理後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の水で洗浄し、105℃で乾燥して生成物を得た。粉末X線回折分析を行ったところ、生成物はAFX型ゼオライトの単相であることが確認された。
図22に、当該AFX型ゼオライトのXRDデータを示す。
【0241】
[参考例B2:N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物の合成]
特許文献2に準じて合成したN,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジン(分子量246.39)370.0gをイソプロピルアルコール(IPA)変成アルコール1,200mLに溶解し、5%パラジウム炭素触媒(エヌ・イー ケムキャト社製 K-type含水品)を乾燥質量換算で31.08g(パラジウムとして基質の1.0mol%相当)を加え、50℃常圧の水素で190時間反応させた。ガスクロマトグラフィー(GC)による基質の転化率は99%以上であった。これを濾別して触媒を除いたあと、撹拌しながらヨウ化エチル516.0g(分子量155.11、2.2当量)を滴下した。窒素雰囲気下で16時間おだやかに還流した後、放冷後ろ過し、アセトンで洗浄して乾燥することで、目的物であるN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物の白色粉末703.0g(収率90%)を得た。
得られた白色粉末の1H-NMR及び13C-NMRを以下に示す。
1H-NMR (400MHz, D2O) δ: 3.82 (dd, 4H), 3.49 (q4, 4H), 3.38 (q4, 4H), 3.33 (d, 4H), 2.69 (m, 4H), 1.80 (s, 2H), 1.64 (s, 4H), 1.36 (t, 6H), 1.31 (t, 6H).
13C-NMR(100Hz, D2O) δ: 65.00(×4), 58.51(×2), 54.41(×2), 40.11(×4), 28.33(×2), 14.86(×2), 11.01(×2), 10.17(×2)
N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物のHNMRのスペクトルデータを図23に、N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物の13CNMRのスペクトルデータを図24に示す。
【0242】
[参考例B3:AFXゼオライトの合成]
参考例B2のN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物(分子量558.62)28.0g、4.8質量%水酸化ナトリウム溶液116.0g、FAU型ゼオライトCBV712(ゼオリスト社製、シリカアルミナ比SAR10.9)37.5g、水47.0gをポリエチレンビーカー内で48時間撹拌した。混合物の組成は次のとおりであった。
【0243】
【表14】
【0244】
上記混合物における各成分の数値は、SiOの物質量を1としたときの物質量比を意味する。
次いで、この原料組成物(混合物)を300cc内筒テフロンのステンレス製密閉耐圧容器に入れ、170℃で40時間静置保持した。この水熱処理後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の水で洗浄し、105℃で乾燥して生成物を得た。粉末X線回折分析を行ったところ、生成物はAFX型ゼオライトの単相であることが確認された。
図25に、当該AFX型ゼオライトのXRDデータを示す。
【0245】
実施例B及び参考例Bにおける上記ガスクロマトグラフィーの条件は、以下のとおりであった。
装置名:GCMS-QP2010(島津製作所社製)
カラム:SHIMADZU製 SH-Rtx-200MS
キャリアガス:ヘリウム
全流量:98.9mL/min
カラム流量:2.56mL/min
温度:カラムオーブンを40℃から300℃まで10℃/minずつ昇温した。その後300℃の状態で10min間保持した。
【0246】
実施例B及び参考例Bにおける上記NMRの測定条件は、以下のとおりであった。
装置名:Ascend4000(BRUKER社製)
測定方法:HNMR及び13CNMRは、試料を重水に溶解して測定した。
【0247】
実施例B及び参考例Bにおける粉末X線回折の測定条件は、以下のとおりであった。
装置名:X'Pert Pro(スペクトリス株式会社製)
測定方法:粉末測定試料を溝のあるガラス試料板容器に充填し測定に供した。なお、X線源はCuKα線、管電圧は45kV、管電流は40mAにて測定を行った。
【0248】
本発明の製造方法によれば、取り扱いが難しい強力な還元剤、例えば発火等の危険がある還元剤等を使用する必要がないため、安全且つ容易に、N,N,N',N'-テトラアルキルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウムを製造することができる。そして、かかる製造方法によれば、比較的に安全な条件下で合成可能なため、設備負担が小さく、大ロットで製造することができるため、当該化合物の生産性及び経済性が高められる。
【0249】
[製造例C1;Pt-V/HAP触媒の調製]
アセトン90mLにエヌ・イーケムキャット社製Pt(acac)2(白金アセチルアセトナート、0.4mmol)とシグマアルドリッチ社のVO(acac)2(バナジルアセチルアセトナート、0.4mmol)とを加え、室温で30分撹拌した。さらに和光純薬社のHAP(商品名「リン酸三カルシウム」)1.0gを加えて室温で4時間撹拌した。得られた混合物から溶媒をロータリーエバポレータで除去し、淡緑色の粉末を得た。得られた粉末を110℃で終夜乾燥した。さらに、乾燥した粉末をメノウ鉢で粉砕し、大気中で、3時間、300℃で焼成し、濃灰色の粉末(Pt-V/HAP)を得た。
【0250】
[製造例C2:N,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジンの合成]
製造例C1で得られたPt-V/HAPを0.3g、特許文献2の方法に準じて合成したN,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-テトラカルボニルジイミド0.3mmol、和光純薬社のモレキュラーシーブス4Å 0.1gを50mLのステンレス製オートクレーブに加え、溶媒である1,2-ジメトキシエタン(DME)5mLを加えて、反応温度150℃、水素圧5MPaの下で48時間水素化反応を行った。反応後、GC-MSを用いてN,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジンの収率を測定したところ、収率77%であった。生成物を単離し、NMR測定をした結果を以下に示す。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ = 2.72 (t, J = 17 Hz, 4H), 2.49 (dd, J = 30, 14 Hz, 4H), 2.43 (dd, J = 18, 10 Hz, 4H), 2.21 (s, 4H), 1.57 (s, 4H), 1.40 (s, 2H), 1.14 (t, J = 15 Hz, 6H);
13C NMR (100 MHz, CDCl3) δ = 57.0(×4), 50.2(×2), 40.7(×4), 30.6(×2), 14.6(×2), 13.9(×2).
【0251】
[製造例C3:N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物の合成]
製造例C2に準じて合成したN,N'-ジエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジン(分子量248.41)2.2gの50mLエタノール溶液を100mLフラスコに入れ、ヨウ化エチル(分子量155.97、液体、東京化成工業)6.0gを滴下した。窒素雰囲気下で2日間還流した後、放冷後ろ過し、アセトンで洗浄して乾燥することで、目的物であるN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物の白色粉末2.6g(収率52%)を得た。得られた白色粉末のHNMR及び13CNMRを以下に示す。
1H NMR(400MHz, D2O) δ: 3.82 (dd, 4H), 3.49 (q4, 4H), 3.38 (q4, 4H), 3.33 (d, 4H), 2.68(m, 4H), 1.80 (s, 2H), 1.64 (s, 4H), 1.36 (t, 6H), 1.31 (t, 6H)
13C NMR(400Hz, CDCl3) δ: 65.00(×4), 58.51(×2), 54.41(×2), 40.11(×4), 28.33(×2), 14.86(×2), 11.01(×2), 10.1(×2)
また、HNMRのスペクトルデータを図26に、13CNMRのスペクトルデータを図27に示す。
【0252】
[実施例C1:AFX型ゼオライトの合成]
N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物(分子量558.62)2.0g、4.8質量%水酸化ナトリウム溶液8.4g、FAU型ゼオライトCBV712(ゼオリスト社製、シリカアルミナ比SAR10.9)2.7g、水3.3gをSUSビーカー内で48時間撹拌した。混合物の組成は次のとおりであった。
【0253】
【表15】
【0254】
上記混合物における各成分の数値は、SiOの物質量を1としたときの物質量比を意味する。
次いで、この原料組成物(混合物)を50cc内筒テフロンのステンレス製密閉耐圧容器に入れ、170℃で48時間静置保持した。この水熱処理後の生成物を固液分離し、得られた固相を十分量の水で洗浄し、105℃で乾燥して生成物を得た。粉末X線回折分析を行ったところ、生成物はAFX型ゼオライトの単相であることが確認された。図28に実施例C1により得られたAFX型ゼオライトのXRDチャートを示す。
【0255】
[比較例C1:AFX型ゼオライトの合成]
N,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクタ-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物(分子量558.62)2.0gに代えて、特許文献2の方法に準じて合成したN,N,N',N'-テトラエチルビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3:5,6-ジピロリジニウム二ヨウ化物(分子量556.61)2.0gを使用した以外は、実施例C1と同様にして生成物を得た。粉末X線回折分析を行ったところ、生成物はAFX型ゼオライトの他にベータ型ゼオライトが生成していることが確認された。図29に比較例C1により得られたAFX型ゼオライトのXRDチャートを示す。
【0256】
このように本発明の製造方法によれば、OSDAがヨウ化物のままでもAFX型ゼオライトの単相を得ることが可能であり、有用である。また、AFX型ゼオライトの量産に際して、リチウムアルミニウムハイドライド(LiAlH)等の危険な還元剤の利用を避けることもできる。
【0257】
実施例C1で製造したAFX型ゼオライトの粉末X線回折分析の結果得られた回折ピークを以下の表に示す。
【0258】
【表16】
【産業上の利用可能性】
【0259】
本発明によれば、OSDAの材料として有用であり、例えば含水アルミノケイ酸塩の一種であるゼオライト等の供給が比較的に安定且つ低コストで実現可能である。本発明の製造方法によれば、OSDAの材料となる化合物を簡便且つ安全に提供することができ、例えば含水アルミノケイ酸塩の一種であるゼオライト等の供給が比較的に安定且つ低コストで実現可能である。本発明によれば、例えば含水アルミノケイ酸塩の一種であるAFX型ゼオライト等の供給が比較的に安定且つ低コストで実現可能であり、例えばAFX型ゼオライトをハニカム担体に塗布した、例えばハニカム積層触媒などの態様により、還元成分を使用した窒素酸化物の高効率な浄化が可能である。
そのため、本発明は、各種の無機或いは有機分子の吸着剤又は分離剤の他、乾燥剤、脱水剤、イオン交換体、石油精製触媒、石油化学触媒、固体酸触媒、三元触媒、排ガス浄化触媒、NOx吸蔵材等の用途において、広く且つ有効に利用可能である。
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