(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】物性予測装置、物性予測方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
G16C 60/00 20190101AFI20241029BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20241029BHJP
G01N 3/00 20060101ALN20241029BHJP
【FI】
G16C60/00
G06Q10/04
G01N3/00 Z
(21)【出願番号】P 2020101108
(22)【出願日】2020-06-10
【審査請求日】2022-12-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年4月13日に、先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)のウェブサイト(http://www.admat.or.jp/news)ほか4箇所のウェブサイトにて公開。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(72)【発明者】
【氏名】中陳 巧勤
(72)【発明者】
【氏名】南 拓也
【審査官】鈴木 和樹
(56)【参考文献】
【文献】特許第6633820(JP,B1)
【文献】特開2019-082790(JP,A)
【文献】特開2019-086817(JP,A)
【文献】特開2020-038493(JP,A)
【文献】特開2020-071827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16C 10/00 - 99/00
G06Q 10/00 - 99/00
G01N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単量体及びその含有比率を示す単量体情報に基づき物性種別毎のモデルによって重合体の複数の物性種別の予測値を取得する物性予測部と、
前記複数の物性種別の予測値から前記単量体情報に対する偏差値を算出し、前記偏差値に基づき前記重合体の合成に使用される単量体及びその含有比率を決定する単量体決定部と、
を有する物性予測装置。
【請求項2】
前記物性種別毎のモデルは、前記単量体情報と、前記単量体情報に対応する前記重合体の物性種別の物性値とのペアから構成される訓練データを利用して、ガウス過程回帰によって導出される、請求項1記載の物性予測装置。
【請求項3】
前記単量体決定部は、前記複数の物性種別の予測値からベイズ最適化の獲得関数の出力値を算出し、前記出力値の偏差値を算出する、請求項1又は2記載の物性予測装置。
【請求項4】
前記単量体決定部は、前記偏差値が最大又は最小となる単量体情報を、前記重合体の合成に使用される単量体及びその含有比率として決定する、請求項1乃至3何れか一項記載の物性予測装置。
【請求項5】
前記単量体情報を生成する単量体情報生成部を更に有し、
前記単量体情報は、各単量体のECFP(Extended Connectivity Fingerprint)とモル比との積によって表現される、請求項1乃至4何れか一項記載の物性予測装置。
【請求項6】
1つ以上のプロセッサが、複数の単量体及びその含有比率を示す単量体情報に基づき物性種別毎のモデルによって重合体の複数の物性種別の予測値を取得するステップと、
前記1つ以上のプロセッサが、前記複数の物性種別の予測値から前記単量体情報に対する偏差値を算出し、前記偏差値に基づき前記重合体の合成に使用される単量体及びその含有比率を決定するステップと、
を有する物性予測方法。
【請求項7】
前記物性種別毎のモデルは、前記単量体情報と、前記単量体情報に対応する前記重合体の物性種別の物性値とのペアから構成される訓練データを利用して、ガウス過程回帰によって導出される、請求項6記載の物性予測方法。
【請求項8】
前記決定するステップは、前記複数の物性種別の予測値からベイズ最適化の獲得関数の出力値を算出し、前記出力値の偏差値を算出する、請求項6又は7記載の物性予測方法。
【請求項9】
前記決定するステップは、前記偏差値が最大又は最小となる単量体情報を、前記重合体の合成に使用される単量体及びその含有比率として決定する、請求項6乃至8何れか一項記載の物性予測方法。
【請求項10】
前記単量体情報を生成するステップを更に有し、
前記単量体情報は、各単量体のECFP(Extended Connectivity Fingerprint)とモル比との積によって表現される、請求項6乃至9何れか一項記載の物性予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体の物性予測装置、物性予測方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な技術分野にAI(Artificial Intelligence)技術が活用されるようになってきている。化学・素材の分野では、AI技術はマテリアルズ・インフォマティクス(MI)として適用され、新たな物質・材料などの研究開発に利用されている。
【0003】
例えば、複数の単量体を使用して重合体を合成する際、これら複数の単量体をどのような比率で含有させることによって所望の物性を有する重合体を合成できるか、などAI技術を利用して探索されうる。単量体など化合物の構造的特徴は、ECFP(Extended Connectivity Fingerprint)などの計算処理に適した何れかの表現手法に従って表現され、各単量体のECFPとその含有比率とを説明変数とし、重合体のある物性を目的変数とした回帰モデルなどを構築することができる。構築した回帰モデルを利用することによって、単量体の未知の含有比率から合成される重合体の物性を予測することが可能になる。
【0004】
複数の物性に基づき重合体を評価したいことがある。この場合、各物性を目的変数とする回帰モデルを構築し、単量体の含有比率から複数種別の物性値を予測することが可能である。このような複数種別の物性値を予測する際、例えば、ベイズ最適化が利用されうる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】David Rogers and Mathew Hahn, "Extended-Connectivity Fingerprints". J. Chem. Inf. Model, 50, 742 (2010)
【文献】Fabian Pedregosa, et. al., "Scikit-learn: Machine Learning in Python", JMLR. 12, 2825 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、各物性の予測値は異なるスケール又は数値範囲を一般に有し、従来のベイズ最適化では、複数の物性に基づき重合体を総合的に評価するためには、各目的変数に対して研究者の経験等によるリスケーリングが必要であった。
【0007】
上記問題点を解決するため、本発明の課題は、複数の物性値に基づき重合体の物性を評価するための手法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]複数の単量体及びその含有比率を示す単量体情報に基づき物性種別毎のモデルによって重合体の複数の物性種別の予測値を取得する物性予測部と、前記複数の物性種別の予測値から前記単量体情報に対する偏差値を算出し、前記偏差値に基づき前記重合体の合成に使用される単量体及びその含有比率を決定する単量体決定部と、を有する物性予測装置。
【0009】
[2]前記物性種別毎のモデルは、前記単量体情報と、前記単量体情報に対応する前記重合体の物性種別の物性値とのペアから構成される訓練データを利用して、ガウス過程回帰によって導出される、[1]に記載の物性予測装置。
【0010】
[3]前記単量体決定部は、前記複数の物性種別の予測値からベイズ最適化の獲得関数の出力値を算出し、前記出力値の偏差値を算出する、[1]又は[2]に記載の物性予測装置。
【0011】
[4]前記単量体決定部は、前記偏差値が最大又は最小となる単量体情報を、前記重合体の合成に使用される単量体及びその含有比率として決定する、[1]乃至[3]何れか一つに記載の物性予測装置。
【0012】
[5]前記単量体情報を生成する単量体情報生成部を更に有し、
前記単量体情報は、各単量体のECFP(Extended Connectivity Fingerprint)とモル比との積によって表現される、[1]乃至[4]何れか一つに記載の物性予測装置。
【0013】
[6]1つ以上のプロセッサが、複数の単量体及びその含有比率を示す単量体情報に基づき物性種別毎のモデルによって重合体の複数の物性種別の予測値を取得するステップと、前記1つ以上のプロセッサが、前記複数の物性種別の予測値から前記単量体情報に対する偏差値を算出し、前記偏差値に基づき前記重合体の合成に使用される単量体及びその含有比率を決定するステップと、を有する物性予測方法。
【0014】
[7]前記物性種別毎のモデルは、前記単量体情報と、前記単量体情報に対応する前記重合体の物性種別の物性値とのペアから構成される訓練データを利用して、ガウス過程回帰によって導出される、[6]に記載の物性予測方法。
【0015】
[8]前記決定するステップは、前記複数の物性種別の予測値からベイズ最適化の獲得関数の出力値を算出し、前記出力値の偏差値を算出する、[6]又は[7]に記載の物性予測方法。
【0016】
[9]前記決定するステップは、前記偏差値が最大又は最小となる単量体情報を、前記重合体の合成に使用される単量体及びその含有比率として決定する、[6]乃至[8]何れか一つに記載の物性予測方法。
【0017】
[10]前記単量体情報を生成するステップを更に有し、
前記単量体情報は、各単量体のECFP(Extended Connectivity Fingerprint)とモル比との積によって表現される、[6]乃至[9]何れか一つに記載の物性予測方法。
【0018】
[11][6]乃至[10]何れか一つに記載の物性予測方法によって単量体及びその含有比率を決定し、当該単量体及びその含有比率によってポリウレタン硬化物を製造する製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の上記態様によれば、複数の物性値に基づき重合体の物性を評価するための手法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施例による回帰モデル生成装置及び物性予測装置を示す概略図である。
【
図2】本発明の一実施例による回帰モデル生成装置及び物性予測装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施例による回帰モデル生成装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の一実施例によるECFPを示す図である。
【
図5】本発明の一実施例による回帰モデル生成処理を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の一実施例による物性予測装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図7】本発明の一実施例による複数種別の物性予測値を示す図である。
【
図8】本発明の一実施例による指標を示す図である。
【
図9】本発明の一実施例による指標が最大となるジオール及びその含有比率並びに触媒を示す図である。
【
図10】
図9のジオール及びその含有比率並びに触媒に基づいて合成されるポリウレタン前駆体を硬化させたポリウレタン硬化物の換算透過率、破断応力、伸びの実測値を示す図である。
【
図11】比較例(1)~(10)のジオール及びその含有比率並びに触媒を示す図である。
【
図12】
図11のジオール及びその含有比率並びに触媒に基づいて合成されるポリウレタン前駆体を硬化させたポリウレタン硬化物の換算透過率、破断応力、伸びの実測値を示す図である。
【
図13】本発明の一実施例による物性予測処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0022】
後述される実施例では、重合体の合成に使用される単量体及びその含有比率から重合体の各種別の物性値を予測する物性種別毎の回帰モデルを生成する回帰モデル生成装置と、生成された物性種別毎の回帰モデルを利用して、単量体及びその含有比率から各種別の物性値を予測し、予測した種別毎の物性値から重合体の物性を総合的に評価するための指標を算出する物性予測装置とが開示される。
【0023】
[概略]
まず、
図1を参照して、本発明の一実施例による回帰モデル生成装置及び物性予測装置の概略を説明する。
図1は、本発明の一実施例による回帰モデル生成装置及び物性予測装置を示す概略図である。
【0024】
図1に示されるように、回帰モデル生成装置100は、重合体を合成するための単量体及びその含有比率を示す単量体情報と、単量体情報に基づいて合成された重合体の複数種別(図示された例では、N種別)の物性値とのペアから構成される教師データ又は訓練データを物質データベース50から取得する。そして、回帰モデル生成装置100は、取得した単量体情報から各物性種別の物性値を予測する種別毎の回帰モデル(推定対象回帰モデル#1,#2,・・・、#N)を構築し、全種別に対して種別毎の回帰モデルを生成する。
【0025】
次に、物性予測装置200は、回帰モデル生成装置100によって事前に構築された種別毎の回帰モデル(回帰モデル#1,#2,...,#N)を利用して、単量体情報から各物性種別の予測値を取得し、取得した複数の予測値から重合体の総合的な物性を評価するための指標を算出する。物性予測装置200は、各単量体情報に対して指標を算出し、当該指標に基づき重合体の合成に使用される単量体及びその含有比率(モル比など)を決定する。例えば、当該指標として偏差値が利用され、算出された偏差値が最大又は最小となる単量体及びその含有比率が選択されてもよい。
【0026】
なお、回帰モデル生成装置100及び物性予測装置200は、例えば、
図2に示されるようなハードウェア構成を有してもよい。すなわち、回帰モデル生成装置100及び物性予測装置200は、バスBを介し相互接続されるドライブ装置101、補助記憶装置102、メモリ装置103、CPU(Central Processing Unit)104、入出力装置105及び通信装置106を有する。
【0027】
回帰モデル生成装置100及び物性予測装置200における後述される各種機能及び処理を実現するプログラムを含む各種コンピュータプログラムは、CD-ROM(Compact Disk-Read Only Memory)などの記録媒体107によって提供されてもよい。プログラムを記憶した記録媒体107がドライブ装置101にセットされると、プログラムが記録媒体107からドライブ装置101を介して補助記憶装置102にインストールされる。但し、プログラムのインストールは必ずしも記録媒体107により行う必要はなく、ネットワークなどを介し何れかの外部装置からダウンロードするようにしてもよい。補助記憶装置102は、インストールされたプログラムを格納すると共に、必要なファイルやデータなどを格納する。メモリ装置103は、プログラムの起動指示があった場合に、補助記憶装置102からプログラムやデータを読み出して格納する。プロセッサとして機能するCPU104は、メモリ装置103に格納されたプログラムやプログラムを実行するのに必要なパラメータなどの各種データに従って、後述されるような回帰モデル生成装置100及び物性予測装置200の各種機能及び処理を実行する。入出力装置105は、回帰モデル生成装置100及び物性予測装置200とユーザとの間のインタフェースを提供し、例えば、キーボード、マウス、タッチスクリーン等の入力デバイスと、ディスプレイ、スピーカー等の出力デバイスとから構成されてもよい。通信装置106は、外部装置と通信するための各種通信処理を実行する。
【0028】
しかしながら、回帰モデル生成装置100及び物性予測装置200は、上述したハードウェア構成に限定されるものでなく、後述される機能及び処理を実現するよう配線化された処理回路など、他の何れか適切なハードウェア構成により実現されてもよい。
【0029】
[回帰モデル生成装置]
次に、
図3を参照して、本発明の一実施例による回帰モデル生成装置100を説明する。
図3は、本発明の一実施例による回帰モデル生成装置100の機能構成を示すブロック図である。
【0030】
図3に示されるように、回帰モデル生成装置100は、訓練データ取得部110及び回帰モデル生成部120を有する。
【0031】
訓練データ取得部110は、単量体情報と当該単量体情報に基づき合成された重合体の複数種別の物性値とのペアから構成される教師データ又は訓練データを取得する。単量体情報は、限定することなく、重合体を合成するのに用いられる複数の単量体及びその含有比率を示すものであってもよい。
【0032】
例えば、触媒を用いて、ジオールとジイソシアネートを重付加反応させ、ポリウレタンを合成する場合、単量体情報に用いられる単量体は各種ジオールであり、その含有比率は使用されるジオールのモル比であってもよい。ここで、各ジオールは、
図4に示されるように、当該ジオールから抽出された構造情報に基づき、ECFP(Extended Connectivity Fingerprint)などの何れか適切な表現手法に従って数値化されうる。また、物性種別は、ポリウレタンの換算透過率、破断応力、伸びなどのフィルム特性であってもよい。また、モル比の代わりに、モル数が訓練データとして与えられてもよい。この場合、モノマーのモル比の総和が1になるよう規格化され、モル数からモル比が算出される。
【0033】
ここで、換算透過率は、式
4×(屈折率)/[(屈折率)+1]2(ただし、屈折率≧1)
により、算出される。
【0034】
例えば、訓練データのサンプル1の単量体情報は、単量体としてジオール1、ジオール2及びジオール3を示し、モル比として"0.41:0.01:0.11"を示すものであってもよい。また、サンプル1の単量体情報に基づき合成されたポリウレタンの物性値は、換算透過率"0.971"、破断応力"20.1"及び伸び"129.2"であってもよい。
【0035】
ここで、ジオール1~3は、以下の通りである。
【0036】
【化1】
同様に、サンプル2の単量体情報は、単量体としてジオール1、ジオール2及びジオール3を示し、モル比として"0.42:0.01:0.10"を示すものであってもよい。また、サンプル2の単量体情報に基づき合成されたポリウレタンの物性値は、換算透過率"0.973"、破断応力"31.2"及び伸び"300.3"であってもよい。
【0037】
このような訓練データの各サンプルは、実験等によって予め取得され、例えば、物質データベース50に格納されている。訓練データ取得部110は、物質データベース50から当該訓練データを取得し、回帰モデル生成部120にわたす。
【0038】
回帰モデル生成部120は、訓練データから種別毎の回帰モデルを生成する。具体的には、回帰モデル生成部120は、訓練データ取得部110から提供された訓練データの単量体情報を説明変数とし、各物性種別の物性値を目的変数とする種別毎の回帰モデルを構築する。
【0039】
例えば、上述したサンプル1,2,・・・が与えられると、回帰モデル生成部120はまず、非数値化データ項目である単量体を数値化する。例えば、回帰モデル生成部120は、ECFPに従って単量体をベクトル表現に変換してもよい。具体的には、回帰モデル生成部120は、公知のECFP導出手法に従って、
図4の左側に示される単量体の構造から中央の示される3つの部分構造を抽出し、右側に示されるベクトル表現を取得できる。
【0040】
このようにして、各単量体のECFPを算出した後、回帰モデル生成部120は、各サンプルのモル比と各ECFPのベクトルとを掛け合わせる。例えば、ジオール1がX1=(X11,X12,・・・)、ジオール2がX2=(X21,X22,・・・)及びジオール3がX3=(X31,X32,・・・)によって表現される場合、回帰モデル生成部120は、サンプル1のモル比"0.41:0.01:0.11"に対して、(0.41X11,0.41X12,・・・,0.01X21,0.01X22,・・・,0.11X31,0.11X32,・・・)を算出する。同様に、回帰モデル生成部120は、サンプル2のモル比"0.42:0.01:0.10"に対して、(0.42X11,0.42X12,・・・,0.01X21,0.01X22,・・・,0.10X31,0.10X32,・・・)を算出する。
【0041】
次に、回帰モデル生成部120は、サンプル1"単量体情報:(0.41X11,0.41X12,・・・,0.01X21,0.01X22,・・・,0.11X31,0.11X32,・・・);物性値:換算透過率0.971,破断応力20.1,伸び129.2"から物性種別毎のサブサンプル1-1"単量体情報:(0.41X11,0.41X12,・・・,0.01X21,0.01X22,・・・,0.11X31,0.11X32,・・・);物性値:換算透過率0.971"、サブサンプル1-2"単量体情報:(0.41X11,0.41X12,・・・,0.01X21,0.01X22,・・・,0.11X31,0.11X32,・・・);物性値:破断応力20.1"、及びサブサンプル1-3"単量体情報:(0.41X11,0.41X12,・・・,0.01X21,0.01X22,・・・,0.11X31,0.11X32,・・・);物性値:伸び129.2"を生成する。
【0042】
同様に、回帰モデル生成部120は、サンプル2"単量体情報:(0.42X11,0.42X12,・・・,0.01X21,0.01X22,・・・,0.10X31,0.10X32,・・・);物性値:換算透過率0.973,破断応力31.2,伸び300.3"から物性種別毎のサブサンプル2-1"単量体情報:(0.42X11,0.42X12,・・・,0.01X21,0.01X22,・・・,0.10X31,0.10X32,・・・);物性値:換算透過率0.973"、サブサンプル2-1"単量体情報:(0.42X11,0.42X12,・・・,0.01X21,0.01X22,・・・,0.10X31,0.10X32,・・・);物性値:破断応力31.2"、及びサブサンプル2-32-1"単量体情報:(0.42X11,0.42X12,・・・,0.01X21,0.01X22,・・・,0.10X31,0.10X32,・・・);物性値:伸び"300.3"を生成する。同様にして、回帰モデル生成部120は、各サンプルiに対してサブサンプルi-1,i-2及びi-3を生成する。
【0043】
そして、回帰モデル生成部120は、単量体情報を説明変数とし、換算透過率を目的変数とする種別毎の回帰モデル#1を構築するため、サブサンプル1-1,2-1,・・・を抽出し、これらのサブサンプルi-1に対して回帰分析を実行する。具体的には、回帰モデル生成部120は、ガウス過程回帰に従って、サブサンプル1-1、2-1,・・・を再現するように種別毎の回帰モデル#1を構築する。
【0044】
ここで、ガウス過程回帰とは、入力変数xから出力変数である実数値yへの関数yi=f(xi)を推定するモデルの1つであり、その特徴の1つはその非線形であり、線形回帰ではうまくフィッティングできない場合にも有効である。もう1つの重要な特徴はベイズ推定を用いる点である。推定される関数は1つの関数ではなく、関数の分布として得られるため、推定の不確実性を表現することができる。
【0045】
そして、各yiの間の関係は、共分散によって記述される。訓練データによって、上記の各yiの正規分布、各yiの関係を記述する共分散が求まる。このため、不確かさに関しては、yiの値の正規分布があるため、例えば、95%信頼区間で取れば、2σの不確かさをもってyiの値を予測することが可能になる。
【0046】
同様にして、回帰モデル生成部120は、単量体情報を説明変数とし、破断応力を目的変数とする種別毎の回帰モデル#2を構築するため、サブサンプル1-2,2-2,・・・を抽出し、これらのサブサンプルi-2に対して回帰分析を実行する。具体的には、回帰モデル生成部120は、ガウス過程回帰に従ってサブサンプル1-2,2-2,・・・を再現するように種別毎の回帰モデル#2を構築する。
【0047】
さらに、回帰モデル生成部120は、単量体情報を説明変数とし、伸びを目的変数とする種別毎の回帰モデル#3を構築するため、サブサンプル1-3,2-3,・・・を抽出し、これらのサブサンプルi-3に対して回帰分析を実行する。具体的には、回帰モデル生成部120は、ガウス過程回帰に従ってサブサンプル1-3,2-3,・・・を再現するように種別毎の回帰モデル#3を構築する。
【0048】
このようにして、種別毎の回帰モデル#1,#2,#3を構築すると、回帰モデル生成部120は、構築した回帰モデル#1,#2,#3を物性予測装置200にわたす。
【0049】
[回帰モデル生成処理]
次に、
図5を参照して、本発明の一実施例による回帰モデル生成処理を説明する。当該回帰モデル生成処理は、例えば、上述した回帰モデル生成装置100によって実行され、より詳細には、回帰モデル生成装置100のプロセッサによって実現されてもよい。
図5は、本発明の一実施例による回帰モデル生成処理を示すフローチャートである。
【0050】
図5に示されるように、ステップS101において、回帰モデル生成装置100は、訓練データを取得する。例えば、ポリウレタンが重合体として合成される場合、訓練データは、単量体(例えば、各種ジオールなど)及びその含有比率(例えば、モル数、モル比など)を示す単量体情報と、重合体の複数種別の物性値(例えば、換算透過率、破断応力、伸びなど)とのペアから構成され、実験等により事前に取得されている。
【0051】
ステップS102において、回帰モデル生成装置100は、取得した訓練データの各サンプルに対して、単量体情報から部分構造及びモル比を算出する。具体的には、回帰モデル生成装置100は、単量体情報の各単量体のECFPを算出し、各単量体をベクトル表現に変換する。また、回帰モデル生成装置100は、モル数からモル比を算出する。
【0052】
ステップS103において、回帰モデル生成装置100は、算出した部分構造及びモル比から回帰モデルの説明変数値を算出する。具体的には、回帰モデル生成装置100は、ステップS102において算出したECFPとモル比との積ベクトルを算出し、算出した積ベクトルを回帰モデルの説明変数値とする。
【0053】
ステップS104において、回帰モデル生成装置100は、ステップS103において算出した説明変数値を、ステップS101において取得した訓練データの各種別の物性値と関連付け、種別毎の回帰モデルを構築する。
【0054】
具体的には、回帰モデル生成装置100は、ステップS104において算出した説明変数値としての単量体情報の各サンプルのベクトルを、当該サンプルに対する換算透過率と関連付け、単量体情報のベクトルから換算透過率を予測する種別毎の回帰モデル#1を構築する。
【0055】
また、回帰モデル生成装置100は、ステップS104において算出した説明変数値としての単量体情報の各サンプルのベクトルを、当該サンプルに対する破断応力と関連付け、単量体情報のベクトルから破断応力を予測する種別毎の回帰モデル#2を構築する。
【0056】
さらに、回帰モデル生成装置100は、ステップS104において算出した説明変数値としての単量体情報の各サンプルのベクトルを、当該サンプルに対する伸びと関連付け、単量体情報のベクトルから伸びを予測する種別毎の回帰モデル#3を構築する。
【0057】
一実施例では、種別毎の回帰モデル#1,#2,#3は、上述したように、ガウス過程回帰によって構築されてもよい。
【0058】
また、一実施例では、種別毎の回帰モデル#1,#2,#3は、単量体情報に加えて触媒の種別を説明変数として利用してもよい。具体的には、触媒の種別を2進数などの何れか適切な手法によって数値化し、種別毎の回帰モデル#1,#2,#3の説明変数に加えてもよい。
【0059】
種別毎の回帰モデル#1,#2,#3を構築すると、回帰モデル生成装置100は、構築した種別毎の回帰モデル#1,#2,#3を物性予測装置200に提供する。
【0060】
なお、上述した実施例では、種別毎の回帰モデルは、ガウス過程回帰に従って構築されたが、本発明による種別毎の回帰モデルは、これに限定されず、重回帰分析などの他の何れか適切な回帰分析手法に従って構築されてもよい。
【0061】
[物性予測装置]
次に、
図6~8を参照して、本発明の一実施例による物性予測装置200を説明する。物性予測装置200は、回帰モデル生成装置100によって生成された種別毎の回帰モデルを利用し、テストデータとして単量体情報から重合体の複数の物性種別の予測値を算出し、算出した複数種別の物性予測値に基づき重合体の総合的な物性を評価する。
図6は、本発明の一実施例による物性予測装置200の機能構成を示すブロック図である。
【0062】
図6に示されるように、物性予測装置200は、単量体情報生成部210、物性予測部220及び単量体決定部230を有する。
【0063】
単量体情報生成部210は、単量体情報を生成する。具体的には、単量体情報生成部210は、単量体情報のテストデータとして、単量体の組み合わせと各単量体の含有比率とを網羅的に生成し、生成した単量体情報を物性予測部220にわたす。
【0064】
例えば、重合体がポリウレタンである場合、単量体情報生成部210は、複数の候補となる単量体から所定数の単量体を選択し、更に選択した単量体の組み合わせにおける各単量体のモル比を設定する。ここで、選択されなかった単量体のモル比を0に設定することによって、単量体情報が表現されてもよいし、選択された単量体のモル比のみによって、単量体情報が表現されてもよい。
【0065】
また、モル比は、拘束条件に従って網羅的に選択されてもよい。例えば、モル比は、各ジオールとジイソシアネートとのモル比の和が1.0になるように、0.01刻みなどで網羅的に設定してもよい。ただし、(ジオールのトータルのOH基のモル数)/(ジイソシアネートのトータルのNCO基のモル数)=1.1~1.2になるように、モル比は選択されてもよい。しかしながら、本発明は、このような拘束条件に限定されず、実施形態に応じて適切な拘束条件が設定されてもよい。
【0066】
そして、単量体情報生成部210は、選択した単量体のECFPを算出し、ECFPによって算出されたベクトルと含有比率とを掛け合わせ、算出された積ベクトルをテストデータとして物性予測部220にわたす。
【0067】
物性予測部220は、複数の単量体及びその含有比率を示す単量体情報を物性種別毎のモデルに入力し、複数の物性種別の予測値を取得する。具体的には、物性予測部220は、単量体情報生成部210によってテストデータとして生成された単量体情報を表すベクトルを説明変数値として種別毎の回帰モデルに入力し、種別毎の回帰モデルのそれぞれから対応する物性予測値を目的変数値として取得する。例えば、換算透過率、破断応力及び伸びの3種類の目的変数に対応する3つの種別毎の回帰モデルが利用可能である場合、物性予測部220は、各ベクトルに対して換算透過率の予測値、破断応力の予測値及び伸びの予測値を取得する。
【0068】
一実施例では、物性予測部220は、ベイズ最適化のための獲得関数を利用する。具体的には、物性予測部220は、各物性種別の予測値を獲得関数に入力し、獲得関数の出力値に基づき物性の良否を判断してもよい。本実施例では、獲得関数aは、UCB(Upper Confidence Bound)タイプであってもよく、
a(m,s)=m+2×s
が利用されてもよい。ここで、mは予測値であり、sは予測の不確かさを示すテストデータの各サンプルの標準偏差である。予測値mおよび不確かさsを求めるためにガウス過程回帰を用いても良い。ガウス過程回帰の実行には、scikit-learnのGaussianprocessregressorを使用してもよい。カーネルは特に限定されないが、ConstantKernelとMaternの積にWhiteKernelを和として加えたものを使用してもよい。ガウス過程回帰を利用した場合、各サンプルに対して予測分布が出力される。その予測分布の平均及び標準偏差をそれぞれ予測値m及び不確かさsとして参照されうる。予測の不確かさsは、各物性の獲得関数aを算出する際に使用される。
【0069】
なお、獲得関数aは、上記に限定されず、EI(Expected Improvement)タイプ又はPI(Probability of Improvement)タイプであってもよい。
【0070】
例えば、
図7(a)に示されるように、テストデータ1がジオール1,2,3を単量体とし、その含有比率が0.41:0.01:0.11である場合、物性予測部220は、
図7(b)に示されるように、回帰モデルを利用して、換算透過率の予測値0.41、破断応力の予測値33及び伸びの予測値500を取得する。さらに、物性予測部220は、各予測値を獲得関数aに入力し、換算透過率の出力値0.49、破断応力の出力値33.6及び伸びの出力値504を取得する。
【0071】
同様に、テストデータ2がジオール1,2,3を単量体とし、その含有比率が0.42:0.01:0.10である場合、物性予測部220は、
図7(b)に示されるように、回帰モデルを利用して、換算透過率の予測値0.42、破断応力の予測値21及び伸びの予測値501を取得する。さらに、物性予測部220は、各予測値を獲得関数aに入力し、換算透過率の出力値0.48、破断応力の出力値21.4及び伸びの出力値507を取得する。
【0072】
このような獲得関数を利用することによって、全体最適解に到達しやすくなるメリットがある。予測値に基づく最適解の探索では、過去データ(教師データ)の中で成績の良いデータの周辺を候補として推薦しやすいことが知られており、局所最適解に陥る可能性がある。もし、本当に最も成績の良いものが、既知の教師データとは異なるものである場合、予測値に基づく最適解の探索では、局所最適解にトラップされてしまい、全体最適解に到達することが難しくなる。一方、獲得関数を用いることによって、局所最適解にトラップされることを防ぐことができる。獲得関数では、予測値mだけでなく、予測の不確かさsも考慮される。予測の不確かさsは、そのデータが、教師データとは異なる特徴量を持つほど、大きくなる性質がある。そのため、予測値mと予測の不確かさsが大きいものを候補として推薦することによって、「良さそうで、かつ、未探索のもの」を推薦でき、様々なバリエーションの中から最適なものを効率的に見つけ出すことができ、全体最適解に到達しやすくなる。
【0073】
物性予測部220は、各テストデータに対して算出した各物性種別の予測値及び/又は獲得関数値を単量体決定部230にわたす。
【0074】
単量体決定部230は、複数の物性種別の予測値から含有比率に対する偏差値を算出し、当該偏差値に基づき合成対象の重合体の合成に使用される単量体の含有比率を決定する。具体的には、単量体決定部230はまず、重合体の総合的な物性を評価するため、物性予測部220から取得した各物性種別の予測値及び/又は獲得関数値を偏差値によって指標化する。例えば、獲得関数値の標準偏差によって物性予測値を指標化する場合、単量体決定部230は、
【0075】
【数1】
によって偏差値I
iを算出する。ここで、Nは物性種別数であり、iはテストデータのインデックスであり、jは物性種別のインデックスであり(1≦j≦N)、X
jは訓練データにおける物性jの平均であり、σ
jは訓練データにおける物性jの標準偏差であり、x
ijは物性jのテストデータiに対する獲得関数値である。
【0076】
例えば、上述したテストデータ1,2に対して、単量体決定部230は、
図8に示されるように、それぞれ偏差値0.64及び0.71の指標を算出することができる。
【0077】
なお、偏差値は、獲得関数値に基づき算出されることに限定されず、予測値から算出されてもよい。
【0078】
このようにして重合体の総合的な物性を評価するための偏差値を取得すると、単量体決定部230は、取得した偏差値に基づき重合体を製造するための単量体及びその含有比率を決定する。例えば、偏差値の算出に用いられる各種別の物性値が大きいほど、物性が良好であると評価できる場合、単量体決定部230は、偏差値が最大となる単量体及びその含有比率に基づき製造される重合体が最良の物性を有すると判断してもよい。他方、偏差値の算出に用いられる各種別の物性値が小さいほど、物性が良好であると評価できる場合、単量体決定部230は、偏差値が最小となる単量体及びその含有比率に基づき合成される重合体が最良の物性を有すると判断してもよい。
【0079】
単量体決定部230は、偏差値が最大又は最小となる単量体及びその含有比率、又は対応するテストデータのインデックスを出力する(例えば、
図9参照)。
【0080】
ここで、
図9(a)は、偏差値が最大となるジオール及びその含有比率並びに触媒を示す。ここで、ジオール4は、2-メチル-2,4-ペンタンジオールであり、触媒1は、シリカ担持モリブデン触媒である。また、
図9(b)は、
図9(a)のジオール及びその含有比率並びに触媒に基づいて合成されるポリウレタン前駆体を硬化させたポリウレタン硬化物の換算透過率、破断応力、伸びの予測値、予測不確かさ、獲得関数を示す。さらに、
図9(c)は、
図9(b)の獲得関数値に基づき算出される偏差値を示す。
【0081】
図10に、
図9(a)のジオール及びその含有比率並びに触媒に基づいて合成されるポリウレタン前駆体を硬化させたポリウレタン硬化物の換算透過率、破断応力、伸びの実測値を示す。
【0082】
ここで、ポリウレタン前駆体は、ジイソシアネートとして、ジシクロヘキシルメタン4,4'-ジイソシアナートを用いて、以下のようにして合成した。
【0083】
オイルバス中に備えた、ジムロート冷却器、温度計および撹拌翼を装着した100mL三ツ口フラスコに、
図9(a)の含有比率の単量体(ジオール1、ジオール2、ジオール4)、および、最終的に反応液全体が20質量%の濃度となるように量り取った酢酸ブチルを仕込み、撹拌して溶解させた。このとき、上記単量体が溶解し、均一な溶液となったことを確認した。次に、[OH]/[NCO]=1.2のモル比になるように、ジシクロヘキシルメタン4,4'-ジイソシアナートを量り取って加えた後、液温が90℃になるまで、撹拌を継続しながら、加熱した。
【0084】
液温が90℃で安定したところで、基質(ジオールおよびジイソシアネート)に対して、5質量%の触媒1を加え、反応を開始させた。1時間ごとに、パスツールピペットを通じて系内の反応液0.1mLを採取し、孔径0.25μmのシリンジフィルタを通じて濾過したのちに、GPC(ゲルパミネーションクロマトグラム)モードにセッティングされた液体クロマトグラフによって分析した。ここで、ジオール由来のピークが消失し、かつポリウレタンのピークトップ位置の溶出時間が一定となるまで、加熱した。上記の操作によって反応の終点を確認した後、反応液を室温まで冷却した。次に、孔径50μmのメンブランフィルタを通じて触媒を除いた後、300mLのn-ヘキサン中に投入することで、ポリウレタンを析出させた。次に、析出物を50mLのn-ヘキサンで洗浄した後に、真空乾燥装置中で溶媒を除去することで、ポリウレタン前駆体を得た。
【0085】
なお、触媒1(シリカ担持モリブデン触媒)は、モリブデン酸アンモニウム(日本無機化学工業製)と、シリカゲル(富士シリシア製)とから調製した。
【0086】
また、ポリウレタン硬化物の換算透過率、破断応力、伸びは、以下のようにして測定した。
【0087】
(ポリウレタン硬化物の換算屈折率)
ポリウレタン前駆体2~2.5gを50mLのガラス製ネジ口瓶に仕込んだ後、約6gの酢酸エチルを加え、ローター式攪拌装置にかけることで溶解させた。次に、JISK1557-6:2009に従って、予め定量したポリウレタン前駆体の水酸基価から算出された[OH]量[mol]に対し、[NCO]量[mol]が同量となるように、イソシアヌレート型のヘキサメチレンジイソシアネート三量体を50質量%の酢酸エチル溶液として加え、約1時間混合した。ここで得られた溶液をTPXTM樹脂製シャーレ中に展開し、15時間風乾した後に、90℃に保った恒温槽中で10時間加熱することで、ポリウレタン硬化物板を得た。得られたポリウレタン硬化物板を、スーパーストレートカッター(ダンベル製)によって、10mm×20mmの形に加工することで、試験片を得た。
【0088】
アッベ屈折計(アタゴ製、DR-A1-Plus)によって、1-ブロモナフタレンを中間液として、ポリウレタン硬化物の屈折率を測定した。
【0089】
ポリウレタン硬化物の屈折率を測定した後、式
4×(屈折率)/[(屈折率)+1]2(ただし、屈折率≧1)
により、ポリウレタン硬化物の換算透過率を算出した。
【0090】
(ポリウレタン硬化物の破断応力および伸び)
前記と同様にポリウレタン硬化物板を得た後に、スーパーストレートカッター(ダンベル製)によって、JIS K 6251:2010のダンベル状7号形試験片を作製し、卓上型引張圧縮試験機(エー・アンド・デイ製、MCT-2150)によって、ポリウレタン硬化物の破断応力および伸びを測定した。
【0091】
図11に、比較例(1)~(10)のジオール及びその含有比率並びに触媒を示す。ここで、ジオール5は、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールであり、触媒2は、ジラウリン酸ジブチルスズであり、OH[mmol]は、各単量体におけるOH基のモル数を意味する。また、
図12に、
図11のジオール及びその含有比率に基づいて合成されるポリウレタン硬化物の換算透過率、破断応力、伸びの実測値を示す。
【0092】
ここで、比較例(1)~(9)のポリウレタン前駆体は、ジイソシアネートとして、ジシクロヘキシルメタン4,4'-ジイソシアナートを用い、触媒として、触媒2を用いた以外は、前述と同様にして合成した。
【0093】
また、比較例(10)のポリウレタン前駆体は、ジイソシアネートとして、ジシクロヘキシルメタン4,4'-ジイソシアナートを用いた以外は、前述と同様にして合成した。
【0094】
さらに、[式1]において、xij(獲得関数値)の代わりに、実測値を用いて、実測値の指標を算出した。
【0095】
[物性予測処理]
次に、
図13を参照して、本発明の一実施例による物性予測処理を説明する。当該物性予測処理は、例えば、上述した物性予測装置200によって実行され、より詳細には、物性予測装置200のプロセッサによって実現されてもよい。
図13は、本発明の一実施例による物性予測処理を示すフローチャートである。
【0096】
図13に示されるように、ステップS201において、物性予測装置200は、種別毎の回帰モデルに入力するための説明変数値を取得する。具体的には、物性予測装置200は、回帰モデル生成装置100から提供された種別毎の回帰モデルに入力するためのテストデータとしての単量体情報を生成する。例えば、物性予測装置200は、複数の単量体から所定数の単量体を選択し、さらに選択した単量体に対して様々なモル比を網羅的に設定する。このようにして生成した各テストデータに対して、物性予測装置200は、各単量体のECFPを算出し、算出したECFPのベクトルとモル比とを掛け合わせ、積ベクトルを算出する。
【0097】
ステップS202において、物性予測装置200は、種別毎の回帰モデルを利用して、単量体情報から目的変数としての各物性の予測値を算出する。具体的には、物性予測装置200は、ステップS201において取得した積ベクトルを種別毎の回帰モデルに入力し、対応する物性予測値を算出する。このとき、物性予測装置200は、算出した物性予測値を所定の獲得関数に入力し、各物性種別の予測値に対する獲得関数値を算出してもよい。例えば、当該獲得関数がUCBタイプである場合、不確かさsは、テストデータの各サンプルの標準偏差として設定されてもよい。
【0098】
ステップS203において、物性予測装置200は、各物性種別の予測値及び/又は獲得関数値から、重合体を総合的に評価するための指標として偏差値を算出する。具体的には、獲得関数値の標準偏差によって物性予測値を指標化する場合、物性予測装置200は、
【0099】
【数2】
によって偏差値I
iを算出する。ここで、Nは物性種別数であり、iはテストデータのインデックスであり、jは物性種別のインデックスであり(1≦j≦N)、X
jは訓練データにおける物性jの平均であり、σ
jは訓練データにおける物性jの標準偏差であり、x
ijは物性jのテストデータiに対する獲得関数値である。
【0100】
ステップS204において、物性予測装置200は、偏差値に基づき重合体の合成に使用される単量体及びその含有比率を決定する。具体的には、物性予測装置200は、偏差値を最大又は最小にする単量体及びその含有比率、又はテストデータのインデックスを出力してもよい。
【0101】
なお、上述した実施例では、ポリウレタン前駆体の単量体としてジオールに着目し、ジオールのみを変化させる場合に適用したが、本発明は、これに限定されず、例えば、ポリウレタン前駆体の単量体としてジイソシアネートに着目し、ジイソシアネートのみを変化させる場合、ジオール、ジイソシアネートの両方を変化させる場合にも適用することができる。
【0102】
また、上述した実施例では、重合体の物性種別として、熱硬化性ポリウレタンの硬化物の物性種別を用いる場合に適用したが、本発明は、これに限定されず、例えば、熱硬化性樹脂だけでなく、熱可塑性樹脂等の非熱硬化性樹脂の物性種別を用いる場合にも適用することができる。
【0103】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は上述した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0104】
50 物質データベース
100 回帰モデル生成装置
110 訓練データ取得部
120 回帰モデル生成部
200 物性予測装置
210 単量体情報生成部
220 物性予測部
230 単量体決定部