IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-光学素子 図1
  • 特許-光学素子 図2
  • 特許-光学素子 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】光学素子
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/00 20060101AFI20241029BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20241029BHJP
   G02B 7/02 20210101ALI20241029BHJP
【FI】
G02B5/00 B
G02B5/22
G02B7/02 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020145758
(22)【出願日】2020-08-31
(65)【公開番号】P2022040845
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 剛介
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/022295(WO,A1)
【文献】特開2003-202411(JP,A)
【文献】特開2014-142516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00 - 5/136
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を透過させる透明部材と、
前記光を吸収する光吸収膜と、を有し、
前記透明部材は、透明基材と、レンズと、を有し、
前記透明基材は、平面と、前記平面に隣接する隣接面と、を含み、
前記レンズは、前記透明基材の前記平面に積層されており、前記平面から垂直に突出する段差面と、前記段差面で囲まれるレンズ面と、を含み、
前記レンズ面は、前記光の伝播方向を屈曲させる曲面であり、
前記光吸収膜は、前記隣接面に形成され、前記隣接面から、前記隣接面と前記平面の境界を経て、前記平面に回り込んでおり、
前記段差面の高さは、前記平面上の前記光吸収膜の膜厚よりも大きく、
平面視にて、前記レンズの周縁は前記平面の周縁の内側にあり、
前記平面のうちの前記境界から前記段差面までの部分と、前記段差面とは、前記光吸収膜が形成されない領域を有する、光学素子。
【請求項2】
前記段差面の高さは、前記平面上の前記光吸収膜の膜厚の1.5倍以上である、請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記境界から前記段差面までの最短距離が0.15mm以下である、請求項1又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記隣接面は面取り面であり、前記隣接面と前記平面とのなす角が鈍角である、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記面取り面である前記隣接面を介して、前記平面と接続される接続面を有し、
前記光吸収膜は、前記隣接面から前記接続面に回り込んで形成されている、請求項4に記載の光学素子。
【請求項6】
前記接続面は、前記透明部材の外側から内側に又は内側から外側に前記光を透過する光学面であり、
前記接続面の前記光吸収膜が形成された前記隣接面と接する周縁には、前記光吸収膜が形成され、
前記接続面の全面には前記光吸収膜が形成されていない、請求項5に記載の光学素子。
【請求項7】
前記光は、可視光である、請求項1~6のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項8】
前記透明基材はガラス基材を含み、
前記レンズは樹脂レンズである、請求項7に記載の光学素子。
【請求項9】
前記平面は、前記境界から前記段差面までの距離が異なる領域を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、遮光膜が設けられた光学レンズが記載されている。光学レンズは、光学面と端面とを有しており、光学面と端面の間に面取り面を有する。遮光膜は、光学レンズの端面及び面取り面に設けられており、更に光学面の周縁の一部に数百μmの幅で設けられている。遮光膜は、表面反射及び内面反射を防止し、フレアやゴーストの発生原因となる迷光の発生を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-100070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の光学面は、光の伝播方向を屈曲させるレンズ面である。そのレンズ面の周縁には、数百μmの幅で遮光膜が設けられている。
【0005】
本開示の一態様は、光吸収膜によって迷光の発生を抑制すると共に、光吸収膜がレンズ面に被さるのを防止する、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る光学素子は、光を透過させる透明部材と、前記光を吸収する光吸収膜と、を有する。前記透明部材は、透明基材と、レンズと、を有する。前記透明基材は、平面と、前記平面に隣接する隣接面と、を含む。前記レンズは、前記透明基材の前記平面に積層されており、前記平面から垂直に突出する段差面と、前記段差面で囲まれるレンズ面と、を含む。前記レンズ面は、前記光の伝播方向を屈曲させる曲面である。前記光吸収膜は、前記隣接面に形成され、前記隣接面から、前記隣接面と前記平面の境界を経て、前記平面に回り込んでいる。前記段差面の高さは、前記平面上の前記光吸収膜の膜厚よりも大きい。平面視にて、前記レンズの周縁は前記平面の周縁の内側にある。前記平面のうちの前記境界から前記段差面までの部分と、前記段差面とは、前記光吸収膜が形成されない領域を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、光吸収膜によって迷光の発生を抑制でき、光吸収膜がレンズ面に被さるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態に係る光学素子の断面図である。
図2図2は、図1の光学素子の平面図である。
図3図3は、変形例に係る光学素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。また、明細書中、「平面視」とは、透明部材2の光学面31に対して垂直な方向視を意味する。
【0010】
図1図2を参照して、本実施形態に係る光学素子1について説明する。光学素子1は、透明部材2と、光吸収膜5とを有する。透明部材2は、可視光等の光を透過させる。一方、光吸収膜5は、透明部材2を透過する光(可視光等の光)を吸収し、光の反射および/または透過を抑制する。光の反射は、表面反射及び内面反射を含む。光の透過は、光学有効域外(例えば光学面においてレンズが形成されていない領域)での予期せぬ光の透過を含む。光吸収膜5は、意図しない光の反射および/または透過を抑制し、迷光の発生を抑制する。その結果、フレア及びゴーストの発生を抑制できる。
【0011】
透明部材2は、例えば、透明基材3と、レンズ4とを有する。透明基材3は、光学面31と、光学面31に隣接する隣接面32とを有する。光学面31は、平面であり、透明基材3の外側から内側に又は内側から外側に光を透過する。光学面31には、レンズ4が形成される。
【0012】
光学面31は、図2に示すように、例えば4角形である。4角形は、長方形と正方形とを含む。光学面31の4辺のそれぞれに、隣接面32が隣接する。なお、光学面31は、4角形には限定されず、5角形等の多角形、円形、又は楕円形であってもよい。4角形又は5角形等の多角形は、角を丸めた形状を含む。上記の通り、光学面31が4角形には限定されないので、隣接面32の数も4つには限定されない。
【0013】
光学面31には、レンズ4が形成される。図2に示すように、平面視にて、光学面31の大きさはレンズ4の大きさよりも大きく、光学面31はレンズ4の外側にはみ出す。レンズ4の周縁は、光学面31の周縁31aの内側にある。
【0014】
一方、隣接面32には、光吸収膜5が形成される。光吸収膜5は、1つ以上の隣接面32に形成されればよい。また、光吸収膜5は、透明部材2の構成(用途)によって、隣接面32の全面に形成されてもよく、隣接面32の一部に開口部を有するように形成されてもよい。ただし、隣接面32に光吸収膜5を形成する場合、隣接面32の周縁全体が光吸収膜5で覆われていることが好ましい。光吸収膜5は、1つ以上の隣接面32から、隣接面32と光学面31の境界33を経て、光学面31まで回り込む。境界33は、光学面31の周縁31aである。
【0015】
隣接面32は、図1では光学面31に対して垂直であるが、後述するように光学面31に対して斜めであってもよい。また、隣接面32は、図1では平面であるが、曲面であってもよい。例えば、光学面31の周縁31aが円形である場合には、隣接面32が円筒面であってもよい。
【0016】
透明基材3は、光学系で使用される光の波長帯の一部(例えば可視光(波長400nm~700nm))を透過すればよく、他の一部を反射するか吸収してもよい。つまり、透明基材3は、一部の波長帯の光を反射するか吸収する光学フィルタ機能を有してもよい。また、透明基材3は、プリズムの機能を有してもよい。
【0017】
透明基材3は、例えばガラス基材又は樹脂基材で構成される。ガラス基材又は樹脂基材は、赤外線、可視光、及び紫外線のいずれか1つ、又は2つ以上に対して反射機能又は吸収機能を有し、特定の波長帯の光を透過する構成としてもよい。透明基材3は、単一の基材の単層構造でもよいし、主基材(ガラス基材又は樹脂基材)に反射や吸収機能を付与する膜を積層し特定の波長帯の光を透過させる複数層構造でもよい。また、透明基材3は、反射機能や吸収機能の他に、防汚などの機能を付与する膜を積層してもよい。
【0018】
例えば、透明基材3は、ガラス基材の他に、更に樹脂膜又は無機膜を含んでもよい。樹脂膜は、例えば、色調補正フィルタ、シランカップリング剤等の下地膜、又は防汚膜等の機能を有する膜である。樹脂膜は、例えば、スクリーン印刷、蒸着、スプレーコート又はスピンコート法等で形成される。無機膜は、例えば、光干渉膜(反射防止や波長選択フィルタ)としての機能を有する金属酸化物膜などである。無機膜は、例えば、スパッタリング法、蒸着、又はCVD法等で形成される。なお、透明基材3は、樹脂基材であってもよい。
【0019】
レンズ4は、透明基材3の光学面31に形成される。レンズ4は、透明基材3の光学面31から垂直に突出する段差面41と、段差面41で囲まれるレンズ面42とを含む。レンズ面42は、光の伝播方向を屈曲させる曲面である。レンズ面42は、光を集束又は発散させる。
【0020】
レンズ4の段差面41は、透明基材3の光学面31から垂直に突出する。段差面41と光学面31が垂直であるとは、段差面41と光学面31とのなす角θ(図1参照)が75°以上105°以下であることを意味し、好ましくは80°以上100°以下、より好ましくは85°以上95°以下であることを意味する。
【0021】
レンズ4のレンズ面42は、環状の段差面41で囲まれる。図2に示すように、平面視にて、段差面41が円環状であり、レンズ面42が円形である。なお、平面視にて、段差面41が多角環状であり、レンズ面42が多角形であってもよい。多角形は、角を丸めた形状を含む。
【0022】
図1に示すように、レンズ4は、例えば凸レンズであり、より詳細には平凸レンズである。レンズ4は、レンズ面42とは反対向きの平面43を有し、平面43を透明基材3の光学面31に向けて積層される。
【0023】
なお、レンズ4は、図1では平凸レンズであるが、平凹レンズでもよい。後者の場合も、レンズ4は、レンズ面42とは反対向きの平面43を有し、平面43を透明基材3の光学面31に向けて積層される。
【0024】
レンズ4は、非球面レンズであってもよいし、球面レンズであってもよい。
【0025】
レンズ4は、例えば不図示の成形型で樹脂組成物を成形して得られる。成形型は、レンズ4の凹凸パターンを反転した凹凸パターンを有する。成形型は、金型でもよいし、金型のレプリカでもよい。レプリカは、金型の凹凸パターンを偶数回転写することにより得られる。
【0026】
レンズ4の樹脂組成物は、例えば光硬化性樹脂である。光硬化性樹脂は、紫外線等の光の照射によって硬化する。光硬化性樹脂として、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、又はアクリル樹脂等が用いられる。
【0027】
なお、樹脂組成物は、光硬化性樹脂には限定されず、熱硬化性樹脂などであってもよい。熱硬化性樹脂は、加熱によって硬化する。熱硬化性樹脂として、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、又はフェノール樹脂等が用いられる。
【0028】
光硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂とは異なり、室温でも硬化できるので、透明基材3との熱膨張差による寸法精度の低下を抑制できる。そのため光硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂に比べて、大面積の塗布が容易である。また、光硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂とは異なり、温度変化を伴わないため、リードタイムが短くなり、生産性が向上する。
【0029】
一方、熱硬化性樹脂は、光硬化性樹脂に比べて、硬化後の耐熱性に優れており、硬化後の耐リフロー性に優れている。
【0030】
樹脂組成物は、成形型の表面に塗布されてもよいし、透明基材3の表面に塗布されてもよい。樹脂組成物は、例えばディスペンサによって塗布される。ディスペンサは、樹脂組成物の塗布量を細かく調整できる。樹脂組成物の塗布量は、樹脂組成物の硬化時の収縮率と、硬化した樹脂組成物からなるレンズ4の体積とに応じて設定される。なお、樹脂組成物の塗布方法は、特に限定されない。
【0031】
樹脂組成物は、透明基材3の上で固化される。本明細書において、固化は、硬化を含む。樹脂組成物が光硬化性樹脂である場合、光硬化性樹脂の硬化は紫外線等の光の照射によって行われる。光は、透明基材3を介して樹脂組成物に照射されてもよいし、成形型を介して樹脂組成物に照射されてもよく、透明基材3と成形型の両方を介して樹脂組成物に照射されてもよい。
【0032】
一方、樹脂組成物が熱硬化性樹脂である場合、熱硬化性樹脂の硬化は加熱によって行われる。ヒータは、透明基材3を介して樹脂組成物を加熱してもよいし、成形型を介して樹脂組成物を加熱してもよく、透明基材3と成形型の両方を介して樹脂組成物を加熱してもよい。
【0033】
レンズ4は、透明基材3の上で成形されてもよいし、透明基材3とは別の基材で成形された後、不図示の接合層を介して透明基材3と接合されてもよい。後者の場合、光学素子1は、透明基材3とレンズ4の他に、更に、不図示の接合層を含む。
【0034】
接合層は、透明基材3とレンズ4とを接合する。接合層としては、例えばOCA(Optical Clear Adhesive)両面テープが用いられる。両面テープの代わりに、液状接着剤等が用いられてもよい。
【0035】
なお、透明基材3とレンズ4とは、本実施形態では異なる材料で形成されるが、同一の材料で形成されてもよい。後者の場合、透明基材3とレンズ4とは、射出成形などによって同時に一体に成形されてもよい。射出成形の材料は、樹脂であり、より詳細には熱可塑性樹脂である。また、透明基材3とレンズ4の材料はガラスでもよい。例えば、透明基材3上にレンズ4の前駆体となるプリフォーム材を準備し、熱プレス方式でレンズ4を成形してもよい。
【0036】
光吸収膜5は、透明部材2を透過する光を吸収し、その光の反射および/または透過を抑制する。透明部材2が可視光用途の場合は、光吸収膜5は少なくとも可視光を吸収する。光吸収膜5は、好ましくは、紫外域から近赤外域に亘る全波長の光を吸収する。光吸収膜5は、波長350~1000nmの光の透過率が例えば10%以下であり、好ましくは2%以下である。
【0037】
光吸収膜5は、意図しない光の反射および/または透過を抑制し、迷光の発生を抑制する。その結果、フレア及びゴーストの発生を抑制できる。光吸収膜5は、例えば、樹脂と、樹脂に分散する光吸収剤とを含有する。樹脂は、光硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、又は熱硬化性樹脂である。光吸収剤は、カーボンブラック若しくはチタンブラック等の無機着色剤、又は有機着色剤である。
【0038】
光吸収膜5は、例えば、樹脂と光吸収剤とを含む樹脂組成物を塗布し、乾燥することにより形成される。樹脂組成物は、上に向けて水平に配置された隣接面32に塗布され、乾燥される。樹脂組成物は、溶剤を更に有してもよい。溶剤は、例えば有機溶剤である。溶剤は、乾燥によって除去される。樹脂組成物は、色調補正色素、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、又は可塑剤等を含んでもよい。
【0039】
樹脂組成物の塗布方法は、例えばスクリーン印刷法である。スクリーン印刷法は、平面に樹脂組成物を塗布するのに適している。なお、樹脂組成物の塗布方法は、スクリーン印刷法には限定されない。例えば、ディスペンサを用いる塗布方法、又はインクジェット法などが用いられてもよい。
【0040】
透明基材3の光学面31上の光吸収膜5の厚さTは、例えば0.1μm~80μmあり、好ましくは0.2μm~50μmであり、より好ましくは0.5μm~10μmである。光吸収膜5の厚さTが0.1μm以上であれば、光の透過、表面反射及び内面反射を抑制できる。一方、光吸収膜5の厚さが80μm以下であれば、光吸収膜5の形成時に、樹脂組成物の流れがレンズ4の段差面41で止まりやすい。
【0041】
光吸収膜5は、透明基材3の隣接面32に形成され、隣接面32から、隣接面32と光学面31の境界33を経て、光学面31に回り込んでいる。隣接面32と光学面31の境界33には、微視的な欠けやクラックが存在しやすい。微視的な欠けやクラックとは、製品として許容されるレベルのものであって、加工痕などとして必然的に含みうるものである。例えば、隣接面32がブレードなど研削加工を利用した加工面又はレーザを利用した加工により得られる加工面の場合、境界33には加工痕として微小(微視的)な欠けやクラックが存在する。微視的な欠け又はクラックにて光の内面反射又は光の透過が生じると、迷光が生じてしまう。
【0042】
本実施形態によれば、光吸収膜5が境界33を覆うので、境界33において光の内面反射又は光の透過がほとんど生じない。従って、微視的な欠け又はクラックが境界33に発生していたとしても、迷光の発生を抑制できる。その結果、フレア及びゴーストの発生を抑制できる。また、微視的な欠け又はクラックが像として見えるのを抑制できる。
【0043】
レンズ4の段差面41の高さHは、光学面31上の光吸収膜5の膜厚Tよりも大きい。HがTよりも大きければ、光吸収膜5の形成時に、樹脂組成物の流れが境界33を乗り越えて光学面31に回り込んだとしても、光学面31に対して垂直な段差面41が流れをせき止め、流れがレンズ面42に被さらない。従って、光吸収膜5がレンズ面42に被さるのを抑制できる。レンズ4の段差面41の高さHは、好ましくは光学面31上の光吸収膜5の膜厚Tの1.5倍以上であり、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは2.5倍以上である。
【0044】
レンズ4の段差面41の高さHは、レンズ4の凸型と凹型の別、及び光吸収膜5の膜厚T等に応じて決められる。
【0045】
レンズ4が凸型である場合、Hは例えば5μm~100μmであり、好ましくは10μm~50μmである。Hが100μm以下であれば、凸型のレンズ4の厚さが薄く、光学素子1の薄型化が可能である。
【0046】
一方、図示しないが、レンズ4が凹型である場合、Hはレンズ面42の最大高低差よりも大きい。Hがレンズ面42の最大高低差よりも大きければ、レンズ4と透明基材3とを別々に成形できる。
【0047】
レンズ4の段差面41の高さH、及び光学面31上の光吸収膜5の膜厚Tは、例えば、断面SEM(Scanning Electron Microscope)観察等によって測定される。
【0048】
透明基材3の隣接面32と光学面31の境界33から、レンズ4の段差面41までの最短距離Lは、例えば0.15mm以下であり、好ましくは0.10mm以下であり、より好ましくは0.05mmである。Lが0.15mm以下であれば、光学面31のサイズが小さく、光学素子1の小型化が可能である。また、Lは、好ましくは0.005mm以上である。Lは、例えばCNC画像検査システム(ニコン社製「CNC画像測定システムNEXIV」)等によって測定される。
【0049】
Lが0.15mm以下である場合、透明基材3の光学面31のサイズが小さい。この場合、光吸収膜5の形成時に、樹脂組成物の流れがレンズ4の段差面41まで達しやすい。
【0050】
本実施形態によれば、樹脂組成物の流れが段差面41まで達したとしても、段差面41の高さHが光学面31上の光吸収膜5の膜厚Tよりも大きいので、段差面41が樹脂組成物の流れをせき止め、流れがレンズ面42に被さらない。従って、光吸収膜5がレンズ面42に被さるのを抑制できる。
【0051】
なお、本実施形態では、光吸収膜5の形成時に樹脂組成物の流れがレンズ4の段差面41まで達し、図2に示すように光吸収膜5がレンズ4の段差面41に接しているが、本開示の技術はこれに限定されない。光吸収膜5の形成時に樹脂組成物の流れがレンズ4の段差面41まで達する可能性があればよく、光吸収膜5とレンズ4の段差面41との間に隙間があってもよい。
【0052】
次に、図3を参照して、変形例に係る光学素子1について説明する。以下、主に本変形例と上記実施形態との相違点について説明する。本変形例の透明基材3の隣接面32は、光学面31に対して斜めである。隣接面32は面取り面であり、隣接面32と光学面31とのなす角αが鈍角である。
【0053】
隣接面32と光学面31とのなす角αが鈍角であれば、他の部材との接触による損傷を抑制できるうえ、製品を扱う作業上の安全性が向上できる。
【0054】
面取り面である隣接面32の形成方法は特に限定されず、面取り面は例えば研削加工、又は研磨加工で形成できる。研削加工、又は研磨加工によって面取り面に微視的な欠けやクラックが存在しうるが、上記実施の形態と同様に光吸収膜5を設けることで微視的な欠けやクラックに起因する迷光の発生は抑制できる。
【0055】
面取り面である隣接面32の表面粗さが、光学面31の表面粗さよりも粗くてもよい。表面粗さとは、日本工業規格JIS B 0601:2013に記載の算術平均粗さRaである。面取り面である隣接面32の表面粗さは、粗い方が、迷光を抑制できる。
【0056】
透明基材3は、面取り面である隣接面32を介して、光学面31と接続される接続面34を有する。接続面34は、図3では光学面31に対して垂直であるが、斜めであってもよい。光吸収膜5の形成時に、樹脂組成物の流れが、隣接面32から接続面34に回り込んでもよい。光吸収膜5は、図3のように接続面34の周縁に形成され接続面34の全面には形成されていなくてもよいし、接続面34の全面に形成されてもよい。また、光吸収膜5は、接続面34の一部に開口部を有するように形成されてもよい。
【0057】
上記実施形態では、可視光を透過させる透明部材に対し、可視光を吸収する光吸収膜を設ける例を説明したが、本開示は上記実施形態に限定されない。光学系で使用されうる特定の光の波長帯を透過させる透明部材に対し、前記特定の波長帯の光を吸収する光吸収膜を設けてもよい。
【0058】
以上、本開示に係る光学素子について説明したが、本開示は上記実施形態などに限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0059】
1 光学素子
2 透明部材
3 透明基材
31 光学面(平面)
32 隣接面
33 境界
4 レンズ
41 段差面
42 レンズ面
5 光吸収膜
図1
図2
図3