(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】芳香族ポリカーボネート樹脂
(51)【国際特許分類】
C08G 64/06 20060101AFI20241029BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20241029BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C08G64/06
C08L69/00
G02B1/04
(21)【出願番号】P 2020172649
(22)【出願日】2020-10-13
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】冨田 空
(72)【発明者】
【氏名】山下 真矢
(72)【発明者】
【氏名】横木 正志
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-080425(JP,A)
【文献】特開2004-331688(JP,A)
【文献】特開2017-210569(JP,A)
【文献】国際公開第2017/099227(WO,A1)
【文献】特開2006-328106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 64/00-64/42
C08L 69/00
G02B 1/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるカーボネート構造単位(A)及び下記式(5)で表されるカーボネート構造単位(B)を含
み、粘度平均分子量(Mv)が5,000~17,200である芳香族ポリカーボネート樹脂。
【化1】
(式(1)中、環Z
1、Z
2はそれぞれ独立に、芳香族炭化水素環を表す。R
1、R
2はそれぞれ独立に、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基、置換基を有する酸素原子、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、又はハロゲン原子である。a及びbはそれぞれ独立に0以上の整数を表す。a、bが2以上でR
1、R
2が複数ある場合、複数のR
1、R
2は互いに同一であってもよく、異なるものであってもよい。また、複数のR
1及び/又はR
2のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。Xは下記式(2
)で表される二価の基からなる群より選択される基である。式(2
)における*印は、式(1)における環Z
1、Z
2との結合部を示す。)
【化2】
(式(2)中、R
3は、水素原子、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基である。R
4は、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基、又はハロゲン原子である。cは0~5の整数を表す。cが2以上でR
4が複数ある場合、複数のR
4は、互いに同一であってもよく、異なるものであってもよい。また、複数のR
4のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。
)
【化5】
(式(5)中、R
9、R
10はそれぞれ独立に、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基、置換基を有する酸素原子、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、又はハロゲン原子である。h、iはそれぞれ独立に0~4の整数を表す。h、iが2以上で、R
9、R
10が複数ある場合、複数のR
9、R
10は互いに同一であってもよく、異なるものであってもよい。また、複数のR
9及び/又はR
10のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。R
11およびR
12はそれぞれ独立に、水素原子、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~20のアルキル基を表す。ただし、R
11およびR
12の炭素数の合計は11以上40以下である。)
【請求項2】
樹脂を構成する全てのカーボネート構造単位のmol数の合計を100mol%とした際に前記カーボネート構造単位(A)が40mol%以上100mol%未満含まれる、請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【請求項3】
樹脂を構成する全てのカーボネート構造単位のmol数の合計を100mol%とした際に前記カーボネート構造単位(B)が0mol%超60mol%以下含まれる、請求項1または2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【請求項4】
前記式(5)において、R
11またはR
12の少なくとも一方の炭素数が11以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【請求項5】
前記式(5)において、R
11またはR
12が水素原子である、請求項1~4のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【請求項6】
前記式(5)が、下記式(6)である、請求項5に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【化6】
【請求項7】
前記式(1)において、環Z
1、Z
2がそれぞれ独立にベンゼン環、ナフタレン環、及びアントラセン環から選ばれる、請求項1~6のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【請求項8】
前記式(1)において、Xが下記式(7
)で表される二価の基(式(7
)における*印は、式(1)における環Z
1、Z
2との結合部を示す。また、式(7
)において、ベンゼン
環は置換基を有していてもよい。)からなる群より選択されるいずれかである、請求項1~
7のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【化7】
【請求項9】
前記式(1)が、下記式(10
)である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【化8】
【請求項10】
Tgが150~250℃である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂と、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、輝度向上剤、染料、顔料、離型剤、流動改質剤及び耐衝撃性向上剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤を含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂と、その他の樹脂を含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂、或いは、請求項
11または
12に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いて得られる成形体。
【請求項14】
前記成形体が、光学部材である請求項
13に記載の成形体。
【請求項15】
前記光学部材が、車載用レンズ、メガネレンズ、ピックアップレンズ、カメラレンズ、マイクロアレーレンズ、プロジェクターレンズ及びフレネルレンズからなる群より選ばれた少なくとも一種の光学レンズである請求項
14に記載の成形体。
【請求項16】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂、或いは、請求項
11または
12に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いて成形体を製造する方法であって、成形時の最高温度が300℃以上であることを特徴とする成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のカーボネート構造単位を含有することで、高温環境下での製造及び使用に耐え得る高い耐熱性、幅広い温度域での射出成形が可能な高い熱安定性、及び光学用成形材料として有用な高屈折率、低複屈折、優れた成形性を有する芳香族ポリカーボネート樹脂及びこの芳香族ポリカーボネート樹脂を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物と、その成形体及び成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性や寸法安定性、機械的特性などが優れていることから、光学用成形材料として利用されている。光学的特性に優れたポリカーボネート樹脂として、特許文献1には、9,9-ビスフェニルフルオレン骨格を有する繰り返し単位を主として含むポリカーボネート樹脂が開示されている。特許文献1の実施例では、重合成分として2,2’-[9H-フルオレン-9-イリデンビス(4,1-フェニレンオキシ)]-ビスエタノール〔9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(略号:BPEF)〕などを用いたポリカーボネート樹脂を調製している。
特許文献1記載のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、145℃程度と比較的高い。しかし、高温環境下での製造や使用が想定される用途(例えば、車載用レンズなど)には適用できない場合がある。
【0003】
特許文献2には、高屈折な光学用ポリカーボネート樹脂として、1,1’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニル-エタン(ビスフェノールAP)と2,2’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-プロパン(ビスフェノールA)との共重合ポリカーボネート樹脂、及びビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン(ビスフェノールBP)とビスフェノールAとの共重合ポリカーボネート樹脂が記載されている。しかしながら、特許文献2では屈折率、成形流動性については記載されているが、耐熱性及び複屈折について記載されておらず、高耐熱性が求められる用途や、低複屈折が求められる用途には適用できない場合がある。
【0004】
特許文献3には、耐熱性及び熱安定性が良好で、複屈折が小さく、透明性に優れたポリカーボネート樹脂として、全芳香族ジヒドロキシ成分の50~95モル%が9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(BCF)であり、50~5モル%が一般的なビスフェノール類であるポリカーボネート共重合体が開示されている。しかしながら、特許文献3では、耐熱性及び熱安定性と、複屈折の改良についてのみ記載されており、光学用成形材料に重要な屈折率についての記載はない。
【0005】
特許文献4には、高い耐熱性を持ち、高屈折率で低複屈折のポリカーボネート樹脂として、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンをジオールとして用いたポリカーボネート樹脂が開示されている。しかしながら、特許文献4では、耐熱性、屈折率、及び延伸フィルムの複屈折についてのみ記載されており、光学用成形材料に重要な熱安定性及び成形性についての記載はない。
【0006】
特許文献5には、4,4’-ジヒドロキシテトラフェニルメタンから誘導される構成単位(A)と、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカンまたは4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノールから誘導される構成単位(B)とを所定の割合で含むポリカーボネート樹脂よりなる光学部材が記載されているが、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂のカーボネート構造単位(B)を導入した場合の効果についての示唆はない。
【0007】
特許文献6には、9,9-ビス(4-ヒド口キシ-3-メチルフェニル)フルオレンから誘導される単位(A)と、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカンから誘導される単位(B)を所定の割合で含むポリカーボネート共重合体(I)からなるレンズが記載されているが、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂のカーボネート構造単位(A)とカーボネート構造単位(B)との組み合わせによる効果を示唆する記載はない。
【0008】
特許文献7には、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂のカーボネート構造単位(B)を含む、高い流動性、薄肉成形性を有し、さらには透明性、衝撃強度、耐折り曲げ性に優れる芳香族ポリカーボネート樹脂が記載されているが、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂のカーボネート構造単位(A)とカーボネート構造単位(B)とを含む芳香族ポリカーボネート樹脂の記載はなく、また、それによる屈折率や複屈折の効果についての示唆もない。
【0009】
特許文献8には、カーボネート構造単位(A)とカーボネート構造単位(B)とを所定の割合で含む芳香族ポリカーボネートコポリマーを含む熱可塑性樹脂用流動改質剤が記載されているが、この芳香族ポリカーボネートコポリマーは熱可塑性樹脂用流動改質剤であり、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂を示す記載はなく、また、特許文献8では、屈折率や複屈折といった光学用成形材料としての検討はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平10-101787号公報
【文献】特開2017-210569号公報
【文献】特開2004-331688号公報
【文献】特開2018-104691号公報
【文献】特開2009-080425号公報
【文献】国際公開第2009/028699号
【文献】国際公開第2017/099227号
【文献】国際公開第2017/099233号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、高温環境下での製造及び使用に耐え得る高い耐熱性、幅広い温度域での射出成形が可能な高い熱安定性、及び光学用成形材料として有用な高屈折率、低複屈折、及び優れた成形性を有する芳香族ポリカーボネート樹脂、並びに該樹脂を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物と成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のカーボネート構造単位の組みあわせを有する芳香族ポリカーボネート樹脂が、耐熱性・熱安定性・強度・成形性に優れ、かつ高屈折率・低複屈折であることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明の趣旨は、以下の[1]~[17]に存する。
【0013】
[1] 下記式(1)で表されるカーボネート構造単位(A)及び下記式(5)で表されるカーボネート構造単位(B)を含む芳香族ポリカーボネート樹脂。
【0014】
【0015】
(式(1)中、環Z1、Z2はそれぞれ独立に、芳香族炭化水素環を表す。R1、R2はそれぞれ独立に、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基、置換基を有する酸素原子、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、又はハロゲン原子である。a及びbはそれぞれ独立に0以上の整数を表す。a、bが2以上でR1、R2が複数ある場合、複数のR1、R2は互いに同一であってもよく、異なるものであってもよい。また、複数のR1及び/又はR2のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。Xは下記式(2)~(4)で表される二価の基からなる群より選択される基である。式(2)~(4)における*印は、式(1)における環Z1、Z2との結合部を示す。)
【0016】
【0017】
(式(2)中、R3は、水素原子、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基である。R4は、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基、又はハロゲン原子である。cは0~5の整数を表す。cが2以上でR4が複数ある場合、複数のR4は、互いに同一であってもよく、異なるものであってもよい。また、複数のR4のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0018】
【0019】
(式(3)中、R5、R6はそれぞれ独立に、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基、又はハロゲン原子である。d、eはそれぞれ独立に0~5の整数を表す。d、eが2以上でR5、R6が複数ある場合、複数のR5、R6は互いに同一であってもよく、異なるものであってもよい。また、複数のR5及び/又はR6のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0020】
【0021】
(式(4)中、環Z3、Z4はそれぞれ独立に芳香族炭化水素環を表す。R7、R8はそれぞれ独立に、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基、置換基を有する酸素原子、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、又はハロゲン原子である。f、gはそれぞれ独立に0以上の整数を表す。また、複数のR7及び/又はR8のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0022】
【0023】
(式(5)中、R9、R10はそれぞれ独立に、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基、置換基を有する酸素原子、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、又はハロゲン原子である。h、iはそれぞれ独立に0~4の整数を表す。h、iが2以上で、R9、R10が複数ある場合、複数のR9、R10は互いに同一であってもよく、異なるものであってもよい。また、複数のR9及び/又はR10のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。R11およびR12はそれぞれ独立に、水素原子、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~20のアルキル基を表す。ただし、R11およびR12の炭素数の合計は11以上40以下である。)
【0024】
[2] 樹脂を構成する全てのカーボネート構造単位のmol数の合計を100mol%とした際に前記カーボネート構造単位(A)が40mol%以上100mol%未満含まれる、[1]に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【0025】
[3] 樹脂を構成する全てのカーボネート構造単位のmol数の合計を100mol%とした際に前記カーボネート構造単位(B)が0mol%超60mol%以下含まれる、[1]または[2]に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【0026】
[4] 前記式(5)において、R11またはR12の少なくとも一方の炭素数が11以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【0027】
[5] 前記式(5)において、R11またはR12が水素原子である、[1]~[4]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【0028】
[6] 前記式(5)が、下記式(6)である、[5]に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【0029】
【0030】
[7] 前記式(1)において、環Z1、Z2がそれぞれ独立にベンゼン環、ナフタレン環、及びアントラセン環から選ばれる、[1]~[6]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【0031】
[8] 前記式(4)において、環Z3、Z4がそれぞれ独立にベンゼン環、ナフタレン環、及びアントラセン環から選ばれる、[1]~[7]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【0032】
[9] 前記式(1)において、Xが下記式(7)~(9)で表される二価の基(式(7)~(9)における*印は、式(1)における環Z1、Z2との結合部を示す。また、式(7)~(9)において、ベンゼン環又はフルオレン環は置換基を有していてもよい。)からなる群より選択されるいずれかである、[1]~[8]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【0033】
【0034】
[10] 前記式(1)が、下記式(10)~(14)からなる群より選ばれるいずれかである、[1]~[9]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【0035】
【0036】
[11] Tgが150~250℃である、[1]~[10]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
【0037】
[12] [1]~[11]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂と、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、輝度向上剤、染料、顔料、離型剤、流動改質剤及び耐衝撃性向上剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤を含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【0038】
[13] [1]~[11]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂と、その他の樹脂を含有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【0039】
[14] [1]~[11]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂、或いは、[12]または13に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いて得られる成形体。
【0040】
[15] 前記成形体が、光学部材である[14]に記載の成形体。
【0041】
[16] 前記光学部材が、車載用レンズ、メガネレンズ、ピックアップレンズ、カメラレンズ、マイクロアレーレンズ、プロジェクターレンズ及びフレネルレンズからなる群より選ばれた少なくとも一種の光学レンズである[15]に記載の成形体。
【0042】
[17] [1]~[11]のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂、或いは、[12]または[13]に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を用いて成形体を製造する方法であって、成形時の最高温度が300℃以上であることを特徴とする成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0043】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、前記式(1)で表されるカーボネート構造単位(A)及び前記式(5)で表されるカーボネート構造単位(B)を含む。即ち、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は前記式(1)で表されるカーボネート構造単位(A)及び前記式(5)で表されるカーボネート構造単位(B)を含む共重合ポリカーボネート樹脂である。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂が、カーボネート構造単位(A)を含有することで、耐熱性向上、屈折率向上、複屈折低減の効果をもたらし、カーボネート構造単位(B)を含有することで、高耐熱性、高屈折率を維持しながら、強度を向上させ、溶融流動性が向上することで、成形性が向上し、成形体の複屈折低減の効果ももたらす。さらに、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、主骨格が脂肪族ヒドロキシ化合物由来のカーボネート結合ではないため、熱安定性が高く、高温での製造や射出成形が可能である。
【0044】
本発明により、耐熱性・熱安定性・強度に優れ、かつ高屈折率・低複屈折、優れた成形性を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を提供できる。このため、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂及びそれを含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、射出成形により容易にレンズ等の光学部材に加工することできる。これらの光学部材は従来のポリカーボネート樹脂を用いた光学部材と比較して高耐熱性を有しながら、高屈折率かつ低複屈折を有することから、高性能光学部材として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定して解釈されるものではない。
尚、本明細書において、「~」とは、特に断りのない限り、その前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。また、「構造単位」とは、重合体において隣り合う連結基に挟まれた部分構造、及び、重合体の末端部分に存在する重合反応性基と、該重合反応性基に隣り合う連結基とに挟まれた部分構造をいう。また、連結基とはカーボネート結合部分(カーボネート基)、エステル結合部分(エステル基)のことをいう。
【0046】
また、本発明においてポリカーボネート樹脂とは、樹脂を構成する構造単位がカーボネート結合で連結された部分(カーボネート基)を含む樹脂のことをいう。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、本発明の効果を阻害しない限り、任意にエステル結合で連結された部分(エステル基)を含有してもよい。即ち、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂には、ポリエステルカーボネート樹脂も含まれる。
【0047】
[芳香族ポリカーボネート樹脂]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、前記式(1)で表されるカーボネート構造単位(A)(以下、単に「カーボネート構造単位(A)」と称す。)及び前記式(5)で表されるカーボネート構造単位(B)(以下、単に「カーボネート構造単位(B)」と称す。)を含む。即ち、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂はカーボネート構造単位(A)及びカーボネート構造単位(B)を含む共重合ポリカーボネート樹脂である。
【0048】
<カーボネート構造単位(A)>
カーボネート構造単位(A)は下記式(1)で表される構造単位である。
【0049】
【0050】
(式(1)中、環Z1、Z2はそれぞれ独立に、芳香族炭化水素環を表す。R1、R2はそれぞれ独立に、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基、置換基を有する酸素原子、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、又はハロゲン原子である。a及びbはそれぞれ独立に0以上の整数を表す。a、bが2以上でR1、R2が複数ある場合、複数のR1、R2は互いに同一であってもよく、異なるものであってもよい。また、複数のR1及び/又はR2のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。Xは後掲の式(2)~(4)で表される二価の基からなる群より選択される基である。)
【0051】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂において、カーボネート構造単位(A)の含有割合は特に限定されないが、樹脂を構成する全てのカーボネート構造単位のmol数の合計を100mol%とした際に、カーボネート構造単位(A)が40mol%以上100mol%未満が好ましく、60mol%以上99.9mol%以下がより好ましく、72mol%以上99.5mol%以下がさらに好ましく、81mol%以上99mol%以下が特に好ましく、90mol%以上98mol%以下が最も好ましい。
【0052】
カーボネート構造単位(A)の含有割合が上記下限値以上であれば、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の屈折率が高く、光学用成形材料として用いる場合に有利である。また、カーボネート構造単位(A)の含有割合が上記下限値以上であれば、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の複屈折が小さく、光学用成形材料として用いる場合に有利である。さらに、カーボネート構造単位(A)の含有割合が上記下限値以上であれば、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の耐熱性、即ちTg(ガラス転移温度)が高く、成形材料として用いる場合に有利である。
一方、カーボネート構造単位(A)が上記上限値未満であれば、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の成形流動性が高く、成形材料として用いる場合に有利である。
【0053】
前記式(1)中、環Z1、Z2はそれぞれ独立に芳香族炭化水素環を表す。該芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などが挙げられる。芳香族ポリカーボネート樹脂の流動性向上の観点から、環Z1、Z2はそれぞれ独立にベンゼン環、ナフタレン環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。
【0054】
R1、R2はそれぞれ独立に、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基、置換基を有する酸素原子、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、又はハロゲン原子である。ただし、R1及び/又はR2のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。
【0055】
上記において、置換基とは、本発明の効果を妨げない限り特に制限はないが、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及びハロゲン原子から選ばれることが好ましい。
【0056】
R1、R2の無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基としては、直鎖状であっても分岐状であっても、環状であってもよい。無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基などが挙げられる。
【0057】
R1、R2の無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基としては、無置換のものとしてフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。また、置換基を有するものとして、メチルフェニル基(トリル基)、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基などが挙げられる。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の熱安定性及び耐熱性の観点から、無置換のものが好ましい。
【0058】
R1、R2の無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基としては、メタノイル基、エタノイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ベンゾイル基、アクリリル基、クロロエタノイル基、ジクロロエタノイル基、トリクロロエタノイル基、ブロモエタノイル基、フルオロエタノイル基等が挙げられる。
【0059】
R1、R2の置換基を有する酸素原子としては、ヒドロキシ基;メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基等のアルコキシ基;後述する環Z1と環Z2とを架橋構造とする酸素原子等が挙げられる。
【0060】
R1、R2の置換基を有する硫黄原子としては、チオール基;メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基、ノニルチオ基、デシルチオ基等のアルキルチオ基;フェニルチオ基、ベンジルチオ基などのアリールチオ基;スルホ基;後述する環Z1と環Z2とを架橋構造とする硫黄原子、スルホニル基等が挙げられる。
【0061】
R1、R2の置換基を有するケイ素原子としては、シリル基、モノメチルシリル基、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基;後述する環Z1と環Z2とを架橋構造とするケイ素原子等が挙げられる。
【0062】
R1、R2のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子などが挙げられる。
【0063】
R1及び/又はR2のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成する場合、例えば、以下のようなものが挙げられる。
(1) 隣接するR1とR1が互いに結合して、環Z1に縮合する縮合環を形成する。
(2) 隣接するR2とR2が互いに結合して、環Z2に縮合する縮合環を形成する。
(3) R1とR2が結合して、環Z1と環Z2とを架橋構造とする。
上記(3)の場合の具体例としては、-O-、-S-、-SO2-、-Si-、-SiH2-、-SiMe2-、又は、-SiEt2-で、環Z1上の炭素原子と環Z2上の炭素原子を連結する架橋構造が挙げられる(Meはメチル基、Etはエチル基を表す。)。
【0064】
R1、R2としては、なかでもメチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ナフチル基が好ましく、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基がより好ましく、メチル基、フェニル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0065】
a及びbはそれぞれ独立に0以上の整数を表す。なかでもa及びbはそれぞれ独立に0~2の整数が好ましく、0又は1がより好ましく、0がさらに好ましい。
【0066】
カーボネート構造単位(A)を表す前記式(1)において、Xは下記式(2)~(4)で表される二価の基からなる群より選択される基である。式(2)~(4)における*印は、前記式(1)における環Z1、Z2との結合部を示す。
【0067】
【0068】
(式(2)中、R3は、水素原子、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基である。R4は、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基、又はハロゲン原子である。cは0~5の整数を表す。cが2以上でR4が複数ある場合、複数のR4は、互いに同一であってもよく、異なるものであってもよい。また、複数のR4のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0069】
上記式(2)中、R3は、水素原子、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基である。該無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基としては、直鎖状であっても分岐状であっても、環状であってもよい。該無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基などが挙げられる。
【0070】
R3としては、なかでも水素原子、メチル基、エチル基、シクロヘキシル基が好ましく、水素原子、メチル基、エチル基がより好ましく、水素原子、メチル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0071】
R4は、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基、置換基を有する酸素原子、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、又はハロゲン原子である。ただし、R4のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。
【0072】
上記において、置換基とは、本発明の効果を妨げない限り特に制限はないが、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及びハロゲン原子から選ばれることが好ましい。
【0073】
R4の無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基としては、直鎖状であっても分岐状であっても、環状であってもよい。無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基などが挙げられる。
【0074】
R4の無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基としては、無置換のものとしてフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。また、置換基を有するものとしてメチルフェニル基(トリル基)、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基などが挙げられる。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の熱安定性及び耐熱性の観点から、無置換のものが好ましい。
【0075】
R4の無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基としては、メタノイル基、エタノイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ベンゾイル基、アクリリル基、クロロエタノイル基、ジクロロエタノイル基、トリクロロエタノイル基、ブロモエタノイル基、フルオロエタノイル基等が挙げられる。
【0076】
R4の置換基を有する酸素原子としては、ヒドロキシ基;メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基等のアルコキシ基等が挙げられる。
【0077】
R4の置換基を有する硫黄原子としては、チオール基;メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基、ノニルチオ基、デシルチオ基等のアルキルチオ基;フェニルチオ基、ベンジルチオ基などのアリールチオ基;スルホ基等が挙げられる。
【0078】
R4の置換基を有するケイ素原子としては、シリル基、モノメチルシリル基、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基等が挙げられる。
【0079】
R4のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子などが挙げられる。
【0080】
R4のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成する場合、例えば、隣接するR4とR4が互いに結合して、ベンゼン環に縮合する縮合環を形成するものが挙げられる。
【0081】
R4としては、なかでもメチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ナフチル基が好ましく、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基がより好ましく、メチル基、フェニル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0082】
cは~5の整数を表す。なかでもcは0~2の整数が好ましく、0又は1がより好ましく、0がさらに好ましい。
【0083】
【0084】
(式(3)中、R5、R6はそれぞれ独立に、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基、又はハロゲン原子である。d、eはそれぞれ独立に0~5の整数を表す。d、eが2以上でR5、R6が複数ある場合、複数のR5、R6は互いに同一であってもよく、異なるものであってもよい。また、複数のR5及び/又はR6のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0085】
上記式(3)中、R5、R6はそれぞれ独立に、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基、置換基を有する酸素原子、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、又はハロゲン原子である。ただし、R5及び/又はR6のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。
【0086】
上記において、置換基とは、本発明の効果を妨げない限り特に制限はないが、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及びハロゲン原子から選ばれることが好ましい。
【0087】
R5、R6の無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基としては、直鎖状であっても分岐状であっても、環状であってもよい。無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、などが挙げられる。
【0088】
R5、R6の無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基としては、無置換のものとしてフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。また、置換基を有するものとして、メチルフェニル基(トリル基)、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基などが挙げられる。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の熱安定性及び耐熱性の観点から、無置換のものが好ましい。
【0089】
R5、R6の無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基としては、メタノイル基、エタノイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ベンゾイル基、アクリリル基、クロロエタノイル基、ジクロロエタノイル基、トリクロロエタノイル基、ブロモエタノイル基、フルオロエタノイル基等が挙げられる。
【0090】
R5、R6の置換基を有する酸素原子としては、ヒドロキシ基;メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基等のアルコキシ基;後述する式(3)中の2つのベンゼン環を連結する架橋構造とする酸素原子等が挙げられる。
【0091】
R5、R6の置換基を有する硫黄原子としては、チオール基;メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基、ノニルチオ基、デシルチオ基等のアルキルチオ基;フェニルチオ基、ベンジルチオ基などのアリールチオ基;スルホ基;後述する式(3)中の2つのベンゼン環を連結する架橋構造とする硫黄原子、スルホニル基等が挙げられる。
【0092】
R5、R6の置換基を有するケイ素原子としては、シリル基、モノメチルシリル基、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基;後述する式(3)中の2つのベンゼン環を連結する架橋構造とするケイ素原子等が挙げられる。
【0093】
R5、R6のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子などが挙げられる。
【0094】
R5及び/又はR6のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成する場合、例えば、以下のようなものが挙げられる。
(1) 隣接するR5とR5が互いに結合して、ベンゼン環に縮合する縮合環を形成する。
(2) 隣接するR6とR6が互いに結合して、ベンゼン環に縮合する縮合環を形成する。
(3) R5とR6が結合して、式(3)中の2つのベンゼン環を連結する架橋構造とする。
上記(3)の場合の具体例としては、-O-、-S-、-SO2-、-Si-、-SiH2-、-SiMe2-、又は、-SiEt2-で、2つのベンゼン環上の炭素原子同士を連結する架橋構造が挙げられる。
【0095】
R5、R6としては、なかでもメチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ナフチル基が好ましく、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基がより好ましく、メチル基、フェニル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0096】
d及びeはそれぞれ独立に0~5の整数を表す。なかでもd及びeはそれぞれ独立に0~2の整数が好ましく、0又は1がより好ましく、0がさらに好ましい。
【0097】
【0098】
(式(4)中、環Z3、Z4はそれぞれ独立に芳香族炭化水素環を表す。R7、R8はそれぞれ独立に、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基、置換基を有する酸素原子、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、又はハロゲン原子である。f、gはそれぞれ独立に0以上の整数を表す。また、複数のR7及び/又はR8のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0099】
上記式(4)中、環Z3、Z4はそれぞれ独立に芳香族炭化水素環を表す。該芳香族炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などが挙げられる。芳香族ポリカーボネート樹脂の流動性向上の観点から、環Z3、Z4はそれぞれ独立にベンゼン環、ナフタレン環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。
【0100】
R7、R8はそれぞれ独立に、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基、置換基を有する酸素原子、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、又はハロゲン原子である。ただし、R7及び/又はR8のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。
【0101】
上記において、置換基とは、本発明の効果を妨げない限り特に制限はないが、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及びハロゲン原子から選ばれることが好ましい。
【0102】
R7、R8の無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基としては、直鎖状であっても分岐状であっても、環状であってもよい。無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基などが挙げられる。
【0103】
R7、R8の無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基としては、無置換のものとしてフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。また、置換基を有するものとしてメチルフェニル基(トリル基)、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、などが挙げられる。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の熱安定性及び耐熱性の観点から、無置換のものが好ましい。
【0104】
R7、R8の無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基としては、メタノイル基、エタノイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ベンゾイル基、アクリリル基、クロロエタノイル基、ジクロロエタノイル基、トリクロロエタノイル基、ブロモエタノイル基、フルオロエタノイル基等が挙げられる。
【0105】
R7、R8の置換基を有する酸素原子としては、ヒドロキシ基;メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基等のアルコキシ基;後述する環Z3と環R4とを架橋構造とする酸素原子等が挙げられる。
【0106】
R7、R8の置換基を有する硫黄原子としては、チオール基;メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基、ノニルチオ基、デシルチオ基等のアルキルチオ基;フェニルチオ基、ベンジルチオ基などのアリールチオ基;スルホ基;後述する環Z3と環R4とを架橋構造とする硫黄原子、スルホニル基等が挙げられる。
【0107】
R7、R8の置換基を有するケイ素原子としては、シリル基、モノメチルシリル基、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基;後述する環Z3と環R4とを架橋構造とするケイ素原子等が挙げられる。
【0108】
R7、R8のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子などが挙げられる。
【0109】
R7及び/又はR8のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成する場合、例えば、以下のようなものが挙げられる。
(1) 隣接するR7とR7が互いに結合して、環Z3に縮合する縮合環を形成する。
(2) 隣接するR8とR8が互いに結合して、環Z4に縮合する縮合環を形成する。
(3) R7とR8が結合して、環Z3と環Z4とを架橋構造とする。
上記(3)の場合の具体例としては、-O-、-S-、-SO2-、-Si-、-SiH2-、-SiMe2-、又は、-SiEt2-で、環Z3上の炭素原子と環Z4上の炭素原子を連結する架橋構造が挙げられる。
【0110】
R7、R8としては、なかでもメチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ナフチル基が好ましく、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基がより好ましく、メチル基、フェニル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0111】
f及びgはそれぞれ独立に0以上の整数を表す。なかでもf及びgはそれぞれ独立に0~2の整数が好ましく、0又は1がより好ましく、0がさらに好ましい。
【0112】
このような観点より、前記式(1)におけるXとしては、下記式(7)~(9)で表される二価の基(式(7)~(9)における*印は、式(1)における環Z1、Z2との結合部を示す。また、式(7)~(9)において、ベンゼン環又はフルオレン環は置換基を有していてもよい。)からなる群より選択されるいずれかが好ましい。
【0113】
【0114】
また、Xとしては、前記式(2)で表される二価の基が好ましい。Xが前記式(2)で表される二価の基である場合、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の着色が小さく、樹脂を成形材料の原料として用いるのに有利である。
【0115】
より好ましいカーボネート構造単位(A)の具体例としては、下記式(10)~(14)で表される構造単位が挙げられ、なかでも式(10)、(11)、(12)、(14)で表される構造単位であることがより好ましく、式(10)で表される構造単位がさらに好ましい。
【0116】
【0117】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂における上記カーボネート構造単位(A)は、原料となる芳香族ジヒドロキシ化合物及び後述のカーボネート形成性化合物又はカーボネートエステルを用いて重合し得られるものである。
【0118】
原料となる芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、下記式(15)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0119】
【0120】
(式(15)中、Z1、Z2、R1、R2、X、a及びbの定義及び好ましい例は、前記式(1)におけると同様である。)
【0121】
また、カーボネート構造単位(A)を形成するために必要な芳香族ジヒドロキシ化合物の具体例としては、特に制限されないが、下記式(16)~(19)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物が挙げられる。なかでも樹脂の熱安定性が向上する傾向にあるため、式(16)、(17)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物がより好ましいが、式(18)、(19)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物を任意の割合で含んでいてもよい。
【0122】
【0123】
(式(16)~(19)中、R1、R2、X、a及びbの定義及び好ましい例は、前記式(1)におけると同様である。)
【0124】
このような観点より、より好ましいカーボネート構造単位(A)を形成するために必要な芳香族ジヒドロキシ化合物の具体例としては、以下が挙げられる。
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-1-フェニルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)-1-フェニルエタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、
9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、
9,9-ビス(4- ヒドロキシ-3-エチルフェニル)フルオレン、
9,9-ビス(4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)フルオレン、
6,6’-(9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(2-ナフトール)。
【0125】
これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0126】
カーボネート構造単位(A)を形成するための芳香族ジヒドロキシ化合物としては、中でも、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(以下BisAPと略称)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン(以下BisBPと略称)、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(以下、BCFと略称)、6,6’-(9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(2-ナフトール)(以下、BNFと略称)が好ましい。
カーボネート構造単位(A)の原料となる芳香族ジヒドロキシ化合物をBisAP、BisBP、BCF、BNFから選べば、安全面と価格面の両面から見た芳香族ジヒドロキシ化合物の利用しやすさと、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂の屈折率とのバランスが良い。さらに、芳香族ポリカーボネート樹脂の着色が少ないことから、BisAP、BisBP、BCFがより好ましく、BisAPが特に好ましい。
【0127】
<カーボネート構造単位(B)>
カーボネート構造単位(B)は、下記式(5)で表される構造単位である。
【0128】
【0129】
(式(5)中、R9、R10はそれぞれ独立に、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基、置換基を有する酸素原子、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、又はハロゲン原子である。h、iはそれぞれ独立に0~4の整数を表す。h、iが2以上で、R9、R10が複数ある場合、複数のR9、R10は互いに同一であってもよく、異なるものであってもよい。また、複数のR9及び/又はR10のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。R11およびR12はそれぞれ独立に、水素原子、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~20のアルキル基を表す。ただし、R11およびR12の炭素数の合計は11以上40以下である。)
【0130】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂において、カーボネート構造単位(B)の含有割合は特に限定されないが、樹脂を構成する全てのカーボネート構造単位のmol数の合計を100mol%とした際に、カーボネート構造単位(B)が、0mol%超60mol%以下が好ましく、0.1mol%以上40mol%以下がより好ましく、0.5mol%以上28mol%以下がさらに好ましく、1mol%以上19mol%以下が特に好ましく、2mol%以上10mol%以下が最も好ましい。
【0131】
カーボネート構造単位(B)の含有割合が上記上限値以下であれば、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の屈折率が高く、光学用成形材料として用いる場合に有利である。また、カーボネート構造単位(B)の含有割合が上記上限値以下であれば、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の複屈折が小さく、光学用成形材料として用いる場合に有利である。さらに、カーボネート構造単位(B)の含有割合が上記上限値以下であれば、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の耐熱性、即ちTgが高く、成形材料として用いる場合に有利である。
一方、カーボネート構造単位(B)の含有割合が上記下限値超であることで、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の成形流動性が高く、成形材料として用いる場合に有利である。
【0132】
前記式(5)中、R11およびR12はそれぞれ独立に、水素原子、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~20のアルキル基を表す。ただし、R11およびR12の炭素数の合計は11以上40以下である。
【0133】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂において、カーボネート構造単位(B)は、R11およびR12に、合計の炭素数が11~40である長鎖脂肪鎖置換基を持つことが必須である。このような長鎖脂肪鎖置換基を持つカーボネート構造単位(B)を含有することにより、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂のTgが高くなり過ぎないように調節することができ、さらに樹脂の溶融流動性を向上させ、成形材料の複屈折を低減させることができる。
R11およびR12の合計炭素数11以上であれば、カーボネート構造単位(B)当たりのTg調整効果、溶融流動性向上効果が高く、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂におけるカーボネート構造単位(B)の導入量をより少なくすることができ、カーボネート構造単位(A)に由来する樹脂の高耐熱性、高屈折率を維持することができる。
【0134】
一方、カーボネート構造単位(B)のR11およびR12の合計炭素数は、40以下である。R11およびR12の長鎖脂肪鎖置換基が長すぎる場合は、耐熱性や機械強度が著しく低下し、また長鎖脂肪鎖置換基の結晶化性が上がり、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の透明性が損なわれる恐れがあるため好ましくない。このような観点より、R11およびR12の合計炭素数は、38以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましく、15以下であることがさらに好ましく、13以下であることがさらに好ましく、11以下であることが特に好ましい。
即ち、R11およびR12の合計炭素数は11であることが好ましい。
【0135】
また、カーボネート構造単位(B)においてR11およびR12は、一方が水素原子でもう一方が炭素数11~40のアルキル基であることが好ましく、一方が水素原子でもう一方が炭素数11~19のアルキル基であることがより好ましい。R11およびR12の一方が水素原子であることで、流動改質効果、複屈折低下効果がより得られやすく、極端な耐熱性低下を防ぐことができる。
【0136】
上述の炭素数11~19のアルキル基としては、直鎖状、分岐状のアルキル基、一部環状構造を有するアルキル基などが挙げられるが、なかでも本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の流動性をより効果的に高められるため、直鎖状又は分岐状アルキル基であることが好ましい。
【0137】
直鎖状アルキル基の具体例としては、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基などが挙げられるが、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基が好ましく、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基がより好ましく、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基がさらに好ましく、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基が特に好ましく、n-ウンデシル基が最も好ましい。このようなアルキル基を持つことで、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の高耐熱性、高屈折率、機械強度を維持しながら溶融流動性を向上させ、成形体の複屈折をより効果的に低減することができる。
【0138】
分岐状アルキル基の具体例としては、メチルデシル基、メチルウンデシル基、メチルドデシル基、メチルトリデシル基、メチルテトラデシル基、メチルペンタデシル基、メチルヘキサデシル基、メチルヘプタデシル基、メチルオクタデシル基、ジメチルノニル基、ジメチルデシル、ジメチルウンデシル基、ジメチルドデシル基、ジメチルトリデシル基、ジメチルテトラデシル基、ジメチルペンタデシル基、ジメチルヘキサデシル基、ジメチルヘプタデシル基、トリメチルオクチル基、トリメチルノニル基、トリメチルデシル基、トリメチルウンデシル基、トリメチルドデシル基、トリメチルトリデシル基、トリメチルテトラデシル基、トリメチルペンタデシル基、トリメチルヘキサデシル基、エチルノニル基、エチルデシル、エチルウンデシル基、エチルドデシル基、エチルトリデシル基、エチルテトラデシル基、エチルペンタデシル基、エチルヘキサデシル基、エチルヘプタデシル基、プロピルオクチル基、プロピルノニル基、プロピルデシル基、プロピルウンデシル基、プロピルドデシル基、プロピルトリデシル基、プロピルテトラデシル基、プロピルペンタデシル基、プロピルヘキサデシル基、ブチルへプチル基、ブチルオクチル基、ブチルノニル基、ブチルデシル基、ブチルウンデシル基、ブチルドデシル基、ブチルトリデシル基、ブチルテトラデシル基、ブチルペンタデシル基などが挙げられる。
尚、上記分岐アルキル基の例において、分岐の位置は任意である。
【0139】
R9、R10はそれぞれ独立に、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基、無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基、置換基を有する酸素原子、置換基を有する硫黄原子、置換基を有するケイ素原子、又はハロゲン原子である。ただし、R9及び/又はR10のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成していてもよい。
【0140】
上記において、置換基とは、本発明の効果を妨げない限り特に制限はないが、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及びハロゲン原子から選ばれることが好ましい。
【0141】
R9、R10の無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基としては、直鎖状であっても分岐状であっても、環状であってもよい。無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基などが挙げられる。
【0142】
R9、R10の無置換若しくは置換基を有する炭素数6~10のアリール基としては、無置換のものとしてフェニル基、ナフチル基)などが挙げられる。また、置換基を有するものとしてメチルフェニル基(トリル基)、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基などが挙げられる。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の熱安定性及び耐熱性の観点から、無置換のものが好ましい。
【0143】
R9、R10の無置換若しくは置換基を有する炭素数1~10のアシル基としては、メタノイル基、エタノイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ベンゾイル基、アクリリル基、クロロエタノイル基、ジクロロエタノイル基、トリクロロエタノイル基、ブロモエタノイル基、フルオロエタノイル基等が挙げられる。
【0144】
R9、R10の置換基を有する酸素原子としては、ヒドロキシ基;メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基等のアルコキシ基;後述する式(5)中の2つのベンゼン環を連結する架橋構造とする酸素原子等が挙げられる。
【0145】
R9、R10の置換基を有する硫黄原子としては、チオール基;メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基、ノニルチオ基、デシルチオ基等のアルキルチオ基;フェニルチオ基、ベンジルチオ基などのアリールチオ基;スルホ基;後述する式(5)中の2つのベンゼン環を連結する架橋構造とする硫黄原子、スルホニル基等が挙げられる。
【0146】
R9、R10の置換基を有するケイ素原子としては、シリル基、モノメチルシリル基、ジメチルシリル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基;後述する式(5)中の2つのベンゼン環を連結する架橋構造とするケイ素原子等が挙げられる。
【0147】
R9、R10のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子などが挙げられる。
【0148】
R9及び/又はR10のうちの少なくとも2つの基が互いに結合して環を形成する場合、例えば、以下のようなものが挙げられる。
(1) 隣接するR9とR9が互いに結合して、ベンゼン環に縮合する縮合環を形成する。
(2) 隣接するR10とR10が互いに結合して、ベンゼン環に縮合する縮合環を形成する。
(3) R9とR10が結合して、式(5)中の2つのベンゼン環を連結する架橋構造とする。
上記(3)の場合の具体例としては、-O-、-S-、-SO2-、-Si-、-SiH2-、-SiMe2-、又は、-SiEt2-で、2つのベンゼン環上の炭素原子同士を連結する架橋構造が挙げられる。
【0149】
R9、R10としては、なかでもメチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ナフチル基が好ましく、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基がより好ましく、メチル基、フェニル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0150】
h及びiはそれぞれ独立に0~4の整数を表す。なかでもh及びiはそれぞれ独立に0~2の整数が好ましく、0又は1がより好ましく、0がさらに好ましい。
【0151】
このようなカーボネート構造単位(B)の具体例としては、下記式(20)~(27)で表される構造単位が挙げられるが、なかでも式(20)~(26)で表される構造単位が好ましく、式(20)~(25)で表される構造単位がより好ましく、式(20)~(24)で表される構造単位がさらに好ましく、式(20)~(23)で表される構造単位が特に好ましく、式(20)で表される構造単位が最も好ましい。
【0152】
【0153】
【0154】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の熱安定性が良好となることから、より好ましいカーボネート構造(B)の具体例としては下記式(6),(28)~(34)で表される構造単位が挙げられる。なかでも式(6),(28)~(32)で表される構造単位であることが好ましく、式(6),(28)~(31)で表される構造単位がより好ましく、式(6),(28)~(30)で表される構造単位がさらに好ましく、式(6),(28),(29)で表される構造単位が特に好ましく、式(6)で表される構造単位が最も好ましい。
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂におけるカーボネート構造単位(B)は、原料となる芳香族ジヒドロキシ化合物及び後述のカーボネート形成性化合物又はカーボネートエステルを用いて重合し得られるものである。
【0159】
原料となる芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、下記式(35)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0160】
【0161】
(式(35)中、R9、R10、R11、R12、h及びiの定義及び好ましい例は、前記式(5)におけると同様である。)
【0162】
より好ましいカーボネート構造単位(B)を形成するために必要な芳香族ジヒドロキシ化合物の具体例としては、以下が挙げられる。
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1-ビス(2-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1-(2-ヒドロキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1,1-ビス(2-ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1-(2-ヒドロキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1,1-ビス(2-ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1-(2-ヒドロキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、
1,1-ビス(2-ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、
1-(2-ヒドロキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサデカン、
1,1-ビス(2-ヒドロキシフェニル)ヘキサデカン、
1-(2-ヒドロキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタデカン、
1,1-ビス(2-ヒドロキシフェニル)ヘプタデカン、
1-(2-ヒドロキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタデカン、
1,1-ビス(2-ヒドロキシフェニル)オクタデカン、
1-(2-ヒドロキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)オクタデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ノナデカン、
1,1-ビス(2-ヒドロキシフェニル)ノナデカン、
1-(2-ヒドロキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシフェニル)ノナデカン、
【0163】
1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1-ビス(2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ドデカン、
1-(2-ヒドロキシ-3-メチル-フェニル)-1-(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1,1-ビス(2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)トリデカン、
1-(2-ヒドロキシ-3-メチル-フェニル)-1-(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1,1-ビス(2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)テトラデカン、
1-(2-ヒドロキシ-3-メチル-フェニル)-1-(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、
1,1-ビス(2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ペンタデカン、
1-(2-ヒドロキシ-3-メチル-フェニル)-1-(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、
1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサデカン、
1,1-ビス(2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ヘキサデカン、
1-(2-ヒドロキシ-3-メチル-フェニル)-1-(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサデカン、
1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ヘプタデカン、
1,1-ビス(2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ヘプタデカン、
1-(2-ヒドロキシ-3-メチル-フェニル)-1-(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ヘプタデカン、
1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)オクタデカン、
1,1-ビス(2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)オクタデカン、
1-(2-ヒドロキシ-3-メチル-フェニル)-1-(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)オクタデカン、
【0164】
1,1-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ノナデカン、
1,1-ビス(2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ノナデカン、
1-(2-ヒドロキシ-3-メチル-フェニル)-1-(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)ノナデカン、
1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、
1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサデカン、
1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)ヘプタデカン、
1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)オクタデカン、
1,1-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)ノナデカン、
1,1-ビス(3-エチル-4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1-ビス(3-エチル-4-ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1,1-ビス(3-エチル-4-ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1,1-ビス(3-エチル-4-ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、
1,1-ビス(3-エチル-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサデカン、
1,1-ビス(3-エチル-4-ヒドロキシフェニル)ヘプタデカン、
1,1-ビス(3-エチル-4-ヒドロキシフェニル)オクタデカン、
1,1-ビス(3-エチル-4-ヒドロキシフェニル)ノナデカン、
1,1-ビス(3-プロピル-4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1-ビス(3-プロピル-4-ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1,1-ビス(3-プロピル-4-ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1,1-ビス(3-プロピル-4-ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、
1,1-ビス(3-プロピル-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサデカン、
1,1-ビス(3-プロピル-4-ヒドロキシフェニル)ヘプタデカン、
1,1-ビス(3-プロピル-4-ヒドロキシフェニル)オクタデカン、
1,1-ビス(3-プロピル-4-ヒドロキシフェニル)ノナデカン、
【0165】
1,1-ビス(3-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1-ビス(3-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1,1-ビス(3-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1,1-ビス(3-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、
1,1-ビス(3-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサデカン、
1,1-ビス(3-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ヘプタデカン、
1,1-ビス(3-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)オクタデカン、
1,1-ビス(3-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ノナデカン、
1,1-ビス(3-ノニル-4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1-ビス(3-ノニル-4-ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1,1-ビス(3-ノニル-4-ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1,1-ビス(3-ノニル-4-ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、
1,1-ビス(3-ノニル-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサデカン、
1,1-ビス(3-ノニル-4-ヒドロキシフェニル)ヘプタデカン、
1,1-ビス(3-ノニル-4-ヒドロキシフェニル)オクタデカン、
1,1-ビス(3-ノニル-4-ヒドロキシフェニル)ノナデカン。
【0166】
これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0167】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂のカーボネート構造単位(B)を形成するために必要な芳香族ジヒドロキシ化合物としては、なかでも芳香族ポリカーボネート樹脂の熱安定性と、芳香族ジヒドロキシ化合物の入手しやすさの観点より、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ノナデカン、
が好ましく、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサデカン、
がより好ましく、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、
がさらに好ましく、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)トリデカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)テトラデカン、
が特に好ましく、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン
が最も好ましい。
【0168】
<その他の構造単位>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、カーボネート構造単位(A)及びカーボネート構造単位(B)以外の構造単位(以下、「その他の構造単位」と称することがある。)を含んでいてもよく、樹脂中にその他の構造単位を形成するモノマーとしては、例えば、芳香族成分を含有するジヒドロキシ化合物、ジエステル化合物等が挙げられる。これらのなかでも、反応効率を高める観点から、芳香族成分を含有するジヒドロキシ化合物が好ましい。
【0169】
(芳香族成分を含有するジヒドロキシ化合物)
芳香族成分を含有するジヒドロキシ化合物としては、例えば、以下のジヒドロキシ化合物を用いることができる。
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3-フェニル)フェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3,5-ジフェニル)フェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-エチルヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、
ビス(4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニル)メタン、
3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、
1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、
2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、
ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、
4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジクロロジフェニルエーテル、
6,6’-ジヒドロキシ-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、
7,7’-ジメチル-6,6’-ジヒドロキシ-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、
9,9-ビス(2-ヒドロキシナフチル)フルオレン
等の芳香族ビスフェノール化合物;
2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、
2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、
1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、
4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、
ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホン、
9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、
9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、
9,9-ビス(2-(2-ヒドロキシエトキシ)ナフチル)フルオレン
等の芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物:
【0170】
ただし、芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物と後述のカーボネート形成性化合物又はカーボネートエステルから誘導されるカーボネート構造単位は樹脂の熱安定性の低下を及ぼすので、芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物の使用量はより少ないことが好ましい。
【0171】
その他の構造単位を形成する、芳香族成分を含有するジヒドロキシ化合物としては、耐熱性と原料価格のバランスから、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)が好ましい。
【0172】
(ジエステル化合物)
ジエステル化合物としては、例えば、以下に示すジカルボン酸等を用いることができる。
テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;
1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、デカリン-2,6-ジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;マロン酸、コハク酸、グルタ酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸:
尚、これらのジカルボン酸成分はジカルボン酸そのものとしてポリエステルカーボネートの原料とすることができるが、製造法に応じて、メチルエステル体、フェニルエステル体等のジカルボン酸エステルや、ジカルボン酸ハライド等のジカルボン酸誘導体を原料とすることもできる。ジエステル化合物の重合反応性は比較的低いため、反応効率を高める観点からは、カーボネートエステル及びオリゴフルオレン構造単位を有するジエステル化合物を除く、その他のジエステル化合物はより少ないことが好ましい。
【0173】
その他の構造単位を形成するためのジヒドロキシ化合物やジエステル化合物は、得られる樹脂の要求性能に応じて、単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。樹脂中のその他の構造単位の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂を構成する全ての構造単位、及び連結基の質量の合計量を100質量%とした際に、50質量%以下が好ましく、40質量%以下より好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましい。その他の構造単位は主に樹脂の耐熱性の調整や、柔軟性や靱性の付与の役割を担うが、その含有量が多すぎると、耐熱性や光学特性が悪化するおそれがある。
【0174】
<芳香族ポリカーボネート樹脂の特性>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、適切な割合でカーボネート構造単位(A)を含有することで、耐熱性向上、屈折率向上、複屈折低減の効果をもたらし、適切な割合でカーボネート構造単位(B)を含有することで、高耐熱性、高屈折率を維持しながら、溶融流動性が向上し成形体の複屈折低減の効果ももたらす。さらに、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、主骨格が脂肪族ヒドロキシ化合物由来のカーボネート結合ではないため、熱安定性が高く、高温での製造や射出成形が可能である。
【0175】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、高いガラス転移温度(Tg)を有しており、耐熱性に優れている。芳香族ポリカーボネート樹脂のTgは、好ましくは150℃以上、より好ましくは160℃以上である。
【0176】
一方、良好な成形性も確保できる観点から、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂のTgは、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下であり、200℃以下がさらに好ましい。
【0177】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、カーボネート構造単位(A)及びカーボネート構造単位(B)を上述の好適な範囲で含むことにより、ガラス転移温度を、高い耐熱性と良好な成形性とを両立可能な範囲に容易に調整できる。それゆえ、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、車載用光学レンズなどの高温環境下に晒されることが想定される用途においても好適である。
【0178】
尚、芳香族ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0179】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、JIS K 7199(1999年版)に準拠し、キャピラリーレオメーターを用いて、300℃,1216s-1の条件で測定した溶融粘度が、20~1000Pa・sであることが好ましく、40~500Pa・sであることがより好ましい。溶融粘度が上記下限値以上であれば、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂からなる成形体の機械物性が良好となる。また、溶融粘度が上記上限値以下であれば、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の流動性、成形性が良好となり、また得られる成形体の複屈折を低減できる傾向がある。
【0180】
尚、芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0181】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、溶液粘度から換算した粘度平均分子量(Mv)で、好ましくは5,000~50,000である。粘度平均分子量が上記下限値以上であれば、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂からなる成形体の機械物性が良好となる。また、粘度平均分子量が上記上限値以下であれば、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の流動性、成形性が良好となる傾向がある。このような観点より、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、より好ましくは6,000~30,000である。
【0182】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、溶媒として塩化メチレンを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での固有粘度(極限粘度)[η](単位dL/g)を求め、Schnellの粘度式、即ち、η=1.23×10-4Mv0.83から算出される値を意味する。また固有粘度(極限粘度)[η]とは、各溶液濃度[C](g/dL)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【0183】
【0184】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の波長589nmにおける温度20℃での屈折率(nD)は、例えば1.600以上であり、好ましくは1.600以上1.700以下であり、より好ましくは1.610以上1.680以下である。屈折率が1.600以上であれば樹脂をレンズ等の光学材料として用いた時の付加価値が高い。屈折率1.700を超える芳香族ポリカーボネート樹脂とするには、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂にカーボネート構造単位(A)及びカーボネート構造単位(B)以外の高屈折率な構造単位を形成する必要があり、樹脂のTgが過度に高くなったり、樹脂の熱安定性が低下したり、金型汚染性が増加する恐れがある。
【0185】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の温度20℃でのアッベ数(νD)は、例えば、35.0以下であり、好ましくは15.0以上35.0以下であり、より好ましくは16.0以上32.0以下である。アッベ数が小さければ、COP(シクロオレフィンポリマー)等の高アッベ数凸レンズと組み合わせて用いられる収差補正用低アッベ数凹レンズの材料として有用である。
【0186】
ここで、屈折率は小数点4桁目を四捨五入、アッベ数は小数点2桁目を四捨五入した値を表す。尚、芳香族ポリカーボネート樹脂の屈折率、アッベ数は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0187】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の5%熱重量減少温度(Td)は、350℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましく、410℃以上がさらに好ましい。5%熱重量減少温度が高いほど、熱安定性が高くなり、より高温での使用に耐えるものとなる。また、製造温度も高くでき、より製造時の制御幅が広くできるので、製造し易くなる。一方、5%熱重量減少温度が低いほど、熱安定性が低くなり、高温での使用が困難になる。また、製造時の制御許容幅が狭くなり製造しにくくなる。5%熱重量減少温度の上限には特に制限はない。
【0188】
尚、芳香族ポリカーボネート樹脂の5%熱重量減少温度は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0189】
[芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、従来から知られている重合法により製造することができ、その重合法は、特に限定されるものではない。重合法の例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法等を挙げることができる。以下、これらの方法のうち特に好適なものについて具体的に説明する。
【0190】
<界面重合法>
界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、原料のジヒドロキシ化合物とカーボネート形成性化合物とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得る。尚、反応系には、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)を存在させるようにしてもよく、原料ジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させるようにしてもよい。
【0191】
反応に不活性な有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;等が挙げられる。尚、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0192】
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられる。中でも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。尚、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0193】
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限は無いが、通常、アルカリ水溶液のpHを10~12にコントロールするために、アルカリ化合物濃度は5~10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10~12、好ましくは10~11になる様にコントロールするために、原料ジヒドロキシ化合物とアルカリ化合物とのmol比を、通常1:1.9以上、中でも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、中でも1:2.5以下とすることが好ましい。
【0194】
原料のジヒドロキシ化合物として、前述のカーボネート構造単位(A)を形成するのに必要な芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート構造単位(B)を形成するのに必要な芳香族ジヒドロキシ化合物をどちらも含むジヒドロキシ化合物を用いることにより、カーボネート構造単位(A)とカーボネート構造単位(B)とを有する本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造することができる。
【0195】
カーボネート形成性化合物としては、カルボニルハライドが好適に用いられ、中でもホスゲンを用いることが好ましく、ホスゲンを用いた場合の方法は特にホスゲン法と呼ばれる。
【0196】
重合触媒としては、特に限定されないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン等の脂肪族三級アミン;N,N’-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’-ジエチルシクロヘキシルアミン等の脂環式三級アミン;N,N’-ジメチルアニリン、N,N’-ジエチルアニリン等の芳香族三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;ピリジン;グアニン;グアニジンの塩;等が挙げられる。尚、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0197】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、例えば、一価のフェノール性水酸基を有する芳香族アルコール;メタノール、ブタノール等の脂肪族アルコール;メルカプタン;フタル酸イミド等が挙げられるが、中でも芳香族アルコールが好ましい。
【0198】
このような芳香族アルコールとしては、具体的には、フェノール、o-n-ブチルフェノール、m-n-ブチルフェノール、p-n-ブチルフェノール、o-イソブチルフェノール、m-イソブチルフェノール、p-イソブチルフェノール、o-t-ブチルフェノール、m-t-ブチルフェノール、p-t-ブチルフェノール、o-n-ペンチルフェノール、m-n-ペンチルフェノール、p-n-ペンチルフェノール、o-n-ヘキシルフェノール、m-n-ヘキシルフェノール、p-n-ヘキシルフェノール、p-t-オクチルフェノール、o-シクロヘキシルフェノール、m-シクロヘキシルフェノール、p-シクロヘキシルフェノール、o-フェニルフェノール、m-フェニルフェノール、p-フェニルフェノール、o-n-ノニルフェノール、m-n-ノニルフェノール、p-n-ノニルフェノール、o-クミルフェノール、m-クミルフェノール、p-クミルフェノール、o-ナフチルフェノール、m-ナフチルフェノール、p-ナフチルフェノール、2,5-ジ-t-ブチルフェノール、2,4-ジ-t-ブチルフェノール、3,5-ジ-t-ブチルフェノール、2,5-ジクミルフェノール、3,5-ジクミルフェノール、p-クレゾール、ブロモフェノール、トリブロモフェノール、平均炭素数12~35の直鎖状または分岐状のアルキル基をオルト位、メタ位またはパラ位に有するモノアルキルフェノール、9-(4-ヒドロキシフェニル)-9-(4-メトキシフェニル)フルオレン、9-(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-9-(4-メトキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、4-(1-アダマンチル)フェノール等が挙げられる。これらの中では、p-t-ブチルフェノール、p-フェニルフェノール及びp-クミルフェノールが好ましく用いられる。
【0199】
尚、分子量調整剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0200】
分子量調整剤の使用量は、特に限定されないが、例えば、原料のジヒドロキシ化合物100molに対して、通常0.5mol以上、好ましくは1mol以上であり、また、通常50mol以下、好ましくは30mol以下である。分子量調整剤の使用量をこの範囲とすることで、芳香族ポリカーボネート樹脂の熱安定性及び耐加水分解性を向上させることができる。
【0201】
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン,2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0202】
中でも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤の市販品としては、BASF社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO-50」、「アデカスタブAO-60」等が挙げられる。
【0203】
他の酸化防止剤として、例えば、ホスファイト系酸化防止剤も挙げられる。その具体例としては、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(オクタデシルオキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)2-エチルフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、テトラ(C12-C15アルキル)-4,4’-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、2-エチルヘキシルジフェニルホスファイト、イソデシルジフェニルホスファイト、トリイソデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト等が挙げられる。
【0204】
中でも、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカンが好ましい。このようなホスファイト系酸化防止剤の市販品としては、BASF社製「イルガフォス168」、ADEKA社製「アデカスタブ2112」、「アデカスタブPEP-36」等が挙げられる。
【0205】
尚、酸化防止剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0206】
酸化防止剤の使用量は、特に限定されないが、例えば原料ジヒドロキシ化合物100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。酸化防止剤の使用量が前記範囲の下限値未満の場合は、酸化防止剤としての効果が不十分となる可能性があり、酸化防止剤の使用量が前記範囲の上限値を超える場合は、射出成形時にガスが出やすくなる可能性がある。
【0207】
反応の際に、反応基質(反応原料)、反応溶媒(有機溶媒)、触媒、添加剤等を混合する順序は、所望の芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順序を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート形成性化合物としてホスゲンを用いた場合には、分子量調整剤は原料ジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば任意の時期に混合できる。
尚、反応温度は特に限定されないが、通常0~40℃であり、反応時間は、特に限定されないが、通常は数分(例えば、10分)~数時間(例えば、6時間)である。
【0208】
<溶融エステル交換法>
溶融エステル交換法では、例えば、カーボネートエステルと原料ジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を行う。
原料ジヒドロキシ化合物は、界面重合法におけるものと同様である。また、その他の構造単位を形成するのに必要なモノマーについても、界面重合法におけるものと同様である。
【0209】
カーボネートエステルとしては、例えば、下記式(I)で表される化合物であればよく、アリールカーボネート類、ジアルキルカーボネート類やジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0210】
【0211】
(式(I)中、R21、R22はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい、炭素数1~30のアルキル基、アリール基、またはアリールアルキル基を示す。)
【0212】
以下、R21及びR22が、アルキル基、アリールアルキル基のときジアルキルカーボネートと称し、アリール基のときジアリールカーボネートと称すことがある。中でも芳香族ジヒドロキシ化合物との反応性の観点よりR21及びR22は、共にアリール基であることが好ましく、カーボネートエステルとしては、下記式(II)で表されるジアリールカーボネートであることがより好ましい。
【0213】
【0214】
(式(II)中、R23、R24はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシカルボニル基、炭素数4~20のシクロアルキル基、または炭素数6~20のアリール基であり、p及びqはそれぞれ独立に0~5の整数を表す。)
【0215】
このようなカーボネートエステルとしては、具体的にはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-t-ブチルカーボネート等のジアルキルカーボネート、ジフェニルカーボネート(以下、「DPC」と略記する場合がある。)、ビス(4-メチルフェニル)カーボネート、ビス(4-クロロフェニル)カーボネート、ビス(4-フルオロフェニル)カーボネート、ビス(2-クロロフェニル)カーボネート、ビス(2,4-ジフルオロフェニル)カーボネート、ビス(4-ニトロフェニル)カーボネート、ビス(2-ニトロフェニル)カーボネート、ビス(メチルサリチルフェニル)カーボネート、ジトリルカーボネート等の(置換基を有していてもよい)ジアリールカーボネートが挙げられるが、中でもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0216】
尚、これらのカーボネートエステルは、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0217】
また、前記のカーボネートエステルは、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステル等のジエステル化合物で置換してもよく、その場合にはポリエステルカーボネートが得られる。ジエステル化合物の重合反応性は比較的低いため、反応効率を高める観点からは、その他のジエステル化合物はより少ないことが好ましい。前記カーボネートエステルのジエステル化合物での置換割合としては、好ましくはその50mol%以下、さらに好ましくは30mol%以下である。代表的なジエステル化合物は前述の通りである。
【0218】
原料ジヒドロキシ化合物とカーボネートエステルとの比率は所望の芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、これらカーボネートエステルは、ジヒドロキシ化合物と重合させる際に、原料ジヒドロキシ化合物に対して過剰に用いることが好ましい。即ち、カーボネートエステルの使用量は、原料ジヒドロキシ化合物に対して、1.01~1.30倍量(mol比)であることが好ましく、1.02~1.20倍量(mol比)であることがより好ましい。このmol比が小さすぎると、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂の末端OH基が多くなり、樹脂の熱安定性が悪化する傾向となる。一方、このmol比が大きすぎると、エステル交換の反応速度が低下し、所望の分子量を有する芳香族ポリカーボネート樹脂の生産が困難となる場合や、樹脂中のカーボネートエステルの残存量が多くなり、成形加工時や成形品としたときの臭気の原因となる場合がある。
【0219】
溶融エステル交換法により芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は、特に限定されず、従来から公知のものを使用できる。例えばアルカリ金属化合物及び/またはアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また、補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用してもよい。尚、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0220】
溶融エステル交換法において、反応温度は、特に限定されないが、通常100~320℃である。また、反応時の圧力は、特に限定されないが、通常2mmHg以下の減圧条件である。具体的操作としては、前記の条件で、副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
【0221】
ここで、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、アルカリ触媒存在下では、顕著に熱履歴や酸化の影響を受け、色相の悪化に繋がる。そのため、反応温度は320℃以下とし、また、過度の減圧により、機器からの酸素の漏れ込みを防ぐため、0.05mmHg程度までを下限とした減圧条件を選択することが好ましい。
【0222】
反応形式は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応溶媒、触媒、添加剤等を混合する順序は、所望の芳香族ポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順序を任意に設定すればよい。
【0223】
溶融エステル交換法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いてもよい。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物及びその誘導体、リン含有酸性化合物及びその誘導体等が挙げられる。尚、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0224】
触媒失活剤の使用量は、特に限定されないが、前記のエステル交換触媒に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上、より好ましくは3当量以上であり、また、通常50当量以下、好ましくは10当量以下、より好ましくは8当量以下である。また、触媒失活剤の使用量は、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して、通常1ppm以上、100ppm以下で、好ましくは50ppm以下である。
【0225】
[芳香族ポリカーボネート樹脂組成物]
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂と、公知の添加剤及び/又は本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂以外の樹脂(以下、「その他の樹脂」と称することがある。)との混合物である。
【0226】
該添加剤としては本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂の優れた諸物性を損なわない範囲であれば、公知のものを特に制限なく使用できる。該添加剤としては、後述の本発明の成形体が含有し得る添加剤として例示した各種添加剤が挙げられるが、なかでも熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、輝度向上剤、染料、顔料、離型剤、流動改質剤及び耐衝撃性向上剤からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0227】
さらに、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂に加えて、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じてその他の樹脂を含有してもよい。その他の樹脂としては、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂以外のポリカーボネート樹脂、及びポリカーボネート樹脂以外の樹脂が挙げられる。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂以外のポリカーボネート樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネート樹脂が挙げられる。そのようなポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネート樹脂が耐熱性及び屈折率が比較的高く、安価なため好ましい。ポリカーボネート樹脂以外の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート樹脂等の熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン系ゴム-スチレン共重合体(AES樹脂)等のスチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリメタクリレート樹脂等が挙げられる。
【0228】
尚、その他の樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0229】
[成形体]
本発明の成形体は、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂、もしくは本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を含んだ材料を成形することにより製造することができる。
【0230】
本発明の成形体の形状は、特に限定されず、例えば、一次元的構造(例えば、線状、糸状など)、二次元的構造(例えば、フィルム状、シート状、板状など)、三次元的構造(例えば、凹又は凸レンズ状、棒状、中空状(管状)など)などが挙げられる。
【0231】
本発明の成形体は、各種添加剤[例えば、充填剤又は補強剤、着色剤(例えば、染顔料など)、導電剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、安定剤(例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、離型剤、帯電防止剤、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、低応力化剤(例えば、シリコーンオイル、シリコーンゴム、各種プラスチック粉末、各種エンジニアリングプラスチック粉末など)、炭素材など]を含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0232】
本発明の成形体は、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法などを利用して製造することができる。
【0233】
このような成形法により本発明の成形体を製造する場合、成形時の最高温度は300℃以上とすることが好ましい。成形時の最高温度が300℃以上であれば、成形時の流動性を高めて、複屈折がより一層低減された成形体を得ることができる。即ち本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、耐熱性に優れ、幅広い温度域での成形、特に射出成形に供することができるため、このような高温度での成形でより複屈折を低くすることができる。複屈折低減の観点から、成形時の最高温度は310℃以上がより好ましく、340℃以上がさらに好ましい。ただし、成形温度が過度に高いと成形時に樹脂が熱分解をする場合があるため、成形時の最高温度は400℃以下であることが好ましい。
【0234】
本発明の成形体は、優れた耐熱性及び光学的特性(高屈折率、低複屈折など)を有しているため、光学フィルム、光学レンズ、光学シートなどの光学部材として利用できる。
【0235】
特に、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、従来のポリカーボネートレンズと同様に射出成形に好適であるため、光学レンズの形成に有用である。光学レンズとしては、特に制限されないが、車載用レンズ、メガネレンズ、ピックアップレンズ、カメラレンズ、マイクロアレーレンズ、プロジェクターレンズ及びフレネルレンズなどが挙げられる。特に、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、高い耐熱性を有するため、車載用光学レンズなどの高温環境下における使用が想定される用途であっても好適に利用できる。
【実施例】
【0236】
以下、合成例および実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0237】
以下の実施例及び比較例で製造した芳香族ポリカーボネート樹脂の物性は、下記の方法により評価した。
【0238】
(1) 300℃,1216s-1での溶融粘度
東洋精機社製キャピログラフ1Bを用いて、JIS K 7199に準拠し、300℃,1216s-1の条件で、1mmφ×10mmのオリフィスを使用して測定を行った。
【0239】
(2) 比粘度[ηsp]・粘度平均分子量(Mv)
ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解し(濃度6.0g/L)、ウベローデ粘度管(森友理化工業社製)を用いて比粘度[ηsp]を測定した。そして、前述の式により20℃における固有粘度(極限粘度)[η](単位dL/g)を求め、Schnellの粘度式(下記式)から粘度平均分子量(Mv)を算出した。
η=1.23×10-4Mv0.83
【0240】
(3) ガラス転移温度(Tg)
エスアイアイナノテクロノジー社製示差操作熱量計DSC6220を用いて、試料約10mgを20℃/minの昇温速度で加熱して熱量を測定し、JIS K7121に準拠して、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大となるような点で引いた接線との交点の温度である、補外ガラス転移開始温度を求めた。該補外ガラス転移温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0241】
(4) 5%熱重量減少温度(Td)
エスアイアイナノテクロノジー社製TG/DTA7200を用い、試料約10mgを容器に載せ、窒素雰囲気下(窒素流量50ml/分)、昇温速度10℃/分で30℃から500℃まで測定し、5%重量が減少した際の温度(Td)を求めた。
【0242】
(5) 屈折率(nD)、アッベ数(νD)
100℃で2時間、真空乾燥をした樹脂試料約4gを、幅8cm、長さ8cm、厚さ0.5mmのスペーサーを用いて、熱プレスにて熱プレス温度200~250℃で、予熱1~3分、圧力20MPaの条件で1分間加圧後、スペーサーごと取り出し室温で冷却し、厚み100~300μmのフィルムを作製した。このフィルムから、長さ40mm、幅8mmの長方形の試験片を切り出して測定試料とした。多波長アッベ屈折率計(株式会社アタゴ製DRM4/1550)で、波長656nm(C線)、589nm(D線)、486nm(F線)の干渉フィルターを用いて、各波長の屈折率、nC、nD、nFを測定した。測定は、界面液としてモノブロモナフタレンを用い、20℃で行った。
アッベ数νDは次の式で計算した。
νD=(1-nD)/(nC-nF)
【0243】
(6) 試験片作製方法
小型射出成形機(株式会社新興セルビックC,Mobile)を用いて、表1A,1Bに記載のシリンダー温度及び金型温度の条件下にて、全長75mm、平行部長さ30mm、平行部幅5mm、厚さ2mm、つかみ部幅10mmのダンベル状樹脂プレートを成形し、試験片を得た。
【0244】
(7) 強度評価
前記(6)試験片作製方法で作製した試験片を、端部から37.5mmの位置、すなわち長さ方向の中央部分を折り目として、手を用いて90°折り曲げを行った。5本の試験片を90°折り曲げた際に、割れが発生した割合を分数の形で記載した。
前記(6)試験片作製方法で、試験片を成形できなかった場合は、その旨を示した。
【0245】
(8)色調評価
前記(6)試験片作製方法で作製した試験片の色調を目視にて観察することにより、色調を下記基準で評価した。
○:透明であり、ほとんど着色が見られない
△:透明だが、はっきりとした着色が見られる
×:不透明である
前記(6)試験片作製方法で、試験片を成形できなかった場合は、その旨を示した。
【0246】
(7)複屈折
前記(6)試験片作製方法で作製した試験片を、偏光色が最も強く現れる角度でクロスニコル状態となる2枚の偏光子の間に挟み、観察台の上において後方から白色光が照射された条件下において、試験片に現れる偏光色を目視にて観察し、複屈折の程度を下記基準で評価した。
◎:偏光色が見られない、または、幅5mmの平行部のみに偏光色が見られ色が1色
○:幅5mmの平行部のみに偏光色が見られ色が2色
△:幅5mmの平行部のみに偏光色が見られ色が3色以上
×:試験片全体に偏光色が見られる
前記(6)試験片作製方法で、試験片を成形できなかった場合は、その旨を示した。
【0247】
[合成例1:1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン(以下「BP12A」と略記する。)の合成]
特開2019-085399号公報の<実施例1>に記載の方法で、BP12Aを合成した。
【0248】
[合成例2:1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン(以下「BP10A」と略記する。)の合成]
国際公開第2017/099227号の<合成例2>に記載の方法で、BP10Aを合成した。
【0249】
[芳香族ポリカーボネート樹脂の合成例及び特性評価]
以下の実施例及び比較例で用いた化合物の略号等は以下の通りである。
・BisAP:1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(東京化成工業(株)製)
・BisBP:ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン(東京化成工業(株)製)
・BCF:9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製)
・BNF:6,6’-(9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス(2-ナフトール)(BLD Pharmatech社製)
・BP12A:1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン
・BPA:2,2-ビス[4-ヒドロキシフェニル]プロパン(三菱ケミカル(株)製)
・BP10A:1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン
・BPEF:9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(大阪ガスケミカル(株)製)
・DPC:ジフェニルカーボネート(三菱ケミカル(株)製)
・PTSB:触媒失活剤、パラトルエンスルホン酸ブチル(東京化成工業(株)製)
・アデカスタブ2112:酸化防止剤、アデカスタブ2112(ADEKA社製)
・Irg1076:酸化防止剤、イルガノックス1076(BASF社製)
【0250】
[実施例1]
反応器攪拌機、反応器加熱装置、反応器圧力調整装置を付帯したガラス製反応器に、原料のジヒドロキシ化合物の合計を100mol%とした時に、BisAP 97.0mol%と、BP12A 3.0mol%と、DPC 103.5mol%、及び触媒として炭酸セシウム0.4質量%水溶液を、炭酸セシウムが0.8mmol%となるように添加して原料混合物を調製した。
【0251】
次に、ガラス製反応器内を約50Pa(0.38Torr)に減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応器の内部を窒素置換した。窒素置換後、反応器外部温度を220℃にし、反応器の内温を徐々に昇温させ、混合物を溶解させた。その後、100rpmで撹拌機を回転させた。そして、反応器の内部で行われるジヒドロキシ化合物とDPCのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応器内の圧力を絶対圧で101.3kPa(760Torr)から13.3kPa(100Torr)まで減圧した。
【0252】
続いて、反応器内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールをさらに留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。その後、反応器外部温度を250℃に昇温、40分間かけて反応器内圧力を絶対圧で13.3kPa(100Torr)から399Pa(3Torr)まで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。さらに、反応器外部温度を290℃に昇温、反応器内の絶対圧を30Pa(約0.2Torr)まで減圧し、重縮合反応を行った。反応器の攪拌機が予め定めた所定の攪拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。
【0253】
次いで、反応器内を、窒素により絶対圧で101.3kPaに復圧の上、ゲージ圧で0.2MPaまで昇圧し、反応器の槽底から芳香族ポリカーボネート樹脂をストランド状に抜き出し、ストランド状の芳香族ポリカーボネート樹脂を得た後、回転式カッターを使用してペレット状の芳香族ポリカーボネート樹脂Aを得た。
この芳香族ポリカーボネート樹脂Aに対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表1Aに示す。
【0254】
[実施例2~8、比較例1~4]
溶融重合の原料・条件を表1A,1Bに記載の通りにした以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリカーボネート樹脂を得た。この芳香族ポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表1A,1Bに示す。
【0255】
【0256】
【0257】
[実施例9,10]
実施例3で得られた樹脂Cについて、表2に記載のシリンダー温度及び金型温度の条件下にて、前述の方法で試験片を作製し、複屈折を評価した。結果を実施例3の結果と共に表2に示す。
【0258】
【0259】
[実施例11]
実施例3で得られた樹脂C及び、添加剤成分のPTSB、アデカスタブ2112、Irg1076を下記表3に記載の割合(質量部)で配合して混合した後、1ベントを備えた日本製鋼所社製(TEX30HSS)に供給し、スクリュー回転数160rpm、吐出量15kg/h、バレル温度290℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化し、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物Mのペレットを得た。このポリカーボネート樹脂組成物Mに対して、上記の方法で複屈折の評価を行った。結果を実施例3の結果と共に表3に示す。
【0260】
【0261】
[評価結果の考察]
実施例1~8の芳香族ポリカーボネート樹脂A~Hは、耐熱性、熱安定性及び強度に優れていることが分かる。さらに、nDが高く成形体の複屈折が小さいという優れた光学的特性を有している。
【0262】
実施例9、10で示すように、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は350℃よりも低い温度でも射出成形が可能であるが、成形温度が高い方が複屈折の観点から好ましい。
【0263】
実施例11で示すように、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は添加剤成分と練り込み、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物とすることができ、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は射出成形可能であり、その成形体も低複屈折である。
【0264】
一方、比較例1の樹脂Iは、Tg及びTdが高いが、カーボネート構造単位(B)を形成するジヒドロキシ化合物BP12Aを用いておらず、強度が低い。
【0265】
比較例2は、Tg及びTdが高いが、nDが低く成形体の複屈折が大きい。光学的特性が劣っているため、光学部材の材料として不利である。比較例2では、実施例1とは異なり、カーボネート構造単位(B)を形成するジオールモノマーBP12Aを用いておらず、かつカーボネート構造単位(A)を形成するBisAPの組成比が低いため、成形体の複屈折が大きくなる。nDを高くしようとしてBisAPの組成比を増加させると、強度が低下することが想定される。
【0266】
比較例3の樹脂Kは、実施例6の樹脂Fと比較すると、Tg及びTdは同程度であるが、nDが低く成形体の複屈折が大きい。光学的特性が劣っているため、光学部材の材料として不利である。比較例3は、実施例6とは異なり、カーボネート構造単位(B)を形成するジヒドロキシ化合物としてBP12Aの代りにBP10Aを用いており、また、カーボネート構造単位(A)を形成するジヒドロキシ化合物BisBPの組成比が低いため、成形体の複屈折が大きくなる。nDを高くしようとしてBisBPの組成比を増加させると、強度が低下することが想定される。
【0267】
比較例4は、nDが高く複屈折が小さいが、Tg及びTdが低く、耐熱性及び熱安定性が劣っている。このため、高耐熱が求められる成形体の材料として用いることができない。そしてシリンダー温度350℃での射出成形が実施できず、成形性が劣っている。これは実施例1~8の樹脂A~Hとは異なり、主骨格が脂肪族ヒドロキシ化合物由来のカーボネート結合であることによるためであり、熱安定性が悪い。
【0268】
以上より、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂及び芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、比較例の樹脂と比較して、耐熱性、熱安定性が高く、かつ高屈折率、低複屈折という優れた光学的特性を有しており、さらに成形性に優れたものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0269】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、高い耐熱性、熱安定性を有しながら、高屈折率、低複屈折という優れた光学的特性を有しており、さらに優れた成形性を有している。
そのため、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂及びそれを含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、射出成形等の方法により容易に光学部材に加工することができる。これらの光学部材は、ビスフェノールAから誘導されるポリカーボネート樹脂などの従来のポリカーボネート樹脂を用いた光学部材と比較して、高耐熱性を有しながら、高屈折率かつ低複屈折性を有しており優れている。
【0270】
このような光学部材としては、例えば、光学レンズ、光学フィルム、光学シートなどが挙げられる。光学レンズとしては、例えば、車載用レンズ、メガネレンズ、ピックアップレンズ、カメラレンズ、マイクロアレーレンズ、プロジェクターレンズ、フレネルレンズなどが挙げられる。特に、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂は、高い耐熱性を有するため、車載用レンズなどの高温環境下における使用が想定される光学部材の材料として好適に利用できる。