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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】透光性積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/00 20060101AFI20241029BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20241029BHJP
   B32B 38/18 20060101ALI20241029BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C25D11/00 308
B32B9/00 A
B32B38/18 E
C25D11/04 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020206027
(22)【出願日】2020-12-11
(65)【公開番号】P2022092989
(43)【公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】山口 久美子
(72)【発明者】
【氏名】村田 貴朗
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-172490(JP,A)
【文献】特開平7-331459(JP,A)
【文献】特開2009-102721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D11/00-11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基材上に金属薄膜を有する積層体よりなる被酸化体を電解液に浸漬し、該金属薄膜を陽極酸化して、該透光性基材上に金属酸化皮膜を有する光透過性積層体を製造する方法であって、
前記金属薄膜の特定部分を被覆材で被覆し、前記電解液と大気とが接する気液界面が、該特定部分に位置するように、前記被酸化体を該電解液に浸漬して陽極酸化する方法であり、
前記特定部分が、前記電解液に浸漬された前記被酸化体の上端から離隔し、かつ前記気液界面方向に線状に延在する第1の特定部分と、該被酸化体の左端縁部である第2の特定部分、右端縁部である第3の特定部分及び下端縁部である第4の特定部分とを有し、該第1の特定部分に前記気液界面が位置することを特徴とする透光性積層体の製造方法。
【請求項2】
前記金属薄膜がアルミニウム薄膜であることを特徴とする請求項1に記載の透光性積層体の製造方法。
【請求項3】
前記被覆材が接着テープ又は粘着テープであることを特徴とする請求項1又は2に記載の透光性積層体の製造方法。
【請求項4】
前記陽極酸化後に、非陽極酸化部を切除することを特徴とする請求項1~の何れか1項に記載の透光性積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の耐腐食性、耐摩耗性を向上させるために、陽極酸化処理という手法が広く利用されている。陽極酸化処理は、対象となる金属を陽極で電解処理することで表面に人工的に酸化皮膜を生成させる方法であり、金属はその酸化皮膜によって保護される。陽極酸化によって得られる皮膜は透明であるが、基材である金属が残存していると全体的には不透明となる。このため、従来、このような陽極酸化処理を施した金属は、透明性が要求される用途には使用されてこなかった。
【0003】
下地となる金属を完全に陽極酸化することで、透明な材料を作製することが可能であり、そのためには金属層を薄くすれば良い。例えば、透光性基材上に金属薄膜を有する積層体を用い、この積層体を電解液に浸漬して金属薄膜を完全に陽極酸化することにより、透光性基材上に透明な金属酸化皮膜を有する光透過性積層体を製造することができる。
ここで、陽極酸化は、具体的には、金属薄膜が形成された透光性基材よりなる被酸化体を、電解液に浸漬し、この被酸化体の電解液から表出した部分の金属薄膜に接続した陽極端子と、電解液中において、この金属薄膜に非接触でかつ金属薄膜と対向するように設けた陰極板との間に電圧を印加することで行われる。
【0004】
しかし、この場合、陽極酸化反応が電解液の気液界面部分で優先的に進行するため、気液界面部分の金属薄膜が他の部分に先行して完全陽極酸化されて非導電性となることで、電解液から表出した部分の金属薄膜に接続した陽極端子からの電流が気液界面より下の金属薄膜には流れなくなり、金属薄膜が全面的に陽極酸化される前に陽極酸化反応が停止してしまう問題がある。
【0005】
この問題を解決するために、特許文献1では、アルミニウムをスパッタリングしたポリプロピレンフィルムよりなる被酸化体を徐々に電解液中に浸漬させながら陽極酸化を実施している。特許文献1には、この方法で得られた積層体はアルミニウム層が完全に陽極酸化され、透光性であったと記載されている。しかし、この方法では、被酸化体の電解液への浸漬速度が2mm/分と低速であるため、特に被酸化体の金属層の面積が大きい場合には処理に長い時間を要し、生産性に劣る。また、電解液の気液界面の液面の揺れ等に影響を受け、金属層の残存率にムラが生じる恐れもあり、得られる積層体の表面状態を均一にするためには、高度な技術を要する。
【0006】
特許文献2においては、被酸化体全体を電解液中に浸漬することで気液界面に位置する被酸化体をなくしていると推察される。しかし、電解液には強酸などの危険性の高い試薬を取り扱うことが多いため、作業者や周囲の設備に電解液が飛散する可能性が大きくなる本法は、安全性や設備の耐久性の面からは望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2020/067500号
【文献】特開平2-245328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、被酸化体に簡便な処理を実施するのみで、金属薄膜の電解液浸漬部のほぼ全体を均一にかつ比較的短時間で効率的に陽極酸化することができる透光性積層体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は以下の構成によって解決される。
【0010】
[1] 透光性基材上に金属薄膜を有する積層体よりなる被酸化体を電解液に浸漬し、該金属薄膜を陽極酸化して、該透光性基材上に金属酸化皮膜を有する光透過性積層体を製造する方法であって、前記金属薄膜の特定部分を被覆材で被覆し、前記電解液と大気とが接する気液界面が、該特定部分に位置するように、前記被酸化体を該電解液に浸漬して陽極酸化することを特徴とする透光性積層体の製造方法。
【0011】
[2] 前記金属薄膜がアルミニウム薄膜であることを特徴とする[1]に記載の透光性積層体の製造方法。
【0012】
[3] 前記特定部分が、前記電解液に浸漬された前記被酸化体の上端から離隔し、かつ前記気液界面方向に線状に延在することを特徴とする[1]又は[2]に記載の透光性積層体の製造方法。
【0013】
[4] 前記特定部分が、前記電解液に浸漬された前記被酸化体の上端から離隔し、かつ前記気液界面方向に線状に延在する第1の特定部分と、該被酸化体の左端縁部である第2の特定部分、右端縁部である第3の特定部分及び下端縁部である第4の特定部分とを有し、該第1の特定部分に前記気液界面が位置することを特徴とする[1]又は[2]に記載の透光性積層体の製造方法。
【0014】
[5] 前記被覆材が接着テープ又は粘着テープであることを特徴とする[1]~[4]の何れかに記載の透光性積層体の製造方法。
【0015】
[6] 前記陽極酸化後に、前記非陽極酸化部を切除することを特徴とする[1]~[5]の何れかに記載の透光性積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被酸化体に簡便な処理を実施するのみで、金属薄膜の電解液浸漬部のほぼ全体を均一にかつ比較的短時間で効率的に陽極酸化することができる。このため、本発明によれば、表面性状が均一で透光性に優れた透光性積層体を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明によって得られる透光性積層体の一例を示す模式的な断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る工程(1)において、被覆材によって被覆された被酸化体を示す模式的な正面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る電解液に浸漬された被酸化体を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の透光性積層体の製造方法の実施の形態を図面を用いて詳細に説明する。
以下の実施の形態は、本発明を説明するための単なる例示であって、本発明をこの実施の形態にのみ限定することは意図されない。本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、様々な態様で実施することが可能である。
【0019】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
図1図3における寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なったものである。
【0020】
本発明の透光性積層体の製造方法は、透光性基材上に金属薄膜を有する積層体よりなる被酸化体を電解液に浸漬し、該金属薄膜を陽極酸化して、該透光性基材上に金属酸化皮膜を有する光透過性積層体を製造する方法であって、前記金属薄膜の特定部分を被覆材で被覆し、前記電解液と大気とが接する気液界面が、該特定部分に位置するように、前記被酸化体を該電解液に浸漬して陽極酸化することを特徴とする。
【0021】
[透光性積層体]
まず、本発明の透光性積層体の製造方法により製造される透光性積層体(以下、「本発明の透光性積層体」と称す場合がある。)について説明する。
本発明の透光性積層体は、透光性基材上に金属酸化皮膜を有する。
図1は、本発明の透光性積層体の一例を示す模式的な断面図である。
この透光性積層体10は、透光性基材1と、透光性基材1上に僅かに残存した金属層2、及びその表面に形成された金属酸化皮膜3とを有する。
【0022】
透光性基材1は、シート状、膜状あるいは板状であることが好ましいが、その平面視形状には特に制限はない。
【0023】
透光性基材1の素材としては、全光線透過率が0%よりも大きいものであれば良く、例えばガラス、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ナイロン等が挙げられる。
これらの中でも、透光性が良好となるため、ガラス、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ナイロンが好ましく、ガラス、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ナイロンがより好ましく、ガラス、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリカーボネートが最も好ましい。
【0024】
透光性基材1の厚みには特に制限はなく、透光性積層体10の用途に応じて適宜決定される。一般的に樹脂よりなる透光性基材1の場合、その厚みは10μm~3cm程度であることが好ましく、ガラス等の無機材料よりなる透光性基材1の場合、その厚みは20μm~3cm程度が好ましい。
【0025】
被酸化体の金属薄膜(図1では残存した金属層2)を構成する金属は、陽極酸化によって金属酸化皮膜3を形成できるものであれば良い。金属としては、アルミニウム、ニオブ、タンタル、タングステン、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、これら金属の2種以上からなる合金、これら金属の1種以上と他の金属との合金が挙げられる。
これらの金属のうち、加工性に優れ、安全性が高く、安価であることから、アルミニウムが好ましい。
【0026】
透光性基材上への金属薄膜の形成方法は特に限定されないが、例えば真空蒸着法やスパッタリングなどが挙げられる。これらの手法で金属薄膜を形成する場合、金属薄膜と透光性基材との密着性を向上させるため、透光性基材に前処理を施しても良い。
【0027】
陽極酸化前の金属薄膜の厚みは、30~500nmが好ましく、50~300nmがより好ましい。金属薄膜が上記下限より薄い場合は通電ができず、上記上限より厚い場合は陽極酸化反応が均一に進まず、均一な透光性積層体を得られないおそれがある。
【0028】
なお、市販されている金属蒸着フィルム等を被酸化体として利用することも可能である。
【0029】
陽極酸化後に残存する金属層2の厚みは透光性積層体の透光性の観点からは薄い方が好ましいが、陽極酸化の電流端子としての役割を担う観点から、この金属層2をなくす(厚みを0nmとする)ことは困難である。本発明において、金属薄膜を完全に陽極酸化するとは、この残存金属層2の厚みを20nm以下、特に5nm以下にすることをさす。
【0030】
本発明の透光性積層体の透明性は、透光性基材の透明性に大きく左右されるが、本発明によれば、効率的な陽極酸化を行って、全光線透過率が0%超、95%以下、好ましくは55~95%の範囲の所望の透光性積層体を生産性よく製造することが可能である。
また、透光性積層体のヘイズは、被酸化体の透光性基材のヘイズ+5%以内に収めることができる。
【0031】
[透光性積層体の製造方法]
本発明の透光性積層体の製造方法は、透光性基材上に金属薄膜を有する積層体の特定部分を被覆材で被覆し、電解液の気液界面がこの特定部分に位置するように被酸化体を電解液に浸漬した上で、陽極酸化を実施する方法である。
以下、本発明の透光性積層体の製造方法の実施の形態の一例を図2,3を参照して説明する。
【0032】
本発明の透光性積層体は、例えば、下記工程(1)~(3)を経て製造することができる。
(1)透光性基材上に金属薄膜を有する積層体である被酸化体の特定部分を被覆材で被覆する工程
(2)前記被酸化体を、電解液と大気とが接する気液界面が、前記特定部分に位置するように電解液に浸漬して陽極酸化する工程
(3)陽極酸化により製造された透光性積層体の金属薄膜残存部、即ち、非陽極酸化処理部を切除する工程
以下に、各工程について詳細に説明する。
【0033】
<工程(1)>
本工程は、透光性基材上に金属薄膜を有する積層体である被酸化体の特定部分を被覆材で被覆する工程である。
【0034】
特定部分の被覆に用いる被覆材は、前記積層体の金属薄膜に密着するものであれば良く、そのものが密着する能力を有するものであっても、圧力により押し付けられて前記積層体の金属薄膜と密着されるものであっても良い。前者としては接着テープ、粘着テープ、塗料等、後者としてはパッキンや吸盤等が考えられる。これらの中でも、接着テープないし粘着テープが取り扱いやすさ及び密着性の観点から好ましい。被覆材の材質は特に限定されないが、密着性と電解液に対する耐酸性の観点から、例えば接着テープないし粘着テープであれば、ポリエステル、ポリプロピレン、セロハン等の絶縁材料よりなることが好ましい。
【0035】
被覆する特定部分は、被酸化体を電解液に浸漬して陽極酸化を行うときに、電解液の気液界面に位置する部分の金属薄膜の表面とする。
【0036】
例えば、図3に示すように、電解液4を貯留する電解槽6の電解液4内に、被酸化体7である金属薄膜3Aを形成した透光性基材1を浸漬して陽極酸化する場合、被酸化体7の上端縁部7Aを電解液4から表出した状態でそれよりも下の部分を電解液4内に浸漬して立設し、表出した金属薄膜3Aに陽極端子8を接続する。そして、この被酸化体7の金属薄膜3Aに対向して間隔をあけて電解液4内に立設した陰極板9と陽極端子8との間に電源20から直流電圧を印加して陽極酸化を行う。
本発明では、この状態で電解液4の気液界面4Aが位置する箇所を特定部分とし、被覆材5で被覆する。
【0037】
従って、この場合には、被覆材5で被覆する特定部分は、電解液4に浸漬された被酸化体7の上端から離隔し、かつ気液界面方向(水平方向)に線状に延在する箇所となる。
例えば、矩形形状の被酸化体7の場合、図2(a)に示すように、上端縁から陽極端子の接続に必要な部分(この幅には特に制限はない。)を確保した少し下方に、被酸化体7の上端と平行な線状に被覆材5Aを設けることが好ましい。
この場合、被覆材5Aの幅は、電解液の気液界面4Aの液面が振れた場合でも確実に気液界面4Aが被覆材5Aの位置となるように、ある程度の大きさを有することが好ましい。一方で、被覆材5Aで被覆した部分は陽極酸化されないため、金属酸化皮膜の面積をなるべく大きくする観点からは、被覆材5Aの幅は小さい方が好ましい。これらの観点から、被覆材5Aの幅は、10~20mm程度でその中心線上に気液界面4Aが位置するように設けることが好ましい。
【0038】
被覆材で被覆する特定部分は、図2(a)のような線状に限定されず、図2(b)のように、電解液に浸漬された被酸化体7の上端から離隔し、かつ気液界面4A方向に線状に延在する第1の特定部分5aと、被酸化体7の左端縁部である第2の特定部分5b、右端縁部である第3の特定部分5c及び下端縁部である第4の特定部分5dとで構成される枠状の被覆材5Bで金属薄膜3Aを被覆してもよい。
即ち、被酸化体を電解液に浸漬して陽極酸化を行う場合、一般的に被酸化体において陽極端子から遠くなるほど導電パスが悪くなり陽極酸化反応が進行し難く、この部分で均一な金属酸化皮膜が形成されない場合が多いことから、このような箇所を被覆材5で被覆して下端縁までの導通を確保することにより、被覆されていない金属薄膜3Aの露出面にのみ均一な金属酸化皮膜を形成することができる。
この場合は、被酸化体7の上端側に設けた被覆材5a部分に気液界面4Aが位置するように被酸化体7を電解液中に浸漬する。
この場合の被覆材5Bの幅についても、被覆材5a部分は図2(a)に示す被覆材5Aの幅と同等の幅とすることが好ましいが、被覆材5b~5d部分はそれよりも小さく1~5mm程度であってもよい。
【0039】
なお、図2は、平面視形状が矩形形状の被酸化体について被覆材による被覆方法を示しているが、矩形以外の形状の被酸化体の場合、例えば円形の場合は、金属薄膜面を上下方向に立設した状態において、上端から離隔した箇所に線状に延在するように被覆材を設ければ良い。更にその線状の被覆材よりも下方の周縁部を円弧状に被覆材で被覆すれば良い。
【0040】
<工程(2)>
本工程は、被酸化体である被覆材を設けた前記積層体を、電解液の気液界面が被覆材で被覆された特定部分に位置するように電解液に浸漬して陽極酸化する工程である。この工程は、例えば、図3に示されるような方法で行われる。
【0041】
被酸化体である前記積層体の電解液への浸漬方法及び固定方法は特に限定されず、陽極酸化反応中、電解液の気液界面が被覆材で被覆された特定部分に位置する状態を維持できれば良い。
【0042】
陽極酸化に用いる電解液の種類は特に限定されず、硫酸、シュウ酸、又はリン酸水溶液等が挙げられる。電解液の酸濃度は、安定的に陽極酸化反応が進行する条件であれば特に限定されない。
硫酸水溶液を電解液として用いる場合、硫酸水溶液の硫酸濃度は通常0.3M(mol/L)以上であり、3M以上が好ましく、5M以上がより好ましい。硫酸濃度5M以上の硫酸水溶液を用いることで、効率的な陽極酸化を行うことができる。一方、硫酸濃度は通常15M以下であり、12M以下であることが好ましい。硫酸濃度12M以下の硫酸水溶液を用いることで、陽極酸化の際に安定して金属薄膜に通電することができ、より均質な金属酸化皮膜を形成することができる。
【0043】
陽極酸化の際の電解液の温度は、反応の安定性の観点から30℃以下が好ましく、20℃以下、例えば0~17℃がより好ましい。
【0044】
陽極酸化反応は、一定の電圧条件で実施する。このときの電圧は特に限定されないが、例えば硫酸水溶液を電解液として使用する場合は、25~30Vとすることで均質な金属酸化皮膜を形成することができ、好ましい。
【0045】
陽極酸化時の電流は、電解液の種類や温度、反応の進行状態によって変化するが、直流電源の設定で最大値を規定する。この最大値は0.1~3.5Aの範囲とすることが好ましい。電流値は、透光性基材に形成された金属薄膜が薄いほど小さく、厚いほど大きく設定することで、均質な金属酸化皮膜を形成して高品質の透光性積層体を得ることができる。
【0046】
<工程(3)>
本工程は、製造した透光性積層体の非陽極酸化処理部を切除する工程である。
被酸化体である前記積層体の陽極酸化により得られる透光性積層体の電解液非浸漬部分(電解液から表出した部分)及び被覆材により被覆されていた部分には、陽極酸化されていない金属薄膜が残存しているため、製品の最終形態としては該部分を透光性基材と共に切除する必要がある場合もある。
その切除方法については特に限定されず、ハサミやカッター、バンドソーなどを使用して切除することができる。
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない限り、種々の変形を加えることが可能である。
【実施例
【0048】
[実施例1]
<工程(1)>
予めアルミニウムが蒸着されているPETフィルム(厚み:PETフィルム単体=75μm、アルミニウム層=80nm)を縦8cm、横5cmに切り取った。なお、このアルミニウム蒸着フィルムのアルミニウム蒸着前のPETフィルムについて後述の方法で測定した全光線透過率は82.61%、ヘイズは58.94%であった。
このアルミニウム蒸着フィルムを長手方向が上下方向となるように立設した場合の上端から約2cmの部分を、上端縁と平行になるように幅1cmのめっき用マスキングテープ(スリーエム社製、品番「851A」、ポリエステル製テープに接着層を設けたもの)で被覆した(図2(a))。
【0049】
<工程(2)>
図3に示す方法で陽極酸化を行った。
0℃に冷却した12M硫酸水溶液中に、陰極板として直流電源の陰極に接続したアルミニウム板を浸漬した。
前記アルミニウム蒸着フィルムを直流電源の陽極に接続し、マスキングテープによる被覆部分の中心線が電解液の気液界面となるよう、陰極板に対向させて浸漬した。
その後、電圧25V、電流3.0Aで、電流が流れなくなるまで通電することで、アルミニウム蒸着フィルム上のアルミニウム層を陽極酸化した。
陽極酸化により製造された透光性積層体を電解液から取り出しイオン交換水で洗浄した。
なお、このときの陽極酸化開始から反応終了までの所要時間は、2分55秒であった。
【0050】
<工程(3)>
透光性積層体のマスキングテープ被覆部分とそれよりも上部をハサミで切断した。
【0051】
<透光性測定>
透光性の指標として、JIS K7361及びJIS K7136に準拠している日本電色工業社製のNDH4000を用い、全光線透過率とヘイズを測定した。
その結果、本実施例1で製造された透光性積層体の全光線透過率は58.72%、ヘイズは58.87%であった。
【0052】
[実施例2]
透光性基材上に金属薄膜を有する積層体として、アルミニウム蒸着ポリプロピレンフィルム(厚み:ポリプロピレン単体=20μm、アルミニウム層=50nm)を使用し、陽極酸化時の電流を1.0Aとした以外は実施例1と同様の操作を実施した。
このときの陽極酸化開始から反応終了までの所要時間は1分であり、製造された透光性積層体の全光線透過率は64.28%、ヘイズは3.24%であった。
【0053】
[実施例3]
<工程(1)>
厚さ1.0mm、縦8cm、横5cmのアクリル板材(三菱ケミカル社製アクリライトL)の表面に、真空蒸着法により厚み200nmのアルミニウム層を形成し、アルミニウム積層アクリル板を得た。なお、このアクリル板単体について前述の方法で測定した全光線透過率は93.0%、ヘイズは0.5%であった。
このアルミニウム積層アクリル板を長手方向が上下方向となるように立設した場合の上端から約2cmの部分を、上端縁と平行になるように実施例1で用いたものと同様のめっき用マスキングテープ(スリーエム社製)で被覆し、続いてそこから下側の面を囲うように、アルミニウム積層アクリル板の下端と左右端を同様にマスキングテープで被覆した(図2(b))。
【0054】
<工程(2)>
図3に示す方法で陽極酸化を行った。
0℃に冷却した12M硫酸水溶液中に、陰極板として直流電源の陰極に接続したアルミニウム板を浸漬した。
前記アルミニウム積層アクリル板を直流電源の陽極に接続し、上側の被覆部分のマスキングテープの中心線が電解液の気液界面となるよう、陰極板に対向させて浸漬した。
その後、電圧25V、電流3.0Aで、電流が流れなくなるまで通電することで、アルミニウム積層アクリル板上のアルミニウム層を陽極酸化した。陽極酸化により製造された透光性積層体を、電解液から取り出し、イオン交換水で洗浄した。
なお、このときの陽極酸化開始から反応終了までの所要時間は、3分10秒であった。
【0055】
<工程(3)>
透光性積層体のマスキングテープ被覆部分及び、上側のマスキングテープ被覆部分より上部をバンドソーで切断した。
【0056】
<透光性測定>
実施例1と同様に透光性測定を行った。
本実施例3で製造された透光性積層体の全光線透過率は88.86%、ヘイズは0.38%であった。
【0057】
[比較例1]
工程(1)においてマスキングテープで被覆をしない以外は実施例1と同様の操作を実施したところ、電解液の気液界面部分にて優先的に陽極酸化反応が進行してアルミニウム層が完全に陽極酸化されてしまったために、それよりも下側の部分はほとんど陽極酸化反応が進行せず、透光性積層体を得ることはできなかった。
【0058】
[比較例2]
<工程(1)>
実施例1において、アルミニウム蒸着PETフィルムをマスキングテープで被覆しなかったこと以外は同様にして被酸化体を準備した。
【0059】
<工程(2)>
0℃に冷却した12M硫酸水溶液中に、陰極板として直流電源の陰極に接続したアルミニウム板を浸漬した。
前記アルミニウム蒸着フィルムを長手方向が上下方向となるようにディップコーター(魁半導体社製ディップコーターYN2-TKB)に取り付け、上端を直流電源の陽極に接続し、下端縁が5mm程度浸かるように電解液に接触させた。
その後、毎分2mmの速度でアルミニウム蒸着フィルムを下降させながら、電圧25V、電流3.0Aで、30分間通電することで、アルミニウム蒸着フィルム上のアルミニウム層を陽極酸化した。アルミニウム蒸着フィルムは下端から5mm~(2mm/分×30分)mmの間の部分が陽極酸化された。
得られた透光性積層体を電解液から取り出し、イオン交換水で洗浄した。
【0060】
<工程(3)>
透光性積層体の陽極酸化されていない下端から5mmまでの部分と上端から15mmまでの部分をハサミで切断した。
【0061】
<透光性測定>
実施例1と同様に透光性測定を行った。
本比較例2で製造された透光性積層体の全光線透過率は58.20%、ヘイズは59.86%であった。
【0062】
実施例1~3及び比較例1,2の結果を表1にまとめる。
【0063】
【表1】
【0064】
以上の結果から、本発明によれば、被酸化体の所定部分を被覆材で被覆するのみで、短時間で効率的に透光性積層体を製造することができることが分かる。
被覆材で被覆しなかった比較例1では陽極酸化を継続して行うことができなかった。
比較例2では透光性積層体を得ることはできたが、被酸化体を低速で下降させるため、長い処理時間を必要とした。
【符号の説明】
【0065】
1 透光性基材
2 金属層
3 金属酸化皮膜
3A 金属薄膜
4 電解液
4A 気液界面
5,5A,5B 被覆材
6 電解槽
7 被酸化体
8 陽極端子
9 陰極板
10 透光性積層体
20 電源
図1
図2
図3