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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】反射型マスクブランク及び反射型マスク
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/24 20120101AFI20241029BHJP
   G03F 1/52 20120101ALI20241029BHJP
   G03F 1/54 20120101ALI20241029BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/52
G03F1/54
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021187205
(22)【出願日】2021-11-17
(65)【公開番号】P2023074318
(43)【公開日】2023-05-29
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】生越 大河
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼坂 卓郎
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-109366(JP,A)
【文献】特開2020-166249(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0141922(US,A1)
【文献】特開2006-093454(JP,A)
【文献】特開2021-173917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板の一の主表面上に形成された露光光を反射する多層反射膜とを有する反射型マスクブランクであって、
前記多層反射膜が、低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された周期積層構造部を有し、
前記多層反射膜を構成する前記低屈折率層の少なくとも1つが、第1の副層と第2の副層とからなる2層構造を有し、
前記第1の副層が、モリブデン(Mo)と、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)及び水素(H)から選択される少なくとも1つの添加元素とを含み、厚さが0.3nm超、0.6nm以下であり、
前記第2の副層が、モリブデン(Mo)を含み、モリブデン(Mo)以外の元素を実質的に含まず、
前記多層反射膜のX線回折により検出されるMo(110)の回折ピークから算出される結晶子径が、2.6nm以上であることを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項2】
前記低屈折率層中、前記第1の副層が前記基板側、前記第2の副層が前記基板から離間する側に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記高屈折率層が、ケイ素(Si)を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記基板の前記一の主表面のサイズが152mm角、前記基板の厚さが6.35mmであり、前記一の主表面の中央部142mm角内において、前記多層反射膜を形成する前後の平坦度(TIR)の変化量(ΔTIR)が、絶対値で0.7μm以下であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
前記多層反射膜が、前記周期積層構造部の前記基板から離間する側に接して形成された保護層を有することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記多層反射膜上に、更に、露光光を吸収する吸収体膜を有することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
請求項に記載の反射型マスクブランクの前記吸収体膜をパターン形成してなることを特徴とする反射型マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSIなどの半導体デバイスの製造などに使用される反射型マスク、その素材である反射型マスクブランクに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス(半導体装置)の製造工程では、転写用マスクに露光光を照射し、マスクに形成されている回路パターンを、縮小投影光学系を介して半導体基板(半導体ウェハ)上に転写するフォトリソグラフィ技術が繰り返し用いられる。従来、露光光の波長はフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザ光を用いた193nmが主流となっており、露光プロセスや加工プロセスを複数回組み合わせるマルチパターニングというプロセスを採用することにより、最終的には露光波長より小さい寸法のパターンを形成してきた。
【0003】
しかし、継続的なデバイスパターンの微細化により、更なる微細パターンの形成が必要とされてきていることから、露光光としてArFエキシマレーザ光より更に波長の短いEUV(Extreme UltraViolet(極端紫外))光を用いたEUVリソグラフィ技術が開発されてきた。EUV光とは、波長が例えば10~20nm程度の光、より具体的には、波長が13.5nm付近の光である。このEUV光は、物質に対する透過性が極めて低く、従来の透過型の投影光学系やマスクが使えないことから、反射型の光学素子が用いられる。そのため、パターン転写用のマスクも反射型マスクが提案されている。反射型マスクは、基板上にEUV光を反射する多層反射膜が形成され、多層反射膜の上にEUV光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成されたものである。一方、吸収体膜にパターニングする前の状態(レジスト層が形成された状態も含む)のものが、反射型マスクブランクと呼ばれ、これが反射型マスクの素材として用いられる。一般に、EUV光を反射させる反射型マスク及び反射型マスクブランクは、各々、EUVマスク及びEUVマスクブランクと呼ばれる。
【0004】
EUVマスクブランクは、低熱膨張の基板と、その上に形成されたEUV光を反射する多層反射膜とを有し、一般的には、更に、多層反射膜の上に形成されたEUV光を吸収する吸収体膜とを含む基本構造を有している。多層反射膜としては、通常、モリブデン(Mo)膜とケイ素(Si)膜とを交互に積層することで、EUV光に対する必要な反射率を得る多層反射膜が用いられる。更に、多層反射膜を保護するための保護層として、ルテニウム(Ru)膜が、多層反射膜の最表層に形成される。一方、吸収体膜としては、EUV光に対して消衰係数の値が比較的大きいタンタル(Ta)などが用いられる(特開2002-246299号公報(特許文献1))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-246299号公報
【文献】特開2003-114200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
反射型マスクの製造過程においては、反射型マスクブランクの吸収体膜をエッチング加工することでパターンを形成した後、通常、パターンを検査し、欠陥が見つかった場合には欠陥を修正する。しかし、反射型マスクの場合、多層反射膜の構造の乱れに起因して反射率が低下する、いわゆる位相欠陥と呼ばれる欠陥が存在する場合がある。吸収体膜のパターンを形成した後に、この位相欠陥を直接的に修正することは、極めて困難である。このような状況から、反射型マスクブランクの位相欠陥を検出することは重要である。例えば、特開2003-114200号公報(特許文献2)には、EUV光を用いて多層反射膜内部の欠陥を検出する方法として、暗視野検査像を用いる技術が開示されている。
【0007】
欠陥検出において微小な位相欠陥も感度よく検出するためには、多層反射膜形成後に、欠陥検査における多層反射膜上の欠陥が存在しない部分の散乱光の強度、いわゆるバックグランドレベル(BGL)を低下させる必要がある。従って、反射型マスクブランク(EUVマスクブランク)は、露光光(約13.5nmのEUV光)における反射率が高いほど有利である一方で、露光光(EUV光)を用いた欠陥検査時のバックグラウンドレベルも小さくする必要がある。
【0008】
多層反射膜をモリブデン(Mo)層とケイ素(Si)層との周期積層構造とする場合、モリブデン(Mo)は、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)などの添加元素を含まない方が反射率は高くなる傾向があるが、モリブデン(Mo)層の形成時に結晶粒が粗大化すると、層間の界面粗さ、多層反射膜の表面粗さ、又はそれら双方が増大し、欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが大きくなる。
【0009】
一方、バックグラウンドレベルを下げるためには、モリブデン(Mo)に、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)などの添加元素を加えてアモルファス構造とすることが効果的であるが、添加元素の影響による光学特性(n,k)の変化や、モリブデン(Mo)層とケイ素(Si)層との界面部での、両層の成分のインターミキシングの促進により、反射率が大きく低下する。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、高い反射率を有し、欠陥検査時のバックグラウンドレベルが低く抑えられた多層反射膜を有する反射型マスクブランク、及び反射型マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された周期積層構造部を有する多層反射膜、好ましくは、更に、周期積層構造部の基板から離間する側に接して形成された保護層を有する多層反射膜において、低屈折率層を2層構造とし、モリブデン(Mo)と、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)及び水素(H)から選択される少なくとも1つの添加元素とを含む層と、モリブデン(Mo)を含み、モリブデン(Mo)以外の元素を実質的に含まない層との2層で構成することにより、露光光に対して十分に高い反射率を有しながら、欠陥検査時のバックグラウンドレベル(BGL)が十分に低下した多層反射膜となることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
従って、本発明は、以下の反射型マスクブランク及び反射型マスクを提供する。
1.基板と、該基板の一の主表面上に形成された露光光を反射する多層反射膜とを有する反射型マスクブランクであって、
前記多層反射膜が、低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された周期積層構造部を有し、
前記多層反射膜を構成する前記低屈折率層の少なくとも1つが、第1の副層と第2の副層とからなる2層構造を有し、
前記第1の副層が、モリブデン(Mo)と、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)及び水素(H)から選択される少なくとも1つの添加元素とを含み、厚さが0.3nm超、0.6nm以下であり、
前記第2の副層が、モリブデン(Mo)を含み、モリブデン(Mo)以外の元素を実質的に含まず、
前記多層反射膜のX線回折により検出されるMo(110)の回折ピークから算出される結晶子径が、2.6nm以上であることを特徴とする反射型マスクブランク。
2.前記低屈折率層中、前記第1の副層が前記基板側、前記第2の副層が前記基板から離間する側に形成されていることを特徴とする1に記載の反射型マスクブランク。
3.前記高屈折率層が、ケイ素(Si)を含むことを特徴とする1又は2に記載の反射型マスクブランク。

.前記基板の前記一の主表面のサイズが152mm角、前記基板の厚さが6.35mmであり、前記一の主表面の中央部142mm角内において、前記多層反射膜を形成する前後の平坦度(TIR)の変化量(ΔTIR)が、絶対値で0.7μm以下であることを特徴とする1乃至のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
.前記多層反射膜が、前記周期積層構造部の前記基板から離間する側に接して形成された保護層を有することを特徴とする1乃至のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
.前記多層反射膜上に、更に、露光光を吸収する吸収体膜を有することを特徴とする1乃至のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
に記載の反射型マスクブランクの前記吸収体膜をパターン形成してなることを特徴とする反射型マスク。
また、本発明は、以下の反射型マスクブランク及び反射型マスクが関連する。
[1].基板と、該基板の一の主表面上に形成された露光光を反射する多層反射膜とを有する反射型マスクブランクであって、
前記多層反射膜が、低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された周期積層構造部を有し、
前記多層反射膜を構成する前記低屈折率層の少なくとも1つが、第1の副層と第2の副層とからなる2層構造を有し、
前記第1の副層が、モリブデン(Mo)と、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)及び水素(H)から選択される少なくとも1つの添加元素とを含み、厚さが0.3nm超、0.6nm以下であり、
前記第2の副層が、モリブデン(Mo)を含み、モリブデン(Mo)以外の元素を実質的に含まないことを特徴とする反射型マスクブランク。
[2].前記低屈折率層中、前記第1の副層が前記基板側、前記第2の副層が前記基板から離間する側に形成されていることを特徴とする[1]に記載の反射型マスクブランク。
[3].前記高屈折率層が、ケイ素(Si)を含むことを特徴とする[1]又は[2]に記載の反射型マスクブランク。
[4].前記基板の前記一の主表面のサイズが152mm角、前記基板の厚さが6.35mmであり、前記一の主表面の中央部142mm角内において、前記多層反射膜を形成する前後の平坦度(TIR)の変化量(ΔTIR)が、絶対値で0.7μm以下であることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
[5].前記多層反射膜が、前記周期積層構造部の前記基板から離間する側に接して形成された保護層を有することを特徴とする[1]乃至[4]のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
[6].前記多層反射膜上に、更に、露光光を吸収する吸収体膜を有することを特徴とする[1]乃至[5]のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
[7].[6]に記載の反射型マスクブランクの前記吸収体膜をパターン形成してなることを特徴とする反射型マスク。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、露光光に対する高い反射率を有しながら、欠陥検査時にバックグラウンドレベルが十分に低い多層反射膜を有する反射型マスクブランクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の反射型マスクブランクの第1の態様の一例を示す断面図であり、(A)は、多層反射膜が周期積層構造部からなる反射型マスクブランク、(B)は、多層反射膜が周期積層構造部と保護層とからなる反射型マスクブランクである。
図2】本発明の反射型マスクブランクの第2の態様の一例を示す断面図であり、(A)は、多層反射膜が周期積層構造部からなる反射型マスクブランク、(B)は、多層反射膜が周期積層構造部と保護層とからなる反射型マスクブランクである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明の反射型マスクブランクは、基板と、基板上(基板の一の主表面(表側の面)上)に形成された露光光を反射する多層反射膜、具体的にはEUV光を反射する多層反射膜とを有する。本発明の反射型マスクブランクは、反射型マスクの製造に用いる素材として好適である。本発明の多層反射膜は、低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された周期積層構造部を有する。本発明の多層反射膜は、更に、周期積層構造部の基板から離間する側に接して形成された保護層を有していてもよい。本発明の反射型マスクブランクにおいては、多層反射膜は、周期積層構造部からなるもの、又は周期積層構造部と保護層とからなるものが好適である。多層反射膜は、反射型マスクにおいて、露光光であるEUV光を反射する膜である。多層反射膜は、基板の一の主表面に接して設けてよく、また、基板と多層反射膜との間に下地膜を設けてもよい。
【0016】
本発明の反射型マスクブランクは、EUV光を露光光とするEUVリソグラフィで用いられる反射型マスク(EUVマスク)の素材(EUVマスクブランク)として好適である。EUV光を露光光とするEUVリソグラフィに用いられるEUV光の波長は13~14nmであり、通常、波長が13.5nm程度の光である。なお、EUVマスクブランク及びEUVマスクは、各々、反射型マスクブランク及び反射型マスクである。
【0017】
図1は、本発明の反射型マスクブランクの第1の態様の一例を示す断面図であり、これらの反射型マスクブランク100A,100Bは、基板11と、基板11の一の主表面上に、一の主表面に接して形成された多層反射膜12A,12Bとを備える。図1(A)の多層反射膜12Aは、基板側から第1の副層と第2の副層との2層からなる低屈折率層と、高屈折率層とが交互に積層された周期積層構造部121で構成されている。一方、図1(B)の多層反射膜12Bは、基板側から第1の副層と第2の副層との2層からなる低屈折率層と、高屈折率層とが交互に積層された周期積層構造部121と、保護層122とで構成されている。
【0018】
多層反射膜が形成された反射型マスクブランク(EUVマスクブランク)を用いて、多層反射膜をパターン形成することによって、多層反射膜パターンを有する反射型マスク(EUVマスク)を製造することもできるが、多層反射膜の上に、更に、パターン形成膜として吸収体膜を形成して、基板と、多層反射膜と、吸収体膜とを有する反射型マスクブランク(EUVマスクブランク)とし、吸収体膜をパターン形成することによって、反射型マスク(EUVマスク)を製造するのが一般的である。
【0019】
本発明の反射型マスクブランクは、多層反射膜上に、更に、露光光を吸収する吸収体膜が形成されていてもよい。このような反射型マスクブランクとして具体的には、基板と、基板の一の主表面上に形成された露光光を反射する多層反射膜と、多層反射膜上に形成された露光光を吸収する吸収体膜とを有するものが挙げられる。吸収体膜は、露光光、具体的にはEUV光を吸収し、反射率を低下させる膜である。吸収体膜は、多層反射膜(多層反射膜の周期積層構造部又は保護層)に接して設けられていることが好ましい。
【0020】
図2は、本発明の反射型マスクブランクの第2の態様の一例を示す断面図であり、これらの反射型マスクブランク101A,101Bは、基板11と、基板11の一の主表面上に、一の主表面に接して形成された多層反射膜12A,12Bと、多層反射膜12A,12Bに接して形成された吸収体膜13とを備える。図2(A)の多層反射膜12Aは、基板側から第1の副層と第2の副層との2層からなる低屈折率層と、高屈折率層とが交互に積層された周期積層構造部121で構成されている。一方、図2(B)の多層反射膜12Bは、基板側から第1の副層と第2の副層との2層からなる低屈折率層と、高屈折率層とが交互に積層された周期積層構造部121と、保護層122とで構成されている。
【0021】
吸収体膜を有する反射型マスクブランク(EUVマスクブランク)からは、吸収体膜をパターン形成した吸収体パターン(吸収体膜のパターン)を有する反射型マスク(EUVマスク)を製造することができる。
【0022】
基板は、EUV光露光用として、低熱膨張特性を有するものであることが好ましく、例えば、熱膨張係数が、±2×10-8/℃以内、好ましくは±5×10-9/℃の範囲内の材料で形成されているものが好ましい。また、基板は、表面が十分に平坦化されているものを用いることが好ましく、基板の主表面の表面粗さは、RMS値で0.5nm以下、特に0.2nm以下であることが好ましい。このような表面粗さは、基板の研磨などにより得ることができる。このような材料としては、チタニアドープ石英ガラス(SiO2-TiO2系ガラス)などが挙げられる。基板のサイズは、基板の一の主表面のサイズが152mm角、基板の厚さが6.35mmであることが好ましい。このサイズの基板は、いわゆる6025基板と呼ばれる基板(一の主表面のサイズが6インチ角、厚さが0.25インチの基板)である。
【0023】
本発明において、多層反射膜を構成する低屈折率層の少なくとも1つ、好ましくは低屈折率層の全てが、第1の副層と第2の副層とからなる2層構造を有している。低屈折率層は、モリブデン(Mo)を含む材料からなる。
【0024】
第1の副層は、モリブデン(Mo)と、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)及び水素(H)から選択される少なくとも1つの添加元素とを含む層である。第1の副層は、アモルファス構造の層であることが好ましい。第1の副層は、モリブデン(Mo)が主成分であることが好ましく、その含有率は60原子%以上、特に80原子%以上であることが好ましい。一方、添加元素の量は、第1の副層がアモルファス構造となる量とすることが好ましく、その含有率は1原子%以上、特に10原子%以上であることが好ましく、また、40原子%以下、特に20原子%以下であることが好ましい。
【0025】
第2の副層は、モリブデン(Mo)を含み、モリブデン(Mo)以外の元素を実質的に含まない層(不可避不純物を除き、モリブデン(Mo)のみからなる層)である。第2の副層は、高い結晶性を有する緻密な層であることが好ましい。
【0026】
低屈折率層の厚さは、2.1nm以上、特に2.6nm以上であることが好ましく、また、3.5nm以下、特に3nm以下であることが好ましい。そのうち、第1の副層の厚さは0.3nm超、特に0.4nm以上であることが好ましく、また、0.6nm以下であることが好ましい。第1の副層の厚さを0.6nm以下とすることにより、露光光(EUV光)の反射率を高く維持することができる。また、第1の副層の厚さを0.3nm超、特に0.4nm以上とすることにより、欠陥検査時のバックグラウンドレベル(BGL)が十分に小さい多層反射膜とすることができる。
【0027】
低屈折率層中、第1の副層は基板側、第2の副層は基板から離間する側に形成されていることが好ましい。第1の副層及び第2の副層をこのように配置することで、高屈折率層に対して、アモルファス構造を有する第1の副層を形成し、第2の副層を形成した後、高い結晶性を有する緻密な第2の副層に対して、高屈折率層を形成することができる。このようにすることで、結晶粒の粗大化に起因する低屈折率層と高屈折率層との層間の界面粗さ、多層反射膜の表面粗さ、又はそれら双方を低減することができる。
【0028】
高屈折率層は、ケイ素(Si)を含む膜であることが好ましい。高屈折率層は、ケイ素(Si)が主成分であることが好ましく、その含有率は80原子%以上、特に90原子%以上であることが好ましい。高屈折率層は、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)及び水素(H)から選択されるすくなくとも1つの添加元素を含んでいてもよく、添加元素を含む層と、添加元素を含まない層との多層で構成してもよい。高屈折率層の厚さは、3.5nm以上、特に4nm以上であることが好ましく、また、4.9nm以下、特に4.4nm以下であることが好ましい。
【0029】
低屈折率層と高屈折率層とが交互に積層された周期積層構造部の厚さは、200nm以上、特に270nm以上であることが好ましく、また、400nm以下、特に290nm以下であることが好ましい。
【0030】
周期積層構造部の形成方法としては、ターゲットに電力を供給し、供給した電力で雰囲気ガスをプラズマ化(イオン化)して、スパッタリングを行うスパッタ法や、イオンビームをターゲットに照射するイオンビームスパッタ法が挙げられる。スパッタ法としては、ターゲットに直流電圧を印加するDCスパッタ法、ターゲットに高周波電圧を印加するRFスパッタ法がある。スパッタ法とは、スパッタガスをチャンバーに導入した状態でターゲットに電圧を印加し、ガスをイオン化し、ガスイオンによるスパッタリング現象を利用した成膜方法で、特にマグネトロンスパッタ法は、生産性において有利である。ターゲットに印加する電力は、DCでもRFでもよく、また、DCには、ターゲットのチャージアップを防ぐために、ターゲットに印加する負バイアスを短時間反転するパルススパッタリングも含まれる。
【0031】
周期積層構造部は、例えば、複数のターゲットを装着できるスパッタ装置を用いてスパッタ法により形成することができ、具体的には、ターゲットとして、モリブデン(Mo)を含有する層を形成するためのモリブデン(Mo)ターゲット、ケイ素(Si)を含有する層を形成するためのケイ素(Si)ターゲットなどから適宜選択して用い、スパッタガスとして、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどの希ガスを用いて形成することができる。また、スパッタリングを、反応性ガスを用いた反応性スパッタリングとする場合は、例えば、窒素(N)を含有する膜を形成するときには、窒素(N2)ガスなどの窒素含有ガス、酸素(O)を含有する膜を形成するときには、酸素(O2)ガスなどの酸素含有ガス、窒素(N)と酸素(O)を含有する膜を形成するときには、亜酸化窒素(N2O)ガス、一酸化窒素(NO)ガス、二酸化窒素(NO2)ガスなどの酸化窒素ガス、炭素(C)と酸素(O)を含有する膜を形成するときには、一酸化炭素(CO)ガス、二酸化炭素(CO2)ガスなどの酸化炭素ガス、水素(H)を含有する膜を形成するときには、水素(H2)ガスなどの水素含有ガス、炭素(C)と水素(H)を含有する膜を形成するときには、メタン(CH4)ガスなどの炭化水素ガスを、希ガスと共に用いればよい。更に、ホウ素(B)を含有する層を形成するときには、ホウ素(B)を添加したモリブデン(Mo)ターゲット(ホウ化モリブデン(MoB)ターゲット)、ホウ素(B)を添加したケイ素(Si)ターゲット(ホウ化ケイ素(SiB)ターゲット)などを用いることができる。
【0032】
保護層は、キャッピング層とも呼ばれ、その上の吸収体膜にパターンを形成する際や、吸収体膜のパターン修正の際などに、多層反射膜の周期積層構造部を保護するために設けられる。保護層の材料としては、ルテニウム(Ru)を含有する材料が好ましい。ルテニウム(Ru)を含有する材料としては、ルテニウム(Ru)単体、ルテニウム(Ru)に、ニオブ(Nb)やジルコニウム(Zr)を添加した化合物などが好適に用いられる。保護層の厚さは、通常5nm以下、特に4nm以下であることが好ましい。保護層の厚さの下限は、通常、2nm以上である。
【0033】
保護層は、周期積層構造部と同様に、例えば、イオンビームスパッタ法やマグネトロンスパッタ法などのスパッタ法により形成することができる。保護層は、例えば、1つ又は複数のターゲットを装着できるスパッタ装置を用いてスパッタ法により形成することができ、具体的には、ルテニウム(Ru)ターゲット、又はニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)などを添加したルテニウム(Ru)ターゲットと、必要に応じてニオブ(Nb)及びジルコニウム(Zr)から選ばれる1以上の元素のターゲットとを用い、スパッタガスとして、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどの希ガスを用いて、スパッタリングすることにより形成することができる。保護層を、金属以外の他の元素を含む化合物で形成する場合は、スパッタガスとして、希ガスと共に、酸素含有ガス、窒素含有ガス、炭素含有ガスなどの反応性ガスを用いた反応性スパッタリングにより形成することができる。また、ターゲットを、化合物としてもよい。
【0034】
多層反射膜の反射率は、多層反射膜の組成や層構成にもよるが、例えば、極端紫外線(EUV)に対する入射角6°での反射率が、65%以上、特に66%以上、とりわけ67%以上であることが好ましい。
【0035】
本発明においては、多層反射膜のX線回折により検出されるMo(110)の回折ピークから算出される結晶子径が、2.6nm以上であることが好ましい。このような多層反射膜は、露光光(EUV光)に対する低屈折率層の屈折率が低く、多層反射膜の反射率がより高くなる。
【0036】
また、本発明においては、一の主表面のサイズが152mm角、厚さが6.35mmの基板である場合、一の主表面の中央部142mm角内において、多層反射膜を形成する前後、具体的には、周期積層構造部を形成する前後、又は周期積層構造部及び保護層の双方を形成する前後の平坦度(TIR:Total Indicator Reading)の変化量(ΔTIR)が、絶対値で0.7μm以下であることが好ましい。
【0037】
吸収体膜は、多層反射膜の上に形成され、露光光であるEUV光を吸収して、露光光の反射率を低減する膜であり、反射型マスクにおいては、吸収体膜が形成されている部分と、吸収体膜が形成されていない部分との反射率の差によって、転写パターンを形成する。
【0038】
吸収体膜の材料としては、EUV光を吸収し、パターン加工が可能な材料であれば、制限はない。吸収体膜の材料としては、例えば、タンタル(Ta)又はクロム(Cr)を含有する材料が挙げられる。また、Ta又はCrを含有する材料は、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)などを含有していてもよい。Taを含有する材料としては、Ta単体、TaO、TaN、TaON、TaC、TaCN、TaCO、TaCON、TaB、TaOB、TaNB、TaONB、TaCB、TaCNB、TaCOB、TaCONBなどのタンタル化合物が挙げられる。Crを含有する材料として具体的には、Cr単体、CrO、CrN、CrON、CrC、CrCN、CrCO、CrCON、CrB、CrOB、CrNB、CrONB、CrCB、CrCNB、CrCOB、CrCONBなどのクロム化合物が挙げられる。
【0039】
吸収体膜は、スパッタリングで形成することができ、スパッタリングは、マグネトロンスパッタが好ましい。具体的には、クロム(Cr)ターゲット、タンタル(Ta)ターゲットなどの金属ターゲットや、クロム化合物ターゲット、タンタル化合物ターゲットなどの金属化合物ターゲット(Cr、Taなどの金属と、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)などとを含有するターゲット)などを用い、スパッタガスとして、ヘリウム(He)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガスなどの希ガスを用いたスパッタリング、また、希ガスと共に、酸素含有ガス、窒素含有ガス、炭素含有ガスなどの反応性ガスとを用いた反応性スパッタリングにより形成することができる。吸収体膜の膜厚は、特に制限はないが、通常60~80nm程度である。
【0040】
反射型マスクブランクは、更に、吸収体膜上に、吸収体膜をドライエッチングする際のエッチングマスクとして機能するハードマスク膜を有していてもよい。一方、基板の一の主表面と反対側の面である他の主表面(裏側の面)上には、好ましくは他の主表面に接して、反射型マスクを露光装置に静電チャックするために用いる導電膜を設けてもよい。
【0041】
吸収体膜上の基板から離間する側には、好ましくは吸収体膜と接して、吸収体膜とはエッチング特性が異なるハードマスク膜(吸収体膜のエッチングマスク膜)を設けてもよい。このハードマスク膜は、吸収体膜をドライエッチングする際のエッチングマスクとして機能する膜である。このハードマスク膜は、吸収体パターンを形成した後には、例えば、パターン検査などの検査で用いる光の波長における反射率を低減するための反射率低減層として残して吸収体膜の一部としても、取り除いて反射型マスク上には残存させないようにしてもよい。ハードマスク膜の材料としては、クロム(Cr)を含有する材料が挙げられる。Crを含有する材料で形成されているハードマスク膜は、特に、吸収体膜が、Taを含有し、Crを含有しない材料で形成されている場合に好適である。吸収体膜の上に、パターン検査などの検査で用いる光の波長における反射率を低減する機能を主に担う層(反射率低減層)を形成するとき、ハードマスク膜は、吸収体膜の反射率低減層の上に形成することができる。ハードマスク膜は、例えば、マグネトロンスパッタ法により形成することができる。ハードマスク膜の膜厚は、特に制限はないが、通常5~20nm程度である。
【0042】
導電膜は、シート抵抗が100Ω/□以下であることが好ましく、材質に特に制限はない。導電膜の材料としては、例えば、タンタル(Ta)又はクロム(Cr)を含有する材料が挙げられる。また、Ta又はCrを含有する材料は、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、ホウ素(B)などを含有していてもよい。Taを含有する材料としては、Ta単体、TaO、TaN、TaON、TaC、TaCN、TaCO、TaCON、TaB、TaOB、TaNB、TaONB、TaCB、TaCNB、TaCOB、TaCONBなどのタンタル化合物が挙げられる。Crを含有する材料として具体的には、Cr単体、CrO、CrN、CrON、CrC、CrCN、CrCO、CrCON、CrB、CrOB、CrNB、CrONB、CrCB、CrCNB、CrCOB、CrCONBなどのクロム化合物が挙げられる。
【0043】
導電膜の膜厚は、静電チャック用として機能すればよく、特に制限はないが、通常20~300nm程度である。導電膜の膜厚は、反射型マスクとして形成した後、即ち、吸収体パターンを形成した後に、多層反射膜及び吸収体パターンと、膜応力がバランスするように形成することが好ましい。導電膜は、多層反射膜を形成する前に形成しても、基板の多層反射膜側の全ての膜を形成した後に形成してもよく、また、基板の多層反射膜側の一部の膜を形成した後、導電膜を形成し、その後、基板の多層反射膜側の残部の膜を形成してもよい。導電膜は、例えば、マグネトロンスパッタ法により形成することができる。
【0044】
更に、反射型マスクブランクは、基板から最も離間する側に、レジスト膜が形成されたものであってもよい。レジスト膜は、電子線(EB)レジストが好ましい。
【実施例
【0045】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0046】
[実施例1~3]
152mm角、6.35mm厚の低熱膨張ガラス基板(SiO2-TiO2系ガラス基板)に、モリブデン(Mo)ターゲットとケイ素(Si)ターゲットとを用い、両ターゲットと基板の主表面とを対向させ、基板を自転させながら、DCパルスマグネトロンスパッタリングにより、多層反射膜を形成した。ターゲットを2つ装着でき、ターゲットを片方ずつ又は両方同時に放電することができるスパッタ装置に、各々のターゲットを装着し、基板を設置した。
【0047】
まず、チャンバー内にアルゴン(Ar)ガス(流量:12SCCM)を流しながらケイ素(Si)ターゲットに電力を印加し、高屈折率層として、厚さ4.2nmのケイ素(Si)層を形成して、ケイ素ターゲットへの電力の印加を停止した。
【0048】
次に、チャンバー内にアルゴンガス(流量:14SCCM)と窒素(N2)ガス(流量:15SCCM)を共に流しながら、モリブデンターゲットに電力を印加し、低屈折率層の第1の副層として、窒化モリブデン層(MoN層)を形成し、モリブデンターゲットへの電力の印加を停止した。窒化モリブデン層は、窒化モリブデンがアモルファス構造となる条件で形成した。第1の副層の厚さは、実施例1では0.4nm、実施例2では0.5nm、実施例3では0.6nmとした。
【0049】
次に、チャンバー内にアルゴンガス(流量:15SCCM)を流しながら、モリブデンターゲットに電力を印加し、低屈折率層の第2の副層として、モリブデン単体の層(Mo層)を形成し、モリブデンターゲットへの電力の印加を停止した。第2の副層の厚さは、第1の副層と第2の副層とを合わせた低屈折率層の全体が2.8nmとなるように調整した。
【0050】
これら低屈折率層と高屈折率層を形成する操作を1サイクルとし、これを40サイクル繰り返して、40サイクル目の低屈折率層を形成した後、最上層には上記の方法で、厚さ4.2nmのケイ素(Si)層を形成して多層反射膜の周期積層構造部とした。なお、各層の厚さはターゲットへ印加する電力の大きさ、ターゲットへ電力を印加する時間の長さ、又はそれら双方で制御することができ、形成された厚さは、断面のエネルギー分散型X線分光法を利用した透過型顕微鏡(TEM-EDX)像などで確認することができる。
【0051】
次に、周期積層構造部の上に、ルテニウム(Ru)ターゲットを用い、ターゲットと基板の主表面とを対向させ、基板を自転させながら、DCパルスマグネトロンスパッタリングにより、周期積層構造部に接する保護層を形成した。まず、周期積層構造部の形成後に、大気中に取り出すことなく、周期積層構造部を形成したスパッタ装置から、真空状態を維持した搬送路を経由して、周期積層構造部を形成した基板を設置した。スパッタ装置にルテニウム(Ru)ターゲットを装着し、周期積層構造部を形成した基板を設置した。
【0052】
次に、チャンバー内にアルゴンガス(流量:10SCCM)を流しながらルテニウムターゲットに電力を印加し、厚さ2.5nmのルテニウム単体の層(Ru層)を形成して、ルテニウムターゲットへの電力の印加を停止して、周期積層構造部と保護層とからなる多層反射膜を得た。
【0053】
得られた多層反射膜に対して、入射角6°のEUV光(波長13~14nm)に対する反射率スペクトルを、EUVマスク全自動反射率計(euv tech.社製、LPR-1016)で測定した。検査光としてEUV光を使用したEUVマスクブランクス欠陥検査/レビュー装置(レーザーテック株式会社製、ABICS E120)を用いて、検査時のバックグラウンドレベル(BGL)を測定した。その結果、EUV反射スペクトルの中心波長(主極大の半値幅の中点にあたる波長)は13.53±0.04nmであり、最大反射率は、実施例1が67.11%、実施例2が66.74%、実施例3が66.29%であった。また、バックグラウンドレベル(BGL)は、実施例1が374、実施例2が371、実施例3が374であった。
【0054】
また、得られた多層反射膜について、Cu対陰極を取り付けたX線回折装置(株式会社リガク製、SmartLab)を用いてOut-of-plane測定を行い、多層反射膜のX線回折プロファイルを取得し、観測されたMo(110)回折ピークより、下記のシェラーの式
結晶子径(nm)=Kλ/βcosθ
(式中、Kはシェラー定数(0.9)、λは測定X線波長(0.15418nm)、βは回折ピークのラジアン単位での半値幅、θは回折ピークのブラッグ角である。)
を用いて、Moの結晶子径を算出した。算出されたMo結晶子径は実施例1が2.8nm、実施例2が2.7nm、実施例3が2.6nmであり、Moが高い結晶性を有していることがわかった。
【0055】
更に、得られた多層反射膜が形成された基板(反射型マスクブランク)について、主表面の中央部142mm角内において、マスク平坦度測定装置(Tropel社製、UltraFlat200)を用いて、平坦度(TIR)を多層反射膜の形成前後で測定し、多層反射膜の形成前後の平坦度(TIR)からその変化量(ΔTIR)を算出したところ、ΔTIRは、絶対値で、実施例1が0.60μm、実施例2が0.57μm、実施例3が0.56μmであった。
【0056】
[比較例1]
窒化モリブデン層の厚さを0.3nmとした以外は実施例1と同様にして多層反射膜を形成した。得られた多層反射膜について、実施例1と同様にして、EUV反射スペクトルの中心波長、最大反射率、BGL及びMoの結晶子径を評価した。また、得られた多層反射膜が形成された基板(反射型マスクブランク)について、実施例1と同様にして、ΔTIRを評価した。その結果、EUV反射スペクトルの中心波長は13.53±0.04nmで最大反射率は67.64%と高い値であったが、BGLは437と高かった。また、Moの結晶子径は2.9nm、ΔTIRは、絶対値で0.70μmであった。
【0057】
[比較例2]
窒化モリブデン層の厚さを0.7nmとした以外は実施例1と同様にして多層反射膜を形成した。得られた多層反射膜について、実施例1と同様にして、EUV反射スペクトルの中心波長、最大反射率、BGL及びMoの結晶子径を評価した。また、得られた多層反射膜が形成された基板(反射型マスクブランク)について、実施例1と同様にして、ΔTIRを評価した。その結果、EUV反射スペクトルの中心波長は13.53±0.04nmで最大反射率は64.25%と低く、BGLも490と高かった。また、Moの結晶子径は2.5nm、ΔTIRは、絶対値で0.73μmであった。
【0058】
[比較例3]
窒化モリブデン層を形成せず、モリブデン単体の層のみで厚さ2.8nmの低屈折率層とした以外は実施例1と同様にして多層反射膜を形成した。得られた多層反射膜について、実施例1と同様にして、EUV反射スペクトルの中心波長、最大反射率、BGL及びMoの結晶子径を評価した。また、得られた多層反射膜が形成された基板(反射型マスクブランク)について、実施例1と同様にして、ΔTIRを評価した。その結果、EUV反射スペクトルの中心波長は13.53±0.04nmで最大反射率は67.50%と高い値であったが、BGLは488と高かった。また、Moの結晶子径は3.1nm、ΔTIRは、絶対値で1.10μmであった。
【符号の説明】
【0059】
100A、100B、101A、101B 反射型マスクブランク
11 基板
12A、12B 多層反射膜
121 周期積層構造部
122 保護層
13 吸収体膜
図1
図2