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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】液晶素子及びエマルジョン組成物
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1334 20060101AFI20241029BHJP
   G02F 1/137 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
G02F1/1334
G02F1/137 500
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023073881
(22)【出願日】2023-04-27
(62)【分割の表示】P 2019011554の分割
【原出願日】2019-01-25
(65)【公開番号】P2023086932
(43)【公開日】2023-06-22
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2018012394
(32)【優先日】2018-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】門脇 雅美
(72)【発明者】
【氏名】木田 紀行
【審査官】植田 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/055028(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/055027(WO,A1)
【文献】特開平09-090430(JP,A)
【文献】特開2002-116456(JP,A)
【文献】特開2004-302192(JP,A)
【文献】特開2000-347223(JP,A)
【文献】特開2009-148707(JP,A)
【文献】特開平05-224191(JP,A)
【文献】特開平11-133386(JP,A)
【文献】特開平09-244006(JP,A)
【文献】特表2008-544330(JP,A)
【文献】特開平11-271787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1333,1/1334
G02F 1/13,1/137
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を含有する媒体に液晶組成物が分散したエマルジョン組成物であって、
前記媒体は、高分子が分散又は溶解したものであり、
前記液晶組成物は、二色性色素を含有し、
前記液晶組成物の誘電率異方性が正であり、
前記液晶組成物の屈折率異方性が0.01以上0.12以下であり、
前記液晶組成物の平均粒径が4.9μm以上30μm以下である、エマルジョン組成物。
【請求項2】
前記高分子の全質量1とすると、液晶組成物の全質量が0.5以上4以下である、請求項1に記載のエマルジョン組成物。
【請求項3】
前記液晶組成物の粒径分布において、変動係数が0.001以上0.8以下である、請求項1又は2に記載のエマルジョン組成物。
【請求項4】
前記二色性色素がアントラキノン系色素を含有するものである、請求項1~3のいずれか1項に記載のエマルジョン組成物。
【請求項5】
前記液晶組成物に二色性色素を3%以上20%以下含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のエマルジョン組成物。
【請求項6】
前記高分子がポリウレタンを含有するものである、請求項1~5のいずれか1項に記載のエマルジョン組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のエマルジョン組成物を電極基板上に塗布、乾燥して得られる膜を有する、液晶-高分子複合膜。
【請求項8】
透明導電膜が対向するように配置された2枚の透明導電膜付き基板と、前記2枚の透明導電膜付き基板の間に挟持された、請求項7に記載の液晶-高分子複合膜とを備える、液晶素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶素子及びエマルジョン組成物に関する。詳しくは、透明状態と着色状態の切り替えができる液晶素子及び該液晶素子に用いることのできるエマルジョン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラスの透明度を電気的に切り替えることができるスマートガラスの需要が大きくなってきている。スマートガラスに用いられる調光材としては、液晶方式、エレクトロクロミック方式、SPD(Suspend Particle Device)方式等が提案されている。この中でも、液晶方式は応答時間が圧倒的に短く、利用者にストレスを感じさせないために注目されている。
【0003】
液晶方式の中でも、PDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystals)が広く知られている(非特許文献1)。PDLCは粒子状の液晶が高分子マトリクスに分散した液晶-高分子複合膜が、2枚の透明導電基板に挟まれた構造を持つ。
【0004】
PDLCの中でもノーマルモード駆動が最も一般的である。ノーマルモード駆動のPDLCに対して、電圧を印加していない状態では、液晶分子が高分子マトリクスの壁面に沿って配向し、液晶領域と高分子マトリクスとで屈折率の不一致が生じる。この不一致により光散乱を起こして着色することで、目隠しとして機能する。一方、PDLCに電圧を印加した場合、液晶分子が電界方向へ配向することにより、液晶領域と高分子マトリクスとで屈折率が一致し、光を透過して透明になる。
【0005】
PDLCは、電車、自動車等の車両、ビジネスビル、病院等の建物の窓、扉、間仕切り等において、意匠性やプライバシーの保護等を目的とした調光シャッターとして実用化されている。また、文字や図形を表示する表示装置としても用いられている。特に窓として応用する場合には、透明状態に極力濁りが小さいことが望まれる。
【0006】
PDLCは前述の液晶-高分子複合膜の構造により可撓性を持つために、フィルム素子にすることができる。加えて、フィルム素子を切断整形することが可能である。このような特徴を生かし、利用者が簡単にガラスに貼りつけ施工することができる。
【0007】
ところで、近年、省エネ志向の高まりから、スマートガラスを窓に活用し、室内に入る日射量を制御することで冷暖房負荷を減らす試みがなされている。ところがPDLCの場合、光散乱の有無を切り替えることができるものの、散乱はほとんどが前方散乱であるため光が素子を透過してしまう。そのため、透過光量をほとんど制御できず、省エネに寄与できない。
【0008】
特許文献1~3には、二色性色素を液晶中に添加したゲストホスト液晶方式のスマートガラスが開示されている。ゲストホスト液晶方式は液晶素子の吸光度を電気的に切り替えることにより透明状態と着色状態を切り替える方式であるため、透過光量を制御することができる。
【0009】
特許文献4~5には、PDLCとゲストホスト液晶を組み合わせたゲストホストPDLCが開示されており、透過光量を制御可能なフィルム素子が期待されている。
【0010】
特許文献4では、液晶-高分子複合膜を光重合による重合誘起相分離により製造している。
【0011】
特許文献5では液晶-高分子複合膜を、水系のエマルジョン組成物を用いて製造している。このエマルジョン組成物を用いた製造法は、特許文献4の重合誘起相分離による製造法と比べ、所望の膜構造を得ることが容易であり、かつ高分子マトリクスの硬化不良に由来する信頼性の低下が生じない利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2016-510907号公報
【文献】特開2016-536634号公報
【文献】特開2017-511895号公報
【文献】特開2011-190314号公報
【文献】特開2000-347223号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】D.A.Higgins,Advanced Materials 2000,12,No.4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1~3に示されているゲストホスト液晶を切断整形可能なフィルム素子にするためには、PDLCのごとく、液晶を囲み、かつ膜構造を支持するマトリクスが必要となる。
特許文献4に記載されているような、光重合による重合誘起相分離を用いて製造されるPDLCの場合、色素の光吸収による高分子マトリクスの硬化不良が起こるため、液晶素子の信頼性に問題がある。
【0015】
一方、特許文献5によると、液晶の複屈折率(Δn)が0.15以下であり、かつ二色性色素のオーダーパラメータSが0.75以上であれば、PDLCの可視光透過率の変化幅が30%以上で、かつ透明状態のヘーズが10%以下になると記載されている。
しかしながら、ここでの可視光透過率は散乱光が含まれていない直線光による直線透過率を示しており、前方散乱された光を含めると、透過光量の変化幅はなおも非常に小さいため、日射量がほとんど制御できない課題がある。
また、透明状態のヘーズが10%以下といっても、特許文献5に記載の方法ではヘーズ8%しか実現できておらず、透明状態の濁りが強く、視界がぼやけてしまい満足のゆくものではない。
【0016】
従来の検討では、透過光量を電気的に制御でき、透明状態に濁りが小さくすっきりした視界が確保され、更に、切断整形可能な液晶素子は提供されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、検討の結果、散乱光も含めた透過光量を評価するには、分光光度計と積分球を併用して全透過率を測定する方法が適切であることを見出した。さらに、前記測定方法により、本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の素子構成であり、特定のヘーズ及び全透過率であることで解決できることを見出した。
即ち、本発明の要旨は、以下に存する。
【0018】
[1]水を含有する媒体に液晶組成物が分散したエマルジョン組成物であって、前記媒体は、高分子が分散又は溶解したものであり、前記液晶組成物は、二色性色素を含有し、前記液晶組成物の誘電率異方性が正であり、前記液晶組成物の屈折率異方性が0.01以上0.2以下であり、前記液晶組成物の平均粒径が4.9μm以上50μm以下である、エマルジョン組成物。
[2]前記高分子の全質量1とすると、液晶組成物の全質量が0.5以上4以下である、上記[1]に記載のエマルジョン組成物。
[3]前記液晶組成物の粒径分布において、変動係数が0.001以上0.8以下である、上記[1]又は[2]に記載のエマルジョン組成物。
[4]前記二色性色素がアントラキノン系色素を含有するものである、上記[1]~[3]のいずれかに記載のエマルジョン組成物。
[5]前記液晶組成物に二色性色素を3%以上20%以下含有する、上記[1]~[4]のいずれかに記載のエマルジョン組成物。
[6]前記高分子がポリウレタンを含有するものである、上記[1]~[5]のいずれかに記載のエマルジョン組成物。
[7]上記[1]~[6]のいずれかに記載のエマルジョン組成物を用いて得られる液晶-高分子複合膜。
[8]透明導電膜が対向するように配置された2枚の透明導電膜付き基板と、前記2枚の透明導電膜付き基板の間に挟持された、上記[7]に記載の液晶-高分子複合膜とを備える、液晶素子。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、透過光量を電気的に制御できる、切断整形可能な液晶素子が提供される。また、当該素子において、透明状態に濁りが小さくすっきりした視界が確保される。
【0020】
本発明の液晶素子は、透明導電膜が対向するように配置された2枚の透明導電膜付き基板と、前記2枚の透明導電膜付き基板の間に挟持された液晶-高分子複合膜とを備え、前記液晶-高分子複合膜が、高分子マトリクスと、前記高分子マトリクスに液晶組成物が囲まれた液晶領域とを有する液晶素子である。前記液晶組成物は二色性色素を含有しており、前記液晶-高分子複合膜は電圧の印加により透明状態と着色状態を切り替えることができる。前記透明状態と着色状態の全透過率の差が25%以上であり、前記透明状態のヘーズが6%以下である。
前記液晶-高分子複合膜が、高分子マトリクスと前記高分子マトリクスに液晶組成物が囲まれた液晶領域とを有することで、可撓性を有する切断整形可能な液晶素子となる。前記透明状態と着色状態の全透過率の差が25%以上あることで、透過光量の多い状態と少ない状態で切り替えることができるので、たとえばスマートガラスとして窓へ適用する場合、日射を制御し、空調負荷を減らすことができる。
一方、前記透明状態のヘーズが6%以下であることで、濁りが小さくすっきりした視界が確保され、通常の窓ガラスと同様の視界が得られる。
【0021】
本発明の液晶素子は、上記の特性から、窓、スクリーン、ディスプレイ等に有用である。例えば、建物及び乗り物の窓、パーテーション等に視野遮断素子として用いることができる。また、公告板、ショーウインドウ、コンピューター端末、プロジェクション等のディスプレイとして利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0023】
<液晶素子>
本発明の液晶素子は、透明導電膜が対向するように配置された2枚の透明導電膜付き基板と、前記2枚の透明導電膜付き基板の間に挟持された液晶-高分子複合膜とを備え、前記液晶-高分子複合膜が、高分子マトリクスと、前記高分子マトリクスに液晶組成物が囲まれた液晶領域とを有する液晶素子である。前記液晶組成物は二色性色素を含有しており、前記液晶-高分子複合膜は電圧の印加により透明状態と着色状態を切り替えることができる。
液晶-高分子複合膜は、電圧無印加時に透明状態であり、電圧印加時に着色状態であってもよい。また、電圧印加時に透明状態であり、電圧無印加時に着色状態であってもよい。
なお、本発明において電圧とは、閾値以上の実効値を持つ、直流電圧、交流電圧、パルス電圧又はそれらの組み合わせを表す。
【0024】
本発明において、透明状態とは、上記電圧印加時又は電圧無印加時の液晶-高分子複合膜の状態を表し、電圧印加時と電圧無印加時において、液晶-高分子複合膜の全透過率が大きい方を透明状態とする。
また、本発明において、着色状態とは、上記電圧印加時又は電圧無印加時の液晶-高分子複合膜の状態を表し、電圧印加時と電圧無印加時において、液晶-高分子複合膜の全透過率が小さい方を透明状態とする。
【0025】
〔全透過率〕
本明細における全透過率は、JIS B7081で規定された、積分球を備えた分光光度計を使用する方法で測定される。また本明細において、光とは可視光(波長380nm~780nm)を示すものとし、全透過率は可視光領域で測定されるものとする。本発明の液晶素子は、透明状態と着色状態の全透過率の差が25%以上であることを特徴とする。全透過率の差が25%以上であることで、液晶素子の透過光量を制御することができる。好ましくは30%以上であり、より好ましくは35%以上である。
また、透明導電膜付き基板の透過率が低いと導電膜の電気抵抗が低くなり、液晶素子の駆動電圧や応答時間が良好になる傾向があるため、全透過率の差は90%以下であることが好ましく、より好ましくは85%以下であり、さらに好ましくは80%以下である。
液晶素子において、透明状態と着色状態の全透過率の差が25%以上である波長域は少なくとも1つ存在すればよく、2つ以上存在してもよい。
【0026】
全透過率の差を25%以上とする方法は特に限定されないが、(1)着色状態の二色性色素の光吸収を大きくする方法、(2)透明状態に二色性色素の光吸収を小さくする方法、及び(3)透明状態に後方散乱する光を低減することが挙げられる。
(1)のごとく着色状態の二色性色素の光吸収を大きくするためには、
(1-1)二色性色素の吸光係数を大きくする、
(1-2)二色性色素を可能な限り多量に液晶組成物に溶解させる、
(1-3)着色状態における液晶-高分子複合膜の光散乱を低減する、
(1-4)二色性色素の吸収軸の方位を入射光の光電場振動方位と合わせる、等が挙げられる。
さらに、(1-3)のごとく着色状態における液晶-高分子複合膜の光散乱を低減するためには、液晶組成物の異常光屈折率(ne)を高分子マトリクスの屈折率に近づける、液晶領域の平均粒径(r)を光波長より十分大きい範囲にする等の方法が挙げられる。
(2)のごとく透明状態に二色性色素の光吸収を小さくするためには、二色性色素のオーダーパラメータを大きくする方法等が挙げられる。
(3)のごとく透明状態に後方散乱する光を低減するためには、液晶組成物のneを高分子マトリクスの屈折率に近づける、液晶領域のrを光波長より十分大きい範囲にする等の方法が挙げられる。
全透過率の差を25%以上とする波長域は液晶組成物に含有させる二色性色素の吸収波長域と対応しているため、着色させたい色彩に応じて二色性色素を選定する方法が挙げられる。
【0027】
透明状態の全透過率としては、40%以上が好ましく、より好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは60%以上である。着色状態の全透過率としては、50%以下が好ましく、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下である。なお、透明状態と着色状態の全透過率は、透明状態の方が必ず高い。
なお、全透過率の範囲は、用途に応じて決めることができる。たとえば背景を観察したいことが多い用途では透明性を重視して全透過率を透明状態70%、着色状態45%のように高い範囲にすればよく、外光のまぶしさを低減したいことが多い用途では透明状態40%、着色状態15%のように低い範囲にすればよい。
【0028】
〔ヘーズ〕
本明細におけるヘーズは、JIS K7136の方法で測定される。本発明の液晶素子は、透明状態のヘーズが6%以下であることを特徴とする。透明状態のヘーズが6%以下であることで、濁りが小さくすっきりした視界が確保され、通常の窓ガラスと同様の視界が得られる。好ましくは4%以下であり、より好ましくは2%以下である。
一方、透明導電膜付き基板のヘーズを勘案すると、透明状態のヘーズは0.1%以上が好ましく、より好ましくは0.3%以上であり、さらに好ましくは0.5%以上である。
液晶素子の透明状態のヘーズを6%以下とする方法は特に限定されないが、液晶組成物の常光屈折率(no)を高分子マトリクスの屈折率に近づける、液晶領域のrを光波長より十分大きい範囲にする等が挙げられる。
【0029】
着色状態のヘーズとしては90%以下が好ましく、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下である。90%以下であることで、着色状態の二色性色素の光吸収を大きくすることができ、より透過光量を小さくできる傾向がある。一方10%以上が好ましく、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上である。10%以上であることで、外光のまぶしさをより低減できる傾向がある。
【0030】
本発明は特に、液晶組成物のΔn(Δn=ne-no)及び液晶領域のmを適当な範囲に制御することで、透明状態と着色状態の全透過率の差を25%以上にし、かつ透明状態のヘーズを6%以下にすることのできる液晶素子を見出したものである。
【0031】
〔液晶-高分子複合膜〕
本発明の液晶素子が含む液晶-高分子複合膜は、高分子マトリクスと、前記高分子マトリクスに液晶組成物が囲まれた液晶領域とを有する。このような液晶-高分子複合膜は、一般にPDLCとして知られている。
液晶-高分子複合膜は、高分子マトリクスと、前記高分子マトリクスに液晶組成物が囲まれた液晶領域とを有することで、液晶素子が可撓性を有する。また、このような構造を持つことで、液晶素子を切断しても液晶組成物の漏洩が最小限に留められ、加えて高分子マトリクスが酸素や水分等の劣化要因から液晶組成物を保護するため、切断整形が可能となる。
【0032】
液晶領域は高分子マトリクス中に分散していてもよく、規則的に配列していてもよい。液晶領域の形状としては、真球、回転楕円体、円柱、三角柱、四角柱、六角柱等の多角柱のいずれでもよく、またこれらの形状が歪であってもよい。これらの中でも、真球、回転楕円体、円柱、正三角柱、正四角柱、正六角柱等の正多角柱が液晶-高分子複合膜の光散乱が弱くなり、着色時の二色性色素の光吸収が大きくなるとともに、透明状態のヘーズが小さくなる傾向があるため好ましい。
【0033】
液晶領域のサイズとしては、膜面から観察した際に、平均粒径が2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。また、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。平均粒径が上記下限値より大きいことで、液晶-高分子複合膜の光散乱が弱くなり、透明状態のヘーズが小さくなる傾向がある。
同時に着色状態の液晶-高分子複合膜の光散乱も弱くなることで、二色性色素の光吸収の効率が向上し、より全透過率が低くなる傾向がある。平均粒径が上記上限値より小さいことで、液晶領域の粒状感が無くなってゆき、液晶素子の外観の均一性が良好になる傾向がある。なお、平均粒径は個数基準のメディアン径とする。
膜面から観察した際に、液晶領域の形状が円ではなく、楕円、三角形、四角形、六角形等の多角形、又はこれらの形状が歪である場合、粒径は最小包含円の直径を参照すればよい。
【0034】
前記液晶領域の変動係数が個数基準の粒度分布において、平均粒径(m)と正規分布の標準偏差(σ)に対し、変動係数(CV)をCV=σ/mとする。変動係数は、0.8以下であることが好ましく、0.5以下であることが好ましく、0.3以下がより好ましく、0.1以下がさらに好ましい。変動係数が上記上限値以下であることで、散乱を起こす小粒子及び粒状感を生じさせる大粒子が、十分少なくなる傾向にある。
一方、変動係数が上記下限値以上であることが好ましく、0.005以上がより好ましく、0.01以上がさらに好ましい。変動係数が0.001以上であることで、エマルジョン組成物の生産性が向上する傾向にある。
【0035】
液晶領域の個数基準の粒径頻度分布において、粒径2μm以下は累積20%以下であることが好ましく、累積10%以下がより好ましく、累積5%以下がさらに好ましい。累積20%以下であることで、液晶-高分子複合膜の光散乱が弱くなり、着色状態の二色性色素の光吸収が大きくなるとともに、透明状態のヘーズが小さくなる傾向がある。
一方、累積0.1%以上であることが好ましく累積0.5%以上がより好ましく、累積1%以上がさらに好ましい。累積0.1%以上であることで、エマルジョン組成物の生産性が向上する傾向にある。
また、粒径50μm以上は累積20%以下が好ましく、累積10%以下がより好ましく、累積5%以下がさらに好ましい。累積20%以下であることで、液晶領域の粒状感が無くなってゆき、液晶素子の外観の均一性が良好になる傾向がある。
一方、累積0.1%以上であることが好ましく累積0.5%以上がより好ましく、累積1%以上がさらに好ましい。累積0.1%以上であることで、エマルジョン組成物の生産性が向上する傾向にある。
【0036】
〔液晶組成物〕
本発明の液晶組成物は、二色性色素を含有する液晶を含有する。このような液晶組成物は、一般的にゲストホスト液晶として知られている。
特に限定はされないが、液晶組成物の二色性色素の含有量は3%以上であることが好ましく、4%以上であることがより好ましく、5%以上であることがさらに好ましい。また、液晶組成物の二色性色素の含有量は20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、12%以下であることがさらに好ましい。
上記下限値以上であることで、液晶素子が着色状態により大きな光吸収を示し、透過光量が小さくなる傾向にある。また、上記上限値以下であることで、二色性色素の分離や析出が生じにくくなり、液晶素子の信頼性が向上する傾向にある。
【0037】
液晶組成物としては、誘電率異方性(Δε)が正でも負でもよいが、正である方が透明状態の透過率を高くすることができるので好ましい。
液晶組成物の屈折率異方性(Δn)は、0.01以上0.2以下であることが好ましい。Δnが上記上限値以下であることで、高分子マトリクスと液晶領域との界面での光散乱が維持され、透明状態のヘーズ低下を抑制できる傾向にある。また、同時に着色状態の光散乱も維持されるため、二色性色素の光吸収の効率が抑制され、全透過率を高くできる傾向にある。一方、Δnが上記下限値以上であることで、液晶組成物のオーダーパラメータが大きくなる傾向がある。
【0038】
液晶組成物に使用する液晶としては、ネマチック液晶、コレステリック液晶、スメクチック液晶等が使用できる。安価に利用できることを鑑みると、ネマチック液晶又はコレステリック液晶が好ましい。また、ネマチック液晶にカイラル剤を添加してコレステリック液晶にしてもよい。
【0039】
液晶として公知の液晶性物質を用いる場合、具体的には日本学術振興会第142委員会編;「液晶デバイスハンドブック」日本工業新聞社(1989年)、第152頁~第192頁及び液晶便覧編集委員会編;「液晶便覧」丸善株式会社(2000年)、第260頁~第330頁に記載されているようなビフェニル系、フェニルシクロヘキサン系、シクロヘキシルシクロヘキサン系等の各種低分子系の化合物又は混合物を使用することができる。また、液晶便覧編集委員会編;「液晶便覧」丸善株式会社(2000年)、第365頁~第415頁に記載されているような高分子系化合物又は混合物を使用することもできる。ネマチック液晶を構成する化合物としては例えば、以下の化合物等が挙げられる。
【0040】
【化1】
【0041】
ネマチック液晶及びコレステリック液晶としては粘度が低く、誘電率異方性の高いものが、液晶素子の高速応答性やエマルジョンの製造性の点で好ましい。
カイラル剤としては、ホスト液晶へ相溶するカイラル化合物であればいずれでもよく、合成品でも市販品でよい。また、自身が液晶性を示すものでもよいし、重合性の官能基を有していてもよい。さらに、右旋性でも左旋性でもよく、右旋性のカイラル剤と左旋性のカイラル剤を併用してもよい。
また、カイラル剤としては、それ自身の誘電異方性が正に大きく、粘度の低いものが液晶素子の駆動電圧低減及び応答速度の観点から好ましく、カイラル剤が液晶をねじる力の指標とされるHelical Twisting Powerが大きいほうが好ましい。
カイラル剤としては、例えばCB15(商品名 メルク社製)、C15(商品名 メルク社製)、S-811(商品名 メルク社製)、R-811(商品名 メルク社製)、S-1011(商品名 メルク社製)、R-1011(商品名 メルク社製)等が挙げられる。
【0042】
液晶組成物には、本発明の液晶素子の性能を損なわない範囲で、添加剤を含有していてもよい。具体的には高分子前駆体、重合開始剤、光安定剤、抗酸化剤、増粘剤、重合禁止剤、光増感剤、接着剤、消泡剤、界面活性剤等を有していてもよい。
【0043】
〔二色性色素〕
液晶組成物に使用する二色性色素としては、ホスト液晶へ相溶する二色性色素化合物であればいずれでもよく、正の二色性色素でも負の二色性色素でもよい。また、自身が液晶性を示すものでもよい。
具体的にはアゾ系色素、アントラキノン系色素、ナフトキノン系色素、ペリレン系色素、キノフタロン系色素、テトラジン系色素、ベンゾチアジアゾール系色素等が挙げられる。公知の二色性色素を用いる場合、日本学術振興会第142委員会編;「液晶デバイスハンドブック」日本工業新聞社(1989年)、第192頁~第196頁及び第724頁~第730頁に記載されているようなアゾ系色素、アントラキノン系色素又はこれらの混合物を使用することができる。これらのなかでも、アントラキノン系色素を含むことが、吸光係数が大きく、液晶への溶解度が大きくなり、耐光性が高くなる傾向になるため好ましい。
二色性色素は1種類でもよく、複数種を混合して用いてもよい。特に限定はないが、好ましくは二色性色素のうち、アントラキノン系を20質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことが好ましい。
【0044】
液晶組成物を構成する二色性色素の具体例としては、例えば以下の化合物等が挙げられる。
【0045】
【化2】
【0046】
上記化合物中、Xは各々独立に、-NH-又は-S-を示し、
Rは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、これらの置換基を有してもよいシクロヘキシル基、フェニル基、フェニルシクロヘキシル基又はシクロヘキシルシクロヘキシル基を示す。
【0047】
〔高分子マトリクス〕
本発明の高分子マトリクスは、特に限定されないが、屈折率が液晶組成物の常光屈折率(no)と一致するように選択することが好ましい。典型的には液晶組成物のnoは1.5前後であるので、1.45以上1.55以下が好ましい。
高分子マトリクスを構成する高分子としては、ゼラチン、アラビアゴム等の天然高分子;ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアクリル、ポリアミン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル等の合成高分子及びそれらの変性体;メタクリレート/アクリロニトリル、ウレタン/アクリレート、アクリレート/アクリロニトリル等の共重合体;等を用いてもよい。また、架橋剤を用いて高分子に架橋構造を導入してもよい。
高分子は水への分散性又は溶解性が高いことが好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアクリル、ポリアミン及びそれらの変性体が好ましい。さらに好ましくは、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリアクリル及びそれらの変性体であり、特に好ましくはポリウレタン、ポリアクリル及びそれらの変性体である。
なお、高分子は1種類のみでもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0048】
(ポリウレタン)
ポリウレタンはポリイソシアネートとポリオールのそれぞれの骨格により分類される。ポリイソシアネート骨格としては、脂肪族炭素骨格からなる脂肪族系ポリウレタン、ポリイソシアネートに芳香環を含有する芳香族系ポリウレタン等が挙げられる。中でも脂肪族系ポリイソシアネートが耐光性が高い点で好ましい。ポリオール骨格としては、ポリエーテル系、ポリエステル系及びポリカーボネート系が挙げられ、中でもポリエーテル系が膜の密着性が良好であり好ましい。
【0049】
(ポリアクリル)
ポリアクリルは種々のアクリレートの重合体から成り、アクリルモノマーとしては、以下式(1)で表される化合物等が挙げられる。
【0050】
【化3】
【0051】
上記式(1)中、Xは各々独立に、水素原子又はメチル基を示し、
は水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素数1以上20以下の置換基を有していてもよい直鎖状もしくは分枝状アルキル基、炭素数1以上20以下の置換基を有してもよい直鎖状もしくは分枝状アルコキシ基又は炭素数1以上10以下の置換基を有してもよい環状炭化水素基を示す。
【0052】
ポリアクリルはアクリレート以外のモノマーと共重合してもよく、共重合体としては、アクリレート-スチレン、アクリレート-酢酸ビニル、アクリレート-アクリロニトリル、アクリレート-ウレタン、アクリレート-エステル、アクリレート-シリコーン等が挙げられる。主鎖をアクリレートと他のモノマーとの共重合体で構成してもよいし、ポリアクリル主鎖に他のポリマーをグラフトさせてもよい。
【0053】
高分子マトリクスには、本発明の液晶素子の性能を損なわない範囲で、低分子を含有していてもよい。具体的には光安定剤、抗酸化剤、増粘剤、重合禁止剤、光増感剤、接着剤、消泡剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0054】
〔液晶組成物と高分子マトリクスの比〕
本発明の液晶-高分子複合膜において、高分子マトリクスの全質量に対し、液晶組成物の全質量を1とすると、0.5以上であることが好ましく、1以上であることがより好ましい。また、4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。
高分子マトリクスの全質量に対し、液晶組成物の全質量が上記下限値以上であることで、透明状態のヘーズが低く、かつ駆動電圧が低くなる傾向がある。また、高分子マトリクスの全質量に対し、液晶組成物の全質量が上記上限値以下であることで、液晶-高分子複合膜の耐衝撃性及び密着性が向上する傾向がある。
【0055】
〔液晶素子の構成例〕
本発明の液晶素子の代表的な構成を以下に説明する。しかし、これらに限定されるものではない。
【0056】
[基板]
基板の材質としては、例えば、ガラスや石英等の無機透明物質、金属、金属酸化物、半導体、セラミック、プラスチック板、プラスチックフィルム等の無色透明のものが挙げられる。これらの基板を単板で用いても、複数積層してもよい。
また、基板にはキズや汚れから守る目的でハードコート層や特定波長域の光線を遮断するシャープカット層やバンドパス層を付与してもよい。
【0057】
[透明導電膜]
電極は、上記基板の上に、例えば、金属酸化物、金属、半導体、有機導電物質等の薄膜を基板全面或いは部分的に、既知の塗布法や印刷法やスパッタ等の蒸着法等により形成される。また、導電性の薄膜形成後に部分的にエッチングしたものでもよい。特に大面積の液晶素子を得るためには、生産性及び加工性の面からPET等の透明高分子フィルム上にITO(酸化インジウムと酸化スズの混合物)電極をスパッタ等の蒸着法や印刷法等を用いて形成した電極基板を用いることが望ましい。なお、基板上に電極間或いは電極と外部を結ぶための配線が設けられていてもよい。例えば、セグメント駆動用電極基板やマトリックス駆動用電極基板、アクティブマトリックス駆動用電極基板等であってもよい。
【0058】
更に、基板上に設けられた電極面上が、ポリイミドやポリアミド、シリコン、シアン化合物等の有機化合物、SiO、TiO、ZrO等の無機化合物、又はこれらの混合物よりなる保護膜や配向膜で全面或いは一部が覆われていてもよい。なお、基板は、液晶を基板面に対して配向させるよう配向処理されていてもよく、配向処理されている場合、例えば、2枚の基板ともホモジニアス配向又はホメオトロピック配向であってもよいし、一方がホモジニアス配向で、他方がホメオトロピック配向である、いわゆるハイブリッドであっても構わない。これらの配向処理には、電極表面を直接ラビングしてもよく、TN液晶、STN液晶等に用いられるポリイミド等の通常の配向膜を使用してもよいし、光配向処理を施してもよい。
【0059】
対向する基板は、周辺部に適宜、基板を接着支持する樹脂体を含む接着層を有してもよい。
本発明における液晶素子の端部あるいは切断面を、粘着テープ、熱圧着テープ、熱硬化性テープ等のテープ類、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、湿気硬化型樹脂、室温硬化型接着剤、嫌気性接着剤、エポキシ系接着剤、シリコ-ン系接着剤、フッ素樹脂系接着剤、ポリエステル系接着剤、塩化ビニル系接着剤等の硬化性樹脂類や熱可塑性樹脂類等で封止することで、内部の液晶組成物等の染み出しを防ぐことができる。また、この封止により、液晶素子の劣化を防ぐ効果が得られる場合もある。その際の端面の保護法としては、端面を全体に覆ってもよいし、端部から液晶素子内部に硬化性樹脂類や熱可塑性樹脂類を流し込み固化させてもよく、更にこの上をテープ類で覆ってもよい。
【0060】
対向配置される基板間には、球状又は筒状のガラス、プラスチック、セラミック、あるいはプラスチックフィルム等のスペーサーを存在させてもよい。スペーサーは、本発明のエマルジョン組成物の成分として含有させることで、基板間の液晶-高分子複合膜に存在させてもよく、液晶素子組み立ての際に基板上に散布したり、接着剤と混合して接着層の中に存在させたりしてもよい。
【0061】
〔液晶-高分子複合膜の製造法〕
本発明の液晶-高分子複合膜は、電極基板上にエマルジョン組成物を塗布し、乾燥させることで製造することができる。塗布方法としては、バーコート、ブレードコート、ナイフコート、ダイコート、スクリーンコート、マイクログラビアロールコート、リバースロールコート、キスロールコート、ディップロールコート、スピンコート、スプレーコート等、公知の塗布方法が使用できる。基板の性状に応じ、適宜基板洗浄をしてもよい。
塗布時のウェット膜厚は10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。また、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましい。ウェット膜厚が上記上限値以上であることで、液晶粒子の粗密が無くなり、均一に塗布できる傾向がある。またウェット膜厚が上記下限値以下であることで、駆動電圧が実用的な値まで下がり、かつ透明状態のヘーズが低くなる傾向がある。
エマルジョン組成物を塗布し、乾燥する際の乾燥温度は、40℃以上が好ましく、60℃以下がより好ましい。また、120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。乾燥温度が上記下限値以上であることで、乾燥時間が実用的な時間に短縮されるとともに、膜中に残留する水分量が少なくなることで液晶素子の信頼性が向上する傾向にある。また、乾燥温度が上記上限値以下であることで、乾燥中のエマルジョン組成物の合一や逆相化等の構造破壊が生じにくくなる傾向がある。
【0062】
<エマルジョン組成物>
本発明のエマルジョン組成物は、水を含有する媒体に液晶組成物が分散したエマルジョンであって、前記媒体には高分子が分散又は溶解している。また、前記液晶組成物に二色性色素を含有しており、前記液晶組成物の誘電率異方性が正であり、前記液晶組成物の屈折率異方性が0.01以上0.2以下であり、前記液晶組成物の平均粒径が2μmより大きく50μmより小さいことを特徴とする。
【0063】
エマルジョン組成物に含まれる液晶組成物は特に限定されず、上述した液晶素子に用いられる液晶組成物が挙げられる。また、エマルジョン組成物に含まれる水を含む媒体も特には限定されず、純水又は水と有機溶媒の混合物が挙げられる。
有機溶媒の例としては、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、カルボン酸、アミン等が挙げられる。有機溶媒は水溶性でもよいし、水にわずかに溶ける程度の油溶性でもよいが、水と均一に溶解する量を混合することが好ましい。
媒体に分散又は溶解している高分子は、ゼラチン、アラビアゴム等の天然高分子;ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアクリル、ポリアミン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル等の合成高分子及びそれらの変性体;メタクリレート/アクリロニトリル、ウレタン/アクリレート、アクリレート/アクリロニトリル等の共重合体;等が挙げられる。
高分子は水への分散性又は溶解性が高いことが好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアクリル、ポリアミン及びそれらの変性体が好ましく、さらに好ましくはポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリアクリル及びそれらの変性体であり、特に好ましくはポリウレタンである。
なお、高分子は1種類のみでもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0064】
本発明において、高分子の分散とは、媒体中に高分子の粒子が懸濁している状態であり、高分子の溶解とは高分子が溶媒和により十分小さく解離され、均一系をなす状態のことを示す。高分子の分散及び溶解に関しては、「色材」一般社団法人色材協会(2004年),77巻4号,169~176頁に詳しい。
【0065】
エマルジョン組成物中で液晶組成物は水を含む媒体に分散しているが、液状のままで分散していてもよく、液晶組成物の周辺部を高分子、シリカ化合物、無機ナノ粒子等でカプセル化したマイクロカプセル液晶の形で分散していてもよい。
マイクロカプセル液晶のカプセルとなる高分子としては、ゼラチン、アラビアゴム等の天然高分子;ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリウレア、ポリアクリル、ポリアミン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル等の合成高分子及びそれらの変性体;メタクリレート/アクリロニトリル、ウレタン/アクリレート、アクリレート/アクリロニトリル等の共重合体;等が挙げられる。
【0066】
エマルジョン組成物には、本発明の液晶素子の性能を損なわない範囲で、添加剤を含有していてもよい。具体的には界面活性剤、乳化剤、分散剤、沈降防止剤、造膜助剤、レベリング剤、光安定剤、抗酸化剤、増粘剤、重合禁止剤、光増感剤、接着剤、消泡剤等が挙げられる。
【0067】
液晶組成物の屈折率異方性(Δn)は0.01以上0.2以下であることが好ましい。Δnが上記上限値以下であることで、液晶-高分子複合膜の光散乱が弱くなり、着色状態の二色性色素の光吸収が大きくなるとともに、透明状態のヘーズが小さくなる傾向がある。一方、Δnが上記下限値以上であることで、液晶組成物のオーダーパラメータが大きくなるため、透明状態の二色性色素の光吸収が小さくなる傾向がある。
【0068】
液晶組成物の粒子のサイズとしては、平均粒径が2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。また、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。平均粒径が上記下限値より大きいことで、液晶-高分子複合膜における高分子マトリクスと液晶領域との界面での光散乱が弱くなり、透明状態のヘーズが小さくなる傾向がある。同時に着色状態の光散乱も弱くなることで、二色性色素の光吸収の効率が向上し、より着色状態の全透過率が低くなる傾向がある。
また、平均粒径が上記上限値より小さいことで、液晶領域の粒状感が無くなってゆき、液晶素子の外観の均一性が良好になる傾向がある。なお、平均粒径は個数基準のメディアン径とする。
【0069】
前記液晶組成物の個数基準の粒度分布において、平均粒径mと正規分布の標準偏差σに対し、変動係数CV=σ/mとする。変動係数(CV)は、0.8以下が好ましく、0.5以下であることが好ましく、0.3以下がより好ましく、0.1以下がさらに好ましい。変動係数が上記上限値以下であることで、散乱を起こす小粒子及び粒状感を生じさせる大粒子が十分少なくなる傾向にある。
一方、変動係数が上記下限値以上であることが好ましく、0.005以上がより好ましく、0.01以上がさらに好ましい。変動係数が0.001以上であることで、エマルジョン組成物の生産性が向上する傾向にある。
【0070】
液晶領域の個数基準の粒径頻度分布において、粒径2μm以下は累積20%以下であることが好ましく、累積10%以下がより好ましく、累積5%以下がさらに好ましい。累積20%以下であることで、液晶-高分子複合膜の光散乱が弱くなり着色状態の二色性色素の光吸収が大きくなるとともに、透明状態のヘーズが小さくなる傾向がある。
一方、累積0.1%以上であることが好ましく累積0.5%以上がより好ましく、累積1%以上がさらに好ましい。累積0.1%以上であることで、エマルジョン組成物の生産性が向上するので好ましい。
また、粒径50μm以上は累積20%以下が好ましく、累積10%以下がより好ましく、累積5%以下がさらに好ましい。累積20%以下であることで、液晶領域の粒状感が無くなってゆき、液晶素子の外観の均一性が良好になる傾向がある。
一方、累積0.1%以上であることが好ましく累積0.5%以上がより好ましく、累積1%以上がさらに好ましい。累積0.1%以上であることで、エマルジョン組成物の生産性が向上するので好ましい。
【0071】
媒体に分散又は溶解している高分子の全質量に対し、液晶組成物の全質量が0.5以上であることが好ましく、1以上であることがより好ましい。また、4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。
高分子の全質量に対し、液晶組成物の全質量が上記下限値以上であることで、エマルジョン組成物を用いて得られる液晶素子の透明状態のヘーズが低く、かつ駆動電圧が低くなる傾向がある。また、高分子全質量に対し、液晶組成物の全質量が上記上限値以下であることで、エマルジョン組成物を用いて得られる液晶素子の耐衝撃性及び密着性が向上する。
【0072】
〔二色性色素〕
エマルジョン組成物に含まれる二色性色素は特に限定されず、上述した液晶素子に用いられる二色性色素が挙げられる。そのなかでも、アントラキノン系色素を含むことが、吸光係数が大きく、液晶への溶解度が大きくなり、耐光性が高くなる傾向になるため好ましい。
二色性色素は1種類でもよく、複数種を混合して用いてもよい。特に限定はないが、好ましくは二色性色素のうち、アントラキノン系を20質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことが好ましい。
【0073】
〔エマルジョン組成物の製造法〕
本発明のエマルジョン組成物の製造法は特に限定されないが、例えば以下のように製造することができる。
製造方法(1) 油相である液晶組成物と水相である水を含有する媒体を混合し、乳化工程を経た後に、水を含有する媒体に高分子が分散又は溶解している液を添加する。
製造方法(2) 油相である液晶組成物と水相である水を含有する媒体に高分子が分散又は溶解している液を混合し、乳化工程を行う。
製造方法(3) 液晶組成物の周辺部を高分子、シリカ化合物、無機ナノ粒子等でカプセル化したマイクロカプセル液晶の粉体又はスラリーと水を含有する媒体を混合し、分散工程を経た後に、水を含有する媒体に高分子が分散又は溶解している液を添加する。
製造方法(4) 前記マイクロカプセル液晶の粉体又はスラリーと水を含有する媒体に高分子が分散又は溶解している液を混合し、分散工程を行う。
この中でも製造方法(1)及び製造方法(3)は、混合物が低粘度の状態で乳化工程又は分散工程を行うことができるため、低エネルギーで製造でき、さらに、液晶組成物の粒径を制御しやすいので好ましい。
【0074】
水を含有する媒体に高分子が分散又は溶解している液としては、市販の水性樹脂エマルジョンが使用できる。以下具体例を示す。
水性ウレタンエマルジョン: DSM社製 NeoRez R-9660、NeoRez R-972、NeoRez R-9637、NeoRez R-9679、NeoRez R-960、NeoRez R-2170、NeoRez R-966、NeoRez R-967、NeoRez R-986、NeoRez R-9603、NeoRez R-4000、NeoRez R-9404、NeoRez R-600、NeoRez R-650、NeoRez R-1010、第一工業製薬社製 スーパーフレックス 126、スーパーフレックス 130、スーパーフレックス 150、スーパーフレックス 150HS、スーパーフレックス 170、スーパーフレックス 210、スーパーフレックス 300、スーパーフレックス 420、スーパーフレックス 420NS、スーパーフレックス 460、スーパーフレックス 460S、スーパーフレックス 470、スーパーフレックス 500M、スーパーフレックス 620、スーパーフレックス 650、スーパーフレックス 740、スーパーフレックス 820、スーパーフレックス 830HS、スーパーフレックス 860、スーパーフレックス 870、スーパーフレックス E-2000、スーパーフレックス E-4800、日華化学社製 ネオステッカー200、ネオステッカー 400、ネオステッカー 700、ネオステッカー 1200、ネオステッカー X-7096、エバファノール HA-107C、エバファノール HA-50C、エバファノール HA-170、エバファノール HA-560、エバファノール HA-15、エバファノール AP-12、エバファノール APC-55。
水性アクリルエマルジョン: DSM社製 NeoCryl A-633、NeoCryl A-639、NeoCryl A-655、NeoCryl A-662、NeoCryl A-1091、NeoCryl A-1092、NeoCryl A-1093、NeoCryl A-1094、NeoCryl A-2091、NeoCryl A-2092、NeoCryl A-6016、NeoCryl A-6057、NeoCryl A-6069、NeoCryl A-6092、NeoCryl A-614、NeoCryl A-550、NeoCryl A-1105、NeoCryl A-1125、NeoCryl A-1127、NeoCryl XK-12、NeoCryl XK-16、NeoCryl XK-30、NeoCryl XK-36、NeoCryl XK-52、NeoCryl XK-190、NeoCryl XK-188、NeoCryl XK-240、ジャパンコーティングレジン社製 リカボンド 702、リカボンド 727、リカボンド 743N、リカボンド 745、リカボンド 752、リカボンド 801、リカボンド 940、リカボンド 972、リカボンド 1711、リカボンド 1752、リカボンド 6520、リカボンド 6720、リカボンド 7110、リカボンド 7180、リカボンド 7525、リカボンド 7820、リカボンド 8020、リカボンド 8030、リカボンド DM60、リカボンド DM772、リカボンド DM774、リカボンド LDM6740、リカボンド LDM7522、リカボンド LDM7523、リカボンド ES-65、リカボンド ES-90、リカボンド ET-700、リカボンド ET-831、リカボンド HS-5、リカボンド HS-531、リカボンド AP-601、リカボンド AP-96、リカボンド AP-620、リカボンド AP-700、リカボンド AP-80、リカボンド 710A、リカボンド 730L、リカボンド 731L、リカボンド 952B、リカボンド 966A、リカボンド 7320、リカボンド 7400、リカボンド FK-420、リカボンド FK-64S、リカボンド FK-66IS、FK-66N、FK-68H、リカボンド FK-471、リカボンド FK-475、リカボンド FK-489、リカボンド FK-284、リカボンド FK-600S、リカボンド FK-3830、リカボンド FK-3840、リカボンド FK-6100、モビニール VDM7410、モビニール 4061、モビニール 4080、モビニール 4090、モビニール 4050、モビニール S-71、モビニール 461、モビニール 650、モビニール AP-60L、モビニール 490。
上記の中でも、NeoRez R-966、NeoRez R-967、NeoCryl A-1125、NeoCryl A-1127、リカボンド FK-471、モビニール 4061、モビニール 4080、モビニール 4090が油相の分散安定性に優れ好ましい。
【0075】
安定的なエマルジョンを得るために、乳化工程又は分散工程の前の段階で界面活性剤又は分散安定剤を添加することが好ましい。界面活性剤としては特に限定はなく、イオン性でも非イオン性でもよく、低分子でも高分子でもよく、非反応性でも反応性でもよい。
界面活性剤の添加量は特に限定されないが、液晶組成物に対し、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。界面活性剤が上記の範囲にあることで、エマルジョンの分散が安定化するとともに、液晶組成物の粒径を所望の範囲に制御することができる傾向にある。
【0076】
上記界面活性剤は溶解性に応じて液晶組成物へ添加してもよいし、水を含有する媒体へ添加してもよい。
界面活性剤の例としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤;
アミン塩、4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;
アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルアミンオキサイド、ベタイン、スルホベタイン、アミドスルホベタイン、カルボベタイン、イミダゾリン等の両性界面活性剤;
ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアラルキルエーテル、ポリオキシエチレンアラルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック付加物、アルキルグルコシド、ポリエーテル変性シリコーン等のエーテル型、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等のエステル型、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンショ糖脂肪酸エステル等のエステル・エーテル型、アセチル変性ポリビニルアルコール等のアセチル型、脂肪酸アルカノールアミド等の非イオン性界面活性剤:等が挙げられる。
この中でもアニオン性界面活性剤は水溶性と分散安定性が高い点で好ましく、特に、スルホン酸塩が好ましい。また、非イオン性界面活性剤は液晶素子の電気的な信頼性を高くできる傾向があり好ましい。中でもエーテル型又はエステル型が好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアラルキルエーテル、ポリオキシエチレンアラルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック付加物、アセチル変性ポリビニルアルコール等が特に好ましい。
【0077】
分散安定剤としては特に限定はないが、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリウレタン、ポリアミン、ポリアミド、ポリエーテル、マレイン酸共重合物、ゼラチン、デンプン、キトサン、コーンスターチ等の高分子及びこれらの変性体;
メタクリレート/アクリロニトリル、ウレタン/アクリレート、アクリレート/アクリロニトリル等の共重合体;
シリカ微粒子、チタニア微粒子、アルミナ微粒子等の無機酸化物の微粒子:等が挙げられる。この中でもポリビニルアルコール、ポリビニルアルコールの変性体、ポリウレタン、ポリアミド等が、分散安定性が高く好ましい。
【0078】
上記ポリビニルアルコールは、ケン化度が80mol%以上であることが好ましく、85mol%以上であることがより好ましい。また、95mol%以下が好ましく、91mol%以下がより好ましい。これらの範囲であることで、水を含有する媒体への溶解度が高い傾向にある、
また、ポリビニルアルコールの重合度は100以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましい。また、2500以下であることが好ましく、1000以下であることがより好ましい。これらの範囲であることで、膜が可撓性に優れる傾向にある。
具体的には日本合成化学社製 ゴーセノール GL-03、ゴーセノール GL-05、ゴーセノール GM-14L、ゴーセノール GM14、ゴーセノール GH-17、ゴーセノール GH-20、ゴーセノール GH-23、ゴーセノール AL-06、ゴーセノール P-610、ゴーセノール C-500、クラレ社製 クラレポバール 25-88KL、クラレポバール 32-97KL、クラレポバール 3-86SD、クラレポバール 105-88KX、クラレポバール 200-88KX。デンカ社製 デンカポバール H-12、デンカポバール H-17、デンカポバール H-24、デンカポバール B-05、デンカポバール B-17、デンカポバール B-20、デンカポバール B-24、デンカポバール B-33等が挙げられる。
【0079】
エマルジョン組成物の製造において、乳化法及び分散法は特に限定はなく、攪拌機、ホモジナイザー、ホモミキサー、ディスパーサー、高圧乳化機、ブレンダー、コロイドミル、超音波分散機等を用いた機械的に粒子を破砕する方法;多孔膜、マイクロチャネル、インクジェット等を用いて液を孔から押し出す方法;等が挙げられる。
上記の中でも、多孔膜を用いて液を孔から押し出す方法(膜乳化法)が、粒子の粒度分布を精密に制御でき、かつ製造が容易であるため好ましい。多孔膜としては特に制限はないが、シラス多孔ガラス等を用いることができる。
【0080】
エマルジョン組成物には適宜、架橋剤を用いてもよい。架橋剤を用いることで、液晶-高分子複合膜の耐水性及び耐衝撃性が向上する傾向がある。
架橋剤としては、特に限定はないが、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン等のエポキシ系化合物;
γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ-グリシドキシプロピルジエトキシメチルシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等のエポキシシラン系化合物;
3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシラン系化合物;
γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン系化合物;
カルボジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のヒドラジド系化合物;
セミカルバジド樹脂;
ポリカルボジイミド系樹脂;
テトラメチロールメタン-トリス(β-アジリジニルプロピオナート)、トリメチロールプロパン-トリス(β-アジリジニルプロピオナート)、メチレンビス[N-(1-アジリジニルカルボニル)-4-アニリン]、N,N’-ヘキサメチレンビス(1-アジリジンカルボアミド)、N,N’-ヘキサアミノエチレン-1,6-ビス(1-アジリジンカルボキシアミド)等のアジリジン系(エチレンイミノ基含有)化合物;
アセトアセトキシ基含有化合物;オキサゾリン基含有化合物;
ポリエチレンポリアミン;ポリエチレンイミン;ポリアミドポリアミン;ポリアミドポリ尿素;アルキル化ポリメチロールメラミン;グリオキザール;
水分散イソシアネート;ブロックドイソシアネート;カルボジイミド基含有化合物;ビスビニルスルホン;乳酸チタネート;等が挙げられる。
エポキシ系化合物及びエポキシシラン系化合物を用いる場合には、イミダゾール系化合物、アミン系化合物、リン系化合物等の触媒を加えてもよい。
上記の中でも好ましくは、ヒドラジド系化合物、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、ブロックドイソシアネートが架橋速度が速く、毒性が低いために好ましい。
高分子と架橋剤は任意の組み合わせで使用することができるが、ポリウレタンとオキサゾリン基含有化合物、ポリウレタンとカルボジイミド基含有化合物、ポリウレタンとブロックドイソシアネート、ポリアクリルとヒドラジド系化合物の組み合わせが、架橋反応性が高くなる傾向にあり好ましい。
【0081】
架橋剤の添加量は特に限定はないが、架橋される樹脂に対して0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。また、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。架橋剤の添加量が上記の範囲にあることで、液晶-高分子複合膜の耐水性及び耐衝撃性が向上し、かつ可撓性が保持される傾向にある。
架橋剤の添加タイミングは、初めからエマルジョン組成物に添加しておく1液型にしてもよく、基板への塗布直前に添加する2液型でもよい。
【0082】
エマルジョン組成物の粘度は10mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がさらに好ましい。また、10000mPa・s以下が好ましく、2000mPa・s以下がさらに好ましい。上記の範囲にあることで、膜厚を均一に塗布することが容易になり、かつ塗布速度を速くすることができて生産性が高くなる傾向がある。
粘度を上記の範囲に収めるために、増粘剤、チクソ剤、減粘剤等の粘度調整剤を用いてもよい。粘度調整剤としては特に限定はないが、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリウレタン、ポリアミン、ポリアミド、マレイン酸共重合物、ゼラチン、デンプン、キトサン、コーンスターチ等の高分子及びこれらの変性体;メタクリレート/アクリロニトリル、ウレタン/アクリレート、アクリレート/アクリロニトリル等の共重合体;シリカ微粒子、チタニア微粒子、アルミナ微粒子等の無機酸化物の微粒子等が挙げられる。上記の中でも、ポリビニルアルコール及びこの変性体、ポリウレタン、ポリアミドが、粘度調整と粒子の分散安定性を両立できる傾向にあり、好ましい。
【0083】
エマルジョン組成物中の液晶組成物の含有量は20質量%以上が好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。また、70質量%以下が好ましく、65質量%以下がさらに好ましい。液晶組成物の含有量が上記範囲内にあることで、エマルジョン組成物を基板へ塗布した際に生じるハジキが抑制され、かつ液晶組成物の粒径とエマルジョン組成物の粘度を上記の範囲に収めることが容易になる傾向にある。
【0084】
エマルジョン組成物に用いる高分子の粒径は、1nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。また、1000nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。上記の範囲内にあることで、エマルジョン組成物の粘度を上記の範囲に収めることが容易になる傾向にある。また高分子の分子量は1.0×10以上が好ましく、1.0×10以上がより好ましい。また、1.0×10以下が好ましく、1.0×10以下がより好ましい。上記の範囲内にあることで、エマルジョン組成物の粘度を上記の範囲に収めることが容易になる傾向にある。
【実施例
【0085】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0086】
[実施例1]
Δn=0.08、Δε=+5.0のネマチック液晶96質量%と(D-1)で表されるアントラキノン系二色性色素4質量%を混合し、D-1を溶解させて液晶組成物(L-1)を得た。L-1 50質量%に対し、4質量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液を50質量%加え、シラス多孔質ガラスに通して乳化し、o/wエマルジョン(E-1)を得た。
E-1 45質量部にポリウレタン粒子を40質量%含む水系ラテックスのNeorez R-967(DSM社製)を38質量部加え、さらに不揮発分10wt%の変性ポリアミド AQH-800(楠本化成社製)を4.4質量部加え、均一になるまで撹拌してエマルジョン組成物(I-1)を得た。
I-1中の液晶組成物の平均粒径は6.2μm、変動係数は0.57であった。I-1における、水相中に分散又溶解している高分子(P-1)の質量を1とすると、L-1の質量は、1.44であった。
【0087】
【化4】
【0088】
基板は、厚さ125μmのPETフィルム基板上に透明なITO電極を製膜したフィルムを用いた。この基板のITO上に、バーコートでI-1をウェット膜厚30μmで塗布し、80℃で乾燥して液晶-高分子複合膜を得た。
この液晶-高分子複合膜を膜面上から顕微鏡で観察したところ、高分子マトリクス中に平均粒径7.6μm、変動係数0.25の液晶組成物が分散した構造を有していた。
該フィルムと、もう1枚の基板とを80℃で向い合せに貼り合わせ、液晶素子(F-1)を得た。F-1は可撓性を有し、ハサミで切断して整形することができた。
【0089】
F-1は電圧OFF時には青色に着色し、電圧ON時(50Vrms)に透明になるノーマルモード駆動を示した。電圧OFF時はヘーズ50.7%、全透過率はλmax=670nmで62.6%であった。電圧50Vrmsを印加すると、ヘーズは2.1%、全透過率はλmax=670nmで32.0%になり、ΔT=30.7%を示した。透明状態のF-1越しに背景を目視で観察したところ、濁りが小さくすっきりした視界が確保された。
【0090】
[実施例2]
エマルジョン組成物中の液晶組成物の平均粒径を2.9μm、変動係数0.31に変更した以外は、実施例1と同様にしてエマルジョン組成物I-2を得た。I-2における、水相中に分散又溶解している高分子(P-1)の質量を1とすると、L-1の質量は、1.44であった。
【0091】
I-2を用い、実施例1と同様にして液晶素子(F-2)を得た。F-2の液晶-高分子複合膜を膜面上から顕微鏡で観察したところ、高分子マトリクス中に平均粒径4.3μm、変動係数0.20の液晶組成物が分散した構造を有していた。F-2は可撓性を持ち、ハサミで切断して整形することができた。
F-2は電圧OFF時には青色に着色し、電圧ON時(50Vrms)に透明になるノーマルモード駆動を示した。電圧OFF時はヘーズ51.2%、全透過率はλmax=670nmで63.7%であった。電圧50Vrmsを印加すると、ヘーズは4.1%、全透過率はλmax=670nmで34.9%になり、ΔT=28.8%を示した。透明状態のF-2越しに背景を目視で観察したところ、濁りが小さくすっきりした視界が確保された。
【0092】
[実施例3]
Δn=0.12、Δε=+10.8のネマチック液晶96質量%と(1)で表される二色性色素4質量%を混合し、アントラキノン系二色性色素(D-1)を溶解させて液晶組成物(L-2)を得た。液晶組成物をL-2に変更した以外は、実施例1と同様にしてエマルジョン組成物(I-3)を得た。I-3中の液晶組成物の平均粒径は7.3μm、変動係数0.34であった。I-3における、水相中に分散又溶解している高分子(P-1)の質量を1とすると、L-2の質量は、1.44であった。
I-3を用い、実施例1と同様にして液晶素子(F-3)を得た。F-3の液晶-高分子複合膜を膜面上から顕微鏡で観察したところ、高分子マトリクス中に平均粒径8.5μm、変動係数0.29の液晶組成物が分散した構造を有していた。F-3は可撓性を持ち、ハサミで切断して整形することができた。
【0093】
F-3は電圧OFF時には青色に着色し、電圧ON時(50Vrms)に透明になるノーマルモード駆動を示した。電圧OFF時はヘーズ50.6%、全透過率はλmax=670nmで61.0%であった。電圧50Vrmsを印加すると、ヘーズは3.9%、全透過率はλmax=670nmで32.3%になり、ΔT=28.7%を示した。透明状態のF-3越しに背景を目視で観察したところ、濁りが小さくすっきりした視界が確保された。
【0094】
[実施例4]
E-1 45質量部に加えるNeorez R-967の量を21.8質量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてエマルジョン組成物(I-4)を得た。I-4中の液晶組成物の平均粒径は6.0μm、変動係数0.31であった。I-4における、水相中に分散又溶解している高分子(P-3)の質量を1とすると、L-1の質量は、2.51であった。
【0095】
I-4を用い、実施例1と同様にして液晶素子(F-4)を得た。F-4の液晶-高分子複合膜を膜面上から顕微鏡で観察したところ、高分子マトリクス中に平均粒径7.7μm、変動係数0.21の液晶組成物が分散した構造を有していた。F-4は可撓性を持ち、ハサミで切断して整形することができた。
F-4は電圧OFF時には青色に着色し、電圧ON時(50Vrms)に透明になるノーマルモード駆動を示した。電圧OFF時はヘーズ35.2%、全透過率はλmax=670nmで68.6%であった。電圧50Vrmsを印加すると、ヘーズは1.2%、全透過率はλmax=670nmで43.5%になり、ΔT=25.1%を示した。透明状態のF-4越しに背景を目視で観察したところ、濁りが小さくすっきりした視界が確保された。
【0096】
[比較例1]
Δn=0.240、Δε=15.6のネマチック液晶96質量%と(1)で表される二色性色素4質量%を混合し、アントラキノン系二色性色素(D-1)を溶解させて液晶組成物(L-3)を得た。液晶組成物をL-3に変更した以外は、実施例1と同様にしてエマルジョン組成物(I-5)を得た。I-5中の液晶組成物の平均粒径は5.9μm、変動係数0.24であった。I-3における、水相中に分散又溶解している高分子(P-1)の質量を1とすると、L-3の質量は、1.44であった。
I-5を用い、実施例1と同様にして液晶素子(F-5)を得た。F-5の液晶-高分子複合膜を膜面上から顕微鏡で観察したところ、高分子マトリクス中に平均粒径6.8μm、変動係数0.19の液晶組成物が分散した構造を有していた。F-5は可撓性を持ち、ハサミで切断して整形することができた。
【0097】
F-5は電圧OFF時には青色に着色し、電圧ON時(50Vrms)に透明になるノーマルモード駆動を示した。電圧OFF時はヘーズ89.0%、全透過率はλmax=670nmで66.4%であった。電圧50Vrmsを印加すると、ヘーズは10.4%、全透過率はλmax=670nmで42.0%になり、ΔT=24.4%を示した。透明状態のF-5越しに背景を目視で観察したところ、濁りが大きくぼやけた印象の視界となった。
【0098】
[比較例2]
エマルジョン組成物中の液晶組成物の平均粒径を1.2μm、変動係数0.16に変更した以外は、実施例1と同様にしてエマルジョン組成物I-6を得た。I-6における、水相中に分散又溶解している高分子(P-1)の質量を1とすると、L-1の質量は、1.44であった。
【0099】
I-6を用い、実施例1と同様にして液晶素子(F-6)を得た。F-6の液晶-高分子複合膜を膜面上から顕微鏡で観察したところ、高分子マトリクス中に平均粒径1.9μm、変動係数0.18の液晶組成物が分散した構造を有していた。F-6は可撓性を持ち、ハサミで切断して整形することができた。
F-6は電圧OFF時には青色に着色し、電圧ON時(50Vrms)に透明になるノーマルモード駆動を示した。電圧OFF時はヘーズ49.3%、全透過率はλmax=670nmで62.5%であった。電圧50Vrmsを印加すると、ヘーズは15.2%、全透過率はλmax=670nmで41.5%になり、ΔT=21.0%を示した。透明状態のF-6越しに背景を目視で観察したところ、濁りが大きくぼやけた印象の視界となった。
【0100】
[実施例5]
E-1 17質量部にポリアクリル粒子と架橋剤アジピン酸ジヒドラジドを合計20質量%含む水系ラテックスのNeoCryl A-1125(DSM社製)を100質量部
加え、均一になるまで撹拌してエマルジョン組成物(I-7)を得た。I-7中の液晶組成物の平均粒径は4.9μm、変動係数0.37であった。I-7における、水相中に分散又溶解している高分子(P-4)の質量を1とすると、L-1の質量は、1.67であった。
【0101】
I-7を用い、実施例1と同様にして液晶素子(F-7)を得た。F-7の液晶-高分子複合膜を膜面上から顕微鏡で観察したところ、高分子マトリクス中に平均粒径5.1μm、変動係数0.39の液晶組成物が分散した構造を有していた。F-7は可撓性を持ち、ハサミで切断して整形することができた。
F-7は電圧OFF時には青色に着色し、電圧ON時(50Vrms)に透明になるノーマルモード駆動を示した。電圧OFF時はヘーズ73.1%、全透過率はλmax=670nmで38.9%であった。電圧50Vrmsを印加すると、ヘーズは3.4%、全透過率はλmax=670nmで69.1%になり、ΔT=30.2%を示した。透明状態のF-7越しに背景を目視で観察したところ、濁りが小さくすっきりした視界が確保された。
【0102】
[実施例6]
E-1 50質量部にポリアクリル粒子と架橋剤アジピン酸ジヒドラジドを合計55質量%含む水系ラテックスのリカボンド FK-471(ジャパンコーティングレジン社製)を50質量部と、ケン化度86.5mol%~89.0mol%、重合度500のポリビニルアルコール20質量%水溶液を10質量部加え、均一になるまで撹拌してエマルジョン組成物(I-8)を得た。I-8中の液晶組成物の平均粒径は5.9μm、変動係数0.27であった。I-8における、水相中に分散又溶解している高分子(P-5)の質量を1とすると、L-8の質量は、1.26であった。
【0103】
I-8を用い、実施例1と同様にして液晶素子(F-8)を得た。F-8の液晶-高分子複合膜を膜面上から顕微鏡で観察したところ、高分子マトリクス中に平均粒径6.1μm、変動係数0.30の液晶組成物が分散した構造を有していた。F-8は可撓性を持ち、ハサミで切断して整形することができた。
F-8は電圧OFF時には青色に着色し、電圧ON時(50Vrms)に透明になるノーマルモード駆動を示した。電圧OFF時はヘーズ60.9%、全透過率はλmax=670nmで39.1%であった。電圧50Vrmsを印加すると、ヘーズは3.1%、全透過率はλmax=670nmで68.1%になり、ΔT=29.0%を示した。透明状態のF-8越しに背景を目視で観察したところ、濁りが小さくすっきりした視界が確保された。