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特許7578198位相処理装置、クロック供給システム、位相処理方法、および、位相処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】位相処理装置、クロック供給システム、位相処理方法、および、位相処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04L 7/00 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
H04L7/00 830
H04L7/00 810
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023531186
(86)(22)【出願日】2021-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2021024513
(87)【国際公開番号】W WO2023275977
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 優美
(72)【発明者】
【氏名】小林 広記
(72)【発明者】
【氏名】新井 薫
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-144348(JP,A)
【文献】国際公開第2020/031623(WO,A1)
【文献】特開2015-046819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 7/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下位CSM(Clock Supply Module)からクロック受信装置に対して、互いに冗長化されている下位0系クロックおよび下位1系クロックを供給するクロック供給システムに用いられ、前記下位0系クロックに代わるクロックを前記クロック受信装置に供給する位相処理装置であって、
前記下位CSMに参照されるR(Reference)クロックを受信するR系IFと、
前記下位CSMから前記下位0系クロックを受信する0系IFと、
前記クロック受信装置に出力するクロックを選択するクロック選択部と、
前記R系IFで受信した前記Rクロックの位相と、前記0系IFで受信した前記下位0系クロックの位相との位相差を測定する位相差測定部と、
前記位相差測定部が測定した位相差が前記クロック受信装置の位相跳躍耐力の範囲内であるときには、前記クロック選択部に前記下位0系クロックを選択させる正常クロック判定部と、を有することを特徴とする
位相処理装置。
【請求項2】
前記位相処理装置は、さらに、警報受信部と、位相差補正部とを有しており、
前記警報受信部が、前記下位CSMの故障を示す警報を受信すると、
前記位相差補正部は、前記Rクロックの位相を、前記下位0系クロックの位相に時間経過とともに近づけるように補正し、
前記正常クロック判定部は、前記位相差測定部が測定した位相差が前記クロック受信装置の位相跳躍耐力の範囲外であるときには、補正後の前記Rクロックを前記クロック選択部に選択させることを特徴とする
請求項1に記載の位相処理装置。
【請求項3】
前記位相処理装置は、さらに、警報受信部と、位相差補正部とを有しており、
前記警報受信部が、前記Rクロックを送信する上位CSMの故障を示す警報を受信すると、
前記位相差補正部は、前記Rクロックの位相を、前記下位0系クロックの位相に時間経過とともに近づけるように補正し、
前記正常クロック判定部は、前記位相差測定部が測定した位相差が前記クロック受信装置の位相跳躍耐力の範囲外であるときには、前記下位0系クロックを前記クロック選択部に選択させることを特徴とする
請求項1に記載の位相処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の位相処理装置と、発振器とを有する前記クロック供給システムであって、
前記発振器は、前記上位CSMが送信する前記Rクロックの代わりに、前記Rクロックと同一周波数の発振クロックを前記位相処理装置の前記R系IFに送信することを特徴とする
クロック供給システム。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載の位相処理装置と、管理装置とを有する前記クロック供給システムであって、
前記管理装置は、前記警報を受信して、前記位相処理装置に転送することを特徴とする
クロック供給システム。
【請求項6】
下位CSM(Clock Supply Module)からクロック受信装置に対して、互いに冗長化されている下位0系クロックおよび下位1系クロックを供給するクロック供給システムに用いられ、前記下位0系クロックに代わるクロックを前記クロック受信装置に供給する位相処理装置は、R系IFと、0系IFと、クロック選択部と、位相差測定部と、正常クロック判定部と、を有しており、
前記R系IFは、前記下位CSMに参照されるR(Reference)クロックを受信し、
前記0系IFは、前記下位CSMから前記下位0系クロックを受信し、
前記クロック選択部は、前記クロック受信装置に出力するクロックを選択し、
前記位相差測定部は、前記R系IFで受信した前記Rクロックの位相と、前記0系IFで受信した前記下位0系クロックの位相との位相差を測定し、
前記正常クロック判定部は、前記位相差測定部が測定した位相差が前記クロック受信装置の位相跳躍耐力の範囲内であるときには、前記クロック選択部に前記下位0系クロックを選択させることを特徴とする
位相処理方法。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の位相処理装置として機能させるための位相処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相処理装置、クロック供給システム、位相処理方法、および、位相処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
時分割多重(TDM:Time Division Multiplexing)方式で通信するためには、ネットワークの各装置を事前に周波数同期する必要がある。
【0003】
そこで、非特許文献1には、厳密に周波数同期を行うためのクロック(所定周期の波形パターン)を装置間でやりとりするクロック供給モジュール(CSM:Clock Supply Module)が提案されている。CSMが供給するクロックにより、大規模なデジタルネットワークの交換機や伝送装置等を高精度で同期させ、通信品質を維持することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】NTTネットワークサービスシステム研究所、“電話系通信や法人向け専用線通信等を支える新クロック供給装置の実用化”、NTT技術ジャーナル、pp.44-47、2017年7月、[online]、[2021年6月18日検索]、インターネット<URL:https://www.ntt.co.jp/journal/1707/files/JN20170744.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CSMも計算機なので、機械的に故障することもある。CSMが故障した時点で、そのCSMから供給されるクロックに位相跳躍が発生することもある。位相跳躍とは、あるクロックの位相から所定周期分後の期待位相に対して、次のクロック位相がずれてしまうことである。
図11は、位相跳躍が発生していないクロックの波形図である。クロックの各波は、t11~t12の第1波、t12~t13の第2波、t13~t14の第3波、t14~t15の第4波のように、同じ周期T1で繰り返されている。
【0006】
図12は、位相跳躍が発生したときのクロックの波形図である。t13~t14bの第3波の位相が期待位相のt14(=t13+T1)からT2分だけ遅れる(t13+T1+T2=t14b)ことで、t14b~t15bの第4波以降も位相がずれてしまった。
このような位相跳躍に対して、交換機などのクロック受信装置には、装置スペックとして受信クロックの位相跳躍耐力が規定されており、その値よりも小さい位相跳躍であれば、サービスに影響なく運用できる。
【0007】
一方、以下に列挙するような場合では、クロック受信装置の位相跳躍耐力量を上回るほどの位相跳躍が発生してしまい、クロック受信装置にてサービスに影響してしまう。
・CSMの基盤(PKG:Package)が故障した場合。
・CSMのDPPLL(digital processing phase lock loop)を切り替えた場合。
・CSMのPU(Power Unit)盤が故障した場合。
・CSMが経年劣化による品質低下した場合。
【0008】
なお、非特許文献1のように、CSM装置自体に改良を加え、位相跳躍が発生しないようCSM内部で位相跳躍を抑止する技術も提案されている。具体的には、改良された新CSMは、一部のアイドル信号を規定に違反しない別の位相アイドル信号に書き換えて位相情報を伝送する。これにより、古いCSMから新しいCSMに置換した場合の位相跳躍に対応する。
【0009】
しかし、既に商用に導入されているCSM装置を新しいCSMに更改したり、CSM配下のクロック受信装置を位相跳躍耐力が高い装置に置換したりする作業に、膨大な費用と時間がかかってしまう。
【0010】
そこで、本発明は、クロックの位相跳躍が発生しても、クロック受信側のサービスに与える影響を少なくすることを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明の位相処理装置は、以下の特徴を有する。
本発明は、下位CSMからクロック受信装置に対して、互いに冗長化されている下位0系クロックおよび下位1系クロックを供給するクロック供給システムに用いられ、前記下位0系クロックに代わるクロックを前記クロック受信装置に供給する位相処理装置であって、
前記下位CSMに参照されるR(Reference)クロックを受信するR系IFと、
前記下位CSMから前記下位0系クロックを受信する0系IFと、
前記クロック受信装置に出力するクロックを選択するクロック選択部と、
前記R系IFで受信した前記Rクロックの位相と、前記0系IFで受信した前記下位0系クロックの位相との位相差を測定する位相差測定部と、
前記位相差測定部が測定した位相差が前記クロック受信装置の位相跳躍耐力の範囲内であるときには、前記クロック選択部に前記下位0系クロックを選択させる正常クロック判定部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、クロックの位相跳躍が発生しても、クロック受信側のサービスに与える影響を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】比較例のクロック供給システムの構成図である。
図2】本実施形態に係わる位相補正を行うクロック供給システムの構成図である。
図3】本実施形態に係わる位相補正装置の詳細を示す構成図である。
図4】本実施形態に係わる下位CSMが故障したときの位相補正処理を示す説明図である。
図5】本実施形態に係わる図4の各段階での位相状態を示す波形図である。
図6】本実施形態に係わる上位CSMが故障したときの位相補正処理を示す説明図である。
図7】本実施形態に係わる図6の各段階での位相状態を示す波形図である。
図8】本実施形態に係わる図2のクロック供給システムに発振器を追加した構成図である。
図9】本実施形態に係わる図2のクロック供給システムから管理装置を省略した構成図である。
図10】本実施形態に係わるクロック供給システムの各装置のハードウェア構成図である。
図11】位相跳躍が発生していないクロックの波形図である。
図12】位相跳躍が発生したときのクロックの波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、比較例のクロック供給システム100の構成図である。
クロック供給システム100は、上位CSM10と、下位CSM20と、クロック受信装置30と、管理装置90とがネットワークで接続されて構成される。
管理装置90は、保守運用システム(OPS:Operation System)として動作する。管理装置90は、上位CSM10に発生した故障を通知する上位警報71と、下位CSM20に発生した故障を通知する下位警報72とを受信し、保守員に警報を報知する。
【0016】
上位CSM10は、Rクロック73を下位CSM20に送信することで、下位CSM20と周波数同期を行う。下位CSM20は、クロック受信装置30と周波数同期を行うために、0系IF21から下位0系クロック74を送信し、1系IF22から下位1系クロック75を送信する。
クロック受信装置30のCREC(Clock Receiver)は、下位0系クロック74を受信する0系IF31と、下位1系クロック75を受信する1系IF32とで構成され、互いに冗長化(2重化)されている。クロック受信装置30は、現用系の0系IF31に故障が発生したときには、予備系の1系IF32に切り替える。
【0017】
図1の構成では、下位CSM20の故障発生時に、下位0系クロック74および下位1系クロック75の双方の位相が跳躍してしまい、それらのクロックを使用するクロック受信装置30のサービスに影響が出てしまう。そこで、本実施形態では、図2に示すように、図1の構成に対して位相補正を行う構成を追加する。
【0018】
図2は、位相補正を行うクロック供給システム100の構成図である。
図2のクロック供給システム100は、図1のクロック供給システム100に対して、下位CSM20とクロック受信装置30との間に0系用の位相補正装置(位相処理装置)40を追加した。なお、下位CSM20とクロック受信装置30との間に1系用の位相補正装置40(合計2台)をさらに追加してもよい。
クロック受信装置30の位相跳躍耐力を超える位相跳躍が下位CSM20で発生した際には、位相補正装置40は、クロック受信装置30の0系IF31に入力するクロックの位相跳躍量を補正する。これにより、クロック受信装置30のサービスへの影響を低減する。
【0019】
位相補正装置40は、下位CSM20に入力されるRクロック73を分岐したクロックをR系IF41にて受信する。また、位相補正装置40は、下位CSM20の0系IF21から送信される下位0系クロック74を0系IF42にて受信する。
位相補正装置40のクロック選択部43は、受信したRクロック73、または、受信した下位0系クロック74のいずれかを選択し、クロック受信装置30の0系IF31に向けてSELクロック76として出力する。このクロック選択部43のクロック選択には、上位警報71および下位警報72が参照される。
【0020】
図3は、位相補正装置40の詳細を示す構成図である。
位相補正装置40は、図2で示したR系IF41と、0系IF42と、クロック選択部43とを有する。
さらに、位相補正装置40は、R系クロック生成部44aと、0系クロック生成部44bと、位相差測定部45と、位相差補正部46と、0系IF47と、データ格納部48と、警報受信部49aと、正常クロック判定部49bとを有する。
【0021】
データ格納部48には、以下のデータが格納される。
・事前に管理者が固定値を設定した、クロック受信装置30ごとの位相跳躍耐力
・位相差測定部45が定期的に測定した、下位0系クロック74とRクロック73との位相差測定値
・警報受信部49aが受信した、上位警報71、下位警報72(各CSMが正常か異常かを示す情報)
以下、図4図5を参照しつつ、図3の構成要素を明らかにする。
【0022】
図4は、下位CSM20が故障したときの位相補正処理を示す説明図である。図4は、図面の右側に行くほど時間が経過し、上から順に、下位0系クロック74(0系)、下位1系クロック75(1系)、Rクロック73(R)、Rクロック73の補正後(R補正)、SELクロック76(SEL)それぞれの位相を示す。
なお、Rクロック73の補正後(R補正)とは、故障発生後にRクロック73の新たな基準となるように補正(再設定)された、位相補正装置40内で使用するクロックである。正常クロック判定部49bは、この基準となったRクロック73と、現在受信した下位0系クロック74との位相差をもとに、位相跳躍を検知できる。
図5は、図4の各段階での位相状態を示す波形図である。図5は、4つの波形図それぞれにおいて図面の右側に行くほど時間が経過し、上から順に、下位0系クロック74(0系)、Rクロック73(R)、下位1系クロック75(1系)、SELクロック76(SEL)それぞれの位相を示す。
【0023】
まず、下位CSM20に故障が発生する前の期間(図4のt21~t22、図5の状態211)を説明する。
位相差測定部45は、R系IF41で受信してR系クロック生成部44aで生成(復元)されたRクロック73と、0系IF42で受信して0系クロック生成部44bで生成(復元)された下位0系クロック74との位相差を定期的に測定する。そして、位相差測定部45は、その測定結果を位相差測定値としてデータ格納部48に格納する。ここでは、下位0系クロック74もRクロック73も位相「a」で一致するので、位相差測定値「0」がデータ格納部48に格納される。
【0024】
正常クロック判定部49bは、データ格納部48の位相差測定値と位相跳躍耐力とを比較することで、位相跳躍の発生有無を判定する。ここでは、位相差測定値「0」<位相跳躍耐力(つまり位相跳躍の発生無)なので、クロック選択部43にて下位0系クロック74(位相「a」)を選択して、クロック受信装置30に出力する。
【0025】
次に、下位CSM20に時刻t22で故障が発生した後の期間(図4のt22~t23、図5の状態212,213)を説明する。
時刻t22では、下位CSM20に故障が発生することで、警報受信部49aは、下位CSM20からの下位警報72を管理装置90から受信し、その下位警報72をデータ格納部48に格納する。
【0026】
そして、下位CSM20は、自装置内のクロック送信用パッケージ(図示省略)を現用系から予備系に切り替える。この切り替え以降は、下位CSM20の予備系のクロック送信用パッケージから、下位0系クロック74および下位1系クロック75それぞれのクロック送信動作を再開させる。
このパッケージの切り替えに伴い、0系IF21から送信される下位0系クロック74と、1系IF22から送信される下位1系クロック75とが位相aから位相bに跳躍してしまう(図5の状態212に示す矢印が位相跳躍量)。
一方、Rクロック73は、上位CSM10から下位CSM20を迂回して位相補正装置40に入力されるので、下位CSM20のパッケージの切り替えの影響を受けずに済む(位相aのままである)。
【0027】
正常クロック判定部49bは、位相差測定値「|a-b|」>位相跳躍耐力(つまり位相跳躍の発生有)なので、発生した位相跳躍の原因として、下位0系クロック74またはRクロック73のどちらが正常クロックで、どちらが異常クロックかを求める。
そのため、正常クロック判定部49bは、クロックの送信元装置に発生した警報(上位警報71、下位警報72)をデータ格納部48から参照することで、警報を受信した側を異常クロックとし、警報を受信していない側を正常クロックとする。よって、正常クロック判定部49bは、警報受信部49aが下位警報72を受信した旨により、下位0系クロック74を異常クロックとし、Rクロック73を正常クロックとする。
正常クロック判定部49bは、正常クロックのRクロック73をクロック選択部43に選択させる。クロック選択部43は、選択したRクロック73を0系IF47からクロック受信装置30に出力する。
【0028】
なお、正常クロック判定部49bは、以下に例示するように、警報以外の方法で、Rクロック73の正常クロックまたは異常クロックを判定してもよい(下位0系クロック74も同様)。
・過去にRクロック73を受信し続けていたが、ある時点でRクロック73が受信できずに遮断された場合、そのRクロック73の送信元装置に停電などの障害が発生したとみなし、そのRクロック73を異常クロックとする。
・過去に受信し続けていたRクロック73の位相を求め、現在のRクロック73の位相が過去のRクロック73の位相と大きく異なる(位相跳躍耐力を超過する)場合に、そのRクロック73を異常クロックとする。
【0029】
これにより、クロック受信装置30は、0系IF31で受信するSELクロック76(=Rクロック73「位相a」)と、1系IF32で受信する下位1系クロック75「位相b」とを受信する。そして、クロック受信装置30は、双方の位相差があるものの優先度の高い0系IF31のSELクロック76を選択してサービスに使用する。
よって、時刻t22の故障前後では、サービスに使用されるクロックの位相がa付近で急激に変化しないので、サービスへの影響を抑えることができる。しかし、クロック受信装置30から見たら、0系IF31のSELクロック76と、1系IF32の下位1系クロック75との間で位相差(位相跳躍)が発生した状態なので、このままこの状態を継続させるとシステム的に不安定である。
【0030】
そこで、位相補正装置40は、時刻t22ではクロック受信装置30にRクロック73「位相a」を供給していたが、下位CSM20のパッケージの切り替え後の下位0系クロック74「位相b」に向けて位相を徐々に移行させる移行期間(t22~t23)を設ける。
つまり、移行期間(t22~t23)では、位相差補正部46は、Rクロック73「位相a」を下位0系クロック74「位相b」に徐々に近づくように自装置内で補正し(図4では「位相a→b」)、その補正したRクロック73をSELクロック76とする。
【0031】
なお、図5の状態213に示す矢印のように、位相差補正部46の補正量については、クロック受信装置30のサービスへの影響が許容範囲内になるように、徐々に位相を変化させる。例えば、位相差補正部46は、故障発生時(時刻t22)からの時間が経過するほど、位相差測定値「|a-b|」を小さくするように、位相を変化させる。
【0032】
さらに、安定期間(図4のt23~、図5の状態214)を説明する。
位相差測定部45は、R系IF41で受信したRクロック73の代わりに、位相差補正部46がRクロック73を補正した後のクロック(図4のR補正)と、下位0系クロック74「位相b」との差分値を、データ格納部48に格納する位相差測定値とする。
これにより、補正後のRクロック73と下位0系クロック74とがともに位相bとなる。よって、正常クロック判定部49bは、期間(t21~t22)と同様に、位相差測定値「0」<位相跳躍耐力なので、クロック選択部43にて下位0系クロック74(位相「b」)を選択して、クロック受信装置30に出力する。その結果、クロック受信装置30から見たら、0系IF31のSELクロック76と、1系IF32の下位1系クロック75との間で位相差(位相跳躍)が少ない(位相跳躍耐力以下の)安定状態となる。
【0033】
以上、図4図5を参照して、下位CSM20が故障したときの位相補正処理を説明した。以下、図6図7を参照して、上位CSM10(または上位CSM10から送信されるRクロック73の伝送路)が故障したときの位相補正処理を説明する。
【0034】
図6は、上位CSM10が故障したときの位相補正処理を示す説明図である。図6図4と同じ形式である。
図7は、図6の各段階での位相状態を示す波形図である。図7図5と同じ形式である。
まず、故障が発生する前の期間の処理は、下位CSM20の故障前(図4のt21~t22、図5の状態211)も、上位CSM10の故障前(図6のt31~t32、図7の状態221)も同じである。
【0035】
次に、上位CSM10に時刻t32で故障が発生した後の期間(図6のt32~t33、図7の状態222,223)を説明する。
時刻t32では、上位CSM10に故障が発生することで、警報受信部49aは、上位CSM10からの上位警報71を管理装置90から受信し、その上位警報71をデータ格納部48に格納する。
そして、上位CSM10は、Rクロック73のクロック送信動作を再開させるが、この再開に伴いRクロック73の位相aから位相bに跳躍してしまう(図7の状態222に示す矢印が位相跳躍量)。
【0036】
一方、下位CSM20は、Rクロック73の位相跳躍の影響を受けずに、下位0系クロック74および下位1系クロック75をともに位相aで送信し続ける。
正常クロック判定部49bは、位相差測定値「|a-b|」>位相跳躍耐力、かつ、警報受信部49aが上位警報71を受信した旨により、Rクロック73に位相跳躍が発生したことを把握する。よって、正常クロック判定部49bは、位相跳躍が発生していない下位0系クロック74を正常なクロックとみなし、クロック選択部43に選択させる。クロック選択部43は、選択した下位0系クロック74を0系IF47からクロック受信装置30に出力する。
【0037】
これにより、クロック受信装置30は、0系IF31で受信するSELクロック76(=下位0系クロック74「位相a」)と、1系IF32で受信する下位1系クロック75「位相a」とを受信する。そして、クロック受信装置30は、双方の位相差がないので優先度の高い0系IF31のSELクロック76を選択してサービスに使用する。
【0038】
なお、位相補正装置40は、位相跳躍が発生したRクロック73の位相bを、位相跳躍が発生していない下位0系クロック74の位相aに向けて徐々に移行させる移行期間(t32~t33)を設けてもよい。図6の移行期間(t32~t33)では、位相差補正部46は、Rクロック73「位相b」を下位0系クロック74「位相a」に徐々に近づくように自装置内で補正する(図6では「位相b→a」)。
しかし、クロック選択部43は、下位0系クロック74「位相a」をSELクロック76としてクロック受信装置30に送信し続けるので、Rクロック73の補正内容は、直接はクロック受信装置30のサービスには影響しない。よって、図6の移行期間(t32~t33)は図4の移行期間(t22~t23)よりも短縮してもよい(一瞬で位相b→aに移行してもよい)。
【0039】
さらに、安定期間(図6のt33~、図7の状態224)を説明する。
位相差測定部45は、R系IF41で受信したRクロック73の代わりに、位相差補正部46がRクロック73を補正した後のクロック(図6のR補正)と、下位0系クロック74「位相b」との差分値を、データ格納部48に格納する位相差測定値とする。
これにより、補正後のRクロック73と下位0系クロック74とがともに位相aとなる。よって、正常クロック判定部49bは、期間(t31~t32)と同様に、位相差測定値「0」<位相跳躍耐力なので、クロック選択部43にて下位0系クロック74(位相「a」)を選択して、クロック受信装置30に出力する。
【0040】
以下、図8および図9は、図2のクロック供給システム100の変形例を示す。
図8は、図2のクロック供給システム100に発振器10Xを追加した構成図である。
発振器10Xは、Rクロック73と同一の周波数の発振クロック73を、位相補正装置40のR系IF41に出力可能な装置である。よって、図2では、上位CSM10から出力されたRクロック73を分岐して位相補正装置40に入力していたが、発振器10Xからの発振クロック73を位相補正装置40に入力する構成に置き換えることもできる。これにより、上位CSM10と位相補正装置40との間の断線に対応できる。
この場合、上位CSM10からのRクロック73の周波数精度と、発振器10Xからの発振クロック73の周波数精度との差分は、クロック受信装置30の位相跳躍耐力の範囲内であればよい。
【0041】
図9は、図2のクロック供給システム100から管理装置90を省略した構成図である。
図9のように、上位CSM10からの上位警報71、および、下位CSM20からの下位警報72について、管理装置90を介さずに、直接に位相補正装置40に入力する構成を採用してもよい。これにより、警報が早く位相補正装置40に届くので、早く位相補正を開始できる。
一方、図2のように、管理装置90を介して上位警報71、および、下位警報72を位相補正装置40に通知する構成では、警報とCSMとが1:1対応するので、正常クロック判定部49bによる正常クロックと異常クロックとの判定精度が上がる。
【0042】
図10は、クロック供給システム100の各装置のハードウェア構成図である。
クロック供給システム100の各装置(上位CSM10と、下位CSM20と、管理装置90と、クロック受信装置30)は、それぞれCPU901と、RAM902と、ROM903と、HDD904と、通信I/F905と、入出力I/F906と、メディアI/F907とを有するコンピュータ900として構成される。
通信I/F905は、外部の通信装置915と接続される。入出力I/F906は、入出力装置916と接続される。メディアI/F907は、記録媒体917からデータを読み書きする。さらに、CPU901は、RAM902に読み込んだプログラム(アプリケーションや、その略のアプリとも呼ばれる)を実行することにより、各処理部を制御する。そして、このプログラムは、通信回線を介して配布したり、CD-ROM等の記録媒体917に記録して配布したりすることも可能である。
【0043】
[効果]
本発明は、下位CSM20からクロック受信装置30に対して、互いに冗長化されている下位0系クロック74および下位1系クロック75を供給するクロック供給システム100に用いられ、下位0系クロック74に代わるクロックをクロック受信装置30に供給する位相補正装置40であって、
下位CSM20に参照されるRクロック73を受信するR系IF41と、
下位CSM20から下位0系クロック74を受信する0系IF42と、
クロック受信装置30に出力するクロックを選択するクロック選択部43と、
R系IF41で受信したRクロック73の位相と、0系IF42で受信した下位0系クロック74の位相との位相差を測定する位相差測定部45と、
位相差測定部45が測定した位相差がクロック受信装置30の位相跳躍耐力の範囲内であるときには、クロック選択部43に下位0系クロック74を選択させる正常クロック判定部49bと、を有することを特徴とする。
【0044】
これにより、クロック受信装置30に出力される下位0系クロック74を、クロック受信装置30の位相跳躍耐力の範囲内であるものにすることで、クロックの位相跳躍が発生しても、クロック受信側のサービスに与える影響を少なくすることができる。
【0045】
本発明は、位相補正装置40が、さらに、警報受信部49aを有しており、
警報受信部49aが、Rクロック73を送信する上位CSM10の故障時には上位警報71を受信し、下位CSM20の故障時には下位警報72を受信し、
正常クロック判定部49bが、位相差測定部45が測定した位相差がクロック受信装置30の位相跳躍耐力の範囲外であるときには、警報を受信していない側のクロックをクロック選択部43に選択させることを特徴とする。
【0046】
これにより、既存の警報から異常クロックを判定できる。
【0047】
本発明は、位相補正装置40が、さらに、位相差補正部46を有しており、
位相差補正部46が、警報を受信した側のクロックの位相を、警報を受信していない側のクロックの位相に時間経過とともに近づけるように補正し、
クロック選択部43が、選択したクロックを位相差補正部46が補正した場合には、補正後のクロックをクロック受信装置30に出力することを特徴とする。
【0048】
これにより、位相跳躍が発生した下位0系クロック74の代わりに、その位相に徐々に近づくように補正したRクロック73をクロック受信装置30に出力する。よって、位相変化が時間経過とともになだらかになり、クロック受信側のサービスに与える影響を少なくすることができる。
【0049】
本発明は、クロック受信装置30と、発振器10Xとを有するクロック供給システム100であって、
発振器10Xが、上位CSM10が送信するRクロック73の代わりに、Rクロック73と同一周波数の発振クロック73を位相補正装置40のR系IF41に送信することを特徴とする。
【0050】
これにより、上位CSM10と位相補正装置40との間の断線に対応できる。
【0051】
本発明は、クロック受信装置30と、管理装置90とを有するクロック供給システム100であって、
管理装置90が、上位警報71および下位警報72を受信して、位相補正装置40に転送することを特徴とする。
【0052】
これにより、既設の上位CSM10の実装や、既設のクロック受信装置30の実装を拡張することなく、既存の保守運用システム(OPS:Operation System)を流用できる。
【符号の説明】
【0053】
10 上位CSM
10X 発振器
20 下位CSM
21 0系IF
22 1系IF
30 クロック受信装置
31 0系IF
32 1系IF
40 位相補正装置(位相処理装置)
41 R系IF
42 0系IF
43 クロック選択部
44a R系クロック生成部
44b 0系クロック生成部
45 位相差測定部
46 位相差補正部
47 0系IF
48 データ格納部
49a 警報受信部
49b 正常クロック判定部
71 上位警報
72 下位警報
73 Rクロック
73 発振クロック
74 下位0系クロック
75 下位1系クロック
76 SELクロック
90 管理装置
100 クロック供給システム
図1
図2
図3
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図5
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図12