(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】バイオ燃料電池用電極バインダー
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20241029BHJP
H01M 8/16 20060101ALI20241029BHJP
C08F 212/08 20060101ALN20241029BHJP
C08F 220/06 20060101ALN20241029BHJP
C08F 220/18 20060101ALN20241029BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M8/16
C08F212/08
C08F220/06
C08F220/18
(21)【出願番号】P 2024550553
(86)(22)【出願日】2024-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2024012234
【審査請求日】2024-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2023055425
(32)【優先日】2023-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花崎 充
(72)【発明者】
【氏名】池端 亮介
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/065581(WO,A1)
【文献】特開2018-036201(JP,A)
【文献】特許第6994184(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 8/16
G01N 27/327
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノニオン性エチレン性不飽和単量体(a1)に由来する第1構造単位と、アニオン性エチレン性不飽和単量体(a2)に由来する第2構造単位と、架橋剤(a3)に由来する第3構造単位と、を有する重合体(A)を含み、
架橋剤(a3)は、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有する、
バイオ燃料電池用電極バインダー。
【請求項2】
重合体(A)の含有量が50質量%以上である、請求項1に記載のバイオ燃料電池用電極バインダー。
【請求項3】
アニオン性エチレン性不飽和単量体(a2)が、エチレン性不飽和カルボン酸及びその塩、並びに、エチレン性不飽和スルホン酸及びその塩からなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項1に記載のバイオ燃料電池用電極バインダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ燃料電池用の電極バインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の燃料電池として、酵素や微生物を電極触媒に利用し、糖やアルコール、有機廃液等のバイオマス資源を燃料として発電するバイオ燃料電池の研究開発が進められている(例えば、特許文献1及び2参照)。
酵素を利用したバイオ燃料電池は、一般に、負極(アノード)で酸化酵素により燃料が酸化分解されて電子が取り出され、正極(カソード)で還元酵素により酸素が還元されて水を生成することにより、発電する。
【0003】
このようなバイオ燃料電池を簡便かつ低コストで製造するプロセスの一つとして、スクリーン印刷により、電極材料をパターニングする方法が知られている。具体的には、N-メチルピロリドン(NMP)等の有機溶媒にポリフッ化ビニリデン(PVDF)を溶解したバインダー(電極バインダー)に、炭素粉末等の導電性材料を分散させたスラリー(電極スラリー)を調製し、該スラリーを基材にスクリーン印刷し、乾燥させることにより、電極パターンを形成する方法が一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6994184号公報
【文献】特開2021-140988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、有機溶媒であるNMPを用いた電極バインダーは、スクリーン印刷の装置に与えるダメージが懸念され、また、有機溶媒による環境負荷も課題となっていた。
また、PVDFを用いた電極スラリーでは、導電性材料の結着性が必ずしも十分であるとは言えなかった。さらに、PVDFは撥水性が高く、PVDFを用いた電極スラリーでは、酵素の電極への固定化が不十分であったり、酵素が失活しやすく、十分な出力特性を示すバイオ燃料電池を得られない等の課題も生じていた。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためにされたものであり、環境負荷が低く、かつ、スクリーン印刷に適した電極スラリーを得られ、良好な出力特性を示すバイオ燃料電池を製造できる、バイオ燃料電池用電極バインダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、所定の重合体が、バイオ燃料電池用電極をスクリーン印刷で形成する際の電極バインダーとして適していることを見出したことに基づく。
【0008】
本発明は、以下の手段を提供する。
[1]ノニオン性エチレン性不飽和単量体(a1)に由来する第1構造単位と、アニオン性エチレン性不飽和単量体(a2)に由来する第2構造単位と、架橋剤(a3)に由来する第3構造単位と、を有する重合体(A)を含み、架橋剤(a3)は、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有する、バイオ燃料電池用電極バインダー。
[2]重合体(A)の含有量が50質量%以上である、[1]のバイオ燃料電池用電極バインダー。
[3]アニオン性エチレン性不飽和単量体(a2)が、エチレン性不飽和カルボン酸及びその塩、並びに、エチレン性不飽和スルホン酸及びその塩からなる群より選ばれる1種以上を含む、[1]のバイオ燃料電池用電極バインダー。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、環境負荷が低く、かつ、スクリーン印刷に適した電極スラリーを得られ、良好な出力特性を示すバイオ燃料電池を製造できる、バイオ燃料電池用電極バインダーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態のバイオ燃料電池の構成の一例を模式的に示した概略断面図である。
【
図2】本発明の実施形態のバイオ燃料電池の構成の他の一例を模式的に示した概略断面図である。
【
図3】
図1のバイオ燃料電池の実施態様の一例を模式的に示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書における用語及び表記についての定義及び意義を以下に示す。
バイオ燃料電池用電極バインダー、バイオ燃料電池用電極バインダー組成物、及びバイオ燃料電池用電極スラリーは、それぞれ、単に「電極バインダー」、「電極バインダー組成物」、及び「電極スラリー」とも言う。
単に「電極」という場合、該電極は、酵素が固定化される前の状態の電極を指し、酵素が固定化されている「酵素電極」とは区別されるものとする。
「X~Y」(X及びYは数値)との表記は、Xを下限値及びYを上限値とする数値範囲を意味する。数値範囲(例えば、含有量等の範囲)において、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせてもよい。数値範囲の下限値及び上限値は、実施例に記載の数値に置き換えてもよい。
重合体を構成する各構造単位の含有率は、該重合体の合成原料である、各構造単位の由来の化合物の配合量に基づいて求められる割合によるものとする。
「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルの総称である。同様に、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートの総称であり、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル及びメタクリロイルの総称である。
ガラス転移温度は、示差走査熱量(DSC)の温度微分曲線のピークトップ温度である。具体的には、実施例に記載の方法で測定される。
粒子径のメジアン径D50は、水分散液試料について、動的光散乱(DLS)法で測定した粒度分布曲線から求められた体積基準の50%累積粒子径である。
【0012】
[バイオ燃料電池用電極バインダー]
本発明の実施形態(以下、本実施形態と言う。)の電極バインダーは、ノニオン性エチレン性不飽和単量体(a1)に由来する第1構造単位と、アニオン性エチレン性不飽和単量体(a2)に由来する第2構造単位と、架橋剤(a3)に由来する第3構造単位と、を有する重合体(A)を含み、架橋剤(a3)は、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有する。
このような所定の構造を有する重合体(A)を含む電極バインダーは、環境負荷が低く、かつ、導電性材料の分散性が良好で、スクリーン印刷に適した電極スラリーを得られ、該電極スラリーを用いることにより、低環境負荷かつ低コストで、良好な出力特性を示すバイオ燃料電池を製造できる。
【0013】
本実施形態の電極バインダーは、重合体(A)を含み、さらに、後述する水溶性セルロース誘導体(B)及びその他の添加剤を含んでいてもよい。
電極バインダー中の重合体(A)の含有量は、本発明の効果が十分に発揮されるようにするため、50質量%以上が好ましい。より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であり、また、100質量%であってもよい。
【0014】
(重合体(A))
重合体(A)は、ノニオン性エチレン性不飽和単量体(a1)に由来する第1構造単位と、アニオン性エチレン性不飽和単量体(a2)に由来する第2構造単位と、架橋剤(a3)に由来する第3構造単位と、を有する。
重合体(A)は、第1構造単位、第2構造単位及び第3構造単位以外に、その他の構造単位を有していてもよい。本発明の効果が十分に発揮されるようにするため、重合体(A)を構成する全構造単位100質量%中、第1構造単位、第2構造単位及び第3構造単位の合計が、好ましくは80~100質量%、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、よりさらに好ましくは95質量%以上である。
【0015】
<第1構造単位>
重合体(A)を構成する第1構造単位は、ノニオン性エチレン性不飽和単量体(a1)に由来する。
重合体(A)を構成する第1構造単位、第2構造単位及び第3構造単位の合計量中の第1構造単位の含有率は、本発明の効果が十分に発揮される重合体(A)を得るため、60~98質量%が好ましい。より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、また、より好ましくは97質量%以下、さらに好ましくは96質量%以下である。
【0016】
第1構造単位の由来となるノニオン性エチレン性不飽和単量体(a1)は、1分子中にエチレン性不飽和結合を1個有し、アニオン性官能基及びカチオン性官能基のいずれも有しない。ノニオン性エチレン性不飽和単量体(a1)は、1種単独であっても、2種以上が併用されてもよい。
ノニオン性エチレン性不飽和単量体(a1)としては、芳香族エチレン性不飽和化合物、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び極性基含有エチレン性不飽和カルボン酸エステルからなる群より選ばれる1種以上が好適に用いられ、これらのいずれもが含まれることが好ましい。
【0017】
芳香族エチレン性不飽和化合物は、導電性材料の良好な結着性等に寄与する。
芳香族エチレン性不飽和化合物としては、例えば、スチレン、tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、1,1-ジフェニルエチレン、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。芳香族エチレン性不飽和化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのうち、芳香族ビニル化合物が好ましく、スチレンがより好ましい。
【0018】
ノニオン性エチレン性不飽和単量体(a1)中の芳香族エチレン性不飽和化合物の割合は、導電性材料の結着性や基材への密着性等の観点から、25~70質量%が好ましい。より好ましくは35質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上、また、より好ましくは65質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。
【0019】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、重合体(A)の合成容易性や耐久性に寄与する。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸-tert-ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのうち、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸-tert-ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシルが好ましく、アクリル酸-2-エチルへキシルがより好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、電極バインダーの良好な柔軟性の観点から、(メタ)アクリロイルオキシ基に結合するアルキル基は、炭素原子数が2~9が好ましく、4~9がより好ましく、アクリロイルオキシ基に炭素原子数4~9のアルキル基が結合していることがさらに好ましい。
【0020】
ノニオン性エチレン性不飽和単量体(a1)中の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合は、電極バインダーの柔軟性、導電性材料の結着性や基材への密着性等の観点から、20~70質量%が好ましい。より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、また、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。
【0021】
極性基含有エチレン性不飽和カルボン酸エステルは、重合体(A)の合成時の良好な重合性、電極バインダーの機械的安定性等に寄与する。
極性基含有エチレン性不飽和カルボン酸エステルの極性基としては、例えば、ヒドロキシ基、シアノ基等が挙げられる。
極性基含有エチレン性不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。極性基含有エチレン性不飽和カルボン酸エステルは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのうち、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチルが好ましく、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチルがより好ましい。
【0022】
ノニオン性エチレン性不飽和単量体(a1)中の極性基含有エチレン性不飽和カルボン酸エステルの割合は、重合体(A)の合成時の良好な重合性、導電性材料の結着性や基材への密着性、電池使用時の電極バインダーの耐膨潤性等の観点から、0.50~20質量%が好ましい。より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは2.0質量%以上、また、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0023】
<第2構造単位>
重合体(A)を構成する第2構造単位は、アニオン性エチレン性不飽和単量体(a2)に由来する。
重合体(A)を構成する第1構造単位、第2構造単位及び第3構造単位の合計量中の第2構造単位の含有率は、本発明の効果が十分に発揮される重合体(A)を得るため、1.5~20質量%が好ましく、より好ましくは3.0質量%以上、さらに好ましくは4.5質量%以上であり、また、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0024】
第2構造単位の由来となるアニオン性エチレン性不飽和単量体(a2)は、1分子中にエチレン性不飽和結合を1個有し、アニオン性官能基を有する。アニオン性エチレン性不飽和単量体(a2)は、1種単独であっても、2種以上が併用されてもよい。
アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基等が挙げられる。アニオン性官能基は、塩を形成していてもよい。
アニオン性エチレン性不飽和単量体(a2)としては、エチレン性不飽和カルボン酸及びその塩、並びに、エチレン性不飽和スルホン酸及びその塩からなる群より選ばれる1種以上が好適に用いられ、これらのいずれもが含まれることがより好ましい。
【0025】
エチレン性不飽和カルボン酸及びその塩としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸;不飽和ジカルボン酸のハーフエステル等、及びこれらの塩が挙げられる。エチレン性不飽和カルボン酸及びその塩は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのうち、(メタ)アクリル酸、イタコン酸が好ましい。
【0026】
アニオン性エチレン性不飽和単量体(a2)中のエチレン性不飽和カルボン酸及びその塩の含有率は、重合体(A)の合成時の良好な重合性、導電性材料の結着性や基材への密着性等の観点から、70~99質量%が好ましい。より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上、また、より好ましくは98質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下である。
【0027】
エチレン性不飽和スルホン酸及びその塩としては、例えば、パラスチレンスルホン酸及びその塩等が挙げられる。エチレン性不飽和スルホン酸は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのうち、パラスチレンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0028】
アニオン性エチレン性不飽和単量体(a2)中のエチレン性不飽和スルホン酸及びその塩の割合は、重合体(A)の合成時の良好な重合性、導電性材料の結着性や基材への密着性等の観点から、1.0~30質量%が好ましい。より好ましくは2.0質量%以上、さらに好ましくは3.0質量%以上、また、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0029】
<第3構造単位>
重合体(A)を構成する第3構造単位は、架橋剤(a3)に由来する。
重合体(A)を構成する第1構造単位、第2構造単位及び第3構造単位の合計量中の第3構造単位の含有率は、電池使用時の電極バインダーの耐膨潤性等の観点から、0.010~0.50質量%が好ましく、より好ましくは0.020質量%以上、さらに好ましくは0.030質量%以上であり、また、より好ましくは0.30質量%以下、さらに好ましくは0.10質量%以下である。
【0030】
第3構造単位の由来となる架橋剤(a3)は、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有する。架橋剤(a3)は、1種単独であっても、2種以上が併用されてもよい。
架橋剤(a3)は、2個以上のエチレン性不飽和結合が、重合体(A)の他の合成原料化合物が有するエチレン性不飽和結合と付加反応すること等により、架橋構造を形成し得る。すなわち、重合体(A)は架橋重合体である。
架橋剤(a3)としては、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート等が挙げられる。これらのうち、ジビニルベンゼンが好ましい。
【0031】
<ガラス転移温度>
重合体(A)のガラス転移温度は、導電性材料の結着性や基材への密着性、電極バインダーの良好な柔軟性等の観点から、-30~100℃が好ましい。より好ましくは-20℃以上、さらに好ましくは-10℃以上であり、また、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。
【0032】
<粒子径>
重合体(A)は、水性分散媒を含む電極バインダー組成物中で分散粒子として存在する。分散粒子の好適な粒子径は、導電性材料の形態や粒子サイズ等により異なる。本発明の効果が十分に発揮されるようにするには、水分散液における粒子のメジアン径D50が、0.10~1.0μmであることが好ましい。より好ましくは0.15μm以上、さらに好ましくは0.20μm以上であり、また、より好ましくは0.80μm以下、さらに好ましくは0.50μm以下である。
【0033】
<合成方法>
重合体(A)は、ノニオン性エチレン性不飽和単量体(a1)、アニオン性エチレン性不飽和単量体(a2)、及び架橋剤(a3)を含む合成原料を、重合することにより製造できる。重合方法は、特に限定されるものではなく、好適な例としては、乳化重合が挙げられる。
乳化重合は、水性媒体中で、重合開始剤の存在下、必要に応じて界面活性剤及びその他の添加剤を添加して行う。合成原料を、一括で仕込む方法でも、滴下等により逐次供給する方法であってもよい。通常、30~90℃で、撹拌しながら反応させる。
【0034】
なお、反応系における重合体(A)の安定性等の観点から、重合反応中又は反応後に、必要に応じて、塩基性物質を添加して中和し、pH調整を行うことが好ましい。
塩基性物質としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、エタノールアミン、モルホリン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が好ましい。塩基性物質は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0035】
水性媒体は、水、親水性溶媒、又はこれらの混合物である。親水性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、N-メチルピロリドン(NMP)、1,3-ブチレングリコール等が挙げられる。
水性媒体は、合成原料及び重合体の分散安定性、環境負荷低減等の観点から、水が好ましい。分散安定性を損なわない範囲内で、水と親水性溶媒の混合物も好ましい。
重合体(A)の合成で使用された水性媒体は、電極バインダー組成物を構成する水性媒体として、合成後も、そのまま残留してもよい。
【0036】
水性媒体の使用量は、水性媒体中での合成原料の分散性、反応系の粘度等に応じて、適宜調整される。水性媒体の使用量は、適度な重合反応の進行の観点から、ノニオン性エチレン性不飽和単量体(a1)、アニオン性エチレン性不飽和単量体(a2)、及び架橋剤(a3)の合計100質量部に対して、50~300質量部が好ましい。より好ましくは80質量部以上、さらに好ましくは100質量部以上であり、また、より好ましくは250質量部以下、さらに好ましくは200質量部以下である。
【0037】
重合開始剤としては、特に限定されないが、ラジカル重合開始剤を用いることができ、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、tert-ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化物が挙げられる。重合開始剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。また、これらの重合開始剤と、重亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤とを併用するレドックス重合でもよい。
【0038】
界面活性剤は、水性媒体中での合成原料及び生成した重合体(A)の分散安定性等の観点から、ノニオン性界面活性剤、及びアニオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1種以上が好適に用いられる。
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。ノニオン性界面活性剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩等が挙げられる。
【0039】
アニオン性界面活性剤としては、エチレン性不飽和結合を有する反応性界面活性剤も好適に用いられる。
反応性界面活性剤としては、例えば、下記式(1)~(4)で表される化合物が挙げられる。反応性界面活性剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのうち、式(4)で表される化合物が好ましく、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウムがより好ましい。
【0040】
【化1】
式(1)中、R
1はアルキル基であり、pは10~40の整数である。R
1は、好ましくは炭素原子数10~40のアルキル基、より好ましくは炭素原子数10~40の直鎖アルキル基である。
【0041】
【化2】
式(2)中、R
2はアルキル基であり、qは10~12の整数である。R
2は、好ましくは炭素原子数10~40のアルキル基、より好ましくは炭素原子数10~40の直鎖アルキル基である。
【0042】
【化3】
式(3)中、R
3はアルキル基であり、M
1はNH
4又はNaである。R
3は、好ましくは炭素原子数10~40のアルキル基、より好ましくは炭素原子数10~40の直鎖アルキル基である。
【0043】
【化4】
式(4)中、R
4はアルキル基であり、M
2はNH
4又はNaである。R
4は、好ましくは炭素原子数10~40のアルキル基、より好ましくは炭素原子数10~40の直鎖アルキル基である。
【0044】
なお、反応性界面活性剤は、乳化重合における反応系の乳化作用を奏するとともに、ノニオン性エチレン性不飽和単量体(a1)、アニオン性エチレン性不飽和単量体(a2)、及び架橋剤(a3)との共重合性を有するが、本実施形態では、重合体(A)を構成する構造単位とはみなさないものとする。
【0045】
界面活性剤の添加量は、重合反応の安定した進行、水性媒体中での合成原料及び生成した重合体(A)の分散安定性、導電性材料の基材への密着性等の観点から、ノニオン性エチレン性不飽和単量体(a1)、アニオン性エチレン性不飽和単量体(a2)、及び架橋剤(a3)の合計100質量部に対して、0.050~1.2質量部が好ましい。より好ましくは0.10質量部以上、さらに好ましくは0.15質量部以上であり、また、より好ましくは1.0質量部以下、さらに好ましくは0.50質量部以下である。
【0046】
その他の添加剤としては、例えば、チオール、チオールグリコール酸及びそのエステル、3-メルカプトプロピオン酸及びそのエステル等の連鎖移動剤等が挙げられる。
その他の添加剤の添加は任意であり、本発明の効果を妨げない重合体(A)を得られる範囲内で添加してもよい。
【0047】
(水溶性セルロース誘導体(B))
本実施形態の電極バインダーは、重合体(A)を含み、さらに、水溶性セルロース誘導体(B)を含むことも好ましい。
水溶性セルロース誘導体(B)は、電極スラリー中で導電性材料を分散させやすくする作用を奏する。
【0048】
水溶性セルロース誘導体(B)としては、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース類及びその塩;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン等が挙げられる。セルロース類の塩としては、例えば、アンモニウム塩、アルカリ金属塩等が挙げられる。水溶性セルロース誘導体(B)は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのうち、カルボキシメチルセルロース及びその塩が好ましい。
【0049】
電極バインダー中に水溶性セルロース誘導体(B)が含まれる場合、その含有量は、重合体(A)の働きを妨げることなく、導電性材料の良好な分散性を得る観点から、1~50質量%が好ましい。より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、また、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
電極バインダー中の重合体(A)及び水溶性セルロース誘導体(B)の合計含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは95質量%以上であり、また、100質量%であってもよい。
【0050】
[バイオ燃料電池用電極バインダー組成物]
本実施形態の電極バインダー組成物は、上記の本実施形態の電極バインダーと、水性媒体とを含み、前記水性媒体中に重合体(A)が分散している。
電極バインダー組成物は、電極バインダー及び水性媒体を混合することにより製造できる。混合方法は、特に限定されない。
【0051】
電極バインダー組成物中の水性媒体としては、上述した重合体(A)の合成方法で使用される水性媒体と同様のものを例示することができ、重合体(A)の合成方法で使用されたものと同一であっても、異なるものであってもよい。重合体(A)の合成で使用された水性媒体が、合成後も、そのまま残留したものを含んでいてもよい。
水性媒体は、電極バインダー組成物中での電極バインダーの分散安定性、環境負荷低減等の観点から、水が好ましい。分散安定性を損なわない範囲内で、水と親水性溶媒の混合物も好ましい。
【0052】
電極バインダー組成物中の重合体(A)の含有量は、電極スラリーの製造時に水性媒体を任意で添加することにより適宜調整可能であるが、取り扱いやすい粘性、重合体(A)の分散安定性等の観点から、10~80質量%が好ましく、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、また、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下である。
【0053】
[バイオ燃料電池用電極スラリー]
本実施形態の電極スラリーは、上記の本実施形態の電極バインダーと、導電性材料と、水性媒体とを含む。
電極スラリーは、電極バインダー、導電性材料及び水性媒体を混合することにより製造できる。混合方法は、特に限定されないが、導電性材料を十分に均質に分散させるため、例えば、自転公転式撹拌機等で混練することが好ましい。
【0054】
電極スラリーは、電極バインダー、導電性材料及び水性媒体以外に、本発明の効果が妨げられない範囲内で、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、分散安定性等の観点から、界面活性剤等が挙げられる。
電極スラリー中の、電極バインダー、導電性材料及び水性媒体の合計含有量は、本発明の効果が十分に発揮されるようにするため、50質量%以上が好ましい。より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であり、また、100質量%であってもよい。
電極スラリー中の水性媒体は、上述した電極バインダー組成物中の水性媒体の説明と同様である。
【0055】
導電性材料としては、例えば、炭素材料、金属材料等が挙げられる。炭素材料としては例えば、黒鉛、カーボンブラック、多孔質炭素等が挙げられる。導電性材料は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのうち、取り扱い性、酵素の固定性等の観点から、炭素材料が好ましく、多孔質炭素がより好ましい。
多孔質炭素としては、例えば、メソポーラスカーボン等が挙げられ、具体的には、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、MgO鋳型炭素等の鋳型法で製造されたメソポーラスカーボンが挙げられる。これらのうち、酵素の良好な固定化の観点から、MgO鋳型炭素が好適に用いられる。
【0056】
電極スラリー中の導電性材料の含有量は、基材に十分な量の導電性材料を密着させる観点から、40~85質量%が好ましい。より好ましくは45質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上であり、また、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは75質量%以下である。
【0057】
電極スラリー中の電極バインダーの含有量は、導電性材料の基材への密着に十分な量として、導電性材料100質量部に対して、10~200質量部が好ましい。より好ましくは20質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上であり、また、より好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは120質量部以下、よりさらに好ましくは60質量部以下である。
【0058】
電極スラリー中の、電極バインダー及び導電性材料の合計含有量は、電極スラリーのスクリーン印刷への適用性や使用量の低減化等の観点から、40~80質量%が好ましい。より好ましくは、45質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上であり、また、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0059】
[バイオ燃料電池用電極]
バイオ燃料電池用電極のアノード及びカソードの少なくとも一方に、本実施形態の電極バインダーが含まれていることが好ましい。アノード及びカソードの両方に含まれていることがより好ましく、この場合、アノードに含まれる電極バインダーとカソードに含まれる電極バインダーとは、同じ組成であっても、異なる組成であってもよい。
【0060】
電極は、導電性材料及び電極バインダーを含む。電極バインダーとしては、本実施形態の電極バインダーが好ましい。
電極は、基材に、少なくとも、導電性材料及び電極バインダーが接着しているものが好ましい。このような電極は、基材に、電極スラリーを塗布し、乾燥することにより製造できる。電極スラリーとしては、本実施形態の電極スラリーが好ましい。
基材としては、例えば、紙、布、樹脂フィルム、金属材料及びセラミックス等の無機材料等が挙げられる。基材は、導電性材料を高密度で密着させるため、多孔質であり、電極バインダーと良好な密着性を示すものが好ましい。バイオ燃料電池の廃棄の際の環境負荷への配慮等の観点から、例えば、和紙等が好適に用いられる。また、耐久性の観点から、例えば、耐油耐水紙が好適に用いられる。電極スラリーの塗布は、基材の片面に施しても、両面に施してもよい。
【0061】
電極スラリーの塗布方法は、特に限定されない。塗布方法としては、例えば、スクリーン印刷、リバースロール法、ダイレクトロール法、ドクターブレード法等が挙げられる。これらのうち、簡便で効率的なパターン形成が可能であることから、スクリーン印刷が好ましい。スクリーン印刷の場合、例えば、基材に、カーボンペースト等の導電性材料を用いたリード部及び複数の電極を印刷した電極パターンを形成することも可能である。
【0062】
基材上に塗布された電極スラリーは、乾燥させて、電極スラリー中の水性媒体を十分に除去する。乾燥方法は、水性媒体が十分に除去される限り、特に限定されない。乾燥方法としては、例えば、熱風、低温風、減圧又は真空、(遠)赤外線照射等の条件下で行う方法が挙げられる。これらの乾燥条件は、組み合わせてもよい。
【0063】
[酵素電極]
本実施形態の酵素電極は、前記電極に酵素が固定化されたものである。
【0064】
アノード用酵素電極の場合は、バイオ燃料電池の燃料の酸化を促進する酵素が用いられる。また、燃料を加水分解等により酸化しやすくする酵素と併用してもよい。
アノード用酵素電極に用いられる酵素としては、例えば、燃料がグルコースである場合、グルコースオキシダーゼ、又はこれとグルコースデヒドロゲナーゼとの組み合わせ等が挙げられる。燃料がフルクトースである場合、フルクトースオキシダーゼ、又はこれとフルクトースデヒドロゲナーゼとの組み合わせ等が挙げられる。燃料がスクロースである場合、インベルターゼ、又はこれとグルコースデヒドロゲナーゼの組み合わせ等が挙げられる。燃料がデンプンである場合、アミラーゼ、又は、これとグルコースデヒドロゲナーゼとの組み合わせ等が挙げられる。燃料が乳酸である場合、乳酸オキシダーゼ等が挙げられる。
【0065】
カソード用酵素電極の場合は、酸素の還元を促進する酵素が好適に用いられる。
カソード用酵素電極に用いられる酵素としては、例えば、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ等が挙げられる。
【0066】
酵素電極は、例えば、電極に、酵素を固定化させることにより製造できる。また、酵素電極は、酵素を電極スラリーと混合した酵素含有電極スラリーを基材に塗布して、乾燥させることにより、製造することもできる。
【0067】
電極への酵素の固定化方法は、特に限定されず、例えば、電極に酵素の溶液を塗布して、乾燥させることにより行うことができる。酵素の塗布は、例えば、酵素の溶液の滴下や含侵等により行うことができる。メディエータを塗布した後に、酵素を塗布してもよい。
【0068】
メディエータは、電極と酵素間の電子伝達を仲介する酸化還元化合物であり、燃料や酵素の種類によって適宜選択される。メディエータは、電極に担持させたり、電解液に溶解させて使用される。
メディエータを電極に担持させる場合、電極スラリーにメディエータを添加して電極に塗布してもよく、また、電極形成後にメディエータを塗布してもよい。メディエータは、アノード及びカソードのいずれか一方に担持させてもよく、両方に担持させてもよい。
【0069】
メディエータとしては、例えば、チオニン、チオニン酢酸、テトラチアフルバレン、2,2’-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)等の有機硫黄化合物;ハイドロキノン、1,2-ナフトキノン、1,4-ナフトキノン等のキノン化合物;フェロセン;フェリシアン化物;オスミウム錯体、及びこれらの化合物を修飾したポリマー等が挙げられる。メディエータは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
電極に固定化される酵素は、発電を十分に促進する観点から、電極に対して、好ましくは0.001U/cm2以上、より好ましくは0.01U/cm2以上、さらに好ましくは0.1U/cm2以上である。電極に固定化される酵素の量は、できるだけ多いことが好ましいが、例えば、2000U/cm2以下であってもよく、1000U/cm2以下でもあってよく、500U/cm2以下であってもよい。
【0071】
[バイオ燃料電池]
本実施形態のバイオ燃料電池は、酵素を触媒とした酸化還元反応により発電し、アノード及びカソードの少なくとも一方に、酵素が固定化されている。
【0072】
酵素が固定化されている電極は、アノード又はカソードの一方のみでもよく、両方であってもよい。酵素が固定化されている電極としては、上述した本実施形態の酵素電極が好ましい。アノード又はカソードの一方のみが本実施形態の酵素電極でもよく、両方ともが本実施形態の酵素電極であってもよい。
アノード及びカソードの両方が、本実施形態の酵素電極である場合、酵素電極の基材、電極バインダー及び導電性材料は、それぞれ、アノードとカソードとで同一であってもよく、異なっていてもよい。
カソードが本実施形態の酵素電極ではない場合、該カソードは、例えば、酵素に代えて、白金等の金属を含む酸素還元触媒等が固定化されたものであってもよい。
【0073】
バイオ燃料電池における燃料は、酵素によって酸化が促進される物質であれば、特に限定されない。燃料としては、例えば、糖、アルコール、アルデヒド、アミノ酸、アミン、乳酸、尿酸等が挙げられる。燃料は、酵素によって加水分解されてから酸化されるもの(例えば、加水分解してグルコースとなるデンプンやセルロース)であってもよい。燃料は、1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、出力安定性、取り扱い容易性等の観点からは、糖が好ましい。糖の種類は、特に制限されず、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、糖アルコール類等が挙げられる。例えば、グルコースが好適に用いられる。
【0074】
図1に、本実施形態のバイオ燃料電池の構造の一例を模式的に示す。
図1に示すバイオ燃料電池10は、燃料を含有する基材1の一方の面の同一面上にアノード2及びカソード3が形成されている。
また、
図2に、本実施形態のバイオ燃料電池の構造の他の例を模式的に示す。
図2に示すバイオ燃料電池20は、燃料を有する基材1の一方の面上にアノード2が形成され、他方(反対側)の面上にカソード3が形成されている。この場合、基材1は、アノード2とカソード3とのセパレータとしての役割も有する。
【0075】
本実施形態のバイオ燃料電池は、例えば、燃料としてガムシロップ等を供給することのみで発電させることができる。また、他の実施態様としては、例えば、燃料として糖を予め基材に含有させておくことにより、水を使用して発電させることもできる。
【0076】
また、他の実施態様としては、例えば、
図3に示すような皮膚に貼付して使用する態様等も挙げられる。
図3の例では、
図1に示すような態様のバイオ燃料電池10が用いられており、アノード2及びカソード3のそれぞれにリード部4が形成されている。リード部4を被覆シート5で被覆し、基材1を皮膚6に接触させる態様で、バイオ燃料電池10を皮膚6に固定させる。バイオ燃料電池10の皮膚6への固定は、被覆シート
5に粘着シートを使用して皮膚6に貼付してもよく、また、別途、粘着テープ等を使用して皮膚6に貼付してもよい。
【0077】
図3に示す実施態様では、例えば、アノード2に、乳酸オキシダーゼが固定化された酵素電極を用い、カソード3に、ビリルビンオキシダーゼが固定化された酵素電極を用いることができる。この場合、皮膚6から分泌される汗が基材1に吸収され、汗に含まれる乳酸を燃料として、発電する。リード部4を通じて、外部に電力を取り出すことができる。
【0078】
上記のように、本実施形態のバイオ燃料電池は、生体に適用する場合、バイオセンサとしての応用も可能である。例えば、皮膚、衣服、おむつ等の被着体にバイオ燃料電池を取り付けて、被着体から供給される汗、尿、血液、涙、唾液等の体液中の物質量を電力として検出し、その変動等を計測して、健康管理や運動量の計測管理に役立てる等のウェアラブルデバイスとしての用途等が期待される。
【実施例】
【0079】
以下、実施例に基づいて、本発明を具体的に説明する。本発明は、下記実施例により限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変形が可能である。
【0080】
[重合体(A)の製造]
下記合成例における各種物性の測定方法は以下のとおりである。
<ガラス転移温度>
示差走査熱量計(「EXSTAR DSC7020」、株式会社日立ハイテクサイエンス製;昇温速度10℃/分、窒素ガス雰囲気)で示差走査熱量(DSC)を測定し、DSCの温度微分曲線のピークトップ温度をガラス転移温度とした。
<メジアン径D50>
動的光散乱(DLS)法で測定した粒度分布曲線からメジアン径D50を求めた。
【0081】
(合成例1)
冷却管、温度計、撹拌機及び滴下ロートを備えた反応容器に、イオン交換水60質量部を仕込み、75℃に昇温した。この反応容器内に、表1に示す配合組成で、ノニオン性エチレン性不飽和単量体(a1)、アニオン性エチレン性不飽和単量体(a2)、架橋剤(a3)を合計で100質量部、エレミノールJS-20 0.20質量部(溶媒を除く)、ハイテノール08E 0.20質量部、及びイオン交換水80質量部を含む混合液を3時間かけて滴下し、撹拌混合した。同時に、過硫酸カリウム0.40質量部をイオン交換水10質量部に溶解したものを3時間かけて滴下し、撹拌混合し、重合させた。
滴下終了から2時間後、反応生成物を濃度25質量%のアンモニア水0.90質量部で中和し、重合体(A1)の分散液(重合体(A1)の含有量40質量%)を得た。
【0082】
【0083】
なお、表1における界面活性剤の詳細は、以下のとおりである。
・エレミノールJS-20:アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム;「エレミノール(登録商標)JS-20」、三洋化成工業株式会社製;アニオン性反応性界面活性剤;不揮発分38.5質量%
・ハイテノール08E:ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル硫酸アンモニウム;「ハイテノール(登録商標)08E」、第一工業製薬株式会社製;アニオン性界面活性剤
【0084】
重合体(A1)のガラス転移温度は15℃、メジアン径D50は0.26μmであった。
【0085】
[電極スラリーの製造]
電極スラリーの製造に使用した原料は、以下のとおりである。
・多孔質炭素粉末:「クノーベル(登録商標) MJ(3)100-00」、東洋炭素株式会社製;BET比表面積390m2/g、全細孔容積0.91mL/g、ミクロ孔容量0.15mL/g、メソ孔径75nm、かさ密度0.06g/mL
・電極バインダー組成物(1):合成例1で製造した重合体(A1)(電極バインダー)の分散液(不揮発分40質量%)
・電極バインダー組成物(2):「クレハKFポリマーL#9305」、株式会社クレハ製;PVDF(「クレハKFポリマーL#9300」:電極バインダー)の5質量%NMP溶液
・電極バインダー組成物(3):スチレン・ブタジエン系ゴム(電極バインダー)ラテックス(不揮発分40質量%)
・電極バインダー組成物(4):PTFE(電極バインダー)水分散液(不揮発分60質量%)
【0086】
多孔質炭素粉末、電極バインダー組成物、及び添加媒体を、表2に示す各組成で配合し、自転公転式撹拌機で混練して、電極スラリー1~9をそれぞれ製造した。
表2に示すように、得られた電極スラリーにおける多孔質炭素粉末の分散性は、電極スラリー1~8は良好(○)、電極スラリー9は不良(×)であった。
【0087】
[バイオ燃料電池の製造]
電極スラリー1~9を用いて、下記に示す方法で、バイオ燃料電池をそれぞれ製造した。電極スラリー1~6を用いた場合が実施例であり、電極スラリー7~9を用いた場合が比較例である。
【0088】
バイオ燃料電池の製造に使用した材料及び原料の詳細を以下に示す。
・基材(和紙):撥水加工が施された画仙紙;出雲和紙
・基材(耐油耐水紙):「耐油耐水紙(3)」、リンテック株式会社製
・カーボンペースト:「JELCON CH-8」、十条ケミカル株式会社製
・AzBTS:2,2’-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム);東京化成工業株式会社製
・TTF:テトラチアフルバレン
・GOD:グルコースオキシダーゼ;富士フイルム和光純薬株式会社製
・リン酸塩緩衝液:1モル/Lリン酸塩緩衝液、pH7.0
・BOD:ビリルビンオキシダーゼ;天野エンザイム株式会社製
・Triton X-100:ポリエチレングリコール-tert-オクチルフェニルエーテル;「Triton(登録商標) X-100」;ロシュ・ダイアグノスティックス社製;ノニオン性界面活性剤
【0089】
基材に、カーボンペーストをスクリーン印刷し、120℃で20分乾燥して、リード部を形成した。リード部上に、メディエータとしてAzBTS 0.04gを添加した電極スラリーをスクリーン印刷で3回重ね刷りした後、45℃で30分乾燥して、20mm×5mmの電極を32個形成し、UVオゾン洗浄を15分施した。電極パターンは、アノード及びカソードのそれぞれが、直列に4個、並列に4個連結するものとした。
電極のアノードに相当する部分に、メディエータとしてTTFの飽和メタノール溶液を滴下し、さらに、リン酸塩緩衝液にGODを分散させた液(10U/μL)を、アノード1個当たり20μL滴下した。
電極のカソードに相当する部分に、濃度0.01質量%のTriton X-100のリン酸塩緩衝液にBODを分散させた液(10U/μL)を、カソード1個当たり20μL滴下した。
その後、電極(パターン電極)を、1時間減圧乾燥し、アノードにGOD、カソードにBODをそれぞれ固定化させた酵素電極板を作製した。
【0090】
また、別の基材に、濃度0.1モル/Lのグルコースを含むリン酸塩緩衝液を滴下(1mL/cm2)し、100℃で30分乾燥させて、グルコース含有基材を作製した。
このグルコース含有基材を、酵素電極板の酵素電極上に載置して、バイオ燃料電池を製造した。
なお、和紙を基材として用いた酵素電極板は、電極スラリー1、7及び8を用いて、また、耐油耐水紙を用いた酵素電極板は、電極スラリー1~6を用いて、それぞれ作製した。電極スラリー9は、分散性が不良であったため、これを用いたバイオ燃料電池は製造しなかった(比較例3)。
【0091】
[出力特性評価]
上記方法で製造した各バイオ燃料電池について、リニアスイープボルタンメトリー(測定条件:二電極法、走査電位開回路電圧0V、走査速度1mV/s)により出力を測定し、最大出力を求めた。測定の際の液体の供給は、1モル/Lリン酸塩緩衝液(pH7.0)を滴下することにより行った。
表2に、最大出力の測定値を示す。
【0092】
【0093】
表2に示したように、電極スラリー1を用いて製造したバイオ燃料電池は、良好な出力特性を示すことが認められた(実施例1)。また、電極スラリー2~6を用いて製造したバイオ燃料電池も、良好な出力特性を示すと言える(実施例2~6)。一方、電極スラリー7及び8を用いて製造したバイオ燃料電池は、出力特性が劣っていた(比較例1及び2)。
以上から、本実施形態の水系の電極バインダーを含む電極スラリーを用いて製造したバイオ燃料電池は、良好な出力特性を示すと言える。
【符号の説明】
【0094】
1 基材
2 アノード
3 カソード
4 リード部
5 被覆シート
6 皮膚
10、20 バイオ燃料電池
【要約】
環境負荷が低く、かつ、導電性材料の分散性が良好で、スクリーン印刷に適した電極スラリーを得られ、良好な出力特性を示すバイオ燃料電池を製造できる、バイオ燃料電池用電極バインダーを提供する。本発明のバイオ燃料電池用電極バインダーは、ノニオン性エチレン性不飽和単量体(a1)に由来する第1構造単位と、アニオン性エチレン性不飽和単量体(a2)に由来する第2構造単位と、架橋剤(a3)に由来する第3構造単位と、を有する重合体(A)を含み、架橋剤(a3)は、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有する。