(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】光変調器及び光変調器アレイ
(51)【国際特許分類】
G02F 1/03 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
G02F1/03 505
(21)【出願番号】P 2021133941
(22)【出願日】2021-08-19
【審査請求日】2024-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100124291
【氏名又は名称】石田 悟
(72)【発明者】
【氏名】宮野 広基
(72)【発明者】
【氏名】相馬 豪
(72)【発明者】
【氏名】福井 太一郎
(72)【発明者】
【氏名】種村 拓夫
(72)【発明者】
【氏名】野本 佳朗
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-065458(JP,A)
【文献】国際公開第2017/213100(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/111333(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/203856(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/137632(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/057700(WO,A1)
【文献】特開2007-240617(JP,A)
【文献】米国特許第05991065(US,A)
【文献】中国特許出願公開第101281301(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
1/21-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体層と、
変調対象となる対象光に対して反射性を有する金属材料からなり、前記基体層の上面上に形成された反射層と、
前記対象光に対して透過性を有する非線形光学結晶からなり、前記反射層の上面上に所定の厚さで形成された変調層と、
導電性材料からなり、各層の積層方向に直交する第1方向に周期的に配列されるとともに、前記積層方向及び前記第1方向に直交する第2方向にそれぞれ延びる複数のパターン部を含んで前記変調層の上面上に形成された導電パターン層と
を備え、
前記変調層は、前記反射層と前記導電パターン層との間での電圧の印加によって屈折率が変化することで、前記対象光に対する反射率を変化させるように構成され、
前記導電パターン層を介して前記変調層の前記上面から入射し、前記変調層を通過して前記反射層で反射された前記対象光を、反射率の変化によって強度が変調された変調光として前記変調層の前記上面から外部へと出射する
とともに、
前記導電パターン層における前記複数のパターン部の配列周期は、前記対象光の波長未満に設定されている、光変調器。
【請求項2】
前記導電パターン層における前記複数のパターン部のパターン幅は、一定に設定されている、請求項
1記載の光変調器。
【請求項3】
前記反射層の厚さ、及び前記導電パターン層の厚さは、それぞれ表皮深さ以上に設定されている、請求項1
または2記載の光変調器。
【請求項4】
前記変調層の前記非線形光学結晶は、ニオブ酸リチウム及びタンタル酸リチウムの少なくとも一方を含む、請求項1~
3のいずれか一項記載の光変調器。
【請求項5】
前記導電パターン層の前記導電性材料は、金属材料である、請求項1~
4のいずれか一項記載の光変調器。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項記載の光変調器を複数備え、
前記複数の光変調器が、1次元または2次元アレイ状に配列されて構成されている、光変調器アレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変調対象光の強度を変調する光変調器、及び光変調器がアレイ状に配列された光変調器アレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、電気光学(Electro-Optic:EO)ポリマーを用いた光変調器が開示されている。非特許文献1に記載された光変調器は、反射層となる下部Au層と、下部Au層上に形成されたEOポリマー層及び上部Au層とを備える。また、EOポリマー層及び上部Au層は、複数のパターン部が所定の方向に周期的に配列された格子状のパターンによって形成されている。この光変調器では、EOポリマー層を挟む下部Au層と上部Au層との間での電圧の印加によって反射率を変化させることで、変調対象となる対象光の強度が変調される。
【0003】
非特許文献2には、非線形光学結晶のニオブ酸リチウム(LN:LithiumNiobate)を用いた反射型のフレネルレンズ素子が開示されている。非特許文献2に記載されたレンズ素子は、反射層となる下部Au層と、下部Au層上に形成されたLN薄膜層と、LN層上に同心円状のパターンで形成された上部Au層とを備える。このレンズ素子では、LN層を挟む下部Au層と上部Au層との間での電圧の印加によって、上部Au層のパターンによるフレネルレンズの動作が制御される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】J. Zhang et al., "Electricaltuning of metal-insulator-metal metasurface with electro-optic polymer",Appl. Phys. Lett. Vol.113 (2018) pp.231102-1-231102-5
【文献】C. Damgaard-Carstensen et al.,"Electrical Tuning of Fresnel Lens in Reflection", ACS PhotonicsVol.8 (2021) pp.1576-1581
【文献】S. Ogawa and M. Kimata, "Metal-Insulator-Metal-BasedPlasmonic Metamaterial Absorbers at Visible and Infrared Wavelengths: A Review",Materials Vol.11, 458 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光の変調に用いられる空間光変調器(Spatial LightModulator:SLM)として、例えば、液晶層を用いて光の位相を変調するLCOS(LiquidCrystal On Silicon)型のSLMが用いられている。このLCOS型SLMのように、光変調に液晶層を用いる構成では、その動作速度は液晶の応答速度に依存し、結果的に光変調器の応答速度は、例えば1kHz未満に制限される。
【0006】
一方、上記の非特許文献1に記載された光変調器では、液晶よりも高速で応答するEOポリマーを変調層に用いることで、対象光の強度変調を高速で行うことができる。しかしながら、この光変調器では、例えば波長1300nmよりも短い波長において、EOポリマーによる光の吸収が大きく、そのような波長領域で動作させることが難しい。
【0007】
本発明は、変調対象光の強度の変調を高速で行うとともに、広い波長領域で好適に動作させることが可能な光変調器、及び光変調器アレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による光変調器は、(1)基体層と、(2)変調対象となる対象光に対して反射性を有する金属材料からなり、基体層の上面上に形成された反射層と、(3)対象光に対して透過性を有する非線形光学結晶からなり、反射層の上面上に所定の厚さで形成された変調層と、(4)導電性材料からなり、各層の積層方向に直交する第1方向に周期的に配列されるとともに、積層方向及び第1方向に直交する第2方向にそれぞれ延びる複数のパターン部を含んで変調層の上面上に形成された導電パターン層と、を備え、(5)変調層は、反射層と導電パターン層との間での電圧の印加によって屈折率が変化することで、対象光に対する反射率を変化させるように構成され、導電パターン層を介して変調層の上面から入射し、変調層を通過して反射層で反射された対象光を、反射率の変化によって強度が変調された変調光として変調層の上面から外部へと出射するとともに、導電パターン層における複数のパターン部の配列周期は、対象光の波長未満に設定されている。
【0009】
上記構成の光変調器では、基体層上に設けられた金属反射層の上面上に、非線形光学結晶からなる変調層と、所定の方向に周期的に配列された複数のパターン部を含む格子状の導電パターン層とを形成し、基体層とは反対側となる変調層及び導電パターン層の上面側を、変調対象光の入射面とする。また、変調層を挟んで設けられた反射層、及び導電パターン層を、それぞれ下部電極層、上部電極層として機能させる。
【0010】
そして、このような構成において、反射層と導電パターン層との間で電圧を印加し、変調層の屈折率を変化させて対象光に対する反射率を制御することで、対象光の強度を変調する。このような構成によれば、変調層において、液晶よりも高速で応答して、波長1300nmよりも短い波長の対象光に対しても適用が可能な非線形光学結晶を用いることにより、変調対象光の強度の変調を高速で行うとともに、広い波長領域で好適に動作させることが可能な光変調器を実現することができる。
【0011】
上記の光変調器において、導電パターン層における複数のパターン部の配列周期は、対象光の波長未満に設定されている構成としてもよい。このように、変調層上に配列された導電パターン層の複数のパターン部において、その配列周期が対象波長よりも小さく設定されたサブ波長構造(メタサーフェス構造)を用いることにより、対象光の強度変調を好適に実現することができる。
【0012】
上記の光変調器において、導電パターン層における複数のパターン部のパターン幅は、一定に設定されている構成としてもよい。このように、変調層上に配列された導電パターン層の複数のパターン部を、パターン幅が一定の格子状パターンに形成することによっても、対象光の強度変調を好適に実現することができる。
【0013】
上記の光変調器において、反射層の厚さ、及び導電パターン層の厚さは、それぞれ表皮深さ(skin depth)以上に設定されている構成としてもよい。このような構成によれば、金属反射層、変調層、及び導電パターン層による対象光の反射率制御及び強度変調を好適に実現することができる。
【0014】
上記の光変調器を構成する各層の材料については、変調層の非線形光学結晶は、ニオブ酸リチウム及びタンタル酸リチウムの少なくとも一方を含む構成としてもよい。また、導電パターン層の導電性材料は、金属材料である構成としてもよい。
【0015】
本発明による光変調器アレイは、上記構成の光変調器を複数備え、複数の光変調器が、1次元または2次元アレイ状に配列されて構成されている。また、光変調器アレイは、具体的には例えば、Mを1以上の整数、Nを2以上の整数として、複数の光変調器が、M行N列に1次元または2次元アレイ状に配列されて構成されていても良い。このような構成によれば、上記構成の光変調器を変調セル(変調画素)として、1次元または2次元の変調パターンによる対象光の強度変調を好適に実現することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光変調器及び光変調器アレイによれば、変調対象光の強度の変調を高速で行うとともに、広い波長領域で好適に動作させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】光変調器を含む光変調装置の一実施形態の構成を示す平面図である。
【
図2】
図1に示した光変調器の構成を示す(a)A-A線に沿った側面断面図、及び(b)B-B線に沿った側面断面図である。
【
図3】
図2(a)に示した光変調器の構成を一部拡大して示す図である。
【
図4】導電パターン層における格子状パターンの配列周期を変化させたときの反射スペクトルの変化について示す図である。
【
図5】光変調器における光の反射率の波長依存性を示すグラフである。
【
図6】光変調器における光の反射率の波長依存性を示すグラフである。
【
図7】
図2(a)に示した光変調器の構成を一部拡大して示す図である。
【
図8】変調層をx軸方向に伝搬する波数の波長依存性を示すグラフである。
【
図9】導電パターン層における格子状パターンの配列周期を変化させたときの反射スペクトルの変化について示す図である。
【
図10】LN変調層の厚さを500nmとしたときの、(a)光の反射率の波長依存性、及び(b)光変調器における電場強度分布を示す図である。
【
図11】LN変調層の厚さを50nmとしたときの、(a)光の反射率の波長依存性、及び(b)光変調器における電場強度分布を示す図である。
【
図12】LN変調層の厚さを1500nmとしたときの、(a)光の反射率の波長依存性、及び(b)光変調器における電場強度分布を示す図である。
【
図13】変調速度を求めるための光変調器の等価回路を示す斜視図である。
【
図14】光変調器における3dBバンド幅のパターンサイズ依存性を示すグラフである。
【
図15】光変調器を用いた1次元光変調器アレイの構成を示す平面図である。
【
図16】光変調器を用いた2次元光変調器アレイの構成を示す平面図である。
【
図17】2次元光変調器アレイと光ファイバアレイとの接続構成を概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面とともに、光変調器、及び光変調器アレイの実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0019】
図1は、光変調器を含む光変調装置の一実施形態の構成を示す平面図である。
図2は、
図1に示した光変調器の構成を示す図であり、
図2(a)は、A-A線に沿った側面断面図を示し、
図2(b)は、B-B線に沿った側面断面図を示している。また、
図3は、
図2(a)に示した光変調器の構成を一部拡大して示すとともに、光変調器の動作について説明するための図である。
【0020】
なお、以下の各図においては、説明の容易のため、xyz直交座標系を合わせて図示している。この座標系において、z軸は、光変調器を構成する各層の積層方向(各層の厚さ方向)を示し、光変調器に対する変調対象光の入射方向を示している。また、x軸は、積層方向に直交する第1方向を示している。また、y軸は、積層方向及び第1方向に直交する第2方向を示している。
【0021】
本実施形態による光変調装置2Aは、光変調器1Aと、電圧印加部51と、制御部52とを備えている。また、光変調器1Aは、変調対象として入射した対象光L1に対して強度変調を行って変調光L2として外部へと出射するものであり、基体層10と、反射層20と、変調層25と、導電パターン層30とを備えて構成されている。
【0022】
基体層10は、光変調器1Aを構成する各層を支持する支持層である。基体層10を構成する材料としては、光変調器1Aの各層を形成、支持することが可能なものであれば、任意の材料を用いてよい。そのような基体層10としては、具体的には例えば、石英(SiO2)基板、シリコン(Si)基板等を用いることができる。
【0023】
反射層20は、変調対象となる対象光L1に対して反射性を有する金属材料からなり、基体層10の上面10a上に形成されている。この反射層20は、変調層25に電圧を印加するための下部電極層としても機能する。反射層20を構成する金属材料としては、例えば、Au(金)、Al(アルミ)、Ag(銀)、Pt(白金)、Ti(チタン)、Cr(クロム)等を用いることができる。
【0024】
変調層25は、対象光L1に対して透過性を有する非線形光学結晶からなり、反射層20の上面20a上に所定の厚さで形成されている。変調層25を構成する非線形光学結晶としては、例えば、ニオブ酸リチウム(LN:Lithium Niobate、LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LT:Lithium Tantalate、LiTaO3)等の非線形光学材料を用いることができる。
【0025】
導電パターン層30は、導電性材料からなり、変調層25の上面25a上に所定のパターンで形成されている。この導電パターン層30は、下部電極層の反射層20とともに、変調層25に電圧を印加するための上部電極層としても機能する。導電パターン層30を構成する導電性材料としては、例えば、Au(金)、Al(アルミ)、Ag(銀)、Pt(白金)、Ti(チタン)、Cr(クロム)等の金属材料を用いることができる。
【0026】
導電パターン層30は、具体的には、光変調器1Aを構成する各層の積層方向であるz軸方向に直交するx軸方向において周期的に配列された複数のパターン部31を含む格子状のパターンで形成されている。複数のパターン部31のそれぞれは、z軸方向及びx軸方向に直交するy軸方向に延びる、所定の幅を有する直線状のパターンによって形成されている。また、複数のパターン部31のパターン幅は、好ましくは一定に設定される。
【0027】
複数のパターン部31は、変調層25上でy軸方向の一方側(図中の上側)に形成された接続パターン部32を介して、電極パターン部33に電気的に接続されている。また、変調層25及び導電パターン層30は、y軸方向の他方側(図中の下側、電極パターン部33の反対側)における一定幅の領域には設けられておらず、この領域において露出している反射層20の部分が、電極部21となっている。
【0028】
このような構成において、非線形光学結晶からなる変調層25は、反射層20と導電パターン層30との間での電圧の印加(電界の印加)によって屈折率が変化することで、光変調器1Aにおける対象光L1に対する反射率を変化させるように構成されている。対象光L1は、
図2(a)及び(b)に示すように、光変調器1Aに対して、導電パターン層30を介して変調層25の上面25aから入射する。そして、変調層25を通過して反射層20で反射された対象光L1が、反射率の変化によって強度が変調された変調光L2として、変調層25の上面25aから外部へと出射される。なお、光変調器1Aにおける光の変調動作については、詳しくは後述する。
【0029】
光変調装置2Aでは、
図1に示すように、上記構成の光変調器1Aに対して、電圧印加部51及び制御部52が設けられている。電圧印加部51の一方の端子は、ワイヤ16を介して反射層20の電極部21に電気的に接続され、他方の端子は、ワイヤ17を介して導電パターン層30の電極パターン部33に電気的に接続されている。これにより、反射層20と導電パターン層30との間に、電圧印加部51から所定の電圧が印加される。
【0030】
制御部52は、電圧印加部51による光変調器1Aに対する電圧印加動作(電界印加動作)を制御することにより、光変調器1Aにおける変調対象光L1の強度変調動作を制御する。このような構成において、電圧印加部51としては、例えば電源装置を用いることができる。また、制御部52としては、例えばCPU、記憶部、表示部、入力部等を含むコンピュータを用いることができる。
【0031】
光変調器1Aにおいて、導電パターン層30の格子状の複数のパターン部31が設けられている領域が、対象光L1の強度を変調する変調領域として機能する。
図1の構成例において、変調領域のx軸方向の幅はlx、y軸方向の幅はlyである。このような変調領域は、後述するように光変調器アレイを構成する場合の単位変調セルとなるものであり、そのセルサイズは、例えばlx×ly=300μm×300μmである。
【0032】
また、
図3に示すように、光変調器1Aにおいて、導電パターン層30を構成する格子状パターンにおけるパターン部31の幅をs、間隔をgとし、高さをhとし、x軸方向における配列周期をΛ(=s+g)とする。導電パターン層30における各パターン部の断面形状は、具体的な設計条件、作製条件により任意の形状として良いが、例えば矩形、台形、あるいは、矩形または台形で頂点が丸みを有するもの、等である。また、反射層20を構成する金属層の厚さをtrとし、変調層25の厚さをtgとする。
【0033】
このような構成の光変調器1Aにおいて、導電パターン層30における複数のパターン部31の配列周期Λは、好ましくは強度変調の対象となる対象光L1の波長λ未満に設定される。このように、変調層25上に配列された導電パターン層30のパターン部31において、その配列周期Λが対象波長λよりも小さく設定されたサブ波長構造(メタサーフェス構造)を用いることにより、高次回折光の発生を抑制でき、非線形光学結晶の変調層25を利用した対象光L1の変調を好適に実現することができる。また、サブ波長構造を用いた構成では、変調セルの小型化、及びその集積化が可能であり、また、液晶層を用いるLCOS型SLMよりも、変調画素のサイズを小さくすることが可能である。
【0034】
上記構成を有する光変調器1Aにおける対象光L1の強度の変調動作について、
図3を参照しつつ説明する。なお、以下においては、光変調器1Aを構成する各層の具体的な材料について、基体層10をSiO
2層(SiO
2基板)とし、反射層20及び導電パターン層30をそれぞれAu層とし、また、変調層25を構成する非線形光学結晶をニオブ酸リチウム(LN)とする。
【0035】
また、光変調器1Aの特性等の計算においては、特に指定がない限り、反射層20及び導電パターン層30の厚さをtr=h=100nmとし、Z-cutのLN変調層25の厚さをtg=500nmとする。また、導電パターン層30におけるパターン部31の配列周期をΛ=710nmとし、パターン幅sと配列周期Λとの比を0.825とする。この場合、導電パターン層30におけるパターン幅はs=586nmである。
【0036】
本実施形態による光変調器1Aは、絶縁材料である非線形光学結晶からなる変調層25を、金属材料からなる反射層20及び導電パターン層30で挟んだ、金属-絶縁体-金属(MIM:Metal-Insulator-Metal)構造を有する(一般的なMIM構造については、非特許文献3参照)。このMIM構造の光変調器1Aに対して、
図3に電場の方向を矢印Eによって示すように、変調対象光L1としてTM偏光の光を垂直に入射させる。
【0037】
このとき、TM偏光の対象光L1は、導電パターン層30における格子状パターンの周期Λに応じて決まる波長λにおいて、MIM共振器モードに高効率に結合し、金属によって吸収される。この対象光L1の吸収により、対象光L1の反射スペクトルにおいて反射率が小さくなるディップが生じる。
【0038】
また、このような構成において、反射層20と導電パターン層30との間で電圧を印加することで、変調層25を構成する非線形光学結晶の屈折率を変化させる。このとき、MIM共振器モードにおける共振波長がシフトし、その結果、波長λの対象光L1に対する反射率が変化する。この電圧印加による反射率の変化を利用することで、対象光L1に対して強度変調を行うことができる。
【0039】
なお、非線形光学結晶からなる変調層25に外部電圧を印加したときの、ポッケルス効果による屈折率の変化Δnは、下記の(1)式によって見積もることができる。
【数1】
ここで、nは非線形光学結晶の屈折率、r
33は非線形光学結晶のz軸方向の非線形光学定数、Eは変調層25への印加電圧を変調層25の厚さで割った値である。非線形光学結晶がニオブ酸リチウム(LN)である場合、非線形光学定数はr
33=31.45pm/Vである。また、透過波長域は、例えば0.35μm~4.5μmである。
【0040】
図4は、導電パターン層30における格子状パターンの配列周期Λを変化させたときの反射スペクトルの変化について示す図である。
図4の反射率分布図において、横軸は対象光L1の波長(nm)を示し、縦軸は導電パターン層30におけるパターンの配列周期Λ(nm)を示している。また、ここでは、2次元の有限差分時間領域(FDTD:Finite Difference Time Domain)法による反射特性の計算結果を示している。
【0041】
図4に示すように、導電パターン層30におけるパターン周期Λが波長以下となるサブ波長領域において、回折が抑制され、MIMモードの鋭い共振による反射率のディップが得られていることがわかる。本実施形態による光変調器1Aでは、例えば、
図4中に符号Cで示した直線状に延びるディップ領域を利用して、対象光L1の強度変調を行うことができる。
【0042】
光変調器1Aの構成及び動作の一例として、パターン周期Λを710nmとした構成における電圧印加による反射率の変化、及びそれによる対象光L1の強度の変調について説明する。
図5及び
図6は、それぞれ、光変調器1Aにおける光の反射率の波長依存性を示すグラフである。
【0043】
図5のグラフにおいて、横軸は対象光の波長(nm)を示し、縦軸は反射率を示している。また、
図5において、グラフG1は、反射層20に対する導電パターン層30への印加電圧を-10Vとしたときの反射率特性を示し、グラフG2は、印加電圧を+10Vとしたときの反射率特性を示している。
【0044】
図6のグラフにおいて、横軸は対象光の波長(nm)を示し、縦軸は反射率(dB)を示している。また、
図6において、グラフG6は、印加電圧を-10VとしたときのグラフG1に対応する反射率特性を示し、グラフG7は、印加電圧を+10VとしたときのグラフG2に対応する反射率特性を示している。また、
図6では、印加電圧が-10Vから+10Vまで変化するときの反射率特性の変化を示すグラフを合わせて図示している。これらのグラフでの印加電圧は、-10Vから+10Vまで順に-10V、-7.78V、-5.56V、-3.33V、-1.11V、+1.11V、+3.33V、+5.56V、+7.78V、+10Vである。
【0045】
図5及び
図6に示すように、上記構成の光変調器1Aにおいて、反射層20と導電パターン層30との間で電圧を印加することにより、対象光L1に対する反射率のディップ位置などの反射率特性が変化する。
図5において、符号C1は、電圧印加による反射率特性の波長シフトを示している。
【0046】
また、例えば、
図5において符号C0で示した波長1569nmを強度変調の動作点とすると、符号C2で示した範囲が、印加電圧を-10V~+10Vとしたときの強度変調の範囲となる。この動作例では、±10Vの電圧印加で、挿入損失が3.6dB、消光比が4.6dBの強度変調が得られている。
【0047】
上記実施形態による光変調器1A、及び光変調装置2Aの効果について説明する。
【0048】
図1及び
図2に示した光変調器1Aでは、基体層10上に設けられた金属材料の反射層20の上面上に、非線形光学結晶からなる変調層25と、x軸方向に周期的に配列された複数のパターン部31を含む格子状の導電パターン層30とを形成し、基体層10とは反対側となる変調層25及び導電パターン層30の上面側を、変調対象光L1の入射面とする。また、変調層25を挟んで設けられた反射層20、及び導電パターン層30を、それぞれ下部電極層、上部電極層として機能させる。
【0049】
そして、このような構成において、反射層20と導電パターン層30との間で電圧を印加し、変調層25の屈折率を変化させて対象光L1に対する反射率を制御することで、対象光L1の強度を変調する。このような構成によれば、変調層25において、液晶よりも高速で応答して、波長1300nmよりも短い波長の対象光に対しても適用が可能な非線形光学結晶を用いることにより、対象光L1の強度の変調を高速で行うとともに、広い波長領域で好適に動作させることが可能な光変調器1Aを実現することができる。また、光変調器1Aは、
図2に示すように垂直入射型で反射型の構成となっており、導波路型の光変調器等と比較して、高集積化が可能である。
【0050】
上記の光変調器1Aにおいて、導電パターン層30における複数のパターン部31の配列周期Λは、対象光L1の波長λ未満に設定されていることが好ましい。また、導電パターン層30における複数のパターン部31のパターン幅sは、一定に設定されていることが好ましい。このような構成によれば、光変調器1Aにおける対象光L1の強度変調を好適に実現することができる。
【0051】
また、光変調器1Aにおいて、反射層20の厚さ、及び導電パターン層30の厚さは、それぞれ表皮深さ(skin depth)以上に設定されていることが好ましい。このような構成によれば、金属反射層20、変調層25、及び導電パターン層30による対象光L1に対する反射率制御、及びそれによる強度変調を好適に実現することができる。
【0052】
光変調器1Aを構成する各層の材料については、具体的には、変調層25の非線形光学結晶は、ニオブ酸リチウム(LN)及びタンタル酸リチウム(LT)の少なくとも一方を含むことが好ましい。また、導電パターン層30の導電性材料としては、Auなどの金属材料を用いることが好ましい。
【0053】
なお、非特許文献1に記載された構成では、光変調器の変調層としてEOポリマー層を用いている。このような構成では、上述したように、波長1300nmよりも短い波長において、EOポリマーによる光の吸収が大きい。また、この文献の構成では、EOポリマーの変調層が上部Au層とともに格子状のパターンで形成されている。このような構成では、電圧を印加したときに、パターン側面を介してショートが発生しやすい。
【0054】
また、非特許文献2に記載された構成では、ニオブ酸リチウムを用いる構成となっているが、上部Au層が同心円状で幅が一定ではないパターンで形成され、フレネルレンズとして機能する構成となっている。
【0055】
また、非特許文献3には、MIM構造を利用した光の吸収体についての記載がある。しかしながら、この文献には、MIM構造において非線形光学結晶を用いる構成、変調層への電圧印加による光変調器としての動作等についての記載はなく、また、後述する(2)式に基づく変調動作等についても記載されていない。
【0056】
これに対して、上記実施形態による光変調器1Aは、金属反射層20上に、非線形光学結晶からなる変調層25と、導電パターン層30とを形成するとともに、導電パターン層30を、x軸方向に周期的に配列され、y軸方向にそれぞれ延びる複数のパターン部31を含む格子状のパターンで形成することにより、反射層20と導電パターン層30との間で電圧を印加することによる対象光L1に対する反射率制御、及びそれによる強度変調を好適に実現するものである。
【0057】
上記実施形態による光変調器1Aの製造方法の一例について、簡単に説明する。まず、基体層10となるSiO2層、及び反射層20となるAu層を有し、さらにその上に変調層25となるZ-cutされたLN結晶薄膜層を有するLNOI基板を用意し、一般的な有機洗浄によってLNOI基板を洗浄する。ここでは、例えばアセトン、IPA、またはエタノール中にて、LNOI基板の超音波洗浄を行う。次に、スパッタ装置を使用して、LNOI基板のLN層上に約100nmの厚さのCr層を形成する。
【0058】
続いて、Cr層上にフォトレジスト(例えば、AZ5200NJ)を、例えば4000rpm、30secでスピンコートし、フォトリソグラフィによってレジストパターンを形成する。次に、レジストパターンを保護膜にしてCr層のドライエッチングを行うことにより、Crマスクパターンを形成する。さらに、引き続いてLN層をドライエッチングし、電極部となるAu反射層の一部を露出させた後、O2アッシングにより残ったレジストを除去し、Crをウエットエッチングにより除去する。Crのエッチングには、Ar、O2、及びCl2を用いることができる。LN層のエッチングには、Ar、Cl2、及びBCl3を用いることができる。
【0059】
その後、スパッタ装置を使用して、LNOI基板のLN層上に、導電パターン層30となる約100nmの厚さのAu層を形成する。次に、前処理として、Au層とレジストとの濡れ性及び密着性の向上を目的に、表面活性剤(例えば、東京応化OAP)を塗布し、例えば3000rpm、30secでスピンコーティングを行った後、120℃で1分間のベーキングを行う。
【0060】
続いて、Au層上にEBレジスト(例えば、ZEP520A)を塗布し、スピンコーティングにより約200nmの厚さとする。その後、電子線描画装置を使用して描画し、現像を行うことにより、サブ波長構造のレジストパターンを形成する。次に、レジストパターンを保護膜にしてAu層のドライエッチングを行うことにより、Au層のサブ波長構造を形成する。ドライエッチング用のガスとしては、例えばArを用いることができる。その後、Au層をエッチングする際にマスクとして使用したEBレジストをO2アッシングにより除去する。そして、Au層へのワイヤボンディング等により、マウントとの電気的接続を行う。
【0061】
上記実施形態による光変調器1Aの動作原理、及び変調特性について、
図3及び
図7を参照しつつ、さらに具体的に説明する。
【0062】
図3に関して上述したように、MIM構造を有する光変調器1Aに対して、対象光L1としてTM偏光の光を垂直に入射させる。このとき、入射場の振動電界により、導電パターン層30のパターン部31中と反射層20中において、反対方向に振動する電流のペアが誘起され(矢印A1)、これらの電流が変調層25の内部に磁場を誘起する。さらに、パターン部31と反射層20との間で、変調層25中において、双極子電気共鳴が形成される(矢印A2)。これにより、変調層25の内部において、大きな電場を形成することができる。
【0063】
また、パターン部31と反射層20との間に形成される2つの双極子の干渉がπシフトとなるため、光変調器1Aから変調光L2として出射される反射光は、遠方場で完全にキャンセルされる。したがって、これらの局在化した電気及び磁気双極子共鳴により、上述した光の強い吸収が生じる。
【0064】
一方、入射光の電場によって誘起された金属中の自由電子は、金属と絶縁体との界面においてプラズモンを形成する。このプラズモンと結合した入射光は、
図7に模式的に示すように、導電パターン層30の格子構造の横方向への周期性からx軸方向への波数βを生じ、下記の(2)式を満たすときに、光が強く変調層25内に閉じ込められる。
【数2】
ここで、βは上記したようにx軸方向の波数、sは導電パターン層30におけるパターン幅、φは周期構造の境界面における位相変化、mは正の偶数である。
【0065】
なお、(2)式中の位相変化φについて、上記の構造では、変調層25内において実質的な境界面は存在しないが、
図7中に破線で示すように、その上部に導電パターン層30のパターン部31が有る部分と無い部分とでは実効屈折率が異なるため、その境界面において、屈折率差による反射を生じる。
【0066】
上記の(2)式において、波数βは、金属層である反射層20及び導電パターン層30によって挟まれた変調層25内を、x軸方向に伝搬する波数であり、有限差分固有モード(FDE:Finite Difference Eigenmode)法を用いて決定することができる。
図8は、変調層25をx軸方向に伝搬する波数βの波長依存性を示すグラフである。
図8のグラフにおいて、横軸は光の波長(μm)を示し、縦軸は波数β(1/m)を示している。
【0067】
上記の結果から、反射層20、変調層25、及び導電パターン層30によるMIM構造中を、TM0モードの光が伝搬することがわかる。なお、MIM構造中では、TM1、TM2のような高次のモードも伝搬可能であるが、変調層25に閉じ込められる光の電場強度はTM0モードが高い。このため、本実施形態の光変調器1Aにおいては、TM0モードを用いる。また、光変調器1Aでは、上記の(2)式においてm=2を用いる。このときにMIM構造中を伝搬するモードを、TM02モードと表記する。
【0068】
図9は、
図4と同様に、導電パターン層30における格子状パターンの配列周期Λを変化させたときの反射スペクトルの変化について示す図である。
図9では、対象光L1の強度変調に用いるディップ領域C(
図4参照)と合わせて、上記の(2)式でm=2として得られる直線Dを示しており、この直線Dが、ディップ領域Cと良く一致していることがわかる。したがって、この領域Cを強度変調に用いることにより、高効率での変調動作が
可能な光変調器1Aを実現することができる。
【0069】
上記実施形態による光変調器1Aにおける非線形光学結晶からなる変調層25の厚さについて説明する。変調層25の厚さtgは、例えば、厳密結合波解析(RCWA:Rigorous Coupled Wave Analysis)法または有限差分時間領域(FDTD:Finite Difference Time Domain)法による反射スペクトル解析、及び変調層25の電場強度解析結果から決定することができる。
【0070】
図10は、LN変調層25の厚さをtg=500nmとしたときの光変調器1Aの特性について示す図である。
図10(a)は、光の反射率の波長依存性を示すグラフである。
図10(a)のグラフにおいて、横軸は対象光の波長(μm)を示し、縦軸は反射率を示している。この反射スペクトルでは、反射率のディップのピーク位置は波長λ=1548nmとなっている。なお、
図10(a)のグラフにおけるピーク位置は、
図5のグラフにおけるピーク位置と若干異なっているが、これは、具体的な計算手法や計算上で用いられた光学パタメータの違い等によるものである。
【0071】
図10(b)は、光変調器におけるxz断面(
図3参照)での電場強度分布を示している。
図10(b)の分布図において、横軸はx(μm)を示し、縦軸はz(μm)を示している。また、図中の白線は、zのプラス側から、基体層10、反射層20、LN変調層25、及び導電パターン層30の各層の境界を示している。この構成例では、LN変調層25内での電界強度は大きく、反射スペクトルのQ値(反射スペクトルの減衰ピーク波長を半値幅で割った値)も高く、良好な特性が得られていることがわかる。
【0072】
図11は、LN変調層25の厚さをtg=50nmとしたときの(a)光の反射率の波長依存性、及び(b)光変調器における電場強度分布を示す図である。
図11(a)の反射スペクトルでは、ピーク位置は波長λ=1479nmとなっている。
図12は、LN変調層25の厚さをtg=1500nmとしたときの(a)光の反射率の波長依存性、及び(b)光変調器における電場強度分布を示す図である。
図12(a)の反射スペクトルでは、ピーク位置は波長λ=1555nmとなっている。
【0073】
これらの結果から、変調層25の厚さについては、例えば50nm~1500nmの範囲内で設定することが好ましい。また、対象光L1の波長λで規定すると、変調層25の厚さは、0.03λ~1λの範囲内で設定することが好ましい。
【0074】
なお、変調層25の厚さが50nmと薄い場合、
図11に示すように、変調層25内の電界は強くなるが、反射スペクトルのQ値が小さくなるため、変調電圧を印加した際の光の消光比を大きくすることができない。一方、変調層25の厚さが1500nmと厚い場合、
図12に示すように、反射スペクトルのディップにおける反射率の減衰量は小さく、変調層25内の電界も強くない。また、変調層25の厚さが大きくなると、高い変調電圧の印加が必要となる。変調層25の厚さについては、これらの特性等を考慮して設定することが好ましい。
【0075】
また、光変調器1Aの特性は、導電パターン層30でのパターン幅sと配列周期Λとの比(デューティ比)によっても変化する。上記の構成では、デューティ比が0.20以下と小さい場合、または0.90以上と大きい場合、反射スペクトルのディップにおける反射率の減衰が無いか小さい。したがって、この場合、デューティ比を0.20~0.90の範囲内で設定することが好ましい。
【0076】
上記実施形態による光変調器1Aにおける変調速度について説明する。ここでは、等価回路モデルを用いてRC時定数を計算し、3dBバンド幅を見積もる。
【0077】
図13は、変調速度を求めるための光変調器1Aの等価回路を示す斜視図である。ここでは、光変調器1Aのうちで、導電パターン層30の複数のパターン部31を含む部分を示し、等価回路を破線で図示している。また、導電パターン層30における格子状のパターン部31の長さ(パターンサイズ)をLとしている。この長さLは、
図1に示した変調領域のy軸方向の幅lyに対応している。
【0078】
図13に示した等価回路において、平行平板モデルを用いて、抵抗値RとキャパシタンスCとは、下記の(3)式、(4)式によって求められる。
【数3】
【数4】
ここで、σ
AuはAuの導電率で4.2×10
7(S/m)、nはAu格子の数、ε
0は真空中の誘電率で8.85×10
-12(F/m)、ε
33はニオブ酸リチウムの結晶軸方向の比誘電率で27.9である。
【0079】
また、3dBバンド幅f
3dBは、上記した抵抗値R及びキャパシタンスCを用いて、下記の(5)式によって求められる。
【数5】
【0080】
図14は、上記の式を用いて求められた、光変調器1Aにおける3dBバンド幅のパターンサイズ依存性を示すグラフである。
図14のグラフにおいて、横軸はパターンサイズL(μm)を示し、縦軸は3dBバンド幅(GHz)を示している。上記構成の光変調器1Aにおいて、パターンサイズをL=300μmとすると、3dBバンド幅は、f
3dB=7.52GHzとなる。
【0081】
上記構成の光変調器1Aを用いた光変調器アレイの構成について説明する。光変調器アレイは、単位変調セルとなる光変調器1Aを複数用い、複数の光変調器1Aを1次元または2次元アレイ状に配列して、構成することができる。具体的には例えば、Mを1以上の整数、Nを2以上の整数として、複数の光変調器(複数の変調セル)をM行N列に1次元または2次元アレイ状に配列することで、光変調器アレイが構成される。このような構成によれば、上記の光変調器1Aを変調画素として、1次元または2次元の変調パターンによる対象光の位相変調を好適に実現することができる。
【0082】
図15は、
図1に示した光変調器1Aを用いた1次元光変調器アレイの構成を示す平面図である。本構成例における光変調器アレイ3Aは、
図1、
図2に示した構成を有し、基体層10、反射層20、変調層25、及び導電パターン層30をそれぞれ備える光変調器1AをN個の変調セルP
1~P
Nとして用い、x軸方向を配列方向として、1次元アレイ状に配列して構成されている。
【0083】
なお、本構成例では、基体層10と変調層25との間に設けられる反射層20の電極部21については、
図15中に示すように、N個の変調セルP
1~P
Nの全体に対して共通の電極部21として形成されている。また、基体層10については、N個の変調セルP
1~P
Nで個別に設けられていても良く、あるいは一体に設けられていても良い。
【0084】
図16は、
図1に示した光変調器1Aを用いた2次元光変調器アレイの構成を示す平面図である。本構成例における光変調器アレイ3Bは、
図1、
図2に示した構成を有し、基体層10、反射層20、変調層25、及び導電パターン層30をそれぞれ備える光変調器1Aを4×6個の変調セルP
1,1~P
4,6として用い、x軸方向及びy軸方向を配列方向として、2次元アレイ状に配列して構成されている。なお、
図16においては、導電パターン層における複数のパターン部31の具体的な構成の図示を省略している。
【0085】
本構成例の光変調器アレイ3Bでは、第1行の変調セルP1,1~P1,6において、各列の変調セルの電極パターン部33に対して、個別の変調信号線(電圧印加線)W11~W13、W14~W16が接続されている。また、第2行の変調セルP2,1~P2,6に対して、個別の変調信号線W21~W23、W24~W26が接続されている。また、第3行の変調セルP3,1~P3,6に対して、個別の変調信号線W31~W33、W34~W36が接続されている。また、第4行の変調セルP4,1~P4,6に対して、個別の変調信号線W41~W43、W44~W46が接続されている。
【0086】
なお、本構成例では、基体層10と変調層25との間に設けられる反射層20の電極部21については、
図15に示した構成と同様に、4×6個の変調セルP
1,1~P
4,6の全体に対して共通の電極部21として形成されている。また、基体層10については、4×6個の変調セルP
1,1~P
4,6で個別に設けられていても良く、あるいは一体に設けられていても良い。
【0087】
また、
図15、
図16に示すように複数の光変調器1Aをアレイ状に配列した光変調器アレイでは、光変調器1Aが垂直入射型であることにより、光ファイバアレイとの接続を好適に実現することができる。
図17は、2次元光変調器アレイと光ファイバアレイとの接続構成を概略的に示す斜視図である。ここでは、
図16に示した複数の光変調器1Aが2次元アレイ状に配列された光変調器アレイ3Bと、複数の光ファイバ61が2次元アレイ状に配列された光ファイバアレイ60との接続構成を図示している。本構成では、光変調器アレイ3Bの光変調器1Aと、光ファイバアレイ60の光ファイバ61とが、1対1対応で接続されている。
【0088】
上記構成を有する垂直入射型の光変調器1Aは、上述したように変調セルの小型化、高集積化が可能であり、例えば空間多重光通信、高速光無線通信などに好適に適用することが可能である。また、例えば、Beyond 5Gにおける通信データ伝送容量の増大に対応するため、高速大容量の光トランシーバに搭載できる超高速、小型の光変調器としても適用が可能である。Beyond 5G技術においては、1チャンネル当たり1GHz以上の変調速度が要求される。
【0089】
光変調器、及び光変調器アレイは、上記実施形態及び構成例に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、導電パターン層30におけるパターンについては、上記実施形態では、複数のパターン部31、接続パターン部32、及び電極パターン部33を含む構成を示しているが、このような構成に限られるものではなく、具体的には様々なパターンを用いて良い。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、変調対象光の強度の変調を高速で行うとともに、広い波長領域で好適に動作させることが可能な光変調器、及び光変調器アレイとして利用可能である。
【符号の説明】
【0091】
1A…光変調器、2A…光変調装置、3A、3B…光変調器アレイ、
10…基体層、10a…上面、16、17…ワイヤ、20…反射層、20a…上面、21…電極部、25…変調層、25a…上面、30…導電パターン層、31…パターン部、32…接続パターン部、33…電極パターン部、
51…電圧印加部、52…制御部、60…光ファイバアレイ、61…光ファイバ、P1~PN、P1,1~P4,6…変調セル、W11~W46…変調信号線、L1…対象光、L2…変調光。