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特許7578246加熱装置の発熱体、加熱装置および加熱方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】加熱装置の発熱体、加熱装置および加熱方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/74 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
H05B6/74 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023058702
(22)【出願日】2023-03-31
(62)【分割の表示】P 2018183802の分割
【原出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2023073476
(43)【公開日】2023-05-25
【審査請求日】2023-04-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2018年 第79回 応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集 DVD版パッケージ
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2018年 第79回 応用物理学会秋季学術講演会 講演一覧(部分)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 AM-FPD18 第25回インターナショナルワークショップ 予稿告知web
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 AM-FPD18 第25回インターナショナルワークショップ 予稿集閲覧可能コンテンツweb
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 AM-FPD18 第25回インターナショナルワークショップ プログラム
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 「無電極高効率発熱ランプの開発とその超低消費電力型加熱装置への適用」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】517108527
【氏名又は名称】テクノリサーチ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000128496
【氏名又は名称】株式会社オーク製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 俊之
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 智由
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 和泉
【審査官】川口 聖司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-84335(JP,A)
【文献】再公表特許第2017/073563(JP,A1)
【文献】特開平11-8204(JP,A)
【文献】特開2016-21399(JP,A)
【文献】特開昭63-144518(JP,A)
【文献】特開昭63-66930(JP,A)
【文献】特開昭56-73888(JP,A)
【文献】実開昭51-98046(JP,U)
【文献】特開昭49-85639(JP,A)
【文献】特開昭47-22537(JP,A)
【文献】米国特許第5432325(US,A)
【文献】米国特許第4822966(US,A)
【文献】国際公開第2018/042552(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/00- 6/80
H05B 11/00
F24C 7/00- 7/10
A47J 9/00-47/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体、セラミックス、または有機物を被加熱物とし、反射容器と、発熱体とを備えた加熱装置であって、
前記発熱体が、
マイクロ波を吸収して発熱するカーボンを含む発熱材と、
マイクロ波を透過し、前記発熱材が内部に配置される少なくとも1つの管状の容器とを備え、
流動性のあるカーボン粉粒体から成る前記発熱材が、前記容器に充填されており、
前記発熱材に対して不活性な気体が前記容器内に含まれ、
前記容器の少なくとも一部が、弧状に形成され
前記被加熱物が、弧状に形成されている部分に囲まれるように、前記容器から離れて配置され、
前記発熱体において生じた熱が、熱放射によって、前記反射容器の空間領域を介して、前記被加熱物に伝わることを特徴とする加熱装置
【請求項2】
前記カーボン粉粒体の充填率が、0.05~0.2の範囲に定められていることを特徴とする請求項1に記載の加熱装置
【請求項3】
半導体、セラミックス、または有機物を被加熱物とする加熱装置の発熱体であって、
流動性のあるカーボン粉粒体から成り、マイクロ波を吸収して発熱する発熱材と、
マイクロ波を透過し、前記発熱材が充填され、前記発熱材に対して不活性な気体が含まれる容器とを備え、
前記容器が、それぞれ、側面方向から見て半円状に形成され、両端部が同一方向を向き、径の異なる複数の側面半円状容器を互いに隣接させ、通孔のない円板を半分にした半円状管を中心付近に配置した半ディスク状の容器を向い合わせた、ディスク状の容器として構成されることを特徴とする発熱体。
【請求項4】
半導体、セラミックス、または有機物を被加熱物とする加熱装置の発熱体であって、
流動性のあるカーボン粉粒体から成り、マイクロ波を吸収して発熱する発熱材と、
マイクロ波を透過し、前記発熱材が充填され、前記発熱材に対して不活性な気体が含まれる容器とを備え、
前記容器が、端部を互いに向かい合わせて円状に形成される複数の円弧状容器(以下、円状容器群という)が複数あって、それぞれ径の異なる前記複数の円状容器群を互いに隣接させ、球形管を中心付近に配置した、ディスク状の容器として構成されることを特徴とする発熱体。
【請求項5】
隣り合う前記円状容器群の間で、円弧状容器間の端面対向部分の位置がずれていることを特徴とする請求項4に記載の発熱体。
【請求項6】
前記容器が、径方向断面円状であることを特徴とする請求項1または2に記載の加熱装置。
【請求項7】
前記カーボン粉粒体と前記気体とが、石英ガラスから成る前記容器に封入されていることを特徴とする請求項1または2に記載の加熱装置。
【請求項8】
半導体、セラミックス、または有機物を被加熱物とし、反射容器と、発熱体とを備えた加熱装置による加熱方法であって、
前記発熱体が、
マイクロ波を吸収して発熱するカーボンを含む発熱材と、
マイクロ波を透過し、前記発熱材が内部に配置される少なくとも1つの管状の容器とを備え、
流動性のあるカーボン粉粒体から成る前記発熱材が、前記容器に充填されており、
前記発熱材に対して不活性な気体が前記容器内に含まれ、
前記容器の少なくとも一部が、弧状に形成され、
前記被加熱物を、前記容器の弧状に形成されている部分で囲むように、前記容器から離して配置し、
前記発熱体からの熱放射によって、前記被加熱物を、前記反射容器の空間領域を介して加熱することを特徴とする加熱方法。
【請求項9】
反射容器と、発熱体とを備えた加熱装置であって、
前記発熱体が、
マイクロ波を吸収して発熱するカーボンを含む発熱材と、
マイクロ波を透過し、前記発熱材が内部に配置される少なくとも1つの容器とを備え、
流動性のあるカーボン粉粒体から成る前記発熱材が、前記カーボン粉粒体の粒子間に隙間が生じている状態で前記容器に充填されており、
前記発熱材に対して不活性な気体が前記容器内に含まれ、
被加熱物が、前記容器から離れて設置され、
前記発熱体において生じた熱が、熱放射によって、前記反射容器の空間領域を介して、前記被加熱物に伝わり、
前記容器として、球形管として構成される容器が備えられていることを特徴とする加熱装置
【請求項10】
反射容器と、発熱体とを備えた加熱装置による加熱方法であって、
前記発熱体が、
マイクロ波を吸収して発熱するカーボンを含む発熱材と、
マイクロ波を透過し、前記発熱材が内部に配置される少なくとも1つの容器とを備え、
流動性のあるカーボン粉粒体から成る前記発熱材が、前記容器に充填されており、
前記発熱材に対して不活性な気体が前記容器内に含まれ、
前記容器として、球形管として構成される容器が備えられ、
被加熱物を、前記容器から離して配置し、
前記発熱体からの熱放射によって、前記被加熱物を、前記反射容器の空間領域を介して加熱することを特徴とする加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理を行う加熱装置に関し、特に、熱源となる発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体に対する熱処理を行う加熱装置の熱源(発熱体)として、放電ランプが使用されている。半導体ウェハーを一方向から照射すると、半導体ウェハーの温度が不均一となり、反りなどが生じる。そこで、半導体ウェハーを均一に加熱するため、放電ランプをリング状に形成している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平2-106868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放電ランプなどの発熱体をリング状にすると、給電線を含む電極部分が、ランプ自体の熱で加熱されてしまう。これを避けるためにランプ両端部分の形状は複雑化し、加工が困難となる。また、複雑なランプ形状のため、破損などの恐れがある。
【0005】
したがって、形状を複雑化することなく、被加熱物をムラなく加熱する発熱体を提供することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発熱体は、半導体、セラミックス、または食品以外の有機物を被加熱物とする加熱装置の発熱体として構成される。本発明の発熱体は、マイクロ波を吸収して発熱するカーボンを含む発熱材と、マイクロ波を透過し、発熱材が内部に配置される管状の容器とを備える。発熱材は、流動性のあるカーボン粉粒体から成り、容器内に充填されている。また、容器内には、発熱材に対して不活性な気体が含まれている。例えば容器は、径方向断面円状に形成することができる。例えば、カーボン粉粒体の充填率は、0.05~0.2の範囲に定められる。
【0007】
本発明では、カーボン粉粒体が充填されている容器の少なくとも一部が、弧状に形成されている。カーボン粉粒体が充填している容器の弧状の部分に合わせて被加熱物が配置されることで、被加熱物の周囲全体が加熱される。本発明は、発熱体の弧状に形成されている部分に囲まれるように、被加熱物を配置し、加熱する加熱方法を、他の態様として提供する。
【0008】
管状の容器は様々な弧状で構成することが可能であり、例えば、中心角度が20°~340°の円弧状の容器で構成され、側面方向から見て、半円状、C状などに形成することができる。半円状の場合、両端部が同一方向を向いている容器(ここでは、側面半円状容器という)に構成することができる。また、容器としてさらに、通孔のない円板を半分にした半円状管が備えられるように構成することができる。そして、容器の構成として、径の異なる複数の側面半円状容器が互いに隣接して半円状管を中心付近に配置した半ディスク状の容器を向い合せて全体がディスク状に構成された容器が、備えられるように構成することができる。一方で、容器としては、端部を互いに向かい合わせて円状に形成される複数の円弧状容器(以下、円状容器群という)を備えるように構成することが可能である。例えば、容器が、それぞれ径の異なる円状容器群を互いに隣接させて、ディスク状あるいはその一部形状に構成してもよい。また、隣り合う円状容器群の間で、円弧状容器間の端面対向部分の位置がずれているように構成することができる。
【0009】
本発明の他の態様である発熱体は、マイクロ波を吸収して発熱するカーボンを含む発熱材と、マイクロ波を透過し、発熱材が内部に配置される少なくとも1つの容器とを備え、流動性のあるカーボン粉粒体から成る発熱材が、カーボン粉粒体の粒子間に隙間が生じている状態で容器に充填されており、発熱材に対して不活性な気体が容器内に含まれ、容器として、球形管として構成される容器が備えられている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、形状を複雑化することなく、被加熱物をムラなく加熱する発熱体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】マイクロ波加熱装置の概略的構成図である。
図2】第1の実施形態である発熱管の概略的断面図である。
図3】第2の実施形態である発熱管の概略的平面図である。
図4】第3の実施形態である発熱管の概略的平面図である。
図5】第4の実施形態である発熱管の概略的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0013】
図1は、第1の実施形態であるマイクロ波加熱装置の概略的構成図である。図2は、発熱管の概略的断面図である。
【0014】
マイクロ波多重反射型加熱装置(マイクロ波焼成炉ともいう。以下では、「マイクロ波加熱装置」と称す)10は、マイクロ波を利用して被加熱物を加熱、焼成あるいは乾燥する装置であり、耐熱性のある矩形状のマイクロ波反射容器(以下、反射容器という)40を備える。反射容器40の異なる側面にはマイクロ波発振機(マグネトロン)50が装着されており、反射容器内の発熱管20に向けてマイクロ波が発振される。
【0015】
反射容器40の空間領域40Mにおける中央部には、発熱管20が支持部材(図示せず)によって設置されており、その傍には、被加熱物30が保持部材(図示せず)によって保持されている。被加熱物としては、例えば、セラミックス、半導体、有機物である。さらに、マイクロ波加熱装置10は、マイクロ波発振機50を制御可能な電源回路(図示せず)と、発熱管20の温度を測定するサーモメータ(放射温度計)(図示せず)を備え、電源回路は、サーモメータによって検出される発熱管20の温度に基づいてマイクロ波発振機50を制御する。
【0016】
図2に示すように、発熱管(以下、発熱体ともいう)20は、発熱材を配置する容器であり、ここでは、一方の端部に導入管22が形成された密閉性のある有底管状容器で構成され、マイクロ波を透過する石英材によって加熱成形されている。ただし、容器構成はこれに限らず、例えば軸長さに対して内径が大きい円板状容器にしてもよい。発熱管20内には、カーボン発熱材70が発熱管20内部全体をほぼ満たすように充填されている。
【0017】
カーボン発熱材70は、ここでは流動可能なカーボン粉粒体70Mで構成されている。カーボン粉粒体70Mは、塊状のカーボン素材を粉砕することで得られ、いわゆる粗砕あるいは中砕によって、所定の粒径をもつ粒子の集合体であるカーボン粉粒体70Mを生成する。
【0018】
カーボン粉粒体70Mの各粒子は不規則な凹凸表面を有するため、カーボン粉粒体70Mを発熱管20内に入れたとき、粒子間に隙間が生じる。粒子間の隙間はカーボン発熱材70全体に存在する。発熱管20の内径、カーボン粉粒体70Mの充填率は、後述するように、マイクロ波吸収による発熱が支配的となるように定められている。
【0019】
図2に示すように、カーボン発熱材70と発熱管内面20Uの鉛直方向に沿った上端面との間には、管軸方向全体に渡って希ガスで満たされた空間領域Sが形成されている。ただし、図2では空間領域Sのサイズを誇張して描いているため、カーボン粉粒体70Mから構成されるカーボン発熱材70の全体厚さは発熱管20の内径と略等しい。また、発熱管20の端部に形成された導入管22の内部には、カーボン粉粒体70Mを充填させておらず、希ガスで満たされた空間領域が形成されている。
【0020】
カーボン発熱材70を除く発熱管20内の残余の空間領域は、希ガスによって満たされている。ここでは、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノンのいずれかのガス、あるいはこれら二種類以上のガスが封入されている。希ガスは、カーボン発熱材70に対して不活性であり、石英ガラスから成る発熱管20に対しても不活性である。
【0021】
粒子間に隙間のあるカーボン粉粒体70Mおよび希ガスを気密封入した発熱管20に対してマイクロ波を照射すると、マイクロ波がカーボン粉粒体70M全体に対して到達する。特に、発熱管20の中心(軸)付近にあるカーボン粉粒体にも到達する。
【0022】
その結果、短時間で高温状態に到達することができる。特に、希ガスが発熱管20内に封入されることによって、カーボン粉粒体70Mが大気中の酸素との反応により二酸化炭素化して減量し充填量が少なくなることを防止できる。
【0023】
カーボン粉粒体70Mが発熱すると、中心付近のカーボン粉粒体70Mで発生する熱が発熱管20外部へ放出される。その結果、発熱管20全体としての熱放射が高まり、被加熱物を短時間で高温状態に到達させることができる。
【0024】
発熱管20の内径、カーボン粉粒体70Mの充填率は、マイクロ波に照射されるカーボン発熱材70の表面積を増やすことで、短時間による昇温を実現するように定められている。発熱管20の内径が小さすぎるとカーボン粉粒体70Mの量が少なくなり、発熱効果が小さくなる。一方、発熱管20の内径(カーボン発熱材70の全体厚さ)が大きすぎると、発熱管20の中心付近までマイクロ波が届かず、熱伝導による昇温が支配的となって短時間で高温状態にならない。例えば、発熱管20の内径として、1mm~100mmに設定することが可能である。
【0025】
カーボン粉粒体70Mの充填率が小さすぎると、充填量の少なさによって熱放射が低下するとともに、発熱管20内でのカーボン粉粒体70Mの径方向あるいは軸方向の偏りによって不均一な高温状態となり、発熱管20への負荷が大きくなる。一方、充填率が大き過ぎると、発熱管20の中心付近へマイクロ波が届きにくくなり、短時間での高温状態への到達が難しい。充填率は、ここでは0.05~0.2の範囲に定められている。ただし、充填率は、発熱管20内の空間体積に対するカーボン粉粒体70Mの体積割合を表す。
【0026】
希ガス、カーボン発熱材70を封入した発熱管20は、以下のように製造することができる。マイクロ波を透過する石英材を加熱して一端に導入管を設けた有底筒状容器に対し、マイクロ波を吸収して発熱するカーボン材(カーボン粉粒体)を導入管から容器内に充填する。その後、カーボン材に対して不活性である希ガスを、所定範囲となるように導入管から封入する。例えば、1kPa~40kPaの範囲に定められる。そして、導入管を加熱軟化させて封止することで容器を密閉する。
【0027】
希ガスの封入ガス圧は容器の耐圧特性と気圧がガスの絶対温度に比例する関係から決めることができる。例えば、最初常温300Kの発熱管をマイクロ波加熱して2000Kの高温度に上げ、そのときの発熱管内の圧力が大気圧と同じにする設計条件のときは、発熱管の常温でのガス圧力は15.195kPaとなる。また、常温300Kの発熱管をマイクロ波加熱して800Kの中温度に上げ、そのときの発熱管内の圧力が大気圧と同じにする設計条件のときは、発熱管の常温でのガス圧力を37.988kPaと大きくすることができる。
【0028】
このように本実施形態のマイクロ波加熱装置は、気密性のある石英製の発熱管20と、発熱管20を格納する反射容器40と、反射容器40内にマイクロ波を発振するマイクロ波発振機50とを備え、発熱管20の管内には、カーボン粉粒体70Mからなるカーボン発熱材70が充填されるとともに、希ガスが封入されている。
【0029】
このような構成により、発熱管20が短時間で昇温し、被加熱物30を高速加熱、焼成することが可能となる。また、従来の電気炉などと比べて消費電力の低減をもたらす。また、熱源となる発熱管20を容易に交換する構成が可能となり、メンテナンスが簡素化する。
【0030】
上述したマイクロ波加熱装置(マイクロ波焼成炉)では、矩形状の反射容器が採用されているが、円筒状や略球状であってもよい。また、反射容器内では発熱体である発熱管20の傍に被加熱物を配置する構成であるが、発熱管20に囲われた状態で被加熱物を設置する構成にしてもよい。例えば、複数の発熱管20に囲まれたマッフル炉として構成することが可能である。あるいは、他の熱処理装置の熱源としても使用可能である。
【0031】
カーボン発熱材の構成としては、塊状カーボン発熱部材を代わりに適用することも可能であり、例えば、カーボン板を軸方向に並べた塊状カーボン発熱部材を配置することが可能である。また、発熱管内に流入した気体(希ガス)を送ってカーボン発熱材によって加熱し、昇温された気体を放出するように構成することも可能である。さらに、中空円筒状(二重管構造)の発熱管に対し、その中空部に被加熱物を配置して加熱することも可能である。
【0032】
発熱管の素材は石英以外でもよく、マイクロ波を透過し、希ガスなどの気体に反応しなければよい。さらに、希ガス以外の気体であって、カーボン発熱材に不活性な気体を適用してもよい。例えば温室効果ガスなどが適用できる。容器内に含まれるガスとしては、カーボン発熱材に対して不活性なガスで満たさず、一部活性なガスが含まれるように構成してもよい。
【0033】
次に、図3を用いて第2の実施形態である発熱管について説明する。第2の実施形態では、発熱管が円弧状に形成されている。それ以外の構成については、第1の実施形態と実質的に同じである。
【0034】
図3は、第2の実施形態における発熱管を示した平面図である。
【0035】
発熱管(発熱体)120には、カーボン粉粒体170Mおよび希ガスが内部に封入されている。発熱管120は、ここでは、その径方向断面形状が円状である管状容器で構成され、第1の実施形態と同様に石英ガラスから成る。
【0036】
発熱管120は、第1の実施形態で示した直状の容器とは異なり、側面方向から見て半円状に形成され、その両端部120E1、120E2は同一方向を向いている。図示しないマイクロ波加熱装置では、例えば、発熱管120は、棒状の被加熱物30’がその中央付近で囲むように配置される。これによって、被加熱物をムラなく加熱させることができる。特に、発熱管120の径方向断面が円状であるため、マイクロ波の吸収に偏りがなく、光、熱を一様に放出し、ムラのない加熱を実現することができる。
【0037】
カーボン粉粒体170Mは、発熱管120全体に渡って充填されている。充填率は、第1の実施形態と同様、0.05~0.2の範囲に定められている。また、希ガスも、第1の実施形態と同様の封入圧で封入されている。発熱管120の管軸方向に沿った中央付近、すなわち発熱管120を略二等分する箇所には、容器120を真空に引き、カーボン粉粒体170Mおよびガスを封入するための導入管180が形成されている。
【0038】
発熱管120はマイクロ波を吸収して発熱するため、電極が不要であり、発熱管120を半円状に形成しても、放電ランプのように管形状を複雑化する必要がなく、電極部分の加熱防止を考慮する必要もない。したがって、発熱管120は、その全体を(導入管180を除いて)半円状に形成することが可能であり、電極部分に当てた部分を発熱管120に設ける必要がない。また、給電線の取り回しなどによって設計が制限されることもなく、発熱管120の両端部120E1、120E2を同一方向に向ける構造を採用することができる。
【0039】
すなわち、発熱管120全体を半円状に形成するという簡易な加工によって製造することができ、コストや電力消費を抑えることができる。特に、発熱管120が石英ガラスから成るため、半円形状を容易に形成することが可能である。また、発熱管120の破損の危険性も抑えられる。
【0040】
カーボン粉粒体170Mが発熱管120全体に渡って充填されているため、発熱管120全体が短時間で昇温し、被加熱物30’を全体的に高速加熱することができる。一方で、導入管180が発熱管120の弧状部分、特に管軸方向に沿った中央付近に設けられているため、カーボン粉粒体170Mが途中で詰まることなく、全体的に充填させることができる。特に、両端120E1、120E2の側までカーボン粉粒体170Mを容易に入れることができる。
【0041】
このような発熱管120は、以下の方法で製造することができる。マイクロ波を透過する石英材からなる管状の容器を加熱し、曲げ加工して、半円状に形成する。そして、管軸方向に沿った中央付近の箇所に導入管を設ける。
【0042】
次に、マイクロ波を吸収して発熱するカーボン粉粒体を、導入管から容器内に充填する。その後、カーボン粉粒体に対して不活性である希ガスを、封入圧が所定範囲となるように導入管から封入する。例えば、1kPa~40kPaの範囲に定められる。そして、導入管を加熱軟化させて封止することで容器を密閉する。
【0043】
第2の実施形態では1つの発熱管120をマイクロ波加熱装置内に配置しているが、2つの発熱管120を対向配置して環状の発熱体を構成してもよい。あるいは、両端部が互いに向かい合う有端環状(C字状)や、両端部のない円状(ドーナツ状)の発熱体を構成してもよい。この場合においても、放電ランプのように電極部分を考慮する必要がなく、発熱管を容易に製造することができる。
【0044】
さらに発熱管120については、半円状、有端環状(C字状)、円状以外の円弧形状にすることも可能である。例えば、中心角度120°の3つの円弧状発熱管を環状に配置することも可能である。また、円弧以外で湾曲形状を構成するなど、弧状に形成すればよい。そして、発熱管120の一部だけを弧状に形成してもよい。この場合においても、カーボン粉粒体などの発熱材を弧状部分に配置すればよい。
【0045】
次に、図4を用いて第3の実施形態である発熱管について説明する。第3の実施形態では、それぞれ径の異なる複数の半円状発熱管をディスク状に構成している(なお、以下ではディスク状の構成も発熱管と称している)。
【0046】
図4は、第3の実施形態である発熱管を示した平面図である。
【0047】
発熱管220は、径の異なる複数の半円状発熱管を組み合わせて構成される。ここでは、径がそれぞれ段階的に小さくなっている9つの半円状発熱管220A~220Iを互いに隣接させ、半ディスク領域を満たす発熱管を構成し、また、同様に径の異なる9つの半円状発熱管220J~220Rによって半ディスク領域を満たす発熱管を構成する。そして、これら2つを向い合せることによって、円領域を満たすディスク状の発熱管220が構成される。
【0048】
発熱管220は、円状基板などの被加熱物30”の上方もしくは下方に配置することができる。これによって、ディスク状(円板状)の被加熱物30”を全体的にムラなく加熱することができる。なお、半円状発熱管の本数は任意であり、また、中心付近にあたる半円状発熱管220I、220Rを球形の発熱管で構成してもよい。
【0049】
次に、図5を用いて第4の実施形態である発熱管について説明する。第4の実施形態では、径および中心角度の異なる円弧状発熱管を組み合わせでディスク状に構成する。
【0050】
図5は、第4の実施形態である発熱管を示した平面図である。
【0051】
発熱管320は、それぞれ径が異なり、周方向に円弧状発熱管を並べて円状に形成した発熱管(以下、発熱管群という)V1~V21と球形発熱管V22とから構成され、ディスク状に形成されている。
【0052】
発熱管群V1~V6は、それぞれ中心角度90度の4つの円弧状発熱管を端面同士向かい合わせて連ねることで、円状に形成されている。円弧状発熱管の端面は、周方向に隣り合う円弧状発熱管の端面と接しているか、もしくはわずかに隙間が形成されている。発熱管群V1~V6の隣り合う発熱管群との間では、この周方向に沿った発熱管の端面の位置が、径方向に隣り合わせとならないように、互いにずれている。
【0053】
発熱管群V7~V13は、それぞれ中心角度120度の円弧状発熱管から構成され、発熱管群V1~V6と同様、隣り合う発熱管群の間で発熱管端面の位置が互いにずれている。発熱管群V14~V21は、それぞれ中心角度180度の円弧状発熱管から構成され、発熱管群V1~V13と同様、隣り合う発熱管群の間で発熱管端面の位置が互いにずれている。
【0054】
このように中心角度の異なる、すなわち円弧長さの異なる円弧状発熱管を組み合わせることによって、ディスク状発熱管のレイアウトの自由度が増す。また、径の大きな発熱管に対して中心角度を比較的小さくし、径の小さな発熱管に対して中心角度を大きくすることによって、円弧状状発熱管の製造工程が容易となる。
【0055】
円弧状発熱管は、その端面において熱低減が生じやすい。本実施形態では、円弧状発熱管の互いに向かい合う端面位置を径方向に隣り合う発熱管の端面位置とはずらすことによって、熱の低減部分の偏りが生じるのを抑えることができる。なお、隣り合う発熱管端面の位置ずれ量(オフセット量)をここでは一定としているが、一定としなくてもよく、発熱管端面の位置がディスク全体に渡って偏りなく散在するように構成すればよい。また、ディスクの一部分を構成するようにしてもよい。
【実施例
【0056】
実施例である発熱管は、第2の実施形態に応じた発熱管であり、内径6mmの半円状の発熱管に対してカーボン粉粒体を充填率0.08で充填し、アルゴンガスを10Torrで封入している。第1の実施形態に応じたマイクロ波加熱装置において、400Wのマイクロ波を照射し、発熱実験を行った。発熱管表面温度の測定は、放射温度計を用いた。
【0057】
実験の結果、30秒で1200℃に到達し、短時間での昇温を実現した。また、発熱管全体から強い光を目視で確認することができた。これにより、被加熱物の周囲全体に渡って加熱することができる。
【符号の説明】
【0058】
10 マイクロ波加熱装置
20、120、220、320 発熱管(発熱体)
30 被加熱物
40 反射容器
70 カーボン発熱材(発熱材)
70M、170M カーボン粉粒体
180 導入管
図1
図2
図3
図4
図5