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特許7578381プラズマ処理装置、制御方法及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置、制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/00 20060101AFI20241029BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20241029BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20241029BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
H05H1/00 A
H05H1/46 R
H05H1/46 B
H01L21/31 C
H01L21/302 101G
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023548413
(86)(22)【出願日】2022-09-05
(86)【国際出願番号】 JP2022033247
(87)【国際公開番号】W WO2023042698
(87)【国際公開日】2023-03-23
【審査請求日】2024-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2021152599
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 英紀
(72)【発明者】
【氏名】池田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 伸彦
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-179407(JP,A)
【文献】特開2011-71522(JP,A)
【文献】特開2009-280875(JP,A)
【文献】特開2013-115354(JP,A)
【文献】特開2019-36655(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108959706(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/00-1/54
H01L 21/205
H01L 21/31
H01L 21/3065
C23C 16/50
C23C 16/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御装置を有し、処理容器内に供給されたガスをプラズマ化し、被処理体へのプラズマ処理を行うプラズマ処理装置であって、
前記制御装置は、
前記処理容器内のプラズマの電子エネルギー分布関数を計測する測定部と、
プラズマ処理中に前記測定部で計測される前記電子エネルギー分布関数が目標とする前記電子エネルギー分布関数に近付くように、前記プラズマ処理に関するパラメータを変更するパラメータ変更部と、
を有するプラズマ処理装置。
【請求項2】
目標とする前記電子エネルギー分布関数として、前記プラズマ処理中の理想的な前記電子エネルギー分布関数の設定を受け付ける目標設定受付部、
を更に有する請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記プラズマ処理中に計測された前記電子エネルギー分布関数と、前記プラズマ処理中の理想的な前記電子エネルギー分布関数と、の乖離を定量化する評価関数の設定を受け付ける評価関数設定受付部、
を更に有する請求項2記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記プラズマ処理に関するパラメータと前記乖離との対応を表す学習モデルの設定を受け付ける制御則設定受付部、
を更に有する請求項3記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記パラメータ変更部は、前記学習モデルに従って、前記乖離が小さくなるように前記プラズマ処理に関するパラメータを変更すること
を特徴とする請求項4記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
変更された前記パラメータによる前記プラズマ処理中の前記電子エネルギー分布関数の前記評価関数による評価の結果に基づき、前記学習モデルを更新する制御則更新部、
を更に有する請求項4又は5記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記制御則更新部は、前記学習モデルの係数の値の確率分布を、前記評価関数による評価の結果に基づき、ベイズの定理に従って更新すること
を特徴とする請求項6記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記プラズマ処理に関するパラメータは、投入電力、投入電力の周波数、投入電力パルスのデューティ比、ガス混合比、圧力、温度、累積プロセス回数、直近のプロセスレシピ、直近に計測した前記電子エネルギー分布関数の少なくとも一つであること
を特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記プラズマの着火時、前記プラズマ処理に関するパラメータに含まれる圧力は、圧力計により測定される圧力値に替えて、圧力制御バルブの開度を使用すること
を特徴とする請求項8記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記電子エネルギー分布関数に替えて、前記電子エネルギー分布関数と対応関係にある電子エネルギー確率関数を用いること
を特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
制御装置を有し、処理容器内に供給されたガスをプラズマ化し、被処理体へのプラズマ処理を行うプラズマ処理装置の制御方法であって、
前記制御装置が、
前記処理容器内のプラズマの電子エネルギー分布関数を計測するステップと、
プラズマ処理中に計測された前記電子エネルギー分布関数が目標とする前記電子エネルギー分布関数に近付くように、前記プラズマ処理に関するパラメータを変更するステップと、
を有する制御方法。
【請求項12】
処理容器内に供給されたガスをプラズマ化し、被処理体へのプラズマ処理を行うプラズマ処理装置を制御する制御装置に、
前記処理容器内のプラズマの電子エネルギー分布関数を計測する手順、
プラズマ処理中に計測された前記電子エネルギー分布関数が目標とする前記電子エネルギー分布関数に近付くように、前記プラズマ処理に関するパラメータを変更する手順、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラズマ処理装置、制御方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばプラズマ処理装置では、チャンバ内のプラズマの電子エネルギー分布関数(EEDF)がプロセスレシピ又はチャンバ状態などにより変動することが知られている。プラズマ処理(プラズマプロセス)を最適化する場合は、例えばチャンバ内のプラズマの電子エネルギー分布関数を理想的な形に近付けることが望ましい。
【0003】
被処理体の開始状態データ及び目標とする被処理体の終了状態データを入力することで、被処理体に実行するプロセス処理の所定の処理条件を決定する情報処理装置は従来から知られている。従来の情報処理装置では、最適解の探索の効率化を図るため、機械学習を行うことが記載されている。また、半導体製造プロセス処理に関係するデータ例として、プラズマ密度が記載されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/155928号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、プラズマ処理に関するパラメータの変更により、処理容器内のプラズマの電子エネルギー分布関数が目標とする電子エネルギー分布関数に近付くように制御する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、制御装置を有し、処理容器内に供給されたガスをプラズマ化し、被処理体へのプラズマ処理を行うプラズマ処理装置であって、前記制御装置は、前記処理容器内のプラズマの電子エネルギー分布関数を計測する測定部と、プラズマ処理中に前記測定部で計測される前記電子エネルギー分布関数が目標とする前記電子エネルギー分布関数に近付くように、前記プラズマ処理に関するパラメータを変更するパラメータ変更部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、プラズマ処理に関するパラメータの変更により、処理容器内のプラズマの電子エネルギー分布関数が目標とする電子エネルギー分布関数に近付くように制御する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係るプラズマ処理装置の断面図の一例を示す。
図2】コンピュータの一例のハードウェア構成図である。
図3】本実施形態に掛かる制御装置の機能構成の一例を示す図である。
図4】本実施形態に掛かるプラズマ処理装置の処理手順の一例を示したフローチャートである。
図5】プラズマの理想的な電子エネルギー分布関数の一例の説明図である。
図6A】評価関数の一例の説明図である。
図6B】評価関数の一例の説明図である。
図6C】評価関数の一例の説明図である。
図6D】評価関数の一例の説明図である。
図7】学習モデル内の各係数の値の確率分布(事前分布)の一例を示す図である。
図8】プラズマ処理中の処理容器内のプラズマの電子エネルギー分布関数を計測する処理の一例の説明図である。
図9】プロセスパラメータを変更する処理の一例の説明図である。
図10A】プロセスパラメータの変更により変化するプラズマ処理中のプラズマの電子エネルギー分布関数の評価の結果の一例の説明図である。
図10B】プロセスパラメータの変更により変化するプラズマ処理中のプラズマの電子エネルギー分布関数の評価の結果の一例の説明図である。
図11】プロセスパラメータの変更により変化するプラズマ処理中のプラズマの電子エネルギー分布関数の評価の結果の一例の説明図である。
図12】制御則の更新の一例の説明図である。
図13】制御則を規定する学習モデル内の各係数の値の確率分布(事前分布)の更新の一例の説明図である。
図14A】制御則を規定する学習モデル内の各係数の値の確率分布(事前分布)の更新の一例の説明図である。
図14B】制御則を規定する学習モデル内の各係数の値の確率分布(事前分布)の更新の一例の説明図である。
図14C】制御則を規定する学習モデル内の各係数の値の確率分布(事前分布)の更新の一例の説明図である。
図15A】制御則の学習を繰り返してプラズマの電子エネルギー分布関数の制御を繰り返す処理の一例の説明図である。
図15B】制御則の学習を繰り返してプラズマの電子エネルギー分布関数の制御を繰り返す処理の一例の説明図である。
図15C】制御則の学習を繰り返してプラズマの電子エネルギー分布関数の制御を繰り返す処理の一例の説明図である。
図15D】制御則の学習を繰り返してプラズマの電子エネルギー分布関数の制御を繰り返す処理の一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。なお、本明細書及び図面では、本実施形態の説明に不要な部分についての図示及び説明を適宜省略する。
【0010】
[プラズマ処理装置]
図1は、本発明の一実施形態に係るプラズマ処理装置の断面図の一例を示す。プラズマ処理装置100は、ウエハWを収容する処理容器(チャンバ)1を有する。プラズマ処理装置100は、マイクロ波によって処理容器1の天井部の内壁面に形成される表面波プラズマにより、ウエハWに対してプラズマ処理を行う。プラズマ処理は、成膜処理、エッチング処理、又はアッシング処理等である。
【0011】
プラズマ処理装置100は、処理容器1と、マイクロ波プラズマ源2と、制御装置3とを有する。処理容器1は、気密に構成されたアルミニウム又はステンレス鋼等の金属材料からなる略円筒状の容器であり、接地されている。
【0012】
処理容器1は、本体部10を有し、内部にプラズマの処理空間を形成する。本体部10は、処理容器1の天井部を構成する円盤状の天板である。処理容器1と本体部10との接触面には支持リング129が設けられている。処理容器1の内部は、気密にシールされている。本体部10はアルミニウム又はステンレス鋼等の金属材料から形成されている。
【0013】
マイクロ波プラズマ源2は、マイクロ波出力部30と、マイクロ波伝送部40と、マイクロ波放射機構50とを有する。マイクロ波出力部30は複数経路に分配してマイクロ波を出力する。マイクロ波は、マイクロ波伝送部40とマイクロ波放射機構50とを通って処理容器1の内部に導入される。処理容器1内に供給されたガスは、導入されたマイクロ波の電界により励起され、その結果、表面波プラズマが形成される。
【0014】
処理容器1内にはウエハWを載置する載置台11が設けられている。載置台11は、処理容器1の底部中央に絶縁部材12aを介して立設された筒状の支持部材12により支持されている。載置台11及び支持部材12を構成する材料としては、表面をアルマイト処理(陽極酸化処理)したアルミニウム等の金属や、内部に高周波用の電極を有した絶縁部材(セラミックス等)が例示される。載置台11には、ウエハWを静電吸着するための静電チャック、温度制御機構、ウエハWの裏面に熱伝達用のガスを供給するガス流路等が設けられてもよい。
【0015】
載置台11には、整合器13を介して高周波バイアス電源14が接続されている。高周波バイアス電源14から載置台11に高周波電力が供給されることにより、ウエハW側にプラズマ中のイオンが引き込まれる。なお、高周波バイアス電源14はプラズマ処理の特性によっては設けなくてもよい。
【0016】
処理容器1の底部には、排気口が開設されている。排気口には排気管15が接続されている。排気管15は圧力制御バルブ151を介して排気装置152に接続される。排気管15、圧力制御バルブ151、及び排気装置152は、ガス排気部16を形成する。排気装置152はターボ分子ポンプ等の真空ポンプを有する。
【0017】
処理容器1内はガス排気部16を作動させると排気され、所定の真空度まで高速に減圧される。また、処理容器1には圧力計160が設置されている。圧力計160は処理容器1内の圧力値を測定する。測定結果は制御装置3で受信される。また、圧力制御バルブ151は、測定された圧力値に基づき、その開度を制御する。
【0018】
処理容器1の側壁には、ウエハWの搬入出を行うための搬入出口17と、搬入出口17を開閉するゲートバルブ18とが設けられている。マイクロ波伝送部40は、マイクロ波出力部30から出力されたマイクロ波を伝送する。マイクロ波伝送部40内の中央マイクロ波導入部43bは、本体部10の中央に配置される。6つの周縁マイクロ波導入部43aは、本体部10の周辺に円周方向に等間隔に配置される。中央マイクロ波導入部43b及び6つの周縁マイクロ波導入部43aは、それぞれに対応して設けられる、図1に示すアンプ部42から出力されたマイクロ波をマイクロ波放射機構50に導入する機能およびインピーダンスを整合する機能を有する。以下、周縁マイクロ波導入部43a及び中央マイクロ波導入部43bを総称して、マイクロ波導入部43ともいう。
【0019】
6つの誘電体層123は、6つの周縁マイクロ波導入部43aの下方、且つ本体部10の内部に配置されている。また、1つの誘電体層133は、中央マイクロ波導入部43bの下方、且つ本体部10の内部に配置されている。なお、周縁マイクロ波導入部43a及び誘電体層123の個数は6つに限らず、2つ以上であればよい。ただし、周縁マイクロ波導入部43a及び誘電体層123の個数は3つ以上が好ましい。周縁マイクロ波導入部43a及び誘電体層123の個数は例えば3つ~6つであってもよい。
【0020】
図1のマイクロ波放射機構50は、誘電体天板121、誘電体天板131、スロット122、スロット132、誘電体層123、及び誘電体層133を有する。誘電体天板121及び131は、マイクロ波を透過させる円盤状の誘電体から形成され、本体部10の上面に配置されている。誘電体天板121及び131は、比誘電率が真空よりも大きい、例えば、石英、アルミナ(Al)等のセラミックス、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂やポリイミド系樹脂により形成されている。これにより、誘電体天板121及び131内を透過するマイクロ波の波長を、真空中を伝播するマイクロ波の波長よりも短くしてスロット122及び132を含むアンテナを小さくできる。
【0021】
誘電体天板121及び131の下には、本体部10に形成されたスロット122及び132を介して誘電体層123及び133が本体部10の開口の裏面に当接されている。誘電体層123及び133は、例えば石英、アルミナ(Al)等のセラミックス、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂やポリイミド系樹脂により形成される。誘電体層123及び133は、本体部10に形成された開口の厚み分だけ天井面から凹んだ位置に設けられ、マイクロ波をプラズマ生成空間Uに供給する誘電体窓として機能する。
【0022】
周縁マイクロ波導入部43aおよび中央マイクロ波導入部43bは、筒状の外側導体52、及びその中心に設けられた棒状の内側導体53を同軸状に配置する。外側導体52と内側導体53との間は、マイクロ波電力が給電され、マイクロ波放射機構50に向かってマイクロ波が伝播するマイクロ波伝送路44となっている。
【0023】
周縁マイクロ波導入部43a及び中央マイクロ波導入部43bには、スラグ54と、その先端部に位置するインピーダンス調整部材140とが設けられている。スラグ54を移動させることで、処理容器1内の負荷(プラズマ)のインピーダンスをマイクロ波出力部30におけるマイクロ波電源の特性インピーダンスに整合させる機能を有する。インピーダンス調整部材140は、誘電体で形成され、その比誘電率によりマイクロ波伝送路44のインピーダンスを調整するようになっている。
【0024】
本体部10には、シャワー構造のガス導入部21が設けられている。ガス供給源22から供給されるガスは、ガス供給配管111を介してガス拡散室62からガス導入部21を通り、処理容器1内にシャワー状に供給される。ガス導入部21は、処理容器1の天井壁に形成された複数のガス供給孔60からガスを供給する、例えばガスシャワーヘッドの一例である。ガスの一例としては、例えばArガス等のプラズマ生成用のガスや、OガスやNガス等の高エネルギーで分解させたいガス、シランガス等の処理ガスがある。
【0025】
処理容器1の側壁には円周方向に開口部1bが形成され、プラズマプローブ装置70が取り付けられている。処理容器1に取り付けられるプラズマプローブ装置70は1つ以上であればよい。プラズマプローブ装置70は、プラズマ生成空間Uにて生成されるプラズマをセンシングする。
【0026】
プラズマプローブ装置70は、モニタ装置80に接続されている。モニタ装置80は信号発信器を有し、信号発信器により発信した所定周波数の信号を出力する。出力された所定周波数の信号は、同軸ケーブル81によりプラズマプローブ装置70に伝送され、プラズマプローブ装置70の先端のアンテナ部71からプラズマに伝送される。
【0027】
プラズマプローブ装置70は、プラズマ側に伝送する信号に対する、プラズマ側からの電流値を検出し、モニタ装置80に送る。検出した電流値は、モニタ装置80から制御装置3に送信される。制御装置3は、例えばFFT(周波数)解析により処理容器1内のプラズマの電子エネルギー分布関数を計測する。このように、制御装置3は電気的なプローブ計測で得られるプラズマ生成空間Uの周波数特性から、処理容器1内のプラズマの電子エネルギー分布関数を計測する。なお、プラズマプローブ装置70及びモニタ装置80の詳細は、例えば特開2019-46787号公報に記載されている。
【0028】
プラズマ処理装置100の各部は、制御装置3により制御される。制御装置3は、プラズマ処理装置100のプロセスシーケンス及びプロセスレシピに基づき、プラズマ処理装置100の各部を制御する。また、制御装置3は、プロセスシーケンス及びプロセスレシピに従って所定の制御を行う際の入力や結果の表示が可能になっている。制御装置3はプラズマ処理装置100に内蔵されていてもよいし、通信路を介してプラズマ処理装置100と接続されていてもよい。
【0029】
通信路は有線通信方式であっても無線通信方式であってもよく、コンピュータの内外において各種信号を交換するための信号路であればよい。通信路は、ローカルエリアネットワーク(LAN)などのネットワークを利用するものであってもよい。
【0030】
プラズマ処理装置100においてプラズマ処理を行う際には、ウエハWが、搬送アーム上に保持された状態で、開口したゲートバルブ18から搬入出口17を通り処理容器1内に搬入される。ゲートバルブ18はウエハWを搬入後に閉じられる。ウエハWは、載置台11の上方まで搬送されると、搬送アームからプッシャーピンに移され、プッシャーピンが降下することにより載置台11に載置される。処理容器1の内部の圧力は、ガス排気部16により所定の真空度に保持される。ガスがガス導入部21からシャワー状に処理容器1内に導入される。周縁マイクロ波導入部43aおよび中央マイクロ波導入部43bを介してマイクロ波放射機構50から放射されたマイクロ波は天井壁の内部表面を伝播する。表面波となって伝播するマイクロ波の電界により、ガスは励起される。処理容器1側の天井壁下のプラズマ生成空間Uに生成された表面波プラズマによってウエハWはプラズマ処理が施される。
【0031】
制御装置3は、例えば図2のコンピュータ500により実現される。制御装置3は記憶装置に記録されたプログラムを読み取り、プログラムに従って、プラズマ処理装置100を構成する各部との間で各種信号を送受信することにより、プラズマ処理を実行する。
【0032】
制御装置3は、例えば図2に示すようなハードウェア構成のコンピュータにより実現される。図2はコンピュータの一例のハードウェア構成図である。
【0033】
図2のコンピュータ500は、入力装置501、出力装置502、外部I/F(インタフェース)503、RAM(Random Access Memory)504、ROM(Read Only Memory)505、CPU(Central Processing Unit)506、通信I/F507及びHDD(Hard Disk Drive)508などを備え、それぞれがバスBで相互に接続されている。なお、入力装置501及び出力装置502は必要なときに接続して利用する形態であってもよい。
【0034】
入力装置501はキーボードやマウス、タッチパネルなどであり、作業者等が各操作信号を入力するのに用いられる。出力装置502はディスプレイ等であり、コンピュータ500による処理結果を表示する。通信I/F507はコンピュータ500をネットワーク等に接続するインタフェースである。HDD508は、プログラムやデータを格納している不揮発性の記憶装置の一例である。
【0035】
外部I/F503は、外部装置とのインタフェースである。コンピュータ500は外部I/F503を介してSD(Secure Digital)メモリカードなどの記録媒体503aの読み取り及び/又は書き込みを行うことができる。ROM505は、プログラムやデータが格納された不揮発性の半導体メモリ(記憶装置)の一例である。RAM504はプログラムやデータを一時保持する揮発性の半導体メモリ(記憶装置)の一例である。
【0036】
CPU506は、ROM505やHDD508などの記憶装置からプログラムやデータをRAM504上に読み出し、処理を実行することで、コンピュータ500全体の制御や機能を実現する演算装置である。
【0037】
図1に示した制御装置3は、図2のハードウェア構成のコンピュータ500がプログラムに従い処理を実行することで、図3の各種機能を実現できる。
【0038】
図3は本実施形態に掛かる制御装置の機能構成の一例を示す図である。図3に示した制御装置3は、目標設定受付部200、評価関数設定受付部202、制御則設定受付部204、プラズマ処理制御部206、電子エネルギー分布関数測定部208、パラメータ変更部210、制御則更新部212、目標記憶部220、評価関数記憶部222、制御則記憶部224、及びプロセスレシピ記憶部226を有する。
【0039】
目標設定受付部200は、作業者等から目標とするプラズマの電子エネルギー分布関数の設定を受け付ける。目標とするプラズマの電子エネルギー分布関数は、着目するプラズマ処理(プラズマプロセス)において理想的と考えられるプラズマの電子エネルギー分布関数である。
【0040】
プラズマの理想的な電子エネルギー分布関数は、実験、計算、文献調査などから決定できる。例えば、プラズマの理想的な電子エネルギー分布関数は、プラズマ処理の目的及びプラズマ内の化学反応などを踏まえて決めることができる。また、プラズマの理想的な電子エネルギー分布は、プラズマの電子エネルギー分布関数の計測結果と、膜質等のプロセスの評価結果と、の相関から決定してもよい。
【0041】
なお、目標設定受付部200は、着目するプラズマ処理に対応したプラズマの理想的な電子エネルギー分布関数の設定の他、処理容器1内の場所に対応したプラズマの理想的な電子エネルギー分布関数の設定を受け付けてもよい。また、目標設定受付部200はプラズマ処理の時間経過により変化しないプラズマの理想的な電子エネルギー分布関数の設定を受け付けてもよいし、プラズマ処理の時間経過により変化するプラズマの理想的な電子エネルギー分布関数の設定を受け付けてもよい。
【0042】
例えばプラズマの理想的な電子エネルギー分布関数は、以下の式(1)により定義することができる。式(1)において、xは電子エネルギー分布関数の形を決める要素の一例である。Teffは電子エネルギー分布関数の広がり具合を決める要素の一例である。
【0043】
【数1】
x:電子エネルギー分布関数(EEDF)の形を決めるパラメータ(x=1のとき、maxwell分布、x=2のとき、Druyvesteyn分布となる。)
eff:実効電子温度
ε:electron energy
Γ:ガンマ関数(階乗の概念を複素数及び実数全体に拡張した特殊関数)
【0044】
また、評価関数設定受付部202は、プラズマ処理中に計測されたプラズマの電子エネルギー分布関数と、目標とするプラズマの電子エネルギー分布関数と、の類似又は乖離を定量化する評価関数の設定を作業者等から受け付ける。
【0045】
例えばプラズマ処理中に計測されたプラズマの電子エネルギー分布関数と、目標とするプラズマの電子エネルギー分布関数と、の乖離を定量化する評価関数は以下の式(2)により定義することができる。式(2)において、expは計測結果を表す。idealは理想形を表す。
【0046】
【数2】
【0047】
式(2)は、例えばx及びTeffの計測結果と理想形との差によって定義されるベクトルhにより、プラズマ処理中に計測されたプラズマの電子エネルギー分布関数と、目標とするプラズマの電子エネルギー分布関数と、の乖離を定量化する評価関数の例である。例えばプラズマは、高エネルギー電子が過剰なのか、低エネルギー電子が過剰なのか、により質的に大きく異なると考えられるため、残差の2乗和の評価関数よりも式(2)の評価関数の方が望ましいと考えら得る。
【0048】
また、制御則設定受付部204はプラズマ処理に関するパラメータと、評価関数の結果との対応を表す初期の学習モデルの設定を作業者等から受け付ける。例えば制御則設定受付部204はM個のプロセスパラメータ{θ1、θ2、…、θM}によってベクトルhを表した初期の学習モデルhi=Φi(θ1、θ2、…、θM)の設定を受け付ける。
【0049】
プロセスパラメータは、プラズマ処理に関するパラメータの一例であって、例えば投入電力、投入電力の周波数、投入電力パルスのデューティ比、ガス混合比、圧力、温度、累積プロセス回数、直近のプロセスレシピ、直近に計測した電子エネルギー分布関数など、である。学習モデルの形や学習モデル内の各係数が制御則を規定する。
【0050】
プロセスパラメータが2個(M=2)の場合、制御則設定受付部204は例えば以下の式(3)のような学習モデルの設定を受け付けることができる。
【0051】
【数3】
【0052】
制御則設定受付部204が設定を受け付ける学習モデルは、実験、計算、文献調査などから決定できる。なお、制御則設定受付部204が設定を受け付ける学習モデルは、初期の学習モデルであり、後述するように、プラズマ処理を繰り返すことで学習し、精度が出るように更新される。また、制御則設定受付部204は制御則を規定する学習モデル内の各係数の値の確率分布(事前分布)を、後述のように範囲推定値により表現する。範囲推定値は例えば点推定値を中心とした正規分布などで表される。制御則を規定する学習モデル内の各係数の値の確率分布は、例えば式(4)に示すようなベクトルaがある空間上に確率p(a)の濃淡を描くように表現できる。
【0053】
【数4】
【0054】
プラズマ処理制御部206は、プロセスパラメータに従ったプラズマ処理が実行されるようにプラズマ処理装置100を制御する。電子エネルギー分布関数測定部208は、プラズマ処理中の処理容器1内のプラズマの電子エネルギー分布関数を計測する。電子エネルギー分布関数測定部208は、プラズマプロセスに適用できる既存の絶縁プローブ法によってプラズマの電子エネルギー分布関数を計測できる。
【0055】
例えば電子エネルギー分布関数測定部208は電気的なプローブ計測で得られるプラズマ生成空間Uの周波数特性から、処理容器1内のプラズマの電子エネルギー分布関数を導出できる。
【0056】
また、パラメータ変更部210は電子エネルギー分布関数測定部208の計測結果であるプラズマの電子エネルギー分布関数を、評価関数設定受付部202に設定された評価関数に従って評価する。例えばパラメータ変更部210は、計測結果であるプラズマの電子エネルギー分布関数と、評価関数設定受付部202に設定された目標とするプラズマの電子エネルギー分布関数と、の乖離を定量化する。
【0057】
パラメータ変更部210は、プロセスパラメータと評価関数の結果との対応を表す学習モデルに従い、計測結果であるプラズマの電子エネルギー分布関数が目標とするプラズマの電子エネルギー分布関数に近付くように、プロセスパラメータを変更する。なお、プロセスパラメータには、変更(制御)できるパラメータと変更できないパラメータとが含まれていてもよい。投入電力、投入電力の周波数、投入電力パルスのデューティ比、ガス混合比、圧力、及び温度は変更できるパラメータの一例である。累積プロセス回数、直近のプロセスレシピ、及び直近に計測した電子エネルギー分布関数は変更できないパラメータの一例である。
【0058】
制御則更新部212は、パラメータ変更部210により変更されたプロセスパラメータによるプラズマ処理中のプラズマの電子エネルギー分布関数の評価の結果に基づき、学習モデルを更新する。制御則更新部212はプロセスパラメータの変更によるプラズマの電子エネルギー分布関数の応答を新たな情報源として、学習モデル内の各係数を更新する。
【0059】
制御則更新部212は、パラメータ変更部210により変更されたプロセスパラメータによるプラズマ処理中のプラズマの電子エネルギー分布関数の評価の結果が期待通りでなければ、学習モデルの精度が悪い(制御則が誤っている)と判定する。また、制御則更新部212は、パラメータ変更部210により変更されたプロセスパラメータによるプラズマ処理中のプラズマの電子エネルギー分布関数の評価の結果が期待通りであれば、学習モデルの精度が良い(制御則が正しい)と判定する。学習モデルの精度が悪いと判定した制御則更新部212はプロセスパラメータの変更によるプラズマの電子エネルギー分布関数の応答を新たな情報源として、学習モデル内の各係数を更新する。また、制御則更新部212は制御則を規定する学習モデル内の各係数の値の確率分布を更新する。
【0060】
制御装置3は、プラズマ処理中、目標とするプラズマの電子エネルギー分布関数に近付くように、パラメータ変更部210によるプロセスパラメータの変更と、制御則更新部212による学習モデルの更新とを繰り返す。これにより、制御装置3はプラズマの電子エネルギー分布関数の制御の正確性が向上するため、プラズマの電子エネルギー分布関数を理想形に近付けることができる。
【0061】
目標記憶部220は、目標設定受付部200が設定を受け付けた目標とするプラズマの電子エネルギー分布関数を記憶する。評価関数記憶部222は、評価関数設定受付部202が設定を受け付けた評価関数を記憶する。制御則記憶部224は、制御則設定受付部204が設定を受け付けた初期の学習モデル、及び制御則更新部212により更新された学習モデルを記憶する。プロセスレシピ記憶部226は、プロセスシーケンス及びプロセスレシピを記憶する。
【0062】
[処理]
図4は本実施形態に掛かるプラズマ処理装置の処理手順の一例を示したフローチャートである。図4のフローチャートはプラズマ処理装置100の処理のうち、制御装置3が実効するプラズマの電子エネルギー分布関数を制御する処理を表している。
【0063】
ステップS10において、制御装置3の目標設定受付部200は、作業者等から例えば前述した式(1)により定義した、目標とするプラズマの電子エネルギー分布関数の設定を受け付ける。目標設定受付部200は、図5に示すような目標とするプラズマの電子エネルギー分布関数の設定を受け付けてもよい。
【0064】
図5はプラズマの理想的な電子エネルギー分布関数の一例の説明図である。図5のプラズマの理想形の電子エネルギー分布関数は、材料ガスを分解できるエネルギーを持つ電子が多く、材料ガスを分解できるエネルギーよりも低エネルギーを持つ電子及び材料ガスを分解できるエネルギーよりも高エネルギーを持つ電子が無い、例である。
【0065】
ステップS12において、評価関数設定受付部202は、例えば図6A図6Dに示すように定義される評価関数の設定を、作業者等から受け付ける。図6A図6Dは、評価関数の一例の説明図である。図6A図6Dの評価関数は、プラズマ処理中に計測されたプラズマの電子エネルギー分布関数(計測結果の電子エネルギー分布関数)が、目標とするプラズマの電子エネルギー分布関数(理想形の電子エネルギー分布関数)と、どの程度、類似又は乖離しているかを定量化する。
【0066】
図6Aは、計測結果の電子エネルギー分布関数及び理想形の電子エネルギー分布関数の一例である。図6Bは、図6Aの計測結果の電子エネルギー分布関数及び理想形の電子エネルギー分布関数の差分を表している。図6Cは、図6Bの差分を離散化した例である。離散化の細かさは、適宜調整すればよく、また、必ずしも等間隔である必要もない。図6Dは、図6Cの離散化した差分のベクトルhを視覚的に表した例である。なお、離散化した差分のベクトルhは優先したい部分を重みなどで表現できるようにしてもよい。例えば図6Dは高エネルギーを持つ電子を厳しく評価するために、高エネルギーを持つ電子に対応する部分が定数倍されている。
【0067】
ステップS14において、制御則設定受付部204はプロセスパラメータと、評価関数の結果との対応を表す初期の学習モデルの設定を作業者等から受け付ける。例えば制御則設定受付部204は、M個のプロセスパラメータ{θ1、θ2、…、θM}によって例えば式(5)に示すベクトルhを表す初期の学習モデルhi=Φi(θ1、θ2、…、θM)の設定を受け付ける。
【0068】
【数5】
【0069】
また、制御則設定受付部204は制御則を規定する学習モデル内の各係数の値の確率分布(事前分布)を、例えば図7に示すように範囲推定値により表現する。図7は学習モデル内の各係数の値の確率分布(事前分布)の一例を示す図である。図7は式(3)に示した学習モデルの係数a1~aの事前分布の例を示している。制御則を規定する学習モデル内の各係数の値の確率分布は、係数の数がnであれば、例えば図7に示すように、ベクトルaがあるn次元の空間上に確率p(a)の濃淡を描くように表現できる。
【0070】
ステップS16において、プラズマ処理制御部206は、プロセスパラメータに従ったプラズマ処理が実行されるようにプラズマ処理装置100を制御する。電子エネルギー分布関数測定部208は、プラズマ処理中の処理容器1内のプラズマの電子エネルギー分布関数を所定時間(例えば1秒)ごとに計測する。
【0071】
図8はプラズマ処理中の処理容器内のプラズマの電子エネルギー分布関数を計測する処理の一例の説明図である。図8のシースの整流特性のグラフは、プローブ電圧とプローブ電流との関係のグラフである。縦軸は、プローブに流れる電子電流とイオン電流との合計を表している。プローブに印可される正負の電圧により、プローブはプラズマ中の電子やイオンがプローブに引き込まれたものを電流値として測定する。
【0072】
電子エネルギー分布関数測定部208は、プローブが測定したプローブ電流をFFT解析することで得られる周波数特性から処理容器1内のプラズマの電子エネルギー分布関数を導出できる。
【0073】
ステップS18において、プラズマ処理中の処理容器1内のプラズマの電子エネルギー分布関数の計測結果を取得すると、制御装置3はステップS20の処理を行う。また、ステップS18においてプラズマ処理中の処理容器1内のプラズマの電子エネルギー分布関数の計測結果を取得していなければ、制御装置3はステップS20~S24の処理をスキップし、ステップS26の処理を行う。
【0074】
ステップS20において、パラメータ変更部210は取得した測定結果であるプラズマの電子エネルギー分布関数を、評価関数設定受付部202に設定された評価関数に従って評価する。パラメータ変更部210は、プロセスパラメータと評価関数の結果との対応を表す学習モデルに従い、例えば図9に示すように、最小値のベクトルh’となるプロセスパラメータθ’を求める。図9は、プロセスパラメータを変更する処理の一例の説明図である。パラメータ変更部210は、プロセスパラメータをθからθ’に変更する。プラズマ処理制御部206は、変更したプロセスパラメータθ’に従ったプラズマ処理が実行されるようにプラズマ処理装置100を制御する。
【0075】
例えば学習モデルの精度が高ければ、パラメータ変更部210により変更されたプロセスパラメータθ’によるプラズマ処理中のプラズマの電子エネルギー分布関数の評価の結果は図10A及び図10Bに示すように期待通りとなる。図10A及び図10Bは、プロセスパラメータの変更により変化するプラズマ処理中のプラズマの電子エネルギー分布関数の評価の結果の一例の説明図である。
【0076】
一方、学習モデルの精度が低ければ、パラメータ変更部210により変更されたプロセスパラメータθ’によるプラズマ処理中のプラズマの電子エネルギー分布関数の評価の結果は図11に示すように期待通りとならない。図11は、プロセスパラメータの変更により変化するプラズマ処理中のプラズマの電子エネルギー分布関数の評価の結果の一例の説明図である。図11では、変更されたプロセスパラメータθ’によるプラズマ処理中のプラズマの電子エネルギー分布関数の評価の結果が期待通りでなく、ベクトルh’の方向及びノルムが期待通りになっていない。
【0077】
そこで、制御装置3は、変更したプロセスパラメータθ’によるプラズマ処理中のプラズマの電子エネルギー分布関数の評価の結果に基づき、ステップS22~S24において制御則の更新を行う。
【0078】
ステップS22において、制御則更新部212は、パラメータ変更部210により変更されたプロセスパラメータθ’によるプラズマ処理中のプラズマの電子エネルギー分布関数の評価の結果に基づき、学習モデルの更新が必要か否かを判定する。例えば学習モデルの精度が低ければ、制御則更新部212は学習モデルの更新が必要と判定する。
【0079】
学習モデルの更新が必要と判定すると、制御則更新部212はステップS24の処理を行う。学習モデルの更新が必要と判定しなければ、制御則更新部212はステップS24の処理をスキップする。
【0080】
ステップS24において、制御則更新部212は変更したプロセスパラメータθ’によるプラズマ処理中のプラズマの電子エネルギー分布関数の評価の結果に基づき、例えば図12に示すように、学習モデル内の各係数を更新する。図12は制御則の更新の一例の説明図である。
【0081】
例えばプロセスパラメータθ’を指定したとしても、図12のベクトルh’を実現させる可能姓のある学習モデル内の各係数の組み合わせ(ベクトルa)は図12に示したように複数存在する。例えばhi=ai,1+ai,2θのとき、(θ’,h’i)=(1,1)が実現する組み合わせは、ai,1+ai,2=1を満たす全ての(ai,1,ai,2)である。
【0082】
そこで、制御則更新部212は最も確からしいベクトルaに更新するため、制御則を規定する学習モデル内の各係数の値の確率分布(事前分布)を、以下の式(6)に示すように、ベイズの定理に従って更新する。
【0083】
【数6】
【0084】
図13は制御則を規定する学習モデル内の各係数の値の確率分布(事前分布)の更新の一例の説明図である。ベイズの定理とは「ある事象Aが起こったという条件のもとでの事象Bの確率P(B|A)」を使って「ある事象Bが起こったという条件のもとでの事象Aの確率P(A|B)」を求めるものである。
【0085】
図13では、学習モデル内の各係数の値の確率分布(事前分布)という事象aの条件のもとでの事象θ’∩h’の確率p(θ’∩h’|a)を使い、事象θ’∩h’が起こったという条件のもとでの学習モデル内の各係数の値の確率分布(事後分布)を求めている。
【0086】
このように、制御則更新部212は事象θ’∩h’に基づき、制御則を規定する学習モデル内の各係数の値の確率分布(事前分布)を事後分布に描き直す。制御則を規定する学習モデル内の各係数の値は、例えば事後分布から最も確からしい値を選択すればよい。
【0087】
ステップS24の処理によれば、制御則更新部212は例えば図14Bに示すような期待通りでない評価の結果であったとしても、期待通りでなかった事象からベイズの定理により学習モデル内の各係数の値の確率分布を図14Cのように更新できる。図14A図14Cは制御則を規定する学習モデル内の各係数の値の確率分布(事前分布)の更新の一例の説明図である。
【0088】
図4のステップS18~S24の処理は、プロセス終了まで繰り返される。図4に示したフローチャートの処理によれば、制御装置3は図15A図15Dを繰り返すことで、学習モデルの正確性を向上できる。図15A図15Dは制御則の学習を繰り返してプラズマの電子エネルギー分布関数の制御を繰り返す処理の一例の説明図である。
【0089】
図15Aは、プラズマ処理中のプラズマの電子エネルギー分布関数の計測を表している。図15Bは変更したプロセスパラメータθ’に従ったプラズマ処理の制御を表している。図15Cは変更したプロセスパラメータθ’によるプラズマ処理中のプラズマの電子エネルギー分布関数の評価を表している。図15Dは評価の結果に基づいてベイズの定理により学習モデル内の各係数の値を学習する処理を表している。
【0090】
以上、本実施形態によれば、前述した理想形の電子エネルギー分布関数、評価関数、及び学習モデルを定義し、プラズマプロセス中のプラズマの電子エネルギー分布関数を例えばリアルタイムに計測しながら、計測したプラズマの電子エネルギー分布関数を評価関数により評価できる。制御装置3は学習モデルに従い、理想形の電子エネルギー分布関数に近付くようにプロセスパラメータを更新できる。制御装置3はベイズの定理に従い、学習モデルの正確性を向上するように、学習モデル内の各係数を更新できる。
【0091】
ベイズの定理を用いるため、本実施形態は際限なく計算量が増えることがないという効果を有する。また、本実施形態では、日々のプラズマ処理を通して継続的に制御則の学習ができるため、学習のみを目的としたプラズマ処理を試験的に行う必要がないという効果を有する。
【0092】
本実施形態によれば、プラズマ処理中のプラズマの電子エネルギー分布関数をリアルタイムで計測しつつ、プロセスパラメータを変更し、プラズマの電子エネルギー分布関数を制御できる。また、プロセスパラメータの変更に対して、プラズマの電子エネルギー分布関数の応答特性が明らかでなくても、本実施形態ではプラズマの電子エネルギー分布関数の評価の結果に基づき、学習によりプロセスパラメータの変更に対するプラズマの電子エネルギー分布関数の応答特性を学習し、制御則を最適化できる。このため、本実施形態では制御則設定受付部204が作業者等から受け付ける初期の学習モデルに高い精度を求めなくてもよい。
【0093】
プラズマの着火時には、処理容器1内で発生する何等かの現象の影響で、圧力計160で測定される圧力値が実際の圧力値と異なることがある。そこで、本実施形態ではプラズマ着火時、プロセスパラメータに含まれる圧力計160で測定された圧力値に替えて、圧力制御バルブ151の開度を使用してもよい。これにより、より安定した電子エネルギー分布関数の取得が可能となり、結果として、より好ましいプラズマ処理を実現することが可能となる。
【0094】
電子エネルギー分布関数を用いた本発明のプラズマ処理では、従来行っていたプロセス結果の測定(膜厚、膜質、形状、等のプラズマ処理装置以外の他の測定装置を用いた測定結果)を待つことなく、理想とするプロセス結果を、理想とする電子エネルギー分布関数に置き換えることで、リアルタイムで理想とするプラズマ処理を実現できる。また、他の測定装置を用いる場合に必要となる時間やプロセスの条件出しに必要となる資源(ウエハ、ガス、電力、等)を削減できるため、極めて有用な技術である。
【0095】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0096】
例えば本実施形態では1台のプラズマ処理装置100に1つの制御装置3が対応している例を示したが、複数台のプラズマ処理装置100に1つの制御装置3が対応していてもよい。また、本実施形態は、制御装置3による学習の結果をデータとして集約する情報処理システムへの適用も可能である。このような情報処理システムでは、集約したデータから例えばプラズマ処理装置100の機種又は処理内容等に応じた制御則を作成し、それぞれの機種又は処理内容等に応じた制御則を配信できる。なお、電子エネルギー分布関数と対応関係にある電子エネルギー確率関数(EEPF)を電子エネルギー分布関数の代わりに用いることも可能である。よって、電子エネルギー分布関数を電子エネルギー確率関数に読み替えた技術内容も本権利に含まれるべきである。
【0097】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で様々な変形が可能である。本願は、日本特許庁に2021年9月17日に出願された基礎出願2021―152599号の優先権を主張するものであり、その全内容を参照によりここに援用する。
【0098】
本発明の態様は、例えば、以下の通りである。
<1>
制御装置を有し、処理容器内に供給されたガスをプラズマ化し、被処理体へのプラズマ処理を行うプラズマ処理装置であって、
前記制御装置は、
前記処理容器内のプラズマの電子エネルギー分布関数を計測する測定部と、
プラズマ処理中に前記測定部で計測される前記電子エネルギー分布関数が目標とする前記電子エネルギー分布関数に近付くように、前記プラズマ処理に関するパラメータを変更するパラメータ変更部と、
を有するプラズマ処理装置。
<2>
目標とする前記電子エネルギー分布関数として、前記プラズマ処理中の理想的な前記電子エネルギー分布関数の設定を受け付ける目標設定受付部、
を更に有する前記<1>記載のプラズマ処理装置。
<3>
前記プラズマ処理中に計測された前記電子エネルギー分布関数と、前記プラズマ処理中の理想的な前記電子エネルギー分布関数と、の乖離を定量化する評価関数の設定を受け付ける評価関数設定受付部、
を更に有する前記<2>記載のプラズマ処理装置。
<4>
前記プラズマ処理に関するパラメータと前記乖離との対応を表す学習モデルの設定を受け付ける制御則設定受付部、
を更に有する前記<3>記載のプラズマ処理装置。
<5>
前記パラメータ変更部は、前記学習モデルに従って、前記乖離が小さくなるように前記プラズマ処理に関するパラメータを変更すること
を特徴とする前記<4>記載のプラズマ処理装置。
<6>
変更された前記パラメータによる前記プラズマ処理中の前記電子エネルギー分布関数の前記評価関数による評価の結果に基づき、前記学習モデルを更新する制御則更新部、
を更に有する前記<4>又は<5>記載のプラズマ処理装置。
<7>
前記制御則更新部は、前記学習モデルの係数の値の確率分布を、前記評価関数による評価の結果に基づき、ベイズの定理に従って更新すること
を特徴とする前記<6>記載のプラズマ処理装置。
<8>
前記プラズマ処理に関するパラメータは、投入電力、投入電力の周波数、投入電力パルスのデューティ比、ガス混合比、圧力、温度、累積プロセス回数、直近のプロセスレシピ、直近に計測した前記電子エネルギー分布関数の少なくとも一つであること
を特徴とする前記<1>乃至<7>の何れか一項に記載のプラズマ処理装置。
<9>
前記プラズマの着火時、前記プラズマ処理に関するパラメータに含まれる圧力は、圧力計により測定される圧力値に替えて、圧力制御バルブの開度を使用すること
を特徴とする前記<8>記載のプラズマ処理装置。
<10>
前記電子エネルギー分布関数に替えて、前記電子エネルギー分布関数と対応関係にある電子エネルギー確率関数を用いること
を特徴とする前記<1>乃至<9>の何れか一項に記載のプラズマ処理装置。
<11>
制御装置を有し、処理容器内に供給されたガスをプラズマ化し、被処理体へのプラズマ処理を行うプラズマ処理装置の制御方法であって、
前記制御装置が、
前記処理容器内のプラズマの電子エネルギー分布関数を計測するステップと、
プラズマ処理中に計測された前記電子エネルギー分布関数が目標とする前記電子エネルギー分布関数に近付くように、前記プラズマ処理に関するパラメータを変更するステップと、
を有する制御方法。
<12>
処理容器内に供給されたガスをプラズマ化し、被処理体へのプラズマ処理を行うプラズマ処理装置を制御する制御装置に、
前記処理容器内のプラズマの電子エネルギー分布関数を計測する手順、
プラズマ処理中に計測された前記電子エネルギー分布関数が目標とする前記電子エネルギー分布関数に近付くように、前記プラズマ処理に関するパラメータを変更する手順、
を実行させるためのプログラム。
【符号の説明】
【0099】
1 処理容器
2 マイクロ波プラズマ源
3 制御装置
70 プラズマプローブ装置
100 プラズマ処理装置
200 目標設定受付部
202 評価関数設定受付部
204 制御則設定受付部
206 プラズマ処理制御部
208 電子エネルギー分布関数測定部
210 パラメータ変更部
212 制御則更新部
220 目標記憶部
222 評価関数記憶部
224 制御則記憶部
226 プロセスレシピ記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図15A
図15B
図15C
図15D