(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】焼き菓子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 2/36 20060101AFI20241029BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20241029BHJP
【FI】
A21D2/36
A21D13/80
(21)【出願番号】P 2020137345
(22)【出願日】2020-08-17
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 高司
(72)【発明者】
【氏名】志賀 誠二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 重徳
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-117237(JP,A)
【文献】特開平09-220049(JP,A)
【文献】特開2002-345421(JP,A)
【文献】特開2015-231339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
A23L 7/00-7/25
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全原料穀粉中に、乾熱処理したデュラム小麦粉砕物および乾熱処理したコーングリッツからなる群より選択される1種以上を
30~70質量%含有する、焼き菓子。
【請求項2】
前記デュラム小麦粉砕物がデュラムセモリナを含む、請求項1記載の焼き菓子。
【請求項3】
前記原料穀粉がさらに小麦粉
30~70質量%を含む、請求項1又は2記載の焼き菓子。
【請求項4】
前記小麦粉が薄力粉である、請求項3記載の焼き菓子。
【請求項5】
前記焼き菓子がクッキーまたはビスケットである、請求項1~4のいずれか1項記載の焼き菓子。
【請求項6】
乾熱処理したデュラム小麦粉砕物および乾熱処理したコーングリッツからなる群より選択される1種以上を
30~70質量%含有する原料穀粉を用いることを特徴とする、焼き菓子の製造方法。
【請求項7】
前記デュラム小麦粉砕物がデュラムセモリナを含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記原料穀粉がさらに小麦粉
30~70質量%を含む、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
前記小麦粉が薄力粉である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記焼き菓子がクッキーまたはビスケットである、請求項6~9のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き菓子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クッキー、ビスケット、クラッカーなどの焼き菓子は、サクサクとした軽い食感を有する、口溶けが良いものが好まれる。特許文献1には、粒径350μm以上のデュラムセモリナを特定量含有する菓子用穀類粉砕物により、歯ごたえが良く風味にも優れた菓子を製造できることが記載されている。特許文献2には、セモリナより小粒径のデュラム小麦粉と、薄力粉とをそれぞれ特定量で含む原料穀粉から製造されたベーカリー用上掛け生地が、良好な食感を維持できることが記載されている。特許文献3には、ロースト小麦粉を使用してグルテンバイタリティを75~90%に調整した原料小麦粉を用いることにより、フラワーバッター法での機械適性とサクサクした食感を両立するビスケット類を製造できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-187216号公報
【文献】特開2015-084692号公報
【文献】特開2017-169467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
軽い食感で、口溶けが良く、かつ時間が経っても良好な食感と口溶けを維持することができるクッキー、ビスケットなどの焼き菓子が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、乾熱処理したデュラム小麦粉砕物および乾熱処理したコーングリッツからなる群より選択される1種以上を特定量で含む生地を用いて製造した焼き菓子が、軽い食感で、口溶けが良く、かつ焼成後時間が経ってもそれらの性質を維持できることを見出した。
【0006】
したがって、本発明は、全原料穀粉中に、乾熱処理したデュラム小麦粉砕物および乾熱処理したコーングリッツからなる群より選択される1種以上を10~90質量%含有する、焼き菓子を提供する。
また本発明は、乾熱処理したデュラム小麦粉砕物および乾熱処理したコーングリッツからなる群より選択される1種以上を10~90質量%含有する原料穀粉を用いることを特徴とする、焼き菓子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の焼き菓子は、軽い食感で、口溶けが良く、かつ焼成後時間が経っても軽い食感と口溶けを維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明により提供される焼き菓子としては、サクサクとした軽い食感が好まれるもの、例えば、クッキー、ビスケット、クラッカー、スコーンなどが挙げられる。
【0009】
本発明の焼き菓子の主原料である原料穀粉は、乾熱処理したデュラム小麦粉砕物および乾熱処理したコーングリッツからなる群より選択される1種以上を含有する。
【0010】
当該乾熱処理したデュラム小麦粉砕物の原料として用いられるデュラム小麦粉砕物は、デュラム小麦粒を一般的な製粉工程に従って粉砕したものであればよい。一般的に、デュラム小麦粒は、粉砕、篩い分け、および純化(それぞれブレーキング工程、グレーディング工程、およびピュリフィケーション工程という)によりセモリナへと調製され、さらにセモリナから、複数の滑面ロールによる粉砕工程(リダクション工程)、篩い分けを経て、より細かい粉となる。焼き菓子の食感と口溶けの向上の観点からは、該デュラム小麦粉砕物は、好ましくはデュラムセモリナを含み、より好ましくはデュラムセモリナである。該デュラムセモリナは、平均粒径が、好ましくは180μm~700μm、より好ましくは200μm~600μm、さらに好ましくは200μm~500μmである。好ましくは、該デュラム小麦粉砕物は、粒径200μm以上のデュラムセモリナを、体積基準で、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上含む。
【0011】
当該乾熱処理したコーングリッツの原料として用いられるコーングリッツは、とうもろこしの胚乳部を挽き割りして得られる粗粉砕物である。該コーングリッツの原料として用いられるとうもろこしの種類は、特に限定されないが、例えばデントコーン、フリントコーン、スイートコーン、ソフトコーン、ポップコーン、ワキシーコーン、ポッドコーンなどが挙げられる。焼き菓子の食感と口溶けの向上の観点からは、該コーングリッツは、平均粒径が、好ましくは180μm~700μm、より好ましくは200μm~600μm、さらに好ましくは200μm~500μmである。好ましくは、該コーングリッツは、粒径200μm以上のコーングリッツを、体積基準で、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上含む。
【0012】
本明細書におけるデュラム小麦粉砕物およびコーングリッツの粒径は、マイクロトラック粒度分析計を用いて測定された値である。測定された粒径分布から、平均粒径および粒径の検出頻度を算出することができる。粒径測定、および平均粒径と粒径検出頻度の算出は、市販の分析計(例えば、日機装株式会社製「マイクロトラック粒径分布測定装置9200FRA」)を用いて、機器のマニュアルに従って行うことができる。
【0013】
本発明で用いられる乾熱処理したデュラム小麦粉砕物およびコーングリッツは、上述のデュラム小麦粉砕物およびコーングリッツを乾熱処理して得られるものである。該乾熱処理により、焼き菓子の食感と口溶けが向上する。該乾熱処理としては、例えば、オーブン加熱(ロースト)、焙焼窯での加熱(焙焼等)、乾燥器を用いる加熱、熱風乾燥、高温低湿度環境での放置、などが挙げられ、このうちローストまたは焙焼が好ましい。好ましい乾熱処理の手法としては、例えば、バンドオーブンにて庫内温度を180℃から300℃まで段階的に上昇させながら20~30分間デュラム小麦粉砕物またはコーングリッツを加熱する方法、パドルドライヤー等の加熱装置付きミキサーにて温度180~300℃で20~30分間デュラム小麦粉砕物またはコーングリッツを焙焼する方法、などが挙げられる。好ましくは、該乾熱処理したデュラム小麦粉砕物およびコーングリッツは、水分含量が10質量%以下である。
【0014】
本発明の焼き菓子の原料穀粉は、その全量中に、該乾熱処理したデュラム小麦粉砕物および該乾熱処理したコーングリッツからなる群より選択される1種以上を、合計で好ましくは10~90質量%、より好ましくは30~70質量%含有する。該原料穀粉中における該乾熱処理したデュラム小麦粉砕物および乾熱処理したコーングリッツの合計含有量が多過ぎても少な過ぎても、焼き菓子の食感と口溶けが充分に向上しなくなる。また、該原料穀粉中における該乾熱処理したデュラム小麦粉砕物および乾熱処理したコーングリッツの合計含有量が少ないと、焼き菓子の食感と口溶けが時間とともに低下しやすくなる。
【0015】
当該原料穀粉は、該乾熱処理したデュラム小麦粉砕物および該乾熱処理したコーングリッツ以外の他の穀粉を含んでいてもよい。当該他の穀粉としては、小麦粉(強力粉、準強力粉、中力粉、全粒粉、乾熱処理していないデュラム小麦粉砕物等)、ライ麦粉、米粉、トウモロコシ粉(コーンフラワー、コーンミール、乾熱処理していないコーングリッツ等)などのベーカリー製品の原料粉として一般的に使用される穀粉、およびそれらの混合物が挙げられ、特に限定されない。好ましくは、当該他の穀粉は小麦粉であり、より好ましくは薄力粉である。該小麦粉および薄力粉は、熱処理粉であってもよいが、その必要はない。また当該原料穀粉中における該他の穀粉の含有量は、好ましくは10~90質量%、より好ましくは30~70質量%である。
【0016】
本発明の焼き菓子は、上述した特定の配合の原料穀粉を使用する限り、従来公知の製法により製造することができる。本発明の焼き菓子は、上記原料穀粉に加えて、必要に応じて糖類、澱粉、油脂、卵、水や乳、膨張剤、イースト、着色料、香料などのその他の材料を含有してもよい。糖類としては、上白糖、グラニュー糖、粉糖、ブドウ糖、果糖、蔗糖、麦芽糖などが挙げられ、これらを単独または組み合わせて使用することができる。澱粉としては、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉等、およびそれらの加工澱粉が挙げられ、これらを単独または組み合わせて用いることができる。油脂としては、バター、マーガリン、ショートニング、ラードなどが挙げられ、これらを単独または組み合わせて使用することができる。卵としては、全卵、液卵、卵黄、卵白などが挙げられ、これらを単独または組み合わせて使用することができる。乳としては、牛乳、豆乳、粉乳などが挙げられ、これらを単独または組み合わせて使用することができる。
【0017】
焼き菓子における原料穀粉およびその他の材料の含有量は、製造する焼き菓子の種類や所望される食感などに応じて適宜調整することができる。例えば、焼き菓子がクッキーまたはビスケットの場合、焼成前の生地の全量中における原料穀粉の含有量は、好ましくは8~80質量%、より好ましくは20~60質量%である。
【0018】
上記の原料穀粉およびその他の材料を常法に従って混合することで、焼き菓子の生地を調製することができる。該焼き菓子の生地には、ドライフルーツ、チョコチップなどのフィリングが含まれていてもよい。あるいは、該焼き菓子の生地の表面に、焼成前に、グラニュー糖、チョコチップ、ドライフルーツ、ナッツなどをトッピングしたり、焼成後に、粉糖、チョコレート、フォンダンなどのアイシングを加えたりすることもできる。
【0019】
焼き菓子の代表的な製法としては、油脂と糖類を均一に混合した後、卵、原料穀粉を順に混合して生地を調製する方法(シュガーバッター法)、または、原料穀粉と油脂を充分に攪拌し、その後、糖類、卵を加えて混合して生地を調製する方法(フラワーバッター法)などが挙げられる。ただし本発明の焼き菓子の製法は、これらに限定されない。好ましくは、本発明の焼き菓子の生地は、シュガーバッター法で製造される。好ましくは、本発明の焼き菓子の生地は、イースト発酵を経ずに製造される。次いで、得られた該生地をオーブンなどで焼成すれば、本発明の焼き菓子を製造することができる。焼成の温度や時間は、焼き菓子の種類などに応じて適宜設定することができる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0021】
(原料)
薄力粉(平均粒径55μm)
デュラムセモリナ(平均粒径250μm、目開き700μmのメッシュを有する篩を通過する、かつ粒径200μm以上の画分を体積基準で50%以上含有する)
デュラム小麦粉(平均粒径80μm、目開き200μmのメッシュを有する篩を通過する)
コーングリッツ(平均粒径250μm、目開き700μmのメッシュを有する篩を通過する、かつ粒径200μm以上の画分を体積基準で50%以上含有する)
【0022】
(乾熱処理粉の調製)
薄力粉、デュラムセモリナ、デュラム小麦粉、およびコーングリッツを、それぞれトンネル型オーブンで庫内温度180~300℃(段階的に変化)で約23分処理することにより、ロースト薄力粉、ローストデュラムセモリナ、ローストデュラム小麦粉、およびローストコーングリッツ(いずれも水分含量10質量%以下)を得た。
【0023】
(試験例1)
表1に示す材料を用いて、下記手順によりビスケットを製造した。
1) バターを軟らかくしてから、上白糖、食塩を加え、混ぜ合わせた。
2) 1)に全卵を数回に分けて加えて、混ぜ合わせた。
3) ベーキングパウダーを合わせて篩った原料粉を2)に加え、軽く混ぜ合わせた。
4) 生地を5mm厚に圧延し、抜き型(直径5cm円形)で切り抜いた。
5) 切り抜いた生地を180℃(上火180℃軟火、下火170℃軟火+下天板1枚)で15分焼成した。
【0024】
製造したビスケットを、焼成40分後にビニール袋で包装し、保存した(湿度75%)。24時間および7日間保存後のビスケットの食感と口溶けについて、訓練された10人のパネラーにより下記評価基準にて評価し、その平均点を求めた。結果を表1に示す。
〔評価基準〕
(食感)
5点:非常に軽い食感である
4点:軽い食感である
3点:やや軽い食感である
2点:食感の軽さが劣る
1点:食感の軽さが非常に劣る
(口溶け)
5点:口溶けが非常に優れる
4点:口溶けが優れる
3点:口溶けがやや優れる
2点:口溶けがやや劣る
1点:口溶けが劣る
【0025】
【0026】
(試験例2)
原料粉中におけるローストデュラムセモリナの量を表2のとおり変更した以外は、製造例2と同じ手順でビスケットを製造し、評価した。結果を表2に示す。
【0027】