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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】分布型回路
(51)【国際特許分類】
   H03F 3/60 20060101AFI20241029BHJP
   H03D 7/12 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
H03F3/60
H03D7/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021530372
(86)(22)【出願日】2019-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2019026972
(87)【国際公開番号】W WO2021005679
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-11-11
【審判番号】
【審判請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】徐 照男
(72)【発明者】
【氏名】長谷 宗彦
(72)【発明者】
【氏名】野坂 秀之
【合議体】
【審判長】千葉 輝久
【審判官】衣鳩 文彦
【審判官】土居 仁士
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-54765(JP,A)
【文献】特開2007-280322(JP,A)
【文献】特開2002-33627(JP,A)
【文献】特開平6-164249(JP,A)
【文献】特開2009-260419(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0184384(US,A1)
【文献】Jinho Jeong et al.,Monolithic distributed amplifier with active control schemes for optimum gain and group-delay flatness,bandwidth,and stability,IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques,IEEE,2004年4月13日,Volume:52,Issue:4,Page(s):1101~1110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00-3/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端に入力信号が入力されるように構成された第1の伝送線路と、
出力端から出力信号を出力するように構成された第2の伝送線路と、
一端が前記第1の伝送線路の終端に接続され、他端がグラウンドに接続された終端抵抗と、
前記第1、第2の伝送線路に沿って配置され、入力端子が前記第1の伝送線路に接続され、出力端子が前記第2の伝送線路に接続された複数のユニットセルと、
一端が前記第1の伝送線路の終端または終端の近傍に接続され、他端が電源電圧に接続され、前記第1の伝送線路と前記電源電圧との間の電流量を調整可能な第1の可変電流源と
前記入力信号が入力される信号入力端子と前記第1の伝送線路の入力端との間に挿入されたキャパシタとを備えることを特徴とする分布型回路。
【請求項2】
請求項1記載の分布型回路において、
前記第1の可変電流源は、最終段の前記ユニットセルよりも後ろで前記終端抵抗よりも前の位置に前記第1の伝送線路に沿って配置され、一端が前記第1の伝送線路に接続され、他端が前記電源電圧に接続され、前記第1の伝送線路と前記電源電圧との間の電流量を調整可能な複数の可変電流源からなることを特徴とする分布型回路。
【請求項3】
請求項1または2記載の分布型回路において、
前記可変電流源は、ベース端子またはゲート端子に前記電流量の調整のための制御電圧が入力され、コレクタ端子またはドレイン端子が前記第1の伝送線路に接続され、エミッタ端子またはソース端子が前記電源電圧に接続されたトランジスタからなることを特徴とする分布型回路。
【請求項4】
請求項1または2記載の分布型回路において、
前記可変電流源は、ベース端子またはゲート端子に前記電源電圧が入力され、コレクタ端子またはドレイン端子が前記第1の伝送線路に接続され、エミッタ端子またはソース端子に前記電流量の調整のための制御電圧が入力されたトランジスタからなることを特徴とする分布型回路。
【請求項5】
請求項1または2記載の分布型回路において、
前記可変電流源は、前記第1の伝送線路の終端と前記電源電圧との間に設けられた、複数のトランジスタをカスコード接続したカスコード型の可変電流源からなることを特徴とする分布型回路。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の分布型回路において、
前記第1、第2の伝送線路の各々は、特性インピーダンスが同一または異なる複数の伝送線路を直列に接続した構成からなることを特徴とする分布型回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分布型増幅器や分布型ミキサなどの分布型回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分布型ミキサや分布型増幅器などの分布型回路は、広帯域性に優れ、高速光通信や高分解能レーダー等の様々なシステムで使用されている。分布型回路では、トランジスタの寄生容量を入出力の伝送線路に組み込んだ状態でインピーダンスマッチングを取り、さらに入出力間の伝送線路の伝搬定数を合わせることで、広帯域に信号を増幅したり、ミキシングしたりすることが可能である。
【0003】
分布型回路を適切に動作させるためには、使用する各トランジスタに適切な電流(バイポーラトランジスタの場合にはコレクタ電流、電界効果トランジスタの場合にはドレイン電流)を流す必要がある。図12は従来の分布型増幅器の構成を示す回路図である。分布型増幅器は、入力端が信号入力端子1に接続された入力用の伝送線路CPW10と、終端が信号出力端子2に接続された出力用の伝送線路CPW20と、伝送線路CPW10の終端と接地とを接続する入力終端抵抗R1と、伝送線路CPW20の入力端と接地とを接続する出力終端抵抗R2と、伝送線路CPW10,CPW20に沿って配置され、入力端子が伝送線路CPW10に接続され、出力端子が伝送線路CPW20に接続された複数のユニットセル3-1~3-Nと、各ユニットセル3-1~3-N内の入力トランジスタにバイアス電圧を供給するバイアスティー4とから構成される。図12の例では、ユニットセル3(3-1~3-N)をN段設けている。伝送線路CPW10は、複数の伝送線路CPW1a,CPW1,CPW1bを直列に接続した構成からなる。同様に、伝送線路CPW20は、複数の伝送線路CPW2a,CPW2,CPW2bを直列に接続した構成からなる。
【0004】
図13に示すように、各ユニットセル3(3-1~3-N)は、それぞれベース端子が伝送線路CPW10に接続された入力トランジスタQ30と、コレクタ端子が伝送線路CPW20に接続され、エミッタ端子が入力トランジスタQ30のコレクタ端子に接続された出力トランジスタQ31と、一端が入力トランジスタQ30のエミッタ端子に接続され、他端が電源電圧VEEに接続されたエミッタ抵抗REEと、一端が電源電圧VEEに接続され、他端が出力トランジスタQ31のベース端子に接続された抵抗R30と、一端が出力トランジスタQ31のベース端子に接続され、他端が接地された抵抗R31と、一端が出力トランジスタQ31のベース端子に接続され、他端が接地されたキャパシタC30とから構成される。
【0005】
例えば集積回路(IC:Integrated Circuit)で実現する図12のような分布型増幅器の場合、各ユニットセル3のトランジスタQ30,Q31に適切な電流を流すためには、各ユニットセル3の入力トランジスタQ30のベース端子に適切なバイアス電圧を与える必要がある。入力トランジスタQ30のバイアス電圧を与える時に、前段回路の直流電圧が影響しないように、直流電圧をカットするオフチップのバイアスティー4が用いられる(非特許文献1参照)。バイアスティー4は、図12に示すように、信号入力端子1と伝送線路CPW10の入力端との間に挿入されたキャパシタC1と、一端が伝送線路CPW10の入力端に接続され、他端がバイアス電圧vbinに接続されたインダクタL1とから構成される。
【0006】
図14図15は従来の分布型増幅器の別の構成を示す回路図である。図14の構成では、伝送線路CPW10に直流電流が流れないようにするために、図12の構成に加えて、入力終端抵抗R1と接地との間にキャパシタC2を挿入している(非特許文献2参照)。
図15の構成では、伝送線路CPW10の入力端にはオフチップのキャパシタC1からなるDCブロック5のみを設け、各ユニットセル3の入力トランジスタQ30に適切なバイアス電圧を与えるために、伝送線路CPW10の終端に入力終端抵抗R1と配線6とを介してバイアス電圧Vbbを供給するようにしている(非特許文献3参照)。
【0007】
以上のように、バイアス電圧の供給方式として、図12図14図15に示したような方式が提案されている。しかしながら、図12図14図15に示した構成には、それぞれ以下のような課題があった。
【0008】
図12に示した分布型増幅器の構成では、バイアスティー4のインダクタL1から伝送線路CPW10を通って入力終端抵抗R1に直流電流が流れるため、伝送線路CPW10の寄生抵抗で電圧降下が発生する。図12の構成では、例えば各ユニットセル3の入力トランジスタの回路としてエミッタ接地回路を用いる場合、上記の電圧降下によって各ユニットセル3の入力トランジスタのベース端子の電圧が不均一になるため、分布型増幅器の利得が低下するという課題があった。
【0009】
利得が低下する現象は以下のように説明できる。伝送線路CPW10で発生する電圧降下によってバイアスティー4側と入力終端抵抗R1側とで電圧値が異なる。各ユニットセル3においては、入力トランジスタQ30にコレクタ電流が流れるが、バイアスティー4側と入力終端抵抗R1側とで電圧値が異なるために、各ユニットセル3の入力トランジスタQ30のベース電圧Vicが不均一になるため、コレクタ電流の値も不均一になる。インダクタL1から入力終端抵抗R1へ電流が流れる場合、1段目のユニットセル3-1の入力トランジスタQ30に流れるコレクタ電流の方が、N段目のユニットセル3-Nの入力トランジスタQ30に流れるコレクタ電流よりも大きくなる。一方で、トランジスタの最大利得を引き出すための最適なコレクタ電流の値が存在する。しかしながら、上記のとおりコレクタ電流が不均一なために、終端側に近いユニットセル程、最適なコレクタ電流の値から外れるために、図12の構成では利得が低下する。
【0010】
図14に示した分布型増幅器の構成では、伝送線路CPW10に直流電流が流れないようにするために、入力終端抵抗R1と接地との間にキャパシタC2を挿入している。しかしながら、図14の構成では、オンチップでキャパシタC2の大きな容量値を実現できないため、低周波側の反射特性が悪化するという課題があった。このような反射特性の悪化の問題があるため、低い周波数から良好な反射特性を必要とするベースバンド信号の増幅やミキシングに、図14の構成を採用することは望ましくない。
【0011】
また、図12図14に示した分布型増幅器の構成では、バイアスティー4を用いているが、分布型回路の広帯域化のためには、バイアスティー4の自己共振周波数を高周波化する必要がある。しかしながら、バイアスティー4には、大きなインダクタL1が必要なため、自己共振周波数の高周波化が困難であった。
【0012】
図15に示した分布型増幅器の構成では、伝送線路CPW10の入力端にDCブロック5を設け、伝送線路CPW10の終端に入力終端抵抗R1と配線6とを介してバイアス電圧Vbbを供給している。この図15の構成では、伝送線路CPW10に大きな直流電流が流れることはなく、各ユニットセル3に均等にバイアス電圧がかかる。しかしながら、図15の構成では、バイアス電圧Vbbを与える端子と入力終端抵抗R1との間に長い配線6を引き回す必要があるため、高周波側の反射特性が悪化するという課題があった。このような反射特性の悪化の問題があるため、高速なベースバンド信号の増幅やミキシングに、図15の構成を採用することは望ましくない。
以上のように、従来の構成では、利得と反射特性を悪化させることなく、各ユニットセル3の入力トランジスタにバイアス電圧を与えることは困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】Satoshi Masuda,Tsuyoshi Takahashi,and Kazukiyo Joshin,“An over-110-GHz InP HEMT flip-chip distributed baseband amplifier with inverted microstrip line structure for optical transmission system”,IEEE Journal of Solid-State Circuits,Vol.38,No.9,pp.1479-1484,2003
【文献】Kevin W.Kobayashi,Reza Esfandiari,and Aaron K.Oki,“A novel HBT distributed amplifier design topology based on attenuation compensation techniques”,IEEE transactions on microwave theory and techniques,Vol.42,No.12,pp.2583-2589,1994
【文献】Stavros Giannakopoulos,et al.,“Ultra-broadband common collector-cascode 4-cell distributed amplifier in 250nm InP HBT technology with over 200 GHz bandwidth”,2017 12th European Microwave Integrated Circuits Conference(EuMIC).IEEE,2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、各ユニットセルの入力トランジスタに適切なバイアス電圧を与えることができ、利得と反射特性を悪化させることなく分布型回路を動作させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の分布型回路は、入力端に入力信号が入力されるように構成された第1の伝送線路と、出力端から出力信号を出力するように構成された第2の伝送線路と、一端が前記第1の伝送線路の終端に接続され、他端がグラウンドに接続された終端抵抗と、前記第1、第2の伝送線路に沿って配置され、入力端子が前記第1の伝送線路に接続され、出力端子が前記第2の伝送線路に接続された複数のユニットセルと、一端が前記第1の伝送線路の終端または終端の近傍に接続され、他端が電源電圧に接続され、前記第1の伝送線路と前記電源電圧との間の電流量を調整可能な第1の可変電流源と、前記入力信号が入力される信号入力端子と前記第1の伝送線路の入力端との間に挿入されたキャパシタとを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一端が第1の伝送線路の終端または終端の近傍に接続され、他端が電源電圧に接続された第1の可変電流源を設けることにより、各ユニットセルの入力トランジスタに適切なバイアス電圧を与えることができ、利得と反射特性を悪化させることなく分布型回路を動作させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の第1の実施例に係る分布型増幅器の構成を示す回路図である。
図2図2は、従来および本発明の第1の実施例に係る分布型増幅器のSパラメータのシミュレーション結果を示す図である。
図3図3は、本発明の第2の実施例に係る分布型増幅器の構成を示す回路図である。
図4図4は、本発明の第2の実施例に係る分布型増幅器の別の構成を示す回路図である。
図5図5は、本発明の第3の実施例に係る分布型増幅器の構成を示す回路図である。
図6図6は、本発明の第4の実施例に係る分布型増幅器の構成を示す回路図である。
図7図7は、本発明の第5の実施例に係る分布型増幅器の構成を示す回路図である。
図8図8は、本発明の第6の実施例に係る分布型ミキサの構成を示す回路図である。
図9図9は、本発明の第6の実施例に係る分布型ミキサのユニットセルの構成を示す回路図である。
図10図10は、本発明の第6の実施例に係る分布型ミキサの別の構成を示す回路図である。
図11図11は、本発明の第6の実施例に係る分布型ミキサの別の構成を示す回路図である。
図12図12は、従来の分布型増幅器の構成を示す回路図である。
図13図13は、図12の分布型増幅器のユニットセルの構成を示す回路図である。
図14図14は、従来の分布型増幅器の別の構成を示す回路図である。
図15図15は、従来の分布型増幅器の別の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施例に係る分布型増幅器の構成を示す回路図である。本実施例の分布型増幅器は、入力用の伝送線路CPW10と、終端が信号出力端子2に接続された出力用の伝送線路CPW20と、伝送線路CPW10の終端と接地とを接続する入力終端抵抗R1と、伝送線路CPW20の入力端と接地とを接続する出力終端抵抗R2と、伝送線路CPW10,CPW20に沿って配置され、入力端子が伝送線路CPW10に接続され、出力端子が伝送線路CPW20に接続された複数のユニットセル3-1~3-Nと、信号入力端子1と伝送線路CPW10の入力端との間に挿入されたオフチップのキャパシタC1からなるDCブロック5と、一端が伝送線路CPW10の終端に接続され、他端が電源電圧VEEに接続され、伝送線路CPW10と電源電圧VEEとの間の電流量を調整可能な可変電流源ISとから構成される。
【0019】
図1の例では、ユニットセル3(3-1~3-N)をN段設けている(Nは2以上の整数)。図1のVinは分布型増幅器の入力信号、Voutは分布型増幅器の出力信号、Vicはユニットセル3の入力信号(入力トランジスタのベース電圧)、Vioはユニットセル3の出力信号である。各ユニットセル3の構成は図13に示したとおりである。
【0020】
伝送線路CPW10は、複数の伝送線路CPW1a,CPW1,CPW1bを直列に接続した構成からなる。ユニットセル間の伝送線路CPW1と入力側の伝送線路CPW1aとは、特性インピーダンスが異なる。その理由は、伝送線路CPW1aの場合、入力側のDCブロック5等の寄生容量の影響を伝送線路CPW1aで吸収する必要があるからである。同様に、伝送線路CPW1とCPW1bとは、特性インピーダンスが異なる。その理由は、伝送線路CPW1bの場合、入力終端抵抗R1および可変電流源ISの寄生容量の影響を伝送線路CPW1bで吸収する必要があるからである。
【0021】
伝送線路CPW20は、複数の伝送線路CPW2a,CPW2,CPW2bを直列に接続した構成からなる。ユニットセル間の伝送線路CPW2と入力側の伝送線路CPW2aとは、特性インピーダンスが異なる。その理由は、伝送線路CPW2aの場合、出力終端抵抗R2の寄生容量の影響を伝送線路CPW2aで吸収する必要があるからである。同様に、伝送線路CPW2とCPW2bとは、特性インピーダンスが異なる。その理由は、伝送線路CPW2bの場合、信号出力端子2の後段の回路等の寄生容量の影響を伝送線路CPW2bで吸収する必要があるからである。
【0022】
本実施例では、伝送線路CPW10の終端と電源電圧VEEとの間に設けた可変電流源ISの電流量を制御電圧Vcontによって制御することで、各ユニットセル3の入力トランジスタのベース端子に所望のバイアス電圧を与えることができる。本実施例では、各ユニットセル3の入力トランジスタのベース電流のために伝送線路CPW10に僅かな直流電流が流れるだけなので、伝送線路CPW10における電圧降下が非常に小さく、電圧降下による分布型増幅器の利得の低下は殆ど無い。
【0023】
また、本実施例では、入力終端抵抗R1が直接グラウンドに接続されるため、反射特性が悪化することもない。したがって、本実施例では、利得と反射特性を悪化させることなく、各ユニットセル3の入力トランジスタにバイアス電圧を与えることが可能となる。
【0024】
図2に従来および本実施例の分布型増幅器のSパラメータのシミュレーション結果を示す。従来の分布型増幅器としては、図15に示した構成を用いた。ここでは、従来および本実施例共にN=6とし、入力終端抵抗R1を50Ωとした。電源電圧VEEは-4.4Vの負電圧である。従来の分布型増幅器では、入力終端抵抗R1とバイアス電圧Vbbを与える端子との間に、長い配線6を模擬した500pHのインダクタを挿入している。本実施例の分布型増幅器では、従来の分布型増幅器と同じバイアス電圧が各ユニットセル3の入力トランジスタのベース端子にかかるように、可変電流源ISに67mAの電流を流している。
【0025】
図2のS11aは従来の分布型増幅器のSパラメータS11、S11bは本実施例の分布型増幅器のSパラメータS11、S21aは従来の分布型増幅器のSパラメータS21、S21bは本実施例の分布型増幅器のSパラメータS21である。図2によれば、本実施例の構成を用いることにより、従来と同等の利得(S21)を実現しつつ、従来よりも良好な反射特性(S11)が得られていることが分かる。
【0026】
[第2の実施例]
次に、本発明の第2の実施例について説明する。図3は本発明の第2の実施例に係る分布型増幅器の構成を示す回路図である。本実施例は、第1の実施例の具体例であり、可変電流源ISの構成として、図3に示すような1個のトランジスタQ1で実現できる最も単純かつ小面積な構成を採用したものである。トランジスタQ1のベース端子には制御電圧Vcontが入力され、エミッタ端子には電源電圧VEEが与えられる。トランジスタQ1のコレクタ端子は伝送線路CPW10の終端に接続される。
【0027】
本実施例では、トランジスタQ1のベース端子に与える制御電圧Vcontを変えることにより、トランジスタQ1のコレクタ電流を制御することができ、可変電流源ISの電流量を制御することができる。
【0028】
図3の例では、可変電流源ISを実現するトランジスタQ1としてバイポーラトランジスタを使用したが、MOSトランジスタを使用してもよい。MOSトランジスタを使用する場合には、上記の説明において、ベース端子をゲート端子に置き換え、コレクタ端子をドレイン端子に置き換え、エミッタ端子をソース端子に置き換えるようにすればよい。
【0029】
また、図3では、トランジスタQ1のエミッタ端子を接地し、ベース端子の電圧を変化させる例を示しているが、図3のレイアウトが困難な場合、ベース端子を接地し、エミッタ電圧を変化させて可変電流源ISの電流量を調整してもよい。この場合の分布型増幅器の構成を図4に示す。
【0030】
[第3の実施例]
次に、本発明の第3の実施例について説明する。図5は本発明の第3の実施例に係る分布型増幅器の構成を示す回路図である。本実施例は、第1の実施例の別の具体例である。本実施例の可変電流源ISは、第2の実施例の構成にたいして、ベース端子にバイアス電圧V1が入力され、コレクタ端子が伝送線路CPW10の終端に接続され、エミッタ端子がトランジスタQ1のコレクタ端子に接続されたトランジスタQ2を追加したものである。本実施例は、可変電流源ISのインピーダンスを向上させるために、複数のトランジスタQ1,Q2を縦積みにしたカスコード型の可変電流源を採用したものである。
【0031】
本実施例においても、トランジスタQ1のベース端子に与える制御電圧Vcontを変えることにより、可変電流源ISの電流量を制御することができる。バイアス電圧V1は、制御電圧Vcontよりも高い電圧(本実施例では接地電圧と制御電圧Vcontとの間の電圧)に設定される。
【0032】
図5の例では、トランジスタ2個を用いた2段構成の場合を示しているが、可変電流源ISに用いるトランジスタの段数は2に限るものではない。可変電流源ISのインピーダンス向上が必要な場合は、3段以上の構成にしてもよい。
【0033】
[第4の実施例]
理想的な可変電流源はインピーダンスが無限大のため、可変電流源の付加によって分布型回路の特性(帯域や利得)が悪化することはない。しかしながら、実際の可変電流源は、第2、第3の実施例のようにトランジスタで構成されるため、トランジスタの寄生容量によって高周波側のインピーダンスが小さくなり、分布型回路の特性劣化(主に帯域特性の劣化)の原因となり得る。
【0034】
トランジスタの寄生容量の影響をなくすために、図6に示すような分布型可変電流源DISを用いることが望ましい。分布型可変電流源DISは、最終段のユニットセル3-Nよりも後ろで入力終端抵抗R1よりも前の位置に伝送線路CPW10aに沿って配置され、一端が伝送線路CPW10aに接続され、他端が電源電圧VEEに接続された複数の可変電流源IS-1~IS-M(Mは2以上の整数)からなる。
【0035】
伝送線路CPW10aは、複数の伝送線路CPW1a,CPW1,CPW4,CPW1bを直列に接続した構成からなる。ユニットセル間の伝送線路CPW1と、可変電流源IS(IS-1~IS-M)が接続された伝送線路CPW4とは、特性インピーダンスが異なる。その理由は、伝送線路CPW4の場合、可変電流源IS(IS-1~IS-M)の寄生容量の影響を伝送線路CPW4で吸収する必要があるからである。
【0036】
各可変電流源IS-1~IS-Mの構成としては、第2、第3の実施例で説明した構成を用いることができる。第1の実施例と同様に、各ユニットセル3の入力トランジスタのベース端子に所望のバイアス電圧を与えることができるように、制御電圧Vcont-1~Vcont-Mによって各可変電流源IS-1~IS-Mの電流量を制御すればよい。制御電圧Vcont-1~Vcont-Mの値は、同一の値にしてもよいし、異なる値にしてもよい。
【0037】
本実施例のように、分布型可変電流源DISを用いることによって、各可変電流源IS-1~IS-Mを構成するトランジスタの寄生容量の影響は伝送線路CPW4に吸収されるので、分布型回路の特性劣化を防止することができる。
広帯域化のためには、できるだけ小さい可変電流源IS-1~IS-Mを用いることが望ましい。例えば可変電流源IS-1~IS-Mとしてバイポーラトランジスタを用いる場合は、プロセスで製造可能な最小のエミッタ長を持つトランジスタを用いることが望ましい。
【0038】
[第5の実施例]
次に、本発明の第5の実施例について説明する。図7は本発明の第5の実施例に係る分布型増幅器の構成を示す回路図である。本実施例の分布型増幅器は、入力用の伝送線路CPW10bと、出力用の伝送線路CPW20と、入力終端抵抗R1と、出力終端抵抗R2と、ユニットセル3-1~3-Nと、可変電流源ISと、一端が接地され、他端が信号入力端子1と初段のユニットセル3-1との間の伝送線路CPW10bに接続され、接地と伝送線路CPW10bとの間の電流量を調整可能な可変電流源IS2と、一端が信号入力端子1と初段のユニットセル3-1との間の伝送線路CPW10bに接続され、他端が電源電圧VEEに接続され、伝送線路CPW10bと電源電圧VEEとの間の電流量を調整可能な可変電流源IS3とから構成される。
【0039】
伝送線路CPW10bは、複数の伝送線路CPW1a,CPW5,CPW1,CPW1bを直列に接続した構成からなる。ユニットセル間の伝送線路CPW1と、可変電流源IS2,IS3が接続された伝送線路CPW5とは、特性インピーダンスが異なる。その理由は、伝送線路CPW5の場合、可変電流源IS2,IS3の寄生容量の影響を伝送線路CPW5で吸収する必要があるからである。
【0040】
本実施例は、信号入力端子1と伝送線路CPW10bの入力端との間にDCブロックが無い例である。すなわち、図示しない前段回路の直流電圧が本実施例の分布型増幅器に入力される。本実施例では、可変電流源ISに加えて、入力側にさらに2つの可変電流源IS2,IS3を加えることにより、反射特性、利得を損ねることなく、各ユニットセル3の入力トランジスタのベース端子に所望のバイアス電圧を与えることが可能である。可変電流源IS2,IS3としては、可変電流源ISと同様にトランジスタを用いることができる。
【0041】
可変電流源ISの調整は第1の実施例で説明したとおりである。可変電流源IS2,IS3については、可変電流源IS2,IS3の電流量をそれぞれ制御電圧Vcont2,Vcont3によって制御することで、可変電流源IS2と可変電流源IS3との接続点Aの電圧が、入力終端抵抗R1と可変電流源ISとの接続点Bの電圧と等しくなるようにすればよい。
なお、DCブロックを設ける代わりに、可変電流源IS2,IS3を設ける構成を第2~第4の実施例に適用してもよい。
【0042】
[第6の実施例]
第1~第5の実施例では、分布型回路の例として分布型増幅器を例に挙げて説明したが、本発明は他の分布型回路、例えば分布型ミキサに適用することも可能である。図8は本発明の第6の実施例に係る分布型ミキサの構成を示す回路図である。分布型ミキサは、入力端が信号入力端子(IF端子)1に接続された伝送線路CPW10と、終端が信号出力端子(RF端子)2p,2nに接続されたRF信号出力用の伝送線路CPW20p,CPW20nと、LO信号入力用の伝送線路CPW30p,CPW30nと、伝送線路CPW10の終端と接地とを接続する入力終端抵抗R1と、伝送線路CPW20p,CPW20nの入力端と接地とを接続する出力終端抵抗R2p,R2nと、伝送線路CPW30p,CPW30nの終端とバイアス電圧vbloとを接続する終端抵抗R3p,R3nと、信号入力端子1と伝送線路CPW10の入力端との間に挿入されたオフチップのキャパシタC1からなるDCブロック5と、伝送線路CPW10,CPW20p,CPW20n,CPW30p,CPW30nに沿って配置され、IF入力端子が伝送線路CPW10に接続され、LO入力端子が伝送線路CPW30p,CPW30nに接続され、RF出力端子が伝送線路CPW20p,CPW20nに接続された複数のユニットセル7-1~7-Nと、LO信号を2分岐させて伝送線路CPW30p,CPW30nの入力端に入力する分岐導波管8と、一端が伝送線路CPW10の終端に接続され、他端が電源電圧VEEに接続され、伝送線路CPW10と電源電圧VEEとの間の電流量を調整可能な可変電流源ISとから構成される。
【0043】
図8のVinは分布型ミキサの入力信号(IF信号)、Vout+は分布型ミキサの正相側の出力信号(RF+信号)、Vout-は分布型ミキサの逆相側の出力信号(RF-信号)、LO+は正相側のLO信号、LO-は逆相側のLO信号である。
【0044】
図9に示すように、各ユニットセル7(7-1~7-N)は、それぞれベース端子が伝送線路CPW10に接続された入力トランジスタQ70と、ベース端子が伝送線路CPW30p,CPW30nに接続され、コレクタ端子が伝送線路CPW20p,CPW20nに接続され、エミッタ端子がトランジスタQ70のコレクタ端子に接続された出力トランジスタQ71,Q72と、一端が入力トランジスタQ70のエミッタ端子に接続され、他端が電源電圧VEEに接続されたエミッタ抵抗REEaとから構成される。
【0045】
第1の実施例と同様に、伝送線路CPW10は、複数の伝送線路CPW1a,CPW1,CPW1bを直列に接続した構成からなる。
伝送線路CPW20pは、複数の伝送線路CPW2p_a,CPW2p,CPW2p_bを直列に接続した構成からなる。ユニットセル間の伝送線路CPW2pと入力側の伝送線路CPW2p_aとは特性インピーダンスが異なる。その理由は、伝送線路CPW2p_aの場合、出力終端抵抗R2pの寄生容量の影響を伝送線路CPW2p_aで吸収する必要があるからである。同様に、伝送線路CPW2pとCPW2p_bとは特性インピーダンスが異なる。その理由は、伝送線路CPW2p_bの場合、信号出力端子2pの後段の回路等の寄生容量の影響を伝送線路CPW2p_bで吸収する必要があるからである。
伝送線路CPW20pと同様に、伝送線路CPW20nは、複数の伝送線路CPW2n_a,CPW2n,CPW2n_bを直列に接続した構成からなる。
【0046】
伝送線路CPW30pは、複数の伝送線路CPW3p_a,CPW3p,CPW3p_bを直列に接続した構成からなる。ユニットセル間の伝送線路CPW3pと入力側の伝送線路CPW3p_aとは特性インピーダンスが異なる。その理由は、伝送線路CPW3p_aの場合、入力側の分岐導波管8等の寄生容量の影響を伝送線路CPW3p_aで吸収する必要があるからである。同様に、伝送線路CPW3pとCPW3p_bとは特性インピーダンスが異なる。その理由は、伝送線路CPW3p_bの場合、終端抵抗R3pの寄生容量の影響を伝送線路CPW3p_bで吸収する必要があるからである。
伝送線路CPW30pと同様に、伝送線路CPW30nは、複数の伝送線路CPW3n_a,CPW3n,CPW3n_bを直列に接続した構成からなる。
【0047】
本実施例においても、可変電流源ISの電流量を制御電圧Vcontによって制御することで、各ユニットセル7の入力トランジスタQ70のベース端子に所望のバイアス電圧を与えることができる。
こうして、本実施例では、分布型ミキサの変換利得と反射特性を悪化させることなく、各ユニットセル7の入力トランジスタQ70にバイアス電圧を与えることが可能となる。
【0048】
図10図11は分布型ミキサの別の例を示す図である。図10の分布型ミキサは、図6に示した第4の実施例に対応するものである。図11の分布型ミキサは、図7に示した第5の実施例に対応するものである。
【0049】
第1~第6の実施例では、トランジスタQ1,Q2,Q30,Q31,Q70~Q72としてバイポーラトランジスタを使用した例を示しているが、MOSトランジスタを使用してもよい。MOSトランジスタを使用する場合には、上記の説明において、ベース端子をゲート端子に置き換え、コレクタ端子をドレイン端子に置き換え、エミッタ端子をソース端子に置き換え、エミッタ抵抗をソース抵抗に置き換えるようにすればよい。
【0050】
また、第1~第6の実施例では、伝送線路としてCPW(coplanar waveguide)を用いた場合を示しているが、伝送線路であればCPWに限らず、マイクロストップライン等の他の伝送線路であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、分布型回路に適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1…信号入力端子、2…信号出力端子、3,7…ユニットセル、5…DCブロック、8…分岐導波管、CPW1,CPW1a,CPW1b,CPW2,CPW2a,CPW2b,CPW2p,CPW2p_a,CPW2p_b,CPW2n,CPW2n_a,CPW2n_b,CPW3p,CPW3p_a,CPW3p_b,CPW3n,CPW3n_a,CPW3n_b,CPW4,CPW5,CPW10,CPW10a,CPW10b,CPW20,CPW20p,CPW20n,CPW30p,CPW30n…伝送線路、Q1,Q2,Q30,Q31,Q70~Q72…トランジスタ、R1,R2,R2p,R2n,R3p,R3n,REEa…抵抗、C1…キャパシタ、IS,IS-1~IS-M,IS2,IS3…可変電流源、DIS…分布型可変電流源。
図1
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