(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】油ちょう食品用ミックス及びそれを用いた油ちょう食品の製造方法並びに油ちょう食品の食感改良方法
(51)【国際特許分類】
A21D 2/18 20060101AFI20241029BHJP
A21D 13/60 20170101ALI20241029BHJP
A21D 10/04 20060101ALI20241029BHJP
A23L 7/13 20160101ALI20241029BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D13/60
A21D10/04
A23L7/13
(21)【出願番号】P 2021567576
(86)(22)【出願日】2020-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2020048275
(87)【国際公開番号】W WO2021132391
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2019234096
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(73)【特許権者】
【識別番号】312015185
【氏名又は名称】日清製粉プレミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高松 研一郎
(72)【発明者】
【氏名】向後 佑佳子
(72)【発明者】
【氏名】柳下 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 浩一
(72)【発明者】
【氏名】西辻 ひとみ
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-034065(JP,A)
【文献】特開2019-017275(JP,A)
【文献】特開2017-055662(JP,A)
【文献】特開2020-039276(JP,A)
【文献】特開2018-201371(JP,A)
【文献】川井清司,食品のガラス転移特性と品質制御,日本食品工学会誌,2018年,19(1),pp.9-14
【文献】RONDET, E. et al.,Psychrometry as a Methodological Tool for Optimizing the Spray Drying Process,Drug Development and Industrial Pharmacy,2008年,34(3),pp.235-247
【文献】JOTHI, J. S.,Effect of water sorption on the glass transition temperature and texture of deep-fried models,Journal of Food Engineering,2018年,237,pp.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D、A23L
CAplus/MEDLINE/EMBASE/FSTA/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移点が180℃以上の高Tg水溶性食物繊維を0.5~15質量%含有
し、
該高Tg水溶性食物繊維がイソマルトデキストリンである、油ちょう食品用ミックス。
【請求項2】
更に、糖類を含有し、該糖類と前記高Tg水溶性食物繊維との含有質量比が、前者:後者として、1:0.01~1:2である、請求項1に記載の油ちょう食品用ミックス。
【請求項3】
更に、ガラス転移点が125℃以上180℃未満の低Tg水溶性食物繊維を含有し、該低Tg水溶性食物繊維と前記高Tg水溶性食物繊維との合計含有量が20質量%以下である、請求項1又は2に記載の油ちょう食品用ミックス。
【請求項4】
前記油ちょう食品が、ドーナツ又はアメリカンドッグである、請求項1~3の何れか1項に記載の油ちょう食品用ミックス。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の油ちょう食品用ミックスを用いた、油ちょう食品の製造方法。
【請求項6】
油ちょう食品に、ガラス転移点が180℃以上の高Tg水溶性食物繊維を0.5~15質量%含有させ、
該高Tg水溶性食物繊維がイソマルトデキストリンである、油ちょう食品の食感改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油ちょう食品の製造に使用され、特定の水溶性食物繊維を含有する油ちょう食品用ミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
油ちょう食品は、油ちょう対象物を油ちょう、すなわち、水の沸点より高温の油で加熱調理することで得られる食品であり、例えば、ドーナツ等の揚げ菓子、天ぷら等の揚げ物がある。油ちょうは、油ちょう対象物を加熱して火を通すだけでなく、高温で対象物の水分を蒸発させ、水分があった空隙に吸油させる効果がある。そのため、油ちょう食品(揚げ物の場合は衣の部分)は、サクサクとした食感が特徴である。
【0003】
油ちょう食品の改良技術に関し、例えば特許文献1には、冷凍状態で喫食可能な冷凍ドーナツの製造に適したドーナツ用ミックスとして、デキストリン等の糖類である第1成分と、水溶性食物繊維等の吸油阻害成分である第2成分とを含有するものが記載されている。特許文献1の技術思想は、第1成分を比較的多量に用いることでドーナツの冷凍状態での喫食可能性等を向上させるとともに、第1成分を多量に用いることによる油分過多等の不都合を、第2成分の併用によって抑制するというものである。
【0004】
特許文献2には、ドーナツ等の油ちょう食品において、近年の健康志向に対応するために、難消化性デキストリン等の低糖質食品原料を使用することが記載されている。特許文献3には、ポテトチップス等のスナック菓子にイソマルトデキストリンを配合することで、スナック菓子製造時の水抜けが向上し、パリパリとした食感をもつスナック菓子が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-57299号公報
【文献】特開2017-55662号公報
【文献】特開2018-201371号公報
【発明の概要】
【0006】
油ちょう食品が有するサクミのある独特の食感は、油ちょう食品中あるいは周辺環境中の水分の影響により経時的に失われやすい。そのため、例えば、店頭でドーナツやアメリカンドッグ等の油ちょう食品を製造・販売する場合に、油ちょう食品を製造し店頭に並べた直後はサクサクとした食感を有していても、そのサクミが経時的に低下し、店頭で油ちょう食品を購入した消費者が家などに持ち帰って喫食する頃には、サクミが完全に失われて、油ちょう食品がしなり気味となっている場合がある。このような油ちょう食品のサクミの経時的な低下の問題を解決し得る有効な技術は未だ提供されていない。
【0007】
本発明の課題は、サクサクした食感が長時間維持され得る油ちょう食品を提供可能な技術を提供することである。
【0008】
本発明は、ガラス転移点が180℃以上の高Tg水溶性食物繊維を0.5~15質量%含有する、油ちょう食品用ミックスである。
また本発明は、前記の本発明の油ちょう食品用ミックスを用いた、油ちょう食品の製造方法である。
また本発明は、油ちょう食品に、ガラス転移点が180℃以上の高Tg水溶性食物繊維を0.5~15質量%含有させる、油ちょう食品の食感改良方法である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の油ちょう食品用ミックス(以下単に、「ミックス」ともいう。)は、ガラス転移点(Tg;glass transition temperature)が180℃以上の高Tg水溶性食物繊維を0.5~15質量%含有する点で特徴付けられる。Tgは周知のとおり、硬質のガラス状態と軟質のラバー状態との間の転移(ガラス転移)が起こる温度である。本発明では、Tgが180℃以上という比較的高温の水溶性食物繊維(高Tg水溶性食物繊維)をミックスの必須成分とすることで、該ミックスを用いて製造された油ちょう食品(揚げ物の場合は衣の部分)をラバー状態に転移し難いものとし、サクサクした食感が長時間維持され得るものとした。ミックスにおける高Tg水溶性食物繊維の含有量が0.5質量%未満では、斯かる本発明の所定の効果が奏されず(比較例6参照)、また、該含有量が15質量%を超えると、油ちょう食品に意図しないひび割れが生じ、外観が低下するおそれがある(比較例7参照)。
【0010】
Tgは、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。具体的には例えば、次の方法により測定することができる。
測定対象(例えば食物繊維)の試料として、非結晶状態のものを用いる。なお、本測定の前に、試料を一度昇温させた後に降温させることで、試料の熱履歴を消去する。試料が結晶状態のものである場合は、結晶状態の試料を一度昇温して融解させた後、急冷したものを試料として用いる。DSCを用い、試料のTgを測定する。測定条件の一例を下記に示す。
<DSC測定における測定条件の一例>
試料(6mg)を耐圧パンに封入し、DSC(DSC6100;SII)にセットした。基準物質にはアルミナを用いた。測定は20~230℃の温度範囲を昇温速度5℃/min.で行った。一定温度まで昇温測定(1stスキャン)後、20℃まで冷却し、再び昇温測定(2ndスキャン)した。得られた結果はDSC付属のソフトウェア(Thermal Analysis Software TA7000(日立ハイテクサイエンス))によって解析した。
【0011】
本発明で用いる高Tg水溶性食物繊維のTgは180℃以上であり、好ましくは190℃以上である。また、高Tg水溶性食物繊維のTgの上限については、特に制限されないが、好ましくは230℃以下、より好ましくは215℃以下である。
【0012】
本発明のミックスにおける高Tg水溶性食物繊維の含有量は、油ちょう食品のサクミと外観とを高度に両立させる観点から、該ミックスの全質量に対して0.5~15質量%であり、好ましくは1~10質量%、より好ましくは3~10質量%である。
【0013】
本発明のミックスは前述したとおり、ミックスを用いて製造された油ちょう食品をラバー状態に転移し難いものとする目的で、ミックスにTg180℃以上の物質を含有させたものであり、斯かる高Tg物質として水溶性食物繊維を採用している。本発明で用いる高Tg水溶性食物繊維は、典型的には多糖であるところ、一般的にTgは、同じ多糖である澱粉類の方が水溶性食物繊維に比べて高い傾向があるので、前記目的を達成するために、ミックスに含有させる高Tg物質として澱粉類を使用することも考えられる。しかしながら、本発明者らが種々検討した結果、油ちょう食品用ミックスに高Tg物質として澱粉類を含有させた場合、該ミックスを用いて製造された油ちょう食品は、保湿性が比較的強く、それ故に周辺環境中の水分を吸収しやすく、本発明の所定の効果を奏し難いものとなることが判明した。そこで本発明では、高Tg物質として水溶性食物繊維を採用している。
【0014】
本発明で用いる高Tg水溶性食物繊維としては、例えば、高Tgとなる難消化性デキストリンを挙げることができ、特に好ましくはイソマルトデキストリンを例示できる。イソマルトデキストリンと称される物質の全てが本発明で高Tg水溶性食物繊維として使用可能であるか現時点で定かではないが、本発明で使用可能なイソマルトデキストリンの一例として、特許文献3(特開2018-201371号公報)の[0015]~[0018]に記載のものが挙げられる。
高Tg水溶性食物繊維としては、例えばファイバーソル2(松谷化学工業株式会社)やイソマルトデキストリンであるファイバリクサ(株式会社林原)を挙げることができるが、特にこれらに限定されない。
【0015】
本発明のミックスは、高Tg水溶性食物繊維に加えて更に、糖類を含有することが好ましい。これにより、ミックスを用いて製造された油ちょう食品の食感(サクミ)が一層向上し得る。なお、本発明でいう「糖類」には、高Tg水溶性食物繊維及び後述する低Tg水溶性食物繊維等の食物繊維は包含されない。糖類としては、例えば、グルコース、フルクトース、キシロース、ガラクトース等の単糖類;スクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース等の二糖類;キシリトール、ソルビトール、ラクチトール等の糖アルコール類が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましくは、糖類として単糖及び/又は二糖類を、使用される糖類のうち、単糖及び二糖類の合計量として80質量%以上用いる。また、好ましくは、糖類としてスクロースを、使用される糖類のうち50質量%以上用いる。
【0016】
本発明のミックスにおいて、糖類と高Tg水溶性食物繊維との含有質量比は、油ちょう食品のサクミの向上と食味、外観とのバランスの観点から、前者:後者として、好ましくは1:0.01~1:2、より好ましくは1:0.03~1:1、更に好ましくは1:0.1~1:0.5である。すなわち本発明のミックスでは、該ミックス中の糖類100質量部に対して、高Tg水溶性食物繊維が好ましくは1~200質量部、より好ましくは13~100質量部、更に好ましくは10~50質量部含有されていることが好ましい。
【0017】
また、本発明のミックスにおける糖類の含有量は、油ちょう食品の食味、外観の観点から、該ミックスの全質量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。また、本発明のミックスにおける糖類の含有量の上限については、特に制限されないが、油ちょう食品の食味、外観の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
【0018】
また、本発明のミックスにおける糖類と高Tg水溶性食物繊維との合計含有量は、油ちょう食品の食味、外観の観点から、該ミックスの全質量に対して、好ましくは10~50質量%、より好ましくは15~45質量%、更に好ましくは20~40質量%である。
【0019】
本発明のミックスは、高Tg水溶性食物繊維及び必要に応じて糖類に加えて更に、ガラス転移点が125℃以上180℃未満の低Tg水溶性食物繊維を含有することが好ましい。ミックスの含有成分として高Tg水溶性食物繊維と低Tg水溶性食物繊維とを併用することにより、油ちょう食品の食感(サクミ)、保形性、外観等の諸性能が一層高いレベルで向上し得る。本発明で用いる低Tg水溶性食物繊維のTgは、好ましくは125℃以上150℃以下である。
【0020】
本発明で用いる低Tg水溶性食物繊維としては、例えば、イヌリン、難消化性グルカン等の低Tgの難消化性デキストリン等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも特に、油ちょう食品のサクミ向上の観点から、イヌリンが好ましい。
【0021】
本発明のミックスにおいて、低Tg水溶性食物繊維を含有させる場合、低Tg水溶性食物繊維と高Tg水溶性食物繊維との合計含有量は、油ちょう食品の食味、外観の観点から、該ミックスの全質量に対して、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0022】
本発明のミックスには、前述の成分(高Tg水溶性食物繊維、低Tg水溶性食物繊維、糖類)以外の他の成分を含有させることができる。他の成分として、穀粉類が挙げられる。本発明のミックスに含有可能な穀粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉等の小麦粉、ライ麦粉、コーンフラワー、大麦粉、そば粉、豆粉、はとむぎ粉、ひえ粉、あわ粉等の穀粉;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉等の澱粉(未加工澱粉)、及びこれら未加工澱粉に油脂加工、α化、エーテル化、エステル化、架橋、酸化等の処理の1つ以上を施した加工澱粉等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
本発明のミックスに穀粉類を含有させる場合、該ミックスにおける穀粉類の含有量は、該ミックスの全質量に対して、好ましくは45~75質量%、より好ましくは50~70質量%である。
【0024】
本発明のミックスには、前述の穀粉類以外の他の成分を含有させることができ、該ミックスが使用される油ちょう食品の種類等に応じて適宜選択できる。具体的には例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、有機酸モノグリセリド、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアロイル乳酸カルシウム等の乳化剤;グルテン、グリアジン、グルテニン(以上、小麦蛋白質)、全卵、卵白、卵黄(以上、卵蛋白質)、脱脂粉乳、ホエー蛋白(以上、乳蛋白質)、大豆蛋白質、ゼラチン等の蛋白素材;動物油脂、植物油脂等の油脂類;食塩、粉末醤油、果実由来の発酵物等の発酵物、粉末味噌、アミノ酸その他の調味料;卵粉等の乾燥卵、増粘多糖類等、膨張剤、乳原料、香料、酵素、色素等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明のミックスにおける穀粉類以外の他の成分の含有量は、該ミックスの全質量に対して、好ましくは20質量%以下である。
【0025】
本発明のミックスは、高Tg水溶性食物繊維をはじめとする前述の成分を混合することによって得られる。本発明のミックスの常温常圧下での形態は、粉末状、顆粒状などの粉体である。
【0026】
本発明のミックスは、種々の油ちょう食品に適用でき、具体的には例えば、ドーナツ等の揚げ菓子ないしベーカリー食品;アメリカンドッグ、天ぷら、フライ、から揚げ、フリッター等の揚げ物の衣材(バッターミックスないしブレダーミックス)が挙げられる。本発明のミックスが特に好適な油ちょう食品として、ドーナツ、アメリカンドッグ、かりんとう、揚げパイが挙げられ、より好ましくはドーナツ、アメリカンドッグである。本発明のミックスは、ドーナツの中でも特に、ケーキドーナツに好適であり、その中でもオールドファッションドーナツに好適である。オールドファッションドーナツは、片面(上面)に割れ目(クラック)を有し、サクミの強い独特の食感が特徴的なドーナツである。
【0027】
本発明のミックスは、油ちょう食品の製造において、この種のミックスと同様に使用することができる。典型的には、本発明のミックスに液体を加えて粘土状生地(いわゆるドウ)又は液状若しくはペースト状生地(いわゆるバッター)を調製し、該生地を油ちょうすることで、目的の油ちょう食品を製造することができる。ミックスと混合される液体としては、水、油、調味料、卵液、牛乳等を含んだ水性液体を例示できる。また、ミックスと液体との混合比率は、一般的にはミックス:液体として、1:0.2~1:8程度である。
【0028】
本発明のミックスを用いたドーナツの製造方法は、典型的には、該ミックスに水等の液体を加えて生地(ドウ又はバッター)を調製し、該生地を加熱された油中に投入して油ちょうする工程を有する。また、本発明のミックスを用いた揚げ物の製造方法は、典型的には、該ミックスに水等の液体を加えて生地(バッター)を調製し、該生地を具材の表面に付着させた後、該生地付き具材を加熱された油中に投入して油ちょうする工程を有する。
【0029】
本発明には、油ちょう食品に、ガラス転移点が180℃以上の高Tg水溶性食物繊維を0.5~15質量%、好ましくは1~10質量%、より好ましくは3~10質量%含有させる、油ちょう食品の食感改良方法が包含される。本発明の油ちょう食品の食感改良方法については、特に断らない限り、前述した本発明のミックス及びその製造方法に関する説明が適宜適用される。本発明の油ちょう食品の食感改良方法によれば、油ちょう食品のサクミの経時耐性が向上され、サクサクした食感が長時間維持され得る。油ちょう食品がドーナツ等の揚げ菓子ないしベーカリー食品の場合、該油ちょう食品は、典型的には、高Tg水溶性食物繊維を含む生地を油ちょうして製造されるものであり、高Tg水溶性食物繊維は、該油ちょう食品の全体に含有される。一方、油ちょう食品がアメリカンドッグ等の揚げ物の場合、該油ちょう食品は、典型的には、具材と該具材の表面を被覆する衣であり、高Tg水溶性食物繊維は、該衣に含有される。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例1及び9は参考例である。
【0031】
〔実施例1~8、比較例1~7、参考例1〕
下記表1及び表2の配合で原材料を混合して、ドーナツ用ミックスを製造した。使用した原材料の詳細は下記のとおり。なお、参考例1のミックスは、典型的なオールドファッションドーナツ用ミックスである。
・小麦粉:薄力粉(日清製粉株式会社製、商品名「フラワー」)
・糖類(非食物繊維):マルトデキストリン(Tg160℃)
・水溶性食物繊維A:難消化性デキストリン(ファイバーソル2 松谷化学工業株式会社、Tg185℃)
・水溶性食物繊維B:イソマルトデキストリン(ファイバリクサ 株式会社林原、Tg197℃)
・水溶性食物繊維C:難消化性グルカン(フィットファイバー 日本食品化工株式会社、Tg128℃)
・水溶性食物繊維D:イヌリン(Tg130℃)
【0032】
〔試験例1〕
各実施例、比較例及び参考例のドーナツ用ミックスを用いて、下記方法によりオールドファッションドーナツを製造した。製造後ドーナツを、雰囲気温度25℃、湿度50%の環境下で15時間保管した後、10名の専門パネラーに食してもらい、食感(サクミ)を下記評価基準で評価してもらうとともに、外観(裏割れの程度)を下記評価基準で評価してもらった。その結果を10名の評価点の平均値として下記表1及び表2に示す。
【0033】
(オールドファッションドーナツの製造)
ドーナツ用ミックス400gに、水72g、卵40g、サラダ油40gを加え、撹拌混合して品温20℃の生地を調製した。生地からドーナツカッターを用いてドーナツ1個当たり40gを切り出し、180℃に加熱したフライヤーに落として該生地の一面側を油ちょうし、1分後に該生地を反転させて他面側を油ちょうして、目的のオールドファッションドーナツを得た。
【0034】
<ドーナツの食感の評価基準>
5点:非常にサクサクしていて、歯もろく、極めて良好。
4点:サクサクしており、良好。
3点:わずかにサクサクしている。
2点:サクミがほとんどなく、しなり気味であり、不良。
1点:サクミが全くなく、しなっており、極めて不良。
<ドーナツの外観の評価基準>
5点:裏割れ(ドーナツの裏面側の割れ目)、ひびが全くなく、極めて良好。
4点:わずかな裏割れが一部に生じている程度で、良好。
3点:裏割れが一部に生じている。
2点:裏割れが全体に生じており円形を保てず、不良。
1点:裏割れが全体に及び生地が完全に分離しており、極めて不良。
【0035】
【0036】
【0037】
表1に示すとおり、各実施例のミックスは、ガラス転移点が180℃以上の高Tg水溶性食物繊維(水溶性食物繊維A又はB)を含有するため、これを満たさない比較例及び参考例に比べて、油ちょう後15時間経過後のドーナツの食感に優れていた。
表2に示すとおり、各実施例のミックスは、高Tg水溶性食物繊維(水溶性食物繊維A又はB)の含有量が0.5~15質量%であるため、これを満たさない比較例に比べて、油ちょう後15時間経過後のドーナツの食感及び/又は外観に優れていた。
【0038】
〔実施例9~14、比較例8~11、参考例2〕
下記表3の配合で原材料を混合して、アメリカンドッグ用ミックスを製造した。使用した原材料の詳細は、前述のドーナツ用ミックスにおけるものと同じである。なお、参考例2のミックスは、典型的なアメリカンドッグ用ミックスである。
【0039】
〔試験例2〕
各実施例、比較例及び参考例のアメリカンドッグ用ミックスを用いて、下記方法によりアメリカンドッグを製造した。製造後アメリカンドッグを一旦冷凍し、その冷凍アメリカンドッグを自然解凍した後、更に170~180℃に熱した大豆白絞油で4分間再油ちょうした。再油ちょう後のアメリカンドッグを、雰囲気温度25℃、湿度50%の環境下で5時間保管した後、10名の専門パネラーに食してもらい、衣の食感(サクミ、口どけ)を下記評価基準で評価してもらうとともに、衣の外観(ボリューム、表面の滑らかさ)を下記評価基準で評価してもらった。その結果を10名の評価点の平均値として下記表3に示す。
【0040】
(アメリカンドッグの製造)
ホバートミキサーに、水725gとアメリカンドッグ用ミックス1kgとを投入し、ビーターで1分間、低速で撹拌して、バッターを調製した。ソーセージ(長さ10cm、重さ40g)を串に長軸に沿って刺し、ソーセージの表面に、調製したバッターを、油ちょう後の重量(製品重量)が約100gになるよう付着させた後、170~180℃に熱した大豆白絞油で4分間油ちょうして、目的のアメリカンドッグを得た。
【0041】
<アメリカンドッグの衣の食感の評価基準>
5点:サクサクとし、口どけがよく、極めて良好。
4点:サクサクとするが、口どけがやや劣る。良好。
3点:サクサクとするが、口どけが劣る。
2点:サクミがなく、口どけが悪く、口の中にやや団子状に残り、不良。
1点:サクミがなく、口の中に団子状に残り、極めて不良。
<アメリカンドッグの衣の外観の評価基準>
5点:ボリュームが大きく、表面が滑らかであり、極めて良好。
4点:ボリュームがやや大きく、表面はほぼ滑らかであり、良好。
3点:ボリュームが中程度で、割れはほとんどない。
2点:ボリュームがやや小さく、表面の一部に割れがあり、不良。
1点:ボリュームが小さい。又は表面に割れ・でこぼこがあり、形状が不安定である。極めて不良。
【0042】
【0043】
表3に示すとおり、各実施例のミックスは、ガラス転移点が180℃以上の高Tg水溶性食物繊維(水溶性食物繊維A又はB)の含有量が0.5~15質量%であるため、これを満たさない比較例及び参考例に比べて、油ちょう後5時間経過後のアメリカンドッグの衣の食感及び外観に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、サクサクした食感が長時間維持され得る油ちょう食品が提供される。