(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】ガリウム含有銀粉及びガリウム含有銀粉の製造方法、並びに導電性ペースト
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20241029BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20241029BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20241029BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20241029BHJP
B22F 1/17 20220101ALI20241029BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20241029BHJP
B22F 1/107 20220101ALI20241029BHJP
【FI】
B22F1/00 K
H01B1/00 F
H01B1/22 A
B22F1/05
B22F1/17
B22F9/00 B
B22F1/107
(21)【出願番号】P 2023033204
(22)【出願日】2023-03-03
【審査請求日】2024-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】平田 晃嗣
(72)【発明者】
【氏名】高橋 哲
(72)【発明者】
【氏名】中野谷 太郎
(72)【発明者】
【氏名】寺川 真悟
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111128436(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104795127(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第113096846(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112786232(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第115181453(CN,A)
【文献】特開2002-008443(JP,A)
【文献】特開2006-328471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
H01B 1/00
H01B 1/22
B22F 1/05
B22F 1/17
B22F 9/00
B22F 1/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガリウムを含有するガリウム含有銀粉であって、
レーザー回折法による前記ガリウム含有銀粉の体積基準のメジアン径D50が0.2μm以上5.0μm以下であ
り、
前記ガリウム含有銀粉を構成する銀粒子の表面にガリウムが付着しており、かつ、
界面活性剤が前記ガリウム含有銀粉の表面に付着しており、前記ガリウム含有銀粉が含有する有機物の有機物量が0.01wt%以上4wt%以下である
ことを特徴とするガリウム含有銀粉。
【請求項2】
前記ガリウムが金属ガリウムである、請求項
1に記載のガリウム含有銀粉。
【請求項3】
前記ガリウムが銀に対して0.01wt%以上10wt%以下含有される、請求項1に記載のガリウム含有銀粉。
【請求項4】
金属ガリウム液滴が分
散したエマルション液を形成する分散工程と、
銀粉を含む液中に、
(a)前記エマルション液、又は、
(b)前記エマルション液を冷却したガリウム粉分散液
を添加することにより、前記銀粉にガリウムを付着させる付着工程
と、
得られたガリウム含有銀粉の分散液に対して、ろ過と、乾燥とを経てガリウム含有銀粉を得る行程と、
を有することを特徴とするガリウム含有銀粉の製造方法。
【請求項5】
前記分散工程において、脂肪酸、アゾール化合物、アルケニルこはく酸、脂肪族アミン、又はそれらの塩もしくはそれらの無水物から選択される界面活性剤を用いる、請求項
4に記載のガリウム含有銀粉の製造方法。
【請求項6】
前記付着工程における液温を70℃以下とする、請求項
5に記載のガリウム含有銀粉の製造方法。
【請求項7】
フィラーと、溶剤と、ガラスフリットとを含む導電性ペーストであって、
前記フィラーは請求項1に記載のガリウム含有銀粉を含有することを特徴とする導電性ペースト。
【請求項8】
前記フィラーは銀粉をさらに含む、請求項
7に記載の導電性ペースト。
【請求項9】
前記導電性ペーストにおいて、前記ガリウムが銀に対して0.01~4wt%含有される、請求項
7又は8に記載の導電性ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガリウム含有銀粉及びガリウム含有銀粉の製造方法、並びに導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
銀粉は種々の電極との接合材料として用いられている。例えば太陽電池には、n型シリコン基板の表面にp型ドーパントを添加したp型エミッタ層を形成した形(n型太陽電池)と、p型シリコン基板の表面にn型ドーパントを添加したn型エミッタ層を形成した形(p型太陽電池)がある。近年エネルギー需要の高まりなどを理由に、発電効率の高い太陽電池に対する需要が高まってきており、電極材料が注目されている。
【0003】
従来、p型ドーパントによりp型化した半導体層(上記のp型エミッタ層またはp型基板)に対して導電性ペーストを塗布して電極を形成する場合、導電性ペーストにSi基板に対してp型不純物となる元素を含有させる試みがなされている。
【0004】
例えば特許文献1では、n型太陽電池の受光面の電極形成において、導電性フィラーとしてAg(銀)とAl(アルミニウム)が併用された、銀・アルミニウムペーストを用いることが知られている。特許文献1では導電性ペーストにAlを含有させることによって、半導体層にp型ドーパントを追加ドーピングし、p型化した半導体層と電極との界面における抵抗を低下させようというものである。
【0005】
また、特許文献2では、Alと同族元素であるIn(インジウム)を被覆した銀粉及びその製造方法と、当該銀粉を含有した導電性ペーストが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2016-519839号公報
【文献】特開2015-132002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように導電性ペーストにAlを含有させると、シリコン(Si)にとってp型不純物となる元素を含有させることによってp型半導体層との界面に当該元素を供給することができたとしても、形成した電極の抵抗値が増加する場合があることが分かった。また、特許文献2に開示されるインジウム被覆銀粉は、シリコンに対するドーパントとしてはインジウムの原子半径が大きすぎるため、銀粉の被覆材としては一般的でない。そこで、アルミニウム以上に低抵抗化に寄与できる粉末の開発が望まれる。また、特許文献2に開示される銀粉と金属イオンを含有するスラリーに還元剤を投入する方法は、ガリウムの酸化還元電位が水素の酸化還元電位よりも卑であるために酸化ガリウムを生じやすく、また、この方法を用いてガリウム被覆銀粉を得ようとした場合には、金属アルミニウムのような非常に強い還元剤を用いてガリウムを還元しなければならず、酸化されたアルミニウムは酸化物もしくは水酸化物の形で残留してコンタミになる恐れがある。
【0008】
本発明者らはアルミニウムに替えてガリウムを銀粉に含有させることを着想し、その具現化を試みた。そこで、本発明では、特に太陽電池のp型半導体層との界面に届くよう、p型不純物となるガリウムを適切な形で供給できると共に、低温焼成において低抵抗化でき、かつ、高温焼成においてアルミニウムを添加する場合よりも電気抵抗を低下させることができるガリウム含有銀粉及びその製造方法、並びにそれを用いた導電性ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上述の課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、本発明者らは、以下に述べる本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、上述の課題を達成するための本発明の要旨構成は以下のとおりである。
【0011】
(1)ガリウムを含有するガリウム含有銀粉であって、
レーザー回折法による前記ガリウム含有銀粉の体積基準のメジアン径D50が0.2μm以上5.0μm以下であることを特徴とするガリウム含有銀粉。
【0012】
(2)前記ガリウム含有銀粉を構成する銀粒子の表面にガリウムが付着している、(1)に記載のガリウム含有銀粉。
【0013】
(3)前記ガリウムが金属ガリウムである、(1)又は(2)に記載のガリウム含有銀粉。
【0014】
(4)前記ガリウムが銀に対して0.01wt%以上10wt%以下含有される、(1)~(3)のいずれかに記載のガリウム含有銀粉。
【0015】
(5)界面活性剤が前記ガリウム含有銀粉の表面に付着しており、前記ガリウム含有銀粉が含有する有機物の有機物量が0.01wt%以上4wt%以下である、(1)~(4)のいずれかに記載のガリウム含有銀粉。
【0016】
(6)金属ガリウム液滴が分散したエマルション液を形成する分散工程と、
銀粉を含む液中に、
(a)前記エマルション液、又は、
(b)前記エマルション液を冷却したガリウム粉分散液
を添加することにより、前記銀粉にガリウムを付着させる付着工程を有することを特徴とするガリウム含有銀粉の製造方法。
【0017】
(7)前記分散工程において、脂肪酸、アゾール化合物、アルケニルこはく酸、脂肪族アミン、又はそれらの塩もしくはそれらの無水物から選択される界面活性剤を用いる、(6)に記載のガリウム含有銀粉の製造方法。
【0018】
(8)前記付着工程における液温を70℃以下とする、(6)又は(7)に記載のガリウム含有銀粉の製造方法。
【0019】
(9)フィラーと、溶剤と、ガラスフリットとを含む導電性ペーストであって、
前記フィラーは(1)~(5)のいずれかに記載のガリウム含有銀粉を含有することを特徴とする導電性ペースト。
【0020】
(10)前記フィラーは銀粉をさらに含む、(9)に記載の導電性ペースト。
【0021】
(11)前記導電性ペーストにおいて、前記ガリウムが銀に対して0.01~4wt%含有される、(9)又は(10)に記載の導電性ペースト。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、特に太陽電池のp型半導体層との界面に届くよう、p型不純物となるガリウムを適切な形で供給できると共に、低温焼成において低抵抗化でき、かつ、高温焼成においてアルミニウムを添加する場合よりも電気抵抗を低下させることができるガリウム含有銀粉及びその製造方法、並びにそれを用いた導電性ペーストを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は本発明の実施例1におけるガリウム粉のSEM観察像である。
【
図2】
図2は本発明の実施例1におけるガリウム含有銀粉のSEM観察像である。
【
図3】
図3は本発明の実施例1におけるガリウム含有銀粉のSEM-EDSによる元素マッピングを示した図である。
【
図4】
図4は本発明の実施例1におけるガリウム含有銀粉のSEM-EDSによるSEM像及び各元素の元素マッピングを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明が対象とする銀粉は、ガリウムを含有するガリウム含有銀粉である。本明細書において単に「ガリウム」と記載する場合、ガリウム元素単体を指すだけでなく、金属ガリウムの表面の一部が酸化された態様を含む。まず、実施形態の説明に先立ち、本明細書が対象とするガリウムについて説明する。
【0025】
-金属ガリウム(Ga)-
まず、ガリウム(Ga)及び同族のIII族の金属元素の単体の電気抵抗率は、下記の表1に示すとおりである。
【0026】
【0027】
GaはB、Al及びInと同じIII族元素であるが、Al及びInの電気抵抗率に比べてGaの電気抵抗率は大きい。そのため、これまで、Agからなる電極の低抵抗化には寄与しないと考えられてきた。しかしながら、本発明者らは、ガリウムを含有させた銀粉には、特に太陽電池のFF50型電極形成に用いた場合に電気抵抗を低下させる効果があることを知見した。
【0028】
また、金属ガリウムは、抵抗率が高い一方で、極めて低融点である。
【0029】
【0030】
低融点であるGaは、初期焼結開始やガラス軟化温度以下で溶解し、先駆けて基板上に移動すると考えられる。銀粉を含む導電性ペーストを焼成する場合、Ag粒子同士がネッキングを始める温度のときに、銀粉がAlを含有していると、Ag粒子間にAlが残存する場合があると考えられる。一方、銀粉がGaを含有している場合は当該温度では、Ag粒子間には既にガリウムが存在せず、そのときには既にガリウムは半導体層との界面付近に移動済みであると予想される。このことが、Alを用いる場合に比べて銀粉の低抵抗化に寄与し、とくにピーク温度が500℃未満(例えば400℃)での低温焼成時の低抵抗化に寄与するのではないかと考えられる。
【0031】
-ガリウム含有-
ここで、ガリウム含有銀粉が「ガリウムを含有する」ことは、ガリウム含有銀粉を硝酸および塩酸を用いて完全に溶解したサンプル溶液を用いて、ICP分析によりガリウムが検出された場合に確認することができる。銀粉をICP分析した際に銀以外に検出される元素が主にガリウムである銀粉がガリウム含有銀粉であり、ガリウム含有銀粉は、銀粉の一部で銀とガリウムが合金化した態様を含む。
【0032】
-ガリウム付着-
ガリウムが銀粉の表面に付着している状態も、ガリウム含有銀粉の一態様である。ガリウムが銀粉の表面に付着していることは、SEM-EDSを用いて銀粒子の表面を観察すると共に元素マッピングを行うことによるガリウムのマッピングから確認することができる。銀粒子の表面の一部にでもガリウムが付着していれば、ガリウムは検出される。ガリウム含有銀粉の粒径が小さい場合には、オージェ電子分光法(AES)、X線光電子分光法(XPS)などの検出深さが小さい測定方法によって表面の元素分析を行っても良い。
【0033】
-体積基準のメジアン径-
ガリウム含有銀粉のメジアン径は、レーザー回折法による体積基準の累積50%径(D50)を採用する。レーザー回折法による測定は、マイクロトラック粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、装置名:MT-3300EXII)を用いることができ、本明細書においては当該装置を用いた。
【0034】
以下、本発明によるガリウム含有銀粉の詳細について説明する。
【0035】
(ガリウム含有銀粉)
本発明によるガリウム含有銀粉はガリウムを含有し、レーザー回折法によるガリウム含有銀粉の体積基準のメジアン径D50が0.2μm以上5.0μm以下である。前記メジアン径D50は、1μm以上3μm以下であることが好ましい。また、ガリウム含有銀粉のBET比表面積は、BET一点法を用いた測定により0.15m2/g以上4m2/g以下であることが好ましく、0.25m2/g以上1m2/g以下であることがより好ましい。
【0036】
ガリウム含有銀粉中の銀とガリウム以外の元素としては、本発明の効果が得られる範囲で、不可避的不純物のほか、p型不純物となりうる元素(例えば、B、Al、In、Zn等)やファイヤースルーのための元素(例えば、Te)が含まれていてもよく、ガリウムとそれらの元素との合金が含まれてもよい。また、銀とガリウムの合金が含まれていてもよい。ここで、ガリウム含有銀粉に含まれるガリウムは、銀以外の元素全体のうち、元素濃度比で50%以上とすることができ、好ましくは80%以上である。
【0037】
ガリウム含有銀粉を構成する銀粒子において、少なくとも一部の銀粒子の表面にガリウムが付着していることが好ましい。また、少なくとも一部の銀粒子の表面に金属ガリウムが付着したガリウム含有銀粉であることがより好ましい。ガリウム含有銀粉は、SEM-EDSのマッピングにおいて、ガリウムが少なくとも一部に観測される銀粒子の個数の割合が、全粒子中の個数に対して5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。ガリウム又は金属ガリウムは、銀粒子の全面に付着していてもよいし、銀粒子の一部に付着していてもよい。なお、本発明のガリウム含有銀粉の製造過程で用いられる金属ガリウム粒子が部分的に混在していてもよい。銀粒子の表面にガリウムが付着して存在する場合、ガリウム含有銀粉を含む導電性ペーストを半導体層に塗布した後、加熱したときのガリウムの移動が容易と考えられる。また、融点が低く、特に太陽電池の半導体層に対してドーパントとして機能させるには、ガリウムは酸化物の状態であるよりも、金属ガリウムの状態で存在した方が好ましいと考えられる。
【0038】
本発明によるガリウム含有銀粉において、ガリウムが銀に対して0.01wt%以上10wt%以下含有されることが好ましく、ガリウムは銀に対して2wt%以下であることがより好ましい。ペースト中のガリウム含有量は高すぎると電気抵抗値が上昇するため不利ではあるが、ガリウム量の高いガリウム含有銀粉も、ガリウムを含有していない銀粉と混合することで、ペースト中の銀に対するガリウム量を適切な範囲に調整することも可能である。強いて言うならば、ガリウム量が高いガリウム含有銀粉は、ガリウム源となるガリウム含有粒子の粒子比率が下がるので、電極焼成膜の均一性を高めるためには、極端にガリウム含有量が高くない方が好ましい。このガリウムの含有量は、ガリウム含有銀粉を硝酸および塩酸を用いて完全に溶解したサンプル溶液を用いて、ICP分析により定量することで求めることができる。
【0039】
界面活性剤が前記ガリウム含有銀粉の表面に付着しており、前記ガリウム含有銀粉が含有する有機物の有機物量が0.01~4wt%であることが好ましい。有機物量の測定は、ガリウム含有銀粉を酸で溶解したのち、ヘキサン等の有機溶媒で溶媒抽出し、抽出溶媒層をGC/MSもしくは炭素分析を行うことにより、評価することができる。また、ヒドロキシ基を有するような極性の高い有機物については、有機溶媒への抽出能(分配係数)が低い場合もあるので、例えば、前処理として酸とアルコールを混合し、加熱処理することで、カルボキシ基をエステル化させて溶媒抽出能を高めた上で、定量分析を実施してもよい。そして、表面に付着している有機物の種類が、硫黄及びリンを不含有で分子量100以上1000以下の界面活性剤であることが好ましく、炭素鎖長が10以上の脂肪酸または脂肪族アミンであることも好ましい。表面に付着している有機物の種類は、He気流中パイロライザーで加熱することで加熱脱着させ、GC/MSで定性分析を行うことで同定することができる。また、ガリウム含有銀粉は、強熱重量変化が0.6wt%以下であることが好ましい。なお、強熱重量変化とは、ガリウム含有銀粉に含有される水分や有機物などの不純物の総量であり、重量変化が無くなり恒量となるのに十分な加熱(例えば800℃で30分)を行ったときの、初期質量と加熱後の質量との差を、初期質量で割って求めた値である。
【0040】
次に、上述した本発明によるガリウム含有銀粉を得るための製造方法について、詳細に説明する。
【0041】
(ガリウム含有銀粉の製造方法)
本発明によるガリウム含有銀粉の製造方法は、金属ガリウム液滴が分散したエマルション液を形成する分散工程と、銀粉を含む液中に、(a)エマルション液、又は、(b)エマルション液を冷却したガリウム粉分散液、を添加して混合しながら銀粉にガリウムを付着させる付着工程と、を少なくとも含む。以下、本発明による製造方法の各工程及び任意工程について順次説明する。
【0042】
<分散工程>
分散工程では、金属ガリウム液滴が分散したエマルション液を形成する。高純度ガリウム(4N以上)を融点以上の温度で温めたガリウム融液を、界面活性剤(分散剤と呼ばれるときもある)を含ませた溶媒中に入れ、ホモジナイザーなどの超音波振動機を用いて攪拌を行って金属ガリウムを粒径の小さな液滴化すると共に、界面活性剤を液滴のガリウム表面に付着させて液中に分散したエマルション液(液-液分散状態)とすることが好ましい。
【0043】
-界面活性剤-
ここで、ガリウム含有銀粉を導電性ペーストに用いた場合、ガリウムの表面に付着させる界面活性剤は導電性ペーストにも含まれることになる。このことを考えると、界面活性剤は、導電性ペーストを塗布して焼成した後の導電膜中に不純物として残留しにくいものであることが好ましく、例えば、脂肪酸、アゾール化合物、アルケニルこはく酸、脂肪族アミン、又はそれらの塩もしくはそれらの無水物から選択される界面活性剤であることが好ましい。複数の界面活性剤を使用しても良い。界面活性剤には、選択される成分を主成分とする試薬を使用でき、試薬には他の成分が含まれていてもよい。界面活性剤は、脂肪酸や脂肪族アミンとすることがより好ましい。界面活性剤は、炭素鎖長が10以上とすることがより好ましい。界面活性剤は、リン及び硫黄成分が少ないまたは不含有であることが好ましい。リン酸系、スルホン酸系、チオール系の界面活性剤は、ガリウムの分散に非常に有効であるが、焼成後にリン酸塩や硫酸塩の形で導電膜中に残留する恐れがあり、特性低下だけでなく、信頼性の悪化させるおそれもある。特に、硫黄及びリン不含有で分子量100以上1000以下の界面活性剤を用いることが好ましく、炭素鎖長が10以上の脂肪酸または脂肪族アミンであることが好ましい。太陽電池等における導電膜の焼成においては、焼成時間が数十秒と非常に短時間であるため、界面活性剤の種類によっては、分子量が1000を超えるポリマーの場合、脱バインダーが完全に終わらないことが考えられるためである。
【0044】
本製造方法により得られるガリウム含有銀粉を導電性ペーストに用いることを考慮した場合、導電性ペーストを焼成した後に残留しにくい界面活性剤として、銀粉に使用される公知の表面処理剤を用いることも好ましく、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、ベンゾトリアゾール、ドデセニルこはく酸無水物、ペンタデセニルこはく酸無水物、ステアリルアミンなどが挙げられる。また、界面活性剤は、後述の付着工程において使用する銀粉の表面に付いている表面処理剤と成分が一部同じまたは全部同じとすることも好ましい。
【0045】
-溶媒-
使用する溶媒は特に制限されず、上記の界面活性剤を溶解させることができる溶媒であることが好ましく、例えば、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコールまたは水などを使用することができる。
【0046】
<付着工程>
分散工程の後に行う付着工程では、銀粉を含む液中に(a)エマルション液、又は、(b)エマルション液を冷却したガリウム粉分散液、を添加することにより銀粉にガリウムを付着させる。ここで、金属ガリウムの融点は前述のとおり約30℃であるので、エマルション液を例えば室温に冷却するだけでもエマルション液中のガリウムは固化し、固体のガリウム粉が分散したガリウム粉分散液が得られることになる。本工程では先の工程で得たエマルション液を、エマルションの状態のまま添加してもよいし、エマルション液を冷却して得られるガリウム粉分散液を添加してもよい。銀粉を含む液は、添加前から攪拌していることが好ましい。
【0047】
付着工程では、溶媒中に銀粉を分散させて、その中に前工程において得た金属ガリウム液滴が分散したエマルション液又はガリウム粉分散液を滴下すればよい。これらを混合しながらガリウムを銀粉表面に付着させることにより、ガリウム含有銀粉の分散液を得ることができる。本工程において、銀粉を含む液と、エマルション液又はこれを冷却したガリウム粉末分散液とを混合しながら銀粉に金属ガリウムを付着させる手法は任意であるが、超音波振動を用いることが好ましい。
【0048】
<<液温>>
また、付着工程における液温を70℃以下とすることが好ましく、液温を溶媒の融点以上することが好ましく、液温を20℃以上60℃以下とすることがより好ましく、特に撹拌中は液温が70℃を超えない範囲内となるようにすることが好ましい。液温が高くなりすぎると分散した金属ガリウムの液滴が集合するおそれがある。実際の局所温度を計測することはできないが、混合処理が施されてガリウム液滴またはガリウム粒子と銀粒子とが衝突している局所部分のみ、ガリウムの融点以上の温度(30℃以上)となっていることが理想と考えられる。混合処理で付加される超音波振動等の運動エネルギー量次第ではあるが、液温20℃未満では、超音波振動等の運動エネルギーを付加しても局所的な温度を30℃以上にすることが難しく、その一方、70℃を超えるとガリウムだけで凝集しやすい。また、付着工程後は室温まで放冷または冷蔵庫を使用して冷却して液滴を固化し、ガリウム粉分散液として保管することが好ましい。
【0049】
<<エマルション液を冷却したガリウム粉分散液>>
-SEM平均径-
エマルション液を冷却し乾燥させた金属ガリウム粒子のSEM平均径およびガリウム分散液を乾燥させた金属ガリウム粒子のSEM平均径は、0.01~10μmであることが好ましく、0.2~2μmであることがより好ましい。SEM平均径の測定方法は、5,000倍のSEM画像において、MOUNTECH社製の画像処理ソフトMac-View Ver.4を用いて、粒子の外形がはっきりと認識できる粒子100個以上に対して、Heywood径を計測することで平均値を算出することができる。
【0050】
<任意工程>
得られたガリウム含有銀粉の分散液に対して、ろ過工程、乾燥工程を経てガリウム含有銀粉を得る。さらに、解砕工程、分級工程を施してもよい。
【0051】
上記のガリウム含有銀粉の製造方法は一例であり、乾燥した銀粉に対して、直接、上記の金属ガリウム液滴が分散したエマルション液またはガリウム粉分散液を加温と共に攪拌混合する方法も考えられる。また、銀粉の湿式製造過程(銀錯体溶液への還元剤の添加時から、ろ過するまでの間)において、上記の金属ガリウム液滴が分散したエマルション液またはガリウム粉分散液を混合し攪拌するようにしても良い。
【0052】
(導電性ペースト)
次に、本発明によるガリウム含有銀粉を用いた導電性ペーストについて説明する。本発明による導電性ペーストは、フィラーと、溶剤と、ガラスフリットとを少なくとも含む。そして、このフィラーは上述した本発明によるガリウム含有銀粉を含有する。この導線性ペーストは、太陽電池のp型電極形成用の導電性ペーストに供して好適である。導電性ペーストにおいて、ガリウムが銀に対して0.01wt%以上4wt%以下含有されることが好ましく、0.2wt%以上2wt%以下含有されることがより好ましい。導電性ペーストにおいて「ガリウムを含有する」ことを確認する方法はICP分析により行うことができる。ただし、導電性ペーストは、有機溶剤・樹脂も含有されるため、ICP分析を行う際には予めこれらを除去する前処理を行うことが好ましい。例えば、アセトン等の多量の有機溶媒に、導電ペーストを分散・溶解し、それをろ過・洗浄することにより採取した固形分を、硝酸・塩酸で溶解することで、ICP分析を実施することができる。銀やガリウム成分は、有機溶媒では溶出しないため、採取した固形分の溶解液をICP分析することで、ガリウム量と銀量を定量分析し、銀に対するガリウム量を測定することもできる。
【0053】
<フィラー>
フィラーは、ガリウム含有銀粉に加えて、銀粉(ガリウム不含有の銀粉)をさらに含んでもよい。さらに、アルミ粉などの金属粉を含んでいてもよい。導電性ペーストにおけるフィラーの含有率は、65wt%以上95wt%以下であることが好ましい。
【0054】
<溶剤>
溶剤は特に制限されず、例えば、テルピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テキサノール等である。溶剤は、2種以上を同時に用いてもよい。導電性ペーストにおける溶剤の含有率は、1wt%以上40wt%以下とすることが好ましい。
【0055】
<ガラスフリット>
ガラスフリットは特に制限されず、550℃以下の軟化点を有するものが好ましい。ガラスフリットの形状は特に限定されず、球状でも、不定球状でもよい。導電性ペーストにおけるガラスフリットの含有率は、0.1wt%以上10wt%以下であることが好ましい。
【0056】
<任意含有物>
導電性ペーストは、さらに、樹脂、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤を含んでもよい。
【0057】
上述の導電性ペーストは、本発明によるガリウム含有銀粉をフィラーとして用いること以外に関しては、一般的な手法により製造することができる。例えば、フィラー、溶剤及びガラスフリットを少なくとも含むペースト組成を適宜調整する。その後、ペースト組成を混合し、撹拌機にて予備混錬した後、3本ロールなどで混錬することで、導電性ペーストを得ることができる。分散及び混錬を行う際には、超音波分散、ディスパー、3本ロール、ボールミル、ビーズミル、二軸ニーダー、自公転式攪拌機などを用いてもよい。得られた導電性ペーストを、例えば、スクリーン印刷、オフセット印刷、フォトリソグラフィ法、インクジェット印刷などにより基板上に印刷すれば、所望の形状の導電膜を形成することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら
限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
まず、純度99.99%の固体状態の金属ガリウム(DOWAエレクトロニクス製)を、60℃の温浴中で温めることで、液化させた。また、ステアリン酸(界面活性剤として使用、FUJIFILM製;試薬特級)を1wt%溶解させたイソプロピルアルコール(FUJIFILM製;和光一級)溶液20g(室温)を用意した。このイソプロピルアルコール溶液に、液化したガリウム1gを分取し添加し、ガリウム含有液を得た。このガリウム含有液に対し、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所製 型番:US-600AT)を用いて超音波分散処理を実施した。その際、超音波照射による発熱によりガリウム含有液の温度が70℃を超えないよう、水浴で冷やすと共に、途中冷却時間を取りながら、間欠的に計5分間の超音波分散処理を行い、金属ガリウム液滴が分散したエマルション液を得た。液温は40℃程度であり、ビーカーの底にガリウムが溜まらない状態となるまで超音波ホモジナイザーを使用した超音波分散を行った。その後、この分散処理を停止して室温まで放置することで、ガリウム液滴を分散したまま固化させ、ガリウム粉分散液を得た。なお、超音波分散中の装置出力は、分散状態及び液温の影響を受けるため一定ではなく、150W~250Wの間で変化していた。
【0060】
得られたガリウム粉分散液を評価するため、金属ガリウム液滴が分散したエマルション液の状態で分取し、冷蔵庫で冷却して、得られたガリウム粉分散液を冷風で乾燥させてガリウム粉を取得した。SEMを用いて5000倍の倍率で観察したガリウム粉のSEM写真を
図1に示す。また、得られたSEM観察像に対し、画像処理ソフト(MOUNTECH社製 Mac-View Ver.4)を用いて、粒子の輪郭がはっきりしている100個以上の粒子に対してHeywood径を測定し、その平均値をSEM平均径とした。ガリウム粉のSEM平均径は0.9μmであった。
【0061】
次に、イソプロピルアルコール(FUJIFILM製;和光一級)20gに、球状銀粉(DOWAエレクトロニクス製;AG4-8FD、SEM平均径1.3μm)を100g加え、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所製、装置名:US-600AT)を用いて出力100Wで5分間の超音波分散処理を行った。なお、使用した球状銀粉の表面処理剤の主成分はステアリン酸である。
【0062】
球状銀粉に対する上記5分間の分散処理を行った後も超音波分散処理を継続したまま、先に調製したガリウム粉分散液(21g全量)を、スポイトで1分間かけて滴下し、さらに5分間の超音波分散処理を行うことで、ガリウム含有銀粉を含む分散液を調製した。分散処理の間、液温は60℃まで上昇した。分散処理を停止後、室温まで冷却した。
【0063】
そして、このガリウム含有銀粉を含む分散液を、目開き0.2μmのメンブランフィルターで加圧ろ過し、得られたケーキを室温、大気中で12時間乾燥させることで、実施例1に係るガリウム含有銀粉を得た。得られたガリウム含有銀粉をSEMにより5000倍で観察した写真を
図2に示す。
【0064】
(SEM-EDS測定)
得られたガリウム含有銀粉をSEM-EDSにより10000倍で観察すると共に、定性分析による元素マッピングを行った画像を
図3、
図4に示す。
図3は、C(炭素)-KO(酸素)-K、Ga(ガリウム)-L、Ag(銀)-Lのマッピングを重ね合わせたもの(KはK線、LはL線を意味する)であり、
図4にSEM像と、各元素のマッピングを示す。
図4のIMG1(1st)はEDS測定前の2次電子像であり、IMG1はEDS測定後の2次電子像である。
図3、
図4から分かるように、銀の表面の一部にガリウムが付着している銀粒子(
図4のAg(銀)-Lにて灰色が濃く、Ga(ガリウム)-Lでも濃灰色の領域)が観察されると共に、銀粒子に付着しないガリウム粒子(
図4のAg(銀)-Lにて黒く、Ga(ガリウム)-Lにて灰色の領域)が混在していることが確認された。本発明の製法から考えると、銀粒子の内部にGaが混入することは容易ではないため、これらのGaは銀粒子の表面に存在しているとすることができる。この銀粒子に付着せずに残存したガリウム粒子は、製造条件の調整によって残存量を減らし、全量を付着状態にすることも可能と考えられる。
【0065】
(粒度分布測定)
また、得られたガリウム含有銀粉について、マイクロトラック粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、装置名:MT-3300EXII)を用いて、レーザー回折法湿式サンプル測定により粒度分布の測定を行った。測定用試料としては、ガリウム含有銀粉0.1gをイソプロピルアルコール(IPA)40mLに加えて分散したものを用いた。なお、チップ先端直径18mmの超音波ホモジナイザー(日本精機製作所製、装置名:US-150T)を用いて周波数19.5kHzの条件で分散し、分散時間は、2分間とした。分散後の試料を上記装置に供し、付属の解析ソフトにより粒度分布を測定した。得られた測定結果を表3に示す。表3の結果からも分かるとおり、ガリウム添加前の銀粉である(DOWAエレクトロニクス製;AG4-8FD)の粒度分布と比べると、ガリウム付着前後での粒度分布の差は殆どなかった。
【0066】
【0067】
(BET比表面積測定)
全自動比表面積測定装置(マウンテック社製、装置名:Macsorb HM-model 1210)を用いて、ガリウム含有銀粉のBET比表面積を求めた。具体的には、ガリウム含有銀粉を装置内に入れ、60℃で10分間He-N2混合ガス(窒素30%)を流して脱気した後、BET一点法により測定し、比表面積が0.49m2/gであることを確認した。使用した元粉のDOWAエレクトロニクス製;球状銀粉AG4-8FDの比表面積が0.43m2/gであるため、ガリウムが付着したガリウム被着銀粉のBET比表面積は、わずかであるが高くなっていることを確認した。
【0068】
(ガリウム含有量測定)
ガリウム含有銀粉中のガリウム量を定量したところ、ガリウム含有銀粉中に0.95wt%のガリウムが含有され、銀に対して0.96wt%のガリウムが含有されていることを確認した。製造における理論値では銀粉に対してガリウムが1wt%であるため、添加したガリウムがほぼ全量、銀に付着できている。なお、ガリウムの定量方法は、以下の分析方法により実施した。
1)サンプル1gを精秤し、純水15mL、硝酸(精密分析用)10mLを加え、200℃で30分間加熱した。
2)純水15mL、塩酸(精密分析用)10mLを加え、150℃で30分間加熱した。
3)加熱後のサンプルを100mLに定容し、そこから5mL分取し再度100mLに定容することで、ICP分析用のサンプルを準備した。
4)ICP定量は、アジレント・テクノロジー製のAglent5800 ICP-OESを使用して行った。
【0069】
(有機物分析)
ガリウム含有銀粉0.5gを硝酸で溶解したのち、ヘキサンで溶媒抽出し、抽出溶媒層をGC/MS(7890A/5975C、Agilent Technologies社製)で定性分析を行い、ガリウム含有銀粉が含有する有機物はステアリン酸であることを確認した。抽出溶媒のヘキサンを揮発させたのち、残留分を炭素硫黄分析装置(EMIA-810W、堀場製作所製)による炭素量測定を行い、ガリウム含有銀粉が含有する有機物が全てステアリン酸として、炭素量からステアリン酸の含有量を算出し0.18wt%の結果を得た。
【0070】
(強熱重量変化測定)
強熱重量変化は、ガリウム含有銀粉3gを秤量して磁性るつぼに入れ、室温から昇温していき、恒量になるのに十分な加熱として800℃にて30分間強熱した後、試料を冷却し、秤量して加熱後の質量(w)を求めた。そして、下記式(1)を用いて強熱重量変化(wt%)を算出し、強熱重量変化が0.37wt%であることを確認した。
強熱重量変化(wt%)=(3-w)/3×100 (1)
【0071】
(導電性ペーストの作製)
以下の表4に示すペースト組成にて導電性ペーストを作製した。
【0072】
【0073】
これらを混合し、自公転撹拌機(公転1000rpm)の条件にて予備混錬した。予備混錬後、3本ロール(Exact製)にて混錬し、導電性ペーストを得た。導電性ペースト中の銀に対するガリウム含有比率は0.96wt%であった。
【0074】
(抵抗測定)
作製した導電性ペーストを用いて、スクリーン印刷により直線形状を印刷した。直線の設計線幅はそれぞれ10,12,14,16,18,20μmであり、直線の長さは150mmとした。印刷にはマイクロテック製印刷機を使用し、スキージ速度350mm/sで印刷した。印刷には厚み170μm程度のシリコン基板(太陽電池用途、テクスチャ形成・SiNx成膜済み)を使用した。印刷後、温度を200℃に設定した乾燥機中で5分間乾燥させた。サンプルの焼成には太陽電池焼成炉(NGK製)を使用し、ウェハ上面のピーク温度が400℃及び700℃のそれぞれとなるように炉を設定した。焼成後の印刷電極の抵抗値は、印刷電極の両端に測定端子をあて、デジタルマルチメーター(株式会社エーディーシー製)にて測定した。
【0075】
(実施例2)
球状銀粉を、球状銀粉(DOWAエレクトロニクス製;AG4-54F)に変えて付着工程を行った以外は、実施例1と同様の方法により、ガリウム含有銀粉を調製した。なお、球状銀粉の表面処理剤の主成分はステアリン酸である。
【0076】
実施例1と同様にして、レーザー回折法によりガリウム含有銀粉の粒度分布を測定した。測定結果を表5に示す。表5の結果からも分かるとおり、ガリウム付着前後での粒度分布の差は殆どなかった。比表面積についても実施例1と同様の方法にて測定し、0.43m2/gであることを確認した。使用した元粉の球状銀粉(DOWAエレクトロニクス製;AG4-54F)の比表面積が0.37m2/gであるため、ガリウムが付着したガリウム被着銀粉のBET比表面積は、わずかであるが高くなっていることを確認した。ガリウム含有銀粉中のガリウム量を定量したところ、ガリウム含有銀粉中に0.75wt%のガリウムが含有され、銀に対して0.76wt%のガリウムが含有されていることを確認した。製造における理論値では銀粉に対してガリウムが1wt%であるため、工程内での超音波分散処理の液はね、混合添加時の容器壁面付着、ハンドリングによるロスが若干発生したものと想定している。実施例1と同様の方法で有機物分析を行った結果、ガリウム含有銀粉が含有する有機物はステアリン酸であり、ガリウム含有銀粉中の有機物量は0.14wt%であった。強熱重量変化では、銀粉に含有されていた水分や有機物などの不純物が減じた量よりもガリウムの酸化による増量が大きく、-0.12wt%となった。また、実施例2のガリウム含有銀粉を用いて、実施例1と同様にして導電性ペーストを作製し、印刷し、焼成後の印刷電極の抵抗値を測定した。導電性ペースト中の銀に対するガリウム含有比率は0.76wt%である。
【0077】
【0078】
(参考例)
導電性ペーストに用いるフィラーを、ガリウムを付着していないDOWAエレクトロニクス製;球状銀粉AG4-8FDと上記の実施例におけるガリウム粉分散液を0.2μmメンブランフィルターで加圧ろ過し、室温で30分間真空乾燥させたガリウム粉(SEM平均径0.9μm)を、フィラー中のガリウム粉の割合が1wt%となるよう、Ga粉0.89wt%、銀粉87.84wt%に混合して用いた以外は、実施例1と同様にして導電性ペーストを作製して当該導電性ペーストを印刷し、焼成した後の印刷電極の抵抗値を測定した。導電性ペースト中の銀に対するガリウム含有比率は1.01wt%である。
【0079】
(比較例)
ガリウムを付着していないDOWAエレクトロニクス製;球状銀粉AG4-8FDと、Al粉(平均粒径5μm)を導電性ペーストに用いるフィラーとして用いた。また、フィラー中のAl粉の割合が1wt%となるように混合した。その他の条件はは実施例1と同様にして導電性ペーストを作製して当該導電性ペーストを、印刷し、焼成した後の印刷電極の抵抗値を測定した。導電性ペースト中の銀に対するアルミニウム含有比率は1.01wt%である。
【0080】
上記の実施例、参考例、従来例、比較例における、線幅18μmのときの抵抗値について、以下の表6に示す。
【0081】
【0082】
400℃の低温焼成では、比較例に対して、実施例1、2及び参考例では低抵抗化を実現できた。また、参考例に比べて、本発明のガリウム含有銀粉は、低抵抗化の効果が優れることが分かった。
【0083】
700℃の高温焼成は、Alの融点が660℃であるため、Alが太陽電池のp型半導体層との界面に届きやすい温度である。比較例のようにAl粉を銀粉に混合した場合、大幅に抵抗値が増加してしまうことが分かった。しかしながら、ガリウムを添加する実施例1、2及び参考例では、そのような大幅な高抵抗化は見られないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、特に太陽電池のp型半導体層との界面に届くよう、p型不純物となるガリウムを適切な形で供給できると共に、低温焼成において低抵抗化でき、かつ、高温焼成においてアルミニウムを添加する場合よりも電気抵抗を低下させることができるガリウム含有銀粉及びその製造方法、並びにそれを用いた導電性ペーストを提供することができる。