(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】ガリウム粉、混合粉、及び、ガリウム粉分散液の製造方法、ガリウム粉の製造方法、ガリウム粉分散液、並びに導電性ペースト
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20241029BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20241029BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20241029BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20241029BHJP
B22F 1/107 20220101ALI20241029BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
B22F1/00 R
B22F1/05
B22F1/102
B22F1/00 K
B22F9/00 B
B22F1/107
H01B1/22 A
(21)【出願番号】P 2023033206
(22)【出願日】2023-03-03
【審査請求日】2024-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】平田 晃嗣
(72)【発明者】
【氏名】高橋 哲
(72)【発明者】
【氏名】中野谷 太郎
(72)【発明者】
【氏名】寺川 真悟
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-328471(JP,A)
【文献】特開平02-285006(JP,A)
【文献】特表2013-538893(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111128436(CN,A)
【文献】特開2002-008443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
B22F 1/05
B22F 1/102
B22F 9/00
B22F 1/107
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEM平均径が0.2μm以上2μm以下であり、脂肪酸、アゾール化合物、アルケニルこはく酸、脂肪族アミン、又はそれらの塩もしくはそれらの無水物から選択される界面活性剤が表面に付着していることを特徴とするガリウム粉。
【請求項2】
SEM平均径が0.2μm以上2μm以下であり、脂肪酸、アゾール化合物、アルケニルこはく酸、脂肪族アミン、又はそれらの塩もしくはそれらの無水物から選択される界面活性剤が表面に付着していることを特徴とするガリウム粉と、
SEM平均径が0.2μm以上5μm以下である銀粉とを混合した混合粉。
【請求項3】
前記銀粉に付着する表面処理剤の一部または全ての成分が、前記ガリウム粉に付着している界面活性剤の一部または全ての成分と同じである、請求項2に記載の混合粉。
【請求項4】
ガリウムが銀に対して0.01wt%以上4wt%以下含有される、請求項2に記載の混合粉。
【請求項5】
ガリウム融液と、脂肪酸、アゾール化合物、アルケニルこはく酸、脂肪族アミン、又はそれらの塩もしくはそれらの無水物から選択される界面活性剤と、溶媒と、を攪拌してエマルション液を形成する第一工程と、
前記エマルション液を冷却する第二工程と、
を含
み、
前記第一工程において、超音波振動により前記攪拌を行い、
前記溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、水、又は、これらの混合物であることを特徴とするガリウム粉分散液の製造方法。
【請求項6】
前記界面活性剤は、炭素鎖長が10以上の脂肪酸または脂肪族アミンである、請求項5に記載のガリウム粉分散液の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載のガリウム粉分散液の製造方法により得られたガリウム粉分散液を乾燥してガリウム粉を得る工程を含み、
前記ガリウム粉のSEM平均径が0.2以上2μm以下であり、かつ、前記ガリウム粉の表面に脂肪酸、アゾール化合物、アルケニルこはく酸、脂肪族アミン、又はそれらの塩もしくはそれらの無水物から選択される界面活性剤が付着していることを特徴とするガリウム粉の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載のガリウム粉と、溶媒とを有し、
前記ガリウム粉が前記溶媒中に分散していることを特徴とするガリウム粉分散液。
【請求項9】
ガリウム粉と、銀粉と、溶剤と、ガラスフリットとを含有し、
前記ガリウム粉は、SEM平均径が0.2μm以上2μm以下であって表面に脂肪酸、アゾール化合物、アルケニルこはく酸、脂肪族アミン、又はそれらの塩もしくはそれらの無水物から選択される界面活性剤が付着していることを特徴とする導電性ペースト。
【請求項10】
前記銀粉に付着する表面処理剤の一部または全ての成分が、前記ガリウム粉に付着している界面活性剤の一部または全ての成分と同じである、請求項
9に記載の導電性ペースト。
【請求項11】
前記導電性ペーストにおいて、前記ガリウムが銀に対して0.01wt%以上4wt%以下含有される、請求項
9に記載の導電性ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガリウム粉、混合粉、及び、ガリウム粉分散液の製造方法、ガリウム粉の製造方法、ガリウム粉の分散液、並びに導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガリウム粒子が半導体用材料として研究されている。例えば特許文献1では、融解金属をノズルから噴霧することで、金属ガリウムまたはガリウム合金の微粒子を製造することが記載されている。また、特許文献2では、界面活性剤としてポリビニルピロリドン、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルチオールを使用してガリウム-インジウム合金の微粒子の製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平8-924号公報
【文献】中国特許出願公開第110223798号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体を利用した一例である太陽電池には、n型シリコン基板の表面にp型ドーパントを添加したp型エミッタ層を形成した形(n型太陽電池)と、p型シリコン基板の表面にn型ドーパントを添加したn型エミッタ層を形成した形(p型太陽電池)がある。近年エネルギー需要の高まりなどを理由に、発電効率の高い太陽電池に対する需要が高まってきており、電極材料が注目されている。特に、太陽電池の電極の低抵抗化が求められている。そして、p型化した半導体層(上記のp型エミッタ層またはp型基板)に対して導電性ペーストを塗布して電極を形成する場合、銀粉と共に、p型不純物であるAl粉を含有させることで、抵抗を低下させる試みがされていた。そこで本発明者らは、導電性ペーストにおいてAl粉を添加する代わりに、導電性ペーストにガリウム粉を添加する試験を試みた。しかしながら、従来公知のガリウム粉は、導電性ペーストに使用される銀粉の粒径に法では粒径を小さくすることが容易ではなく、製造コストも大きかった。特許文献2の方法では、界面活性剤に含まれる硫黄やリンが導電性ペーストに悪影響を及ぼす恐れがあった。
【0005】
そこで本発明は、小さい粒径のガリウム粉と提供すると共に、低抵抗な電極が得られる導電性ペーストを提供することが可能な当該ガリウム粉を含む混合粉を提供する。そして、製造が容易なガリウム粉分散液およびガリウム粉の製造方法を提供すると共に、ガリウム粉分散液、および低抵抗な電極が得られる導電性ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上述の課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、本発明者等は、以下に述べる本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、上述の課題を達成するための本発明の要旨構成は以下のとおりである。
【0008】
(1) SEM平均径が0.2μm以上2μm以下であり、脂肪酸、アゾール化合物、アルケニルこはく酸、脂肪族アミン、又はそれらの塩もしくはそれらの無水物から選択される界面活性剤が表面に付着していることを特徴とするガリウム粉。
【0009】
(2) SEM平均径が0.2μm以上2μm以下であり、脂肪酸、アゾール化合物、アルケニルこはく酸、脂肪族アミン、又はそれらの塩もしくはそれらの無水物から選択される界面活性剤が表面に付着していることを特徴とするガリウム粉と、
SEM平均径が0.2μm以上5μm以下である銀粉とを混合した混合粉。
【0010】
(3) 前記銀粉に付着する表面処理剤の一部または全ての成分が、前記ガリウム粉に付着している界面活性剤の一部または全ての成分と同じである、(2)に記載の混合粉。
【0011】
(4) ガリウムが銀に対して0.01wt%以上4wt%以下含有される、(2)又は(3)に記載の混合粉。
【0012】
(5) ガリウム融液と、脂肪酸、アゾール化合物、アルケニルこはく酸、脂肪族アミン、又はそれらの塩もしくはそれらの無水物から選択される界面活性剤と、溶媒と、を攪拌してエマルション液を形成する第一工程と、
前記エマルション液を冷却する第二工程と、
を含むことを特徴とするガリウム粉分散液の製造方法。
【0013】
(6) 前記第一工程において、超音波振動により前記攪拌を行う、(5)に記載のガリウム粉分散液の製造方法。
【0014】
(7) 前記界面活性剤は、炭素鎖長が10以上の脂肪酸または脂肪族アミンである、(5)又は(6)に記載のガリウム粉分散液の製造方法。
【0015】
(8) 前記溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、水、又は、これらの混合物である、(5)~(7)のいずれかに記載のガリウム粉分散液の製造方法。
【0016】
(9) (5)に記載のガリウム粉分散液の製造方法により得られたガリウム粉分散液を乾燥してガリウム粉を得る工程を含み、
前記ガリウム粉のSEM平均径が0.2以上2μm以下であり、かつ、前記ガリウム粉の表面に脂肪酸、アゾール化合物、アルケニルこはく酸、脂肪族アミン、又はそれらの塩もしくはそれらの無水物から選択される界面活性剤が付着していることを特徴とするガリウム粉の製造方法。
【0017】
(10) (1)に記載のガリウム粉と、溶媒とを有し、
前記ガリウム粉が前記溶媒中に分散していることを特徴とするガリウム粉分散液。
【0018】
(11) ガリウム粉と、銀粉と、溶剤と、ガラスフリットとを含有し、
前記ガリウム粉は、SEM平均径が0.2μm以上2μm以下であって表面に脂肪酸、アゾール化合物、アルケニルこはく酸、脂肪族アミン、又はそれらの塩もしくはそれらの無水物から選択される界面活性剤が付着していることを特徴とする導電性ペースト。
【0019】
(12) 前記銀粉に付着する表面処理剤の一部または全ての成分が、前記ガリウム粉に付着している界面活性剤の一部または全ての成分と同じである、(11)に記載の導電性ペースト。
【0020】
(13) 前記導電性ペーストにおいて、前記ガリウムが銀に対して0.01wt%以上4wt%以下含有される、(11)又は(12)に記載の導電性ペースト。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、小さい粒径のガリウム粉が得られると共に、低抵抗な電極が得られる導電性ペーストとすることが可能な当該ガリウム粉を含む混合粉を提供できる。また、製造が容易なガリウム粉分散液およびガリウム粉の製造方法を提供すると共に、ガリウム粉分散液、および低抵抗な電極が得られる導電性ペーストを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は本発明の実施例1におけるガリウム粉のSEM観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のガリウム粉分散液の製造方法により得られるガリウム粉分散液を乾燥することによって、本発明によるガリウム粉が得られる。ガリウム粉の表面には界面活性剤が付着している。混合粉末は本発明によるガリウム粉を含む。本発明によるガリウム粉を用いて本発明による導電性ペーストを得ることができる。まず、実施形態の説明に先立ち、本明細書における用語を説明する。
【0024】
-SEM平均径-
SEM平均径は、粒子のSEM粒径(Heywood径)を100個以上測定して求める。倍率を5,000倍としたSEM画像において、MOUNTECH社製の画像処理ソフトMac-View(Ver.4)を用いて、粒子の外形がはっきりと認識できる粒子100個以上に対して、Heywood径を計測することで平均値を算出することができ、本明細書ではこの測定方法を採用した。
【0025】
-付着した界面活性剤-
ガリウム粉の表面に付着して界面活性剤は、GC/MSによる定性分析により同定する。具体的には、ガリウム粉をHe気流中パイロライザーで加熱することでガリウム粉の表面に付着して界面活性剤を加熱脱着させ、脱着した界面活性剤をGC/MSで定性分析する。また、GC/MSで定性分析により界面活性剤の分子量及び炭素鎖長も同定することができる。
【0026】
以下、本発明によるガリウム粉分散液の製造方法の詳細を説明する。
【0027】
(ガリウム粉分散液の製造方法)
本発明によるガリウム粉分散液の製造方法は、ガリウム融液と、界面活性剤と、溶媒と、を攪拌してエマルション液を形成する第一工程と、エマルション液を冷却する第二工程と、を少なくとも含む。第1工程において、ガリウムは融液の状態であり固化していなので、溶媒と液-液分散しており、エマルションの状態である。金属のガリウムは融点が約30℃であり、室温まで冷却すれば容易に固化し、固体のガリウム粉になる。第二工程によりガリウム粉がアルコールなどの溶媒に分散している状態となって、ガリウム粉分散液が得られる。以下、各工程の詳細を説明する。
【0028】
<第一工程>
エマルション液を形成する第一工程では、まず、高純度ガリウム(4N以上)を融点以上の温度で温めてガリウム融液を得ればよい。そして、このガリウム融液を、好ましくは脂肪酸を含ませた溶媒中に入れる。さらに、ホモジナイザーなどの超音波振動機を用いて攪拌を行うことが好ましく、金属ガリウムを粒径の小さな液滴にすると共に、界面活性剤を液滴のガリウム表面に付着させて、液中に分散したエマルション液とすることが好ましい。超音波振動によって攪拌することにより、攪拌翼などの他の攪拌方法に比べて、得られる粒径を十分に小さくすることが容易である。ただし、液温が高くなりすぎると分散した金属ガリウムの液滴が集合しやすく、この現象を避けるため、攪拌中は液温を溶媒の融点以上70℃以下の範囲内となるようにすることが好ましい。
【0029】
<<ガリウム融液>>
ガリウム融液から得られる金属ガリウム液滴及びそれの固化により得られるガリウム粉は、主な成分元素がガリウムであって、ガリウムは元素濃度比で50%以上であり、好ましくは80%以上である。使用する界面活性剤や溶媒の沸点以下(例えば70℃以下、好ましくは60℃以下)において液体であればよい。ガリウム融液には、不可避的不純物のほか、p型不純物となりうる元素(例えば、B、Al、In、Zn等)やファイヤースルーのための元素(例えば、Te)が含まれていてもよく、ガリウムとそれらの元素との合金が含まれていてもよく、ガリウム粉にもこれら不純物及び合金態様が含まれうる。
【0030】
<<界面活性剤>>
本工程に用いる界面活性剤(分散剤ともいう)は、脂肪酸、アゾール化合物、アルケニルこはく酸、脂肪族アミン、又はそれらの塩もしくはそれらの無水物から選択される。複数の界面活性剤を使用しても良い。界面活性剤には、選択される成分を主成分とする試薬を使用でき、試薬には他の成分が含まれていてもよい。このような界面活性剤の例は、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸のほか、ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、ベンゾトリアゾール、ドデセニルこはく酸無水物、ペンタデセニルこはく酸無水物、ステアリルアミンなどである。特に、焼成後に残留しにくい界面活性剤として、カルボキシ基またはアミノ基を有する界面活性剤とすることが好ましく、銀粉に使用される公知の脂肪酸や脂肪族アミンを用いることも好ましい。界面活性剤は、脂肪酸または脂肪族アミンとすることが好ましい。界面活性剤は、炭素鎖長が10以上であることがより好ましい。
【0031】
ここで、ガリウム粉分散液又はガリウム粉を導電性ペーストに用いた場合、ガリウムの表面に付着させる界面活性剤は導電性ペーストにも含まれることになる。このことを考えると、界面活性剤の成分は、導電性ペーストを塗布して焼成した後の導電膜中に不純物として残留しにくいものであることが好ましく、界面活性剤はリン及び硫黄成分が少ないまたは不含有であることが好ましい。リン酸系、スルホン酸系、チオール系の界面活性剤は、ガリウム分散に非常に有効である一方、焼成後にリン酸塩や硫酸塩の形で残留するので、特に太陽電池の電極用導電性ペーストとした場合、特性低下だけでなく、信頼性を悪化させるおそれもある。また、本工程に用いる界面活性剤の分子量を100以上1000以下とすることが好ましい。太陽電池等における導電膜の焼成においては、焼成時間が数十秒と非常に短時間であるため、界面活性剤の種類によっては、特に分子量が1000を超えるポリマーの場合、脱バインダーが完全に終わらないおそれがあるためである。
【0032】
<<溶媒>>
本工程に用いる溶媒は、上記の界面活性剤を溶解させることができる溶媒であれば特に制限されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、水、又は、これらの混合物を用いることが好ましい。
【0033】
<第二工程>
第一工程に続く第二工程では、エマルション液を冷却する。この冷却により、ガリウムが固化し、ガリウム粉の状態で溶媒に分散したガリウム粉分散液を得ることができる。エマルション液を冷却するためには、第1工程による攪拌の後は、室温まで放冷し、又は、冷蔵庫内にエマルション液を入れて冷却して液滴を固化し、ガリウム粉分散液とすることが好ましい。なお、ガリウム粉分散液を得た後は、ガリウム粉分散液の状態で保管することが好ましい。このガリウム粉分散液からガリウム粉を得ることができる。
【0034】
(ガリウム粉の製造方法)
すなわち、本発明によるガリウム粉の製造方法は、上述したガリウム粉分散液の製造方法により得られたガリウム粉分散液を乾燥してガリウム粉を得る工程を含む。上記ガリウム粉分散液に対して、ガリウム粉の融点以下の温度で乾燥させることによって、ガリウム粉が得られる。乾燥に先立ち、ガリウム粉分散液のろ過を行ってもよい。また、乾燥の後に、得られる粉体に対して解砕工程、分級工程を施してもよい。得られたガリウム粉は、そのSEM平均径が0.2μm以上2μm以下であり、特に、ガリウム粉の表面に脂肪酸、アゾール化合物、アルケニルこはく酸、脂肪族アミン、又はそれらの塩もしくはそれらの無水物から選択される界面活性剤が付着していることが好ましい。脂肪酸又は脂肪族アミンが付着していることがより好ましく、その脂肪酸又は脂肪族アミンは、炭素鎖長が10以上であることがさらに好ましい。ガリウム粉の表面の界面活性剤は、硫黄及びリンの含有量は少ないまたは不含有であることがさらに好ましく、分子量100以上1000以下の界面活性剤であることがさらに好ましい。
【0035】
(ガリウム粉)
上記ガリウム粉の製造方法により得られるガリウム粉は、そのSEM平均径が0.2以上2μm以下であり、脂肪酸、アゾール化合物、アルケニルこはく酸、脂肪族アミン、又はそれらの塩もしくはそれらの無水物から選択される界面活性剤が表面に付着している。界面活性剤は上記以外の他の成分が含有されていても良い。硫黄及びリンの含有量は少ないまたは不含有であることが好ましく、分子量100以上1000以下の界面活性剤であることが好ましい。界面活性剤として使用される脂肪酸又は脂肪族アミンは、炭素鎖長が10以上であることがより好ましい。このガリウム粉が、溶媒中に分散したガリウム粉分散液とすることもできる。
【0036】
(ガリウム粉分散液)
すなわち、本発明によるガリウム粉分散液は、上述したガリウム粉と、溶媒とを有し、このガリウム粉が上記溶媒中に分散している。溶媒は、前掲したものと同様に、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、水、又は、これらの混合物などを使用することができる。ガリウム粉分散液の溶媒は、密閉容器中に当該溶媒を入れ、加熱して気化した成分をヘッドスペースガスクロマトグラフ質量分析(HS-GC/MS)することで、定性分析可能である。また、水に有機溶媒を一定量入れ、同様にHS-GC/MSを行えば、ガリウムを水中に残したまま有機溶媒のみを気化させて定量可能である。ガリウム粉分散液中のガリウム粉の平均径は、ガリウム粉分散液を冷風で乾燥させて得たガリウム粉について、上記のようにSEM平均径を測定した値と同じとすることができ、0.2以上2μm以下であることが好ましい。
【0037】
(混合粉)
本発明による混合粉は、ガリウム粉と、銀粉とを混合したものである。ガリウム粉は上述のものであって、SEM平均径が0.2μm以上2μm以下であり、脂肪酸、アゾール化合物、アルケニルこはく酸、脂肪族アミン、又はそれらの塩もしくはそれらの無水物から選択される界面活性剤が表面に付着している。銀粉は、SEM平均径が0.2μm以上5μm以下である。銀粉のSEM平均径は、2μm以下であることがより好ましい。混合粉の状態におけるガリウム粉と銀粉のそれぞれのSEM平均径の測定は、SEM-EDS測定のマッピングによって銀粒子とガリウム粒子とを区別しつつ、SEM粒径(Heywood径)を測定すれば良い。銀粉は、レーザー回折法による体積基準のメジアン径(D50)が0.2μm以上5μm以下である銀粉であってよい。
【0038】
前記銀粉に付着する表面処理剤の一部または全ての成分が、前記ガリウム粉に付着している界面活性剤の一部または全ての成分の同じであることが好ましい。表面処理剤と界面活性剤の成分を一部同一または全部同一とすることで、混合粉をフィラーとして導電性ペースト中に用いた場合に、悪影響を及ぼす成分が混入する恐れが無いためである。
【0039】
また、ガリウムが銀に対して0.01wt%以上4wt%以下含有される混合粉であることが好ましく、ガリウムが銀に対して0.2wt%以上2wt%以下含有される混合粉であることがより好ましい。ガリウムの混合割合が4wt%を超えて多いと、抵抗値が悪化する恐れがあるためである。銀に対するガリウムの量は混合粉をICP分析することによってガリウムと銀を定量分析して求めることができる。
【0040】
(導電性ペースト)
次に、本発明によるガリウム含有銀粉を用いた導電性ペーストを説明する。本発明による導電性ペーストは、ガリウム粉と、銀粉と、溶剤と、ガラスフリットとを少なくとも含む。このガリウム粉は上述した本発明によるガリウム粉であり、SEM平均径が0.2μm以上2μm以下であり、脂肪酸、アゾール化合物、アルケニルこはく酸、脂肪族アミン、又はそれらの塩もしくはそれらの無水物から選択される界面活性剤が付着している。銀粉に付着する表面処理剤において、ガリウム粉に付着している界面活性剤と一部が同一、または全部が同一の成分であることがより好ましい。この導線性ペーストは、太陽電池の電極形成用の導電性ペーストに供して好適である。そして、導電性ペーストにおいて、ガリウムが銀に対して0.01wt%以上4wt%以下含有されることが好ましく、0.2wt%以上2wt%以下含有されることがより好ましい。ガリウムの混合割合が4wt%を超えて多いと、抵抗値が悪化する恐れがある。導電性ペーストにおいて「ガリウムを含有する」ことを確認する方法は、ICP分析により行うことができる。ただし、導電性ペーストは、有機溶剤・樹脂も含有されるため、ICP分析を行う際には予めこれらを除去する前処理を行うことが好ましい。例えば、アセトン等の多量の有機溶媒に、導電ペーストを分散・溶解し、それをろ過・洗浄することにより採取した固形分を、硝酸・塩酸で溶解することで、ICP分析を実施することができる。銀やガリウム成分は、有機溶媒では溶出しないため、採取した固形分の溶解液をICP分析することで、ガリウム量と銀量を定量分析し、銀に対するガリウム量を測定することもできる。
【0041】
<フィラー>
ガリウム粉と、銀粉とによりフィラーを構成することができる。フィラーはアルミ粉などの他の金属粉を含んでいてもよい。導電性ペーストにおけるフィラーの含有率は、65質量%以上95質量%以下が好ましい。
【0042】
<溶剤>
溶剤は特に制限されず、例えば、テルピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テキサノール等である。溶剤は、2種以上を同時に用いてもよい。導電性ペーストにおける溶剤の含有率は、1質量%以上40質量%以下が好ましい。
【0043】
<ガラスフリット>
ガラスフリットは特に制限されず、550℃以下の軟化点を有するものが好ましい。ガラスフリットの形状は特に限定されず、球状でも、不定球状でもよい。導電性ペーストにおけるガラスフリットの含有率は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0044】
<任意含有物>
導電性ペーストは、さらに、樹脂、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤を含んでもよい。
【0045】
上述の導電性ペーストは、本発明によるガリウム含有銀粉をフィラーとして用いること以外に関しては、一般的な手法により製造することができる。例えば、フィラー、溶剤及びガラスフリットを少なくとも含むペースト組成を適宜調整する。その後、ペースト組成を混合し、撹拌機にて予備混錬した後、3本ロールなどで混錬することで、導電性ペーストを得ることができる。分散及び混錬を行う際には、超音波分散、ディスパー、三本ロール、ボールミル、ビーズミル、二軸ニーダー、自公転式攪拌機などを用いてもよい。得られた導電性ペーストを、例えば、スクリーン印刷、オフセット印刷、フォトリソグラフィ法、インクジェット印刷などにより基板上に印刷すれば、所望の形状の導電膜を形成することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら
限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
まず、純度99.99%の固体状態の金属ガリウム(DOWAエレクトロニクス製)を、60℃の温浴中で温めることで、液化させた。また、ステアリン酸(界面活性剤として使用、FUJIFILM製;試薬特級)を1重量%溶解させたイソプロピルアルコール(FUJIFILM製;和光一級)溶液20g(室温)を用意した。このイソプロピルアルコール溶液に、液化したガリウム1gを分取し添加し、ガリウム含有液を得た。このガリウム含有液に対し、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所製 型番:US-600AT)を用いて超音波分散処理を実施した。その際、超音波照射による発熱によりガリウム含有液の温度が70℃を超えないよう、水浴で冷やすと共に、途中冷却時間を取りながら、間欠的に計5分間の超音波分散処理を行い、金属ガリウム液滴が分散したエマルション液を得た。液温は40℃程度であり、ビーカーの底にガリウムが溜まらない状態となるまで超音波分散を行った。その後、この分散処理を停止して室温まで放置することで、ガリウム液滴を分散したまま固化させ、ガリウム粉分散液を得た。なお、超音波分散中の装置出力は、分散状態及び液温の影響を受けるため一定ではなく、150W~250Wの間で変化していた。
【0048】
得られたガリウム粉分散液を評価するため、金属ガリウム液滴が分散したエマルション液の状態で分取し、冷蔵庫で冷却して、得られたガリウム粉分散液を冷風で乾燥させてガリウム粉を取得した。SEMを用いて5000倍の倍率で観察したガリウム粉のSEM写真を
図1に示す。また、得られたSEM観察像に対し、画像処理ソフト(MOUNTECH社製 Mac-View Ver.4)を用いて、粒子の輪郭がはっきりしている100個以上の粒子に対してHeywood径を測定し、その平均値をSEM平均径とした。ガリウム粉のSEM平均径は0.9μmであった。
【0049】
(導電性ペーストの作製)
球状銀粉(DOWAエレクトロニクス製 AG4-8FD、SEM平均径1.3μm)と上記の実施例1におけるガリウム粉分散液を0.2μmメンブランフィルターで加圧ろ過し、室温で30分間真空乾燥させたガリウム粉(SEM平均径0.9μm)を、フィラー中のガリウム粉の割合が1wt%となるように混合して混合粉を得て、フィラーとして用いた。このフィラーを用いて、以下の表1に示すペースト組成にて導電性ペーストを作製した。導電性ペースト中の銀に対するガリウム含有比率は1.01wt%である。使用した球状銀粉の表面に付着している表面処理剤の主成分はステアリン酸であり、これは、ガリウム粉の表面に付着している界面活性剤の成分と同じである。また、使用した球状銀粉について、マイクロトラック粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、装置名:MT-3300EXII)を用いて、レーザー回折法湿式サンプル測定により粒度分布の測定を行った。そのレーザー回折法による体積基準のメジアン径(D50)は、1.89μmであった。
【0050】
【0051】
これらを混合し、自公転撹拌機(公転1000rpm)の条件にて予備混錬した。予備混錬後、3本ロール(Exact製)にて混錬し、導電性ペーストとした。
【0052】
(抵抗測定)
作製した導電性ペーストを用いて、スクリーン印刷により直線形状を印刷した。直線の設計線幅はそれぞれ10,12,14,16,18,20μmであり、直線の長さは150mmとした。印刷にはマイクロテック製印刷機を使用し、スキージ速度350mm/sで印刷した。印刷には厚み170μm程度のシリコン基板(太陽電池用途、テクスチャ形成・SiNx成膜済み)を使用した。印刷後、温度を200℃に設定した乾燥機中で5分間乾燥させた。サンプルの焼成には太陽電池焼成炉(NGK製)を使用し、ウェハ上面のピーク温度が400℃及び700℃のそれぞれとなるように炉を設定した。焼成後の印刷電極の抵抗値は、印刷電極の両端に測定端子をあて、デジタルマルチメーター(株式会社エーディーシー製)にて測定した。
【0053】
(比較例)
導電性ペーストに用いるフィラーを、DOWAエレクトロニクス製;球状銀粉AG4-8FDと、Al粉(平均粒径5μm)とを導電性ペーストに用いるフィラーとして用いた。また、フィラー中のAl粉の割合が1wt%となるように混合した。その他の条件は実施例1と同様にして導電性ペーストを作製して当該導電性ペーストを、印刷し、焼成した後の印刷電極の抵抗値を測定した。導電性ペースト中の銀に対するアルミニウム含有比率は1.01wt%である。
【0054】
上記の実施例、比較例における、線幅18μmのときの抵抗値について、以下の表2に示す。
【0055】
【0056】
400℃の低温焼成では、比較例に対して、実施例1によるガリウム粉を用いることで低抵抗化することができた。
【0057】
700℃の高温焼成は、Alの融点が660℃であるため、Alが太陽電池のp型半導体層との界面に届きやすい温度である。比較例のようにAl粉を銀粉に混合した場合、大幅に抵抗値が増加してしまうことが分かった。しかしながら、実施例1によるガリウム粉を添加した実施例1では、そのような大幅な高抵抗化は見られないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、小さい粒径のガリウム粉が得られると共に、低抵抗な電極が得られる導電性ペーストとすることが可能な当該ガリウム粉を含む混合粉を提供できる。また、製造が容易なガリウム粉分散液およびガリウム粉の製造方法を提供すると共に、ガリウム粉分散液、および低抵抗な電極が得られる導電性ペーストを提供することができる。