(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】圧力センサの調整方法および液体クロマトグラフ分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 30/32 20060101AFI20241029BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
G01N30/32 A
G01N30/26 M
(21)【出願番号】P 2023520966
(86)(22)【出願日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2022019008
(87)【国際公開番号】W WO2022239652
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2021081638
(32)【優先日】2021-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】青柳 翔大
(72)【発明者】
【氏名】秋枝 大介
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 翔
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/171240(WO,A1)
【文献】特開2020-94817(JP,A)
【文献】特開2018-31630(JP,A)
【文献】国際公開第2015/033664(WO,A1)
【文献】特開2001-174445(JP,A)
【文献】特開平10-148631(JP,A)
【文献】特開平8-240578(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0168956(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0020308(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 - 30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラム設置部と、前記カラム設置部に設置されたカラムに移動相を送液する送液装置と、前記送液装置から前記カラム設置部に設置されたカラムに至る流路の圧力を検出する圧力センサとを備える液体クロマトグラフ分析装置における圧力センサの調整方法において、
前記流路を大気開放状態にして、または、前記カラム設置部に充填剤が充填されていない第1のカラムを設置して測定した前記圧力センサの第1出力値P1を取得する第1の工程と、
前記カラム設置部に既知の圧力抵抗Psを有する第2のカラムを設置して測定した前記圧力センサの第2出力値P2を取得する第2の工程と、
前記第1出力値P1及び前記第2出力値P2を用いて、前記圧力センサのゲインを更新するゲイン更新工程とを有する圧力センサの調整方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記ゲイン更新工程は、前記第2出力値P2と前記第1出力値P1の差分と前記圧力抵抗Psとの差が許容範囲を超える場合に実行される圧力センサの調整方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記圧力センサは検知した圧力値P
rを圧力補正式により補正して、補正後出力値P
mとして出力する圧力センサであり、
前記圧力センサのゲインK
G、オフセットK
Oとして、前記圧力補正式はP
m=K
G(P
r-K
O)と表される圧力センサの調整方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記第1の工程において、前記圧力センサのオフセットK
Oを更新する圧力センサの調整方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記ゲイン更新工程において、更新前の前記圧力センサのゲインK
GをK1、更新後の前記圧力センサのゲインK
GをK2とするとき、
K2=K1×Ps/(P2-P1)
とする圧力センサの調整方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記ゲイン更新工程の実行後に、再度前記第1の工程と前記第2の工程を実行し、再度の前記第1の工程及び前記第2の工程により得られた前記第2出力値P2と前記第1出力値P1の差分と前記圧力抵抗Psとの差が許容範囲を超える場合には異常を報知する圧力センサの調整方法。
【請求項7】
請求項1において、
前記液体クロマトグラフ分析装置は、複数の前記カラム設置部と、複数の前記カラム設置部に設置されたカラムのいずれか一つを前記流路に接続するカラム切替バルブとを備えるカラムユニットを備え、
前記カラムユニットのある前記カラム設置部には充填剤が充填された第3のカラムが、他の前記カラム設置部には前記第2のカラムが少なくとも設置されている圧力センサの調整方法。
【請求項8】
カラム設置部と、
前記カラム設置部に設置されたカラムに移動相を送液する送液装置と、
前記送液装置から前記カラム設置部に設置されたカラムに至る流路の圧力を検出する圧力センサと、
前記圧力センサの調整を行う制御部とを有し、
前記制御部は、
前記流路を大気開放状態にして、または、前記カラム設置部に充填剤が充填されていない第1のカラムを設置して測定された前記圧力センサの第1出力値P1を取得し、
前記カラム設置部に既知の圧力抵抗Psを有する第2のカラムを設置して測定された前記圧力センサの第2出力値P2を取得し、
前記第1出力値P1及び前記第2出力値P2を用いて、前記圧力センサのゲインを更新する液体クロマトグラフ分析装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記圧力センサは検知した圧力値P
rを圧力補正式により補正して、補正後出力値P
mとして出力する圧力センサであり、
前記圧力センサのゲインK
G、オフセットK
Oとして、前記圧力補正式はP
m=K
G(P
r-K
O)と表される液体クロマトグラフ分析装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記制御部は、更新前の前記圧力センサのゲインK
GをK1、更新後の前記圧力センサのゲインK
GをK2とするとき、
K2=K1×Ps/(P2-P1)
とする液体クロマトグラフ分析装置。
【請求項11】
請求項8において、
複数の前記カラム設置部と、複数の前記カラム設置部に設置されたカラムのいずれか一つを前記流路に接続するカラム切替バルブとを備えるカラムユニットを有する液体クロマトグラフ分析装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記カラムユニットのある前記カラム設置部には充填剤が充填された第3のカラムが、他の前記カラム設置部には前記第2のカラムが少なくとも設置され、
前記制御部は、前記第2出力値P2を取得するために、前記カラム切替バルブを、前記流路が前記第2のカラムに接続されるよう切り替える液体クロマトグラフ分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧力センサの調整方法および液体クロマトグラフ分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ(LC:Liquid Chromatograph)は、試料を分離するカラムに送出される移動相として液体を用いるクロマトグラフである。注入部から分析流路に導入される測定対象を含む液体試料は、移動相によってカラムまで送液される。カラムに充填された固定相(充填剤)と移動相との親和性の差を用いて、液体試料が複数の成分に分離される。分離された各成分は、紫外・可視吸光光度計、蛍光光度計、質量分析計などの検出器を用いて検出される。
【0003】
高性能液体クロマトグラフ(HPLC:High Performance Liquid Chromatograph)と呼ばれる液体クロマトグラフは、分析時間の短縮や分離性能の向上を目的として、カラムの充填材の粒子径を小さくし、送液装置により高圧で圧縮された液体を用いて分析を行う。特に粒子径2 μm以下の充填材を使用したカラムを用いた液体クロマトグラフは、超高性能液体クロマトグラフ(UHPLC:Ultra High Performance Liquid Chromatograph)と呼ばれている。
【0004】
液体クロマトグラフは、カラムの充填材の粒子径を微小化することによる性能向上に対応した結果、液体クロマトグラフを構成する装置や流路、特にカラム上流側の装置と流路において高い耐圧性能が求められている。装置の高圧化が進むに伴い、高圧環境下における送液装置や分析流路からの圧力リークが分析性能に与える影響が大きくなるためである。そのため、送液装置や分析流路の圧力を検出する圧力センサの信頼性が求められる。
【0005】
圧力センサの性能が経時変化や故障により劣化すると、送液装置が所望の性能を満たさないおそれがあるため、定期的な検査・調整を行うことが望ましい。従来、装置使用者が圧力センサのメンテナンスとして行うのは主にオフセット調整である(特許文献1)。これに対して、圧力センサのゲイン調整は専門知識を有した技術者が、外付けの圧力計等の専用設備を使用して作業を行っており、実施が容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
圧力センサの検査・調整を、複雑な機構を追加することなく、容易に実行することを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
カラム設置部と、カラム設置部に設置されたカラムに移動相を送液する送液装置と、送液装置からカラム設置部に設置されたカラムに至る流路の圧力を検出する圧力センサとを備える液体クロマトグラフ分析装置における圧力センサの調整方法において、
流路を大気開放状態にして、または、カラム設置部に充填剤が充填されていない第1のカラムを設置して測定した圧力センサの第1出力値P1を取得する第1の工程と、カラム設置部に既知の圧力抵抗Psを有する第2のカラムを設置して測定した圧力センサの第2出力値P2を取得する第2の工程と、第1出力値P1及び第2出力値P2を用いて、圧力センサのゲインを更新するゲイン更新工程とを有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、圧力センサの検査・調整を複雑な機構を追加することなく容易に実行することを可能にした液体クロマトグラフ分析装置、及び圧力センサの調整方法を提供する。
【0010】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1に係る液体クロマトグラフ分析装置の概略構成図である。
【
図2】圧力センサ検査・調整手順のフローチャートである。
【
図3】圧力補正式ゲイン更新処理を説明するための図である。
【
図4】実施例2に係る液体クロマトグラフ分析装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0012】
図1の概略図を参照して、液体クロマトグラフ分析装置100の構成例を説明する。液体クロマトグラフ分析装置100は、移動相タンク101、送液部102、試料導入部103、カラム設置部104、検出器105、制御部112、操作部113、及び表示部114から大略構成されている。
【0013】
送液部102は、一例として、送液装置106と、圧力センサ107と、流路切替バルブ108と、送液流路C0と、分析流路C1と、排液流路C2とを備える。送液装置106は、試料の搬送や分離に使用される移動相を移動相タンク101から吸引し、高圧圧縮して吐出する。送液部102として、1台の送液装置106により1種類の移動相または複数種の移動相を混ぜて送液する構成例を示している。
【0014】
圧力センサ107は、送液部102の移動相を送液する送液流路C0からカラム設置部に設置されたカラムに至る配管内の圧力を検出する。流路切替バルブ108は、送液装置106の下流側に接続され、送液流路C0を、試料導入部103へと接続された分析流路C1、または排液流路C2に選択的に接続する。
【0015】
カラム設置部104は、分析時には分離カラム109、圧力センサ107の検査・調整時には空カラム110あるいは圧力抵抗が既知であるカラム111に取り換え可能になっている。分離カラム109、空カラム110、圧力抵抗が既知であるカラム111はいずれも試料導入部103と分析流路C3を介して接続される。カラム111の圧力抵抗値はPsである。分析時には、カラム設置部104に設置された分離カラム109は、試料導入部103から移動相により導入された試料を各成分に分離させる。検出器105は、カラム設置部104の下流に接続され、分離カラム109において分離された試料の各成分を検出する。
【0016】
制御部112は、送液部102、試料導入部103、カラム設置部104、及び検出器105を制御して、液体クロマトグラフデータの取得、及び圧力センサ検査・調整のためのデータ処理を行う。操作部113は、例えばキーボード、テンキー、マウス等の入力装置を含み、ユーザは、装置に関する各種の指示を制御部112に入力する。表示部114は、分析条件や分析結果を表示させるための装置であり、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどから構成される。
【0017】
図2のフローチャートを参照して、制御部112が実行する実施例1の圧力センサ107の検査・調整手順について説明する。
【0018】
第1工程(ステップS201、ステップS205)では、流路切替バルブ108を排液流路C2側に切り替え、圧力センサ107が設けられた流路を大気開放状態とした状態で圧力センサ107の出力値P1を取得する。または、カラム設置部104に圧力抵抗が限りなくゼロに近いカラム内に充填剤が充填されていない空カラム110を設置し、規定の送液条件で送液したときの圧力センサ107の出力値P1を取得する。規定の送液条件とは液体クロマトグラフ分析装置100で分析を行うときの送液条件とする。後述する第2工程においても同じである。いずれの場合も、出力値P1の真値は0である。
【0019】
第2工程(ステップS202、ステップS206)では、カラム設置部104に圧力抵抗が既知(Ps)であるカラム111を設置し、規定の送液条件で送液したときの圧力センサ107の出力値P2を取得する。
【0020】
圧力センサ出力値判定(ステップS203、ステップS207)では、(式1)により許容範囲(±Pd)内であるかを判定する。
-Pd<(P2-P1)-Ps<+Pd (式1)
(式1)は、第2工程で取得した圧力センサ107の出力値P2と第1工程で取得した圧力センサ107の出力値P1の差分(P2-P1)が真の値(Ps-0)に対して、許容範囲(±Pd)内であるか判定するものである。
【0021】
ステップS203において、圧力センサの出力値が許容範囲内の場合は正常終了し、圧力センサの出力値が許容範囲外であると判定された場合には、圧力補正式のゲインを更新する。
【0022】
図3を用いて圧力補正式ゲイン更新(ステップS204)の処理を説明する。圧力センサ107は検知した圧力値を圧力補正式により補正して出力する。圧力センサ107の圧力補正式は、補正前の圧力センサ107出力値(検知した値)をP
r、補正後の圧力センサ107出力値をP
m、ゲインをK
G、オフセットをK
Oとして以下の(式2)で表される。
P
m=K
G(P
r-K
O) (式2)
補正前の圧力センサ107の出力値P
rが(式2)で表される圧力補正式により補正された出力値P
mが真値を示すように、ゲインK
Gを更新する。なお、オフセットK
Oについては、第1工程において0=P
m=P
r-K
Oを満たすよう算出され、更新されている。
【0023】
第2工程における補正前出力値Pr=P0とする。第2工程(ステップS202)では更新前の圧力補正式により出力値P2が算出されている。更新前の圧力補正式におけるゲインKG=K1とすると、
(P2-P1)=Pm=K1(P0-KO) (式3)
となっている。
【0024】
圧力補正式ゲイン更新では、更新後の圧力補正式におけるゲインKG=K2とすると、カラム111の圧力抵抗値の真値がPsであるから、
(Ps-0)=Pm=K2(P0-KO) (式4)
となるように、ゲインKGを定めればよい。
【0025】
したがって、更新後ゲインK2とは(式5)を用いて更新することができる。
K2=K1×Ps/(P2-P1) (式5)
(式5)は(式3)と(式4)より、導くことができる。
【0026】
圧力補正式ゲイン更新(ステップS204)後に、第1工程(ステップS205)、第2工程(ステップS206)、圧力センサ出力値判定(ステップS207)を再度実施し、圧力センサ出力値判定(ステップS207)が許容範囲内の場合は正常終了する。許容範囲外の場合は圧力センサ異常を報知する。この場合は、圧力センサ107に異常が発生している可能性と、送液装置106におけるリークなどの異常が生じている可能性が考えられる。
【0027】
なお、第1工程で大気開放または空カラム110を使用する例を示したが、圧力補正は2点補正のため、低圧時の圧力センサ107の出力値と、高圧時の圧力センサ107の出力値と、それぞれの基準となる圧力値があれば補正可能である。そのため、空カラム110の代わりに、第2工程(ステップS202、ステップS206)で使用する圧力抵抗が既知であるカラム111よりも圧力抵抗が小さい、圧力抵抗が既知のカラムを使用しても圧力補正は可能である。
【0028】
このように、カラム設置部に取り付けてある分離カラムを空カラムや圧力抵抗が既知であるカラムに取り換えるのみで、専門の知識を必要とせず、複雑な機構を追加することなく、圧力センサ107のゲイン調整を容易に実行することができる。
【実施例2】
【0029】
次に、実施例2の液体クロマトグラフ分析装置100Aを、
図4を参照して説明する。
図4において、実施例1と同一の構成要素については同一の参照符号を付し、以下において重複する説明は省略する。液体クロマトグラフ分析装置100Aは、移動相タンク101、送液部102、試料導入部103、カラムユニット116、検出器105、制御部112、操作部113、及び表示部114から大略構成されている。
【0030】
カラムユニット116は、分離カラム109、空カラム110、圧力抵抗が既知であるカラム111を選択的に分析流路に接続するためのカラム切替バルブ115A、115Bをカラム設置部104A~Cの上流側と下流側に備えている。
【0031】
圧力センサ107の検査・調整は実施例1と同様の手順で行われる。ただし、第1工程(ステップS201、ステップS205)を行う際には、カラムユニット116において空カラム110を分析流路に接続し、第2工程(ステップS202、ステップS206)を行う際には、カラムユニット116において圧力抵抗が既知であるカラム111を分析流路に接続する。
【0032】
これにより、カラムの切り替えをカラム切替バルブ115A、115Bによる流路の選択により行うことができるため、人手によるカラムの切り替え作業を不要とし、圧力センサ107検査・調整を制御部112が自動で行うことが可能になる。
【符号の説明】
【0033】
100、100A…液体クロマトグラフ分析装置、101…移動相タンク、102…送液部、103…試料導入部、104、104A、104B、104C…カラム設置部、105…検出器、106…送液装置、107…圧力センサ、108…流路切替バルブ、109…分離カラム、110…空カラム、111…圧力抵抗が既知であるカラム、112…制御部、113…操作部、114…表示部、115A、115B…カラム切替バルブ、116…カラムユニット。