(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】通信装置及び通信方法
(51)【国際特許分類】
H04B 10/61 20130101AFI20241030BHJP
H04B 10/077 20130101ALI20241030BHJP
【FI】
H04B10/61
H04B10/077
(21)【出願番号】P 2022579227
(86)(22)【出願日】2021-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2021004050
(87)【国際公開番号】W WO2022168218
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム サンヨプ
(72)【発明者】
【氏名】可児 淳一
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/022268(WO,A1)
【文献】特開2014-241483(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0183520(US,A1)
【文献】Sang-Yuep Kim et al.,Performance Analysis of Phase Noise Cancellation by Asymmetric CMA for Realizing Affordable Coherent PON Transceivers,Journal of Lightwave Technology,IEEE,2020年01月13日,Vol.38, Issue 8,pages 2231 - 2241
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/61
H04B 10/077
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光加入者線端局装置である第1の通信装置と、光加入者線終端装置である第2の通信装置であって、互いに異なるレーザ光源を有し前記レーザ光源から出力されるレーザ光を前記第1の通信装置の局部発振光源から出力される局部発振光に波長同期させて多値変調することでバーストフレーム信号をそれぞれ生成する複数の前記第2の通信装置と、を有する時分割多元多重受動光ネットワークの前記第1の通信装置であって、
前記局部発振光源を用いて、複数の
前記第2の通信装置から
それぞれ送信された前記バーストフレーム信号を
コヒーレント受信する受信部と、
受信された前記バーストフレーム信号のプリアンブルから位相雑音量を測定する測定部と、
受信された前記バーストフレーム信号ごとに、前記バーストフレーム信号の
前記位相雑音量を最小化させるように
、コヒーレント受信器の搬送波位相同期における移動平均フィルタのブロック長を変化させる制御部と、
を備える通信装置。
【請求項2】
前記バーストフレーム信号の前記プリアンブルは、オンオフキーイング変調がなされた信号である
請求項
1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記測定部は、前記プリアンブルのうち光パワーが存在するオン状態のデータのみを時系列に選択し、選択された時系列の前記データにおいて隣接する2つの前記データに対し所定の演算処理を行うことにより算出される位相差の分散値を前記位相雑音量とする
請求項1又は2に記載の通信装置。
【請求項4】
光加入者線端局装置である第1の通信装置と、光加入者線終端装置である第2の通信装置であって、互いに異なるレーザ光源を有し前記レーザ光源から出力されるレーザ光を前記第1の通信装置の局部発振光源から出力される局部発振光に波長同期させて多値変調することでバーストフレーム信号をそれぞれ生成する複数の前記第2の通信装置と、を有する時分割多元多重受動光ネットワークの前記第1の通信装置であって、
前記局部発振光源を用いて、複数の前記第2の通信装置からそれぞれ送信された前記バーストフレーム信号をコヒーレント受信する受信部と、
ディスカバリ動作の実行時の前記バーストフレーム信号か
ら位相雑音量を測定する測定部
と、
前記ディスカバリ動作の実行周期ごとに
、前記バーストフレーム信号の前記位相雑音量を最小化させるように、コヒーレント受信器の搬送波位相同期における移動平均フィルタのブロック長を変化させる
制御部と、
を備える通信装置。
【請求項5】
前記制御部は、動的帯域割当において用いられる各バーストフレーム信号の到着時間を示す情報に基づいて前記ブロック長を変化させる
請求項4に記載の通信装置。
【請求項6】
前記ディスカバリ動作の実行時のバーストフレーム信号は、オンオフキーイング変調がなされた信号である
請求項4又は請求項5に記載の通信装置。
【請求項7】
前記測定部は、前記ディスカバリ動作の実行時の前記バーストフレーム信号のうち光パワーが存在するオン状態のデータのみを時系列に選択し、選択された時系列の前記データにおいて隣接する2つの前記データに対し所定の演算処理を行うことにより算出される位相差の分散値を前記位相雑音量とする
請求項4から6のうちいずれか一項に記載の通信装置。
【請求項8】
偏波パイロットを用いて位相雑音を補償する補償部
をさらに備え、
前記制御部は、前記位相雑音量が所定値以上である場合、前記搬送波位相同期を行わず、前記補償部に前記位相雑音を補償させる
請求項1から
7のうちいずれか一項に記載の通信装置。
【請求項9】
光加入者線端局装置である第1の通信装置と、光加入者線終端装置である第2の通信装置であって、互いに異なるレーザ光源を有し前記レーザ光源から出力されるレーザ光を前記第1の通信装置の局部発振光源から出力される局部発振光に波長同期させて多値変調することでバーストフレーム信号をそれぞれ生成する複数の前記第2の通信装置と、を有する時分割多元多重受動光ネットワークの前記第1の通信装置による通信方法であって、
前記局部発振光源を用いて、複数の
前記第2の通信装置から
それぞれ送信された前記バーストフレーム信号を
コヒーレント受信する受信ステップと、
受信された前記バーストフレーム信号のプリアンブルから位相雑音量を測定する測定ステップと、
受信された前記バーストフレーム信号ごとに、前記バーストフレーム信号の
前記位相雑音量を最小化させるように
、コヒーレント受信器の搬送波位相同期における移動平均フィルタのブロック長を変化させる制御ステップと、
を有する通信方法。
【請求項10】
光加入者線端局装置である第1の通信装置と、光加入者線終端装置である第2の通信装置であって、互いに異なるレーザ光源を有し前記レーザ光源から出力されるレーザ光を前記第1の通信装置の局部発振光源から出力される局部発振光に波長同期させて多値変調することでバーストフレーム信号をそれぞれ生成する複数の前記第2の通信装置と、を有する時分割多元多重受動光ネットワークの前記第1の通信装置による通信方法であって、
前記局部発振光源を用いて、複数の前記第2の通信装置からそれぞれ送信された前記バーストフレーム信号をコヒーレント受信する受信ステップと、
ディスカバリ動作の実行時の前記バーストフレーム信号から位相雑音量を測定する測定ステップと、
前記ディスカバリ動作の実行周期ごとに、前記バーストフレーム信号の前記位相雑音量を最小化させるように、コヒーレント受信器の搬送波位相同期における移動平均フィルタのブロック長を変化させる制御ステップと、
を有する通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信装置及び通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光アクセスネットワークとして、IEEE802.3で標準化されたGE-PON、ITU-T G.984シリーズとして標準化されたG-PONが商用化されている。GE-PON、G-PONでは、複数の光ネットワークユニット(ONU)が光スプリッタを介して光回線終端装置(OLT)とポイントツーマルチポイント(P to MP)型の通信を行う。
【0003】
各ONUからの上り信号は、オン・オフの2値によるOn-Off Keying(OOK)で変調され、所定の時間スロットにバーストフレーム信号として送信される。複数のONUからの上りバーストフレーム信号は、時分割多重アクセス(TDMA:Time Division Multiple Access)により多重され、OLTへ送られる。OLTでは、直接検波により上り信号を受信する。
【0004】
ところで、GE-PONやG-PONなどのTDMA型PONでは、ONUが最初にPONに接続された際に、ディスカバリ(又はレンジング)と呼ばれる機能により、OLTはONUに識別情報(ONUのID)を付与し、また当該ONUからOLTまでの距離測定を行う。この情報を用いて、各ONUからのバーストフレーム信号のOLT到着時間が重複しないように、動的帯域割当(DBA)が行われる。
【0005】
次世代の光アクセス技術として、多値変調及びデジタルコヒーレント復調の光アクセスネットワークへの適用が検討されている。4値以上の位相・強度変調は、1シンボルに多数のビットを割り当てることが可能であるため、高速化に優れている。また、デジタルコヒーレント復調は、局部発振光のパワーから受信信号が増幅されるため、光スプリッタの分岐数拡大及び長延化に優れている。したがって、多値変調及びデジタルコヒーレント復調が適用されることにより、高速化と長延化とを両立させることが可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】K.Kasai, “Single-Channel 400-Gb/s OTDM-32 RZ/QAM Coherent Transmission Over 225 km Using an Optical Phase-Locked Loop Technique”, IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS, VOL.22, NO.8, APRIL 15, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポイントツーマルチポイント型PONの上り伝送において、時分割多重された各ONUのバーストフレーム信号がOLTにてコヒーレント受信される場合、各ONUのバーストフレーム信号は、発振特性の異なるレーザ光源からそれぞれ生成される。発振特性は、例えば、動作温度及び振動の状態の差異、電気・光デバイスの半導体製造上の理由等によって異なる。そのため、1つの局部発振光を持つOLTで受信した多値位相変調バーストフレーム信号には、ONUごとに異なる位相雑音が存在するという課題がある。これに対し、例えば非特許文献1に記載のOPLL(Optical Phase-Locked Loop)技術は、特殊なレーザ光源を用いて位相雑音を抑制するが、高精密な電気・光デバイスの使用の追加が前提とされるため、システム構成が複雑になり実現が困難であるという課題がある。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、システム構成の複雑化を抑えつつ、多値位相変調バーストフレーム信号に対してONUごとに異なる位相雑音を許すことができる通信装置及び通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、複数の他の通信装置からバーストフレーム信号をそれぞれコヒーレント受信する受信部と、前記バーストフレーム信号の位相雑音量を最小化させるように搬送波位相同期における移動平均フィルタのブロック長を変化させる制御部と、を備える通信装置である。
【0010】
本発明の一態様は、複数の他の通信装置からバーストフレーム信号をそれぞれコヒーレント受信する受信ステップと、前記バーストフレーム信号の位相雑音量を最小化させるように搬送波位相同期における移動平均フィルタのブロック長を変化させる制御ステップと、を有する通信方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、システム構成の複雑化を抑えつつ、多値位相変調バーストフレーム信号に対してONUごとに異なる位相雑音を許すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施形態におけるTDMA-PONシステム1の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態におけるOLT3の構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態におけるOLT3の動作を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の第2の実施形態におけるOLT3aの構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態におけるOLT3aの動作を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の第3の実施形態におけるOLT3bの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。以下の説明において、記号“^”の後に続く文字は上付き文字を表し、記号“_”の後に続く文字は下付き文字を表す。例えば、「A_B^C」は、上付き文字として「C」が付与されており、かつ、下付き文字として「B」が付与されている文字「A」を表す。
【0014】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0015】
[TDMA-PONシステムの構成]
以下、多値変調・コヒーレント受信が適用されたTDMA-PONシステム1の構成について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態におけるTDMA-PONシステム1の構成を示すブロック図である。
【0016】
図1に示されるように、TDMA-PONシステム1は、複数の多値ONU2と、OLT3と、複数の光パワースプリッタ4と、光ファイバ5とを含んで構成される。複数の多値ONU2とOLT3とは、光ファイバ5によって接続される。光ファイバ5は、光パワースプリッタ4によって、分岐・結合される。
【0017】
多値位相変調ONU2は、上りレーザ光源21と、波長ロッカー22と、多値変調部23とを含んで構成される。各々の多値位相変調ONU2は、互いに異なる上りレーザ光源21を有する。OLT3は、局部発振光源301を含んで構成される。
【0018】
波長ロッカー22は、上りレーザ光源21から出力されるレーザ光を、OLT3の局部発振光源301から出力される局部発振光に波長同期させる。
【0019】
多値変調部23は、波長ロッカー22から出力されたレーザ光を多値変調することで、上りバーストフレーム信号を生成する。上りバーストフレーム信号のプリアンブルには、位相雑音の影響を受けないOOK変調が用いられる。
【0020】
OLT3は、局部発振光源301を用いて、各々の多値位相変調ONU2から出力された上りバーストフレーム信号をコヒーレント受信する。
【0021】
[OLTの構成]
以下、OLT3の構成について説明する。
図2は本発明の第1の実施形態におけるOLT3の構成を示すブロック図である。
【0022】
本実施形態におけるOLT3は、各々の多値位相変調ONU2から送信された上りバーストフレーム信号のプリアンブルから位相雑音量を測定する。OLT3は、受信された上りバーストフレーム信号ごとに、当該上りバーストフレーム信号の位相雑音量を最小化するように、コヒーレント受信器の搬送波位相同期の移動平均フィルタのブロック長を可変制御する。
【0023】
なお、本実施形態においては、一例として、多値位相変調ONU2とOLT3とを有するTDMA-PONシステム1の構成の場合について説明するが、本発明を提供可能なシステムはこの構成に限られるものではない。例えば、PONシステムに限らず、Point-to-Multipoint構成、あるいは、Multipoint-to-Multipoint構成を有する、あらゆるバースト光通信網に対して本発明を適用することが可能である。
【0024】
図2に示されるように、OLT3は、コヒーレント受信器30を含んで構成される。コヒーレント受信器30は、デジタル信号処理部310を含んで構成される。デジタル信号処理部310は、x-偏波及びy-偏波それぞれの周波数オフセット補償部320と、x-偏波及びy-偏波それぞれの搬送波位相同期部330と、位相雑音量検出部340とを含んで構成される。
【0025】
搬送波位相同期部330は、移動平均フィルタ332を含んで構成される。位相雑音量検出部340は、振幅判定部341と、オンデータ選択部342と、位相差取得部343と、分散値計算部347と、σ_φ^2-Nテーブル348とを含んで構成される。
【0026】
位相雑音量検出部340は、時分割多重された上りバーストフレーム信号のプリアンブル区間の位相雑音量を測定する。
【0027】
位相雑音量検出部340の振幅判定部341は、周波数オフセット補償部320から出力された、時分割多重された上りバーストフレーム信号を取得する。振幅判定部341は、所定の閾値を用いて振幅判定を行いOOK変調された上りバーストフレーム信号のプリアンブルを抽出する。なお、閾値は例えば10[dB]に設定される。振幅判定部341は、抽出されたプリアンブルをオンデータ選択部342へ出力する。
【0028】
オンデータ選択部342は、振幅判定部341から出力されたプリアンブルを取得する。オンデータ選択部342は、取得されたプリアンブルのうち、光パワーが存在するオン状態のデータのみを時系列に選択する。以下、時系列のオン状態のデータをr(k)と表す。オンデータ選択部342は、選択された時系列のデータを位相差取得部343へ出力する。
【0029】
位相差取得部343は、オンデータ選択部342から出力された時系列のデータを取得する。位相差取得部343は、取得された時系列のデータにおいて、隣接する2つのデータに対し、arg{r(k)r*(k-1)}の演算式で定義される演算処理を連続的に行う。これにより、位相雑音量検出部340は、順次、位相差Δφ(k)を取得する。位相雑音量検出部340は、位相差Δφ(k)の値を、例えばメモリ等の記憶媒体(不図示)に記録する。
【0030】
分散値計算部347は、記憶媒体に記録された位相差Δφ(k)の値のデータ列を参照し、その分散値σ_φ^2を算出する。ここで、分散値σ_φ^2は、位相雑音量として定義される(例えば、以下の参考文献を参照。「参考文献: Y. Atzmon, et al., "Laser Phase Noise in Coherent and Differential Optical Transmission Revisited in the Polar Domain", Journal of Lightwave Technology, Vol.27, No.1, pp.19-29, January 1, 2009.」)。但し、位相雑音量検出部340における測定可能な位相差は、OOK変調にて最大2πである。
【0031】
搬送波位相同期部330の移動平均フィルタ332は、例えば熱雑音等のAWGN(Additive White Gaussian Noise)の影響を排除する。
【0032】
搬送波位相同期部330は、算出された分散値σ_φ^2と予め用意されているσ_φ^2-Nテーブル348を比較し、分散値σ_φ^2に当たるブロック長Nを取得する。つまり、搬送波位相同期部330は、位相雑音量検出部340によって測定された位相雑音量に応じて移動平均フィルタ332のブロック長Nを決定する。なお、搬送波位相同期部330は、上りバーストフレーム信号のプリアンブル区間においては、移動平均フィルタ332のブロック長Nの可変制御を行わない。
【0033】
搬送波位相同期部330は、上りバーストフレーム信号の多値位相変調されたペイロード区間に対し、上記決定された移動平均フィルタ332のブロック長Nを、フィードフォワードで適用する。なお、x-偏波とy-偏波との搬送波位相同期は、同一のブロック長Nが用いられる。
【0034】
このような構成により、多値位相変調されたペイロード区間に対し、最小化された位相雑音にて搬送波位相θ(k)が推定され、搬送波位相同期が正確に行われる。これにより、受信性能が向上する。
【0035】
[OLTの動作]
以下、OLT3の動作の一例について説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態におけるOLT3の動作を示すフローチャートである。
【0036】
OLT3のフロントエンド部300は、局部発振光源301を用いて、各々の多値位相変調ONU2から出力された上りバーストフレーム信号をコヒーレント受信する(ステップS001)。
【0037】
位相雑音量検出部340の振幅判定部341は、時分割多重された上りバーストフレーム信号を取得する。振幅判定部341は、所定の閾値を用いて振幅判定を行いOOK変調された上りバーストフレーム信号のプリアンブルを抽出する(ステップS002)。
【0038】
オンデータ選択部342は、振幅判定部341から出力されたプリアンブルを取得する。オンデータ選択部342は、取得されたプリアンブルのうち、光パワーが存在するオン状態のデータのみを時系列に選択する(ステップS003)。
【0039】
位相差取得部343は、オンデータ選択部342から出力された時系列のデータを取得する。位相差取得部343は、取得された時系列のデータにおいて、隣接する2つのデータに対し、arg{r(k)r*(k-1)}の演算式で定義される演算処理を連続的に行い、順次、位相差Δφ(k)を取得する(ステップS004)。
【0040】
分散値計算部347は、記憶媒体に記録された位相差Δφ(k)の値のデータ列を参照して分散値σ_φ^2を算出する(ステップS005)。なお前述の通り、分散値σ_φ^2は、位相雑音量として定義される。
【0041】
搬送波位相同期部330は、算出された分散値σ_φ^2と予め用意されているσ_φ^2-Nテーブル348を比較することで、位相雑音量検出部340によって測定された位相雑音量に応じて移動平均フィルタ332のブロック長Nを決定する(ステップS006)。
【0042】
搬送波位相同期部330は、上りバーストフレーム信号の多値位相変調されたペイロード区間に対し、上記決定された移動平均フィルタ332のブロック長Nを、フィードフォワードで適用する(ステップS007)。以上で、
図3のフローチャートが示すOLT3の動作が終了する。
【0043】
以上説明したように、第1の実施形態におけるOLT3は、各々の多値位相変調ONU2から送信された上りバーストフレーム信号のプリアンブルから位相雑音量を測定する。OLT3は、受信された上りバーストフレーム信号ごとに、当該上りバーストフレーム信号の位相雑音量を最小化するように、コヒーレント受信器の搬送波位相同期の移動平均フィルタのブロック長を可変制御する。
【0044】
このような構成を備えることで、本実施形態におけるOLT3は、1つの局部発振光を用いて、多値位相変調バーストフレーム信号に対してONUごとに異なる位相雑音を許すことができる。
【0045】
<第2の実施形態>
以下、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、本実施形態におけるTDMA-PONシステムの構成を示すブロック図は、
図1に示される第1の実施形態におけるTDMA-PONシステム1の構成を示すブロック図と同様であるため、説明を省略する。また、以下の説明においては、第1の実施形態におけるTDMA-PONシステム1の機能部と同一の機能部に対しては、同一の符号を付して説明する。
【0046】
本実施形態において、ディスカバリ(レンジング)動作時では、各多値位相変調ONU2から送信される上り信号には、位相雑音の影響を受けないOOK変調が用いられる。
【0047】
[OLTの構成]
以下、OLT3aの構成について説明する。
図4は本発明の第2の実施形態におけるOLT3aの構成を示すブロック図である。なお、以下では、OLT3aの構成のうち、前述の第1の実施形態におけるOLT3の構成と異なる部分を中心に説明する。
【0048】
本実施形態におけるOLT3aは、ディスカバリ(レンジング)動作時の上りバーストフレーム信号から位相雑音量を測定する。OLT3aは、自装置が有する論理的な情報に基づいて、当該上りバーストフレーム信号の位相雑音量を最小化するように搬送波位相同期の移動平均フィルタのブロック長を、ディスカバリ(レンジング)周期ごとに制御する。なお、ここでいう論理的な情報には、動的帯域割当(DBA)において用いられる上りバーストフレーム信号の各信号の到着時間を示す情報が含まれる。
【0049】
なお、本実施形態においては、一例として、多値位相変調ONU2とOLT3aとを有するTDMA-PONシステム1の構成の場合について説明するが、本発明を提供可能なシステムはこの構成に限られるものではない。例えば、PONシステムに限らず、Point-to-Multipoint構成、あるいは、Multipoint-to-Multipoint構成を有する、あらゆるバースト光通信網に対して本発明を適用することが可能である。
【0050】
図4に示されるように、OLT3aは、コヒーレント受信器30aと、動的帯域割当部31と、PONフレーム処理部33とを含んで構成される。
【0051】
コヒーレント受信器30aは、デジタル信号処理部310aを含んで構成される。デジタル信号処理部310aは、x-偏波及びy-偏波それぞれの周波数オフセット補償部320aと、x-偏波及びy-偏波それぞれの搬送波位相同期部330aと、位相雑音量検出部340aとを含んで構成される。搬送波位相同期部330aは、移動平均フィルタ332aを含んで構成される。
【0052】
動的帯域割当部31は、論理的情報記憶部32を含んで構成される。論理的情報記憶部32は、論理的な情報を記憶する。前述の通り、論理的な情報には、動的帯域割当(DBA)において用いられる上りバーストフレーム信号の各信号の到着時間を示す情報が含まれる。
【0053】
PONフレーム処理部33は、メモリ34と、切替部35とを含んで構成される。メモリ34は、各多値位相変調ONU2の位相雑音量を最小化するブロック長Nを示す情報を記憶する。
【0054】
前述の通り、ディスカバリ(レンジング)動作時の上りバーストフレーム信号には、位相雑音の影響を受けないOOK変調が用いられる。
【0055】
位相雑音量検出部340aは、ディスカバリ(レンジング)動作時のみに、位相雑音量検出を実行し、受信された上りバーストフレーム信号から位相雑音量の測定を行う。
【0056】
搬送波位相同期部330aは、ディスカバリ(レンジング)区間においては、移動平均フィルタ332aのブロック長Nの制御を行わない。
【0057】
位相雑音量検出部340aは、新しい多値位相変調ONU2がTDMA-PONシステム1に接続された際に、当該多値位相変調ONU2の位相雑音量を最小化するブロック長Nを示す情報を、PONフレーム処理部33のメモリ34に記録する。
【0058】
ディスカバリ(レンジング)動作が終了した後、PONフレーム処理部33の切替部35は、メモリ34を参照し、ブロック長Nを示す情報を取得する。また切替部35は、動的帯域割当部31の論理的情報記憶部32を参照し、論理的な情報(すなわち、各多値位相変調ONU2からの上りバーストフレーム信号の到着時間を示す情報)を取得する。
【0059】
切替部35は、ブロック長Nを示す情報と、各多値位相変調ONU2からの上りバーストフレーム信号の到着時間を示す情報とに基づいて、各多値位相変調ONU2からの上りバーストフレーム信号の到着時間に合わせて、移動平均フィルタ332aのブロック長Nを切り替える。
【0060】
[OLTの動作]
以下、OLT3aの動作の一例について説明する。
図5は、本発明の第2の実施形態におけるOLT3aの動作を示すフローチャートである。
【0061】
OLT3aのフロントエンド部300は、局部発振光源301を用いて、各々の多値位相変調ONU2から出力された、ディスカバリ動作の実行時の上りバーストフレーム信号をコヒーレント受信する(ステップS101)。
【0062】
オンデータ選択部342は、ディスカバリ動作の実行時の上りバーストフレーム信号を取得する。オンデータ選択部342は、取得された上りバーストフレーム信号のうち、光パワーが存在するオン状態のデータのみを時系列に選択する(ステップS102)。
【0063】
位相差取得部343は、オンデータ選択部342から出力された時系列のデータを取得する。位相差取得部343は、取得された時系列のデータにおいて、隣接する2つのデータに対し、arg{r(k)r*(k-1)}の式で表される演算を連続的に行い、順次、位相差Δφ(k)を取得する(ステップS103)。
【0064】
分散値計算部347は、記憶媒体に記録された位相差Δφ(k)の値のデータ列を参照して分散値σ_φ^2を算出する。なお前述の通り、分散値σ_φ^2は、位相雑音量として定義される。位相雑音量検出部340aは、多値位相変調ONU2の位相雑音量を最小化するブロック長Nを示す情報を、PONフレーム処理部33のメモリ34に記録する(ステップS104)。
【0065】
ディスカバリ(レンジング)動作が終了した後、PONフレーム処理部33の切替部35は、メモリ34を参照し、ブロック長Nを示す情報を取得する(ステップS105)。また切替部35は、動的帯域割当部31の論理的情報記憶部32を参照し、論理的な情報(すなわち、各多値位相変調ONU2からの上りバーストフレーム信号の到着時間を示す情報)を取得する(ステップS106)。
【0066】
切替部35は、ブロック長Nを示す情報と、各多値位相変調ONU2からの上りバーストフレーム信号の到着時間を示す情報とに基づいて、各多値位相変調ONU2からの上りバーストフレーム信号の到着時間に合わせて、移動平均フィルタ332aのブロック長Nを切り替える(ステップS107)。以上で、
図5のフローチャートが示すOLT3aの動作が終了する。
【0067】
以上説明したように、第2の実施形態におけるOLT3aは、自装置が有する論理的な情報に基づいて、ディスカバリ(レンジング)の周期ごとに移動平均フィルタ332aのブロック長Nを更新する(切り替える)。このような構成を備えることで、本実施形態におけるOLT3aは、前述の第1の実施形態におけるOLT3における、上りバーストフレーム信号ごとの位相雑音量の測定、及びテーブルへのアクセスに必要な演算に係る処理を削減することができる。
【0068】
<第3の実施形態>
以下、本発明の第3の実施形態について説明する。なお、本実施形態におけるTDMA-PONシステムの構成を示すブロック図は、
図1に示される第1の実施形態におけるTDMA-PONシステム1の構成を示すブロック図と同様であるため、説明を省略する。また、以下の説明においては、第1の実施形態におけるTDMA-PONシステム1の機能部と同一の機能部に対しては、同一の符号を付して説明する。
【0069】
[OLTの構成]
以下、OLT3bの構成について説明する。
図6は本発明の第3の実施形態におけるOLT3bの構成を示すブロック図である。なお、以下では、OLT3bの構成のうち、前述の第1の実施形態におけるOLT3及び第2の実施形態におけるOLT3aの構成と異なる部分を中心に説明する。
【0070】
なお、本実施形態においては、一例として、多値位相変調ONU2とOLT3bとを有するTDMA-PONシステム1の構成の場合について説明するが、本発明を提供可能なシステムはこの構成に限られるものではない。例えば、PONシステムに限らず、Point-to-Multipoint構成、あるいは、Multipoint-to-Multipoint構成を有する、あらゆるバースト光通信網に対して本発明を適用することが可能である。
【0071】
図6に示されるように、OLT3bは、コヒーレント受信器30bと、動的帯域割当部31bと、PONフレーム処理部33bとを含んで構成される。
【0072】
コヒーレント受信器30bは、デジタル信号処理部310bを含んで構成される。デジタル信号処理部310bは、x-偏波及びy-偏波それぞれの周波数オフセット補償部320bと、x-偏波及びy-偏波それぞれの搬送波位相同期部330bと、位相雑音量検出部340bと、位相雑音補償部350bと、スイッチ360bとを含んで構成される。搬送波位相同期部330bは、移動平均フィルタ332bを含んで構成される。
【0073】
動的帯域割当部31bは、論理的情報記憶部32を含んで構成される。論理的情報記憶部32は、論理的な情報を記憶する。前述の通り、論理的な情報には、動的帯域割当(DBA)において用いられる上りバーストフレーム信号の各信号の到着時間を示す情報が含まれる。
【0074】
PONフレーム処理部33bは、アルゴリズム切替部36を含んで構成される。
【0075】
本実施形態におけるOLT3bは、位相雑音量検出部340bによる位相雑音量の検出において、新しい多値位相変調ONU2の位相雑音量が大きいことにより移動平均フィルタ332bのブロック長Nの可変制御の手段では受信性能の向上ができない場合に、偏波パイロットを用いて位相雑音を補償する手段に切り替える。
【0076】
なお、偏波パイロットを用いて位相雑音を補償する手段については、例えば以下の参考文献に記載の技術を用いることができる。「参考文献: S. Y. Kim, et al., "Performance Analysis of Phase Noise Cancellation by Asymmetric CMA for Realizing Affordable Coherent PON Transceivers," Journal of Lightwave Technology, Vol.38, No.8, pp.2231-2241, April 15, 2020.」
【0077】
OLT3bは、位相雑音量検出部340bによって測定された位相雑音量が所定値以上である場合には、各多値位相変調ONU2からの上りバーストフレーム信号に対して、位相雑音補償部350bによる位相雑音補償手段を用いて受信信号処理を行う。位相雑音補償部350bは、偏波パイロットを用いて位相雑音を補償する。
【0078】
一方、OLT3bは、位相雑音量が所定値未満である場合には、各多値位相変調ONU2からの上りバーストフレーム信号に対して、搬送波位相同期部330bによる搬送波位相同期手段を用いて受信信号処理を行う。
【0079】
具体的には、位相雑音量検出部340bによって測定された位相雑音量が所定値以上である場合、PONフレーム処理部33bのアルゴリズム切替部36は、スイッチ360bを必要に応じて切り替えることで、位相雑音補償部350bによって受信処理が行われるように制御する。一方、位相雑音量検出部340bによって測定された位相雑音量が所定値未満である場合、アルゴリズム切替部36は、スイッチ360bを必要に応じて切り替えることで、搬送波位相同期部330bによって受信処理が行われるように制御する。
【0080】
なお、本実施形態におけるOLT3bの搬送波位相同期による受信処理の構成は、前述の第2の実施形態におけるOLT3aの受信処理の構成と同様である。
【0081】
OLT3bは、位相雑音補償手段が用いられる場合、一つの偏波をパイロットとして利用するため、搬送波位相同期手段が用いられる場合に比べて、伝送速度が半分の速度になる。
【0082】
以上説明した各実施形態におけるTDMA-PONシステムによれば、OLTにおける搬送波位相同期の移動平均フィルタのブロック長が可変制御されるため、システム構成の複雑化を抑えつつ、多値位相変調バーストフレーム信号に対してONUごとに異なる位相雑音を許すことができる。
【0083】
上述した各実施形態及び各変形例によれば、通信装置は、受信部と、制御部と、を備える。例えば、受信部は、実施形態におけるフロントエンド部300であり、制御部は、実施形態におけるデジタル信号処理部310,310a,310bである。受信部は、複数の他の通信装置からバーストフレーム信号をそれぞれ受信する。例えば、他の通信装置は、実施形態における多値位相変調ONU2である。制御部は、バーストフレーム信号の位相雑音量を最小化させるように搬送波位相同期における移動平均フィルタのブロック長を変化させる。
【0084】
なお、通信装置は、測定部をさらに備えていてもよい。例えば、測定部は、実施形態における位相雑音量検出部340である。測定部は、バーストフレーム信号のプリアンブルから位相雑音量を測定する。この場合、制御部は、バーストフレーム信号ごとにブロック長を変化させる。
【0085】
なお、バーストフレーム信号のプリアンブルは、オンオフキーイング変調がなされた信号であってもよい。
【0086】
なお、通信装置は、測定部をさらに備えていてもよい。例えば、測定部は、実施形態における位相雑音量検出部340aである。測定部は、ディスカバリ動作の実行時のバーストフレーム信号から位相雑音量を測定する。この場合、制御部は、ディスカバリ動作の実行周期ごとにブロック長を変化させる。
【0087】
なお、この場合、制御部は、動的帯域割当において用いられる各バーストフレーム信号の到着時間を示す情報に基づいてブロック長を変化させるようにしてもよい。
【0088】
なお、ディスカバリ動作の実行時のバーストフレーム信号は、オンオフキーイング変調がなされた信号であってもよい。
【0089】
なお、通信装置は、補償部をさらに備えていてもよい。例えば、補償部は、実施形態における位相雑音補償部350bである。補償部は、偏波パイロットを用いて位相雑音を補償する。この場合、制御部は、位相雑音量が所定値以上である場合、搬送波位相同期を行わず、補償部に位相雑音を補償させる。
【0090】
上述した各実施形態におけるOLT3,OLT3a,又はOLT3bの一部又は全部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0091】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0092】
1…TDMA-PONシステム,4…光パワースプリッタ,5…光ファイバ,21…レーザ光源,22…波長ロッカー,23…多値変調部,30,30a,30b…コヒーレント受信器,31,31b…動的帯域割当部,32…論理的情報記憶部,33,33b…PONフレーム処理部,34…メモリ,35…切替部,36…アルゴリズム切替部,300…フロントエンド部,301…局部発振光源,310,310a,310b…デジタル信号処理部,320,320a,320b…周波数オフセット補償部,330,330a,330b…搬送波位相同期部,332,332a,332b…移動平均フィルタ,340,340a,340b…位相雑音量検出部,341…振幅判定部,342…オンデータ選択部,343…位相差取得部,347…分散値計算部,348…σ_φ^2-Nテーブル,350b…位相雑音補償部,360b…スイッチ