(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】導波路推定装置、導波路推定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 10/079 20130101AFI20241030BHJP
【FI】
H04B10/079 150
(21)【出願番号】P 2023522052
(86)(22)【出願日】2021-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2021018833
(87)【国際公開番号】W WO2022244111
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川合 暁
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝行
(72)【発明者】
【氏名】中村 政則
(72)【発明者】
【氏名】清水 新平
(72)【発明者】
【氏名】宮本 裕
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-152556(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0002979(US,A1)
【文献】 HAUSKE, Fabian N.,Combined OPM Parameter Estimation Using DSP,2010 Photonics Global Conference,2010年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/079
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
適応フィルタの時系列のタップ係数に対して時間窓関数を乗算する時間窓処理部と、
時間窓内の前記時系列のタップ係数に基づいて、周波数系列又は時系列の群遅延差と周波数系列又は時系列の偏波依存損失とのうちの少なくとも一方を推定する推定部と
を備える導波路推定装置。
【請求項2】
前記推定部は、時間窓内の前記時系列のタップ係数のうちで、下限閾値を上回る又は上限閾値を下回るタップ係数に基づいて、前記周波数系列又は時系列の群遅延差と前記周波数系列又は時系列の偏波依存損失とのうちの少なくとも一方を推定する、
請求項1に記載の導波路推定装置。
【請求項3】
前記推定部は、前記周波数系列又は時系列の群遅延差の平均値を推定し、
前記時間窓処理部は、前記平均値の定数倍に基づいて、前記時間窓の長さを定める、
請求項1又は請求項2に記載の導波路推定装置。
【請求項4】
前記時系列のタップ係数のフーリエ変換に用いられた周波数系列を周波数領域ごとに切り出す周波数窓処理部を更に備え、
前記推定部は、切り出された前記周波数系列ごとに、前記時間窓内の前記時系列のタップ係数に基づいて、前記周波数系列又は時系列の群遅延差と前記周波数系列又は時系列の偏波依存損失とのうちの少なくとも一方を推定する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の導波路推定装置。
【請求項5】
導波路推定装置が実行する導波路推定方法であって、
適応フィルタの時系列のタップ係数に対して時間窓関数を乗算する時間窓処理ステップと、
時間窓内の前記時系列のタップ係数に基づいて、周波数系列又は時系列の群遅延差と周波数系列又は時系列の偏波依存損失とのうちの少なくとも一方を推定する推定ステップと
を含む導波路推定方法。
【請求項6】
前記推定ステップは、時間窓内の前記時系列のタップ係数のうちで、下限閾値を上回る又は上限閾値を下回るタップ係数に基づいて、前記周波数系列又は時系列の群遅延差と前記周波数系列又は時系列の偏波依存損失とのうちの少なくとも一方を推定するステップを更に含む、
請求項5に記載の導波路推定方法。
【請求項7】
前記推定ステップは、前記周波数系列又は時系列の群遅延差の平均値を推定するステップを更に含み、
前記時間窓処理ステップは、前記平均値の定数倍に基づいて、前記時間窓の長さを定めるステップを更に含む、
請求項5又は請求項6に記載の導波路推定方法。
【請求項8】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の導波路推定装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波路推定装置、導波路推定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
情報技術の発展によって、データトラフィックの総量が指数関数的に増大している。光通信では、光信号の伝送路及び光デバイスにおいて、光ファイバが導波路として用いられる。光ファイバは、光信号の減衰が少ない及び利用可能な帯域が広い等の理由から、大きな伝送容量が特に求められる固定回線に用いられる。
【0003】
光信号の伝送容量を制限する要因として、偏波モード分散(polarization mode dispersion : PMD)と、偏波依存損失(polarization dependent loss : PDL)とがある。偏波モード分散とは、光信号の偏波モードの間に群遅延差が生じることである。偏波依存損失とは、偏波モードに依存する光損失(光信号の挿入損失)の最大値及び最小値の間の差である。光ファイバの製造時に光ファイバに生じた歪みと、製造後の光ファイバの曲げとに応じた複屈折性が、偏波モード分散と偏波依存損失との主な要因となる。
【0004】
光ファイバに入力された光信号がその光ファイバから出力された場合、出力された光信号の偏波状態が、偏波モード分散によって変動することがある。ここで、光ファイバに入力された光信号の偏波状態が特定状態である場合には、その光ファイバから出力された光信号の偏波状態の変動は抑制される。
【0005】
このような特定状態は、主要偏波状態(Principal State of Polarization:PSP)と呼ばれる。また、偏波モード分散によって光信号の波形に生じた歪みの量は、主要偏波状態において互いに直交する偏波モードの間の群遅延差(differential group delay : DGD)を用いて表現される。
【0006】
群遅延差と偏波依存損失とに応じて光信号の波形に歪みが生じるので、群遅延差と偏波依存損失とは、シンボル間の干渉の要因となる。このうちの群遅延差は、導波路(光ファイバ)の温度変化及び機械的振動に応じて、高速でランダムに変動する。このため、群遅延差による歪みは、光信号の伝送容量を制限する最大の要因と見做されていた。
【0007】
しかし近年では、デジタルコヒーレント通信と呼ばれる通信技術の実現によって、偏波モード分散(群遅延差)と偏波依存損失とに応じた歪みは補償可能となった。デジタルコヒーレント通信とは、デジタル信号処理とコヒーレント通信とが組み合わされた通信技術である。コヒーレント通信とは、受信された光信号と局発光との干渉波形を用いて光信号の電場情報を導出する通信技術である。
【0008】
デジタルコヒーレント通信では、送信機と受信機との間の伝送路及び光デバイスにおける導波路のインパルス応答が、適応フィルタを用いて推定される。推定されたインパルス応答に基づいて、群遅延差と偏波依存損失とを推定することが可能である(非特許文献1参照)。
【0009】
受信機によって受信された光信号に対して、インパルス応答の逆(伝達関数の逆行列)を用いる畳み込み演算が実行されることによって、偏波モード分散(群遅延差)に応じた歪みは補償可能である。これに対して、偏波依存損失はエネルギ損失を伴うので、デジタル信号処理を用いて偏波依存損失を完全に補償することまでは不可能である。
【0010】
インパルス応答のピークが時間方向に長く、かつ、光信号の波形の歪みが大きい場合には、適応フィルタのタップ数(時間方向の畳み込み演算に用いられる入力信号のサンプルの個数)が、事前に増やされる必要がある。しかしながら、タップ数が増やされることによって、デジタル信号処理の演算量及び消費電力量が増加する。また、波形の歪みが大きくなり過ぎた場合には、適応フィルタのタップ数が事前に増やされていたとしても、歪みの補償ができないことがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】F. N. Hauske, M. Kuschnerov, B. Spinnler, and B. Lankl, "Optical Performance Monitoring in Digital Coherent Receivers," Journal of Lightwave Technology, vol.27, No.16, pp.3623-3631 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
適応フィルタのタップ係数は、光信号に応じた受信信号(デジタル信号)に対して、畳み込み演算の際に乗算される。タップ係数のフーリエ変換結果「W(ω)」は、導波路の伝達関数の逆行列(2×2の行列)として、式(1)のように表現される。
【0013】
【0014】
群遅延差「τestim(ω)」は、式(2)のように表される。
【0015】
【0016】
偏波依存損失「HPDL(ω)」は、式(3)のように表される。
【0017】
【0018】
ここで、群遅延差と偏波依存損失とを推定するための専用のハードウェアが不要であることから、デジタルコヒーレント受信機のハードウェアが変更される必要はない。また、光信号の伝送品質を低下させることなく、群遅延差と偏波依存損失とを光信号の伝送中にリアルタイムで推定することが可能である。
【0019】
しかしながら、光信号の中継回数が多い及び変調速度が速い等の理由で、光信号の信号対雑音比が所定値未満になる場合がある。光信号の信号対雑音比が所定値未満である場合には、群遅延差と偏波依存損失との推定精度が低下する。このように、導波路を伝送された光信号の信号対雑音比が所定値未満である場合には、群遅延差と偏波依存損失との推定精度を向上させることができないという問題がある。
【0020】
上記事情に鑑み、本発明は、導波路を伝送された光信号の信号対雑音比が所定値未満である場合でも、群遅延差と偏波依存損失とのうちの少なくとも一方の推定精度を向上させることが可能である導波路推定装置、導波路推定方法及びプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様は、適応フィルタの時系列のタップ係数に対して時間窓関数を乗算する時間窓処理部と、時間窓内の前記時系列のタップ係数に基づいて、周波数系列又は時系列の群遅延差と周波数系列又は時系列の偏波依存損失とのうちの少なくとも一方を推定する推定部とを備える導波路推定装置である。
【0022】
本発明の一態様は、導波路推定装置が実行する導波路推定方法であって、適応フィルタの時系列のタップ係数に対して時間窓関数を乗算する時間窓処理ステップと、時間窓内の前記時系列のタップ係数に基づいて、周波数系列又は時系列の群遅延差と周波数系列又は時系列の偏波依存損失とのうちの少なくとも一方を推定する推定ステップとを含む導波路推定方法である。
【0023】
本発明の一態様は、上記の導波路推定装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、導波路を伝送された光信号の信号対雑音比が所定値未満である場合でも、群遅延差と偏波依存損失とのうちの少なくとも一方の推定精度を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1実施形態における、導波路推定装置の構成例を示す図である。
【
図2】第1実施形態における、時間窓処理と群遅延差の推定処理と偏波依存損失の推定処理との例を示す図である。
【
図3】第1実施形態における、導波路推定装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図4】第1実施形態の変形例における、閾値処理の例を示す図である。
【
図5】第2実施形態における、導波路推定装置の構成例を示す図である。
【
図6】第2実施形態における、時間窓処理と群遅延差の推定処理との例を示す図である。
【
図7】第2実施形態における、導波路推定装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図8】第3実施形態における、導波路推定装置の構成例を示す図である。
【
図9】第3実施形態における、時間窓処理と周波数窓処理との第1例を示す図である。
【
図10】第3実施形態における、導波路推定装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図11】第3実施形態の変形例における、時間窓処理と周波数窓処理との第2例を示す図である。
【
図12】第3実施形態の変形例における、導波路推定装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図13】各実施形態における、導波路推定装置のハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態における、導波路推定装置1aの構成例を示す図である。導波路推定装置1aは、光伝送路及び光デバイスにおける導波路を伝送された光信号について、周波数系列又は時系列の群遅延差(DGD)と周波数系列又は時系列の偏波依存損失(PDL)とのうちの少なくとも一方を推定(測定)する装置である。
【0027】
例えば、導波路推定装置1aは、実験室における光信号の伝送実験の結果をオフライン解析することによって、周波数系列又は時系列の群遅延差と周波数系列又は時系列の偏波依存損失とのうちの少なくとも一方を推定する。例えば、導波路推定装置1aは、敷設されたデジタルコヒーレント受信機及びデジタルコヒーレント受信機が光信号を伝送中に、群遅延差と偏波依存損失とをリアルタイムで推定してもよい。
【0028】
導波路推定装置1aは、適応フィルタの時系列のタップ係数(サンプル時刻ごとのタップ係数)に対して、時間窓処理を実行する。すなわち、導波路推定装置1aは、適応フィルタの時系列のタップ係数に対して、時間窓関数を乗算する。導波路推定装置1aは、時間窓内の時系列のタップ係数に基づいて、群遅延差と偏波依存損失とを推定する。
【0029】
以下では、時間窓外の時系列のタップ係数は、群遅延差及び偏波依存損失の推定処理に用いられなくてもよいし(単に無視されてもよいし)、例えば0に置換されてから、群遅延差及び偏波依存損失の推定処理に用いられてもよい。
【0030】
導波路推定装置1aは、取得部10と、記憶部11と、時間窓処理部12aと、群遅延差推定部13aと、偏波依存損失推定部14と、出力部15とを備える。
【0031】
取得部10は、適応フィルタの時系列のタップ係数を、例えば所定の情報処理装置(不図示)から取得する。取得部10は、適応フィルタの時系列のタップ係数を、時間窓処理部12aに出力する。記憶部11は、時間窓関数を記憶する。
【0032】
時間窓処理部12a(演算部)は、適応フィルタの時系列のタップ係数に対して、時間窓関数を乗算する。群遅延差推定部13a(推定部)は、時間窓内の時系列のタップ係数に基づいて、式(2)のように群遅延差を推定する。偏波依存損失推定部14(推定部)は、時間窓内の時系列のタップ係数に基づいて、式(3)のように偏波依存損失を推定する。出力部15は、各推定結果を所定の情報処理装置(不図示)に出力する。
【0033】
次に、時間窓処理部12aと、群遅延差推定部13aと、偏波依存損失推定部14とについて説明する。
図2は、第1実施形態における、時間窓処理と、群遅延差(DGD)の推定処理と、偏波依存損失(PDL)の推定処理との例を示す図である。
図2に示された時間窓処理部12aには、適応フィルタの時系列のタップ係数「h
xx」、「h
xy」、「h
yx」及び「h
yy」の例が表されている。
図2に示された群遅延差推定部13aには、周波数系列の群遅延差(周波数ごとの群遅延差)の例が示されている。
図2に示された偏波依存損失推定部14には、周波数系列の偏波依存損失(周波数ごとの偏波依存損失)の例が示されている。
【0034】
図2では、時系列のタップ係数(サンプル)のピーク時刻を中心とする時間窓が、適応フィルタのタップ係数「h
xx」、「h
xy」、「h
yx」及び「h
yy」にそれぞれ定められている。時間窓内の時系列のタップ係数がフーリエ変換に使用される場合、時間窓の長さ(幅)が長いほど、群遅延差の周波数分解能と偏波依存損失の周波数分解能とがそれぞれ向上する。このように、時間窓の長さと周波数分解能とは、反比例の関係にある。
【0035】
しかしながら、周波数分解能が必要以上に高い場合には、周波数系列の一点(サンプル)当たりの信号対雑音比が低下する。すなわち、タップ係数の雑音が時間方向に一定であると仮定された場合、時間窓内の時系列のタップ係数の個数に比例して、周波数系列の一点当たりの信号対雑音比が低下する。
【0036】
したがって、フーリエ変換に使用されるタップ係数の個数が適切に選択されることによって、周波数系列の信号を用いて推定された群遅延差及び偏波依存損失の信号対雑音比を向上させることが可能である。ここで、時系列のタップ係数のピーク時刻を中心とする時間窓の長さは、例えば、経験的に決定されてもよい。
【0037】
時間窓の長さが決定された結果、時間窓の時間方向の位置及び長さが、伝達関数の逆行列の要素(タップ係数)ごとに異なる場合がある。この場合には、位置及び長さが異なっている時間領域におけるタップ係数は、0に置換されてから、推定処理に用いられてもよい。
【0038】
なお、時間窓処理部12aは、時間窓内の時系列のタップ係数に対して、所定の窓関数を乗算してもよい。この所定の窓関数として、例えば、「triangle関数」又は「Happ-Genzel関数」等のアポダイゼーション関数(apodization function)が用いられる。これによって、目的のスペクトルにおいてリップル(ripple)が生じることを抑制することができる。
【0039】
次に、導波路推定装置1aの動作例を説明する。
図3は、第1実施形態における、導波路推定装置1aの動作例を示すフローチャートである。取得部10は、時系列のタップ係数を取得する(ステップS101)。時間窓処理部12aは、時系列のタップ係数に対して時間窓処理を実行する。すなわち、時間窓処理部12aは、時系列のタップ係数に対して時間窓関数を乗算する(ステップS102)。
【0040】
群遅延差推定部13aは、時間窓処理が実行された時系列のタップ係数に基づいて、導波路(送信器から受信機までの間の系)における群遅延差を推定する(ステップS103)。偏波依存損失推定部14は、時間窓処理が実行された時系列のタップ係数に基づいて、導波路における偏波依存損失を推定する(ステップS104)。出力部15は、各推定結果を所定の情報処理装置(不図示)に出力する(ステップS105)。
【0041】
以上のように、時間窓処理部12aは、適応フィルタの時系列のタップ係数に対して、時間窓関数を乗算する。群遅延差推定部13a(推定部)は、時間窓内の時系列のタップ係数に基づいて、周波数系列又は時系列の群遅延差を推定する。偏波依存損失推定部14(推定部)は、時間窓内の時系列のタップ係数に基づいて、周波数系列又は時系列の偏波依存損失を推定してもよい。
【0042】
このように、群遅延差推定部13aは、時間窓内の時系列のタップ係数に基づいて、周波数系列又は時系列の群遅延差を推定する。群遅延差推定部13aは、時間窓内の時系列のタップ係数に基づいて、周波数系列又は時系列の偏波依存損失を推定する。
【0043】
これによって、導波路を伝送された光信号の信号対雑音比が所定値未満である場合でも、群遅延差と偏波依存損失とのうちの少なくとも一方の推定精度を向上させることが可能である。ここで、群遅延差と偏波依存損失とを推定するための専用のハードウェアが不要であることから、デジタルコヒーレント受信機のハードウェアが変更される必要はない。
【0044】
(第1実施形態の変形例)
第1実施形態の変形例では、時系列のタップ係数に対して閾値処理が実行される点が、第1実施形態との差分である。第1実施形態の変形例では、第1実施形態との差分を中心に説明する。
【0045】
図4は、第1実施形態の変形例における、閾値処理の例を示す図である。
図4には、適応フィルタの時系列のタップ係数「h
xx」、「h
xy」、「h
yx」及び「h
yy」の例が表されている。時系列のタップ係数には、所定条件に基づいて、下限閾値20と上限閾値21とが定められている。時間窓処理部12aは、下限閾値20と上限閾値21とを用いて、時系列のタップ係数(例えば、タップ係数の絶対値)に対して閾値処理を実行する。
【0046】
群遅延差推定部13aは、時間窓内の時系列のタップ係数のうちで、下限閾値20を上回る又は上限閾値21を下回るタップ係数に対して、フーリエ変換を含む推定処理を実行する。群遅延差推定部13aは、時間窓内の時系列のタップ係数のうちで、下限閾値20から上限閾値21までの範囲内と所定マージン範囲内とのタップ係数に対して、フーリエ変換を含む推定処理を実行してもよい。
【0047】
群遅延差推定部13aは、時間窓内の時系列のタップ係数のうちで、下限閾値20を上回る又は上限閾値21を下回るタップ係数に対して、フーリエ変換を含む推定処理を実行してもよい。群遅延差推定部13aは、フーリエ変換の結果に基づいて、式(2)のように群遅延差を推定する。
【0048】
偏波依存損失推定部14は、時間窓内の時系列のタップ係数のうちで、下限閾値20を上回る又は上限閾値21を下回るタップ係数に対して、フーリエ変換を含む推定処理を実行する。偏波依存損失推定部14は、時間窓内の時系列のタップ係数のうちで、下限閾値20から上限閾値21までの範囲内と所定マージン範囲内とのタップ係数に対して、フーリエ変換を含む推定処理を実行してもよい。
【0049】
偏波依存損失推定部14は、時間窓内の時系列のタップ係数のうちで、下限閾値20を上回る又は上限閾値21を下回るタップ係数に対して、フーリエ変換を含む推定処理を実行してもよい。偏波依存損失推定部14は、フーリエ変換の結果に基づいて、式(3)のように偏波依存損失を推定する。
【0050】
以上のように、群遅延差推定部13aは、時間窓内の時系列のタップ係数のうちで、下限閾値を上回る又は上限閾値を下回るタップ係数に基づいて、周波数系列又は時系列の群遅延差を推定する。偏波依存損失推定部14は、時間窓内の時系列のタップ係数のうちで、下限閾値20を上回る又は上限閾値21を下回るタップ係数に基づいて、周波数系列又は時系列の偏波依存損失を推定してもよい。
【0051】
これによって、導波路を伝送された光信号の信号対雑音比が所定値未満である場合でも、群遅延差と偏波依存損失とのうちの少なくとも一方の推定精度を向上させることが可能である。
【0052】
(第2実施形態)
第2実施形態では、周波数系列又は時系列の群遅延差の平均値に基づいて時間窓の長さが更新される点が、第1実施形態との差分である。第2実施形態では、第1実施形態との差分を中心に説明する。
【0053】
図5は、第2実施形態における、導波路推定装置1bの構成例を示す図である。導波路推定装置1bは、光伝送路及び光デバイスにおける導波路を伝送された光信号について、周波数系列又は時系列の群遅延差(DGD)と周波数系列又は時系列の偏波依存損失(PDL)とのうちの少なくとも一方を推定(測定)する装置である。
【0054】
導波路推定装置1bは、取得部10と、記憶部11と、時間窓処理部12bと、群遅延差推定部13bと、偏波依存損失推定部14と、出力部15とを備える。
【0055】
図6は、第2実施形態における、時間窓処理と、群遅延差の推定処理との例を示す図である。時間窓処理部12bは、周波数系列の群遅延差の平均値(周波数平均)に基づいて時間窓の長さを更新することによって、時間窓の最適長さを導出する。時間窓処理部12bは、時系列の群遅延差の平均値(時間平均)に基づいて時間窓の長さを更新することによって、時間窓の最適長さを導出してもよい。第2実施形態では、時間窓の長さは、一例として、群遅延差の平均値に対する定数倍である。
【0056】
次に、群遅延差の平均値(周波数平均)に基づいて時間窓の最適長さを導出することが可能である理由について説明する。
時間窓の長さは、群遅延差の周波数スペクトルのパワースペクトルにおけるピークの広がり(例えば、半値全幅)に基づいて導出可能である。また、時間窓の長さは、偏波依存損失の周波数スペクトルのパワースペクトルにおけるピークの広がりに基づいて導出されてもよい。なお、各パワースペクトルは、周波数スペクトルのフーリエ変換結果の絶対値の2乗である。このため、各パワースペクトルの横軸の単位は時間である。
【0057】
パワースペクトルのフーリエ変換結果は、自己相関関数に一致する。このため、自己相関関数の広がりと、パワースペクトルのピークの広がりとは、反比例の関係にある。したがって、群遅延差の周波数スペクトルの自己相関関数の広がりに基づいて、時間窓の最適長さは導出可能である。また、偏波依存損失の周波数スペクトルの自己相関関数の広がりに基づいて、時間窓の最適長さが導出されてもよい。
【0058】
群遅延差と偏波依存損失とは、それぞれ確率的である。ここで、群遅延差の理想的な確率分布と、偏波依存損失の理想的な確率分布とは、先行研究によってそれぞれ明らかにされている。また、群遅延差の自己相関関数と、偏波依存損失の自己相関関数とは、先行研究によってそれぞれ一意に定められている。
【0059】
1次の群遅延差と1次の偏波依存損失との各効果について、微小な複屈折物質の連続極限であると導波路(光ファイバ)が見做された場合、群遅延差の2乗の自己相関関数は、式(4)のように表される(参考文献1(M. Shtaif and A. Mecozzi, "Study of the frequency autocorrelation of the differential group delay in fibers with polarization mode dispersion," Optics Letters, Vol.25, pp.707-709 (2000))。
【0060】
【0061】
ここで、「τ」は、群遅延差を表す。「Δω」は、周波数の中心からの周波数方向のずれを表す。周波数方向の半値全幅は、式(5)のように表される。
【0062】
【0063】
ここで、「<A>」は、確率変数「A」のアンサンブル平均を表す。また、偏波依存損失についても、これと同じ確率分布になる(参考文献2(C. Antonelli, A. Mecozzi, L. E. Nelson, and P. Magill, "Autocorrelation of the polarization-dependent loss in fiber routes," Optics Letters, Vol.36, pp.4005-4007 (2011)))。
【0064】
群遅延差の周波数スペクトルのパワースペクトルと、偏波依存損失の周波数スペクトルのパワースペクトルとについて、各スペクトルの周波数方向の半値全幅は、偏波依存損失に応じて定まるのではなく、群遅延差の平均値(2乗平方根)に応じて定まる。
【0065】
そこで、群遅延差推定部13bは、適応フィルタの全てのタップを用いて、一旦、周波数系列の群遅延差の平均値(周波数平均)を推定する。すなわち、群遅延差推定部13bは、取得された全てのタップ係数に基づいて、一旦、周波数系列の群遅延差の平均値を推定する。時間窓処理部12b又は群遅延差推定部13bは、推定された平均値の定数倍を、時間窓の長さと定める。時間窓処理部12b又は群遅延差推定部13bは、時間窓の長さに所定のマージンを追加してもよい。
【0066】
なお、群遅延差のアンサンブル平均では、群遅延差の平均値が小さいほど、周波数方向について統計的に独立なサンプル(点)が少なくなる。このため、一度に推定された群遅延差の平均値(周波数平均)と、本来の群遅延差のアンサンブル平均とが、有意に異なる場合がある。このような場合、時間窓処理部12b又は群遅延差推定部13bは、時系列のタップ係数に対して、時間平均処理を実行してもよい。これによって、時間窓処理部12b又は群遅延差推定部13bは、群遅延差の推定精度を向上させることができる。
【0067】
次に、導波路推定装置1bの動作例を説明する。
図7は、第2実施形態における、導波路推定装置1bの動作例を示すフローチャートである。ステップS201は、
図3に示されたステップS101と同様である。時間窓処理部12bは、群遅延差の平均値を、群遅延差推定部13aから取得する。時間窓処理部12bは、時系列のタップ係数に対して時間窓関数を乗算する。ここで、時間窓処理部12bは、群遅延差の平均値に基づいて、時間窓の長さを調整する。例えば、時間窓処理部12bは、群遅延差の平均値の定数倍となるように、時間窓の長さを調整する(ステップS202)。
【0068】
群遅延差推定部13bは、時間窓処理が実行された時系列のタップ係数に基づいて、導波路における群遅延差を推定する。群遅延差推定部13bは、群遅延差の平均値を、時間窓処理部12bに出力する(ステップS203)。偏波依存損失推定部14は、時間窓処理が実行された時系列のタップ係数に基づいて、導波路における偏波依存損失を推定する。偏波依存損失推定部14は、偏波依存損失の平均値を、時間窓処理部12bに出力してもよい(ステップS204)。
【0069】
群遅延差推定部13b又は偏波依存損失推定部14は、群遅延差及び偏波依存損失の推定結果を出力可能であるか否かを判定する。例えば、群遅延差推定部13b、ステップS203の実行回数が所定回数以上となった場合、群遅延差及び偏波依存損失の推定結果を出力可能であると判定する(ステップS205)。
【0070】
群遅延差及び偏波依存損失の推定結果を出力可能でないと判定された場合(ステップS205:NO)、群遅延差推定部13bは、ステップS202に処理を戻す。群遅延差及び偏波依存損失の推定結果を出力可能であると判定された場合(ステップS205:YES)、群遅延差推定部13b及び偏波依存損失推定部14は、ステップS206に処理を進める。ステップS206は、
図3に示されたステップS105と同様である。
【0071】
以上のように、群遅延差推定部13bは、周波数系列又は時系列の群遅延差の平均値を推定する。時間窓処理部12bは、平均値の定数倍に基づいて、時間窓の長さを定める。
【0072】
これによって、導波路を伝送された光信号の信号対雑音比が所定値未満である場合でも、群遅延差と偏波依存損失とのうちの少なくとも一方の推定精度を向上させることが可能である。
【0073】
(第3実施形態)
第3実施形態では、周波数系列の群遅延差に対して周波数窓処理が実行される点が、第1実施形態との差分である。第3実施形態では、第1実施形態との差分を中心に説明する。
【0074】
図8は、第3実施形態における、導波路推定装置1cの構成例を示す図である。導波路推定装置1cは、光伝送路及び光デバイスにおける導波路を伝送された光信号について、周波数系列又は時系列の群遅延差(DGD)と周波数系列又は時系列の偏波依存損失(PDL)とのうちの少なくとも一方を推定(測定)する装置である。
【0075】
デジタルコヒーレント通信では、タップ係数は、伝送路の特性に応じて、例えば経験的に定められる。このため、時系列のタップ係数のピークが所定時間以上に広がっている場合がある。この場合、群遅延差及び偏波依存損失の推定精度が低下する。
【0076】
そこで、導波路推定装置1cは、適応フィルタの時系列のタップ係数に対して、一旦、時間窓関数を乗算する。導波路推定装置1cは、時系列のタップ係数のフーリエ変換に用いられた周波数系列に対して、周波数窓関数を乗算する。また、導波路推定装置1cは、周波数窓処理の結果に基づいて、より短い時間窓の長さを導出する。これによって、推定精度の低下をより抑制することが可能である。
【0077】
以下では、周波数窓外の周波数系列は、時間窓の長さの導出処理に用いられなくてもよいし(単に無視されてもよいし)、例えば0に置換されてから、時間窓の長さの導出処理に用いられてもよい。
【0078】
導波路推定装置1cは、取得部10と、記憶部11と、時間窓処理部12cと、群遅延差推定部13cと、偏波依存損失推定部14と、出力部15と、周波数窓処理部16とを備える。記憶部11は、時間窓関数と周波数窓関数とを記憶する。
【0079】
図9は、第3実施形態における、時間窓処理と周波数窓処理との第1例を示す図である。例えば、導波路において高次の偏波モード分散が存在している場合(光信号の周波数に応じて群遅延差の変化が異なる場合)、時系列のタップ係数の波形において、インパルス応答のピーク時刻が、光信号の周波数ごとに異なる場合がある。
【0080】
このような場合、周波数窓処理部16は、タップ係数のフーリエ変換に用いられた周波数系列に対して、周波数方向に並ぶ短冊状に、周波数窓関数を乗算する。すなわち、周波数窓処理部16は、全ての周波数系列のうちから、周波数領域ごとに、周波数系列を切り出す。これによって、インパルス応答の時間方向の広がりを狭くすることができるので、時間窓の長さを短くすることができる。
【0081】
なお、周波数窓処理部16は、周波数が0である成分が含まれないように切り出された周波数系列に対して、時間方向に正弦関数を乗算してもよい。これによって、周波数が0である成分が含まれないように切り出された周波数系列が、周波数が0である成分を含む周波数系列にダウンコンバートされる。
【0082】
時間窓処理部12cは、時系列のタップ係数に対して、周波数窓処理の周波数領域(周波数窓)ごとに時間窓関数を乗算する。群遅延差推定部13cは、時間窓処理が実行された時系列のタップ係数に基づいて、周波数窓処理の周波数領域(周波数窓)ごとに、導波路における群遅延差を推定する。偏波依存損失推定部14は、時間窓処理が実行された時系列のタップ係数に基づいて、周波数窓処理の周波数領域(周波数窓)ごとに、導波路における偏波依存損失を推定する。
【0083】
このように、周波数窓を用いて短くされた長さの時間窓を用いて、群遅延差及び偏波依存損失を周波数領域ごとに推定することによって、群遅延差及び偏波依存損失を所定の全周波数領域について推定することができる。
【0084】
次に、導波路推定装置1cの動作例を説明する。
図10は、第3実施形態における、導波路推定装置1cの動作例を示すフローチャートである。ステップS301は、
図3に示されたステップS101と同様である。周波数窓処理部16は、タップ係数のフーリエ変換に用いられた周波数系列に対して、周波数方向に並ぶ短冊状に、周波数窓関数を乗算する(ステップS302)。
【0085】
時間窓処理部12cは、時系列のタップ係数に対して、周波数窓処理の周波数領域ごとに時間窓関数を乗算する(ステップS303)。群遅延差推定部13cは、時間窓処理が実行された時系列のタップ係数に基づいて、周波数窓処理の周波数領域ごとに、導波路における群遅延差を推定する(ステップS304)。偏波依存損失推定部14は、時間窓処理が実行された時系列のタップ係数に基づいて、周波数窓処理の周波数領域ごとに、導波路における偏波依存損失を推定する(ステップS305)。ステップS306は、
図3に示されたステップS106と同様である。
【0086】
以上のように、周波数窓処理部16は、周波数領域ごとに、タップ係数のフーリエ変換に用いられた周波数系列を切り出す。群遅延差推定部13cは、切り出された周波数系列ごとに、時間窓内の時系列のタップ係数に基づいて、群遅延差を推定する。偏波依存損失推定部14は、切り出された周波数系列ごとに、時間窓内の時系列のタップ係数に基づいて、偏波依存損失を推定してもよい。
【0087】
これによって、導波路を伝送された光信号の信号対雑音比が所定値未満である場合でも、群遅延差と偏波依存損失とのうちの少なくとも一方の推定精度を更に向上させることが可能である。
【0088】
(第3実施形態の変形例)
第3実施形態の変形例では、絶対値が小さい周波数領域又は変動量が少ない群遅延差に対して周波数窓処理が実行される点が、第3実施形態との差分である。第3実施形態の変形例では、第3実施形態との差分を中心に説明する。
【0089】
図11は、第3実施形態の変形例における、時間窓処理と周波数窓処理との第2例を示す図である。周波数領域ごとに群遅延差の絶対値又は変動量が異なる場合がある。例えば、高次の偏波モード分散の影響によって又は確率的な事象として、一部の周波数領域における群遅延差の絶対値が小さい周波数領域又は変動量が少ない場合がある。
【0090】
このような場合、周波数窓処理部16は、群遅延差の絶対値が小さい周波数領域又は変動量が少ない周波数領域におけるタップ係数のフーリエ変換に用いられた周波数系列に対して、周波数窓関数を乗算する。すなわち、周波数窓処理部16は、全ての周波数系列のうちから、群遅延差の絶対値が小さい周波数領域又は変動量が少ない周波数領域における周波数系列を切り出す。これによって、インパルス応答の時間方向の広がりを狭くすることができるので、時間窓の長さを短くすることができる。
【0091】
時間窓処理部12cは、周波数窓処理が実行されていない状態で、時系列のタップ係数に対して時間窓関数を乗算する。群遅延差推定部13cは、時間窓処理が実行された時系列のタップ係数に基づいて、導波路における群遅延差を推定する。偏波依存損失推定部14は、時間窓処理が実行された時系列のタップ係数に基づいて、導波路における偏波依存損失を推定する。
【0092】
周波数窓処理部16は、群遅延差の絶対値が小さい周波数領域又は変動量が少ない周波数領域におけるタップ係数のフーリエ変換に用いられた周波数系列に対して、周波数窓関数を乗算する。周波数窓処理部16は、偏波依存損失の絶対値が小さい周波数領域又は変動量が少ない周波数領域におけるタップ係数のフーリエ変換に用いられた周波数系列に対して、周波数窓関数を乗算してもよい。
【0093】
時間窓処理部12cは、周波数窓処理が実行された状態で、時系列のタップ係数に対して時間窓関数を乗算する。群遅延差推定部13cは、時間窓処理が実行された時系列のタップ係数に基づいて、導波路における群遅延差を推定する。偏波依存損失推定部14は、時間窓処理が実行された時系列のタップ係数に基づいて、導波路における偏波依存損失を推定する。
【0094】
このように、周波数窓を用いて短くされた長さの時間窓を用いて、群遅延差及び偏波依存損失の絶対値が小さい周波数領域又は変動量が少ない周波数領域を周波数領域ごとに推定することによって、群遅延差及び偏波依存損失を推定することができる。
【0095】
次に、導波路推定装置1cの動作例を説明する。
図12は、第3実施形態の変形例における、導波路推定装置1cの動作例を示すフローチャートである。ステップS401からステップS405までの各ステップは、
図7に示されたステップS201からステップS205までの各ステップと同様である。
【0096】
群遅延差及び偏波依存損失の推定結果を出力可能でないと判定された場合(ステップS405:NO)、周波数窓処理部16は、群遅延差の絶対値が小さい周波数領域又は変動量が少ない周波数領域を検出する(ステップS406)。周波数窓処理部16は、群遅延差の絶対値が小さい周波数領域又は変動量が少ない周波数領域における周波数系列に対して、周波数窓処理を実行する。すなわち、周波数窓処理部16は、群遅延差の絶対値が小さい周波数領域又は変動量が少ない周波数領域における周波数系列に対して、周波数窓関数を乗算する(ステップS407)。周波数窓処理部16は、ステップS402に処理を戻す。
【0097】
群遅延差及び偏波依存損失の推定結果を出力可能であると判定された場合(ステップS405:YES)、群遅延差推定部13c及び偏波依存損失推定部14は、ステップS408に処理を進める。ステップS206は、
図7に示されたステップS206と同様である。
【0098】
以上のように、周波数窓処理部16は、群遅延差の絶対値が小さい周波数領域又は変動量が少ない周波数領域について、タップ係数のフーリエ変換に用いられた周波数系列を切り出す。群遅延差推定部13cは、切り出された周波数系列について、時間窓内の時系列のタップ係数に基づいて、群遅延差を推定する。偏波依存損失推定部14は、切り出された周波数系列について、時間窓内の時系列のタップ係数に基づいて、偏波依存損失を推定してもよい。
【0099】
これによって、導波路を伝送された光信号の信号対雑音比が所定値未満である場合でも、群遅延差と偏波依存損失とのうちの少なくとも一方の推定精度を更に向上させることが可能である。
【0100】
本発明の装置はコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0101】
(ハードウェア構成例)
図13は、各実施形態における、導波路推定装置1のハードウェア構成例を示す図である。導波路推定装置1は、上記の導波路推定装置1aと、上記の導波路推定装置1bと、上記の導波路推定装置1cとのそれぞれに対応する。導波路推定装置1の各機能部のうちの一部又は全部は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ100が、不揮発性の記録媒体(非一時的な記録媒体)を有する記憶装置101とメモリ102とに記憶されたプログラムを実行することにより、ソフトウェアとして実現される。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置などの非一時的な記録媒体である。通信部103は、タップ係数、時間窓及び周波数窓等の情報を取得する。通信部103は、推定結果を所定の情報処理装置(不図示)に送信する。
【0102】
導波路推定装置1の各機能部の一部又は全部は、例えば、LSI(Large Scale Integrated circuit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、PLD(Programmable Logic Device)又はFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いた電子回路(electronic circuit又はcircuitry)を含むハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0103】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、デジタルコヒーレント受信機に適用可能である。
【符号の説明】
【0105】
1a,1b,1c…導波路推定装置、10…取得部、11…記憶部、12a,12b,12c…時間窓処理部、13a,13b,13c…群遅延差推定部、14…偏波依存損失推定部、15…出力部、16…周波数窓処理部、20…下限閾値、21…上限閾値、100…プロセッサ、101…記憶装置、102…メモリ、103…通信部