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特許7578944卵白内に発現させた外因性タンパク質を簡便かつ高純度に精製する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】卵白内に発現させた外因性タンパク質を簡便かつ高純度に精製する方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/22 20060101AFI20241030BHJP
   C07K 14/52 20060101ALI20241030BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20241030BHJP
   C07K 14/78 20060101ALI20241030BHJP
   A01K 67/027 20240101ALN20241030BHJP
   C12N 15/85 20060101ALN20241030BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20241030BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20241030BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20241030BHJP
   C12N 15/19 20060101ALN20241030BHJP
【FI】
C07K1/22
C07K14/52
C07K16/00
C07K14/78
A01K67/027
C12N15/85 Z
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/19
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020147021
(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公開番号】P2022041674
(43)【公開日】2022-03-11
【審査請求日】2023-08-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適 展開支援プログラム 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】596115182
【氏名又は名称】コスモ・バイオ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】大橋 哲
(72)【発明者】
【氏名】大石 勲
(72)【発明者】
【氏名】清水 恭子
【審査官】齋藤 光介
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-262875(JP,A)
【文献】Lissa R. Herron et al.,A chicken bioreactor for efficient production of functional cytokines,BMC Biotechnology(2018),2018年12月29日,Vol.18, No.1, p.82,1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
家禽の卵から外因性タンパク質を調製する方法であって、下記工程:
(a)家禽の卵白をアフィニティークロマトグラフィーに供すること、次いで
(b)外因性タンパク質を含む画分を集めること
を含み、家禽が、アフィニティータグを伴う外因性タンパク質をコードする遺伝子が卵管特異的遺伝子プロモーターの制御下にノックインされているノックイン家禽であり、卵管特異的遺伝子プロモーターが、オボアルブミン遺伝子のプロモーターであり、アフィニティータグを伴う外因性タンパク質をコードする遺伝子が、オボアルブミン遺伝子のエクソン2に挿入されており、アフィニティータグがヒスチジンタグまたはFLAGタグである、方法。
【請求項2】
外因性タンパク質をコードする遺伝子が、サイトカイン、免疫グロブリン、コラーゲン、またはプロテインA、プロテインG、もしくはプロテインLをコードする遺伝子である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
アフィニティータグがヒスチジンタグであり、ヒスチジンタグが外因性タンパク質のN末端側またはC末端側に付されており、アフィニティークロマトグラフィーがニッケル担持担体を用いるものである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
アフィニティータグがFLAGタグであり、FLAGタグが外因性タンパク質のN末端側またはC末端側に付されており、アフィニティークロマトグラフィーが抗FLAG抗体担持担体を用いるものである、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
アフィニティークロマトグラフィーを行う前に硫安塩析を行うことを含む、請求項1~のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の精製方法に関する。詳細には、本発明は、家禽卵の卵白内に発現させた外因性タンパク質を簡便、高純度かつ高収率で精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家禽卵の卵白中に、目的とする外因性タンパク質を大量に生産させる技術(鶏卵バイオリアクター技術)が開発されている(特許文献1、非特許文献1)。この技術は、卵管特異的遺伝子プロモーターの制御下に目的タンパク質をコードする外因性遺伝子をノックインしてノックイン家禽を得て、家禽卵の卵白中に生産された目的タンパク質を回収するというものである。この技術を用いて、インターフェロンβや免疫グロブリンといった有用タンパク質を卵1個あたり1mg以上の高濃度で生産することができる。しかし、卵白中には多様なタンパク質が多く含まれているため、目的とする外因性タンパク質を精製することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開公報WO2017/111144
【非特許文献】
【0004】
【文献】Oishi et al. Efficient production of human interferon beta in the white of eggs from ovalbumin gene-targeted hens. Sci. Rep. 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
微生物や培養動物細胞を用いたタンパク質発現系において、目的タンパク質を簡便、高純度で精製する手段の一つとして目的タンパク質をヒスチジンタグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合蛋白質、HAタグ、mycタグ、FLAGタグ、およびIgGのH鎖のFcフラグメントのようなアフィニティータグを伴う形で発現させ、アフィニティークロマトグラフィーやアフィニティービーズを用いて精製する方法がある。しかし、鶏卵バイオリアクター技術を用いて外因性タンパク質を卵白中に発現させる場合、微生物や動物細胞を用いる場合と同様に目的タンパク質を発現させ、簡便、高純度で精製できるとは限らなかった。
【0006】
また、卵白中にアフィニティータグを付加したタンパク質を発現させる場合、用いるアフィニティータグの種類によっては、タンパク質の活性や特性、卵の性状や産卵数などに好ましくない影響を与える可能性がある。したがって、鶏卵バイオリアクターに適したアフィニティータグを見いだすことが重要であった。
【0007】
かかる状況下において、アフィニティータグに関する検討も含め、鶏卵バイオリアクター技術によって得られた家禽卵の卵白中から、目的とする外因性タンパク質を簡便、高純度かつ高収率で精製する方法が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、アフィニティータグを伴う外因性タンパク質をコードする遺伝子をノックインした家禽を得て、該家禽から目的とする外因性タンパク質を含有する卵を得ることができた。そしてその卵白からアフィニティークロマトグラフィーを用いて目的タンパク質の精製を試みたところ、目的とする外因性タンパク質を簡便、高純度かつ高収率で精製できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は以下のものを提供する:
(1)家禽の卵から外因性タンパク質を調製する方法であって、下記工程:
(a)家禽の卵白をアフィニティークロマトグラフィーに供すること、次いで
(b)外因性タンパク質を含む画分を集めること
を含み、家禽が、アフィニティータグを伴う外因性タンパク質をコードする遺伝子が卵管特異的遺伝子プロモーターの制御下にノックインされているノックイン家禽である、方法。
(2)卵管特異的遺伝子プロモーターが、オボアルブミン、オボムコイド、オボムチン、オボトランスフェリン、オボインヒビターおよびリゾチームからなる群より選択される少なくとも1種の卵管特異的遺伝子のプロモーターである、(1)記載の方法。
(3)卵管特異的遺伝子プロモーターが、オボアルブミン遺伝子のプロモーターであり、アフィニティータグを伴う外因性タンパク質をコードする遺伝子が、オボアルブミン遺伝子のエクソン2に挿入されている、(2)記載の方法。
(4)外因性タンパク質をコードする遺伝子が、サイトカイン、免疫グロブリン、コラーゲン、または免疫グロブリン特異的タンパク質をコードする遺伝子である、(1)~(3)のいずれか記載の方法。
(5)アフィニティータグが、ヒスチジンタグ、マルトース結合タンパク質、HAタグ、mycタグ、FLAGタグ、およびIgGのH鎖のFcフラグメントからなる群より選択されるものである、(1)~(4)のいずれか記載の方法。
(6)アフィニティータグがヒスチジンタグまたはFLAGタグである、(5)記載の方法。
(7)アフィニティータグがヒスチジンタグであり、ヒスチジンタグが外因性タンパク質のN末端側またはC末端側に付されており、アフィニティークロマトグラフィーがニッケル担持担体を用いるものである、(6)記載の方法。
(8)アフィニティータグがFLAGタグであり、FLAGタグが外因性タンパク質のN末端側またはC末端側に付されており、アフィニティークロマトグラフィーが抗FLAG抗体担持担体を用いるものである、(6)記載の方法。
(9)アフィニティークロマトグラフィーを行う前に硫安塩析を行うことを含む、(1)~(8)のいずれか記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法を用いることにより、鶏卵バイオリアクター技術で得られた家禽卵の卵白中から、アフィニティークロマトグラフィー工程のみで、目的タンパク質を簡便、高純度かつ高収率で精製することができる。したがって、本発明は、鶏卵バイオリアクター技術を用いたサイトカイン、免疫グロブリン、プロテインA/Gなどの有用タンパク質の大量生産に大いに貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、外因性タンパク質としてヒスチジンタグを付加したヒトインターロイキン-4(IL-4)をノックインしたニワトリの卵白から、ニッケルカラムを用いてヒトIL-4を精製した結果を示すSDS-PAGEである。図中、Inputは未精製卵白、FTは精製残渣、Wash1、Wash2は、それぞれ20mMイミダゾール含有緩衝液での1回目と2回目の洗浄液、Elute1-6は250mMイミダゾール含有緩衝液での1回目~6回目の溶出液、x10は各溶出液を10倍濃縮したものを表す。
図2図2は、ニッケルカラムにより精製されたヒトIL-4およびヒト顆粒球単球コロニー刺激因子(GMCSF)の活性を、市販品の活性と比較した結果を示すグラフである。
図3図3は、外因性タンパク質としてFLAGタグを付加したヒトインターロイキン-4(IL-4)をノックインしたニワトリの卵白から、抗FLAG抗体を結合させたビーズ(コスモ・バイオ株式会社商品名:Anti DYKDDDDK FLAG)を用いてヒトIL-4を精製した結果を示すSDS-PAGEである。図中、Inputは未精製卵白、FTは精製残渣、Elute1-4は100mMグリシン-塩酸(pH3.0)での1回目~4回目の溶出液、beadsは確認のため精製終了後にビーズに残ったタンパク質を溶出したもの、x3は各溶出液を3倍濃縮したものを表す。
図4図4は、ヒトGMCSFのN末端にGSTタグを付したタンパク質をコードする遺伝子(GST-GMCSF)、ヒトGMCSFのN末端およびC末端にそれぞれFLAGタグおよびヒスチジンタグを付したタンパク質をコードする遺伝子(FLAG-GMCSF-His)、ならびにタグを付していないヒトGMCSF(Wild Type)をノックインしたニワトリの、初卵産卵後100日間の産卵数、正常卵数、無殻卵数を示すグラフである。バーの高さは産卵数を示し、バーの上段の数値は無殻卵数、下段の数値は正常卵数を示す。
図5図5は、ヒスチジンタグを付加したIL-4を発現している卵白の硫安塩析物のSDS-PAGEの泳動像を示す。図中、0%pptは硫安無添加画分、30%pptは0%~30%飽和硫安画分、40%pptは30%~40%飽和硫安画分、50%pptは40%~50%飽和硫安画分、60%pptは50%~60%飽和硫安画分、70%pptは60%~70%飽和硫安画分、80%pptは70%~80%飽和硫安画分を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、
家禽の卵から外因性タンパク質を調製する方法であって、下記工程:
(a)家禽の卵白をアフィニティークロマトグラフィーに供すること、次いで
(b)外因性タンパク質を含む画分を集めること
を含み、家禽が、アフィニティータグを伴う外因性タンパク質をコードする遺伝子が卵管特異的遺伝子プロモーターの制御下にノックインされているノックイン家禽である、方法を提供する。
【0013】
上記方法は、鶏卵バイオリアクター技術によって得られた家禽卵の卵白中の外因性タンパク質を精製する方法である。鶏卵バイオリアクター技術の概要は以下のとおりである。家禽の始原生殖細胞の遺伝子を改変(例えばゲノム編集を用いて)することにより外因性タンパク質をコードする遺伝子を卵管特異的遺伝子プロモーターの制御下にノックインし、遺伝子改変された始原生殖細胞に由来するノックイン雌家禽を得て、この雌から卵を得る。この卵の卵白中に目的の外因性タンパク質が大量に生産される。鶏卵バイオリアクター技術の詳細については国際公開公報第WO2017/111144号を参照のこと。参照により国際公開公報第WO2017/111144号の全内容を本明細書に一体化させる。
【0014】
家禽としては、ニワトリ、ウズラ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ、オナガドリ、チャボ、ハト、ダチョウ、キジ、ホロホロチョウなどが挙げられるか、これらに限定されない。好ましい家禽はニワトリ、ウズラなどである。
【0015】
外因性タンパク質をコードする遺伝子にアフィニティータグをコードする遺伝子を付加してノックインする。外因性タンパク質をコードする遺伝子にアフィニティータグをコードする遺伝子を付加する方法は公知であり、一般的には、遺伝子組換え技術が用いられる。鶏卵バイオリアクターを用いて得られた家禽卵の卵白中にアフィニティータグを伴う外因性タンパク質が発現、生産される。アフィニティータグを利用して、卵白中の目的外因性タンパク質を精製することができる。
【0016】
外因性タンパク質は、ノックインされる家禽が発現していないタンパク質をいう。外因性タンパク質はいずれの種類のものであってもよい。外因性タンパク質の由来生物種は特に限定されず、動物、植物、微生物、ウイルスなどであってもよい。本明細書において、外因性タンパク質は、タンパク質のみならず、タンパク質断片、ペプチド、オリゴペプチドも包含する。外因性タンパク質は野生型であってもよく、変異型であってもよい。変異型の外因性タンパク質は、自然変異によるものであってもよく、人工的に作出されたものであってもよい。
【0017】
外因性タンパク質の例としては、サイトカイン、酵素、ホルモン、成長因子、コラーゲン、血清アルブミン、細胞外マトリクス分子、抗体およびその断片(例えばFv、scFv、dsFv、Fab、Fab’、F(ab’)、一本鎖抗体など)、免疫グロブリン特異的タンパク質、ワクチン、アゴニスト性タンパク質、アンタゴニスト性タンパク質などが挙げられるが、これらに限定されない。サイトカインの例としてはインターフェロン、インターロイキン、ケモカイン、リンホカイン、および腫瘍壊死因子などが挙げられるが、これらに限定されない。免疫グロブリン特異的タンパク質の例としてはプロテインA、プロテインG、プロテインLなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
外因性タンパク質をコードする遺伝子を卵管特異的遺伝子プロモーターの制御下にノックインする。そうすることによって、卵管特異的遺伝子の発現代謝産物の代わりに外因性遺伝子がコードするタンパク質を含む卵が得られるので好ましい。卵管特異的遺伝子としては、オボアルブミン、オボムコイド、オボムチン、オボトランスフェリン、オボインヒビター、リゾチームなどの遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。外因性タンパク質の種類に応じて、卵管特異的遺伝子を選択することができる。卵管特異的遺伝子の典型例はオボアルブミン遺伝子である。好ましくは、外因性タンパク質をコードする遺伝子をオボアルブミン遺伝子のエクソン2に挿入するが、挿入部位はエクソン2に限定されない。ノックインされる外因性タンパク質をコードしている遺伝子は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。ノックイン家禽の遺伝子型はホモであってもヘテロであってもよい。
【0019】
卵管特異的遺伝子プロモーターの制御下とは、当該卵管特異的遺伝子のプロモーターの作用が及ぶ遺伝子領域をいう。より具体的には、外因性タンパク質をコードするヌクレオチド配列をノックインにより卵管特異的遺伝子プロモーターの制御下に挿入することにより、該卵管特異的遺伝子プロモーターの作用により、卵管で外因性タンパク質が発現される。この場合、外因性タンパク質をコードするヌクレオチド配列の5’側にコザック配列や、TATA配列など転写に関する基本的な配列を含んでもよい。
【0020】
様々なアフィニティータグが公知である。アフィニティータグを付したタンパク質の精製方法も公知である。一般的には、使用するアフィニティータグに対する抗体またはリガンドを固定化した樹脂を充填したカラムを用いて、外因性タンパク質を精製する。本発明に用いられるアフィニティータグはタンパク質またはペプチドである。本発明において、アフィニティータグは外因性タンパク質に結合した形で発現される。アフィニティータグは外因性タンパク質のN末端、C末端、あるいはアミノ酸配列内に付加されてもよい。通常は、アフィニティータグは外因性タンパク質のN末端またはC末端に付加される。アフィニティータグは、外因性タンパク質の種類やその精製条件、卵管特異的遺伝子の種類などに応じて適宜選択されうる。アフィニティータグの例としては、ヒスチジンタグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合蛋白質、HAタグ、mycタグ、FLAGタグ、およびIgGのH鎖のFcフラグメント等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましいアフィニティータグの例としてはヒスチジンタグおよびFLAGタグが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
家禽卵の卵白をアフィニティークロマトグラフィーに供する前に、粗精製に供することが好ましい。粗精製は、硫安などの塩、ポリエチレングリコールなどの高分子、トリクロロ酢酸などの酸、あるいはアセトンなどの有機溶媒を用いる沈殿法を用いて行うのが一般的であるが、他の方法であってもよい。好ましくは、硫安塩析にて粗精製を行う。粗精製を行うことにより、高純度化だけでなく高濃度化によりスループット上昇を図ることができる。
【0022】
本明細書中の用語は、特に断らない限り、生物学、生化学、化学、薬学、医学、畜産学等の分野において通常に理解されている意味に解される。
【0023】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明の範囲を限定するものと解してはならない。
【実施例1】
【0024】
ヒスチジンタグを活用することで、卵白内に発現させた外因性タンパク質を簡便かつ高純度に精製する方法を確立した。
【0025】
外因性タンパク質として、サイトカインとして知られるヒトIL-4、ヒトGMCSF、およびイヌIL-4を鶏卵卵白に発現させ、ニッケルカラムを使用して高効率な精製を実現した。タンパク質はC末端側にヒスチジンタグを付加した状態で発現させた。
【0026】
ニワトリ始原生殖細胞のオボアルブミン遺伝子のエクソン2に、ストップコドンを含む外因性遺伝子(それぞれ、ヒスチジンタグがC末端側に付加されたヒトIL-4、ヒトGMCSF、およびイヌIL-4をコードしている)をノックインした。ノックイン処理された細胞を含む始原生殖細胞をレシピエント胚に移植後孵化させ、雄キメラニワトリを得た。雄キメラニワトリを雌野生型ニワトリと交配し、オボアルブミン遺伝子座に上記外因性遺伝子がノックインされた後代雌ニワトリを得た。かくして得られた後代雌ニワトリが産んだ卵を以下の実験に使用した。
【0027】
ニッケルビーズを使用した精製操作は一般的な方法にて行った。
卵白1.7mLを10mM イミダゾールと塩化ナトリウムを含むリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)で5mLに希釈し、遠心上清を精製に使用した。
0.75mLのニッケルビーズ(コスモ・バイオ株式会社、製品番号AC-310-25、25mL入り)を充填したカラムに卵白上清を吸着させ、イミダゾールを20mMに増やした同緩衝液でニッケルビーズを4回洗浄したのち、イミダゾールを250mMに増やした同緩衝液を0.5mL加えて吸着タンパク質を溶出・回収した。溶出操作は6回繰り返した。
【0028】
精製に使用した卵白(input)、精製残渣(FT)、ニッケルビーズ洗浄液(Elute1-6、Elute1-6 x10)(x10は10倍濃縮したもの)をSDS-PAGEに供した(図1)。
卵白に含まれていた外因性タンパク質のバンドは精製残渣に見られなかった。また、溶出液のレーンにはヒトIL-4および糖鎖が付加されていないヒトIL-4以外のバンドは見られなかった。これらの結果から、ヒトIL-4が溶出液中に高純度に回収できたことが確認された。
Bradford法で溶出液のタンパク質濃度を測定した結果、6画分合計で4.7mgのタンパク質を回収できた(表1)。鶏卵の卵白量はおおむね30mL程度であり、今回は1.7mL使用したため、鶏卵1個から80mg程度のヒトIL-4が得られたと考えられた。鶏卵中のヒトIL-4量をELISA法で測定すると90~140mg/Eggであったことから、本発明の精製方法の回収率は非常に高いと評価できた。
【表1】
【0029】
ヒトGMCSFおよびイヌIL-4についても上記と同様の実験を行い、ヒトIL-4と同様の純度および回収率で精製できた。
【0030】
上記方法で得られたヒトIL-4およびGMCSFについて、細胞増殖試験による活性評価を行った(図2)。
精製ヒトGMCSFは市販標品とほとんど変わらない増殖能を示した。精製ヒトIL-4については市販標品より低いものの細胞増殖活性を保持していた。外因性タンパク質の種類によって変化はあるものの、本発明の方法により精製しても活性を維持できることが確認された。
【実施例2】
【0031】
FLAGタグをN末端に付加したヒトIL-4をコードする外因性遺伝子を上記と同様の方法でノックインしたニワトリの卵白から、抗FLAG抗体を結合させたビーズ(コスモ・バイオ株式会社商品名:Anti DYKDDDDK FLAG)を用いてヒトIL-4を精製した。具体的には以下の手順で実験を行った。卵白25μLを超純水で1.25mLに希釈して精製に使用した。マイクロチューブ内の抗FLAG抗体結合ビーズに希釈卵白を吸着させ、リン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)で抗FLAG抗体結合ビーズを5回洗浄したのち、100mM グリシン-塩酸(pH3.0)を200μL加えて吸着タンパク質を溶出・回収した。溶出操作は4回繰り返した。
【0032】
結果を図3に示す。この実験でも、卵白(Input)に含まれていた外因性タンパク質のバンドは精製残渣(FT)に見られなかった。また、溶出液のレーン(Elute1-4、Elute1-4 x3、x3は3倍濃縮したもの)にはヒトIL-4および糖鎖が付加されていないヒトIL-4以外のバンドは見られなかった。これらの結果から、ヒトIL-4が溶出液中に高純度に回収できたことが確認された。
【0033】
[比較例]
ヒトGMCSFのN末端にGSTタグを付したタンパク質をコードする遺伝子(GST-GMCSF)、ヒトGMCSFのN末端およびC末端にそれぞれFLAGタグおよびヒスチジンタグを付したタンパク質をコードする遺伝子(FLAG-GMCSF-His)、ならびにタグを付していないヒトGMCSF(Wild Type)をノックインしたニワトリの、初卵産卵後100日間の産卵数、正常卵数、無殻卵数を調べた。結果を図4に示す。
【0034】
野生型(Wild Type)ニワトリの産卵数は90個前後であり、無殻卵の割合も少なかった。FLAG-GMCSF-Hisをノックインしたニワトリの産卵数は90個前後であり、無殻卵の割合も少なく、野生型ニワトリと同様の結果が得られた。一方、GST-GMCSFをノックインしたニワトリの産卵数は野生型およびFLAG-GMCSF-Hisをノックインしたニワトリの半分以下であり、大部分が無殻卵であった。これらの結果から、ヒスチジンタグおよびFLAGタグは鶏卵バイオリアクターに適したものであることがわかった。
【実施例3】
【0035】
アフィニティークロマトグラフィーの前処理としての硫安塩析について検討した。ヒトIL-4を発現している卵白を希釈した試料に硫安を段階的に添加して(0%飽和、30%飽和、40%飽和、50%飽和、60%飽和、70%飽和および80%飽和)タンパク質を沈殿させた。各画分に含まれるタンパク質をSDS-PAGEにて調べた。結果を図5に示す。
【0036】
ヒトIL-4のバンドは25kDa付近に見られ、40%ppt、50%pptおよび60%ppt画分に多く含まれていた。60%ppt画分にはオボアルブミン(45kDa付近)およびオボトランスフェリン(80kDa付近)が多く含まれていたため、50%ppt画分(40~50%飽和硫安画分)をアフィニティークロマトグラフィーによる精製に使用した。硫安塩析による粗精製を行うことにより、高純度化だけでなく高濃度化によるスループット上昇を図ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、鶏卵バイオリアクター技術で得られた家禽卵の卵白中から、大量の有用タンパク質を高純度で得ることを可能にする。したがって、本発明は、ペプチド医薬、抗体医薬、バイオ医薬品などの医薬品の製造等において利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5