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特許7578974流体の漏洩位置の検出方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】流体の漏洩位置の検出方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/28 20060101AFI20241030BHJP
   G01M 3/26 20060101ALI20241030BHJP
   F17D 5/02 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
G01M3/28 C
G01M3/26 M
F17D5/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021012434
(22)【出願日】2021-01-28
(65)【公開番号】P2022115707
(43)【公開日】2022-08-09
【審査請求日】2023-11-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・ウェブサイトのアドレス https://kyushu-u.webex.com/kyushu-u-jp/onstage/g.php?MTID=e7f17aadaee239605df57e0ee7a28bd45 掲載日 令和2年9月2日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・文書の配布 配布場所 茨城県県西農林事務所 配布日 令和2年9月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】安瀬地 一作
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0400528(US,A1)
【文献】特開昭62-211536(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107355684(CN,A)
【文献】特開2019-011975(JP,A)
【文献】特開平06-129941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17D 1/00- 5/08
G01M 3/00- 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管路内の流体の流れを抑制する抑制ステップと、
前記流れを抑制した地点の上流側の1ヵ所で測定された、前記流体の圧力値を所定の時間ごとに取得し、前記圧力値が時間軸でプラトーを形成する領域の前記圧力値を、基準となる前記所定の時間ごとに、前記基準となる所定の時間の前後で第1のグループと第2のグループとに分け、前記第1のグループの前記圧力値の平均値である第1平均値と、前記第2のグループの前記圧力値の平均値である第2平均値とを導出する処理を、前記基準となる所定の時間を変えて繰り返すステップと、
前記基準となる所定の時間における、前記第1平均値と前記第2平均値との差分を導出するステップと、
前記差分を前記基準となる所定の時間ごとにプロットしたグラフの頂点を特定する特定ステップと、
を含む、流体の漏洩位置の検出方法。
【請求項2】
前記プラトーを形成する領域は、前記流れが抑制された水撃作用による前記圧力値の急激な上昇が収まった時点から、前記管路の最上流にある貯水施設からの反射波によって前記圧力値が低下し始めるまでの領域である、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記抑制ステップは、前記管路を完全に、又は部分的に閉止するステップである、請求項1又は2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記頂点に対応する時間から、前記圧力値の測定位置から前記漏洩位置までの距離を計算するステップを更に含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項5】
前記特定ステップにおいて、前記頂点を特定できない場合には、前記管路からの前記流体の漏洩がないと判定する、請求項1から3のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項6】
コンピュータに、流体の漏洩位置の検出方法を実行させるプログラムであって、
前記流体の漏洩位置の検出方法は、
管路内の流体の流れを抑制した後の、前記流れを抑制した地点の上流側の1ヵ所で測定された前記流体の圧力値を所定の時間ごとに取得し、取得した前記流体の圧力値が時間軸でプラトーを形成する領域の前記圧力値を、基準となる前記所定の時間ごとに、前記基準となる所定の時間の前後で第1のグループと第2のグループとに分け、前記第1のグループの前記圧力値の平均値である第1平均値と、前記第2のグループの前記圧力値の平均値である第2平均値とを導出する処理を、前記基準となる所定の時間を変えて繰り返し、
前記基準となる所定の時間における、前記第1平均値と前記第2平均値との差分を導出し、
前記差分を前記基準となる所定の時間ごとにプロットしたグラフの頂点を特定する、
プログラム。
【請求項7】
前記検出方法は、さらに、前記頂点に対応する時間から、前記圧力値の測定位置から前記漏洩位置までの距離を計算する、請求項6に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の漏洩位置の検出方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
国内には、灌漑用の農業用水パイプラインが多数設置されており、その総延長は17000kmにも及ぶと見積もられている。しかし、このパイプラインでは、老朽化による漏水が多発している。パイプラインからの漏水は、水の流出による経済的な損失だけでなく、周辺地盤の陥没、又は斜面の崩壊等を引き起こす危険性がある。そのため、早期に漏水位置を特定して修理することが必要である。そのため、漏水位置を特定するための方法は、簡便でかつ安価であることが望まれる。
【0003】
従来、漏水部から発せられる音に基づいて漏水を検知する方法として、音聴法及び相関法が知られている。これらの方法は、観測点から比較的近距離の漏水を精度よく検知できるため、プラント内の配管又はメンテナンス設備が予め密に配置されている水道管などで利用されている。また、スマートボールなどの探査機器を配管内に投入して漏洩位置を特定する方法は、ガス又は原油の輸送管などで用いられている。
【0004】
上記以外の漏水検知方法として、例えば特許文献1には、水道管が閉塞された状態で圧力センサ信号をサンプリングし、サンプリングしたセンサ信号に基づいて漏水を検出する方法が開示されている。この方法は、センサ信号の微分値を順次累積して微分和を求め、所定の判定時間が経過した時点で微分和が判定値を超えると漏水を検出する漏水判定を実施する。微小な漏水が発生している場合、センサ信号の微分値は圧力が低下する方向のみを示すことから、漏洩を検出することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-11973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された発明は、漏水を検出することができるが、漏水位置を検出することはできない。また、農業用管水路は、流量計又は付帯施設が少ないため、従来技術である流量観測や音聴法などを用いて漏水位置を検出することは難しい。
【0007】
本発明の一態様は、管路からの流体の漏洩位置を、簡単かつ精度よく検出する方法及びプログラムを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る流体の漏洩位置の検出方法は、管路内の流体の流れを抑制する抑制ステップと、前記流体の圧力値を所定の時間ごとに取得し、前記圧力値が時間軸でプラトーを形成する領域の前記圧力値を、基準となる前記所定の時間ごとに、前記基準となる所定の時間の前後で第1のグループと第2のグループとに分け、前記第1のグループの前記圧力値の平均値である第1平均値と、前記第2のグループの前記圧力値の平均値である第2平均値とを導出する処理を、前記基準となる所定の時間を変えて繰り返すステップと、前記基準となる所定の時間における、前記第1平均値と前記第2平均値との差分を導出するステップと、前記差分を前記基準となる所定の時間ごとにプロットしたグラフの頂点を特定する特定ステップと、を含む。
【0009】
本発明の一態様に係るプログラムは、コンピュータに、流体の漏洩位置の検出方法を実行させるプログラムであって、前記流体の漏洩位置の検出方法は、管路内の流体の流れを抑制した後の前記流体の圧力値を所定の時間ごとに取得し、取得した前記流体の圧力値が時間軸でプラトーを形成する領域の前記圧力値を、基準となる前記所定の時間ごとに、前記基準となる所定の時間の前後で第1のグループと第2のグループとに分け、前記第1のグループの前記圧力値の平均値である第1平均値と、前記第2のグループの前記圧力値の平均値である第2平均値とを導出する処理を、前記基準となる所定の時間を変えて繰り返し、前記基準となる所定の時間における、前記第1平均値と前記第2平均値との差分を導出し、前記差分を前記基準となる所定の時間ごとにプロットしたグラフの頂点を特定する、という方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、管路からの流体の漏洩位置を、簡単かつ精度よく検出する検出する方法及びプログラムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態1に係る給水システムの構成を示す概略図である。
図2】実施形態1に係る給水システムの給水配管内の水流を抑制した場合の水撃圧の変化を示す模式図である。
図3】実施形態1に係る漏洩位置検出方法のフローチャートである。
図4】実施例1に係る、水流を抑制した場合の水圧の変化を示すグラフである。
図5】実施例1に係るグラフの水圧値を処理する方法を示す図である。
図6図5に示す方法で処理した水圧値をグラフ化した図である。
図7】実施例2に係る、漏洩がある場合の水圧値を処理した場合の模式図である。
図8】実施例2に係る、漏洩がない場合の水圧値を処理した場合の模式図である。
図9】水圧の低下が確認される場合と確認されない場合の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態に係る漏洩位置検出方法について、図面を用いて説明する。管路(配管)からの流体(例えば水)の漏洩を検出する方法として、以下の方法がある。例えば、給水配管を急速に閉止することにより、水撃作用が発生する。水撃作用とは、水の流れが急激に停止されることにより、配管内の水圧が急激に上昇する現象である。この水撃圧を、閉止した位置の近傍において測定すると、水撃による圧力波が上流側へ伝播し、漏水位置から反射して反射波となって下流側へ戻ってくるのが観察される。この反射波を測定して漏水位置を検出することができる。
【0013】
図1は、実施形態1に係る給水システム1の構成を示す概略図である。図1に示す給水システム1は、灌漑用水の給水配管を模擬した装置である。給水システム1は、貯水槽10、配管11、閉止弁12を含む。貯水槽10は、貯水施設を模擬した装置である。貯水槽10に貯留された水は、配管11を図の矢印Fの方向に流れる。つまり、貯水槽10側が上流側である。配管11には、水圧を測定するデジタル式の圧力測定器(測定位置)Rと、水を漏水させる漏水部(漏水位置)Qとが設けられている。閉止弁12を閉止することによって、配管11の水の流れを止めることができる。閉止弁12を用いて水流を急激に止めることにより、配管11内に水撃圧が発生する。この水撃圧は、閉止弁12の近傍に設置された圧力測定器Rで所定の時間ごとに連続的に測定することができる。圧力測定器Rは、配管11に設けられた空気弁に取り付けられている。なお、実際の給水配管においては、水流制御弁の前後に空気弁が設けられているので、その空気弁に圧力計(圧力センサ)を設置することができる。空気弁がない場合は、例えば、適宜配管に測定孔を設けて圧力センサを配置してもよい。
【0014】
図2は、配管11内の水流を抑制した場合の水撃圧(以下、単に「水圧」という。)Pの時間的な変化を示す模式的なグラフである。水圧Pは、圧力測定器Rで測定される。図2に示すように、水圧Pは、閉止弁12の閉止直後から時間txまで急激に上昇し、時間txから緩やかな上昇を示す。この緩やかな水圧Pの上昇は、管路内の水の慣性力によって圧力測定器R付近の水が圧縮されることにより生じる。次いで水圧Pは、時間tyで低下する。この水圧の低下は、漏水位置Qで反射した圧力波の反射波が圧力測定器Rに到達することにより生じる。つまり、時間tyは測定位置Rから漏水位置Qまでの距離Dを圧力波が往復する時間である。従って、圧力波が時間tyで進む距離の半分を計算することにより、距離Dが求められる。また、時間tyからの水圧Pの低下量ΔPは、漏水量に関係する。従ってこのΔPと漏水量との関係を予め求めておくことで、漏水量を求めることができる。
【0015】
図2に示すように、時間tzから水圧Pは低下し始める。これは圧力波が貯水槽10の入り口で反射した反射波が戻ってくることにより、水圧が低下するためである。時間txから時間tzまでの間は、水圧Pの変化が比較的少ない期間であるため、この間のグラフの領域を、プラトーを形成する領域と称する。時間tzでの反射波は、貯水槽10(貯水施設等)の入り口で水の流れの向きと水圧が変化するために生じる。時間tz以降のデータは、本実施形態での方法では使用しない。貯水施設からの反射波が混じるため、漏水位置の検出には使えないためである。つまり、プラトーを形成する領域とは、流れが抑制された水撃作用による圧力値の急激な上昇が収まった時点から、貯水施設からの反射波によって圧力値が低下し始めるまでの領域である。
【0016】
このような給水管路において、漏水量が小さい場合、又は測定位置Rから漏水位置Qまでの距離が長い場合に、tyにおける水圧の低下が確認しにくい、又は確認されない場合がある。漏水量が小さいほど、又は漏水位置Qまでの距離が長いほど(貯水槽に近いほど)、tyにおける水圧の低下が小さくなり、水圧の高周波の波に埋もれてしまうためである。
【0017】
図9は、水圧の低下が明瞭に確認される場合(ケース1)と確認されない場合(ケース2)の比較を示すグラフである。ケース1とケース2のグラフは、いずれも測定位置Rから漏洩位置Qまでの距離が750mで同じであるが、漏洩量が異なる場合の水圧変化を示す。漏洩量は、ケース1では0.025(l/s)であり、ケース2では0.007(l/s)である。図9に示すように、水圧Pは、ケース1では矢印のように低下することが確認されるが、厳密にどの時点で低下するかは特定しにくい。さらに、ケース2のように水圧Pの低下が確認されない場合もある。なお、図9のグラフの縦軸は、水撃作用前の初期水圧と水撃作用後の水圧との差を、流速に基づいて計算される理論的な圧力上昇値で除して無次元化した数値である。
【0018】
本実施形態に係る漏洩位置の検出方法によれば、時間tyにおける水圧Pの低下をより精度よく検出することができる。例えば、図9のケース1の場合でも、水圧Pが低下する時刻を精度よく決定することができる。また、図9のケース2のように水圧Pの低下が明瞭に確認できない場合においても、本実施形態に係る漏洩位置の検出方法によれば、水圧Pの低下を明確に検出することができる。従って、測定位置Rから漏水位置Qまでの距離を精度よく求めることができる。以下、その方法について説明する。
【0019】
本実施形態において、配管の大きさ、材質、形状、又は配管からの漏洩量等は限定されない。また、配管の内部を流れる流体は水に限定されない。従って、以下では「配管」に代えて「管路」ともいう。また、「水」に代えて「流体」ともいう。また、「漏水」に代えて「漏洩」ともいう。また、「水圧」に代えて「圧力」ともいう。つまり、水は、特許請求の範囲に記載した「流体」の一形態である。配管は、特許請求の範囲に記載した「管路」の一形態である。
【0020】
図3は、本実施形態に係る漏洩位置の検出方法を示すフローチャートである。まず、ステップS11において、管路内の流体の流れを抑制する(抑制ステップ)。本実施形態においては、管路を完全に閉止する必要はない。つまり、本実施形態によれば、管路を部分的に閉止してもよい。管路を部分的に閉止した場合でも、その際に生じる圧力の変動を解析することにより、漏洩位置を検出することができる。
【0021】
本実施形態では、閉止弁等によって管路を完全に、又は部分的に閉止することを、流体の流れを抑制する、という。なお、流体の流れは急速に抑制することが好ましい。つまり、閉止弁等を急速に閉止することが好ましい。流れを緩やかに抑制すると、圧力の変化が緩やかになり、測定位置Rから漏洩位置Qまでの距離を求めることが難しくなるためである。また、管路を段階的に閉止することは、圧力の変動が段階的に生じるために圧力の解析が難しくなるため、好ましくない。
【0022】
次に、ステップS12において、圧力計等により流体の圧力値を所定の時間ごとに取得する。圧力値はデジタル値である。測定した圧力値がアナログ値である場合は、デジタル値に変換する。所定の時間とは、個々の圧力値を測定する時間である。そして取得した圧力値を時間軸でプロットしてグラフ化し、圧力値がプラトーを形成する領域を求める。
【0023】
上記の所定の時間は、例えばデジタル式の圧力計であれば、定められた間隔ごとに水圧値を測定するため、等間隔の時間である。しかし所定の時間が、それぞれ間隔が異なる時間であってもよい。
【0024】
次に、ステップS13において、圧力値が時間軸でプラトーを形成する領域の圧力値を、基準となる所定の時間の前後で2分して、それぞれの平均値を導出する。例えば、基準となる所定の時間以前の時間に取得された圧力値のグループを第1のグループとし、基準となる所定の時間よりも後に取得された圧力値のグループを第2グループとし、第1のグループの圧力値の平均値(第1平均値)と、第2のグループの圧力値の平均値(第2平均値)とを導出する(平均値導出ステップ)。なお、グループの分け方は、基準となる所定の時間よりも前の時間に取得された圧力値のグループを第1のグループとし、基準となる所定の時間以後に取得された圧力値のグループを第2グループとしてもよい。
【0025】
次に、ステップS14において、2つのグループの圧力値の平均値の差分を導出する。つまり、第1平均値と第2平均値の差分を導出する(差分導出ステップ)。
【0026】
次に、ステップS15において、所定の時間の全てでステップS13とステップS14を実行したか否かを判定する。ステップS15において、所定の時間の全てでステップS13とステップS14を実行したと判定された場合(ステップS15:YES)は、ステップS16に移行する。ステップS15において、所定の時間の全てでステップS13とステップS14が実行されていないと判定された場合(ステップS15:NO)は、ステップS13に戻る。つまり、所定の時間の全てでステップS13とステップS14を実行するまで、基準となる所定の時間を変えて、ステップS13とステップS14を繰り返す。なお、所定の時間の全てでステップ13を繰り返し、その後に得られたすべての第1平均値と第2平均値との差分を導出してもよい。つまり、ステップS14を、ステップS15の直後に実行してもよい。
【0027】
次に、ステップS16において、差分を基準となる所定の時間ごとにプロットし、差分のグラフの頂点を特定できるか否かを判定する(特定ステップ)。ステップS16において、差分のグラフの頂点を特定できると判定された場合(ステップS16:YES)は、ステップS17に移行する。管路に漏洩がある場合は、差分は最初は増加するが、ある時点から下降に転じる。つまり、差分を所定の時間ごとにプロットすると、グラフに頂点(変曲点)が現れる。
【0028】
ステップS17において、差分のグラフの頂点に対応する時間から、圧力値の測定位置Rから漏洩位置Qまでの距離Dを計算する。差分のグラフの頂点に対応する時間から距離Dを計算する方法については後述する。
【0029】
一方、ステップS16において、差分のグラフの頂点を特定できないと判定された場合(ステップS16:NO)は、ステップS18に移行する。ステップS18において、管路の漏洩はないと判定される。以上で漏洩位置検出方法のフローは終了する。
【0030】
上記の方法では、取得した圧力値を数学的に処理する必要があるが、圧力値の取得から、取得した圧力値の数学的処理までは、プログラムによってコンピュータ(プロセッサ)に実行させることができる。つまり、上述のステップS12からステップS18までをコンピュータに実行させることができる。
【0031】
具体的には、プログラムは、流体の漏洩位置の検出方法を実行させるプログラムであって、その検出方法は、管路内の流体の流れを抑制した後の流体の圧力値を所定の時間ごとに取得し、取得した流体の圧力値が時間軸でプラトーを形成する領域の圧力値を、基準となる所定の時間ごとに、基準となる所定の時間の前後で第1のグループと第2のグループとに分け、第1のグループの圧力値の平均値である第1平均値と、第2のグループの圧力値の平均値である第2平均値とを導出する処理を、基準となる所定の時間を変えて繰り返し、基準となる所定の時間における、第1平均値と第2平均値との差分を導出し、差分を基準となる所定の時間ごとにプロットしたグラフの頂点を特定する、という方法である。
【0032】
また、上記の検出方法は、頂点が特定された場合には、頂点に対応する時間から、圧力値の測定位置から漏洩位置までの距離を計算することを更に含んでもよい。本実施形態に係る方法では、圧力値が低下する時間を明確に検出できるため、漏洩位置までの距離も明確に算出することができる。
【0033】
以上の方法及びプログラムにより、管路からの流体の漏洩位置を、流体の流れを抑制して圧力を測定するという簡単かつ精度が高い方法で検出することができる。また、圧力変動が明瞭でない場合でも、漏洩位置を精度よく検出することができる。さらに、後述するように、漏洩がない場合でも、それを判別することができる。
【実施例1】
【0034】
次に、水流を抑制した場合の水圧値を測定し、実測された水圧値を数学的に処理した実施例1について説明する。実施例1では、図1に示す試験装置を用いて漏洩位置検出試験を行った。配管11として、ステンレススチール製の直径2.42cmの水路管を用いた。配管11の全長は900mであった。図4は、本実施例に係る、閉止弁12を用いて水流を全停止させた場合の水圧の実測値の一例を示すグラフである。このグラフは、図9のケース2のグラフと同じである。図4の横軸は時間を表し、縦軸は前述のとおり無次元化した水圧値を表す。
【0035】
図4において、矢印で示す範囲がプラトー領域PLである。図4においては、図2で示すような、tyにおける水圧の低下は確認されない。本実施例では、このような水圧のデータを用いて、漏水位置Qまでの距離を求めた。
【0036】
図5は、実施例1に係るグラフの水圧値データを処理する方法を示す図である。水流を抑制したことにより生じるプラトー領域PLにおいて、デジタルデータである水圧値が、それぞれ所定の時間ごとに取得されている。所定の時間を、順にt1,t2,…,tmとし、その時間に測定された水圧値がH1,H2,…,Hmである。つまり、水圧値は全部でm個である。
【0037】
このm個の水圧値を、所定の時間ごとに第1のグループと第2のグループとに分けた。具体的には、m個の圧力値を測定された時間順に並べた場合に、H1からHnまでのデータの第1のグループAと、H(n+1)からHmまでの水圧値の第2のグループBに分けた。つまり、m個のデータを、個々の水圧値が取得された所定の時間(基準となる所定の時間)を境界として前後2つのグループに分けた。
【0038】
次に、第1のグループAの水圧値の平均値である第1平均値と、第2のグループBの水圧値の平均値である第2平均値とを導出した。具体的には、n=1の場合から、n=m-1の場合までをそれぞれ導出処理した。n=1の場合とは、最初に測定されたH1を第1のグループとし、それ以外の水圧値を第2のグループとした場合である。また、n=m-1の場合とは、最後に測定されたHmを第2のグループとし、それ以外の水圧値を第1のグループとした場合である。
【0039】
次に、それぞれの所定の時間における、第1平均値と第2平均値との差分を導出した。つまり、所定の時間ごとの第1平均値と第2平均値との差分を導出する処理を、所定の時間を変えて繰り返した。差分を導出する処理を所定の時間ごとに繰り返す処理を数式を用いて表すと、下記の(式1)のようになる。
【0040】
【数1】

ここで、mはデータの個数であり、nは第1のグループのデータの数であり、Htは時間順に並べた水圧値である。(m-1)は繰り返しの回数である。
【0041】
次に、第1平均値と第2平均値との差分を所定の時間ごとにプロットし、グラフの頂点を特定した。この頂点に対応する時間から、測定位置Rから漏洩位置Qまでの距離を計算した。
【0042】
図6は、上記(式1)で計算された平均値の差分値をグラフ化した図である。図6の横軸は時間を表す。図6の縦軸は、無次元化した水圧値を処理して差分を取った無次元値である。
【0043】
図6に示すように、第1平均値と第2平均値との差分をプロットすると、時間とともに差分値は増加するが、ある時点から減少に転ずる。この頂点(又は変曲点)Vに対応する時間Tvから、測定位置Rから漏洩位置Qまでの距離Dを計算した。具体的には、時間Tvに水中の圧力伝播速度を乗じてそれを2で割ることにより、距離Dを計算した。水中の圧力伝播速度は、管路の弾性変形率と水(流体)の弾性変形率とから求められる。
【0044】
図6からわかるように、上述の処理をすることによって、図4では不明確であった水圧の低下は、頂点Vから始まることが明確に確認できる。なお、漏洩量が少ない場合は水圧の低下が検出できない場合もあるが、実施例1では、漏洩量として少なくとも0.01(l/s)まで検出できることがわかった。
【実施例2】
【0045】
次に、本発明の実施例2について説明する。実施例2は、管路に漏洩がある場合とない場合とで、差分値のグラフがどのように異なるかを比較したものである。図7は、漏洩がある場合の水圧値の変化を処理してグラフ化した模式図である。図8は、漏洩がない場合の水圧値の変化を処理してグラフ化した模式図である。2つの図の実線は、無次元化した水圧値を処理して得られた、グループAとグループBの平均値の差分値(無次元)であり、右の目盛に対応する。点線は、水圧値を無次元化した数値であり、左の目盛に対応する。なお、図7及び図8は、水圧値は高周波の圧力変動を除いた(平滑化した)数値をプロットしたものである。
【0046】
図7に示すように、管路からの漏洩がある場合は、差分値は図6と同様に頂点を有する。水圧も、急激に低下することが明確に確認できる。一方、図8に示すように、管路からの漏洩がない場合は、差分をプロットしたグラフはほとんど増減がなく、頂点が存在しなかった。また、水圧は緩やかに増加するのみであった。つまり、水圧値の実測値から、図8のように、差分値の頂点を特定できないグラフが得られた場合は、管路からの流体の漏洩はないと判定することができる。
【0047】
以上の実施例1及び実施例2から、管路からの流体の漏洩位置を、流体の流れを抑制して圧力を測定するという簡単かつ精度の良い方法で検出できることができることがわかった。また、この方法は、圧力の低下がグラフ上では明確ではない場合でも有効であることがわかった。さらに、管路からの流体の漏洩がない場合も、漏洩のないことが確認できることがわかった。
【0048】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る流体の漏洩位置の検出方法は、管路内の流体の流れを抑制する抑制ステップと、前記流体の圧力値を所定の時間ごとに取得し、前記圧力値が時間軸でプラトーを形成する領域の前記圧力値を、基準となる前記所定の時間ごとに、前記基準となる所定の時間の前後で第1のグループと第2のグループとに分け、前記第1のグループの前記圧力値の平均値である第1平均値と、前記第2のグループの前記圧力値の平均値である第2平均値とを導出する処理を、前記基準となる所定の時間を変えて繰り返すステップと、前記基準となる所定の時間における、前記第1平均値と前記第2平均値との差分を導出するステップと、前記差分を前記基準となる所定の時間ごとにプロットしたグラフの頂点を特定する特定ステップと、を含む。
【0049】
上記の構成によれば、管路からの流体の漏洩位置を、簡単かつ精度よく検出することができる。
【0050】
本発明の態様2に係る漏洩位置の検出方法において、前記プラトーを形成する領域は、前記流れが抑制された水撃作用による前記圧力値の急激な上昇が収まった時点から、貯水施設からの反射波によって前記圧力値が低下し始めるまでの領域である。
【0051】
上記の構成によれば、貯水施設からの反射波の影響を除くことができ、管路からの流体の漏洩位置を、簡単かつ精度よく検出することができる。
【0052】
本発明の態様3に係る漏洩位置の検出方法において、前記抑制ステップは、前記管路を完全に、又は部分的に閉止するステップである。
【0053】
上記の構成によれば、全閉止でなくとも、圧力変化を引き起こすことができ、管路からの流体の漏洩位置を、簡単かつ精度よく検出することができる。
【0054】
本発明の態様4に係る漏洩位置の検出方法において、前記頂点に対応する時間から、前記圧力値の測定位置から前記漏洩位置までの距離を計算するステップを更に含む。
【0055】
上記の構成によれば、圧力値の測定位置から漏洩位置までの距離を計算することができる。
【0056】
本発明の態様5に係る漏洩位置の検出方法において、前記特定ステップにおいて、前記頂点を特定できない場合には、前記管路からの前記流体の漏洩がないと判定する。
【0057】
上記の構成によれば、管路に漏洩がないということを確認することができる。
【0058】
本発明の態様6に係るプログラムは、コンピュータに、流体の漏洩位置の検出方法を実行させるプログラムであって、前記流体の漏洩位置の検出方法は、管路内の流体の流れを抑制した後の前記流体の圧力値を所定の時間ごとに取得し、取得した前記流体の圧力値が時間軸でプラトーを形成する領域の前記圧力値を、基準となる前記所定の時間ごとに、前記基準となる所定の時間の前後で第1のグループと第2のグループとに分け、前記第1のグループの前記圧力値の平均値である第1平均値と、前記第2のグループの前記圧力値の平均値である第2平均値とを導出する処理を、前記基準となる所定の時間を変えて繰り返し、前記基準となる所定の時間における、前記第1平均値と前記第2平均値との差分を導出し、前記差分を前記基準となる所定の時間ごとにプロットしたグラフの頂点を特定する。
【0059】
上記の構成によれば、コンピュータを用いて、管路からの流体の漏洩位置を、簡単かつ精度よく検出することができる。
【0060】
本発明の態様7に係るプログラムにおいて、前記検出方法は、さらに、前記頂点に対応する時間から、前記圧力値の測定位置から前記漏洩位置までの距離を計算する。
【0061】
上記の構成によれば、コンピュータを用いて、圧力値の測定位置から漏洩位置までの距離を計算することができる。
【0062】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
1…給水システム、10…貯水槽、11…配管、12…閉止弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9