(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】種子貯蔵タンパク質を用いた乳化組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/60 20160101AFI20241030BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
A23L27/60 A
A23D7/00 504
(21)【出願番号】P 2021516196
(86)(22)【出願日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2020017450
(87)【国際公開番号】W WO2020218402
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2019086309
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514057743
【氏名又は名称】株式会社Mizkan Holdings
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹村 知也
(72)【発明者】
【氏名】中林 昌志
(72)【発明者】
【氏名】松村 康生
(72)【発明者】
【氏名】松宮 健太郎
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-110244(JP,A)
【文献】特開昭61-031056(JP,A)
【文献】特表2007-508817(JP,A)
【文献】特開平07-213227(JP,A)
【文献】特開昭54-110348(JP,A)
【文献】特開2003-189811(JP,A)
【文献】特表2010-519928(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0059429(US,A1)
【文献】米国特許第04798734(US,A)
【文献】欧州特許出願公開第01679981(EP,A1)
【文献】国際公開第2005/046361(WO,A1)
【文献】谷澤容子 他,微細化された各種農産食品素材の起泡性および乳化性の検討,日本調理科学会誌,2018年,Vol.51, No.1,p.26-36
【文献】EVANS, M., RATCLIFFE, I. , and WILLIAMS, P.A.,Emulsion stabilisation using polysaccharide-protein complexes,Current Opinion in Colloid & Interface Science,2013年08月,Vol.18, Issue 4,p.272-282
【文献】XU, Duoxia et al.,Influence of microcrystalline cellulose on the microrheological property and freeze-thaw stability o,LWT - Food Science and Technology,2016年03月,Vol. 66,p.590-597
【文献】XU, Yan-Teng and LIU, Ling-ling,Structural and Functional Properties of Soy Protein Isolates Modified by Soy Soluble Polysaccharides,J. Agric. Food Chem.,2016年,Vol.64,p.7275-7284
【文献】NAKAMURA, Akihiro, MAEDA, Hirokazu, and CORREDIG, Milena,Influence of Heating on Oil-in-Water Emulsions Prepared with Soybean Soluble Polysaccharide,J. Agric. Food Chem.,2007年,Vol.55,p.502-509
【文献】LIU, Fu, and TANG, Chuan-He,Soy glycinin as food-grade Pickering stabilizers: Part. I. Structural characteristics, emulsifying p,Food Hydrocolloids,2016年10月,Vol.60,p.606-619
【文献】YAMAUCHI, Fumio, OGAWA, Yasushi, and KAMATA, Yoshiro,Emulsifying Properties of Soybean β-Conglycinin and Glycinin: Evaluation by Turbidimetry,Agric. Biol. Chem.,1982年,Vol.46, No.3,p.615-621
【文献】大豆の科学,1997年06月20日,p.27
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/60
A23D 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/WPIX/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が5μm以上150μm以下である双子葉植物種子の乾燥粉末1質量%以上20質量%以下、水20質量%以上69質量%以下、20℃で液体状の流動性を有する油脂21質量%以上70質量%以下を配合した混合物を乳化処理することで製造される乳化組成物であり、
前記乳化処理時点で前記双子葉植物種子の乾燥粉末が乳化力を有し、
前記乳化処理までの工程において、前記双子葉植物種子の乾燥粉末に対して、40℃超でタンパク質の熱変性を伴う処理工程を行わずに製造された、乳化組成物。
【請求項2】
11Sタンパク質0.14質量%以上4質量%以下、セルロース0.02質量%以上2質量%以下、水20質量%以上69.66質量%以下、20℃で液体状の流動性を有する油脂21質量%以上70質量%以下を配合した混合物を乳化処理することで製造される乳化組成物であり、
前記乳化処理時点で前記11Sタンパク質が乳化力を有し、
前記乳化処理までの工程において、前記11Sタンパク質に対して、40℃超でタンパク質の熱変性を伴う処理工程を行わずに製造された、乳化組成物。
【請求項3】
平均粒径が5μm以上150μm以下である双子葉植物種子の乾燥粉末1質量%以上20質量%以下、水20質量%以上69質量%以下、20℃で液体状の流動性を有する油脂21質量%以上70質量%以下、酢酸0質量%超50質量%未満を配合した混合物を乳化処理することで製造される乳化組成物であり、
前記乳化処理時点で前記双子葉植物種子の乾燥粉末が乳化力を有し、
前記乳化処理までの工程において、前記双子葉植物種子の乾燥粉末に対して、40℃超でタンパク質の熱変性を伴う処理工程を行わずに製造された、乳化組成物。
【請求項4】
11Sタンパク質0.14質量%以上4質量%以下、セルロース0.02質量%以上2質量%以下、水20質量%以上69.66質量%以下、20℃で液体状の流動性を有する油脂21質量%以上70質量%以下、酢酸0質量%超50質量%未満を配合した混合物を乳化処理することで製造される乳化組成物であり、
前記乳化処理時点で前記11Sタンパク質が乳化力を有し、
前記乳化処理までの工程において、前記11Sタンパク質に対して、40℃超でタンパク質の熱変性を伴う処理工程を行わずに製造された、乳化組成物。
【請求項5】
平均粒径が5μm以上150μm以下である双子葉植物種子の乾燥粉末1質量%以上20質量%以下、水20質量%以上69質量%以下、20℃で液体状の流動性を有する油脂21質量%以上70質量%以下を配合した混合物を乳化処理することで製造される乳化組成物であり、
前記乳化処理時点で前記双子葉植物種子の乾燥粉末が乳化力を有し、
前記双子葉植物種子の乾燥粉末に対して40℃超でタンパク質の熱変性を伴う処理工程であって、前記乳化組成物を10g取り、内径1.3cm、長さ10.5cmの遠沈管に移して、室温下で75000G、5分間の超遠心処理を行った場合における、乳化層(クリーミング層)の厚さが0.8cm以下となるように熱変性する処理工程を行わずに製造された、乳化組成物。
【請求項6】
11Sタンパク質0.14質量%以上4質量%以下、セルロース0.02質量%以上2質量%以下、水20質量%以上69.66質量%以下、20℃で液体状の流動性を有する油脂21質量%以上70質量%以下を配合した混合物を乳化処理することで製造される乳化組成物であり、
前記乳化処理時点で前記11Sタンパク質が乳化力を有し、
前記11Sタンパク質に対して40℃超でタンパク質の熱変性を伴う処理工程であって、前記乳化組成物を10g取り、内径1.3cm、長さ10.5cmの遠沈管に移して、室温下で75000G、5分間の超遠心処理を行った場合における、乳化層(クリーミング層)の厚さが0.8cm以下となるように熱変性する処理工程を行わずに製造された、乳化組成物。
【請求項7】
前記セルロースがおから由来である、請求項2、4又は6に記載の乳化組成物。
【請求項8】
以下の(a)~(c)のうち1以上を充足する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の乳化組成物。
(a)角周波数10rad/sにおける貯蔵弾性率が10Pa以上である。
(b)角周波数10rad/sにおける損失正接が3.5以下である。
(c)角周波数10rad/sにおける損失弾性率が10Pa以上である。
【請求項9】
80℃、30分間の加熱処理前及び前記加熱処理後において、前記(a)~(c)のうち1以上を充足する、請求項
8に記載の乳化組成物。
【請求項10】
前記乳化処理が40℃以下で行われる、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項11】
前記乳化処理が高圧ホモジナイズ処理又は超音波ホモジナイズ処理である、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項12】
前記油脂がボストウィック粘度計(トラフ長28.0cm)における20℃、10秒間のボストウィック粘度が10cm以上の油脂である、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項13】
前記油脂がパーム分別油以外の油脂である、請求項1乃至12のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項14】
前記乳化組成物がピッカリングエマルションを含まない、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項15】
前記乳化組成物を室温下で75000G、5分間の超遠心処理を行っても乳化が維持される、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項16】
前記乳化組成物を10g取り、内径1.3cm、長さ10.5cmの遠沈管に移して、室温下で75000G、5分間の超遠心処理を行った場合における、乳化層(クリーミング層)の厚さが3.1cm以上である、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の乳化組成物。
【請求項17】
前記双子葉植物種子が、アーモンド、カシューナッツ、ピーナッツ、小豆、いんげん豆、緑豆及び大豆の種子から選ばれる1種以上である、請求項1、3又は5記載の乳化組成物。
【請求項18】
前記双子葉植物種子が、大豆の種子である、請求項17記載の乳化組成物。
【請求項19】
請求項1乃至18のいずれか1項に記載の乳化組成物を製造するための乳化剤であって、
平均粒径が5μm以上100μm以下である双子葉植物種子の乾燥粉末1質量%以上30質量%以下、水70質量%以上99質量%以下を配合した乳化剤であり、
前記双子葉植物種子の乾燥粉末が乳化力を有し、
前記双子葉植物種子の乾燥粉末に対して、40℃超でタンパク質の熱変性を伴う処理工程を行わずに製造された、乳化剤。
【請求項20】
請求項
2、4、6又は7に記載の乳化組成物を製造するための乳化剤であって、
11Sタンパク質0.14質量%以上6質量%以下、セルロース0.02質量%以上3質量%以下、水70質量%以上99.66質量%以下を配合した乳化剤であり、
前記11Sタンパク質が乳化力を有し、
前記11Sタンパク質に対して、40℃超でタンパク質の熱変性を伴う処理工程を行わずに製造された、乳化剤。
【請求項21】
平均粒径が5μm以上150μm以下である双子葉植物種子の乾燥粉末、水及び20℃で液体状の流動性を有する油脂を配合した混合物を高圧ホモジナイズ処理又は超音波ホモジナイズ処理する乳化処理工程を含み、
当該混合物全量に対する、双子葉植物種子の乾燥粉末の配合量が1質量%以上20質量%以下であり、水の配合量が20質量%以上69質量%以下であり、油脂の配合量が21質量%以上70質量%以下であり、かつ、
前記乳化処理時点で前記双子葉植物種子の乾燥粉末が乳化力を有し、
前記乳化処理までの工程において、前記双子葉植物種子の乾燥粉末に対して、40℃超でタンパク質の熱変性を伴う処理工程を行わない、乳化組成物の製造方法。
【請求項22】
11Sタンパク質、セルロース、水及び20℃で液体状の流動性を有する油脂を配合した混合物を高圧ホモジナイズ処理又は超音波ホモジナイズ処理する乳化処理工程を含み、
当該混合物全量に対する、11Sタンパク質の配合量が0.14質量%以上4質量%以下であり、セルロースの配合量が0.02質量%以上2質量%以下であり、水の配合量が20質量%以上69.66質量%以下であり、油脂の配合量が21質量%以上70質量%以下であり、かつ、
前記乳化処理時点で前記11Sタンパク質が乳化力を有し、
前記乳化処理までの工程において、前記11Sタンパク質に対して、40℃超でタンパク質の熱変性を伴う処理工程を行わない、乳化組成物の製造方法。
【請求項23】
平均粒径が5μm以上150μm以下である双子葉植物種子の乾燥粉末、水、20℃で液体状の流動性を有する油脂及び酢酸を配合した混合物を高圧ホモジナイズ処理又は超音波ホモジナイズ処理する乳化処理工程を含み、
当該混合物全量に対する、双子葉植物種子の乾燥粉末の配合量が1質量%以上20質量%以下であり、水の配合量が20質量%以上69質量%以下であり、油脂の配合量が21質量%以上70質量%以下であり、酢酸の配合量が0質量%超50質量%未満であり、かつ、
前記乳化処理時点で前記双子葉植物種子の乾燥粉末が乳化力を有し、
前記乳化処理までの工程において、前記双子葉植物種子の乾燥粉末に対して、40℃超でタンパク質の熱変性を伴う処理工程を行わない、乳化組成物の製造方法。
【請求項24】
11Sタンパク質、セルロース、水、20℃で液体状の流動性を有する油脂及び酢酸を配合した混合物を高圧ホモジナイズ処理又は超音波ホモジナイズ処理する乳化処理工程を含み、
当該混合物全量に対する、11Sタンパク質の配合量が0.14質量%以上4質量%以下であり、セルロースの配合量が0.02質量%以上2質量%以下であり、水の配合量が20質量%以上69.66質量%以下であり、油脂の配合量が21質量%以上70質量%以下であり、酢酸の配合量が0質量%超50質量%未満であり、かつ、
前記乳化処理時点で前記11Sタンパク質が乳化力を有し、
前記乳化処理までの工程において、前記11Sタンパク質に対して、40℃超でタンパク質の熱変性を伴う処理工程を行わない、乳化組成物の製造方法。
【請求項25】
平均粒径が5μm以上150μm以下である双子葉植物種子の乾燥粉末、水及び20℃で液体状の流動性を有する油脂を配合した混合物を高圧ホモジナイズ処理又は超音波ホモジナイズ処理する乳化処理工程を含み、
当該混合物全量に対する、双子葉植物種子の乾燥粉末の配合量が1質量%以上20質量%以下であり、水の配合量が20質量%以上69質量%以下であり、油脂の配合量が21質量%以上70質量%以下であり、
前記乳化処理時点で前記双子葉植物種子の乾燥粉末が乳化力を有し、かつ、
前記双子葉植物種子の乾燥粉末に対して40℃超でタンパク質の熱変性を伴う処理工程であって、前記乳化組成物を10g取り、内径1.3cm、長さ10.5cmの遠沈管に移して、室温下で75000G、5分間の超遠心処理を行った場合における、乳化層(クリーミング層)の厚さが0.8cm以下となるように熱変性する処理工程を行わない、乳化組成物の製造方法。
【請求項26】
11Sタンパク質、セルロース、水、20℃で液体状の流動性を有する油脂及び酢酸を配合した混合物を高圧ホモジナイズ処理又は超音波ホモジナイズ処理する乳化処理工程を含み、
当該混合物全量に対する、11Sタンパク質の配合量が0.14質量%以上4質量%以下であり、セルロースの配合量が0.02質量%以上2質量%以下であり、水の配合量が20質量%以上69.66質量%以下であり、油脂の配合量が21質量%以上70質量%以下であり、酢酸の配合量が0質量%超50質量%未満であり、
前記乳化処理時点で前記11Sタンパク質が乳化力を有し、かつ、
前記11Sタンパク質に対して40℃超でタンパク質の熱変性を伴う処理工程であって、前記乳化組成物を10g取り、内径1.3cm、長さ10.5cmの遠沈管に移して、室温下で75000G、5分間の超遠心処理を行った場合における、乳化層(クリーミング層)の厚さが0.8cm以下となるように熱変性する処理工程を行わない、乳化組成物の製造方法。
【請求項27】
前記セルロースがおから由来である、請求項22、24又は26に記載の方法。
【請求項28】
以下の(a)~(c)のうち1以上を充足するまで高圧ホモジナイズ処理又は超音波ホモジナイズ処理する、請求項21乃至27のいずれか1項に記載の方法。
(a)角周波数10rad/sにおける貯蔵弾性率が10Pa以上である。
(b)角周波数10rad/sにおける損失正接が3.5以下である。
(c)角周波数10rad/sにおける損失弾性率が10Pa以上である。
【請求項29】
80℃、30分間の加熱処理前及び前記加熱処理後において、前記(a)~(c)のうち1以上を充足するまで高圧ホモジナイズ処理又は超音波ホモジナイズ処理する、請求項
28に記載の方法。
【請求項30】
前記高圧ホモジナイズ処理又は超音波ホモジナイズ処理工程の後に、65℃以上121℃以下で、4分間以上40分間以下の殺滅菌工程を行う、請求項21乃至29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記高圧ホモジナイズ処理又は超音波ホモジナイズ処理が40℃以下で行われる、請求項21乃至30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
請求項1乃至18のいずれか1項に記載の乳化組成物を製造するための乳化剤の製造方法であって、
平均粒径が5μm以上100μm以下である双子葉植物種子の乾燥粉末及び水を配合して混合物を得る工程を含み、
当該混合物全量に対する、双子葉植物種子の乾燥粉末の配合量が1質量%以上30質量%以下であり、水の配合量が70質量%以上99質量%以下であり、かつ、
前記双子葉植物種子の乾燥粉末が乳化力を有し、
前記双子葉植物種子の乾燥粉末に対して、40℃超でタンパク質の熱変性を伴う処理工程を行わない、乳化剤の製造方法。
【請求項33】
請求項
2、4、6又は7に記載の乳化組成物を製造するための乳化剤の製造方法であって、
11Sタンパク質、セルロース及び水を配合して混合物を得る工程を含み、
当該混合物全量に対する、11Sタンパク質の配合量が0.02質量%以上3質量%以下であり、水の配合量が70質量%以上99.66質量%以下であり、かつ、
前記11Sタンパク質が乳化力を有し、
前記11Sタンパク質に対して、40℃超でタンパク質の熱変性を伴う処理工程を行わない、乳化剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、種子貯蔵タンパク質を用いた乳化組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マヨネーズは広く愛好されている乳化食品であるが、油を70%以上含む食品である。レシチンは多量の油を乳化できるが、マヨネーズの場合には総重量の1%程度も含まれており、それ自身に含まれるリン脂質によるコレステロールが多く、昨今の健康志向にそぐわない。そのため、多量の油を乳化でき、脂質を含まない乳化剤が求められていた。タンパク質は脂質を含まない乳化剤となりえる。
【0003】
従来、タンパク質系乳化剤としては、乳製品等が代表されるが、コレステロール等を含むことから、健康志向の隆盛に伴い、植物性タンパク質が広く利用されてきた。中でも大豆タンパク質が好んで使われている(例えば、特許文献1、2参照)。また、マメ科植物などの植物の種子に含まれる種子貯蔵タンパク質は、今後天然物系の有望な新規乳化剤として、新たな利用が期待される(例えば、非特許文献1、2、特許文献3~5参照。)しかし、一般的な大豆の油含有量は20%程度であることから、マヨネーズのような高油量系での乳化力についての検討は行われていない。
【0004】
大豆の種子貯蔵タンパク質は超遠心分析による沈降係数から15S、11S、7S、2Sの各タンパク質に分類される。11Sタンパク質と7Sタンパク質はどちらも乳化力を持つことが知られ、粘性やゲル化性などの性質が異なることが分かっている。そのうち11Sタンパク質はSH基を多く含み、豆腐が固まるときの主成分であることが知られている(例えば、特許文献5、非特許文献1、2参照)。
【0005】
しかしながら、11Sタンパク質は分子量が大きく、また疎水性が低いため、乳化力が7Sタンパク質に劣ると考えられてきた(例えば、非特許文献1、2参照)。また、11Sタンパク質は加熱によって高次構造が破壊され、生理活性を失う(例えば、非特許文献3参照)。これらの理由から、11Sタンパク質は乳化剤として着目されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2004/043167号
【文献】特開2005-270099号公報
【文献】国際公開第2006/129647号
【文献】国際公開第2008/069273号
【文献】特開2010-193909号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】喜多村啓介ほか、「大豆のすべて」、(株)サイエンスフォーラム、2010年、p.114~127
【文献】藤田哲、「食品の乳化-基礎と応用-」、幸書房、2006年、p.291~293
【文献】山内文男、大久保一良、「大豆の科学(シリーズ「食品の科学」)」、朝倉書店、1992年、p.143~146
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の課題は、植物性タンパク質を乳化剤として用い、かつ、大量の油を含有させることができる乳化組成物を提供することである。また、コレステロールを含まず、低カロリーで、合成添加物無添加の乳化組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の従来技術とは逆に、分子量の大きい11Sタンパク質は、少量の添加量で多量の油を乳化できると考え、大豆から11Sタンパク質を分画して乳化力を調べることを試みた。なお、一般的な豆乳は加熱殺菌されているため、生の丸大豆から11Sタンパク質を分画した。すると、驚くべきことに、微細化した乾燥大豆粉から分画した11Sタンパク質画分とセルロース画分に、水を混合し、熱履歴を抑えながら強力な撹拌力でホモジナイズすることにより、乳化組成物が得られることを見出した。また本発明者らは、この微細化した乾燥大豆粉や他のマメ科植物など双子葉植物種子の乾燥粉末を乳化剤として用いても、11Sタンパク質と同様の効果を発揮することがわかった。本発明者らは、これらの知見に基づいて本開示を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本開示は、平均粒径が0.2μm以上150μm以下である双子葉植物種子の乾燥粉末1質量%以上20質量%以下、水20質量%以上69質量%以下、油脂21質量%以上70質量%以下を含有することを特徴とする乳化組成物に関する。
【0011】
また、本開示は、平均粒径が0.2μm以上150μm以下である双子葉植物種子の乾燥粉末1質量%以上20質量%以下、水20質量%以上69質量%以下、油脂21質量%以上70質量%以下、酢酸0質量%超50質量%未満を含有することを特徴とする乳化組成物に関する。さらに、本開示は、平均粒径が0.2μm以上100μm以下である双子葉植物種子の乾燥粉末1質量%以上30質量%以下、水70質量%以上99質量%以下を含有することを特徴とする乳化組成物に関する。
【0012】
平均粒径0.2μm以上150μm以下の双子葉植物種子粉末は水に溶けやすく、少量での乳化が可能となり、油脂を多く含む乳化組成物も製造することができる。マメ科植物などの双子葉植物種子に含まれる種子貯蔵タンパク質である11Sタンパク質を乳化剤として用いることにより、コレステロールを含まず、カロリーの低い、合成添加物不使用の乳化組成物を得ることができる。
【0013】
本開示は、平均粒径が0.2μm以上150μm以下である双子葉植物種子の乾燥粉末、水及び油脂を含有する混合物を高圧ホモジナイズ処理又は超音波ホモジナイズ処理する工程を含み、かつ、当該混合物全量に対する、双子葉植物種子の乾燥粉末の配合量が1質量%以上20質量%以下であり、水の配合量が20質量%以上69質量%以下であり、油脂の配合量が21質量%以上70質量%以下であることを特徴とする、乳化組成物の製造方法に関する。
【0014】
また、本開示は、平均粒径が0.2μm以上150μm以下である双子葉植物種子の乾燥粉末、水、油脂及び酢酸を含有する混合物を高圧ホモジナイズ処理又は超音波ホモジナイズ処理する工程を含み、かつ、当該混合物全量に対する、双子葉植物種子の乾燥粉末の配合量が1質量%以上20質量%以下であり、水の配合量が20質量%以上69質量%以下であり、油脂の配合量が21質量%以上70質量%以下であり、酢酸の配合量が0質量%超50質量%未満であることを特徴とする、乳化組成物の製造方法に関する。さらに、本開示は、平均粒径が0.2μm以上150μm以下である双子葉植物種子の乾燥粉末及び水を含有する混合物を高圧ホモジナイズ処理又は超音波ホモジナイズ処理する工程を含み、かつ、当該混合物全量に対する、双子葉植物種子の乾燥粉末の配合量が1質量%以上30質量%以下であり、水の配合量が20質量%以上69質量%以下であることを特徴とする、乳化組成物の製造方法に関する。
【0015】
乳化処理までの工程において双子葉植物種子の熱履歴を抑え、乳化処理の後で高温殺滅菌を行うことで、加熱処理後も乳化安定性が良好な乳化組成物を製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、植物性タンパク質を乳化剤として用い、かつ、大量の油を含有させることができる乳化組成物を提供できる。また、本開示の乳化組成物は双子葉植物種子を原料とする天然の乳化剤を用いているため、安心して使用できる。また、このような天然の乳化剤は、食品表示では食品添加物ではなく食品として記載でき、非常に利用しやすいというメリットもある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】平均粒径35μmの乾燥大豆粉についてのレーザー回折式粒度分布測定装置による粒度分布測定結果を示す。(調製例1)
【
図2】平均粒径129μmの乾燥大豆粉についてのレーザー回折式粒度分布測定装置による粒度分布測定結果を示す。(調製例1)
【
図3】平均粒径198μmの乾燥大豆粉についてのレーザー回折式粒度分布測定装置による粒度分布測定結果を示す。(調製例1)
【
図4】平均粒径35μmの乾燥大豆粉、きな粉(比較例)、炒大豆粉(比較例)の水懸濁液をSDS-PAGEに供した結果を示す電気泳動像図である。図中、左から順に、M(分子量マーカー)、平均粒径35μmの乾燥大豆粉、きな粉、炒大豆粉、をそれぞれ示す。(実施例4)
【
図5】各種乳化物の安定性を調べた結果を示す写真像図である。図中、左側は平均粒径35μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物を、右側は11Sタンパク質+セルロースを用いた乳化物を、それぞれ30G、3分間遠心分離した結果を示す。(実施例1)
【
図6】平均粒径35μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物について、加熱後の乳化安定性を示す写真像図である。(実施例2)
【
図7】平均粒径35μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物について、加熱処理が動的粘弾性に与える影響を調べた結果を示すグラフである。図中、●と実線は80℃30分加熱前の乳化物の貯蔵弾性率(G’)を、◇と実線は80℃30分加熱前の乳化物の損失弾性率(G”)を、●と破線は80℃30分加熱後の乳化物の貯蔵弾性率(G’)を、◇と破線は80℃30分加熱後の乳化物の損失弾性率(G”)を、それぞれ示す。(実施例2)
【
図8】粒度の異なる乾燥大豆粉の水懸濁液について乳化安定性を調べた結果を示す写真像図である。図中、左側は平均粒径35μmの乾燥大豆粉の水懸濁液、右側は平均粒径198μmの乾燥大豆粉の水懸濁液、を示す。(実施例3)
【
図9】乳化処理直後の各乳化物の状態を比較した写真像図である。図中、左側は平均粒径35μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物、右側は平均粒径198μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物を示す。(実施例3)
【
図10】各乳化物を室温下30Gで3分間遠心分離した後の状態を比較した写真像図である。図中、左側は平均粒径35μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物、右側は平均粒径198μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物、を示す。(実施例3)
【
図11】各乳化物の動的粘弾性を測定した結果を示すグラフである。図中、●と実線は平均粒径35μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物の貯蔵弾性率(G’)を、◇と実線は平均粒径35μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物の損失弾性率(G”)を、●と破線は平均粒径198μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物の貯蔵弾性率(G’)を、◇と破線は平均粒径198μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物の損失弾性率(G”)を、それぞれ示す。縦軸は貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)(単位:Pa)を、横軸は角周波数(単位:rad/s)を、それぞれ示す。(実施例3)
【
図12】粒度の異なる乾燥大豆粉の水懸濁液について乳化安定性を調べた結果を示す写真像図である。図中、左側は平均粒径35μmの乾燥大豆粉の水懸濁液、右側は平均粒径129μmの乾燥大豆粉の水懸濁液、を示す。(実施例3)
【
図13】各乳化物を室温下30Gで3分間遠心分離した後の状態を比較した写真像図である。図中、左側は平均粒径35μmの乾燥大豆粉の乳化物、右側は平均粒径129μmの乾燥大豆粉の乳化物、を示す。(実施例3)
【
図14】加熱処理した乾燥大豆粉の水懸濁液について乳化安定性を調べた結果を示す写真像図である。図中、左から順に、平均粒径35μmの乾燥大豆粉、きな粉(比較例)、炒大豆粉(比較例)、を示す。(実施例4)
【
図15】きな粉についてのレーザー回折式粒度分布測定装置による粒度分布測定結果を示すグラフである。(実施例4)
【
図16】乳化処理直後(左)及び室温下30Gで3分間遠心分離した後(右)の各乳化物の状態を比較した写真像図である。図中、左から順に、平均粒径35μmの乾燥大豆粉、きな粉(比較例)、炒大豆粉(比較例)、を示す。(実施例4)
【
図17】平均粒径35μmの乾燥大豆粉の含有量と乳化層の厚さの関係を示したグラフである。図中、点線は平均粒径35μmの乾燥大豆粉の含有量(1質量%以上10質量%以下)と乳化層(クリーミング層)の厚さの関係を示す。a,b又はcのプロットは、異なる加熱処理条件の11Sタンパク質を用いた乳化物における乳化層の厚さを示し、a:加熱前11Sタンパク質+セルロース、b:40℃加熱11Sタンパク質+セルロース、c:100℃加熱11Sタンパク質+セルロース、である。縦軸はクリーミング層の厚さ(cm)を、横軸は平均粒径35μmの乾燥大豆粉の含有量(質量%)を、それぞれ示す。(実施例5)
【
図18】異なる加熱処理条件の11Sタンパク質を用いて調製した乳化物について乳化層の厚さを比較した写真像図である。図中、左から順に、a:加熱前11Sタンパク質+セルロース、b:40℃加熱11Sタンパク質+セルロース、c:100℃加熱11Sタンパク質+セルロース、をそれぞれ示す。(実施例5)
【
図19】乾燥大豆粉からの豆乳とおからの調製方法を示す図である。(実施例6)
【
図20】各乳化物の動的粘弾性の測定結果を示すグラフである。図中、A_G'(●と太い実線)は表3の「A」の貯蔵弾性率を、B_G'(●と太い破線)は表3の「B」の貯蔵弾性率を、C_G'(●と太い一点破線)は表3の「C」の貯蔵弾性率を、D_G'(●と太い二点破線)は表3の「D」の貯蔵弾性率を、A_G"(◇と細い実線)は表3の「A」の損失弾性率を、B_G”(◇と細い破線)は表3の「B」の損失弾性率を、C_G”(◇と細い一点破線)は表3の「C」の損失弾性率を、D_G”(◇と細い二点破線)は表3の「D」の損失弾性率を、それぞれ示す。縦軸は貯蔵弾性率(G')及び損失弾性率(G")(単位:Pa)を、横軸は角周波数(rad/s)を、それぞれ示す。(実施例6)
【
図21】各乳化物を1200G、室温で5分間遠心分離した後の状態を示す写真像図である。図中、左から順に、表3の「A」、「B」、「C」、「D」、の乳化物をそれぞれ示す。(実施例6)
【
図22】油脂の配合量を変化させた各乳化物を30G、室温で3分間遠心分離した後の状態を示す写真像図である。図中、左から順に、菜種油を20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%(質量比)で含有する乳化物を示す。(実施例6)
【
図23A】各乳化物を30G、室温で3分間遠心分離した後の状態を示す写真像図である。図中、左から順に、20MPa、40MPa、80MPa、の高圧ホモジナイザーで乳化処理した乳化物を示す。(実施例7)
【
図23B】各乳化物を1200G、室温で5分間遠心分離した後の状態を示す写真像図である。図中、左から順に、20MPa、40MPa、80MPa、の高圧ホモジナイザーで乳化処理した乳化物を示す。(実施例7)
【
図24】酢酸濃度を制御した乳化物の乳化処理直後の状態を比較した写真像図である。図中、左から順に、酢酸濃度0%、10%、20%、30%、40%、46.5%(質量比)、を示す。(実施例8)
【
図25】酢酸濃度を制御した乳化物を30G、室温で5分間遠心分離した後の状態を比較した写真像図である。図中、左から順に、酢酸濃度0%、10%、20%、30%、40%、46.5%(質量比)、を示す。(実施例8)
【
図26】各種マメ科植物種子粉末を用いた乳化物の状態を比較した写真像図である。図中、上から順に、ピーナッツ、小豆、いんげん豆、レンズ豆、えんどう豆、ヒヨコ豆、緑豆、枝豆、大豆、の乳化物を示す。(実施例9)
【
図27】各種マメ科植物種子粉末の水懸濁液をSDS-PAGEに供した結果を示す電気泳動像図である。図中、左から順に、ピーナッツ、小豆、いんげん豆、レンズ豆、えんどう豆、ヒヨコ豆、緑豆、枝豆、大豆、分子量マーカーを示す。(実施例9)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下において、本願の乳化安定性に優れた乳化組成物の実施形態について説明する。本実施形態の乳化組成物は、少なくとも平均粒径が0.2μm以上150μm以下である所定量の双子葉植物種子の乾燥粉末と、水と、を含有することを特徴とする。
【0019】
<乳化組成物>
本実施形態の乳化組成物は、少なくとも原料である双子葉植物種子の乾燥粉末、及び水を含有する。乳化は、水中油型と油中水型の乳化に大分されるが、滑らかさ、口溶け、保形性、冷蔵・冷凍耐性等が優れた乳化組成物を製造することができるという効果の観点から、本実施形態の乳化組成物としては水中油型乳化組成物が好ましい。水中油型乳化組成物の中では、アイスクリーム類、ホイップクリーム、カスタードクリーム、マヨネーズ、マヨネーズ様物性の組成物、コーヒークリーム、コーヒー飲料、フラワーペースト等を挙げることができ、中でもマヨネーズ様物性(すなわちマヨネーズ様の粘弾性)を示すものが好ましく、特にマヨネーズ様物性の組成物が好適である。また、油中水型乳化組成物としては、バター、マーガリン、スプレッド、チョコレート等を挙げる事ができる。
【0020】
本明細書において「マヨネーズ様物性の組成物」とは、マヨネーズ様物性を示す水中油型乳化組成物を指し、酢酸を含むものでも含まないものでもよい。マヨネーズ様物性(粘弾性)は、動的粘弾性測定装置により測定した角周波数10rad/s(10radian毎秒)における貯蔵弾性率(G’と表すこともある)、損失弾性率(G”と表すこともある)及び/又は損失正接(貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比であり、G”/G’の値を表す)を用いて表すことができる。具体的には、角周波数10rad/s(10radian毎秒)における貯蔵弾性率が100Pa以上10000Pa以下、より好ましくは1000Pa以上10000Pa以下、損失弾性率が10 Pa以上1000Pa以下、より好ましくは100Pa以上1000Pa以下の範囲に入る乳化組成物であることが好ましい。なお、貯蔵弾性率及び損失弾性率の測定は、後述する実施例2に示す方法で行うことができる。
【0021】
さらに、本開示の組成物は、優れた乳化安定性を得る観点から貯蔵弾性率が所定の範囲内であることが好ましい。より具体的には、角周波数10rad/sにおける貯蔵弾性率の下限が10Pa以上であることが好ましい。更には20Pa以上、更には30Pa以上、更には40Pa以上、更には50Pa以上、更には100Pa以上、更には200Pa以上、更には300Pa以上、更には400Pa以上、更には500Pa以上、更には600Pa以上、更には700Pa以上、更には800Pa以上、更には900Pa以上、特に1000Pa以上であることが好ましい。一方、上限は特に限定されないが、通常50000Pa以下、更には30000Pa以下、更には10000Pa以下、更には8000Pa以下、特に6000Pa以下であることが工業上の観点から有利である。また、加熱前の状態で前述の規定を満たせばよいが、さらに80℃30分の加熱前後の組成物について、共に上記の特性を有することが好ましい。
【0022】
また、本開示の組成物は、なめらかな乳化組成物を得る観点から損失弾性率が所定の範囲内であることが好ましい。より具体的には、角周波数10rad/sにおける損失弾性率の下限が10 Pa以上であることが好ましい。更には20Pa以上、更には30Pa以上、更には40Pa以上、更には50Pa以上、特に100Pa以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、通常5000Pa以下、更には3000Pa以下、特に1500Pa以下であることが工業上の観点から有利である。また、加熱前の状態で前述の規定を満たせばよいが、さらに80℃30分の加熱前後の組成物について、共に上記の特性を有することが好ましい。
【0023】
また、本開示の組成物は、耐熱性に優れた組成物を得る観点から損失正接が所定値の範囲内であることが好ましい。具体的には、本開示の組成物の角周波数10rad/sにおける損失正接の上限が3.5以下であることが好ましい。更には3.0以下、更には2.5以下、更には2.0以下、更には1.5以下、更には1.0以下、更には0.50以下、更には0.40、特に0.30以下であることが好ましい。一方、下限は特に限定されないが、通常0.05以上、更には0.10以上であることが工業上の観点から有利である。また、加熱前の状態で前述の規定を満たせばよいが、さらに80℃30分の加熱前後の組成物について、共に上記の特性を有することが好ましい。
【0024】
なお、本開示において、組成物の損失正接とは、組成物の液体的な性質と固体的な性質の度合いを意味し、値が大きいほど液体的な性質が強いことを示すもので、動的粘弾性測定装置で貯蔵弾性率および損失弾性率を測定し、値を得ることができる。具体的には、角周波数10rad/sにおける貯蔵弾性率、損失弾性率及び損失正接の測定は、後述する実施例2に示す方法で行うことができる。
【0025】
また、本開示の組成物が、前述する貯蔵弾性率、損失弾性率及び損失正接の好ましい範囲のうち、1以上を充足することが好ましく、2以上を充足することが更に好ましく、全て充足することが最も好ましい。
【0026】
<原料>
本実施形態の乳化組成物は、原料として双子葉植物種子の乾燥粉末を含有する。双子葉植物としては、特にマメ科植物(生物学的な分類上マメ科に属する作物)および/または豆類若しくは種実類に分類される食用植物を用いることが好ましい。
【0027】
マメ科植物種子とは、11Sタンパク質を含有するものであればよく、具体的には、大豆、いんげん豆、キドニービーン、赤いんげん、白いんげん、ブラックビーン、うずら豆、とら豆、ライ豆、ベニバナインゲン、エンドウ、キマメ、緑豆、ササゲ、小豆、ソラマメ、ヒヨコ豆、レンズマメ、ヒラ豆、レンティル、ピーナッツ(落花生)、ルピナス豆、グラスピー、イナゴマメ、ネジレフサマメノキ、ヒロハフサマメノキ、コーヒー豆、カカオ豆、メキシコトビマメなどが挙げられる。
【0028】
また、マメ科植物以外にも、11Sタンパク質を含有する双子葉植物の種子を用いてもよく、具体的には、オクラ、モロヘイヤ、カボチャ、ウリ、ニンジン、ホウレンソウ、ナズナ、ダイコン、キャベツ、わさび、ゴボウ、レタス、シソ、トマト、ナス、ピーマン、テンサイ、コーヒーノキ、マンゴー、アボガド、クルミ、イチジク、ブドウ、サツマイモ、ジャガイモ、クリ、ひまわり、ごま、菜の花、そば、アーモンド、カシューナッツ等の種子も用いることができる。
【0029】
また、上記原料として、11Sタンパク質を含有する双子葉植物種子のうち、豆類または種実類に分類される食用植物を用いてもよい。具体的には、たとえば、「日本食品標準成分表2015年版(七訂)追補2018年」(厚生労働省が定めている食品成分表、特に第236頁表1参照)に記載された分類のうち、豆類、種実類を参照することで、いかなる食用植物がこれらの分類に該当するかを理解することができる。上記原料の中でも、種実類としてはアーモンド、カシューナッツ、ピーナッツが好ましい。豆類としては小豆、いんげん豆、緑豆、大豆の種子が好ましく、緑豆および大豆の種子はさらに好ましく、大豆の種子が特に好ましい。ただし、11Sタンパク質は蓄積に登熟過程を経るため、枝豆のような未熟種子における含量は少なく、成熟種子を用いることが好ましい。上記原料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
<微細化粉末>
上記原料は、微細化された粉末として用いられる必要がある。具体的には、平均粒径の上限は150μm以下であることが好ましい。更には130μm以下、更には120μm以下、更には110μm以下、更には100μm以下、更には90μm以下、更には80μm以下、更には70μm以下であることが好ましい。平均粒径150μm超の粉でも乳化組成物を得ることはできるが、水層が分離しやすくなる。また、平均粒径が150μmを超えた粉は水に溶けにくい。粒子が粗い粉からは、タンパク質が溶出しにくくなると推測される。そのため、径が小さい粒子の割合を高くして、平均粒径が上記範囲に含まれるようにすることが好ましい。従って平均粒径はタンパク質が溶出する程度の大きさであればよく、その下限は特に制限されないが、工業的な便宜から通常0.2μm以上、更には0.3μm以上、更には1μm以上、更には5μm以上、更には10μm以上、更には15μm以上、更には20μm以上、更には25μm以上、更には30μm以上であることが好ましい。
【0031】
なお、本開示における平均粒径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置を用い、測定溶媒としてエタノールを用いた測定によって得られた粒子径分布について、ある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側の粒子頻度%の累積値が等量となる粒子径を表し、「d50」とも表記する。本開示における粒子径とは全て体積基準で測定されたものを表し、また特に限定が無い場合、粒子径の測定値は超音波処理後の試料を分析して得られた結果を表す。なお、本開示において「超音波処理」とは、特に指定が無い限り、測定サンプルに対して測定溶媒中で周波数30kHzの超音波を出力40Wにて3分間印加する処理を表す。具体的な平均粒径の測定は、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、後述する調製例1と同様に測定することができる。
【0032】
なお、本開示の乳化組成物における各分析項目(平均粒径、11Sタンパク質、セルロース、油脂、酢酸その他)の測定に際しては、組成物の乳化に寄与しない粒度分布の測定対象外である2000μm以上の粒径の具材等を除いた状態で測定する。具体的には100gの組成物を9メッシュ(タイラーメッシュ)パスさせた後の通過画分を乳化組成物として、各分析項目を測定する。9メッシュパスさせる際のメッシュ上残分については、充分に静置した後、組成物の粒子サイズが変わらないようにヘラなどで9メッシュの目開きより小さい食品微粒子を充分に通過させることで、通過画分を得ることができる。
【0033】
上記原料の微細化処理手段は、タンパク質の熱変性を抑えながら平均粒径が上記範囲内に含まれる原料粉末を調製できるものであれば特に限定されない。具体的には、まず、原料表面を乾燥させる。乾燥方法としては、一般的な食品の乾燥に用いられるどのような方法でもよい。表面を熱で乾燥させても、通常種子内部のタンパク質の活性は保たれるからである。例えば、天日乾燥、陰干し、エアドライ(熱風乾燥、流動層乾燥法、噴霧乾燥、ドラム乾燥、低温乾燥など)、加圧乾燥、減圧乾燥、マイクロウェーブドライ、油熱乾燥などが挙げられるが、水分含量を調整しやすいエアドライが好ましい。次に、乾燥させた原料を微細化して粉末を得る。微細化手段としては特に限定されず、例えばせん断方式、衝突方式などの粉砕方式を用いることができる。ここで、タンパク質の熱変性を抑える観点から、微細化する際の温度条件は40℃以下、より好ましくは10℃以上35℃以下とすることが好ましい。さらに、粒径の小さい粒子の比率を上げるため、適切な目開きの篩を用いて篩分けを行ってもよい。
【0034】
<11Sタンパク質>
上記原料の代わりに、11Sタンパク質そのものを乳化剤として用いることもできる。11Sタンパク質は、SDS-PAGEで測定した分子量が30~40kDaのタンパク質であり、大豆から公知の方法で分画(精製)することができる(例えば、特許文献3、4、非特許文献1の第440~447頁、参照)。また、前述したように11Sタンパク質は、大豆以外のマメ科植物やその他の双子葉植物の種子(例えば豆類または種実類に分類される食用植物の種子)にも含まれている。具体的には、上記で列挙した原料から公知の方法で精製することもできる。
【0035】
乳化処理を行う時点で活性状態の11Sタンパク質が所定濃度含まれていればよいため、分画(精製)した11Sタンパク質を用いてもよいし、11Sタンパク質を含む原料を直接添加してもよい。例えば、大豆のタンパク質含有量は約35%で、11Sタンパク質はその約41%を占める(非特許文献1参照)。そのため、7質量%の乾燥大豆粉を含む乳化組成物には、約1質量%の11Sタンパク質が含まれる。あるいは、11Sタンパク質を含む上記原料を水に含浸させたタンパク質抽出液を乳化剤として用いてもよい。例えば、大豆のタンパク質抽出液から繊維成分を除去した、豆乳を好ましく使用することができる。ただし、加熱履歴を抑えた、成分未調整の豆乳を用いることが望ましい。なお、原料から抽出した11Sタンパク質を用いる場合にも、11Sタンパク質を含む原料を直接添加する場合にも、原料の平均粒径は前述した範囲内であることが望ましい。
【0036】
<セルロース>
上記原料粉末の代わりに11Sタンパク質を乳化剤として用いる場合は、セルロースも併用することが好ましい。セルロース含有量が増加すると乳化組成物の安定性も向上する傾向があるためである。セルロースとは、植物の細胞壁を構成する不溶性の多糖類を指す。アルカリ溶液に対して不溶のため、植物性食物繊維をアルカリ抽出すると、沈殿する画分であり、例えば、大豆のおから等も用いることができる。おからとは、大豆から豆腐を製造する過程で、豆乳を絞った際の搾りかすを指す。原料が含んでいるセルロースをそのまま(例えばおからとして)利用してもよいし、精製されたセルロースを用いてもよい。上記セルロースやおからに関しては、破砕のサイズ(平均粒径)、加熱の有無、熱履歴、乾燥、湿潤状態は限定されない。
【0037】
<油脂>
本実施形態の乳化組成物は、さらに油脂を含有するものであることが好ましい。油脂としては、食用油脂、各種脂肪酸、有機溶媒やそれらを原料とする食品を用いることができるが、食用油脂が望ましい。例えば、ごま油、なたね油(キャノーラ油)、大豆油、パーム油、パーム核油、パーム分別油、綿実油、コーン油、ひまわり油、サフラワー油、オリーブ油、亜麻仁油、米油、椿油、香味油、ココナッツオイル、グレープシードオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、魚油、中鎖脂肪酸トリグリセリド、ジアシルグリセロール、エステル交換油、乳脂、ギーなどを用いることができる。コレステロールを含まないため、植物性の油脂が好ましい。また、常温(別途記載がない限り、20℃)で液体状の流動性を有する食用油脂を用いることがより好ましい。具体的には、ボストウィック粘度計(本開示においては、トラフ長28.0cm、ボストウィック粘度すなわちサンプルのトラフ内における流下距離が最大28.0cmのものを用いる)における20℃、10秒間のボストウィック粘度(所定温度所定時間における、トラフ内のサンプル流下距離測定値)が10cm以上、より好ましくは15cm以上、さらに好ましくは28cm以上を有する油脂である。また、本開示において、乳化組成物中における油脂部(例えば、乳化組成物に対し15000rpmで1分間の遠心分離を行った際に遊離する油脂成分)が、液体状の流動性(具体的にはボストウィック粘度計における20℃、10秒間のボストウィック粘度が10cm以上、より好ましくは15cm以上、さらに好ましくは28cm以上)を有することが好ましい。なお、前記した液体状の流動性を有する油脂を含む食用油脂を使用する場合、油脂全体の90質量%以上、中でも92質量%以上、更には95質量%以上、特に100質量%が、当該液体状油脂であることが好ましい。
【0038】
<酢酸>
乳化組成物の一形態としてマヨネーズ様物性の組成物を調製する場合は、乳化組成物にさらに酢酸を含有させても良い。酢酸を直接加えてもよいし、米酢、穀物酢、酒精酢、りんご酢、ぶどう酢、合成酢、黒酢、中国酢、バルサミコ酢などの酢酸含有飲食品を添加してもよい。
【0039】
<配合量>
上記原料粉末と水から構成される乳化組成物(油脂及び酢酸を含まない乳化組成物)の場合、原料粉末の配合量は、乾燥物として1質量%以上30質量%以下、好ましくは1質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは2質量%以上15質量%以下とすることができる。水の配合量は、50質量%以上99質量%以下、好ましくは70質量%以上99質量%以下、さらに好ましくは75質量%以上98質量%以下とすることができる。原料粉末の代わりに11Sタンパク質とセルロースを用いる場合には、上記配合量の原料粉末中に含まれる11Sタンパク質とセルロースの相当量を配合することができる。例えば、11Sタンパク質の配合量は、0.14質量%以上6.0質量%以下、好ましくは0.14質量%以上4.0質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以上3.0質量%以下とすることができ、セルロースの配合量は、0.02質量%以上3.0質量%以下、好ましくは0.02質量%以上2.5質量%以下、さらに好ましくは0.02質量%以上2.0質量%以下とすることができる。また、セルロースの代わりにおからを用いる場合、おからの配合量は、乾燥物換算で0.4質量%以上7.5質量%以下、好ましくは0.4質量%以上6.3質量%以下、さらに好ましくは0.4質量%以上5.0質量%以下とすることができる。
【0040】
上記原料粉末と水と油脂から構成される乳化組成物の場合、原料粉末の配合量は、乾燥物として1質量%以上20質量%以下、好ましくは1質量%以上15質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上12質量%以下とすることができる。水の配合量は、20質量%以上69質量%以下、好ましくは25質量%以上65質量%以下、さらに好ましくは30質量%以上60質量%以下とすることができる。油脂の配合量は21質量%以上70質量%以下の範囲とすることができ、好ましくは23質量%以上60質量%以下、さらに好ましくは25質量%以上50質量%以下である。油脂の配合量が70質量%を越えると乳化しないため好ましくない。また、油脂の配合量が30質量%以上であると、乳化効果が発現されると共にマヨネーズ様物性を有する乳化組成物となるため、更に好ましい。 原料粉末の代わりに11Sタンパク質とセルロースを用いる場合には、上記配合量の原料粉末中に含まれる11Sタンパク質とセルロースの相当量を配合すればよい。例えば、11Sタンパク質の配合量は、0.14質量%以上4.0質量%以下、好ましくは0.14質量%以上3.0質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以上2.4質量%以下とすることができ、セルロースの配合量は、0.02質量%以上2.0質量%以下、好ましくは0.02質量%以上1.5質量%以下、さらに好ましくは0.02質量%以上1.2質量%以下である。また、セルロースの代わりにおからを用いる場合、おからの配合量は、乾燥物換算で0.4質量%以上5.0質量%以下、好ましくは0.4質量%以上4.0質量%以下、さらに好ましくは0.4質量%以上3.0質量%以下とすることができる。
【0041】
上記原料粉末と水と油脂と酢酸から構成される乳化組成物の場合、原料粉末の配合量は、乾燥物として1質量%以上20質量%以下、好ましくは1質量%以上15質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上12質量%以下とすることができる。水の配合量は、20質量%以上69質量%以下、好ましくは25質量%以上65質量%以下、さらに好ましくは30質量%以上60質量%以下とすることができる。油脂の配合量は21質量%以上70質量%以下の範囲とすることができ、好ましくは23質量%以上60質量%以下、さらに好ましくは25質量%以上50質量%以下である。油脂が70質量%を越えると乳化しないため好ましくない。また、油脂の配合量が、25質量%以上では、乳化効果が発現されると共にマヨネーズ様物性を有する乳化組成物となるため、更に好ましい。酢酸の配合量は、氷酢酸の濃度として、0質量%超50質量%未満、好ましくは0.1質量%以上20質量%未満、さらに好ましくは0.2質量%以上10質量%未満とすることができる。原料粉末の代わりに11Sタンパク質とセルロースを用いる場合には、上記配合量の原料粉末中に含まれる11Sタンパク質とセルロースの相当量を配合すればよい。例えば、11Sタンパク質の配合量は、0.14質量%以上4.0質量%以下、好ましくは0.14質量%以上3.0質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以上2.4質量%以下とすることができ、セルロースの配合量は、0.02質量%以上2.0質量%以下、好ましくは0.02質量%以上1.5質量%以下、さらに好ましくは0.02質量%以上1.2質量%以下である。また、セルロースの代わりにおからを用いる場合、おからの配合量は、乾燥物換算で0.4質量%以上5.0質量%以下、好ましくは0.4質量%以上4.0質量%以下、さらに好ましくは0.4質量%以上3.0質量%以下とすることができる。
【0042】
<乳化処理>
本実施形態の乳化組成物は、原料粉末及び水等の材料を配合して得られた混合物を、乳化処理することにより得られる。乳化処理手段としては、強力な乳化処理が可能な高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等を用いて行うことができる。
【0043】
中でも高圧ホモジナイザーは、安定性の高い乳化組成物が得られるため、特に好ましく用いることができる。高圧ホモジナイザーとしては1MPa以上の条件でせん断処理が可能な機器ならよい。例えば圧力式ホモジナイザーLAB2000(エスエムテー社製)を用いることができる。マヨネーズ様物性の組成物を調製するのに適した圧力条件は20MPa以上だが、乳化組成物の安定性のために40MPa以上が望ましく、さらに望ましくは80MPa以上の圧力で処理する。圧力を高くすると乳化組成物は固くなるため、目的の乳化組成物の性質に合わせて調節すればよい。また温度については、装置の過熱を防ぐ目的で、例えば送液部分の温度を4℃程度の低温に制御することができる。サンプル温度についても、タンパク質の熱変性を抑える観点から40℃以下、好ましくは10℃以上35℃以下に維持することが好ましい。サンプル温度を制御する目的で、例えば処理前のサンプルを水もしくは氷水によって冷却することができる。
【0044】
また、超音波ホモジナイザーとしては、界面に強力なエネルギーを与え、キャビテーションを発生させることができる機器であればよい。例えばSONIFIER MODEL450(ブランソン社製)を用いることができる。処理時間としては、乳化対象物に均一に超音波をあてるため、少なくとも2分間以上処理することが好ましく、4分間以上処理することがより好ましく、5分間以上処理することがさらに好ましい。周波数もキャビテーションが発生する条件であればよく、限定されない。温度条件としては、タンパク質の熱変性を抑える観点から40℃以下、好ましくは10℃以上35℃以下に維持することが好ましい。
【0045】
<殺滅菌処理>
本実施形態の乳化組成物は、上記の乳化処理により得ることができるが、品質の劣化を防ぐため、乳化処理後に殺滅菌処理を行うことが望ましい。一般にタンパク質は加熱処理により変性し、乳化力が低下する。しかしながら、上記原料粉末と水と油脂(及び酢酸)を含有する乳化組成物においては、上記原料粉末と他の材料を混合し、強力な乳化処理を行うことで、その後加熱処理(殺滅菌)を行っても乳化安定性を維持できる。したがって、当該実施形態において殺滅菌処理の条件は、本開示の効果や乳化組成物本来の風味を損なわない範囲で、一般的な飲食品と同様の条件とすることができる。例えば、65℃以上121℃以下で、4分以上40分以下で加熱処理を行うことができる。
【0046】
一方、上記原料粉末と水から構成される乳化組成物(油脂及び酢酸を含有しない実施形態)は、熱安定性が低く、高温での加熱処理により乳化状態が失われてしまうため、殺滅菌処理を行うことはできない。したがって、当該実施形態の乳化組成物は、品質劣化を防ぐために10℃以下、好ましくは4℃以下の低温条件で保存、流通させる必要がある。
なお、上記のいずれの実施形態においても、精製、濃縮、凍結、粉砕などの他の処理を行うことができる。
【0047】
<その他の食品成分・添加物>
本実施形態の乳化組成物は、上記した原料粉末、水、油脂、酢酸以外にも、通常乳化組成物の製造に用いられる任意の食品成分や添加物を含有していても良い。例えば、クエン酸三ナトリウム等のクエン酸塩、メタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム及びポリリン酸ナトリウム等のリン酸塩、β-カロテン等の着色料、抽出トコフェロール及びL-アスコルビン酸パルミチン酸エステル等の酸化防止剤、ミルクフレーバー、バニラ香料及びオレンジオイル等の着香料、キシロース、ブドウ糖及び果糖等の単糖、ショ糖、乳糖及び麦芽糖等の二糖類、デキストリン及び水飴等の澱粉分解物、オリゴ糖、デンプン等の多糖類、ソルビトール、マンニトール、マルチトール及び還元水飴等の糖アルコール、リン酸架橋澱粉等の加工澱粉、水溶性ヘミセルロース、アラビアガム、カラギーナン、カラヤガム、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドシードガム、トラガントガム、ペクチン及びローカストビーンガム等の増粘安定剤等が挙げられる。最終的な乳化組成物全体における上記成分の含有量は、0.01質量%以上50質量%以下とすることができ、好ましくは0.1質量%以上30質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以上20質量%以下である。これらの食品成分や添加物は、乳化組成物の製造工程の任意の段階で加えることができ、乳化処理の前でも後でもよい。
【0048】
本実施形態の乳化組成物は他の飲食品に添加することで当該飲食品の乳化安定性を改善し、滑らかさ、口溶け、保形性、冷蔵・冷凍耐性等が優れた乳化食品を製造することができる。ここで、他の飲食品としては、例えばアイスクリーム類、ホイップクリーム、カスタードクリーム、マヨネーズ、マヨネーズ様物性の組成物、コーヒークリーム、コーヒー飲料、フラワーペースト等の水中油型乳化食品、バター、マーガリン、スプレッド、チョコレート等の油中水型乳化食品等を挙げる事ができる。最終的な乳化食品全体に占める乳化組成物の配合量は特に限定されないが、例えば20質量%以上99質量%以下、好ましくは20質量%以上80質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上60質量%以下とすることができる。
【0049】
<乳化安定性>
上記原料粉末と水と油脂(及び酢酸)を含む乳化組成物は、乳化安定性に優れており、高い熱安定性を有している。乳化安定性(熱安定性)の評価は、加熱処理後に遠心分離処理を行って乳化安定性を見る加速試験によって行うことができる。具体的には、乳化組成物に対して80℃、30分間の加熱処理を施し、得られた当該加熱処理物を遠沈管に入れ、室温(約25℃)で30G、3分間の遠心分離処理を施した場合に、乳化が維持されているか否かを確認する。
【0050】
一方、上記原料粉末と水から構成される乳化組成物(油脂及び酢酸を含まない実施形態)も、熱安定性は低いものの、従来の加熱処理に耐えられない乳化食品と同程度に優れた乳化安定性を有している。ここにおいて、乳化安定性の評価は、乳化組成物を室温(約25℃)で30分間静置した場合に、乳化が維持されているか否かを確認することにより行うことができる。
【0051】
いずれの実施形態においても、遠心分離処理又は静置後の乳化安定性の確認は、目視により水層と油層が分離しているかどうかを確認することにより行い、水層と油層が分離していなければ「優れた乳化安定性を有する」と評価することができる。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例等を示して本開示の実施形態を説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。なお、各分析値は100gの組成物を9メッシュ(タイラーメッシュ)パスさせた後の通過画分の分析値である。
【0053】
(調製例1) 乾燥大豆粉の調製
乾燥丸大豆を、平均粒径35μmになるように粉砕して平均粒径35μmの乾燥大豆粉を調製した(
図1)。粉砕時の温度上昇を抑制するため、乾式ジェットミルを用いて10℃以上35℃以下で粉砕した。同様に、平均粒径129μmの乾燥大豆粉を調製した(
図2)。市販の大豆粉(西尾製粉製)は平均粒径198μmだったこれを平均粒径198μmの乾燥大豆粉とした。(
図3)。
【0054】
各乾燥大豆粉の平均粒径はレーザー回折式粒度分布測定装置(Microtrac MT3300 EXII、マイクロトラック・ベル社製)で測定した。測定時の溶媒はエタノールを使用し、測定アプリケーションソフトウェアとして、DMS2(Data Management System version II、マイクロトラック・ベル社製)を用いた。はじめに、測定アプリケーションソフトウェアの洗浄ボタンを押して洗浄した後、同ソフトのSetZeroボタンを押してゼロ合わせを実施し、サンプルローディングで適正濃度範囲に入るまで直接サンプルを投入した。次に、同ソフトの超音波処理ボタンを押し、30kHz、40W、180秒間の超音波処理を行い、3回の脱泡処理を行ったうえで、流速50%で10秒間の測定時間でレーザー回折した結果を測定値とした。なお、測定条件は、分布表示:体積;粒子屈折率:1.60;溶媒屈折率:1.36;測定上限(μm):2000;測定下限(μm):0.021、に設定した。
【0055】
図1、2及び3は、それぞれ平均粒径35μmの乾燥大豆粉、平均粒径129μmの乾燥大豆粉、平均粒径198μmの乾燥大豆粉、についてのレーザー回折式粒度分布測定装置による粒度分布測定結果を示す。
【0056】
(実施例1)11Sタンパク質とセルロースを用いた乳化組成物
丸大豆は約35%のタンパク質を含んでおり、そのうち11Sタンパク質は41%を占めると考えられている(例えば、非特許文献1参照)。したがって、乾燥大豆粉に11Sタンパク質はおよそ14%含まれると推測され、乾燥大豆粉を7%含有する組成物には11Sタンパク質がおよそ1%含まれると推測される。11Sタンパク質をSDS-PAGEに供すると、30~40kDaのバンドが検出されることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。そこで、調製例1で得られた平均粒径35μmの乾燥大豆粉の水懸濁液をSDS-PAGEに供した結果、30~40kDaにバンドが検出された(
図4)。したがって、平均粒径35μmの乾燥大豆粉には11Sタンパク質が含まれていると考えられる。
図4は、後述する実施例4において平均粒径35μmの乾燥大豆粉、きな粉、炒大豆粉の水懸濁液をSDS-PAGEに供した結果を示す電気泳動像図である。
図4において、左から順に、M(分子量マーカー)、平均粒径35μmの乾燥大豆粉、きな粉、炒大豆粉、をそれぞれ示す。
【0057】
文献(非特許文献1の第444頁)に従い、平均粒径35μmの乾燥大豆粉から11Sタンパク質を分画した。以下に詳述する。500gの平均粒径35μmの乾燥大豆粉に3倍量(1500g)のエタノールを加え、ろ過によりエタノールを除去した。これを3回行い、乾燥させて脱脂した。脱脂した当該大豆粉に質量比で8倍量の純水を加え、5N NaOH水溶液でpH8.0に調整して1時間室温(約25℃、以下同様)で抽出した後、遠心分離(3000G、10分、室温)を行い、上清(1)と沈殿(1)に分けた。得られた沈殿(1)に質量比で5倍量の純水を加え、1時間室温で抽出した後、遠心分離(3000G、10分、室温)を行い、上清(2)と沈殿(2)に分けた。この上清(2)を前記上清(1)と合わせて豆乳とし、これに1 mM塩化ナトリウム及び3.5N 硫酸を添加することでpH5.8に調整し、さらに遠心分離(3000G、10分、室温)を行い、得られた沈殿を11Sタンパク質画分とした。
【0058】
次に、上述の11Sタンパク質の分画の過程で得られた沈殿から、セルロースに富む画分を抽出した。以下に詳述する。上述の沈殿(1)と沈殿(2)をあわせ、質量比で10倍量の0.1N NaOHに懸濁し、80℃で30分間加熱した後、遠心分離(5000G、10分、室温)して沈殿を得た。沈殿が白色になるまでこの操作を繰り返し行い、得られた沈殿をセルロースに富む画分(以下、「セルロース画分」という。)とした。平均粒径35μmの乾燥大豆粉140gから、乾燥質量1.2gのセルロース画分(0.86%)を得た。
【0059】
7質量部の平均粒径35μmの乾燥大豆粉(1質量部の11Sタンパク質、0.06質量部のセルロースに富む画分を含有する。)を46.5質量部の水に懸濁し、そこに46.5質量部の菜種油を加えて混合物を調製し、80 MPaの高圧ホモジナイザーを用いて室温で乳化処理(1パス)することで乳化物を調製した。また、上記で分画した1質量部(乾燥物換算)の11Sタンパク質画分と0.06質量部(乾燥物換算)のセルロース画分とを49.47質量部の水に懸濁し、そこに49.47質量部の菜種油を加えて混合物を調製し、上記と同様に乳化処理することで乳化物を調製した。このようにして得られた2種の乳化物は、それぞれマヨネーズ様物性を示した。
【0060】
乳化物の安定性を調べるため、それぞれの乳化物を室温で30G、3分間遠心した結果、水層と油層のどちらも分離しなかった。結果を
図5に示す。
図5において、左側は調製例1で得られた平均粒径35μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物を、右側は11Sタンパク質+セルロースを用いた乳化物を、それぞれ30G、3分間遠心分離した結果を示す。
【0061】
これらの結果から、平均粒径35μmの乾燥大豆粉の代わりに平均粒径35μmの乾燥大豆粉相当量の11Sタンパク質とセルロースを用いて乳化処理した場合にも、平均粒径35μmの乾燥大豆粉の乳化組成物の物性を再現できることが分かった。11Sタンパク質とセルロースを用いても、安定な乳化を行うことができると考えられる(
図5)。
【0062】
(実施例2)乳化組成物の熱安定性の評価
実施例1で平均粒径35μmの乾燥大豆粉を乳化剤として用いて調製した乳化物を、80℃で30分間加熱した後、室温で30G、3分間遠心分離して、乳化安定性を調べた。その結果、水層と油層の分離は認められなかった。結果を
図6に示す。
【0063】
また、上記の乳化物について、加熱処理前後における動的粘弾性を比較した。動的粘弾性の測定は、動的粘弾性測定・解析装置(商品名「レオメータMCR102」、アントンパール社製)とコーン型治具(CP50、同社製)またはパラレル型治具(PP25、同社製)を用いて次のように行った。先ず、一定周波数(10rad/s)でのひずみ依存性試験(0.01%以上0.1%以下)により、設定すべき一定ひずみを決定し、次に、周波数依存性試験(1.0rad/s以上100rad/s以下)を行った。具体的には、動的粘弾性測定・解析装置において、20℃に制御した下部円板(φ60mm)に試料を載置し、治具と下部円板との間隙が0.102mmとなるよう、試料を治具(φ50mmまたは25mm)で挟み込んだ。この条件でひずみ依存性試験を行って貯蔵弾性率(G’)を測定し、一定ひずみを0.1%に決定した。次に、この一定ひずみの荷重下で、周波数100rad/sから1.0rad/sまで、周波数を落としながら周波数1.0rad/s以上100rad/s以下の範囲における周波数依存性試験を行い、角周波数10rad/sにおける貯蔵弾性率(G’)、損失弾性率(G”)、損失正接を測定した。
【0064】
測定結果を
図7に示す。
図7において、●と実線は80℃30分加熱前の乳化物の貯蔵弾性率(G’)を、◇と実線は80℃30分加熱前の乳化物の損失弾性率(G”)を、●と破線は80℃30分加熱後の乳化物の貯蔵弾性率(G’)を、◇と破線は80℃30分加熱後の乳化物の損失弾性率(G”)を、それぞれ示す。その結果、乳化後の加熱によって乳化物の動的粘弾性は変化しないことがわかった(
図7)。
【0065】
本実施例の結果から、このマヨネーズ様物性の組成物の乳化安定性は、重力や加熱に対して安定であることが示された。したがって、本実施形態の乳化組成物は殺菌のための加熱が可能である。
【0066】
(実施例3)各粒度の乾燥大豆粉で調製した乳化組成物
調製例1(
図3)に記載した平均粒径198μmの乾燥大豆粉を用いて乳化物を調製した。平均粒径198μmの乾燥大豆粉10質量部を90質量部の水に懸濁し、室温に90分放置した。また、平均粒径198μmの乾燥大豆粉の代わりに平均粒径35μmの乾燥大豆粉を用いて上記と同様の操作を行い、比較した。その結果、平均粒径35μmの乾燥大豆粉の方は90分静置後もマヨネーズ様物性のままであったが、平均粒径198μmの乾燥大豆粉の水懸濁液は粉が沈殿してしまった(
図8)。
図8は、粒度の異なる乾燥大豆粉の水懸濁液について乳化安定性を調べた結果を示す写真像図である。
図8において、左側は平均粒径35μmの乾燥大豆粉の水懸濁液、右側は平均粒径198μmの乾燥大豆粉の水懸濁液、を示す。
【0067】
次に、平均粒径198μmの乾燥大豆粉7質量部と水46.5質量部と菜種油46.5質量部とを混合し、得られた混合物に対して超音波ホモジナイザー(20kHz)で室温、2分間乳化処理することで、乳化物を調製した。また、平均粒径198μmの乾燥大豆粉の代わりに平均粒径35μmの乾燥大豆粉を用いて上記と同様の操作を行い、比較した。その結果、平均粒径198μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物は、乳化処理直後においてもマヨネーズ様物性にならず、液状だった(
図9)。また、各乳化物を室温下30Gで3分間遠心することで乳化安定性を調べた結果、平均粒径198μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物は油層、水層及び沈殿した粉に分離した(
図10)。これらの結果は各乳化物の動的粘弾性の測定値からも支持された(
図11)。平均粒径198μmの乾燥大豆粉の乳化物では損失弾性率が貯蔵弾性率よりも高くなり(すなわち損失正接が1以上となり)、液状であることを示した。以上の結果から、乾燥大豆粉の粒径が200μm付近より大きくなると、水への分散性が低下するだけでなく、乳化組成物がマヨネーズ様物性にならず、乳化安定性も低くなることがわかった。
【0068】
図9は乳化処理直後の各乳化物の状態を比較した写真像図である。
図10は各乳化物を室温下30Gで3分間遠心分離した後の状態を比較した写真像図である。
図9、10において、左側は平均粒径35μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物、右側は平均粒径198μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物、を示す。
図11は実施例2と同様にして各乳化物の動的粘弾性を測定した結果を示すグラフである。
図11において、●と実線は平均粒径35μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物の貯蔵弾性率(G’)を、◇と実線は平均粒径35μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物の損失弾性率(G”)を、●と破線は平均粒径198μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物の貯蔵弾性率(G’)を、◇と破線は平均粒径198μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物の損失弾性率(G”)を、それぞれ示す。縦軸は貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)(単位:Pa)を、横軸は角周波数(単位:rad/s)を、それぞれ示す。
【0069】
同様に、調製例1(
図2)に記載した平均粒径129μmの乾燥大豆粉を用いて乳化物を調製した。平均粒径129μmの乾燥大豆粉10質量部を90質量部の水に懸濁し、室温に90分放置した(
図12)。また、平均粒径129μmの乾燥大豆粉の代わりに平均粒径35μmの乾燥大豆粉を用いて上記と同様の操作を行い、比較した。その結果、平均粒径129μmの乾燥大豆粉の水懸濁液はやや水との分離が認められた。
図12は、粒度の異なる乾燥大豆粉の水懸濁液について乳化安定性を調べた結果を示す写真像図である。
図12において、左側は平均粒径35μmの乾燥大豆粉の水懸濁液、右側は平均粒径129μmの乾燥大豆粉の水懸濁液、を示す。
【0070】
次に、平均粒径129μmの乾燥大豆粉7質量部と水46.5質量部と菜種油46.5質量部とを混合し、得られた混合物に対して上記と同様に超音波ホモジナイザーで2分間乳化処理することで、乳化物を調製した。また、平均粒径129μmの乾燥大豆粉の代わりに平均粒径35μmの乾燥大豆粉を用いて上記と同様の操作を行い、比較した。その結果、平均粒径129μmの乾燥大豆粉を用いた乳化物はマヨネーズ様物性を示した。また、各乳化物を室温下30Gで3分間遠心することで乳化安定性を調べた結果、わずかに水層が分離した(
図13)。以上の結果から、乾燥大豆粉の粒径が大きくなると水への分散性が低下するが、マヨネーズ様物性の組成物は構成されることがわかった。
図13は各乳化物を室温下30Gで3分間遠心分離した後の状態を比較した写真像図である。
図13において、左側は平均粒径35μmの乾燥大豆粉の乳化物、右側は平均粒径129μmの乾燥大豆粉の乳化物、を示す。
【0071】
(実施例4)乳化前の乾燥大豆粉に対する加熱処理の影響試験
乳化前の乾燥大豆粉に対する加熱処理の影響を調べるため、きな粉(商品名「スタイルワンきな粉」、トーカン社製)(比較例)と、平均粒径35μmの乾燥大豆粉をフライパンで色が変わるまで炒めて調製した炒大豆粉(比較例)、を用いて以下の試験を行った。また、上記の加熱処理した大豆粉の代わりに平均粒径35μmの乾燥大豆粉(本実施形態)を用いて同様の試験を行った。
【0072】
きな粉又は炒大豆粉を14質量%となるように水に懸濁し、90分静置すると、粉が沈殿した(
図14)。調製例1と同様にしてきな粉の粒度分布を調べた結果、平均粒径は84μmだった(
図15)。きな粉又は炒大豆粉の水懸濁液をSDS-PAGEに供した結果、どちらも30~40kDaにバンドが検出されなかったことから、きな粉及び炒大豆粉の水懸濁液には11Sタンパク質は含まれていないことが分かった(
図4)。また、きな粉又は炒大豆粉7質量部を46.5質量部の水に懸濁し、それに46.5質量部の菜種油を加えて混合し、得られた混合物を80 MPaの高圧ホモジナイザーで乳化処理(1パス)することで乳化物を調製したが、どちらもマヨネーズ様物性を示さなかった(
図16左)。各乳化物について30G、室温で3分間遠心分離したところ、きな粉及び炒大豆粉は乳化が壊れ、油層と水層に分離しているだけでなく、粉が沈殿した(
図16右)。以上の結果から、乾燥大豆粉を加熱すると水への分散性が低くなるだけでなく、乳化作用を有するタンパク質が不溶化し、乳化できなくなると考えられた。
【0073】
図4は、平均粒径35μmの乾燥大豆粉、きな粉、炒大豆粉の水懸濁液をSDS-PAGEに供した結果を示す電気泳動像図である。
図4において、左から順に、M(分子量マーカー)、平均粒径35μmの乾燥大豆粉、きな粉、炒大豆粉、をそれぞれ示す。
図14は、平均粒径35μmの乾燥大豆粉、きな粉、炒大豆粉の水懸濁液について乳化安定性を調べた結果を示す写真像図である。
図14において、左から順に、平均粒径35μmの乾燥大豆粉、きな粉、炒大豆粉、を示す。
図15は、きな粉についてのレーザー回折式粒度分布測定装置による粒度分布測定結果を示す。
図16は、乳化処理直後(左)及び室温下30Gで3分間遠心分離した後(右)の各乳化物の状態を比較した写真像図である。
図16において、左から順に、平均粒径35μmの乾燥大豆粉、きな粉、炒大豆粉、を示す。
【0074】
(実施例5)乳化層と加熱の関係
実施例1に記載の方法で、表1に示した組成の乳化物を調製した。各乳化物を10 g取り、内径1.3 cm、長さ10.5 cmの遠沈管に移して室温下で75000 G、5分間の超遠心処理を行い、それにより乳化層に負荷を与えてその乳化層の厚さを確認した。乳化物中の平均粒径35μmの乾燥大豆粉の含量と、乳化層の厚さの関係を
図17、表1に示した。乳化層(クリーミング層)の厚さは乳化剤の量とよく相関するため、乳化力の指標として妥当と考えられる。
【0075】
【0076】
次に、実施例1と同様にして分画した11Sタンパク質とセルロースを用いて乳化物を調製した。まず、1質量部(乾燥質量比)の11Sタンパク質を、48.925質量部の水に懸濁して、11Sタンパク質の水懸濁液を調製した。当該水懸濁液を40℃、100℃の各温度で1時間加熱した。次に、当該水懸濁液を用いて、表2に示した組成の混合物を調製し、得られた混合物を超音波ホモジナイザー(20kHz)で室温、2分間乳化処理することで乳化物を調製した。なお、11Sタンパク量、セルロース量は平均粒径35μmの乾燥大豆粉7質量%あたりの質量換算分を添加した。比較のため、上記の加熱処理前の11Sタンパク質の水懸濁液を用いて上記と同様に乳化物を調製した。各乳化物を10 g取り、上記と同様にして超遠心処理を行い、乳化層の厚さを確認した。すると加熱処理前の11Sタンパク質を乳化剤として使用したものが4.5 cmの乳化層(クリーミング層)を維持したのに対して、40℃で加熱した11Sタンパク質を用いた乳化物は3.6 cmの乳化層しか維持できず、100℃で加熱した場合は0.8cmの乳化層しか維持できなかった(
図17、
図18、表2)。以上の結果から、11Sタンパク質を40℃程度で加熱した場合にはある程度の乳化力が残っているが、40℃超に加熱すると11Sタンパク質が変性し、その加熱条件が強くなるにしたがって乳化力を失うと考えられる。
【0077】
【0078】
図17は、平均粒径35μmの乾燥大豆粉の含有量と乳化層の厚さの関係を示したグラフである。
図17において、点線は平均粒径35μmの乾燥大豆粉の含有量(1質量%以上10質量%以下)と乳化層(クリーミング層)の厚さの関係を示す。a,b又はcのプロットは、異なる加熱処理条件の11Sタンパク質を用いた乳化物における乳化層の厚さを示し、a:加熱前11Sタンパク質+セルロース、b:40℃加熱11Sタンパク質+セルロース、c:100℃加熱11Sタンパク質+セルロース、である。縦軸はクリーミング層の厚さ(cm)を、横軸は平均粒径35μmの乾燥大豆粉の含有量(質量%)を、それぞれ示す。
図18は、異なる加熱処理条件の11Sタンパク質を用いて調製した乳化物について乳化層の厚さを比較した写真像図である。
図18において、左から順に、a:加熱前11Sタンパク質+セルロース、b:40℃加熱11Sタンパク質+セルロース、c:100℃加熱11Sタンパク質+セルロース、をそれぞれ示す。
【0079】
(実施例6)成分のバランスの検討
平均粒径35μmの乾燥大豆粉の水懸濁液を、遠心によって豆乳とおからに分離したものを用いて、本実施形態の乳化組成物を調製することもできる。
図19に示すように、平均粒径35μmの乾燥大豆粉を14質量%含む水懸濁液を遠心(3000G、10分間、室温)すると、上清と沈殿に分離する。それぞれの重量を測定し、平均粒径35μmの乾燥大豆粉を14質量%含む水懸濁液からは、上清75%と沈殿25%(質量比)が得られることがわかった。この上清を豆乳、沈殿をおからとして回収した。このようにして回収された豆乳とおからを用いて表3に示す組成の乳化物を調製した。
【0080】
【0081】
まず、豆乳37.5質量部と乾燥おから1.875質量部を、水10.625質量部に懸濁すると、もとの平均粒径35μmの乾燥大豆粉を14質量%含む水懸濁液と同じ成分組成になった。次に、この水懸濁液に等量の菜種油を加えて混合し、得られた混合物を実施例1と同様に乳化することで、表3の「A」の組成の乳化物を調製した。この乳化物は実施例1と同様のマヨネーズ様物性の組成物であり、動的粘弾性の測定値も実施例2の値と変わらなかった。
【0082】
豆乳をエバポレーターで2倍に濃縮することで、11Sタンパク質を含むタンパク質成分を2倍含有する豆乳にしてもよい。これを「濃縮豆乳」とする。濃縮豆乳37.5質量部と乾燥おから1.875質量部を、水10.625質量部に懸濁し、これらを等量の菜種油と上記と同様に乳化することで、表3の「B」の組成の乳化物を調製した。この乳化物は、実施例1で調製した平均粒径35μmの乾燥大豆粉の乳化物に対して貯蔵弾性率・損失弾性率の値が約2倍、すなわち固い乳化物になった(
図20)。
【0083】
一方で、豆乳25質量部と乾燥おから3.75質量部を、水21.25質量部に懸濁して、同様に乳化することで調製した表3の「C」の乳化物は、実施例1の平均粒径35μmの乾燥大豆粉の乳化物と貯蔵弾性率・損失弾性率の値は変わらなかった(表3の「A」の乳化物と同程度のマヨネーズ様物性であった。)。しかし、各乳化物を1200G、室温で5分間遠心分離して乳化安定性を調べた結果、表3の「A」の乳化物に比べて、「C」の乳化物は乳化安定性が向上していた(水層の分離が抑制された)(
図21)。表3の「C」における豆乳を濃縮豆乳に置き換えた、「D」の乳化物は、「B」の乳化物と同様に硬い物性を示したが、「B」の乳化物に比べて水層の分離が少なく、乳化安定性が向上していた。
【0084】
以上の結果から、11Sタンパク質を含むタンパク質(豆乳に含まれる)の濃度は乳化組成物の固さ(粘弾性)を、セルロースを含む繊維(おからに含まれる)の濃度は乳化組成物の安定性を、それぞれ制御すると考えられた。したがって、目的の乳化組成物の物性に合わせて11Sタンパク質とセルロースの濃度を調整することによって、乳化組成物の物性を制御できることが示唆された。
【0085】
図19は、平均粒径35μmの乾燥大豆粉からの豆乳とおからの調製方法を示す図である。
図20は、各乳化物の動的粘弾性の測定結果を示すグラフである。
図20において、A_G'(●と太い実線)は表3の「A」の貯蔵弾性率を、B_G'(●と太い破線)は表3の「B」の貯蔵弾性率を、C_G'(●と太い一点破線)は表3の「C」の貯蔵弾性率を、D_G'(●と太い二点破線)は表3の「D」の貯蔵弾性率を、A_G"(◇と細い実線)は表3の「A」の損失弾性率を、B_G”(◇と細い破線)は表3の「B」の損失弾性率を、C_G”(◇と細い一点破線)は表3の「C」の損失弾性率を、D_G”(◇と細い二点破線)は表3の「D」の損失弾性率を、それぞれ示す。縦軸は貯蔵弾性率(G')及び損失弾性率(G")(単位:Pa)を、横軸は角周波数(rad/s)を、それぞれ示す。
図21は、各乳化物を1200G、室温で5分間遠心分離した後の状態を示す写真像図である。
図21において、左から順に、表3の「A」、「B」、「C」、「D」、の乳化物を示す。
【0086】
さらに、平均粒径35μmの乾燥大豆粉と水と菜種油を混合し、超音波ホモジナイザー(20kHz)で室温、2分間乳化処理して得られる乳化物において、水と菜種油の配合量を変更することで乳化物の物性へ与える影響を調べた。菜種油の濃度を20質量%以上80質量%以下の範囲にした乳化物(平均粒径35μmの乾燥大豆粉配合量は7質量%で固定)を30G、室温で3分間遠心すると、菜種油を30質量%以上70質量%以下含有する乳化物が安定なマヨネーズ様物性を示した(
図22)。一方、菜種油の量が20質量%以下と少なければ、マヨネーズ様物性にならず、菜種油の量が80質量%以上と多すぎると乳化できない。これらの結果から、油脂の量を制御することで、カロリーをコントロールした低カロリー製品を作ることができることが示された。また、動物性の原料を使っていないため、コレステロールは0である。
図22は、油脂の配合量を変化させた各乳化物を30G、室温で3分間遠心分離した後の状態を示す写真像図である。
図22において、左から順に、菜種油を20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%(質量比)で含有する乳化物を示す。
【0087】
(実施例7)高圧ホモジナイザーの条件検討
平均粒径35μmの乾燥大豆粉7質量部を46.5質量部の水に懸濁し、そこに46.5質量部の菜種油を加えて混合し、得られた混合物を20 MPa 以上80 MPa以下の高圧ホモジナイザーで乳化処理することで乳化物を調製した。得られた乳化物はすべてマヨネーズ様物性を示した。乳化物の安定性を調べるため、各乳化物を30G、室温で3分間遠心した結果、すべての乳化物は水層と油層を分離しなかった(
図23A)。さらに遠心力を強め、1200G、室温で5分間遠心した結果、20 MPaまたは40 MPaで乳化処理した乳化物では水層がわずかに分離し、80 MPaで乳化処理した乳化物では水層が分離しなかった(
図23B)。したがって、80 MPa以上で乳化処理するときわめて安定な乳化物を得られるが、20 MPa以上で乳化処理した場合でもマヨネーズ様物性を示した。本実施例においては、高圧ホモジナイザーの保護のため、100 MPa以下で実施した。
【0088】
また、各乳化物の動的粘弾性を測定した結果、貯蔵弾性率及び損失弾性率の値は、20 MPa処理の乳化物が最も低く、40 MPaと80 MPa処理の乳化物はほぼ同じだった(データは表示せず)。しかし、水層の分離は20 MPa、40MPa処理の乳化物の方が80 MPaの乳化物より多かった。以上の結果から、40 MPa以上の圧力で処理することで、一般的なマヨネーズ様物性の組成物を得ることができることが示された。
【0089】
図23Aは、各乳化物を30G、室温で3分間遠心分離した後の状態を示す写真像図である。
図23Bは、各乳化物を1200G、室温で5分間遠心分離した後の状態を示す写真像図である。
図23A、Bにおいて、左から順に、20MPa、40MPa、80MPa、の高圧ホモジナイザーで乳化処理した乳化物を示す。
【0090】
(実施例8)酢酸の濃度検討
本実施形態の乳化組成物は、酢酸を加えることでよりマヨネーズ様物性の組成物とすることができる。平均粒径35μmの乾燥大豆粉を懸濁する水に任意の濃度で酢酸を添加し、超音波ホモジナイザー(20kHz)で室温、2分間乳化処理することで、平均粒径35μmの乾燥大豆粉を7質量%、菜種油を46.5質量%含有し、酢酸終濃度を0質量%以上46.5質量%以下の範囲で変化させた乳化物を調製した。その結果、酢酸終濃度が46.5質量%の乳化物ではタンパク質が凝集し、乳化することができなかったのに対し、酢酸終濃度が46.5質量%未満の場合はマヨネーズ様物性を示した(
図24)。次に、乳化物の安定性を調べるため、各乳化物を30G、室温で5分間遠心分離した結果、酢酸終濃度が46.5質量%の乳化物は水層と油層が分離し、乳化を維持できなかったのに対し、酢酸が46.5質量%未満の乳化物は水層と油層が分離せず、安定な乳化物であることが分かった(
図25)。以上の結果から、酢酸を添加する場合の配合量は、46.5質量%未満にすればよいことが示された。
【0091】
図24は、酢酸濃度を制御した乳化物の乳化処理直後の状態を比較した写真像図である。
図25は、酢酸濃度を制御した乳化物を30G、室温で5分間遠心分離した後の状態を比較した写真像図である。
図24、25において、左から順に、酢酸濃度0%、10%、20%、30%、40%、46.5%(質量比)、を示す。
【0092】
(実施例9)各種マメ科植物種子を用いた乳化組成物
11Sタンパク質はマメ科植物種子やその他の双子葉植物の種子に含まれている。豆類または種実類に分類される食用植物の種子として、ピーナッツ(種実類)、小豆、いんげん豆、レンズ豆、えんどう豆、ヒヨコ豆、緑豆、枝豆(豆類)を用いて乳化組成物を調製した。
【0093】
各種マメ科植物種子をビーズミル(RMBイージーナノ(アイメックス社製))を用い10℃以上35℃以下で粉砕し、ふるいを用いて直径100μm未満の粒子を選抜してマメ科植物種子粉末とした(各材料の平均粒径は、ピーナッツ41μm、小豆75μm、いんげん豆26μm、レンズ豆34μm、えんどう豆93μm、ヒヨコ豆85μm、緑豆12μm、枝豆52μm、大豆55μm)。各マメ科植物種子粉末7質量部を水46.5質量部に懸濁し、菜種油46.5質量部を加えて混合し、得られた混合物を超音波ホモジナイザー(20kHz)で室温、2分間乳化処理することで乳化物を調製した。また、比較のため、マメ科植物種子粉末の代わりに平均粒径35μmの乾燥大豆粉を用いて上記と同様に乳化物を調製した。乳化処理直後の物性は、ピーナッツ、小豆、いんげん豆、レンズ豆及び緑豆の乳化物は本開示の課題である乳化力が発現されると共に、乳化後の組成物がマヨネーズ様物性を有する非常に好ましい品質であった。これに対して、えんどう豆とヒヨコ豆の乳化物は本開示の課題である乳化力が発現される好ましい品質であるものの、乳化後の組成物はマヨネーズ様物性にならず粘性が無い品質であった。枝豆に関しては本開示の課題である乳化力も発現されず、マヨネーズ様物性も有さない好ましくない品質であった(
図26、表4)。なお、表4は、上記の各種マメ科植物種子について、乳化物のマヨネーズ様物性と、乳化力の有無についての評価結果を示す。
【0094】
【表4】
※マヨネーズ様物性の評価 ◎:逆さにしても落ちない;〇:傾けて流れない;△:傾けたら流れる;×:粘性がない、又は乳化しない
※乳化力の評価 〇:あり、×:なし
【0095】
次に、各種マメ科植物種子粉末を水に懸濁した水懸濁液をSDS-PAGEに供した結果、ピーナッツや小豆、いんげん豆、レンズ豆、緑豆、大豆では37~75kDa付近にほかのバンドに比べて濃いバンド(
図27に*で表示)が検出された。この濃いバンドがそれぞれの種子における主要な貯蔵タンパク質であり、大豆の11Sタンパク質に相当すると考えられた。一方で、えんどう豆とヒヨコ豆では突出して濃いバンドはなく、11Sタンパク質に相当するタンパク質の蓄積レベルが低いと推測された。さらに、枝豆ではバンドがほとんど検出されなかった(
図27)。枝豆のような未熟種子は11Sタンパク質を含む種子貯蔵タンパク質の濃度が不足しているため、乳化やマヨネーズ様物性の発現が起きないと考えられた。
【0096】
図26は、各種マメ科植物種子粉末を用いた乳化物の状態を比較した写真像図である。
図26において、上から順に、ピーナッツ、小豆、いんげん豆、レンズ豆、えんどう豆、ヒヨコ豆、緑豆、枝豆、大豆、の乳化物を示す。
図27は、各種マメ科植物種子粉末の水懸濁液をSDS-PAGEに供した結果を示す電気泳動像図である。
図27において、左から順に、ピーナッツ、小豆、いんげん豆、レンズ豆、えんどう豆、ヒヨコ豆、緑豆、枝豆、大豆、分子量マーカーを示す。
【0097】
(実施例10)
具材部(カットオニオン(5mm角)25質量%、マッシュルーム(10mm角)10質量%、しめじ(10mm角)10質量%、エリンギ(10mm角)10質量%)と乳化組成物部(水25質量%、オリーブオイル10質量%、アーモンドパウダー(平均粒径50μm)2質量%、カシューナッツパウダー(平均粒径50μm)2質量%、食塩6質量%)とを混合し、よく攪拌することで得られた混合物に対して超音波ホモジナイザー(20kHz)で室温、2分間乳化処理することで、具材入り乳化組成物を調製した。
【0098】
得られた具材入り乳化組成物について、100gのサンプルを9メッシュ(タイラーメッシュ)パスさせた後の通過画分を乳化組成物として、組成物の乳化に寄与しない粒度分布の測定対象外である2000μm以上の具材等を除いた。9メッシュパスさせる際のメッシュ上残分については、充分に静置した後、メッシュ上の具材のサイズが変わらないようにヘラで9メッシュの目開きより小さい画分を充分に通過させることで、通過画分を得た。
【0099】
その結果、100gの具材入り乳化組成物から、45gの通過画分(乳化組成物)が得られた。具材部を除いて算出した乳化組成物部における、各成分配合量は以下の通りである(水55.6質量部、オリーブオイル(油脂)22.2質量部、アーモンドパウダー(種実類)4.4質量部、カシューナッツパウダー(種実類)4.4質量部、食塩13.4質量部)。
【0100】
当該乳化組成物の安定性を調べるため、各乳化物を30G、室温で5分間遠心分離した結果、乳化物は水層と油層が分離せず、マヨネーズ様物性(表4における「〇:傾けて流れない」に相当)を有する安定な乳化物(表4における「〇:乳化力あり」に相当)であることが分かった。
【0101】
さらに、実施例9と実施例10における乳化組成物について、実施例2と同様の条件で、角周波数10rad/sにおける貯蔵弾性率と損失正接を測定した。また、その後乳化組成物を80℃、30分間加熱処理した場合における乳化の状態を評価することで、加熱処理後における乳化安定性を評価した。「加熱後の乳化安定性」については、乳化力の評価 〇:あり、×:なし、として評価した。
【0102】
【産業上の利用可能性】
【0103】
本開示の乳化組成物は、乳化剤として双子葉植物種子乾燥粉末又は11Sタンパク質を含有しているため、低カロリーかつ低コレステロールの新規食品として食品産業、外食産業などにおける貢献が期待される。
【0104】
[関連出願の相互参照]
本願は、2019年4月26日に日本国特許庁に出願された特願2019-086309号に基づく優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。