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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】麺類用改質剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20241030BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20241030BHJP
【FI】
A23L7/109 A
A23L7/10 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020138213
(22)【出願日】2020-08-18
(65)【公開番号】P2022034430
(43)【公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(72)【発明者】
【氏名】樋口 創
(72)【発明者】
【氏名】大井 雄介
(72)【発明者】
【氏名】川村 悠貴
【審査官】天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-213354(JP,A)
【文献】特開2005-328790(JP,A)
【文献】特開2008-119627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/109 - 7/113
A23L 7/00 - 7/104
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)最頻径が100~200μmであるデュラム小麦由来の小麦粉と(b)軟質小麦由来の小麦粉を、30:70~70:30の質量比で含有し、たん白質含量が8.5~12.5質量%である麺類用改質剤であって、
体積基準の粒子径累積分布において30μm以下の粒子径を有する粒子の割合が全体の25%以上であり、最頻径が90~200μmである、上記麺類用改質剤。
【請求項2】
前記麺類が、茹でまたは蒸し処理された後、冷蔵または冷凍で保存および/または流通される冷蔵麺または冷凍麺である、請求項1に記載の麺類用改質剤。
【請求項3】
軟質小麦由来の小麦粉が、体積基準の粒子径頻度分布において30μm以下の粒子径を有する粒子の割合が全体の45%以上である、請求項1または2に記載の麺類用改質剤。
【請求項4】
軟質小麦由来の小麦粉が、軟質小麦を臼挽きした小麦粉である、請求項1~3のいずれかに記載の麺類用改質剤。
【請求項5】
前記麺類が、電子レンジで加熱して喫食する麺類である、請求項1~4のいずれかに記載の麺類用改質剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の麺類用改質剤を、穀粉組成物100質量部あたり3~20質量部含有する麺類用穀粉組成物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の麺類用改質剤または請求項6に記載の麺類用穀粉組成物を原料とする麺類。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の麺類用改質剤または請求項6に記載の麺類用穀粉組成物を原料として製麺することを含む、麺類の製造方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれかに記載の麺類用改質剤または請求項6に記載の麺類用穀粉組成物を原料として製麺することを含む、麺類のつゆ馴染みを向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘弾性やつゆ馴染みを損なうことなく、角立ちの良い麺類を製造するための改質剤に関する。また、本発明は、麺類用改質剤を含有する穀粉組成物、麺類用改質剤を用いた麺類の製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に麺類は、調理後の茹で伸びや、調理後チルド保管した際の水分移行、でん粉の老化などによって性状が変化し、良好な食感などが失われてしまう。
従来、麺類の食感などを改善するために、小麦たん白などを配合して麺類に硬さや弾力を付与する技術や、加工澱粉などを配合して麺類につるみやしなやかさを付与する技術が提案されている。
【0003】
また、食感などが良好な麺類を得る技術として、原料の小麦粉に着目したものも知られている。例えば、特許文献1には、アメリカ産のウエスタン・ホワイトを原料とし、特定の平均粒径と損傷澱粉量を有する小麦粉を用いることによって、うどんの製造に適した小麦粉を製造することが記載されている。具体的には、アメリカ産のウエスタン・ホワイトという軟質小麦を原料とし、平均粒径が20μm以上35μm以下であり、損傷澱粉量が3.8質量%以下である、うどん製造用の小麦粉が、特許文献1に記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、特定の粒度分布を有する小麦粉を配合し、低カロリー化を図るべく高歩留りで茹で上げることが提案されている。具体的には、粒度分布において粒径60~100μmの範囲に最大頻度を有するとともに、粒径が20~150μmの粒子が80質量%以上であり、粗蛋白含量14~19質量%である小麦粉を、茹で麺類用穀粉組成物中に20~80質量%含有させることが、特許文献2に記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、特定の粒径を有する強力系小麦粉を配合することによって、二次加工適性に優れた小麦粉製品が得られることが記載されている。具体的には、原料を強力系小麦とし、粒径が50~160μmの大きさの粒が70質量%以上であり、粒径が50~110μmの大きさの粒が55質量%以上である小麦粉を用いることが、特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-159759号公報
【文献】特開2010-193851号公報
【文献】特開2007-014224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
麺類において角立ちは、麺類の見た目はもちろん、優れた食感に関連する重要な要素である。しかし、例えば、機械製麺で得られた麺類を加熱調理してチルド保管してからレンジで加熱して喫食する場合など、麺類の角がとれて丸みが出てしまうことがある。
【0008】
この課題を解決するため、小麦たん白などの硬さを出すための材料が用いられることがあるが、食感を硬くするための材料を用いた場合、麺類の粘弾性やつゆ馴染みは失われてしまう。粘弾性やつゆ馴染みを向上させるために加工澱粉などが用いることがあるが、食感が軟らかくなる課題がある。また、副原料を多く配合すると穀粉本来の色調を損ない、不自然な食感になる。
【0009】
このように、従来、麺類の角立ちを向上させることと、麺類に粘弾性やつゆ馴染みを付与することは、両立することが技術的に困難であった。本発明の目的は、麺類の粘弾性やつゆ馴染みを損なうことなく、角立ちの良い麺類を製造する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題について鋭意検討したところ、原料小麦の種類、小麦粉の粒度、たん白質含量を特定の範囲に調整した小麦粉組成物を配合することによって優れた麺類が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
これに限定されるものではないが、本発明は、下記の発明を包含する。
[1] (a)デュラム小麦由来の小麦粉と(b)軟質小麦由来の小麦粉を、30:70~70:30の質量比で含有し、たん白質含量が8.5~12.5質量%である麺類用改質剤であって、体積基準の粒子径累積分布において30μm以下の粒子径を有する粒子の割合が全体の25%以上であり、最頻径が90~200μmである、上記麺類用改質剤。
[2] デュラム小麦由来の小麦粉の最頻径が90~200μmである、[1]に記載の麺類用改質剤。
[3] 軟質小麦由来の小麦粉が、体積基準の粒子径頻度分布において30μm以下の粒子径を有する粒子の割合が全体の45%以上である、[1]または[2]に記載の麺類用改質剤。
[4] 軟質小麦由来の小麦粉が、軟質小麦を臼挽きした小麦粉である、[1]~[3]のいずれかに記載の麺類用改質剤。
[5] 前記麺類が、電子レンジで加熱して喫食する麺類である、[1]~[4]のいずれかに記載の麺類用改質剤。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の麺類用改質剤を穀粉組成物100質量部あたり3~20質量部含有する麺類用穀粉組成物。
[7] [1]~[5]のいずれかに記載の麺類用改質剤または[6]に記載の穀粉組成物を原料とする麺類。
[8] [1]~[5]のいずれかに記載の麺類用改質剤または[6]に記載の穀粉組成物を原料として製麺することを含む、麺類の製造方法。
[9] [1]~[5]のいずれかに記載の麺類用改質剤または[6]に記載の穀粉組成物を原料として製麺することを含む、麺類のつゆ馴染みを向上させる方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、粘弾性やつゆ馴染みを損なうことなく、角立ちの良い麺類を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一つの態様において本発明は、麺類を製造するための組成物に関しており、特に本発明は、粘弾性やつゆ馴染みを損なうことなく、角立ちの良い麺類を製造するための改質剤に関する。本発明に係る麺類用改質剤は、たん白質含量が8.5~12.5質量%であり、体積基準の粒子径累積分布において30μm以下の粒子径を有する粒子の割合が全体の25%以上であり、最頻径が90~200μmである。別の態様において本発明は、たん白質含量が8.5~12.5質量%であり、体積基準の粒子径累積分布において30μm以下の粒子径を有する粒子の割合が全体の25%以上である麺類用改質剤を含有する穀粉組成物である。本発明に係る麺類用改質剤および麺類用穀粉組成物は、麺類を製造するために用いられ、粉体の形態である。
【0014】
本発明に麺類用改質剤は、たん白質含量が8.5~12.5質量%であり、体積基準の粒子径累積分布において30μm以下の粒子径を有する粒子の割合が全体の25%以上である。このような麺類用改質剤を穀粉に配合することによって、粘弾性やつゆ馴染みを損なうことなく、角立ちの良い麺類を製造することが可能になる。
【0015】
本発明に係る麺類用改質剤のたん白質含量は8.5~12.5質量%であるが、好ましい態様において、たん白質含量は9.0~12.0質量%であり、9.5~11.5質量%、9.5~11.0質量%としてもよい。たん白質含量がこのような範囲であると、粘弾性やつゆ馴染みを損なうことなく、角立ちの良い麺類を製造することができる。
【0016】
本発明に係る麺類用改質剤は、体積基準の粒子径累積分布において、30μm以下の粒子径を有する粒子の割合が全体の25%以上を構成する。30μm以下の粒子径を有する粒子の割合が全体の30%以上を構成することがより好ましく、30μm以下の粒子径を有する粒子の割合が全体の35%以上を構成することがさらに好ましい。このような麺類用改質剤を穀粉に配合することによって、粘弾性やつゆ馴染みを損なうことなく、角立ちの良い麺類を製造することができる。なお、体積基準の粒子径累積分布において、30μm以下の粒子径を有する粒子の割合について、上限は特にないが、例えば、90%以下、70%以下、50%以下とすることができる。
【0017】
本発明に係る麺類用改質剤は、体積基準の粒子径頻度分布において、最頻径(頻度分布が最大となる粒子径)が90~200μmの範囲に存在する。本発明において、麺類用改質剤の最頻径は95~180μmが好ましく、100~160μmがより好ましく、105~140μmがさらに好ましい。麺類用改質剤の最頻径がこのような範囲であると、粘弾性やつゆ馴染みを損なうことなく、角立ちの良い麺類を製造することができる。
【0018】
本発明において、麺類用改質剤の体積基準の粒子径分布は、レーザー回折式の粒度分布測定装置を用いて測定することができる。具体的には、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、フラウンホーファー回折によって体積基準の粒子径分布(累積分布または頻度分布)を得る。
【0019】
本発明において麺類用改質剤の灰分は、特に限定されず、製造する麺類の特性を踏まえて選択すればよい。灰分は、小麦の表皮に多く含まれており、小麦粉に混入している表皮の量が多いと灰分の割合が高くなる。灰分が高いと得られる麺類のフスマ臭が強く、味・風味が悪くなる傾向があるため、好ましい態様において、本発明に係る麺類用改質剤の灰分は0.90%以下であり、より好ましくは0.85%以下、さらに好ましくは0.80%以下であり、0.75%以下としてもよい。
【0020】
本発明に係る麺類用改質剤は、(a)デュラム小麦由来の小麦粉と(b)軟質小麦由来の小麦粉を30:70~70:30の質量比で含有する。(a)と(b)の質量比は、35:75~75:35や40:60~60:40、40:60~55:45であってもよい。本発明においては、このような質量比で(a)と(b)を併用することによって、粘弾性やつゆ馴染みを損なうことなく、角立ちの良い麺類を製造することができる。
【0021】
本発明に係る麺類用改質剤に用いる小麦粉は、一般的な方法で製造することができるが、例えば、デュラム小麦と軟質小麦を含む原料小麦を一般的な方法で粉砕、所望の粒度構成を調整してもよいし、デュラム小麦由来の小麦粉と軟質小麦由来の小麦粉などを所望の粒度構成になるように混合してもよいし、デュラム小麦由来の小麦粉と軟質小麦由来の小麦粉などを混合してから所望の粒度構成に調整してもよい。
【0022】
原料小麦から小麦粉を製造する方法としては、常法に従って実施すればよく、例えば、精選した小麦粒を、加水・調質(テンパリング)した後、ブレーキング工程、リダクション工程等を行う。また、必要に応じて、ピーリング工程や一般的な粉砕機(石臼、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル、サイクロンミル、相対流粉砕機等)を用いた粉砕工程、分級工程などを行い、粒度構成を調整することができる。
【0023】
また、小麦粉を所望の粒度構成に調整する方法としては、粉砕工程や分級工程などによって実施すればよく、例えば、小麦粉を一般的な粉砕機を単独または複数組み合わせて用いて粉砕してもよいし、そのままの小麦粉または粉砕した小麦粉を篩や空気分級によって分級し、微細化された画分を回収することで粒度構成を所望の範囲にまで調整してもよい。また、分級機能を備えた粉砕機で粉砕することによって、所望の粒度構成に調整することができる。
【0024】
デュラム小麦由来の小麦粉(以下デュラム小麦粉ともいう)は、デュラム小麦を原料として常法により製造することができる。デュラム小麦の品種、産地は特に限定されず、1種のデュラム小麦から小麦粉を製造することもできるし、2種以上のデュラム小麦を組み合わせて小麦粉を製造することもできる。デュラム小麦由来の小麦粉を用いることで、麺類に小麦由来の風味や穀物由来の甘さを付与することができる。好ましい態様において、デュラム小麦由来の小麦粉の最頻径が90~200μmであり、95~180μmがより好ましく、100~160μmがさらに好ましく、105~140μmがよりさらに好ましい。また、別の好ましい態様において、デュラム小麦由来の小麦粉は、体積基準の粒子径累積分布において30μm以下の粒子径を有する粒子の割合が全体の5~20%であり、より好ましくは10~18%である。さらに、別の好ましい態様において、デュラム小麦由来の小麦粉の灰分は、麺類のフスマ臭を抑えるため、0.90質量%以下である。
【0025】
軟質小麦由来の小麦粉は、軟質小麦を原料として常法により製造することができる。原料となる軟質小麦の産地や品種などは特に限定されず、1種の小麦から小麦粉を製造することもできるし、2種以上の小麦を組み合わせて小麦粉を製造することもできる。一般に小麦は種子の硬さ(硬軟質性)に基づいて硬質小麦と軟質小麦に分類されるところ、硬質小麦は高たん白質で種子がアメ色に見える硝子質のものが多く、軟質小麦はたん白質が低めで種子が白っぽく見える粉状質のものが多い。種子の硬軟質性は、ピュロインドリン-aとピュロインドリン-bという2種のたん白質の遺伝子の変異によって決定され、野生型が軟質で、これらの遺伝子に変異が起きると硬質になる。
【0026】
本発明において使用する軟質小麦の例としては、ウエスタン・ホワイト、ソフト・ホワイト、ホワイト・クラブ、オーストラリアン・スタンダード・ホワイト(ASW)、きたほなみ、さとのそら、農林61号、あやひかり、チクゴイズミなどが挙げられる。軟質小麦の産地は特に制限されないが、日本産であると好ましい。好ましい態様において本発明に係る軟質小麦は、アミロース合成遺伝子Wx-1を1つまたは2つ欠失し品種を含み、より好ましくはアミロース合成遺伝子Wx-1を1つまたは2つ欠失した品種のみからなる。また、軟質小麦由来の小麦粉のたん白質含量は、6.5~11.0質量%であり、より好ましくは7.0~10.0質量%、さらに好ましくは7.0~9.0質量%である。
【0027】
本発明の好ましい態様において、軟質小麦由来の小麦粉は、体積基準の粒子径頻度分布において30μm以下の粒子径を有する粒子の割合が全体の45%以上であり、より好ましくは50%以上である。上限は特にないが、例えば、90%以下、80%以下、60%以下とすることができる。また、別の好ましい態様において、軟質小麦由来の小麦粉は、体積基準の粒子径累積分布において最頻径が10~30μmであり、より好ましくは15~25μm以下である。一般に硬質小麦よりも軟質小麦は粒子が脆く、細かくなりやすいため、このような小麦粉を容易に得ることができる。また、好ましい態様において、軟質小麦由来の小麦粉として、軟質小麦を臼挽きした小麦粉を用いることができる。本発明において臼挽きした小麦粉は、2つの臼の隙間で粉砕する工程を含む製造方法で得られた小麦粉で、臼の素材に限定されない。臼挽きは、胚芽部分も細かく粉砕されやすいため、臼挽きした小麦粉には胚芽中の成分が含まれ、麺類に甘みや旨みを付与し風味を良好にする。軟質小麦を臼挽きした小麦粉は、麺類のフスマ臭を抑えるため、全粒粉でないことが好ましい。
【0028】
本発明に係る麺類用改質剤は、本発明の効果に悪影響を及ぼさない限り、他の原料をさらに含んでいてよい。他の原料としては、例えば、加工澱粉などの澱粉類、大豆たん白質や卵白粉などのたん白質素材、動植物油脂などの油脂類、かんすい、食物繊維、膨張剤、増粘剤、乳化剤、食塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料などが挙げられる。本発明では、目的とする麺の種類に応じて、これら他の原料を単独または組み合わせて用いることができる。
【0029】
穀粉組成物
一つの態様において本発明は、上述した麺類用改質剤を、穀粉組成物100質量部あたり3~20質量部含有させた穀粉組成物である。好ましい態様において、上記穀粉組成物100質量部あたりの麺類用改質剤の配合量は、3.5~16質量部であり、より好ましくは4~12質量部である。このような範囲とすることで、粘弾性やつゆ馴染みを損なうことなく、角立ちの良い麺類を製造することができる。
【0030】
本発明に係る穀粉組成物は、上記の麺類用改質剤に加えて、穀粉類、澱粉類などを含んでいてよい。目的の麺類の種類に応じて適宜に選択される。例えば、小麦粉(強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉)、デュラム小麦粉、米粉、そば粉、大麦粉、ライ麦粉、オーツ麦粉、トウモロコシ粉、ひえ粉、あわ粉、大豆粉、およびホワイトソルガム粉などから選ばれる1種または2種以上の穀粉類を使用することができる。また、小麦のふすまを含んでもよい。澱粉類としては、例えば、小麦澱粉、大麦澱粉、ライ麦澱粉、エンバク澱粉などの麦類澱粉、トウモロコシ澱粉、米澱粉、豆類澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、ヒシ澱粉、クリ澱粉、サゴ澱粉、ナガイモ澱粉、レンコン澱粉、クワイ澱粉、ワラビ澱粉、ユリネ澱粉、およびアミロメイズ澱粉から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。これらの澱粉に物理的、化学的な加工を単独または複数組合せて施した加工澱粉を用いてもよい。
【0031】
本発明の麺類用穀粉組成物は、副原料をさらに含んでいてよい。本発明で用いられる副原料としては、例えば、大豆たん白質、小麦たん白質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳などのたん白質素材;動植物油脂、粉末油脂などの油脂類;かんすい、食物繊維、膨張剤、増粘剤、乳化剤、食塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料などが挙げられる。本発明では、目的とする麺の種類に応じて、これら副原料を単独または組み合わせて用いることができる。
【0032】
本発明に係る麺類用穀粉組成物は、そのたん白質含量を、0を超えて25%質量以下とすることが好ましい。たん白質含量が多すぎると、麺の弾力性が強くなりすぎたり、食感が硬く、ぼそつきやすくなったりするためである。
【0033】
好ましい態様において、麺類用穀粉組成物のたん白質含量は3~25質量%であり、より好ましくは4~23質量%、さらに好ましくは5~20質量%、よりさらに好ましくは6~17質量%である。たん白質含量を3~25質量%程度にすることによって、製麺時のべたつきが特に抑制され、生地がまとまりやすくなる。
【0034】
麺類
本発明に係る麺類とは、うどんや中華麺、パスタ類(スパゲッティ、スパゲッティーニ、カッペリーニ、タリアテッレ、フェットチーネ、リングイネ、パッパルデッレ、マカロニ、ペンネ、ラビオリ、ラザニア)、そうめん、ひやむぎ、そば、冷麺などに用いられる麺線や麺帯はもちろん、餃子やしゅうまいなどに用いられる麺皮を包含する概念である。上述したように、本発明によれば、粘弾性やつゆ馴染みを損なうことなく、角立ちの良い麺類を製造することができる。
【0035】
また、本発明に係る麺類は、調理前の麺類と調理済の麺類の両方を包含する概念である。調理済の麺類を調製する場合は、麺帯や麺線などの未調理の麺類(生麺)を、湯の中で茹でるなどして調理すればよい。麺類の調理方法は特に制限されないが、茹でて調理することはもちろん、油ちょうや蒸し、電子レンジなどによって調理してもよく、喫食可能になるまで麺類をα化すればよい。また、麺類の形態に特に制限はなく、例えば、生麺、半乾燥麺、乾麺、茹で麺、蒸し麺、冷蔵麺(チルド麺)、冷凍麺、即席麺、調理麺、ロングライフ麺(LL麺)などであってもよい。茹でまたは蒸し処理された後、冷蔵または冷凍で保存および/または流通される冷蔵麺または冷凍麺であるのが好ましく、冷蔵麺がより好ましい。また、本発明に係る麺類には、流通や保管、喫食などの態様に応じて、ほぐれ剤などを付着させることができる。
【0036】
本発明に係る麺類は、上述した麺類用改質剤を含む麺類用穀粉組成物から製造される。本発明において、麺生地は、通常の麺生地の調製方法に準じて調製することができる。例えば、麺類用改質剤を含む麺類用穀粉組成物に、水、塩などを配合して混練し、麺生地を調製することができる。また、中華麺の麺生地を調製する場合には、さらに、かん水などを配合してもよい。
【0037】
麺類用改質剤を含む麺類用穀粉組成物と水との混合比は、麺類の種類にもよるが、通常は、麺類用穀粉組成物100質量部に対し、水25~50質量部とすることが好ましく、水28~45質量部とすることがより好ましい。当該質量比において、麺類用改質剤を含む麺類用穀粉組成物に含まれる水分は「水」ではなく「麺類用穀粉組成物」を構成するものとする。
【0038】
本発明に係る麺類は、圧延製麺、ロール式製麺、押出式製麺などの公知の製麺方法によって製造することができる。本発明の一つの態様において、麺生地は、圧延され、所望の厚さの麺帯とされる。当該圧延は、麺生地を圧延ロールに通すことで行われる。次いで、製麺機などを用いて麺帯を切り出して麺線とし、この麺線を所望の長さに切断することにより生麺を得ることができる。また、型抜き機などを用いて麺帯から麺皮を得ることができる。
【0039】
本発明の一つの態様において、麺生地を引き伸ばしたり撚ったりして麺線を得てもよく、また、麺生地を穴などから押し出して麺類を製造してもよい。一般に、スパゲッティやマカロニなどの麺類は、麺生地を押し出して製造することが多い。また本発明においては、機械を用いて製麺してもよく、機械を用いずに手延べや手打ちによって製麺してもよい。
【0040】
例えば、上記生麺を茹でることによって茹で麺が得られ、蒸煮することによって蒸し麺が得られ、調湿乾燥法などにより乾燥すれば乾麺が得られる。また、例えば、蒸煮または茹で処理を行った後、フライ用バスケットあるいは乾燥用バスケットに一食ずつ成形充填し、フライあるいは高温熱風乾燥処理すれば即席乾麺が得られる。
【0041】
1つの観点から、本発明は、上記した麺類用改質剤または麺類用穀粉組成物を用いる、麺類の製造方法である。さらに本発明は、上記した麺類用改質剤または麺類用穀粉組成物を用いることによる、麺類の食感を向上させる方法と理解することもできる。本発明によれば、粘弾性やつゆ馴染みを損なうことなく、角立ちの良い麺類を得ることができる。
【実施例
【0042】
以下、具体例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。また、本明細書において、濃度などは質量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0043】
分析方法
下記の実験では、以下の分析方法を用いた。
・たん白質含量
ケルダール法によって定量した窒素含量に、窒素-たん白質換算係数(5.70)を乗じて算出した。
・粒度分布
レーザー回折式の粒度分布測定装置(HELOS&RODOS、日本レーザー)を用いて、フラウンホーファー回折によって体積基準分布(頻度分布)から最頻径及び30μm以下の割合を測定した。なお、分析条件は、分散圧2bar、測定レンジR4(小麦粉dおよびそれを含む改質剤はR5)とした。
【0044】
原材料
下記の実験では、以下の原料を使用した。
【0045】
【表1】
【0046】
また、上記以外の原料は、下記を使用した。
・中力粉(「北海道」、昭和産業、たんぱく質含量:10.2%)
・デュラムセモリナ粉(「セモリナ」、昭和産業)
・加工澱粉(「SF-800」、昭和産業)
・グルテン(「B-パウダーグル」、昭和産業)
・乾燥卵白(「乾燥卵白MタイプNo.200」、キューピータマゴ)
・食塩(「並塩」、日本海水)
・粉末かんすい(「かんすい赤」、オリエンタル酵母工業)
実験1:麺類の製造と評価(レンジうどん)
表2に基づいて小麦粉a~kを混合して麺類用改質剤を調製した(改質剤A~J)。次いで、横型ピンミキサーを用いて、下表に示す麺類用穀粉組成物100質量部、塩4質量部、水40質量部の割合で混合した後、15分間ミキシングし、生地を作製した。作製した生地を、ロール式製麺機で圧延してから切り出し(切り刃:角10番)、麺線の厚みが3.0mmの生麺(うどん)を製造した。
【0047】
製造した生麺を沸騰水中で茹で増重率が160%になるよう茹で、冷水で冷却、水切りし、調理済のうどんを製造した。調理済のうどんをゼラチンで固めたスープ上に静置し、冷蔵で24時間保存した後、電子レンジを用いて500Wで5分間加熱し、官能評価に供した。
【0048】
官能評価は、10人の専門パネルによって下記のように実施した(数値が大きい程、良好である)。
■味・風味
10人の専門パネルが5段階で評価し、その平均点を評価点とした。
・5:対象区に比べ、小麦粉の自然な味・風味が非常に強く感じられる
・4:対象区に比べ、小麦粉の自然な味・風味が強く感じられる
・3:対象区に比べ、小麦粉の自然な味・風味が同程度に感じられる
・2:対象区に比べ、小麦粉の自然な味・風味が弱く感じられる
・1:対象区に比べ、小麦粉の自然な味・風味が非常に弱く感じられる
■粘弾性
10人の専門パネルが5段階で評価し、その平均点を評価点とした。
・5:対象区に比べ、弾力性、粘りともに高く、硬さが非常に良好である
・4:対象区に比べ、弾力性、粘りともにやや高く、硬さが良好である
・3:対象区に比べ、弾力性、粘りともに同程度で、硬さがやや良好である
・2:対象区に比べ、弾力性および/または粘りがやや低く、硬さがやや劣る
・1:対象区に比べ、弾力性および/または粘りが低く、硬さが劣る
■角立ち
10人の専門パネルの合議により、1点から5点まで0.5点刻みの9段階で評価した。
・5:対象区に比べ、角立ちが非常に目立ち、非常に良好である
・4:対象区に比べ、角立ちがあり、良好である
・3:対象区に比べ、角立ちが同程度あり、やや良好である
・2:対象区に比べ、角立ちがやや欠き、やや劣る
・1:対象区に比べ、角立ちが欠き、劣る
■つゆ馴染み
10人の専門パネルの合議により、1点から5点まで0.5点刻みの9段階で評価した。
・5:対象区に比べ、つゆ馴染みが非常に良好である
・4:対象区に比べ、つゆ馴染みが良好である
・3:対象区に比べ、つゆ馴染みが同程度で、やや良好である
・2:対象区に比べ、つゆ馴染みがやや欠き、やや劣る
・1:対象区に比べ、つゆ馴染みが欠き、劣る
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示した結果から明らかなように、本発明に係る麺類用改質剤A~Fを用いた試験1-3~1-8において、優れた麺類を製造することができた。たん白質含量が13.2質量%で体積基準の粒子径累積分布において30μm以下の粒子径を有する粒子の割合が全体の15%の麺類用改質剤Gを用いた試験1-9では、味・風味、角立ちは優れていたが、粘弾性、つゆ馴染みの評価が低かった。体積基準の粒子径累積分布において30μm以下の粒子径を有する粒子の割合が全体の19%の麺類用改質剤Hを用いた試験1-10では、味・風味、粘弾性、角立ちは優れていたが、つゆ馴染みの評価が低かった。体積基準の粒子径累積分布において最頻径が79μmの麺類用改質剤Iを用いた試験1-11では、味・風味、粘弾性、つゆ馴染みは優れていたが、角立ちの評価が低かった。体積基準の粒子径累積分布において最頻径が398μmの麺類用改質剤Jを用いた試験1-12では、味・風味、角立ち、つゆ馴染みは優れていたが、粘弾性の評価が低かった。
【0051】
実験2:麺類の製造と評価(レンジうどん)
表3に基づいて小麦粉aと小麦粉eの混合比を変えて麺類用改質剤を調製した(改質剤A1~A7)。次いで、横型ピンミキサーを用いて、下表に示す麺類用穀粉組成物100質量部、塩4質量部、水40質量部の割合で混合した後、15分間ミキシングし、生地を作製した。作製した生地を、ロール式製麺機で圧延してから切り出し(切り刃:角10番)、麺線の厚みが3.0mmの生麺(うどん)を製造した。
【0052】
製造した生麺を沸騰水中で茹で増重率が160%になるよう茹で、冷水で冷却、水切りし、調理済のうどんを製造した。調理済のうどんをゼラチンで固めたスープ上に静置し、冷蔵で24時間保存した後、電子レンジを用いて500Wで5分間加熱し、官能評価に供した。評価基準は実験1と同様である。
【0053】
【表3】
【0054】
表3に示した結果から明らかなように、本発明に係る麺類用改質剤A2~A6を用いた試験2-3~2-7において、優れた麺類を製造することができた。(a)デュラム小麦由来の小麦粉と(b)軟質小麦由来の小麦粉を80:20の質量比で含有する麺類用改質剤A1を用いた試験2-2では、味・風味、粘弾性、角立ちは優れていたが、つゆ馴染みの評価が低かった。(a)デュラム小麦由来の小麦粉と(b)軟質小麦由来の小麦粉を20:80の質量比で含有する麺類用改質剤A7を用いた試験2-8では、味・風味、粘弾性、つゆ馴染みは優れていたが、角立ちの評価が低かった。
【0055】
実験3:麺類の製造と評価(レンジうどん)
実験1で調製した麺類用改質剤(改質剤A)の配合量を振って麺類を製造して評価した。具体的には、横型ピンミキサーを用いて、表4に示す麺類用穀粉組成物100質量部、塩4質量部、水40質量部の割合で混合した後、15分間ミキシングし、生地を作製した。作製した生地を、ロール式製麺機で圧延してから切り出し(切り刃:角10番)、麺線の厚みが3.0mmの生麺(うどん)を製造した。
【0056】
製造した生麺を沸騰水中で茹で増重率が160%になるよう茹で、冷水で冷却、水切りし、調理済のうどんを製造した。調理済のうどんをゼラチンで固めたスープ上に静置し、冷蔵で24時間保存した後、電子レンジを用いて500Wで5分間加熱し、官能評価に供した。評価基準は実験1と同様である。
【0057】
【表4】
【0058】
表4に示した結果から明らかなように、本発明に係る麺類用改質剤を穀粉組成物100質量部あたり3~20質量部含むことによって、優れた麺類を製造することができた。本発明に係る麺類用改質剤を穀粉組成物100質量部あたり25質量部含んだ試験3-7では、味・風味、角立ち、つゆ馴染みは優れていたが、粘弾性の評価が低かった。
【0059】
実験4:麺類の製造と評価(レンジ中華麺)
実験1で調製した麺類用改質剤(改質剤A)を配合して中華麺を製造して評価した。横型ピンミキサーを用いて、表5に示す麺類用穀粉組成物100質量部、塩1質量部、かんすい1質量部、水35質量部の割合で混合した後、15分間ミキシングし、生地を作製した。作製した生地を、ロール式製麺機にて圧延してから切り出し(切り刃:角20番)、麺線の厚みが1.5mmの生麺(中華麺)を製造した。
【0060】
製造した生麺を沸騰水中で茹で増重率が160%になるよう茹で、冷水で冷却、水切りし、調理済の中華麺を製造した。調理済の中華麺をゼラチンで固めたスープ上に静置し、冷蔵で24時間保存した後、電子レンジを用いて500Wで5分間加熱し、官能評価に供した。評価基準は実験1と同様である。
【0061】
【表5】
【0062】
表5に示した結果から明らかなように、中華麺においても、本発明によって、優れた麺類を製造することができた。
実験5:麺類の製造と評価(レンジパスタ)
実験1で調製した麺類用改質剤(改質剤A)を配合してパスタを製造して評価した。横型ピンミキサーを用いて、表6に示す麺類用穀粉組成物100質量部、塩1質量部、水35質量部の割合で混合した後、15分間ミキシングし、生地を作製した。作製した生地を、ロール式製麺機で圧延してから切り出し(切り刃:角14番)、麺線の厚みが1.7mmの生麺(パスタ)を製造した。
【0063】
製造した生麺を沸騰水中で茹で増重率が160%になるよう茹で、冷水で冷却、水切りした後、茹でた麺100質量部に対して2質量部のサラダ油をまぶし、チルドで24時間保存した。ゼラチンで固めたトマトベースのスープに保存した麺をのせ、電子レンジ(1500W)で1分間加熱し、官能評価に供した。評価基準は実験1と同様である。
【0064】
【表6】
【0065】
表6に示した結果から明らかなように、パスタにおいても、本発明によって、優れた麺類を製造することができた。