(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-29
(45)【発行日】2024-11-07
(54)【発明の名称】成膜装置、電子デバイスの製造装置、成膜方法、および電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/04 20060101AFI20241030BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20241030BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20241030BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20241030BHJP
【FI】
C23C14/04 A
C23C14/24 L
H05B33/10
H05B33/14 A
(21)【出願番号】P 2020157545
(22)【出願日】2020-09-18
【審査請求日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】10-2019-0129148
(32)【優先日】2019-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 栄一
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/106958(WO,A1)
【文献】特開2019-083311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/04
C23C 14/24
H05B 33/10
H10K 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と、
前記真空容器内に設けられ、基板を吸着するための吸着面を有する基板吸着手段と、
前記真空容器内に設けられ、マスクを支持するためのマスク支持ユニットと、
前記基板吸着手段と前記マスク支持ユニットのうち少なくとも一方を、前記吸着面に平行な第1の方向、前記吸着面に平行であり前記第1の方向と交差する第2の方向、および前記吸着面に垂直な第3の方向を軸とする回転方向のうち少なくとも一つの方向に移動させることによって前記基板と前記マスクのアライメント動作を行うアライメント手段と、
前記基板吸着手段と前記マスク支持ユニットのうち少なくとも一方を前記第3の方向に移動させる昇降機構と、
を備える成膜装置において、
前記アライメント手段によって前記アライメント動作を行う前に、前記昇降機構によって、前記基板吸着手段に吸着された基板と前記マスク支持ユニットによって支持されたマスクとを接触させる制御手段を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記吸着面の反対側に設置されて、前記マスク支持ユニットによって支持されたマスクを前記基板吸着手段側に引き寄せる力を印加するマスク密着手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記基板吸着手段に吸着された基板と前記マスク支持ユニットによって支持されたマスクとを接触させた後、前記マスク密着手段によって前記マスクを前記基板に密着させることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記基板と前記マスクが所定の時間の間、接触させることを特徴とする請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記基板吸着手段は、静電チャックを有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記基板吸着手段を冷却するための冷却手段をさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記基板吸着手段に吸着された基板および前記マスク支持ユニットによって支持されたマスクの第1の位置を撮像する第1のアライメントカメラと、前記第1の位置と異なる第2の位置を撮像し、前記第1のアライメントカメラより高解像度である第2のアライメントカメラとをさらに備え、
前記制御手段は、前記第2のアライメントカメラによって前記アライメント動作を行う前に、前記昇降機構によって前記基板吸着手段に吸着された基板と前記マスク支持ユニットによって支持されたマスクとを接触させることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記第1のアライメントカメラによって前記アライメント動作を行う前に、前記昇降機構によって前記基板吸着手段に吸着された基板と前記マスク支持ユニットによって支持されたマスクとを接触させることを特徴とする請求項6に記載の成膜装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の成膜装置と、
マスクを収納するためのマスクストック装置と、
基板およびマスクを搬送するための搬送装置と、
を備えることを特徴とする電子デバイスの製造装置。
【請求項9】
基板を吸着するための吸着面を有する基板吸着手段によって基板を吸着する吸着工程と、
基板とマスクを、基板面に平行な第1の方向、前記基板面に平行であり前記第1の方向と交差する第2の方向、および前記基板面に垂直な第3の方向を軸とした回転方向のうち少なくとも一つの方向に移動させることによって前記基板と前記マスクのアライメント動作を行うアライメント工程と、
前記アライメント工程の後に、前記マスクを介して前記基板に成膜を行う成膜工程とを含む成膜方法であって、
前記アライメント工程の前に、
前記基板吸着手段に吸着された前記基板と前記マスクを前記第3の方向に相対的に移動させて接触させる接触工程を有することを特徴とする成膜方法。
【請求項10】
前記接触工程と前記アライメント工程の間で、前記マスクと前記基板を密着させる密着工程をさらに有することを特徴とする請求項9に記載の成膜方法。
【請求項11】
前記接触工程において、前記基板と前記マスクを所定の時間の間、接触させることを特徴とする請求項9または10に記載の成膜方法。
【請求項12】
前記基板吸着手段は、静電チャックを有することを特徴とする請求項9から11のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項13】
前記静電チャックを冷却手段によって冷却する冷却工程をさらに有することを特徴とする請求項12に記載の成膜方法。
【請求項14】
前記アライメント工程は、第1のアライメント工程と、前記第1のアライメント工程の後に行われる第2のアライメント工程とを有し、
前記第2のアライメント工程の前に前記接触工程を行うことを特徴とする請求項9から13のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項15】
前記第1のアライメント工程の前に前記接触工程を行うことを特徴とする請求項14に
記載の成膜方法。
【請求項16】
請求項9から15のいずれか一項に記載の成膜方法を用いて電子デバイスを製造することを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置、電子デバイスの製造装置、成膜方法、および電子デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)は、スマートフォン、テレビ、自動車用ディスプレイだけでなく、VR-HMD(Virtual Reality Head Mo
unt Display)などにその応用分野が広がっており、特に、VR-HMDに用
いられるディスプレイは、ユーザの目まいを低減するために画素パターンを高精度で形成することが求められる。
有機EL表示装置の製造においては、有機EL表示装置を構成する有機発光素子(有機EL素子;OLED)を形成する際に、成膜装置の成膜源から放出された成膜材料を、画素パターンが形成されたマスクを介して、基板に成膜することで、有機物層や金属層を形成する。この際、成膜源としては、通常、蒸発源が使われ、蒸発源では成膜材料を高温に加熱して蒸発させる。
このような成膜装置においては、成膜工程の前に、基板とマスクそれぞれに設けられているアライメントマークを用いて基板とマスクの相対的位置を測定し、相対的位置がずれている場合には、基板および/またはマスクを相対的に移動させて位置を調整(アライメント)する。
有機発光素子の有機物層や金属層などの成膜精度は、基板とマスクのアライメントの精度に影響を受ける。成膜工程の前に、または成膜工程の進行中に基板とマスクの相対的位置がずれると、成膜精度が落ちてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
成膜装置において、蒸発源側に配置されるマスクは、蒸発源からの輻射熱の影響を受けやすく、温度が上昇することがある。これに比べ、基板は、蒸発源との間にマスクが配置されていて輻射熱の影響を相対的に少なく受けるだけでなく、その裏面を吸着する静電チャックと接触するので、相対的に低い温度に維持される。その結果、基板とマスクとの間には温度差が生じる。
このため、基板とマスクそれぞれの熱膨張の程度に差が生じ、アライメントの精度に影響を及ぼす。即ち、相対的に高温であるマスクの熱膨張によって、成膜パターンを定義するマスクの開口の大きさが変化したり、開口の位置がずれたりすることがあり得る。その結果、成膜精度が落ち、成膜工程の歩留まりが低下する。
本発明は、マスクと基板の温度差による成膜精度の低下を低減できる成膜装置、電子デバイスの製造装置、成膜方法、及びこれを用いた電子デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、真空容器と、前記真空容器内に設けられ、基板を吸着するための吸着面を有する基板吸着手段と、前記真空容器内に設けられ、マスクを支持するためのマスク支持ユニットと、前記基板吸着手段と前記マスク支持ユニットのうち少なくとも一方を、前記吸
着面に平行な第1の方向、前記吸着面に平行であり前記第1の方向と交差する第2の方向、および前記吸着面に垂直な第3の方向を軸とする回転方向のうち少なくとも一つの方向に移動させることによって前記基板と前記マスクのアライメント動作を行うアライメント手段と、前記基板吸着手段と前記マスク支持ユニットのうち少なくとも一方を前記第3の方向に移動させる昇降機構と、を備える成膜装置において、前記アライメント手段によって前記アライメント動作を行う前に、前記昇降機構によって、前記基板吸着手段に吸着された基板と前記マスク支持ユニットによって支持されたマスクとを接触させる制御手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、アライメント工程の前にマスクを基板と接触させることにより、マスクの温度を下げることで、成膜精度及び成膜工程の歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、電子デバイスの製造装置の一部の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態による成膜装置の模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態による成膜方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図3の成膜方法の一部工程を模式的に示す模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の他の実施形態による成膜方法を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、本発明の成膜方法により製造される電子デバイスを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は、本発明の好ましい構成を例示的に示すものであり、本発明の範囲は、これらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に限定的な記載がない限り、本発明の範囲をこれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0009】
本発明は、基板の表面に各種材料を堆積させて成膜を行う装置に適用することができ、真空蒸着によって所望のパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に好適に適用することができる。
基板の材料としては、半導体(例えば、シリコン)、ガラス、高分子材料のフィルム、金属などの任意の材料を選ぶことができ、基板は、例えば、シリコンウエハ、又はガラス基板上にポリイミドなどのフィルムが積層された基板であってもよい。また、成膜材料としても、有機材料、金属性材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料を選ぶことができる。
【0010】
なお、本発明は、加熱蒸発による真空蒸着装置のように蒸発源を有する成膜装置に有効に適用できるが、これに限定されず、スパッタ装置やCVD(ChemicalVaporDeposition)装置を含む成膜装置にも、適用することができる。本発明の技術は、具体的には、半導体デバイス、磁気デバイス、電子部品などの各種電子デバイスや、光学部品などの製造装置に適用可能である。電子デバイスの具体例としては、発光素子や光電変換素子、タッチパネルなどが挙げられる。
本発明は、中でも、OLEDなどの有機発光素子や、有機薄膜太陽電池などの有機光電変換素子の製造装置に好ましく適用可能である。なお、本発明における電子デバイスは、発光素子を備えた表示装置(例えば有機EL表示装置)や照明装置(例えば有機EL照明装置)、光電変換素子を備えたセンサ(例えば有機CMOSイメージセンサ)も含むものである。
【0011】
<電子デバイスの製造装置>
図1は、電子デバイスの製造装置の一部の構成を模式的に示す平面図である。
図1の製造装置は、例えば、VR-HMD用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられる。VR-HMD用の表示パネルの場合、例えば、所定のサイズのシリコンウエハに有機EL素子の形成のための成膜を行った後、素子形成領域の間の領域(スクライブ領域)に沿って該シリコンウエハを切り出して、複数の小さなサイズのパネルを製作する。
本実施形態に係る電子デバイスの製造装置は、一般的に、複数のクラスタ装置1と、クラスタ装置1の間を繋ぐ中継装置とを含む。
クラスタ装置1は、基板Wに対する処理(例えば、成膜)を行う成膜装置11と、使用前後のマスクMを収納するマスクストック装置12と、その中央に配置される搬送室13(搬送装置)と、を具備する。搬送室13は、
図1に示したように、成膜装置11およびマスクストック装置12のそれぞれと接続される。
搬送室13内には、基板WおよびマスクMを搬送する搬送ロボット14が配置される。搬送ロボット14は、例えば、多関節アームに、基板W又はマスクMを保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有するロボットである。
【0012】
成膜装置11では、蒸発源から放出された成膜材料がマスクMを介して基板W上に成膜される。搬送ロボット14との基板W/マスクMの受け渡し、後述する本発明による均熱化工程、基板WとマスクMの相対的位置の調整(アライメント)、マスクMと基板Wの固定、成膜などの一連の成膜プロセスは、成膜装置11によって行われる。
有機EL表示装置を製造するための製造装置において、成膜装置11は、成膜される材料の種類によって、有機膜の成膜装置と金属性膜の成膜装置に分けることができる。有機膜の成膜装置は、有機物の成膜材料を蒸着又はスパッタリングによって基板Wに成膜する。金属性膜の成膜装置は、金属性の成膜材料を蒸着またはスパッタリングにより基板Wに成膜する。
有機EL表示装置を製造するための製造装置において、どの成膜装置をどの位置に配置するかは、製造される有機EL素子の積層構造によって異なり、有機EL素子の積層構造に応じてこれを成膜するための複数の成膜装置が配置される。
有機EL素子の場合、通常、アノードが形成されている基板W上に正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、カソードがこの順に積層される構造を有し、これらの層を順次成膜できるように成膜装置が配置される。
【0013】
マスクストック装置12には、成膜装置11での成膜工程に使われる新しいマスクMと、使用済みのマスクMとが、複数のカセットに分けて収納される。搬送ロボット14は、使用済みのマスクMを成膜装置11からマスクストック装置12のカセットに搬送し、マスクストック装置12の他のカセットに収納されている新しいマスクMを成膜装置11に搬送する。
複数のクラスタ装置1の間に連結される中継装置は、クラスタ装置1の間で基板Wを搬送するパス室15を含む。
搬送室13の搬送ロボット14は、上流側のパス室15から基板Wを受け取って、当該クラスタ装置1内の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11a)に搬送する。また、搬送ロボット14は、当該クラスタ装置1での成膜処理が完了した基板Wを複数の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11e)から受け取って、下流側に連結されたパス室15に搬送する。
【0014】
中継装置は、パス室15の他に、上下流側のクラスタ装置1での基板Wの処理速度の差を吸収するためのバッファ室(不図示)、及び基板Wの向きを変えるための旋回室(不図示)をさらに含むことができる。例えば、バッファ室は、複数の基板Wを一時的に収納す
る基板積載部を含み、旋回室は、基板Wを180度回転させるための基板回転機構(例えば、回転ステージまたは搬送ロボット)を含む。これにより、上流側のクラスタ装置と下流側のクラスタ装置で基板Wの向きが同じになり、基板処理が容易になる。
本発明の一実施形態によるパス室15は、複数の基板Wを一時的に収納するための基板積載部(不図示)や基板回転機構を含んでもよい。つまり、パス室15が、バッファ室や旋回室の機能を兼ねてもよい。
クラスタ装置1を構成する成膜装置11、マスクストック装置12、搬送室13などは、有機発光素子の製造過程で、高真空状態に維持される。中継装置のパス室15は、通常、低真空状態に維持されるが、必要に応じて高真空状態に維持されてもよい。
有機EL素子を構成する複数の層の成膜が完了した基板Wは、有機EL素子を封止するための封止装置(不図示)や基板Wを所定のパネルサイズに切断するための切断装置(不図示)などに搬送される。
【0015】
本実施例では、
図1を参照して電子デバイスの製造装置の構成について説明したが、本発明はこれに限定されず、他の種類の装置やチャンバを有してもよく、これらの装置やチャンバ間の配置が変わってもよい。
例えば、本発明の一実施形態による電子デバイス製造装置は、
図1に示したクラスタタイプではなく、インラインタイプであってもよい。つまり、基板WとマスクMをキャリアに搭載して、一列に並んだ複数の成膜装置内を通過させながら成膜を行う構成を有してもよい。また、クラスタタイプとインラインタイプを組み合わせたタイプの構造を有してもよい。例えば、有機層の成膜まではクラスタタイプの製造装置で行い、電極層(カソード層)の成膜工程から封止工程及び切断工程などは、インラインタイプの製造装置で行ってもよい。
【0016】
以下、成膜装置11の具体的な構成について説明する。
<成膜装置>
図2は、本発明の一実施形態による成膜装置11の構成を示す模式図である。以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とし、水平面をXY平面とするXYZ直交座標系を用いる。また、X軸まわりの回転角をθ
X、Y軸まわりの回転角をθ
Y、Z軸まわりの回転角をθ
Zで表す。
図2は、成膜材料を加熱することによって蒸発または昇華させ、マスクMを介して基板Wに成膜する成膜装置11の一例を示している。
成膜装置11は、真空雰囲気又は窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持される真空容器21と、真空容器21内に設けられ、基板Wの位置をX方向(第1の方向)、Y方向(第2の方向)、及びθ
Z方向(回転方向)のうち少なくとも一つの方向に調整するための磁気浮上ステージ機構22(第1の駆動機構)と、真空容器21内に設けられ、マスクMを支持するマスク支持ユニット23と、真空容器21内に設けられ、基板Wを吸着して保持する基板吸着手段24と、真空容器21内に設けられ、成膜材料を収納し、これを加熱して放出する蒸発源25とを含む。
【0017】
本発明の一実施形態による成膜装置11は、磁気力によってマスクMを基板W側に密着させるための磁力印加手段26をさらに含むことができる。
本発明の一実施形態による成膜装置11の真空容器21は、磁気浮上ステージ機構22が配置される第1の真空容器部211と、蒸発源25が配置される第2の真空容器部212とを含む。真空容器21は、例えば、第2の真空容器部212に接続された真空ポンプ(不図示)によってその内部空間が高真空状態に維持される。
ここでは、磁気浮上ステージ機構22に外部振動が伝わることを低減するために、真空容器21を複数の真空容器部211,212に分ける構造に基づいて、本発明の実施例を説明する。しかし、本発明はこれに限定されず、真空容器21が単一の真空容器部で構成される成膜装置にも同様に適用することができる。
【0018】
図2に示したように、真空容器21が2つの真空容器部211、212に分けられている場合、少なくとも第1の真空容器部211と第2の真空容器部212との間には、伸縮可能部材213が設置される。伸縮可能部材213は、第2の真空容器部212に連結される真空ポンプからの振動や、成膜装置11が設けられた床又はフロアからの振動が、第2の真空容器部212を通して第1の真空容器部211に伝わることを低減する。伸縮可能部材213は、例えば、ベローズであるが、本発明はこれに限定されず、第1の真空容器部211と第2の真空容器部212との間で振動の伝達を低減することができる他の部材を使用してもよい。
このように、本発明の一実施形態による成膜装置11は、磁気浮上ステージ機構22が設置される第1の真空容器部211に外部振動が伝わることを低減することができる。
【0019】
真空容器21は、磁気浮上ステージ機構22が固定連結される基準プレート214と、基準プレート214を所定の高さに支持するための基準プレート支持部215とをさらに含む。本発明の一実施例によれば、
図2に示したように、基準プレート214と第1の真空容器部211との間に伸縮可能部材213をさらに設置してもよい。これにより、基準プレート214を介して磁気浮上ステージ機構22に外部振動が伝わることをさらに低減することができる。
図示していないが、真空容器21は、真空容器21の内側に突出するように、基準プレート214、つまり、真空容器21の上部容器壁に設置される真空対応筒をさらに含むことができる。この場合、後述するアライメントカメラユニット27のアライメントカメラは、真空対応筒の大気側に挿入されるように配置される。
基準プレート支持部215と成膜装置11の設置架台217との間には、床又はフロアから設置架台217を通して基準プレート支持部215に振動が伝わることを低減するための除振ユニット216が設置される。
【0020】
磁気浮上ステージ機構22は、アライメントカメラユニット27で測定された基板WとマスクMの相対的位置に基づいて、基板WとマスクMの相対的位置を調整(アライメント動作)するためのアライメントステージ機構(アライメント手段)の一例である。つまり、磁気浮上ステージ機構22は、磁気浮上リニアモータによって基板Wまたは基板吸着手段24の位置を調整するためのステージ機構であって、少なくともX方向、Y方向、θZ方向における基板Wまたは基板吸着手段24の位置を調整することができる。
磁気浮上ステージ機構22は、固定台として機能するステージ基準プレート部221と、可動台として機能する微動ステージプレート部222と、微動ステージプレート部222をステージ基準プレート部221に対して磁気浮上及び移動させるための磁気浮上ユニット223とを含む。
磁気浮上ステージ機構22は、自重補償マグネット(不図示)を用いて、微動ステージプレート部222に作用する重力に対応する大きさの浮上力を提供する。これにより、微動ステージプレート部222を浮上させた状態で、磁気浮上リニアモータ(不図示)を用いて、微動ステージプレート部222をX方向、Y方向、及びθZ方向のうち少なくとも一つの方向に移動させることができる。この際、微動ステージプレート部222の位置は、レーザー干渉計(不図示)を用いて測定することができ、測定された位置情報は、磁気浮上リニアモータの駆動を制御するのに用いられる。
【0021】
図2は、アライメントステージ機構として磁気浮上ステージ機構22を用いる実施例を示しているが、本発明はこれに限定されず、例えば、真空容器21の外部に設置されたXYθzアクチュエータなどを含む機械的なアライメントステージ機構を用いてもよい。
マスク支持ユニット23は、搬送室13に設けられた搬送ロボット14が搬送して来るマスクMを受け取って保持する手段であり、マスクホルダとも呼ばれる。
マスク支持ユニット23は、少なくとも鉛直方向(Z方向、第3の方向)に昇降可能に
設置される。これにより、基板WとマスクMとの間の鉛直方向における間隔を容易に調節することができる。本発明の一実施例のように、基板Wの位置を磁気浮上ステージ機構22によって調整する場合、マスクMを支持するマスク支持ユニット23をモータ(不図示)及びボールねじ/ガイド(不図示)等を含む昇降機構によって機械的に昇降駆動することが好ましい。
【0022】
また、本発明の一実施例によれば、マスク支持ユニット23は、水平方向(つまり、XYθ
Z方向)に移動可能に設置してもよい。これにより、マスクMがアライメントカメラユニット27のアライメントカメラの視野から外れた場合にも、迅速にこれを視野内に移動させることができる。
マスク支持ユニット23は、搬送ロボット14によって真空容器21内に搬入されたマスクMを一時的に受け取るためのマスクピックアップ231をさらに含む。
マスクピックアップ231は、マスク支持ユニット23のマスク支持面に対して相対的に昇降できるように構成される。例えば、
図2に示したように、マスクピックアップ昇降機構232によって、マスクピックアップ231がマスク支持ユニット23のマスク支持面に対して相対的に昇降可能に構成することができる。ただし、本発明はこれに限定されず、マスクピックアップ231とマスク支持ユニット23のマスク支持面とが相対的に昇降可能な限り、他の構成を有してもよい。
【0023】
搬送ロボット14のハンドからマスクMを受け取ったマスクピックアップ231は、マスク支持ユニット23のマスク支持面に対して相対的に下降し、マスクMをマスク支持ユニット23に降ろす。逆に、使用済みのマスクMを搬出する場合には、マスクMをマスク支持ユニット23のマスク支持面から持ち上げ、搬送ロボット14のハンドがマスクMを受け取ることができるようにする。
マスクMは、基板W上に形成される薄膜パターンに対応する開口パターンを有し、マスク支持ユニット23によって支持される。例えば、VR-HMD用の有機EL表示パネルを製造するのに使われるマスクMは、有機EL素子の発光層のRGB画素パターンに対応する微細な開口パターンが形成された金属製マスクであるファインメタルマスク(Fine Metal Mask)と、有機EL素子の共通層(正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層など)を形成するのに使われるオープンマスク(open mask)
とを含む。
【0024】
基板吸着手段24は、基板Wを保持するための基板保持ユニットの一例である。基板吸着手段24は、搬送室13に設置された搬送ロボット14が搬送してきた、被成膜体としての基板Wを吸着して保持し、磁気浮上ステージ機構22の可動台である微動ステージプレート部222に設置される。
基板吸着手段24は、例えば、誘電体/絶縁体(例えば、セラミック材質)マトリックス内に金属電極などの電気回路が埋設された構造を有する静電チャックである。このような静電チャックは、基板Wに比べて熱容量が大きいので、静電チャックに吸着した基板Wは、マスクMに比べて、蒸発源25からの輻射熱に影響を受けても温度の上昇が相対的に抑制される(例えば、室温)。したがって、後述するように、アライメント工程(アライメント動作)の前に基板WとマスクMを接触または密着させることで、マスクMの温度を下げることができる。
【0025】
基板吸着手段24としての静電チャックは、電極と吸着面との間に相対的に抵抗が高い誘電体が介在して、電極と被吸着体との間のクーロン力によって吸着が行われるクーロン力タイプの静電チャックであってもよく、電極と吸着面との間に相対的に抵抗が低い誘電体が介在して、誘電体の吸着面と被吸着体との間に発生するジョンソン・ラーベック力によって吸着が行われるジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャックであってもよく、不均一電界によって被吸着体を吸着するグラジエント力タイプの静電チャックであっても
よい。
被吸着体が導体または半導体(シリコンウエハ)である場合には、クーロン力タイプの静電チャックまたはジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャックを用いることが好ましく、被吸着体がガラスのような絶縁体である場合には、グラジエント力タイプの静電チャックを用いることが好ましい。
【0026】
静電チャックは、一つのプレートで形成されてもよく、吸着力を独立的に制御できる複数のサブプレートを有するように形成されてもよい。また、一つのプレートで形成される場合にも、その内部に複数の電極部を有し、一つのプレート内で電極部毎に吸着力を独立的に制御することができるようにしてもよい。
成膜装置11は、搬送ロボット14によって真空容器21内に搬入された基板Wを基板吸着手段24が吸着して保持する前に基板Wを一時的に保持する基板支持ユニットをさらに設けてもよい。例えば、基板支持ユニットは、マスク支持ユニット23に別途の基板支持面を有するように設置され、マスク支持ユニット23の昇降によって昇降するように設置されてもよい。
【0027】
また、基板吸着手段24に、基板吸着手段24を冷却するための冷却手段、すなわち、基板Wの温度上昇を抑制する冷却手段を一体、または別体で設置してもよい。前者の例として、例えば、静電チャックに冷媒流路を設けて、冷媒が流れるようにすることで、静電チャックが冷却手段としての役割も兼ねるようにしてもよい。後者の例としては、静電チャックの基板吸着面の反対側に別途の冷却板を追加で設置することもできる。
このように、基板吸着手段24が冷却手段としての役割も兼ねたり、または、冷却手段を別途に設けることで、基板Wの温度の上昇をより抑制することができる。これにより、基板W上に堆積された有機材料の変質や劣化を抑制することができる。特に、冷却手段を設けることで、基板WとマスクMを接触または密着させた際に、高温状態のマスクMをより効率的に冷却させることができる。
【0028】
蒸発源25は、基板Wに成膜される成膜材料が収納されるるつぼ(不図示)、るつぼを加熱するためのヒータ(不図示)、蒸発源25からの蒸発レートが一定になるまでに成膜材料が基板Wに飛散することを阻むシャッタ(不図示)などを含む。蒸発源25は、点(point)蒸発源や線状(linear)蒸発源など、用途に従って多様な構成を有することができる。
蒸発源25は、互いに異なる成膜材料を収納する複数のるつぼを含んでもよい。このような構成においては、真空容器21を大気開放せずに成膜材料を変更できるように、異なる成膜材料を収納する複数のるつぼを成膜位置に移動可能に設置してもよい。
【0029】
磁力印加手段26は、磁力によってマスクMを基板W側に引き寄せて密着させるための手段である。つまり、磁力印加手段26は、均熱化のためにアライメント工程の前に、及び/又は、アライメント工程の完了後、かつ、成膜工程の開始前に、磁気力でマスクMを引き寄せることにより基板Wに密着させる。
このような磁力印加手段26は、マスクMを基板W側に引き寄せて密着させるためのマスク密着手段の一例であり、本発明はこれに限定されない。例えば、マスクMは、基板吸着手段24の静電チャックを用いて基板W側に引き寄せることもできる。この場合、基板吸着手段が同時にマスク密着手段としても機能する。
このような磁力印加手段26は、鉛直方向に昇降可能に設置される。この場合、マスクMを引き寄せる際には、磁力印加手段26をマスクM側に下降させ、逆に引き寄せられたマスクMを離す際には、磁力印加手段26をマスクM側から上昇させる。これとは違って、磁力印加手段26に印加される電圧をオン/オフすることによって、磁力の発生を制御することもできる。このような磁力印加手段26は、例えば、磁力印加手段26は、電磁石および/または永久磁石で構成されることができる。
【0030】
成膜装置11は、基板Wに蒸着された膜の厚さを測定するための膜厚モニタ(不図示)及び膜厚算出ユニット(不図示)を含んでもよい。
真空容器21の上部外側(大気側)には、つまり、基準プレート214上には、マスクピックアップ231を昇降させるためのマスクピックアップ昇降機構232、磁力印加手段26を昇降させるための磁力印加手段昇降機構261などが設置される。
そして、マスク支持ユニット23を昇降させるためのマスク支持ユニット昇降機構(不図示、第2の駆動機構)を基準プレート214上に設置してもよいが、本発明はこれに限定されず、例えば、マスク支持ユニット昇降機構(不図示)を、第1の真空容器部211の下部の大気側に設置してもよい。また、基板吸着手段24のような基板保持ユニットを昇降させるための基板保持ユニット昇降機構(不図示)を、真空容器21の上部外側に設置してもよい。また、一つの昇降機構(不図示)が、マスク支持ユニット23及び基板吸着手段24のうちの少なくとも一方を昇降させてもよい。
【0031】
本発明の一実施例による成膜装置11は、基板W及びマスクMに形成されたアライメントマークを撮影して、基板WとマスクMの相対的位置を測定するためのアライメントカメラを含むアライメントカメラユニット27をさらに含む。
アライメントカメラは、視野角が広く解像度が相対的に低いラフアライメントカメラ(第1のアライメントカメラ)と、視野角は狭いが解像度が相対的に高いファインアライメントカメラ(第2のアライメントカメラ)とを含む。ラフアライメントカメラとファインアライメントカメラは、基板WとマスクMに設けられたラフアライメントマークとファインアライメントマークを撮像することができるよう、それぞれラフアライメントマークの位置(第1の位置)に対応する位置とファインアライメントマークの位置(第2の位置)に対応する位置に設置される。ラフアライメントマークの位置とファインアライメントマークの位置とは互いに異なってもよい。
【0032】
成膜装置11は、制御部28を具備する。制御部28は、基板W/マスクMの搬送の制御、基板WとマスクMとの間の距離の制御、マスクMの基板Wへの密着の制御、アライメントの制御、基板吸着手段24への電圧印加の制御、成膜の制御など、成膜装置11の動作を全般的に制御する機能を有する。本発明の成膜方法においての制御部28の制御については、
図3~
図5を参照して後述する。
制御部28は、例えば、プロセッサ、メモリー、ストレージ、I/Oなどを持つコンピューターによって構成することができる。この場合、制御部28の機能は、メモリーまたはストレージに格納されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピューターとしては、汎用のパーソナルコンピューターを使用してもよく、組込み型のコンピューターまたはPLC(programmable logic controller)を使用してもよい。または、制御部28の機能の一部または全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。また、成膜装置ごとに制御部が設置されていてもよく、一つの制御部が複数の成膜装置を制御するように構成してもよい。
【0033】
<成膜プロセス>
以下、
図3~
図5を参照して、
図2に示した本実施形態による成膜装置11での成膜方法について説明する。
本発明による成膜方法では、基板WとマスクMのアライメント(位置調整)工程を実施する前に、基板WとマスクMを接触または密着させて均熱化する均熱化工程を実施する。
ここで、「接触」とは、マスクMと基板Wが十分に/非常に接近して、基板Wの少なくとも一部がマスクMの少なくとも一部に接している状態を意味する。一方、「密着」とは、マスクMと基板Wが接触した状態から、磁力印加手段26のようなマスク密着手段によって、マスクMと基板Wとがさらに相対的に引き寄せられた状態など、両者が隙間なく接する状態を意味する。
【0034】
前述した通り、マスクMは、蒸発源25からの輻射熱の影響を受けて温度が上昇しやすいが、基板Wは、基板吸着手段24に吸着されていて、温度の上昇が抑制されるか、冷却手段により冷却される。この場合、マスクMの熱膨張によってマスクMの開口パターンに変形が生じたり、または開口パターンおよび/またはアライメントマークの位置ずれが生じて、アライメントの精度及び成膜精度が低下することがある。しかし、本発明によれば、アライメント工程の前に基板WとマスクMとを接触又は密着させて、均熱化工程又は冷却工程を実施することによって、マスクMの熱膨張によるアライメント精度及び成膜精度の低下を抑制することができる。
特に、本発明の実施例による均熱化工程又は冷却工程は、アライメント工程を実施する前に、基板WとマスクMを接触または密着させるだけで行われるので、成膜装置11に別途の構成要素を追加しなくてもよく、既存の成膜装置11をそのまま用いることができる。
ただし、本発明はこれに限定されず、均熱化工程と共に、マスク支持ユニット23に所定の冷却手段を追加で設置することなどによって、マスクMを追加的に冷却させてもよい。
【0035】
アライメント工程が第1のアライメント(ラフアライメント)と、第2のアライメント(ファインアライメント)に分けて行われる場合に、本発明による均熱化工程は、第1のアライメントを実施する前に実行されてもよく、または第2のアライメントを実施する前に実行されてもよい。または、実施例によっては、均熱化工程は、第1のアライメントを実施する前及び第2のアライメントを実施する前に実行されてもよい。
【0036】
図3は、本発明の第1実施例による成膜方法を示すフローチャートであり、
図4は、
図3の成膜方法の一部の工程を模式的に示す図面である。
図3および
図4に図示した実施例は、マスクMと基板Wを接触または密着させてマスクMを冷却する均熱化工程が、基板WとマスクMのアライメント工程の前、すなわちラフアライメント工程の前に実行されるものである。
【0037】
まず、マスク支持ユニット23にマスクMが支持された状態で、搬送室13の搬送ロボット14によって基板Wが真空容器21内に搬入される(S101)。
制御部28は、基板吸着手段24に基板吸着電圧を印加し、搬送ロボット14によって真空容器21内に搬入された基板Wを基板吸着手段24に吸着させる(S102)。
図4(a)は、マスクMがマスク支持ユニット23に支持され、基板Wは基板吸着手段24に吸着された状態を示す。基板Wを基板吸着手段24に吸着させる際に、基板吸着手段24の吸着面全体に基板Wの全面を同時に吸着させてもよく、基板吸着手段24の複数の領域のうち一領域から他の領域に向かって順次に基板Wを吸着させてもよい。
【0038】
次いで、基板WとマスクMの均熱化のために、マスクMと基板Wを接触または密着させる(S103、
図4(b)及び(c))。
このため、制御部28は、マスク支持ユニット昇降機構を駆動して、基板吸着手段24とマスク支持ユニット23を相対的に接近させる(
図4(b))。この際、マスク支持ユニット23により支持されたマスクMが、基板吸着手段24に吸着している基板Wと接触する距離になるまで、基板吸着手段24とマスク支持ユニット23を相対的に接近(例えば、マスク支持ユニット23を上昇)させることができる。基板WとマスクMが接触するので、相対的に高温のマスクMから相対的に低温の基板Wへと熱伝達が行われる。
図4(b)は、基板Wが基板吸着手段24によって吸着された状態で、マスクMに接している状態を示しているが、本発明において接触はこれに限定されず、例えば、基板Wが基板吸着手段24から離れて、マスクM上に載置されることで、マスクMと接していてもよい。
【0039】
そして、マスクMと基板Wが接触している状態から、マスクMを基板Wに密着させる工程を追加で実施することもできる。このために、制御部28は、磁力印加手段昇降機構261を駆動して、磁力印加手段26を基板吸着手段24側に下降させる。これによって、マスクMが磁力印加手段26からの磁力によって引き寄せられ、基板Wに密着する(
図4(c))。基板Wに接触したマスクMが基板Wに密着することによって、マスクMから基板Wへの熱伝達がより迅速で、かつ、効率的に行われる。
この際、基板WとマスクMは、マスクMからの熱伝達が十分に行われるよう、所定の時間の間、接触または密着した状態が維持されることが好ましい。ここで、所定の時間は、基板WとマスクMの材質などに応じて数秒~数十秒にすることが好ましい。接触又は密着の時間が短すぎると、マスクMと基板Wの均熱化効果が十分に得られず、長すぎると、全体的な工程時間が増加し、生産性が落ちる。ただし、本発明はこの数字範囲に限定されず、均熱化や冷却の効果が得られながらも、全体の工程時間の増加を抑制することができれば、他の数字範囲であってもよい。
所定の時間が経過した後には、制御部28は、磁力印加手段昇降機構261を駆動して、磁力印加手段26を基板吸着手段24から上昇させる。その結果、マスクMと基板Wとが密着した状態から解除される。
【0040】
次いで、基板WとマスクMの相対的位置の調整のために、第1のアライメント(ラフアライメント)を実施する(S104、
図4(d))。このために、まず、制御部28は、基板吸着手段24に吸着された基板Wとマスク支持ユニット23によって支持されたマスクMとの間の距離が、予め設定されたラフアライメント計測距離になるまで、基板吸着手段24とマスク支持ユニット23を相対的に離間(例えば、マスク支持ユニット23を下降)させる。
基板WとマスクMとの間の距離が所定のラフアライメント計測距離になると、ラフアライメントカメラにより、基板W及びマスクMのアライメントマークを撮像して、制御部28は、XYθ
Z方向における基板WとマスクMの相対的位置を測定し、これに基づいて、これらの間の相対的位置ずれ量を算出する。
【0041】
制御部28は、レーザー干渉計によって測定された微動ステージプレート部222(または基板吸着手段24)の位置と、ラフアライメントカメラによって算出された相対的位置ずれ量とに基づいて、微動ステージプレート部222(または基板吸着手段24)の移動目標位置の座標を算出する。
移動目標位置の座標に基づいて、微動ステージプレート部222の位置をレーザー干渉計で測定しながら、磁気浮上リニアモータによってXYθZ方向に微動ステージプレート部222(または基板吸着手段24)を移動目標位置まで駆動することによって、基板WとマスクMの相対的位置を調整する。本実施例のラフアライメントでは、微動ステージプレート部222を磁気浮上リニアモータによって移動させると説明したが、基板WとマスクMとの間の位置ずれ量の大きさに応じて機械的アライメントステージ機構によってマスク支持ユニット23をXYθZ方向に移動させ、ラフアライメントを行ってもよい。
【0042】
ラフアライメントが完了すると、基板WとマスクMの相対的位置のより精密な調整のために、第2のアライメント(ファインアライメント)を実施する(S105、
図4(e))。このため、制御部28は、まず、マスク支持ユニット昇降機構によってマスク支持ユニット23を上昇させ、マスクMが基板Wに対してファインアライメント計測位置まで来るようにする。そして、マスクMが基板Wに対してファインアライメント計測位置に来ると、ファインアライメントカメラで基板W及びマスクMのアライメントマークを撮像し、制御部28は、XYθ
Z方向における基板WとマスクMの相対的位置ずれ量を測定する。
ファインアライメント計測位置における基板WとマスクMとの間の相対的位置ずれ量が所定の閾値より大きければ、マスクMを再度下降させ、基板WとマスクMを離間させた後、制御部28は、レーザー干渉計32によって測定された微動ステージプレート部222
の位置と、基板WとマスクMの相対的位置ずれ量に基づいて、微動ステージプレート部222の移動目標位置を算出する。
【0043】
算出された移動目標位置に基づいて、微動ステージプレート部222の位置をレーザー干渉計で測定しながら、磁気浮上リニアモータによってXYθZ方向に微動ステージプレート部222を移動目標位置まで駆動することによって、基板WとマスクMの相対的位置を調整する。
このような過程を、基板WとマスクMの相対的位置ずれ量が所定の閾値より小さくなるまで繰り返す。
【0044】
そして、基板WとマスクMの相対的位置ずれ量が所定の閾値より小さくなると、成膜工程を実施する(S106、
図4(f))。このため、制御部28は、まず、基板吸着手段24に吸着された基板Wの成膜面がマスクMの上面と接触する蒸着位置になるように、マスク支持ユニット23を上昇させる。そして、制御部28は、基板WとマスクMが接触した蒸着位置に達すると、磁力印加手段昇降機構261を下降させ、基板W越しにマスクMを引き寄せることで、基板WとマスクMを密着させる。
この過程で、基板WとマスクMのXYθ
Z方向における位置ずれが生じたかを確認するために、ファインアライメントカメラを用いて、基板WとマスクMの相対的位置の計測を行い、計測された相対的位置のずれ量が所定の閾値以上である場合、基板WとマスクMを所定の距離まで再び離間(例えば、マスク支持ユニット23を下降)させた後、基板WとマスクMとの間の相対的位置を調整し、同じ過程を繰り返す。
【0045】
基板WとマスクMが蒸着位置に位置する状態で、基板WマスクMの相対的位置ずれ量が所定の閾値より小さくなると、成膜工程を開始する。この際、制御部28は、蒸発源25のシャッタを開けて、蒸発した成膜材料をマスクMを介して基板Wに成膜させる。
所望の厚さに蒸着した後、磁力印加手段26を上昇させてマスクMを分離し、マスク支持ユニット23を下降させる。
【0046】
次いで、搬送ロボット14のハンドが成膜装置11の真空容器21内に進入し、基板吸着手段24の電極部にゼロ(0)または逆極性の基板分離電圧を印加し、基板Wを基板吸着手段24から分離する。分離された基板Wを搬送ロボット14によって真空容器21から搬出する。
図5は、本発明の第2実施例による成膜方法を示すフローチャートである。
図5に図示した実施例は、マスクMと基板Wを接触または密着させてマスクMを冷却させる均熱化工程が、ラフアライメント工程とファインアライメント工程との間に実施されるという点で、第1実施例と異なる。以下では、第1実施例との相違点を中心に第2実施例について説明する。
【0047】
図5を参照すれば、真空容器21内のマスク支持ユニット23にマスクMが支持された状態で、搬送室13の搬送ロボット14により基板Wが真空容器21内に搬入される(S201)。
そして、制御部28は、基板吸着手段24の電極部に基板吸着電圧を印加して基板Wを吸着させる(S202)。
次いで、基板WとマスクMの相対的位置の調整のために、第1のアライメント(ラフアライメント)を実施する(S203)。このため、まず、制御部28は、基板WとマスクMとの間の距離が予め設定されたラフアライメントの計測距離になるまでに、基板吸着手段24とマスク支持ユニット23を相対的に接近(例えば、マスク支持ユニット23を上昇)させる。そして、ラフアライメントカメラで基板WとマスクMの相対的位置を測定して、これに基づいて、それらの間の相対的位置ずれ量を算出した後、微動ステージプレート部222または基板吸着手段24を移動目標位置まで駆動する。
【0048】
ラフアライメントが完了すると、基板WとマスクMの均熱化のために、マスクMと基板Wを接触または密着させる(S204)。この際、制御部28は、マスク支持ユニット昇降機構を駆動して、マスク支持ユニット23を上昇させて、マスクMを基板Wに接触させる。そして、必要に応じて、マスクMと基板Wが接触している状態から、マスクMを基板Wに密着させる過程を追加で実施することもできる。この際、基板WとマスクMは、マスクMから基板Wへの熱伝達が十分に行われるよう、所定の時間の間、接触または密着した状態が維持されることが好ましい。
次いで、基板WとマスクMの相対的位置のより精密な調整のために、第2のアライメント(ファインアライメント)を実施する(S205)。このため、制御部28は、まず、マスク支持ユニット昇降機構によってマスク支持ユニット23を下降させて、マスクMが基板Wに対してファインアライメント計測位置まで来るようにする。そして、ファインアライメントカメラで基板WとマスクMのアライメントマークを撮影して、XYθZ方向においての相対的位置ずれ量を測定した後、これに基づいて、微動ステージプレート部222を移動目標位置まで駆動することで、基板WとマスクMの相対的位置を調整する。
【0049】
そして、基板WとマスクMの相対的位置ずれ量が所定の閾値より小さくなれば、成膜工程を実施する(S206)。このため、制御部28は、蒸発源25のシャッタを開けて、蒸発した成膜材料をマスクMを介して基板Wに成膜させる。
成膜材料が所望の厚さまで基板Wに成膜された後、搬送ロボット14のハンドが成膜装置11の真空容器21内に進入し、基板吸着手段24の電極部にゼロ(0)または逆極性の基板分離電圧が印加され、基板Wを基板吸着手段24から分離する。分離された基板Wを搬送ロボット14によって真空容器21から搬出する。
なお、上述の説明では、成膜装置11は、基板Wの成膜面が鉛直方向下方を向いた状態で成膜が行われる、いわゆる上向蒸着方式(デポアップ)の構成としたが、本発明はこれに限定されず、基板Wが真空容器21の側面側に垂直に立てられた状態で配置され、基板Wの成膜面が重力方向と平行な状態で成膜が行われる構成であってもよい。
【0050】
<電子デバイスの製造方法>
次に、本実施形態の成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図6(a)は有機EL表示装置60の全体図、
図6(b)は1画素の断面構造を示している。
【0051】
図6(a)に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例にかかる有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0052】
図6(b)は、
図6(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板63上に、陽極64と、正孔輸送層65と、発光層66R、66G、66Bのいずれかと、電子輸送層67と、陰極68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R、66G、66B、電子輸送層67が有機層に相当する。また、本実施形態では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。発光層66R、6
6G、66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、陽極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と陰極68は、複数の発光素子62R、62G、62Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、陽極64と陰極68とが異物によってショートするのを防ぐために、陽極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層70が設けられている。
【0053】
図6(b)では正孔輸送層65や電子輸送層67が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を含む複数の層で形成されてもよい。また、陽極64と正孔輸送層65との間には陽極64から正孔輸送層65への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、陰極68と電子輸送層67の間にも電子注入層を形成することができる。
【0054】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および陽極64が形成された基板63を準備する。
陽極64が形成された基板63の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、陽極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングして絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
絶縁層69がパターニングされた基板63を第1の有機材料成膜装置に搬入し、静電チャックにて基板63を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の陽極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0055】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板63を第2の有機材料成膜装置に搬入し、静電チャックにて保持する。基板63とマスクとのアライメントを行い、基板63の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。
発光層66Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の有機材料成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
電子輸送層67まで形成された基板63を金属性蒸着材料成膜装置に移動させて陰極68を成膜する。金属性蒸着材料成膜装置は、蒸発加熱方式の成膜装置であってもよく、スパッタリング方式の成膜装置であってもよい。
【0056】
本発明によると、絶縁層69、正孔輸送層65、発光層66R、66G、66B、電子輸送層67および/または陰極68を成膜する工程において、マスクMと基板Wを接触または密着させるなどの均熱化工程によって、マスクMを冷却させた後、基板WとマスクMのアライメントを実施する。これにより、マスクMが蒸発源25からの輻射熱によって加熱されて膨張しても、均熱化工程によってアライメント工程の前に冷却されるので、基板WとマスクMのアライメント精度の低下を抑制することができ、成膜精度が低下することを抑制することができる。
その後、基板WをプラズマCVD装置に移動して保護層70を成膜して、有機EL表示装置60が完成する。
【0057】
絶縁層69がパターニングされた基板63を成膜装置に搬入してから保護層70の成膜
が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本実施例において、成膜装置間の基板63の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
前記実施例は本発明の一例であり、本発明は前記実施例の構成に限定されず、その技術思想の範囲内で適切に変形してもよい。
【符号の説明】
【0058】
11:成膜装置
21:真空容器
22:磁気浮上ステージ機構
23:マスク支持ユニット
24:基板吸着手段
25:蒸発源
26:磁力印加手段
27:アライメントカメラユニット
28:制御部